特許第6371733号(P6371733)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371733
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】ATカット水晶片及び水晶振動子
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/19 20060101AFI20180730BHJP
【FI】
   H03H9/19 E
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-75927(P2015-75927)
(22)【出願日】2015年4月2日
(65)【公開番号】特開2016-197778(P2016-197778A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2017年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】桑原 貴之
(72)【発明者】
【氏名】島尾 憲治
(72)【発明者】
【氏名】岩田 浩一
【審査官】 鬼塚 由佳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−034107(JP,A)
【文献】 特開2001−285000(JP,A)
【文献】 特開2008−098712(JP,A)
【文献】 特開2002−271167(JP,A)
【文献】 特開昭54−153593(JP,A)
【文献】 特開2014−027505(JP,A)
【文献】 特開2008−067345(JP,A)
【文献】 特開2011−193175(JP,A)
【文献】 特開2014−110467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶の結晶軸で表わされるX−Z′面を主面とし、水晶の結晶軸のZ′軸と交差する側面の少なくとも一方を、第1〜第3の3つの面で構成してあり、
前記第1の面、前記第2の面および前記第3の面はこの順で交わっており、かつ、
前記第1の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として4±3.5°回転させた面に相当する面であり、
前記第2の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として−57±5°回転させた面に相当する面であり、
前記第3の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として−42±5°回転させた面に相当する面であることを特徴とするATカット水晶片。
【請求項2】
水晶の結晶軸で表わされるX−Z′面を主面とし、水晶の結晶軸のZ′軸と交差する側面の少なくとも一方を、第1〜第3の3つの面で構成してあり、
前記第1の面、前記第2の面および前記第3の面はこの順で交わっており、かつ、
前記第1の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として4±3°回転させた面に相当する面であり、
前記第2の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として−57±3°回転させた面に相当する面であり、
前記第3の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として−42±3°回転させた面に相当する面であることを特徴とするATカット水晶片。
【請求項3】
前記ATカット水晶片は、平面形状が矩形状であり、前記ATカット水晶片の一辺が前記Z′軸に沿っていることを特徴とする請求項1又は2に記載のATカット水晶片。
【請求項4】
前記側面の双方が、前記第1〜第3の3つの面で構成されていることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のATカット水晶片。
【請求項5】
前記双方の側面は互いが当該ATカット水晶片の中心点を中心に点対称の関係にあることを特徴とする請求項に記載のATカット水晶片。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の水晶片と、該水晶片の表裏に設けた励振電極と、該励振電極から引き出された引出電極とを具えたことを特徴とする水晶振動子。
【請求項7】
請求項に記載の水晶振動子とこれを収納する容器とを具えたことを特徴とする水晶振動子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ATカット水晶片及びこれを用いた水晶振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
ATカット水晶振動子の小型化が進むに従い、機械式加工による製造方法では、水晶振動子用の水晶片の製造が困難になっている。そのため、フォトリソグラフィ技術及びウエットエッチング技術を用いて製造されるATカット水晶片が開発されている。
