特許第6371748号(P6371748)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6371748飲料及びその製造方法並びに添加用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371748
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】飲料及びその製造方法並びに添加用組成物
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/06 20060101AFI20180730BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   C12G3/06
   A23L2/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-190925(P2015-190925)
(22)【出願日】2015年9月29日
(62)【分割の表示】特願2012-95714(P2012-95714)の分割
【原出願日】2012年4月19日
(65)【公開番号】特開2016-55(P2016-55A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2015年10月28日
【審判番号】不服2017-6475(P2017-6475/J1)
【審判請求日】2017年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蛸井 潔
【合議体】
【審判長】 田村 嘉章
【審判官】 紀本 孝
【審判官】 井上 哲男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−229424(JP,A)
【文献】 特開2010−252636(JP,A)
【文献】 BELITZ H.D.et al., Food Chemistry, Springer, 4th revised and extended edition, p.837−840
【文献】 Int.Food Res.J.,2011,18(4),p.1275−1282
【文献】 J.Agric.Food Chem.,2008,56(3),p.1051−7
【文献】 J.Agric.Food Chem.,2010,58(8),p.5050−8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-2/84
C12G 1/00-3/14
C12C 1/00-13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀類、豆類及びいも類からなる群より選択される1種以上及び/又は前記群より選択される1種以上を発芽させたものに由来する成分と、リナロール、ゲラニオール及びβ−シトロネロールからなる3種のモノテルペンアルコールと、4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンとを含み、
前記3種のモノテルペンアルコールの含有量の合計が150ppb以上、2000ppb以下であり、
前記各モノテルペンアルコールの含有量は、50ppb以上であり、
前記4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンの含有量が20ppt以上、200ppt以下である
ことを特徴とする飲料。
【請求項2】
2品種以上のホップに由来する成分と、リナロール、ゲラニオール及びβ−シトロネロールからなる3種のモノテルペンアルコールと、4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンとを含み、
前記3種のモノテルペンアルコールの含有量の合計が150ppb以上、2000ppb以下であり、
前記各モノテルペンアルコールの含有量は、50ppb以上であり、
前記4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンの含有量が20ppt以上、200ppt以下である
ことを特徴とする飲料。
【請求項3】
穀類、豆類及びいも類からなる群より選択される1種以上及び/又は前記群より選択される1種以上を発芽させたもの、リナロール、ゲラニオール及びβ−シトロネロールからなる3種のモノテルペンアルコール及び4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンを含む原料を使用して、請求項1に記載の飲料を製造する
ことを特徴とする飲料の製造方法。
【請求項4】
2品種以上のホップ、リナロール、ゲラニオール及びβ−シトロネロールからなる3種のモノテルペンアルコール及び4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンを含む原料を使用して、請求項2に記載の飲料を製造する
