特許第6371777号(P6371777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6371777果実細胞の大規模生産プロセス及び果実細胞による疾患の治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371777
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】果実細胞の大規模生産プロセス及び果実細胞による疾患の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/87 20060101AFI20180730BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20180730BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20180730BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20180730BHJP
   A61K 31/7034 20060101ALI20180730BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20180730BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20180730BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20180730BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20180730BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20180730BHJP
   C12N 5/04 20060101ALN20180730BHJP
   C12P 19/44 20060101ALN20180730BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20180730BHJP
【FI】
   A61K36/87
   A61P3/06
   A61P9/12
   A61P3/10
   A61K31/7034
   A61K9/06
   A61K9/08
   A61K9/14
   A61K9/48
   A23L33/105
   !C12N5/04
   !C12P19/44
   A61K131:00
【請求項の数】11
【全頁数】54
(21)【出願番号】特願2015-550206(P2015-550206)
(86)(22)【出願日】2013年12月24日
(65)【公表番号】特表2016-510318(P2016-510318A)
(43)【公表日】2016年4月7日
(86)【国際出願番号】IL2013051052
(87)【国際公開番号】WO2014102776
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2016年11月30日
(31)【優先権主張番号】61/745,843
(32)【優先日】2012年12月26日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/764,547
(32)【優先日】2013年2月14日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/878,652
(32)【優先日】2013年9月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515117590
【氏名又は名称】バイオ ハーヴェスト リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハーゲイ、ヨヘブド
(72)【発明者】
【氏名】アバーゲル、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】アザチ、マルキット
(72)【発明者】
【氏名】ロス、ヨアブ
(72)【発明者】
【氏名】ヤタブ、リブカ
【審査官】 鈴木 理文
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0160560(US,A1)
【文献】 特表2008−531548(JP,A)
【文献】 特表2016−500520(JP,A)
【文献】 Oxid. Med. Cell. Longev.,2009年,Vol.2 No.5,pp.270-278
【文献】 Hypertension,2010年,Vol.55,pp.1179-1185
【文献】 J. CardioMetab. Syndr.,2009年,Vol.4,pp.102-106
【文献】 Mol. Nutr. Food Res.,2012年 9月,Vol.56,pp.1559-1568
【文献】 Eur. J. Pharmacol.,2007年,Vol.568,pp.269-277
【文献】 NCT01747252 on 2012_12_10: ClinicalTrials.gov Archive,2012年12月10日
【文献】 Electron. J. Biotechnol.,2012年 9月,Vol.15 Iss.5,doi: 10.2225/vol15-issue5-fulltext-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/06
A61K 9/08
A61K 9/14
A61K 9/48
A61K 36/87
A23L 33/105
A61K 31/7034
A61P 3/06
A61P 3/10
A61P 9/12
A61K 131/00
C12N 5/04
C12P 19/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタボリックシンドロームまたは代謝疾患を治療、軽減、緩和または予防するための、インビトロで増殖したブドウ果実細胞の細胞株カルス培養物に由来する乾燥粉末を含む組成物の製造方法であって、
前記ブドウ果実細胞の細胞株カルス培養物が、乾燥させて粉末にした後の粉末1kg当たり少なくとも1000mgの量のレスベラトロールの配糖体を含み、
前記メタボリックシンドロームまたは代謝疾患が、血圧低下、血中トリグリセリドの低下、または血中インスリンの低下によって治療、軽減、緩和または予防される疾患であり、
前記ブドウ果実細胞の細胞株カルス培養物が、大規模プロセスにより作製され、
前記大規模プロセスが、
フラスコ内でブドウ果実細胞を増殖させるステップと、
前記ブドウ果実細胞を前記フラスコから最初のバイオリアクタに植菌するステップと、
前記ブドウ果実細胞を前記最初のバイオリアクタから別のバイオリアクタに植菌するステップであって、前記別のバイオリアクタが最後のバイオリアクタまたは中間のバイオリアクタであり、かつ前記最初のバイオリアクタまたは前記別のバイオリアクタのうちの少なくとも一方が使い捨てである、該ステップと、
前記最後のバイオリアクタから前記ブドウ果実細胞を収穫するステップとを含み、
前記最後のバイオリアクタから収穫された前記ブドウ果実細胞が乾燥されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記メタボリックシンドロームまたは代謝疾患が、高血圧、高脂血症、及び高トリグリセリド血症からなる群から選択される1若しくは複数の病気であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
当該組成物が栄養補助食品組成物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
当該組成物が、洗口液、粉末、細長片、泡、チューインガム、経口噴霧剤、ロゼンジ、カプセル、歯磨き粉、食品成分添加物(栄養補助食品)、食品成分、食品及び飲料からなる群から選択される形態をとることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ブドウ果実細胞が、KNO、MgSO、MgNOまたはNaHPO、あるいはそれらの組合せで強化されたガンボーグB5培地で増殖させたものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物を、当該組成物を含む医薬または栄養補助食の形態とし、前記医薬または栄養補助食が、1日1回投与を意図したものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が、当該組成物を含む医薬または栄養補助食の単回投与後における、血漿中のレスベラトロールの配糖体の2つの濃度ピークによって特徴付けられることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記メタボリックシンドロームまたは代謝疾患が、高血圧であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記高血圧が、軽度高血圧症及び/または高血圧前症によるものであり、
血圧の低下が、血流依存性血管拡張反応(FMD)により測定される血管機能の少なくとも70%の改善によるものであることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記メタボリックシンドロームまたは代謝疾患が、高脂血症または高トリグリセリド血症であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記レスベラトロールの配糖体が、合成レスベラトロールよりも少なくとも6倍溶解しやすいことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実細胞の大規模生産プロセスに関する。本発明の一実施形態は、一次及び二次代謝産物を含む果実細胞の大量インビトロ生産プロセスに関する。本発明は、さらに、果実細胞の細胞株カルス培養物の投与によってメタボリックシンドロームに関連する1若しくは複数の症状または合併症を治療、予防、緩和及び/または軽減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大規模プロセスは、当技術分野において知られており、かつ様々な原料の工業生産のために必要とされている。小規模プロセスと同じ手段によって大規模プロセスを行うことはできないので、たとえ小規模プロセスが存在する場合でも、原料の大規模生産のための特有のプロセスを設計しなければならない。
【0003】
栄養補助食品は、果実細胞に天然に含まれている例えばポリフェノールなどの所望の有効成分を提供する合成プロセスを用いて作製される場合がある。しかし、合成プロセスを用いると、有効成分とともに天然成分が提供されない。天然成分は、常にではないが製剤の有効性に寄与する。
【0004】