【0003】
例えば特許文献1、2各々には、上述の技術により製造されたATカット水晶片及び水晶振動子が開示されている。具体的には、特許文献1には、水晶のX軸と交差する側面(X面)が少なくとも4つの面で構成されたATカット水晶片と、それを用いた水晶振動子が開示されている。また、特許文献2には、水晶のZ′軸と交差する側面(Z′面)が少なくとも4つの面で構成されたATカット水晶片と、それを用いた水晶振動子が開示されている。
【0004】
いずれの場合も、水晶基板に外形形成用の耐エッチング性マスクが形成され、この水晶基板のマスクで覆われていない部分がウエットエッチングにより溶解されて、水晶片の大まかな外形が形成される。次に、この水晶基板からマスクが除去された後、その水晶基板に対し、該当する側面(上記のX面やZ′面)に少なくとも4つの面が形成されるように、ウエットエッチングが行われる。このように形成された水晶片によれば、振動漏れが少なく、特性が優れたATカット水晶振動子が実現されるという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−27505号公報
【特許文献2】特開2014−27506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この出願に係る発明者は、鋭意研究の結果、ATカット水晶振動子の特性改善を図る余地がまだあることを見出した。
この出願はこのような点に鑑みなされたものであり、この出願の目的は従来に比べ特性改善が可能な新規なATカット水晶片及び水晶振動子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的の達成を図るため、この発明のATカット水晶片は、水晶の結晶軸のZ′軸と交差する2つの側面(すなわちZ′面)の少なくとも一方を、第1〜第3の3つの面で構成したことを特徴とする。
この発明の実施に当たり、前述の第1の面は、当該ATカット水晶片の主面を、水晶のX軸を回転軸として4±3.5°回転させた面に相当する面とするのが好適である。なお、ここで、前述の主面とは、当該ATカット水晶片の、水晶の結晶軸で表わされるX−Z′面のことである(以下、同様)。
【0008】
さらにこの発明の実施に当たり、前述の第1の面、前述の第2の面および前述の第3の面はこの順で交わっていて、然も、前述の第1の面は、前述の主面を水晶のX軸を回転軸として4±3.5°回転させた面に相当する面であり、前述の前記第2の面は、前述の主面を水晶のX軸を回転軸として−57±5°回転させた面に相当する面であり、前述の第3の面は、前述の主面を水晶のX軸を回転軸として−42±5°回転させた面に相当する面であるのが好適である。ここで、−57や−42のマイナスとは、前述の主面を、X軸を回転軸として時計周りに回転させる意味である(以下、同様)。
【0009】
より好ましくは、前述の第1の面、前述の第2の面および前述の第3の面はこの順で交わっていて、然も、 前述の第1の面は、前述の主面を水晶のX軸を回転軸として4±3°回転させた面に相当する面であり、前述の前記第2の面は、前述の主面を水晶のX軸を回転軸として−57±3°回転させた面に相当する面であり、前述の第3の面は、前述の主面を水晶のX軸を回転軸として−42±3°回転させた面に相当する面であるのが好適である。
【0010】
さらにこの発明の実施に当たり、当該ATカット水晶片の、水晶の結晶軸のZ′軸と交差する2つの側面双方を、前述の第1〜第3の3つの面で構成するのが好適である。より好ましくは、これら2つの側面を、当該ATカット水晶片の中心点を中心に点対称の関係にするのが好適である(図1(B))。
【0011】
また、この発明の水晶振動子は、上述したこの発明に係るATカット水晶片と、この水晶片を励振するための励振電極とを具えることを特徴とする。より具体的には、この水晶片の表裏の主面(上記X−Z′面)各々に励振電極を具え、この励振電極から引き出された引出し電極を具えた水晶振動子である。もちろん、これら電極を具えた水晶振動子を収納する容器をさらに具えた形態の水晶振動子も、本発明でいう水晶振動子に含まれる。
【0012】
なお、この発明でいうATカット水晶片には、上述したこの発明に係る水晶片と、この水晶片と一体に形成されていてこの水晶片を貫通部を隔てて全部又は一部で囲う枠部と、同じく一体に形成されていてこれら水晶片と枠部とを連結する1又は2以上の連結部と、を具えた水晶片(以下、枠付き水晶片ともいう)も含まれる(図11)。また、この発明でいう水晶振動子には、上述の枠付き水晶片と、励振電極と、引出電極とを具えた水晶振動子や、さらにこの水晶振動子を収納する容器を具えた水晶振動子も含まれる。
【発明の効果】
【0013】
