特許第6371483号(P6371483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371483
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】エステル化セルロースエーテルのゲル化
(51)【国際特許分類】
   C08B 13/00 20060101AFI20180730BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20180730BHJP
   A61K 9/36 20060101ALI20180730BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20180730BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20180730BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20180730BHJP
【FI】
   C08B13/00
   A61K47/38
   A61K9/36
   A61K9/48
   A61K9/16
   A23L33/10
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-548127(P2017-548127)
(86)(22)【出願日】2016年3月8日
(65)【公表番号】特表2018-509506(P2018-509506A)
(43)【公表日】2018年4月5日
(86)【国際出願番号】US2016021326
(87)【国際公開番号】WO2016148976
(87)【国際公開日】20160922
【審査請求日】2017年9月12日
(31)【優先権主張番号】62/133,518
(32)【優先日】2015年3月16日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100147212
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー・ピーターマン
(72)【発明者】
【氏名】マティアス・クナール
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/031447(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/031446(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/031418(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/137789(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/031448(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/031419(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/031422(WO,A1)
【文献】 特表2013−532151(JP,A)
【文献】 特開昭62−081402(JP,A)
【文献】 特開昭57−002218(JP,A)
【文献】 特開昭57−063301(JP,A)
【文献】 特公昭48−019552(JP,B1)
【文献】 国際公開第2014/137777(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/154607(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/137779(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/137778(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族一価アシル基及び式−C(O)−R−COOH(Rは二価の炭化水素基である)の基を含む、エステル化セルロースエーテルであって、
i)基−C(O)−R−COOHの中和度が0.4以下であり、
ii)総エステル置換度が0.03〜0.38であり、
iii)前記エステル化セルロースエーテルが、20℃で少なくとも2.0重量パーセントの、水への溶解性を有する、エステル化セルロースエーテル。
【請求項2】
前記総エステル置換度が0.09〜0.27である、請求項1に記載のエステル化セルロースエーテル。
【請求項3】
0.03〜0.20の脂肪族一価アシル基の置換度及び0.01〜0.15の式−C(O)−R−COOHの基の置換度を有する、請求項1または請求項2に記載のエステル化セルロースエーテル。
【請求項4】
前記脂肪族一価アシル基がアセチル、プロピオニル、またはブチリル基であり、前記式−C(O)−R−COOHの前記基が−C(O)−CH−CH−COOHである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエステル化セルロースエーテル。
【請求項5】
前記エステル化セルロースエーテルの少なくとも85重量%が、2℃で2.5重量部の前記エステル化セルロースエーテルと97.5重量部の水との混合物に可溶性である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエステル化セルロースエーテル。
【請求項6】
水性液体に溶解した請求項1〜5のいずれか1項に記載のエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテルと、有機希釈剤とを含む、液体組成物。
【請求項8】
コーティングされた剤形であって、前記コーティングが、請求項1〜5のいずれか1項に記載の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテルを含む、コーティングされた剤形。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテルを含む、ポリマーのカプセルシェル。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテル中の少なくとも1種の活性成分の固体分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なエステル化セルロースエーテル、及びカプセルシェルを生成するためまたは剤形をコーティングするためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエーテルのエステル、それらの使用、及びそれらを調製するためのプロセスは、例えば、難水溶性の薬物の水溶解性を改善すること、またはカプセルもしくはコーティングを調製することで、当該技術分野において一般的に知られている。
【0003】
現在知られている多数の薬物は、水への低溶解性を有し、故に、剤形を調製するためには複雑な技術が必要とされる。1つの知られている方法は、そのような薬物を、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)などの薬学的に許容される水溶性ポリマーと一緒に、有機溶媒及び水のブレンドに溶解させ、溶液を噴霧乾燥することを含む。薬学的に許容される水溶性ポリマーは、薬物の結晶化度を低減させ、それによって薬物の溶解に必要な活性化エネルギーを最小化すること、ならびに薬物分子の周囲に親水性条件を確立し、それによって薬物自体の溶解性を改良して、その生物学的利用能、すなわち、摂取したときの個人によるその体内吸収性を増加させることを目的とする。
