特許第6371408号(P6371408)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6371408平衡電位推定方法、平衡電位推定装置、濃度推定装置、プログラム、媒体及び血糖推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371408
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】平衡電位推定方法、平衡電位推定装置、濃度推定装置、プログラム、媒体及び血糖推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20180730BHJP
【FI】
   G01N27/416 302M
   G01N27/416 386G
【請求項の数】24
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-559024(P2016-559024)
(86)(22)【出願日】2015年11月6日
(86)【国際出願番号】JP2015081363
(87)【国際公開番号】WO2016076232
(87)【国際公開日】20160519
【審査請求日】2017年5月11日
(31)【優先権主張番号】特願2014-229614(P2014-229614)
(32)【優先日】2014年11月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】綾部 雅朗
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 健
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−148138(JP,A)
【文献】 特開平02−040551(JP,A)
【文献】 特開昭58−052556(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/025044(WO,A1)
【文献】 BOBACKA J, LEWENSTAM A, IVASKA A,Equilibrium potential of potentiometric ion sensors under steady-state current by using current-reve,J Electroanal Chem,スイス,2001年 8月10日,Vol.509 No.1,Page.27-30
【文献】 藤嶋昭 他,電気化学測定法(上),日本,技報堂出版株式会社,1984年11月15日,145-148
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元物質を含有するサンプルと接触する電極に電圧を印加し、前記電圧を掃引する第1段階と、
前記電極に流れる電流を測定する第2段階と、
前記電流の積算値が基準範囲内になったときに、前記電圧の掃引幅、前記掃引幅に対応する前記電流の変化量、または前記掃引幅に対応する前記積算値の変化量が許容範囲内であるか否かを判定し、前記許容範囲外であると判定した場合に前の掃引段階での掃引方向と逆方向に前記電圧を掃引前記許容範囲内であると判定した場合に前記電圧の掃引を終了することを決定する第3段階と、
前記電圧の掃引を終了すると決定したときに、前記許容範囲内の前記電圧の値を酸化還元物質の平衡電位と推定する第4段階と、
前記電圧を掃引すると決定したときに、前の掃引段階での掃引方向と逆方向に前記電圧を掃引して、前記第1段階に処理を戻す第5段階と
を有する酸化還元物質の平衡電位推定方法。
【請求項2】
酸化還元物質を含有するサンプルと接触する電極に電圧を印加し、前記電圧を掃引する第1段階と、
前記電極に流れる電流を測定する第2段階と、
前記電流の積算値が基準範囲内になった場合、前記掃引の回数がN回未満(Nは2以上の自然)のときに、前の掃引段階での掃引方向と逆方向に前記電圧を掃引することを決定し、前記掃引の回数がN回のときに、前記電圧の掃引を終了することを決定する第3段階と、
前記電圧の掃引を終了すると決定したときに、前記電圧の値を酸化還元物質の平衡電位と推定する第4段階と、
前記電圧を掃引すると決定したときに、前の掃引段階での掃引方向と逆方向に前記電圧を掃引して、前記第1段階に処理を戻す第5段階と
を有する化還元物質の平衡電位推定方法。
【請求項3】
前記電圧の掃引幅、前記掃引幅に対応する前記電流の変化量、または前記掃引幅に対応する前記積算値の変化量を前記許容範囲内と判定するまで、前記第3段階と前記第5段階とを繰り返し実行する請求項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定方法。
【請求項4】
前記電流の積算値が前記基準範囲内になったときから、次に前記電流の積算値が前記基準範囲内になるまでに、前記電圧を掃引している時間が一定となるように、前記電圧の掃引速度を調整する請求項1からのいずれか一項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定方法。
【請求項5】
前記第5段階では、前の掃引段階での掃引速度よりも遅く前記電圧を掃引する請求項1からのいずれか一項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定方法。
【請求項6】
前記第5段階での掃引速度は、前の掃引段階での掃引速度の0.1倍から0.8倍の速度である請求項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定方法。
【請求項7】
前記第5段階での掃引速度は、前の掃引段階での掃引速度の0.2倍から0.7倍の速度である請求項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定方法。
【請求項8】
前記第5段階での掃引速度は、前の掃引段階での掃引速度の0.4倍から0.6倍の速度である請求項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定方法。
【請求項9】
前記第3段階では、前記積算値の符号が反転したときに、前記電圧の掃引を終了するかどうかを決定する
請求項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定方法。
【請求項10】
請求項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定方法における前記第1段階から前記第5段階と、
前記電圧値に基づいて、前記酸化還元物質の濃度を推定する第6段階と
を有する酸化還元物質の濃度推定方法。
【請求項11】
酸化還元物質を含有するサンプルと接触する電極に電圧を印加する電圧印加部と、
前記電極に流れる電流を測定する電流測定部と、
前記電圧を掃引するよう前記電圧印加部に指示するとともに、前記電流の積算値が基準範囲内になったときに、前記電圧の掃引幅、前記掃引幅に対応する前記電流の変化量、または前記掃引幅に対応する前記積算値の変化量が許容範囲内であるか否かを判定し、前記許容範囲外であると判定した場合に前の掃引段階での掃引方向と逆方向に前記電圧を掃引、前記電圧の掃引を終了することを決定する信号処理部と
を備え、
前記信号処理部は、
