(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動源を備えた車体と、前記車体に設けられ前記駆動源に接続されることにより左,右方向の両側の車輪を回転駆動するアクスル装置と、前記車体に設けられた作業装置とからなり、
前記アクスル装置は、
左,右方向の中間部に配置され内部がデファレンシャル機構収容室となったデファレンシャルケースと、
前記デファレンシャルケースの左,右両側に配置されると共に、前記デファレンシャルケースの前記デファレンシャル機構収容室との間が隔壁によって画成され内部がブレーキ機構収容室となった左,右のブレーキケースと、
前記デファレンシャルケースの前記デファレンシャル機構収容室に設けられ前記駆動源の駆動力を左,右方向に配置された回転軸に分配するデファレンシャル機構と、
前記デファレンシャル機構の前記左,右の回転軸の回転を前記左,右の車輪に伝える左,右のアクスルシャフトと、
前記左,右のブレーキケースの前記ブレーキ機構収容室にそれぞれ設けられ前記デファレンシャル機構の前記回転軸の回転に制動を与える左,右のブレーキ機構とを備え、
前記ブレーキ機構は、前記回転軸に取付けられて前記回転軸と一緒に回転する複数枚の回転ディスクと、前記回転ディスクを左,右方向から対面して挟むように前記ブレーキケースに非回転状態で取付けられた複数枚の非回転ディスクと、前記非回転ディスクと対面して前記ブレーキケースに設けられ前記非回転ディスクを前記回転ディスクに押付けて制動力を発生させる円環状のピストンとにより構成してなるホイール式建設機械において、
前記ブレーキ機構は、前記ブレーキケースの前記隔壁と対面して前記ピストンの内径側から径方向の内向きに突出して設けられた突出部位と、前記突出部位に対して左,右方向に所定寸法移動可能に前記突出部位と係合した状態で前記ピストンの内径側に配置された係合部材と、前記係合部材を前記ブレーキケースの前記隔壁に対して左,右方向に移動可能に支持するために前記隔壁と前記係合部材との間に設けられたピン部材とを含んで構成し、
前記ピン部材と前記ブレーキケースの前記隔壁との間の摩擦抵抗と前記ピン部材と前記係合部材との間の摩擦抵抗のうち、少なくともいずれか一方の摩擦抵抗は、制動時の前記ピストンの前記押付け力よりも小さな値に設定し、
前記ブレーキ機構の突出部位には、前記ピン部材が左,右方向に貫通するピン挿嵌部を設け、
前記係合部材は、前記突出部位と左,右方向で移動可能に係合することを特徴とするホイール式建設機械。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係るホイール式建設機械の代表例として、ホイールローダを例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0013】
図1ないし
図12は本発明の第1の実施の形態を示している。この第1の実施の形態では、ブレーキ機構の突出部位には、ピン部材が左,右方向に貫通する切欠状のピン挿嵌溝を設け、係合部材には、突出部位と左,右方向で移動可能に係合する全周係合溝を備えた場合を例に挙げて述べる。
【0014】
図1において、第1の実施の形態によるホイールローダ1は、ホイール式建設機械を構成するものである。このホイールローダ1は、後部車体2と、この後部車体2の前側に左,右方向に揺動可能に連結された前部車体3と、後部車体2の左,右方向の両側に設けられた後輪4(左側のみ図示)と、前部車体3の左,右方向の両側に設けられた前輪5(左側のみ図示)と、前部車体3の前側に府仰動可能に設けられた作業装置6と、後述のアクスル装置11,12とを含んで構成されている。
【0015】
ここで、後部車体2には、駆動源となるエンジン7、トルクコンバータ8、トランスミッション9、油圧ポンプ(図示せず)等が搭載されている。トランスミッション9は、前,後方向に延びたプロペラシャフト9Aを介してリヤアクスル装置11に接続され、プロペラシャフト9Bを介してフロントアクスル装置12に接続されている。後部車体2の上側には、オペレータが搭乗するキャブ10が設けられている。
【0016】
リヤアクスル装置11は、後部車体2の下側に位置して設けられている。このリヤアクスル装置11は、左,右方向に延びて形成され、その左,右の端部に後輪4がそれぞれ取付けられている。
【0017】
一方、フロントアクスル装置12は、前部車体3の下側に位置して設けられている。このフロントアクスル装置12は、リヤアクスル装置11と同様に左,右方向に延びて形成され、その左,右の端部に前輪5がそれぞれ取付けられている。
【0018】
ここで、リヤアクスル装置11とフロントアクスル装置12とは、ほぼ同様に構成されている。このため、本実施の形態では、フロントアクスル装置12の構成について詳細に説明し、リヤアクスル装置11の構成の説明は省略するものとする。
【0019】
フロントアクスル装置12は、プロペラシャフト9Bに接続されることにより左,右の前輪5を回転駆動するものである。フロントアクスル装置12は、
図2、