【0004】
国際特許出願第WO2005/115330号は、置換度の特定の組み合わせを有するHPMCASポリマーを開示している。HPMCASポリマーは、少なくとも0.02のスクシノイル基の置換度(DOS)、少なくとも0.65のアセチル基の置換度(DOSAc)、ならびに少なくとも0.85のDOSAc及びDOSの合計を有する。WO2005/115330は、増加したアセテート置換が噴霧乾燥溶液中の活性剤の増加した溶解性を可能にし、一方、増加したスクシネート置換が水溶液中のポリマーの溶解性を増加させることを開示している。
【0005】
国際特許出願第WO2011/159626号は、活性成分と、メトキシ基の置換度(DS)≦1.45、ならびにアセチル基(DSAc)及びスクシノイル基(DS)の組み合わせた置換度(DSAc+DS)≧1.25を有するHPMCASとを開示している。
【0006】
エステル化セルロースエーテルが、カルボキシル基を有するエステル基を含む場合、水性液中のエステル化セルロースエーテルの溶解性は、典型的にはpHに依存する。例えば、水性液中でのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の溶解性は、スクシニル基またはスクシノイル基とも呼ばれるスクシネート基の存在によりpH依存性である。pH依存性溶解性は酸性官能基の置換度に依存する。pH及びHPMCASの中和度に依存する様々な種類のHPMCASの溶解時間が、McGinity、James W.Aqueous Polymeric Coatings for Pharmaceutical Dosage Forms、New York、M.Dekker、1989、105−113頁において詳細に論じられている。上記の論文Aqueous Polymeric Coatings for Pharmaceutical Dosage Formsは、112頁の図16において、スクシノイル、アセチル、及びメトキシル基での異なる置換度を有するHPMCASのいくつかの等級の、HPMCASの中和度に依存した純水中及び0.1NのNaCl中での溶解時間を説明している。HPMCAS、及びNaClの存在または非存在に依存して、HPMCASは、約0.55〜1の間の中和度を有する場合に可溶性である。約0.55の中和度より低い場合、全てのHPMCASの等級は純水及び0.1NのNaClに不溶性である。
【0007】
国際特許出願第WO2013/164121号には、HPMCASからカプセルを調製するための多くの技術が、得られるカプセルシェルの水感受性もしくは脆性をもたらす塩もしくはpH調節剤を依然として要すること、複数の処理工程を要すること、及び/または非水性媒体中で処理する必要があることが教示されている。これらの問題を解決するために、WO2013/164121は、水に分散したHPMCASポリマーを含む水性組成物を開示しており、そのポリマーは、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、カチオン性ポリマー、及びこれらの混合物などの少なくとも1種のアルカリ性材料で部分的に中和されている。
【0008】
難水溶性の薬物の水溶解性を改良するか、カプセルを調製するか、または水に可溶性であるためにpH調節剤の存在を必要としない剤形をコーティングするのに有用である、新規なエステル化セルロースエーテルを提供することが依然として至急に必要とされている。特に、カルボキシル基を担持し、かつカルボキシル基の大部分が中和されていない場合でさえも水に可溶性である、新規なエステル化セルロースエーテルを提供することが望ましいであろう。
【0009】
驚くべきことに、カルボキシル基中和度が0.4以下であるが、水に可溶性である、カルボキシル基を担持する新規なエステル化セルロースエーテルが見出された。更により驚くべきことに、これらの新規なエステル化セルロースエーテルの水溶液が、室温で調製され得、水溶液が、上昇した温度でゲル化することが見出され、このことにより、該水溶液は、剤形をコーティングするか、またはカプセルシェルを生成するのに非常に好適となっている。
【発明の概要】
【0010】
本発明の一態様は、脂肪族一価アシル基及び式−C(O)−R−COOH(Rは二価の炭化水素基である)の基を含む、エステル化セルロースエーテルであって、
i)基−C(O)−R−COOHの中和度が0.4以下であり、
ii)総エステル置換度が0.03〜0.38であり、
iii)エステル化セルロースエーテルが、20℃で少なくとも2.0重量パーセントの、水への溶解性を有する、エステル化セルロースエーテルである。
【0011】
本発明の別の態様は、水性希釈剤に溶解した上述のエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物である。
【0012】
本発明の更に別の態様は、上述のエステル化セルロースエーテル及び有機希釈剤を含む液体組成物である。
【0013】
本発明の更に別の態様は、上述の組成物を剤形と接触させる工程を含む、剤形をコーティングするためのプロセスである。
【0014】
本発明の更に別の態様は、上記の組成物を浸漬ピンと接触させる工程を含む、カプセルシェルの製造プロセスである。
【0015】
本発明の更に別の態様は、コーティングが少なくとも1種の上述のエステル化セルロースエーテルを含む、コーティングされた剤形である。
【0016】
本発明の更に別の態様は、少なくとも1種の上述のエステル化セルロースエーテルを含む、ポリマーのカプセルシェルである。
【0017】
本発明の更に別の態様は、上記のカプセルシェルを含み、薬物または栄養補助剤もしくは食品補助剤、あるいはそれらの組み合わせを更に含む、カプセルである。
【0018】
本発明の更に別の態様は、少なくとも1種の上述のエステル化セルロースエーテル中の少なくとも1種の活性成分の固体分散体である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】70℃に加熱した後の、HPMCASを調製するための出発材料として使用されたヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の2重量%水溶液の写真表現である。
図1B】HPMC溶液を含有するガラスボトルが逆さにされたことを除いて、図1Aに表現される2重量%HPMC水溶液の写真表現である。
図2】溶液を70℃に加熱した後の実施例1〜4のHPMCASの2重量%水溶液の写真表現である。HPMCAS溶液を含有するガラスボトルは、HPMCAS溶液がゲルを形成したことを例示するために逆さにされている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
驚くべきことに、本発明のエステル化セルロースエーテルは、20℃で少なくとも2.0重量パーセントの、水への溶解性を有することが見出された。沈殿物のない透明または不透明の溶液は、20℃で得られる。その上、本発明のエステル化セルロースエーテルの水溶液は、上昇した温度でゲル化する。これにより、本発明のエステル化セルロースエーテルが、様々な用途において、例えば、カプセルを生成するためまたは剤形をコーティングするために極めて有用となる。本発明のエステル化セルロースエーテルの利点を以下により詳細に記載する。
