【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物1 ・刊行物名 :日本機械学会東北支部第49期総会・講演会 講演論文集 No.2014−1 ・巻号頁等:105頁〜106頁 ・発行日 :2014年(平成26年)3月14日 ・発行者名:日本機械学会東北支部発表会での発表資料1 ・発表会名:JST 新技術説明会 ・開催場所:JST東京本部別館ホール(東京・市ヶ谷) ・開催日 :2014年(平成26年)6月19日 ・開催者名:独立行政法人科学技術振興機構
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁石工具を管内に配置し、前記磁石工具を磁力で吸引する外部磁石を管外に配置し、前記外部磁石の回転により前記磁石工具と前記管とを相対運動させて前記磁石工具で前記管の内面を研磨する磁気研磨方法であって、
前記磁石工具が、先端に磁石を備えた2つのアーム部材と、前記2つのアーム部材を回動可能に接続する接続部とを有し、前記磁石工具の前記磁石には磁性砥粒が着磁し、該磁性砥粒が前記管の内面を研磨する、ことを特徴とする磁気研磨方法。
管の内部に配置するための磁石工具と、前記磁石工具を前記管の外側から磁力で吸引する外部磁石と、前記外部磁石を回転させて前記管と前記磁石工具とを相対運動させる回転機構とを有し、
前記磁石工具が、磁性砥粒を着磁可能な磁石を先端に備えた2つのアーム部材と、前記2つのアーム部材を回動可能に接続する接続部とを有する、ことを特徴とする磁気研磨装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1,2では、管の内面加工法として、磁性粒子を用いた磁気研磨方法について提案されている。この技術では、管の外側に配置した外部磁石を固定し、管を回転させているが、大径曲がり管や厚肉曲がり管等の曲がり管では管を回転させることが難しい。そのため、管の外側に配置した外部磁石を回転させ、その回転によって磁性砥粒と管とを相対運動させて管内面を研磨する必要がある。
【0006】
しかしながら、例えば
図10に示すように、曲がり管1に対して外部磁石12(12a,12b)を回転させて磁気研磨を行った場合、十分な内面加工ができないことがあった。また、そうした曲がり管1は、管の製造時点で曲がり部位内面の表面粗さに差が生じているため、磁気研磨を行うことにより、曲がり部位内面の表面粗さの差が小さくなることが要求されている。これらの解決のため、外部磁石12(12a,12b)による磁気吸引力を強力にすることも考えられるが、装置が大型となり、研磨時間もかかるという難点もある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、磁石工具を用いて管の内面を精密に研磨することができる磁気研磨方法及び磁気研磨装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するための本発明に係る磁気研磨方法は、磁石工具を管内に配置し、前記磁石工具を磁力で吸引する外部磁石を管外に配置し、前記外部磁石の回転により前記磁石工具と前記管とを相対運動させて前記磁石工具で前記管の内面を研磨する磁気研磨方法であって、前記磁石工具が、先端に磁石を備えた2つのアーム部材と、前記2つのアーム部材を回動可能に接続する接続部とを有し、前記磁石工具の前記磁石には磁性砥粒が着磁し、該磁性砥粒が前記管の内面を研磨する、ことを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、磁石工具が、先端に磁石を備えた2つのアーム部材とその2つのアーム部材を回動可能に接続する接続部とを有するので、磁石工具は、管の内面形状に追従し、接続部で接続された2つのアーム部材の角度が変化可能な状態で研磨する。その結果、2つのアーム部材の動作自由度が高いので、2つのアーム部材の先端の磁石に着磁した磁性砥粒が、管の内面を高い加工力で研磨することができるとともに、曲がり部位の内面の表面粗さの場所による差を製造時よりも大幅に低減することができる。