図3に示すように、後述のデファレンシャルケース14、ブレーキケース15、デファレンシャル機構20、遊星歯車減速機構27、ブレーキ機構33、突出部位40、係合部材41、ピン部材42を含んで構成されている。
【0020】
ケーシング13は、フロントアクスル装置12の外形を構成している。このケーシング13は、左,右方向の中央に位置する中央筒部13Aと、この中央筒部13Aの左,右両側にそれぞれ取付けられた側方筒部13Bとにより密閉容器として形成され、その内部には、潤滑油が充填されている。ケーシング13は、左,右方向で異なる部材を収容しており、それぞれの機能毎に後述のデファレンシャルケース14、左,右のブレーキケース15および左,右のアクスルチューブ16に区分されている。
【0021】
デファレンシャルケース14(以下、デフケース14という)は、ケーシング13の左,右方向の中央部に配置されている。このデフケース14は、後述するブレーキケース15の隔壁15A間の範囲となり、内部はデファレンシャル機構20を収容するデファレンシャル機構収容室14Aとなっている。デファレンシャル機構収容室14Aの左,右両側は、ブレーキケース15の隔壁15Aによって仕切られている。デフケース14の後側には、トランスミッション9側に突出するように突出筒14Bが設けられ、該突出筒14B内には、後述の入力軸17が回転自在に配置されている。
【0022】
ブレーキケース15は、デフケース14の左,右両側に配置されている。左,右のブレーキケース15は、デフケース14内のデファレンシャル機構収容室14Aとの間が隔壁15Aによって画成されている。この隔壁15Aは、デフケース14の内周面から縮径した円環状の板状体として形成され、その中心部には後述の回転軸25が挿通されている。これにより、ブレーキケース15の内部は、各隔壁15Aに仕切られてブレーキ機構収容室15Bとなっている。
【0023】
ここで、ブレーキケース15の各隔壁15Aには、外周側に位置して前記ブレーキ機構収容室15B側(左,右方向の外側)に開口するように段付円環状のピストン挿着部15Cが設けられている。また、各隔壁15Aには、ピストン挿着部15Cよりも内径側に位置して円環状の取付面15Dが設けられ、この取付面15Dには、周方向の複数個所、例えば、本実施の形態では6箇所に位置してピン挿嵌穴15E(2箇所のみ図示)が設けられている。
【0024】
各ピン挿嵌穴15Eは、後述するピン部材42が軸方向となる左,右方向に移動可能に挿嵌されるもので、挿嵌されたピン部材42との間で後述する所定の摩擦抵抗を発生するように内径寸法(直径寸法)が設定されている。
【0025】
さらに、各ブレーキケース15の左,右方向の外側は、側方筒部13Bを用いたアクスルチューブ16となっている。このアクスルチューブ16は、縮径しつつ左,右方向に延びる円筒状体として形成されている。左,右のアクスルチューブ16内には、それぞれ後述のアクスルシャフト32が回転可能に設けられている。
【0026】
入力軸17は、デフケース14の突出筒14B内に2個の軸受18を介して回転可能に設けられている(
図3参照)。この入力軸17は、外部に突出したフランジ部17Aがプロペラシャフト9Bに接続されている。また、入力軸17の内部側には、ベベルギヤからなるピニオンギヤ19が設けられている。
【0027】
デファレンシャル機構20は、デフケース14のデファレンシャル機構収容室14Aに設けられている。このデファレンシャル機構20は、駆動源となるエンジン7の駆動力を左,右方向に配置された回転軸25、アクスルシャフト32を介して左,右の前輪5に分配するものである。そして、デファレンシャル機構20は、左,右のブレーキケース15の各隔壁15Aに軸受18を介して左,右方向を軸線として回転可能に支持されたギヤケース21と、該ギヤケース21内に固定されたスパイダ22に回転可能に設けられた複数のデフ用ピニオンギヤ23と、該各デフ用ピニオンギヤ23と噛合う2個のサイドギヤ24と、基端側が該サイドギヤ24とスプライン結合され、先端側がアクスルシャフト32に向けて左,右の方向に延びた2本の回転軸25とにより構成されている。
【0028】
ギヤケース21の外周側には、入力軸17のピニオンギヤ19に噛合うデフ用リングギヤ26が設けられている。このデフ用リングギヤ26はベベルギヤにより形成され、ギヤケース21、デフ用ピニオンギヤ23、サイドギヤ24、回転軸25等と共に、デファレンシャル機構20を構成している。
【0029】
デファレンシャル機構20は、トランスミッション9による回転力が入力軸17、ピニオンギヤ19、デフ用リングギヤ26を介してギヤケース21に伝わると、デフ用ピニオンギヤ23、サイドギヤ24を介して左,右の回転軸25を適宣に回転運動させるものである。
【0030】
遊星歯車減速機構27は、後述のブレーキ機構33と一緒に左,右のブレーキケース15のブレーキ機構収容室15Bにそれぞれ設けられている。左,右の遊星歯車減速機構27は、回転軸25の回転を減速してアクスルシャフト32に伝達するものである。また、各遊星歯車減速機構27は、回転軸25の先端側に一体形成されたサンギヤ28と、アクスルチューブ16の内周側に固着して設けられたリングギヤ29と、サンギヤ28とリングギヤ29とに噛合する複数のプラネットギヤ30と、該各プラネットギヤ30を回転可能に支持するキャリア31とを含んで構成されている。
