特許第6371639号(P6371639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーインスツル株式会社の特許一覧 ▶ エスアイアイ・プリンテック株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371639
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッド及び液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20180730BHJP
   B41J 2/15 20060101ALI20180730BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   B41J2/14 303
   B41J2/14 611
   B41J2/15
   B41J2/16 517
【請求項の数】10
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-174578(P2014-174578)
(22)【出願日】2014年8月28日
(65)【公開番号】特開2016-49644(P2016-49644A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100171251
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 季央
(72)【発明者】
【氏名】堀口 悟史
【審査官】 牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−268526(JP,A)
【文献】 特開2012−148427(JP,A)
【文献】 特開2004−106380(JP,A)
【文献】 特開2013−216067(JP,A)
【文献】 特表平11−506402(JP,A)
【文献】 特開平05−147215(JP,A)
【文献】 特開平08−267768(JP,A)
【文献】 特開2012−171290(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0062657(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1圧電基板と第2圧電基板とを積層して形成される圧電プレートと、
前記圧電プレートの一方の主面上に配置されると共に、インクが供給される共通インク室が形成されるカバープレートと、
前記圧電プレートに形成され、前記圧電プレートの一方の主面側に開口し、且つ、前記圧電プレートの厚さ方向に直交する方向に間隔をあけて並んだ複数の溝部と、
前記複数の溝部の内壁面上にそれぞれ形成されると共に、前記圧電プレートの一方の主面上にパターン形成される電極と、
少なくとも前記共通インク室と平面視で重なる領域において前記圧電プレートと前記電極との間に形成される絶縁膜と、
を備え
前記絶縁膜は、表面が粗面化された酸化シリコン膜により形成される
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記電極は、無電解メッキによって析出された金属被膜により形成されることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記圧電プレートのうち前記電極が形成される電極形成領域の面粗度は、前記圧電プレートのうち前記電極が形成されない電極非形成領域の面粗度よりも大きいことを特徴とする請求項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
第1圧電基板と第2圧電基板とを積層して形成される圧電プレートと、
前記圧電プレートの一方の主面上に配置されると共に、インクが供給される共通インク室が形成されるカバープレートと、
前記圧電プレートに形成され、前記圧電プレートの一方の主面側に開口し、且つ、前記圧電プレートの厚さ方向に直交する方向に間隔をあけて並んだ複数の溝部と、
前記複数の溝部の内壁面上にそれぞれ形成されると共に、前記圧電プレートの一方の主面上にパターン形成される電極と、
少なくとも前記共通インク室と平面視で重なる領域において前記圧電プレートと前記電極との間に形成される絶縁膜と、
を備え、
前記電極は、無電解メッキによって析出された金属被膜により形成され、
前記圧電プレートのうち前記電極が形成される電極形成領域の面粗度は、前記圧電プレートのうち前記電極が形成されない電極非形成領域の面粗度よりも大きい
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記絶縁膜は、表面が粗面化された酸化シリコン膜により形成されることを特徴とする請求項4に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記絶縁膜は、少なくとも前記共通インク室と平面視で重なる領域において前記複数の溝部の側壁面の全面に形成されることを特徴とする請求項1から5までの何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記共通インク室は、前記圧電プレートの一方の主面側に開口する第1開口部と、前記第1開口部とは反対側において前記第1開口部よりも小さい大きさで開口する第2開口部とを備え、
前記絶縁膜は、少なくとも前記第1開口部又は前記第2開口部と平面視で重なる領域において前記圧電プレートと前記電極との間に形成されることを特徴とする請求項1から6までの何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記複数の溝部は、前記圧電プレートの側面のうちノズルプレートとは反対側に位置する側面側ほど前記圧電プレートの一方の主面側に位置するように傾斜する傾斜領域を有し、
前記絶縁膜は、少なくとも前記傾斜領域において前記圧電プレートと前記電極との間に形成されることを特徴とする請求項1からまでの何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記複数の溝部は、前記インクが充填される液体噴射溝と、前記インクが充填されない液体非噴射溝とを含み、
前記液体噴射溝と前記液体非噴射溝とは、前記圧電プレートの厚さ方向に直交する方向に交互に並んで配置されることを特徴とする請求項1からまでの何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
請求項1からまでの何れか一項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドと被記録媒体とを相対的に移動させる移動機構とを備えることを特徴とする液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被記録媒体に向けて液滴状のインク(以下「インク滴」という。)を吐出し、画像や文字を描画するインクジェット方式の液体噴射ヘッドが利用されている。
この方式は、インク滴をタンクから供給管を介して液体噴射ヘッドに供給し、チャネルに充填したインク滴をチャネルに連通するノズルから吐出させる。インク滴の吐出の際は、ノズルから吐出されたインク滴を記録する被記録媒体を移動させて、文字や図形を記録する。
【0003】
この種の液体噴射ヘッドでは、消費電力の増加や発熱を抑制するために、電極のうち駆動部に電気を導く配線電極として機能する部分(以下「配線部」という。)が電荷を保持することを回避することが必要とされている。例えば、下記特許文献1では、ピエゾ電気物質により形成されるベースを用い、チャネルのうち平面視でインク供給窓と重なる領域においてベースと電極との間に絶縁膜(ピエゾ電気物質よりも低い比誘電率を有する物質の層、いわゆる不動態被膜)を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第1997/39897号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の構成では、ベースが1枚のプレートにより形成されるため、駆動壁を大きく変形させるには限界があるという課題がある。
従って、消費電力の増加や発熱を抑制しつつ、駆動壁の変形量を大きくすることについて改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、消費電力の増加や発熱を抑制しつつ、駆動壁の変形量を大きくすることができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用した。
【0008】
