特許第6371432号(P6371432)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6371432イメージング質量分析による残留農薬検査方法及びそのシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371432
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】イメージング質量分析による残留農薬検査方法及びそのシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20180730BHJP
【FI】
   G01N27/62 V
   G01N27/62 D
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-65284(P2017-65284)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-187484(P2017-187484A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2017年4月7日
(31)【優先権主張番号】105110624
(32)【優先日】2016年4月1日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】517111099
【氏名又は名称】アグリカルチュラル ケミカルズ アンド トキシック サブスタンシズ リサーチ インスティテュート,カウンシル オブ アグリカルチャー,エグゼクティブ ユエン
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】シャオ‐カイ,リン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ‐チェン,チャン
【審査官】 吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−310536(JP,A)
【文献】 特開2011−155937(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/064530(WO,A1)
【文献】 特開2008−076243(JP,A)
【文献】 特開2010−054406(JP,A)
【文献】 望月直樹,食の安全におけるLC-MS/MS分析の問題点,YAKUGAKU ZASSHI,2011年,Vol.131/No.7,PP.1019-1025
【文献】 第十四改正日本薬局方,2001年 3月30日,24 一般試験法 9.ガスクロマトグラフ法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60−70、92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験試料から2つの同じ抽出液を抽出し、それらのいずれかの抽出液内にいかなる農薬も別途添加されていない第1検液及び別の抽出液内に少なくとも1種の濃度既知の特定農薬が意図的に添加されている第2検液として各々調製するステップ(a)と、
別の被験試料から2つの同じ抽出液を抽出し、それらのいずれかの抽出液内にいかなる農薬も別途添加されていない第1検液及び別の抽出液内に少なくとも1種の濃度既知の特定農薬が意図的に添加されている第2検液として各々調製するステップ(b)と、
対応するマスクロマトグラム(mass chromatogram)を作成するため、連続的に前記被験試料の前記第1検液及び前記第2検液をクロマトグラフ質量分析計内に送り込んで測定を行い、前記第2検液の特定農薬は、特定の保持時間(retention time)において前記クロマトグラフ質量分析計で検出されるステップ(c)と、
コンピュータ画像認識法を用いて前記被験試料の前記第1検液のマスクロマトグラムと前記第2検液のマスクロマトグラムを比較することで、前記第1検液が前記特定の保持時間において、特徴的なピークが現れ、その形状が前記第2検液の特定農薬の特徴的なピークと同一或いは近似し、且つその強度が前記第2検液の特定農薬の特徴的なピーク強度よりやや低い状況があるかどうかを判断し、その状況がなかった場合、前記被験試料に前記特定農薬が残留していないと判定し、その状況があった場合、画像分析法で前記第2検液の特徴的なピークが前記第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積を計算し、また前記第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積と前記特定農薬の濃度の比例関係により、前記第1検液の特徴的なピークの面積から前記被験試料の残留農薬の濃度を推定するステップ(d)と、