前記電圧の掃引を終了すると決定したときに、前記許容範囲内の前記電圧の値を酸化還元物質の平衡電位と推定し、前記電圧を掃引すると決定したときに、前の掃引方向と逆方向に前記電圧を掃引するよう前記電圧印加部に指示して、前記電圧の掃引を開始する
酸化還元物質の平衡電位推定装置。
【請求項12】
酸化還元物質を含有するサンプルと接触する電極に電圧を印加する電圧印加部と、
前記電極に流れる電流を測定する電流測定部と、
前記電圧を掃引するよう前記電圧印加部に指示するとともに、前記電流の積算値が基準範囲内になった場合、前記掃引の回数がN回未満(Nは2以上の自然)のときに、前の掃引段階での掃引方向と逆方向に前記電圧を掃引することを決定し、前記掃引の回数がN回のときに、前記電圧の掃引を終了することを決定する信号処理部と
を備え、
前記信号処理部は、
前記電圧の掃引を終了すると決定したときに、前記電圧の値を酸化還元物質の平衡電位と推定し、
前記電圧を掃引すると決定したときに、前の掃引段階での掃引方向と逆方向に前記電圧を掃引するよう前記電圧印加部に指示して、前記電圧の掃引を開始する
化還元物質の平衡電位推定装置。
【請求項13】
前記信号処理部は、
前記電圧の掃引幅、前記掃引幅に対応する前記電流の変化量、または前記掃引幅に対応する前記積算値の変化量が、前記許容範囲内となるまで、前の掃引方向と逆方向に前記電圧を掃引するよう前記電圧印加部に指示することを繰り返す
請求項11に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置。
【請求項14】
前記信号処理部は、
前記電流の積算値が前記基準範囲内になったときから、次に前記電流の積算値が前記基準範囲内になるまでに、前記電圧を掃引している時間が一定となるように、前記電圧の掃引速度を調整する
請求項11に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置。
【請求項15】
前記信号処理部は、
前記電圧の掃引幅が、前記許容範囲内でないときに、前の掃引速度よりも遅く前記電圧を掃引するよう前記電圧印加部に指示する
請求項11に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置。
【請求項16】
前記信号処理部は、
前記電圧の掃引幅が、前記許容範囲内でないときに、前の掃引速度の0.1倍から0.8倍の速度で前記電圧を掃引するよう前記電圧印加部に指示する
請求項15に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置。
【請求項17】
前記信号処理部は、
前記電圧の掃引幅が、前記許容範囲内でないときに、前の掃引速度の0.2倍から0.7倍の速度で前記電圧を掃引するよう前記電圧印加部に指示する
請求項16に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置。
【請求項18】
前記信号処理部は、
前記電圧の掃引幅が、前記許容範囲内でないときに、前の掃引速度の0.4倍から0.6倍の速度で前記電圧を掃引するよう前記電圧印加部に指示する
請求項17に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置。
【請求項19】
前記信号処理部は、
前記積算値の符号が反転したときに、前記電圧の掃引を終了するかどうかを決定する
請求項11から18のいずれか一項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置。
【請求項20】
請求項11から19のいずれか一項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置と、
前記電圧の値に基づいて、前記酸化還元物質の濃度を推定する推定部と
を備える酸化還元物質の濃度推定装置。
【請求項21】
コンピュータを、請求項11から19のいずれか一項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置における前記信号処理部として機能させるプログラム。
【請求項22】
コンピュータを、請求項20に記載の酸化還元物質の濃度推定装置における前記信号処理部及び前記推定部として機能させるプログラム。
【請求項23】
請求項21または22に記載のプログラムを有するコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項24】
請求項20に記載の酸化還元物質の濃度推定装置と、
前記電極と
を備える血糖推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平衡電位推定方法、平衡電位推定装置、濃度推定装置、プログラム、媒体及び血糖推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化還元物質の濃度を推定する濃度推定装置に関し、溶液に一定電圧を印加した場合に流れる電流値を測定する装置が知られている。従来の濃度推定装置は、測定した電流値の変化に基づいて、酸化還元物質の濃度を推定していた(例えば、特許文献1、2参照)。
特許文献1 特開2011−174943号公報
特許文献2 特開2013−217933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の濃度推定装置は、測定電流値が酸化還元物質の濃度だけでなく電極の面積や溶液の拡散係数などに応じても変化してしまうため、正確な濃度を推定することができない。また、これらの課題を解決するために、溶液の開回路電圧を測定し濃度を推定する方法も知られているが、溶液と電極が接するだけで酸化還元反応が起こってしまうため、溶液の濃度に応じた電位を正確に推定することができない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、酸化還元物質を含有するサンプルと接触する電極に電圧を印加し、電圧を掃引する第1段階と、電極に流れる電流を測定する第2段階と、電流の積算値が基準範囲内になったときに、前の掃引段階での掃引方向と逆方向に電圧を掃引するか、電圧の掃引を終了するかを決定する第3段階と、電圧の掃引を終了すると決定したときに、電圧の値を酸化還元物質の平衡電位と推定する第4段階と、電圧を掃引すると決定したときに、前の掃引段階での掃引方向と逆方向に電圧を掃引する第5段階とを有する酸化還元物質の平衡電位推定方法を提供する。
【0005】
本発明の第2の態様においては、酸化還元物質を含有するサンプルと接触する電極に電圧を印加する電圧印加部と、電極に流れる電流を測定する電流測定部と、電圧を掃引するよう電圧印加部に指示するとともに、電流の積算値が基準範囲内になったときに、前の掃引段階での掃引方向と逆方向に電圧を掃引するか、電圧の掃引を終了するかを決定する信号処理部とを備え、信号処理部は、電圧の掃引を終了すると決定したときに、電圧の値を酸化還元物質の平衡電位と推定し、電圧を掃引すると決定したときに、前の掃引方向と逆方向に電圧を掃引するよう電圧印加部に指示する酸化還元物質の平衡電位推定装置を提供する。
【0006】
本発明の第3の態様においては、第2の態様に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置と、電圧値に基づいて、酸化還元物質の濃度を推定する推定部とを備える酸化還元物質の濃度推定装置を提供する。
【0007】