(1)本発明の第1の態様に係る液体噴射ヘッドは、第1圧電基板と第2圧電基板とを積層して形成される圧電プレートと、前記圧電プレートの一方の主面上に配置されると共に、インクが供給される共通インク室が形成されるカバープレートと、前記圧電プレートに形成され、前記圧電プレートの一方の主面側に開口し、且つ、前記圧電プレートの厚さ方向に直交する方向に間隔をあけて並んだ複数の溝部と、前記複数の溝部の内壁面上にそれぞれ形成されると共に、前記圧電プレートの一方の主面上にパターン形成される電極と、少なくとも前記共通インク室と平面視で重なる領域において前記圧電プレートと前記電極との間に形成される絶縁膜と、を備えることを特徴とする。
【0009】
(1)本発明の第1の態様に係る液体噴射ヘッド(a)は、第1圧電基板と第2圧電基板とを積層して形成される圧電プレートと、前記圧電プレートの一方の主面上に配置されると共に、インクが供給される共通インク室が形成されるカバープレートと、前記圧電プレートに形成され、前記圧電プレートの一方の主面側に開口し、且つ、前記圧電プレートの厚さ方向に直交する方向に間隔をあけて並んだ複数の溝部と、前記複数の溝部の内壁面上にそれぞれ形成されると共に、前記圧電プレートの一方の主面上にパターン形成される電極と、少なくとも前記共通インク室と平面視で重なる領域において前記圧電プレートと前記電極との間に形成される絶縁膜と、を備え、前記絶縁膜は、表面が粗面化された酸化シリコン膜により形成されることを特徴とする。
本発明の第1の態様に係る液体噴射ヘッド(b)は、第1圧電基板と第2圧電基板とを積層して形成される圧電プレートと、前記圧電プレートの一方の主面上に配置されると共に、インクが供給される共通インク室が形成されるカバープレートと、前記圧電プレートに形成され、前記圧電プレートの一方の主面側に開口し、且つ、前記圧電プレートの厚さ方向に直交する方向に間隔をあけて並んだ複数の溝部と、前記複数の溝部の内壁面上にそれぞれ形成されると共に、前記圧電プレートの一方の主面上にパターン形成される電極と、少なくとも前記共通インク室と平面視で重なる領域において前記圧電プレートと前記電極との間に形成される絶縁膜と、を備え、前記電極は、無電解メッキによって析出された金属被膜により形成され、前記圧電プレートのうち前記電極が形成される電極形成領域の面粗度は、前記圧電プレートのうち前記電極が形成されない電極非形成領域の面粗度よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
(2)上記(1)に記載の液体噴射ヘッドにおいて、前記絶縁膜は、少なくとも前記共通インク室と平面視で重なる領域において前記複数の溝部の側壁面の全面に形成されてもよい。
【0011】
仮に、絶縁膜が溝部の側壁面の一部のみに形成されると、側壁面のうち絶縁膜が形成されない部分には電荷が保持されるため、消費電力の増加や発熱を十分に抑制することができない可能性がある。これに対し、本発明の第1の態様に係る液体噴射ヘッドによれば、絶縁膜が少なくとも溝部の側壁面の全面に形成されるため、側壁面の全面にわたって電荷が保持されることを回避できる。従って、消費電力の増加や発熱を十分に抑制することができる。
【0012】
(3)上記(1)又は(2)に記載の液体噴射ヘッドにおいて、前記共通インク室は、前記圧電プレートの一方の主面側に開口する第1開口部と、前記第1開口部とは反対側において前記第1開口部よりも小さい大きさで開口する第2開口部とを備え、前記絶縁膜は、少なくとも前記第1開口部又は前記第2開口部と平面視で重なる領域において前記圧電プレートと前記電極との間に形成されてもよい。
【0013】
この構成によれば、少なくとも第1開口部又は第2開口部と平面視で重なる領域において圧電プレートと電極との間に絶縁膜が形成されるので、共通インク室の仕様に応じて、配線部が電荷を保持することを回避できる。従って、消費電力の増加や発熱を共通インク室の仕様に応じて効率良く抑制することができる。
【0014】
(4)上記(1)から(3)までの何れか一項に記載の液体噴射ヘッドにおいて、前記複数の溝部は、前記圧電プレートの側面のうちノズルプレートとは反対側に位置する側面側ほど前記圧電プレートの一方の主面側に位置するように傾斜する傾斜領域を有し、前記絶縁膜は、少なくとも前記傾斜領域において前記圧電プレートと前記電極との間に形成されてもよい。
【0015】
この構成によれば、少なくとも傾斜領域において圧電プレートと電極との間に絶縁膜が形成されるので、溝部の傾斜形状に応じて、配線部が電荷を保持することを回避できる。従って、消費電力の増加や発熱を溝部の傾斜形状に応じて効率良く抑制することができる。
【0016】
(5)上記(1)から(4)までの何れか一項に記載の液体噴射ヘッドにおいて、前記絶縁膜は、表面が粗面化された酸化シリコン膜により形成されてもよい。
【0017】
この構成によれば、絶縁膜の表面が粗面化されるので、無電解メッキを行うことができると共に、無電解メッキにおいて形成される金属被膜に対する密着性を高めることができる。又、絶縁膜が酸化シリコン膜により形成されるので、低コスト化を図ることができる。
【0018】
(6)上記(1)から(5)までの何れか一項に記載の液体噴射ヘッドにおいて、前記電極は、無電解メッキによって析出された金属被膜により形成されてもよい。
【0019】
この構成によれば、電極が蒸着により形成される場合に比べて、電極の膜厚の均一化を図ると共に、無電解メッキにおいて触媒が付与された部分に対する電極の密着性を高めることができる。
【0020】
(7)上記(6)に記載の液体噴射ヘッドにおいて、前記圧電プレートのうち前記電極が形成される電極形成領域の面粗度は、前記圧電プレートのうち前記電極が形成されない電極非形成領域の面粗度よりも大きくてもよい。
【0021】
この構成によれば、無電解メッキにおいて電極形成領域に形成される金属被膜の密着性を飛躍的に高めることができる。
【0022】
(8)上記(1)から(7)までの何れか一項に記載の液体噴射ヘッドにおいて、前記複数の溝部は、前記インクが充填される液体噴射溝と、前記インクが充填されない液体非噴射溝とを含み、前記液体噴射溝と前記液体非噴射溝とは、前記圧電プレートの厚さ方向に直交する方向に交互に並んで配置されてもよい。
【0023】
この構成によれば、複数の溝部が液体噴射溝と液体非噴射溝とを含む構成において、消費電力の増加や発熱を抑制しつつ、駆動壁の変形量を大きくすることができる。
【0024】
(9)本発明の第2の態様に係る液体噴射装置は、上記(1)から(8)までの何れか一項に記載の液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドと被記録媒体とを相対的に移動させる移動機構とを備えることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、上記液体噴射ヘッドを備えるため、消費電力の増加や発熱を抑制しつつ、駆動壁の変形量を大きくすることができる液体噴射装置とすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、消費電力の増加や発熱を抑制しつつ、駆動壁の変形量を大きくすることができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第1実施形態に係るインクジェットプリンタの斜視図である。
図2】上記インクジェットプリンタにおけるインクジェットヘッドの斜視図である。
図3】上記インクジェットヘッドにおけるヘッドチップの斜視図である。
図4】上記ヘッドチップの分解斜視図である。
図5】上記ヘッドチップにおける、アクチュエータプレートとカバープレートとを分解した拡大斜視図である。
図6図3のVI−VI断面図である。
図7】上記ヘッドチップの平面図である。
図8図7のVIII−VIII断面図である。
図9図7のIX−IX断面図である。
図10】上記インクジェットヘッドの製造方法のフローチャートである。
図11】上記インクジェットヘッドの製造方法の一工程図であって、平面図である。
図12】上記インクジェットヘッドの製造方法の一工程図であって、前側面図である。
図13】上記インクジェットヘッドの製造方法の一工程図であって、図11のXIII−XIII断面図である。
図14】上記インクジェットヘッドの製造方法の一工程図であって、図11のXIV−XIV断面図である。
図15図11に続く一工程図であって、平面図である。
図16図12に続く一工程図であって、前側面図である。
図17図13に続く一工程図であって、図15のXVII−XVII断面図である。
図18図14に続く一工程図であって、図15のXVIII−XVIII断面図である。
図19図15に続く一工程図であって、平面図である。