ことを特徴とする飲料の製造方法。
【請求項5】
リナロール、ゲラニオール及びβ−シトロネロールからなる3種のモノテルペンアルコールと、4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンとを含み、
求項3又は4に記載の前記3種のモノテルペンアルコールの含有量の合計が150ppb以上、2000ppb以下であり、前記各モノテルペンアルコールの含有量は、50ppb以上であり、前記4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンの含有量が20ppt以上、200ppt以下である前記飲料の製造方法において前記原料の一部として添加され希釈される添加用組成物であって、
前記3種のモノテルペンアルコールの含有量の合計が15ppb以上であって前記添加用組成物が添加された前記飲料における前記3種のモノテルペンアルコールの含有量の合計より高く、
前記4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンの含有量が10ppt以上であって前記添加用組成物が添加された前記飲料における前記4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンの含有量より高い、
ことを特徴とする添加用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料及びその製造方法並びに添加用組成物に関し、特に、飲料の香りの向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1には、ホップ香気が強調された発酵アルコール飲料を製造することが記載されている。また、特許文献2には、マスカット、ライチ、マンゴー及びパッションフルーツ様のフルーツ香が付与されたビールテイスト飲料を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−252636号公報
【特許文献2】特開2011−244719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来、飲料に所望の香りを付与するためには試行錯誤が必要であり、飲料の香りを向上させることは容易ではなかった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、香りが効果的に向上した飲料及びその製造方法並びに添加用組成物を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る飲料は、2種以上のモノテルペンアルコールと、4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンとを含み、前記2種以上のモノテルペンアルコールの含有量の合計が15ppb以上であり、前記4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンの含有量が10ppt以上であることを特徴とする。本発明によれば、香りが効果的に向上した飲料を提供することができる。
【0007】
また、前記飲料において、前記2種以上のモノテルペンアルコールは、リナロール、ゲラニオール、β−シトロネロール、α−テルピネオール及びネロールからなる群より選択される2種以上を含むこととしてもよい。また、前記飲料は、植物原料を使用して製造される飲料であることとしてもよい。この場合、前記植物原料は、穀類、豆類及びいも類からなる群より選択される1種以上及び/又は前記群より選択される1種以上を発芽させたものであることとしてもよい。また、前記飲料は、2品種以上のホップを使用して製造される飲料であることとしてもよい。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る飲料の製造方法は、2種以上のモノテルペンアルコール及び4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンを含む原料を使用して、前記いずれかの飲料を製造することを特徴とする。本発明によれば、香りが効果的に向上した飲料の製造方法を提供することができる。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る添加用組成物は、2種以上のモノテルペンアルコールと、4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンとを含み、前記2種以上のモノテルペンアルコールの含有量の合計が15ppb以上であり、前記4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンの含有量が10ppt以上であることを特徴とする。本発明によれば、香りを効果的に向上させる添加用組成物を提供することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、香りが効果的に向上した飲料及びその製造方法並びに添加用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る実施例1において、モノテルペンアルコールの含有量を変えて官能検査を行った結果の一例を示す説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係る実施例2において、モノテルペンアルコールの種類及び含有量を変えて官能検査を行った結果の一例を示す説明図である。