前記被験試料の前記第1検液及び前記第2検液が前記クロマトグラフ質量分析計内に送り込まれた後、対応するマスクロマトグラムを作成するため、その後連続的に前記別の被験試料の前記第1検液及び前記第2検液を前記クロマトグラフ質量分析計内に送り込んで測定を行い、前記別の被験試料の前記第2検液の特定農薬は特定の保持時間において前記クロマトグラフ質量分析計で検出されるステップ(e)と、
コンピュータ画像認識法を用いて前記別の被験試料の前記第1検液のマスクロマトグラムと前記第2検液のマスクロマトグラムを比較することで、前記第1検液が特定の保持時間において、特徴的なピークが現れ、その形状が前記第2検液の特定農薬の特徴的なピークと同一或いは近似し、且つその強度が前記第2検液の特定農薬の特徴的なピークよりやや低い状況があるかどうかを判断し、その状況がなかった場合、前記別の被験試料に前記特定農薬が残留していないと判定し、その状況があった場合、画像分析法で前記第2検液の特徴的なピークが前記第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積を計算し、また前記第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積と前記特定農薬の濃度の比例関係により、前記第1検液の特徴的なピークの面積から前記別の被験試料の残留農薬の濃度を推定するステップ(f)と、
を含むことを特徴とする残留農薬検査方法。
【請求項2】
前記ステップ(a)内の前記被験試料の前記第2検液に意図的に添加される特定農薬と前記ステップ(b)内の前記別の被験試料の前記第2検液に意図的に添加される特定農薬の種類及び濃度が全て同一となることを特徴とする請求項1に記載の残留農薬検査方法。
【請求項3】
前記ステップ(d)又は前記ステップ(f)において、
各々前記第1検液のピーク面積値及び前記第2検液のピーク面積値を得るため、各々前記第1検液の特徴的なピーク及び前記第2検液の特徴的なピークに対し積分するステップ(1)と、
前記第2検液のピーク面積値から前記第1検液のピーク面積値を差し引くことで、前記第2検液の特徴的なピークが前記第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積値を得るステップ(2)と、
を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の残留農薬検査方法。
【請求項4】
前記ステップ(c)のクロマトグラフ質量分析計は、液体クロマトグラフ直結質量分析計(LC−MSMS)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC−MS)、ガスクロマトグラフ直結質量分析計(GC−MSMS)、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)、ガスクロマトグラフ飛行時間型質量分析計(GC/TOF)、液体クロマトグラフ−飛行時間型質量分析計(LC/TOF)、ガスクロマトグラフイオントラップ型質量分析計(GC/ion trap)、液体クロマトグラフイオントラップ型質量分析計(LC/ion trap)からなる群より選ぶことができることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の残留農薬検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品中の残留農薬検査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の食品中の残留農薬検査方法は、被験試料の質量分析計による測定後のマススペクトル(mass spectrum)と予め構築されたマススペクトルデータベースとを比較することで、被験試料に特定の残留農薬が含まれているかどうかを速やかに検査する。しかしながら、この種の検査方法は、定性測定のみを行うことができ、定量測定を行うことができず、つまりどのような農薬が残留しているかのみを検査できるものであって、その残留量を知ることができない。農薬における化学物質の質量スペクトル測定は、計器の感度、農薬の種類及び農作物のマトリックス効果等の影響を受けやすいため、スペクトルデータベース構築方式を通じて定量分析を行うようにすることは、現在に至るまで、努力の必要があった。
