(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371497
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】容器に充填・密封された加熱殺菌処理済食品
(51)【国際特許分類】
A23L 23/00 20160101AFI20180730BHJP
【FI】
A23L23/00
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-19673(P2013-19673)
(22)【出願日】2013年2月4日
(65)【公開番号】特開2014-23520(P2014-23520A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年2月23日
【審判番号】不服2017-5940(P2017-5940/J1)
【審判請求日】2017年4月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-141004(P2012-141004)
(32)【優先日】2012年6月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】村山 祐士
(72)【発明者】
【氏名】宮内 由佳子
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 研一
(72)【発明者】
【氏名】小林 賢生
(72)【発明者】
【氏名】和田 亮
(72)【発明者】
【氏名】野口 絢子
(72)【発明者】
【氏名】川向 剛史
【合議体】
【審判長】
田村 嘉章
【審判官】
井上 哲男
【審判官】
槙原 進
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−259834(JP,A)
【文献】
特開2007−295900(JP,A)
【文献】
特開平11−069950(JP,A)
【文献】
特開2000−342238(JP,A)
【文献】
特開2011−254741(JP,A)
【文献】
特開2000−060503(JP,A)
【文献】
特開2008−043255(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/143144(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
もち種ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉であるもち種架橋澱粉を含有し、かつ、HLB10以上のショ糖脂肪酸エステルを含有することを特徴とする、前記もち種架橋澱粉で粘性を付けた流動状食品である容器に充填・密封された加熱殺菌処理済食品(ただし、冷凍食品を除く)。
【請求項2】
もち種架橋澱粉が、コーン、米、及びイモからなる群より選ばれた1種以上に由来する、請求項1記載の食品。
【請求項3】
前記ショ糖脂肪酸エステルの含有量が0.01〜1質量%である、請求項1又は2に記載の食品。
【請求項4】
もち種架橋澱粉の含有量が0.05〜10質量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の食品。
【請求項5】
さらに、未加工澱粉を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の食品。
【請求項6】
レトルト食品である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期の常温保存が可能である、容器に充填・密封済加熱殺菌処理された食品に関する。
【背景技術】
【0002】
レトルトカレーソース等のレトルト食品は、通常1年間ほどの常温保存が可能であるが、保存中に小麦粉等に含まれる澱粉の老化による粘性低下や離水の問題が発生することも知られている。レトルト食品やこれよりも緩やかな条件で殺菌処理された食品を、保存する間に冷蔵状態に置いた場合や、冷凍状態に置いて解凍した場合や、冷凍解凍を繰り返した場合にも、澱粉の老化による粘度低下や離水が起こることがある。特開昭57−174078号公報には、レトルト食品等における風味劣化及び褐変を防止するために、ショ糖脂肪酸エステルを添加したレトルト食品が開示されている。また、特開平4−311377号公報には、澱粉の老化による粘度低下や離水がほとんどなく、かつ、口内の舌ざわりに特徴のある洋風ソースの製造方法が開示されている。そして、前記洋風ソースは、うるち種のとうもろこし澱粉あるいは、小麦澱粉を由来とするリン酸架橋澱粉を含有することを特徴とする。しかしながら、より長期(例えば、3年以上)の常温保存が可能であると共に、高品質のレトルト食品は、これまで上市されていない。先行技術の発明を実施しても、カレーソース等の本来の粘性や口どけを有し、かつ、澱粉の老化による粘度低下や離水が抑制された、長期の常温保存が可能であるレトルト食品を実現することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭57−174078号公報
