特許第6371574号(P6371574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371574
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】水硬性粉体用強度向上剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/10 20060101AFI20180730BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20180730BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20180730BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20180730BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20180730BHJP
   C04B 22/12 20060101ALI20180730BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20180730BHJP
   C04B 24/04 20060101ALI20180730BHJP
   C04B 24/12 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   C04B24/10
   C04B28/02
   C04B18/08 Z
   C04B18/14 A
   C04B18/14 Z
   C04B22/08 B
   C04B22/12
   C04B24/02
   C04B24/04
   C04B24/12 A
【請求項の数】9
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-92281(P2014-92281)
(22)【出願日】2014年4月28日
(65)【公開番号】特開2014-237577(P2014-237577A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2017年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-99145(P2013-99145)
(32)【優先日】2013年5月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】長澤 浩司
(72)【発明者】
【氏名】下田 政朗
(72)【発明者】
【氏名】佐川 桂一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭介
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−292662(JP,A)
【文献】 特表2003−502260(JP,A)
【文献】 特開昭57−100952(JP,A)
【文献】 特公昭39−021377(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンノース、タロース、リボース、及びエリトロースからなる群から選ばれる1種以上の化合物を、固形分中、30.0質量%以上、100.0質量%以下、及び水を含有し、炭素数7以上の糖類、及びグルコースの合計含有量が、固形分中、0質量%以上、15.0質量%以下であり、高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカフュームからなる群から選ばれる1種以上の混合材を10質量%以上、80質量%以下含有する水硬性粉体用である、水硬性粉体用液体強度向上剤組成物。
【請求項2】
マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、及びエリトロースからなる群から選ばれる化合物〔以下、(A)成分という〕の2種以上を、固形分中、30.0質量%以上、100.0質量%以下含有し、エリトロースの割合が(A)成分中、5質量%以上20質量%以下であり、炭素数7以上の糖類、及びグルコースの合計含有量が、固形分中、0質量%以上、15.0質量%以下である、水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【請求項3】
(A)成分としてマンノースを含有する、請求項2記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【請求項4】
高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカフュームからなる群から選ばれる1種以上の混合材を10質量%以上、80質量%以下含有する水硬性粉体用である、請求項2又は3に記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【請求項5】
マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、及びエリトロースからなる群から選ばれる1種以上の化合物〔以下、(A)成分という〕を、固形分中、30.0質量%以上、99.0質量%以下、並びに、グリセリン、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール及びトリエタノールアミンからなる群から選ばれる1種以上の化合物〔以下、(B)成分という〕を含有し、
炭素数7以上の糖類、及びグルコースの合計含有量が、固形分中、0質量%以上、15.0質量%以下であり、
(A)成分と(B)成分の質量比が(A)/(B)で、80/20以下、35/65以上であり、
高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカフュームからなる群から選ばれる1種以上の混合材を10質量%以上、80質量%以下含有する水硬性粉体用である、
水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【請求項6】
更に、可溶性のアルカリ金属塩、及び可溶性のアルカリ土類金属塩から選ばれる化合物〔以下、可溶性塩という〕を含有する、請求項1〜のいずれかに記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【請求項7】
可溶性塩が、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム及び硝酸カルシウムから選ばれる可溶性塩である、請求項に記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【請求項8】
水硬性化合物を粉砕する際に、請求項に記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物を、固形分として、水硬性化合物100質量部に対して、0.0005質量部以上、1.0質量部以下添加する、水硬性粉体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物と、水硬性粉体と、骨材と、水とを含有し、前記水硬性粉体用強度向上剤組成物の含有量が、固形分として、水硬性粉体100質量部に対して、0.0005質量部以上、2.0質量部以下である、水硬性組成物であって、
水硬性粉体が、高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカフュームからなる群から選ばれる1種以上の混合材10質量%以上、80質量%以下と、セメントとを含有する水硬性粉体である、水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性粉体用強度向上剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの初期強度は、スリップフォーム工法における型枠滑動速度、凍害耐力、せき板の取り外し時期などコンクリートの初期における性状の判定に重要なものである。例えば、型枠の在置期間は、JASS5(建築工事標準仕様書・同解説II JASS5 鉄筋コンクリート工事、日本建築学会編、1954年)および建設省告示第110号に規定されているが、最小在置期間として気温15℃以上で2〜3日(基礎、柱、壁など)とされている。その要因は、脱型後のコンクリートの乾燥により長期強度の発現が著しく悪くなるためであり、特に3日以内の水分の蒸発が著しいと言われている。これを抑制するためには、セメントの水和反応を促進し、水分が乾燥(蒸発)しにくいセメント水和物に変換することが効果的であり、3日強度を高く発現することは、コンクリート硬化体の乾燥による長期強度低下抑制の観点から重要である。
【0003】
また一方でセメント産業では、他産業等で発生した廃棄物(一般ゴミなど)・副産物を、原料、エネルギー源、製品の一部として積極的に活用してきているが、これによりセメント鉱物組成が変動しセメント強度が大きく変動する場合がある。セメントの品質の規格は、欧州や中国のように強度の観点から強さクラス(3ランクの28日強度と2ランクの初期強さ)が区別されており、これらを組合せてセメントの品質が規定されているが、特に初期強さで現される3日強度は、セメントの初期水和反応に依存しており、廃棄物などによる鉱物組成の変動が現れやすい。このため高い初期強度を発現することは、セメントの安定生産の観点から重要である。また他産業の副産物である高炉スラグやフライアッシュなどは、セメント製品の混合材(増量材)として使用されるが、高い初期強度を発現できることは、品質規格の範囲内で混合材の混合量を増やす、即ちクリンカー量を削減することが可能となり、クリンカー製造時に発生する温室効果ガスの排出削減の観点から重要である。