【0010】
本発明に係る磁気研磨方法において、前記管が、曲がり管であることが好ましい。
【0011】
この発明によれば、大径曲がり管又は厚肉曲がり管等の曲がり管に特に好ましく適用できる。
【0012】
本発明に係る磁気研磨方法において、前記磁性砥粒は、磁性粒子と研磨粒子とを有し、前記磁性粒子が電解鉄粉であり、前記研磨粒子がWA砥粒又はGC砥粒であるように構成できる。
【0013】
この発明によれば、磁性粒子と研磨粒子とを有する磁性砥粒を用いるので、管の内面を効果的に精密研磨することができる。
【0014】
(2)上記課題を解決するための本発明に係る磁気研磨装置は、管の内部に配置するための磁石工具と、前記磁石工具を前記管の外側から磁力で吸引する外部磁石と、前記外部磁石を回転させて前記管と前記磁石工具とを相対運動させる回転機構とを有し、前記磁石工具が、磁性砥粒を着磁可能な磁石を先端に備えた2つのアーム部材と、前記2つのアーム部材を回動可能に接続する接続部とを有する、ことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る磁気研磨装置において、前記磁石工具は、前記管の内面形状に追従し、前記接続部で接続された前記2つのアーム部材の角度が変化可能な状態で研磨するように構成できる。
【0016】
本発明に係る磁気研磨装置において、前記管が、曲がり管であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る磁気研磨方法及び磁気研磨装置によれば、磁石工具を用いて管の内面を精密に研磨することができる。詳しくは、先端に磁石を備えた2つのアーム部材が回動可能に構成された動作自由度の高い磁石工具を備えるので、管の内面形状に応じて2つのアーム部材が回動する。その結果、2つのアーム部材の先端の磁石に着磁した磁性砥粒が、管の内面を高い加工力で研磨することができるとともに、曲がり部位の内面の表面粗さの場所による差を製造時よりも大幅に低減することができる。特に、曲がり管の内面の精密仕上げ加工に好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る磁気研磨方法及び磁気研磨装置について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、その技術的特徴を有する範囲を包含し、以下に示す説明及び図面等に限定されない。
【0020】
[磁気研磨方法及び装置]
本発明に係る磁気研磨方法は、
図1に示すように、磁石工具3を管1内に配置し、その磁石工具3を磁力で吸引する外部磁石12を管1外に配置し、その外部磁石12の回転により磁石工具3と管1とを相対運動させて磁石工具3で管1の内面を研磨する磁気研磨方法である。そして、磁石工具3が、先端に磁石5(5a,5b)を備えた2つのアーム部材4(4a,4b)と、その2つのアーム部材4(4a,4b)を回動可能に接続する接続部6とを有し、磁石工具3の磁石5(5a,5b)には磁性砥粒2が着磁し、その磁性砥粒2が管1の内面を研磨する、ことに特徴がある。
【0021】
本発明に係る磁気研磨装置10は、
図1及び
図2に示すように、管1の内部に配置するための磁石工具3と、磁石工具3を管1の外側から磁力で吸引する外部磁石12と、その外部磁石12を回転させて管1と磁石工具3とを相対運動させる回転機構13とを有している。そして、磁石工具3が、磁性砥粒2を着磁可能な磁石5(5a,5b)を先端に備えた2つのアーム部材4(4a,4b)と、その2つのアーム部材4(4a,4b)を回動可能に接続する接続部6とを有する、ことに特徴がある。この磁石工具3は、管1の内面形状に追従し、接続部6で接続された2つのアーム部材4(4a,4b)の角度が変化可能な状態で研磨する。
