(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371371
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】イオノマーの前駆体形態のアミノ化および架橋によるAMFCのための改良CCMの調製
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20180730BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20180730BHJP
H01M 8/1004 20160101ALI20180730BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20180730BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M4/88 K
H01M8/1004
H01M8/10 101
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-501489(P2016-501489)
(86)(22)【出願日】2014年3月12日
(65)【公表番号】特表2016-515296(P2016-515296A)
(43)【公表日】2016年5月26日
(86)【国際出願番号】US2014024296
(87)【国際公開番号】WO2014165072
(87)【国際公開日】20141009
【審査請求日】2017年3月3日
(31)【優先権主張番号】61/778,921
(32)【優先日】2013年3月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518135700
【氏名又は名称】ピーオー−セルテック リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】デケル, ダリオ
(72)【発明者】
【氏名】ゴッテスフェルド, シムション
【審査官】
渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/154835(WO,A1)
【文献】
国際公開第2007/072842(WO,A1)
【文献】
特表2011−523178(JP,A)
【文献】
特開2012−181961(JP,A)
【文献】
特開2002−203569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 8/10
H01M 8/1004
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極;
ヒドロキシル(OH−)アニオンを伝導するように構成された膜電解質であって、該膜が該膜の第一表面上の該アノード電極と物理的に接触する界面を有する膜電解質;
該膜の反対側の第二表面と物理的に接触するカソード電極;
を含むアルカリ膜燃料電池であって、
該アノード電極および該カソード電極がそれぞれ触媒層を有し;
該アノード電極上の該触媒層を通ってイオノマー成分が、電池電力を損失せずに構造的安定化を達成するように架橋されており、
該カソード電極上の該触媒層のイオノマー成分が、架橋されていない、
アルカリ膜燃料電池。
【請求項2】
外部源からの水の供給なしに稼働する、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
請求項1に規定されるアルカリ膜燃料電池のための触媒被覆膜(CCM)を調製する方法であって、該電池のアノード側の架橋は、片側において触媒化された膜であって、膜および電極の両方において前駆体形態のポリマーを有する膜を調製することによって生じ、該膜および単一触媒層は二段階の変換プロセスであって、該プロセスの第一段階においてアミノ化および架橋剤を使用するプロセスを経て燃料電池活性イオノマー形態(OH−形態)になり、カソード触媒層は、架橋せずに、燃料電池活性イオノマー形態の該膜の第二側面に最後に適用される、方法。
【請求項4】
請求項1に規定されるアルカリ膜燃料電池のための触媒被覆膜(CCM)を調製する方法であって、前記アノードイオノマーの架橋は、ガス拡散層(GDL)に適用された前記アノード触媒層を有するアノードガス拡散電極(GDE)の調製によって、該アノード触媒層中のイオノマーの架橋を含むプロセスにおいて生じ、そのように形成された該GDEは電池作製中にイオン形態の膜の片側に押し付けられ、該膜はもう一方の側でカソード触媒層によって事前触媒化されており、該カソード触媒層の外側に隣接する第二GDLによって該電池が完成する、方法。