図20図16に続く一工程図であって、前側面図である。
図21図17に続く一工程図であって、図19のXXI−XXI断面図である。
図22図18に続く一工程図であって、図19のXXII−XXII断面図である。
図23図19に続く一工程図であって、平面図である。
図24図20に続く一工程図であって、前側面図である。
図25図21に続く一工程図であって、図23のXXV−XXV断面図である。
図26図22に続く一工程図であって、図23のXXVI−XXVI断面図である。
図27図23に続く一工程図であって、平面図である。
図28図24に続く一工程図であって、前側面図である。
図29図25に続く一工程図であって、図27のXXIX−XXIX断面図である。
図30図26に続く一工程図であって、図27のXXX−XXX断面図である。
図31】本発明の第2実施形態に係るインクジェットヘッドの製造方法の一工程図であって、切削工程前の前側面図である。
図32】本発明の第2実施形態に係るインクジェットヘッドの製造方法の一工程図であって、切削工程後の前側面図である。
図33】本発明の第3実施形態に係る絶縁膜の形成領域の説明図であって、共通インク室と、図29に相当する断面図とを含む図である。
図34】本発明の第4実施形態に係る絶縁膜の形成領域の説明図であって、図33に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。以下の実施形態では、本発明の液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置の一例として、インク(液体)を利用して記録紙等の被記録媒体に記録を行うインクジェットプリンタ(以下「プリンタ」という。)を例に挙げて説明する。尚、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0029】
<第1実施形態>
[プリンタ]
図1は、プリンタ1の斜視図である。
図1に示すように、プリンタ1は、紙等の被記録媒体Sを搬送する一対の搬送機構2,3と、被記録媒体Sにインク滴を噴射するインクジェットヘッド4と、インクジェットヘッド4にインクを供給するインク供給手段5と、被記録媒体Sの搬送方向(主走査方向)と直交する方向(副走査方向)にインクジェットヘッド4を走査させる走査手段6とを備える。
【0030】
尚、以下の説明において、副走査方向をX方向、主走査方向をY方向、そしてX方向、及びY方向に直交する方向をZ方向として説明する。ここで、プリンタ1は、X方向、Y方向が水平方向となるように、且つ、Z方向が上下方向となるように載置して使用される。
【0031】
一対の搬送機構2,3は、Y方向に間隔をあけて配置される。一対の搬送機構2,3は、X方向に延びるグリッドローラ2a,3aと、グリッドローラ2a,3aに対して平行に配置されると共に、グリッドローラ2a,3aとの間で被記録媒体Sを挟み込むピンチローラ2b,3bと、グリッドローラ2a,3aをその軸回りに回転動作させるモータ等の図示しない駆動機構とを備える。例えば、一対の搬送機構2,3のグリッドローラ2a,3aを回転させることで、被記録媒体SをY方向に沿った矢印A方向に搬送可能とされる。
【0032】
インク供給手段5は、インクが収容されるインクタンク10と、インクタンク10とインクジェットヘッド4とを接続するインク配管11とを備える。インクタンク10は、複数設けられ、例えば、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(B)の4色のインクをそれぞれ収容するインクタンク10Y,10M,10C,10BがY方向に並んで配置される。インク配管11は、例えば可撓性を有するフレキシブルホースであり、インクジェットヘッド4を支持するキャリッジ16の動作(移動)に追従可能とされる。
尚、インクタンク10は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(B)の4種類のインクを収容するインクタンク10Y,10M,10C,10Bに限らず、更に多色のインクを収容するインクタンクを備えてもよい。
【0033】
走査手段6は、X方向に延び、Y方向に間隔をあけて互いに平行に配置される一対のガイドレール15と、一対のガイドレール15に沿って移動可能に配置されるキャリッジ16と、キャリッジ16をX方向に移動させる駆動機構17とを備える。
駆動機構17は、一対のガイドレール15の間に配置されると共にX方向に間隔をあけて配置される一対のプーリ18と、一対のプーリ18の間に巻回されてX方向に移動する無端ベルト19と、一方のプーリ18を回転駆動させる駆動モータ20とを備える。
【0034】
キャリッジ16は、無端ベルト19に連結され、一方のプーリ18の回転駆動による無端ベルト19の移動に伴ってX方向に移動可能とされる。又、キャリッジ16には、複数のインクジェットヘッド4がX方向に並んだ状態で搭載される。図示の例では、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(B)の各インクをそれぞれ噴射する4つのインクジェットヘッド4、即ちインクジェットヘッド4Y、4M、4C、4Bがキャリッジ16に搭載される。尚、上述した搬送機構2,3及び走査手段6により、インクジェットヘッド4と被記録媒体Sとを相対的に移動させる移動機構を構成している。
【0035】
[インクジェットヘッド]
次に、インクジェットヘッド4について詳細に説明する。
図2は、インクジェットヘッド4の斜視図である。尚、上述した各インクジェットヘッド4は、供給されるインクの色以外は何れも同一の構成を有するため、以下の説明では、一のインクジェットヘッド4について説明する。
【0036】
図2に示すように、インクジェットヘッド4は、キャリッジ16(図1参照)に固定される固定プレート25と、固定プレート25上に固定されるヘッドチップ26と、インク供給手段5(図1参照)から供給されるインクを、ヘッドチップ26の後述する共通インク室41a(図3参照)に更に供給するインク供給部27と、ヘッドチップ26に駆動電圧を印加するヘッド駆動部28とを備える。
【0037】
インクジェットヘッド4は、駆動電圧が印加されることで、各色のインクを所定の噴出量で吐出する。このとき、図1に示すように、インクジェットヘッド4が走査手段6によりX方向に移動することで、被記録媒体Sにおける所定範囲に記録を行うことができ、この走査を搬送機構2,3により被記録媒体SをY方向に搬送しながら繰り返し行うことで、被記録媒体Sの全体に記録を行うことが可能となる。
【0038】
図2に示すように、固定プレート25には、アルミニウム等の金属製のベースプレート30がZ方向に沿って起立した状態で固定されると共に、ヘッドチップ26の後述する共通インク室41a(図3参照)にインクを供給する流路部材31が固定される。流路部材31の上方には、インクを貯留する貯留室を内部に有する圧力緩衝器32がベースプレート30に支持された状態で配置される。そして、流路部材31と圧力緩衝器32とはインク連結管33を介して連結され、圧力緩衝器32にはインク配管11が接続される。
【0039】
圧力緩衝器32は、インク配管11を介してインクが供給されると、インクを内部の貯留室内に一旦貯留した後、所定量のインクをインク連結管33及び流路部材31を介して共通インク室41a(図3参照)に供給する。
尚、これら流路部材31、圧力緩衝器32及びインク連結管33により、上記インク供給部27を構成している。
【0040】
又、固定プレート25には、ヘッドチップ26を駆動するための集積回路等の制御回路(駆動回路)35が搭載されたIC基板36が取り付けられる。制御回路35と、ヘッドチップ26の後述する共通電極50及び個別電極52(図5参照)とは、図示しない配線パターンがプリント配線されたフレキシブル基板37を介して電気接続される。これにより、制御回路35は、フレキシブル基板37を介して共通電極50と個別電極52との間に駆動電圧を印加することが可能とされる。
尚、これら制御回路35が搭載されたIC基板36、及びフレキシブル基板37により、上記ヘッド駆動部28を構成している。
【0041】
[ヘッドチップ]
続いて、ヘッドチップ26について詳細に説明する。
図3はヘッドチップ26の斜視図であり、図4はヘッドチップ26の分解斜視図である。
図3及び図4に示すように、ヘッドチップ26は、アクチュエータプレート40(圧電プレート)と、カバープレート41と、支持プレート42と、ノズルプレート43とを備える。ヘッドチップ26は、後述する吐出チャネル45Aの長手方向端部に臨むノズル孔43aからインクを吐出する、いわゆるエッジシュートタイプとされる。