【0004】
特許文献1には、ホルムアルデヒドと水酸化カルシウムの縮合反応で得られる糖類とギ酸カルシウムを含む混合物を、7日強度、28日強度を著しく低下させることなく、初期流動性を高めるセメント添加剤として使用する方法が開示されている。
【0005】
特許文献2は、ホルムアルデヒドの縮合生成物である単糖混合物を、凝結遅延性を有するセメント添加剤として使用する方法が開示されている。
【0006】
特許文献3には、ジヒドロキシアセトンと単糖もしくは二糖類の混合物を、7、28日強度を対象としたセメント強度向上剤として使用する方法が開示されている。
【0007】
特許文献4には、セメント中に、所定の水低減剤と、糖と、アルカリあるいはアルカリ土類金属塩化物とを導入して、セメントの初期強度を改善する方法が開示されている。
【0008】
特許文献5には、単糖類及び二糖類から選択される少なくとも一種を含む有害物質溶出低減混和剤と、該混和剤を含有するセメント系固化材が開示されている。
特許文献6には、低分子量ヒドロキシル化合物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第97/37952号
【特許文献2】特開昭55−37410号公報
【特許文献3】仏国特許出願公開第2909997号明細書
【特許文献4】特表2003−502260号公報
【特許文献5】特開2000−336358号公報
【特許文献6】特開昭54−46288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の添加剤は、添加剤を添加しない場合よりも7日強度が低い場合が開示されており、3日強度が高い硬化体を得るには十分な技術ではない。本発明の課題は、水硬性組成物調製後の3日強度の高い硬化体が得られる水硬性粉体用強度向上剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、及びエリトロースからなる群から選ばれる1種以上の化合物を、固形分中、30.0質量%以上、100.0質量%以下含有し、炭素数7以上の糖類、及びグルコースの合計含有量が、固形分中、0質量%以上、15.0質量%以下である、水硬性粉体用強度向上剤組成物〔以下、第一の水硬性粉体用強度向上剤組成物という〕に関する。
【0012】
また、本発明は、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、及びエリトロースからなる群から選ばれる1種以上の化合物〔以下、(A)成分という〕を、固形分中、30.0質量%以上、99.0質量%以下、並びに、
グリセリン、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール及びトリエタノールアミンからなる群から選ばれる1種以上の化合物〔以下、(B)成分という〕を含有し、
炭素数7以上の糖類、及びグルコースの合計含有量が、固形分中、0質量%以上、15.0質量%以下であり、
(A)成分と(B)成分の質量比が(A)/(B)で、99/1以下、10/90以上である、
水硬性粉体用強度向上剤組成物〔以下、第二の水硬性粉体用強度向上剤組成物という〕に関する。
【0013】
また、本発明は、水硬性化合物を粉砕する際に、上記第二の水硬性粉体用強度向上剤組成物を、固形分として、水硬性化合物100質量部に対して、0.0005質量部以上、1.0質量部以下添加する、水硬性粉体の製造方法に関する。
【0014】
また、本発明は、上記第一の水硬性粉体用強度向上剤組成物と、水硬性粉体と、骨材と、水とを含有し、前記水硬性粉体用強度向上剤組成物の含有量が、固形分として、水硬性粉体100質量部に対して、0.0005質量部以上、2.0質量部以下である、水硬性組成物に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水硬性組成物調製後の3日強度の高い硬化体が得られる水硬性粉体用強度向上剤組成物が提供される。本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物は、水硬性組成物の調製時の他に、水硬性化合物を粉砕して水硬性粉体を製造する際にも添加することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、水硬性粉体用強度向上剤組成物という場合、特に断らない限り、第一の水硬性粉体用強度向上剤組成物と第二の水硬性粉体用強度向上剤組成物の両方を指すものとする。本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物は、(A)成分として、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、及びエリトロースからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有する。さらに、これらの化合物を2種以上含有することが好ましい。(A)成分は、初期強度の向上の観点から、好ましくはマンノース、ガラクトース及びリボースらなる群から選ばれる化合物、より好ましくはマンノースを含有する。
【0017】
(A)成分による強度向上効果の詳細は不明であるが、以下のように推察している。(A)成分などの単糖類には還元効果があり、水硬性組成物の混練水等の水中に添加・溶解させると水の酸化還元電位が無添加と比べると還元側に変化する傾向がある。この還元効果に加えて、さらに(A)成分であるマンノース、ガラクトース、タロース、リボース、及びエリトロースはその化学構造特性由来の金属イオンとの高い錯体形成能を有している。そして、還元効果と錯体形成能によって、水硬性粉体の鉱物であるC4AF(4CaO・Al23・Fe23)や混合材として使用される高炉スラグ、フライアッシュなどに含まれる酸化鉄(Fe23)などから鉄イオンを溶解することが可能となり、水和反応を促進し、強度向上効果が得られているものと推察している。したがって水中に存在することが第一条件であり、(A)成分以外の糖類、例えば、グルコースや、炭素数7以上の単糖類や、二糖類以上の多糖類などは、疎水性が強くなることから、水硬性粉体の表面に吸着し還元効果が低下して、逆に、吸着による水硬性粉体の水和阻害が起こり、初期強度の向上効果が得られないと考えられる。
【0018】
本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物は、単位添加量当たりの還元効果、及び錯体形成能力向上の観点から、第一の水硬性粉体用強度向上剤組成物では、(A)成分を、該組成物の固形分中、30.0質量%以上、100.0質量%以下含有する。第二の水硬性粉体用強度向上剤組成物では、同様の観点から、(A)成分を、固形分中、30.0質量%以上、99.0質量%以下含有する。この含有量は、初期強度向上の観点から、30.0質量%以上であり、40.0質量%以上が好ましい。ここで、水硬性粉体用強度向上剤組成物の固形分とは、該組成物の構成成分のうち、水以外の成分をいう。従って、固形分が液体の成分であってもよい。第一の水硬性粉体用強度向上剤組成物では、水硬性組成物の3日強度を向上する観点から(A)成分を、固形分中、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下含有する。また、水硬性粉体の粉体流動性調整による粉砕効率制御の観点から第二の水硬性粉体用強度向上剤組成物では、(A)成分を、固形分中、好ましくは89質量%以下、より好ましくは79質量%以下含有する。
【0019】
炭素数7以上の糖類とグルコースは、(A)成分よりさらに疎水性が強くなることから、水硬性組成物調製時に水硬性粉体への吸着量がさらに増え、水硬性粉体の水和反応を大きく遅延し、3日強度の初期強度を低下する。このことから、本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物では、炭素数7以上の糖類、及びグルコースの合計含有量が、該組成物の固形分中、0質量%以上、15.0質量%以下、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下、更に好ましくは5.0質量%以下である。
【0020】
本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物は、(A)成分として、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、及びエリトロースからなる群から選ばれる2種以上の化合物を含有することが好ましい。更に、本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物は、(A)成分として、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、及びエリトロースからなる群から選ばれる2種以上の化合物を含有し、且つエリトロースの割合が(A)成分中、初期強度を発現する観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、水和反応の遅延の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは14質量%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物は、可溶性のアルカリ金属塩、及び可溶性のアルカリ土類金属塩から選ばれる化合物〔以下、可溶性塩という〕を含有することが、より初期強度の高い硬化体が得られる観点で好ましい。可溶性塩としては、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム及び硝酸カルシウムから選ばれる化合物が挙げられる。可溶性塩としては、より初期強度の高い硬化体が得られる観点で、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化カルシウム及び酢酸カルシウムから選ばれる化合物が好ましい。また、可溶性塩は、貯蔵槽等の金属の腐食を抑制する観点から、酢酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、酢酸カルシウム及び硝酸カルシウムから選ばれる化合物が好ましい。可溶性塩の含有量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは7質量部以上、更に好ましくは10質量部以上であり、そして、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下である。
