(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記被検体と同一性状で且つ複数の欠陥が形成された変換曲線作成用被検体の表裏面のうちの一方の面に前記送信用探触子を配置して、該送信用探触子から発信された超音波の前記変換曲線作成用被検体を透過する透過波を前記変換曲線作成用被検体の表裏面のうちの他方の面側の複数箇所で受信した後、
前記健全なデータ採取用被検体から取得した透過波の信号波形の最大振幅強度と、前記変換曲線作成用被検体から取得した複数箇所における透過波の信号波形の最大振幅強度との差分を演算して前記回折波の振幅強度を求め、前記回折波の信号波形の振幅強度と前記複数の欠陥の位置との関係を表す変換曲線を作成し、
取得した前記回折波の信号波形の振幅強度に基づいて、前記変換曲線から前記欠陥の位置及び大きさ等の性状を推定ないし特定する請求項1に記載の超音波探傷検査方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した特許文献1のように、被検体に内在する欠陥を間にして送信用探触子と受信用探触子とを並べて配置して超音波探傷検査を行う場合において、受信用探触子は、被検体の底面で反射して戻る反射波に加えて欠陥の先端部で回折した回折波を受信する。この際、受信した反射波の信号波形と回折波の信号波形とが重ならないようにするために、被検体に入射する超音波の周波数をある程度高い周波数に設定する必要がある。
【0005】
しかしながら、検査対象の被検体が高減衰材である場合には、被検体に入射する超音波の周波数を高い周波数に設定すると、高減衰材である被検体内で超音波が減衰し易くなる分だけ透過性が悪くなり、これに対処するべく受信感度を上げてしまうと、ノイズの影響が大きくなって欠陥の性状の検出が困難になるので、好ましくない。
【0006】
一方、被検体に入射する超音波の周波数を低い周波数に設定すると、高減衰材である被検体内で減衰し難くなるものの、上記したように、受信した反射波の信号波形と回折波の信号波形とが互いに重なり合ってしまい、欠陥の性状の検出が難しくなってしまうという問題があり、これを解決することが従来の課題となっていた。
【0007】
本発明は、上述した課題に着目してなされたものであり、低い周波数の超音波を用いた探傷検査を行うことができ、被検体が高減衰材であったとしても、被検体に内在する欠陥の性状を精度よく検出することが可能な超音波探傷検査方法及び超音波探傷検査装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するべく、本発明の第1の
参考態様は、超音波が減衰する減衰材からなる被検体の内部における欠陥の有無を超音波を用いて判定する超音波探傷検査方法であって、前記被検体と同一性状の健全なデータ採取用被検体の表裏面のうちの一方の面に送信用探触子を配置して、該送信用探触子から発信された超音波の前記健全なデータ採取用被検体における欠陥のない部分を透過する透過波を前記健全なデータ採取用被検体の表裏面のうちの他方の面側の複数箇所で欠陥無信号波として予め受信した後、前記被検体の表裏面のうちの一方の面に送信用探触子を配置して、前記送信用探触子から発信された超音波の前記被検体を透過する透過波を前記被検体の表裏面のうちの他方の面側の複数箇所で本信号波として受信し、前記健全なデータ採取用被検体に超音波を透過させることで取得した前記欠陥無信号波、及び、前記被検体に超音波を透過させることで取得した前記本信号波の双方を開口合成して、それぞれの可視化画像を取得するのに続いて、前記欠陥無信号波及び前記本信号波の各可視化画像同士を比較して、該欠陥無信号波及び前記本信号波の各可視化画像間に
前記被検体の欠陥で発生する回折波による相違点がある場合には
、前記被検体内に欠陥有りと判定する構成としている。
【0009】
本発明の第