【0031】
アクスルシャフト32は、左,右のアクスルチューブ16内をそれぞれ長さ方向(軸方向)に延びて配置されている。各アクスルシャフト32は、左,右の回転軸25の回転を左,右の前輪5に伝えるものである。各アクスルシャフト32は、基端側が遊星歯車減速機構27のキャリア31にスプライン結合され、各アクスルチューブ16内を左,右方向に延びている。一方、各アクスルシャフト32の先端側は、アクスルチューブ16から突出し、その端部には左,右の前輪5がそれぞれ取付けられている。
【0032】
次に、本発明の特徴部分である左,右のブレーキ機構33の構成について詳しく説明する。
【0033】
左,右のブレーキ機構33は、左,右のブレーキケース15のブレーキ機構収容室15Bにそれぞれ設けられている。各ブレーキ機構33は、デファレンシャル機構20の回転軸25の回転に制動を与えるもので、例えば湿式多板型のブレーキ機構として構成されている。
【0034】
ブレーキ機構33は、
図4に示すように、回転軸25の外周側にスプライン結合された円筒状のハブ34と、回転軸25の外周側にハブ34を介して取付けられ該ハブ34とスプライン結合することにより回転軸25と一緒に回転する複数枚、例えば2枚の回転ディスク35と、該各回転ディスク35を左,右方向から対面して挟むようにブレーキケース15(ケーシング13の中央筒部13A)に回転不能に(非回転状態で)取付けられた複数枚、例えば3枚の非回転ディスク36と、外部からの油圧力によって非回転ディスク36を回転ディスク35に押付けるピストン37と、各非回転ディスク36間に位置して各非回転ディスク36の径方向外側に配置され、各非回転ディスク36に対し互いに離間する方向の弾性力(付勢力)を付与する弾性部材38とを含んで構成されている。
【0035】
各ブレーキ機構33は、例えばブレーキペダル(図示せず)を足踏み操作し、後述の油室37Dに供給された圧油によってピストン37を軸方向に移動させ、非回転ディスク36を回転ディスク35に押付ける。これにより、摩擦力で制動力を発生し、前輪5にブレーキをかけるものである。
【0036】
ここで、回転ディスク35は、円環状の板体により形成され、非回転ディスク36と軸方向に交互に隣合う状態で、回転軸25の外周側に配置されている。回転ディスク35の内周側は、雌スプライン35Aとなって回転軸25に取付けられたハブ34の雄スプライン34Aとスプライン結合している。これにより、回転ディスク35は、ハブ34に対して軸方向に移動可能な状態で、回転軸25と一緒に回転することができる。
図6に示すように、回転ディスク35の左,右方向の両面には、径方向の外側寄りに位置して摩擦材35Bがそれぞれ設けられている。
【0037】
非回転ディスク36は、全体として円環状の板体により形成され、2枚の回転ディスク35をそれぞれ左,右方向から対面して挟むように3枚設けられている。非回転ディスク36は、その外周縁がブレーキケース15の内周面側に左,右方向に移動可能に、かつ、ブレーキケース15に対して非回転状態で取付けられている。
【0038】
ピストン37は、その外周面37Aが段付き円筒面となり、内周面37Bがほぼ直線状の円筒面として形成されている。ピストン37は、ブレーキケース15のブレーキ機構収容室15Bに設けられたピストン挿着部15Cに、左,右方向に移動可能に挿着されている。ピストン37は、非回転ディスク36を回転ディスク35に押付けて摩擦接触させることにより、回転軸25に制動力を付与するものである。
【0039】
ここで、ピストン37の外周面37Aには、軸方向に離間して2本のシール部材37Cが全周に亘って設けられている。ピストン37の外周面37Aとピストン挿着部15Cとの間には、各シール部材37Cによって円環状の油室37D(
図8等参照)が形成されている。さらに、ピストン37の内周面37Bには、後述の突出部位40が周方向に間隔をもって複数個設けられている。
【0040】
弾性部材38は、回転ディスク35よりも外径側に位置して、隣合う各非回転ディスク36の間に設けられている。弾性部材38は、例えば皿ばね、波ワッシャ等からなり、隣合う非回転ディスク36に対し互いに離間する方向の弾性力を付与している。これにより、
図6、
図10に示すように、非制動時は、弾性部材38の弾性力により、各非回転ディスク36間にそれぞれ隙間が形成されると共に、ピストン37が後述する規定の寸法Gだけ押し戻される。
【0041】
エンドプレート39は、各ディスク35,36を挟んでピストン37の反対側に設けられている。このエンドプレート39は、円環状の強度部材として形成され、リングギヤ29の端面に当接している。これにより、エンドプレート39は、ピストン37との間で回転ディスク35と非回転ディスク36とを挟持し、このときのピストン37の押圧力を受止めることができる。
【0042】
