【文献】
Chul Eui KIM, et al.,Fabrication of a high lithium ion conducting lithium borosilicate glass,Journal of Non-Crystalline Solids,2011年 4月15日,Vol. 357, Issue 15,pp. 2863-2867
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1及び第2温度が、実質的に150℃以下、又は実質的に100℃以下、又は実質的に75℃以下、又は実質的に50℃、又は実質的に25℃以下、又は実質的に10℃以下、又は実質的に5℃以下にわたる範囲内で異なる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蒸着方法。
1種類以上の遷移金属の前記1つ又は複数の供給源が、マンガン源を含み、かつ、前記結晶性リチウム含有金属酸化物化合物がリチウムマンガン酸化物であるか、又は、マンガン源及びニッケル源を含み、かつ、前記結晶性リチウム含有金属酸化物化合物がリチウムマンガンニッケル酸化物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の蒸着方法。
1種類以上の遷移金属の前記1つ又は複数の供給源が、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、及び水銀の1種類以上のそれぞれの供給源を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の蒸着方法。
1種類以上のガラス形成元素の前記1つ又は複数の供給源が、ホウ素源及びケイ素源を含み、かつ、前記非晶質リチウム含有酸化物又は酸窒化物化合物がホウケイ酸リチウムであるか、若しくは、1種類以上のガラス形成元素の1つ又は複数の供給源がホウ素源及びケイ素源を含み、前記蒸発源が窒素源をさらに含み、かつ、前記非晶質リチウム含有酸化物又は酸窒化物化合物が窒素ドープホウケイ酸リチウムである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の蒸着方法。
前記非晶質リチウム含有酸化物又は酸窒化物化合物が、ケイ酸リチウム、ケイ酸リチウム酸窒化物、ホウ酸リチウム又はホウ酸リチウム酸窒化物である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の蒸着方法。
1種類以上のガラス形成元素の前記1つ又は複数の供給源が、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、アルミニウム、ヒ素、及びアンチモンの1つ以上の供給源を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の蒸着方法。
非晶質リチウム含有酸化物又は酸窒化物化合物の前記層が、結晶性リチウム含有遷移金属酸化物化合物の前記層の上に堆積される、請求項1、2又は4〜14のいずれか1項に記載の蒸着方法。
薄膜電池のカソードを形成するために結晶性リチウム含有遷移金属酸化物化合物の前記層が堆積され、かつ、薄膜電池の電解質を形成するために非晶質リチウム含有酸化物又は酸窒化物化合物の前記層が堆積される、請求項1〜15のいずれか1項に記載の蒸着方法。
結晶性リチウム含有遷移金属酸化物化合物の前記層及び/若しくは非晶質リチウム含有酸化物又は酸窒化物化合物の前記層の上に、1つ以上のさらなる層を形成するステップをさらに含む、請求項1〜16のいずれか1項に記載の蒸着方法。
少なくとも1つのさらなる層が、前記さらなる層に意図される化合物の成分元素を前記化合物の各成分元素の蒸発源から前記基板上に共堆積することによって形成され、前記成分元素は前記基板上で反応して、前記さらなる層に意図される前記化合物の層を形成する、請求項17に記載の蒸着方法。
第3層が形成されるときに、前記基板が第3温度まで加熱され、かつ、前記第1温度、前記第2温度及び前記第3温度は実質的に170℃以下にわたる温度範囲内で異なる、請求項18に記載の蒸着方法。
薄膜電池のカソードを形成するために結晶性リチウム含有遷移金属酸化物化合物の前記層が堆積され、薄膜電池の電解質を形成するために非晶質リチウム含有酸化物又は酸窒化物化合物の前記層が堆積され、かつ、前記1つ以上のさらなる層は薄膜電池の少なくともアノードを含む、請求項17〜20のいずれか1項に記載の蒸着方法。
第1薄膜電池のカソードを形成するために結晶性リチウム含有遷移金属酸化物化合物の前記層が堆積され、前記第1薄膜電池の電解質を形成するために非晶質リチウム含有酸化物又は酸窒化物化合物の前記層が堆積され、かつ、前記1つ以上のさらなる層は、少なくとも前記第1薄膜電池のアノード、並びに、電池スタックを形成するために前記第1薄膜電池上に形成される第2薄膜電池のカソード、電解質及びアノードを含む、請求項17〜20のいずれか1項に記載の蒸着方法。
電池を製造する方法であって、結晶性リチウム含有遷移金属酸化物化合物の層としての前記電池のカソード、及び、非晶質リチウム含有酸化物又は酸窒化物化合物の層としての前記電池の電解質を、請求項1〜20のいずれか1項に記載の蒸着方法を用いて堆積するステップを含む、方法。
【背景技術】
【0002】
薄膜の形態の材料の堆積は、薄膜の多くの用途のために大きな関心が持たれており、種々の異なる堆積技術が周知である。種々の技術は、個別の材料に対してある程度好適となり、製造される薄膜の品質、組成及び性質は、典型的には、その形成に使用される方法に大きく依存する。従って、多くの研究が、特定の用途に適切な薄膜を製造可能な堆積方法の開発に当てられている。
【0003】
薄膜材料の重要な用途の1つは、リチウムイオンセルなどの固体薄膜セル又は電池における用途である。このような電池は、少なくとも3つの構成要素から構成される。2つの活性電極(アノード及びカソード)は電解質によって分離される。これらの構成要素のそれぞれは、支持基板上に順次堆積された薄膜として形成される。集電体、界面改質剤及び封入剤などのさらなる構成要素を設けることもできる。製造においては、構成要素は、例えばカソード集電体、カソード、電解質、アノード、アノード集電体及び封入剤の順序で堆積することができる。個々の層の製造は既に堆積された任意の層に対して悪影響を有するべきではないため、これらの電池の構造は、個別の構成要素の堆積プロセスに対してさらなる負担となる。
【0004】
リチウムイオン電池の例では、アノード及びカソードは、リチウムを可逆的に貯蔵することができる。アノード材料及びカソード材料の別の要求は、材料の少ない質量及び体積から実現可能な高い重量的及び体積的貯蔵容量であるが、単位当たりに貯蔵されるリチウムイオン数はできる限り高くなるべきである。電池の充電及び放電プロセス中にイオン及び電子が電極を移動することができるように、これらの材料は許容することができる電子伝導及びイオン伝導も示すべきである。
【0005】
他の点では、アノード、カソード及び電解質は、異なる性質が必要となる。カソードは高電位において可逆的なリチウムインターカレーションを示すべきであり、一方、アノードは低電位において可逆的なリチウムインターカレーションを示すべきである。
【0006】
電解質は、アノード及びカソードを物理的に分離するため、電池の短絡を防止するために電解質が非常に低い電気伝導度を有する必要がある。しかしながら、妥当な充電及び放電特性を可能とするために、材料のイオン伝導度をできる限り高くする必要がある。さらにこの材料は、サイクルプロセス中に安定であり、カソード及びアノードのいずれとも反応しないことが必要である。
【0007】
固体電池の製造では一連の問題が発生する。特に、カソードとして使用するのに好適な材料を製造するための信頼性が高く効率的な技術に対する関心が高い。いくつかの一般的なカソード材料の場合、電池のカソード層は、前述の概略で要求される性質を得るために結晶構造を有することが要求される。しかしながら、完成電池の製造及び加工における後のステップに適合するような方法でのある品質の結晶性カソード層の堆積は、問題を生じることが多い。電解質材料は、非晶質であることが多くの場合好ましく、又は必要であり、十分に高いイオン伝導度、低い電子伝導度及び必要な電気化学サイクルに起因する低い機械的応力を有する固体電解質及び再現性のある高収量の製造方法の識別がさらなる課題となっている。
【0008】
薄膜電池の構成要素の多くの異なる堆積方法が知られている。「物理蒸着」という包括的用語を用いて一般的に言及される薄膜の剛性経路としては:パルスレーザー堆積(Tang, S.B., et al., J. Solid State Chem., 179(12), (2006), 3831-3838)、フラッシュ蒸発(Julien, C.M. and G.A. Nazri, Chapter 4. Materials for electrolyte: Thin Films, Solid State Batteries: Materials Design and Optimization (1994))、スパッタリング及び熱蒸着が挙げられる。
【0009】
これらの中でスパッタリングは、最も普及している堆積技術である。この方法では、特定の組成のターゲットが、ターゲット上で形成されたプラズマを用いてスパッタリングされ、その結果得られた蒸気が基板上で凝縮して薄膜を形成する。スパッタリングは、ターゲットから材料を直接堆積することを伴う。スパッタの生成物は多様であり、二量体、三量体、又はより高次の粒子を含み得る(Thornton, J.A. and J.E. Greene, Sputter Deposition Processes, Handbook of Deposition Technologies for films and coatings, R.F. Bunshah, Editor 1994, Noyes Publications)。薄膜の堆積速度、組成、形態、結晶性及び性能は、使用されるスパッタリングパラメータとの複合的な関係性によって求められる。
【0010】
スパッタリングは、堆積される材料の特性及び性能に対する種々のスパッタリングパラメータの影響を予測することが困難であるという点で不都合であり得る。部分的には、これは、堆積パラメータと膜の特性との交絡によるものである。スパッタリングされた薄膜の堆積速度、組成、形態、結晶性及び性能は、使用されるスパッタリングパラメータとの複合的な関係性によって決定される。従って、スパッタリングされる膜の個別のパラメータ(例えば、1種類の元素の濃度、堆積速度又は結晶性)を膜の他の性質に影響を与えることなく変更することは非常に困難となり得る。このため、目的の組成の実現は困難であり、そのため、膜の最適化、従って任意の意図される電池又は他の薄膜デバイスの性質の最適化が非常に問題となる。
【0011】
パルスレーザー堆積(PLD)技術は、組成的に独特のターゲットを使用し、高エネルギーを使用するために、スパッタリングと多くの性質を共有している。さらに、この経路では、非常に粗いサンプルが得られることが多く、このことはスパッタリングでも問題となる。PLDによって作製したLiMn
1.5Ni
0.5O
4の薄膜の表面形態は粗くなると記載されており、堆積温度に依存して30nm以上のサイズの粒子が形成される(Wang et al. Electrochimica Acta 102 (2013) 416-422)。表面粗さは、固体電池などの層状薄膜構造では非常に望ましくなく、この場合、任意の大きく突出した特徴が、隣接する層中まで又はさらには貫通するまで延在することがある。
【0012】
化合物源の熱蒸着による薄膜の堆積は、電池の構成要素の合成においてLiMn
2O
4(LMO、リチウムマンガン酸化物)及びB
2O
3−Li
2Oなどの材料の場合で示されている(Julien, C.M. and G.A. Nazri, Chapter 4. Materials for electrolyte: Thin Films, in Solid State Batteries: Materials Design and Optimization (1994))。この場合、粒子エネルギーは、スパッタリング中に遭遇するエネルギーよりもはるかに低く、このためクラスター形成の抑制、表面粗さの減少、平滑で損傷のない表面の形成が可能となる。しかしながら、供給源と得られる薄膜との間の組成のばらつきなどの問題は、化合物蒸発ターゲットから始まるあらゆる経路(スパッタリング及びPLDを含む)で共通である。さらに基板温度と堆積される膜の組成との間に関係が存在し、この場合もそれによって、パラメータの交絡のために材料性能の最適化で問題が生じることが示されている。