本発明の第4の態様においては、コンピュータを、第2の態様に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置における信号処理部として機能させるプログラムを提供する。
【0008】
本発明の第5の態様においては、第4の態様に記載のプログラムを有するコンピュータ読み取り可能な媒体を提供する。
【0009】
本発明の第6の態様においては、第3の態様に記載の酸化還元物質の濃度推定装置と、電極とを備える血糖推定装置を提供する。
【0010】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】平衡電位推定装置100の構成の一例を示す。
図2】血糖推定装置300の構成の一例を示す。
図3】還元型メディエータの濃度勾配を示す。
図4】平衡電位を推定する方法の一例を示す。
図5図4の時間Bにおける還元型メディエータの濃度勾配を示す。
図6図4の時間Cにおける還元型メディエータの濃度勾配を示す。
図7図4の時間Dにおける還元型メディエータの濃度勾配を示す。
図8図4の時間Eにおける還元型メディエータの濃度勾配を示す。
図9図4の時間Fにおける還元型メディエータの濃度勾配を示す。
図10】平衡電位推定法に係るフローチャートの一例を示す。
図11】溶液の濃度勾配の掃引速度の減少率依存性を示す。
図12】掃引速度の減少率と平衡電位誤差(mV)の関係を示す。
図13】掃引速度の減少率と還元型メディエータの濃度勾配の関係を示す。
図14】推定終了後のメディエータ濃度比と濃度勾配の関係を示す。
図15】推定終了後のメディエータ濃度比と濃度勾配の関係を示す。
図16】推定終了後のメディエータ濃度比と濃度勾配の関係を示す。
図17】推定終了後のメディエータ濃度比と濃度勾配の関係を示す。
図18】従来技術である定電圧電流測定法を説明するための図である。
図19】本発明の実施形態に係るコンピュータ1900のハードウェア構成の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
図1は、平衡電位推定装置100の構成の一例を示す。平衡電位推定装置100は、電圧印加部20、電流測定部30、信号処理部40及び平衡電位推定部50を備える。平衡電位推定装置100は、酸化還元物質を含有するサンプル(溶液)と接触した電極10に接続し、溶液の平衡電位を推定する。本明細書において、単に溶液と称する場合、平衡電位の推定対象となる溶液を指す。
【0014】
電極10は、溶液に含まれる酸化還元物質と酸化還元反応し、電子の授受を行う。電子の授受は、電極10の表面で行われる。酸化還元物質とは、例えば、酸化型メディエータ及び還元型メディエータである。電子を放出したメディエータは酸化型メディエータとなり、電子を享受したメディエータは還元型メディエータとなる。
【0015】
電圧印加部20は、電極10に電圧を印加する。例えば、電極10に対する電圧の印加は、参照極と言われる基準電圧を印加する他の電極と共に行われる。電圧印加部20は、電極10に印加する電圧を掃引してもよい。掃引とは、電極10に印加する電圧を時間に対して変化させることを指す。掃引は、一定の速度で線形的に電圧を増大及び減少させることに限らず、任意の変化率で電圧を変化させることを含む。また、掃引は、非線形な電圧の変化や、離散的な値が連続する階段状の電圧の変化も含んでよい。
【0016】
電流測定部30は、電極10に流れる電流を測定する。電流測定部30は、測定した電流値を信号処理部40に送信する。
【0017】
信号処理部40は、電流測定部30が測定した電流の電流積算値を算出する。例えば、電流積算値とは、電圧印加部20が電極10に電圧を印加してから信号処理を行うまでに流れた電流の総和である。例えば、測定期間内において、電極10から溶液に流れ込む方向の電流の合計と、溶液から電極10に流れ出る方向の電流の合計が同じ場合、電流積算値は0になる。信号処理部40は、電流積算値が基準範囲内になったときに、次に電圧印加部20が電極10に印加する電圧の条件を決定する。ここでいう基準範囲は溶液に応じて任意に変更してもよい。基準範囲は、予め定められた値から正の許容誤差、負の許容誤差、または正負の許容誤差までの範囲であってよい。また、信号処理部40は、電流積算値が基準範囲内になったときに、電圧印加部20が電極10に印加した電圧が収束したか否かを判定する。この判定の結果、収束したと判定された場合掃引を終了する。この終了の判定の条件は電圧が収束したか否か以外にも、信号処理部40は、電圧の掃引幅に対応する電流の変化量が許容範囲内であるか否かを判定してもよい。電流の変化量が許容範囲内であるか否かの判定とは、電圧の掃引幅に対応して観測される電流値の絶対値や電流値のα乗(αは0より大きな実数、以下同じ)が一定の範囲内であるか否か、電流値の絶対値や電流値のβ乗(βは0より小さな実数、以下同じ)が一定の範囲外であるか否か、観測された電流の一掃引あたりの変化量が一定の範囲内であるか否かを判定することである。つまり、ここで言う判定とは、結果として、電流が許容範囲内に収まっているかどうかを判定することである。なお、本明細書において、基準範囲内になるとは、基準範囲の幅がゼロの場合にあっては、当該基準の値となることを含んでよい。
【0018】
また、信号処理部40は、電圧の掃引幅に対応する電流の積算値の変化量が許容範囲内であるか否かを判定してもよい。積算値の変化量が許容範囲内であるか否かの判定とは、電圧の掃引幅に対応して観測される電流の積算値の絶対値や積算値のα乗が一定の範囲内であるか否か、積算値の絶対値や積算値のβ乗が一定の範囲外であるか否か、積算値の一掃引あたりの変化量が一定の範囲内であるか否かを判定することである。つまり、ここで言う判定とは、結果として、積算値が許容範囲内に収まっているかどうかを判定することである。さらに、この終了の判定条件は、掃引を実施した回数が一定回数以上に達したか否か、測定開始時刻からの経過時間が一定時間以上に達したか否かのように掃引回数や測定時間に基づく条件を終了の判定条件にしてもよい。例えば、信号処理部40は、掃引の回数がN回未満(Nは自然数、以下同じ)の場合に、前の掃引段階での掃引方向と逆方向に電圧を掃引することを決定し、掃引の回数がN回の場合に、電圧の掃引を終了することを決定する。
【0019】
平衡電位推定部50は、信号処理部40の信号処理結果から溶液の平衡電位を推定する。平衡電位推定部50は、推定した平衡電位をそのままユーザーに出力してもよい。また、平衡電位推定部50は、推定した平衡電位から、酸化型メディエータ又は還元型メディエータの濃度を算出してもよい。
【0020】
図2は、血糖推定装置300の構成の一例を示す。血糖推定装置300は、電極10及び電極10に接続された濃度推定装置200を備える。
【0021】
血糖推定装置300は、血液内のグルコース(ブドウ糖)の濃度である血糖値を推定する。血糖推定装置300は、酸化還元物質が起こす電極10との酸化還元反応の反応量から、酸化還元物質の濃度を推定する装置の一例である。即ち、血糖推定装置300は、溶液に反応する酵素等を変更することにより、血糖値に限らず他の溶液の濃度を同様に推定できる。血糖推定装置300と同一の構成を有する装置は、タンパク質、アミノ酸、脂質などの生体物質量測定、PH、有害物質などの環境測定、及び食品検査等に用いることができる。
【0022】