1の態様は、超音波が減衰する減衰材からなる被検体の内部における欠陥の有無を超音波を用いて判定する超音波探傷検査方法であって、前記被検体と同一性状の健全なデータ採取用被検体の表裏面のうちの一方の面に送信用探触子を配置して、該送信用探触子から発信された超音波の前記健全なデータ採取用被検体における欠陥のない部分を透過する透過波を前記健全なデータ採取用被検体の表裏面のうちの他方の面側の複数箇所で欠陥無信号波として予め受信した後、前記被検体の表裏面のうちの一方の面に送信用探触子を配置して、前記送信用探触子から発信された超音波の前記被検体を透過する透過波を前記被検体の表裏面のうちの他方の面側の複数箇所で本信号波として受信し、前記健全なデータ採取用被検体に超音波を透過させることで取得した前記欠陥無信号波と、前記被検体に超音波を透過させることで取得した前記本信号波とを比較して、前記欠陥無信号波及び本信号波に
、前記被検体に超音波を透過させることで該被検体の欠陥で発生する回折波による振幅の差が生じてい
る場合には
、前記振幅の差分を開口合成し、該振幅の差分を開口合成して得られる可視化画像に基づいて前記被検体内に欠陥有りと判定する構成としている。
【0010】
本発明の第
2の態様は、前記被検体に検査領域を設定すると共に該検査領域をブロック状に分割して複数の検査小領域を設定し、前記検査領域をブロック状に分割することで設定された複数の前記ブロック毎で得られる前記回折波の信号強度をそれぞれ演算して合成し、この合成で取得した前記信号強度に基づいて、前記被検体内に有りと判定した前記欠陥の位置を特定する構成としている。
【0011】
本発明の第
3の態様は、前記被検体と同一性状で且つ複数の欠陥が形成された変換曲線作成用被検体の表裏面のうちの一方の面に前記送信用探触子を配置して、該送信用探触子から発信された超音波の前記変換曲線作成用被検体を透過する透過波を前記変換曲線作成用被検体の表裏面のうちの他方の面側の複数箇所で受信した後、前記健全なデータ採取用被検体から取得した透過波の信号波形の最大振幅強度と、前記変換曲線作成用被検体から取得した複数箇所における透過波の信号波形の最大振幅強度との差分を演算して前記回折波の振幅強度を求め、前記回折波の信号波形の振幅強度と前記複数の欠陥の位置との関係を表す変換曲線を作成し、取得した前記回折波の信号波形の振幅強度に基づいて、前記変換曲線から前記欠陥の位置及び大きさ等の性状を推定ないし特定する構成としている。
【0012】
本発明の第
4の態様は、前記健全なデータ採取用被検体,前記変換曲線作成用被検体及び前記被検体の各他方の面側における透過波の受信を複数箇所に並べて配置した受信用探触子で行う構成とし、本発明の第
5の態様は、前記健全なデータ採取用被検体,前記変換曲線作成用被検体及び前記被検体の各他方の面側における透過波の受信を一つの受信用探触子を走査させて行う構成としている。
【0013】
一方、本発明に係る超音波探傷検査装置の第1の態様は、超音波が減衰する減衰材からなる被検体の内部における欠陥の有無を超音波を用いて判定する超音波探傷検査装置であって、被検体に超音波を入射する送信用探触子と、前記被検体を介して前記送信用探触子と対向して配置され、前記被検体内を伝搬する超音波を受信する受信用探触子と、前記被検体と同一性状の健全なデータ採取用被検体における欠陥のない部分に超音波を透過させることで取得した欠陥無信号波
と、前記被検体に超音波を透過させることで取得した本信号波
とを比較して、
前記欠陥無信号波及び本信号波に、前記被検体に超音波を透過させることで該被検体の欠陥で発生する回折波による振幅の差が生じている場合に、前記振幅の差分を開口合成して可視化画像を取得する手段と、
前記振幅の差分を開口合成して得られる可視化画像
に基づいて前記被検体内に欠陥有りと判定する手段を備える構成としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る超音波探傷検査方法及び超音波探傷検査装置によれば、被検体が高減衰材である場合でも、被検体に内在する欠陥の検査精度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る超音波探傷検査方法及び超音波探傷検査装置を図面に基づいて説明する。