【請求項5】
AMFCのアノードCCMを通って選択的に適用されるイオノマーの化学架橋プロセスであって、カソード触媒層が非架橋形態に維持される、化学架橋プロセス。
【請求項6】
前記架橋剤が、ジアミンまたはジアミン混合物であり、前記前駆体のアミノ化工程の間に適用され、該ジアミンが、モノアミンとの混合物において、または単独で作用して、構造的安定化とイオン輸送および水輸送との最適な組合せを達成することができる、請求項3または4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記前駆体が最大IECに基づいて選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒層中のイオノマー成分が、前駆体形態および活性イオン形態の混合物である、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項9】
前記アノードイオノマー成分が、非水溶媒中でアミノ化および架橋される、請求項2に記載の燃料電池。
【請求項10】
前記非水溶媒がトルエンである、請求項9に記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、その全体が参考として本明細書に援用される2013年3月13日に出願された米国仮特許出願第61/778,921号に対する優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、燃料電池、特にアルカリ膜燃料電池、ならびに燃料電池稼働中にCCM構造を安定化する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
アルカリ膜燃料電池(AMFC)の技術は、今日まで、ポリ{炭化水素}骨格を有するOH−イオン伝導性ポリマー(「イオノマー」)を使用して開発されている。そのようなイオノマーは、充分なイオン導電率を達成するためにかなりの吸水を必要とする。AMFCの構造および仕様が、例えば、「Alkaline Membrane Fuel Cells and Apparatus and methods for Supplying Water Thereto」と題するUS2010/0021777に示されており、その全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0004】
吸水レベルが増加する(50重量%を超えるような)につれて、典型的には、イオノマーは力学的完全性を失い、その結果、モルフォロジー変化を生じ、場合によっては、電池性能の激しい損失を生じる全体的崩壊を生じる。そのような様式の破壊の可能性は、AMFCのアノード側において特に高く、該アノード側において、
アノードプロセス: 2H2+4OH−=4H2O+4e
により、電池稼働中に水が生成され、
一方、AMFCカソードでは、水消費プロセス:
カソードプロセス: O2+2H2O+4e=4OH−
が進み、従って、過剰な液体水の蓄積による構造的負荷に直面する可能性がはるかに低い。
【0005】
電池構造の安定化を助けるために、本発明者らの1人による先行出願において、電極/膜界面にまたがる化学結合のための手段として架橋が示唆されている。その出願は、「Chemical Bonding for Catalyst/Membrane Surface Adherence in Membrane Electrolyte Fuel cells」と題する米国特許出願公開第US2011/0300466号であり、その全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0006】
上記出願は、OH−イオン伝導性膜(単数または複数)の表面に対する触媒層の化学結合が、該触媒層と該膜との界面にまたがるポリマー成分の架橋によって達成されることを示唆している。上記出願によれば、触媒層被覆ポリマー膜(CM)のアノード側およびカソード側の両方が、架橋によって触媒層のポリマー成分と、界面でのみ結合しているか、または触媒層の中に架橋を充分に伸長させて結合している。その架橋方法は、上記特許出願公開明細書の段落[0010]〜[0016]に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0021777号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2011/0300466号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