【0022】
上記可溶性塩による初期強度向上の作用機作は不明なるも、以下の様に推察している。アルドヘキソース(炭素数6の単糖)にはD体、L体が存在し、水溶液中ではそれぞれに6員環のピラノース(pyr)、5員環のフラノース(fur)の異性体が存在する。さらにピラノース、及びフラノースにはそれぞれα体、β体の異性体が存在するとされている。塩化ナトリウムや塩化カルシウム等の可溶性塩を併用すると、(A)成分の化合物が、水硬性組成物中において、初期強度を発現する特定の異性体が増加して、可溶性塩による初期強度向上以上の向上効果が得られると考えられる。(A)成分以外の糖類では、上記した通り、疎水性が強くなることから、水硬性粉体の表面に吸着するため構造の異性化が制限されるため、可溶性塩による初期強度向上以上の向上効果が得られにくいと考えられる。
【0023】
本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物は、混練水との混合性等の添加の簡便さの観点から、水を含有する液体組成物、例えば水溶液の形態であることが好ましい。水を含有する液体組成物での水の含有量は、混練水との混合性等の添加の簡便さの観点から、水硬性粉体用強度向上剤組成物中、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、初期強度を発現するのに十分な(A)成分を含有できる観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0024】
また、第二の水硬性粉体用強度向上剤組成物について、水硬性粉体用強度向上剤組成物を水溶液等の水を含有する液体組成物として用いる場合の(A)成分と(B)成分の含有量の合計は、低粘性の液状混合物として混合物の取扱い性を向上する観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上が好ましく、そして、好ましくは99質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0025】
本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物は、水硬性粉体と共存させることで、当該水硬性粉体の硬化体の強度を向上させるものである。通常、水硬性粉体は、これと水とを含む水硬性組成物として用いられる。水硬性粉体としては、セメントが挙げられる。セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色セメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)が挙げられる。
セメントには、他の水硬性粉体として、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、火山灰、珪酸白土等の混合材が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてよい。混合材としては、高炉スラグ、フライアッシュ、及びシリカフュームから選ばれる1種以上が好ましく、高炉スラグ、及びフライアッシュから選ばれる1種以上がより好ましい。セメントと混合された混合セメント、例えばシリカヒュームセメントや高炉セメント等を用いてもよい。また、混合材をセメントと混合することなく用いることもできる。
本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物は、高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカフュームからなる群から選ばれる1種以上の混合材を含有する水硬性粉体用として好適である。更に、高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカフュームからなる群から選ばれる1種以上の混合材を、水硬性組成物の3日強度を向上する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下含有する水硬性粉体用としてより好適である。
【0026】
本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物は、水硬性組成物の3日強度を向上する観点及び長期強度低下を抑制する観点から、固形分として、水硬性粉体100質量部に対して、0.0005質量部以上、2.0質量部以下の割合で用いられる。さらに水硬性粉体用強度向上剤組成物の使用量は、水硬性組成物の3日強度を向上する観点から、固形分として、水硬性粉体100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上、更に好ましくは0.01質量部以上である。また、水硬性粉体用強度向上剤組成物の使用量は、水硬性組成物の3日強度を向上する観点及び長期強度低下を抑制する観点からは、固形分として、水硬性粉体100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以下である。
【0027】
本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物を水硬性粉体に適用するにあたり、水硬性粉体の製造工程で前記組成物を水硬性化合物に添加することもできる。通常、水硬性粉体は、水硬性化合物を粉砕して製造される。本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物は、固形分として、水硬性化合物100質量部に対して、0.0005質量部以上、1.0質量部以下添加する。本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物は、水硬性組成物の3日強度を向上する観点から、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下添加する。例えば、本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物の存在下で、水硬性化合物を粉砕する工程を有する、水硬性粉体の製造方法であって、本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物を、固形分として、水硬性化合物100質量部に対して、0.0005質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、そして、1.0質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下の割合で存在させる水硬性粉体の製造方法が提供される。この場合、グリセリン、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール及びトリエタノールアミンからなる群から選ばれる1種以上の化合物〔(B)成分〕の存在下に水硬性化合物を粉砕することができる。すなわち、水硬性化合物を粉砕する際に、第二の水硬性粉体用強度向上剤組成物を、固形分として、水硬性化合物100質量部に対して、0.0005質量部以上、1.0質量部以下添加する、水硬性粉体の製造方法が提供される。
【0028】
グリセリンのエチレンオキサイド付加物は、エチレンオキサイドの平均付加モル数が、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.75以上、そして、好ましくは6以下、より好ましくは3以下である。(B)成分としては、粉体流動性の調整による粉砕効率制御の観点から、グリセリン、グリセリンのエチレンオキサイド付加物及びトリエタノールアミンからなる群から選ばれる1種以上の化合物が好ましい。
【0029】
第二の水硬性粉体用強度向上剤組成物では、(A)成分と、(B)成分との質量比(固形分換算)は、(A)成分/(B)成分で、水硬性化合物の粉砕性を向上する観点と水硬性組成物の3日強度を向上する観点から、99/1以下であり、好ましくは90/10以下、より好ましくは80/20以下、更に好ましくは75/25以下であり、そして10/90以上、好ましくは20/80以上、より好ましくは35/65以上、更に好ましくは50/50以上である。
【0030】