他の種類の栄養補助食品は、天然植物から作製される。しかし、植物から栄養補助食品を作製する既知の大規模プロセスは全て、所望の有効成分を得るために、作製された植物細胞を抽出することを含む。しかし、例えばポリフェノール含有植物を抽出するとき、抽出物中においてポリフェノール(レスベラトロールを含む)の量は非常に多量であり得るので、最終生成物は苦い場合がある。また、植物の特定部分のみが所望の量の有効成分を含むので、当該特定部分のみをうまく抽出することもできる。
【0005】
果実細胞の作製のための小規模プロセスは当技術分野において知られているが、大規模プロセスは、一次代謝産物の生産を増大させる一方で二次代謝産物の生産を最小限に抑える傾向があるため、設計がより困難である。ポリフェノールなどの有効成分は二次代謝産物であるので、大規模プロセスでの生産は手間がかかる。
【0006】
したがって、天然成分から果実細胞(果実細胞の一次代謝産物及び二次代謝産物の両方の生産を含む)を作製するための大規模プロセスが必要とされている。
【0007】
代謝異常は、肥満、インスリン抵抗性耐糖能異常、2型糖尿病(DMII)、脂質異常症、脂肪肝、脂肪性肝炎、脂肪症に関連している。これらの代謝異常は、脳卒中心血管疾患のリスクを高める。メタボリックシンドロームの原因は、遺伝及び環境の影響を含めて多元的であると考えられる。
【0008】
アテローム性動脈硬化は、血管壁に蓄積して血管内の血流通路を狭める脂肪蓄積物によって引き起こされる血管床の疾病である。この過程は、全ての動脈、特に冠動脈に影響し、最終的には冠動脈の閉塞をもたらし、結果的に心臓発作を引き起こし得る。心臓発作は、米国における若年死の原因の第1位である。
【0009】
脂肪肝疾患は、組織学的に主として肝臓の大滴性(macrovesicular steatosis)によって特徴付けられる病態スペクトラムを含む。脂肪肝疾患の病理学的スペクトラムは、単純な脂肪肝(脂肪症)からその変種であり様々な程度の線維化がみられる脂肪性肝炎に及ぶ。脂肪性肝炎は、進行性であり得、肝硬変、肝不全及び肝細胞癌の原因となり得、特発性肝硬変の主な原因であり得る。よく見られる脂肪肝疾患のリスクファクター(危険因子)は、肥満、2型糖尿病、高脂血症(脂質異常症)である。
【0010】
2型糖尿病は、最も多い慢性のヒト疾患の1つであり、米国における成人人口のほぼ8%、65歳以上人口の19%が罹患している。
【0011】
メタボリックシンドロームは、「死の四重奏」または「シンドロームX」または「インスリン抵抗性症候群」としても知られており、様々な疾患、例えば、心血管疾患、脳卒中及び2型糖尿病、すなわちインスリン抵抗性、高インスリン血症、(腹腔内脂肪の蓄積によって引き起こされる)腹部肥満、高い血清脂質及び高血圧のリスクファクター群である。米国に住む成人の25%がメタボリックシンドロームと診断される。メタボリックシンドロームの病態生理は、インスリン抵抗性と関連していると考えられている。リスクファクターには、以下のものが含まれる。胴囲の増加(男性で102cm、女性で88cm);高トリグリセリド(>150mg/dL);高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールの低下(男性で<40mg/dL、女性で50mg/dL);高血圧(>130/85mmHg)及び高い空腹時血糖(>100mg/dL)。他のリスクファクターも同様にメタボリックシンドロームに寄与しうる。さらに、リスクファクターは個体群によって異なり得る。
【0012】
空腹時高血糖(IFG)は、インスリン抵抗性に関連する糖代謝異常の前糖尿病(pre-diabetic)状態であり、空腹時血糖値101〜126mg/dLとして定義される。
【0013】
耐糖能異常(IGT)は、IFGと同様の定義で定義されるインスリン抵抗性に関連する糖代謝異常の前糖尿病状態、または高グルコース食(通常は75gのグルコース)経口摂取2時間後血糖値141〜199mg/dLとして定義される。
【0014】
代謝疾患の多くは、トリグリセリド蓄積及びインスリン抵抗性によって特徴付けられる。
【0015】
様々な体内組織、例えば、筋肉、肝臓及び膵臓組織におけるトリグリセリド蓄積は、代謝疾患の発症をもたらす臓器特異的なインスリン抵抗性の重要なファクターであると考えられている。さらに、脂肪滴(組織内の脂肪体と同義)の蓄積がインスリン抵抗性の発症の早期に生じ、その重症度と相関性がある。
【0016】
持続性高血圧は、いくつかの疾病及び疾患のリスクファクターのうちの1つである。高血圧は、西欧諸国における死因の第3位である虚血性脳卒中の唯一の最も重要な是正可能なリスクファクターである。脳卒中のリスクは、血圧(BP)測定値が120/80ミリ水銀(mmHg)以上に上昇することから始まる。高血圧を収縮期血圧(SBP)160mmHg及び/または拡張期血圧(DSP)95mmHgと定義した場合、高血圧のほとんどの推定値は約4の脳卒中の相対的なリスクを示す。
【0017】
地域ベースの研究は、高血圧が50〜60%もの患者において心不全の発症に寄与し得ることを示していた。高血圧の患者においては、心不全のリスクが男性で2倍、女性で3倍増加する。フラミンガムスタディによれば、高血圧は心不全症例の約4分の1を占める。
【0018】
高血圧は、確立された心血管リスクファクターであるのみならず、アテローム性動脈硬化のリスクを増大させる。DBPの最大五分位群において、高コレステロール及び喫煙のリスクを加味したとしても、高血圧は尚もアテローム性動脈硬化のリスクに著しく寄与することが、種々の臨床試験によって示されている。
【0019】
高血圧は、慢性腎臓病(CKD)患者の85〜95%に発症することが報告されている。コントロールされていない高血圧は、CKD発症のリスクファクターであり、米国における末期腎臓病の原因の第2位である。
【0020】
過去においては、最も注目されていたのはDBPであったが、今日では、高いSBP及び高い脈圧(SBPとDBPの数値的な差)も共にリスクファクターであると認識されている。重要なことには、SBP及びDBPを組み合わせて評価する方がこれら2つの要素を個々に評価するよりも心血管リスク予測を改善することが実証されている。そうは言うものの、DBPはやはり重要な心血管リスクファクターである。フランクリンら(Franklin et al)による研究において、拡張期高血圧は心血管リスクファクターであった。拡張期高血圧の被験者は高血圧人口の14%に相当し、拡張期高血圧の被験者の心血管リスクは正常な血圧の被験者の約2倍であることが分かった(Schillaci et al., 2009)。さらに、全国的な中国のデータベースにおいても、拡張期高血圧が心血管疾患の独立したリスクファクターであることが確認された。
【0021】
脂質過酸化反応は、結果として細胞に損傷を与える過程における脂質の酸化変質を指す。脂質過酸化反応は、いくつかのリスクファクターにより心血管疾患が促進され得る1つの機構であり得る。
【0022】
脂質過酸化反応は、種々の心血管リスクファクター、例えば、年齢、トリグリセリド、喫煙、高密度リポタンパク質(HDL)コレステロール、体格指数(BMI)などと相関が高いことが分かった。
【0023】
妊婦、卵巣摘出した女性及び閉経後女性は、非妊婦、卵巣非摘出女性及び閉経前女性よりも高いレベルの脂質過酸化反応を示し、これらの段階における高レベルの脂質過酸化反応は、少なくとも部分的に、CVDのリスクを高める原因である。
【0024】
本態性高血圧の患者から単離した低密度リポタンパク質(LDL)は、酸化傾向の増加を示す。したがって、酸化LDL(Ox−LDL)によって加速性アテローム性動脈硬化に罹りやすくなり、LDLの脂質過酸化反応の傾向は、LDL自体の血漿濃度と同じように重要なアテローム発生のリスクファクターであり得る。
【0025】
内皮機能障害の発現としての血流依存性血管拡張反応(FMD)は、いくつかの疾病の指標として機能し得る。FMDは、FMDの1%の低下に対してオッズ比1.32で(p=0.001)、冠動脈疾患(CAD)の高い予測指標であった。アテローム性動脈硬化のみならず、全身性硬化症においても、FMDは疾病の進行と相関が高かった。FMD値と疾病期間の間には逆相関関係があった。
【0026】
閉経後の女性において、低FMD値は、高血圧になる相対的なリスクの増加と相関があった。
【0027】
FMDは、虚血性の進行した慢性心不全(ACHF)の患者における死亡リスクの増加に関連している(Shechter et al., 2009)。さらに、心不全(HF)及びアテローム性動脈硬化のリスクファクターの治療にもかかわらず低FMDが持続することは、慢性虚血性HFの患者における心イベントの予測因子であった。
【0028】
脳卒中患者は、非脳卒中患者よりも著しく低い血流依存性血管拡張反応(FMD)値を有していた。FMDは、年齢、性別、卵円孔開存(PFO)の有無によって調整された場合、潜因性脳卒中の独立した予測因子となり得る。
【0029】
最後に、早期のアテローム性動脈硬化を発症しやすいヘテロ接合性家族性高コレステロール血症(heFH)の子供においては、構造的なアテローム硬化性変化が発生する前にFMDの低下が検出される。
【0030】
ポリフェノール含有果実抽出物由来の栄養補助食品は、有益な効果があることで有名である。これらの制御的な構成物質の原料としての赤ワインの使用は、アルコール含有量及び糖含有量が高いために制限されている。さらに、ワイン及びワイン用ブドウの治療効果は、品種、生産地、収穫年(年間気候)、加工などに依存し、したがって、これらの制御的な化合物の原料としての赤ワイン、ブドウまたはブドウ種子への依存が一様な、または一貫した原料供給をもたらさないということが明らかにされている。さらに、果実は、多くの場合、残留殺菌剤、病原体、農薬及び汚染物質によって汚染されている。
【0031】
さらに、赤ワイン及び果実抽出物から得られるポリフェノールの胃腸送達の潜在的有効性は、標的組織及び細胞に対する当該ポリフェノールのバイオアベイラビリティによって制限される。腸を通過する間のバイオアベイラビリティに顕著な相違があるために、所与の食物に含まれる特定のポリフェノールの存在量と、生体内での活性化合物としてのその濃度との間に、相関関係を指摘することはできない。例えばフラボノイドは用量の0〜60%が小腸で吸収され、排出半減期は2〜48時間である。ほとんどのポリフェノールは、腸内で広く代謝され、主に血清及び尿中にグルクロン酸抱合物、メチルまたは硫酸塩として存在する。既知のポリフェノールの中でも、赤ブドウ、赤ワイン及び他の食品、例えば異なる種類のベリー類及びピーナッツに含まれるファイトアレキシン・レスベラトロール(トランス−3,5,4’−トリヒドロキシスチルベン)(RES)は、注目の大部分を集めていた。これは、節度をもって赤ワインを消費している結果として高脂肪食を摂取しているにもかかわらず冠状動脈性疾患の発生が少ないことに関連する現象である「フレンチパラドックス」の原因であると考えられている。しかし、RESのバイオアベイラビリティは、水溶性の低さや肝取り込みの高さなどのRESの物理化学的特性によって低下させられる。さらに、RESの経口バイオアベイラビリティは、迅速かつ広範な代謝及び結果として生じる様々な代謝産物の形成に起因して非常に低い。
【0032】