【0013】
代案の1つは、元素からの直接の熱蒸着であるが、これは一般的ではない。Julien及びNazri(Chapter 4. Materials for electrolyte: Thin Films, Solid State Batteries: Materials Design and Optimization (1994))は、B
2O
3−xLi
2O−yLi
nX(X=I、Cl、SO
4及びn=1,2)を元素から直接合成する試みに言及しているが、結果は報告されておらず、著者らは、「この技術の実施における問題は、酸素圧送の向上、系の加熱部品を用いた高い酸素反応性の回避、及び表面上での酸素の反応を向上させるための単原子酸素源を利用可能にすることにある」と述べている。
【0014】
以前に、本発明者らは、構成元素から直接、一部の薄膜電池の構成要素に好適なリン含有材料を合成することを示している(国際公開第2013/011326号;国際公開第2013/011327号)。しかしながら、この方法の複雑なところは、ホスフェートを形成可能にするためにリンを破壊するためのクラッカーを使用することである。カソード(リン酸鉄リチウム(LFP)− 実施例5、リン酸マンガンリチウム(LMP)− 実施例7)及び電解質材料(Li
3PO
4 − 実施例1及び窒素ドープLi
3PO
4 − 実施例6)の合成が開示されている。堆積された材料は非晶質であるため、カソード材料を結晶化させるために、LFP及びLMPの場合でそれぞれ500℃及び600℃の温度でのアニールが使用される。この研究は、薄膜セルを製造するための3つの基本構成要素の2つを示しているが、使用可能なセルは示していない。さらに、この研究で示したイオン伝導度は、セルが室温において適切に機能することができるには低すぎる。十分な性能のためには室温で1×10
−6Scm
−1の伝導度が必要であることが広く知られているが、このことは示されていない。
【0015】
LiMn
2O
4(LMO)及びLiMn
1.5Ni
0.5O
4(LMNO)などの最高技術水準のカソード材料は、最適なイオン伝導度を実現するために結晶状態であることが必要である。これは、低温での堆積後のポストアニール、又は高い基板温度での堆積のいずれかによって実現することができる。低い基板温度(250℃未満)で堆積されたカソードは、結晶性が不十分となることが多く、その結果として性能が低下する。従って、さらなる結晶化ステップが必要であり、これは堆積後の高温アニールによって通常は実現されるが、このステップによって膜中にリチウム欠陥が生じることがある(Singh et al. J. Power Sources 97-98 (2001), 826-831)。加熱した基板上にRFスパッタリングによって堆積されたLMOのサンプルは250℃の初期結晶化温度を有することが分かったが、200℃未満の基板温度を用いて成長させた膜は、広く拡散したXRDパターンを示し、これはX線で非晶質の材料と一致する(Jayanth et al. Appl Nanosci. (2012) 2:401-407)。
【0016】
結晶性LiNi
0.5Mn
1.5O
4(LMNO)薄膜は、550〜750℃のより高い基板温度でPLDを用いて堆積され、続いて同じ温度で1時間のポストアニールが行われた(Wang et al. Electrochimica Acta 102 (2013) 416-422)。これらのような高い基板温度の使用は、ある種の欠点を有する。リチウムの減少は、より高温でより顕著となり、堆積した膜と基板との間の材料の拡散のために相互汚染の可能性が存在し、そのため使用可能となり得る基板が制限される。
【0017】
材料を高温に曝露して結晶化させることを伴うアニールプロセスは、堆積された材料の結晶性が不十分であれば常に使用可能となり得る。必要な温度は材料次第であるが、典型的には少なくとも500℃であり、大幅に高くなることがあり、得られる結晶層は品質が不十分となり得る。一例として、カソード材料のリチウムマンガンニッケル酸化物(LMNO;LiMn
1.5Ni
0.5O
4)は、スパッタリングした薄膜をアニールすることで結晶化したが、得られる層は多結晶であり、50〜150nmの直径の粒子で構成される。膜は多数の不純物相を含むことも示している(Baggetto et al., J Power Sources 211 (2012) 108-118)。
【0018】
また、アニールは、望ましくない複雑さであり、完成電池又は他の層状デバイスの製造において特に問題となる。議論したように、最高技術水準の材料に基づく固体電池は、結晶性電極(LiCoO
2、LiMnO
4、LiMn
1.5Ni
0.5O
4から作製されるカソードなど)及び非晶質電解質(LiPONなど)を必要とする。この要求は、電解質の結晶化を回避するために、電解質層を堆積する前にカソードをアニールすることが一般に必要となっていることを意味する。このステップは、十分な結晶化を行うために時間及びエネルギーの両方が必要である。さらに、1つ以上の高温処理ステップ(例えばLiMn
1.5Ni
0.5O
4:PLDの場合550〜750℃(Wang, Y., et al., Electrochimica Acta, (2013), 102(0), 416-422)と、ゾルゲル及び固相合成のための750〜800℃における複数のアニール(Zhong, Q., et al., J. Electrochem. Soc., (1997), 144(1), 205-213)とが通常は必要であり、それによってこのような高温処理に適合する基板などの構成要素が限定される。さらにこのようなプロセスでは、セルのスタックを製造するための既に存在するセルの上へのさらなるセルの堆積が妨げられるが、その理由は、既に堆積された任意の非晶質電解質もアニールされることになり、結晶化が起こるからである。このような結晶化は、最高技術水準の電解質LiPONのイオン伝導度を大きく低下させることが知られている。結晶LiPONの伝導度は、非晶質材料の伝導度よりも7桁小さいことが知られている(Bates et al. Synthesis, Crystal Structure, and Ionic Conductivity of a Polycrystalline Lithium Phosphorus Oxynitride with the γ-Li
3PO
4Structure. Journal of Solid State Chemistry 1995, 115, (2), 313-323)。このような高温処理に関連するさらなる問題としては、層間剥離及び個別の層の亀裂が挙げられる。
【0019】
これらの問題に対処するための技術が提案されている。例えば、集束イオンビームを提供することによって、結晶膜をin-situで堆積可能であることが示されている(国際公開第2001/73883号)。この場合、カソード材料の吸着原子(この場合、構造又は膜がまだ形成されていない材料の粒子、分子、又はイオンとして定義される)を基板上に堆積させながら、イオンの第2流束によってエネルギーがカソード材料に供給された。第2材料の流束によって、エネルギーが第1材料に供給されて、望ましい結晶材料の成長が支援された。このことはカソードとしてのLiCoO
2の場合で実証されている。LiCoO
2の場合、O
2イオンのビームが使用された。この酸素ビームは、LiCoO
2の結晶化及び化学量論の両方を制御する2つの機能を有すると言及されている(欧州特許第1,305,838号)。イオンのビームは、組成制御と、緻密な膜の形成と、得られた膜の結晶化との、薄膜の形成で遭遇する3つの問題に対処する。しかし、イオンビームは、プロセスの複雑な側面となる。
【0020】
電池の電解質成分に注目すると、結晶性及び非結晶性(非晶質)の両方の電解質材料が考慮されている。チタン酸リチウムランタン(LLTO)、チオ−LISICON、NASICON型(Li
1+x+yAl
x(Ti,Ge)
2−xSi
yP
3−yO
12)、及びLi
10GeP
2S
12などの結晶材料は、一般に優れたイオン伝導度(例えば、Li
10GeP
2S
12の場合で最大1.2×10
−2Scm
−1)を示すため、電解質の有力な候補になると思われる。しかし、これらの材料は、電池システムに使用する場合に問題が発生する。酸化物(LLTO、チオ−LISICON、及びNASICON型)の場合、電解質中の遷移金属は、還元される傾向にあり、それによって材料が電子伝導性を示し、それによって電池の短絡が生じる。Li
10GeP
2S
12などの硫化物系は、非常に高い伝導度を示すが、空気及び水に曝露すると分解する傾向にあり、それによって毒性のH
2Sが放出され、性能の低下が起こる。さらに、酸化物及び硫化物の両方の結晶性電解質は、非常に高い処理温度が必要となる。これらの理由で、結晶性電解質は商業用薄膜電池システムには使用されていない。
【0021】
リチウムリン酸窒化物(LiPON)、ケイ酸リチウム、及びホウケイ酸リチウムなどの非晶質電解質は、はるかに低いイオン伝導度を示す。これらの材料の最適な伝導度は結晶材料の伝導度よりも少なくとも2桁小さいが、これは電解質の厚さが1×10
−6m未満である場合には許容できると判断されている(Julien, C. M.; Nazri, G. A., Chapter 1. Design and Optimisation of Solid State Batteries. In Solid State Batteries: Materials Design and Optimization, 1994)。LiPONは3×10
−6Scm
−1の許容できるイオン伝導度を有し、空気中で安定であり、リチウムに対するサイクルの場合に安定であることが示されている。これらの理由から、製造が容易であることと結びつけて、固体電池の第1世代で広く採用されている(Bates, J. B.; Gruzalski, G. R.; Dudney, N. J.; Luck, C. F.; Yu, X., Rechargeable Thin Film Lithium Batteries. Oak Ridge National Lab and Solid State Ionics 1993;米国特許第5,338,625号)。これらの電解質の非晶質の性質は、それらの性能のために重要であり;結晶性LiPONは非晶質材料よりも7桁小さいイオン伝導度を有する。しかしながら、非晶質LiPONは、標準的な合成技術を用いるLMO(LiMn
2O
4、リチウムマンガン酸化物)及びLMNO(LiMn
1.5Ni
0.5O
4、リチウムマンガンニッケル酸化物)などのカソード材料のアニールに典型的に必要となる温度よりも低い温度で結晶化し、そのためこれらの材料を含む薄膜電池の製造が複雑になる。
【0022】
従って、非晶質電解質への関心が高い。LiPONの代替品の1つは、非晶質ホウケイ酸リチウムである。LiPONと均等なイオン伝導度を有する非晶質ホウケイ酸リチウム材料が製造されているが、急冷が必要な方法によって製造されている(Tatsumisago, M.; Machida, N.; Minami, T., Mixed Anion Effect in Conductivity of Rapidly Quenched Li
4SiO
4-Li
3BO
3Glasses. Yogyo-Kyokai-Shi 1987, 95, (2), 197-201)。この合成方法ではガラスの不規則な「スプラット」が生じ、これらは薄膜電池への加工には適していない。同様の組成のスパッタリングによる合成が薄膜において試みられているが、これらは成功しておらず、急冷ガラスと比較すると伝導度が大きく低下した材料が得られた(Machida, N.; Tatsumisago, M.; Minami, T., Preparation of amorphous films in the systems Li
2O
2 and Li
2O-B
2O
3-SiO