【0003】
現行の法規によれば、全ての食品について、百種類以上の残留農薬を検査しなければならない。法規で規定されている残留農薬検査方法は、検体をQuEChERS(Quick,Easy,Cheap,Effective,Rugged,Safe)の前処理(pretreatment)を経てから液体クロマトグラフ直結質量分析計(LC/MS/MS)或いはガスクロマトグラフ直結質量分析計(GC/MS/MS)で計器分析を行う。検査の過程において、検査員は、まず各種の農薬標準品に対し、複数の濃度の異なる溶液を調製することで、各々1本のマトリックスマッチング検量線(matrix−matched calibration curve)を作成し、そして手作業による比較方法で被験試料のマスクロマトグラム内の保持時間(Retention Time)から被験試料にどのような種類の農薬が残留しているかどうかを判断する。農薬が残留していた場合、更にマトリックスマッチング検量線に基づき残留農薬の濃度を推定する。しかしながら、この従来の検査方法は、プロセスが煩雑だけでなく、且つ解読に必要な時間が非常に長く、統計によれば、1種当たりの農薬の解読及びデータの分析に20分間かかると予想されるため、百種類以上の農薬を解読するのに必要な時間も非常にかかっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、以下の発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、検査時間を短縮し、検査効率を向上できる残留農薬検査方法を提供し、
被験試料から2つの同じ抽出液を抽出し、それらのいずれかの抽出液内にいかなる農薬も別途添加されていない第1検液及び別の抽出液内に少なくとも1種の濃度既知(X)の特定農薬が意図的に添加されている第2検液として各々調製するステップ(a)と、
対応するマスクロマトグラム(mass chromatogram)を作成するため、連続的に第1検液及び第2検液をクロマトグラフ質量分析計内に送り込んで測定を行い、第2検液の特定農薬は、特定の保持時間(retention time)においてクロマトグラフ質量分析計で検出されるステップ(b)と、
コンピュータ画像認識法を用いて第1検液のマスクロマトグラムと第2検液のマスクロマトグラムを比較することで、第1検液が特定の保持時間において、特徴的なピークが現れ、その形状が第2検液の特定農薬の特徴的なピークと同一或いは近似し、且つその強度が第2検液の特定農薬の特徴的なピークよりやや低い状況があるかどうかを判断し、その状況がなかった場合、被験試料に特定農薬が残留していないと判定し、その状況があった場合、画像分析法で第2検液の特徴的なピークが第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積を計算し、また第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積と特定農薬の濃度(X)の比例関係により、第1検液の特徴的なピークの面積から被験試料の残留農薬の濃度(Y)を推定するステップ(c)と、
を含む。
【0006】
好ましくは、前記ステップ(c)において、
各々第1検液のピーク面積値及び第2検液のピーク面積値を得るため、各々第1検液の特徴的なピーク及び第2検液の特徴的なピークに対し積分するステップ(1)と、
第2検液のピーク面積値から第1検液のピーク面積値を差し引くことで、第2検液の特徴的なピークが第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積値を得るステップ(2)と、
を含む。
【0007】
好ましくは、前記ステップ(b)のクロマトグラフ質量分析計は、液体クロマトグラフ直結質量分析計(LC−MSMS)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC−MS)、ガスクロマトグラフ直結質量分析計(GC−MSMS)、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)、ガスクロマトグラフ飛行時間型質量分析計(GC/TOF)、液体クロマトグラフ−飛行時間型質量分析計(LC/TOF)、ガスクロマトグラフイオントラップ型質量分析計(GC/ion trap)、液体クロマトグラフイオントラップ型質量分析計(LC/ion trap)からなる群より選ぶことができる。
【0008】
