【実施例】
【0012】
以下本発明の実施例について説明するが、その前提として本発明が適用可能な一般的なエレベータ構造を
図2から
図5で説明する。
【0013】
図2は本発明の実施の形態における風速計を設置した建物の外観図である。
【0014】
図2において、1は屋外エレベータが設置された建物、2は建物の屋外部分に設置された風速計である。この場合にエレベータは屋外エレベータであり、エレベータの昇降路は建物1の屋外部分に形成されている。このため、昇降路頂部の機械室20は、建物1から張り出す形で建物屋上部分に形成されている。機械室20内には巻上機3が設置され、この巻上機3に主ロープ4が巻回されている。主ロープ4の一端側はかご5、他端側はカウンターウェイト6に取り付けられている。また、昇降路頂部の機械室20には、ガバナ7が設置され、このガバナ7にガバナロープ8が巻回されている。この図に示すように、主ロープ4、ガバナロープ8が屋外に設置されており、直接、風にさらされている。
【0015】
なお
図2において21は、建物1の各階外壁側に設けられた建物側エレベータドアであり、展望用エレベータかご5のかごドア22は、各階に停止した状態で建物側エレベータドア21に対向する場所に位置づけられる。
図2の展望用エレベータかご5において、かごドア22が取り付けられた面を正面とするとき、展望用エレベータかご5の背面(図示の左側)には、乗客の視界確保のためにガラスなどの透明部材で形成された展望窓24が設けられている。さらに展望用エレベータかご5の両側面(図示の手前側)には、立枠23が高さ方向に形成されており、立枠23に取り付けられたガイドローラが建物側のガイドレール(図示せず)と接触対向することで、ガイドレールに沿って昇降する。
【0016】
図3は展望用エレベータかごの昇降路の平面図でありかご5を上部から見た図である。この平面図では、エレベータ中心部位置にXY平面の原点Oをおいて表示している。
図3の例では、エレベータ中心部位置(XY平面の原点O)を、巻上機3に巻回される主ロープ4の中心部位置として表示している。
【0017】
図3において、X方向がエレベータかご5の側面方向(立枠23の方向RG:レールゲージ方向)を示し、Y方向が展望用エレベータかご5の前後方向を示している。Y方向上面が展望用エレベータかご5の背面であり、ガラスなどの透明部材で展望窓24が形成されている。Y方向下面が展望用エレベータかご5の正面であり、展望用エレベータかご5のかごドア22が形成されている。エレベータかご5は、エレベータかご両側部近傍に高さ方向に設置されるかご用ガイドレール9に沿って昇降される。
図3において、10はエレベータかご両側部近傍に構成されるガイドローラ部分を示している。ガイドローラ部分10は、建物側のかご用ガイドレール9に接触対向する。
【0018】
なおカウンターウェート6についても、両側部近傍に設置されるガイドレールに沿って昇降する構成となっている。従って、以下に説明する強風管制運転装置及び方法は、そのままカウンターウェート6を監視対象として適用可能である。
【0019】
図4に展望用エレベータかごのガイドローラ部分10を示す。ガイドローラは、エレベータかご室の両側面のそれぞれ上下に配置されており、
図4はそのうちの1つのガイドローラ部分10を示している。このうち
図4aはガイドローラ部分10の平面図であり、
図3のガイドローラ部分10を方向Aから見た図である。また
図4bはガイドローラ部分10の側面図であり、
図3のガイドローラ部分10を方向Bから見た図を示している。
【0020】
また
図5は、かご5側のガイドローラ部分10と、建物側のかご用ガイドレール9の接触対向状況を示している。ガイドローラ部分10は、左右ローラRR、RLと、垂直ローラRPの3組のローラで構成されており、T字状のかご用ガイドレール9の脚部9Tの両側面を左右ローラRR、RLで挟み、かつかご用ガイドレール9の脚部9Tの端部を垂直ローラRPで抑えている。
【0021】
これらの図に示すように、ガイドローラ部分10は左右ローラRR、RLと、垂直ローラRPの3組のローラで構成されており、ベース部分Bにおいてエレベータかご室5に固定されている。またこの構成によれば、
図4aに示すように左右ローラRR、RLは、その軸位置に対して、左右方向11に振動を受けており、この左右方向11がかごのレールゲージRG方向である。
図4bにおいて垂直ローラRPは、その軸位置に対して、左右方向12に振動を受けており、この左右方向12がかごの前後方向である。
【0022】
このように、左右ローラRR、RLは、かごのRG方向の振動を受け、これをx軸方向とするとき、垂直ローラRPは、かごの前後方向の振動を受け、これをy軸方向とする。従ってエレベータかごのガイドローラは、その上下移動の際に、x軸、y軸方向に変位を受けていることになる。これらのx軸、y軸方向の変位は、それぞれのばねSR、SL、SPにより受け止められ、吸収される。
【0023】
以上、
図2から
図5により、本発明が適用可能な一般的なエレベータの構造を説明した。係るエレベータにおいては、ガイドローラ部分10において上下移動に伴う振動を受けている。以下においては、さらにガイドローラ部分10における風速に伴う振動を考慮する。そのうえで本発明においては、風速と振動の関係を明確にし、解析の結果定まるかご内振動を所定以下に制限する制限風速に応じて強風管制運転を実行する。