図3】本発明の一実施形態に係る実施例3において、4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンの含有量を変えて官能検査を行った結果の一例を示す説明図である。
図4】本発明の一実施形態に係る実施例4において、発泡性アルコール飲料の官能検査を行った結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0013】
本発明の発明者は、飲料の香りを向上させる技術的手段について鋭意検討を重ねた結果、所定濃度のモノテルペンアルコール(例えば、リナロール(linalool)、ゲラニオール(geraniol)、β−シトロネロール(β-citronellol))と、所定濃度の4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オン(4-mercapto-4-metylpentan-2-one)(以下、「4MMP」という。)とを組み合わせることにより、当該モノテルペンアルコールに由来する香り及び当該4MMPに由来する香りのいずれとも質的に異なる好ましい香りを実現できることを独自に見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、モノテルペンアルコールに由来する香りとしては、例えば、リナロールに由来するラベンダー様の香り、ゲラニオールに由来するバラ様の香り、及びβ−シトロネロールに由来するシトラス様の香りが知られている。一方、4MMPに由来する香りとしては、例えば、猫尿様の香り及び/又はグリーン様の香りが知られている。このように、従来、モノテルペンアルコールに由来する香りと、4MMPに由来する香りとは質的に全く異なることが知られている。
【0015】
これに対し、本発明の発明者は、独自に鋭意検討を重ねた結果、飲料におけるモノテルペンアルコールの含有量を所定値以上とした上で、さらに4MMPの含有量をも所定値以上とすることによって、意外にも、当該モノテルペンアルコールに由来する香り及び当該4MMPに由来する香りのいずれとも質的に異なるトロピカルな香りを当該飲料に付与できることを見出した。
【0016】
本実施形態に係る飲料(以下、「本飲料」という。)は、2種以上のモノテルペンアルコールと、4MMPとを含み、当該2種以上のモノテルペンアルコールの含有量の合計が15ppb以上であり、当該4MMPの含有量が10ppt以上である。ここで、1ppbは、1×10−7重量%(1×10−6g/L)に相当し、1pptは、1×10−10重量%(1×10−9g/L)に相当する。
【0017】
本飲料における2種以上のモノテルペンアルコールの含有量の合計(以下、単に「モノテルペンアルコールの含有量」ということがある。)は、例えば、30ppb以上であることとしてもよく、50ppb以上であることとしてもよい。また、モノテルペンアルコールの含有量は、75ppb以上であることが好ましく、100ppb以上であることがより好ましく、125ppb以上であることがより一層好ましく、150ppb以上であることが特に好ましい。なお、本飲料におけるモノテルペンアルコールの含有量の上限値は、飲料の香りが向上する範囲であれば特に限られないが、当該含有量は、例えば、2000ppb以下であることとしてもよい。
【0018】
本飲料における4MMPの含有量は、例えば、15ppt以上であることとしてもよく、20ppt以上であることとしてもよい。また、4MMPの含有量は、25ppt以上であることが好ましく、30ppt以上であることがより好ましく、35ppt以上であることがより一層好ましく、40ppt以上であることが特に好ましい。なお、本飲料における4MMPの含有量の上限値は、飲料の香りが向上する範囲であれば特に限られないが、当該含有量は、例えば、200ppt以下であることとしてもよい。
【0019】
本飲料に含まれるモノテルペンアルコールは、飲料の香りが向上する範囲であれば特に限られないが、本飲料は、例えば、リナロール、ゲラニオール、β−シトロネロール、α−テルピネオール(α−terpineol)及びネロール(nerol)からなる群より選択される2種以上を含むこととしてもよい。なお、これら5種のモノテルペンアルコールは、類似の分子構造を有し、主に植物(花、果実等)に由来し、酵母によるモノテルペンアルコールの代謝において群内で変換され得る化合物であり、花又は柑橘類のような香りを示す点で共通する(例えば、KIYOSHI TAKOI et al.; J. Agric. Food Chem. 2010, 58, 5050-5058のFigure 2を参照)。