別の視点から見ると、本発明は、残留農薬検査方法を提供し、
被験試料から2つの同じ抽出液を抽出し、それらのいずれかの抽出液内にいかなる農薬も別途添加されていない第1検液及び別の抽出液内に少なくとも1種の濃度既知の特定農薬が意図的に添加されている第2検液として各々調製するステップ(a)と、
別の被験試料から2つの同じ抽出液を抽出し、それらのいずれかの抽出液内にいかなる農薬も別途添加されていない第1検液及び別の抽出液内に少なくとも1種の濃度既知の特定農薬が意図的に添加されている第2検液として各々調製するステップ(b)と、
対応するマスクロマトグラム(mass chromatogram)を作成するため、連続的に被験試料の第1検液及び第2検液をクロマトグラフ質量分析計内に送り込んで測定を行い、第2検液の特定農薬は、特定の保持時間においてクロマトグラフ質量分析計で検出されるステップ(c)と、
コンピュータ画像認識法を用いて被験試料の第1検液のマスクロマトグラムと第2検液のマスクロマトグラムを比較することで、第1検液が特定の保持時間において、特徴的なピークが現れ、その形状が第2検液の特定農薬の特徴的なピークと同一或いは近似し、且つその強度が第2検液の特定農薬の特徴的なピーク強度よりやや低い状況があるかどうかを判断し、その状況がなかった場合、被験試料に特定農薬が残留していないと判定し、その状況があった場合、画像分析法で第2検液の特徴的なピークが第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積を計算し、また第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積と特定農薬濃度の比例関係により、第1検液の特徴的なピークの面積から被験試料の残留農薬の濃度を推定するステップ(d)と、
被験試料の第1検液及び第2検液がクロマトグラフ質量分析計内に送り込まれた後、対応するマスクロマトグラムを作成するため、その後連続的に別の被験試料の第1検液及び第2検液をクロマトグラフ質量分析計内に送り込んで測定を行い、別の被験試料の第2検液の特定農薬は、特定の保持時間においてクロマトグラフ質量分析計で検出されるステップ(e)と、
コンピュータ画像認識法を用いて別の被験試料の第1検液のマスクロマトグラムと第2検液のマスクロマトグラムを比較することで、第1検液が特定の保持時間において、特徴的なピークが現れ、その形状が第2検液の特定農薬の特徴的なピークと同一或いは近似し、且つその強度が第2検液の特定農薬の特徴的なピークよりやや低い状況があるかどうかを判断し、その状況がなかった場合、別の被験試料に特定農薬が残留していないと判定し、その状況があった場合、画像分析法で第2検液の特徴的なピークが第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積を計算し、また第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積と特定農薬の濃度の比例関係により、第1検液の特徴的なピークの面積から別の被験試料の残留農薬の濃度を推定するステップ(f)と、
を含む。
【0009】
好ましくは、前記ステップ(a)内の被験試料の第2検液に意図的に添加される特定農薬とステップ(b)内の別の被験試料の第2検液に意図的に添加される特定農薬の種類及び濃度が全て同一となる。
【0010】
好ましくは、前記ステップ(d)又は前記ステップ(f)において、
各々第1検液のピーク面積値及び第2検液のピーク面積値を得るため、各々第1検液の特徴的なピーク及び第2検液の特徴的なピークに対し積分するステップ(1)と、
第2検液のピーク面積値から第1検液のピーク面積値を差し引くことで、第2検液の特徴的なピークが第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積値を得るステップ(2)と、
を更に含む。
【0011】
好ましくは、前記ステップ(c)のクロマトグラフ質量分析計は、液体クロマトグラフ直結質量分析計(LC−MSMS)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC−MS)、ガスクロマトグラフ直結質量分析計(GC−MSMS)、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)、ガスクロマトグラフ飛行時間型質量分析計(GC/TOF)、液体クロマトグラフ−飛行時間型質量分析計(LC/TOF)、ガスクロマトグラフイオントラップ型質量分析計(GC/ion trap)、液体クロマトグラフイオントラップ型質量分析計(LC/ion trap)からなる群より選ぶことができる。
