(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記参照抗体と前記競合抗体は、前記競合抗体が、そのFcフラグメントのグリコシル化の程度を変えるための方法で得られたもの、又は、そのFcフラグメントのグリコシル化の程度を変えるための処理を施されたものであるという点で異なることを特徴とする請求項3又は4記載の方法。
前記参照抗体と前記試験抗体は、前記試験抗体が、そのFcフラグメントのフコシル化の程度を変えるための方法で得られたもの、又は、そのFcフラグメントのフコシル化の程度を変えるための処理を施されたものであるという点で異なることを特徴とする請求項3又は4記載の方法。
前記Fc受容体は自殺酵素によって直接標識されること、すなわち、前記Fc受容体と前記自殺酵素とを含む融合タンパク質の形態で前記Fc受容体は発現されること、及び、前記FRETパートナーの一方と結合した前記酵素の基質を前記測定媒体に添加することによって前記標識が行われることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
前記自殺酵素は、O6−アルキルグアニンDNAアルキルトランスフェラーゼ変異体、デハロゲナーゼ変異体、及び、アシルキャリアタンパク質フラグメントから選択されることを特徴とする請求項11記載の方法。
前記自殺酵素は、デハロゲナーゼ変異体、アシルキャリアタンパク質フラグメント、及び、O6−アルキルグアニンDNAアルキルトランスフェラーゼ変異体から選択されることを特徴とする請求項14記載の試薬キット。
【背景技術】
【0002】
ここ数年間、組み換えモノクロナール抗体によって治療革命が起こっている。これら抗体の臨床効果はもはや証明を必要としないものであるが、これらの患者又は患畜における作用態度については未だにほとんど知られていない。膜抗原を標的とした抗体の治療効果には、特に抗体の結晶性フラグメントの受容体(以下「Fc受容体」)を発現するエフェクター細胞の補充が関係している。
【0003】
Fc受容体は、免疫系、特にNK(「ナチュラルキラー」)細胞、マクロファージ、好中球及びマスト細胞の機能に寄与する特定細胞の表面に存在するタンパク質である。その名は、抗体のFc(結晶性フラグメント)領域への結合能に由来する。Fc受容体には幾つかの種類があり、認識する抗体の種類に応じて以下のように分類される。Fcγ受容体(FcγR)はIgGに結合し、Fcα受容体(FcαR)はIgAに結合し、Fcε受容体(FcεR)はIgEに結合する。
【0004】
抗体とFc受容体との結合は、この受容体が発現される細胞の性質により異なる様々なメカニズムの引き金となる。表1は、各種Fc受容体の細胞分布、及び、抗体と上記受容体との結合が引き金となるメカニズムの概要である。
【0005】
【表1】
【0006】
抗体とFc受容体との結合に関連したメカニズムの重要さを考慮すれば、上記受容体が細胞状況下にある場合、特に診断又は治療のために抗体又はFcフラグメントを開発する状況ではその結合を検出できることは特に有利であろう。
【0007】
ADCCメカニズムの引き金となる治療抗体は現在市販されており(ハーセプチン(R)、セツキシマブ(R))、以下のように特定のガンの治療に適応される。上記抗体のFcフラグメントはNK細胞上に存在するFc受容体に結合し、上記抗体の可変領域は腫瘍細胞上に存在する抗原を認識する(ハーセプチン:Her2、セツキシマブ:Her1)。上記抗体がNK細胞及びガン細胞に同時に結合すると、特にADCCメカニズムが活性化されてガン細胞が破壊されることとなる。
【0008】
また、抗体のFcフラグメントのグリコシル化が、そのFcR抗体の親和性に影響を与え、結果としてそのエフェクター細胞補充能に影響を及ぼすことが知られている。特に、FcフラグメントのNグリカン基の位置にほとんど又は全くフコース残基を有していない修飾された治療抗体は、低濃度で強いADCC反応を引き起こし、その対応するフコシル化物と比較してはるかに良好な効力を示す(非特許文献1及び2)。これらの研究では、FcRと抗体との結合はELISA型アッセイ(“enzyme−linked immunosorbent assay(酵素結合免疫吸着法)”の頭字語)又は機能的にADCC反応測定によって測定されている。
【0009】
一般に、無傷細胞により発現されるFc受容体と治療抗体候補との結合を検出する方法があれば、治療抗体を開発するための、又は、Fc受容体により媒介される免疫系メカニズムを研究するための有用な道具となろう。Fc受容体と抗体との結合を研究するのに現在利用できる技術は比較的時間のかかる面倒なものである。
【0010】
商品名Biacore(R)として市販されているシステムによって、2つの結合パートナー間の相互作用を検出することができる。このシステムは表面プラズモン共鳴現象を利用している。このシステムは、抗体のFcフラグメントのグリコシル化がそのFcγRIII受容体との結合に対して及ぼす効果を研究するために用いられている。このシステムでは、Fc受容体、又は、試験される抗体のFc領域のフラグメントをマイクロチップへ固定する必要があり、その表面での屈折率に依存するシグナルを生成することができる(非特許文献3)。この手法にはいくつか欠点があり、特に、マイクロチップの表面に結合パートナーの一方を固定する工程が必須であること、ある程度の専門知識を要する高価な設備が必要であること、及び、研究対象のFc受容体を発現する生細胞とともに上記技術を用いて試験することができないという事実が挙げられる。また、この手法では、試験される抗体とその抗原とがその細胞構造において結合可能かどうかに関する情報が得られない。
【0011】
特許文献1には、抗体の抗原の存在下でCD16受容体を発現する細胞と上記抗体を接触させ、上記細胞により産生される少なくとも1つのサイトカインを測定する手法が記載されており、サイトカイン量が増加すれば上記細胞の活性化が表される。この方法では、FcRと抗体との結合を直接測定することはできない。また、上記細胞により分泌されるサイトカインを検出するために上清を遠心分離する工程が必要である。
【0012】
特許文献2には、FcRを発現する細胞に対する抗体のFcフラグメントの効果を求める方法であって、上記抗体を固体状支持体に固定する工程と、上記抗体の存在下で上記受容体を発現する細胞を培養する工程と、上記抗体の存在下で上記FcRの効果を測定する工程とからなる方法が記載されている。この方法では、上記細胞によるサイトカインの産生を検出することによって、FcRの活性化も間接的に測定する。この方法は、特許文献1で説明されているものと同様の欠点、特に遠心分離工程が必要であるという欠点を有している。