RES活性及び効果を調べる研究は、主に3つのレスベラトロール源に依存している。3つのレスベラトロール源とは、純粋な合成RESと、天然植物由来のRES(例えばイタドリ抽出物)生成物と、それには及ばないものの、赤ブドウそのものまたは赤ブドウ生成物(赤ワイン、ブドウジュース、ブドウ抽出物)である。赤ブドウ細胞(RGC;イスラエル国フルーチュラ・バイオサイエンス社(Fruitura Bioscience Ltd)製)は、レスベラトロール及び赤ブドウに天然に存在する他の成分を含むポリフェノールの全マトリックスを含むブドウ属ヴィニフェラ種(Vitis Vinifera L.)品種の果実に由来する培養細胞の、自然のままの特許で保護された製剤である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】英国特許公開第1,489,832号
【特許文献2】米国特許第4,753,805号明細書
【特許文献3】欧州特許公開第0 221 850号
【特許文献4】イタリア特許公開第1,273,487号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
したがって、天然成分から果実細胞(果実細胞の一次代謝産物及び二次代謝産物の両方の生産を含む)を作製するための大規模プロセスが必要とされている。また、大規模プロセスで作製され得る天然(植物性)組成物であって、有効成分量が一貫して繰り返し起こり(例えばクローンの作製)、非常に生物学的に利用可能であり、かつ様々な疾病(代謝障害または代謝疾患に関連する症状または合併症を含む)の治療及び予防のために容易に投与されるような組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明の一実施形態では、メタボリックシンドロームまたは代謝疾患を治療、軽減、緩和または予防する方法であって、インビトロで増殖した果実細胞の細胞株カルス培養物を含む組成物を投与するステップを含む方法が提供される。
【0036】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、対象者において、冠状動脈性疾患(アテローム性動脈硬化)、血圧、虚血、心不全、アテローム性動脈硬化、慢性腎臓病(CKD)及び腎臓病全身性硬化症、慢性心不全、高血圧、糖尿病、高脂血症、耐糖能異常、肝臓脂肪症、高血糖症、前糖尿病状態、新規発症糖尿病、インスリン抵抗性、真性糖尿病、空腹時血糖異常、高トリグリセリド血症、抗炎症(アディポネクチン)、高コレステロール血症、低HDLレベル、脂肪肝及び肥満からなる群から選択される1若しくは複数の病気を治療する方法であって、対象者に対して、インビトロで増殖した果実細胞の細胞株カルス培養物を含む組成物を投与するステップを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、対象者はメタボリックシンドロームと診断されている。
【0037】
発明のいくつか実施形態によれば、果実細胞の細胞株カルス培養物は、大規模プロセスであって、フラスコ内で果実細胞を増殖させるステップと、果実細胞をフラスコから最初のバイオリアクタに植菌するステップと、果実細胞を最初のバイオリアクタから別のバイオリアクタに植菌するステップ(ここで、別のバイオリアクタは最後のバイオリアクタまたは中間のバイオリアクタであり、最初のバイオリアクタまたは別のバイオリアクタのうちの少なくとも一方が使い捨てである)と、最後のバイオリアクタから果実細胞を収穫するステップとを含み、かつ最後のバイオリアクタから収穫された果実細胞が、乾燥されることを特徴とする大規模プロセスにより作製される。
【0038】
本発明のいくつか実施形態によれば、マグネシウム塩、リン酸塩及び硝酸塩、またはそれらの組合せで強化されたガンボーグB5培地が用いられる。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態では、使い捨てバイオリアクタは、1若しくは複数のポリエチレン層から作られたものである。いくつかの実施形態では、使い捨てバイオリアクタは、ポリエチレンの内層及び外層並びにナイロンの中間層から作られたものである。
【0040】
いくつかの実施形態では、メタボリックシンドロームまたは代謝疾患を治療、軽減、緩和または予防する方法であって、果実細胞の細胞株カルス培養物を含む組成物を投与するステップを含み、果実細胞の細胞株カルス培養物は、大規模プロセスであって、フラスコ内で果実細胞を増殖させるステップと、果実細胞をフラスコから最初のバイオリアクタに植菌するステップと、果実細胞を最初のバイオリアクタから別のバイオリアクタに植菌するステップ(ここで、別のバイオリアクタは最後のバイオリアクタまたは中間のバイオリアクタであり、最初のバイオリアクタまたは別のバイオリアクタのうちの少なくとも一方が使い捨てである)と、最後のバイオリアクタから果実細胞を収穫するステップとを含み、かつ最後のバイオリアクタから収穫された果実細胞が、乾燥されることを特徴とする大規模プロセスにより作製されるような方法が提供される。
【0041】
いくつかの実施形態では、炎症を治療、軽減、緩和または予防する方法であって、大規模プロセスにより作製された果実細胞の細胞株カルス培養物を含む組成物を投与するステップを含み、大規模プロセスが、フラスコ内で果実細胞を増殖させるステップと、果実細胞をフラスコから最初のバイオリアクタに植菌するステップと、果実細胞を最初のバイオリアクタから別のバイオリアクタに植菌するステップと、最後のバイオリアクタから果実細胞を収穫するステップとを含み、別のバイオリアクタが最後のバイオリアクタまたは中間のバイオリアクタであり、かつ最初のバイオリアクタまたは別のバイオリアクタのうちの少なくとも一方が使い捨てであり、最後のバイオリアクタから収穫された果実細胞が乾燥されることを特徴とする方法が提供される。
【0042】
いくつかの実施形態における組成物は、1日1回投与され得る。
【0043】
いくつかの実施形態では、大規模スケールアッププロセスにおいてインビトロで増殖したブドウ果実細胞の細胞株カルス培養物を含む粉末形態の組成物であって、ブドウ果実細胞の細胞株カルス培養物が、ブドウ果実横断切片、ブドウ果皮、ブドウ果実果肉、ブドウ種子、有核または無核の品種のブドウ胚、あるいはブドウ種皮のうちの1つ若しくは複数に由来するものであり、かつブドウ果実細胞の細胞株カルス培養物が、粉末1kg当たり少なくとも1000mgの量(1000mg/kg)のレスベラトロールを含む組成物が提供される。
【0044】
いくつかの実施形態における組成物は、組成物の単回投与後の血漿中のレスベラトロール濃度の2つのピークによって特徴付けられる。
【0045】
いくつかの実施形態では、安静時及び/または運動中の拡張期及び収縮期血圧及び/または安静時の心拍数を低下させる方法であって、対象者に対して、インビトロで増殖した果実細胞の細胞株カルス培養物を含む組成物を投与するステップを含む方法が提供される。
【0046】
本発明については、本明細書において、添付の図面を参照して単に例として説明されている。ここで、具体的に図面を詳細に参照して、示されている特定の形態は例として本発明の好適実施形態を説明するためのものであり、本発明の原理及び概念的側面の最も有用で容易に理解される説明であると考えられるものを提供するために示されていることを強調する。これに関して、本発明の基本的な理解のために必要である以上に詳細に本発明の構造細部を説明することはない。本明細書の説明及び図面は、本発明のいくつかの形態を如何にして実行し得るかを当業者に明らかにしている。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】カラギーナン注射の前に、RGC製剤、インドメタシン及び対照として水でそれぞれ処理したラットにおける足浮腫の測定結果(体積パーセント)を示している。反復測定のための二元配置分散分析法を用いて統計分析を行い、次にボンフェローニ・ポストホックテスト(ボンフェローニ法)を用いた。対照群(1M)と陽性対照群(2M)との比較は、2時間後及び4時間後に統計的に有意な差(p<0.001)を示した。対照群とRGC製剤(3M)群との比較は、2時間及び4時間後に統計的に有意な差(p<0.001)を示した。
図2】本研究中にホットプレートによって測定された群の痛覚過敏作用の分布を示す(結果は、時間の関数としての「ベースラインからのホットプレート潜時,%」として表されている)。反復測定のための二元配置分散分析法を用いて統計分析を行い、次にボンフェローニ法を用いた。対照群(1M)と陽性対照群(2M)との比較は、2時間後及び4時間後に統計的に有意な差(p<0.05−0.01)を示した。対照群とRGC(3M)との比較は、4時間に統計的に有意な差(p<0.01)を示した。
図3】ホットプレートで測定された群の痛覚過敏作用の分布を示す(結果は、時間の関数としての「ホットプレート潜時Δ,ベースライン−実時間」として表されている)。反復測定のための二元配置分散分析法を用いて統計分析を行い、次にボンフェローニ法を用いた。対照群(1M)と陽性対照群(2M)との比較は、2時間後及び4時間後に統計的に有意な差(p<0.05−0.01)を示した。対照群とRGC処理マウス(3M)との比較は、4時間後に統計的に有意な差(p<0.01)を示した。
図4】大規模使い捨てバイオリアクタ内において強化ガンボーグB5培地で増殖させた4つの異なるバッチの赤ブドウ細胞の増殖曲線を示す。赤ブドウ細胞は指数増殖し、20日後から最大40日後に500g/1の新鮮(生)バイオマスが得られた。これらの細胞は増殖し続け、より高いバイオマスに達することができる。
図5】異なる量の赤ブドウ細胞(RGC)の添加あり及びなしの高フルクトース食を与えたラットにおける、ベースライン時並びに高フルクトース食を与えた3週間後及び5週間後の収縮期血圧(BP)vs時間を示す。
図6A】RGCに含まれるレスベラトロールのLC−MS分析に関連するUVクロマトグラム(λ=306nm)である。
図6B】RGCに含まれるレスベラトロールのLC−MS分析に関連する抽出イオンクロマトグラム(m/z−227.0701−227.0737)である。
図7】代表的なトランスRESグリコシドの負イオン(negative)ESIマススペクトル(保持時間4.64分,m/z389.1250)を示す。レスベラトロール(m/z227.0719)はm/z389.1250のインソースフラグメンテーションプロダクトイオンである。
図8】水へのレスベラトロール(RES)の溶解度の結果を、RGC−RES、合成−RES及び植物−RESの溶解度と比較して示す。
図9A】全トランス型RESの、1回分の用量のRGC−RESを投与した後の血漿含有量を表している。示されている値は平均値である(n=15)。
図9B】遊離トランス型RESの、1回分の用量のRGC−RESを投与した後の血漿含有量を表している。示されている値は平均値である(n=15)。
図10】RGC摂取の12週間後の、被験者の血漿過酸化脂質に対するRGCの効果を示す(200mg及び400mgのRGCをそれぞれ投与した被験者を合わせて示す)。
図11】>70%のFMD値の相対的な肯定的な変化が起こった被験者の割合を示す(p<0.05,**p<0.005)。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明を十分に理解するために、以下の詳細な説明において数々の具体的詳細を説明する。しかし、これらの具体的詳細なしでも本発明を実施することができることは、当業者には理解されるであろう。他の例では、本発明を不明瞭にしないように、公知の方法、手順及び成分についての詳細説明はしない。
