【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、劣化状態を計算するときに使用されるパラメータが信頼できるか、即ち
、パラメータがバッテリの劣化状態のほぼ正確な演算が可能であるかを判定する方法を提供することである。この目的は、請求項1に係る方法によって、少なくとも一部が達成される。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、複数のバッテリセルを備えたバッテリの劣化状態パラメー
タの信頼性を判定する方法が提供される。この方法は、劣化状態
を演算するパラメータのために、バッテリの複数の
パラメータを受信するステップと、
パラメータを少なくとも1つの所定のパラメータ基準と比較するステップと、
パラメータが少なくとも1つの所定のパラメータ基準を満たしていれば、
パラメータが信頼できると判定するステップと、を備えている。
【0011】
用語「
パラメータ」は、以下の全体説明を通して、バッテリの劣化状態を演算するときに使用され得るパラメー
タとして解釈されるべきである。バッテリの劣化状態は、特定のバッテリ応用システムに応じて少々異なって演算することができる。バッテリの劣化状態を演算する種々の方法は、当業者によく知られており、従って、以下の説明では、主に、バッテリの劣化状態を演算するために使用され得る異なるパラメータの説明に焦点を当て、特定の演算には焦点を当てない。
【0012】
また、本発明は、複数のセルを含む完成品のバッテリの劣化状態パラメー
タの信頼性を判定することに関するもので、バッテリの個々のセルに関するものではないことを容易に理解すべきである。バッテリは、例えば、200セルなど、例えば、50より多いバッテリセルを含むことができる。
【0013】
また、「所定のパラメータ基準」は、異なるタイプのパラメータとは異ならせることができる基準として理解されるべきである。例えば、温度パラメータの所定のパラメータ基準は、電圧パラメータの所定のパラメータ基準と比較して、当然異なっている。しかしながら、所定のパラメータ基準はまた、特定のパラメータと異ならせることもできる。例えば、以下で更に説明するように、1つの所定のパラメータ基準は、セル温度が一定の限界を超えないこととする一方、他の所定のパラメータ基準は、高温のバッテリセルと低温のバッテリセルの温度差が大きく異ならないこととすることができる。従って、温度パラメータには2つの基準がある。また、特定の基準は、ユーザによって個々に設定でき、従って、特定の応用システムに応じて異ならせることができる。
【0014】
劣化状態パラメー
タを測定する1つの方法は、カルマンフィルタ、別名線形二次評価(Linear Quadratic Estimation)を利用することである。このような方法は、バッテリのようなダイナミックシステムのパラメータを測定する当業者によく知られており、このため、さらに説明しない。
【0015】
本発明は、バッテリの劣化状態を演算するパラメー
タが信頼できるかどうかを判定することによる洞察に基づき、劣化状態の正確な演算をなすことができる。また、バッテリの劣化状態を演算するときに使用されるパラメー
タは、以下でさらに説明する複数の理由のために、バッテリの特定のコンディション又は状態では信頼できない。本発明は、これらのコンディション又は状態で測定されたパラメータが信頼できないとして選り分けられる解法を提供することを目的とする。
【0016】
本発明の利点は、劣化状態パラメータが信頼できないと判定されたとき、この信頼できない値に基づいて演算された劣化状態は、十分に正確でなく、従って、本発明による方法は、その結果がバッテリの劣化状態の信頼できる指標を提供していないため、演算を実行すべきでないと判定する。従って、本発明は、
パラメータでバッテリの劣化状態を演算することに適しているかを判定する方法を提供する。そのようにするパラメー
タが信頼できるときのみにバッテリの劣化状態を演算することによって、バッテリの本当の状態のほぼ正確な演算がなされる。また、本発明では、上述した