【0012】
本発明は、被験試料が某特定農薬を含有するかどうかを検査するために用いられる残留農薬検査システムを更に提供する。システムは、クロマトグラフ質量分析計とコンピュータ設備とを包括する。クロマトグラフ質量分析計は、第1検液及び第2検液の注入に供するための試料注入口を備え、第1、2検液が被験試料の抽出液から取り、第1検液とは抽出液内にいかなる農薬も別途添加されていないものをいい、第2検液とは抽出液内に少なくとも1種の濃度既知(X)の特定農薬が意図的に添加されているものをいう。コンピュータ設備は、クロマトグラフ質量分析計と電気的に接続し、第1検液及び第2検液のマスクロマトグラム(mass chromatogram)を作成するために用いられ、第2検液の特定農薬が特定の保持時間においてクロマトグラフ質量分析計で検出され、コンピュータ設備は、更に画像認識法で第1検液のマスクロマトグラムと第2検液のマスクロマトグラムを比較することで、第1検液が特定の保持時間において、特徴的なピークが現れ、その形状が第2検液の特定農薬の特徴的なピークと同一或いは近似し、且つその強度が第2検液の特定農薬の特徴的なピーク強度よりやや低い状況があるかどうかを判断し、その状況がなかった場合、被験試料に特定農薬が残留していないと判定し、その状況があった場合、画像分析法で第2検液の特徴的なピークが第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積を計算し、また第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積と特定農薬の濃度(X)の比例関係により、第1検液の特徴的なピークの面積から被験試料の残留農薬の濃度(Y)を推定するために用いられる。
【0013】
好ましくは、コンピュータ設備は、先に各々第2検液の特徴的なピーク及び第1検液の特徴的なピークに対し積分し、得られた積分値の差分を算出することで、第2検液の特徴的なピークが第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積値を得る。
【0014】
好ましくは、クロマトグラフ質量分析計は、液体クロマトグラフ直結質量分析計(LC−MSMS)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC−MS)、ガスクロマトグラフ直結質量分析計(GC−MSMS)、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)、ガスクロマトグラフ飛行時間型質量分析計(GC/TOF)、液体クロマトグラフ−飛行時間型質量分析計(LC/TOF)、ガスクロマトグラフイオントラップ型質量分析計(GC/ion trap)、液体クロマトグラフイオントラップ型質量分析計(LC/ion trap)からなる群より選ぶことができる。
【発明の効果】
【0015】
先に述べた本発明の残留農薬検査システム及び方法によれば、ペアとなる検液を順次にクロマトグラフ質量分析計に送り込んで分析し、各組の検液の間にその他の干渉試料を割り込むことなく、計器の感度低下の問題を効果的に解決できる。次に、本発明の残留農薬検査システム及び方法は、直接被験試料の検液内に濃度既知の農薬を添加することで、被験試料の残留農薬の濃度含有量を得るアプローチを逆推定するため、あらかじめ時間をかけて濃度の異なる農薬を調製して検量線を作成すると共に大量のコストを費やしてスペクトルデータベースを構築する必要がなく、同時に定性及び定量分析の目的を達成できる。更に重要なのは、本発明は、コンピュータを用いてデータを解読し、残留農薬の検査効率を効果的に向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る残留農薬検査システムの構造ブロック図である。
図2】本発明に係る残留農薬検査方法のフローチャートである。
図3】本発明で使用するペアとなる異なる被験試料の検液を示す図である。
図4】被験試料の第1検液のマスクロマトグラムで、特定農薬を添加していない検液を示す図である。
図5】被験試料の第2検液のマスクロマトグラムで、特定農薬を添加している検液を示す図である。
図6】別の被験試料の第1検液のマスクロマトグラムで、特定農薬を添加していない検液を示す図である。