【0021】
エステル化セルロースエーテルは、本発明の文脈において無水グルコース単位として表される、β−1,4グリコシド結合したD−グルコピラノース繰り返し単位を有するセルロース骨格を有する。エステル化セルロースエーテルは、好ましくは、エステル化アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、またはヒドロキシアルキルアルキルセルロースである。これは、本発明のエステル化セルロースエーテルにおいて、無水グルコース単位のヒドロキシル基の少なくとも一部が、アルコキシル基もしくはヒドロキシアルコキシル基、またはアルコキシル基とヒドロキシアルコキシル基との組み合わせにより置換されていることを意味する。ヒドロキシアルコキシル基は、典型的には、ヒドロキシメトキシル、ヒドロキシエトキシル、及び/またはヒドロキシプロポキシル基である。ヒドロキシエトキシル及び/またはヒドロキシプロポキシル基が好ましい。典型的には、1種類または2種類のヒドロキシアルコキシル基がエステル化セルロースエーテルに存在する。好ましくは、単一の種類のヒドロキシアルコキシル基、より好ましくはヒドロキシプロポキシルが存在する。アルコキシル基は、典型的には、メトキシル、エトキシル、及び/またはプロポキシル基である。メトキシル基が好ましい。上記で定義されたエステル化セルロースエーテルの例は、エステル化メチルセルロース、エチルセルロース、及びプロピルセルロースなどのエステル化アルキルセルロース、エステル化ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシブチルセルロースなどのエステル化ヒドロキシアルキルセルロース、エステル化ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、及びヒドロキシブチルエチルセルロースなどのエステル化ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、ならびにエステル化ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの2つ以上のヒドロキシアルキル基を有するものが挙げられる。最も好ましくは、エステル化セルロースエーテルは、エステル化ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのエステル化ヒドロキシアルキルメチルセルロースである。
【0022】
ヒドロキシアルコキシル基による無水グルコース単位のヒドロキシル基の置換度は、ヒドロキシアルコキシル基のモル置換、すなわちMS(ヒドロキシアルコキシル)によって表示される。MS(ヒドロキシアルコキシル)は、エステル化セルロースエーテルにおける無水グルコース単位当たりのヒドロキシアルコキシル基の平均モル数である。ヒドロキシアルキル化反応の間に、セルロース骨格に結合したヒドロキシアルコキシル基のヒドロキシル基は、アルキル化剤、例えば、メチル化剤、及び/またはヒドロキシアルキル化剤によって更にエーテル化され得ることを理解されたい。無水グルコース単位の同じ炭素原子位置に対する複数のその後のヒドロキシアルキル化エーテル化反応は側鎖を生み出し、その場合、複数のヒドロキシアルコキシル基がエーテル結合によって互いに共有結合しており、各側鎖は全体としてセルロース骨格にヒドロキシアルコキシル置換基を形成している。
【0023】
故に、「ヒドロキシアルコキシル基」という用語は、ヒドロキシアルコキシル置換基の構成単位としてのヒドロキシアルコキシル基を指すものとして、MS(ヒドロキシアルコキシル)の文脈において解釈されるべきであり、上に概説されるように、単一のヒドロキシアルコキシル基または側鎖を含み、2つ以上のヒドロキシアルコキシ単位は、エーテル結合によって互いに共有結合している。この定義内で、ヒドロキシアルコキシル置換基の末端ヒドロキシル基が更にアルキル化、例えばメチル化されるかどうかは重要ではなく、アルキル化及び非アルキル化両方のヒドロキシアルコキシル置換基が、MS(ヒドロキシアルコキシル)の決定に対して含まれる。本発明のエステル化セルロースエーテルは、一般に、0.05〜1.00、好ましくは0.08〜0.70、より好ましくは0.15〜0.60、最も好ましくは0.15〜0.40、特に0.20〜0.40の範囲のヒドロキシアルコキシル基のモル置換を有する。
【0024】
無水グルコース1単位当たりメトキシル基等のアルコキシル基によって置換されたヒドロキシル基の平均数は、アルコキシル基の置換度、すなわち、DS(アルコキシル)と称される。上記のDSの定義において、「アルコキシル基によって置換されたヒドロキシル基」という用語は、本発明内では、セルロース骨格の炭素原子に直接的に結合したアルキル化ヒドロキシル基だけでなく、セルロース骨格に結合したヒドロキシアルコキシル置換基のアルキル化ヒドロキシル基も包含するものとして解釈されるべきである。本発明によるエステル化セルロースエーテルは、一般に、1.0〜2.5、好ましくは1.2〜2.2、より好ましくは1.6〜2.05、最も好ましくは1.7〜2.05の範囲のDS(アルコキシル)を有する。
【0025】
最も好ましくは、エステル化セルロースエーテルは、DS(アルコキシル)について上に示した範囲内のDS(メトキシル)及びMS(ヒドロキシアルコキシル)について上に示した範囲内のMS(ヒドロキシプロポキシル)を有するエステル化ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
【0026】
本発明のエステル化セルロースエーテルは、エステル基として、式−C(O)−R−COOHの基(式中、Rは、−C(O)−CH−CH−COOHなどの二価炭化水素基である)、及びアセチル、プロピオニル、またはn−ブチリルもしくはi−ブチリルなどのブチリルなどの脂肪族一価アシル基を含む。エステル化セルロースエーテルの具体的な例は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートスクシネート(HPCAS)、ヒドロキシブチルメチルセルロースプロピオネートスクシネート(HBMCPrS)、ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロースプロピオネートスクシネート(HEHPCPrS)、またはメチルセルロースアセテートスクシネート(MCAS)である。ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)が最も好ましいエステル化セルロースエーテルである。
【0027】
本発明のエステル化セルロースエーテルの本質的な特徴は、それらの総エステル置換度、具体的には、i)脂肪族一価アシル基の置換度、及びii)式−C(O)−R−COOHの基の置換度の合計である。総エステル置換度は、少なくとも0.03、好ましくは少なくとも0.05、より好ましくは少なくとも0.07、更に好ましくは少なくとも0.09、最も好ましくは少なくとも0.11である。総エステル置換度は、0.38以下、好ましくは最大で0.35、より好ましくは最大で0.31、更により好ましくは最大で0.27、最も好ましくは最大で0.20である。エステル化セルロースエーテルは、2重量%の濃度で、20℃で透明な水溶液を形成する。