図1〜
図9は、本発明に係る超音波探傷検査
方法の一
参考形態
で使用する超音波探傷検査装置を示しており、この
参考形態では、被検体が円筒形状を成すロケットの固体推進薬(高減衰材)である場合を例に挙げて説明する。
【0017】
図1に示すように、この超音波探傷検査装置1は、パルス発生器10と、送信用探触子12と、受信用探触子14と、パルスレシーバ16と、アナログ/デジタル変換器(以下、A/D変換器という)18と、演算装置20と、モニタ28を備えている。
【0018】
送信用探触子12は、円筒形状を成す被検体2の内周面(表裏面のうちの一方の面)2aに接触状態で配置されており、パルス発生器10で発生させた所定周波数の超音波を被検体2に入射させる。この際、被検体2が高減衰材から成るロケットの固体推進薬であることから、周波数は、被検体2の内部で減衰しにくい低い周波数、例えば、数百kHzとするのが好ましく、このように、低い周波数の超音波を被検体2に入射させることで、後述する透過波や回折波を受信用探触子14で良好に受信し得る。
【0019】
一方、受信用探触子14は、円筒形状を成す被検体2の外周面(表裏面のうちの他方の面)2bに送信用探触子12と対向して配置され、被検体2の内部を伝搬する透過波や回折波を受信する。この場合、受信用探触子14は、
図2にも示すように、合計m×n個のアレイ探触子14aを、縦にm個(m=1以上の整数)、横にn個(n=1以上の整数)マトリックス状に配置して成るマトリックスアレイであり、この受信用探触子14は、中央ないしその近傍にあるアレイ探触子14aが送信用探触子12と対向するようにして配置される。
【0020】
アレイ探触子14aの少なくとも被検体2との接触面はゴムなどの弾性材料で形成されており、被検体2の外周面2bのように設置部位が曲面であったとしても、受信用探触子14を被検体2の外周面2bに設置する際に、各アレイ探触子14aと被検体2の外周面2bとの間に隙間が生じることがないようにしている。なお、受信用探触子14として、環状アレイを用いてもよい。
【0021】
受信用探触子14が受信した透過波や回折波は、パルスレシーバ16で電気信号に変換され、電気信号に変換された透過波や回折波は、A/D変換器18でデジタル信号に変換されて、演算装置20で信号処理される。
【0022】
演算装置20は、中央演算処理装置(以下、CPUという)やROM、RAM等のメモリ(図示せず)から構成されている。このメモリにはプログラムが格納されており、演算装置20がこれらのプログラムを実行することによって、回折波抽出部22,開口合成部24及び欠陥性状推定部26の各機能が発揮される。なお、演算装置20は、回折波抽出部22,開口合成部24及び欠陥性状推定部26以外の機能も有しているが、本
参考形態では説明を省略する。
【0023】
回折波抽出部22は、受信用探触子14のアレイ探触子14aのそれぞれが受信した透過波の信号波形を処理して回折波を抽出する。開口合成部24は、抽出された回折波を後述するようにして開口合成する。欠陥性状推定部26は、合成した回折波の信号強度に基づいて被検体2に内在する欠陥4の位置を特定すると共に、大きさ等の性状を推定する。
【0024】
演算装置20には出力装置としてモニタ28が接続されており、演算装置20で信号波形を処理して抽出される回折波を開口合成することで得られる可視化画像を表示して、被検体2内の欠陥4の有無や、被検体2に欠陥4が内在している場合の欠陥4の位置等の欠陥情報を表示するようにしている。なお、図示はしないが、演算装置20はキーボード等の入力装置を備えていてもよい。
【0025】
次に、上記した超音波探傷検査装置1を用いた本発明の一
参考形態に係る超音波探傷検査方法の実施要領を説明する。
図3は、超音波探傷検査の工程を示すフローチャート、
図4は、被検体2と同一性状のデータ採取用被検体2A、すなわち、欠陥が内在しない健全な被検体2Aに対して超音波探傷検査を実施する場合の概略図、
図5は、欠陥が内在する被検体2に対して超音波探傷検査を実施する場合の概略図である。なお、
