特許第6371772号(P6371772)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルカンタラ、ソシエタ、ペル、アチオニの特許一覧

特許6371772スエード状マイクロファイバー合成繊維不織布の生成方法
<>
  • 特許6371772-スエード状マイクロファイバー合成繊維不織布の生成方法 図000002
  • 特許6371772-スエード状マイクロファイバー合成繊維不織布の生成方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371772
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】スエード状マイクロファイバー合成繊維不織布の生成方法
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/14 20060101AFI20180730BHJP
   D06M 15/564 20060101ALN20180730BHJP
   D06M 11/00 20060101ALN20180730BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALN20180730BHJP
【FI】
   D06N3/14
   !D06M15/564
   !D06M11/00 110
   !D04H1/4382
【請求項の数】18
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-537409(P2015-537409)
(86)(22)【出願日】2013年10月21日
(65)【公表番号】特表2015-536388(P2015-536388A)
(43)【公表日】2015年12月21日
(86)【国際出願番号】IB2013059498
(87)【国際公開番号】WO2014087271
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2016年5月19日
(31)【優先権主張番号】MI2012A001780
(32)【優先日】2012年10月22日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】503134594
【氏名又は名称】アルカンタラ、ソシエタ、ペル、アチオニ
【氏名又は名称原語表記】ALCANTARA S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100139549
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 泉
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルテル カルディナリ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンニ ロマーニ
(72)【発明者】
【氏名】パオロ アルマドーリ
(72)【発明者】
【氏名】ジョヴァンニ パロンバ
(72)【発明者】
【氏名】ダーヴィデ ツォッピテッリ
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−306878(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01243691(EP,A1)
【文献】 特開2003−089985(JP,A)
【文献】 特開2010−031443(JP,A)
【文献】 特開2002−249988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00 − 7/06
D06M 11/00
D06M 15/564
D04H 1/4382
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロファイバー不織繊維の生成方法であって、
a.海島型の複合繊維をニードルパンチすることによってフェルトを生成し、
b.94%以上のケン化度を有するポリビニルアルコール(PVA)の水溶液で前記フェルトを温含浸させ、又は、前記フェルトを温水で温含浸させてからポリウレタン(PU)で冷含浸させ、
c.ステップbによる中間生成物から海成分を除去し、
d.PUでマイクロファイバー中間生成物を含浸させ、
e.凝固により前記PUを前記マイクロファイバー中間生成物に固着させ、ステップbで付加され得るPVAを除去し、
f.取得された材料について、一方又は両側のエメリー加工、染色、スプリットの順序で処理する
ことを含む、方法。
【請求項2】
ステップbは、50℃以上のPVAの水溶液を含浸させることにより行う、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップbは、50℃以下の水媒体のPUを含浸させることにより行う、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップbにおけるPVAは、94%以上、好適には97%を越えるケン化度を有する、
請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ステップbにおいて、PUは水媒体にあり、PUの凝固は、電解質又は酸を含む水、温水、高周波又はスチーム凝固によって行われる、
請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
海成分の除去を行うステップcは、ステップbで得られた中間生成物が、アルカリ性又はアルカリ土類水酸化物の塩基性水溶液、好適にはNaOHに接触させることにより行われる、
請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
海成分の除去を行うステップcは、ステップbがPVAにより行われる場合、80℃未満(好適には70℃以下)の温度で行われる、
請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ステップdは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の乳化剤、架橋剤、増粘剤、界面活性剤、粘性調節剤、不安定化剤、塩、及び外部シリコーン誘導体のうち、一以上の存在下の水媒体にあるPUを含浸することにより行われる、