【0020】
すなわち、この場合、本飲料は、リナロール、ゲラニオール、β−シトロネロール、α−テルピネオール及びネロールからなる群より選択される2種以上を含み、当該2種以上のモノテルペンアルコールの含有量の合計が、上述したような15ppb以上のいずれかの範囲であることとなる。
【0021】
また、本飲料は、リナロール、ゲラニオール及びβ−シトロネロールからなる群より選択される2種以上を含むこととしてもよい。この場合、本飲料は、リナロール、ゲラニオール及びβ−シトロネロールの3種を含むこととしてもよい。
【0022】
また、本飲料において、各モノテルペンアルコールの含有量は、5ppb以上であることとしてもよい。すなわち、例えば、本飲料が、リナロール、ゲラニオール、β−シトロネロール、α−テルピネオール及びネロールからなる群より選択される2種以上を含む場合には、当該2種以上のモノテルペンアルコールの各々の含有量が5ppb以上であり、且つ当該2種以上のモノテルペンアルコールの含有量の合計が、上述したような15ppb以上のいずれかの範囲であることとなる。
【0023】
また、各モノテルペンアルコールの含有量は、10ppb以上であることとしてもよい。さらに、各モノテルペンアルコールの含有量は、20ppb以上であることが好ましく、30ppb以上であることがより好ましく、40ppb以上であることがより一層好ましく、50ppb以上であることが特に好ましい。
【0024】
本飲料において、上述したモノテルペンアルコール及び4MMPの含有量に関する閾値は任意に組み合わせることができる。すなわち、本飲料は、例えば、75ppb以上のモノテルペンアルコールと、25ppt以上の4MMPとを含むこととしてもよく、100ppb以上のモノテルペンアルコールと、25ppt以上の4MMPとを含むこととしてもよく、125ppb以上のモノテルペンアルコールと、25ppt以上の4MMPとを含むこととしてもよく、150ppb以上のモノテルペンアルコールと、25ppt以上の4MMPとを含むこととしてもよい。
【0025】
また、これらの場合、本飲料における4MMPの含有量は、30ppt以上であることとしてもよく、35ppt以上であることとしてもよく、40ppt以上であることとしてもよい。さらに、これらの場合、2種以上のモノテルペンアルコールの各々の含有量は、20ppb以上であることが好ましく、30ppb以上であることとしてもよく、40ppb以上であることとしてもよく、50ppb以上であることとしてもよい。
【0026】
なお、モノテルペンアルコール及び4MMPの含有量は、例えば、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)を使用して測定することができる(例えば、特開2008−214261号公報を参照)。
【0027】
また、本飲料は、植物原料を使用して製造される飲料であることとしてもよい。植物原料は、飲料の製造に使用できるものであれば特に限られないが、例えば、穀類、豆類及びいも類からなる群より選択される1種以上及び/又は当該群より選択される1種以上を発芽させたものであることとしてもよい。
【0028】
穀類は、例えば、大麦、小麦、米類及びとうもろこしからなる群より選択される1種以上である。具体的に、本飲料は、例えば、大麦麦芽、大麦、小麦麦芽及び小麦からなる群より選択される1種以上を使用して製造される飲料であることとしてもよい。
【0029】
また、植物原料として、ホップを使用することとしてもよい。すなわち、本飲料は、例えば、穀類、豆類及びいも類からなる群より選択される1種以上及び/又は当該群より選択される1種以上を発芽させたものと、ホップとを使用して製造される飲料であることとしてもよく、また、大麦麦芽、大麦、小麦麦芽及び小麦からなる群より選択される1種以上とホップとを使用して製造される飲料であることとしてもよい。
【0030】
また、本飲料は、2品種以上のホップを使用して製造される飲料であることとしてもよい。すなわち、この場合、本飲料は、例えば、穀類、豆類及びいも類からなる群より選択される1種以上及び/又は当該群より選択される1種以上を発芽させたものと、2品種以上のホップとを使用して製造される飲料であることとしてもよく、また、大麦麦芽、大麦、小麦麦芽及び小麦からなる群より選択される1種以上と、2品種以上のホップとを使用して製造される飲料であることとしてもよい。ホップの品種の選択については、本飲料の製造方法に関して後述する。
【0031】