図3に示すフローチャートにおけるステップS3以降の各ステップの処理は、演算装置20のメモリに格納されたプログラムをCPUで実行することによって行われる。
【0026】
まず、ステップS1において、検査対象の被検体2と同一性状であり、欠陥4が形成されていない健全なデータ採取用被検体2Aに対して超音波探傷検査を実施する。このように、欠陥4が形成されていないデータ採取用被検体2Aの場合には、
図4に示すように、送信用探触子12からデータ採取用被検体2Aに入射した超音波は、データ採取用被検体2Aの内部を透過して受信用探触子14において透過波WT(欠陥無信号波)として受信される。
【0027】
ここで、受信用探触子14のアレイ探触子14a
11〜14a
mnのうちの略中央にあるアレイ探触子をアレイ探触子14a
ijとすると共に、アレイ探触子14a
11〜14a
mnのうちの送信用探触子12からの距離が最も短い列をj番目(j=1以上の整数)として、j番目の列のアレイ探触子14a
1j〜14a
mjについて説明する。
【0028】
受信用探触子14のアレイ探触子14a
1j〜14a
mjのそれぞれが透過波WTを受信する時間は、送信用探触子12に最も近いアレイ探触子14a
ijが最も早くなり、送信用探触子12から離れていくにつれて、透過波WTを受信する時間が遅くなる。そして、アレイ探触子14a
ijから最も離れているアレイ探触子14a
1j,14a
mjが透過波WTを受信する時間が最も遅くなる。このように、各アレイ探触子14a
11〜14a
mnが透過波WTを受信する時間には、それぞれずれが生じる。
【0029】
次いで、ステップS2において、検査対象の被検体2に対して超音波探傷検査を実施する。検査対象の被検体2に欠陥4が内在する場合には、
図5に示すように、送信用探触子12から送信された超音波は、欠陥4で回折して回折波WD(本信号波の一部)を生じ、欠陥4で生じた回折波WDは被検体2内を伝搬して受信用探触子14で受信される。
【0030】
図5では、判り易くするためにアレイ探触子14a
1j,14a
mjだけが透過波WTを受信する状況を示しているが、被検体2内を透過した透過波は他の各アレイ探触子14a
11〜14a
mnでも受信される。
【0031】
このステップS2でも、各アレイ探触子14a
11〜14a
mnが回折波WD及び透過波WTを受信する時間には互にずれが生じる。また、欠陥4がある位置に応じて回折波WDを最も早く受信するアレイ探触子14aも変わる。さらに、被検体2内を伝搬する超音波において、まず透過波WTが各アレイ探触子14a
11〜14a
mnに受信され、その後遅れて回折波WDが各アレイ探触子14a
11〜14a
mnに受信される。
【0032】
上述したように、ステップS2において検査対象の被検体2に対して超音波探傷検査を実施して得られた本信号波には、透過波WTと回折波WDとが含まれている。一方、ステップS1において健全なデータ採取用被検体2Aに対して超音波探傷検査を実施して得られた欠陥無信号波には、透過波WTのみが含まれている。
【0033】
そこで、ステップS3では、ステップS1で得た透過波WT(欠陥無信号波)、及び、ステップS2で得た透過波WTと回折波WDとの合成波(本信号波)の双方をそれぞれ開口合成する。開口合成とは、各アレイ探触子14a
11〜14a
mnが受信した信号波の時間のずれを合わせ込んで信号波を合成する処理のことである。詳しくは、
図6〜
図8に基づいて以下に説明する。
【0034】
図6は、被検体2内の仮想領域Vを示す概略図、
図7(A)は、被検体2に内在する欠陥4に最も近いアレイ探触子14aが受信した回折波WDの信号波形の一例、
図7(B)は、
図7(A)に示す信号波形の回折波を受信したアレイ探触子14aの隣に配置されているアレイ探触子14aで受信した回折波WDの信号波形の一例、
図7(C)は、被検体2に内在する欠陥4から最も離れているアレイ探触子14aが受信した回折波WDの信号波形の一例、
図8は、
図7に示した信号波形の回折波を開口合成した合成波の信号波形の一例である。
