【実施例】
【0027】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0028】
図1は、本発明の実施例に係る密封装置1の要部断面を示している。当該実施例に係る密封装置1は、互いに対向して相対に移動する往復動油圧シリンダにおけるピストン(内周側部材)41およびシリンダ(シリンダチューブ、外周側部材)43のうちのピストン41の対向面(外周面)に設けた環状の装着溝42に装着されるとともにシリンダ43の対向面(内周面)に摺動可能に密接することによりピストン41およびシリンダ43の対向面間で高圧側の密封対象(圧油等)が低圧側へ漏洩するのを抑制する密封装置(ピストンシール)であって、その構成部品として、インナーシールリング11と、インナーシールリング11の外周側であってインナーシールリング11およびシリンダ43間に配置されるアウターシールリング21と、インナーシールリング11の内周側であってインナーシールリング11および装着溝42の溝底部間に配置されるバックリング31とが組み合わせたものとされている。
【0029】
このうち、インナーシールリング11は、アウターシールリング21よりも高剛性の材質であって具体的にはポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリイミド樹脂、PEEK等の高強度樹脂材料(引張強度:40MPa以上)により成形され、シリンダ43の対向面に対し接触せずシリンダ43の対向面との間に所定の径方向間隙を設定されるようにシリンダ43の対向面に対する外径しめ代を持たない大きさに形成され、すなわちその外径寸法をシリンダ43の内径寸法よりも少々小さく設定され、また
図2に示すように円周上1箇所で切断した形状とされてこの円周上1箇所にカット部12を備えている。また、このインナーシールリング11は軸方向に長い断面長方形状に成形され、その外周面の軸方向中央部に環状の保持溝13が設けられ、外周面の軸方向両端部にそれぞれ外径寸法が軸方向中央部から軸方向端部へかけて徐々に縮小する向きの環状の傾斜面14が設けられている。上記カット部12については後述する。
【0030】
アウターシールリング21は、インナーシールリング11よりも低摩擦かつ低剛性の材質であって具体的にはPTFE(四フッ化エチレン樹脂)、ウレタンまたはゴムにより成形され、インナーシールリング11の外周面に設けた保持溝13に嵌合されてインナーシールリング11によって保持され、シリンダ43の対向面に対し摺動可能に密接する大きさに形成され、すなわちその外径寸法をシリンダ43の内径寸法よりも少々大きく設定され、また円周上カット部を持たないエンドレス状に形成されている。また、このアウターシールリング21は軸方向に長い断面長方形状に成形され、上記保持溝13内に収容されている。また、このアウターシールリング21はその外周部を除く内周部で上記保持溝13内に収容されているので、インナーシールリング11およびアウターシールリング21はその径方向の一部でオーバーラップして配置されている。
【0031】
また、バックリング31は、インナーシールリング11およびアウターシールリング21よりも高弾性の材質であって具体的にはゴムまたはウレタンにより成形され、インナーシールリング11を介してアウターシールリング12をシリンダ43の対向面に押し付ける弾性を備え、すなわちその内径寸法を装着溝42の溝底部における外径寸法よりも少々小さく設定され、また円周上カット部を持たないエンドレス状に形成されている。また、このバックリング31は径方向に長い断面長方形状に成形され、その軸方向幅をインナーシールリング11の軸方向幅よりも少々小さく設定され、またその内周面の軸方向両端部にそれぞれ面取り部32が設けられている。
【0032】
上記カット部12は
図2に示すように、インナーシールリング11をその円周上1箇所で斜めにカットした形状のバイアスカットとされ、一層詳細にはそのカット面がインナーシールリング11の外周面部位と内周面部位とで円周方向に変位し(
図2(B))、インナーシールリング11の軸方向一方の端面部位と他方の端面部位では円周方向に変位しない(
図2(A))ものとされ、かつカット面は傾斜した平面状とされている。したがって一対のカット端部12a,12bはインナーシールリング11の径方向に並んだかたちで一方が他方に乗り上げた状態とされている。
【0033】