本飲料は、例えば、アルコール飲料であることとしてもよい。アルコール飲料は、エタノールの含有量が1体積%以上(アルコール分1度以上)の飲料である。アルコール飲料のエタノール含有量は、1体積%以上であれば特に限られないが、例えば、1〜20体積%であることとしてもよい。
【0032】
また、本飲料は、ノンアルコール飲料であることとしてもよい。ノンアルコール飲料は、エタノールの含有量が1体積%未満の飲料である。ノンアルコール飲料のエタノール含有量は、1体積%未満であれば特に限られないが、例えば、0.05体積%以下であることとしてもよく、0.005体積%未満であることとしてもよい。
【0033】
本飲料は、発泡性飲料であることとしてもよい。発泡性飲料は、泡立ち特性及び泡持ち特性を含む泡特性を有する飲料である。すなわち、発泡性飲料は、例えば、炭酸ガスを含有する飲料であって、グラス等の容器に注いだ際に液面上部に泡の層が形成される泡立ち特性と、その形成された泡が一定時間以上保たれる泡持ち特性とを有する飲料である。この場合、本飲料は、発泡性アルコール飲料であることとしてもよく、発泡性ノンアルコール飲料であることとしてもよい。
【0034】
また、本飲料は、非発泡性飲料であることとしてもよい。非発泡性飲料は、上述のような泡特性を有しない飲料である。この場合、本飲料は、非発泡性アルコール飲料であることとしてもよく、非発泡性ノンアルコール飲料であることとしてもよい。
【0035】
本実施形態に係る飲料の製造方法(以下、「本方法」という。)においては、2種以上のモノテルペンアルコール及び4MMPを含む原料を使用して、本飲料を製造する。すなわち、本方法においては、本飲料の製造の過程で、2種以上のモノテルペンアルコール及び4MMPを添加する。モノテルペンアルコール及び4MMPを添加するタイミングは特に限られず、任意の1以上のタイミングとすることができる。
【0036】
モノテルペンアルコール及び4MMPはそれぞれ独立に、植物原料から抽出されたものであってもよいし、人工的に合成されたものであってもよい。モノテルペンアルコールは、上述のとおり、香りが向上した本飲料を製造できる範囲であれば特に限られないが、例えば、リナロール、ゲラニオール、β−シトロネロール、α−テルピネオール及びネロールからなる群より選択される2種以上を使用することとしてもよい。
【0037】
また、モノテルペンアルコールとして、リナロール、ゲラニオール及びβ−シトロネロールからなる群より選択される2種以上を使用することとしてもよく、当該3種を使用することとしてもよい。
【0038】
モノテルペンアルコール及び4MMPを含む原料としては、例えば、本実施形態に係る添加用組成物(以下、「本組成物」という。)を使用することとしてもよい。すなわち、この場合、本方法においては、予め調製された本組成物を添加する。そして、本組成物は、2種以上のモノテルペンアルコールと、4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンとを含み、当該2種以上のモノテルペンアルコールの含有量の合計が15ppb以上であり、当該4−メルカプト−4−メチルペンタン−2−オンの含有量が10ppt以上である添加用組成物である。
【0039】
本組成物に含まれるモノテルペンアルコール及び4MMPはそれぞれ独立に、植物原料から抽出されたものであってもよいし、人工的に合成されたものであってもよい。本組成物におけるモノテルペンアルコール及び4MMPの含有量は、それぞれ15ppb以上及び10ppt以上であれば特に限られず、当該本組成物の添加による希釈の程度等の使用条件に応じて適宜決定される。
【0040】
本組成物の形態は、添加に適した範囲であれば特に限られず、液状であってもよいし、固形であってもよい。すなわち、本組成物は、例えば、液体(例えば、溶液)であってもよいし、ペーストであってもよいし、粉末であってもよいし、タブレットであってもよい。
【0041】
本組成物は、例えば、モノテルペンアルコール及び4MMPを含む植物原料を抽出することにより得られる抽出物を含むこととしてもよい。すなわち、本組成物は、モノテルペンアルコール及び4MMPの両方を含む植物原料から得られる抽出物を含むこととしてもよく、モノテルペンアルコールを含む植物原料から得られる抽出物と4MMPを含む植物原料から得られる抽出物とを含むこととしてもよい。
【0042】
また、本組成物は、例えば、モノテルペンアルコールを比較的豊富に含む植物原料から得られた抽出物と、4MMPを比較的豊富に含む植物原料から得られた抽出物とを含むこととしてもよい。具体的に、本組成物は、例えば、第一の種類の植物原料の抽出物と第二の種類の植物原料の抽出物とを含み、当該第一の種類の植物原料のモノテルペンアルコールの含有量(例えば、乾燥重量あたりの含有量)は当該第二の種類の植物原料のそれより大きく、当該第二の種類の植物原料の4MMPの含有量(例えば、乾燥重量あたりの含有量)は当該第一の種類の植物原料のそれより大きいこととしてもよい。
【0043】