【0035】
図6に示すように、回折波WDを開口合成するために、受信用探触子14が配置されている側の被検体2内の所定の大きさの領域を仮想領域Vとして設定する。仮想領域Vは、超音波探傷検査を行った領域のうち、欠陥4を評価する領域として設定する。仮想領域Vは、所定の大きさの複数のブロック(直方体形状の塊)Vgに分割されており、これらのブロックVgに対して開口合成を行って、各ブロックVgの信号強度を求める。
【0036】
仮想領域VにおけるブロックVg1の開口合成を例として以下に説明する。
複数のアレイ探触子14a
11〜14a
mnでそれぞれ受信されるブロックVg1で発生した回折波WDには、受信時間のずれが生じている。
【0037】
詳しくは、ステップS2で得た本信号波である合成波から抽出される回折波WDの信号波形は、
図7(A)〜
図7(C)に示すように、ブロックVg1に最も近いアレイ探触子14a
ijにおいて最も速い時間tiで受信され、アレイ探触子14a
ijの隣にあるアレイ探触子14a
(i+1)jでは、時間tiよりも遅い時間ti+1で受信され、ブロックVg1から最も離れているアレイ探触子14a
mjにおいて最も遅い時間tmで受信される。複数のアレイ探触子14a
11〜14a
mnがそれぞれ受信した回折波WDを各々の信号波形の時間差を合わせ込んで合成すると、例えば、
図8に示すように、信号強度Sの信号波形となる。仮想領域Vにおける複数のブロックVg毎に開口合成を行い、これらのブロックVgにおける各信号強度を求める。
【0038】
そして、ステップS3では、ステップS1で得た透過波WT(欠陥無信号波)、及び、ステップS2で得た透過波WTと回折波WDとの合成波(本信号波)の双方を上述のようにそれぞれ開口合成して、複数のブロックVgにおける各信号強度を求めて、
図9(A),(B)に示すように、透過波WTの可視化画像、及び、透過波WTと回折波WDとの合成波の可視化画像をモニタ28上に表示する。
【0039】
続いて、ステップS4において、ステップS3で得た2つの可視化画像同士を比較して、両可視化画像間に
被検体2の欠陥4で発生する回折波WDによる相違点が存在する
と、被検体2内に欠陥4有りと判定する。
【0040】
ステップS5において、ステップS4で被検体2内に欠陥4有りと判定した場合には、ステップS3で開口合成した複数のブロックVgにおける各信号強度に基づいて、欠陥4の位置や、大きさ等の欠陥4の性状の推定を行う。具体的には、ステップS3で行った開口合成により、欠陥4が存在するブロックVgの信号強度Sは、他のブロックVgの信号強度Sよりも大きくなるので、この信号強度Sに基づいて、欠陥4の大きさを推定することができる。また、複数のブロックVgにおける各信号強度Sを求めることによって、欠陥4の位置を推定することができる。
【0041】
このように、本
参考形態では、検査対象の被検体2、及び、この被検体2と同じ性状の健全なデータ取得用被検体2Aのそれぞれに超音波探傷検査を実施して、健全なデータ取得用被検体2Aから得た可視化画像と、検査対象の被検体2から得た可視化画像とを比較し、両可視化画像に
被検体2の欠陥4で発生する回折波WDによる相違点が生じている場合には
、被検体2内に欠陥4有りと判定し、この回折波WDの信号波形(信号強度)に基づいて欠陥4の位置や、大きさ等の性状を推定ないし特定する。
【0042】
これにより、欠陥4で発生する回折波WDの信号波形の信号強度は送信された超音波の信号強度より弱いので、被検体2が高減衰材である場合でも回折波の減衰が抑制され、検査対象の被検体2に内在する欠陥4の位置や、大きさ等の性状を精度よく特定することができる。
また、透過法を用いて超音波探傷検査を行うので、被検体2の外周面2bからの反射波の影響を受けることなく、被検体2の検査精度を向上させることができる。
【0043】
さらに、超音波探傷検査を行った領域のうち、評価する領域を仮想領域Vとして複数のブロック状に区分けし、複数のブロックVg毎に回折波WDの信号波形を開口合成してブロックVgにおける各信号強度Sに基づいて欠陥4の性状を推定するので、欠陥4の性状を精度よく推定することができる。