【0013】
特許文献3には上記手法の変法が開示され、この方法は、事前に凝集させた抗体とFcRを発現する細胞とを接触させる工程からなる。上述の方法と同様に、上記細胞により分泌されるサイトカインを測定することによって上記細胞の活性化が決定される。
【0014】
Cisbio Bioassays社により、細胞により発現されるタンパク質を蛍光化合物やFRETパートナー蛍光化合物(HTRF(R))で標識するための商品名Tag−lite(R)の製品群が市販されている。エネルギードナー化合物及びアクセプター化合物間のFRET現象はこれら両化合物間の距離に依存するため、細胞状況下の分子間相互作用の研究にTag−lite(R)製品群を使用することができる。この方法の適用例の1つは、FRETパートナーで標識したタンパク質G(RCPG)に結合した受容体と、もう1つのFRETパートナーで標識したそのリガンドとの相互作用の研究に用いることである。この手法によって、例えば、上記RCPGの新規リガンド候補の結合を評価するために競合アッセイを行うことができる。上記製品の別の適用例は、FRETパートナー化合物で標識したRCPGの二量体化の研究である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
競合アッセイ形態は本発明の好ましい実施形態を構成する。この実施形態では、本発明は、参照抗体と競合させることによって、測定媒体中の細胞膜又は無傷細胞で発現されるFc受容体と抗体(以下「競合抗体」)との結合を測定するインビトロ方法であって、
(i)上記Fc受容体をFRETパートナー対の第一メンバーで直接標識若しくは間接標識する工程、又は、FRETパートナー対の第一メンバーで事前に直接標識したFc受容体を有する細胞膜若しくは無傷細胞を上記媒体中に導入する工程と、
(ii)上記競合抗体を上記測定媒体に添加する工程と、
(iii)上記FRETパートナー対の第二メンバーで直接標識又は間接標識した参照抗体を上記測定媒体に添加する工程と、
(iv)FRETシグナルを測定する工程とを含み、上記競合抗体の存在下で測定した上記シグナルがその非存在下で測定した場合と比べて減少すれば、その抗体と上記Fc受容体との結合が表される、方法からなる。
【0023】
工程(i)、(ii)及び(iii)はこの順番で行うのが好ましいが、各種要素を異なる順番で(例えば(i)、(iii)、(ii))又は同時に接触させることも可能である。
【0024】
工程(iv)は、数分(例えば3、4又は5分間)〜数時間(例えば1〜20時間)の範囲であってもよい培養時間の経過後に行う。
【0025】
競合抗体の濃度が既知であれば、この場合、工程(iv)で得たシグナルを、競合抗体の代わりに非標識の参照抗体を使用して上記方法を行った際に測定されるシグナルと比較することができ、Fc受容体に対する競合抗体の親和性について結論を出すことができる。特に、同じ濃度では、競合抗体の存在下で測定したFRETシグナルが非標識の参照抗体の存在下で測定したシグナルよりも小さければ、競合抗体は参照抗体よりも良好な親和性を有しており、その逆もまたしかりである。非標識の参照抗体は工程(iii)の参照抗体と同じであってもよく、あるいは、競合抗体と比較したい別の抗体であってもよい。
【0026】
また、上記競合アッセイ法を各種濃度の試験抗体と一定量の参照抗体との存在下で再現した場合、得た結果から競合抗体のEC50を求めることができる。上記抗体のEC50は参照抗体と比較することができ、EC50が最も小さい抗体が、Fc受容体に対する親和性が最も良好な抗体である。「EC50」とは、所定の効果の50%に達する濃度を意味する。ここで、競合抗体のEC50は、Fc受容体と参照抗体との結合を50%阻害する上記抗体の濃度に相当することとなる。当業者はこの概念を熟知しており、上記実施形態で得られた結果からEC50を自動的に計算するソフトウェアが利用できる。
【0027】
なお、本発明に係る方法では競合抗体を精製された形態で使用する必要はなく、競合抗体は混合物中、例えば上記抗体を産生する細胞の培養上清中などに含まれていてもよい。本発明の方法の利点の1つは、試験される抗体を調製する面倒な時間のかかる工程が必要ないため、未精製の抗体を試験できることである。
【0028】
上記方法は、細胞膜又は無傷細胞で発現されるFc受容体を使用して行う。上記膜は、化学的又は機械的処理を施した細胞から従来の方法で調製することができる。「細胞膜」には、無傷細胞の膜が含まれ、無傷細胞を使用して本発明を実施するのが特に有利で好ましいが、これはこの場合、生物学的現実に比較的近い状況で上記方法が行われるためである。
【0029】
「参照抗体」とは、Fc受容体に結合することが明確に知られている抗体を意味する。従って、Fc受容体がFcγ受容体(FcγR)の場合、参照抗体は、IgGクラスの抗体であればそのエピトープ特異性に関わらずいかなる抗体であってもよい。また、Fc受容体がFcα又はε受容体の場合、参照抗体はそれぞれIgA又はIgEクラスのいかなる抗体であってもよい。
【0030】
予想外にも、抗体に特定の修飾を施した場合、本発明に係る方法は親和性の変化が観察できるほど充分に感度が高いものとなった。より正確には、本発明者らは、Fc受容体に対する抗体の親和性を増加又は減少させることが知られている修飾は、本発明に係る方法を用いて測定したEC50の変化と相関性があることを見出した。
【0031】
従って、特定の実施形態では、上記参照抗体と上記競合抗体は、特に、上記競合抗体が、そのFcフラグメントのグリコシル化の程度を変えるための方法で得られたもの、又は、そのFcフラグメントのグリコシル化の程度を変えるための処理を施されたものであるという点で異なる。
【0032】
特に、好ましい実施形態では、上記試験抗体は、そのFcフラグメントのフコシル化を変えるための方法で得られたもの、又は、そのFcフラグメントのフコシル化を変えるための処理を施されたものであった。このような方法や処理は当業者に公知であり、特定の治療抗体の効力を向上させるために用いられる。特にYamane−Ohnuki et al.(MAbs.2009 May−Jun;1(3):230−6)により記載された上記処理には、以下の3つのタイプがある。