本発明の水硬性粉体の製造方法では水硬性化合物を粉砕し水硬性粉体を得る。水硬性化合物とは、水と反応して硬化する性質をもつ物質、及び単一物質では硬化性を有しないが2種以上を組み合わせると水を介して相互作用により水和物を形成し硬化する化合物をいう。一般に、水硬性化合物はアルカリ土類金属の酸化物とSiO2、Al23、Fe23、TiO2、P25、ZnOなどの酸化物が常温又は水熱条件下で水和物を形成する。水硬性化合物の成分は、例えば、セメントでは、成分として3CaO・SiO2(C3S:エーライト)、2CaO・SiO2(C2S:ビーライト)、3CaO・Al23(C3A:カルシウムアルミネート)、4CaO・Al23・Fe23(C4AF:カルシウムアルミノフェライト)を含んでいる。また、セメントと共に用いられる混合材として、高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカフュームから選ばれる1種以上の物質が挙げられる。水硬性化合物としては、例えば、セメントに含有される鉱物(C3S、C2S、C3A、C4AF)、スラグ、フライアッシュ、石灰石、鉄さい、石膏、アルミナ、焼却灰、生石灰、消石灰等が挙げられ、水硬性粉体の原料として用いることができる。水硬性化合物は、高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカフュームからなる群から選ばれる1種以上の混合材を含有するものが好ましい。更に、高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカフュームからなる群から選ばれる1種以上の混合材を、水硬性組成物の3日強度を向上する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、より更に好ましくは50質量%以下含有する。
【0031】
水硬性粉体としてポルトランドセメントを得る場合、例えば、ポルトランドセメントは、石灰石、粘土、鉄さい等の原料を焼成して得られた水硬性化合物であるクリンカー(セメントクリンカーとも言い、石膏が入っている場合もある。)を、好ましくは前記混合材と共に、予備粉砕し、適量の石膏を加え、仕上粉砕して、ブレーン値2500cm2/g以上の比表面積を有する粉体として製造される。本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物は、前記水硬性化合物、好ましくはクリンカー粉砕の際の添加剤として、好適には仕上粉砕での添加剤として用いることができる。本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物は、水硬性組成物の3日強度を向上する観点から、粉砕に用いられる原料の水硬性化合物100質量部に対して、水硬性粉体用強度向上剤組成物の固形分で、好ましくは0.0005質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上、更に好ましくは0.01質量部以上、そして、好ましくは2.0質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下、より更に好ましくは0.1質量部以下の存在量となるように用いる。さらに、第二の水硬性粉体用強度向上剤組成物を用いる場合は、水硬性化合物の粉砕性向上と水硬性組成物の3日強度を向上する観点から、第二の水硬性粉体用強度向上剤組成物を、前記水硬性化合物、好ましくはクリンカー粉砕の際の添加剤として、好適には仕上粉砕での添加剤として用いることができる。なお、ここでの存在量は、水硬性化合物を粉砕する工程で存在させる水硬性粉体用強度向上剤組成物の固形分量に基づくものであり、具体的には、水硬性化合物の粉砕が終了するまで、更には、目標とするブレーン値に到達するまでに存在させる水硬性粉体用強度向上剤組成物の固形分量に基づくものである。
【0032】
本発明の水硬性粉体の製造方法では、原料、用途等により、適当な粒径の粉体が得られるよう、粉砕の条件を調整すればよい。一般に、比表面積、ブレーン値が、好ましくは2500cm2/g以上、より好ましくは3000cm2/g以上、そして、好ましくは5000cm2/g以下、より好ましくは4000cm2/g以下の粉体となるまで、水硬性化合物、例えばクリンカーの粉砕を行うことが好ましい。目的のブレーン値は、例えば粉砕時間を調整することにより得ることができる。粉砕時間を長くするとブレーン値が大きくなり、短くするとブレーン値が小さくなる傾向がある。また、水硬性化合物が、セメントクリンカーのような水と反応して硬化する性質をもつ物質と、混合材、更に高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカフュームからなる群から選ばれる1種以上の混合材とを含有する場合、水硬性化合物の密度(比重)が不明でブレーン値の測定が困難となることがある。この場合は、BET比表面積で代用することができる。BET比表面積とは、窒素(N2)などの気体粒子を固体粒子に吸着させ、吸着した量から表面積を測定する気体吸着法である。具体的には、圧力Pと吸着量Vとの関係からBET式(Brunauer,Emmet and Teller's equation)によって、単分子吸着量VMを測定することで、比表面積が求められるものである。セメントクリンカーのような水と反応して硬化する性質をもつ物質と混合材、更に高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカフュームからなる群から選ばれる1種以上の混合材とを含有する水硬性化合物を粉砕する場合、BET比表面積が、好ましくは0.8m2/g以上、より好ましくは1.2m2/g以上、そして、好ましくは3.0m2/g以下、より好ましくは2.5m2/g以下の粉体となるまで、水硬性化合物の粉砕を行うことが好ましい。目的の比表面積は、ブレーン値、BET比表面積、何れの場合でも、例えば粉砕時間を調整することにより得ることができる。粉砕時間を長くすると比表面積が大きくなり、短くすると比表面積が小さくなる傾向がある。
【0033】
本発明において、水硬性化合物の粉砕に使用される粉砕装置は、特に限定されないが、例えばセメントなどの粉砕で汎用されているボールミルを挙げることができる。該装置の粉砕媒体(粉砕ボール)の材質は、被粉砕物(例えばセメントクリンカーの場合、カルシウムアルミネート)と同等又はそれ以上の硬度を有するものが望ましく、一般に入用可能な市販品では、例えば鋼、ステンレス、アルミナ、ジルコニア、チタニア、タングステンカーバイド等を挙げることができる。
【0034】
水硬性組成物中の空気量の増大による強度低下を抑制する観点から、更に消泡剤を併用することができる。また、消泡剤を、水硬性化合物の粉砕時に存在させることで、得られる水硬性粉体の表面に消泡剤を均一に分布させ、前記抑制効果をより効果的に発現させることもできる。すなわち、本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物及び消泡剤との存在下で、水硬性化合物を粉砕する工程を有する、水硬性粉体の製造方法により、空気量の増大による水硬性組成物の圧縮強度低下を抑制できる。
【0035】
消泡剤としては、シリコーン系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤及びエーテル系消泡剤が好ましく、シリコーン系消泡剤ではジメチルポリシロキサンがより好ましく、脂肪酸エステル系消泡剤ではポリアルキレングリコール脂肪酸エステルがより好ましく、エーテル系消泡剤ではポリアルキレングリコールエーテルがより好ましい。
【0036】
本発明の製造方法により得られた水硬性粉体を用いた水硬性組成物は硬化時の圧縮強度が向上されたものとなる。水硬性粉体としては、ポルトランドセメント、アルミナセメント、高炉スラグ、フライアッシュ、石灰石、石膏等が挙げられ、ポルトランドセメントが好ましい。前記混合材を含有する水硬性粉体が好ましい。
【0037】
本発明の製造方法により得られた水硬性粉体は、コンクリート構造物やコンクリート製品の材料として用いることができる。本発明の製造方法により得られた水硬性粉体を用いたコンクリートは、接水から3日後の圧縮強度が向上する。例えば、本発明の製造方法により得られた水硬性粉体に、接水後の初期材齢強度が低い水硬性粉体(高炉スラグ、フライアッシュ、石灰石等)を配合・置換しても、本発明未実施の水硬性粉体を用いた場合と比較して、同等以上の、接水から3日後の圧縮強度を得ることが出来る、等の利点を有する。
【0038】
本発明により、
マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、及びエリトロースからなる群から選ばれる1種以上の化合物〔以下、(A)成分という〕と、
グリセリン、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール及びトリエタノールアミンからなる群から選ばれる1種以上の化合物〔以下、(B)成分という〕を含有し、
(A)成分と(B)成分の質量比が(A)/(B)で、99/1以下、10/90以上である、水硬性組成物用添加剤組成物が提供される。この添加剤は、水硬性化合物の粉砕用添加剤組成物として好適である。
【0039】
本発明により、本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物と、水硬性粉体と、骨材と、水とを含有し、前記水硬性粉体用強度向上剤組成物の含有量が、固形分として、水硬性粉体100質量部に対して、0.0005質量部以上、2.0質量部以下である、水硬性組成物が提供される。ここでの水硬性粉体用強度向上剤組成物は、第一の水硬性粉体用強度向上剤組成物が好ましい。
【0040】
本発明の水硬性組成物では、水硬性粉体用強度向上剤組成物、好ましくは第一の水硬性粉体用強度向上剤組成物の含有量が、固形分として、水硬性粉体100質量部に対して、0.0005質量部以上であり、0.005質量部以上、水硬性組成物の3日強度を向上する観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.015質量部以上が好ましく、そして、2.0質量部以下であり、好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以下である。
【0041】
水硬性粉体は前述のものが使用できる。水硬性粉体は、高炉スラグ、フライアッシュ及び、シリカフュームからなる群から選ばれる1種以上の混合材を含有するものが好ましく、更に、高炉スラグ、フライアッシュ及び、シリカフュームからなる群から選ばれる1種以上の混合材を、水硬性組成物の3日強度を向上する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下含有する水硬性粉体が好ましい。本発明の水硬性組成物中の水硬性粉体の含有量は、水硬性組成物の分離抵抗性と硬化後の強度の観点から、水硬性組成物の体積あたり300kg/m3以上が好ましく、350kg/m3以上がより好ましく、そして、水硬性組成物の水和熱によるひび割れを抑制する観点から、450kg/m3以下が好ましく、430kg/m3以下がより好ましい。