パラメータで演算した劣化状態からの結果が、バッテリのユーザにすでに利用されているものと比較して、バッテリの劣化状態のより信頼できかつ正確な推定(estimation)を提供できるかどうか判定することができる。これによって、すでに利用されているものより正確であり信頼できる結果を提供できるか判定し、バッテリの劣化状態を演算することができる。
【0017】
本発明では、例えば、バッテリを新しいものと交換する時期である、予測可能性(predictability)を増加させる。従って、バッテリのユーザは、バッテリの状態を認識し、例えば、バッテリをあまりにも早く又はあまりにも遅く交換することがない。他の利点は、ほぼ常時、バッテリの運用が電気容量を提供する最適化容量を制御できることである。これは、次に、燃料効率を増やし、従って、車両所有者の全運用コストを低減する。また、バッテリ劣化の検査/判定のサービス間隔もまた、そのような間隔の期間が延長又は短縮できるように、正確に演算された劣化状態に基づいて適合することができる。
【0018】
本発明の例示的な実施形態によれば、バッテリの
演算充電状態値をx、バッテリの
測定電圧値をyとしたとき、導関数dy/dxの絶対値が所定の限界値を超えていれば、少なくとも1つのパラメータ基準は、バッテリの複数の
パラメータが測定されたこととすることができる。
【0019】
これによって、電圧−充電状態曲線の勾配が特定値未満であれば、劣化状態の演算を実行しないと判定する。導関数が0又は0に近いとき、特定電圧値が、バッテリの「正確な」充電状態値と比較して、高すぎる又は低すぎる充電状態値に相当するので、これは有利である。また、勾配が0に近ければ、バッテリ電圧が少し上昇又は低下すると、バッテリの
充電状態値が少し増加/減少する。従って、バッテリの
充電状態値は、
演算充電状態値の精度が十分でなく、劣化状態の信頼できない演算を提供するため、バッテリの劣化状態を演算するとき、そのような値の使用を不適切にする。上述の導関数は、望ましくは、いわゆるオープンセル電圧曲線に適用可能である。
【0020】
当業者はどのようにバッテリの
充電状態値を演算するかをよく知っていることを容易に理解すべきであり、従って、そのような演算の説明は本発明の説明から省略する。また、上述の導関数は、正値又は負値をとることができ、従って、測定値が劣化状態の演算で使用するのに信用できるかを判定するとき、そのような値の絶対値を解析することは重要である。例えば、オープンセル電圧値に対しては、導関数は、一般的に、常時正値をとる。
【0021】
本発明の例示的な実施形態によれば、少なくとも1つの所定のパラメータ基準は、複数のバッテリセルの平均温度が所定温度範囲内にあることである。
【0022】
複数のバッテリセルの平均温度があまりにも高すぎるか低すぎる場合、
測定温度値がセルの真の特性を十分に表していないかもしれないため、バッテリの劣化状態を演算するのに適していないかもしれない。これによって、この方法は、バッテリの劣化状態の演算を実行するのに適していないと判定する。複数のバッテリセルの平均温度は、例えば、バッテリが充電又は放電された時点でセル温度の測定がなされた場合、「通常」よりも高いかもしれない。また、温度が特定範囲内にあると判定することが重要であるかもしれない。この範囲は、バッテリの劣化状態をモデル化するときのテスト温度範囲にほぼ相当する。このため、温度範囲は、望ましくは、温度差に起因する演算誤差が低減するように、テスト温度範囲とほぼ同じにすべきである。
【0023】
また、他の劣化状態パラメー
タは、あまりにも高温又は低温のバッテリに悪影響を与えるかもしれない。この悪影響は、
パラメータを信頼できないものとするばかりでなく、バッテリ温度があまりにも高温/低温である場合、他の劣化状態パラメー
タが信頼できないとみなすことができる。バッテリ温度は、一般的に、バッテリの電流によって生み出される。従って、温度偏差は、バッテリを通って流れる電流の結果となり、このため、
測定温度値は、十分に正確又は信頼できる値を提供しないかもしれない。また、以下で説明するように、温度測定は、望ましくは、十分に信頼できるものとすべく、バッテリが充電又は放電された後の所定期間になされるべきである。温度測定がバッテリの充電/放電後の所定期間の終わり前になされた場合、この