請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ステップdは、水媒体中のPUを含浸させることにより行われ、ステップeは、温水、電解質又は酸を含む水、又はホットエアによる凝固、或いは高周波凝固、マイクロ波凝固、又はスチーム凝固により行われる、
請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ステップdは、水媒体中のPUを含浸させることにより行われ、ステップeは、20℃から90℃、好適には40℃から80℃の水溶液における凝固によって行われる、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップeは、重量で0.01%から5%の範囲、好適には重量で0.1%から1%の範囲の量の塩を含む水溶液における凝固によって行われる、
請求項9に記載の方法。
【請求項12】
ステップdは、水媒体中のPUを含浸によって行われ、ステップeは、50℃から200℃、好適には60℃から160℃のホットエアでの凝固によって行われる、
請求項9に記載の方法。
【請求項13】
ステップdは、水媒体中のPUによる含浸によって行われ、ステップeは、平行又は斜めフィールドを有し電極間の電圧が0.1kVから6kVの高周波オーブンにおける凝固によって行われる、
請求項9に記載の方法。
【請求項14】
ステップeは、平行フィールドを有し電極間の電圧が0.3kVから5kVの高周波オーブンにおける凝固によって行われる、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップdは、PUの有機溶液による含浸によって行われ、ステップeは、水、又は水と有機溶液との混合液における凝固によって行われる、
請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
有機溶液の溶媒は、DMF及びDMACから選択される、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記フェルトは、海島型の混合繊維をニードルパンチすることにより生成され、島成分は、改質ポリエステル、陽イオンポリエステル、ナイロンその他種類のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチレン・テレフタレート(PTT)、ポリブチレン・テレフタレート(PBT)及びポリエチレン・テレフタレート(PET)の中から選択され、好適にはPETである、
請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記フェルトは、海島型の混合繊維をニードルパンチすることにより生成され、海成分は、ポリビニル・アルコール(PVA)、PVAを含むポリスチレン共重合体(co−PVA−PS)、PVAを含むコポリエステル(co−PVA−PES)、及び5-スルホイソフタル酸又はナトリウム塩を含むコポリエステル(co−PES)から選択され、特に後者が好ましい、
請求項1から17のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スエード状マイクロファイバー合成繊維不織布の生成方法であって、有機溶剤を用いる必要がなく、手触りが良く、耐黄変に優れ、耐久性が高い製品を得ることが可能な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術において、いわゆる「海島型」繊維からスエード状マイクロファイバー不織布を生成する方法が知られている。この技術によれば、「島」型の成分によって構成され、他の「海」の成分によって完全に囲まれる複合繊維がつくられる。かかる繊維は、二つのポリマー成分を紡糸口金に供給し、公知の方法を用いて加工される(特許文献1、特許文献2、及び特許文献3を参照)。一般に、このように生成された繊維は、次にニードルパンチによるフェルトの生成に用いられ、続く水溶液や有機溶剤を含浸させる各工程に付されて、それぞれの成分の固着及び/又は除去が行われる。スエード状の外観を有する不織布の生成には、ニードルパンチによって生成されたフェルトは、通常、最初にポリビニール・アルコール(PVA)の水溶液を含浸させ、次いで「海」成分を、例えばトリクロロエチレンで溶解させる。その結果得られた極細繊維の中間生成物は、再び有機溶剤(例えばDMF等)で溶解したポリウレタン(PU)の溶液を含浸させる。最後に、一以上の最終処理後、PVAを除去し、その結果得られた生成物に対し、「スプリッティング」工程、次いでエメリー加工及び染色を含む最終処理を行う。
【0003】
また、先行技術の不織布生成方法として、双方の含浸工程とも水溶液又は有機溶剤のPUで行われるものが知られている(例えば、特許文献4を参照)。
【0004】
最近では、海島型繊維の形成後、有機溶剤を用いずにPVAやPUを用いた含浸を行う不織布の生成方法が開発されている(特許文献5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第3,532,368号明細書
【特許文献2】米国特許第3,889,292号明細書
【特許文献3】米国特許第3,531 ,368号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1353006号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第1243691号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常使用される有機溶剤(例えば、DMFやトリクロロエチレン等)の代わりに水を用いると、経済的・環境的利点が大きく、且つ所望の手触りや耐性が維持できる最終製品を得られる。しかし、それでもなお、高い耐黄変や耐久性があり、手触りが良い不織布を実現できる工程であって、環境への影響が少なく或いは環境にやさしい方法で、且つ生産コストが安い方法の発見が求められている。しかし、既述した方法は、ホウ酸等の健康を害する可能性のある物質を利用する。更に、海成分の溶解の条件下では、ホウ酸とPVAの複合体の部分溶解性に関係するプロセス変動により、全体工程の効率性の低下につながる可能性もある。
【0007】
出願人は、水を溶剤として用いることができ、耐性と手触りに優れた繊維であり、着色抵抗に優れ、極薄の材料を生産することができ、高い耐久性と耐黄変を有するマイクロファイバー不織材料の生産方法を発見するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