【0022】
こうした磁気研磨方法及び装置は、磁石工具3が、先端に磁石5を備えた2つのアーム部材4とその2つのアーム部材4を回動可能に接続する接続部6とを有するので、磁石工具3は、管1の内面形状に追従し、接続部6で接続された2つのアーム部材4の角度θが変化可能な状態で研磨する。その結果、2つのアーム部材4の動作自由度が高いので、2つのアーム部材4の先端の磁石5に着磁した磁性砥粒2が、管1の内面を高い加工力で研磨することができるとともに、曲がり部位の内面の表面粗さの場所による差を製造時よりも大幅に低減することができる。
【0023】
以下、本発明を構成する各構成要素について詳しく説明する。
【0024】
(外部磁石)
磁気研磨装置10は、
図1及び
図2に示すように、管1の外側に配置された外部磁石12(12a,12b)を有し、その外部磁石12は、磁性砥粒2に磁場を与える。こうした磁場は、磁性砥粒2を磁気吸引して磁性砥粒2を管1の内面に強く押し付けるように作用する。外部磁石12を備えた磁気研磨装置10としては各種の形態のものを挙げることができるが、
図1及び
図2の例では、外部管11を管1の外側に設け、その外部管11に外部磁石12を装着している。外部管11は、鋼材等であることが好ましく、例えば一般構造用圧延鋼材(SS400)等を挙げることができる。この外部管11は、外部磁石12と外部管11とで閉磁路14を形成するヨークとして機能する。
【0025】
外部磁石12は、S極12aとN極12bとで構成されている。S極12aは、管1内に配置される磁石工具3のN極5aを磁気吸引し、N極12bは、管1内に配置される磁石工具3のS極5bを磁気吸引する。S極12aとN極12bは、通常、90°で配置されているが、必ずしも90°である必要はなく、任意である。
【0026】
外部磁石12の強さ(磁力)は、磁石の種類に依存するが、その強さは特に制限はなく、永久磁石でも電磁石でもよい。永久磁石としては、例えば希土類磁石、フェライト磁石、アルニコマグネット、MA磁石等を挙げることができる。希土類磁石は強力な磁界を得られる点で好ましい。希土類磁石としては、具体的には、ネオジウム磁石(Nd−Fe−B)やサマリウムコバルト磁石(Sm−Co)が好ましく用いられる。
【0027】
N極とS極の形状にも特に制限はない。通常は、円柱や多角柱等の柱状の磁石をN極及びS極として用いる。また、磁束密度を高める観点から、N極及び/又はS極の先端を錘台形、例えば円錐台形や角錘台形としてもよい。また、磁石は角部の磁場強度が大きくなることから、N極やS極の先端を切り欠きが入った形状とすることもできる。
【0028】
(回転機構)
回転機構13は、外部磁石12が装着された外部管11を回転させる装置である。そうした装置であれば、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、
図2(A)に示すように、ベルト(例えばタイミングベルト)とプーリと駆動源(モータ)等で構成することができる。この回転機構13で外部管11を回転させることにより、外部管11に装着された外部磁石12が回転し、回転した外部磁石12に追従して管1内の磁石工具3が回転する。回転する磁石工具3と回転しない管1とは、相対運動となり、磁石工具3の先端に着磁した磁性砥粒2が管1の内面を研磨する。こうして、管1の内面が高い加工力で研磨される。
【0029】
この装置10は、管1は回転せずに、外部磁石12を回転させているので、曲がり管を研磨することができる。曲がり管を研磨するための本発明に係る磁気研磨装置10は、外部磁石12の幅(すなわち、管1の長手方向の外部磁石幅)は短い長さであることが好ましく、管1の直径や曲がりの程度にも関係するが、曲がり管の内面を研磨しながら外部管11内を通過させることができる長さであることが好ましく、例示としては、5mm以上、100mm以下の範囲内を挙げることができる。