測定温度値が真の限度(true limit)に「収束」していないかもしれず、このため、そのような
測定温度値を正確/信頼できないものとしてしまう。
【0024】
本発明の例示的な実施形態によれば、少なくとも1つの所定のパラメータ基準は、前回バッテリの充電又は放電が行なわれた後の所定期間に、
パラメータを受信したことである。
【0025】
これによって、バッテリは、演算が行なわれる前に十分「休む」ことができ、このため、演算
された劣化状態を信頼できるものとする。バッテリの充電後又は放電後の短い期間は、異なるセルの
パラメータのあまりにも大きい偏差を与え、従って、劣化状態の信頼できる演算を提供することができない。このため、バッテリは安定状態にない。また、
パラメータが、例えば、温度であれば、パラメー
タを受信している期間中に、温度が上昇又は低下する傾向にあるとき、バッテリは安定状態にないと判定することができる。従って、バッテリの温度がパラメー
タを受信している期間中に上昇又は低下すれば、バッテリの充電又は放電は、測定からあまりにも近い時間に行なわれたと判定することができる。しかしながら、測定がバッテリの
充電状態値に関する場合、以前の
充電状態値の演算からの期間が所定の期間を超えるべきではない。上述したように、
充電状態値は、導関数が「高(high)」であるときに演算されるべきである。このため、劣化状態の演算は、そのようなバッテリの
充電状態値の演算後の特定期間内に行なわれるべきである。
充電状態値の演算がなされてから、劣化状態の演算がかなり「長い」期間の後に行なわれると、充電状態値は十分信頼できないかもしれない。
【0026】
本発明の例示的な実施形態によれば、少なくとも1つの所定のパラメータ基準は、複数の
パラメータが所定範囲内にあることとすることができる。
【0027】
これによって、測定値の広がり(spread)は、信頼できると判定するために、所定範囲内になければならない。バッテリは、多くの場合、高温及び/又は低温に敏感であり、このため、異なるバッテリセル間の温度での大きな広がりは、バッテリの劣化状態の十分に正確な演算を提供することができない。セル間の広がりは、バッテリの
充電状態値、バッテリ
電圧値、バッテリ
温度値など、任意の種類の
パラメータとすることができる。様々なパラメータについては、以下で詳細に説明する。
【0028】
例示的な実施形態によれば、所定範囲は、
パラメータの平均値から決定することができる。
【0029】
これによれば、測定値が測定平均値からあまりにも逸脱していれば、劣化状態の演算を行うべきでないと判定することができる。
【0030】
本発明の例示的な実施形態によれば、
パラメータは、バッテリのセル温度とすることができ、複数の
測定温度値が受信される。
【0031】
バッテリは、多くの場合、上述したように、高温及び/又は低温に敏感である。例えば、異なるバッテリセル間の
測定温度値に大きな広がりがあれば、バッテリの劣化状態の十分に正確な演算を提供することができない。バッテリの温度は、例えば、バッテリ
電圧値など、バッテリの他
のパラメータに影響を及ぼすことができるため、バッテリの劣化状態を演算するときに考慮すべき重要なパラメータでもある。
【0032】
本発明の例示的な実施形態によれば、
パラメータは、バッテリの
セル電圧値とすることができ、複数の
測定電圧値が受信される。
【0033】
これによって、劣化状態を演算するときに重要となる更なるパラメータが、検討に用いられる。
【0034】
本発明の例示的な実施形態によれば、少なくとも1つの所定のパラメータ基準は、各バッテリセルの
測定電圧値が所定の上限電圧限度未満であるとすることができる。
【0035】
本発明の例示的な実施形態によれば、少なくとも1つの所定のパラメータ基準は、各バッテリセルの
測定電圧値が所定の下限電圧限度より高いとすることができる。
【0036】
測定電圧値が所定の上限電圧限度より高いか所定の下限電圧限度未満であれば、低電圧値又は高電圧値を有するセルは、何らかの理由で損傷しているかもしれない。これによって、そのような値に基づいてバッテリの劣化状態を演算することは、バッテリの「真の」劣化状態の信頼できる結果を提供することができない。また、