【特許文献2】特開平4−311377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レトルト食品を3年間常温保存した場合には、離水と共に、ソース等の流動状の物性が失われて塊が生じる。レトルト食品等を保存する間に冷蔵状態に置いた場合や、冷凍状態に置いて解凍した場合や、冷凍解凍を繰り返した場合も同様の問題が生じる。これらで生じた塊は、粘性、食味等に影響を及ぼし、なめらかな口どけ感も失われてしまう。
したがって、本発明は、より長期の常温保存が可能であり、高品質の、容器に充填・密封された加熱殺菌処理済食品を提供することを目的とする。また、本発明は、レトルト食品等を保存する間に冷蔵状態に置いた場合や、冷凍状態に置いて解凍した場合や、冷凍解凍を繰り返した場合に、品質維持が図れる加熱殺菌処理済食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、もち種架橋澱粉を含有し、かつ、HLB10以上のショ糖脂肪酸エステルを含有することを特徴とする、容器に充填・密封された加熱殺菌処理済食品を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、より長期の常温保存が可能であり、高品質の、容器に充填・密封された加熱殺菌処理された食品を提供することができる。また、レトルト食品等を保存する間に冷蔵状態や冷凍状態に置いた場合も、品質維持が図れる加熱殺菌処理済食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の容器に充填・密封された加熱殺菌処理済食品は、もち種架橋澱粉を含有し、かつ、HLB10以上のショ糖脂肪酸エステルを含有することを特徴とする。
本発明の食品としては、特に限定されるものではないが、例えばレトルト食品、無菌充填食品(殺菌した流動状食品を、無菌的に容器に充填したもの)、チルド食品・冷凍食品(容器に充填した食品を、レトルト食品と比べて低温で加熱殺菌処理したもの)などが挙げられる。
また、本発明の食品としては、特に限定されるものではないが、例えばシチュー、ポタージュ、スープ、カレー、クリーム系のスプレッド、フィリングなどが挙げられる。本発明の食品は、好ましくは澱粉で粘性を付けた流動状食品である。
本発明の食品に含まれるもち種架橋澱粉としては、もち種ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、もち種アセチル化アジピン酸架橋澱粉、もち種アセチル化リン酸架橋澱粉、もち種リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、もち種リン酸架橋澱粉が挙げられ、もち種ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉が好ましい。もち種架橋澱粉の製法については特に限定されないが、例えば原料澱粉を無水酢酸及び無水アジピン酸で反応させることにより製造することができる。また、もち種ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉は、原料澱粉に、アルカリ条件下でトリメタリン酸ナトリウムまたはオキシ塩化リンを加えて反応させた後、酸化プロピレンを反応させることにより製造することができる。
原料澱粉であるもち種澱粉としては、例えばコーン、米、イモ等に由来するものが挙げられる。これらのもち種澱粉は、単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。本発明の食品におけるもち種架橋澱粉の含有量は、好ましくは0.05〜10質量%であり、より好ましくは0.07〜5質量%であり、さらに好ましくは0.07〜3質量%である。
【0008】