よって、第1の観点において、本発明は、マイクロファイバー不織繊維の生成方法であって、
a.海島型の複合繊維をニードルパンチすることによってフェルトを生成し、
b.94%以上のケン化度を有するポリビニルアルコール(PVA)の水溶液で前記フェルトを温含浸させ、或いは、前記フェルトを温水で温含浸させてからポリウレタン(PU)で冷含浸させ、
c.ステップbによる中間生成物から海成分を除去し、
d.PUでマイクロファイバー中間生成物を含浸させ、
e.凝固により前記PUを前記マイクロファイバー中間生成物に固着させ、ステップbで付加され得るPVAを除去し、
f.取得された材料の一方又は両側を、(好適にはこの順番で)エメリー加工、着色、スプリットする
ことを含む方法に関する。
【0009】
本方法により生成された材料は、後処理工程(例えば、裏地への接着、樹脂や不燃加工コーティング)のための当接面を増やす又は変更する必要がある場合や、及び/又は更に厚みを削減する必要がある場合は、ブレードに接する側においてもエメリー加工することができる。
【0010】
他の観点において、本発明は、本方法により得られた(或いは得ることができる)スエード状マイクロファイバー合成繊維不織布に関する。
【0011】
更に、本発明の特徴及び利点について、以下の添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ケン化度が高いPVAの水溶液を含浸させたマイクロファイバー中間生成物の断面図である。同生成物は、乾燥されたフェルトから海成分を除去した後に得られるものである(つまり、ステップcの後)。PVAの分布は特に端縁においてはっきりと見られる。
図2図1に示すケン化度が高いPVAの水溶液を含浸させたマイクロファイバー中間生成物の細部を示す。同生成物は、乾燥されたフェルトから海成分を除去した後に得られるものであり(つまり、ステップcの後)、溶解に続いて海成分がなくなりPETのマイクロファイバーの島がはっきりと見られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
更に詳しくは、本願発明の方法において、ステップaによるフェルト生成は、「海島」型の複合繊維をニードルパンチすることにより行われる。同複合繊維は、公知の技術により取得できる。公知の技術では、二つ純高分子又は二つのポリマー混合物が紡糸口金に供給され、これにより二つのポリマー(「海」)成分のうち一つが、各「島」を形成する各ポリマー繊維によって構成される他の成分を完全に囲む。この点、島成分は、改質ポリエステル、陽イオンポリエステル、ナイロンその他種類のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチレン・テレフタレート(PTT)、ポリブチレン・テレフタレート(PBT)及びポリエチレン・テレフタレート(PET)(後者が特に好適である)の中から選択できる。
【0014】
一方、海成分の例としては、可紡性ポリマーに代表され、好適にはポリビニル・アルコール(PVA)、PVAを含むポリスチレン共重合体(co−PVA−PS)、PVAを含むコポリエステル(co−PVA−PES)、及び5-スルホイソフタル酸又はナトリウム塩を含むコポリエステル(co−PES)から選択される。特に後者の方が好ましい。
【0015】
海成分及び島成分は、島成分の無機顔料から選択された付加成分と、海成分の非相容性のポリマーであってフェルト中間生成物のドローイング及び生成工程においてシースの破壊を促進させるポリマーと、を混合して使用される。特に好適な実施形態においては、ステップaのフェルトは、島成分中の無機顔料と海成分中の非相容性のポリマーとを混合するPET及びCo−PESからなる複合繊維をニードルパンチすることにより取得される。
【0016】
複合繊維は、紡糸口金により迅速且つ効率的に二つの成分を紡糸できるような島成分と海成分との比率を有する。同島成分と海成分の比率は、好適には、20/80から80/20の範囲内であり、更に好適には、50/50から80/20の範囲内である。ニードルパンチの工程に先立って、複合繊維は通常公知の方法によって処理され、同方法は潤滑油やドローイングの段階を含み、ドローイング方向における高分子の配向や物理的・機械的特性を向上させるとともに、得られた繊維のタイターを減少させる。この後者の特性は、きめ細かい品質の生成品の製造には特に求められる。本発明の好適な実施形態においては、ドローイングの前に、繊維が6.5から19.4dtexの範囲のタイターを有する。更に、おおよそ2〜5の範囲、好適には2.1〜3.9の範囲の比率でドローイングが実行される。ステップaの終わりには、好適には2mmから4mmの範囲の厚みのフェルトが得られる。同フェルトの見掛け密度は、0.1g/cm3から0.5g/cm3であり、更に好適には、0.15g/cm3から0.3g/cm3の範囲内である。効果として、本方法の条件においては、上記密度や厚みの数値は、最終製品である不織布の手触りが良く、柔軟で、外観に優れ、機械的強度を取得するのに最適であることがわかった。
【0017】
ステップaに続き取得されるフェルトは、本方法のステップbで含浸させる。実際には、フェルトの含浸工程は、フェルトを乾燥させ高温で処理したら、海成分の除去という条件下でのみわずかに溶けやすくなる特性を有するPVAの熱水溶液に接触させることにより行われる。代わりに、ステップbは、温水収縮、続く水媒体のPUを用いた冷含浸によって行うことも可能である。この後者の場合、温水収縮に続いて、フェルトは、乾燥段階を経てから、水媒体のPUを用いた冷含浸をさせる。特に記載しない限り、「温水収縮」は、50℃以上の温度、好ましくは60℃から99℃の温度の水に浸ける工程を意味する。「冷含浸」は、50℃以下の温度、好ましくは15℃から40℃での含浸を意味する。双方の場合において、含浸は、浸漬及び絞りロールによるメータリング等の公知方法によって実現される。フェルトを水又はPVA溶液で温含浸する場合、50℃以上で行い、好ましくは60℃から99℃の温度で行う。これにより、紡糸、ドローイング、フェルティング工程によって蓄積された張りが解けるため、中間生成物の寸法上の安定化が得られる。また、寸法上の安定化によって、通常、密度を増加させることができ、これにより得られる最終製品の見た目がよくなる。特に、ステップbで利用されるPVAは、水又は水性溶媒における溶解性があり、これは、溶解条件下での複合繊維の「海」成分の溶解性よりも著しく低い。このため、本方法は、高いケン化度、すなわち、94%以上、更に好適には97%を越えるケン化度を有するPVAを用いる。同ケン化度により、PVAは水媒体に溶けず、この不溶性は、次の海成分除去処理に対して耐性があり、後述するステップeの工程に続く水中の溶解に支障を与えない。効果として、かかるケン化度を有するPVAを用いることにより、先行技術の場合のように、健康被害の可能性があるホウ酸、バナジウム又はジルコニウムの化合物等の架橋剤を用いることなく、ステップbを実現することができる。