次に、各ディスク35,36を押圧したピストン37の押圧力を解除したときに、このピストン37を規定の寸法だけ戻すための構成について述べる。このピストン37を規定寸法戻すための構成は、前述した弾性部材38、後述の突出部位40、係合部材41、ピン部材42を含んでいる。
【0043】
突出部位40は、ブレーキケース15の隔壁15Aと対面するように、ピストン37の内径側となる内周面37Bから径方向の内向きに突出して設けられている。突出部位40は、例えばピストン37の周方向に等しい間隔をもって複数個、例えば6個設けられている(
図5参照)。
【0044】
各突出部位40は、径方向の内側に向けて延び、その先端側が角状に二股に分かれて形成されている。これにより、各突出部位40には、径方向の内側が開口端となるように切欠状(U字状)のピン挿嵌溝40Aが形成されている。ピン挿嵌溝40Aは、後述のピン部材42を通すもので、ピン部材42を左,右方向に貫通する本発明によるピン挿嵌部を構成している。このピン挿嵌溝40Aは、ピン部材42、具体的には、ピン部材42が挿嵌された係合部材41の中央部位41Cが左,右方向に貫通するものである。角状のピン挿嵌溝40Aには、係合部材41を内径側から簡単に係合させることができる。
【0045】
係合部材41は、各突出部位40に対応するようにピストン37の内径側に配置されている。各係合部材41は、左,右方向に所定寸法だけ移動可能となるように、突出部位40と係合するものである。係合部材41は、ブレーキケース15の隔壁15A側に配置される円板状の側板部位41Aと、該側板部位41Aと間隔をもって対面する円板状の側板部位41Bと、前記側板部位41A,41B間に位置して前記側板部位41A,41Bよりも小径な円柱状の中央部位41Cと、前記側板部位41A,41Bおよび中央部位41Cの中心部を軸方向に貫通したピン挿嵌孔41Dとによりボビン状に形成されている。ボビン状の係合部材41には、外径側に開口する凹溝状の全周係合溝41Eが形成されている。
【0046】
係合部材41の全周係合溝41Eは、側板部位41A側の側壁面41E1と、側板部位41B側の側壁面41E2と、中央部位41Cの外周面となる底面41E3とにより構成されている。
図6に示すように、全周係合溝41Eの溝幅寸法、即ち、側壁面41E1,41E2間の寸法は、突出部位40の板厚寸法よりも寸法Gだけ大きな値に設定されている。これにより、突出部位40(ピストン37)は、係合部材41に対して寸法Gだけ移動することができる。この場合、寸法Gは、制動を解除してピストン37がブレーキケース15の隔壁15A側に戻るのを許可するための隙間であり、各ディスク35,36間の接触を防止しつつ、次回の制動時には瞬時にピストン37によって各ディスク35,36を押圧できる適正な寸法に設定されている。
【0047】
ピン部材42は、係合部材41をブレーキケース15の隔壁15Aに対して左,右方向に移動可能に支持するものである。ピン部材42は、ブレーキケース15の隔壁15Aと係合部材41との間に左,右方向に延びて設けられている。ピン部材42は、径方向に弾性力をもったスプリングピンからなり、隔壁15Aのピン挿嵌穴15Eと係合部材41のピン挿嵌孔41Dに対して弾性変形した状態で挿嵌されている。即ち、ピン部材42と隔壁15Aのピン挿嵌穴15Eとの間、ピン部材42と係合部材41のピン挿嵌孔41Dとの間には、それぞれ摩擦抵抗が付与されている。
【0048】
ここで、非制動時にピストン37を適正な位置まで戻すために、各部に設定された弾性力(押付け力)と摩擦力(摩擦抵抗)の大きさの関係について述べる。
【0049】
まず、油室37Dに供給された油圧によるピストン37の押付け力(押圧力)が最も大きな値に設定されている。制動時のピストン37の押付け力に次いで、ピン部材42とブレーキケース15の隔壁15A(ピン挿嵌穴15E)との間の摩擦抵抗とピン部材42と係合部材41のピン挿嵌孔41Dとの間の摩擦抵抗のうち、少なくともいずれか一方の摩擦抵抗が大きな値に設定されている。本実施の形態では、ピン部材42とブレーキケース15のピン挿嵌穴15Eとの間の摩擦抵抗が、制動時のピストン37の押付け力よりも小さな値に設定されている。
【0050】
なお、ピン部材42と係合部材41のピン挿嵌孔41Dとの間の摩擦抵抗を、制動時のピストン37の押付け力よりも小さな値に設定することもできる。さらに、両方の摩擦抵抗を制動時のピストン37の押付け力よりも小さな値に設定することもできる。
【0051】
さらに、ピン部材42とブレーキケース15のピン挿嵌穴15Eとの間の摩擦抵抗およびピン部材42と係合部材41のピン挿嵌孔41Dとの間の摩擦抵抗は、弾性部材38の弾性力(押付け力)よりも大きな値に設定されている。また、弾性部材38による弾性力は、非制動時のピストン37を移動させるときの摩擦抵抗、即ち、ブレーキケース15のピストン挿着部15Cとピストン37の各シール部材37Cとの間の摩擦抵抗よりも大きな値に設定されている。
【0052】