【0024】
まず風速と振動の関係について、以下解析手法と解析結果について説明する。この解析では、風速による変位量からかご内振動を求めている。一般に、ガイドローラRの変位量δ
x、yは、(1)式により算出できる。この(1)式において、δ
x、yは、ガイドローラ中心部のRG方向(x)もしくは前後方向(y)の変位量[mm]であり、F
x、yはガイドローラ中心部のばねSR、SL、SPのRG方向(x)もしくは前後方向(y)にかかる力[N]であり、kはばね定数[N/mm]である。
[数1]
δ
x、y=F
x、y/k×1000 ・・・ (1)
この(1)式において、力F
x、yが、風速により生じたものと仮定する。この時の風速によりガイドローラRにかかる力F
x、yは、レールゲージRG方向であるx方向の力F
xと前後方向であるy方向の力の合成として求めることができ、x方向の力F
xは(2)式により、y方向の力F
yは(3)式により算出することができる。
【0025】
但し、これらの式において、S
1はかごの側面面積[m
2]、S
2はかごの背面面積[m
2]、P
Wは風圧力[N/m
2]であり、はね定数kは
図6に示す値である。
図6によれば、はね定数kはガイドローラRの変位δ量[mm]に従って適切な値として設定される。これらはエレベータの外側面に受けた力を求めたものである。
[数2]
F
x=1/2(S
1×P
W)・・・ (2)
[数3]
F
y=1/4(S
2×P
W)・・・ (3)
次に、かご内振動を(4)式により算出する。(4)式は、かご質量とガイドローラのバネからなる振動系の運動方程式を意味している。ここで、x”はかご内振動[gal=cm/s
2]、f
nはかごの固有振動数[Hz]、xはかごの最大振幅[mm]である。
[数4]
x”=(2π×f
n)
2×(1/2)x/10・・・ (4)
(4)式においてかごの固有振動数は、(5)式により算出できる。但し、(4)式において、mはかご重量[kg]、αはかご重量補正係数(=0.8)、k
2はバネのバネ定数[N/mm](=137.2)である。
[数5]
f
n=(1/2π)×√(k
2/mα)・・・ (5)
また、エレベータ走行時のかご内振動を検討するため、(5)式より算出した値x”に高速エレベータ(HVF)の平均かご振動10galを加える。
【0026】
上記により算出した風速によるかごの振動を
図7のようにまとめる。
図7では、風速ごとにかご内振動を○×で評価したものであり、風速がV3以上になると、中低速エレベータの許容振動値である20galを超えることを表している。
【0027】
ここでは、風速V[m/s]は、初期風速V0[m/s]から順次増大して、各風速値に変位すると考えている。これは、初期風速V0が気象庁のデータ(2009/03〜2010/03)[1]より10分間の最大瞬間風速と平均風速の比を調べたところ、各風速の2/5の値が初期風速となるという結果を得たことによる。よって、初期風速V0=各風速の2/5としている。また、かごの振動において、風の向きについては、最悪条件として、かごの真横、または真後から瞬間的に風が発生するとして検討している。
【0028】
図7より、風速V2m/sまでは強風による乗り心地は問題無いことがわかる。また、風速V3m/s以上で乗り心地において乗客に不快感を与える可能性があることがわかる。従って、風速V3m/s以上の場合、エレベータを通常運転せず停止とすれば良いと判断できる。
【0029】
以上の解析とその結果に応じて、本発明においては以下のように構成される。
図1は本発明に係る強風管制運転装置の処理フローを示している。このフローの実施に当たり、まず事前準備段階として、風速と振動の解析結果を求めておく。設定した風速の時の振動を順次求めていき、中低速エレベータの許容振動値である20galを超える風速(制限風速V3)を定めておく。
【0030】
図1のエレベータの制御装置(強風管制運転装置)の最初の処理フローS1では、予め設定された制限風速V3を入手する。次に処理フローS2では
図2の風速計2で検知した風速を逐次記憶し、処理フローS3では現時点の風速Vnの2/5を初期風速V0とし、現時点の風速Vnの3/5を評価対象の風速Vhとする。処理フローS4では評価対象の風速Vhと制限風速V3の大小関係を判断し、制限風速V3を超過するとき強風管制運転を実施する(処理フローS5)。強風管制運転においては、エレベータを減速運転させ、あるいは乗客を降ろした後にエレベータの運転を停止する。制限風速V3を超過しないときには強風管制運転を実施しない(処理フローS6)。
【0031】
なお
図1のフローにおいて、最初の処理フローS1で入力する制限風速V3を予め求めて処理について、この部分は事前設定手段に相当し、処理フローS2以降の処理が強風管制運転の判定手段ということができる。
【0032】
以上の本発明によれば、風速が振動に与える影響が予め把握されており、その結果知られた制限風速を超過することで強風管制運転に入ることになるので、乗客に対する乗り心地の改善が可能である。また制限風速と対比される計測風速は、現在の値ではなく、初期風速と計測風速の偏差として求められるので、気象のより実態に即した影響を反映したものとすることができる。