【0030】
(磁石工具)
磁石工具3は、
図1及び
図2に示すように、管1内に配置され、外部磁石12によって磁気吸引されて、管1の内面に押し付けられる。磁石工具3は、管1の内面形状に追従し、接続部6で接続された2つのアーム部材4a,4bの角度θが変化可能な状態になっている。そして、回転機構13による外部磁石12の回転によって、磁石工具3と管1とが相対運動し、磁石工具3の先端に着磁した磁性砥粒2が管1の内面を研磨する。磁石工具3は、
図3及び
図4に示すように、先端に磁石5(5a,5b)を備えた2つのアーム部材4(4a,4b)と、その2つのアーム部材4(4a,4b)を回動可能に接続する接続部6とを有している。
【0031】
アーム部材4(4a,4b)は、2つの部材で構成され、接続部6でそれぞれの一端が接続されている。アーム部材4は、接続部6で自在に角度θが変化可能になっている。アーム部材4の材質は、金属であれば特に限定されず、通常、鋼材等のような磁化率高いものが好ましい。また、磁性材ワイヤの束で形成されたものであってもよい。
【0032】
磁石5(5a,5b)は、永久磁石であり、アーム部材4の先端に接合されている。接合手段は特に限定されないが、接着剤での接合でも機械的な接合であってもよい。磁石5の強さ(磁力)は、磁石の種類に依存するが、その強さは特に制限はなく、例えば希土類磁石、フェライト磁石、アルニコマグネット、MA磁石等を挙げることができる。希土類磁石は強力な磁界を得られる点で好ましい。希土類磁石としては、具体的には、ネオジウム磁石(Nd−Fe−B)やサマリウムコバルト磁石(Sm−Co)が好ましく用いられる。磁石5は、N極5aとS極5bで構成されている。N極5aは、S極からなる外部磁石12aに対向して配置され、S極5bは、N極からなる外部磁石12bに対向して配置されている。
【0033】
接続部6は、先端に磁石を備えた2つのアーム部材が回動可能に接続する部位である。接続部6の接続手段は特に限定されないが、屈曲可能な機械的な接続手段を適用することができる。こうした接続部6を備えた磁石工具3は、動作自由度が高く、管1の内面形状に応じて2つのアーム部材4a,4bを回動させることができる。
【0034】
この接続部6は、2つのアーム部材4a,4b間の角度θを変えることができるように回動し、その角度θは90°であってもよいし、
図4(A)に示すように90°以下であってもよいし、90°以上であってもよい。その角度θは、特に曲がり部分を研磨しているときに、管の内面形状に応じて微調整され、磁石工具3で管内面を効果的に研磨することができる。可動する接続部6は、
図1等では1つであるが、2つでもよいし3つ以上であってもよい。特に3つの場合は、2つのアーム部材4a,4bの角度を任意に変化させることができる。
【0035】
なお、先端の磁石5a,5bは、フェルト、不織布等で覆われていてもよい。
【0036】
こうした磁石工具3は、管1の内面形状に応じ、
図4(A)に示すように、アーム部材4a,4bが90°以下の角度θになっていてもよいし、
図4(B)に示すように、アーム部材4a,4bが90°以上の角度θになっていてもよい。もちろん、90°であってもよい。磁石工具3は、外部磁石12が回転することによって追従して回転するが、回転中のアーム部材4a,4bの角度θは、回転中、一定であってもよいし、管1の内面形状に応じて角度θが変化してもよい。
【0037】
(被加工物)
管1は、被加工物として本発明の磁気研磨方法で適用される管である。管1の形状は、直線状のストレート管であってもよいし、曲がり管であってもよい。本発明では、曲がり管が好ましく適用でき、特に大径曲がり管や厚肉曲がり管等が好ましい。管1の大きさも特に限定されず、例えば直径0.5mm以上、80mm以下の範囲内で、内径0.4mm以上、80mm以下の範囲内であればよい。管1の長さも特に限定されないが、10mm以上、5000mm以下の範囲内であればよい。また、管1の内径は、長手方向に一定でも途中で変化するものであってもよい。