ここで、ブレーキケース15の隔壁15Aに対して係合部材41とピン部材42を組付けるときの作業の一例について述べる。まず、ブレーキケース15のピストン挿着部15Cにピストン37を挿着する。この状態で、突出部位40のピン挿嵌溝40Aに係合部材41の全周係合溝41Eを係合させるように、突出部位40に対して内径側から係合部材41を取付ける。突出部位40に係合部材41を取付けたら、係合部材41のピン挿嵌孔41Dとブレーキケース15のピン挿嵌穴15Eに亘ってピン部材42を挿嵌(圧入)する。このように、係合部材41、ピン部材42は、特殊な工具等を用いることなく、簡単な作業で組付けることができる。
【0053】
次に、前述した各部の押付け力、摩擦力等の力関係に基づくブレーキ機構33による制動時の動作について、
図6ないし
図12を用いて説明する。
【0054】
ブレーキ機構33を組立てた直後の状態(ブレーキペダルが1回も踏まれていない状態)について、その一例を述べる。例えば、
図6に示すように、係合部材41の側板部位41Aがブレーキケース15の取付面15D(隔壁15A)に近接し、ピストン37に設けられた突出部位40が全周係合溝41Eの側壁面41E1に近接している。また、各非回転ディスク36間は、弾性部材38によって確保される隙間以上に離間している。
【0055】
オペレータによってブレーキペダルが踏まれると、
図8に示すように、油室37Dに圧油が供給されてピストン37が矢示A方向に移動される。このときには、油圧によるピストン37の押付け力(押圧力)は、ピストン37の各シール部材37Cとの間の摩擦抵抗よりも大幅に大きな値に設定されているから、ピストン37を円滑に移動させることができる。
【0056】
続いて、ブレーキペダルをさらに踏み込むと、
図9に示すように、ピストン37が非回転ディスク36に当接し、各ディスク35,36を押付ける。従って、各回転ディスク35の摩擦材35Bと各非回転ディスク36との間で摩擦力が高まるから、この摩擦抵抗によって回転軸25に対する制動力を発生することができる。この場合、油圧によるピストン37の押付け力(押圧力)は、各弾性部材38の弾性力よる反対向きの押圧力よりも大きな値に設定されているから、ピストン37は、各弾性部材38に抗して各ディスク35,36を強く押付けることができる。
【0057】
しかも、ブレーキペダルを大きく踏み込んだ場合には、ピストン37に設けた各突出部位40が係合部材41の全周係合溝41Eの側壁面41E2(側板部位41B)に当接し、この係合部材41を矢示A方向に押圧する。このときに、ピン部材42とブレーキケース15の隔壁15A(ピン挿嵌穴15E)との間の摩擦抵抗は、制動時のピストン37の押付け力よりも小さな値に設定している。従って、係合部材41とピン部材42は、ピストン37の移動限界位置(制動位置)まで矢示A方向に一緒に移動する。
【0058】
次に、ブレーキペダルから足を離してブレーキ機構33による制動を解除した場合、弾性部材38による弾性力は、非制動時のピストン37を移動させるときの摩擦抵抗、即ち、ブレーキケース15のピストン挿着部15Cとピストン37の各シール部材37Cとの間の摩擦抵抗よりも大きな値に設定されている。これにより、
図10に示すように、ピストン37は、弾性部材38による弾性力によって矢示B方向に移動する。
【0059】
そして、各弾性部材38によって非回転ディスク36間が適正な間隔となるまでピストン37が移動したときに、ピストン37に設けられた突出部位40が係合部材41の全周係合溝41Eの側壁面41E1(側板部位41A)に当接する。この場合、ピン部材42とブレーキケース15の隔壁15A(ピン挿嵌穴15E)との間の摩擦抵抗は、弾性部材38の弾性力よりも大きな値に設定している。従って、ピストン37の移動は、突出部位40が係合部材41の側板部位41Aに当接した位置、即ち、矢示B方向に寸法Gだけ戻された位置で停止される。これにより、ピストン37は、制動の解除時に毎回寸法Gだけ戻されることになるから、各ディスク35,36間の接触を防止しつつ、次回の制動時には瞬時に適正なブレーキ操作ができる位置に配置することができる。
【0060】
次に、各回転ディスク35の摩擦材35Bが摩耗した場合のピストン37の動作について説明する。
【0061】
この場合には、前述した各回転ディスク35が通常状態のときと同様に、
図11に示すように、ピストン37は、各非回転ディスク36を各回転ディスク35に押付けて回転軸25に対する制動力を発生することができる。この際、各回転ディスク35の摩擦材35Bが摩耗した分だけピストン37の移動量が大きくなり、これに伴って、係合部材41とピン部材42は、ピストン37と一緒に矢示A方向にさらに移動する。
【0062】
一方、ブレーキ機構33による制動を解除した場合には、
図12に示すように、ピストン37は、弾性部材38による弾性力によって矢示B方向に移動し、突出部位40が係合部材41の側板部位41Aに当接する寸法Gだけ戻されて停止される。このように、各回転ディスク35の摩擦材35Bが摩耗した場合でも、制動が解除されたときには、ピストン37を毎回寸法Gだけ戻すことができる。
【0063】
本実施の形態によるホイールローダ1は上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
【0064】