尚、以下の説明では、Z方向のうち、ノズルプレート43側(一方側)を前側といい、ノズルプレート43とは反対側(他方側)を後側という。又、アクチュエータプレート40の側面のうち、ノズルプレート43に対向する側面を前端面40aといい、前端面40aとはZ方向の反対側に位置する側面を後端面40bという。
【0042】
アクチュエータプレート40は、第1アクチュエータプレート40A(第1圧電基板)及び第2アクチュエータプレート40B(第2圧電基板)の2枚のプレートを積層した、いわゆるシェブロン方式の積層プレート(積層基板)とされる。第1アクチュエータプレート40A及び第2アクチュエータプレート40Bは、共に厚さ方向に分極処理された圧電基板、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)セラミックス基板であり、互いの分極方向を反対に向けた状態で接合される。このアクチュエータプレート40は、Y方向に長く、Z方向に短い、平面視長方形状に形成される。
【0043】
このようにシェブロン方式のアクチュエータプレート40を用いる場合、駆動電圧を印加することで上下両方の基板(第1アクチュエータプレート40A及び第2アクチュエータプレート40B)を駆動させることができる。そのため、1枚のプレートにより形成されるアクチュエータプレートを用いる場合と比較して、駆動壁を大きく変形させることができる。これにより、1枚のプレートにより形成されるアクチュエータプレートを用いる場合と比較して、駆動電圧を低下させつつ駆動壁の変形量を大きくすることができる。又、駆動壁の変形量を同じくすれば、1枚のプレートにより形成されるアクチュエータプレートを用いる場合と比較して、駆動電圧を低下することができ、消費電力を低減することができる。
【0044】
図5はヘッドチップ26における、アクチュエータプレート40とカバープレート41とを分解した拡大斜視図であり、図6図3のVI−VI断面図である。
図5及び図6に示すように、アクチュエータプレート40の一方の主面(カバープレート41が重なる面)40cには、Y方向に所定の間隔をあけて並んだ複数のチャネル45(溝部)が形成される。複数のチャネル45は、一方の主面40c側に開口した状態で第2方向L3に沿って直線状に延びるチャネルであり、長手方向の一方側がアクチュエータプレート40の前端面40a側に開口する。複数のチャネル45の間には、断面矩形状でZ方向に延びる駆動壁46が形成され、駆動壁46によって各チャネル45はそれぞれ区分けされる。
【0045】
複数のチャネル45は、インクが充填される吐出チャネル45A(液体噴射溝)と、インクが充填されないダミーチャネル45B(液体非噴射溝)と、に大別される。そして、これら吐出チャネル45Aとダミーチャネル45Bとは、Y方向に交互に並んで配置される。
吐出チャネル45Aは、アクチュエータプレート40の後端面40b側に開口することなく、前端面40a側にだけ開口するように形成される。一方、ダミーチャネル45Bは、アクチュエータプレート40の前端面40a側だけでなく、後端面40b側にも開口するように形成される。
【0046】
吐出チャネル45Aの内壁面上、即ちY方向に向かい合う一対の側壁面46a上及び底壁面46b上には、後述する絶縁膜56を介して共通電極50が形成される。共通電極50は、吐出チャネル45Aに沿ってZ方向に延び、アクチュエータプレート40の一方の主面40c上に絶縁膜56を介して形成される共通端子51に導通する。
尚、各共通端子51はそれぞれ電気的に独立するようにパターン形成される。
【0047】
本実施形態の共通電極50は、吐出チャネル45Aの内壁面上に全体的に形成される。即ち、共通電極50は、一対の側壁面46a上に形成される側面電極50aと、底壁面46b上に形成されると共に、一対の側面電極50a同士を接続する底面電極50bとにより断面U字状に形成される。
【0048】
一方、ダミーチャネル45Bの内壁面上のうちY方向に向かい合う一対の側壁面46a上には、後述する絶縁膜56を介して個別電極52が形成される。個別電極52は、ダミーチャネル45Bに沿ってZ方向に延び、アクチュエータプレート40の一方の主面40c上に絶縁膜56を介して形成される個別端子53に導通する。
【0049】
尚、個別端子53は、アクチュエータプレート40の一方の主面40c上における後端面40b側に形成され、吐出チャネル45Aを挟んだ両側に位置する個別電極52同士(異なるダミーチャネル45B内に形成された個別電極52同士)を接続するように形成される。
個別端子53は、一方の主面40c上において、共通端子51よりも後端面40b側に離間した位置でY方向に延びることで、個別電極52同士をブリッジ状に繋ぐように形成される。
【0050】
本実施形態の個別電極52は、一対の側壁面46a上に形成される側面電極52aと、底壁面46b上に形成されると共に、一対の側面電極52aを離間する底面電極52bとにより形成される。例えば、個別電極52は、ダミーチャネル45Bの内壁面上に導電膜を全体的に形成した後、前記導電膜のうち底壁面46b上に形成される部分をレーザ加工やダイシング加工等によって分断することで、一対の側壁面46a上にそれぞれ電気的に切り離された状態で形成される。
【0051】
このような構成のもと、フレキシブル基板37を介して制御回路35(図2参照)が共通端子51及び個別端子53を通じて、共通電極50と個別電極52との間に駆動電圧を印加すると、駆動壁46が変形し、吐出チャネル45A内に充填されたインクに圧力変動が生じる。これにより、吐出チャネル45A内のインクをノズル孔43aより吐出することができ、被記録媒体Sに文字や図形等の各種情報を記録することが可能となる。
【0052】
図3及び図4に示すように、カバープレート41は、アクチュエータプレート40の一方の主面40c(図5参照)上に重ね合わされる。このカバープレート41には、アクチュエータプレート40側に窪む共通インク室41aがY方向に長い平面視矩形状に形成される。共通インク室41aは、上記流路部材31(図2参照)内に連通し、流路部材31内のインクが流通するように構成される。
【0053】
図6に示すように、共通インク室41aには、インク導入板55に形成される複数のスリット55aが連通する。スリット55aは、流路部材31(図2参照)を介して供給されてきたインクを吐出チャネル45A内に導入させると共に、前記インクをダミーチャネル45B内に導入することを規制する。つまり、スリット55aは、吐出チャネル45Aに対応する位置に形成され、ダミーチャネル45Bに対応する位置には形成されない。これにより、各吐出チャネル45A内のみにインクを充填することが可能とされる。
【0054】
図5に示すように、スリット55aは、Z方向に所定の長さを有し、Z方向において、スリット55aの後端縁は吐出チャネル45Aの後端縁(吐出チャネル45Aのエンベロープ形状の終点Ep)に一致する。これにより、吐出チャネル45Aの後端側でインクが淀むことを抑制することができ、吐出チャネル45Aの内部に気泡が溜まることを抑制することができる。
【0055】
カバープレート41は、例えばアクチュエータプレート40と同じPZTセラミックス基板で形成される。これにより、アクチュエータプレート40と同じようにカバープレート41を熱膨張させることができ、温度変化に対する反りや変形を抑制することができる。尚、カバープレート41の形成材料としては、アクチュエータプレート40とは異なる材料を用いてもよいが、アクチュエータプレート40の熱膨張係数と近い材料を用いることが好ましい。
【0056】
図3及び図4に示すように、支持プレート42は、重ね合わされたアクチュエータプレート40及びカバープレート41を支持すると共に、ノズルプレート43を併せて支持する。支持プレート42には、Y方向に沿って嵌合孔42aが形成される。支持プレート42は、重ね合わされたアクチュエータプレート40及びカバープレート41を嵌合孔42a内に嵌め込んだ状態で支持する。支持プレート42は、アクチュエータプレート40の前端面40aと面一となるように組み合わされる。
【0057】
ノズルプレート43は、支持プレート42及びアクチュエータプレート40の前端面40aに、例えば接着等により固定される。
ノズルプレート43は、例えばポリイミド等のフィルム材により形成されるシートである。尚、ノズルプレート43における被記録媒体Sに対向する対向面には、例えばインクの付着等を防止するための撥水膜(不図示)がコーティングされる。
【0058】
ノズルプレート43には、Y方向に所定の間隔をあけて複数のノズル孔43aが一列に並んで形成される。各ノズル孔43aは、各吐出チャネル45Aに対してそれぞれ対向する位置に形成され、各吐出チャネル45A内に連通する。尚、通常時(不使用時)にノズル孔43aからインクが吐出されないように、各ノズル孔43aにおいて適切なメニスカスが保たれる。