【0044】
さらにまた、検査対象となる被検体2の大きさに応じて受信用探触子14のアレイ探触子14aの数を増加させることで、例えば大型の被検体2であったとしても、受信用探触子14を走査させる必要がなく、受信用探触子14を走査させる場合と比較して、被検体2を傷つけることなくより短時間で超音波探傷検査を実施し得る。
【0045】
次に、上記した超音波探傷検査装置1を用いた本発明の
一実施形態に係る超音波探傷検査方法の実施要領を説明する。
図10は、超音波探傷検査の工程を示すフローチャートである。なお、
図10に示すフローチャートにおけるステップS3以降の各ステップの処理も、演算装置20のメモリに格納されたプログラムをCPUで実行することによって行われる。
【0046】
この実施形態に係る超音波探傷検査方法の実施要領が、先の
参考形態に係る超音波探傷検査方法の実施要領と相違するところは、ステップSS3おいて、ステップS1及びステップS2でそれぞれ取得した透過波WTを比較して、両者の差分をアレイ探触子14a
11〜14a
mn毎に求め、各アレイ探触子14a
11〜14a
mnのそれぞれについて回折波WDを取得し、すなわち、健全なデータ採取用被検体2Aに対して超音波探傷検査を実施して得られた信号波の振幅と、検査対象の被検体2に対して超音波探傷検査を実施して得られた信号波の振幅との差分を求めて、欠陥4により発生する回折波WDを抽出する点と、ステップSS4において、ステップSS3で抽出した回折波WDの回折波形を開口合成して
図11に示す可視化画像を取得した後、ステップSS5において、この可視化画像に基づいて被検体2内に欠陥4有りと判定する点にある。
【0047】
そして、ステップSS6において、先の
参考形態に係る超音波探傷検査方法の実施要領と同様に、ステップSS5で被検体2内に欠陥4有りと判定した場合には、ステップSS4で開口合成した複数のブロックVgにおける各信号強度に基づいて、欠陥4の位置や、大きさ等の欠陥4の性状の推定を行う。
【0048】
このように、本実施形態では、検査対象の被検体2、及び、この被検体2と同じ性状の健全なデータ取得用被検体2Aのそれぞれに超音波探傷検査を実施して、健全なデータ取得用被検体2Aから受信した信号波と検査対象の被検体2から受信した信号波とを比較し、両波の各振幅に
被検体2の欠陥4で発生する回折波WDによる差が生じている場合には
、その差分をアレイ探触子14a
11〜14a
mn毎に求めて回折波WDを抽出し、この回折波WDの信号強度に基づいて欠陥4の位置や、大きさ等の性状を推定ないし特定する。
【0049】
これにより、欠陥4で発生する回折波WDの信号強度は送信された超音波の信号強度よりも弱いので、被検体2が高減衰材である場合でも回折波の減衰が抑制され、検査対象の被検体2に内在する欠陥4の位置や、大きさ等の性状を精度よく特定することができる。
また、透過法を用いて超音波探傷検査を行うので、被検体2の底面からの反射波の影響を受けることなく、被検体2の検査精度を向上させることができる。
【0050】
さらに、超音波探傷検査を行った領域のうち、評価する領域を仮想領域Vとして複数のブロック状に区分けし、複数のブロックVg毎に回折波WDの信号波形を開口合成してブロックVgにおける各信号強度Sに基づいて欠陥4の性状を推定するので、欠陥4の性状を精度よく推定することができ、加えて、
図11に模式的に示す1つの可視化画像だけで、欠陥4の有無の判定を行い得る。
【0051】
次に、本発明に係る超音波探傷検査装置のさらに他の実施形態について説明する。本実施形態は、上記実施形態に対して、回折波の信号強度と受信用探触子14から欠陥4までの距離との関係を変換曲線として予め作成し、その変換曲線に基づいて欠陥4の性状を推定する点が異なっており、その他の構成については共通している。したがって、共通点については説明を省略する。
【0052】
図12は、本実施形態に係る超音波探傷検査装置1Aの概略図である。