・N−グリコシル化経路を改変して哺乳類に近づけた真核生物(酵母)又は植物細胞の遺伝子操作による抗体の製造方法:この手法は、上記生物体のN−グリコシル化のメカニズムに関与する特定遺伝子を非活性化する工程と、哺乳類のN−グリコシル化経路に特異的な別の遺伝子を導入する工程とからなる;
・(1)α−1,6フコシル化の固有活性が生来制限されている哺乳類細胞、又は、(2)干渉RNAの低分子鎖(頭字語でsiRNAとも呼ばれる)の導入によってα−1,6フコシル化のメカニズムが阻害されている哺乳類細胞、又は、(3)β−1,4−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GnTIII)をコードするDNAとゴルジ体のα−マンノシダーゼII(ManII)をコードするDNAが導入された哺乳類細胞、又は、最後に(4)α−1,6−フコシル化機能が、このグリコシル化経路に関与するゲノム遺伝子座のレベルで阻害されている哺乳類細胞の遺伝子操作による抗体の製造方法;
・非フコシル化タンパク質のフコシル化を触媒する酵素、又は、フコシル化タンパク質の糖残基を切断できるフコシラーゼでの処理によるインビトロでの抗体フコシル化の制御。
【0033】
本発明では、このようにして得た抗体をそのFc受容体への結合能について容易に試験することができ、この結合能は、上記抗体の治療効果の可能性を示すことから、非常に有用な情報となる。
【0034】
本発明の変形例の1つでは、試験抗体のグリコシル化の程度を測定することができる。この変形例は、
・グリコシル化又は脱グリコシル化の程度が既知の複数の競合抗体を使用して上記競合アッセイの方法を適用する工程であって、各種の量の各競合抗体と一定量の参照抗体との存在下で上記方法を再現する工程と、その後、
・上記競合アッセイの方法を今度は競合抗体として試験抗体を使用して適用する工程であって、各種の量の試験抗体と一定量の参照抗体との存在下で上記方法を再現する工程と、
・上記試験抗体のEC50を上記グリコシル化又は脱グリコシル化の程度が既知の複数の競合抗体のそれぞれと比較して上記試験抗体のグリコシル化の程度を測定する工程とを含むことを特徴とする。
【0035】
この方法によって、特に抗体のフコシル化の程度を測定することができる。
【0036】
グリコシル化又はフコシル化が何らかの形で制限されている抗体を試験する後者の実施形態は、Fc受容体が、IgG1クラスの抗体のFcフラグメントへの結合が上記抗体のフコシル化の程度と関係があることが知られているFcγ受容体、特にCD16a受容体又はその変異体である場合に特に好適である。抗体のフコシル化の程度は、エフェクター細胞の応答の強さ、例えばADCC応答の強さなどと直接相関しているため、上記方法によって、エフェクター細胞を介した応答を引き起こす抗体の能力を予測することができる。
【0037】
上記実施形態では、事前に標識された受容体を有する細胞膜(所望により凍結されていてもよい)も使用でき、この場合、工程(i)は、FRETパートナー対の第一メンバーで事前に直接標識したFc受容体を有する細胞膜を測定媒体中に導入する工程からなる。凍結された標識細胞を使用する場合、解凍した後で洗浄してから測定媒体に添加することとなる。
【0038】
上記で使用した用語は以下の意味を有する。
「FRETパートナー対」:この表現は、蛍光エネルギードナー化合物(以下「蛍光ドナー化合物」)及びエネルギーアクセプター化合物(以下「アクセプター化合物」)を構成する一対(ペア)をいい、これらの化合物は互いに接近したり、蛍光ドナー化合物の励起波長で励起されたりした場合、FRETシグナルを発する。FRETパートナーとなる2つの蛍光化合物に関して、蛍光ドナー化合物の発光スペクトルの範囲がアクセプター化合物の励起スペクトルと部分的に重なっていなければならないことが知られている。
【0039】
「FRETシグナル」:蛍光ドナー化合物及びアクセプター化合物間のFRETを表す測定可能なあらゆるシグナルをいう。従って、FRETシグナルは、蛍光ドナー化合物、又は、アクセプター化合物が蛍光であればそのアクセプター化合物の発光強度又は寿命の変化であってもよい。
【0040】
「測定媒体」:本発明を実施するのに必要な試薬と細胞又は細胞膜とを混合するためのプレートのウェル、試験管又は他の好適な容器の内容物をいう。
【0041】
Fc受容体は、表1の受容体から選択され、好ましくはCD16a受容体(FcγRIIIa)又はその変異体である。この受容体の変異体がいくつか知られており、特に、自然変異体L66H、L66R、G147D、Y158H、F203S、F176V(又は、出版物によってはF158V)が挙げられる。好ましい実施形態では、変異体V158(又はV176)が使用される。別の実施形態では、変異体F158(F176)である。
【0042】
Fc受容体を標識する様々な手段を以下に説明するが、Fc受容体は自殺酵素で直接標識するのが好ましく、この酵素は、特に、デハロゲナーゼ変異体、アシル輸送タンパク質フラグメント、O6−アルキルグアニンDNAアルキルトランスフェラーゼ変異体から選択してもよい。O6−アルキルグアニンDNAアルキルトランスフェラーゼ変異体が好ましい。また、指摘した通り、このFc受容体を標識する方法は、Fc受容体と自殺酵素とを含む融合タンパク質の発現を可能にする前処理を細胞に施すことを意味する。FRETパートナー対の一方のメンバーと結合した上記自殺酵素の基質を添加することによって標識が行われることとなる。
【0043】
また、フルオロフォア標識抗体を標識する手段を以下に説明するが、この抗体をFRETパートナーの一方に共有結合させて直接標識するのが好ましい。
【0044】
特定の実施形態では、Fc受容体はアクセプター化合物で、抗体はドナー化合物で標識される。別の実施形態では、Fc受容体はドナー化合物で、抗体はアクセプター化合物で標識される。後者の実施形態が好ましい。
【0045】
Fc受容体の標識
(a)ドナー又はアクセプターとFc受容体との間接(非共有)結合
ドナー又はアクセプターは、Fc受容体と結合できるタンパク質を介してFc受容体と結合させることができ、このタンパク質自身はFRETパートナー対の第一メンバーで直接標識又は間接標識される。例えば、FcγRIIIA(CD16a)受容体が、FcεRI受容体のγ鎖又はCD3のζサブユニットと細胞膜において結合するため、蛍光化合物で直接標識した上記γ又はζ鎖でCD16a受容体を間接標識できることが知られている。
【0046】