本発明者らは、本出願において、AMFC用の触媒層被覆膜(CCM)の包括的調整について記載し、該調整では、必要に応じて、CCMの両側または片側だけにおいて触媒層中のイオノマーを架橋する。この調整は、全て前駆体形態のCCMから出発し、次に、架橋のためのジアミンの使用を含むアミノ化、次に、CCMの活性形態を生成するための塩基への浸漬を行う。本発明者らは、カソード触媒層中のイオノマーは架橋せずにアノード触媒層を選択的に架橋することが、架橋していないCCMについて示される初期電力出力と少なくとも同じ高さの初期電力出力を達成しつつ、電池稼働中のCCMの構造的安定化という利益をもたらすことを見出した。開発された代替的アプローチにおいて、架橋アノードはガス拡散電極(GDE)として別に調整され、これは電池中で片側がカソード触媒層によって事前被覆されているOH−伝導性膜のもう一方の側に押し付けられる。
【0009】
一実施形態において、アルカリ膜燃料電池(AMFC)は、アノード電極、ヒドロキシル(OH−)アニオンを伝導するように構成された(which I so)膜電解質を含み、該膜は、該膜の第一表面上でアノード電極と物理的に接触する界面を有する。AMFCはさらに、膜の反対側の表面と物理的接触するカソード電極を含み;両電極は、触媒層を含み、アノード電極上の触媒層のイオノマー成分は、電池電力の損失を伴って構造的安定化を達成するように架橋されている。
【0010】
別の局面において、AMFCは外部源からの水の供給なしに稼働し得る。
【0011】
別の局面において、前記電池のアノード側の架橋は、片側において触媒化された膜であって、膜および電極の両方において前駆体形態のポリマーを有する膜を調整することによって生じ、該膜および単一触媒層は二段階の変換プロセスであって、該プロセスの第一段階においてアミノ化および架橋剤を使用するプロセスを経て燃料電池活性イオノマー形態(OH−形態)になり、該カソード触媒層は、架橋せずに、燃料電池活性イオノマー形態の該膜の第二側面に最後に適用される。
【0012】
なお別の局面において、前記アノードイオノマーの架橋は、ガス拡散層(GDL)に適用された前記アノード触媒層を有するアノードガス拡散電極(GDE)の調整によって、該アノード触媒層中のイオノマーの架橋を含むプロセスにおいて生じ、そのように形成された該GDEは電池作製中にイオン形態の膜の片側に押し付けられ、該膜はもう一方の側でカソード触媒層によって事前触媒化されており、該カソード触媒層の外側に隣接する第二GDLによって該電池が完成する。
【0013】
さらなる局面において、AMFC中のCCMのアノード側に選択的に適用されるイオノマーの化学架橋プロセスであって、カソード触媒層が非架橋形態に維持される化学架橋のためのプロセスが開示される。
【0014】
別の局面において、上記AMFCにおいて、前記架橋剤は、ジアミンまたはジアミン混合物であり得、これは前記前駆体のアミノ化工程の間に適用され、該ジアミンが、モノアミンとの混合物において、または単独で作用して、構造的安定化とイオン輸送および水輸送との最適な組合せを達成することができる。
【0015】
なお別の局面において、前記前駆体は最大イオン等価容量(IEC)に基づいて選択され得る。前記触媒層中のポリマー成分は、前駆体形態および活性イオン形態の混合物であり得る。
【0016】
別の局面において、アミノ化および架橋は、非水溶媒(例えば、単なる例に過ぎないがトルエン)中で前駆体形態に適用される。
例えば、本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
アノード電極;
ヒドロキシル(OH−)アニオンを伝導するように構成された膜電解質であって、該膜が該膜の第一表面上の該アノード電極と物理的に接触する界面を有する膜電解質;
該膜の反対側の第二表面と物理的に接触するカソード電極;
を含むアルカリ膜燃料電池であって、
該アノード電極および該カソード電極がそれぞれ触媒層を有し;
該アノード電極上の該触媒層のイオノマー成分が、電池電力を損失せずに構造的安定化を達成するように架橋されている、アルカリ膜燃料電池。
(項目2)