【0049】
本発明の種々の実施形態は、メタボリックシンドロームまたはメタボリックシンドロームに関連する症状または合併症、例えば、高血圧、糖尿病、高脂血症、耐糖能異常、肝臓脂肪症、高血糖症、前糖尿病状態、新規発症糖尿病、インスリン抵抗性、真性糖尿病、空腹時血糖異常、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、低HDLレベル、脂肪肝または肥満などを治療、軽減、緩和及び/または予防する方法であって、インビトロで増殖した果実細胞の細胞株カルス培養物を含む組成物を投与するステップを含む方法に関する。本発明のいくつかの実施形態では、細胞は、後述する大規模プロセスにおいて増殖させられる。
【0050】
本明細書において、「果実細胞培養物」なる語は、大規模スケールアッププロセスにおいてインビトロで増殖した果実細胞の細胞株カルス培養物を指す。果実細胞培養物は、単細胞果実培養物(本明細書においては果実細胞株培養物またはクローン培養物)であってもよいし、あるいは互いに異なる遺伝子型(例えば異なる種)を有する複数の果実に由来する複数の細胞を含むかまたは単一の果実に由来する複数の細胞型または組織を含む異種細胞培養物であってもよい。本発明の細胞培養物は、果実の任意の部分、例えば果皮、果肉、種皮、種子肉などに由来するものであってよい。
【0051】
本明細書において、「治療(する)」なる語は、疾患、病気または疾病に関連する種々の症状のうちのいくつかまたは全ての予防を指す。「治療(する)」なる語はまた、疾患の症状または根本原因の緩和、改善または軽減、疾患患者の平均寿命の延長、疾病の予防及び疾患からの完全な回復を指す。
【0052】
「治療する」または「治療」なる語は、さらに、望ましくない生理的な変化または障害を遅らせる(減少させる)ことを目的とする治療を指す場合もある。本発明の適用上、有益または望ましい臨床結果には、検出可能であれ検出不能であれ、症状の緩和、疾病の範囲の縮小、疾病の安定した(すなわち、悪化していない)状態、疾病の進行の遅延または減速、疾病状態の改善または緩和及び寛解(部分寛解か完全寛解かを問わず)が含まれるが、これらに限定されるものではない。「治療」は、治療を受けていない場合に予想される生存期間に比べて、生存期間を延ばすことを意味する場合もある。
【0053】
「予防する」または「予防」なる語は、所与の疾患がない個人が当該疾患に進行することを防止するかまたは不可能にするための予防または防止措置を指す。予防が必要とされる個人には、或る疾患になりやすいかまたは罹りやすい素因を持っている個人が含まれる。
【0054】
本明細書において、「炎症性疾患」なる語には、慢性炎症性疾患及び疾病並びに急性炎症性疾患及び疾病が含まれるが、これらに限定されるものではない。これは例4において例示されている。例4は、ラットにおけるカラギーナンによって誘発される後足炎症と関連する足浮腫及び行動痛覚過敏が、本明細書に記載されている大規模プロセスにより製造した赤ブドウ細胞(RGC)の経口投与によって実際的に軽減されたことを示しており、このことは、大規模プロセスで作製されたRGCの抗炎症作用を示している。対照的に、Gentilli et al (2001)には、肢へのカラギーナン注射の前にラットに投与された高濃度のレスベラトロール(50mg/kg体重)によって足浮腫が減少しなかったことが記載されている。本明細書において、「脂肪肝」なる語は、脂質代謝の障害に起因して肝細胞に脂肪が過剰に蓄積した状態を指す。脂肪肝は、様々な疾病、例えば、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、動脈硬化症、膵炎などを引き起こし得る。
【0055】
「耐糖能異常」は、本明細書においては、米国糖尿病学会の基準に基づいて定義される。耐糖能異常は、75gのグルコースを摂取した2時間後の経口耐糖能試験値が140〜199mg/dL(7.8〜11.0mmol/l)の場合を指す。
【0056】
「空腹時血糖異常」は、本明細書においては、米国糖尿病学会の基準に基づいて定義される。空腹時血糖異常は、空腹時血糖値が100〜125mg/dL(5.6〜6.9mmol/l)の場合として定義される。
【0057】
「糖尿病」は、一般的に、空腹時血糖値が126mg/dL(7.0mmol/l)以上の場合を指す。
【0058】
「インスリン抵抗性」は、本明細書においては、空腹時血中インスリン濃度が20mcU/mLを超えた場合として定義される。
【0059】
「新規発症糖尿病」は、個人において、(通常は空腹時血糖濃度が7.0mmol/l以上の場合に基づいて定義される)。
【0060】
「前糖尿病状態」は、多くの場合に新規発症糖尿病に先行する状態であり、メタボリックシンドローム、耐糖能異常、空腹時血糖異常またはインスリン抵抗性によって特徴付けることができる。
【0061】
「メタボリックシンドローム」または「シンドロームX」は、本明細書においては、全米コレステロール教育プログラム(NCEP)成人治療委員会III(ATP III)のガイドラインに基づいて、以下のファクター、すなわち、1)胴囲の増加(男性で>102cm[>40インチ]、女性で>88cm[>35インチ]);2)高トリグリセリド(>150mg/dL);3)低HDLコレステロール(男性で<40mg/dL、女性で<50mg/dL);4)最適でない血圧(収縮期>130mmHgまたは拡張期mmHg);及び5)空腹時血糖異常(>110mg/dL)のうちの3つ以上の存在によって定義される。
【0062】
「高血糖症」は、空腹時血糖濃度が7.0mmol/l以上の場合である。
【0063】
「肝臓脂肪症」は、肝細胞内に脂質が異常に溜まることを説明する過程を指す。脂肪症は、肥満、インスリン抵抗性、アルコール依存症またはウイルス感染に起因し得る。
【0064】
本発明の種々の実施形態は、メタボリックシンドロームまたは代謝疾患あるいはメタボリックシンドロームに関連する症状または合併症、例えば、高血圧、糖尿病、高脂血症、耐糖能異常、肝臓脂肪症、高血糖症、前糖尿病状態、新規発症糖尿病、インスリン抵抗性、真性糖尿病、空腹時血糖異常、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、低HDLレベル、脂肪肝または肥満などを治療、軽減、緩和及び/または予防する方法であって、実質的にインビトロで増殖した果実細胞の細胞株カルス培養物からなる組成物を投与するステップを含む方法に関する。
【0065】
本発明の一実施形態では、炎症性疾患を治療する方法であって、本発明の種々の実施形態により大規模プロセスで製造されたブドウ細胞の細胞培養物を含む医薬組成物または栄養補助食品組成物あるいは食品添加物を、必要とする対象者に投与することによって治療する方法が提供される。
【0066】
いくつかの実施形態によれば、果実細胞の細胞株カルス培養物はブドウ果実細胞の細胞株カルス培養物である。いくつかの実施形態によれば、ブドウ果実細胞の細胞株カルス培養物は、ブドウ果実横断切片、ブドウ果皮、ブドウ果実果肉、ブドウ種子、有核または無核の品種のブドウ胚、あるいはブドウ種皮のうちの1つ若しくは複数に由来する。
【0067】
いくつかの実施形態によれば、対象者における血圧を下げる方法であって、当該対象者に対して、インビトロで増殖した果実細胞の細胞株カルス培養物を含む組成物を投与するステップを含む方法が提供される。対象者は、健常者であってよい。いくつかの実施形態では、対象者は、少なくとも週3回、少なくとも30分間、スポーツ活動に取り組んでいる健康な健常者である。
【0068】
いくつかの実施形態によれば、「血圧を下げる」なる語は、安静時及び/または運動中の拡張期及び収縮期血圧を低下させかつ/または安静時の心拍数を低下させることを指し、対象者に対して、インビトロで増殖した果実細胞の細胞株カルス培養物を含む組成物を投与するステップを含む。
【0069】
このことは、例8及び表18〜表19において実証される。例8及び表18〜表19には、健康で適度に訓練されたサイクリスト(自転車乗り)における6週間のRGC添加の効果が示されており、運動後の安静時拡張期血圧及びピーク拡張期血圧の著しい減少が示されている。RGCは、プラセボ群と比較して、安静時の収縮期血圧及び安静時の心拍数をも減少させた。
【0070】
いくつかの実施形態によれば、組成物は栄養補助食品組成物である。いくつかの実施形態によれば、組成物は医薬組成物である。いくつかの実施形態によれば、組成物は食品添加物である。さらに別の実施形態によれば、栄養補助食品組成物は、栄養補助食品の許容される担体をさらに含む。さらに別の実施形態によれば、医薬組成物は、医薬的に許容される担体をさらに含む。さらに別の実施形態によれば、組成物は、食品添加物の許容される担体をさらに含む。
【0071】
本明細書においては、「医薬組成物」なる語は、本明細書に記載されている種々の有効成分(すなわち、以下においてさらに詳細に説明する果実細胞培養物)のうちの1つ以上または混合物に、他の化学成分(生理学的に好適な担体及び賦形剤など)を加えて調合したものを指す。医薬組成物の目的は、生物への化合物の投与を促進することである。本発明のいくつかの実施形態によれば、有効成分は果実(例えばブドウ)に由来するので、ここで用いられる医薬組成物は栄養補助食品組成物及び/または食品添加物である。「食品添加物」なる語は、FDAによって21 C.F.R. 170.3(e)(1)において定義され、食品に添加されることを意図する任意の液体または固体物質を含む。この物質は、例えば、独特な味及び/または香りまたは生理作用を有する物質(例えばビタミン)を含み得る。さらに、果実細胞培養物及びそれらから得られる製剤を飼料添加物として動物に与えることができる。
【0072】
本明細書においては、「有効成分」なる語は、治療効果を担うことができる果実細胞培養物を指す。果実細胞培養物の治療効果は、果実細胞培養物内に含まれる所定量の活性薬剤(例えばポリフェノール)あるいは果実細胞培養物内に含まれる特定の組合せまたは比率の活性薬剤から得ることができる。
【0073】
さらなる実施形態によれば、インビトロで増殖した細胞株カルス培養物は乾燥させられる。
【0074】
いくつかの実施形態によれば、細胞株カルス培養物は少なくとも0.5%のポリフェノールを含む。さらなる実施形態によれば、細胞株カルス培養物は少なくとも2%のポリフェノールを含む。ポリフェノール含有量は、吸光光度法であるフォーリン・チオカルト(Folin-Ciocalteau)試験やHPLC分析など、当分野で既知の方法を用いて決定することができる。
【0075】