ドナー又はアクセプターは、少なくとも一方がタンパク質性である結合パートナー対を介してFc受容体と結合させることができる。この手法では、分子生物学の従来法(タンパク質結合パートナーをコードするヌクレオチド配列と融合した、Fc受容体をコードするヌクレオチド配列を有する発現ベクターの構築、及び、上記発現ベクターの細胞への挿入)によってFc受容体をタンパク質性結合パートナーと融合させる。もう1つの結合パートナー(本明細書ではカップリング剤と呼ぶ)とドナー又はアクセプターを共有結合させ、その後、細胞外媒体に添加する。結合パートナーが認識されると、Fc受容体がドナー又はアクセプターで間接標識される。
【0047】
この種の結合パートナーの例として以下のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
・Fc受容体上に生来存在するエピトープの特異的抗体が蛍光化合物で標識されたものと上記エピトープとからなる一対。この標識法を用いた場合、上記エピトープと上記抗体との結合が、抗体のFcフラグメントとFc受容体との結合に干渉しないことを確認することが推奨される。また、この実施形態では、所望のFc受容体により認識され得る定常部フラグメントを有する抗体の使用を避けることが推奨される。
【0049】
・システイン−システイン−X−X−システイン−システイン配列(Xは任意のアミノ酸)(配列番号1)と二ヒ素化合物とからなる一対。上記二ヒ素化合物はフルオレセイン系又はローダミン系有機分子で容易に標識することができる(本技術の詳細は、B.A.Griffin et al.(1998)Science.1998,281,269−271、及び、S.A.Adams et al.(2002)J.Am.Chem.Soc.2002,124,6063−6076を参照)。
【0050】
・ブンガロトキシン(BTX)により認識されるアミノ酸13残基からなる化合物であるBTX(ブンガロトキシン)ペプチドを蛍光分子と結合させることができる(C.M.McCann et al.(2005),Biotechnique(2005),38,945−952を参照)。
【0051】
・ストレプトアビジン(又はアビジン)/ビオチン対:ストレプトアビジンの結合配列(SBP−Tag)は、アミノ酸38残基からなる配列であり、ビオチンに対して親和性が高く、事前にドナー又はアクセプターで標識できる(C.M.McCann et al.(2005),Biotechnique(2005),38,945−952を参照)。
【0052】
・大腸菌のジヒドロ葉酸レダクターゼ酵素(eDHFR)の配列であって、トリメトプリム等のリガンドに高い親和性を示して特異的に結合し、Active Motif社の“Ligand link Universal labeling technology”と呼ばれる技術によってドナー又はアクセプターをグラフト化することができる配列。
【0053】
・タグ/アンチタグ対は、タンパク質の標識に頻繁に使用される結合パートナーである。「タグ(tag)」とは、必須ではないものの通常は非常に短いアミノ酸配列(アミノ酸15残基未満)からなる低分子タンパク質「標識」をいい、これがFc受容体と融合される。「アンチタグ(antitag)」とは、上記「タグ」に特異的に結合する抗体をいう。この実施形態では、「アンチタグ」抗体がドナー又はアクセプターに共有結合する。このように標識された抗体が細胞外媒体に添加されると、Fc受容体と結合した「タグ」に結合し、「タグ/アンチタグ」相互作用よって上記タンパク質はドナー又はアクセプターで間接標識される。「タグ/アンチタグ」対の例として特に限定されないが以下の対が挙げられ、これらの対の各メンバーは市販されている。GST/anti−GST抗体(GSTはグルタチオンS−トランスフェラーゼ又はそのフラグメントを表す)、6HIS/anti−6HIS抗体(6HISはヒスチジン6残基からなるペプチド)、Myc/anti−Myc抗体(Mycは、ヒトMycタンパク質のアミノ酸410〜419からなるペプチド)、FLAG/anti−FLAG抗体(FLAGは、アミノ酸8残基DYKDDDDK(配列番号2)からなるペプチド)、HA/anti−HA抗体(HAは、アミノ酸9残基YPYDVPFYA(配列番号3)からなるインフルエンザヘマグルチニンエピトープ)が挙げられる。明らかであるが、タグの正確な性質は本発明の実施に必須ではない。
【0054】
(b)ドナー又はアクセプターとFc受容体との共有結合
この手法では、ドナー又はアクセプターは共有結合によってFc受容体と結合されるが、いくつかの方法が開示されており、それらを行うのに必要な試薬は市販されている。この結合を行うために、以下の方法のいずれかを用いることができる。
【0055】
・FC受容体上に存在する反応基について、特に以下の基の1つについて共有結合を形成する。アミノ末端基、アスパラギン酸及びグルタミン酸のカルボン酸基、リシンのアミン基、アルギニンのグアニジン基、システインのチオール基、チロシンのフェノール基、トリプトファンのインドール環、メチオニンのチオエーテル基、ヒスチジンのイミダゾール基。
【0056】
これらのFC受容体上に存在する基は、ドナー又はアクセプターが担持する反応基と共有結合を形成できる。適切な反応基は当業者に公知であるが、例えば、マレイミド基で官能化されたドナー又はアクセプターは、タンパク質のシステインが担持するチオール基と共有結合が可能なものとなる。また、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを担持するドナー/アクセプターは、膜受容体のアミンと共有結合が可能なものとなる。
【0057】
・自殺酵素の使用
「自殺酵素」は、基質と迅速に共有結合できるようにする特定の変異によって酵素活性を変化させたタンパク質を意味する。この酵素は、それぞれ1つの蛍光分子としか結合できず、基質を固定することで酵素活性がブロックされるため、「自殺酵素」と呼ばれている。結果的に、この酵素は、1つのタンパク質に1つの蛍光分子の割合で所望の受容体を特異的に標識するのに最適な道具となる。この手法では、分子生物学の従来の方法によって自殺酵素をFc受容体と好ましくはそのN末端部で融合させ、ドナー又はアクセプターと共有結合した酵素の基質を細胞外媒体中に導入する。酵素反応によって上記酵素と標識基質とが共有結合し、その結果、Fc受容体がドナー又はアクセプターで標識される。
【0058】
例えば以下の酵素が挙げられるが、これらに限定されない。