2by RF-sputtering and their ionic conductivity. Yogyo-Kyokai-Shi 1987, 95, (1), 135-7)。
【0023】
構成元素からのリン酸塩材料薄膜の堆積を示している本発明者らの以前の研究(国際公開第2013/011326号;国際公開第2013/011327号)では、その技術がホウケイ酸リチウムなどの別の材料でも可能となり得ると示唆している。しかしながら、リン酸塩の場合で記載される方法に従うが、ホウケイ酸リチウムの構成元素を使用すると、所望の薄膜材料は形成されないことが分かった。元素は、リン酸塩の研究から予想される方法では基板上で反応せず、そのため必要な化合物は形成されない。原子状酸素の代わりに分子酸素を使用することでこの問題は克服されるが、目的のホウケイ酸リチウム相は基板温度が低い(室温)場合にのみ実現される。分子酸素を高温で使用してホウケイ酸リチウムを堆積すると、白金基板上に堆積する場合に、望ましくない相である結晶LiPt
7が形成される。さらに、高温で堆積された材料のラマンスペクトルは、目的のホウケイ酸リチウム相に関連するバンドを示さない。また、結果として得られる非晶質ホウケイ酸リチウムは、電池の他の構成要素の製造及び処理に必要な高温にさらされると結晶化し、又は電池が高温で使用される場合には、それによってその電解質の品質が低下する。
【0024】
種々の堆積方法におけるこれらの多くの問題を克服するために必要な努力、及び新規材料の開発に伴った複雑さのため、薄膜電池の大部分は、スパッタリングによって薄膜として堆積された電解質としてのLiPONの使用に限定される。
【0025】
明らかに、別の電解質材料の薄膜の改善された製造方法が望まれており、これに加えて、薄膜電池中の電極としての使用に好適な結晶材料の改善及び簡略化された堆積方法が必要とされている。さらに、薄膜電池及び他の層状薄膜デバイスの製造及び性能を改善できるように、結晶材料及び非晶質材料の形成方法の間の非両立性に対処する必要がある。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明は、蒸着によって薄膜構造の少なくとも2つの薄膜層を逐次堆積する方法を提供する。少なくとも2つの層は、1つが非晶質であり1つが結晶性であるリチウム含有化合物を含む。各層の化合物の各成分元素は、それぞれの供給源からの蒸気として提供され、第1層の成分元素蒸気を、加熱された共通の基板上に共堆積させる。成分元素は基板上で反応して第1層の化合物を形成する。次に第2層の成分元素蒸気を加熱された基板上で共堆積させ、それらの元素は反応して第2層の化合物を形成する。
【0051】
層の1つは、結晶性リチウム含有遷移金属酸化物化合物を含む。別の層は非晶質リチウム含有酸化物又は酸窒化物化合物を含む。
【0052】
本開示に関連して、用語「元素」は「周期表の元素」を意味する。従って本発明により形成される結晶性リチウム含有遷移金属酸化物化合物は、リチウム(Li)、酸素(O)、及び1種類以上の遷移金属を含む成分元素を含む。他の成分元素は、形成される個別の結晶性化合物に依存する。本発明により形成される非晶質リチウム含有酸化物又は酸窒化物化合物は、酸化物化合物の場合はリチウム(Li)及び酸素(O)を含み、酸窒化物化合物の場合にはリチウム(Li)、酸素(O)、及び窒素(N)を含む成分元素を含む。さらに、1種類以上の成分元素はガラス形成元素を含む。
【0053】
他の成分元素は、形成される個別の非晶質化合物に依存する。結晶性化合物及び非晶質化合物の両方のあらゆる場合において、化合物中の各元素は、個別に蒸気(又は適切であれば混合されて混合蒸気又はプラズマ)の形態で供給され、第1層のための各蒸気が共通の基板上に堆積され、続いて第2層のための各蒸気が同じ基板上に堆積される。
【0054】
また本開示に関連して、用語「リチウム含有遷移金属酸化物化合物」は、「リチウム、酸素、1種類以上の遷移金属、及び場合により1種類以上の別の元素を含有する化合物」を意味する。用語「リチウム含有酸化物化合物」は、「リチウム、酸素、及び1種類以上の別の元素を含有する化合物」を意味し、用語「リチウム含有酸窒化物化合物」は、「リチウム、酸素、窒素及び1種類以上の別の元素を含有する化合物」を意味する。「化合物」は、「一定の比率の2種類以上の元素が化学反応によって化合することで形成された物質又は材料」である。
【0055】
本開示に関連して、用語「結晶」は、「結晶の特性の原子、イオン、又は分子の規則的な内部配列を有する固体」を意味し、すなわちその格子中で長い範囲の秩序を有することを意味する。本発明の方法によると、化合物が堆積される1種類以上の成分元素が遷移金属元素である場合、中程度の温度(以下にさらに説明する)において所望の化合物を結晶形態で堆積できることが分かった。本開示に関連して、「遷移金属」は「周期表の3族〜12族である周期表のd−ブロックの任意の元素、及びf−ブロックのランタニド及びアクチニド系列中の任意の元素(「内部遷移金属」とも呼ばれる)」を意味する。大きさ及び重量がより小さいために原子番号72以下の遷移金属の関心が特に高く、これらは、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ルテチウム、及びハフニウムであり、特にコバルト、ニッケル、マンガン、鉄、バナジウム、モリブデン、チタン、銅、及び亜鉛であり、電極として意図される材料に使用される。しかし、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、及びそれ以上のより重い遷移金属が排除されるものではない。
【0056】
さらに本開示に関連して、用語「非晶質」は、「結晶性ではない固体」を意味し、すなわちその格子中に長い範囲の秩序を有さないことを意味する。本発明の方法によると、化合物が堆積される1種類以上の成分元素がガラス形成元素である場合に、本発明の基板温度において所望の化合物を非晶質形態で堆積できることが分かった。ガラス形成元素の例としては、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)、ヒ素(As)、及びアンチモン(Sb)が挙げられる(Varshneya, A. K.,Fundamentals of Inorganic Glasses, Academic Press, page 33)。
【0057】
図1は、本発明の一実施形態の方法の実施に好適な一例の装置10の概略図を示している。堆積は真空システム12中で行われ、これは超高真空システムであってよい。所望の材料(堆積される薄膜層の意図する目的によって決まる)の基板14が真空システム12中に搭載され、ヒータ16を用いて室温より高温まで加熱される。温度については以下に詳細に議論する。真空システム中には複数の蒸発源も存在し、1つの蒸発源は、所望の薄膜化合物のそれぞれの中の各成分元素のものである。第1蒸発源20は、酸素プラズマ源などの原子状酸素源を含む。第2蒸発源22はリチウム蒸気源を含む。これらは結晶性及び非晶質の両方の化合物の両方に使用される。リチウム含有酸化物又は酸窒化物の場合、第3蒸発源24はガラス形成元素の蒸発源を含み、一方、第4蒸発源26は所望の化合物の任意のさらなる成分元素の供給源を含む。
【0058】
リチウム含有遷移金属酸化物の場合、第5蒸発源28は遷移金属元素の蒸発源を含む。第6蒸発源30は、所望の遷移金属酸化物化合物の成分元素によって決定されるさらなる遷移金属元素の供給源を含むことができる。次に、いずれの層の場合も、任意の数の他の蒸発源(32、34、及び36など、想像線で示される)を、目的の化合物材料中に含まれる元素数に依存して、場合により含むことができる。例えば、非晶質化合物が酸窒化物化合物である場合、発源の1つが窒素源であってよい。あるいは、酸素がプラズマ源から供給される場合、窒素をプラズマ源に導入して混合窒素酸素プラズマを生成することができる。
【0059】
各蒸発源の性質は、それが供給する元素に依存し、供給速度又は流束にわたって必要な制御量にも依存する。例えば、特に酸素蒸発源の場合、供給源はプラズマ源であってよい。プラズマ源は、プラズマ相酸素、すなわち酸素原子、ラジカル、及びイオンの流束を供給する。供給源は、例えば高周波(RF)プラズマ源であってよい。高酸化状態の元素を含む化合物を堆積する場合に、原子状酸素が有利である。あるいは酸素はオゾン源を用いて供給することができる。酸窒化物化合物が形成される場合、又は遷移金属酸化物が窒素を含有する場合には、RFプラズマ源などのプラズマ源を用いて窒素成分蒸気を供給することもできる。
【0060】
電子ビーム蒸発器及びクヌーセンセル(K−セル)は蒸発源の別の例であり、これらは低い分圧の材料に適している。いずれの場合も、材料をるつぼの中に維持し、加熱することで、材料の流束が発生する。クヌーセンセルではるつぼの周囲に一連の加熱フィラメントが使用され、一方、電子ビーム蒸発器では、高エネルギー電子ビームを材料上に向けるために磁石を使用することによって加熱が行われる。
【0061】
別の例の蒸発源は、噴散セル及びクラッキング源である。しかしながら、本発明の実施形態はクラッキングの必要性が全くなく、従ってこのような蒸発源の使用に固有の複雑性は回避される。さらに別の蒸発源は当業者には明らかであろう。
【0062】
堆積プロセス中、最初に第1薄膜層38が堆積される。層が薄膜セルの一部である場合、第1層38は、セルのカソードとして意図される結晶性リチウム含有遷移金属酸化物の層であってよい。これを実現するために、リチウム含有遷移金属酸化物中の各成分元素の制御された流束が、それぞれの蒸発源20、22、28、及び場合により30〜36から、加熱された基板14上に放出され、それによって種々の元素が共堆積される。これらの元素は基板14上で反応して、結晶性リチウム含有遷移金属酸化物の薄膜層38を形成する。
【0063】
次に、第2薄膜層40が堆積される。電池の例では、第2層は、セルの電解質として意図される非晶質リチウム含有酸化物又は酸窒化物の層であってよい。これを実現するために、基板14が第1層38の堆積に使用したものと同一又は類似の温度(以下にさらに議論する)まで加熱され、リチウム含有酸化物又は酸窒化物中の各成分元素の制御された流束が、それぞれの蒸発源20、22、24、及び場合により26及び/又は32〜36から、加熱された基板14上に放出され、それによって種々の元素が共堆積される。これらの元素は基板上で反応して、結晶性リチウム含有遷移金属酸化物の薄膜層38の上に、非晶質リチウム含有酸化物又は酸窒化物の薄膜層40を形成する。
【0064】
ある実施形態によると、第1層及び第2層は、別の構成及び順序で堆積することができ、例えば非晶質材料を1番目に堆積し、続いて結晶性材料を2番目に堆積することができる。これらの層は、一方が他方の上にあってよく、又は横に並んでもよい。さらに、必要に応じて別の薄膜層を加えることもできる。電池の場合、前述のような電解質層の上にアノード層を堆積することができる。必要な元素の適切な蒸発源が真空システム12中に含まれるのであれば、前述の方法を用いて1つ以上の層をin situで堆積することができる。あるいは、従来の周知の堆積技術を使用することができる。また、記載の結晶層及び非晶質層が蒸発源から堆積される前に、先に堆積された層が基板14の上に既に存在する場合がある。
【0065】
薄膜構造の所望の構成によるが、堆積されるときに各層を規定するために1つ以上のマスクの使用が望ましい場合がある。取り扱いに好都合となるように、第1層の堆積後に基板を冷却することができ、それによってその層に使用したマスクを第2層に必要なマスクと交換することができる。別の実施形態において、マスクを交換するときに、堆積温度又は堆積温度範囲に基板を維持することが好ましい場合があり、これによってより速くより効率的となる場合がある。
【0066】
本発明によると、2つの層の化合物を形成するための成分元素の反応は、基板上に堆積する前の蒸気相中ではなく、基板表面(又は前の層の表面)上で起こる。理論によって束縛しようと望むものではないが、蒸気形態の各成分元素は、加熱された基板表面に衝突して付着し、そこで各元素の原子は次に表面上で移動し、それによって互いと反応して酸化物又は酸窒化物化合物を形成することができると考えられる。
【0067】