濃度推定装置200は、平衡電位推定装置100及び濃度推定部60を備える。濃度推定部60は、平衡電位推定装置100が推定した平衡電位に基づいて、溶液の濃度を推定する。溶液の濃度とは、溶液中の酸化型メディエータ又は還元型メディエータの濃度であってよい。溶液の濃度は、ネルンストの式を用いて平衡電位から算出できる。ネルンストの式は以下のように表される。
【数1】
ここで、Eは平衡電位、Eは標準電極電位、Rは気体定数、Tは温度(K)、nは移動電子数、Fはファラデー定数、Coxは酸化型メディエータの濃度、CRedは還元型メディエータの濃度を示す。
【0023】
図3は、溶液中の還元型メディエータの濃度勾配を示す。濃度勾配とは、電極10からの距離に対する濃度の傾きである。縦軸は還元型メディエータ濃度を示し、横軸は電極10の表面からの距離を示す。本明細書において、電極10表面の濃度を表面濃度と称し、電極10表面から離れた位置における濃度をバルク濃度と称する。電極10表面から離れた位置とは、溶液の濃度が一定となる位置である。
【0024】
点線は、理想的な溶液の還元型メディエータ濃度勾配を示す。理想的な状態では、測定時に、溶液の還元型メディエータ濃度勾配が電極10からの距離によらず一定になる。一方、実線は、電極10が溶液に接触した場合の実際の濃度勾配を示す。実際の状態では、電極10と溶液の電気化学ポテンシャルの違いから酸化還元反応が起きる。これにより、実際の還元型メディエータの濃度勾配は、理想的な還元型メディエータの濃度勾配と異なる。
【0025】
ここで、平衡電位推定装置100が推定する平衡電位は電極10と溶液との界面における反応に基づくので、平衡電位推定装置100が実際に推定できるのは溶液の表面濃度に限られる。したがって、より正確に溶液の濃度を推定するためには、溶液の表面濃度を溶液のバルク濃度と同じにする必要がある。
【0026】
図4は、平衡電位を推定する方法の一例を示す。図4の(a)は、電圧印加部20が電極10に印加する電圧の時間変化を示す。図4の(b)は、電流測定部30が測定する電流の時間変化を示す。図4の(c)は、信号処理部40が算出した電流積算値の時間変化を示す。
【0027】
期間A−Bにおいて、電圧印加部20は、初期電圧から電圧を一定速度で減少する方向に掃引する。時間Aは、電圧印加部20が電極10に初期電圧を印加する時間である。本例の平衡電位推定法を用いれば、初期電圧をいずれの値にとっても平衡電位を推定できる。但し、初期電圧を溶液の特性から予測される平衡電位の近傍に設定すれば、推定が短時間で済む。
【0028】
期間A−Bにおいて、電流測定部30は、正の電流を検出し、その後、負の電流を検出する。正の電流とは電極10から溶液に流れ込む方向の電流を指し、負の電流とは正の電流と反対方向に流れる電流を指す。電流測定部30が正の電流を測定した場合、電極10表面では酸化反応が起こり、電流測定部30が負の電流を測定した場合、電極10表面では還元反応が起こっている。期間A−Bにおいて、電流積算値は、電流が正から負に切り替わるので、山なりの曲線を描く。時間Bは、信号処理部40が算出した電流積算値が0になる時間である。電流積算値が0になる時間は、印加電圧の掃引速度の折り返し地点となる。なお、本明細書において、掃引速度の折り返し地点から次の折り返し地点までの期間を1サイクルと称する。
【0029】
期間B−Cにおいて、電圧印加部20は、期間A−Bと掃引方向が逆方向の電圧を電極10に印加する。即ち、印加電圧は、溶液の平衡電位よりも小さい値から大きい値になる。本例の期間B−Cにおける掃引速度は、期間A−Bの掃引速度の半分に制御される。電流測定部30が測定する電流は、負の値から正の値になる。点Cは、信号処理部40が算出した電流積算値が再び0になる時間である。
【0030】
期間C−D及び期間D−Eでは、それぞれ期間A−B及び期間B−Cと同様のサイクルを繰り返す。これにより、時間Fでは、電圧印加部20が印加する電圧が収束する。収束した印加電圧を溶液の平衡電位と推定する。本例のサイクルは、印加電圧が収束して平衡電位が推定されるまで繰り返す。他の例では、予め定められた測定時間が経過するまでサイクルを繰り返してよい。
【0031】
本例の平衡電位推定法では、電流積算値が0になるように印加電圧の掃引を制御するので、溶液中に含まれる電子の総量が初期状態と同一に保たれる。つまり、初期状態から溶液の特性を大きく変化させることなく非破壊的な測定が可能である。非破壊的な測定が可能であるため、本例の平衡電位推定法で使用した溶液は、再び平衡電位の推定に使用することができる。
【0032】
図5は、図4の時間Bにおける還元型メディエータの濃度勾配を示す。縦軸は還元型メディエータ濃度を示し、横軸は電極10からの距離を示す。時間Bでは、電極10表面において、電極10に印加されている電圧に応じた濃度比になっている。時間Bで電極10に印加されている電圧は、バルク濃度の平衡電位より低いため、還元型メディエータの表面濃度がバルク濃度に比べて大きい。
【0033】
図6は、図4の時間Cにおける還元型メディエータの濃度勾配を示す。時間Cでは、電圧印加部20が電極10に印加する電圧と平衡電位との差が、時間Bの場合と比較して小さい。また、時間Cでは、電極10近傍において、還元型メディエータの濃度勾配が時間Bの場合よりも小さい。
【0034】
図7は、図4の時間Dにおける還元型メディエータの濃度勾配を示す。時間Dでは、電圧印加部20が電極10に印加する電圧と平衡電位との差が、時間Cの場合と比較して小さい。時間Dでは、電極10近傍において、還元型メディエータの濃度勾配が時間Cの場合よりも小さい。
【0035】
図8は、図4の時間Eにおける還元型メディエータの濃度勾配を示す。時間Eでは、電圧印加部20が電極10に印加する電圧と平衡電位との差が、時間Dの場合と比較して小さい。時間Eでは、電極10近傍において、還元型メディエータの濃度勾配が時間Dの場合よりも小さい。
【0036】
図9は、図4の時間Fにおける還元型メディエータの濃度勾配を示す。時間Fでは、還元型メディエータの表面濃度が、還元型メディエータのバルク濃度と等しい。即ち、電極10からの距離にかかわらず一定な還元型メディエータ濃度が得られている。
【0037】
以上の通り、本実施形態に係る平衡電位推定装置100は、電極10に印加する電圧を制御することにより、溶液の濃度勾配を解消する。これにより、平衡電位推定装置100は、溶液の平衡電位を正確に推定できる。
【0038】
図10は、平衡電位推定法に係るフローチャートの一例を示す。平衡電位推定装置100は、ステップS100からステップS110を実行することにより、平衡電位を推定する。
【0039】
ステップS100において、信号処理部40は、初期電圧、初期掃引速度、及び初期掃引方向を設定する。本実施形態に係る平衡電位推定法を用いれば、初期電圧、初期掃引速度、及び初期掃引方向を任意に設定すれば、平衡電位を推定できる。但し、初期電圧、初期掃引速度、及び初期掃引方向をより適切な値を設定することにより、平衡電位の推定に必要な時間を短縮できる。
【0040】
ステップS101において、電圧印加部20は、電極10に電圧を印加する。ステップS102において、電流測定部30は、電極10を流れる電流を測定する。
【0041】
ステップS103において、信号処理部40は、電流積算値を算出する。ステップS104において、信号処理部40は、電圧印加部20が印加電圧を減少させる方向に掃引しているか否かを判定する。印加電圧を減少させる方向に掃引している場合ステップS105に進み、印加電圧を増加させる方向に掃引している場合ステップS106に進む。
【0042】