【0028】
本発明のエステル化セルロースエーテルは、一般に、少なくとも0.01、好ましくは少なくとも0.02、より好ましくは少なくとも0.03、最も好ましくは少なくとも0.04の、アセチル、プロピオニル、またはブチリル基などの脂肪族一価アシル基の置換度を有する。エステル化セルロースエーテルは、一般に、最大で0.35、好ましくは最大で0.30、より好ましくは最大で0.25、最も好ましくは最大で0.20の脂肪族一価アシル基の置換度を有する。
【0029】
本発明のエステル化セルロースエーテルは、一般に、少なくとも0.005、好ましくは少なくとも0.01、より好ましくは少なくとも0.02の、スクシノイルなどの式−C(O)−R−COOHの基の置換度を有する。エステル化セルロースエーテルは、一般に、最大で0.18、好ましくは最大で0.16、より好ましくは最大で0.14の式−C(O)−R−COOHの基の置換度を有する。
【0030】
その上、i)脂肪族一価アシル基の置換度、及びii)式−C(O)−R−COOHの基の置換度、及びiii)アルコキシル基の置換度、すなわち、DS(アルコキシル)の合計は、一般に、2.40以下、好ましくは2.30以下、より好ましくは2.25以下、最も好ましくは2.20以下である。このような置換度の合計を有するエステル化セルロースエーテルは、一般に、2重量%の濃度で透明な水溶液を形成する。エステル化セルロースエーテルは、一般に、少なくとも1.60、好ましくは少なくとも1.75、より好ましくは少なくとも1.90、最も好ましくは少なくとも2.00の、i)脂肪族一価アシル基、及びii)式−C(O)−R−COOHの基、及びiii)アルコキシル基の置換度の合計を有する。
【0031】
アセテート及びスクシネートエステル基の含有量は、「Hypromellose Acetate Succinate、United States Pharmacopia and National Formulary、NF29、1548−1550頁」に従って決定される。報告された値は揮発性物質について補正される(上記のHPMCASモノグラフの節「loss on drying」に記載されているように決定される)。その方法は、プロピオニル、ブチリル、及び他のエステル基の含有量を決定するために類似の手法で使用してよい。
【0032】
エステル化セルロースエーテルにおけるエーテル基の含有量は、「Hypromellose」、United States Pharmacopeia and National Formulary、USP35、3467−3469頁に記載されているものと同じ手法で決定される。
【0033】
上記の分析によって得られたエーテル及びエステル基の含有量は、以下の式に従って個々の置換基のDS及びMS値に変換される。その式は、他のセルロースエーテルエステルの置換基のDS及びMSを決定するために類似の手法で使用してよい。
【0034】
【数1】
【0035】
慣例により、重量パーセントは、全ての置換基を含むセルロース繰り返し単位の総重量を基準とする平均重量百分率である。メトキシル基の含有量は、メトキシル基の質量(すなわち、−OCH)の質量を基準として報告される。ヒドロキシアルコキシル基の含有量は、ヒドロキシプロポキシル(すなわち、−O−CHCH(CH)−OH)などのヒドロキシアルコキシル基(すなわち、−O−アルキレン−OH)の質量を基準として報告される。脂肪族一価アシル基の含有量は、−C(O)−R(式中、Rは、アセチル(−C(O)−CH)などの一価脂肪族基である)の質量を基準として報告される。式−C(O)−R−COOHの基の含有量は、この基の質量、例えばスクシノイル基(すなわち、−C(O)−CH−CH−COOH)の質量を基準として報告される。
【0036】
本発明のエステル化セルロースエーテルは、一般に、最大で500,000ダルトン、好ましくは最大で200,000ダルトン、より好ましくは最大で150,000ダルトン、最も好ましくは最大で100,000ダルトン、または最大で50,000ダルトンの重量平均分子量Mを有する。一般に、それらは、少なくとも10,000ダルトン、好ましくは少なくとも15,000ダルトン、より好ましくは少なくとも20,000ダルトン、最も好ましくは少なくとも25,000ダルトンの重量平均分子量Mを有する。
【0037】
本発明のエステル化セルロースエーテルは、一般に、少なくとも1.2、典型的には少なくとも1.3の多分散度M/M、すなわち、重量平均分子量Mの数平均分子量Mに対する比を有する。その上、本発明のエステル化セルロースエーテルは、一般に、最大で2.6、好ましくは最大で2.3、より好ましくは最大で1.9、最も好ましくは最大で1.6の多分散度を有する。
【0038】
及びMは、アセトニトリル40体積部と、50mMのNaHPO及び0.1MのNaNOを含有する水性緩衝液60体積部との混合物を移動相として使用して、Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 56(2011)743に従って測定される。移動相は8.0のpHに調整される。M及びMの測定は、実施例においてより詳細に記載されている。
【0039】
本発明のエステル化セルロースエーテルにおいて、基−C(O)−R−COOHの中和度は、0.4以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下、最も好ましくは0.1以下、特に0.05以下または更に0.01以下である。中和度は、本質的にゼロであってもよく、それよりわずかに上、例えば、最大で10−3または更に最大で10−4だけであってもよい。本明細書で使用される場合、「中和度」という用語は、脱プロトン化カルボキシル基及びプロトン化カルボキシル基の合計に対する脱プロトン化カルボキシル基の比、すなわち、
中和度=[−C(O)−R−COO]/[−C(O)−R−COO+−C(O)−R−COOH]を定義する。
【0040】
本発明のエステル化セルロースエーテルの別の本質的な性質は、その水溶解性である。驚くべきことに、本発明のエステル化セルロースエーテルは、20℃で少なくとも2.0重量パーセントの、水への溶解性を有する。すなわち、それは、20℃で、少なくとも2.0重量パーセントの水溶液、好ましくは少なくとも3.0重量パーセントの水溶液、より好ましくは少なくとも5.0重量パーセントの水溶液、最も好ましくは更に少なくとも10.0重量パーセントの水溶液として溶解する。一般に、本発明のエステル化セルロースエーテルは、20℃の温度で、最大で20重量パーセントの水溶液として、または最も好ましい実施形態では最大で30重量パーセントの水溶液としてさえ溶解され得る。本明細書で使用される場合、「20℃でx重量パーセントの水溶液」という用語は、xgのエステル化セルロースエーテルが20℃で(100−x)gの水に可溶性であることを意味する。
【0041】
実施例の節に記載されているように水溶解性を決定するとき、本発明のエステル化セルロースエーテルは、好ましくは、エステル化セルロースエーテルの少なくとも85重量%、典型的には少なくとも90重量%、より典型的には少なくとも95重量%、ほとんどの場合には少なくとも99重量%が、2℃で2.5重量部のエステル化セルロースエーテルと97.5重量部との混合物に溶解性である溶解性質を有する。典型的には、この溶解度は、2℃で5または10重量部のエステル化セルロースエーテルと95または90重量部の水との混合物、または更に、2℃で20重量部のエステル化セルロースエーテルと80重量部の水との混合物においても観察される。