上記構成を備える密封装置1においては、密封装置1の部品点数がインナーシールリング11、アウターシールリング21およびバックリング31よりなる3点とされ、3部品が径方向に一列に並べられることにより密封装置1の軸方向幅が小さく設定され、インナーシールリング11およびアウターシールリング21が径方向の一部でオーバーラップして配置されることにより密封装置1の径方向幅も小さく設定されているため、密封装置1がその全体としてコンパクトなものとされている。また、シリンダ43の対向面に対し摺動可能に接触するアウターシールリング21が低摩擦かつ低剛性の材質によって成形されているため、摺動抵抗が低く抑えられている。また、アウターシールリング21がインナーシールリング11の外周面に設けた保持溝13に保持されているため、アウターシールリング21がピストン41およびシリンダ43間の隙間44にはみ出すことがなく、インナーシールリング11が高剛性の材質によって成形されているため、インナーシールリング11がピストン41およびシリンダ43間の隙間44にはみ出すこともなく、いずれもはみ出しによるシールリング11,21の破損が抑制される。したがって以上により部品点数が少なく、よって密封装置1のコンパクト化を実現することができ、耐はみ出し性を備え、しかも摺動抵抗を低く抑えることができる密封装置1を提供することができる。
【0034】
また、上記構成を備える密封装置1においては、ポリアミド樹脂等の高強度樹脂材料よりなるインナーシールリング11が備えられるが、このインナーシールリング11がシリンダ43の対向面に対する外径しめ代を持たない大きさに形成されているため、インナーシールリング11はシリンダ43への組込みに際しての抵抗要素とならず、代わって抵抗要素となるアウターシールリング21はPTFE、ウレタンまたはゴムよりなるため、比較的弾性変形しやすく抵抗荷重が小さい。したがってシリンダ43への組込み荷重を低減することができ、組込み作業を容易化することができる。
【0035】
また、インナーシールリング11の円周上1箇所に備えられるカット部12がシールリング円周方向に対し直角のステップカットではなくシールリング円周方向に対し斜めのバイアスカットとされているため、インナーシールリング11が熱の影響を受けて円周方向に伸縮してもカット端部12a,12b同士は互いに乗り上げた状態を維持し、カット端部12a,12b同士の間に隙間が発生しない。したがってアウターシールリング21やバックリング31がカット端部12a,12b同士間の隙間(図示せず)にはみ出して破損するのを抑制することができる。
【0036】
また、インナーシールリング11の周長が熱等により変化してバイアスカットのカット端部12a,12b同士が互いに変位する際には、以下のメカニズムによって漏れ流路の形成が抑制される。すなわち、
図3のD部に示すようにバイアスカットの外周側カット端部12aが内周側カット端部12bに対し径方向外方へ突き出るように変位しても、外周側カット端部12aの更に外周側にアウターシールリング21が存在するため、漏れ流路は形成されない。また、
図3のE部に示すようにバイアスカットの内周側カット端部12bが外周側カット端部12aに対し径方向内方へ突き出るように変位しても、バックリング31の拡張力により内周側カット先端部21bがなじむ形に変形するため、漏れ流路が縮小する。したがってこの構造によれば十分なシール機能を維持することができる。
【0037】
尚、上記インナーシールリング11のカット部12におけるバイアスカットは、以下のような構造のものであっても良い。
【0038】
カット部の第2例・・・
図4および
図5に示す第2例において、カット部12におけるバイアスカットは、そのカット面がインナーシールリング11の軸方向一方の端面部位と他方の端面部位とで円周方向に変位し(
図4(A))、インナーシールリング11の外周面部位と内周面部位では円周方向に変位しない(
図4(B))ものとされ、かつカット面は傾斜した平面状とされている。したがって一対のカット端部12a,12bはインナーシールリング11の軸方向に並んだかたちで一方が他方に乗り上げた状態とされている。この場合、
図5のG部に示すようにバイアスカットの一方のカット端部が他方のカット端部に対し軸方向へ突き出るように変位しても、軸方向に連通(貫通)する漏れ流路は形成されず、よって十分なシール機能を維持することができる。
【0039】
カット部の第3例・・・
図6に示す第3例において、カット部12におけるバイアスカットは、そのカット面がインナーシールリング11の軸方向一方の端面部位と他方の端面部位とで円周方向に変位し(
図6(A))、インナーシールリング11の外周面部位と内周面部位でも円周方向に変位する(
図6(B))ものとされ、かつカット面は傾斜した平面状とされている。したがって一対のカット端部12a,12bはインナーシールリング11の軸方向および径方向の双方に対し袈裟懸け方向に並んだかたちで一方が他方に乗り上げた状態とされている。この場合、バイアスカットの斜め外周側カット端部12aが斜め内周側カット端部12bに対し径方向外方へ突き出るように変位しても、斜め外周側カット端部12aのさらに外周側にアウターシールリング21が存在するため、漏れ流路は形成されない。また、バイアスカットの斜め内周側カット端部12bが斜め外周側カット端部12aに対し径方向内方へ突き出るように変位しても、バックリング31の拡張力により斜め内周側カット端部21bがなじむ形に変形するため、漏れ流路が縮小する。また、バイアスカットの一方のカット端部が他方のカット端部に対し軸方向へ突き出るように変位しても、軸方向に連通(貫通)する漏れ流路は形成されない。したがってこの構造によれば十分なシール機能を維持することができる。