【0018】
PVAの溶解は、ステップbの含浸後に、高温熱処理によって調整することも可能である。この点、PVAを含浸させたフェルトは、約150℃から約250℃の温度で乾燥後に処理される。乾燥は、例えば、オーブン、エアジェット、赤外線を使用して1分未満から約15分までの時間で行う。時間は、主に、設定する温度、必要な対分解性の度合い、ケン化度によって異なる。
【0019】
フェルトにPUを含浸させてステップbを行う場合、PUは、好適には、水媒体のポリウレタンの剤形、例えば乳剤や水分散液のものから選択される。このように混合されたポリウレタンは、ホット・エア凝固、酸を含む溶剤、電解質を含む水溶液、高周波、マイクロ波、スチーム凝固により、凝固させることができる。公知の通り、PUは、ウレタン結合(つまり、−NH−(CO)−O−)のみ、又はウレタン、尿素結合の混合物(つまり、−NH−(CO)−NH−)からなるポリマー鎖を有するポリマーであって、ポリオールとジイソシアネートとの反応によって生成される。本発明では、PUは、好適には、脂肪族又は芳香族のジイソシアネートと、平均分子量が500から5000Daであるポリオールとが反応することにより取得され、更に好ましくは、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、及びポリエステル−ポリカーボネートブレンドの中から選択される。
【0020】
一つの実施形態においては、ステップbは、例えば、一般的な増粘剤、界面活性剤、粘性調節剤、アルカリ金属又はCaCl2等のアルカリ土類金属の塩、シリコーン誘導体等の他の添加剤の条件下で行うことができる。含浸工程の終わりには、PVA又はPUを含浸させたフェルトは、通常、PVA又はPUの熱固化(硬化)の工程に付される。同工程は、90℃以上の温度、好ましくは150℃から250℃、更に好ましくは180℃から220℃の温度で熱処理を行う。同処理は、公知の方法によって、オーブンを用いて行ってもよい。このように、PVAやPUをフェルトに安定的に固着させることができるため、同繊維材料におけるPVAやPUを実質的に改質することなく、次工程である「海」成分の除去を行うことができる。
【0021】
この点、「海」成分を除去するステップcは、ステップbで取得されたPVA又はPUを含浸させたフェルトを、アルカリ性水酸化物又はアルカリ土類の塩基性水溶液、好ましくはNaOHに接触させることにより行う。同接触は、好ましくは、PVA又はPUを含浸させたフェルトを、選択された塩基性水溶液に浸漬(洗浄)することにより行い、これに続いて、水洗浄を繰り返してもよい。これは、サンプル上に塩基性水溶液が残存した場合にそれを除去し、「島」成分が一部必要以上に溶解しないようにするためである。好適には、この溶液のpH値は8以上であり、好適には10から14の範囲である。一つの実施形態としては、塩基性水溶液の濃度は1%から48%の間であり、好適には、5%から15%の範囲である。ステップcによる「海」成分の除去は、少なくとも付加されたPVA又はPUの可能な量を溶解する一方で、「島」成分のマイクロファイバーの品質の低下を防ぐように、成分を溶解するのに最適な温度及び時間で行われる。より効率的に短い時間で除去を行うため、含浸工程bがPUを用いて行われた場合は、塩基性水溶液の温度は好適には40℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは65℃から90℃が好ましい。ステップbがPVAを用いて行われる場合、除去ステップ時の温度は、80度未満、更に好ましくは70℃以下がよい。
【0022】
「海」成分が除去されたマイクロファイバー中間生成品は、次いで、PUを用いて含浸するステップdに付される。特に、PUは、乳剤や水分散液等の水媒体や、極性有機溶媒を含む溶剤等の有機媒体に含まれていてもよい。含浸溶液の濃度は、好適には10%から40%、更に好ましくは15%から30%の範囲である。30%を越える濃度は、特に粘性があり、(特に溶剤型のポリウレタンを)含浸させることが難しく、10%未満の濃度はPUの分散を徐々に不安定にさせ、凝固したポリウレタンの構造やポリウレタンとマイクロファイバーとの接着方法を著しく変えて、染色工程時に中間生成物の耐性を損なう可能性がある。本方法のステップbと同様に、ステップdによるPUの含浸は、通常、浸漬及び絞りロールによるメータリングや、公知方法(例えば、圧力波)によって行われる。好適には、マイクロファイバー中間生成物は、浸漬及び絞りロールによるメータリングによって含浸させる。
【0023】
水媒体のPUによる含浸の場合、いわゆる自己乳化ポリウレタンポリマーを用いる、及び/又は適切な外部乳化剤(例えば、イオン性や非イオン性の界面活性剤)を加えて行うと便利である。好適には、乳化剤は、PUに対して0.5%から10%の範囲の濃度で使用される。所望の力学的特性及び溶剤に対する耐性を得るため、ステップdにおいて含浸は、架橋剤の存在下で行うことができる。同架橋剤は、好適には、約100℃から200℃の温度、好適には110℃から160℃の温度でのPUの乾燥工程時に、活性化が可能なものである。かかる架橋剤は、好適には、0.5%から10%の量で利用され、メラミン、アジリジン、カルボジイミド、エポキシド、ジルコニウム化合物、イソシアネート誘導体、或いは好適にはアンブロッキング温度の低いブロックされたイソシアネート等から選択することができる。更に、PUの含浸は、例えば一般的な増粘剤、界面活性剤、粘性調整剤、不安定化剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩、シリコーン誘導体等の添加剤であって、好適にはPUに対し0%から10%、更に好適には0%から5%の量の添加剤の存在下で行ってもよい。CaCl2は、アルカリ塩の一例であり、分散の中心にあるか、外側にあるか、凝固溶液に溶解されるか(凝固温度は20℃から90℃の間である)に関わらず、(PUが熱凝固可能な)温度の上昇と共にポリウレタンの分散の不安定化を促進するのに用いられる。
【0024】