なお、植物原料の抽出物は、当該植物原料の抽出により得られた溶液を濃縮して得られることとしてもよく、モノテルペンアルコール及び/又は4MMPの精製を経て得られることとしてもよい。
【0044】
また、抽出に使用する溶媒は、特に限られないが、例えば、水、極性有機溶媒(例えば、炭素数が10以下の低級アルコール(例えば、エタノール)、超臨界二酸化炭素(CO)、酢酸エチル、アセトン及びジクロロメタンからなる群より選択される1種以上)及び非極性有機溶媒(例えば、ペンタン、ヘキサン、四塩化炭素及びエーテルからなる群より選択される1種以上)からなる群より選択される1種以上を使用することとしてもよく、特に水、エタノール及び超臨界二酸化炭素からなる群より選択される1種以上を好ましく使用することができる。また、抽出温度は、特に限られないが、例えば、0〜100℃の範囲内であることとしてもよい。
【0045】
モノテルペンアルコール及び4MMPを含む植物原料は、飲料の製造に使用できるものであれば特に限られないが、例えば、ホップ及び/又はコリアンダー(Coriander)であることとしてもよく、好ましくはホップであることとしてもよい。すなわち、本組成物は、ホップを抽出することにより得られるホップ抽出物及び/又はコリアンダーを抽出することにより得られるコリアンダー抽出物を含むこととしてもよく、好ましくは当該ホップ抽出物を含むこととしてもよい。
【0046】
この場合、本組成物は、2品種以上のホップを使用して製造されることとしてもよい。すなわち、本組成物は、モノテルペンアルコールを比較的豊富に含むホップの抽出物と、4MMPを比較的豊富に含むホップの抽出物とを含むこととしてもよい。具体的に、本組成物は、例えば、第一の品種のホップから得られた抽出物と第二の品種のホップから得られた抽出物とを含み、当該第一の品種のホップのモノテルペンアルコールの含有量(例えば、乾燥重量あたりの含有量)は当該第二の品種のホップのそれより大きく、当該第二の品種のホップの4MMPの含有量(例えば、乾燥重量あたりの含有量)は当該第一の品種のホップのそれより大きいこととしてもよい。
【0047】
また、上述した本組成物の使用に代えて、又は本組成物の使用に加えて、モノテルペンアルコール及び4MMPを含む植物原料を使用することとしてもよい。この場合、モノテルペンアルコール及び4MMPの両方を含む植物原料を使用することとしてもよく、モノテルペンアルコールを含む植物原料と4MMPを含む植物原料とを使用することとしてもよい。
【0048】
また、上述した本組成物の製造と同様に、第一の種類の植物原料と第二の種類の植物原料とを使用し、当該第一の種類の植物原料のモノテルペンアルコールの含有量(例えば、乾燥重量あたりの含有量)は当該第二の種類の植物原料のそれより大きく、当該第二の種類の植物原料の4MMPの含有量(例えば、乾燥重量あたりの含有量)は当該第一の種類の植物原料のそれより大きいこととしてもよい。
【0049】
すなわち、本方法においては、モノテルペンアルコール及び4MMPを含む植物原料として、2品種以上のホップを使用することとしてもよい。具体的に、例えば、第一の品種のホップと第二の品種のホップとを使用し、当該第一の品種のホップのモノテルペンアルコールの含有量(例えば、乾燥重量あたりの含有量)は当該第二の品種のホップのそれより大きく、当該第二の品種のホップの4MMPの含有量(例えば、乾燥重量あたりの含有量)は当該第一の品種のホップのそれより大きいこととしてもよい。ホップとしては、例えば、プレスホップ、ホップパウダー及びホップペレットからなる群より選択される1種以上を使用することとしてもよい。
【0050】
また、本方法においては、植物原料として、穀類(例えば、大麦、小麦、米類及びとうもろこしからなる群より選択される1種以上)、豆類及びいも類からなる群より選択される1種以上及び/又は当該群より選択される1種以上を発芽させたものを使用することとしてもよく、また、大麦麦芽、大麦、小麦麦芽及び小麦からなる群より選択される1種以上を使用することとしてもよい。また、これらの場合、さらにホップを使用することとしてもよい。
【0051】
また、例えば、穀類、豆類及びいも類からなる群より選択される1種以上及び/又は当該群より選択される1種以上を発芽させたものと、上述した本組成物及び/又はモノテルペンアルコール及び4MMPを含むホップと、を使用することとしてもよく、大麦麦芽、大麦、小麦麦芽及び小麦からなる群より選択される1種以上と、本組成物及び/又はモノテルペンアルコール及び4MMPを含むホップと、を使用することとしてもよい。
【0052】
これらの場合、モノテルペンアルコール及び4MMPを含むホップとして、2品種以上のホップを使用することとしてもよい。すなわち、モノテルペンアルコール及び4MMPを含むホップの使用は、例えば、第一の品種のホップと第二の品種のホップとの使用であって、当該第一の品種のホップのモノテルペンアルコールの含有量(例えば、乾燥重量あたりの含有量)は当該第二の品種のホップのそれより大きく、当該第二の品種のホップの4MMPの含有量(例えば、乾燥重量あたりの含有量)は当該第一の品種のホップのそれより大きいこととしてもよい。