【0042】
骨材としては、細骨材及び粗骨材から選ばれる骨材が挙げられる。細骨材として、JIS A0203−2302で規定されるものが挙げられる。細骨材としては、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂及びこれらの砕砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材(人工及び天然)及び再生細骨材等が挙げられる。また、粗骨材として、JIS A0203−2303で規定されるものが挙げられる。例えば粗骨材としては、川砂利、陸砂利、山砂利、海砂利、石灰砂利、これらの砕石、高炉スラグ粗骨材、フェロニッケルスラグ粗骨材、軽量粗骨材(人工及び天然)及び再生粗骨材等が挙げられる。細骨材、粗骨材は種類の違うものを混合して使用しても良く、単一の種類のものを使用しても良い。
【0043】
本発明の水硬性組成物中の骨材の含有量は、水硬性組成物の分離抵抗性と作業性の観点から、水硬性組成物の体積あたり1700kg/m3以上が好ましく、1720kg/m3以上がより好ましく、そして、1800kg/m3以下が好ましく、1760kg/m3以下がより好ましい。
【0044】
本発明の水硬性組成物中の骨材(a)中の細骨材(s)の容積比〔s/a×100(%)〕は、水硬性組成物の分離抵抗性と作業性の観点から、45%以上が好ましく、47%以上がより好ましく、そして、55%以下が好ましく、53%以下がより好ましい。
【0045】
本発明の水硬性組成物の水(W)と水硬性粉体(C)の質量比〔W/C×100(%)〕は、水硬性組成物の流動性の観点から、40%以上が好ましく、42%以上がより好ましく、そして、水硬性組成物の硬化後の強度の観点から、50%以下が好ましく、48%以下がより好ましい。
【0046】
本発明の水硬性組成物は、流動性を上げる観点から、分散剤を含有することができる。分散剤としては、リン酸エステル系重合体、ポリカルボン酸系共重合体、スルホン酸系共重合体、ナフタレン系重合体、メラミン系重合体、フェノール系重合体、リグニン系重合体等の分散剤が挙げられる。分散剤は他の成分を配合した混和剤であっても良い。
【0047】
分散剤としては、水硬性組成物の硬化遅延を抑制する観点から、ポリカルボン酸系共重合体及びナフタレン系重合体から選ばれる分散剤が好ましく、ポリカルボン酸系共重合体がより好ましい。ポリカルボン酸系共重合体としては、ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステルと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸との共重合体(例えば特開平8−12397号公報に記載の化合物等)、ポリアルキレングリコールを有する不飽和アルコールと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸との共重合体、ポリアルキレングリコールを有する不飽和アルコールとマレイン酸等のジカルボン酸との共重合体等を用いることができる。ここで、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれるカルボン酸の意味である。
【0048】
ポリカルボン酸系共重合体としては、下記の一般式(1)で表される単量体(1)と下記の一般式(2)で表される単量体(2)とを重合して得られる共重合体〔以下、ポリカルボン酸系共重合体(I)という〕を用いることができる。
【0049】
【化1】
【0050】
〔式中、
1、R2:水素原子、又はメチル基
l:0以上、2以下の数
m:0又は1の数
AO:炭素数2以上、4以下のアルキレンオキシ基
n:AOの平均付加モル数であり、5以上、150以下の数、
3:水素原子、又は炭素数1以上、4以下のアルキル基
を表す。〕
【0051】
【化2】
【0052】
〔式中、
4、R5、R6:水素原子、メチル基、又は(CH2m1COOM2
1、M2:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム、アルキルアンモニウム、又は置換アルキルアンモニウム
m1:0以上、2以下の数
を表す。なお、(CH2m1COOM2はCOOM1と無水物を形成していてもよい。〕
【0053】
一般式(1)中、AOは、水硬性組成物の流動性の観点から、好ましくは炭素数2又は3、より好ましくは炭素数2のアルキレンオキシ基(エチレンオキシ基)である。
【0054】
nは、水硬性組成物の硬化遅延を抑制する観点から、好ましくは9以上、更に20以上、より更に50以上、より更に70以上の数である。nは、水硬性組成物の初期流動性の観点から、好ましくは150以下、更に130以下の数である。
【0055】
mが0の場合は、lは好ましくは1又は2である。mが1の場合は、lは好ましくは0である。共重合体の重合時の重合性の観点から、mは1が好ましい。mが0の場合は、単量体の製造の容易性の観点からR3は水素原子が好ましい。mが1の場合は、単量体の製造の容易性の観点からR3は炭素数1以上、4以下のアルキル基が好ましく、さらに水溶性の観点からメチル基がより好ましい。
【0056】
単量体(1)として、例えば、ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル及びアルケニルアルコールにアルキレンオキシドが付加したエーテル等を用いることができる。単量体(1)は、共重合体の重合時の重合性の観点から、ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましい。
【0057】
ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステルとして、片末端封鎖されたアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル等を用いることができる。具体的には、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、エトキシポリエチレングリコールアクリレート及びエトキシポリエチレングリコールメタクリレート等の1種以上を用いることができる。
【0058】
また、アルケニルアルコールにアルキレンオキシドが付加したエーテルとして、アリルアルコールのエチレンオキサイド付加物等を用いることができる。具体的には、メタリルアルコールのエチレンオキサイド付加物及び3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキサイド付加物等を用いることができる。
【0059】
単量体(2)としては、アクリル酸又はその塩、メタクリル酸又はその塩、マレイン酸又はその塩、無水マレイン酸等から選ばれる1種以上を用いることができる。単量体(2)は、単量体(1)のmが1の場合は、共重合体の重合時の重合性の観点から、メタクリル酸又はその塩が好ましく、単量体(1)のmが0の場合は、共重合体の重合時の重合性の観点から、マレイン酸又はその塩、無水マレイン酸が好ましい。
【0060】
ポリカルボン酸系共重合体(I)において、単量体(1)と単量体(2)のモル比は、水硬性組成物の初期流動性の向上の観点から、単量体(1)/単量体(2)が、好ましくは3/97以上、より好ましくは5/95以上、更に好ましくは10/90以上、そして、好ましくは70/30以下、より好ましくは50/50以下、更に好ましくは30/70以下である。
【0061】
また、ポリカルボン酸系共重合体(I)が含む全単量体中、単量体(1)と単量体(2)の合計の割合は、水硬性組成物の初期流動性の向上の観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは80モル%以上、そして、好ましくは100モル%以下であり、更に好ましくは100モル%である。なお、単量体(1)、単量体(2)以外の構成単量体として、不飽和カルボン酸のアルキルエステル等から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0062】
また、ポリカルボン酸系共重合体(I)の重量平均分子量は、水硬性組成物の初期流動性の向上の観点から、10000以上が好ましく、35000以上がより好ましく、50000以上が更に好ましい。ポリカルボン酸系共重合体(I)の重量平均分子量は、水硬性組成物の粘性低減の観点から、100000以下が好ましく、80000以下がより好ましく、70000以下が更に好ましい。この重量平均分子量は、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定されたものである。
[GPC条件]
装置:高速GPC装置 HLC−8320GPC(東ソー(株)製)
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー(株)製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=9/1
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:示差屈折検出器(RI)
サンプルサイズ:0.5mg/mL
標準物質:ポリエチレングリコール換算
【0063】
分散剤の含有量は、水硬性組成物の流動性の向上と水硬性組成物の硬化遅延を抑制する観点から、水硬性粉体100質量部に対して、0.005質量部以上が好ましく、0.01質量部以上がより好ましく、0.05質量部以上が更に好ましく、そして、2.5質量部以下が好ましく、1.0質量部以下がより好ましく、0.5質量部以下が更に好ましい。