まず、キャブ10に搭乗したオペレータは、周囲のレバー、ペダル類(いずれも図示せず)を操作して走行用のトランスミッション9を作動させる。このときにトランスミッション9の出力軸の回転力がプロペラシャフト9Bからフロントアクスル装置12の入力軸17、デファレンシャル機構20、遊星歯車減速機構27を介して左,右のアクスルシャフト32に伝達される。これにより、各アクスルシャフト32に接続された左,右の前輪5を回転駆動することができる。同様に、トランスミッション9の出力軸の回転を、プロペラシャフト9Aからリヤアクスル装置11に伝えることにより、左,右の後輪4を回転駆動することができる。
【0065】
このように、前,後の車輪5,4を回転駆動することにより、作業現場に向けてホイールローダ1を走行させることができる。この走行時に左,右いずれかの方向に曲がった場合には、デファレンシャル機構20の各デフ用ピニオンギヤ23が自転しつつ各サイドギヤ24に回転力を伝達する。これにより、例えば左方向に曲がるときには、内輪側となる左側の車輪5,4の回転数を、外輪側となる右側の車輪5,4の回転数よりも低下させることができ、内側と外側の車輪5,4間の回転数差によってスムーズに曲がることができる。
【0066】
また、走行時には、ブレーキペダル(図示せず)を操作することにより、ブレーキ機構33によって回転軸25に制動力を発生させ、減速または停車することができる。このブレーキ機構33は、制動を解除したときに寸法Gだけ矢示B方向に戻すことができ、各ディスク35,36間の接触を防止しつつ、次回の制動時には瞬時に適正なブレーキ操作ができる位置に配置することができる。
【0067】
かくして、本実施の形態によれば、デファレンシャル機構20の各回転軸25の回転に制動を与える左,右のブレーキ機構33は、ブレーキケース15の隔壁15Aと対面してピストン37の内径側から径方向の内向きに突出して設けられた突出部位40と、前記突出部位40に対して左,右方向に所定寸法移動可能に前記突出部位40と係合した状態で前記ピストン37の内径側に配置された係合部材41と、前記係合部材41を前記ブレーキケース15の前記隔壁15Aに対して左,右方向に移動可能に支持するために前記隔壁15Aと前記係合部材41との間に設けられたピン部材42とを含んで構成している。
【0068】
従って、ブレーキ機構33は、少ない種類の部品によって形成することができる。また、係合部材41は、その全周係合溝41Eをピストン37の各突出部位40に係合させ、ピン部材42を用いてブレーキケース15の隔壁15A(ピン挿嵌穴15E)に挿嵌するだけで、特殊な組付け工具等を用いることなく、容易に組付けることができる。
【0069】
この結果、部品の種類および部品点数を削減することができる上に、係合部材41、ピン部材42等の形状を簡略化することができる。これにより、ブレーキ機構33の組立作業性を向上することができる。
【0070】
ピン部材42とブレーキケース15の隔壁15A(ピン挿嵌穴15E)との間の摩擦抵抗と、ピン部材42と係合部材41との間の摩擦抵抗のうち、ピン部材42とブレーキケース15の隔壁15A(ピン挿嵌穴15E)との間の摩擦抵抗は、制動時のピストン37の押付け力よりも小さな値に設定している。従って、回転軸25の回転に制動を与えるべく、ピストン37を矢示A方向に移動させて各ディスク35,36に押付けたときには、このピストン37と一緒に係合部材41とピン部材42を移動させることができる。
【0071】
各非回転ディスク36の間には、各非回転ディスク36が互いに離間する方向に弾性力を付与する弾性部材38を設けている。この上で、ピン部材42とブレーキケース15の隔壁15Aとの間の摩擦抵抗およびピン部材42と係合部材41との間の摩擦抵抗は、前記弾性部材38の弾性力よりも大きな値に設定している。従って、弾性部材38によってピストン37が矢示B方向に移動されたときの距離は、突出部位40が係合部材41の側板部位41Aに当接した位置、即ち、矢示B方向に寸法Gだけ戻された位置とすることができる。これにより、ピストン37は、制動の解除時に毎回寸法Gだけ戻されることになるから、各ディスク35,36間の接触を防止しつつ、次回の制動時には瞬時に適正なブレーキ操作ができる位置に配置することができ、ブレーキ機構33に対する信頼性を高めることができる。
【0072】
また、各弾性部材38は、各非回転ディスク36が互いに離間する方向に弾性力を付与しているから、回転ディスク35と非回転ディスク36を十分に離間させることができ、これらの摺接(引き摺り)によるロストルクや発熱を低減することができる。
【0073】
ブレーキ機構33を構成するピストン37の突出部位40には、ピン部材42が左,右方向に貫通するピン挿嵌部としての切欠状のピン挿嵌溝40Aを設けている。また、係合部材41には、前記突出部位40と左,右方向で移動可能に係合する全周係合溝41Eを備えている。従って、突出部位40のピン挿嵌溝40Aに係合部材41の全周係合溝41Eを係合させるように、突出部位40に対して内径側から係合部材41を取付ける。この状態で、係合部材41のピン挿嵌孔41Dとブレーキケース15のピン挿嵌穴15Eに亘ってピン部材42を挿嵌(圧入)する。これにより、係合部材41、ピン部材42は、特殊な工具等を用いることなく、簡単な作業で組付けることができる。