・O6−アルキルグアニンDNAアルキルトランスフェラーゼ(AGT)変異体。Cisbio Bioassays社から販売されているSNAP−tag酵素(Juillerat et al.,Chemistry&biology,Vol.10,313−317 April 2003)、及び、CLIP−tag酵素(Gautier et al.,Chemistry and Biology,15,128−136,February 2008)は、ヒトAGTの変異体であり、これらの基質はそれぞれ、O
6−ベンジルグアニン(以下BGと略す)及びO
2−ベンジルシトシン(以下BCと略す)である。N−AGT酵素(Gronemeyer et al.,Protein engineering,design&selection,vol.19,No.7,pp309−3016,2006)は上記酵素の別の変異体であり、そのO
6−ベンジルグアニンとの反応性はSNAP−tag酵素よりも良好である。
【0059】
・自殺型の酵素反応(国際公開第2004/072232号を参照)も起こすデハロゲナーゼ変異体(Promegaから販売されているHaloTag酵素等)。この変異体の基質の幾つかはクロロアルカンファミリーの化合物であり、特に−NH−CH
2CH
2−O−CH
2CH
2−O−(CH
2)
6−Cl単位を含むクロロアルカンが挙げられる。この場合、ドナー/アクセプターはこのような単位と結合することとなる。
【0060】
・アシル輸送タンパク質であるACPタンパク質(「アシルキャリアタンパク質」)であって、ホスホパンテテイントランスフェラーゼの存在下、補酵素Aの4’−ホスホパンテテイン残基がACPのセリンに転移するACPタンパク質(N.George et al.,Journal of the American Chemical Society 126(2004)p8896−8897)。この手法を用いてドナー又はアクセプターでFc受容体を標識する場合、ホスホパンテテイントランスフェラーゼを反応媒体に添加する必要がある。NEB社から、タンパク質標識用にACPフラグメントが商品名「ACP−Tag」として販売されている。
【0061】
上記手法を所望の受容体の標識に用いる場合、自殺酵素と所望の受容体とを含む融合タンパク質をコードするDNAを含む発現プラスミドを細胞にトランスフェクトする。このプラスミドはさらに、上記タンパク質をコードするDNAの上流に、例えばFLAGエピトープ、mycエピトープ又はインフルエンザヘマグルチニン(HA)のエピトープ等のタグをコードするDNAを含んでいてもよい。これらのタグは必須ではないが、検査又は精製のために融合タンパク質を操作するのが容易になる。エレクトロポレーション等の従来の方法によってトランスフェクションを行う。
【0062】
融合タンパク質が細胞膜で確実に発現されるように、発現プラスミド中、所望の受容体及び自殺酵素をコードする配列の上流に、T8シグナルペプチドやmGluR5受容体のシグナルペプチド等の膜アドレッシングペプチドをコードする配列を含ませることが有用な場合があり、このために上記配列を使用することは当業者に公知である。最後に、所望の受容体と自殺酵素との結合を翻訳後に切断するものとなり得る天然の膜アドレッシング配列が、所望の受容体をコードする配列に確実に含まれないようにすることも望ましい。この場合には、この領域を発現プラスミド中に導入しないことが好ましい。
【0063】
最後に、Fc受容体をFRETパートナーで標識するのに自殺酵素を使用する場合、本発明では、Fc受容体がそのN末端部で自殺酵素と融合した融合タンパク質をコードするDNA配列を有する発現ベクターを細胞にトランスフェクトする予備工程を行う。エレクトロポレーションやリポフェクタミンの使用などといったトランスフェクション法が当業者に公知である。
【0064】
FRETパートナーと結合した酵素の基質を細胞外媒体中に導入すると、所望の受容体が上記FRETパートナーで標識されることとなる。
【0065】
Cisbio Bioassays社から、商品名SNAP−tag(R)、CLIP−tag(R)及びHalotag(R)として知られる自殺酵素を含む融合タンパク質を発現可能なTag−Lite(R)プラスミドが販売されている。表1のFc受容体をコードするDNA配列は公知であり、Genbank等のデータベースから入手できる。
【0066】
抗体の標識
また、抗体は直接標識又は間接標識することもできる。
【0067】
抗体上の反応基、特に以下の基の存在を利用した当業者に公知の従来法によって抗体を蛍光化合物で直接標識することができる。アミノ末端基、アスパラギン酸及びグルタミン酸のカルボン酸基、リシンのアミン基、アルギニンのグアニジン基、システインのチオール基、チロシンのフェノール基、トリプトファンのインドール環、メチオニンのチオエーテル基、ヒスチジンのイミダゾール基。
【0068】
これらの基は、蛍光化合物が担持する反応基と共有結合を形成できる。適切な反応基は当業者に公知であるが、例えば、マレイミド基で官能化されたドナー又はアクセプターは、タンパク質のシステインが担持するチオール基と共有結合が可能なものとなる。また、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを担持するドナー/アクセプターは、抗体上のアミンと共有結合が可能なものとなる。
【0069】
また、抗体は、例えば、蛍光化合物と共有結合した別の抗体(この第二抗体が第一抗体を特異的に認識する)を測定媒体中に導入することなどによって蛍光化合物で間接標識することもできる。この手法を用いる場合、Fc受容体により認識されることのないFc領域を有する第二抗体を選択することが推奨される。
【0070】
間接標識の他の非常に典型的な従来手段は、標識する抗体にビオチンを固定する工程と、その後、フルオロフォアで標識したストレプトアビジンの存在下でビオチン化抗体を培養する工程とからなる。ビオチン化抗体は市販されており、例えばフルオロフォアで標識したストレプトアビジンが商品名「d2」(参照番号610SADLA)としてCisbio Bioassays社から販売されている。
【0071】
そのFc受容体との結合が測定される抗体はそのFc領域を介して上記受容体と結合するため、その可変領域は、特異的な抗原を認識するために利用できる状態のままである。従って、蛍光化合物で標識した抗体の抗原を測定媒体中に導入することによって上記抗体を間接標識することもできる。
【0072】
FRETパートナー対