この発明のATカット水晶片によれば、そのZ′側面が所定の3つの面で構成されるため、この水晶片のZ′方向の端部に断面視で独特の嘴状の構造部を持つ水晶片を実現できる。そのため、ATカット本来の振動以外の不要な振動を上述の独特の構造部で減衰できるので、ATカット水晶振動子本来の振動を優位に生じさせることができる。従って、従来に比べて特性の改善されたATカット水晶振動子を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A)、(B)、(C)は、実施形態のATカット水晶片11の説明図である。
図2】(A)、(B)は、実施形態の水晶片11及びそれを用いた水晶振動子の一製法例を説明する図である。
図3】(A),(B)は、図2に続く製法例の説明図である。
図4】(A),(B)は、図3に続く製法例の説明図である。
図5】(A)、(B)、(C)は、図4に続く製法例の説明図である。
図6】は、図5に続く製法例の説明図である。
図7】(A)、(B)、(C)は、図6に続く製法例の説明図である。
図8】(A)、(B)、(C、(D)、(E)は、水晶片11を実装して製造した水晶振動子の一例の説明図である。
図9】は、本発明に係る実験結果の説明図である。
図10】は、本発明に係る実験結果の図10に続く説明図である。
図11】(A)、(B)は、本発明の水晶振動子の他の実施形態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照してこの発明のATカット水晶片及びこれを用いた水晶振動子の実施形態について説明する。なお、説明に用いる各図はこの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の説明中で述べる形状、寸法、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0016】
1.ATカット水晶片の構造
図1(A)〜(C)は、実施の形態のATカット水晶片11の説明図である。特に、図1(A)は水晶片11の平面図、図1(B)は図1(A)中のM−M線に沿った水晶片11の断面図、図1(C)は図1(B)中のN部分を拡大して示した断面図である。
【0017】
ここで、図1(A)、(C)中に示した座標軸X,Y′、Z′は、それぞれATカット水晶片での水晶の結晶軸を示す。なお、ATカット水晶片自体の詳細は、例えば、文献:「水晶デバイスの解説と応用」。日本水晶デバイス工業会2002年3月第4版第7頁等に記載されているので、ここではその説明を省略する。
【0018】
この発明に係るATカット水晶片11の特徴は、水晶のZ′軸に交差する側面(Z′面)の形状にある。すなわち、特に図1(B)及び(C)に示したように、このATカット水晶片11は、水晶のZ′軸に交差する2つの側面(Z′面)各々を、第1の面11a,第2の面11bおよび第3の面11cの、3つの面で構成してある。しかも、第1の面11aは、この水晶片11の主面11dと交わっている面であり、然も、主面11dを水晶のX軸を回転軸としてθ1回転させた面に相当する面である。
【0019】
さらに、この水晶片11では、第1の面11a、第2の面11bおよび第3の面11cがこの順で交わっている。しかも、第2の面11bは、主面11dを水晶のX軸を回転軸としてθ2回転させた面に相当する面であり、第3の面11cは、主面11dを水晶のX軸を回転軸としてθ3回転させた面に相当する面である。これらの角度θ1、θ2、θ3は、詳細は後述の「3.実験結果の説明」の項で説明するが、下記が好ましいことが分かっている。θ1=4°±3.5°、θ2=−57°±5°、θ3=−42°±5°、より好ましくは、θ1=4°±3°、θ2=−57°±3°、θ3=−42°±3°である。
【0020】
また、この実施の形態の水晶片11では、水晶のZ′軸に交差する2つの側面(Z′面)各々が、水晶片11の中心点O(図1(B)参照)を中心に、点対称の関係になっている。なお、ここでいう点対称とは、若干の形状差があったとしても実質的に同一とみなせる点対称の状態も含む。
また、この実施の形態の水晶片11の平面形状は、水晶のX軸に沿う方向を長辺とし、水晶のZ′軸に沿う方向を短辺とする矩形の形状としてある。
【0021】
2.ATカット水晶片11の製法例
次に、図2図8を参照して、実施形態のATカット水晶片11の製法例について説明する。この水晶片11は、フォトリソグラフィ技術およびウエットエッチング技術により水晶ウエハから多数製造できる。そのため、図2図8では、水晶ウエハ11wの平面図と、その一部分Pを拡大した平面図を示してある。さらに、図2図8中の一部の図面では、水晶ウエハ11wの一部分PのQ−Q線に沿う断面図や、R部分(図5(B)参照)の拡大図も併用している。
【0022】
この製法例では、先ず、水晶ウエハ11wを用意する(図2)。ATカット水晶片11の発振周波数は、周知の通り、水晶片11の主面(X−Z′面)の厚みでほぼ決まるが、水晶ウエハ11wは、最終的な水晶片11の厚さt(図5(B))より厚い、厚みTのウエハとする(図2(B))。
【0023】