【0059】
図7はヘッドチップ26の平面図であり、図8図7のVIII−VIII断面図であり、図9図7のIX−IX断面図である。尚、図7においては、便宜上、カバープレート41の共通インク室41aを二点鎖線で示す。
【0060】
図7に示すように、共通インク室41aは、Y方向に所定の長さを有する長方形状をなす。Z方向において、共通インク室41aの後端縁41rは、吐出チャネル45Aの後端縁(吐出チャネル45Aのエンベロープ形状の終点Ep)に一致することが好ましい。
一方、Z方向において、共通インク室41aの前端縁41fは、吐出チャネル45Aの駆動領域A1と非駆動領域A2との境界線BLに一致することが好ましいが、一致しなくてもかまわない。
【0061】
ここで、駆動領域A1は、吐出チャネル45Aのうち、駆動電圧の印加による駆動壁46の変形によりインクの吐出動作に実質的に寄与する領域を意味する。非駆動領域A2は、吐出チャネル45Aのうちインクの吐出動作にほとんど寄与しない領域、即ち配線部として機能する領域を意味する。
【0062】
エッジシュートタイプのヘッドチップ26の場合、吐出チャネル45Aのうち平面視で共通インク室41aと重なる領域が非駆動領域A2となり、吐出チャネル45Aのうち平面視で共通インク室41aと重ならない領域が駆動領域A1となる。即ち、吐出チャネル45Aのうち共通インク室41aの前端縁41fよりも後側の領域が非駆動領域A2となり、吐出チャネル45Aのうち共通インク室41aの前端縁41fよりも前側の領域が駆動領域A1となる。
【0063】
図7及び図8に示すように、チャネル45のうち平面視で共通インク室41aと重なる領域においてアクチュエータプレート40と電極50,52との間には、絶縁膜56が形成される。尚、絶縁膜56は、アクチュエータプレート40と端子51,53との間にも形成される。即ち、絶縁膜56は、アクチュエータプレート40のうち電極50,52及び端子51,53が形成される電極形成領域AEにおいて、駆動領域A1以外の領域に形成される。言い換えると、絶縁膜56は、アクチュエータプレート40のうち平面視で境界線BLよりも後側の領域において、アクチュエータプレート40と電極50,52との間、及びアクチュエータプレート40と端子51,53との間に形成される。絶縁膜56は、例えば酸化シリコン(SiO2)により形成される。
【0064】
絶縁膜56は、吐出チャネル45Aの内壁面と共通電極50との間に形成される共通絶縁部57と、ダミーチャネル45Bの内壁面と個別電極52との間に形成される個別絶縁部58とを含む。
【0065】
本実施形態の共通絶縁部57は、一対の側壁面46aに形成される側面絶縁部57aと、底壁面46bに形成されると共に、一対の側面絶縁部57a同士を接続する底面絶縁部57bとにより、共通電極50と同様、断面U字状に形成される(図6参照)。
【0066】
一方、本実施形態の個別絶縁部58は、一対の側壁面46aに形成される側面絶縁部58aと、底壁面46bに形成されると共に、一対の側面絶縁部58aを離間する底面絶縁部58bとにより形成される。例えば、個別絶縁部58は、ダミーチャネル45Bの内壁面の全面に絶縁膜を形成した後、前記絶縁膜のうち底壁面46bに形成される部分をレーザ加工やダイシング加工等によって分断することで、個別電極52と同様、一対の側壁面46aにそれぞれ電気的に切り離された状態で形成される(図6参照)。
【0067】
図7及び図9に示すように、チャネル45のうち平面視で共通インク室41aと重ならない領域においてアクチュエータプレート40と電極50,52との間には、絶縁膜56が形成されない。即ち、絶縁膜56は、アクチュエータプレート40のうち平面視で共通インク室41aの前端縁41fよりも前側の領域において、アクチュエータプレート40と電極50,52との間には形成されない。
【0068】
このような構成により、非駆動領域A2における電極50,52が配線部として機能することで、非駆動領域A2における電極50,52が電荷を保持することを回避することができる。そのため、図2図5図7に示すように、フレキシブル基板37を介して制御回路35が共通端子51及び個別端子53を通じて、共通電極50と個別電極52との間に駆動電圧を印加すると、駆動領域A1における駆動壁46が実質的に変形し、非駆動領域A2における駆動壁46はほとんど変形しない。これにより、消費電力の増加や発熱を抑制することができる。
【0069】
ところで、上記共通電極50、個別電極52、共通端子51及び個別端子53は、Ni/Au等により形成される金属被膜M(図15参照)により形成される。ここで、電極形成領域AEは、アクチュエータプレート40のうち電極50,52及び端子51,53が形成されない領域、即ち電極形成領域AE以外の領域(以下「電極非形成領域」という。)に比べて表面粗さRa(面粗度)が大きくなっている。
尚、本実施形態において、「表面粗さRa」とは、JIS B0601に規格化されている算術平均粗さRaの数値である。
【0070】
[インクジェットヘッドの動作方法]
次に、上述したインクジェットヘッド4の動作方法について説明する。
図2図5及び図6に示すように、インクジェットヘッド4では、フレキシブル基板37を介して電極50,52に駆動電圧が印加されることで、吐出チャネル45Aを画成する2つの駆動壁46が圧電滑り効果によりダミーチャネル45B側へ突出するように変形する。即ち、本実施形態のアクチュエータプレート40は、厚さ方向(X方向)に分極処理された2枚のプレートが積層したシェブロン方式を用いているため、駆動電圧を印加することで、駆動壁46のX方向中間位置を中心にしてV字状に屈曲変形する。これにより、吐出チャネル45Aがあたかも膨らむように変形する。
【0071】
2つの駆動壁46の変形によって、吐出チャネル45Aの容積が増大すると、共通インク室41a内のインクがスリット55aを通って吐出チャネル45A内に誘導される。そして、吐出チャネル45Aの内部に誘導されたインクは、圧力波となって吐出チャネル45Aの内部に伝搬し、この圧力波がノズル孔43aに到達したタイミングで、電極50,52に印加した駆動電圧をゼロにする。
これにより、駆動壁46が復元し、一旦増大した吐出チャネル45Aの容積が元の容積に戻る。この動作によって、吐出チャネル45Aの内部の圧力が増加し、インクが加圧される。その結果、インクをノズル孔43aから吐出させることができる。この際、インクはノズル孔43aを通過する際に、液滴状のインク滴となって吐出される。
【0072】
尚、インクジェットヘッド4の動作方法は上述した内容に限られない。例えば、通常状態の駆動壁46が吐出チャネル45Aの内側に変形し、吐出チャネル45Aがあたかも内側に凹むように構成しても構わない。この場合は、電極50,52に印可する電圧を上述した電圧とは正負逆の電圧にするか、電圧の正負は変えない場合はアクチュエータプレート40の圧電素子の分極方向を逆にすることで実現可能である。又、吐出チャネル45Aが外側に膨らむように変形させた後で、吐出チャネル45Aが内側に凹むように変形させ、吐出時のインクの加圧力を高めても構わない。
【0073】
又、本実施形態のインクジェットヘッド4は、各吐出チャネル45Aの間に、インクが充填されないダミーチャネル45Bが配置されるため、全ての吐出チャネル45Aからインクを同時に吐出する、いわゆる1サイクル方式となっている。又、ダミーチャネル45Bが配置されるため、各電極50,52がインクを介して短絡することがない。これにより、水性インク等の導電性を有するインクを含め多様なインクを用いることができ、利便性に優れるという効果がある。
尚、複数のチャネル45が吐出チャネル45Aとダミーチャネル45Bとを含む構成に限らず、複数のチャネル45がダミーチャネル45Bを含まない構成としてもよい。
【0074】
[インクジェットヘッドの製造方法]
次に、上述したインクジェットヘッド4の製造方法について説明する。
図10は、インクジェットヘッド4の製造方法のフローチャートである。
図10に示すように、インクジェットヘッド4の製造方法は、アクチュエータプレート40に感光性ドライフィルム60(レジスト)を所定のパターンに形成するレジスト形成工程S1と、アクチュエータプレート40に複数のチャネル45を形成するチャネル形成工程S2(溝部形成工程)と、第1エッチング液を用いてアクチュエータプレート40の表面を粗面化する第1エッチング処理工程S5と、電極形成領域AEのうち駆動領域A1以外の領域に絶縁膜56を形成する絶縁膜形成工程S6と、第2エッチング液を用いて感光性ドライフィルム60を除去すると共に絶縁膜56の表面を粗面化する第2エッチング処理工程S7と、無電解メッキによりアクチュエータプレート40に電極50,52を形成する無電解メッキ工程S9と、カバープレート41を加工する工程と、支持プレート42を加工する工程と、ノズルプレート43を加工する工程と、これらを一体に組み合わせる工程とを含む。