ステップS105において、信号処理部40は、電流積算値が負か否かを判定する。電流積算値が負の場合ステップS107に進み、電流積算値が正の場合ステップS109に進む。一方、ステップS106において、信号処理部40は、電流積算値が正か否かを判定する。電流積算値が正の場合ステップS107に進み、電流積算値が負の場合ステップS109に進む。
【0043】
ステップS107において、信号処理部40は、印加電圧の変動が収束しているか否かを判定する。印加電圧の変動が収束しているか否かは、予め定められた電圧の掃引幅が許容範囲内であるか否かに基づいて決定される。印加電圧が収束していると判定された場合ステップS110に進み、印加電圧が収束していないと判定された場合ステップS108に進む。
【0044】
ステップS108において、信号処理部40は、電圧の掃引方向を逆転する。また、信号処理部40は、ステップS108において掃引速度を減少させてもよい。サイクルを重ねるにつれて平衡電位に収束していくので、1サイクルの時間が短くなる。そこで、掃引速度を減少させることにより、1サイクルの時間差を小さくできる。例えば、信号処理部40は、ステップS108を実行するごとに予め定められた掃引速度の減少率で掃引速度を減少させる。この場合、掃引速度は減少率の累乗で減少していく。また、信号処理部40は、各サイクルの時間が一定となるように掃引速度を制御してよい。このように、信号処理部40は、一回の平衡電位の推定で電圧の掃引速度を変更するので、掃引速度が一定の場合に比べて平衡電位に収束させやすくなる。ステップS108が実行されるとステップS109に進む。
【0045】
ステップS109において、現在の掃引速度及び掃引方向で次に印加する電圧を決定する。現在の掃引速度及び掃引方向とは、ステップS108が実行された場合はステップS108において設定された掃引速度及び掃引方向を指す。信号処理部40は、次に電極10に印加する電圧を決定し、ステップS101に進む。
【0046】
ステップS110において、平衡電位推定部50は、電圧印加部20が印加している電圧を平衡電位として推定する。平衡電位推定装置100は、推定した平衡電位を外部に出力してよい。ステップS110が実行された場合、平衡電位の推定を終了する。
【0047】
平衡電位推定装置100は、ステップS107において、印加電圧が収束するまで、ステップS101からステップS109までを繰り返す。本例の平衡電位推定法は、ステップS104で判定した印加電圧の掃引方向、及び、ステップS105とステップS106における電流積算値の正負に基づき、ステップS108で掃引方向を逆転するか否かを決定する。これにより、印加電圧が平衡電位から遠ざかる方向に掃引された場合であっても、掃引方向を平衡電位に近づける方向に制御できる。
【0048】
図11は、溶液の濃度勾配の掃引速度の減少率依存性を示す。縦軸は溶液のバルク濃度に対する表面濃度の比(%)を示し、横軸はメディエータ濃度比を示す。また、各曲線は、掃引速度の減少率を0.1から1.0まで変化させた場合のシミュレーション結果を示す。測定開始時の掃引速度は、1.0V/secである。なお、メディエータ濃度比とは、酸化型メディエータと還元型メディエータの和に対する還元型メディエータの比である。メディエータ濃度比は、平衡状態に落ち着いた状態で測定される。
【0049】
バルク濃度に対する表面濃度の比が100(%)の場合、溶液の表面濃度が、バルク濃度と等しくなったことを示す。本例では、掃引速度の減少率が0.2〜0.6の場合、いずれのメディエータ濃度比においても、バルク濃度に対する表面濃度の比が100(%)に近い値を示している。
【0050】
掃引速度の減少率は、計測時間、メディエータ濃度勾配、電圧掃引のサイクル時間等に基づいて決定される。例えば、掃引速度の減少率は、許容できる計測時間内に推定を終了できるような値に設定される。また、掃引速度の減少率は、電圧掃引の1サイクルで、溶液に影響を与える電極10表面からの距離が等しくなるように決定されてよい。溶液に影響を与えるとは、電極10と溶液との反応により溶液の濃度が変化することをいう。溶液に影響を与える電極10表面からの距離は、1サイクルの時間の長さ、及び、溶液の拡散係数等によって決まる。即ち、基本的に、1サイクルの時間が長ければ長いほど、電極10から遠くまで影響を与えることができる。
【0051】
図12は、掃引速度の減少率と平衡電位誤差(mV)の関係を示す。本例では、掃引速度の減少率を0.1から1.0まで変化させる。メディエータ濃度比はそれぞれ、1/1000、4/1000、1/10、5/10及び9/10である。平衡電位誤差は、理論上の平衡電位各掃引速度の減少率を用いて推定した平衡電位との差分を示す。
【0052】
例えば、1/1000のメディエータ濃度比では、掃引速度の減少率が0.1から0.7の場合、平衡電位誤差が0.1mV以内に収束する。一方、掃引速度の減少率が0.8から1.0の場合、平衡電位誤差が0.1mV以上となり、平衡電位が濃度勾配を解消しない位置で収束する。本例では、掃引速度の減少率が0.1から0.7の場合、平衡電位誤差が十分に小さいと判断できる。また、その他のメディエータ濃度比では、掃引速度の減少率が0.2から0.7の場合、平衡電位誤差が0mV付近となる。但し、掃引速度の減少率が0.1及び0.2の場合、掃引が遅すぎて計測時間内に収束しない場合がある。例えば、計測時間が1分でそれ以上の時間を打ち切りにする条件では、掃引速度の減少率を0.4以上にするのが好ましい。
【0053】
図13から図17は、還元物質濃度の濃度勾配のシミュレーション結果を示す。本例のシミュレーションは、メディエータ濃度比を5通りに変化させた結果である。各シミュレーション結果は、電圧が収束した後の、メディエータ濃度比と濃度勾配の関係を示す。
【0054】
図13は、掃引速度の減少率と還元型メディエータの濃度勾配の関係を示す。本例のメディエータ濃度比は1/1000である。グラフ中には、掃引速度の減少率及び還元型メディエータのバルク濃度に対する還元型メディエータの表面濃度の差を示す。減少率を1.0から0.1まで変化させた場合、還元型メディエータのバルク濃度に対する表面濃度の誤差の大きさは、それぞれ+3%、+2.5%、+0.6%、−0.15%、−0.055%、−0.035%、−0.0065%、−0.008%、−0.005%、−0.3%となる。
【0055】
図14は、掃引速度の減少率と還元型メディエータの濃度勾配の関係を示す。本例のメディエータ濃度比は、4/1000である。減少率を1.0から0.1まで変化させた場合、還元型メディエータのバルク濃度に対する表面濃度の誤差の大きさは、それぞれ+12.5%、+12.5%、+1.25%、−0.375%、−0.075%、−0.03%、−0.025%、−0.025%、−0.025%、+2%となる。
【0056】
図15は、掃引速度の減少率と還元型メディエータの濃度勾配の関係を示す。本例のメディエータ濃度比は、1/10である。減少率を1.0から0.1まで変化させた場合、還元型メディエータのバルク濃度に対する表面濃度の誤差の大きさは、それぞれ+30%、+25%、+2%、+3%、−0.075%、−0.02%、−0.012%、−0.013%、+0.03%、+4%となる。
【0057】
図16は、掃引速度の減少率と還元型メディエータの濃度勾配の関係を示す。本例のメディエータ濃度比は、5/10である。減少率を1.0から0.1まで変化させた場合、還元型メディエータのバルク濃度に対する表面濃度の誤差の大きさは、それぞれ+12%、+10%、+8%、−0.08%、−0.04%、−0.02%、−0.01%、−0.012%、−0.16%、−10%となる。