【0038】
管1の材質は、金属管であっても樹脂管であってもよく、特に限定されない。金属管の材質としては、例えば、SUS304ステンレス鋼等を挙げることができる。樹脂管の材質としては、例えば、ポリカーボネート、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ウレタン、アクリル、MCナイロン(登録商標)、ポリアセタール、ABS樹脂、等を挙げることができる。
【0039】
特に曲がり管は、製造時点で曲がり部位の内面の表面粗さに差が生じているが、本発明に係る磁気研磨方法で磁気研磨を行うことにより、曲がり部位内面の表面粗さの差を小さくすることができる。
【0040】
(磁性砥粒)
磁性砥粒2は、磁性粒子2aと研磨粒子2bとを有している。磁性砥粒2には、さらにスラリー媒体(図示しない)を含んだスラリー状の磁性砥粒2であることが好ましい。こうして構成された磁性砥粒2により、管1の内面を効果的に精密研磨することができる。磁性砥粒2aと研磨粒子2bを含む磁性砥粒2(スラリー状の磁性砥粒を含む。以下同じ。)は、外部磁石12が回転することにより、磁石工具3とともに回転し、管1の内面に対して相対移動する。
【0041】
磁性砥粒2aとしては、鉄、コバルト、ニッケル、クロムやこれらの酸化物、合金、化合物等、一般に磁性体と呼ばれる元素を全部又は一部に含む粒子が用いられる。具体例としては、電解鉄粉、カルボニル鉄粉、ニッケル粉、Ni−P合金粉又はNi−B合金粉等のニッケル合金粉等を使用することができる。また、高温高圧下の不活性ガス中で鉄と焼結させた球状の酸化アルミニウム粉や、不活性ガス雰囲気中でのアルミニウムと酸化鉄とのテルミット反応の生成物粉等を用いることも可能である。なお、市販されている磁性砥粒(東洋研磨材工業株式会社;KMX−80)や、その他の未市販の磁性砥粒等も用いることができる。また、磁性粒子の表面に、他の材料を被覆してなる粒子であってもよい。
【0042】
なお、これらの磁性砥粒2は、磁気粒子2bとして用いてもよく、その場合には、磁性砥粒2が下記の磁気粒子2bを含んでいなくてもよい。
【0043】
磁性砥粒2aの大きさは、平均粒径Dが2μm以上、1500μm以下の範囲内であることが好ましい。なお、上記範囲内の磁性砥粒2aについて、その粒度分布は特に限定されず、磁性砥粒2aの形状についても特に限定されない。平均粒径Dは、磁性砥粒2aの電子顕微鏡写真から測定した平均値であり、表面粗さRzは、JIS B 0601(2001)に基づいて測定した最大高さである。
【0044】
研磨粒子2bとしては、ダイヤモンド粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化セリウム粒子、炭化ケイ素粒子、二酸化ケイ素粒子、酸化クロム粒子、又はそれらの複合体等が挙げられる。また、JIS表示でA、WA、GC、SA、MA、C、MD、CBNとして表されているものを含む、Al
2O
3、SiC、ZrO
2、B
4C、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、MgO、CeO
2又はヒュームドシリカ等の研磨粒子であってもよい。中でも、WA砥粒又はGC砥粒が好ましい。なお、GC砥粒は、ケイ砂SiO
2とコークスCとの混合物を電気抵抗炉で加熱し、高温(2000℃)で反応させて製造した緑色炭化ケイ素研磨材である。
【0045】
研磨粒子2bの大きさや形状は特に制限されず、各種の形態ものを用いることができる。例えば、研磨粒子2bの平均粒径としては、0.1μm以上、好ましくは2μm以上であり、80μm以下、好ましくは20μm以下である。平均粒径Dは、磁性砥粒2aの電子顕微鏡写真から測定した平均値である。