【0042】
より一般的な言い方をすれば、驚くべきことに、本発明のエステル化セルロースエーテルは、基−C(O)−R−COOHのその低い中和度にもかかわらず、エステル化セルロースエーテルが、エステル化セルロースエーテルの中和度を0.4超または上で列挙された好ましい範囲まで増加させない水性液とブレンドされた場合であっても、例えば、エステル化セルロースエーテルが脱イオン水または蒸留水などの水のみとブレンドされた場合であっても、20℃の温度で水性液に可溶性であることが見出された。沈殿物のない透明または不透明の溶液は、20℃で得られる。その上、本発明のエステル化セルロースエーテルの水溶液が、上昇した温度、典型的には50〜90℃、より典型的には60〜80℃でゲル化することが見出された。これにより、本発明のエステル化セルロースエーテルは、様々な用途において、例えば、カプセルを生成するため及び剤形をコーティングするために極めて有用となる。非常に驚くべきことに、水に溶解されている場合に上昇した温度でゲル化するエステル化セルロースエーテルが、本発明によって提供される。更により驚くべきことに、上昇した温度での、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)などのエステル化セルロースエーテルの水溶液のゲル化は、エステル化セルロースエーテルを生成するための出発材料として使用されるセルロースエーテルの水溶液がゲル化しない場合であっても、観察される。例えば、本発明の実施例は、それらを調製するための出発材料として使用される対応するヒドロキシプロピルメチルセルロースが、顕著な程度にはゲル化しないが、本発明のHPMCASゲル化を例示する。本発明のエステル化セルロースエーテルのゲル化は、エステル化ヒドロキシアルキルアルキルセルロース及び水性液の総重量を基準として、0.5〜30重量パーセント、典型的には1〜25重量パーセント、より典型的には2〜20重量パーセントなどの低濃度で生じさえする。本発明のエステル化セルロースエーテル、具体的にはHPMCAS材料は、上述のように上昇した温度でしっかりした弾性ゲルに変換さえする。ゲル化は可逆的である、すなわち、20℃に冷却すると、ゲルは液体の水溶液に変換する。
【0043】
本発明のエステル化セルロースエーテルが可溶性である水性液は、少量の有機液体希釈剤を追加的に含んでいてよい。しかしながら、水性液は、一般に、水性液の総重量を基準として、少なくとも80、好ましくは少なくとも85、より好ましくは少なくとも90、特に少なくとも95重量パーセントの水を含むべきである。本明細書で使用される場合、「有機液体希釈剤」という用語は、1種の有機溶媒または2種以上の有機溶媒の混合物を意味する。好ましい有機液体希釈剤は、酸素、窒素、または塩素のようなハロゲンなどの1つ以上のヘテロ原子を有する極性有機溶媒である。より好ましい有機液体希釈剤は、アルコール、例えばグリセロールなどの多官能性アルコール、または好ましくはメタノール、エタノール、イソプロパノール、またはn−プロパノールなどの単官能性アルコール、テトラヒドロフランなどのエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、またはメチルイソブチルケトンなどのケトン、エチルアセテートなどのアセテート、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素、またはアセトニトリルなどのニトリルである。より好ましくは、有機液体希釈剤は、1〜6個、最も好ましくは1〜4個の炭素原子を有する。水性液は、塩基性化合物を含んでいてよいが、得られるエステル化セルロースエーテルと水性液とのブレンドにおけるエステル化セルロースエーテルの基−C(O)−R−COOHの中和度は、0.4を超えるべきでなく、好ましくは0.3以下または0.2以下または0.1以下、より好ましくは0.05以下または0.01以下、最も好ましくは10−3以下または更に10−4以下である。好ましくは、水性液は、実質的な量の塩基性化合物を含まない。より好ましくは、水性希釈剤は、塩基性化合物を含有しない。更により好ましくは、水性液は、水性液の総重量を基準として、80〜100パーセント、好ましくは85〜100パーセント、より好ましくは90〜100パーセント、最も好ましくは95〜100パーセントの水、及び0〜20パーセント、好ましくは0〜15パーセント、より好ましくは0〜10パーセント、最も好ましくは0〜5パーセントの有機液体希釈剤を含む。最も好ましくは、水性液は、水、例えば、脱イオン水または蒸留水からなる。
【0044】
本発明のエステル化セルロースエーテルは、一般に、20℃で0.43重量%のNaOH水溶液中2.0重量%のエステル化セルロースエーテルの溶液として測定して、最大で200mPa・s、好ましくは最大で100mPa・s、より好ましくは最大で50mPa・s、最も好ましくは最大で5.0mPa・sの粘度を有する。一般に、粘度は、20℃で0.43重量%のNaOH水溶液中2.0重量%のエステル化セルロースエーテルの溶液として測定して、少なくとも1.2mPa・s、より典型的には少なくとも1.8mPa・s、更により典型的には少なくとも2.4mPa・s、最も典型的には少なくとも2.8mPa・sである。2.0重量%のエステル化セルロースエーテルの溶液は、「Hypromellose Acetate Succinate、United States Pharmacopeia and National Formulary、NF29、1548−1550頁」に記載されているように調製され、続いてDIN 51562−1:1999−01(1999年1月)に従ってウベローデ粘度測定を行う。
【0045】
本発明のエステル化セルロースエーテルの生成の詳細は実施例に記載されている。生成プロセスのいくつかの態様を以下に記載する。本発明のエステル化セルロースエーテルは、上記で更に記載されているアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、またはヒドロキシアルキルアルキルセルロースなどのセルロースエーテルをエステル化することによって生成することができる。セルロースエーテルは、好ましくは、上記で更に記載されるようなDS(アルコキシル)及び/またはMS(ヒドロキシアルコキシル)を有する。本発明のプロセスにおいて出発材料として使用されるセルロースエーテルは、ASTM D2363−79(2006年に再承認)に従って20℃で2重量%の水溶液として測定して、一般に、1.2〜200mPa・s、好ましくは1.8〜100mPa・s、より好ましくは2.4〜50mPa・s、特に2.8〜5.0mPa・sの粘度を有する。このような粘度のセルロースエーテルは、より高い粘度のセルロースエーテルを部分的解重合プロセスに付すことによって得ることができる。部分的解重合プロセスは、当該技術分野において周知であり、例えば、欧州特許出願EP1,141,029、EP210,917、EP1,423,433、及び米国特許第4,316,982号に記載されている。あるいは、部分的解重合は、セルロースエーテルの生成の間に、例えば酸素または酸化剤の存在によって達成することができる。
【0046】