【0058】
図17は、掃引速度の減少率と還元型メディエータの濃度勾配の関係を示す。本例のメディエータ濃度比は、9/10である。減少率を1.0から0.1まで変化させた場合、還元型メディエータのバルク濃度に対する表面濃度の誤差の大きさは、それぞれ−6.667%、−5.556%、+0.667%、+0.189%、−0.0667%、−0.0133%、−0.0133%、−0.0222%、+0.1667%、+7.7778%となる。
【0059】
図12から図17の結果から、電位降下速度率の範囲は0.1倍から0.8倍であってよい。より望ましくは、電位降下速度率の範囲が0.2倍から0.7倍の速度である。更に望ましくは、電位降下速度率の範囲が0.4倍から0.6倍である。実際に使用する電位降下速度率は、推定時間と推定精度を考慮して設定すればよい。
【0060】
なお、電位降下速度率が1の場合であっても、原理的には平衡電位を推定できる。このように掃引速度を減少させない場合であっても電圧が収束し、メディエータ濃度と平衡電位が相関する場合がある。また、メディエータ濃度と平衡電位との間に相関が取れている場合、推定した平衡電位と真の平衡電位とがずれていても、検量線を引くことによってメディエータ濃度を推定できる。
【0061】
図18は、従来技術である定電圧電流測定法を説明するための図である。グラフは電流値の時間変化を示す。図18の(a)から(d)は、電極10と時間a〜時間dの各時間における、電極10からの距離に対する溶液の濃度を示す。
【0062】
図18の(a)は、測定開始時である時間aの溶液濃度勾配の模式図である。時間aでは、電極10からの距離にかかわらず溶液の濃度が均一になる。即ち、溶液の表面濃度とバルク濃度が等しい。
【0063】
図18の(b)は、時間bの溶液濃度勾配の模式図である。時間bでは、電極10の近傍から徐々に濃度が薄くなる。即ち、溶液の表面濃度が低下している。
【0064】
図18の(c)は、時間cの溶液濃度勾配の模式図である。時間cでは、電極10の近傍からさらに濃度が薄くなる。時間cでは、時間bと比較して電極10からより遠い距離まで、溶液の濃度が薄くなる。溶液の濃度が薄くなる距離は、溶液の拡散係数に依存して決まる。
【0065】
図18の(d)は、時間dの溶液濃度勾配の模式図である。時間dでは、測定物質の拡散が律速する。時間dでは、時間cよりも電極10からさらに遠い距離まで、溶液の濃度が薄くなる。
【0066】
定電圧電流測定法では、電極10に流れる電流の変化から濃度を推定する。例えば、電流の変化とは電流の傾きである。ここで、定電圧電流測定の理論式は、以下の様になる。
【数2】
ここで、n及びFは定数、Aは電極面積、Cは溶液濃度、Dは拡散係数、tは時間を示す。
【0067】
平衡電位推定法は、定電圧電流測定法と比較して様々なメリットがある。第1に、平衡電位推定法では、定電圧電流測定法と比較して電極面積による影響を受けない。定電圧電流測定法では、電流が電極面積Aに比例するので、電極の高い加工精度が必要になる。例えば、定電圧電流測定法の測定精度を向上させるために、金などの高価な材料を用いて電極の加工精度を高める。一方、平衡電位推定法は、電流積算値が0となるように制御するので、電極面積Aによる影響がない。つまり、電極10の加工精度が必要ないため、表面の粗いカーボン等の材料を用いることができる。金などの材料と比較してカーボンの材料費が安いので製造コストを低減できる。
【0068】
第2に、平衡電位推定法では、定電圧電流測定法と比較して拡散係数による影響を受けない。定電圧電流測定法では、溶液の拡散係数に応じて電流が変化する。また、血糖値を推定する場合、血液の拡散係数には個体差があるので、血糖値が同じであっても推定結果に違いが生じる。一方、平衡電位推定法は、電流積算値が0となるように制御するので、拡散係数の影響がない。即ち、平衡電位推定法を用いると、血液の個体差から生じる拡散係数の違いによらず、正確に血糖値を推定できる。
【0069】
第3に、平衡電位推定法では、定電圧電流測定法と比較して干渉物質による影響が小さい。干渉物質とは電極10に電圧を印加することにより、電極10の表面で酸化還元反応する物質である。定電圧電流測定法では、電極10の表面に存在する還元型メディエータをすべて酸化させるために、高い電圧を電極10に印加する必要がある。これにより、多くの干渉物質が電極10の表面で酸化され、還元型メディエータの酸化による電流に加え、干渉物質が酸化されることによる電流が流れ、測定電流値が増加するため溶液の濃度を正確に推定することができない。一方、平衡電位推定法では、定電圧電流測定法と比較して印加する電圧が低く、干渉物質が酸化されることによる電流が少ない。そのため、平衡電位推定法では、定電圧電流測定法よりも干渉物質による影響が少なく、より精度の高い推定が可能になる。
【0070】
なお、定電圧電流測定法は、酸化と還元のいずれかの反応を継続して測定する。一方、平衡電位推定法は、酸化と還元の両方の反応を繰り返す非破壊的な測定なので、同じ溶液を繰返し測定できる。つまり、平衡電位推定法により測定した溶液を、一定時間経過後再び測定できるので、溶液の時間変化を検出できる。以上の通り、平衡電位推定法は、信号ノイズ(S/N)比を向上し、測定対象をより広範囲にできるメリットがある。
【0071】
図19は、本実施形態に係るコンピュータ1900のハードウェア構成の一例を示す。本実施形態に係るコンピュータ1900は、ホスト・コントローラ2082により相互に接続されるCPU2000、RAM2020、グラフィック・コントローラ2075、及び表示装置2080を有するCPU周辺部と、入出力コントローラ2084によりホスト・コントローラ2082に接続される通信インターフェイス2030、ハードディスクドライブ2040、及びCD−ROMドライブ2060を有する入出力部と、入出力コントローラ2084に接続されるROM2010、フレキシブルディスク・ドライブ2050、及び入出力チップ2070を有するレガシー入出力部とを備える。
【0072】
ホスト・コントローラ2082は、RAM2020と、高い転送レートでRAM2020をアクセスするCPU2000及びグラフィック・コントローラ2075とを接続する。CPU2000は、ROM2010及びRAM2020に格納されたプログラムに基づいて動作し、各部の制御を行う。グラフィック・コントローラ2075は、CPU2000等がRAM2020内に設けたフレーム・バッファ上に生成する画像データを取得し、表示装置2080上に表示させる。これに代えて、グラフィック・コントローラ2075は、CPU2000等が生成する画像データを格納するフレーム・バッファを、内部に含んでもよい。
【0073】
入出力コントローラ2084は、ホスト・コントローラ2082と、比較的高速な入出力装置である通信インターフェイス2030、ハードディスクドライブ2040、CD−ROMドライブ2060を接続する。通信インターフェイス2030は、ネットワークを介して他の装置と通信する。ハードディスクドライブ2040は、コンピュータ1900内のCPU2000が使用するプログラム及びデータを格納する。CD−ROMドライブ2060は、CD−ROM2095からプログラム又はデータを読み取り、RAM2020を介してハードディスクドライブ2040に提供する。