外部源からの水の供給なしに稼働する、項目1に記載の燃料電池。
(項目3)
前記電池のアノード側の架橋が、片側において触媒化された膜であって、膜および電極の両方において前駆体形態のポリマーを有する膜を調製することによって生じ、該膜および単一触媒層は二段階の変換プロセスであって、該プロセスの第一段階においてアミノ化および架橋剤を使用するプロセスを経て燃料電池活性イオノマー形態(OH−形態)になり、該カソード触媒層は、架橋せずに、燃料電池活性イオノマー形態の該膜の第二側面に最後に適用される、項目2に記載の燃料電池。
(項目4)
前記アノードイオノマーの架橋が、ガス拡散層(GDL)に適用された前記アノード触媒層を有するアノードガス拡散電極(GDE)の調製によって、該アノード触媒層中のイオノマーの架橋を含むプロセスにおいて生じ、そのように形成された該GDEは電池作製中にイオン形態の膜の片側に押し付けられ、該膜はもう一方の側でカソード触媒層によって事前触媒化されており、該カソード触媒層の外側に隣接する第二GDLによって該電池が完成する、項目2に記載の燃料電池。
(項目5)
AMFC中のCCMのアノード側に選択的に適用されるイオノマーの化学架橋プロセスであって、カソード触媒層が非架橋形態に維持される、化学架橋プロセス。
(項目6)
前記架橋剤が、ジアミンまたはジアミン混合物であり、前記前駆体のアミノ化工程の間に適用され、該ジアミンが、モノアミンとの混合物において、または単独で作用して、構造的安定化とイオン輸送および水輸送との最適な組合せを達成することができる、項目3または4のいずれかに記載の燃料電池。
(項目7)
前記前駆体が最大IECに基づいて選択される、項目6に記載の燃料電池。
(項目8)
前記触媒層中のポリマー成分が、前駆体形態および活性イオン形態の混合物である、項目1に記載の燃料電池。
(項目9)
アミノ化および架橋が、非水溶媒中で前駆体形態に適用される、項目2に記載の燃料電池。
(項目10)
前記非水溶媒がトルエンである、項目9に記載の燃料電池。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、AMFC用のアノード架橋CCMの調製法の、本発明における第一組の工程を示す図である。
【0018】
【
図2】
図2は、アノード架橋GDEの調製法の、本発明における第二組の工程を示す図である。
【0019】
【
図3】
図3は、ある時間にわたってAMFC抵抗(HFR)をその初期値付近に維持することにおける、本発明の効果をグラフ形状で示す図である。
【0020】
【
図4】
図4は、長い稼働時間にわたる電力出力における本発明の効果を、グラフ形状で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
図1は、アルカリ膜燃料電池(AMFC)用の触媒被覆膜(CCM)の調製を概略図で示し、該図において、アノード触媒層中のイオノマーは架橋されるが、カソード触媒中のイオノマーは非架橋形態のままにされる。工程は下記のように説明される:(i)アノード触媒層および膜が、前駆体形態のまま接合されている片側触媒化膜を調製する工程;(ii)典型的にはジアミンの使用によって、アノードおよび膜の両方の中の前駆体がアミノ化によって活性イオノマー形態に変換される工程であり、同工程において、アノードおよび膜の中のイオノマーの架橋も導入される
*;(iii)該イオノマーをヒドロキシル化する工程;および(iv)イオノマー形態のカソード触媒層を、膜のもう一方の側に取り付けて、半架橋CCM(本発明者らにより「1/2XCCM」と命名)を完成させる工程。
*ジアミンの使用による、アミノ化による活性形態への変換および架橋に関与する化学プロセスは、上記米国特許出願公開第US2011/0300466号に記載されている化学反応式によって説明される。
【0022】
図2は、アルカリ膜燃料電池(AMFC)用の触媒被覆膜(CCM)の代替的調製を模式的に示し、該図において、アノード触媒層中のイオノマーは架橋されるが、カソード触媒中のイオノマーは非架橋形態のままにされる。工程は下記のように説明される:(i)アノード触媒層が、前駆体形態のままガス拡散層上に沈着させられているガス拡散電極を調製する工程;(ii)典型的にはジアミンの使用によって、アノードの両方の中の前駆体がアミノ化によって活性イオノマー形態に変換される工程であり、同工程において、アノードの中のイオノマーの架橋も導入される