【0074】
さらに、非制動時にピストン37が戻される寸法は、突出部位40を係合部材41の全周係合溝41Eの側壁面41E1に当接させることにより一定に保つことができる。従って、突出部位40と全周係合溝41Eの側壁面41E1とは、広い面積をもって当接(面当り)させることができるから、衝突時の接触応力を分散させることができ、この当接部分の摩耗、変形等を防止することができる。これにより、ピストン37が戻される寸法を長期に亘って一定に保つことができる上に、耐久性を向上することができる。
【0075】
次に、
図13および
図14は本発明の第2の実施の形態を示している。第2の実施の形態の特徴は、ブレーキ機構の突出部位には、ピン挿嵌部としてのピン部材が左,右方向に貫通する貫通孔を設け、係合部材は、前記突出部位を左,右方向で移動可能に挟む一対の分割係合体により構成したことにある。なお、第2の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0076】
図13において、突出部位51は、ブレーキケース15の隔壁15Aと対面するように、ピストン37の内径側となる内周面37Bから径方向の内向きに突出して設けられている。突出部位51は、例えばピストン37の周方向に等しい間隔をもって複数個、例えば6個設けられている。
【0077】
各突出部位51は、
図14に示すように、径方向の内側に向けて延び、その先端側が半円形状に突出している。これにより、各突出部位51には、ピン部材42を通すために左,右方向に貫通する貫通孔51Aが形成されている。貫通孔51Aは、本発明によるピン挿嵌部を構成している。この貫通孔51Aは、ピン部材42が挿嵌された各分割係合体53,54の小径部53B,54Bが左,右方向に貫通するものである。円形状の貫通孔51Aを有する突出部位51は、係合部材52(各分割係合体53,54)に均等に当接することができる。また、円形状の貫通孔51Aは、容易に加工することができる。
【0078】
係合部材52は、各突出部位51に対応するようにピストン37の内径側に配置されている。各係合部材52は、左,右方向に寸法Gだけ移動可能となるように、突出部位51と係合するものである。係合部材52は、ブレーキケース15の隔壁15A側に配置される段付円板状の第1分割係合体53と、該第1分割係合体53と左,右方向で対面する段付円板状の第2分割係合体54とにより構成されている。
【0079】
一対の分割係合体53,54は、円板状の大径部53A,54Aと、該大径部53A,54Aの中央に位置して対向する方向に突出した円柱状の小径部53B,54Bと、前記大径部53A,54Aおよび小径部53B,54Bの中心部を軸方向に貫通したピン挿嵌孔53C,54Cとにより形成されている。ここで、第1分割係合体53と第2分割係合体54とは、同一の形状をもった共通部品となっている。第1分割係合体53と第2分割係合体54とは、互いの小径部53B,54Bを付き合わせることによりボビン状に形成され、外径側に開口する凹溝状の全周係合溝55が形成されている。
【0080】
係合部材52の全周係合溝55は、分割係合体53,54に亘って形成されている。具体的には、全周係合溝55は、第1分割係合体53の大径部53A側の側壁面55Aと、第2分割係合体54の大径部54A側の側壁面55Bと、各分割係合体53,54の小径部53B,54Bの外周面となる底面55Cとにより構成されている。
図13に示すように、全周係合溝55の溝幅寸法、即ち、側壁面55A,55B間の寸法は、突出部位51の板厚寸法よりも第1の実施の形態と同様の寸法Gだけ大きな値に設定されている。これにより、突出部位51(ピストン37)は、係合部材52に対して寸法Gだけ移動することができる。
【0081】
係合部材52は、小径部53B,54Bを貫通孔51Aに挿嵌するように、分割係合体53,54で突出部位51を挟むように配置する。この状態で、分割係合体53,54のピン挿嵌孔53C,54Cおよびブレーキケース15の隔壁15Aのピン挿嵌穴15Eにピン部材42を挿嵌する。これにより、ピン部材42と隔壁15Aのピン挿嵌穴15Eとの間、ピン部材42と係合部材52のピン挿嵌孔53C,54Cとの間には、それぞれ摩擦抵抗を付与することができる。
【0082】
この場合、ピン部材42とブレーキケース15のピン挿嵌穴15Eとの間の摩擦抵抗は、ピン部材42と係合部材52のピン挿嵌孔53C,54Cとの間の摩擦抵抗よりも小さな値に設定されている。この上で、ピン部材42とブレーキケース15のピン挿嵌穴15Eとの間の摩擦抵抗は、制動時のピストン37の押付け力よりも小さな値で、弾性部材38の弾性力(押付け力)よりも大きな値に設定されている。
【0083】
かくして、このように構成された第2の実施の形態においても、前述した第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、第2の実施の形態によれば、共通部品である分割係合体53,54を付き合わせることにより、係合部材52を容易に形成することができる。さらに、円形状の貫通孔51Aを有する突出部位51は、係合部材52(各分割係合体53,54)に均等に当接することができ、耐久性等を高めることができる。