本発明の食品に含まれるショ糖脂肪酸エステルは、HLBが10以上である限り、特に限定されない。ショ糖脂肪酸エステルのHLBは、好ましくは11以上であり、より好ましくは15以上であり、さらに好ましくは16である。本発明の食品における前記ショ糖脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは0.01〜1質量%であり、より好ましくは0.03〜0.5質量%であり、さらに好ましくは0.04〜0.1質量%である。なお、油分が極端に多くない加熱殺菌処理済食品(例えば、レトルトカレーソース等のレトルト食品)では、油と水の分離が生じにくいため、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤を使用する必要はない。また、乳化剤を使用することで加熱殺菌処理済食品の食味が低下するため、通常は使用されない。本発明においては、特定のショ糖脂肪酸エステルを極少量用いていることで、加熱殺菌処理された食品の食味の低下(もち種架橋澱粉を用いることにより粘性が粘りすぎる問題を含む)をまねくことなく、粘性低下や離水等の問題を解決している。
本発明の食品には、さらに増粘剤、好ましくはキサンタンガムを配合してもよい。増粘剤は、単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。本発明の食品における増粘剤の含有量は、好ましくは0.01〜0.8質量%であり、より好ましくは0.03〜0.2質量%である。増粘剤を加えることで、もち種架橋澱粉とショ糖脂肪酸エステルの作用を補って食品本来の粘性や口どけを付与することができる。
本発明の食品には、さらに未加工澱粉を配合してもよい。未加工澱粉としては、例えば小麦、コーン、米、タピオカ、イモ等に由来するものが挙げられる。これらの未加工澱粉は、単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。本発明の食品における未加工澱粉の含有量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%であり、さらに好ましくは5質量%以下である。未加工澱粉を加えることで、食品本来の粘性や口どけを付与することができる。
【0009】
本発明の食品は、香辛料、ルウ、具材、及び他の原料を含んでもよい。
香辛料としては、特に限定されるものではなく、従来知られた香辛料を用いることができる。香辛料の具体的としては、例えばカルダモン、クローブ、ナツメグ、フェヌグリーク、ローレル、フェンネル、コリアンダー、クミン、キャラウェー、タイム、セージ、陳皮、胡椒、唐辛子、マスタード、ジンジャー、ターメリック、パプリカ等から選ばれる1種又は2種以上を混合して用いることができる。使用する香辛料の種類は、求められる最終製品の風味に応じて適宜、調整すればよい。
ルウは、小麦粉及び/又は澱粉と、食用油脂とを含む原料から得られるものである。一般に、「ルウ」とは、小麦粉及び/又は澱粉と、食用油脂とを含む原料を加熱処理して得られたものをいう。ルウに、もち種架橋澱粉と、必要により未加工澱粉を加えることで、加熱殺菌処理済食品の風味を向上することができる。また、ルウの原料として用いることができる食用油脂としては、天然油脂、加工油脂、及びこれらの混合物のいずれをも用いることができる。具体的には、バター、マーガリン、豚脂、牛脂、及びこれらの混合物等を挙げることができる。小麦粉及び/又は澱粉と、食用油脂を含む原料を加熱処理する場合、加熱温度は、原料の品温が110℃以上となるように加熱することが好ましく、110℃以上140℃以下に達するように加熱することが更に好ましい。また、加熱処理の時間は、3分から120分程度行うことが好ましい。なお、上記ショ糖脂肪酸エステルは、ルウに配合してもよい。
【0010】
具材は、動物性のものであっても、植物性のものであってもよい。動物性の具材としては、鶏肉、豚肉、牛肉、シーフード等が挙げられる。また、植物性の具材としては、ポテト、人参、ゴボウ、ダイコン等の根菜類;チェーチ、枝豆等の豆類;レンコン、アスパラ等の茎菜類;ホウレンソウ、ハクサイ、キャベツ等の葉菜類;ナス、トマト、オクラ等の果菜類;ブロッコリー、カリフラワー等の花菜類;ワカメ、ヒジキ、コンブ等の藻類;シメジ、マッシュルーム、マイタケ等のきのこ類;パイナップル、リンゴ等の果実類;及びアーモンド、ゴマ等の種子類等が挙げられる。これらの具材の処理方法については、各具材について従来知られている方法を採用すればよい。
本発明の食品は、その目的とする最終形態に応じて、各種調味料等の風味原料、植物性原料のペースト状物(例えば、トマトペースト、ポテトペースト、リンゴペースト、オニオンペースト、カボチャペースト、ブロッコリーペースト等)等を含んでいてもよい。