【0046】
スラリー媒体は、磁性砥粒2aと研磨粒子2bをスラリー状にする媒体である。スラリー状とする際の好ましい媒体としては、軽油、水の他、一般的に研磨液として用いられる水溶性や油溶性の液体等が挙げられる。なお、スラリー媒体は、研磨粒子2bを磁性砥粒2内に分散させるための添加剤を含まないようにしてもよい。スラリー媒体が添加剤を含まないようにしても、磁性砥粒2aが自生攪拌現象するようにでき、研磨粒子2bを均一分散させることができるので、そうした添加剤は不要にすることができる。
【0047】
磁性砥粒2においては、磁性砥粒2中に含まれる磁性砥粒2aの含有量は30重量%〜70重量%の範囲であり、研磨粒子2bの含有量は10重量%〜60重量%の範囲であり、これら磁性砥粒2aと研磨粒子2bとをあわせた総含有量は70重量%〜90重量%の範囲であるように構成される。なお、磁性砥粒2aの含有量は、磁気研磨装置3や磁性砥粒2aの粒径等の条件とも関係し、例えば自生攪拌現象を生じやすいように設定してもよいし、また、研磨粒子2bの含有量は、樹脂パイプの内面の研磨の程度(粗研磨、通常研磨、仕上研磨等)や研磨効率を考慮して設定してもよい。また、スラリー媒体の含有量は、調製された磁性砥粒2が管1と磁石との間の相対運動によっても磁石の対向位置に流体物として留まっているように、ある程度の粘度を有するように設定してもよい。
【0048】
(その他)
本発明に係る磁気研磨方法では、粗研磨、通常研磨、仕上研磨等のように研磨精度の段階毎に適した複数種の磁性砥粒2を準備することにより、段階毎の研磨を行うことができる。具体的には、磁性砥粒2aの平均粒径と研磨粒子2bの平均粒径とを変化させた複数の磁性砥粒2を準備し、平均粒径D及び平均粒径dの大きい粒子(磁性砥粒2a及び/又は研磨粒子2b)を含む磁性砥粒2から段階的に管1内に入れ替えて研磨する。例えば、実施例1では、2段階の磁性砥粒2を準備し、段階的に管内に入れて研磨している。また、実施例2では、3段階の磁性砥粒2を準備し、段階的に管内に入れて研磨している。このように、例えば粗研磨、中間研磨又は仕上研磨のいずれで行うかによって、磁性砥粒2aと研磨粒子2bとを適した平均粒径Dと平均粒径dとした複数の磁性砥粒2を準備し、平均粒径Dと平均粒径dの大きい粒子を含む磁性砥粒2から段階的に管1内に入れ替えて研磨すれば、粗研磨、中間研磨、仕上研磨を順次行うことができる。その結果、研磨段階毎に最も適した磁性砥粒2を用いることにより、研磨効率を向上させることができる。
【実施例】
【0049】
実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は以下の実験例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]
図2に示す磁気研磨装置10を用いた。この磁気研磨装置10は、内部に磁石工具3とスラリー状の磁性砥粒2を入れた管1を固定し、外部磁石12を装着した外部管11を回転させることができる装置である。外部磁石12は、90°で外部管11の内周面に配置した。磁石工具3が備えるアーム部材4a,4bの角度も90°に折り曲げた状態で管内に挿入した。実験条件は以下のとおりとし、管1の内面研磨を行った。
【0051】
【表1】
【0052】
[実施例2]
実施例1において、以下の条件に変更した以外は、実施例1と同じにして管1の内面研磨を行った。
【0053】
【表2】
【0054】
[比較例1]
実施例1において、磁石工具3を用いないで磁性砥粒2だけを管内に入れた。それ以外は、実施例1と同じにして管1の内面研磨を行った。
【0055】
[測定及び結果]