【0064】
本発明の水硬性組成物は、更にその他の成分を含有することもできる。例えば、AE剤、遅延剤、起泡剤、増粘剤、発泡剤、防水剤、流動化剤、消泡剤等が挙げられる。
【0065】
本発明の水硬性組成物は、コンクリート、モルタルであってよい。本発明の水硬性組成物は、セルフレベリング用、耐火物用、プラスター用、軽量又は重量コンクリート用、AE用、補修用、プレパックド用、トレーミー用、地盤改良用、グラウト用、寒中用等の何れの分野においても有用である。加熱養生のエネルギーを削減しても水硬性組成物調製後24時間程度で強度を発現し、早期に型枠から脱型が可能になる観点から、コンクリート振動製品や遠心成形品等のコンクリート製品に用いることが好ましい。
【0066】
本発明により、本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物を含有する水硬性組成物、好ましくは本発明の水硬性組成物を調製する工程、調製された前記水硬性組成物を型枠に充填、養生、硬化させる工程、及び、硬化した前記水硬性組成物を脱型する工程、を有する硬化体の製造方法が提供される。水硬性組成物の調製により得られたものが本発明の水硬性組成物であることが好ましい。
【0067】
水硬性組成物を調製する工程では、水硬性組成物の調製を、本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物と、セメント等の水硬性粉体と、骨材と、水とを混合して行う。また、これらと、分散剤とを混合して行うことができる。本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物とセメント等の水硬性粉体とを円滑に混合する観点から、本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物と水、又は本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物と水と分散剤とを予め混合し、セメントと混合することが好ましい。本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物は、水を含有する液体組成物として用いることができる。水硬性粉体と水(好ましくは本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物と水の混合物、又は本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物と分散剤と水の混合物)との混合は、モルタルミキサー、強制二軸ミキサー等のミキサーを用いて行うことができる。また、好ましくは1分間以上、より好ましくは2分間以上、そして、好ましくは5分間以下、より好ましくは3分間以下混合する。水硬性組成物の調製にあたっては、水硬性組成物で説明した材料や薬剤及びそれらの量を用いることができる。
【0068】
水硬性組成物を型枠に充填し養生し硬化させる工程では、得られた水硬性組成物を型枠に充填し養生する。型枠として、建築物の型枠、コンクリート製品用の型枠等が挙げられる。型枠への充填方法として、ミキサーから直接投入する方法、水硬性組成物をポンプで圧送して型枠に導入する方法等が挙げられる。
【0069】
本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法では、水硬性組成物の養生の際、硬化を促進するために加熱養生し、硬化を促進させても良い。ここで、加熱養生は、40℃以上、80℃以下の温度で水硬性組成物を保持して硬化を促進することができる。
【0070】
コンクリート製品である型枠を用いる水硬性組成物の硬化体としては、土木用製品では、護岸用の各種ブロック製品、ボックスカルバート製品、トンネル工事等に使用されるセグメント製品、橋脚の桁製品等が挙げられ、建築用製品では、カーテンウォール製品、柱、梁、床板に使用される建築部材製品等が挙げられる。
【0071】
本明細書において、水硬性組成物の項で説明した事項は、本発明の硬化体の製造方法にも適用することができる。その場合、水硬性組成物の項における本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物、分散剤の「含有量」は「配合量」ないし「添加量」と読み替えることができる。
【0072】
本発明の態様を以下に例示する。
<1> マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、及びエリトロースからなる群から選ばれる1種以上の化合物〔以下、(A)成分という〕を、固形分中、30.0質量%以上、100.0質量%以下含有し、炭素数7以上の糖類、及びグルコースの合計含有量が、固形分中、0質量%以上、15.0質量%以下である、水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【0073】
<2> 高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカフュームからなる群から選ばれる1種以上の混合材を、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下含有する水硬性粉体用である、前記<1>に記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【0074】
<3> (A)成分を、組成物の固形分中、30.0質量%以上、好ましくは40.0質量%以上、そして、100.0質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下含有する、前記<1>又は<2>に記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【0075】
<4> マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、及びエリトロースからなる群から選ばれる1種以上の化合物〔以下、(A)成分という〕を、固形分中、30.0質量%以上、99.0質量%以下、並びに、グリセリン、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール及びトリエタノールアミンからなる群から選ばれる1種以上の化合物〔以下、(B)成分という〕を含有し、
炭素数7以上の糖類、及びグルコースの合計含有量が、固形分中、0質量%以上、15.0質量%以下であり、
(A)成分と(B)成分の質量比が(A)/(B)で、99/1以下、10/90以上である、
水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【0076】
<5> (A)成分を、固形分中、30.0質量%以上、好ましくは40.0質量%以上、そして、99.0質量%以下、好ましくは89質量%以下、より好ましくは79質量%以下含有する、前記<4>に記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【0077】
<6> (A)成分と(B)成分との質量比(固形分換算)が、(A)成分/(B)成分で、99/1以下であり、好ましくは90/10以下、より好ましくは80/20以下、更に好ましくは75/25以下であり、そして10/90以上、好ましくは20/80以上、より好ましくは35/65以上、更に好ましくは50/50以上である、前記<4>又は<5>に記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【0078】
<7> 水を含有する液体組成物であり、(A)成分と(B)成分の含有量の合計が、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上が好ましく、そして、好ましくは99質量%以下、より好ましくは80質量%以下である、前記<4>〜<6>の何れかに記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【0079】
<8> 炭素数7以上の糖類、及びグルコースの合計含有量が、組成物の固形分中、0質量%以上、15.0質量%以下、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下、更に好ましくは5.0質量%以下である、前記<1>〜<7>の何れかに記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【0080】
<9> (A)成分として、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、及びエリトロースからなる群から選ばれる2種以上の化合物を含有する、更に、(A)成分として、マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、及びエリトロースからなる群から選ばれる2種以上の化合物を含有し、且つエリトロースの割合が(A)成分中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、より更に好ましくは14質量%以下である、前記<1>〜<8>の何れかに記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【0081】