真空中でプロセスを行うことで、それぞれの供給源から真空中を移動する蒸気相粒子の平均自由行程(別の粒子に衝突するまでに移動する平均距離)が確実に長くなり、それによって基板上に堆積する前に粒子間で衝突する確率が最小限となる。従って、有利には、衝突せずに粒子が基板に到達する確率を増加させるために、供給源から基板までの距離が平均自由行程未満となるように配置され、それによって蒸気相の相互作用が回避される。従って、成分元素の反応は、加熱された基板表面に限定され、薄膜化合物材料の品質が向上する。
【0068】
本発明の利点の1つは、元素から直接各化合物の成分を堆積することで、成分元素の堆積速度によって化合物組成を直接制御することができることである。各元素の流束は、それぞれの蒸発源を適切に操作することによって独立に制御することができ、それにより、必要に応じて、堆積される化合物の化学組成を厳密な要求に従って調整することができる。従って、堆積される化合物の化学量論の直接制御は、流束の制御、従って各成分元素の堆積速度の制御によって可能となる。スパッタリング及びパルスレーザー堆積などの従来の堆積技術では、より軽い元素が優先的に失われる問題が生じることがあり、そのため最終化合物中の元素の比率の制御がより困難になる。
【0069】
また、成分元素からの直接の堆積では、スパッタリングターゲット又は前駆体の必要性がなくなり、追加の元素を直接組み込むことができ、新しい堆積ターゲットを作製する必要がない。さらに、表面に損傷がなく平滑で緻密な膜の堆積が可能となる。前述の例などの蒸発源からは、スパッタリングによって生じるよりも低いエネルギーの粒子が生成され、このより低いエネルギーによって、堆積される薄膜のクラスター形成が防止され、表面粗さが減少し、このことはパルスレーザー堆積の場合にも問題となっている。
【0070】
重要なことには、本発明によって、結晶性リチウムリッチ遷移金属酸化物の直接堆積が可能となる。結晶性の特徴によって、これらの化合物は、薄膜電池中の電極、特にカソードとしての使用に好適となる。バルク及び薄膜サンプルの両方の場合の従来の合成条件下では、材料を結晶化させるために、通常は堆積後アニールステップが必要となり、これによってプロセスが複雑になり、また非晶質を維持する必要がある任意の既に堆積された材料には適合しない。従って本発明はリチウム系薄膜カソードの製造技術の提供に有益である。これに加えて、本発明は、結晶性リチウム含有遷移金属酸化物と同じ条件下で非晶質リチウムリッチ化合物の形成がさらに可能である。非晶質の性質のため、これらの化合物は、薄膜電池中の電解質としての使用に好適となる。バルク及び薄膜サンプルの両方の場合の従来の合成条件下では、これらの化合物は結晶化することが知られており、そのためそれらの電解質としての性能が損なわれる。従って本発明はリチウム系薄膜電解質の製造技術の提供に有益である。同じ条件下で、同じ元素源の一部から、結晶性カソード材料及び非晶質電解質材料の両方が形成されることで、電池などの層状薄膜構造の製造を簡略化し改善するための非常に魅力的な技術が得られる。これら2つの層は同じ装置中で逐次堆積することができ、それらの成分に必要となるさらなるプロセスステップは存在しない。
【0071】
本発明の重要な特徴は、基板を加熱することであり、2つの異なる層(結晶性及び非晶質)を同一又は同様の基板温度で次々に直接堆積できることである。これによって層の積層プロセスが簡略化されるだけでなく、結晶化のためのカソード材料のアニールが不要であり、非晶質の特徴を維持するために電解材料の加熱が回避されるため、加熱に関する問題が解消され得る。
【0072】
室温の基板上への構成元素の直接堆積による非晶質リン含有薄膜材料の合成を示している本発明者らの以前の研究(国際公開第2013/011326号、国際公開第2013/011327号)は、その技術が、別の材料、例えばリチウムリッチガラスの場合でも可能となり得ると示唆していた。対象となる候補の1つは、非晶質形態の場合に電解質として好適であるため、ホウケイ酸リチウムであった。しかしながら、リン酸塩の場合の周知の方法をホウケイ酸リチウムの成分元素で使用すると、所望の薄膜の形成に失敗した。国際公開第2013/011326号及び国際公開第2013/011327号に記載の条件下では、それらの成分元素は予想される方法では基板上で反応せず、必要な化合物が生成しない。原子状酸素を分子酸素で置き換えることによる不十分な解決法が見出され、これによって室温で所望の非晶質ホウケイ酸リチウムが形成されたが、この非晶質材料は、別の電池製造及び処理ステップで使用されるより高い温度において、又は、電池が高温で使用される場合に結晶化する。後の温度サイクル中に、積層した膜に亀裂が生じる危険性も存在する。分子酸素の存在下で高温で堆積したサンプルは、必要な相の形成に失敗した。また、カソードとして意図とされる材料は非晶質材料としてのみ生成され、結晶性カソード材料を得るために350℃〜750℃の範囲内の温度の別個のアニールステップが必要であった。
【0073】
高温における非晶質から結晶性への状態変化はよく知られており、非晶質材料を加熱することによって結晶性材料を製造するためのアニールプロセスにおいて意図的に使用される。従って、非晶質の性質を維持することが材料に必要な場合、環境中の高温を回避すべきことが従来理解されている。
【0074】
従って、加熱した基板上に直接蒸気相の成分元素を堆積することによって、非晶質リチウム含有酸化物及び酸窒化物のサンプルを首尾良く製造できることは、驚くべき予期せぬ結果である。加熱によって、堆積された化合物が少なくとも部分的に結晶性となると予想されるが、本発明によると、このようなことは起こらない。1種類以上の成分元素がガラス形成元素である場合に、基板を約180℃以上に加熱するステップは、成分元素が基板表面上で首尾良く反応して化合物を形成するが、化合物の結晶化は引き起こさないための必要条件となることが分かった。有用な性質を有する安定で良好な品質の非晶質化合物が形成される。
【0075】
結晶材料が必要であり、従来技術により非晶質材料にアニールを行われる場合、通常は非常に高い温度が使用され、別個の追加のステップが加わることで結晶材料の製造の複雑性が増す。代替法の1つとして、堆積中に基板を加熱することによって、場合により結晶化を促進できるが、この場合も非常に高い温度が使用される。例えば、結晶性LiNi
0.5Mn
1.5O
4(LMNO)薄膜は、550℃〜750℃の基板温度でPLDを用いて堆積されたが、続いて同じ温度で1時間のアニールが依然として必要であった(Wang et al. Electrochimica Acta 102 (2013) 416-422)。
【0076】
従って、さらに驚くべきことに、中程度に加熱した基板上に直接蒸気相の成分元素を堆積することによって、結晶性リチウム含有遷移金属酸化物のサンプルを首尾良く製造することができる。これに関連して「中程度」は、約150℃〜350℃の温度範囲として定義される。これらの温度は、アニールによって十分な品質の結晶化を行うために従来使用される温度よりもはるかに低く、また、別の技術による堆積中に結晶化を促進するために使用されているとこれまで報告されてきた温度よりもはるかに低い。リチウム、酸素、及び1種類以上の遷移金属を含む成分元素を提供するステップと、基板を約150℃〜350℃まで加熱するステップとは、基板表面上で首尾良く反応させ、直接結晶形態で化合物を形成するための必要条件となることが分かった。有用な性質を有する安定で良好な品質の結晶性化合物が形成される。
【0077】
従って、本発明者らは、予想される温度よりも高温で非晶質材料が生成されること、及び、予想される温度よりも低温で結晶材料が形成されることの2つの予期せぬ結果を得ている。これらの結果はそれ自体が重要であるが、2つの材料の温度範囲が適合し重なり合うことが特に利点となる。従って、同じ製造手順中に同じ装置を使用して結晶材料の層及び非晶質材料の層が同じ基板上に直接堆積され、同時に層状薄膜構造及び非晶質材料の両方に対して悪影響が生じる高温が回避される興味深い配置が可能となる。
【0078】
実験結果
これより本発明者らは、記載の積層方法を使用して直接成分元素の蒸着源から加熱された基板に結晶材料及び非晶質材料が首尾良く製造されることを実証する一連の実験結果を示す。カソード及び電解質として首尾良く使用するための所望の性質を得ることが可能なことを示すための種々の材料単独の例を示しており、さらに上首尾の電池動作を示す測定値が得られる電池構造中に堆積された材料の層の例を示している。
【0079】
非晶質材料
ホウケイ酸リチウム
非晶質形態で良好な電解質材料となる、リチウム含有酸化物化合物の一例としてホウケイ酸リチウム(Li
4SiO
4・Li
3BO
3)を検討する。本発明の実施形態により、この材料は、成分元素のリチウム、酸素、及び2種類のガラス形成元素のホウ素及びケイ素から形成される。ある範囲の基板温度において、前述の実施形態に適合するこれらの成分元素の蒸着を使用して、ホウケイ酸リチウムの数種類のサンプルを製造し、ラマン分光法を用いて特性決定を行って、それらの構造及び性質を求めた。堆積は、以前の文献(Guerin, S. and Hayden, B. E., Journal of Combinatorial Chemistry 8, 2006, pages 66-73)に記載されている物理蒸着(PVD)システム中で行った。基板温度を除けば、すべてのサンプルは原子状酸素源として酸素プラズマ源を用いて同一条件下で堆積した。酸化物材料、ケイ酸リチウム及びホウ酸リチウムは、ケイ素及びホウ素の両方の最高酸化状態(それぞれ4+及び3+)が必要であり、従って、分子酸素よりも原子状酸素を使用することでO
2を2Oに分裂させるために必要な解離ステップが除去され、材料Li
4SiO
4及びLi
3BO
3に必要な最高酸化状態までケイ素及びホウ素を酸化する高反応性種が得られる。リチウムはクヌーセンセル源から堆積した。ケイ素及びホウ素の両方は電子銃(E−Gun)源から堆積した。
【0080】
非晶質状態が材料の所望の形態であり、イオン伝導度の低下の原因となる材料の結晶化が加熱によって生じると予想されたため、最初の研究は加熱せずに(室温、基板温度は29℃となる)行った。しかしながら、室温で最高流量の原子状酸素を用いて行った堆積でさえも、目的の材料は得られなかった。必要な化学反応が起こらないために、ホウケイ酸リチウムが基板上に形成されなかった。
【0081】
驚くべきことに、次に、堆積中に基板を加熱すると、非晶質ホウケイ酸リチウムが形成され、その結果、必要な構造を有し、電解質としての使用に好適な高いイオン伝導度を示す材料が得られることが分かった。次に堆積中の異なる基板温度の影響を調べた。ラマンスペクトル測定によって、堆積温度の関数としてのケイ酸塩部分及びホウ酸塩部分の監視が可能となり、薄膜の組成を求めることができた。
【0082】
表1は、これらの研究の結果をまとめており、ここでホウケイ酸リチウムはLi−B−Si−O三元系と見なされる。29℃〜150℃の温度で堆積したサンプル中にはB−O結合及びSi−O結合が観察されず、ホウケイ酸リチウムは形成されなかったことを示している。200℃〜275℃で堆積した材料は、所望のケイ酸塩部分及びホウ酸部分(Si−O及びB−O)を示すことが確認された。275℃では、この高温でリチウムが損失するために、組成(種々の成分元素:リチウム、酸素、ホウ素、及びケイ素の比率)のわずかな変化が観察された。
【0084】
表1の結果は、酸素プラズマ源を使用する場合、150℃以下の基板温度ではホウケイ酸リチウム薄膜の形成に失敗し、一方、200℃以上の基板温度ではホウケイ酸リチウムを形成可能なことを示している。これら及びその他の測定から、本発明者らは、約180℃以上の温度までの基板の加熱が、必要な化学反応が基板表面上で起こることができ、それによって所望の非晶質化合物が形成されるのに十分であると結論付けた。上限温度に関して、この例で供給源の調節を行わない場合、リチウムが損失するため、基板温度が約275℃を超えるまで上昇させることは望ましくない。しかしながら、金属元素は、独立した供給源を使用するため、リチウム源の比率を増加させることで、275℃を超える温度で正しい組成を有する材料を堆積することができる。温度の上限は、結晶化と同時にイオン伝導度の低下が起こる温度である。最高約350℃の基板温度が実現可能であり、その理由はこれによって結晶化が回避され、同時に、供給源の調節によってリチウムの損失を依然として補償できるからである。180℃〜350℃の温度範囲は、すべてのリチウムを含有しガラス形成元素を含有する酸化物及び酸窒化物化合物に対して適用できると予想され、このため本発明によって、これらの材料の非晶質サンプルを製造するための信頼性があり単純な方法が提供される。しかしながら、結晶性リチウム含有金属酸化物化合物は、この範囲の低い部分の温度で首尾良く堆積でき(以下にさらに議論する)、そのため、薄膜電池を製造する場合、必要に応じてより高い温度は回避することができる。