図7】別の被験試料の第2検液のマスクロマトグラムで、特定農薬を添加している検液を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1及び図2は、各々本発明に係る残留農薬検査システム100及びその方法の好ましい実施例を示す図である。図1に示すように、残留農薬検査システム100は、クロマトグラフ質量分析計11とコンピュータ設備12とを含み、残留農薬検査方法を行うために用いられる。図2に示すように、残留農薬検査方法は、検液の調製101、計器による分析102、スペクトル比較103及び数値演算104等の4つのステップを大まかに包括する。
【0018】
検液の調製101のステップにおいて、まず被験試料から2つの同じ抽出液(Sample 1)を抽出し、それらを図3に示すような第1検液1及び第2検液2として調製する。被験試料の抽出液(Sample 1)とは、農作物の検体(例えば稲)が前処理(pretreatment)を経た後に得られる検液をいうが、これに限られるものではない。第1検液1とは、抽出液(Sample 1)内にいかなる農薬も別途添加されていないものをいい、つまりオリジナル抽出液であり、第2検液2とは、抽出液(Sample 1)内に少なくとも1種の濃度既知の特定農薬(STD)が意図的に添加されているものをいう。ここで留意すべき点は、第1検液1には、いかなる農薬も別途添加されていないものとするが、農作物の検体自体に農薬が残留しているため、含有量が未知の農薬成分が存在する可能性がある。
【0019】
複数種又は複数ロットの農作物の検査待ちがあった時、各農作物の検体(つまり、被験試料)について各々上記第1、2検液を調製できる。例えば、図3を参照すると、別の被験試料の第1検液3及び第2検液4が、各々別の被験試料の2つの同じ抽出液(Sample 2)で調製されてから成るもので、第1検液3にはいかなる農薬を別途添加せず、つまりオリジナル抽出液(Sample 2)であり、第2検液4には少なくとも1種の濃度既知の特定農薬(STD)が意図的に添加されている。同様に、更なる被験試料の第1検液5及び第2検液6が、各々更なる被験試料の2つの同じ抽出液(Sample 3)で調製されてから成るもので、第1検液5には、いかなる農薬を別途添加せず、つまりオリジナル抽出液(Sample 3)であり、第2検液6には少なくとも1種の濃度既知の特定農薬(STD)を意図的に添加し、以後も同様とする。
【0020】
上述をまとめると、各組の検液は、いかなる農薬も別途添加されていない第1検液1、3、5と、濃度既知の特定農薬が意図的に添加されている第2検液2、4、6とを包括する。実際、現行の法規によれば、検査待ちの食品中残留農薬種類が310種類以上に達するため、本発明内の各組の第2検液内には、いずれも310種類以上に達する特定農薬(STD)が意図的に添加される。その具体的なアプローチは予め310種類の特定農薬を農薬混合液として混合し、そしてそれを被験試料から抽出された抽出液に添加して第2検液となる。一般的に言うと、計器条件の設定に間違いがなければ、各組の検液の第1、2検液内の各種農薬がクロマトグラフ過程中、対応する特定の保持時間(retention time)において分析され、これをもって異なる種類の農薬を識別できる。次に、異なる種類の農薬にも特殊な質量分析計(例えば:分析飛行時間型質量分析計(GC/LC/DART−TOF))を組み合わせて識別や立証することができる。これ以外に、本発明は、従来技術のように異なる濃度でマトリックスマッチング検量線を作成することはなく、残留農薬の含有量を検査することができるため、各組の第2検液内に意図的に添加されている特定農薬(STD)は、更に同一の種類及び濃度を選定でき、これにより、調製時間を短縮し、検査速度を加速する。ここで説明を簡略化するため、農薬混合液内のうちのいずれか1種の濃度既知(X)の特定農薬(STD)についてのみ説明し、且つ各組の検液の第2検液は、等しく同一の濃度既知(X)の特定農薬(STD)が添加されることで、被験試料内に特定農薬(STD)が残留しているかどうか及びその含有量を検査する。
【0021】