次に、この水晶ウエハ11wの表裏両面に、水晶片の外形を形成するための耐エッチング性マスク13を周知のフォトリソグラフィ技術により形成する。この実施形態の場合の耐エッチング性マスク13は、水晶片の外形に対応する部分、各水晶片を保持するフレーム部分、および、水晶片とフレーム部分とを連結する部分(図2(A)中に11xで示した部分)で構成したものとしてある。また、耐エッチング性マスク13は、水晶ウエハの表裏で対向するように形成してある。
【0024】
耐エッチング性マスク13の形成が済んだ水晶ウエハ11wを、フッ酸を主とするエッチング液中に所定の時間浸漬する。この処理により、水晶ウエハ11wの耐エッチング性マスク13で覆われていない部分が溶解されて、水晶片11の大まかな外形が得られる(図3)。
【0025】
次に、水晶ウエハ11wから耐エッチングマスク13を除去する。この際、この製法例では、耐エッチング性マスク13の水晶片11に相当する部分のみを除去し、フレーム部や連結部に相当する部分は残している(図4)。フレーム部や連結部の強度を維持するためである。もちろん、設計によっては、フレーム部および連結部各々の全部又は一部上の耐エッチングマスクを除去しても良い。
【0026】
次に、この水晶ウエハ11wを、フッ酸を主とするエッチング液中に、再度、所定の時間浸漬する。ここで、所定の時間とは、水晶片11の形成予定領域の厚みt(図5(B))がこの水晶片11に要求される発振周波数の仕様を満たすことができ、かつ、この水晶片11のZ′側面が本発明でいう第1〜第3の面11a〜11cで構成できる時間である。これら時間は事前の実験によって決めることができる。発明者の実験によれば、水晶片11のZ′面は、エッチングが進むにしたがい、図9に示すように、突起が残る状態、第1〜第4の4つの面で構成される状態(第4面発生状態)、そして、本発明でいう第1〜第3の3つの面で構成される状態(本発明状態)に、この順に変化することが分かった。しかも、この発明でいう第1〜第3の3つの面で構成される側面を得るためには、所定エッチング液およびエッチング温度等の場合では、水晶ウエハ11wの初期厚みTに対し、55%〜25%の範囲の厚みまでエッチングする必要があることが分かった。従って、発振周波数の仕様および第1〜第3の3つの面が得られるように、初期厚みTや上記のエッチング時間等を決める。
【0027】
次に、上記のエッチングが終了した水晶ウエハから、耐エッチングマスクを除去して、水晶面を露出する(図6)。その後、この水晶ウエハ全面に、周知の成膜方法により、水晶振動子の励振電極および引出電極形成用の金属膜(図示せず)を形成する。次に、この金属膜を、周知のフォトリソグラフィ技術およびメタルエッチング技術により、電極形状にパターニングして、励振電極15aおよび引出電極15bを形成する(図7)。これにより、水晶片11、励振電極15aおよび引出電極15bを具える水晶振動子17を得ることができる(図7)。
【0028】
なお、一般には、水晶振動子17を好適な容器に実装した構造物を水晶振動子と称することが多い。その典型的な例を、図8を用いて以下に説明する。なお、図8は、水晶振動子17を容器21に実装する手順を平面図およびそのS−S線に沿う断面図によって示したものである。
【0029】
図7に示した状態では、水晶振動子17は、水晶ウエハ11wに連結部11xを介して結合している状態である。そこで、先ず、連結部11xに適当な外力を加えて、水晶振動子17を水晶ウエハ11wから分離し、個片化する(図8(A))。一方、容器として、例えば、周知のセラミックパッケージ21を用意する。この場合のセラミックパッケージ21は、水晶振動子17を収納する凹部21a(図8(B),(C))と、その凹部21aの底面に設けた水晶振動子固定用のバンプ21bと、パッケージ21の裏面に設けた実装端子21cとを具えている。バンプ21bと実装端子21cとはビヤ配線(図示せず)により電気的に接続してある。
【0030】
このパッケージ21の凹部21a内に、水晶振動子17を実装する。詳細には、バンプ21b上に導電性接着材23(図8(E))を塗布し、この接着材23により、バンプ21bに水晶振動子17を引出電極15bの箇所で固定する。その後、水晶片11の発振周波数調整を周知の方法により所定値に調整し、次に、パッケージ21の凹部21a内を適度な真空又は不活性ガス雰囲気等にした後、蓋25により凹部21aを周知の方法により封止する。このようにしてパッケージ21に水晶振動子が収納された構造の水晶振動子が得られる。
【0031】
3.実験結果の説明
次に、図9図10を参照して実験結果を説明する。図9は、水晶片のZ′面の形状の違いにより、その水晶片を用いて構成した水晶振動子17のインピダンスがどう相違するかを説明する図である。横軸に実験に用いた水晶片の試料番号と、各試料のZ′面の形状の特徴を示し、縦軸にインピダンスをとって示してある。なお、実験試料の発振周波数は38MHz付近である。周波数、インピダンスの詳細は表1に示してある。
【表1】
【0032】
図9から分かるように、水晶片のZ′面に突起が残る試料でのインピダンスは約150〜400Ω程度である。また、水晶片のZ′面が第1〜第4の4つの面で構成された試料のインピダンスは約200〜600Ω程度である。これらに対し、水晶片のZ′面が第1〜第3の3つの面で構成され、かつ、各面のATカット主面に対する角度θ1〜θ3(図1参照)が所定角度である本発明領域の試料のインピダンスは、約80Ω程度であり、前2者に比べて半分以下の値に低減することが理解できる。