【0085】
図2は、室温(29℃)及び225℃で堆積したLi
0.78B
0.11Si
0.11(1原子%)のラマンスペクトルを示しており、波数に対する強度としてプロットしている。線40は29℃におけるスペクトルを示しており、線42は225℃におけるスペクトルを示している。これらから、室温で堆積した材料は目的の部分を含まない(目的の領域にバンドが観察されない)ことが分かる。225℃で堆積した材料は対象のホウ酸塩部分及びケイ酸塩部分の両方に帰属できるバンドを示している。
【0086】
さらに、29℃及び225℃で堆積した材料に対してインピーダンス測定を行った。29℃で堆積した材料のイオン伝導度は測定できなかったが、これはその材料がイオン伝導度を全く示さなかったからである。これは、ケイ酸塩部分及びホウ酸塩部分の形成が無視できる程度であることと一致する。対照的に、225℃で堆積した材料は、明確なイオン伝導過程を示し、2×10
−6Scm
−1の伝導度値を示した。このレベルの伝導度が観察されたことは、目的の材料のホウケイ酸リチウムが高温で生成したこと、及び堆積中の材料の加熱による結晶化が起こらなかったことの両方を裏付けている。材料が失透すると、イオン伝導度は数桁小さくなる。この材料のX線回折から、結晶化が起こらなかったことが確認された。
【0087】
従って、リチウム含有酸化物化合物の非晶質薄膜を加熱した基板上に形成できるという予期せぬ結果が得られる。
【0088】
非晶質ホウケイ酸リチウムのさらなる特性決定
記載されるように、ホウケイ酸リチウム薄膜が225℃などの高温で形成された。加熱によって結晶化が起こるという認識に基づく予想とは逆に、これらの薄膜は非晶質であることが観察された。
【0089】
図3は、ホウケイ酸リチウムの結晶構造を調べるために行ったX線回折測定の結果を示している。このX線回折プロットは、ホウケイ酸リチウムに起因する明確なピークを示していないことが分かる。むしろ、示されたピークは、ホウケイ酸リチウム薄膜を支持するSi/SiO
2/TiO
2/Pt基板中の材料に起因する。
図3は、Pt及びTiO
2の参照パターン(それぞれ「!」及び「*」が付けられている)を含み、観察されたピークが薄膜ではなく基板に起因することが示されている。ホウケイ酸リチウムに起因するピークが全くないことは、堆積した材料が非晶質であることを示している。
【0090】
ホウケイ酸リチウムサンプルをさらに試験するために、イオン伝導度を求めるために室温でインピーダンス測定を行った。
【0091】
図4は、225℃の基板温度で堆積したホウケイ酸リチウムのサンプルのインピーダンススペクトルとしてインピーダンス測定結果を示している。この膜の化学組成はLi
0.77B
0.18Si
0.05であった。これらの測定から、イオン伝導度は3.2×10
−6Scm
−1と求められた。このため、この材料はリチウムイオン電池中の電解質としての使用に好適となり、この値は、現在最も一般的に使用される薄膜電解質材料のLiPONのイオン伝導度(3×10
−6Scm
−1)と均等である。
【0092】
窒素ドープホウケイ酸リチウム
上記のホウケイ酸リチウムの製造を、その汎用性、及び別のリチウム含有酸化物及び酸窒化物化合物の製造への適用可能性を示すために修正した。酸素プラズマ源へのガス供給に窒素を導入して、混合酸素窒素流束を供給することによって、窒素ドープホウケイ酸リチウムを製造した。リチウム、ホウ素、及びケイ素は前述のように供給し、基板温度は225℃とした。非ドープホウケイ酸リチウムで示したものと同様の基板温度範囲を窒素ドープ材料にも適用でき、すなわち約180℃〜約350℃を適用でき、約180℃〜約275℃のより狭い範囲の場合に、例えばリチウムの損失を調節する必要なしに、単純な方法で高品質の材料が生成されると思われる。
【0093】
図5は、得られた窒素ドープホウケイ酸リチウム薄膜の測定X線回折プロットを示している。グラフ上のピーク(「!」が付けられている)は、AlOPt基板中の白金に帰属する。別のピークがないことは、サンプルが非晶質であり結晶構造がないことを示している。
【0094】
図6は、Li
0.78B
0.06Si
0.16の組成を有した窒素ドープホウケイ酸リチウム薄膜のインピーダンススペクトルを示している。この測定から、イオン伝導度は7.76×10
−6Scm
−1であると求められる。これらの結果は、このプロセスの汎用性を示しており、それによって非晶質ホウケイ酸リチウムを窒素で首尾良く容易にドープできる。このドーピングによって、化合物イオン伝導度の3.2×10
−6Scm
−1から7.76×10
−6Scm
−1までの明らかな改善が示されている。これによって、電解質材料LiPONに関して前述したものをはるかに超えるまで材料の性能が改善され、従って固体電池の性能を向上させるための単純で効果的な手段が得られる。
【0095】
結晶性材料
例として、前述のように加熱した基板上に元素を直接堆積することによって、結晶性リチウムマンガン酸化物及び結晶性リチウムマンガンニッケル酸化物の薄膜を製造した。
【0096】
特に記載しない限り、堆積は、Guerin, S; Hayden, B. E., J. Comb. Chem., 2006, 8, 66及び国際公開第2005/035820号に記載の配置を用いた超高真空(UHV)システム中で行った。膜は、TiO
2(10nm)及び白金(100nm)で被覆されたサファイア基板(AlOPt、Mir Enterprises製)の上に堆積した。
【0097】
カソードとして意図されるリチウムマンガン酸化物及びリチウムマンガンニッケル酸化物(それぞれLMO及びLMNO)の薄膜は、リチウム、マンガン、ニッケル、及び酸素の供給源から合成した。マンガン及びリチウムはクヌーセンセルから堆積した。ニッケルは電子ビーム蒸発器から堆積し、酸素はプラズマ原子源によって供給した。
【0098】
25℃〜450℃の基板温度で一連のLMOのサンプルを堆積した。使用する基板温度を変化させることによって、結晶化の閾値を求めることができ、得られる材料の結晶化は温度を上昇させると向上した。
【0099】
図7は、異なる温度で堆積したLMOのサンプルのX線回折測定の結果を示している。線44は室温(25℃)で堆積したLMOを表し、回折パターン中に明確なピークは示されていない。このことは、室温で堆積した場合に予想される非晶質材料と一致する。基板温度を150℃(線46)まで上昇させると結晶化が起こり、これは、このサンプルで記録された回折パターンが、LiMn
2O
4(00−035−0782)の111反射と一致する約18.6°において小さいピークを示すことから分かる。200℃未満の温度でのLMO薄膜の堆積がX線で非晶質材料であることを示す従来技術(Jayanth et al. Appl Nanosci (2012) 2:401-407)を考慮すると、わずか150℃の基板温度においてX線回折で結晶化が観察されることは驚くべきことである。基板温度をさらに250℃(線48)まで上昇させると、111反射のピーク強度の増加で示されるように、さらなる結晶化の向上が確認される。350℃で堆積したLMO(線50)は、この角度でピーク強度のさらなる増加を示している。
【0100】
これらのピークの半値全幅(FWHM)を求めることで、改善された結晶化へのさらなる洞察が得られる。より大きい微結晶によって秩序化が向上するため、微結晶が成長するとFWHMが減少する。150℃で堆積したLMOは0.882°のFWHMを示す。これはシェラーの式によっておおよその微結晶サイズに変換することができ、この場合は約9nmである。堆積温度を250℃まで上昇させると、FWHMが0.583°に減少し、これに伴って微結晶サイズが14nmに増加する。温度を350℃までさらに上昇させると、FWHMは0.471°となり、微結晶サイズは17nmとなる。
【0101】
従って、これらの適度な基板温度で良好な品質の構造化された結晶性材料が得られる。これは、ポストアニールの必要性がなくなること、及び、アニールに必要な温度よりも製造温度が低下することの両方によって、周知の技術よりも大きい改善を示している。
【0102】
詳細に前述した技術を用いて種々の条件下で、リチウムマンガンニッケル酸化物(LMNO)サンプルを作製した。この場合も、ごく適度な基板温度で、結晶性材料が首尾良く直接堆積された。使用する基板温度を変更することによって、得られる材料の結晶化を向上させることができる。
【0103】
図8は、異なる温度で堆積したLMNOのサンプルのX線回折測定の結果を示している。線52で示される室温(25℃)で堆積した材料は、回折パターン中に明確なピークは示さず、この温度で予想される非晶質材料と一致している。温度を150℃(線54)まで上昇させると、結晶化が向上し、このサンプルで記録された回折パターンは、LiMn
1.5Ni
0.5O
4(04−015−5905)の111反射と一致する約18.6°において小さいピークを示す。基板温度を250℃(線56)までさらに上昇させると、111反射のピーク強度がより大きくなることで示されるように、結晶化のさらなる向上が確認される。350℃(線58)で堆積した材料は、この角度でのピーク強度のさらなる増加を示し、450℃(線60)で堆積したLMNOは、この角度のピーク強度のさらなる増加を示している。
【0104】
これらのピークの半値全幅(FWHM)を求めることで、改善された結晶化へのさらなる洞察が得られる。より大きい微結晶によって秩序化が向上するため、微結晶が成長するとFWHMが減少する。150℃で堆積したLMNOは0.841°のFWHMを示す。これはシェラーの式によっておおよその微結晶サイズに変換することができ、この場合は約10nmである。堆積温度を250℃まで上昇させると、FWHMが0.805°にわずかに減少し、これより微結晶サイズは約10nmとなる。温度を350℃にさらに上昇させると、FWHMは0.511°となり、微結晶サイズは16nmとなる。450℃で行った堆積は、0.447°のFWHM、及び18nmの微結晶サイズを示す。
【0105】
従って、LMOの場合と同様に、良好な品質の構造化された結晶性LMNOを、これらの中程度の温度の基板で得ることができる。実際には、LMNOのX線回折測定によって、ポストアニールを全く必要とせず、イオン源などの二次供給源にエネルギーを供給することなく、従来示された温度よりもはるかに低い中程度の温度で結晶性LMNOを堆積できることが明確に実証される。比較として、ゾルゲルサンプルを用いて結晶性LMNOを製造するために必要なアニールプロセスでは750℃における3回のアニール及び800℃におけるさらに1回のアニールが必要であることが以前に示されている(Zhong, Q., et al., J. Electrochem. Soc., (1997), 144(1), 205-213)。
【0106】
結晶性のLMO及びLMNOの表面の特性決定
本発明の実施形態により堆積したLMO及びLMNOのサンプルの表面形態を、別の方法で堆積したものと比較して、改善点を確認した。
【0107】
図9(a)〜
図9(e)は、30K倍の倍率の走査型電子顕微鏡(SEM)画像の形式で結果の一部を示している。
図9(e)及び
図9(d)は、それぞれ225℃及び350℃の基板温度で本発明により堆積したLMO薄膜を示しており、
図4(a)、
図4(b)及び