これら検液が全て調製を終えた後、計器による分析102のステップを開始し、ステップは、各組の検液の第1、2検液を順次にクロマトグラフ質量分析計11の試料注入口10に注入して計器による分析を行うことで、対応するマスクロマトグラム(mass chromatogram)を各々作成する。各組の検液の第1検液(Sample N)及び第2検液(Sample N+STD)がクロマトグラフ質量分析計11に注入される優先順位は、決まっておらず、第1検液及び第2検液は連続的(その間に他の検液又は薬剤を割り込まないよう)にクロマトグラフ質量分析計11に注入されるだけでよく、これにより計器の感度の影響を最小限まで軽減する。計器条件の設定に間違いがなければ、各組の検液の第2検液内の特定農薬は、特定の保持時間においてクロマトグラフ質量分析計11で検出される。好ましくは、クロマトグラフ質量分析計11は、液体クロマトグラフ直結質量分析計(LC−MSMS)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC−MS)、ガスクロマトグラフ直結質量分析計(GC−MSMS)、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)、ガスクロマトグラフ飛行時間型質量分析計(GC/TOF)、液体クロマトグラフ−飛行時間型質量分析計(LC/TOF)、ガスクロマトグラフイオントラップ型質量分析計(GC/ion trap)、液体クロマトグラフイオントラップ型質量分析計(LC/ion trap)或いは他の質量分析計から選ぶことができる。
【0022】
これらマスクロマトグラムをキャプチャした後、すぐスペクトル比較103のステップを開始でき、例えば利用コンピュータ画像認識及びアルゴリズムで各組の検液の第1検液(Sample N)のマスクロマトグラムと第2検液(Sample N + STD)のマスクロマトグラム内から特徴的なピーク態様、信号の強度或いは面積(積分値)を比較することで、被験試料に特定農薬が残留しているかどうかを分析すると共にその残留農薬の含有量を計算して、定性及び定量の目的を達成できる。
【0023】
詳細に言うと、スペクトル比較103のステップにおいて、まずコンピュータ画像認識法で各組の第1検液(Sample N)のマスクロマトグラムと第2検液(Sample N + STD)のマスクロマトグラムを比較することで、第1検液が特定の保持時間において、特徴的なピークが現れ、その形状が第2検液の特定農薬の特徴的なピークと同一或いは近似し、且つその強度が第2検液の特定農薬の特徴的なピーク強度よりやや低い状況があるかどうかを判断する。ここで第1組の被験試料の抽出液(Sample 1)を例にすると、第1検液1と第2検液2が同じ保持時間において、第1検液1について、いかなる特徴的なピークが現れ「ない」場合、又はその形状が第2検液2の特定農薬の特徴的なピークと同一でない或いは近似していない場合、或いはその強度が第2検液2の特定農薬の特徴的なピーク強度よりはるかに低い場合、被験試料に特定農薬が残留していないと判定する。逆に、第1検液1と第2検液2が同じ保持時間において、第1検液1について、特徴的なピークが「現れた」場合、若しくはその形状が第2検液2の特定農薬の特徴的なピークと同一或いは近似し、且つその強度が第2検液2の特定農薬の特徴的なピーク強度よりやや低い場合、第1検液1内に特定農薬と同じ残留農薬が含有されていることを示し、且つ第1検液の特徴的なピークの面積(積分値)がちょうど被験試料内の残留農薬の濃度(Y)を表わす。同様に、第2検液は、被験試料の抽出液内に濃度既知(X)の特定農薬(STD)を別途添加したため、その特徴的なピークの面積(積分値)が残留農薬の濃度(Y)及び添加された某種の特定農薬の既知濃度(X)の総和を表わす。
【0024】
例を挙げると、図4及び図5は、いかなる農薬も自主的に添加されていない稲検液(つまり第1検液)及び濃度既知のイソプロチオラン(Isoprothiolane)農薬が添加された稲検液(つまり第2検液)のマスクロマトグラムである。図4及び図5を比較すると分かるように、2つのマスクロマトグラムは、同じ保持時間(約11.5min)において各々形状の同一或いは近似した特徴的なピークが現れ、図5のイソプロチオラン農薬が添加された稲検液の特徴的なピークは、図4の農薬が添加されていない稲検液の特徴的なピークより高い。これをもって図4の特徴的なピークによれば、稲検液内に添加したイソプロチオラン農薬と同じ残留農薬が含有し、つまり稲検体に微量のイソプロチオラン農薬が残留していることを判定できる。図5の特徴的なピークが図4の特徴的なピークより高いのは、別途添加したイソプロチオラン農薬に起因したものである。簡単にいうと、図4のオリジナル稲検液の特徴的なピークの面積(積分値)は、稲検液内の残留農薬の濃度(Y1)を表わし、図5の特別にイソプロチオラン農薬が添加された稲検液の特徴的なピークの面積(積分値)は、残留農薬の濃度(Y1)及び添加されたイソプロチオラン農薬の既知濃度(X1)の総和であることを表わす。言い換えると、第2検液の特徴的なピークが、第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積(積分値)は、添加されたイソプロチオラン農薬の既知濃度(X1)を表わす。