【0084】
次に、
図15は本発明の第3の実施の形態を示している。第3の実施の形態の特徴は、ピストンに左,右方向に間隔をもって2枚の突出部位を設け、この2枚の突出部位で係合部材を左,右方向で移動可能に挟む構成としたことにある。なお、第3の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0085】
図15において、突出部位61,62は、ピストン37の内径側となる内周面37Bから径方向の内向きに突出して設けられている。突出部位61,62は、ピストン37の移動方向となる左,右方向に間隔をもって平行に配置されている。突出部位61は、ブレーキケース15の隔壁15Aと対面して配置され、突出部位62は、非回転ディスク36と対面して配置されている。突出部位61,62は、2枚を1組として周方向に複数組設けられている。
【0086】
各突出部位61,62は、第1の実施の形態による突出部位40と同様に、先端側を角状に形成することにより、本発明によるピン挿嵌部としての切欠状のピン挿嵌溝61A,62Aを有している。各突出部位61,62間の隙間寸法は、後述する係合部材63の大径部63Bの板厚寸法よりも寸法Gだけ大きな値に設定されている。
【0087】
係合部材63は、各突出部位61,62に対応するようにピストン37の内径側に配置されている。各係合部材63は、左,右方向に寸法Gだけ移動可能となるように、突出部位61,62と係合するものである。係合部材63は、軸方向に延びた円柱状の小径部63Aと、該小径部63Aの軸方向の中間部から拡径して設けられた大径な円板状の大径部63Bと、前記小径部63Aの中心部を軸方向に貫通したピン挿嵌孔63Cとにより構成されている。
【0088】
この場合、本実施の形態では、ピン部材42とブレーキケース15のピン挿嵌穴15Eとの間の摩擦抵抗が、制動時のピストン37の押付け力よりも小さな値に設定されている。なお、ピン部材42と係合部材63のピン挿嵌孔63Cとの間の摩擦抵抗を、制動時のピストン37の押付け力よりも小さな値に設定することもできる。
【0089】
さらに、ピン部材42とブレーキケース15のピン挿嵌穴15Eとの間の摩擦抵抗およびピン部材42と係合部材63のピン挿嵌孔63Cとの間の摩擦抵抗は、弾性部材38の弾性力(押付け力)よりも大きな値に設定されている。
【0090】
かくして、このように構成された第3の実施の形態においても、前述した第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、第3の実施の形態によれば、制動を解除したときには、各突出部位61,62と係合部材63との係合によってピストン37を寸法Gだけ矢示B方向に戻すことができる。これにより、前述した各実施の形態と同様に、各ディスク35,36間の接触を防止しつつ、ピストン37を適正なブレーキ操作ができる位置に配置することができる。
【0091】
なお、第1の実施の形態では、ブレーキケース15のピン挿嵌穴15E、突出部位40、係合部材41およびピン部材42を、周方向に間隔をもって6箇所に配置した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばピン挿嵌穴15E、突出部位40、係合部材41およびピン部材42を周方向の2〜5箇所、または7箇所以上に配置する構成としてもよい。また、突出部位は、円環状の1枚の板体として形成し、その周方向の複数個所にピン挿嵌溝を形成する構成としてもよい。これらの構成は、他の実施の形態にも同様に適用できるものである。
【0092】
第1の実施の形態では、デフケース14の左,右両側に並ぶようにブレーキケース15を設け、デファレンシャル機構20の左,右両側に隣接してブレーキ機構33を配置した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、デフケースとブレーキケースとを、例えば、特開2010-137781号公報のように配置してもよい。即ち、デフケースの左,右両側の離間した位置、例えば車輪の内部または近傍にアクスルチューブを介してブレーキケースを設け、このブレーキケース内にブレーキ機構を配置する構成としてもよい。この場合、ブレーキケースの隔壁は、このブレーキケースを形成する容器のうち左,右方向の内側(アクスルチューブ側)に位置する壁面となる。この構成は、他の実施の形態にも同様に適用できるものである。
【0093】
さらに、上述した各実施の形態では、ホイール式建設機械としてトランスミッション9と前,後の車輪5,4との間にアクスル装置12,11を備えたホイールローダ1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば前,後に車輪を有する油圧ショベル、鉱山用大型ダンプトラック、トラクタ等の他のホイール式建設機械にも広く適用できるものである。