本発明によれば、Fc受容体と、この受容体により認識される抗体の少なくとも1つは、それぞれFRETパートナー対のメンバーで、特に蛍光ドナー化合物又は蛍光エネルギーアクセプター化合物で標識される。
【0073】
FRETは、エネルギードナー及びエネルギーアクセプター間の双極子−双極子相互作用により生じる無放射エネルギー移動と定義される。この物理現象には上記分子間のエネルギー互換性が必要である。これは、ドナーの発光スペクトルの範囲が、アクセプターの吸収スペクトルと少なくとも部分的に重なっていなければならないことを意味する。フェルスターの理論によれば、FRETは、ドナーとアクセプターという2つの分子を隔てる距離に依存するプロセスであり、これらの分子が互いに接近すれば、FRETシグナルが発せられる。
【0074】
FRETシグナルを得るためにフルオロフォアのドナー/アクセプター対を選択することは、当業者の能力の範囲内である。FRET現象を研究するのに使用できるドナー/アクセプター対は、特にJoseph R.Lakowiczの研究(Principles of fluorescence spectroscopy,2nd edition 338)に記載されており、当業者は本文献を参照できるだろう。
【0075】
長寿命(>0.1ミリ秒、好ましくは0.5〜6ミリ秒)のエネルギードナー蛍光化合物、特に希土類キレート又はクリプテートは、測定媒体から発せられるバックグラウンドノイズの大部分を排除しつつ、時間分解測定が行える、すなわちTR−FRET(「時間分解FRET」)シグナルを測定できるため有利である。この理由から、通常、上記化合物は本発明に係る方法を行うのに好ましい。上記化合物はランタニド錯体であるのが有利である。これらの錯体(キレート又はクリプテート等)は、FRET対のエネルギードナーメンバーとして特に好適である。
【0076】
ジスプロシウム(Dy3+)、サマリウム(Sm3+)、ネオジム(Nd3+)、イッテルビウム(Yb3+)又はエルビウム(Er3+)の錯体は、本発明の目的にも適した希土類錯体であるが、ユーロピウム(Eu3+)錯体及びテルビウム(Tb3+)錯体が特に好ましい。
【0077】
多くの希土類錯体が開示され、現在、幾つかのものがPerkinElmer社、Invitrogen社及びCisbio Bioassays社から販売されている。
【0078】
本発明の目的に適した希土類キレート又はクリプテートの例として以下のものが挙げられる。
【0079】
・1以上のピリジン単位を含むランタニドクリプテート。このような希土類クリプテートは、例えば欧州特許第0180492号明細書、欧州特許第0321353号明細書、欧州特許第0601113号明細書、及び、国際公開第01/96877号等に記載されている。テルビウム(Tb3+)及びユーロピウム(Eu3+)のクリプテートは本発明の目的に特に適している。ランタニドクリプテートは、Cisbio Bioassays社から販売されている。例えば、以下の式を有するユーロピウムクリプテート(反応基(本例では例えばNH
2基)を介して標識する化合物と結合できる)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
・特に米国特許第4761481号明細書、米国特許第5032677号明細書、米国特許第5055578号明細書、米国特許第5106957号明細書、米国特許第5116989号明細書、米国特許第4761481号明細書、米国特許第4801722号明細書、米国特許第4794191号明細書、米国特許第4637988号明細書、米国特許第4670572号明細書、米国特許第4837169号明細書、米国特許第4859777号明細書に記載されているランタニドキレート。欧州特許第0403593号明細書、米国特許第5324825号明細書、米国特許第5202423号明細書、米国特許第5316909号明細書には、ターピリジンなどの九座リガンドからなるキレートが記載されている。ランタニドキレートはPerkinElmer社から販売されている。
【0083】
・Poole R.et al.,Biomol.Chem,2005,3,1013−1024“Synthesis and characterization of highly emissive and kinetically stable lanthanide complexes suitable for usage in cellulo”に記載されたものなど、芳香環を含む発色団で置換されたキレート剤(テトラアザシクロドデカン等)を構成するランタニド錯体も使用できる。国際公開第2009/10580号に記載された錯体を使用することもできる。
【0084】
・欧州特許第1154991号明細書及び欧州特許第1154990号明細書に記載のランタニドクリプテートも使用できる。
【0085】
・下記式を有するテルビウムクリプテート(反応基(本例では例えばNH
2基)を介して標識する化合物と結合できる)であって、その合成法が国際公開第2008/063721号(化合物6a、89頁)に記載されているもの。
【0087】
・Cisbio Bioassays社から販売されているLumiphore社製のテルビウムクリプテートLumi4−Tb。
【0088】
・以下の式を有するResearch Organics社製のquantum dye(反応基(本例ではNCS)を介して標識する化合物と結合できる)。
【0090】
・ルテニウムキレート、特にルテニウムイオンと幾つかのビピリジンとからなる錯体(ルテニウム(II)トリス(2,2’−ビピリジン)等)。
【0091】
・以下の式を有するLife technologies社から販売されているテルビウムキレートDTPA−cs124 Tb(反応基Rを介して標識する化合物と結合できる)であって、その合成法が米国特許第5622821号明細書に記載されているもの。
【0093】
・Latva et al.(Journal of Luminescence 75:149−169)に記載の以下の式を有するテルビウムキレート。
【0095】
上記蛍光ドナー化合物は、ユーロピウムクリプテート、ユーロピウムキレート、テルビウムキレート、テルビウムクリプテート、ルテニウムキレート、及び、quantum dyeから選択するのが特に有利であり、ユーロピウム又はテルビウムのキレート及びクリプテートが特に好ましい。
【0096】
ジスプロシウム(Dy3+)、サマリウム(Sm3+)、ネオジム(Nd3+)、イッテルビウム(Yb3+)又はエルビウム(Er3+)の錯体もまた、本発明の目的に適した希土類錯体である。