*;(iii)該イオノマーをヒドロキシル化する工程;および(iv)もう一方の側に事前に取り付けたイオノマー形態のカソード触媒層を有するOH−イオン伝導性膜にGDEを取り付けて、半架橋CCM(本発明者らにより「1/2XCCM」と命名)を完成させる工程。
*ジアミンの使用による、アミノ化による活性形態への変換および架橋に関与する化学プロセスは、上記米国特許出願公開第US2011/0300466号に記載されている化学反応式によって説明される。
【0023】
図3は、数百時間の稼働後にAMFC抵抗(HFR)をその初期値付近に維持することにおける、アノード側のイオノマーの選択的架橋の有利な効果を示す。上の曲線は、架橋が使用されていない場合の、時間経過に伴うAMFC抵抗の顕著な上昇を示し、下の曲線は、アノード側だけの架橋後の、稼働時間に伴うHFRの上昇がはるかに少ないことを示す。
【0024】
図4は、数百時間の程度の稼働時間にわたる、電力出力におけるAMFC中のCCMのアノード側上の選択的架橋の有利な効果を示す。アノード側の架橋は、非架橋の場合と比較して、初期電力を増加させ、時間経過に伴う電力損失率を減少させると考えられる。
【0025】
上記において、本発明者らは、
図1および
図2に示されている方法のいずれかによる、アノード側の架橋を含むAMFC用の膜/電極アセンブリの調製法が、触媒層中のイオノマーを架橋せずに調製されたCCMと比較して、CCMの顕著な安定化を達成することを示した。より強固な構造の根拠は、数百時間の電池稼働にわたる、アノード側に架橋イオノマーを有するCCMのオーム(HFR)抵抗の安定化であった。これは、
図3に見られるように、架橋が導入されていない場合に一貫して観察される同様の稼働時間にわたるHFRの連続的上昇とかなり対照的であった。
【0026】
さらに、本発明者らは、本発明において、CCMのカソード側上での架橋による触媒層構造の安定化および何らかの界面結合の形成が、電池HFRの安定化に有意にさらに寄与せず、従って、稼働時間にわたる電池電力の有意なさらなる安定化をもたらさないことを観察した。電池のアノード側はAMFCにおける水生成の部位であり、従って、AMFCにおけるアノード触媒層のモルフォロジーは過膨張を受けやすいので、イオノマー架橋は、電池のアノード側において極めて重要となりうると結論付けられた。これに対して、AMFCカソードのプロセスは水生成ではなく水消費を含むので、AMFCカソードにおいて、そのような過膨張の可能性は極めて低い。
【0027】
イオノマー相安定化および触媒層/膜界面結合の両方を目的として、アノード触媒層を通って膜に入る架橋を達成する必要がある。そのために、CCMは、膜の片側に適用されたアノード触媒層から出発して作製された。その際、膜およびアノード触媒層の両方におけるポリマーは、前駆体(非イオン)形態である。次に、モノアミンとジアミンとの混合物、またはジアミンのみが、該ポリマーをイオン形態に変換し、それと同時に該ポリマーを架橋する。次に、膜のもう一方の側に非架橋カソード触媒層を適用した後に、「半架橋CCM」が形成され、アノード側のイオノマーだけが架橋され、カソード触媒層のイオノマーは架橋されないままにされ、それによってカソードへのおよびカソード内の妨げられない水輸送を促進した。この「半架橋」CCMの調製は、先に記載され、
図1に概略図で示されている。このような「半架橋」CCMの試験結果は、架橋による安定化を必要とするのが実際に特にアノード触媒層であることを裏付けた。これは、
図3に示されるように、長い稼働時間にわたる電池抵抗(HFR)の安定化が、アノード側だけに限定されたこのような選択的架橋によって充分に達成されたからである。「半架橋」CCMを有する電池におけるHFRの安定化により、
図4に示されるように、このような電池の電力密度は、電池稼働時間に伴う減少はより低い程度だった。
【0028】
AMFCのアノード側に使用するためのイオノマー前駆体(そのような前駆体はCCMの最終形態を得るために官能化され架橋される)の最良の種類を探す中で、架橋後にAMFCアノードにおける水輸送のいくらかの制限が典型的には観察されることに本発明者らは気付いた。架橋アノードにおける水およびイオン輸送の無視できる損失において、架橋によるアノード安定化を達成する方法は、可能な限り最も高いイオン部位濃度、即ち最も高いIEC(イオン等価容量)の前駆体を使用することであることが見出された。特に、温水中での長時間浸漬後に通常は不安定性を示すIEC値(例えば、4meq/grに近いIEC)のイオノマーは、最適化された架橋レベルによって充分に安定化にされ、それと同時に、そのような架橋後に、高濃度のイオン部位により、充分な水およびイオン移動度を維持する。従って、水およびイオン輸送速度を損失せずに良好な構造安定化を達成するために、極めて高いIECの前駆体を選択したことは、本発明者らの発見の重要な部分である。