ここでは、主にアクチュエータプレート40に関連する工程について、図10に示すフローチャートを参照しながら詳細に説明する。
【0075】
先ず、厚み方向に分極処理された第1アクチュエータプレート40A及び第2アクチュエータプレート40Bを互いの分極方向を反対に向けた状態で重ね合わせ、例えば接着等により接合する。そして、接合した第1アクチュエータプレート40A及び第2アクチュエータプレート40Bを、例えば図示しないダイシングブレード等により所定のサイズに加工する。
【0076】
図11図14はインクジェットヘッド4の製造方法の一工程図であって、図11は平面図、図12は前側面図、図13図11のXIII−XIII断面図、図14図11のXIV−XIV断面図である。
次に、図10及び図11図14に示すように、アクチュエータプレート40の一方の主面40c上にレジストとして感光性ドライフィルム60を貼り付ける(レジスト形成工程S1)。レジスト形成工程S1では、フォトリソグラフィ技術を用い、感光性ドライフィルム60に対して露光、現像を行い、感光性ドライフィルム60を所定のパターンに形成する。具体的には、アクチュエータプレート40のうち電極非形成領域に、感光性ドライフィルム60をパターニングする。
【0077】
尚、レジスト形成工程S1では感光性ドライフィルム60に替えて液体レジストを用いてもよい。但し、以下の点から液体レジストよりも感光性ドライフィルム60を用いることが好ましい。感光性ドライフィルム60を用いる場合、感光性ドライフィルム60をアクチュエータプレート40の一方の主面40c上に貼り付けるだけで済むため、液体レジストを用いる場合に比べてハンドリングが容易である。又、感光性ドライフィルム60を用いる場合、液体レジストを用いる場合に比べてレジストの膜厚調整が容易である。又、感光性ドライフィルム60を用いる場合、液体レジストを用いる場合に比べて低温プロセスでレジストを形成できる。
【0078】
次に、図示しないダイシングブレード等により、感光性ドライフィルム60が形成されるアクチュエータプレート40の一方の主面40c側に、一定の間隔をあけて複数のチャネル45が平行に並ぶように切削加工する。即ち、アクチュエータプレート40の一方の主面40c側において、感光性ドライフィルム60ごとアクチュエータプレート40を切削加工し、複数のチャネル45を形成する(チャネル形成工程S2)。
【0079】
図13に示すように、チャネル形成工程S2では、吐出チャネル45Aを、アクチュエータプレート40の後端面40b側に開口することなく、前端面40a側にだけ開口するように形成する。又、吐出チャネル45Aにおける底壁面46bを、後端面40b側ほどアクチュエータプレート40の一方の主面40c側に位置するように湾曲させ、図13の断面視で曲面形状に形成する。
一方、ダミーチャネル45Bを、図14に示すように、アクチュエータプレート40の前端面40a側だけでなく、後端面40b側にも開口するように形成する。又、ダミーチャネル45Bにおける底壁面46bを、Z方向と平行な直線状に形成する。
【0080】
尚、レジスト形成工程S1とチャネル形成工程S2とは、感光性ドライフィルム60に所望のパターンが形成できれば工程の順番が逆になってもよい。
又、チャネル45を形成する際、ダイシングブレードによる切削加工に限定されず、プレス加工やエッチング加工等により形成してもよい。
【0081】
次に、複数のチャネル45が形成されたアクチュエータプレート40を超音波洗浄する(超音波洗浄工程S3)。これにより、チャネル45の形成時に生じた塵埃や屑等を除去することができると共に、アクチュエータプレート40の濡れ性を向上することができる。
【0082】
次に、アクチュエータプレート40の脱脂を行い、更に有機物等の除去を行う(脱脂工程S4)。具体的には、アクチュエータプレート40を、脱脂液、例えば株式会社ワールドメタル製「PT−0」(有機酸類15w%+ポリオキシエチルノニルフェニルエーテル5w%+水80w%、pH=1)に、1〜3分程度、浸漬して洗浄することで脱脂を行う。
【0083】
図15図11に続く一工程図であって、平面図である。図16図12に続く一工程図であって、前側面図である。図17図13に続く一工程図であって、図15のXVII−XVII断面図である。図18図14に続く一工程図であって、図15のXVIII−XVIII断面図である。尚、図15図18においては、第1エッチング液による粗面化領域をドットハッチで示す。
次に、図10及び図15図18に示すように、アクチュエータプレート40の表面を粗面化してアンカー効果を持たせる第1エッチング処理を行う(第1エッチング処理工程S5)。第1エッチング処理工程S5では、第1エッチング液を用いて電極形成領域AEにおけるアクチュエータプレート40の表面を粗面化する。具体的には、アクチュエータプレート40を水洗いした後、アクチュエータプレート40を、例えば株式会社ワールドメタル製「PT−1」(酸化フッ化アンモニウム1.5w%+硝酸8.5w%+水90w%、pH=2)に、10〜20秒程度、浸漬することで行う。
【0084】
図19図15に続く一工程図であって、平面図である。図20図16に続く一工程図であって、前側面図である。図21図17に続く一工程図であって、図19のXXI−XXI断面図である。図22図18に続く一工程図であって、図19のXXII−XXII断面図である。尚、図19図22においては、便宜上、マスク61を二点鎖線で示す。
次に、図10及び図19図22に示すように、電極形成領域AEのうち駆動領域A1以外の領域に絶縁膜56を形成する(絶縁膜形成工程S6)。
【0085】
絶縁膜形成工程S6では、先ず、共通インク室41aと平面視で重なる領域以外の領域にマスク61を配置する。具体的には、アクチュエータプレート40の上方に、駆動領域A1に絶縁膜56を形成しないようにするため、例えばSUSマスク等のマスク61を平面視で駆動領域A1と重なる位置に配置する。例えば、アクチュエータプレート40よりもY方向に長い平面視長方形のマスク61を用い、Z方向においてマスク61の後端縁61rを駆動領域A1と非駆動領域A2との境界線BLに一致させると共に、マスク61の前端縁61fをアクチュエータプレート40の前端面40aからはみ出させる。
【0086】
次に、蒸着やスパッタリング、イオンプレーティング(IP)法等により、マスク61が配置されていない領域(電極形成領域AEのうち駆動領域A1以外の領域)に絶縁膜56として酸化シリコン(SiO2)を形成する。
【0087】
本実施形態の絶縁膜形成工程S6では、マスク61が配置されていない領域において、チャネル45の側壁面46a及び底壁面46bの全体に絶縁膜56を形成する。これにより、チャネル45の側壁面46a及び底壁面46bの一部に絶縁膜56を形成する場合に比べて、消費電力の増加や発熱を最大限抑制することができる。
【0088】
又、本実施形態の絶縁膜形成工程S6では、斜方蒸着により絶縁膜56を形成する。斜方蒸着は蒸着材料の直進性が高いため、スパッタリングにより絶縁膜56を形成する場合に比べて、チャネル45の側壁面46a及び底壁面46bに絶縁膜56を形成しやすい。
【0089】
図23図19に続く一工程図であって、平面図である。図24図20に続く一工程図であって、前側面図である。図25図21に続く一工程図であって、図23のXXV−XXV断面図である。図26図22に続く一工程図であって、図23のXXVI−XXVI断面図である。尚、図23図26においては、第2エッチング液による粗面化領域を第1エッチング液による粗面化領域とは異なるドットハッチで示す
次に、図10及び図23図26に示すように、絶縁膜56の表面を粗面化してアンカー効果を持たせる第2エッチング処理を行う(第2エッチング処理工程S7)。第2エッチング処理工程S7では、第1エッチング液とは異なる第2エッチング液を用いて、感光性ドライフィルム60を除去すると共に絶縁膜56の表面を粗面化する。具体的には、アクチュエータプレート40を水洗いした後、アクチュエータプレート40を、水酸化ナトリウム(NaOH)等のアルカリ性溶剤に浸漬することで行う。
上記第1エッチング処理工程S5及び第2エッチング処理工程S7により、アクチュエータプレート40のうち電極形成領域AEが選択的に粗面化される。
【0090】
次に、アクチュエータプレート40を、再度超音波洗浄する(超音波洗浄工程S8)。この再度の超音波洗浄を行うことで、各チャネル45内から第2エッチング液を追い出して、所定時間以上、絶縁膜56がエッチングされてしまうことを抑制することができる。