セルロースエーテルは、酢酸無水物、酪酸無水物、及びプロピオン酸無水物などの脂肪族モノカルボン酸無水物と、及びコハク酸無水物などのジカルボン酸無水物と反応させられる。脂肪族モノカルボン酸の無水物とセルロースエーテルの無水グルコース単位との間のモル比は、一般に、0.05/1〜0.35、好ましくは0.09〜0.30である。ジカルボン酸の無水物とセルロースエーテルの無水グルコース単位との間のモル比は、一般に、0.01〜0.30、好ましくは0.02〜0.26である。これらの無水物及び無水グルコース単位の総モル量の比は、一般に、0.20/1〜0.45/1、好ましくは0.24/1〜0.40/1である。
【0047】
このプロセスで利用されるセルロースエーテルの無水グルコース単位のモル数は、DS(アルコキシル)及びMS(ヒドロキシアルコキシル)からの置換無水グルコース単位の平均分子量を計算することにより、出発材料として使用されるセルロースエーテルの重量から決定することができる。
【0048】
セルロースエーテルのエステル化は、酢酸、プロピオン酸、または酪酸などの反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸中で実行される。反応希釈剤は、ベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、もしくはテトラヒドロフランのような芳香族もしくは脂肪族溶媒、またはジクロロメタンもしくはジクロロメチルエーテルのようなハロゲン化C−C誘導体などの、室温で液体でありかつセルロースエーテルと反応しない他の溶媒または希釈剤を少量含むことができるが、脂肪族カルボン酸の量は、反応希釈剤の総重量を基準として、一般に、50パーセントを超え、好ましくは少なくとも75パーセント、より好ましくは少なくとも90パーセントであるべきである。最も好ましくは、反応希釈剤は脂肪族カルボン酸からなる。モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は、一般に、7.0/1〜9.0/1、好ましくは7.3/1〜8.8/1である。
【0049】
エステル化反応は、エステル化触媒の存在下、好ましくは酢酸ナトリウムまたは酢酸カリウムなどのカルボン酸アルカリ金属の存在下で実行される。モル比[カルボン酸アルカリ金属/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は、一般に、[2.0/1.0]〜[3.0/1.0]、好ましくは[2.3/1.0]〜[2.6/1.0]である。
【0050】
エステル化の反応温度は、一般に、75℃〜95℃、好ましくは80℃〜90℃である。エステル化反応は、典型的には2.5〜4時間で完了する。エステル化反応の完了後、エステル化セルロースエーテルは、例えば、米国特許第4,226,981号、国際特許出願WO2005/115330、欧州特許出願EP0219426、または国際特許出願WO2013/148154に記載され、既知の手法で反応混合物から沈殿させることができる。典型的には、沈殿したエステル化セルロースエーテルを水性液で、70〜100℃の温度で洗浄する。好適な水性液は上記に更に記載されている。
【0051】
本発明の別の態様は、水性液に溶解した本発明の上述したエステル化セルロースエーテルの1種以上を含む水性組成物である。その水性液は上記に更に記載されている。本発明のエステル化セルロースエーテルは、室温(約20℃)で水溶液にすることができ、それは本発明のエステル化セルロースエーテルの大きな利点である。水性組成物は、好ましくは、水性組成物の総重量を基準として、少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、好ましくは最大で30重量%、より好ましくは最大で20重量%の本発明のエステル化セルロースエーテルを含む。
【0052】
水性液に溶解した本発明の上述のエステル化セルロースエーテルのうちの1種以上を含む水性組成物は、液体組成物を浸漬ピンと接触させる工程を含むカプセルの製造において特に有用である。カプセルはおおよそ室温であっても調製することができ、エネルギーの節約をもたらす。典型的には、23℃未満、より典型的には15℃未満、またはいくつかの実施形態では10℃未満の温度を有する水性組成物を、水性組成物よりも高い温度を有しかつ少なくとも21℃、典型的には少なくとも25℃、より典型的には少なくとも50℃、最大で95℃、好ましくは最大で80℃の温度を有する浸漬ピンと接触させる。
【0053】
水性液に溶解した上述のエステル化セルロースエーテルのうちの1種以上を含む水性組成物はまた、錠剤、顆粒、ペレット、カプレット、薬用飴、坐剤、ペッサリー、または埋め込み可能な剤形などの剤形をコーティングするのに有用である。
【0054】
本発明の別の態様は、有機希釈剤及び本発明の上述のエステル化セルロースエーテルのうちの1種以上を含む液体組成物である。有機希釈剤は、液体組成物に単独で存在していてよく、または水と混合されていてよい。好ましい有機希釈剤は上記に更に記載されている。液体組成物は、液体組成物の総重量を基準として、好ましくは、少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、好ましくは最大で30重量%、より好ましくは最大で20重量%の本発明のエステル化セルロースエーテルを含む。
【0055】
上述した水性液または有機希釈剤及び上述のエステル化セルロースエーテルのうちの1つ以上を含む本発明の組成物はまた、活性成分用の賦形剤系として有用であり、特に、肥料、除草剤、または殺虫剤などの活性成分、またはビタミン、ハーブ及びミネラル補助剤、ならびに薬物などの生物学的活性成分のための賦形剤系を調製するための中間体として有用である。したがって、本発明の組成物は、好ましくは、1種以上の活性成分、最も好ましくは1種以上の薬物を含む。「薬物」という用語は、慣用的であり、動物、特にヒトに投与した場合に有益な予防的及び/または治療的性質を有する化合物を意味する。本発明の別の態様では、本発明の組成物は、薬物、上述の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテル、及び任意に1種以上のアジュバントなどの少なくとも1種の活性成分を含む固体分散体を生成するために使用される。固体分散体の好ましい生成方法は噴霧乾燥による。噴霧乾燥プロセス及び噴霧乾燥機器は、Perry’s Chemical Engineers’ Handbook、20−54〜20−57頁(6版1984)に一般に記載されている。あるいは、本発明の固体分散体は、i)a)上記で定義された少なくとも1種のエステル化セルロースエーテル、b)1種以上の活性成分、及びc)1種以上の任意の添加剤をブレンドし、ii)そのブレンドを押出加工に付すことにより調製することができる。本明細書で使用される場合、「押出加工」という用語は、射出成形、溶融鋳造(melt casting)、及び圧縮成形として既知のプロセスを包含する。薬物などの活性成分を含む組成物を押出加工する、好ましくは溶融押出加工するための技術は知られており、Joerg Breitenbach,Melt extrusion:from process to drug delivery technology,European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 54(2002)107−117により、または欧州特許出願EP0872233に記載されている。