【0025】
他の異なる農薬の測定例において、図6(第1検液のマスクロマトグラム)及び図7(第2検液のマスクロマトグラム)に示すように、マスクロマトグラムの比較から各自同じ保持時間において形状の同一或いは近似した2つの特徴的なピークが現れことを発見できるが、コンピュータ画像の分析比較を通じて図7内の右側の比較的小さな特徴的なピークは、図6内の右側の比較的小さな特徴的なピークより高くなく、逆に略近似することが分かるため、比較的小さな特徴的なピークは、試料のマトリックス効果又は他の要員に起因したもので、残留農薬の特徴的なピークでないことを推測できるため、無視して計算しないでもよい。逆に、図7内の左側の比較的大きな特徴的なピークは、図6内の左側の比較的大きな特徴的なピークより高いため、残留農薬の特徴的なピークであることを推定できる。よって、図6内の左側の比較的大きな特徴的なピークの面積(積分値)は、被験試料の残留農薬の濃度(Y2)を表わし、図7内の左側の比較的大きな特徴的なピークの面積(積分値)は、残留農薬の濃度(Y2)及び添加された別の農薬(procymidone)の既知濃度(X2)の総和であることを表わす。言い換えると、図7内の左側の比較的大きな特徴的なピークにおいて、図6内の左側の比較的大きな特徴的なピークより高い部分は、添加された農薬(procymidone)の既知濃度(X2)を表わすものである。
【0026】
スペクトルの解読を経た後、残留農薬の具体的濃度(Y)を求めるため、数値演算104を行うことができる。先に述べたように、第2検液2の特徴的なピークが第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積(積分値)は、添加された特定農薬の既知濃度(X)を表わす。よって、第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積(積分値)と特定農薬の既知濃度(X)の比例関係に基づくと、第1検液1の特徴的なピークの面積(積分値)から残留農薬の濃度(Y)を推定できる。第1検液の特徴的なピークより高い部分の面積(積分値)の取得は、先に各々第1検液1の特徴的なピーク及び第2検液2の特徴的なピークに対し積分を行い、そして得られた積分値の差分を算出することで、求めることができる。
【0027】
なお、各種特定農薬の属性は全て異なり、ある特定農薬が低濃度下でのみ計器で効果的且つ特徴的なピーク形状を検出して画像の分析・判断に供されることができる。しかし、ある特定農薬は異なり、十分高い濃度において明確に検出することができる。よって、好ましくは、農薬標準混合液(STD)を調製する時、濃度の異なる需要の複数種の農薬のグループ分けを行うことで、異なる農薬グループ内に異なる用量を与えて1つの複数種の濃度の農薬グループを含む農薬混合液(STD)として調製する。つまり、農薬混合液(STD)内において、ある農薬グループでは比較的低い濃度(例えば10 ppb)を有し、ある農薬グループが比較的高い濃度(例えば200 ppb)を有し、これを介して最も簡略化された調製プロセスにおいて、全ての標準農薬が計器による検査中、効果的且つ特徴的なピーク形状を表すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
上述をまとめると、本発明の残留農薬検査システム及び方法は、ペアとなる検液を順次にクロマトグラフ質量分析計に送り込んで分析し、各組の検液の間にその他の干渉試料を割り込むことなく、計器の感度低下の問題を効果的に解決できる。次に、本発明の残留農薬検査システム及び方法は、直接被験試料の検液内に濃度既知の農薬を添加することで、被験試料の残留農薬の濃度含有量を得るアプローチを逆推定するため、あらかじめ時間をかけて濃度の異なる農薬を調製して検量線を作成すると共に大量のコストを費やしてスペクトルデータベースを構築する必要がなく、同時に定性及び定量分析の目的を達成できる。更に重要なのは、従来の検量線を利用するアプローチに比べ、本発明の残留農薬検査システム及びその方法は、コンピュータで解読し、データ解読の時間を大幅に減らし、残留農薬検査効率を効果的に向上できる。
【符号の説明】
【0029】
100 残留農薬検査システム
10 注入口
101 検液調製
102 計器による分析
103 スペクトル比較
104 数値演算
11 クロマトグラフ質量分析計
12 コンピュータ設備
1、3、5 第1検液
2、4、6 第2検液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7