ステップdが有機媒体で行われる場合、PUは全体的に極性有機溶媒に溶解される。なお、極性有機溶媒は、好適には、ジメチルアセトアミド溶液(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)のいずれかから選択されるが、後者の方が好ましい。更に、有機媒体で含浸が行われる場合、続く硬化ステップeは、水又は水/溶剤混合物での凝固によって行われる。特に、PUを含浸したマイクロファイバー中間性生物を有機溶剤で凝固するには、通常、(好適にはDMFの存在下にある)水槽(好適には、DMF/H2Oの比率は重さにして0/100から50/50)にマイクロファイバー中間生成物を浸漬する。凝固温度は、凝固水槽内に含まれるDMFの量に応じて、20℃から50℃の間で、好適には25℃から40℃の間である。マイクロファイバーとポリウレタンとの接着を増強させるためには、有機溶剤のポリウレタンの溶液に湿潤剤を加えるか、或いはステップcで得られた中間生成物に対し、上述した有機溶剤中のポリウレタンを含浸する前に湿潤剤やマイクロファイバーの表面電荷を中和させる物質を用いた処理を行う必要がある場合がある。この点、利用できる潤滑剤は、石鹸、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩、或いはこのような目的のために当該技術分野において通常用いられ当業者が知っている化合物から選択できる。
【0025】
ステップdに続いて、マイクロファイバー中間生成物はPUの硬化を行うステップeに付される。前のステップdが水媒体で行われた場合、硬化はホットエア凝固、温水凝固、電解質水溶液、高周波凝固、マイクロ波凝固、スチーム凝固、或いは酸凝固によって行うことができる。凝固は、空気、温水、高周波凝固によるものが好ましい。溶解した電解質を含む水溶液での凝固の場合は、ポリウレタンは低温度(つまり、50℃以下の温度)で凝固可能であり、相当なエネルギーの節約にもつながる。一方、高周波又は温水凝固の場合は、同処理が水に分散されたタイプのポリウレタンで行われ熱凝固が可能である場合、含浸させた中間生成物を完全に乾燥させなくてもPUを熱で硬化させることができるため、エネルギーや初期投資コストにおいて相当の節約につながる。
【0026】
ホットエア凝固の場合、ステップdで得られた素材は、約50℃から約200℃までの温度、好ましくは約60℃から約160℃までの温度の空気に接するようにセットされることにより、加熱時間中のポリウレタンの移動制御をよくなる。加熱時間は、例えば利用されるポリウレタンのタイプによって異なり、熱硬化が可能なポリウレタンを使用する場合、加熱時間を制限することにより完全乾燥を避け、残存する水の蒸発に必要なエネルギー量を節約することができる。好適には、PUは、オーブン、好適にはピンオーブンにおいて、60℃から160℃までの上昇温度でマイクロファイバー中間生成物に凝結させる。かかる温度の傾斜により、PUの浮遊状態を維持する界面活性剤を破壊するほどの熱を受ける前に、水が急激に蒸発して分散の固化部分が表面に移動するのを防ぐ。このホットエア凝固により、最適な抵抗力と耐性がある最終製品を取得することができる。更に、ホットエア凝固によりPUは透明になりやすいため、いかなるスペック現象も目立たなくなる。
【0027】
一方、温水凝固の場合、ステップd後の含浸させた材料は、好適には浸漬により、約20℃から90℃まで、更に好適には約40℃から80℃までの温度の水に接触するようにセットされる。水は、通常純水又は軟水からなり、PUの分散を不安定化させる所定量の媒介を含んでいてもよい。これにより、PUが凝固し始める温度(「曇り点」と定義される)を下げることが可能である。
【0028】
不安定化剤の例としては、ハロゲン化カルシウム、好適にはCaCl2から構成される。選択された媒介は、重さにして0.01%から5%、更に好適には0.1%から1%の量を使用することが可能である。温水凝固は、最終製品に高い柔軟性が求められる場合に特に適している。
【0029】
更に、本発明の好適な実施形態においては、凝固工程時のポリウレタンの移動を最小化し及び/又は凝固タンク中のポリウレタンの消失を最小化するために、PUを含む生成物の粘性を増加させる増粘剤を生成物に加えてもよい。増粘剤としては結合タイプ、つまりすでにミセルとして水分散液に存在するPUに結合することにより、ミセルが互いに集合したより複雑な分散構造を形成するような増粘剤が好ましい。これらの結合システムの機能は当業者に知られている。
【0030】
高周波凝固の場合、本方法のステップdで取得された含浸材料は、高周波照射により処理される。これは、例えば、平行、斜め、垂直フィールドを有する高周波オーブンを用いて行われ、0.1kVから10kVの範囲の電圧が電極間に印加される。同オーブンは、好適には斜め又は平行フィールドを有し、0.1kVから6kVの範囲の電圧を電極間に印加する。更に好適には、同オーブンは、平行フィールドを有し、0.3kVから5kVの範囲の電圧を電極間に印加する。利点としては、高周波凝固により、同材料を完全乾燥状態にする必要なく極めて短時間(およそ数分)でPUの硬化を達成できるため、凝固が起こるまでの中間生成物の乾燥時にポリウレタンが材料表面まで移動する現象を制限することができる。実際、高周波オーブンから出した直後の材料は湿気が残っていても、PUは完全に凝固しているため、最終製品の外観の質的な向上に加え、エネルギー及び時間の節約の観点から相当な効果につながる。
【0031】
上述の凝固工程が完了し得られた材料は、本発明のスエード状不織布を生成する最後のステップfに付される。具体的には、材料は、エメリー加工、染色、スプリッティング工程に付される(好適にはこの順番の通り)。本発明の一実施形態として、本方法のステップfはまた、エメリー加工、染色、スプリッティング工程の順番を変更して実行してもよい。
【0032】
上述のごとく、高いケン化度を有するPVAの水溶液を用いてステップbによる含浸を行った場合、最終工程の前に、同材料を80℃から99℃までの温水により処理をし、余分なPVAを除去する。PUの水溶液を用いてステップbによる含浸を行った場合、同材料は最終工程の前に乾燥されることが好ましい。
【0033】
厚みの薄い材料の場合特に、最終工程で特徴的なのは、PUを含浸したマクロファイバー中間材料を、エメリー加工、染色した後、最終段階としてスプリットすることである。公知の方法(最初にスプリット、続いてエメリー加工、染色を行う)に対し、本方法では、厚みがあり破断抵抗力のある中間生成物を染色することが可能である。染色工程の次にスプリッティング工程を変更することにより、時間、エネルギー、設備をかなり節約することができ、また染色サイクルに対する製品の耐性を損なうことなく、最終的に極めて薄い材料を実現することができる。