<10> 可溶性のアルカリ金属塩、及び可溶性のアルカリ土類金属塩から選ばれる化合物〔以下、可溶性塩という〕を含有する、好ましくは塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム及び硝酸カルシウムから選ばれる可溶性塩を含有する、より好ましくは塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化カルシウム及び酢酸カルシウムから選ばれる可溶性塩、又は、酢酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、酢酸カルシウム及び硝酸カルシウムから選ばれる可溶性塩を含有する、前記<1>〜<9>の何れかに記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【0082】
<11> 可溶性塩を、(A)成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは7質量部以上、更に好ましくは10質量部以上そして、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下含有する、前記<10>に記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【0083】
<12> 水を含有する液体組成物、更に水溶液の形態であり、水の含有量が、組成物中、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である、前記<1>〜<11>の何れかに記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【0084】
<13> 固形分として、水硬性粉体100質量部に対して、好ましくは0.0005質量部以上、より好ましくは0.001質量部以上、更に好ましくは0.005質量部以上、より更に好ましくは0.01質量部以上、そして、好ましくは2.0質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下、より更に好ましくは0.1質量部以下の割合で用いられる、前記<1>〜<12>の何れかに記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物。
【0085】
<14>
前記<1>〜<13>の何れかに記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物の存在下で、水硬性化合物を粉砕する工程を有する、水硬性粉体の製造方法であって、前記水硬性粉体用強度向上剤組成物を、固形分として、水硬性化合物100質量部に対して、0.0005質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、そして、1.0質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下の割合で存在させる水硬性粉体の製造方法。
【0086】
<15>
水硬性化合物を粉砕する際に、前記<4>〜<7>の何れかに記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物を、固形分として、水硬性化合物100質量部に対して、0.0005質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、そして、1.0質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下添加する、水硬性粉体の製造方法。
【0087】
<16> (B)成分のうち、グリセリンのエチレンオキサイド付加物が、エチレンオキサイドの平均付加モル数が、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.75以上、そして、好ましくは6以下、より好ましくは3以下のグリセリンのエチレンオキサイド付加物である、前記<15>に記載の水硬性粉体の製造方法。
【0088】
<17> (B)成分が、グリセリン、グリセリンのエチレンオキサイド付加物及びトリエタノールアミンからなる群から選ばれる1種以上の化合物である、前記<15>又は<16>に記載の水硬性粉体の製造方法。
【0089】
<18> 水硬性化合物が水と反応して硬化する性質をもつ物質と混合材、更に高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカフュームからなる群から選ばれる1種以上の混合材とを含有し、BET比表面積が、好ましくは0.8m2/g以上、より好ましくは1.2m2/g以上、そして、好ましくは3.0m2/g以下、より好ましくは2.5m2/g以下の粉体となるまで、水硬性化合物の粉砕を行う、前記<14>〜<17>のいずれかに記載の水硬性粉体の製造方法。
【0090】
<19> 前記<1>〜<13>の何れかに記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物と、水硬性粉体と、骨材と、水とを含有し、前記水硬性粉体用強度向上剤組成物の含有量が、固形分として、水硬性粉体100質量部に対して、0.0005質量部以上、2.0質量部以下である、水硬性組成物。
【0091】
<20> 水硬性粉体が、高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカフュームからなる群から選ばれる1種以上の混合材、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、より更に好ましくは50質量%以下と、セメントとを含有する水硬性粉体である、前記<19>に記載の水硬性組成物。
【0092】
<21> 水硬性組成物中の水硬性粉体の含有量が、水硬性組成物の体積あたり、好ましくは300kg/m3以上、より好ましくは350kg/m3以上であり、そして、好ましくは450kg/m3以下、より好ましくは430kg/m3以下である、前記<19>又は<20>に記載の水硬性組成物。
【0093】
<22> 前記水硬性粉体用強度向上剤組成物の含有量が、固形分として、水硬性粉体100質量部に対して、好ましくは0.0005質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上、更に好ましくは0.01質量部以上、より更に好ましくは0.015質量部以上であり、そして、好ましくは2.0質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下、より更に好ましくは0.1質量部以下である、前記<19>〜<21>の何れかに記載の水硬性組成物。
【0094】
<23> 分散剤を含有する、更にリン酸エステル系重合体、ポリカルボン酸系共重合体、スルホン酸系共重合体、ナフタレン系重合体、メラミン系重合体、フェノール系重合体、及びリグニン系重合体から選ばれる分散剤を含有する、更に、ポリカルボン酸系共重合体及びナフタレン系重合体から選ばれる分散剤を含有する、更にポリカルボン酸系共重合体を含有する、前記<19>〜<22>の何れかに記載の水硬性組成物。
【0095】
<24> 前記<1>〜<13>の何れかに記載の水硬性粉体用強度向上剤組成物を、水硬性粉体を含有する組成物に共存させる、水硬性粉体を含有する組成物の硬化体の強度向上方法。
この硬化体の強度向上方法において、水硬性粉体用強度向上剤組成物を共存させる量は、本発明の水硬性組成物における含有量や含有させる量を適用することができる。その他、本発明の水硬性粉体用強度向上剤組成物、水硬性組成物、水硬性粉体の製造方法について記載した事項は、いずれもこの硬化体の強度向上方法に適宜適用することができる。
【実施例】
【0096】
(1)強度向上剤組成物
以下の成分を用いて、各実施例、比較例で用いた強度向上剤組成物を調製した。その際、固形分濃度が40質量%水溶液になるよう水を加えて濃度を調整して水溶液の形態の強度向上剤組成物を得た。
【0097】
上記強度向上剤で使用した成分は以下の通りである。
・マンノース:試薬特級、和光純薬工業株式会社製
・ガラクトース:試薬特級、東京化成工業株式会社製
・タロース:生化学用、和光純薬工業株式会社製
・リボース:試薬特級、和光純薬工業株式会社製
・エリトロース:試薬特級、和光純薬工業株式会社製
・グルコース:試薬特級、和光純薬工業株式会社製
・マンノヘプツロース:和光純薬工業株式会社製
・アルトロース:生化学用、和光純薬工業株式会社製
・アロース:生化学用、和光純薬工業株式会社製
・フルクトース:試薬特級 東京化成工業株式会社製
・キシロース:試薬特級 東京化成工業株式会社製
・アラビノース:試薬特級、和光純薬工業株式会社製
・塩化ナトリウム:試薬特級、和光純薬工業株式会社製
・グリセルアルデヒド:試薬特級、和光純薬工業株式会社製
【0098】
(2)水硬性粉体の調製
(2−1)使用材料
・クリンカー:成分が、CaO:約65%、SiO2:約22%、Al23:約5%、Fe23:約3%、MgO他:約3%(質量基準)となるように、石灰石、粘土、けい石、酸化鉄原料等を組み合わせて焼成したものを、クラッシャー及びグラインダーにより一次粉砕して得た、普通ポルトランドセメント用クリンカー(3.5mmふるい通過物)
・二水石膏:試薬特級、和光純薬工業株式会社製
・高炉水砕スラグ:高炉水砕スラグをクラッシャー及びグラインダーにより一次粉砕して得た(3.5mmふるい通過物、表中、Slagと表示)
・フライアッシュ:市販品、中部電力製(表中、FAと表示)
【0099】
(2−2)ボールミル
ボールミルは、株式会社セイワ技研製AXB−15を用い、ステンレスポット容量は18リットル(外径300mm)とし、ステンレスボールは30mmφ(呼び1・3/16)を70個、20mmφ(呼び3/4)を70個、30mmφアルミナボールを35個の合計175個のボールを使用し、ボールミルの回転数は、45rpmとした。
【0100】
(2−3)ブレーン値の測定
ブレーン値の測定は、セメントの物理試験方法(JIS R 5201)に定められるブレーン空気透過装置を使用した。
【0101】
(2−4)BET比表面積の測定
BET比表面積の測定は、Macsorb HM−model 1201(Mountech社製)を用い、以下の条件で行った。