【0053】
そして、本方法においては、上述したような植物原料を使用して調製された植物原料液を使用して、本飲料を製造する。植物原料液は、植物原料に由来する成分を含む溶液であり、例えば、当該植物原料と水(好ましくは湯)とを混合し、当該植物原料に含まれる成分を抽出することにより調製される。
【0054】
すなわち、この植物原料液は、例えば、通常のビールの製造において大麦麦芽及びホップを使用して調製される麦汁に相当することとしてもよい。具体的に、本方法においてホップを使用する場合には、例えば、植物原料を使用して調製された植物原料液に、ホップを添加し、さらに当該植物原料液を煮沸することにより、当該ホップに含まれる成分を効率よく抽出する。
【0055】
本方法においては、アルコール発酵を行うこととしてもよい。すなわち、本方法は、例えば、植物原料を使用して調製された植物原料液に酵母(例えば、ビール酵母)を添加してアルコール発酵を行うことを含む。この場合、本方法においては、植物原料を使用して植物原料液を調製することとしてもよいし、予め調製された植物原料液を使用することとしてもよい。
【0056】
アルコール発酵を行う場合、モノテルペンアルコール及び4MMPを含む原料を添加するタイミングは特に限られないが、例えば、当該アルコール発酵の開始前(例えば、植物原料液の調製時)、当該アルコール発酵中、熟成期間中及び当該熟成後であって本飲料の容器充填前からなる群より選択される1以上のタイミングであることとしてもよい。
【0057】
また、本方法においては、アルコール発酵を行い、アルコール飲料を製造することとしてもよい。この場合、本方法においては、発泡性アルコール飲料を製造することとしてもよく、非発泡性アルコール飲料を製造することとしてもよい。
【0058】
また、本方法においては、アルコール発酵を行わないこととしてもよい。すなわち、本方法においては、例えば、植物原料を使用して調製された植物原料液を使用し、アルコール発酵を行うことなく本飲料を製造する。この場合、本方法においては、植物原料を使用して植物原料液を調製することとしてもよいし、予め調製された植物原料液を使用することとしてもよい。
【0059】
アルコール発酵を行わない場合、例えば、植物原料液と他の原料とを混合することにより本飲料を製造することとしてもよい。この場合、他の原料としては、例えば、糖類、食物繊維、酸味料、色素、香料、甘味料及び苦味料からなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0060】
また、本方法においては、アルコール発酵を行うことなく、アルコール飲料を製造することとしてもよく、ノンアルコール飲料を製造することとしてもよい。アルコール飲料は、例えば、植物原料液にエタノールを含有する溶液を添加することにより製造することとしてもよい。
【0061】
また、本方法においては、アルコール発酵を行うことなく、発泡性飲料を製造することとしてもよい。この場合、本方法においては、発泡性アルコール飲料を製造することとしてもよく、発泡性ノンアルコール飲料を製造することとしてもよい。アルコール発酵を行うことなく、飲料に発泡性を付与する方法は、特に限られず、例えば、炭酸水の使用及び/又は炭酸ガスの吹き込みを採用することができる。
【0062】
また、本方法においては、アルコール発酵を行うことなく、非発泡性飲料を製造することとしてもよい。この場合、本方法においては、非発泡性アルコール飲料を製造することとしてもよく、非発泡性ノンアルコール飲料を製造することとしてもよい。
【0063】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0064】
モノテルペンアルコール及び4MMPを含む飲料における当該モノテルペンアルコールの含有量を変えて、当該飲料の官能検査を行った。
【0065】
モノテルペンアルコールとしては、市販のリナロール(東京化成(Tokyo Chemical Industry Co., Ltd.))、市販のゲラニオール(アルドリッチ(Aldrich Chemical Co.Inc.))、及び市販のβ−シトロネロール(東京化成(Tokyo Chemical Industry Co.,Ltd.))を使用した。4MMPとしては、市販の4MMP(インターキム(Interchim S.A.))を使用した。飲料は、炭酸水に、所定量のモノテルペンアルコールと所定量の4MMPとを添加することにより調製した。
【0066】
そして、この飲料について、熟練した4名のパネリストによる官能検査を行った。官能検査においては、飲料が有するグリーン様の香りと、トロピカルな香りとを評価した。
【0067】