本明細書において、「ポリフェノール」なる語は、2以上のフェノール基を有する天然の植物有機化合物を指す。ポリフェノールは、フェノール酸などの単純な分子からタンニンなどの大きな高分子化合物まで様々であり得る。ポリフェノールのフェノール環は、通常、様々な糖分子、有機酸及び/または脂質に共役する。この共役化学構造の相違が、様々なポリフェノール化合物の健康上の特性及び作用機序の化学的分類及びバリエーションの原因である。ポリフェノールの例には、アントシアニン、バイオフラボノイド(下位分類のフラボン、フラボノール、イソフラボン、フラバノール、及びフラバノンを含む)、プロアントシアニン、キサントン、フェノール酸、スチルベン及びリグナンが含まれるが、これらに限定されるものではない。レスベラトロール(3,4,5−トリヒドロキシスチルベン)は、ポリフェノールの一種であり、モノマー形態で現れるポリフェノールのスチルベンである;トランス型レスベラトロール、シス型レスベラトロール、トランス型グルコシド及びシス型グルコシド。
【0076】
ポリフェノールを含む果実の例には、ブドウ、リンゴ、ブルーベリー、プルーン、クランベリー、エルダーベリー、ビルベリー、リンドウ、オレンジ、マンゴー、キウイ、ザクロ、ブラックベリー、ラズベリー、イチゴ、梨、サクランボ、プラム、トマト、グレープフルーツ、パイナップル、柿、アカフサスグリ、エボジア果実が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0077】
本発明の一実施形態によれば、果実はブドウである。ブドウは、色づいたブドウ(例えば、赤色、黒色、紫色、青色及びそれらの間の色の変化)であってよい。あるいは、ブドウは、色づいていないブドウ(例えば、緑色または白色、またはそれらの間の色の変化)であってよい。
【0078】
本発明のこの態様の果実は、野生品種または栽培(培養)品種のものであり得る。栽培ブドウの例には、ブドウ属に属するブドウが含まれる。ブドウ属の品種の例には、ブドウ属ヴィニフェラ種(Vitis vinifera)、シルべストリス種(V. silvestris)、ムスカディニア種(V. muscadinia)、ロトゥンディフォリア種(V. rotundifolia)、リパリア種(V. riparia)、シャトルウォーシー種(V. shuttleworthii)、ラブルスカ種(V. lubrisca)、ダビディ種(V. daviddi)、アムレンシス種(V. amurensis)、ロマネリ種(V. romanelli)、エースティバリス種(V. aestivalis)、シンシアナ種(V. Cynthiana)、シネリア種(V. cineria)、パルメイト種(V. palmate)、ムンソニアーナ種(V. munsoniana)、コルディフォリア種(V. cordifolia)、ハイブリッドA23−7−71、アセリフォリア種(V. acerifolia)、トレレアシー種(V. treleasei)及びベチュリフォリア種(V. betulifolia)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0079】
いくつかの実施形態によれば、果実細胞または細胞株カルス培養物は、色づいたブドウまたは色づいていないブドウから得られる。本明細書において説明されているように、いくつかの実施形態によれば、果実細胞は、果実細胞培養物から作成される。本発明のいくつかの実施形態によれば、果実細胞は、ブドウ果実細胞の培養物から作成される。いくつかの実施形態によれば、ブドウ果実細胞の培養物は、ブドウ果実横断切片、ブドウ果皮、ブドウ果実果肉、ブドウ種子、有核または無核の品種のブドウ胚、あるいはブドウ種皮のうちの1つ若しくは複数に由来する。別の実施形態によれば、果実細胞培養物は、植物の任意の部分に由来するものであってよい。植物の任意の部分には、胚乳、アリューロン層、胚(または胚盤及び子葉としての胚の一部)、果皮、茎、葉、塊茎、毛状突起及び根が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ポリフェノールを含む原料の量は果実によって異なり得るが、果実細胞培養物を作製するための培養プロトコールの使用は、製剤及びその含有量の再現性を保証する。したがって、同じ培養物から作製した果実細胞の様々なバッチは、類型的なHPLCフィンガープリントを有する。いくつかの実施形態によれば、各バッチにおける様々な原料の濃度は変化し得るが、上記したように、同じ培養物から作製した場合、HPLCフィンガープリントは全てのバッチで一貫している。
【0081】
さらなる実施形態によれば、本発明の組成物は、粘膜投与向けに設計されている。
【0082】
いくつかの実施形態によれば、本発明の組成物は味がない(無味である)。いくつかの実施形態によれば、本発明の組成物は味がある。
【0083】
いくつかの実施形態によれば、本発明の組成物は経口組成物である。他の実施形態によれば、本発明の組成物は、洗口液、細長片、泡、粉末、チューインガム、経口噴霧剤、ロゼンジ(薬用キャンディ)、カプセル及び歯磨き粉の形態をとる。さらに別の実施形態によれば、本発明の組成物は粉末の形態をとる。
【0084】
いくつかの実施形態によれば、アルコール依存症、肝臓中毒、心不全などのアルコール関連する影響を回避するために、果実細胞培養物にはアルコールが含まれない。
【0085】
本発明の種々の実施形態は、メタボリックシンドロームまたは代謝疾患、あるいはメタボリックシンドロームまたは代謝疾患に関連する症状または合併症、例えば、高血圧、糖尿病、高脂血症、耐糖能異常、肝臓脂肪症、高血糖症、前糖尿病状態、新規発症糖尿病、インスリン抵抗性、真性糖尿病、空腹時血糖異常、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、低HDLレベル、脂肪肝または肥満などを治療、軽減、緩和及び/または予防する方法であって、インビトロで増殖した果実細胞の細胞株カルス培養物と、1%未満のアルコールとを含むノンアルコール組成物を投与するステップを含む方法に関する。
【0086】
いくつかの実施形態によれば、果実細胞の細胞株カルス培養物はブドウ果実細胞の細胞株カルス培養物である。いくつかの実施形態によれば、ブドウ果実細胞の細胞株カルス培養物は、ブドウ果実横断切片、ブドウ果皮、ブドウ果実果肉、ブドウ種子、有核または無核の品種のブドウ胚、あるいはブドウ種皮のうちの1つ若しくは複数に由来する。さらなる実施形態によれば、組成物は、栄養補助食品組成物または医薬組成物、あるいは食品添加物である。
【0087】
糖類の摂取に関連する問題(例えば、肥満、糖尿病、虫歯など)を回避するために、いくつかの実施形態によれば、果実培養物に含まれる甘味料は10%w/v未満である。本明細書において、「甘味料」なる語は、例えばスクロース(ショ糖)、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)などの、甘味を与える糖を指す。
【0088】
本発明の種々の実施形態は、メタボリックシンドロームあるいはメタボリックシンドロームまたは代謝疾患に関連する症状または合併症、例えば、高血圧、糖尿病、高脂血症、耐糖能異常、肝臓脂肪症、高血糖症、前糖尿病状態、新規発症糖尿病、インスリン抵抗性、真性糖尿病、空腹時血糖異常、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、低HDLレベル、脂肪肝または肥満などを治療、軽減、緩和及び/または予防する方法であって、インビトロで増殖した果実細胞の細胞株カルス培養物を含む低糖組成物(10%未満の甘味料を含む)を投与するステップを含む方法に関する。いくつかの実施形態によれば、甘味料の量は5%未満である。いくつかの実施形態によれば、甘味料の量は2%未満である。いくつかの実施形態によれば、甘味料の量は1%未満である。いくつかの実施形態によれば、甘味料の量は0.5〜1%である。
【0089】
いくつかの実施形態によれば、果実細胞の細胞株カルス培養物はブドウ果実細胞の細胞株カルス培養物である。さらなる実施形態によれば、本発明の組成物は、栄養補助食品組成物または医薬組成物、あるいは食品添加物または機能性食品及び機能性飲料。通常、対象者が摂取し得る粉末の量は、1回の投与当たり、少なくとも1mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、70mg、90mg、100mg、120mg、140mg、160mg、180mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、700mg、750mg、800mg、900mg、1000mg、1100mg、1500mg、1700mg、2000mgなどから50gまでの範囲であり得る。いくつかの実施形態では、粉末量は、対象者の年齢及び体重並びに投薬計画に応じて、約5〜10mg、10〜20mg、20〜30mg、30〜40mg、40〜50mg、50〜60mg、60〜70mg、70〜80mg、90〜100mg、100〜200mgmg、200〜300mg、300〜400mg、400〜500mg、500〜600mg、600〜700mg、700〜800mgmg、800〜900mg、900〜1000mg、1〜2g、2〜3g、3〜4g、4〜5g、5〜10gまたは10〜50gである。いずれの場合も、投与される組成物の量は、治療される対象者、苦痛の激しさ、投与法、医師の判断などによって決まることになる。本発明の組成物は、1日1回ないし3回、あるいは必要な場合は1日4回以上摂取することができる。本発明の組成物は、長期間または特定の期間、例えば少なくとも1週間、2週間、1箇月、2箇月、3箇月、4箇月またはそれ以上の間、摂取することができる。
【0090】
例4に見られるように、高フルクトース食を与えたラットにおける体重、収縮期BP、血漿トリグリセリド、インスリン及びアディポネクチンのレベルを、ベースライン時並びに高フルクトース食を与えた3週間後及び5週間後に測定した。高フルクトース食は、血圧、血漿トリグリセリド、インスリン及びアディポネクチンのレベルの著しい上昇を誘発した。高フルクトース食が与えられたラットに対する赤ブドウ培養物(RGC)の効果を試験した。果実細胞培養物の添加は、高フルクトース食によって誘発される血圧上昇(図5)並びに高フルクトース食によって誘発される血漿トリグリセリド及びインスリンのレベルの上昇を抑制した。さらに、治療からすでに2週間経過後、4mgのレスベラトロールしか含まれていない赤ブドウ培養物の投与で、血圧に対する果実細胞培養物の効果が観察された。これは、RGCに含まれる天然のレスベラトロール及び他のブドウポリフェノールの独自の組合せによって生じ得る。いくつかの実施形態では、収縮期血圧、インスリン抵抗性及びトリグリセリドのレベルに対するレスベラトロールの有効量は、4mg(200mg/Kg/日のRGC粉末)〜16mg(800mg/Kg/日のRGC粉末)である。いくつかの実施形態では、収縮期血圧、インスリン抵抗性及びトリグリセリドのレベルに対するレスベラトロールの有効量は、0.5mg(50mg/Kg/日のRGC粉末)〜40mg(2400mg/Kg/日のRGC粉末)である。
【0091】
SDラットにおいてメタボリックシンドロームを誘発するために高フルクトース食を用いたことに留意されたい。この誘発は、高フルクトース食を与えたラットにおける収縮期血圧、トリグリセリド及びインスリンのレベルの増加によって裏付けられる。このモデル系では、RGCの添加は、BPを低下させるのみならず、メタボリックシンドロームの他の症状を改善させた。
【0092】