図4(c)は、それぞれ200℃、300℃、及び400℃の基板温度でRFスパッタリングを用いて堆積したLMO膜を示している(Jayanth et al. Appl Nanosci (2012) 2:401-407)。本発明により225℃及び350℃の両方において堆積したLMOは、200℃及び300℃においてRFスパッタリングによって堆積したものよりも大きく減少した粗さを示すことに留意されたい。本発明により350℃で堆積したLMO膜上には、直径約100nmの非常に少数の特徴のみが観察され、225℃で堆積した膜上ではさらにその数が少ない。これらのサンプルは、スパッタリングによって堆積した膜よりもはるかに平滑であり、例えば300℃で堆積した膜からは約1μmの直径の特徴を有することが観察できる。スパッタリングした膜上に観察される特徴は、本発明の実施形態により堆積した膜上で観察される特徴よりも全体的に1桁大きく、このことは、これらの薄膜をデバイス中に組み込む場合に大きい差となる。例えば、この向上した膜品質は、膜の複数の薄層を互いの上に堆積する場合に重要となる。固体電池中のカソードとしてLMOを使用する場合、表面の突出部が電解質中及び電解質を貫通して延在することによって、LMOと上にあるアノードとの間で直接接触するのを防止するために、固体電解質の好適な厚さの層をLMO上に堆積することが必要となる。本発明の使用によって実現できるようにLMO層の平滑性が増加すると、より薄い電解質層の使用が可能となり、その結果、より効率的な固体電池が得られ、その電池がより安価でより効率的に製造される。
【0108】
図10(a)及び
図10(b)は、LMNOサンプルのSEM画像の比較を示している。
図10(a)は、本発明により350℃で堆積したLMNOを示しており、
図10(b)は、マグネトロンスパッタリングによって堆積し、空気中700℃(上の画像)及び空気中750°(下の画像)のポストアニールを行ったLMOを示している(Baggetto et al., J. Power Sources, (2012), 211, 108-118)。これらの画像から分かるように、本発明により製造したサンプルは、スパッタリングによって堆積しポストアニールを行った従来技術の膜表面よりもはるかに平滑で緻密な膜表面を示している。
【0109】
機能する電池の実証
非ドープ及びドープされたホウケイ酸リチウムの非晶質の性質、並びに、それに伴う高いイオン伝導度は、これらの薄膜が薄膜電池中の電解質としての使用に適していることを示している。同様に、結晶性のLMO及びLMNOはカソードとしての使用に適している。従って、記載の蒸着プロセスを用いて種々の薄膜半電池及び電池を作製し、すべての機能を示すために特性決定を行った。
【0110】
図11は、典型的な構造の一例のリチウムイオン薄膜電池又はセル70の概略断面図を示している。このような電池は、1つ以上の堆積又は他の製造プロセスによって通常は形成される一連の層を含む。本発明の蒸着方法は、良好な品質の電極及び電解質材料を同一又は類似の温度の基板上に直接堆積させることができるため、この目的にとって有利である。この例の電池70では、基板72が種々の層を支持する。基板から始めた順序では、これらはカソード集電体74、カソード76、電解質78、アノード80、及びアノード集電体82である。これらの層の上には適切な保護封入層84が形成される。別の例では、これらの層は反対の順序で配列することができ、例外は封入層であり、この層が含まれる場合、常に最後の層となる。
【0111】
実験用電池の結果:ホウケイ酸リチウム電解質及びリチウムマンガン酸化物カソード
セルの動作を示すための実験においてカソード、電解質及びアノードの層を含むサンプルを製造した。第1例において、薄膜電池の3つの構成膜(カソード、電解質、及びアノード)の堆積は、超高真空システム中で、TiO
2(10nm)及びPt(100nm)で被覆されたサファイア基板(AlOPt基板、Mir Enterprises製)の上に行った。カソードの場合、リチウムマンガン酸化物(LMO)の薄膜をリチウム、マンガン及び酸素の供給源から合成した。マンガン及びリチウムはクヌーセンセルから堆積し、酸素はプラズマ原子源から供給した。堆積は7620秒間行い、300nmの均一な厚さの薄膜が得られた。本発明の実施形態により結晶性材料を得るために、基板温度は350℃で維持した。しかしながら、これは単なる例であり、前述のように、種々の成分元素の別の供給源、ならびに別の温度及び別の時間を用いて結晶性LMOカソード層を堆積することができる。LMO堆積の終了後、リチウム及びマンガンの供給源のシャッターを閉じて、これらの元素の流束を阻止した。360秒かけて基板を350℃から225℃まで冷却し、その時間の間、原子状酸素の流束への曝露は続けた。
【0112】
電解質は、ホウケイ酸リチウムの薄膜であり、これも本発明の実施形態により堆積した。これはリチウム、ホウ素、ケイ素、及び酸素の供給源を用いて合成した。カソードの場合と同様に、リチウムはクヌーセンセルから堆積し、プラズマ源によって原子状酸素を供給した。ホウ素及びケイ素は電子ビーム蒸発器から堆積した。基板は電解質の堆積中225℃に維持し、これを14400秒間続けて、厚さ800nmの薄膜を得た。しかしながら、このプロセスは単なる例であり、前述のように、種々の成分元素の別の供給源、ならびに別の温度及び別の時間を使用して非晶質ホウケイ酸リチウム電解質層を堆積することができる。
【0113】
この後、サンプルを真空から取り出さずに、物理的マスクをサンプルの前に配置して、1×1mmの別個の電池を規定した。これには600秒未満を要した。次に、クヌーセンセルのスズ源及び原子状酸素プラズマ源を用いて180秒にわたって酸化スズアノードを堆積した。得られたアノード層の厚さは9.6nmと推定された(較正測定に基づく)。最後に、電子ビーム蒸発器と1.5×15mmの開口部を有する第2マスクとを用いて、100nmのニッケル層を上部集電体として加え、この場合もサンプルは真空中に維持した。こうして、LMO/LBSiO/SnO
2の薄膜電池を作製した。
【0114】
X線回折測定によって、本発明により予想されるように、350℃で堆積したLMOカソードが結晶性であり、225℃で堆積したホウケイ酸リチウム電解質が非晶質であることを確認した。
【0115】
この例において、カソード、電解質、及びアノードの層のそれぞれは、加熱した基板上への成分元素の蒸着を用いて作製したが、アノード層は、好ましいあらゆる好都合で適切な薄膜製造方法によって作製することができることに留意されたい。好ましいように別のアノード材料を使用し作製することもできる。また、層は異なる順序で堆積することができ、例えば、アノードを最初に、次に電解質、次にカソードを堆積することができる。
【0116】
セルの動作を試験するために、グローブボックス中にピンプローブによって端子を作製した。定電流定電圧(CC/CV)計測器を用いて充電及び放電の測定を行った。
【0117】
図12及び
図13はこれらの測定の結果を示している。
図8は、第1充電/放電サイクルの時間に対する電圧及び電流のプロットを示している。曲線86はセル電位を示しており、曲線88は電流を示している。
図10は、最初の50サイクルサイクルの放電容量の測定を示している。セルは、最初の10サイクルで容量の最大値を示し、20サイクル後に容量は安定した。サイクル2で0.077mAhの最大放電容量が観察された(25.4mAhcm
−2μm
−1に相当)。これはアノードが限定された系に基づいて理論容量の83%に相当する。20サイクル後、容量0.015mAh(4.9mAhcm
−2μm
−1)まで低下することが観察され、これはアノードが限定された系に基づいて理論容量の33%に相当する。容量はこのレベルで安定化することが確認され、さらに29サイクル後、容量は0.016mAhとなることが観察された。
【0118】
これは、カソード層、電解質層、及びアノード層のすべてが成分元素から直接薄膜層として堆積された完全に機能する薄膜電池の最初に報告された実例であると考えられる。
【0119】
実験用電池の結果:225℃で堆積したLMOカソード
225℃の基板温度で堆積され、液体電解質半電池又は固体全電池のいずれかに使用したLiMn
2O
4薄膜のサイクリックボルタンメトリー及び定電流/定電圧(CC/CV)測定によって、本発明の実施形態により作製した膜は、電気化学的に活性であり、文献に示されるものと均等な容量を有することが示された。
【0120】
薄膜セル中で機能させるための本発明により積層した薄膜の能力をさらに試験するために、225℃の基板温度を用いて、別個の供給源から適切な比率でリチウム、マンガン、及び酸素を共堆積することによって、リチウムマンガン酸化物(LMO)の半電池を作製した。使用した条件は、試験サンプルの堆積によって決定され、その組成は、レーザーアブレーション誘導結合質量分析(ICPMS)を用いて測定し、リチウム源及びマンガン源の比率は、所望の組成を堆積するための最適条件を求めるために相応に変更した。厚さ300nmのLMOを白金パッドの2.25mm
2の領域上に堆積し、電解質としてのEC:DMC=1:1中の1MのLiPF
6及び対極としてのリチウム金属を有する半電池中に組み込んだ。
【0121】
図14は、Li/Li
+に対して4.3〜3.0Vの電位ウィンドウで0.1〜25mV/s(0.2〜45C)の範囲の種々の速度におけるLMO薄膜の放電曲線を示している。
【0122】
図15は、Li/Li
+に対して5.0〜3.0Vの電位ウィンドウで0.1〜25mV/s(0.2〜45C)の種々の速度で放電させたLMO膜の測定容量を示している。
【0123】
これらの測定から、本発明者らは、LMO材料の容量は、1Cの充電率及び放電率で放電容量が60mAhg
−1又は29μAhcm
−2μm
−1であることを確認している。充電及び放電の時間はCレートで表され、ここで1Cレートは1時間での完全な充電/放電に相当し;「n」Cレートでは1/n時間でセルの充電/放電が行われる。一般に、電池は、かなり遅いレートを使用して充電及び放電が行われ、レートが増加すると利用可能な容量が低下する。実際、「ほとんどの商業用セルは、10Cから出発するレートで充電すると、それらの貯蔵エネルギーの数パーセントしか使用されない」(Braun, P.V., Current Opinion in Solid State Materials Science, 16, 4 (2012), 186-198)。これらの結果は、類似の基板温度において別の方法を使用して堆積したLMOよりも改善される。RFスパッタリングによって200℃で堆積したLMO薄膜は、放電容量が24μAhcm
−2μm
−1であることが示されており(Jayanth et al. Appl Nanosci (2012) 2:401-407)、PLDによって200℃で堆積したLMOは放電容量が約18μAhcm
−2μm
−1であることが示されている(Tang et al. J. Solid State Chemistry 179 (2006) 3831-3838)。0.1〜150mV/sの掃引速度(0.2〜270CのCレートと均等)を用いて3V及び5Vの電圧制限の間でサイクリックボルタンメトリーを用いてサイクルを行うことで、堆積したLMOの速度能力を調べるための実験を行った。結果を表2に示しており、Li/Li
+に対して4.3〜3.0Vの電位ウィンドウで0.1〜25mV/s(0.2〜45C)の範囲の種々の速度におけるLiMn
2O
4薄膜の掃引速度の関数としての容量をまとめている。
【0125】
従って、本発明の実施形態による方法によって堆積したLMOは、
図15に示されるように、良好なサイクル能力を示し、高いレートでサイクルを行った場合に容量の低下がごく中程度であり、35サイクルにわたってわずかな容量損失を示す。サイクル1〜19の平均容量は58.73mAhg
−1になると確認された。さらなる15サイクルの後、45Cまでのレートで、PVD LMOの容量は、56.84mAhg
−1(3.2%の損失)までのわずかな低下が観察された。高レート(最大270C)でサイクルを行うと、PVDで堆積したLMOは、わずかに中程度の容量の低下を示す(表2参照)。これらの低下は、別の手段によって堆積したLMOで観察される余地もはるかに小さい。例えば、Chen et al(Thin Solid Films 544 (2013) 182-185)は高レート性能LMOを主張している。この場合、LMOは、45Cでサイクルを行った場合にその初期容量(0.2Cにおける)の最大でわずか22%を示す。直接比較すると、本発明によって堆積したLMOは、その容量の30%を維持する。高レートでLMOの容量を利用することができるため、この材料は、高出力の短いバーストが必要な用途に有用である。
【0126】
半電池のこれらの結果は、本発明の実施形態による非晶質電解質層を堆積したLMOカソードを含む電池によって良好な性能が得られることを示している。
【0127】
図16は、本発明により225℃の基板温度で堆積したLMOカソードを含む固体セルに対するCC/CV実験の放電曲線を示している。セルは、Li/Li