図12に示すように、この超音波探傷検査装置1Aの演算装置200は、CPUやROM、RAM等のメモリ(図示せず)から構成されている。当該メモリにはプログラムが格納されており、演算装置200がこれらのプログラムを実行することによって、回折波抽出部201、回折強度演算部202、欠陥性状推定部203の各機能が発揮される。また、当該メモリには、後述する変換曲線が格納されている。なお、演算装置200は、回折波抽出部201、回折強度演算部202、欠陥性状推定部203以外の機能も有しているが、本変形例では説明を省略する。
【0053】
回折波抽出部201は、受信用探触子14のアレイ探触子14aのそれぞれが受信した透過波を処理して、回折波の成分を抽出する。回折強度演算部202は、抽出された回折波の信号強度を演算する。欠陥性状推定部203は、演算された回折波の信号波形に基づいて被検体2に内在する欠陥4の位置を特定すると共に、大きさ等の性状を推定する。
【0054】
次に、本実施形態に係る超音波探傷検査装置1Aを用いた本発明の他の実施形態に係る超音波探傷検査方法の実施要領を説明する。
図13は、超音波探傷検査の工程を示すフローチャート、
図14は、被検体2と同一性状であり且つ複数の欠陥4が形成された変換曲線作成用被検体2Bの概略図、
図15は、送信用探触子12から見て0degの位置にある受信用探触子14が受信した透過波及び回折波を含む合成波の各信号波形、
図16は、透過波及び合成波の最大振幅強度を示すグラフ、
図17は、
図16の合成波の信号波形における回折波形の最大振幅強度を示すグラフ、
図18は、受信用探触子14から欠陥4までの距離と、回折の強度との関係を表す変換曲線をそれぞれ示している。
【0055】
まず、検査対象の被検体2と同一性状の被検体を2体準備し、一方を上述の欠陥4のない健全なデータ取得用被検体2Aとし、他方を複数の欠陥4が形成された変換曲線作成用被検体2Bとし、詳しくは、
図14に示すように、変換曲線作成用被検体2Bは、複数の欠陥4a〜4dが内在するものとする。一例として、変換曲線作成用被検体2Bの中心からの距離をR1〜R6で示し、この変換曲線作成用被検体2Bに形成された欠陥4a〜4dは、送信用探触子12から見て略直線上、即ち0degの位置に内在している。欠陥4の数は、本実施形態において欠陥4a〜4dの4個としているが、欠陥4の数は後述する変換曲線を作成するために十分な数であればこれに限られない。また、領域Pは、送信用探触子12から送信された超音波が変換曲線作成用被検体2B内を伝搬する領域を示している。受信用探触子14は、この領域Pの範囲を走査させればよい。
【0056】
送信用探触子12から見た受信用探触子14の位置が0degとなる位置を基準とし、
図14において0degから上方向を正の位置、下方向を負の位置とする。
図14では、例として変換曲線作成用被検体2Bの中心から送信用探触子12までの距離R1=200mm、変換曲線作成用被検体2Bの中心から欠陥4aまでの距離R2=300mm、変換曲線作成用被検体2Bの中心から欠陥4bまでの距離R3=500mm、変換曲線作成用被検体2Bの中心から欠陥4cまでの距離R4=700mm、変換曲線作成用被検体2Bの中心から欠陥4dまでの距離R5=900mm、変換曲線作成用被検体2Bの中心から受信用探触子14までの距離R6=1000mmとしている。送信用探触子12から送信された超音波が伝搬する範囲Pを受信用探触子14で走査し、それぞれの位置で透過波WT及び回折波WDの信号波形を取得する。なお、
図14では、1つの受信用探触子14を走査させているが、複数のアレイ探触子14aを用いてもよい。
【0057】
そして、ステップS11において、変換曲線作成用被検体2Bに対して超音波探傷検査を実施して透過波WT及び回折波WDを取得するのに続いて、ステップS12において、健全なデータ取得用被検体2Aに対して超音波探傷検査を実施して、透過波WTを取得する。
【0058】
次いで、ステップS13において、ステップS11で取得した透過波WT及び回折波WDと、ステップS12で取得した透過波WTとに基づいて、変換曲線を作成する。