【0033】
また、図10は、この発明に係る第1〜第3の面11a、11b、11cの説明図である。具体的には、この出願に係る発明者等の実験結果であって、水晶の種々の結晶面のフッ酸系エッチャントに対するエッチング速度の違いを示した図である。より詳細には、横軸にATカットの主面を基準にしこの面を水晶のX軸を回転軸として回転させた角度を取り、縦軸に上記のようにATカット板を回転させて得られる各水晶面のエッチング速度をとって示したものである。なお、各面のエッチング速度は、ATカット面のエッチング速度を基準にした相対値で示してある。
【0034】
この図10から理解できるように、水晶では、ATカットの主面をθ1回転させた面に相当する面、ATカットの主面をθ2回転させた面に相当する面、ATカットの主面をθ3回転させた面に相当する面各々でのエッチング速度が、極大となることが分かる。そして、θ1は4°付近、θ2は−57°付近、θ3は−42°付近であり、然も、発明者の実験によれば、図9を用いて説明したインピダンスが良好になる領域は、θ1=4°±3.5°、θ2=−57°±5°、θ3=−42°±5°、より好ましくは、θ1=4°±3°、θ2=−57°±3°、θ3=−42°±3°であることが分かった。これらθ1〜θ3で規定される各々の面は、この発明に係る第1〜第3の面に相当する。
【0035】
4.他の実施形態
上述においては、この発明のATカット水晶片およびこれを用いた水晶振動子の実施形態を説明したが、この発明は上述の実施形態に限られない。例えば、上述の例では、Z′方向の両端の側面がこの発明にかかる第1〜第3の面の3つの面で構成された例を説明したが、場合によっては、片側側面のみが第1〜第3の面の3つの面で構成される場合があっても良い。ただし、両側面が第1〜第3の面の3つの面で構成された方が、水晶振動子の特性は優れる。また、上述の例では38MHz付近の周波数の水晶振動子の例で説明したが、他の周波数の水晶振動子にも本発明は適用できる。
【0036】
また、上述の製法例では、耐エッチング性マスク13(図2参照)の、水晶片の外形に対応する部分は、水晶ウエハの表裏で対向するように形成していた。しかし、耐エッチング性マスクの、水晶片の外形に対応する部分は、水晶ウエハの表裏でZ′方向沿ってΔZだけズラシしても良い。ズラシ方向は、水晶片の+Y′面側に設ける耐エッチング性マスクを−Y′面側に設ける同マスクに対して+Z′方向に、ΔZずれるように、表裏のマスクを相対的にずらす。このようにマスクズラシをした場合、そうしない場合に比べ、短いエッチング時間で、水晶片のZ′面を第1〜第3の3つの面で構成される形状にすることができる。また、第1の面11aのZ′方向の長さD(図5(C)参照)を、このズラシ量により制御できる利点もある。
【0037】
また、この発明でいうATカット水晶片及び水晶振動子は、図11に示した構造のものであっても良い。先ず、図11(A)に示したように、この発明に係る水晶片11と、この水晶片と一体に形成されていてこの水晶片11を貫通部11yを隔てて全部で囲う枠部11yと、同じく一体に形成されていてこれら水晶片と枠部とを連結する1つの連結部11xと、を具えた水晶片及び水晶振動子である。また、図11(B)に示したように、この発明に係る水晶片11と、この水晶片と一体に形成されていてこの水晶片11を貫通部11yを隔てて一部で囲う枠部11yと、同じく一体に形成されていてこれら水晶片と枠部とを連結する1つの連結部11xと、を具えた水晶片及び水晶振動である。なお、連結部が2つ以上あっても良い。ただし、連結部が1つの方が、水晶片11から枠部への振動漏れや、枠部から水晶片への応力の影響を軽減し易い。また、連結部11xを設ける位置は図11の例に限られず、設計に応じて変更できる。
【0038】
また、上述の例では水晶のX軸に沿う辺を長辺とし、Z′に沿う辺を短辺とする水晶片の例を示したが、水晶のX軸に沿う辺を短辺とし、Z′に沿う辺を長辺とする水晶片にも本発明は適用できる。また、上述の例では平面形状が矩形の水晶片の例を説明したが、角部がR加工やC加工されたような水晶片に対しても本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0039】
11:実施形態の水晶片
11a;第1の面
11b:第2の面
11c:第3の面
11d:ATカット水晶片の主面(X−Z′面)
11w:水晶ウエハ
11x:連結部
11y:貫通部
11z:枠部
θ1〜θ3:ATカットの主面を水晶のX軸を回転軸として回転させる角度
13:耐エッチング性マスク
15:電極
15a:励振電極
15b:引出電極
17:水晶振動子
21:容器(例えばセラミックパッケージ)
21a:凹部
21b:バンプ
21c:実装端子
23:導電性接着材
25:蓋
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11