【0097】
蛍光アクセプター化合物は以下の群から選択できる:アロフィコシアニン類、特に商品名XL665で知られるもの;発光性有機分子、例えばローダミン類、シアニン類(例えばCy5等)、スクアライン類、クマリン類、プロフラビン類、アクリジン類、フルオレセイン類、ボロンジピロメテンの誘導体(商品名「Bodipy」で販売されている)、「Atto」の名称で知られているフルオロフォア、「DY」の名称で知られているフルオロフォア、「Alexa」の名称で知られている化合物、ニトロベンゾオキサジアゾール。蛍光アクセプター化合物は、アロフィコシアニン類、ローダミン類、シアニン類、スクアライン類、クマリン類、プロフラビン類、アクリジン類、フルオレセイン類、ボロンジピロメテンの誘導体、ニトロベンゾオキサジアゾールから選択するのが有利である。
【0098】
「シアニン類」及び「ローダミン類」とは、それぞれ「シアニン誘導体」及び「ローダミン誘導体」と理解されるべきである。これら各種フルオロフォアは市販されており、当業者に公知である。
【0099】
「Alexa」化合物はInvitrogen社から販売されており、「Atto」化合物はAttotec社から販売されており、「DY」化合物はDyomics社から販売されており、「Cy」化合物はAmersham Biosciences社から販売されており、その他の化合物は、Sigma社、Aldrich社又はAcros社等の様々な化学試薬供給業者から販売されている。
【0100】
蛍光アクセプター化合物として以下の蛍光タンパク質も使用できる。シアン蛍光タンパク質(AmCyan1、Midori−Ishi Cyan、mTFP1)、緑色蛍光タンパク質(EGFP、AcGFP、TurboGFP、Emerald、Azami Green、ZsGreen)、黄色蛍光タンパク質(EYFP、Topaz、Venus、mCitrine、YPet、PhiYFP、ZsYellow1、mBanana)、オレンジ色・赤色蛍光タンパク質、(Orange kusibari、mOrange、tdtomato、DsRed、DsRed2、DsRed−Express、DsRed−Monomer、mTangerine、AsRed2、mRFP1、JRed、mCherry、mStrawberry、HcRed1、mRaspberry、HcRed−Tandem、mPlim、AQ143)、及び、近赤外領域で蛍光性を有するタンパク質(mKate、mKate2、tdKatushka2)。
【0101】
本発明の目的においては、蛍光アクセプター化合物としてシアニン誘導体又はフルオレセイン誘導体が好ましい。
【0102】
試薬キット、細胞
本発明は、本発明に係る方法を行うための発現ベクター及び試薬キットにも関する。
【0103】
本発明における発現ベクターは、所望のFc受容体をコードするDNA配列と、自殺酵素、特にデハロゲナーゼ変異体、アシル輸送タンパク質フラグメント、及び、O6−アルキルグアニンDNAアルキルトランスフェラーゼ変異体から選択される自殺酵素(好ましくはO6−アルキルグアニンDNAアルキルトランスフェラーゼ変異体)をコードする配列とを含む融合タンパク質を発現可能なプラスミドである。Cisbio Bioassays社から商品名Tag−lite(R)、SNAP−tag(R)、CLIP−tag(R)及びHalo−tag(R)として販売されているいずれかのプラスミドに、所望のFc受容体をコードするDNA配列を組み込むことによって得られる。
【0104】
本発明は、本発明における発現ベクターを安定的に又は一時的にトランスフェクトした細胞、特に哺乳類細胞にも関する。エレクトロポレーションやリポフェクタミンの使用などといった細胞への発現ベクターの導入法は当業者に公知である。特に有利な態様では、FRETパートナー対のメンバーと結合した自殺酵素の基質の存在下で上記細胞を培養することにより、上記細胞によって発現されるFc受容体が標識される。上記細胞は、保存したり、使用者に分配したりするのが容易になるように凍結状態で包装することができる。
【0105】
本発明に係る試薬キットは、上記発現ベクター又は上記細胞とともに、FRETパートナー対の一方又は両方のメンバーを含む。上記FRETパートナーは、自殺酵素の基質と結合させてもよく、及び/又は、上記細胞により発現されるFc受容体と結合可能なFcフラグメントを有する参照抗体と結合させてもよい。
【0106】
上記プラスミド及び試薬キットにおいては、所望の受容体がFcγ受容体、特にCD16a受容体又はその変異体であることが好ましい。
【実施例】
【0107】
実施例1:材料及び方法
使用試薬:
培地:DMEM/Glutamax+10%FCS+ストレプトマイシン(50μg/mL)、ペニシリン50U/mL、HEPES2mM、非必須アミノ酸1%(InVitrogen)
OptiMEM:トランスフェクションに使用した培地、Invitrogen
リポフェクタミン 2000:Invitrogen
SNAP−CD16A プラスミド:SNAP−tag(R)pT8−SNAP−ネオマイシンプラスミド(Cisbio Bioassays)にCD16a受容体(変異体V158(又はV176)、参照番号Genbank NM_000569.6、タンパク質配列NP_000560.5)をコードする核酸配列(配列番号4)を挿入して作製、
図1を参照
FcεRI受容体のプラスミドγ鎖:FcεRI受容体のγ鎖をコードするDNA配列(配列番号5)を発現プラスミドに従来の方法で挿入した。このプラスミドのマップを
図2に示す。CD16a受容体がこのγ鎖と二量体を形成することが知られており、従って、2種類のタンパク質を同時発現させることが推奨されている。それにもかかわらず、本発明者らは、本発明に係る方法を行う際にこの同時発現を行う必要がないことを見出した。
FCS:ウシ胎仔血清、Invitrogen
DMSO:ジメチルスルホキシド、SIGMA
Tag−lite(R)SNAP−Lumi4Tb:ドナー化合物、Cisbio Bioassays、参照番号SSNPTBX
Tag−lite(R):標識バッファ、Cisbio Bioassays、参照番号LABMED
【0108】
細胞のトランスフェクション:
「SNAP−CD16A」プラスミド5μL(1μg/μL)、リポフェクタミン15μL及びOptiMEM培地2.6mLを含むトランスフェクション混合液と、「γ鎖」プラスミド10μL(1μg/μL)、リポフェクタミン30μL及びOptiMEM培地5.4mLからなる混合液とを室温で20分間培養した。