本発明の別の実施形態によれば、細胞培養物は、植物の任意の部分、例えば、胚乳、糊粉層(アリューロン層)、胚(または胚盤及び子葉としての胚の部分)、果皮、茎、葉、塊茎、毛状突起及び根に由来するものであってよいが、これらに限定されるものではない。
【0093】
経口投与に適した製剤は、各々が所定量の果実細胞培養物を含む個別のユニット、例えば、粉末、ピル、トローチ、ロゼンジ、カプセル、カシェー剤または錠剤などとして作製することができる。
【0094】
「治療有効量」なる語は、(i)本明細書に記載されている特定の疾病、病気または疾患を治療するか、(ii)特定の疾病、病気または疾患の1若しくは複数の症状を軽減、改善するかまたは取り除くか、あるいは(iii)特定の疾病、病気または疾患の1若しくは複数の症状の発症を遅らせるような、本発明の化合物の量を意味する。特定の実施形態では、治療有効量は、血糖値を下げる、インスリン分泌を増加させる、グルカゴン分泌を減少させる、インスリン抵抗性を低下させる、インスリン感受性を高める、のうちの1つ以上を達成することができる。
【0095】
有効成分を適切な機械で圧縮して粉末や顆粒などの自由流動形態にし、任意で、結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、防腐剤、界面活性剤または分散剤と混合することによって、圧縮錠を作製することができる。不活性液体希釈剤で湿らせた粉末状の有効成分の混合物を適切な機械で成形することによって、成形錠剤を作製することができる。錠剤は、任意でコーティングしたり割線を入れたりすることができ、任意で錠剤からの有効成分の徐放または制御放出がなされるように形作られる。
【0096】
経口使用のために、水性または油性の懸濁液、分散性の粉末または顆粒、乳剤、硬カプセル剤または軟カプセル剤、例えば、ゼラチンカプセル、シロップまたはエリキシル剤を調合することができる。
【0097】
より速い吸収は、香りレベルの増加や、他の香り成分、例えば、メントール及びメントール誘導体、リモネン、カルボン、イソメントール、ユーカリプトール、メントン、ピネン、樟脳(カンフル)及び樟脳誘導体、並びにモノテルペン天然物、モノテルペン誘導体及びセスキテルペン(カリオフィレン及びコパエンを含む)などの添加の影響を受け得る。
【0098】
製剤は、血流への活性薬剤の送達を増大させる他の化学物質を含むこともできる。当該化学物質の例には、23−ラウリルエーテル、アプロチニン、アゾン、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、シクロデキストリン、デキストラン硫酸塩、ラウリン酸、ラウリン酸/プロピレングリコール、リゾホスファチジルコリン、メントール、メトキシサリチル酸、オレイン酸メチル、オレイン酸、ホスファチジルコリン、ポリオキシエチレン、ポリソルベート80、EDTAナトリウム塩、グリココール酸ナトリウム、グリコデオキシコール酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム、スルホキシド及び種々のアルキルグリコシドが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0099】
他の変更も活性薬剤の放出速度に影響を及ぼし得る。基剤を柔らかくするためのテクスチャ調整剤(Texture modifier)は、放出をより速くすることができ、固い基剤は、放出をより遅くすることができる。重炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウムなどのアルカリ性物質を添加することによって唾液を弱アルカリ性にすることができ、それによって血流中への薬剤の頬/舌吸収が増加し得る。
【0100】
本発明の活性薬剤の放出は、製剤の形状及び大きさにも影響され得る。例えば、広い表面積を有する平らな板ガムは、噛んだときにガムから唾液へ活性薬剤をより速く放出し得るが、円形や立方体のガムは、薬剤及び活性薬剤をより遅く放出し得る。
【0101】
チューインガムの錠剤化は、英国特許公開第1,489,832号(特許文献1)、米国特許第4,753,805号明細書(特許文献2)、欧州特許公開第0 221 850号(特許文献3)及びイタリア特許公開第1,273,487号(特許文献4)に開示されている。これらの特許には、活性薬剤をチューインガムに添加して錠剤化したものが開示されている。
【0102】
製剤に着色剤を加えることもできる。いくつかの実施形態によれば、着色剤は食品品質の色素を含む。いくつかの実施形態によれば、製剤に塗膜形成要素を加えることができる。製剤に加えることができる塗膜形成要素には、メチルセルロース、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びそれらの組合せが含まれる。別の実施形態によれば、本発明の果実細胞培養物は、非着色濃度で提供される。
【0103】
鼻吸入による投与の場合、便利なことに、適切な推進剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタンまたは二酸化炭素を用いて、加圧パックまたはネブライザからエアロゾルスプレー製剤の形態で、有効成分を送達することができる。加圧エアロゾルの場合、定量を投与するためのバルブを提供することによって、投与単位を決定することができる。ディスペンサで使用するための例えばゼラチンのカプセル及びカートリッジは、化合物と適切な粉末ベース(ラクトースやデンプンなど)との粉末混合物を含んで形にされ得る。
【0104】
いくつかの実施形態によれば、果実細胞培養物及びそれらから得られる製剤は、食品添加物として与えられ、経口摂取することもできる。
【0105】
いくつかの実施形態によれば、様々な食品に食品添加物及び食品成分組成物を添加することができる。さらなる実施形態によれば、血流への送達を増大させるために、飲み込む前に口の中に留められる食品に果実細胞培養物が加えられる。当該食品の例には、チョコレート、菓子及びアイスクリーム、乳製品、バー、パン、シリアル、ヨーグルト並びに飲料が含まれる。
【0106】
本明細書において、「食品」なる語は、実質的にタンパク質、炭水化物及び/または脂肪からなる物質であって、成長、回復及び生命維持に必要なプロセスを維持するため並びにエネルギーを供給するために生物の体内で使用されるものを表現する言葉である。食品は、ミネラル、ビタミン、調味料などの補助的な物質も含み得る。マリアム・ウェブスター社の大学生用の辞書(Merriam-Webster's Collegiate Dictionary, 10th Edition, 1993)を参照されたい。本明細書における「食品」なる語は、ヒトまたは動物の摂取に適している飲料をさらに含む。
【0107】
いくつかの実施形態による製剤を含む食品はまた、追加の添加物、例えば、抗酸化剤、甘味剤、香味剤、着色剤、防腐剤、ビタミン及びミネラルなどの栄養添加剤、アミノ酸(すなわち、必須アミノ酸)、乳化剤、酸味料などのpH調整剤、親水コロイド、消泡剤及び離型剤、小麦粉改良剤または小麦粉強化剤、膨らまし剤または膨張剤、ガス及びキレート剤など(これらの有用性及び効果は当分野で公知である)も含み得る。
【0108】
有効成分の毒性及び治療効果は、インビトロで、細胞培養物において、または実験動物において、標準的な薬学的手順によって判定することができる。これらのインビトロ及び細胞培養物アッセイ並びに動物実験から得られたデータは、ヒトにおいて用いるための投与量の範囲を定める際に用いることができる。投与量は、用いられる剤形及び利用される投与経路によって異なり得る。個々の医師は、患者の身体状態を考慮して、ぴったりの製剤、投与経路及び投与量を選択することができる(例えば、Fingl, et al., 1975, in "The Pharmacological Basis of Therapeutics", Ch. 1 p.1を参照)。
【0109】
本発明のいくつかの実施形態では、メタボリックシンドロームの治療、緩和または予防に用いるための、大規模スケールアッププロセスにおいてインビトロで増殖したブドウ果実細胞の細胞株カルス培養物を含む粉末形態の組成物であって、ブドウ果実細胞の細胞株カルス培養物が、ブドウ果実横断切片、ブドウ果皮、ブドウ果実果肉、ブドウ種子、有核または無核の品種のブドウ胚、あるいはブドウ種皮のうちの1つ若しくは複数に由来するものであり、かつブドウ果実細胞の細胞株カルス培養物が、粉末1kg当たり少なくとも1000mgの量(1000mg/kg)のレスベラトロールを含む組成物が提供される。本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に記載の大規模プロセスの種々の実施形態により製造されるブドウ細胞におけるレスベラトロールの少なくとも90%は、トランス型グルコシドレスベラトロールである。
【0110】
いくつかの実施形態によれば、本発明のプロセスで作製された果実細胞に含まれる様々なポリフェノールの相対量は、農業により生産されたブドウ果実に含まれる様々なポリフェノールの相対量とは異なる。このことは、例3の表9にはっきりと見られる。表9は、本発明の種々の実施形態により大規模プロセスで生成された乾燥ブドウ細胞培養物における全レスベラトロールを、ブドウ中のレスベラトロールの量と比較したものである。いくつかの実施形態によれば、本発明のプロセスで作製される果実細胞においては、農業により生産されるブドウ果実に比べて、特定のポリフェノールの量が増大される。いくつかの実施形態によれば、果実細胞中のレスベラトロールの量が増大される。いくつかの実施形態によれば、果実細胞(ブドウ細胞であり得る)を乾燥させて粉末にした後の、果実細胞(ブドウ細胞であり得る)に含まれるレスベラトロールの量は、1000〜50000mg/kgである。本発明のいくつかの実施形態によれば、果実細胞を乾燥させて粉末にした後のレスベラトロールの量は1000mg/kg以上である。本発明のいくつかの実施形態によれば、果実細胞を乾燥させて粉末にした後のレスベラトロールの量は3000mg/kg以上である。本発明のいくつかの実施形態によれば、果実細胞を乾燥させて粉末にした後のレスベラトロールの量は5000mg/kg以上である。本発明のいくつかの実施形態によれば、果実細胞を乾燥させて粉末にした後のレスベラトロールの量は、10000mg/kg以上である。本発明のいくつかの実施形態によれば、果実細胞を乾燥させて粉末にした後のレスベラトロールの量は20000mg/kg以上である。本発明のいくつかの実施形態によれば、果実細胞を乾燥させて粉末にした後のレスベラトロールの量は30000mg/kg以上である。本発明のいくつかの実施形態によれば、果実細胞を乾燥させて粉末にした後のレスベラトロールの量は40000mg/kg以上である。本発明のいくつかの実施形態によれば、果実細胞を乾燥させて粉末にした後のレスベラトロールの量は50000mg/kg以上である。本発明のいくつかの実施形態によれば、果実細胞を乾燥させて粉末にした後のレスベラトロールの量は60000mg/kg以上である。本発明のいくつかの実施形態によれば、果実細胞を乾燥させて粉末にした後のレスベラトロールの量は70000mg/kg以上である。
【0111】