図1には、7種類の飲料(例1−1〜例1−7)について、リナロールの含有量(ppb)、ゲラニオールの含有量(ppb)、β−シトロネロールの含有量(ppb)、当該3種のモノテルペンアルコールの含有量の合計(ppb)、4MMPの含有量(ppt)及び官能検査の結果を示す。「官能検査」欄の数値は、パネリストにより付与された点数の平均値を示し、「グリーン」欄の数値が大きいほど、グリーン様の香りが強かったことを示し、「トロピカル」欄の数値が大きいほど、トロピカルな香りが強かったことを示す。
【0068】
図1に示すように、各モノテルペンアルコールの含有量が3ppb以上であって当該含有量の合計が9ppb以下の場合(例1−1、例1−2)には、グリーン様の香りがトロピカルな香りを上回っていた。これに対し、各モノテルペンアルコールの含有量が3ppbを超え当該含有量の合計が9ppbを超えると、トロピカルな香りが増加し(例1−3、例1−4)、特に、各モノテルペンアルコールの含有量が10ppbを超え当該当該含有量の合計が30ppbを超えることにより(例1−5〜例1−7)、グリーン様の香りが顕著に低減され、トロピカルな香りが顕著に増強された。
【実施例2】
【0069】
モノテルペンアルコール及び4MMPを含む飲料における当該モノテルペンアルコールの種類及び含有量を変えて、上述の実施例1と同様に、熟練した5名のパネリストによる当該飲料の官能検査を行った。
【0070】
図2には、7種類の飲料(例2−1〜例2−7)について、リナロールの含有量(ppb)、ゲラニオールの含有量(ppb)、β−シトロネロールの含有量(ppb)、当該3種のモノテルペンアルコールの含有量の合計(ppb)、4MMPの含有量(ppt)及び官能検査の結果を示す。
【0071】
図2に示すように、3種類のモノテルペンアルコールのうち1種のみを使用し、その含有量が50ppbであった場合(例2−1〜例2−3)には、グリーン様の香りがトロピカルな香りを大きく上回っていた。
【0072】
これに対し、3種類のモノテルペンアルコールのうち2種以上を使用し、その含有量の合計が50ppbを超えることにより(例2−4〜例2−7)、グリーン様の香りが顕著に低減され、トロピカルな香りが顕著に増強された。
【実施例3】
【0073】
モノテルペンアルコール及び4MMPを含む飲料における当該4MMPの含有量を変えて、上述の実施例1と同様に、熟練した4名のパネリストによる当該飲料の官能検査を行った。
【0074】
図3には、6種類の飲料(例3−1〜例3−6)について、リナロールの含有量(ppb)、ゲラニオールの含有量(ppb)、β−シトロネロールの含有量(ppb)、4MMPの含有量(ppt)及び官能検査の結果を示す。
【0075】
図3に示すように、4MMPの含有量が1ppt以下であった場合(例3−1、例3−2)には、グリーン様の香りがトロピカルな香りを大きく上回っていた。これに対し、4MMPの含有量が10pptに達することにより(例3−3)、トロピカルな香りが増加し、さらに、4MMPの含有量が10pptを超えることにより(例3−4〜例3−6)、グリーン様の香りが顕著に低減され、トロピカルな香りが顕著に増強された。
【実施例4】
【0076】
植物原料を使用して製造された発泡性アルコール飲料に、モノテルペンアルコール及び4MMP、又は4MMPのみを添加して、添加後の当該飲料の官能検査を行った。官能検査においては、熟練した4名のパネリストにより、飲料が有するグリーン様の香りと、トロピカルな香りとを評価した。
【0077】
なお、発泡性アルコール飲料は、ホップを使用しないこと以外は、通常のビールと同様にして製造した。すなわち、大麦麦芽を使用しホップを使用することなく植物原料液(ビールの麦汁に相当)を調製し、当該植物原料液にビール酵母を添加することによりアルコール発酵を行い、さらに熟成を行って、エタノール含有量が約5体積%の発泡性アルコール飲料を製造した。
【0078】
図4には、2種類の飲料(例4−1、例4−2)について、リナロールの含有量(ppb)、ゲラニオールの含有量(ppb)、β−シトロネロールの含有量(ppb)、4MMPの含有量(ppt)及び官能検査の結果を示す。
【0079】
「グリーン」欄において、「○」印は、グリーン様の香りが顕著に感じられたことを示し、「×」印は、グリーン様の香りがあまり感じられなかったことを示す。また、「トロピカル」欄において、「○」印は、トロピカルな香りが顕著に感じられたことを示し、「×」印は、トロピカルな香りがあまり感じられなかったことを示す。
【0080】
図4に示すように、4MMPのみを添加し、モノテルペンアルコールを添加しない発泡アルコール飲料(例4−1)については、トロピカルな香りはあまり感じられず(「×」印)、グリーン様の香りが当該トロピカルな香りを大きく上回っている(「○」印)と評価された。
【0081】
これに対し、モノテルペンアルコール及び4MMPを添加された発泡アルコール飲料(例4−2)については、グリーン様の香りはあまり感じられず(「×」印)、トロピカルな香りが顕著に増強され、当該グリーン様の香りを大きく上回っている(「○」印)と評価された。

図1
図2
図3
図4