+に対して4.0〜2.5Vの電位ウィンドウで1〜45Cの範囲の種々のレートで放電した。セルは、面積が1mm
2であり、超高真空中の物理蒸着によって全体を堆積し、LMOカソード及びホウケイ酸リチウム電解質は本発明の実施形態により堆積した。リチウム、マンガン、及び酸素の供給源から、10nmのTiO
2及び100nmのPtで被覆されたサファイア基板の上に、300nmのLMOカソードを直接堆積した。カソード堆積の間、基板温度を225℃に維持し、in-situ熱電対によって監視した。225℃において、リチウム、ホウ素、ケイ素、及び酸素の供給源から、ホウケイ酸リチウムを含む固体電解質を直接堆積して、800nmの厚さを得た。同様に225℃で、スズ及び酸素からSnO
2アノードを直接堆積して、10nmの厚さを得た。これらの堆積は、次々に同じ真空チャンバー中で行った。SnO
2層の完成後、サンプルを室温(17℃)まで冷却した後、ニッケル集電体をPVDによって堆積した。
【0128】
従って、カソード層、電解質層、及びアノード層の3つすべてが、各層の堆積に同じ基板温度を使用してそれらの成分元素の蒸発源から直接堆積され、まさに等温での電池製造を示している。このことは、異なる層に異なる温度で異なる堆積技術が使用され、典型的にはアニールなどの別の処理ステップが必要な従来の電池製造と比較して非常に有利である。
【0129】
図16から分かるように、1Cでサイクルを行った場合のこれらのセルの初期容量は0.1μAhであり、これは19μAhcm
−2μm
−1に相当し、これは、10μAhcm
−2μm
−1未満の放電容量が平衡セルに関して報告されているLMO電極及びSnO
2電極を有し液体電解質を使用するセルの従来の実証(Park, Y. J. et al., J. Power Sources, 88, (2000), 250-254)と比較して顕著な改善を示している。結果は、セルが高レートで機能できることを示しており、最大45Cのレートで実証される。高レートは、電力の短いバーストが必要となる高出力用途に必要である。
【0130】
図17は、1つのセルの50サイクルにわたる放電容量のプロットの形式でこれらのセルのさらなる実験結果を示している。セルは、4.0〜2.5Vで1Cのレートで充電及び放電を行った。初期容量損失は最初の20サイクルの間に観察されたが、この後、容量保持は適度に良好であり、これは再充電可能なセルが得られたことを示している。
【0131】
実験用電池の結果:350℃で堆積したLMNOカソード
LMOと同じ方法で、本発明の実施形態により350℃の基板温度で堆積したLMNOが電気化学的に活性であることが示された。
【0132】
350℃の基板温度で適切な比率のリチウム、マンガン、ニッケル、及び酸素を共堆積するために、本発明の一実施形態による方法を使用してリチウムマンガンニッケル酸化物(LMNO)の半電池を作製した。ケイ素/窒化ケイ素基板及び白金パッドで構成される電気化学的アレイをこの場合の基板として使用した。EC:DMC=1:1中の1MのLiPF
6を電解質として、リチウム金属を対極として使用して半電池を完成した。
【0133】
図18は、このセルに対して行った第1サイクルのサイクリックボルタンメトリーの結果を示している。これらの測定は、3〜5Vで1mVs
−1の掃引速度で行い、これは1.8Cの充電率と均等であった。充電中4.1V及び4.7Vにおいて明確にピークを見ることができ、これは膜中にMn
3+及びNi
2+の両方が存在することを示している。これより、組成がLiMn
1.5Ni
0.5O
4−δ(式中のδは0〜0.5である)の酸素欠乏LMNOが生成されたと推定することができる。
【0134】
図19は、対応する放電曲線を示している。これより、この半電池の液体電解質中のLiに対するLMNOの放電容量が53mAhg
−1、であることが分かり、これはLiMn
1.5Ni
0.5O
4の理論容量の36%である。
【0135】
さらに、本発明の一実施形態により350℃の基板温度で堆積したLMNOカソードを有する固体全電池を作製し試験を行った。このセルは、全体的に物理蒸着によって堆積した。LMNOカソードは、リチウム、マンガン、ニッケル、及び酸素の供給源から、10nmのTiO
2及び100nmの白金で被覆されたサファイア基板上に直接堆積し、堆積中は350℃で維持し、in-situ熱電対によって監視した。リチウム、ホウ素、ケイ素及び酸素の供給源から225℃においてホウケイ酸リチウムの固体電解質を直接堆積した。カソードと電解質との堆積の間は、基板を制御可能に冷却した。同様に225℃においてスズ及び酸素の蒸発源からSnO
2アノードを直接堆積した。これらの堆積は、次々に同じ真空チャンバー中で行った。SnO
2層の完成後、サンプルを室温(17℃)まで冷却した後、ニッケル集電体を堆積した(PVDによる)。
【0136】
従って、カソード層、電解質層及びアノード層の3つすべては、堆積プロセス全体にわたってわずか125℃の基板温度範囲を使用して、それらの成分元素の蒸発源から直接堆積した。これは、ほぼ等温の電池製造を示しており、この場合も従来の薄膜電池製造技術よりも非常に有利である。各層の基板温度のわずかな調節によって、堆積を各材料に最適化することができ、同時に、依然として1つの製造プロセスを電池全体に使用することができる。
【0137】
図20は、グローブボックス中5.0V〜3.0Vでサイクルを行った場合の、このセルのCC/CV実験の第1サイクルの充電及び放電曲線を示している。この場合、初期放電容量はカソードの理論容量の62%の高さであり、40.9μAhcm
−2μm
−1に相当する。この例ではLMNOは350℃で堆積したが、150℃の低い基板温度でこの方法を使用して堆積したLMNOのXRDは膜が結晶性であることを示している。従って150℃以上の温度で堆積したLMNOを含む薄膜セルを首尾良く製造できると推測することができる。
【0138】
実験結果:熱的に適合する材料の積層の実例
前述のように、薄膜電池を製造する場合の問題は、非晶質電解質などの一部の構成層は高温に曝露すべきではない場合の、カソード層を結晶化させるためのアニールなどの高温を伴うステップの管理方法である。1つのセル中では、場合によりこれは、適切な順序で層を堆積することによって、例えばカソードの上に電解質を堆積する前にカソード層の堆積及びアニールを行うことによって、管理することができる。しかし、熱への曝露を回避する必要があるすべての層を堆積する前に、熱処理を必要とするすべての層を堆積できる可能性は、通常は層の数とともに減少するため、この解決法はデバイス中の層の数が増加するとあまり実際的ではなくなる。例えば、第2及び任意の引き続くセルのカソードは、第1及び任意の他の前のセルの電解質の上に堆積する必要があるため、2つ以上のセルの積層は実現できない。従って、従来の堆積技術を用いた複数の層状薄膜構造の製造は非常に困難であり、場合によっては不可能である。
【0139】
本発明は、この問題の解決法を提供する。種々の結晶性化合物及び非晶質化合物の両方の層の等温又は準等温の堆積を行えることで、任意の層の製造が任意の前の層の性質及び品質に影響を与えることなく多くの層の積層が可能となる。多くの多層構造及びデバイスの製造が可能となる。
【0140】
これを実証するために、セルのアレイを堆積した。前述のカソード/電解質/アノード/集電体構造に加えて、さらなるセルのアレイを上に堆積した。この場合、下にあるセルの集電体層の上に、第2セルのカソード層を直接堆積した。これによって、第1セルの上に第2セルを有する材料のスタックが得られた。この構造は、蒸発源からの種々の化合物の成分元素が、基板又は先に堆積した層の上に直接堆積され、層の間で温度にある程度小さい差が存在する、前述の物理蒸着方法を用いて全体的に製造された。下にある1つの第1セルの上に第2セルのアレイを規定する構造を形成するために、マスキング方法を使用した。下にあるセルの場合、第1LMOカソードは、リチウム、マンガン、及び酸素の供給源から、カソード集電体としての10nmのTiO
2及び100nmの白金で被覆されたサファイア基板上に直接堆積した。堆積中、基板温度を350℃に維持し、in-situ熱電対によって監視した。次に、225℃の基板温度で、リチウム、ホウ素、ケイ素、及び酸素の供給源から、ホウケイ酸リチウムを含む固体電解質を直接堆積した。同様に基板を225℃に維持してスズ及び酸素の供給源からSnO
2アノードを直接堆積した。SnO
2層の完成後、サンプルを室温(17℃)まで冷却した後、ニッケル集電体を堆積した(PVDによる)。この後、マスクにより規定された位置合わせに従って、第2セルのアレイを堆積した。それぞれの場合で、350℃の基板温度でリチウム、マンガン、及び酸素の供給源から第1セルのニッケル集電体の上に第2LMOカソード直接堆積した。次に、225℃の基板温度で、リチウム、ホウ素、ケイ素、及び酸素の供給源を用いて元素から第2ホウケイ酸リチウム固体電解質層を直接堆積した。同様に225℃で、スズ及び酸素からSnO
2アノードを直接堆積し、サンプルを室温(17℃)まで冷却した後、上部ニッケル集電体を堆積した(PVDによる)。このように、上部セルは下部セルと同じ方法で堆積され、上部セルの堆積プロセスは、準等温手順中で小さい温度範囲のため、下部セルの層に悪影響を与えることがなかった。これらの堆積は、次々に同じ真空チャンバー中で行われた。
【0141】
図21(a)は、この2セルスタックのSEM画像を示しており、種々の層を見ることができる。この画像は、右上にサファイア基板D0が示されており、その上に2つのセルが堆積されている。白金集電体層はD1で示されている。この層は、厚さ100nmであり、基板処理の一部として堆積された。LMOを含む第1カソード層はD2で示されており、厚さは314nmである。ホウケイ酸リチウム(LBSO)を含む第1固体電解質層はD4で示されており、厚さは418nmである。酸化スズ層アノードは薄すぎるためSEMでは明確ではなく(約8nm)、そのため記号は付けていない。ニッケル集電体及び同様にLMOである第2カソード層はD3で示されている。同様にLBSOである第2固体電解質層はD5で示されており、最後にSnO
2層(第2アノード)及び第2ニッケル集電体層を合わせたものがD6で示されている。
【0142】
図21(b)は、種々の層をより詳細に示すためのSEM画像の概略図を示している。種々の層が、それらの対応する材料で表示されている。
【0143】
これらのSEM画像は、明確で十分に規定された層構造を示しており、本発明の一実施形態による方法を用いて、層が顕著に破壊されることなく積層セルの堆積を実現することができることを示している。これによって、多層及び積層デバイスの単純な製造の可能性が開ける。留意すべき重要な特徴の1つは、層の間に明確な界面が存在することであり、これは本発明の堆積方法で得られる平滑な表面に起因する。これによって、層全体で表面の特徴が突出しないため、より薄い層を使用でき、より小さいデバイスが得られ、材料コストが削減され、堆積及び全体のデバイス製造の時間が短縮される。
【0144】
図22は、
図21に示したセルスタックに関して収集したX線回折データのプロットを示している。これらの結果は、非晶質電解質を有する先に存在するセルの上に350℃で2時間でLMOカソードを堆積することを含む互いに積層される逐次堆積によって、固体電解質の結晶化が起こらないことを示している。観察された結晶性成分(グラフ中のピークで示される)は、白金(基板中)、ニッケル(集電体)、Al
2O
3(サファイア基板)、LiMn
2O
4(結晶性カソード)、及び炭酸リチウムLi
2CO
3によるもののみである。種々のピークを示すためにグラフ上に参照線が含まれ、それらは以下の通りである:白金(00−004−0802)、記号「^」;ニッケル(00−004−0850)、記号「+」;サファイア(Al
2O
3)(00−010−0173);LiMn
2O
4(00−035−0782)、記号「*」;及びLi
2CO
3(00−022−1141)記号「!」。結晶炭酸リチウムは、固体電解質が空気に曝露したときに生じることが確認され、従って、このデータは、上にあるアノード及び集電体によって保護されていない固体電解質の領域に起因する。
【0145】
この2スタックの例ではLMOを350℃で堆積した。しかしながら、150℃の低い基板温度で堆積したLMOのX線回折測定では、膜が結晶性であることを示しており(