表1及び表2に示すように、曲がり管1と外部磁石12との間隙を5mmとし、ある程度余裕をもたせた。また、加工10分毎に曲がり管の洗浄を行い、接触式の表面粗さ測定器により加工面の表面粗さ測定を行うと共に、併せて混合磁性砥粒及び不織布の交換をした。ここでの加工実験では、60分の加工毎に磁性粒子や研磨粒子の粒径を細かくしていく多段階研磨を行った。その実験条件を表1及び表2に示す。また、
図6及び
図8に示した曲がり管内面の各部A〜Cでの表面粗さについては、同一の製造条件で同時に製造された曲がり管を用い、研磨前の曲がり管と、所定の研磨時間研磨した後の曲がり管をそれぞれ切断して、各部の表面粗さを測定した。
【0056】
図5は、実施例1の実験結果である。加工前に1778nmRaであった曲がり管の加工面の表面粗さは、1段階目の第1研磨工程で53nmRaまで小さくなり、2段階目の第2研磨工程で48nmRaまで小さくなった。
【0057】
図6は、実施例1の磁気研磨方法で得られた管内面の各部位における研磨加工前後の表面粗さを示している。曲がり部の内側部位Aでは、研磨前の2085nmRaから研磨後の90nmRaになり、曲がり部の外側部位Bでは、研磨前の1417nmRaから研磨後の86nmRaになり、ストレート部位Cでは、研磨前の1778nmRaから研磨後の48nmRaになり、いずれの箇所でも表面粗さが顕著に小さくなった。また、各部での表面粗さの差は、加工前は668nmであったが、加工後は42nmとなり、その差は著しく小さくなった。
【0058】
図7は、実施例2の実験結果である。加工前に1638nmRaであった曲がり管の加工面の表面粗さは、1段階目の第1研磨工程で69nmRaまで小さくなり、2段階目の第2研磨工程で33nmRaまで小さくなり、3段階目の第3研磨工程で11nmRaまで小さくなった。
【0059】
図8は、実施例2の磁気研磨方法で得られた管内面の各部位における研磨前後の表面粗さを示している。曲がり部の内側部位Aでは、研磨前の2085nmRaから研磨後の13nmRaになり、曲がり部の外側部位Bでは、研磨前の1417nmRaから研磨後の11nmRaになり、ストレート部位Cでは、研磨前の1638nmRaから研磨後の11nmRaになり、いずれの箇所でも表面粗さが顕著に小さくなった。また、各部での表面粗さの差は、加工前は668nmであったが、加工後は2nmとなり、その差は著しく小さくなった。
【0060】
図5〜
図8の結果より、磁石工具3が、2つのアーム部材4a,4bの動作自由度を高める接続部6としてユニバーサルジョイントを用いたことで、曲がり管の曲がり部でも磁石工具3が安定に動作したためと考えられる。なお、10分間刻みで研磨したときの表面粗さRaは、所定の時間が経過したとき回転を止め、曲がり管をエタノールで超音波洗浄し、切断した後に表面粗さRaを測定した。表面粗さRaの測定は、表面粗さ測定機(株式会社ミツトヨ、型番:SV−624−3D)を用い、JIS B 0601(2001)に基づき、曲がり管の内面のA〜Cの3箇所測定した。
【0061】
図5及び
図7示す研磨量に着目すると、加工が進行し表面粗さが小さくなる毎に研磨時間毎の研磨量の変化が少なくなっている。また、磁性砥粒を用いた2段階までの研磨時間毎の研磨量の変化が、WA砥粒を用いた3段階からのものよりも大きいことから、磁性砥粒を用いた場合の方が、加工力は大きいことがわかる。
【0062】
以上の結果より、磁石工具3を用いて曲がり管の内部からの加工圧力を強化した本発明に係る磁気研磨方法は、管の内面を精密に研磨する上で有効であった。特に、実施例2では、初期の表面粗さが1638nmRaであった加工面を、研磨後には11nmRaまで小さくなった。また、研磨加工前は600nmRa程度あった曲がり部の加工面の内側と外側における表面粗さの差を、研磨後には2nmRaまで減少させることができた。
【0063】
図9は、実施例2における樹脂パイプの内面の加工前後の比較写真である。加工前の
図9(A)(B)の写真は、表面粗さ1638nmRaで鏡面ではないが、
図9(C)(D)の写真は、表面粗さ11nmRaで鏡面であった。