【0091】
図27図23に続く一工程図であって、平面図である。図28図24に続く一工程図であって、前側面図である。図29図25に続く一工程図であって、図27のXXIX−XXIX断面図である。図30図26に続く一工程図であって、図27のXXX−XXX断面図である。
次に、図10及び図27図30に示すように、無電解メッキにより、アクチュエータプレート40に対して、共通電極50、個別電極52、共通端子51及び個別端子53の各電極を形成する工程を行う(無電解メッキ工程S9)。
具体的には、所定の水溶液への浸漬によりアクチュエータプレート40に触媒を付与し、アクチュエータプレート40のうち前記触媒が付与された部分に金属被膜M(メッキ金属)を析出させることで、共通電極50、個別電極52、共通端子51及び個別端子53の各電極を形成する。
【0092】
先ず、アクチュエータプレート40のうち電極形成領域AEに対して触媒を付与する。具体的には、先ずアクチュエータプレート40を、塩化第1錫水溶液に浸漬させ、アクチュエータプレート40の表面に塩化第1錫を吸着させるセンシタイジング処理を行う。
続いて、アクチュエータプレート40を水洗等により軽く洗浄する。その後、アクチュエータプレート40を、塩化パラジウム水溶液に浸漬させ、アクチュエータプレート40の表面に塩化パラジウムを吸着させる。すると、アクチュエータプレート40の表面に吸着した塩化パラジウムと、上述したセンシタイジング処理で吸着した塩化第1錫との間で酸化還元反応が生じることで、触媒として金属パラジウムが析出される(アクチベーティング処理)。
【0093】
ここで、本実施形態では、アクチュエータプレート40のうち電極形成領域AEが選択的に粗面化されるため、電極形成領域AEにはアンカー効果によって触媒が付与される。一方、アクチュエータプレート40のうち電極非形成領域は、表面粗さRaが小さい。尚、絶縁膜56表面(SiO2表面)は、表面粗さRaが小さくても、アクチュエータプレート40表面(PZT表面)よりも触媒が付与されやすい。しかし、触媒付与後、水洗を十分に行うことで、PZT表面に選択的に触媒を付与することができる。
【0094】
次に、触媒(金属パラジウム)が付与されたアクチュエータプレート40をメッキ液に浸漬させることで、アクチュエータプレート40のうち、触媒が付与された部分に金属被膜Mを析出させる。これにより、金属被膜Mを利用して、共通電極50、個別電極52、共通端子51及び個別端子53の各電極をパターン形成することができる。
尚、この段階では、ダミーチャネル45Bの内壁面全体に個別電極52が形成されている。その後、レーザ加工又はダイシング加工等を行うことで、ダミーチャネル45Bの内壁面のうち底壁面46b上に形成されている部分をZ方向に沿ってライン状に除去することで、分断する(分断工程)。これにより、図6に示すように、個別電極52を、ダミーチャネル45Bの内壁面のうちY方向に対向する一対の側壁面46a上に電気的に切り離して形成することができる。
【0095】
そして、各電極が形成されたアクチュエータプレート40、カバープレート41、支持プレート42及びノズルプレート43を一体に組み合わせることで、ヘッドチップ26の製造が終了する。
そして、このように構成されたヘッドチップ26をキャリッジ16に搭載することで、本実施形態のインクジェットヘッド4の製造が終了する。
【0096】
以上説明したように、本実施形態に係るインクジェットヘッド4は、第1アクチュエータプレート40Aと第2アクチュエータプレート40Bとを積層して形成されるアクチュエータプレート40と、アクチュエータプレート40の一方の主面上に配置されると共に、インクが供給される共通インク室41aが形成されるカバープレート41と、アクチュエータプレート40に形成され、アクチュエータプレート40の一方の主面側に開口し、且つ、アクチュエータプレート40の厚さ方向に直交する方向に間隔をあけて並んだ複数のチャネル45と、複数のチャネル45の内壁面上にそれぞれ形成されると共に、アクチュエータプレート40の一方の主面上にパターン形成される電極50,52と、少なくとも共通インク室41aと平面視で重なる領域においてアクチュエータプレート40と電極50,52との間に形成される絶縁膜56と、を備える。
本実施形態に係るインクジェットヘッド4によれば、少なくとも共通インク室41aと平面視で重なる領域においてアクチュエータプレート40と電極50,52との間に絶縁膜56が形成されるので、配線部が電荷を保持することを回避することができ、消費電力の増加や発熱を抑制することができる。又、アクチュエータプレート40が第1アクチュエータプレート40Aと第2アクチュエータプレート40Bとを積層して形成されるので、駆動電圧を印加することで第1アクチュエータプレート40A及び第2アクチュエータプレート40B両方のプレートを駆動させることができる。そのため、アクチュエータプレートが1枚のプレートにより形成される場合と比較して、駆動壁を大きく変形させることができる。従って、消費電力の増加や発熱を抑制しつつ、駆動壁の変形量を大きくすることができる。
【0097】
仮に、絶縁膜56がチャネルの側壁面46aの一部のみに形成されると、側壁面46aのうち絶縁膜56が形成されない部分には電荷が保持されるため、消費電力の増加や発熱を十分に抑制することができない可能性がある。これに対し、本実施形態に係るインクジェットヘッド4によれば、絶縁膜56が少なくともチャネル45の側壁面46aの全面に形成されるため、側壁面46aの全面にわたって電荷が保持されることを回避できる。従って、消費電力の増加や発熱を十分に抑制することができる。
【0098】
又、絶縁膜56は表面が粗面化された酸化シリコン膜により形成されることで、絶縁膜56の表面が粗面化されるので、無電解メッキを行うことができると共に、無電解メッキにおいて形成される金属被膜Mに対する密着性を高めることができる。又、絶縁膜56が酸化シリコン膜により形成されるので、低コスト化を図ることができる。
【0099】
又、電極50,52は無電解メッキによって析出された金属被膜Mにより形成されることで、電極50,52が蒸着により形成される場合に比べて、電極50,52の膜厚の均一化を図ると共に、無電解メッキにおいて触媒が付与された部分に対する電極50,52の密着性を高めることができる。
【0100】
又、アクチュエータプレート40のうち電極形成領域AEの表面粗さRaが電極非形成領域の表面粗さRaよりも大きいため、無電解メッキにおいて電極形成領域AEに形成される金属被膜Mの密着性を高めることができる。
【0101】
又、複数のチャネル45は、インクが充填される吐出チャネル45Aと、インクが充填されないダミーチャネル45Bとを含み、吐出チャネル45Aとダミーチャネル45Bとは、アクチュエータプレート40の厚さ方向に直交する方向に交互に並んで配置されることで、複数のチャネル45が吐出チャネル45Aとダミーチャネル45Bとを含む構成において、消費電力の増加や発熱を抑制しつつ、駆動壁の変形量を大きくすることができる。
【0102】
又、本実施形態に係るプリンタ1によれば、上記インクジェットヘッド4を備えるため、消費電力の増加や発熱を抑制しつつ、駆動壁の変形量を大きくすることができるプリンタ1とすることができる。
【0103】
<変形例>
尚、上述した無電解メッキ工程S9で使用する電極金属としては、特に限定されるものではない。例えば、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)等が挙げられ、特にNiを用いることが好ましい。
又、無電解メッキとしては、例えばNi−PメッキやNi−Bメッキ等が挙げられ、特にNi−Bメッキが好ましい。Ni−Bメッキの場合、B含有量は通常1%以下であるので、Ni−PよりNi含有量が多く、電気抵抗が低く、且つ電気接続性が良いためである。
【0104】
又、無電解メッキ工程S9時、例えば多層メッキ等を行うことで、金属被膜Mを積層させても構わない。例えば、Ni−Bからなる下地金属被膜と、金からなる仕上げ金属被膜との2層の金属被膜Mとしても構わない。
【0105】
又、無電解メッキ工程S9を行う際、メッキ液に対して界面活性剤(ピット防止剤)を添加することに加え、所定の速度で揺動させることが好ましい。
このようにすることで、無電解メッキの際に発生する気泡を除去し易くなり、この気泡に起因する密着不良や表面のざらつき等のメッキ不良を抑制することができる。
【0106】
<第2実施形態>
[インクジェットヘッドの製造方法]
図31及び図32は第2実施形態に係るインクジェットヘッドの製造方法の一工程図であって、図31は切削工程前の前側面図、図32は切削工程後の前側面図である。