【0034】
このように生成された、鎖にイオン基を有するポリウレタンを含む染色中間生成物はまた、例えば陽イオン、アニオン、硫黄ベースのバット(vat)染料や反応染料を含む特定染料を用いた第2の染色サイクルに付すこともできる。これにより、ポリウレタンエラストマーマトリックスの染色も実現できる。
【0035】
最後に、別の観点によれば、本発明は、本方法で得られる(又は得ることができる)スエード状合成繊維不織布に関する。利点としては、本方法により得られる不織布は、対黄変に優れ、手触りが良く、耐久性が高く、白等の明るい色の染色に特に適していることが分かった。更に、上述のごとく実行された最終工程により、本発明の方法は、0.7mm未満の厚みである不織布を最終製品として得ることができるため、用途が極めて広く多様である。最後に、鎖にイオン基を有するポリウレタンを使用するため、本方法で得られる不織布は、ポリウレタンエラストマーマトリックスで染色することができる。
【0036】
本発明について、以下の実験セクションで説明するが、発明の範囲を制限することを意図するものではない。
【0037】
実験セクション
例0:複合成分ファイバを含むフェルトの生成
例0.1:Co−PES+PEG海成分及びPET島成分を有するフェルトの実現
島成分がPETで実現され、海成分がCo−PESで実現される海島型の複合繊維からフロックを生成する。PEGは海成分に同時押出する。繊維中の島成分と海成分の比率は57/43である。よって、海成分は3.5%のPEGと残り96.5%のCo−PESにより構成される。繊維の断面は円形で均等な径を有する16PETマイクロフィラメントを示す。フロックは、連続する島/海繊維に対しドローイング、クリンピング、カッティングを順次行うことにより得られる。
【0038】
フロックの特徴は:
繊維番手:4.3dtex
長さ:51mm
カール頻度:約4/cm
ドローイング比:3.5/1
このように決められたフロックは、メカニカルなニードルパンチに付され、密度が0.295g/cm3で単位重量が1000g/m2のフェルトを実現する。このように取得されたフェルトは「フェルトF1」と称する。
【0039】
例0.2:Co−PES海成分及びPET島成分を有するフェルトの実現
島成分がPETで実現され、海成分がCo−PESで実現される海島型の複合繊維からフロックを生成する。繊維中の島成分と海成分の比率は57/43である。繊維の断面は円形で均等な径を有する16PETマイクロフィラメントを示す。フロックは、連続する島/海繊維に対しドローイング、クリンピング、カッティングを順次行うことにより得られる。
【0040】
フロックの特徴は:
繊維番手:4.3dtex
長さ:51mm
カール頻度:約4/cm
ドローイング比:2.5/1
このように決められたフロックは、メカニカルなニードルパンチに付され、密度が0.285g/cm3で単位重量が892g/m2のフェルトを実現する。このように取得されたフェルトは「フェルトF2」と称する。
【0041】
例0.3:Co−PES+PVA海成分及びPET島成分を有するフェルトの実現
上記例0.1に記載された複合繊維であって、PEGを予め乾燥させたPVA5−88に代えた複合繊維からフロックを生成する。同繊維の海/島比率は同じであり、海成分における添加重量も同じである。このフロックは、密度が0.304g/cm3で単位重量が1084g/m2のフェルトを実現することができる加工性を保持し、「フェルトF3」と称する。
【0042】
例0.4:Co−PES海成分及びPET島成分を有する、薄いフェルトの実現
上記例0.2と同様の複合繊維からフロックを生成する。このフロックは、密度が0.292g/cm3で単位重量が585g/m2のフェルトを実現し、「フェルトF4」と称する。
【0043】
例1:高いケン化度を有するPVAを含浸することによる不織布の生成
例1.1:PVAによる含浸(ステップb)とこれに続く海成分の除去(ステップc)
「フェルトF2」中間生成物は、98℃の温度で、高いケン化度(98%)を有する11.6%のPVAを含む溶液に5分浸けて寸法収縮させ、オーブンで190℃の温度で乾燥する。乾燥は、水分を除去するとともにその結果である熱硬化工程を行うのに十分な時間をかけて行う。オーブンのスピードは、乾燥したシート反物が3分間190℃の温度に維持され、出口でわずかに褐色化するように調整される。次工程では、振動ウオッシャー内で60℃の温度で15分間、5%の苛性ソーダを用いてアルカリ処理を行うことにより、海成分の除去を行う。電子顕微鏡を用いて、海成分の除去と重量の減少とを交差分析した結果、海成分の除去が完了し、これらの条件下で、全てのPVAが残存していたことが分かった。このように補強されたシート反物は、重量で28%のPVAを含み、中間生成物「SRCD1」とする。
【0044】
例1.1a:60℃の除去温度で、海成分をPEGと同時押出して得られた繊維
「フェルトF1」中間生成物は、99℃の温度で、高いケン化度を有する11.6%のPVAを含む溶液に5分浸けて寸法収縮させ、オーブンで190℃の温度で乾燥する。乾燥は、水分を除去するとともにその結果である熱硬化工程を行うのに十分な時間をかけて行う。オーブンのスピードは、シート反物が出口で過度にならない程度に褐色化するように調整される。次工程では、振動ウオッシャー内で60℃の温度で15分間、5%の苛性ソーダを用いてアルカリ処理を行うことにより、海成分の除去を行う。電子顕微鏡を用いた分析の結果、海成分は効果的に除去され、PVAは残存し、重量変動の評価ではPVAは溶解条件下で可溶化していないとの結果になった。このように補強されたシート反物は、重量で28%のPVAを含み、中間生成物「SRCD2」とする。
【0045】
例1.1b:70℃の除去温度で、海成分をPEGと同時押出して得られた繊維
この例は、工程を速めるために、海成分の溶解温度を70℃まで上げた点において、例1.1aと異なる。電子顕微鏡を用いた分析の結果、海成分はより効果的に除去され、PVAは残存し、重量変動の評価ではPVAは溶解条件下で可溶化していないとの結果になった。このように補強されたシート反物は、重量で28%のPVAを含み、中間生成物「SRCD3」とする。
【0046】
例1.1b1(比較例):80℃の除去温度で、海成分をPEGと同時押出して得られた繊維