【0074】
また、入出力コントローラ2084には、ROM2010と、フレキシブルディスク・ドライブ2050、及び入出力チップ2070の比較的低速な入出力装置とが接続される。ROM2010は、コンピュータ1900が起動時に実行するブート・プログラム、及び/又は、コンピュータ1900のハードウェアに依存するプログラム等を格納する。フレキシブルディスク・ドライブ2050は、フレキシブルディスク2090からプログラム又はデータを読み取り、RAM2020を介してハードディスクドライブ2040に提供する。入出力チップ2070は、フレキシブルディスク・ドライブ2050を入出力コントローラ2084へと接続すると共に、例えばパラレル・ポート、シリアル・ポート、キーボード・ポート、マウス・ポート等を介して各種の入出力装置を入出力コントローラ2084へと接続する。
【0075】
RAM2020を介してハードディスクドライブ2040に提供されるプログラムは、フレキシブルディスク2090、CD−ROM2095、又はICカード等の記録媒体に格納されて利用者によって提供される。プログラムは、記録媒体から読み出され、RAM2020を介してコンピュータ1900内のハードディスクドライブ2040にインストールされ、CPU2000において実行される。
【0076】
コンピュータ1900にインストールされ、コンピュータ1900を信号処理部40として機能させるプログラムは、信号処理モジュールを備える。これらのプログラム又はモジュールは、CPU2000等に働きかけて、コンピュータ1900を、信号処理部として機能させる。
【0077】
これらのプログラムに記述された情報処理は、コンピュータ1900に読込まれることにより、ソフトウェアと上述した各種のハードウェア資源とが協働した具体的手段である信号処理部40として機能する。そして、これらの具体的手段によって、本実施形態におけるコンピュータ1900の使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の信号処理部40が構築される。
【0078】
コンピュータ1900にインストールされ、コンピュータ1900を濃度推定装置200として機能させるプログラムは、電圧印加モジュールと、電流測定モジュールと、信号処理モジュールと、平衡電位推定モジュールと、濃度推定モジュールとを備える。これらのプログラム又はモジュールは、CPU2000等に働きかけて、コンピュータ1900を、濃度推定装置としてそれぞれ機能させる。
【0079】
これらのプログラムに記述された情報処理は、コンピュータ1900に読込まれることにより、ソフトウェアと上述した各種のハードウェア資源とが協働した具体的手段である電圧印加部20、電流測定部30、信号処理部40、平衡電位推定部50及び濃度推定部60として機能する。そして、これらの具体的手段によって、本実施形態におけるコンピュータ1900の使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の濃度推定装置200が構築される。
【0080】
一例として、コンピュータ1900と外部の装置等との間で通信を行う場合には、CPU2000は、RAM2020上にロードされた通信プログラムを実行し、通信プログラムに記述された処理内容に基づいて、通信インターフェイス2030に対して通信処理を指示する。通信インターフェイス2030は、CPU2000の制御を受けて、RAM2020、ハードディスクドライブ2040、フレキシブルディスク2090、又はCD−ROM2095等の記憶装置上に設けた送信バッファ領域等に記憶された送信データを読み出してネットワークへと送信し、もしくは、ネットワークから受信した受信データを記憶装置上に設けた受信バッファ領域等へと書き込む。このように、通信インターフェイス2030は、DMA(ダイレクト・メモリ・アクセス)方式により記憶装置との間で送受信データを転送してもよく、これに代えて、CPU2000が転送元の記憶装置又は通信インターフェイス2030からデータを読み出し、転送先の通信インターフェイス2030又は記憶装置へとデータを書き込むことにより送受信データを転送してもよい。
【0081】
また、CPU2000は、ハードディスクドライブ2040、CD−ROMドライブ2060(CD−ROM2095)、フレキシブルディスク・ドライブ2050(フレキシブルディスク2090)等の外部記憶装置に格納されたファイルまたはデータベース等の中から、全部または必要な部分をDMA転送等によりRAM2020へと読み込ませ、RAM2020上のデータに対して各種の処理を行う。そして、CPU2000は、処理を終えたデータを、DMA転送等により外部記憶装置へと書き戻す。このような処理において、RAM2020は、外部記憶装置の内容を一時的に保持するものとみなせるから、本実施形態においてはRAM2020および外部記憶装置等をメモリ、記憶部、または記憶装置等と総称する。本実施形態における各種のプログラム、データ、テーブル、データベース等の各種の情報は、このような記憶装置上に格納されて、情報処理の対象となる。なお、CPU2000は、RAM2020の一部をキャッシュメモリに保持し、キャッシュメモリ上で読み書きを行うこともできる。このような形態においても、キャッシュメモリはRAM2020の機能の一部を担うから、本実施形態においては、区別して示す場合を除き、キャッシュメモリもRAM2020、メモリ、及び/又は記憶装置に含まれるものとする。
【0082】
また、CPU2000は、RAM2020から読み出したデータに対して、プログラムの命令列により指定された、本実施形態中に記載した各種の演算、情報の加工、条件判断、情報の検索・置換等を含む各種の処理を行い、RAM2020へと書き戻す。例えば、CPU2000は、条件判断を行う場合においては、本実施形態において示した各種の変数が、他の変数または定数と比較して、大きい、小さい、以上、以下、等しい等の条件を満たすかどうかを判断し、条件が成立した場合(又は不成立であった場合)に、異なる命令列へと分岐し、またはサブルーチンを呼び出す。
【0083】
また、CPU2000は、記憶装置内のファイルまたはデータベース等に格納された情報を検索することができる。例えば、第1属性の属性値に対し第2属性の属性値がそれぞれ対応付けられた複数のエントリが記憶装置に格納されている場合において、CPU2000は、記憶装置に格納されている複数のエントリの中から第1属性の属性値が指定された条件と一致するエントリを検索し、そのエントリに格納されている第2属性の属性値を読み出すことにより、所定の条件を満たす第1属性に対応付けられた第2属性の属性値を得ることができる。
【0084】
また、請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【0085】
以上に示したプログラム又はモジュールは、外部の記録媒体に格納されてもよい。記録媒体としては、フレキシブルディスク2090、CD−ROM2095の他に、DVD又はCD等の光学記録媒体、MO等の光磁気記録媒体、テープ媒体、ICカード等の半導体メモリ等を用いることができる。また、専用通信ネットワーク又はインターネットに接続されたサーバシステムに設けたハードディスク又はRAM等の記憶装置を記録媒体として使用し、ネットワークを介してプログラムをコンピュータ1900に提供してもよい。
以下、本発明の実施態様を示す。
[実施態様1]
電極に電圧を印加し、前記電圧を掃引する第1段階と、