いくつかの実施形態によれば、本発明のプロセスで作製された果実細胞中の様々な成分の相対量は、農業により生産されたブドウ果実中の様々な成分の相対量とは異なる。いくつかの実施形態によれば、果実細胞中の糖の相対量は、農業により生産されたブドウ果実中の糖の相対量に比べて低下している。
【0112】
一実施形態によれば、乾燥果実(ドライフルーツ)細胞には最大10%w/vの甘味料が含まれる。いくつかの実施形態によれば、乾燥果実細胞には最大15%w/vの甘味料が含まれる。一実施形態によれば、乾燥果実細胞には10〜15%w/vの甘味料が含まれる。一実施形態によれば、乾燥果実細胞には15〜20%w/vの甘味料が含まれる。いくつかの実施形態によれば、本発明の大規模方法により作製した果実細胞は、10%w/v未満の甘味料を含む。いくつかの実施形態によれば、果実細胞は5%w/v未満の甘味料を含む。いくつかの実施形態によれば、果実細胞は3%w/v未満の甘味料を含む。いくつかの実施形態によれば、果実細胞は2%w/v未満の甘味料を含む。いくつかの実施形態によれば、果実細胞は1%w/v未満の甘味料を含む。いくつかの実施形態によれば、果実細胞は約1%w/vの甘味料を含む。本明細書において、「甘味料」なる語は、例えばスクロース(ショ糖)、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)などの、甘味を与える糖を指す。
【0113】
一実施形態によれば、乾燥果実細胞は20%w/v未満の甘味料を含む。一実施形態によれば、乾燥果実細胞は30%w/v未満の甘味料を含む。
【0114】
いくつかの実施形態によれば、果実細胞は乾燥させられるので、果実細胞に含まれる原料(糖を含む)が濃縮される。いくつかの実施形態によれば、原料は5倍濃縮される。いくつかの実施形態によれば、原料は10倍濃縮される。いくつかの実施形態によれば、原料は15倍濃縮される。いくつかの実施形態によれば、原料は20倍濃縮される。いくつかの実施形態によれば、原料は25倍濃縮される。いくつかの実施形態によれば、原料は30倍濃縮される。
【0115】
いくつかの実施形態によれば、本発明の大規模プロセスにより作製した果実細胞は味がない(無味である)。他の実施形態によれば、本発明の大規模プロセスにより作製した果実細胞は味がある。本発明の種々の実施形態は、果実細胞の大規模インビトロ生産プロセスに関する。本発明のいくつかの実施形態では、本プロセスは、果実細胞の抽出を含まない。驚いたことに、本明細書に記載されている大規模プロセスにより製造された果実細胞は、大量のポリフェノールを含むことが示された。
【0116】
本発明の一実施形態では、増殖させたブドウ果実細胞の細胞株カルス培養物の大規模インビトロ生産プロセスであって、フラスコ内でブドウ細胞を増殖させるステップと、ブドウ細胞をフラスコから最初のバイオリアクタに植菌するステップと、生成されたブドウ細胞を収穫するステップとを含む大規模プロセスが提供される。本発明のいくつかの実施形態では、増殖させたブドウ果実細胞の細胞株カルス培養物の大規模インビトロ生産プロセスであって、フラスコ内でブドウ細胞を増殖させるステップと、ブドウ細胞をフラスコから最初のバイオリアクタに植菌するステップと、ブドウ細胞を最初のバイオリアクタから別のバイオリアクタに植菌するステップ(ここで、別のバイオリアクタは最後のバイオリアクタまたは中間のバイオリアクタであり、1つ以上の中間のバイオリアクタによるさらにいくつかのステップが行われ得る、かつ最初のバイオリアクタまたは別のバイオリアクタのうちの少なくとも一方が使い捨てである)と、最後のバイオリアクタからブドウ細胞を収穫するステップとを含み、最後のバイオリアクタから収穫されたブドウ細胞が、乾燥されることを特徴とする大規模プロセスが提供される。
【0117】
「使い捨てバイオリアクタ」とは、使い捨てのバッグ(袋)を備えたバイオリアクタを意味し、培養容器の代わりに単回使用バッグであり得る。使い捨てバッグは、通常、3層以上のプラスチック箔で作られている。本発明のいくつかの実施形態では、1つの層は、機械的安定性を提供するために、ポリエチレン製、ポリエチレンテレフタレート製またはLDPE製である。第2の層は、ガスバリアとして働くナイロン、PVAまたはPVCを用いて作られている。最後に、接触層は、PVAまたはPP、あるいは別のポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートまたはLDPEの層から作られている。医療用の場合、生成物に接触する単回使用材料は、欧州医薬品庁(EMA)、または他の領域を統括する同様の当局による認定を受けたものでなければならない。
【0118】
本発明のいくつかの実施形態によれば、使い捨てバイオリアクタは、1若しくは複数のポリエチレン層から作られたものである。本発明のいくつかの実施形態では、使い捨てバイオリアクタは、ポリエチレンの内層及び外層並びにナイロンの中間層から作られたものである。
【0119】
一般的に、単回使用バイオリアクタを作製するための2つの異なる手法が存在し、両者は培地を撹拌するために用いる手段が異なる。
【0120】
いくつかの単回使用バイオリアクタは、従来のバイオリアクタと同様に撹拌器を用いるが、撹拌器はプラスチック製のバックに組み込まれている。閉じられたバック及び撹拌器は、事前に滅菌される。使用時には、バックはバイオリアクタに取り付けられ、撹拌器は駆動機構に機械的または磁気的に接続される。
【0121】
他の単回使用バイオリアクタは、揺動(ロッキングモーション)によって撹拌される。他の単回使用バイオリアクタは、エアリフト型バイオリアクタである。エアリフト型バイオリアクタでは、反応培地は撹拌され、空気の導入によって通気される。この型のバイオリアクタは、単回使用バック内で機械撹拌器を必要としない。
【0122】
いくつかの実施形態によれば、果実細胞を作製するための大規模プロセスは、複数の後続ステップからなる。本発明のいくつかの実施形態によれば、各ステップで作製される果実細胞の量は、その前のステップで作製されたものよりも多いかまたは多くない。さらに、各ステップで作製された果実細胞は、植菌されるかまたは収穫されて、大規模プロセスの次のステップのための発端(スタータ)として用いられる。大規模プロセスの最後のステップでは、通常、果実細胞を、増殖プロフィールの平坦域に到達するまで増殖させる。
【0123】
本発明の大規模プロセスを用いる利点は明らかであり、実施例の項に示されている。例2の実験2に見られるように、強化ガンボーグB5培地による赤ブドウ細胞(RGC)バイオマスは、非強化ガンボーグB5培地の存在下で得られるバイオマスに比べて遥かに大きかった。さらに、種々の濃度のマグネシウム塩、硝酸塩及びリン酸塩(KNO、MgSO、MgNO、NaHPO)を含有するガンボーグB5培地を使用することにより、大規模バイオリアクタにおいてさえ、生成された細胞中に高いレスベラトロールレベルが得られた。
【0124】
表4及び例2の実験3は、大規模使い捨てバイオリアクタ内において強化培地で増殖させたブドウ細胞に含まれる全ポリフェノール及びレスベラトロールのレベルが、三角フラスコで増殖させたブドウ細胞において得られたレベルよりも高かったこと、すなわち、それぞれ910mg/l及び203mg/lであったことを示している。他者によって行われた測定とは対照的に、1000〜5000リットルの大規模使い捨てバイオリアクタでの果実植物細胞の増殖の成功(高レベルのレスベラトロール及びポリフェノール生産量を伴う)を実証するのはこれが初めてである。
【0125】
表7及び例2の実験7は、ブドウ細胞によって生成されるレスベラトロールの量に対する2つの培地(IM1培地並びに、マグネシウム塩、リン酸塩及び硝酸塩で強化されたガンボーグB5培地)の効果を示している。この効果を、滅菌された使い捨ての透明なプラスチック容器でできた20Lバイオリアクタ内で評価した。さらに、A. Decendit (1996) Biotechnology Lettersに公表されたデータ(ここでは、20Lのガラス容器内においてIM1培地で細胞を増殖させた)と比較した。結果は、使い捨てバイオリアクタ内においてIM1培地で増殖させた赤ブドウ細胞が、同じ培地(Decendit)を用いて撹拌型ガラス製バイオリアクタ内において生成されたレベルよりも約3倍高い93mg/lのレスベラトロールを生成した(表7)ことを示している。さらに、これらの細胞を使い捨てバイオリアクタ内の強化ガンボーグB5培地で増殖させると、非常に高レベルのレスベラトロール387mg/lが生成された。このように、本実験は、1若しくは複数の使い捨てバイオリアクタと、様々な濃度のマグネシウム塩、硝酸塩及びリン酸塩(KNO、MgSO、MgNO、NaHPO)を含有するガンボーグB5培地とを用いることの利点、並びに1若しくは複数の使い捨てバイオリアクタ及び強化ガンボーグB5培地の組合せを用いることの利点を示している。
【0126】
いくつかの実施形態によれば、果実細胞はバイオリアクタ内で増殖させられる。いくつかの実施形態によれば、バイオリアクタは、せん断応力及び流体力学的圧力の強さを最小限に抑える一方で適切な混合及び物質移動を可能にするように設計されている。本発明のいくつかの実施形態によれば、バイオリアクタのうちの少なくとも1つは使い捨てバイオリアクタである。これは、最初のバイオリアクタ、または中間のバイオリアクタ、または最後のバイオリアクタ、あるいはそれらの組合せであり得る。本発明のいくつかの実施形態によれば、使い捨てバイオリアクタは最後のバイオリアクタであり、その後、細胞は、収穫されて乾燥されることにより粉末が形成される。
【0127】
本発明の或る例示的な実施形態によれば、第1のステップは、三角フラスコなどのフラスコまたはバイオリアクタ内での果実細胞培養物の作成を含む。いくつかの実施形態によれば、第1のステップは、最大1.0Lの果実細胞培養物の作成を含む。さらなる実施形態によれば、第1のステップは、最大1.5Lの果実細胞培養物の作成を含む。さらなる実施形態によれば、第1のステップは、最大2.0Lの果実細胞培養物の作成を含む。
【0128】
いくつかの実施形態によれば、第1のステップは、ガラス製、金属製またはプラスチック製のフラスコを用いて行われる。いくつかの実施形態によれば、フラスコは使い捨てである。さらなる実施形態によれば、フラスコは何回も再使用してよい。いくつかの実施形態によれば、フラスコは、使用後に次の使用までの間に任意の適切な手段によって滅菌される。
【0129】
いくつかの実施形態によれば、第1のステップは、果実細胞を増殖させるための任意の適切な培地の使用を含む。いくつかの実施形態によれば、果実細胞を増殖させるために用いられる培地には、細胞増殖培地、塩、ビタミン、糖、ホルモン、またはそれらの任意の組合せが含まれる。いくつかの実施形態によれば、細胞増殖培地は、ガンボーグB5培地(Gamborg et al., Exp. Cell Res. 50: 151, 1968)またはその変更形態である。いくつかの実施形態によれば、ガンボーグB5培地には、マグネシウム塩、リン酸塩、硝酸塩などの塩、またはそれらの任意の組合せが含まれる。本発明のいくつかの実施形態によれば、ガンボーグB5培地には、KNO、MgSO、NaHPO、またはそれらの組合せが含まれる。いくつかの実施形態によれば、培地には、ガンボーグB5ビタミン群、またはそれらの任意の組合せが含まれる。さらなる実施形態によれば、培地には、スクロースなどの糖、ガンボーグB5培地、またはそれらの任意の組合せが含まれる。