・脱気:100℃×30分、冷却×4分
・測定ガス:キャリアガスとしてヘリウムを用い、冷却剤および吸着質として窒素を用いた。また、混合ガス濃度は30.4%、流量は25ml/min.とした。
【0102】
(2−5)混合材含有量0質量%の水硬性粉体の調製
クリンカー95質量%、二水石膏5質量%の粉砕原料を、粉砕助剤を添加せず、ボールミルでブレーン値3600cm2/gまで粉砕して、混合材含有量0質量%の水硬性粉体を調製した。
【0103】
(2−6)混合材含有量5質量%の水硬性粉体の調製
クリンカー90質量%、二水石膏5質量%、高炉水砕スラグ5質量%の粉砕原料を、粉砕助剤を添加せず、ボールミルでブレーン値3600cm2/gまで粉砕して、混合材含有量5質量%の水硬性粉体を調製した。
【0104】
(2−7)混合材含有量10質量%の水硬性粉体の調製
クリンカー86質量%、二水石膏4質量%、高炉水砕スラグ5質量%、フライアッシュ5質量%の粉砕原料を、粉砕助剤を添加せず、ボールミルでブレーン値3600cm2/gまで粉砕して、混合材含有量10質量%の水硬性粉体を調製した。
【0105】
(2−8)混合材含有量30質量%の水硬性粉体の調製
クリンカー67質量%、二水石膏3質量%、高炉水砕スラグ15質量%、フライアッシュ15質量%の粉砕原料を、粉砕助剤を添加せず、ボールミルでブレーン値3600cm2/gまで粉砕して、混合材含有量30質量%の水硬性粉体を調製した。
【0106】
(2−9)混合材含有量47質量%の水硬性粉体の調製
クリンカー50質量%、二水石膏3質量%、高炉水砕スラグ25質量%、フライアッシュ22質量%の粉砕原料を、粉砕助剤を添加せず、ボールミルでブレーン値3600cm2/gまで粉砕して、混合材含有量47質量%の水硬性粉体を調製した。
【0107】
(2−10)混合材含有量50質量%の水硬性粉体の調製
クリンカー47質量%、二水石膏3質量%、高炉水砕スラグ25質量%、フライアッシュ25質量%の粉砕原料を、粉砕助剤を添加せず、ボールミルでブレーン値3600cm2/gまで粉砕して、混合材含有量50質量%の水硬性粉体を調製した。
【0108】
(2−11)混合材含有量70質量%の水硬性粉体の調製
クリンカー28質量%、二水石膏2質量%、高炉水砕スラグ35質量%、フライアッシュ35質量%の粉砕原料を、粉砕助剤を添加せず、ボールミルでブレーン値3600cm2/gまで粉砕して、混合材含有量70質量%の水硬性粉体を調製した。
【0109】
(3)水硬性組成物の調製
セメントの物理試験方法(JIS R 5201)附属書2(セメントの試験方法−強さの測定)に従った。なお使用材料として、セメントは(2)で調製した水硬性粉体を使用し、水硬性粉体用強度向上剤組成物は練り水に添加した(一部の実施例、比較例を除く)。
【0110】
(4)圧縮強度試験
セメントの物理試験方法(JIS R 5201)附属書2(セメントの試験方法−強さの測定)に従った。
【0111】
実施例1−1〜1−5及び比較例1、1−1〜1−7
混合材含有量50質量%の水硬性粉体100質量部に、表1で示した添加剤を表1の量で用いて水硬性組成物を調製した。そして、水硬性組成物調製後、3日後及び28日後の圧縮強度を測定した。結果を表1に示した。
なお、表中の添加量は、何れも固形分換算の質量部である(以下、同様)。
また、表中、(A)成分に該当しない化合物も便宜的に(A)成分の欄に示した。
【0112】
【表1】
【0113】
マンノース、ガラクトース、タロース、リボース、エリトロースをそれぞれ単独で用いた場合、他の糖類を用いた場合よりも圧縮強度が向上することがわかる。
【0114】
実施例2−1〜2−7及び比較例2−1〜2−2
混合材含有量50質量%の水硬性粉体100質量部に、表2で示した強度向上剤組成物を表2の量で用いて水硬性組成物を調製した。そして、水硬性組成物調製後、3日後及び28日後の圧縮強度を測定した。結果を表2に示した。また、表中、(A)成分に該当しないグルコースも便宜的に(A)成分の欄に示した。
【0115】
【表2】
【0116】
実施例1−1、2−1及び比較例1−1、2−1から、可溶性塩である塩化ナトリウムをマンノースと組み合わせて用いると、グルコースと組み合わせて用いた場合に比べて、圧縮強度の向上効果が高いことがわかる。また、実施例2−2〜2−7から、塩化ナトリウム以外の可溶性塩をマンノースと組み合わせても、実施例1−1と同等以上の圧縮強度の向上効果が得られることがわかる。
【0117】
実施例3−1〜3−7及び比較例3−1〜3−8
混合材含有量50質量%の水硬性粉体100質量部に、表3で示した強度向上剤組成物を表4の量で用いて水硬性組成物を調製した。そして、水硬性組成物調製後、3日後及び28日後の圧縮強度を測定した。結果を表4に示した。なお、表3で示した比較例C−1の配合のうち、糖類に関する組成は、国際公開第97/37952号の表1を参考に、国際公開第97/37952号の範囲内で、且つ本願の範囲外となるような組成を比較例C−1として定めた。さらに表3の他の実施例、比較例は、比較例C−1の配合比率を基本とし、(A)成分とその他の成分を増減させたものである。
【0118】
【表3】
【0119】
【表4】
【0120】
マンノース、ガラクトース、タロース、リボース及びエリトロースの合計量が固形分中、30.0質量%以上、100.0質量%以下、炭素数7以上の糖類であるスクロースやマンノヘプトース、及びグルコースの合計量が、0質量%以上、15.0質量%以下で圧縮強度が向上することがわかる。
【0121】
実施例4−1〜4−9及び比較例4
混合材含有量50質量%の水硬性粉体100質量部に、表3で示した強度向上剤組成物を表5の量で用いて水硬性組成物を調製した。そして、水硬性組成物調製後、3日後及び28日後の圧縮強度を測定した。結果を表5に示した。
【0122】
【表5】
【0123】
実施例5〜10及び比較例5〜10
混合材含有量0、5、10、30、50、70質量%の水硬性粉体100質量部に、表3で示した強度向上剤組成物を表6の量で用いて水硬性組成物を調製した。そして、水硬性組成物調製後、3日後及び28日後の圧縮強度を測定した。結果を表6に示した。
【0124】
【表6】
【0125】
実施例11−1〜11−4及び比較例11−1〜11−2
水硬性化合物から水硬性粉体を製造する際に強度向上剤組成物を使用した場合の粉砕性と水硬性組成物調製後3日後及び7日後の圧縮強度を測定した。
水硬性化合物として、混合材含有量47質量%の水硬性粉体の組成を用いた。また、表7に示す強度向上剤組成物を用いた。
水硬性化合物100質量部に対して、表7の成分及び添加量で、ボールミルで水硬性化合物の粉砕を行ない、粉砕性を38分粉砕後のBET比表面積を指標として評価した。また、得られた水硬性粉体を用いて、水硬性組成物調製後、3日後及び28日後の圧縮強度を測定した。結果を表7に示した。
なお、表中、グリセリンEO1モル付加物は、グリセリンのエチレンオキサイド平均1モル付加物であり、TEAは、トリエタノールアミンである。
【0126】
【表7】
【0127】
実施例11−3及び比較例11−1〜11−2から、(A)成分と(B)成分とを併用すると、水硬性化合物の粉砕性は、トリエタノールアミンを単独で用いるのとほぼ同等まで向上し、得られた水硬性粉体を用いた水硬性組成物の3日後の圧縮強度は、トリエタノールアミンを単独で用いるよりも高くなることがわかる。
【0128】
実施例12及び比較例12
強度向上剤組成物を分散剤と併用して使用した場合の水硬性組成物調製後3日後及び28日後の圧縮強度を測定した。水硬性組成物は、混合材含有量47質量%の水硬性粉体100質量部に、表8で示した分散剤と強度向上剤組成物を、それぞれ、表8の量で用いて調製した。
なお、実施例12及び比較例12では、セメントの物理試験方法(JIS R 5201)附属書2(セメントの試験方法−強さの測定)の水量225g〔水/水硬性粉体の質量比は50(%))を、水量180g〔水/水硬性粉体の質量比は40(%))に代えて実験を行った。実施例12では重合体1を強度向上剤組成物と混合し混和剤を調製した。そして、前記混和剤を練り水に添加した。
強度向上剤組成物として表3のA−1を用いた。分散剤として、ポリカルボン酸系分散剤である下記の合成方法で得られた重合体1を用いた。
水硬性組成物調製後3日後及び28日後の圧縮強度を測定した。結果を表8に示した。
【0129】
・重合体1の合成方法
攪拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水114gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。60質量%のω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数120:エステル純度100質量%)〔一般式(1)において、R1が水素原子、R2がメチル基、lが0、mが1、AOがエチレンオキシ基、nが120、R3がメチル基〕水溶液300g、メタクリル酸(試薬:和光純薬工業株式会社製)〔一般式(2)において、R4及びR5が共に水素原子、R6がメチル基、M1が水素原子〕11.5g、及び3−メルカプトプロピオン酸1.2gを混合溶解した水溶液と、過硫酸アンモニウム1.9gを水45gに溶解した水溶液の2者を、それぞれ1.5時間かけて上記反応容器中に滴下した。その後、80℃で1時間熟成し、更に過硫酸アンモニウム0.8gを水15gに溶解した水溶液を30分かけて滴下し、引き続き80℃で1.5時間熟成した。熟成終了後に40℃以下に冷却した後、48質量%水酸化ナトリウム水溶液9.6gで中和し、重量平均分子量54000の共重合体(重合体1)を得た(中和度0.7)。その後、水を用いて固形分40質量%に調整し、重合体1の40質量%水溶液を得た。重合体1は、ポリカルボン酸系共重合体であり、単量体(1)/単量体(2)のモル比は20/80である。
【0130】
【表8】