この例は、工程を更に速めるために、海成分の溶解温度を80℃まで上げた点において、例1.1aと異なる。電子顕微鏡を用いた分析の結果、海成分は完全に除去され、PVAは残存するが、重量変動の評価では一部が除去されたとの結果になった。このように補強されたシート反物は、重量で13%のPVAを含み、中間生成物「SRCD3/1」とする。PVAの損失により、この中間生成物は次工程では使用できない。
【0047】
例1.1c:
「フェルトF4」中間生成物は、高いケン化度を有する11.6%のPVA溶液に5分浸けて寸法収縮させ、オーブンで190℃の温度で乾燥する。乾燥は、水分を除去するとともにその結果である熱硬化工程を行うのに十分な時間をかけて行う。次工程では、振動ウオッシャー内で60℃の温度で15分間、5%の苛性ソーダを用いてアルカリ処理を行うことにより、海成分の除去を行う。
【0048】
このように補強されたシート反物は、重量で31%のPVAを含み、中間生成物「SRCD4」とする。
【0049】
例1.2:PUによる含浸とホットエア凝固
例1.1のマイクロファイバー中間生成物SRCD1は、CaCl2と、ポリウレタン、増粘剤、及びシリコーンからなる乳剤とを含む水分散液を含浸させる。具体的には、UX660−X12ポリウレタン(三洋化成工業製の脂肪族、アニオン性、ポリカーボネートベースのPUD)は、分散液の重量で20.2%、TAFIGEL PUR 41増粘剤(Munzing GmBH製のポリウレタンベース、非イオン界面活性剤)は1.1%、シリコンAシリコーン(三洋化成工業所有の製剤)は1.1%であり、CaCl2塩は1%である。生成物は、343cPの粘度と58℃の凝固温度(曇り点として知られている)を有する。
【0050】
含浸させたマイクロファイバー中間生成物を完全に乾燥させるまで85℃から130℃まで上昇する温度でピンオーブンにセットすることにより、乳剤を凝固させる。温度傾斜により、PUDの浮遊状態を維持する界面活性剤を破壊するほどの熱を受ける前に、水分の急速な蒸発により分散液の固化部分が表面に移動することを防ぐ。端部に存在するPVAの障壁効果の作用により、ほとんどのPUDが同複合材料の中心に分布されることになる。この時点で、PVAは、95℃の温度の振動ウオッシャー内の中間生成物から除去され、残りのシート反物は乾燥される。このように生成された中間生成物のPUD/PET比は、51.2%であり、シート反物を「IE1」とする。
【0051】
1.2a:架橋剤を含むPUによる含浸及びホットエア凝固
例1.1bで取得され「SRCD3」としたPET・PVA中間生成物は、DLUポリウレタン、増粘剤、及び架橋剤を含む水分散液を含浸させる。具体的には、DLUポリウレタン(Bayer製の脂肪族、アニオン性、ポリエーテル/ポリカーボネートベースのPUD)は、分散液の重量で17%、TAFIGEL PUR 44増粘剤は1.1%、IMPRAFIX 2794架橋剤(Bayer製のブロックされた脂肪族イソシアネートで、約120℃のアンブロッキング温度を有するもの)は0.8%である。このように得られた製剤は、粘度が568cPで、92℃の曇り点を有する。乳剤は、含浸させたマイクロファイバー中間生成物を最初のゾーンで完全に乾燥するまで85℃から150℃まで上昇する温度で15分間ピンオーブンにセットし、後者の温度をオーブンのラストゾーンで維持して架橋剤を確実に活性化させることにより、凝固させる。端部に存在するPVAの障壁効果により、ほとんどのPUDが同複合材料の中心に分布されることになる。
【0052】
PVAは、95℃の温度まで加熱された水により振動ウオッシャー内の中間生成物を洗浄することにより除去される。この中間生成物のPUD/PET比は、40.2%であり、シート反物は「IE1.a」とする。
【0053】
例1.2b:架橋剤を含むPUによる含浸及びホットエア凝固
例1.1cのSRCD4マイクロファイバーフェルトは、例1.2aで特定された同じ溶液、同じ方法で含浸させ凝固させる。このように生成された中間生成物のPU/PET比は、51.5%であり、厚みは1.51mmであり、「IE1.b」とする。
【0054】
例1.3:PUによる含浸及び塩の存在下での温水凝固
例1.1で得られるSRCD1マイクロファイバー中間生成物は、ポリウレタン及び増粘剤からなる乳剤を含む水分散液を含浸させる。例1.2とは異なり、この場合、乳剤にはシリコーン及びCaCl2は用いない。
【0055】
具体的には、UX660−X12ポリウレタン(三洋化成工業製の脂肪族、アニオン性、ポリカーボネートベースのPUD)は、分散液の重量で27%、TAFIGEL PUR 41増粘剤(Munzing GmBH製のポリウレタンベース、非イオン界面活性剤)は0.55%である。生成物は、524cPの粘度と69℃の凝固温度を有する。含浸させたシート反物は、水と重量0.5%のCaCl2を含むタンクで80℃の温度で24分浸けられる。この時点で、PVAは95℃の温度の振動ウオッシャー内の中間生成物から除去され、残りのシート反物は乾燥される。このように生成された中間生成物のPUD/PET比は50.3%であり、同シート反物は「IE2」とする。
【0056】
例1.4:PUによる含浸及び高周波凝固
例1.1のSRCD1マイクロファイバー中間生成物は、ポリウレタン、増粘剤、及びシリコーンからなる乳剤を含む水分散液を含浸させる。具体的には、UX660−X12ポリウレタン(三洋化成工業製の脂肪族、アニオン性、ポリカーボネートベースのPUD)は、分散液の重量で20.2%、TAFIGEL PUR 41増粘剤(Munzing GmBH製のポリウレタンベース、非イオン界面活性剤)は1.1%、シリコンAシリコーン(三洋化成工業所有の製剤)は1%である。このように得られた製剤は、332cPの粘度と75℃の平均曇り点を有する。含浸に続いて、ポリウレタンは、平行フィールドを有する高周波オーブンにおいて2分間で凝結する。このときの印加電圧は0.5kVであり、オーブンの出口では、シート反物には水分が残存するが、凝結は完了している。PVAの溶解前に同材料を乾燥状態にする必要はない。この時点で、PVAは95℃の温度の振動ウオッシャー内の中間生成物から除去され、残りのシート反物は乾燥される。このように生成された中間生成物のPUD/PET比は、52.7%であり、同シート反物は「IE3」とする。
【0057】
例1.4a:PUによる含浸及び薄い中間生成物における高周波凝固
例1.1cのSRCD4マイクロファイバーフェルトは、例1.4の仕様と同じ溶剤及び同じ方法で含浸、凝結される。このように生成された中間生成物のPU/PET比は、54.8%であり、厚みは1.52mmであり、「IE4」と称する。
【0058】