【0109】
T175フラスコ中でHEK293細胞を培養した。この細胞が60〜70%コンフルエンスに達したら、培地を取り除き、細胞をPBS媒体10mLで洗浄した。次に、この細胞に上記トランスフェクション混合液8mLを加え、さらに培地12mLも添加した。その後、細胞を37℃で一晩培養した。
【0110】
蛍光ドナー化合物Lumi4(R)Tbによる標識
トランスフェクション混合液を取り除き、PBS10mLで洗浄した後、Tag−lite(R)標識バッファ中に溶解した蛍光ドナー化合物Tag−lite(R)SNAP−Lumi4−Tb 10mL(100nM)を添加した。
【0111】
37℃で1時間培養した後、Tag−lite(R)標識バッファで混合液を4回洗浄し、次に細胞を解離させるために「細胞解離バッファ」(Sigma)5mLを添加し、さらにOptiMEM培地5mLを添加した。得られた細胞に対して1200rpmで5分間遠心分離を行った。その後、Tag−lite(R)標識バッファ1mL+1mLを使用して沈渣を再懸濁して細胞数をカウントした。
【0112】
この懸濁液を再び1200rpmで5分間遠心分離し、10%FCS及び10%DMSOを含む培地に沈渣を溶かして、濃度100万細胞/mLの標識細胞の懸濁液を得た。
【0113】
この懸濁液を各試験管に1mL分注し、試験管を−80℃のNalgeneボックスに入れた。
【0114】
FRETシグナルの測定
以下の実施例では、HTRFに適合する装置であるPHERAstarFS(BMG Labtech)によって、遅延時間60μ秒、積算時間400μ秒としてFRETシグナルの時間分解測定を行った。
【0115】
実施例2
実施例1に記載の方法で作製した細胞を37℃で解凍し、直ちにPBS15mLと混合した。得られた懸濁液を1200rpmで5分間遠心分離し、上清を取り除いた。Tag−lite(R)バッファに沈渣を再懸濁して、384LVマルチウェルプレートの各ウェルにHEK−CD16a−Tb細胞を10μL未満、濃度10000細胞/ウェルで分配可能な懸濁液を得た。
【0116】
5μL未満、各種最終濃度0.3nM〜5μMでIgG1アイソタイプの非標識ヒト抗体(そのエピトープ特異性は重要ではない)を添加した。
【0117】
同じ抗体をd2フルオロフォアアクセプター(d2標識キット、Cisbio Bioassays、参照番号62D2DPEA)で標識したものを5μL未満、200nMで添加して、最終濃度が50nMとなるようにした。
【0118】
384プレートから発せられるFRETシグナルを直後に測定し、その後は30分後、1時間後、2時間30分後、3時間40分後、5時間後及び6時間後に測定した。
【0119】
図3に示した結果から、本発明に係る方法によって、CD16a受容体と抗体のFcフラグメントとの結合の動態を効果的にモニタリングできることが分かる。
【0120】
実施例3
今回は、IgG1型抗体ほどはCD16a受容体に対する親和性が良好ではないことが知られているアイソタイプIgG2、IgG3及びIgG4のヒト抗体(それらのエピトープ特異性は重要ではない)を非標識IgG1抗体(競合抗体)の代わりに使用したことを除き、実施例2を再現した。これらの抗体を様々な濃度で添加した後、反応混合液を4時間20分培養した。
【0121】
図4に示した結果から、CD16a受容体に対するIgG2、IgG3及びIgG4の親和性に関して知られていることが確認され、従って、本発明に係る方法が、参照抗体と他の抗体とを効果的に比較できるものであり、かつ、(本実施例ではCD16a受容体に対する)上記抗体の親和性の違いを可視化できるほど充分に感度が高いものであることが実証される。
【0122】
実施例4
今回は、同じサブクラスの各種抗体:ハーセプチン、ペルツズマブ及びマウス抗EGFR抗体(ATCC528)を非標識IgG1抗体(競合抗体)の代わりに使用したことを除き、実施例2を再現した。
【0123】
図5に示した結果から、本発明に係る方法は、CD16a受容体を使用して行った場合、CD16aと結合しないマウス抗体を他のヒトIgG1抗体と区別することができ、かつ、IgG1クラスの複数の抗体の親和性の違いを測定できるほど充分に感度が高いことが確認される。
【0124】
実施例5
実施例1に記載の方法で作製した細胞を37℃で解凍し、直ちにPBS15mLと混合した。得られた懸濁液を1200rpmで5分間遠心分離し、上清を取り除いた。Tag−lite(R)バッファに沈渣を再懸濁して、384LVマルチウェルプレートの各ウェルにHEK−CD16a−Tb細胞を10μL未満、濃度10000細胞/ウェルで分配可能な懸濁液を得た。
【0125】
各ウェルに5μL未満、最終濃度が1.5〜300nMとなるような各種濃度で標識ヒトIgG1抗体を添加した。
【0126】
また、細胞への標識抗体の非特異的固定の影響を測定するために、非標識IgG1抗体を5μL未満、最終濃度3μMで添加し、この容積をTag−lite(R)バッファで置換して全シグナルを得た。全シグナルから非特異的シグナルを引いて特異的シグナルを得る。
【0127】
384プレートから発せられるFRETシグナルを様々な時間で測定したが、20時間培養した後の結果を
図6に示す。
【0128】
この実施例から、本発明に係る方法を用いて、バックグラウンドノイズを大幅に減少させて生細胞上のIgG1−CD16a複合体の解離定数を求めることができることが分かる。
【0129】
実施例6:フコシル化
今回は、フコース残基を除去する処理を施した各種抗体(4%脱フコシル化したAb1、8%脱フコシル化したAb2、57%脱フコシル化したAb3、11%脱フコシル化したAb4、80%脱フコシル化したAb5)を非標識IgG1抗体の代わりに使用したことを除き、実施例2を再現した。
【0130】
これらの抗体を様々な濃度で添加した後、反応培地を3時間30分培養し、プレートをArtemis 101(Berthold technologies)によってHTRF(R)モードで読み取った。
【0131】
脱フコシル化は、CD16a受容体に対する抗体の親和性を高める効果を有することが知られているが、この研究結果は
図7から確認できる。また
図7から、本発明によって、フコシル化の程度が既知の抗体を使用して得た結果から、所望の抗体のフコシル化の程度を比較的単純に評価することができることが分かる。また、この実施例から、本発明に係る方法は充分に感度が高く、様々な度合いで脱フコシル化された抗体の親和性の違いを測定できることも分かる。