図7参照)、そのため150℃以上の温度で堆積したLMOを含む薄膜セルは首尾良くサイクルを行うことができると推測できる。同様に、LMNOに関して前述した結果は、同様の範囲の基板温度にわたって結晶化を示し、そのためこの材料もカソードに使用できる。
【0146】
図23は、種々の層の配列をより良く示すための2セルスタックの概略側面図を示している。スタック90は、下部セル90Aと、下部セル90Aの上に互いに隣接する上部セル90Bのアレイと、を含み、集電体層94を形成する白金被覆を有するサファイア基板92の上にすべてが配置される。下部セル90A中には、LMOカソード94、LBSO電解質98及びSnO
2アノード100が存在する。各上部セル90Bは、ニッケル集電体102、LMOカソード104、LBSO電解質108、SnO
2アノード108及びニッケル集電体110を含む。
【0147】
図24は、7Vまで充電した後の2スタックセルの放電曲線(実線曲線)の、6Vまで充電した1つのセルの放電曲線(点線曲線)との比較を示している。これらの測定から、1つのセルの場合の、LMO/SnO
2化学反応に対応する放電電位はすべて3.75V未満であり、6Vまでの電位にセルを充電する場合でさえも4Vを超える容量は観察されないことが明確に分かる。セルを直列に接続すると、1つのセルの電位を加えただけ電位が増加することが知られている。セルが直列に接続された2スタックセルの放電曲線は、1つのセルと比較して電位が増加し、かなりの割合で4Vを超える電位で供給される容量を有することを示しており、これによって両方のセルが全体の電位に寄与していることが分かる。
【0148】
温度
上記の種々の結果から、非晶質リチウム含有酸化物及び酸窒化物化合物と、結晶性リチウム含有遷移金属化合物との両方を堆積可能な、約180℃〜350℃の約170℃にわたる基板温度範囲が存在することが分かる。従って、この温度範囲内で作業することで、温度調節をほとんど又は全く行わずに、1つの製造プロセスで異なる材料の複数の層を堆積させることができる。すべての層を1つの温度で作業することを「等温」と呼ぶことができ、一方、約170℃以下に及ぶ温度範囲内での作業は「準等温」と見なすことができる。本発明のプロセスを、従来技術を用いてこれらの材料の層を形成するために通常必要な温度範囲と比較すると、この用語は妥当な記述である。非晶質化合物は一般に室温(すなわち17℃〜25℃)で調製され、一方、アニール及び高温基板上への堆積のいずれか又は両方によって結晶性化合物を製造するための温度は通常少なくとも500℃である。従って、典型的には475℃以上の周知の範囲と比較すると、本発明による170℃の範囲は「準等温」である。
【0149】
当然ながら、170℃よりも狭い温度範囲を使用することができ、この範囲はプロセス全体を最適化するために選択される。例えば、25℃又は50℃の狭い温度範囲では、成分の加熱に対する要求が少なくなり、異なる層の堆積の間に基板をそれぞれの必要な温度に到達させるために必要な時間が短くなる。当然ながらすべての層で一定温度を使用する場合にもこれらの利点が得られる。別の状況では、例えばエネルギーを節約するために非晶質材料の温度を低く維持しながら、結晶サイズを増加させるために結晶性材料により高い温度を使用するために、75℃、100℃、又は150℃などのより広い範囲が好ましい場合がある。例えば、前述の例の一部は、350℃で堆積されたカソード及び225℃で堆積された電解質を含み、範囲は75℃となる。種々の範囲を別の上限温度及び下限温度に適用することもできる。
【0150】
さらなる材料
これまで、非晶質ホウケイ酸リチウム及び窒素ドープホウケイ酸リチウム並びに結晶性LMO及びLMNOの製造を詳細に説明してきた。しかしながら、本発明はこれらの材料に限定されるものではなく、加熱した基板上に成分元素を直接堆積するプロセスは、別のリチウム含有酸化物及び酸窒化物化合物の製造にも適用可能である。さらなる例としては、ケイ酸リチウム及びホウ酸リチウム並びにゲルマニウム、アルミニウム、ヒ素及びアンチモンなどの別のガラス形成元素を含む化合物が挙げられる。二元酸化物の化学的性質は三元酸化物/酸窒化物ガラスの性質と非常に類似していると推測されるため、本発明による方法によって非晶質酸化物及び酸窒化物を調製可能であると推測できる。同様に、加熱された基板上に成分元素を直接堆積する方法は、結晶形態の別のリチウム含有遷移金属酸化物の製造にも適用できる。前述のマンガン及びマンガン+ニッケルの実施形態を、任意の遷移金属又は金属で置き換えることができる。遷移金属の化学的性質は、十分類似しており、目的の任意のリチウム含有遷移金属酸化物で、本発明の方法を用いて中程度の基板温度で結晶性材料が堆積されると推定することができると、その族にわたって予測することができる。特定の用途の特に対象となる材料は、カソードとして使用するためのLiCoO
2、LiNiO
2、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2(NMC)、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2(NCA)及びLiV
3O
8並びにアノードとして使用するためのLi
4Ti
5O
12である。しかしながら、これらの材料を他の用途に使用することができ、別のリチウム含有遷移金属酸化物が排除されるものではない。
【0151】
基板
本明細書に示される実験結果は、チタン及び白金で被覆されたサファイア基板、ならびにチタン及び白金で被覆されたシリコン基板の上に堆積された薄膜に関する。しかしながら、好ましいのであれば他の基板を使用することができる。別の好適な例としては、石英、シリカ、ガラス、サファイア、及び箔を含む金属の基板が挙げられるが、当業者であれば別の基板材料も好適となることを理解されよう。基板に対する要求は、適切な堆積表面が得られること、及び、必要な加熱に耐えられることであり、その他の点では、堆積された化合物が使用される用途を基準として必要に応じて基板材料を選択することができる。
【0152】
また、本発明の実施形態は、基板表面上、及び、基板上に先に堆積された又は他の方法で形成された1つ以上の層上に、成分元素を直接堆積することに同様に適用可能である。これは、他に何もない加熱された基板上に膜を堆積し、サンプル電池を製造する場合にカソード層の上に非晶質電解質層を堆積し、積層セルを示す場合に複数の層を逐次堆積した前述の実験結果から明らかである。従って、本明細書における、「基板」、「基板上への堆積」、「基板上への共堆積」、及び同様のものに対する言及は、「1つ以上の先に形成された層を支持する基板」、「基板上に先に形成された1つ又は複数の層上への堆積」、「基板上に先に形成された1つ又は複数の層上への共堆積」などにも同様に適用される。本発明は、基板と、堆積される任意の特定の非晶質又は結晶層との間に任意の別の層が存在してもしなくても、同様に適用される。
【0153】
用途
優れたイオン伝導度、平滑な表面形態、並びに、良好な充電及び放電容量などの性質も併せ持つ、非晶質及び結晶性の両方の薄膜材料が形成される本発明の方法の能力のために、それらの材料は薄膜電池中の電解質及び電極としての使用に好適となり、このことは主要な用途で推測される。本発明の方法は、センサ、光起電力セル及び集積回路などのデバイス中の電池の構成要素の製造に容易に適用することができ、1つのセル及びスタックセルの両方を提供することができる。しかしながら、これらの材料は電池の構成要素としての使用に限定されるものではなく、本発明の方法は、あらゆる他の用途の非晶質リチウム含有酸化物又は酸窒化物化合物、ならびに結晶性リチウム含有遷移金属酸化物の層の堆積に使用することができる。可能性のある例としては、エレクトロクロミックデバイス中のセンサ、リチウムセパレータ、界面改質剤、及びイオン伝導体が挙げられる。
【0154】
また、層状配列以外の隣接配列で、本発明により薄層を堆積することができる。
【0155】
参考文献
[1]Tang, S.B., et al., J. Solid State Chem., 179(12), (2006), 3831-3838
[2]Julien, C.M. and G.A. Nazri, Chapter 4. Materials for electrolyte: Thin Films, Solid State Batteries: Materials Design and Optimization (1994)
[3]Thornton, J.A. and J.E. Greene, Sputter Deposition Processes, Handbook of Deposition Technologies for films and coatings, R.F. Bunshah, Editor 1994, Noyes Publications
[4]Wang et al. Electrochimica Acta 102 (2013) 416-422
[5]国際公開第2013/011326号
[6]国際公開第2013/011327号
[7]Singh et al. J. Power Sources 97-98 (2001), 826-831
[8]Jayanth et al. Appl Nanosci. (2012) 2:401-407
[9]Baggetto et al., J Power Sources 211 (2012) 108-118
[10]Zhong, Q., et al., J. Electrochem. Soc., (1997), 144(1), 205-213
[11]Bates et al. Synthesis, Crystal Structure, and Ionic Conductivity of a Polycrystalline Lithium Phosphorus Oxynitride with the γ-Li3PO4 Structure. Journal of Solid State Chemistry 1995, 115, (2), 313-323
[12]国際公開第2001/73883号
[13]欧州特許第1,305,838号
[14]Julien, C. M.; Nazri, G. A., Chapter 1. Design and Optimisation of Solid State Batteries. In Solid State Batteries: Materials Design and Optimization, 1994
[15]Bates, J. B.; Gruzalski, G. R.; Dudney, N. J.; Luck, C. F.; Yu, X., Rechargeable Thin Film Lithium Batteries. Oak Ridge National Lab and Solid State Ionics 1993
[16]米国特許第5,338,625号
[17]Tatsumisago, M.; Machida, N.; Minami, T., Mixed Anion Effect in Conductivity of Rapidly Quenched Li
4SiO
4-Li
3BO
3 Glasses. Yogyo-Kyokai-Shi 1987, 95, (2), 197-201
[18]Machida, N.; Tatsumisago, M.; Minami, T., Preparation of amorphous films in the systems Li
2O
2 and Li
2O-B
2O
3-SiO
2by RF-sputtering and their ionic conductivity. Yogyo-Kyokai-Shi 1987, 95, (1), 135-7
[19]Varshneya, A. K.,Fundamentals of Inorganic Glasses, Academic Press, page 33
[20]Guerin, S. and Hayden, B. E., Journal of Combinatorial Chemistry 8, 2006, pages 66-73
[21]国際公開第2005/035820号
[22]Park, Y. J. et al., J. Power Sources, 88, (2000), 250-254