例2:PUの含浸による不織布の生成
例2.1:PUによる含浸(ステップb)とこれに続く海成分の除去(ステップc)
例0.2で得られるF2フェルトは、95℃の温水に5分浸けられ、130℃の対流式オーブンで乾燥されることにより、最終的な総密度が0.39g/cm3まで上がる。
【0059】
6.6%のWITCOBOND279−34ポリウレタン(Baxenden Chemicals製の脂肪族、アニオン性、ポリエーテルベースのPUD)及び乾燥ポリウレタンに対して7%の量のVISCOTAN SY増粘剤を含む分散液が別途生成され、最終的な粘度は180cPに至る。フェルトは、外気温度でポリウレタン分散液を含浸させ、絞りロールでメータリングし、35℃の5%酢酸のタンク内で23分含浸させ、振動ウオッシャー内で水洗浄し、シート反物のpH値を中和レベルにし、そして150℃のオーブンで乾燥させる。オーブンでは、シート反物はまず水を蒸発させてから、熱硬化する。次工程では、振動ウオッシャー内において60℃で15分間、5%の苛性ソーダを用いてアルカリ処理を行うことにより、海成分の除去を行う。電子顕微鏡を用いて、海成分の除去を重量減少の評価を用いて分析したところ、効果が見られた。このように補強されたシート反物は、重量で9.2%のポリウレタンを含み、「SRCD5」とする。
【0060】
例2.2:PUによる含浸及びホットエア凝固
例2.1で得られるSRCD5中間生成物を例として、CaCl2、及びポリウレタンと、増粘剤と、シリコーンとからなる乳剤を含む水分散液を含浸させる。具体的には、UX660−X12ポリウレタン(三洋化成工業製の脂肪族、アニオン性、ポリカーボネートベースのPUD)は、分散液の重量で20.2%、TAFIGEL PUR 44増粘剤(Munzing GmBH製のポリウレタンベース、非イオン界面活性剤)は1.1%、シリコンAシリコーン(三洋化成工業所有の製剤)は1.1%であり、CaCl2塩は1%である。シート反物を完全に乾燥させるまで130℃のピンオーブンにセットすることにより、シート反物において乳剤を凝固させる。ポリウレタン/PET比が50%になるように乳剤の混合物をシート反物上でメータリングする。ここでの、ポリウレタンとは、SRCD5中間生成物にすでに存在するポリウレタンと、上記乳剤凝固後に残るポリウレタンとの合計量である。このように得られたシート反物のポリウレタン/PET比は、58.2%であり、「IE5」とする。
【0061】
例2.3:PUによる含浸及び高周波凝固
例2.2と同様に、三洋のPUDを27%の濃度にして、カルシウム塩を除去する一方で、増粘剤とシリコーンの比率はそのままとする。ここで得られた製剤は、580cPの粘度を有する。含浸及びメータリングに続き、ポリウレタンは平行フィールドを有する高周波オーブンで2分間凝結させる。このときの印加電圧は0.5kVである。このように得られた布シートは、ポリウレタン/PET比が49.0%であり、「IE6」とする。
【0062】
例2.4:PUによる含浸及び温水凝固
例2.3と同様に、含浸分散水からシリコーンを除去する。ここで得られた製剤は、800cPの粘度を有する。含浸及びメータリングに続き、ポリウレタンは、40℃の温度で5%のCaCl2を含む水で24分間で凝固される。このように得られたシート反物は、ポリウレタン/PET比が45.9%であり、「IE7」とする。
【0063】
例3:最終処理
例3.1:含浸後の中間生成物の最終処理
上述した凝固タイプ(例1.2、1.2a、1.2b、1.3、1.4、1.4a,2.2、2.3、及び2.4)のいずれかによる含浸後のマイクロファイバーフェルトは、150から220メッシュまでの細かさのペーパを用いて、けばが均一な方向と長さとなるように両側をエメリー加工し、両側0.25mmを除去し、分散染料の混合物により120℃でジェット染色する。
【0064】
シート反物は、染色が終わると、最大トラレンス0.05mmで、その厚み方向に沿って長手方向に丁度半分にスプリットされる。最終的な厚みは0.73mmから1.01mmの間である。
【0065】
1.4aのシート反物の場合のみ、厚みが0.54mmの最終製品が得られる。
【0066】
ポリウレタンは、ホットエア凝固プロセスを適用することにより、1.2bのシート反物の場合のみ透明となる。これにより、染色された製品のスペッキングの出現を防ぐことができる。
【0067】
例3.2(比較例)
PVAを除かれた含浸後の中間生成品は、1.4aの例において実現される。同例とは異なり、この場合、シート反物は初め、その厚み方向に沿って長手方向に丁度半分にスプリットされ、次いでエメリー加工される。ブレードに接する側から0.04mmが除去され、他の側から更に0.25mm除去される。シート反物は次いで、分散染料の混合物により120℃でジェット染色される。
【0068】
同シート反物は、ダメージを受けることなく染色サイクルを完了させるのに十分な引っ張り強さがない。
【0069】
例3.3:分散及びバット(vat)染色
「IE3」マイクロファイバー中間生成品(水中のポリウレタンを含浸させ高周波オーブンで凝固させたもの)は、150から220メッシュまでの細かさのペーパを用いて、けばが均一な方向と長さとなるように両側をエメリー加工し、両側をそれぞれ0.25mm除去する。エメリー加工されたシート反物は、次の二つの連続する工程によってジェット染色される。第1工程は、120℃で分散染色して繊維に着色し、次の工程は、80℃でバット(vat)染色して、ポリウレタンに色付けする。
【0070】
染色工程の終わりには、中間生成品は、最大トラレンスが0.05mmで、その厚み方向に沿って長手方向に丁度半分にスプリットされる。ポリウレタンの色付けによって、シート反物の外観は、分散染色による着色だけの生成品よりも、均一となる。
【0071】
例3.4:二重含浸での分散カチオン染料による染色
「IE4」マイクロファイバー中間生成品は、150から220メッシュまでの細かさのペーパを用いて、けばが均一な方向と長さとなるように両側をエメリー加工し、両側をそれぞれ0.25mm除去する。エメリー加工されたシート反物は、次の二つの連続する工程によってジェット染色される。第1工程は、120℃で分散染色して繊維に着色し、次の工程は、80℃のカオチン染料による染色で、ポリウレタンに色付けする。
【0072】
染色工程の終わりには、中間生成品は、最大トラレンスが0.03mmで、その厚み方向に沿って長手方向に丁度半分にスプリットされる。
【0073】
ポリウレタンの着色によって、シート反物の外観は、分散染色による着色だけの生成品よりも均一となる。
図1
図2