測定電圧値は、
測定電圧値の平均値からの偏差と比較され、その偏差があまりにもひどい場合、
測定電圧値は信頼できない劣化状
態を提供する指標であるとすることができる。
【0037】
また、
セルの測定電圧値の差がセル間であまりにもひどい場合、即ち、最低セル電圧と最高セル電圧との間の範囲が所定の電
圧幅範囲を超えている場合、バッテリの均衡を保たずにあまりにも長くバッテリを使用したり、使用せずにあまりにも長くバッテリを休ませたりなどすることによってもたらされる、バッテリシステムの不均衡があるかもしれない。しかしながら、バッテリシステムに不均衡があるかどうかを確認することは困難であり、このため、演算結果がバッテリの真の特性に相当することを知ることは困難であるため、劣化状態の演算からの結果は、十分に信頼できるとみなすことはできない。従って、劣化状態の演算を行う前に、バッテリセルは十分に均衡される必要がある。
【0038】
本発明の例示的な実施形態によれば、この方法は、
パラメータを用いて各バッテリセルの
充電状態値を演算するステップを更に備えることができる。
【0039】
これによって
、パラメータは、バッテリの
演算充電状態値を演算するために使用することができ、このため、この方法はその後、
演算充電状態値が信頼できるかどうかを判定することができる。このため、さらなるパラメータは、バッテリの劣化状態の演算が行なわれるべきかどうかを判定することを提供する。
【0040】
本発明の例示的な実施形態によれば、少なくとも1つの所定のパラメータ基準は、各バッテリセルの
演算充電状態値が所定範囲内にあるとすることができる。
【0041】
以下で説明するように何らかの理由により、バッテリの異なるセルの
充電状態値が特定範囲外にあれば、バッテリの劣化状態の演算がバッテリの十分に正確な劣化状態を提供していない、即ち、信頼できない結果であることの指標であるかもしれない。異なるバッテリセルの
充電状態値がほぼ同一の充電状態にある、他
のパラメータの重要な態様であるかもしれない。
【0042】
本発明の例示的な実施形態によれば、少なくとも1つの所定のパラメータ基準は、バッテリセルの演算充電状態値の平均値からの偏差が所定範囲内にあることとすることができる。
【0043】
本発明の第2の態様によれば、コントロールユニットを備え、複数のバッテリセルを備えたバッテリに接続可能なシステムであって、コントロールユニットが、劣化状態
を演算するパラメータのために、バッテリの複数の
パラメータを受信し、
パラメータを少なくとも1つの所定のパラメータ基準と比較し、
パラメータが少なくとも1つの所定のパラメータ基準を満たしていれば、
パラメータが信頼できると判定するように構成されている。
【0044】
この第2の態様の効果及び特徴は、本発明の第1の態様に関して、上述したものと大部分が類似している。
【0045】
本発明の第3の態様によれば、プログラムがコンピュータで実行されたとき、上述した方法のステップを実行するプログラムコード手段を備えたコンピュータプログラムを提供する。
【0046】
本発明の第4の態様によれば、プログラムがコンピュータで実行されたとき、上述した方法のステップを実行するプログラムコード手段を備えたコンピュータプログラムを保持するコンピュータ読み取り可能な媒体を提供する。
【0047】
本発明の第3及び第4の態様の効果及び特徴は、本発明の第1の態様に関して、上述したものと大部分が類似している。
【0048】
本発明のさらなる特徴及び利点は、添付した請求の範囲及び以下の説明を検討すれば明らかになる。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、本発明の異なる特徴が以下の説明以外の実施形態を生み出すために組み合わせることができることを理解する。例えば、上述した様々なパラメータ基準は、バッテリの劣化状態を演算するのに適しているかどうかを判定するときに、単独又は他の基準と組み合わせて使用することができる。
【0049】
本発明の前述した並びに付加的な目的、特徴及び利点は、以下の説明的かつ非限定的な、本発明の例示的な実施形態の詳細な説明を通して理解されるであろう。