本発明の固体分散体は、好ましくは、エステル化セルロースエーテルa)及び活性成分b)の総重量を基準として、a)20〜99.9パーセント、より好ましくは30〜98パーセント、最も好ましくは60〜95パーセントの上述のエステル化セルロースエーテル、及びb)好ましくは0.1〜80パーセント、より好ましくは2〜70パーセント、最も好ましくは5〜40パーセントの活性成分b)を含む。エステル化セルロースエーテルa)及び活性成分b)を組み合わせた量は、固体分散体の総重量を基準として、好ましくは少なくとも70パーセント、より好ましくは少なくとも80パーセント、最も好ましくは少なくとも90パーセントである。残りの量は、もしあれば、以下に記載する1種以上のアジュバントc)からなる。少なくとも1種のエステル化セルロースエーテル中に少なくとも1種の活性成分を含む固体分散体が形成されると、乾燥、顆粒化、及び粉砕などのいくつかの処理操作を使用して、ストランド、ペレット、顆粒、丸薬、錠剤、カプレット、微粒子、カプセルまたは射出成形カプセルの中身などの剤形、または粉末、フィルム、ペースト、クリーム、懸濁液、またはスラリーの形態へのその分散体の組み込みを促進することができる。
【0056】
水性組成物、有機希釈剤を含む液体組成物、及び本発明の固体分散体は、着色剤、顔料、乳白剤、風味改善剤、酸化防止剤、及びそれらの任意の組み合わせなどの任意の補助剤を更に含んでよい。
【0057】
これより本発明のいくつかの実施形態を以下の実施例において詳細に記載する。
【実施例】
【0058】
他に言及しない限り、全ての部及び百分率は重量による。実施例では、以下の試験手順が使用される。
【0059】
エーテル基及びエステル基の含有量
エステル化セルロースエーテルにおけるエーテル基の含有量は、「Hypromellose」、United States Pharmacopeia and National Formulary、USP35、3467−3469頁に記載されているものと同じ手法で決定される。
【0060】
アセチル基(−CO−CH)でのエステル置換及びスクシノイル基(−CO−CH−CH−COOH)でのエステル置換は、Hypromellose Acetate Succinate、United States Pharmacopia and National Formulary、NF29、1548−1550頁」に従って決定される。エステル置換について報告された値は揮発性物質について補正される(上記のHPMCASモノグラフの節「loss on drying」に記載されているように決定される)。
【0061】
及びMの決定
及びMは、Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 56(2011)743に従って測定される。移動相は、アセトニトリル40体積部と、50mMのNaHPO及び0.1MのNaNOを含有する水性緩衝液60体積部との混合物であった。移動相を8.0のpHに調整した。セルロースエーテルエステルの溶液を、0.45μmの孔径のシリンジフィルターを通してHPLCバイアルに濾過した。M及びMの測定の正確な詳細は、国際特許出願第WO2014/137777号で節「Examples」において「Determination of M, M and M」のタイトルで開示されている。
【0062】
水溶解性
20℃での定性的決定:水溶解性の定性的決定について、その乾燥重量を基準として2.0gのHPMCASを98.0gの水と攪拌下で20℃で混合することによって2重量パーセントのHPMCASの水溶液を調製した。溶解時間は、16時間であった。エステル化セルロースエーテルの水溶解性を視覚的検査により決定した。HPMCASが2%で水溶性であるかどうかの決定を以下のように行った。「2%で水溶性−有」は、沈殿物のない溶液を、16時間の溶解時間後に、20℃で得たことを意味する。「2%で水溶性−無」は、その乾燥重量を基準として2.0gのHPMCASを98.0gの水と激しい攪拌下で20℃で混合したときに、HPMCASの少なくともかなりの部分が溶解しないままであり沈殿物を形成したことを意味する。
【0063】
2℃での定量的決定:その乾燥重量を基準として2.5重量部のHPMCASを2℃の温度を有する97.5重量部の脱イオン水に添加した後、2℃で6時間攪拌し、2℃で16時間保存した。計量した量のこの混合物を、計量した遠心分離バイアルに移した。混合物の移した重量をM1(g)として書き留めた。HPMCAS[M2]の移した重量は、(混合物の移した重量(g)/100g×2.5g)として計算した。混合物を2℃で、5000rpmで(2823xg、Biofuge Stratos遠心分離機、Thermo Scientific製)60分間遠心分離した。遠心分離後、アリコートを液相から取り除き、乾燥した計量したバイアルに移した。移したアリコートの重量をM3(g)として記録した。アリコートを105℃で12時間乾燥させた。HPMCASの残りのgを乾燥後に計量し、M4(g)として記録した。
【0064】
以下の表2の「2.5%で%水溶性」という用語は、2.5重量部のHPMCASと97.5重量部の脱イオン水との混合物に実際に溶解したHPMCASの百分率を表示している。それは、(M4/M2)×(M1/M3)×100)として計算され、これは(液体アリコート中のHPMCASのg/遠心分離バイアルに移されたHPMCASのg)×(遠心分離バイアルに移された混合物g/遠心分離後の液体アリコートg)に相当する。
【0065】
HPMCASの水溶液のゲル化温度及びゲル強度
粉砕し、磨砕し、乾燥した3gのHPMCAS(HPMCASの水含有量を考慮)を、3翼(翼=2cm)を用いて750rpmでオーバーヘッドラボスターラーを用いて攪拌しながら室温で147gの水(温度20〜25℃)に添加することによりHPMCASの2%水溶液を生成した。次いで、溶液を約1.5℃に冷却した。1.5℃の温度に達した後、溶液を500rpmで120分間攪拌した。各溶液を特性評価の前に冷蔵庫内に保存した。
【0066】
本発明のHPMCASの2重量%水溶液のレオロジー測定は、カップ及びボブ固定具(CC−25)を有するHaake RS600(Thermo Fisher Scientific)レオメーターを用いて実行した。試料を、2%の一定歪み(変形)及び2Hzの一定角振動数で、5〜85℃の温度範囲にわたって1分当たり1℃の速度で加熱した。測定収集速度は4データ点/分となるように選択した。レオロジー測定から得られた貯蔵弾性率G’は、溶液の弾性性質を表し、貯蔵弾性率G’が損失弾性率G’’より高い場合には高温領域におけるゲル強度を表す。
【0067】
振動測定から得られた貯蔵弾性率G’の得られたデータを、まず、G’(最小)を0及びG′(最大)を100に対数化及び正規化した。線形回帰曲線を、これらの貯蔵弾性率データ(5データ点の増加)の部分集合に適合させた。接線を回帰曲線の最も急な傾斜に適合させた。この接線とx軸の交点をゲル化温度として報告する。ゲル化温度の決定の仕方の詳細は、国際特許出願WO2015/009796の18及び19頁においてパラグラフ「Determination of the gelation temperature of aqueous compositions comprising methyl cellulose」に記載されている。
【0068】
70℃での貯蔵弾性率G’によるゲル強度もこのレオロジー測定により得られた。
【0069】
実施例1〜11のHPMCASの生成