上記第1実施形態では、ダミーチャネル45Bの内壁面全体に形成された個別電極52を電気的に切り離す方法としてレーザ加工又はダイシング加工等を行っていた。これに対し、第2実施形態では、切削加工を行う。この点で、第2実施形態は第1実施形態と異なる。
【0107】
以下、第2実施形態に係るインクジェットヘッドの製造方法について説明する。尚、第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付しその説明を省略し、異なる点について説明する。
図31及び図32に示すように、第2実施形態に係るインクジェットヘッドの製造方法は、チャネル形成工程では、複数のチャネル245として、吐出チャネル245Aと、吐出チャネル245Aよりも溝深さが大きいダミーチャネル245Bとを形成し、無電解メッキ工程の後、アクチュエータプレート40の他方の主面40dを研削することにより、ダミーチャネル245Bを、アクチュエータプレート40の厚さ方向両端で開口させる研削工程を更に含む。
【0108】
図31に示すように、チャネル形成工程後且つ切削工程前には、アクチュエータプレート40の一方の主面40cにカバープレート41を貼り付け、分断されるダミーチャネル245Bの側壁を支持する。
【0109】
図32に示すように、切削工程では、例えばグラインダー等を用いて、アクチュエータプレート40の他方の主面40dを研削することにより、ダミーチャネル245Bを、アクチュエータプレート40の厚さ方向両端で開口させる。これにより、ダミーチャネル245Bの底壁面46bが除去され、個別電極252が一対の側壁面46a上にのみ形成される。
【0110】
以上説明したように、本実施形態に係るインクジェットヘッドの製造方法によれば、研削工程により、複数のダミーチャネル245Bを一括してアクチュエータプレート40の厚さ方向両端で開口させることができる。そのため、ダミーチャネル45Bの内壁面全体に形成された個別電極52を電気的に切り離す方法としてレーザ加工又はダイシング加工等を行う場合と比較して、製造工程の効率化や簡素化を図ることができる。
【0111】
<第3実施形態>
図33は、本発明の第3実施形態に係る絶縁膜56の形成領域の説明図であって、共通インク室341aと、図29に相当する断面図とを含む図である。
上記第1実施形態では、少なくとも共通インク室41aと平面視で重なる領域においてアクチュエータプレート40と電極50との間に絶縁膜56が形成されていた。これに対し、第3実施形態では、少なくとも共通インク室341aの第1開口部341bと平面視で重なる領域においてアクチュエータプレート40と電極50との間に絶縁膜56が形成される。この点で、第3実施形態は第1実施形態と異なる。
【0112】
図33に示すように、共通インク室341aは、第1開口部341bと、第2開口部341cとを備える。
第1開口部341bは、アクチュエータプレート40の一方の主面40c側に開口する。
第2開口部341cは、アクチュエータプレート40の第1開口部341bとは反対側において第1開口部341bよりも小さい大きさで開口する。
以下、共通インク室341aにおいて、第1開口部341bが開口する領域K1(第1開口部341bと平面視で重なる領域)を「第1開口領域」という。
又、共通インク室341aにおいて、第2開口部341cが開口する領域K2(第2開口部341cと平面視で重なる領域)を「第2開口領域」という。
絶縁膜56は、少なくとも第1開口領域K1においてアクチュエータプレート40と電極50との間に形成される。
【0113】
以上説明したように、本実施形態によれば、少なくとも第1開口領域K1においてアクチュエータプレート40と電極50との間に絶縁膜56が形成されるので、共通インク室341aの仕様に応じて、配線部が電荷を保持することを回避できる。従って、消費電力の増加や発熱を共通インク室341aの仕様に応じて効率良く抑制することができる。
【0114】
<第4実施形態>
図34は、本発明の第4実施形態に係る絶縁膜56の形成領域の説明図であって、図33に相当する図である。
上記第3実施形態では、少なくとも第1開口領域K1においてアクチュエータプレート40と電極50との間に絶縁膜56が形成されていた。これに対し、第4実施形態では、図34に示すように、少なくとも第2開口領域K2においてアクチュエータプレート40と電極50との間に絶縁膜56が形成される。又、少なくとも傾斜領域Ksにおいてアクチュエータプレート40と電極50との間に絶縁膜56が形成される。これらの点で、第4実施形態は第3実施形態と異なる。
【0115】
吐出チャネル45Aは、アクチュエータプレート40の後端面40b側に開口することなく、前端面40a側にだけ開口するように形成される。又、吐出チャネル45Aにおける底壁面46bは、後端面40b側ほどアクチュエータプレート40の一方の主面40c側に位置するように傾斜(湾曲)し、図34の断面視で曲面形状に形成される。
以下、吐出チャネル45Aが傾斜(湾曲)する領域Ksを「傾斜領域」という。
絶縁膜56は、少なくても傾斜領域Ksにおいてアクチュエータプレート40と電極50との間に形成される。
尚、傾斜領域Ksと第2開口領域K2とは一致してもよいし、一致しなくてもよい。
【0116】
以上説明したように、本実施形態によれば、少なくとも第2開口領域K2においてアクチュエータプレート40と電極50との間に絶縁膜56が形成されるので、共通インク室341aの仕様に応じて、配線部が電荷を保持することを回避できる。従って、消費電力の増加や発熱を共通インク室341aの仕様に応じて効率良く抑制することができる。
【0117】
又、少なくとも傾斜領域Ksにおいてアクチュエータプレート40と電極50との間に絶縁膜56が形成されるので、吐出チャネル45Aの傾斜形状に応じて、配線部が電荷を保持することを回避できる。従って、消費電力の増加や発熱を吐出チャネル45Aの傾斜形状に応じて効率良く抑制することができる。
【0118】
尚、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0119】
例えば、上記実施形態では、液体噴射装置の一例として、インクジェットプリンタを例に挙げて説明したが、これに限られるものではない。例えば、ファックスやオンデマンド印刷機等であっても構わない。
又、上述した実施形態では、インクジェットヘッド4が複数搭載された複数色用のプリンタ1について説明したが、これに限られない。例えば、インクジェットヘッド4が一つの単色用のプリンタとしても構わない。
【0120】
又、本発明の実施形態で用いられるインクとしては、水性インクや油性インク、UVインク、微細金属粒子インク、炭素インク(カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェン)等、種々の材料を用いることができる。尚、上述したインクのうち、水性インクや油性インク、UVインクは複数色用のプリンタ1に好適に用いられ、微細金属粒子インク、炭素インクは単色用のプリンタ1に好適に用いられる。
【0121】
又、上記実施形態では、エッジシュートタイプのヘッドチップ26を例に挙げて説明したが、この場合に限定されず、吐出チャネル45Aの長手方向中央に臨むノズル孔43aからインクを吐出する、いわゆるサイドシュートタイプとしても構わない。
この場合には、例えばアクチュエータプレート40の他方の主面側にノズルプレート43を重ね合せ、吐出チャネル45Aの長手方向中央部分にノズル孔43aに連通する連通口を形成する等すれば良い。
【0122】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、又、上述した各変形例を適宜組み合わせても構わない。
【符号の説明】
【0123】
1…インクジェットプリンタ(液体噴射装置) 2,3…搬送機構(移動機構) 4,4Y,4M,4C,4B…インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド) 6…走査手段(移動機構) 40c…一方の主面 40…アクチュエータプレート(圧電プレート) 41…カバープレート 41a,341a…共通インク室 43…ノズルプレート 45…チャネル(溝部) 46a…側壁面 50…共通電極(電極) 51…共通端子(電極) 52…個別電極(電極) 53…個別端子(電極) 56…絶縁膜 341b…第1開口部 341c…第2開口部 AE…電極形成領域 K1…第1開口領域(第1開口部と平面視で重なる領域) K2…第2開口領域(第2開口部と平面視で重なる領域) Ks…傾斜領域 M…金属被膜 S…被記録媒体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34