【0040】
カット部の第4例・・・
また、カット部12におけるバイアスカットは上記したようにインナーシールリング11を円周方向に対し斜めにカットしたものであるので、そのカット端部12a,12bの先端は直角度より小さな角度の尖端となり、尖端は薄く破損しやすい。そこでこれに対策するため、バイアスカットをそのカット端部12a,12bにてストレートカット15との組み合わせとすることが考えられ、この場合は、カット端部12a,12bの先端にストレートカット15による厚みが設定されるため、カット端部12a,12bの先端の強度を増大することが可能とされる。ストレートカット15は、そのカット面がインナーシールリングの径方向に延設されるものである。
【0041】
図7および
図8は、このような例としてバイアスカットをストレートカット15と組み合わせた第4例を示し、そのカット面がインナーシールリング11の外周面部位と内周面部位とで円周方向に変位し(
図7(B))、インナーシールリング11の軸方向一方の端面部位と他方の端面部位では円周方向に変位しない(
図7(A))ものとされ、かつカット面が、バイアスカット12による内周側の斜め平面状の部位と、ストレートカット15によってインナーシールリング11の径方向に沿って延設された外周側の直角平面状の部位との組み合わせとされている。したがってこの構造によれば外周側カット端部12aの先端にストレートカット15による径方向の厚みが設定されるため、先端の強度が増大し、割れや欠け等の破損が発生するのを抑制することができる。尚、ストレートカット15の径方向幅についてはこれを保持溝13の溝深さと同等程度とするのが好適である。
【0042】
カット部の第5例・・・
また、インナーシールリング11のカット部12は、上記したバイアスカットのほかにステップカットとしても良い。ステップカットは例えば
図9に示すように、インナーシールリング11をその円周上1箇所で階段状にカットした形状であって、シールリング円周方向に対し直交する平面状の第1面12c、シールリング円周方向に対し平行な平面状の第2面12dおよびシールリング円周方向に対し直交する平面状の第3面12eがシールリング軸方向に並べられ、これら3面12c,12d,12eによってシールリング11を切断した形状とされている。
【0043】
また、本願発明者らは、上記実施例(
図9)の密封装置1ならびに
図12(A)の密封装置51および
図12(B)の密封装置61をサンプルとして摺動抵抗および摺動発熱に係る比較試験を行なったので、以下にその試験方法および試験結果を説明する。
【0044】
(1)摺動抵抗に係る比較試験
試験方法・・・
以下の条件にて各サンプルに発生する摺動抵抗を測定した。
・シリンダ径:φ100
・摺動速度:100mm/s
・温度:100℃
・油種:エンジンオイルSAE10W
試験結果・・・
試験結果は、
図10のグラフ図(○プロット:
図12(A)の密封装置51、△プロット:
図12(B)の密封装置61、◇プロット:実施例の密封装置1)に示すとおり、実施例の密封装置1によれば
図12(A)の密封装置51および
図12(B)の密封装置61と比較して、発生する摺動抵抗が低減することを確認することができた。
【0045】
(2)摺動発熱に係る比較試験
試験方法・・・
以下の条件にて各サンプルに発生する摺動発熱を測定した。
・シリンダ径:φ100
・圧力:10MPa
・摺動速度:50mm/s
・温度:自然昇温
試験結果・・・
摺動発熱は摺動開始後、シリンダ表面温度が徐々に上昇し、サチュレートした時の到達温度を示す。試験結果は、
図11のグラフ図(サンプルa:
図12(A)の密封装置51、サンプルb:
図12(B)の密封装置61、サンプルc:実施例の密封装置1)に示すとおり、実施例の密封装置1によれば
図12(A)の密封装置51および
図12(B)の密封装置61と比較して、発生する摺動発熱が低減することを確認することができた。
【0046】
また、上記実施例では、円周上1箇所にバイアスカットまたはステップカット等のカット部12を設けたインナーシールリング11について、これをシリンダ43の対向面に対し接触せずシリンダ43の対向面との間に所定の径方向間隙を設定されるようにシリンダ43の対向面に対する外径しめ代を持たない大きさに形成され、すなわちその外径寸法をシリンダ43の内径寸法よりも少々小さく設定されたものとしたが、このインナーシールリング11は、シリンダ43の対向面に対し接触するものとしても良く、シリンダ43の対向面に対する外径しめ代を持つ大きさに形成され、すなわちその外径寸法をシリンダ43の内径寸法と同等または同等以上の大きさに設定されたものとしても良い。この場合はアウターシールリング21がシリンダ43の対向面に対し接触し、これに加えてインナーシールリング11もシリンダ43の対向面に対し接触することになる。