前記電極に流れる電流を測定する第2段階と、
前記電流の積算値が予め定められた値になったときに、前記電圧の掃引幅が許容範囲内であるか否かを判定する第3段階と、
前記許容範囲内と判定した場合に、前記許容範囲内の電圧値を酸化還元物質の平衡電位と推定する第4段階と、
前記許容範囲外と判定した場合に、前の掃引段階での掃引方向と逆方向に前記電圧を掃引する第5段階と
を有する酸化還元物質の平衡電位推定方法。
[実施態様2]
前記電圧の掃引幅を前記許容範囲内と判定するまで、前記第3段階と前記第5段階とを繰り返し実行する実施態様1に記載の酸化還元物質の平衡電位推定方法。
[実施態様3]
前記電流の積算値が予め定められた値になったときから、次に前記電流の積算値が予め定められた値になるまでに、前記電圧を掃引している時間が一定となるように、前記電圧の掃引速度を調整する実施態様1または2に記載の酸化還元物質の平衡電位推定方法。
[実施態様4]
前記第5段階では、前の掃引段階での掃引速度よりも遅く前記電圧を掃引する実施態様1から3のいずれか一項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定方法。
[実施態様5]
前記第5段階での掃引速度は、前の掃引段階での掃引速度の0.1倍から0.8倍の速度である実施態様4に記載の酸化還元物質の平衡電位推定方法。
[実施態様6]
前記第5段階での掃引速度は、前の掃引段階での掃引速度の0.2倍から0.7倍の速度である実施態様5に記載の酸化還元物質の平衡電位推定方法。
[実施態様7]
前記第5段階での掃引速度は、前の掃引段階での掃引速度の0.4倍から0.6倍の速度である実施態様6に記載の酸化還元物質の平衡電位推定方法。
[実施態様8]
前記第3段階では、前記積算値の符号が反転したときに、前記電圧の掃引幅が前記許容範囲内であるか否かを判定する
実施態様1から7のいずれか一項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定方法。
[実施態様9]
実施態様1から8のいずれか一項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定方法における前記第1段階から前記第5段階と、
前記電圧値に基づいて、前記酸化還元物質の濃度を推定する第6段階と
を有する酸化還元物質の濃度推定方法。
[実施態様10]
電極に電圧を印加する電圧印加部と、
前記電極に流れる電流を測定する電流測定部と、
前記電圧を掃引するよう前記電圧印加部に指示するとともに、前記電流の積算値が予め定められた値になったときに、前記電圧の掃引幅が許容範囲内であるか否かを判定する信号処理部と
を備え、
前記信号処理部は、
前記許容範囲内であるときに、前記許容範囲内の電圧値を酸化還元物質の平衡電位と推定し、前記許容範囲内でないときに、前の掃引方向と逆方向に前記電圧を掃引するよう前記電圧印加部に指示する
酸化還元物質の平衡電位推定装置。
[実施態様11]
前記信号処理部は、
前記電圧の掃引幅が、前記許容範囲内となるまで、前の掃引方向と逆方向に前記電圧を掃引するよう前記電圧印加部に指示することを繰り返す
実施態様10に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置。
[実施態様12]
前記信号処理部は、
前記電流の積算値が予め定められた値になったときから、次に前記電流の積算値が予め定められた値になるまでに、前記電圧を掃引している時間が一定となるように、前記電圧の掃引速度を調整する
実施態様11に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置。
[実施態様13]
前記信号処理部は、
前記電圧の掃引幅が、前記許容範囲内でないときに、前の掃引速度よりも遅く前記電圧を掃引するよう前記電圧印加部に指示する
実施態様10から12のいずれか一項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置。
[実施態様14]
前記信号処理部は、
前記電圧の掃引幅が、前記許容範囲内でないときに、前の掃引速度の0.1倍から0.8倍の速度で前記電圧を掃引するよう前記電圧印加部に指示する
実施態様13に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置。
[実施態様15]
前記信号処理部は、
前記電圧の掃引幅が、前記許容範囲内でないときに、前の掃引速度の0.2倍から0.7倍の速度で前記電圧を掃引するよう前記電圧印加部に指示する
実施態様14に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置。
[実施態様16]
前記信号処理部は、
前記電圧の掃引幅が、前記許容範囲内でないときに、前の掃引速度の0.4倍から0.6倍の速度で前記電圧を掃引するよう前記電圧印加部に指示する
実施態様15に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置。
[実施態様17]
前記信号処理部は、
前記積算値の符号が反転したときに、前記電圧の掃引幅が許容範囲内であるか否かを判定する
実施態様10から16のいずれか一項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置。
[実施態様18]
実施態様10から17のいずれか一項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置と、
前記電圧値に基づいて、前記酸化還元物質の濃度を推定する推定部と
を備える酸化還元物質の濃度推定装置。
[実施態様19]
コンピュータを、実施態様10から17のいずれか一項に記載の酸化還元物質の平衡電位推定装置における前記信号処理部として機能させるプログラム。
[実施態様20]
コンピュータを、実施態様18に記載の酸化還元物質の濃度推定装置における前記信号処理部及び前記推定部として機能させるプログラム。
[実施態様21]
実施態様19または20に記載のプログラムを有するコンピュータ読み取り可能な媒体。
[実施態様22]
実施態様18に記載の酸化還元物質の濃度推定装置と、
前記電極と
を備える血糖推定装置。
【0086】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0087】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0088】
10・・・電極、20・・・電圧印加部、30・・・電流測定部、40・・・信号処理部、50・・・平衡電位推定部、60・・・濃度推定部、100・・・平衡電位推定装置、200・・・濃度推定装置、300・・・血糖推定装置、1900・・・コンピュータ、2000・・・CPU、2010・・・ROM、2020・・・RAM、2030・・・通信インターフェイス、2040・・・ハードディスクドライブ、2050・・・フレキシブルディスク・ドライブ、2060・・・CD−ROMドライブ、2070・・・入出力チップ、2075・・・グラフィック・コントローラ、2080・・・表示装置、2082・・・ホスト・コントローラ、2084・・・入出力コントローラ、2090・・・フレキシブルディスク、2095・・・CD−ROM
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