コハク酸無水物及び酢酸無水物を70℃で氷酢酸に溶解した。次いで、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、水を含まない)及び酢酸ナトリウム(水を含まない)を攪拌しながら添加した。その量は以下の表1に列挙されている。HPMCの量は乾燥ベースで計算される。HPMCは、以下の表2に列挙されているように、メトキシル置換(DS)及びヒドロキシプロポキシル置換(MSHP)を有し、ASTM D2363−79(再承認2006)による20℃で2%の水溶液として測定して3.0mPa・sの粘度を有していた。HPMCの重量平均分子量は約20,000ダルトンであった。HPMCは、The Dow Chemical CompanyからMethocel E3 LV Premiumセルロースエーテルとして商業的に入手可能である。
【0070】
次いで、反応混合物を以下の表1に列挙された反応温度まで加熱した。混合物を反応させた反応時間も以下の表1に列挙されている。次いで、50〜100℃の温度を有する1.8〜2.4Lの水を添加することにより粗生成物を沈殿させた。その後、沈殿した生成物を濾過により混合物から分離した。分離した生成物を、高せん断下で熱い水(95℃)を用いる再懸濁によって数回洗浄した後、毎回濾過を行った。次いで、生成物を55℃で一晩乾燥させた。
【0071】
WO2014/137777に記載されるような比較例CE−11〜CE−16、CE−D、及びCE−EのHPMCASの生成
比較例CE−11〜CE−16ならびに比較例CE−D及びCE−Eは、国際特許出願第WO2014/137777号の実施例11〜16ならびに比較例D及びEに相当する。それらの生成は、国際特許出願WO2014/137777において22及び23頁に詳細に記載されている。
【0072】
WO2014/031422に記載されるような比較例CE−CのHPMCASの生成
比較例CE−Cは、国際特許出願WO2014/031422の比較例Cに相当する。その生成は、国際特許出願WO2014/031422において25頁に詳細に記載されている。
【0073】
比較例CE−H〜CE−J
比較例CE−H〜CE−Jは、国際特許出願第WO2014/137777号の比較例H〜Jに相当する。
【0074】
国際特許出願第WO2011/159626号の1及び2頁及び国際特許出願第WO2005/115330号の6及び7頁に開示されているように、HPMCASは現在、Shin−Etsu Chemical Co.,Ltd.(Tokyo,Japan)から商業的に入手可能であり、商品名「AQOAT」で知られている。Shin−Etsuは、種々のpHレベルの腸溶性保護を提供するために、置換基レベルの異なる組み合わせを有する、3つの等級のAQOATポリマー、典型的には、AS−LFまたはAS−LGなど、良好(fine)に対して記号表示「F」または「G」が後に続く、AS−L、AS−M、及びAS−Hを製造している。それらの販売仕様は、以下に列挙されている。Shin−Etsuの技術パンフレット「Shin−Etsu AQOAT Enteric Coating Agent」の04.905.2/500版によれば、AQOATポリマーの全ての等級は10%NaOHに可溶性であるが、精製水には不溶性である。商業的に入手可能な材料の試料を、上記に更に記載されているように分析した。
【0075】
[表]
【0076】
[表]
【0077】
実施例1〜11、比較例CE−11〜CE−16、ならびに比較例CE−C、CE−D、CE−E、及びCE−H〜CE−JのHPMCASの性質を以下の表2に列挙する。表2において、略語は以下の意味を有する。
DS=DS(メトキシル):メトキシル基での置換度、
MSHP=MS(ヒドロキシプロポキシル):ヒドロキシプロポキシル基でのモル置換、
DSAc:アセチル基の置換度、
DS:スクシノイル基の置換度。
【0078】
【表1-1】
【0079】
【表1-2】
【0080】
【表2-1】
【0081】
【表2-2】
【0082】
実施例1〜11のエステル化セルロースエーテルは、21℃の温度の水に2重量%の濃度で可溶性であった。
【0083】
それとは対照的に、比較例A〜E、及びCE−D、DE−E、及びCE−H〜CE−Jのエステル化セルロースエーテルを、21℃の温度の水中で2重量%の濃度で溶液にすることができなかった。各比較例において、2重量%のHPMCASの少なくとも一部は、溶解しないままであり、21℃の水中に沈殿物を形成した。
【0084】
ゲル化
本発明のエステル化ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの水溶液、特にHPMCASは、上昇した温度、典型的には45〜90℃、より典型的には50〜80℃で、更に2重量%まで低い濃度であってもゲル化する。エステル化ヒドロキシアルキルアルキルセルロースが、それらの非常に低い総エステル置換度にもかかわらず、ゲル化することは非常に驚きである。水中に実施例1〜4のHPMCASの2重量%溶液を含有するガラスボトルは、ゲル化したHPMCASを流動させることなく、溶液を70℃に加熱した後逆さにすることができる。図2は、溶液を70℃に加熱した後の実施例1〜4のHPMCASの2重量%水溶液の写真表現である。HPMCAS溶液を含有するガラスボトルは、HPMCAS溶液がゲルを形成したことを例示するために逆さにされている。
【0085】
実施例1〜11のHPMCASを調製するための出発材料として使用したHPMCはゲル化しない。70℃に加熱した後のMethocel E3 LV Premiumセルロースエーテルの2重量%水溶液は、ゲルを形成しないが凝結のみする。ガラスボトルが逆さにされる場合、HPMC溶液は、ボトルの底からその蓋へ流動する。図1Aは、70℃に加熱した後のMethocel E3 LV Premiumセルロースエーテルの2重量%水溶液の写真表現である。図1Bは、HPMC溶液を含有するガラスボトルが逆さにされたことを除いて、図1Aに表現される2重量%HPMC水溶液の写真表現である。図1Bは、HPMCがゲルを形成しないが凝結のみすることを例示する。ガラスボトルが逆さにされる場合、HPMC溶液は、ボトルの底からその蓋へ流動する。
【0086】
レオロジー測定を実施して、上記に更に記載されているように実施例1〜11の2重量%のHPMCASの水溶液の70℃における貯蔵弾性率G’によるゲル化温度及びゲル強度を測定した。結果を以下の表3に列挙する。
【0087】
【表3】
【0088】
比較目的のために、商業的に入手可能なHPMCASをNHHCOで中和してそのpHを6.3に調整した。HPMCASは、23.5%のメトキシル基(DSメトキシル=1.93)、7.3%のヒドロキシプロポキシル基(MSヒドロキシプロポキシル=0.25)、9.8%のアセチル基(DSアセチル=0.58)、10.5%のスクシノイル基(DSスクシノイル=0.26)、及び0.43重量%のNaOH水溶液中2.0重量%のHPMCASの溶液として測定して2.9mPa・sの粘度を有していた。
【0089】
2重量%及び5重量%のHPMCASの水溶液を調製した。2重量%のHPMCASの水溶液100gを調整したとき、0.19gのNHHCOを中和に使用した。得られたHPMCASの中和度は96%であった。5重量%のHPMCASの水溶液100gを調整したとき、0.43gのNHHCOを中和に使用した。得られたHPMCASの中和度は87%であった。レオロジー測定を実施した。ゲル化は生じなかった。
図1A
図1B
図2