本発明の食品は、7大アレルゲン(卵、牛乳、小麦、そば、落花生、えび、かに)等のアレルゲンを含まないアレルゲンフリー食品として調製することができる。特定のアレルゲンを選択的に(例えば2大アレルゲンを選択して)アレルゲンフリーとした食品として調製することができることは勿論である。また、アレルゲンフリーのレトルト食品(缶詰を含む)、チルド食品、冷凍食品、無菌充填食品等として調製することができる。これらの食品は、加熱して喫食してもよいが、加熱することなくそのまま喫食することができる。また、長期間の保存も可能である形態にして、食べ物によるアレルギーの有無に関わらず、誰でも食べやすい非常食、災害食等として備蓄するための食品として利用することができる。
本発明の食品は、もち種架橋澱粉と必要により増粘剤を含有することにより、小麦を含んでいないにもかかわらず、小麦様の粘性、食感を達成することができる。また、一般食品、アレルゲンフリー食品を問わず、乳原料を含まない(乳原料フリーと表示できるレベルで乳原料を含まないことを含む)ことで、長期の常温保存や、保存の間に冷蔵状態や冷凍状態に置いた場合に、食品の品質維持を図る効果をより達成することが可能となる。
本発明の食品は、優れた品質保持効果を有し、温めなくても高品質で食することができるため、非常食、災害食等として簡便で、省エネルギーの観点からも優れたものとなる。
【0011】
本発明の食品は、例えば食品を調製する工程(食品調製工程)と、食品を容器に充填・密封する工程(充填・密封工程)と、食品を加熱殺菌処理する工程(加熱殺菌処理工程)とを含む方法により製造してもよい。また、適宜加熱殺菌処理工程を経て冷凍食品を製造してもよい。
食品調製工程では、上述の材料を適宜配合して、常法により食品を調製してもよい。
加熱殺菌処理工程は、調製された食品を容器に充填・密封する前に、又は容器に充填・密封された後に行ってもよい。また、食品の加熱殺菌処理は、従来公知の方法で行えばよい。例えば、食品がレトルト食品である場合、調製された食品をレトルトパウチに充填した後密封し、これを例えば120〜125℃で20〜60分間加熱することによりレトルト処理すればよい。
また、容器への食品の充填・密封は、従来公知の方法で行えばよい。
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0012】
(実施例1〜9及び比較例1〜4)
表1〜3に示した原料(配合量は質量%で表示される)を、加熱釜で撹拌しながら100℃達温まで加熱してカレーソースを調製し、レトルトパウチに充填密封し、レトルト処理を施した。実施例9の製品はアレルゲンフリー食品として調製した。
【表1】
【表2】
【表3】
【0013】
<評価>
各実施例及び比較例で得られたレトルトカレーソースを、3年常温保存後に官能試験により評価した。分離は、以下の基準で、5段階で評価した。風味と粘性は、以下の基準で、10名のパネリストの官能評価(温めずにそのまま喫食した場合)により5段階で評価した。結果を表1、表2に示す。
<分離>
5:殆ど離水はなく、非常に滑らかな流動性を維持する。
4:殆ど離水はなく、流動性を有する。
3:僅かに離水があり、流動性がやや悪い。
2:離水があり、流動性が悪く、ダマが見られる。
1:著しく離水し、流動性はなく、ゼリー状の固まりとなる。
<風味と粘性>
5:非常にバランスよく良好な風味に優れ、最適な口どけを有する。
4:バランスよく良好な風味に優れ、最適な口どけを有する。
3:良好な風味があり、口どけは早い。
2:風味に一体感がなく、口どけが悪い。
1:バランスに欠け、風味に一体感がなく、口どけが悪く、粉っぽい。
【0014】
表1及び2より、本発明の加熱殺菌処理済食品は、比較例の加熱殺菌処理済食品と比較して、長期間の保存を経た後において、澱粉の老化による粘度低下や離水が抑制され、カレーソース等の本来の粘性や口どけを有し、美観及び食味のトータルで品質が優れたものとなっていることが分かった。
また、以上の本発明の加熱殺菌処理済食品は、3年常温保存の間に、冷凍状態に置いて解凍することを繰り返した場合も、澱粉の老化による粘度低下や離水が抑制され、カレーソース等の本来の粘性や口どけを有し、美観及び食味のトータルで品質が優れたものとなっていた。
【0015】
(実施例10)
実施例9と同じ原料を用いて調製したカレーソースを、レトルトパウチに充填密封し、レトルト殺菌処理を施した後冷凍した。得られたレトルトカレーソースを、5年冷凍保存後に解凍して常温で食したところ、澱粉の老化による粘度低下や離水が抑制され、カレーソース等の本来の粘性や口どけを有し、美観及び食味のトータルで品質が優れたものであった。
【0016】
(実施例11)
実施例9と同じ原料を用いて調製したカレーソースを、冷凍パウチに充填密封し、速やかに冷凍した。得られたカレーソースを、5年冷凍保存後に解凍して常温で食したところ、澱粉の老化による粘度低下や離水が抑制され、カレーソース等の本来の粘性や口どけを有し、美観及び食味のトータルで品質が優れたものであった。