【0059】
詳しくは、
図15に示すように、健全なデータ取得用被検体2Aに超音波探傷検査を実施して取得した透過波WTの最大振幅に対して、変換曲線作成用被検体2Bに超音波探傷検査を実施して取得した距離R5の位置にある欠陥4dからの透過波WTの最大振幅が若干小さくなるので、受信用探触子14を変換曲線作成用被検体2Bの外周上で走査して、この欠陥4dにおける最大振幅を変換曲線作成用被検体2Bの外周の各位置で取得してプロットすることで変換曲線を作成する。
【0060】
一例として、
図16に簡略的に示すように、送信用探触子12からの距離が近い欠陥4aほど、つまり受信用探触子14から距離の遠い欠陥4aほど、透過波WTの最大振幅強度が弱くなる傾向にある。また、健全なデータ取得用被検体2Aから取得した透過波WTの最大振幅強度に対して、欠陥4a(欠陥4b〜4dの波形は省略)から取得した最大振幅強度は、複数のピークに分かれている。このようにして取得した透過波WTの最大振幅強度について、健全なデータ取得用被検体2Aから取得した透過波WTの最大振幅強度と、欠陥4aから取得した透過波WTの最大振幅強度との差分を演算したものを
図17に示す。
【0061】
図17に簡略的に示すように、健全な被データ取得用被検体2Aから取得した透過波WTを基準とした透過波WTの最大振幅強度、即ち回折波WDの最大振幅強度のグラフは、ピークが2つに割れた形状として現れる。ここで、2つのピークは略等しい大きさであることから、このピークから2つのピークの間にある谷までの長さ、即ち振幅強度を回折の強度SDとする。
【0062】
一例として、
図17には欠陥4aにおける最大振幅強度のグラフにおける振幅強度SD2を示している。このように回折の強度SDを欠陥4a〜4dのそれぞれのグラフから求め、回折の強度SDと受信用探触子14から欠陥4a〜4dまでの距離をプロットし、得られた曲線を変換曲線とする。この変換曲線の例を
図18に示す。
図18に示すように、各点を曲線で近似した変換曲線を作成することによって、この変換曲線を用いて、回折の強度SDに基づいて欠陥4a〜4dの位置を特定することができる。
【0063】
次に、ステップS14において、検査対象の被検体2に対して超音波探傷検査を実施して、透過波WT及び回折波WDを取得する。
【0064】
そして、ステップS15において、ステップS11で取得した透過波WT及び回折波WDと、ステップS12で取得した透過波WTとの差分を演算する。詳しくは、ステップS11で取得した透過波WT及び回折波WDの最大振幅強度と、ステップS12で取得した透過波WTの最大振幅強度との差分を演算する。この差分の振幅強度は、回折波WDの振幅強度、即ち回折の強度SDとなる。
【0065】
続いて、ステップS16において、ステップS15で求めた回折の強度SDから、ステップS13で作成した変換曲線に基づいて、検査対象の被検体2に内在する欠陥4の位置を推定する。例えば、ステップS15で求めた回折の強度SDが
1.05×10
-3であった場合には、受信用探触子14から欠陥4までの距離は約
500mmとなる。
【0066】
このように、本実施形態において、予め欠陥4の距離が測定された変換曲線作成用被検体2Bを用いて変換曲線を作成し、その変換曲線に基づいて検査対象の被検体2に内在する欠陥4の性状を推定する。これにより、検査対象の被検体2の検査精度をより向上させることができる。
【0067】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態では、本発明に係る超音波探傷検査方法及び超音波探傷検査装置をロケットの高減衰材である固体推進薬の欠陥検出に用いた場合を示したが、例えば、ゴム等の弾性体やプラント等の大型構造物の欠陥検出に用いてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、受信用探触子14としてマトリックスアレイを用いているが、1つの受信用探触子14を走査して透過波WT及び回折波WDの信号波形を取得してもよい。