【0029】
官能化および架橋の組合せプロセスに最も好適なイオノマー前駆体の選択に加えて、組み合わされたアミノ化/架橋の配合および条件についての他の詳細が、この発見の一環として開発された。発見された1つの選択肢は、ジアミンのみを使用(モノアミン不使用)して、官能化および架橋の両方を達成することである。このアプローチの導入は、悪臭で知られている高揮発性モノアミンの使用を必要とせずに、低揮発性のアミン(ジアミン)を使用して実施できる点で特に有用である。単一のジアミンまたは2つのジアミンの混合物が、様々な場合に最もよく作用することが見出された。溶媒の選択はもう1つの重要な要素であり、官能化および架橋プロセスにおける種々の非水溶媒の使用は、このプロセス中のポリマーの膨張においてある特別な利点を有する。例えば、アミノ化のためにトリメチルアミン(TMA)をジアミンDABCOで置き換えた場合、架橋を達成するのに最良の溶媒はトルエンであり、一般に使用される水ではないことが見出された。トルエンを溶媒として使用することによって、ポリマーをより良好に溶媒和させ、次に、ポリマー骨格における最適化された架橋を達成することが可能になる。トルエンは、通常のジアミン(例えばヘキサンテトラメチルジアミン)とDABCOとの混合物をアミノ化工程および架橋工程の両方に使用する場合に、アミノ化および架橋のための最良の溶媒であることも見出された。
【0030】
架橋後の輸送速度を最大にするために開発されたさらに他の配合において、モノ−およびジ−アミンの何らかの混合物および濃度を使用することによって架橋と共に誘発される前駆体の官能化の前に、高IECイオノマーを高IECイオノマー前駆体と混合した。この方法において、イオン性物質の一部(高IECイオノマー)が、前駆体と異なり、官能化されているが架橋されないので、より高い水輸送速度を達成することを助ける。それと同時に、非架橋の水収容高IECイオノマーは、イオノマー前駆体から生成された架橋イオノマーのネットワーク内に捕捉されることによって、溶解から保護される。
【0031】
架橋後に最高の水およびイオン輸送速度を維持することを目的として開発された1/2XCCM調製法の上記特徴の全ては、外部源からのどのような水供給もなしに、AMFC積層電池を稼働させるための重要な能力を維持することに成功した。架橋による安定化と典型的にはそれに伴う輸送速度の損失とのトレードオフは原理的に解決しにくいので、これは重要な成果であると考えられる。
【0032】
架橋アノードを有するAMFCを達成する代替的アプローチは、膜に架橋され取り付けられたガス拡散アノード電極(GDE)を有し、該膜のもう一方の側はカソード触媒層で事前被覆されている電池を調製することである(
図2参照)。このようなGDEアノードは、吹付けまたはプリンティングを使用してガス拡散層(GDL)にアノード触媒層を適用し、次に、架橋剤、例えばジアミンで処理してアノード架橋を得ることによって調製される。カソード触媒が片側に事前適用された膜は架橋せずに調製され、架橋アノードGDEが機械的押し付けによって膜の自由側に取り付けられて、完全な電池を形成する(
図2参照)。架橋アノードGDEの個別調製により可能な利点は、架橋プロセスが、この場合、アノード触媒層のバルクに限定され、アノード触媒層と膜との間の「継ぎ目」が架橋されないままにされるので、このようなアノードから膜への水輸送が促進されることである。従って、アノードから膜に入り、水消費カソードへ向かう水の横断が促進される。
【0033】
本明細書に開示されているのは、前駆体形態のCCMのアミノ化および架橋に基づく、AMFC触媒層およびCCMの構造的安定化に対するオリジナルのアプローチ、ならびにこの技術的アプローチの範囲に含まれるAMFC用のCCMであると考えられ、このアプローチにおいて架橋はアノード側に限定され、それによって、カソードにおいて水輸送が妨げられないようにしながら脆弱なアノード触媒層の顕著な安定化を可能にする。後者のアプローチは、非架橋CCMと比較して電池抵抗の顕著な安定化、および非架橋(そしてより安定性の低い)CCMに見られる初期電力レベルの維持(増加とまではいかなくても)を同時に達成することを可能にする。