【0130】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に添加されるKNOの濃度は25〜45mMである。
【0131】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に添加されるMgSOの濃度は1〜15mMである。
【0132】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に添加されるMgNOの濃度は5〜35mMである。
【0133】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に添加されるKNOの濃度は15mM〜60mMである。
【0134】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に添加されるMgSOの濃度は0.5〜25mMである。
【0135】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に添加されるMgNOの濃度は1〜50mMである。
【0136】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に添加されるKNOの濃度は30〜40mMである。
【0137】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に添加されるMgSOの濃度は5〜10mMである。
【0138】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に添加されるMgNOの濃度は20〜30mMである。
【0139】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地にミオイノシトールが添加される。
【0140】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地にHBOが添加される。
【0141】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地にMnSOが添加される。
【0142】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地にNaHPOが添加される。
【0143】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地にビオチンが添加される。
【0144】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地にmMのD−パントテン酸カルシウムが添加される。
【0145】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に約0.5mMのミオイノシトールが添加される。
【0146】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に約0.05mMのHBOが添加される。
【0147】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に約0.04mMのMnSOが添加される。
【0148】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に約1mMのNaHPOが添加される。
【0149】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に約0.004mMのビオチンが添加される。
【0150】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に約0.2mMのD−パントテン酸カルシウムが添加される。
【0151】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、2、3、4、5、6、7、8、9、10mMのミオイノシトールが添加される。
【0152】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1mMのHBOが添加される。
【0153】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1mMのMnSOが添加される。
【0154】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、2、3、4、5、6、7、8、9、10mMのNaHPOが添加される。
【0155】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に約0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01mMのビオチンが添加される。
【0156】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、2、3、4mMのD−パントテン酸カルシウムが添加される。
【0157】
本発明の一実施形態では、ガンボーグB5培地に添加されるスクロースの濃度は2〜4%である。別の実施形態では、濃度は約3%である。
【0158】
さらなる実施形態によれば、細胞増殖培地にカゼインを含有させることができる。さらなる実施形態によれば、細胞増殖培地に成長ホルモンを含有させることができる。さらなる実施形態によれば、増殖培地はホルモンを含む。いくつかの実施形態によれば、ホルモンの追加なしで果実細胞を増殖させる。
【0159】
いくつかの実施形態によれば、本プロセスの1つ以上のステージにおいて用いられ得る植物培地の例には、次に挙げるものが含まれるが、これらに限定されるものではない。Anderson (Anderson, In Vitro 14:334, 1978; Anderson, Act. Hort., 112: 13, 1980), Chee and Pool (Sci. Hort. 32:85, 1987), CLC/Ipomoea (CP) (Chee et al., J. Am. Soc. Hort. Sci. 117:663, 1992), Chu (N.sub.6) (Chu et al., Scientia Sinic. 18:659, 1975; Chu, Proc. Symp. Plant Tiss. Cult., Peking 43, 1978), DCR (Gupta and Durzan, Plant Cell Rep. 4: 177, 1985), DKW/Juglans (Driver and Kuniyuki, HortScience 19:507, 1984; McGranahan et al., in: Bonga and Durzan, eds., Cell and Tissue Culture in Forestry, Martinus Nijhoff, Dordrecht, 1987), De Greef and Jacobs (De Greef and Jacobs, Plant Sci. Lett. 17:55, 1979), Eriksson (ER) (Eriksson, Physiol. Plant. 18:976, 1965), Gresshoff and Doy (DBM2) (Gresshoff and Doy, Z Pflanzenphysiol. 73 : 132, 1974), Heller's (Heller, Ann. Sci. Nat. Bot. Biol. Veg. 11th Ser. 14: 1, 1953), Hoagland's (Hoagland and Arnon, Circular 347, Calif. Agr. Exp. Stat., Berkeley, 1950), Kao and Michayluk (Kao and Michayluk, Planta 126: 105, 1975), Linsmaier and Skoog (Linsmaier and Skoog, Physiol. Plant. 18: 100, 1965), Litvay's (LM) (Litvay et al., Plant Cell Rep. 4:325, 1985), Nitsch and Nitsch (Nitsch and Nitsch, Science 163 :85, 1969), Quoirin and Lepoivre (Quoirin et al., C. R. Res. Sta. Cult. Fruit Mar., Gembloux 93, 1977), Schenk and Hildebrandt (Schenk and Hildebrandt, Can. J. Bot. 50: 199, 1972), White's (White, The Cultivation of Animal and Plant Cells, Ronald Press, NY, 1963), など。
【0160】
いくつかの他の例示的な実施形態によれば、果実細胞及び培地は第1のステップ中に連続的に混合される。さらなる実施形態によれば、果実細胞及び培地は第1のステップ中に時々混合される。いくつかの実施形態によれば、第1のステップ中の温度は20〜30℃である。いくつかの実施形態によれば、第1のステップ中の温度は22〜28℃である。いくつかの実施形態によれば、第1のステップ中に5日間以上、果実細胞を増殖させる。いくつかの実施形態によれば、第1のステップ中に7日間以上、果実細胞を増殖させる。いくつかの実施形態によれば、第1のステップ中に5日間以上かつ2週間未満、果実細胞を増殖させる。いくつかの実施形態によれば、第1のステップ中に5日間以上かつ12日間未満、果実細胞を増殖させる。
【0161】
いくつかの例示的な実施形態によれば、本発明のプロセスで用いられるバイオリアクタには、第1のステップから得られた果実細胞、培地及び任意の追加の原料をバイオリアクタに入れるための入口が含まれる。さらなる実施形態によれば、本発明のプロセスで用いられるバイオリアクタには、所望の原料を取り出すための出口が含まれる。いくつかの実施形態によれば、出口は、バイオリアクタの余剰ガスを軽減するように設計されたガス出口を含む。いくつかの実施形態によれば、ガス出口は手動で操作される。他の実施形態によれば、ガス出口は自動的に操作され、フラスコ内の気圧が規定圧力に達したらフラスコからガスが放出される。いくつかの実施形態によれば、規定圧力は最大8PSIである。
【0162】
果実細胞増殖の第1のステップが終了したら、いくつかの例示的な実施形態によれば、果実細胞を小規模バイオリアクタ(本明細書において、最初のバイオリアクタとも称する)に植菌する。大規模プロセスの第2のステップのために。いくつかの実施形態によれば、小規模バイオリアクタは4Lのリアクタである。さらなる実施形態によれば、小規模バイオリアクタは3〜5Lのリアクタである。さらなる実施形態によれば、小規模バイオリアクタは3〜10Lのリアクタである。さらなる実施形態によれば、小規模バイオリアクタは4−8Lのリアクタである。
【0163】
小規模バイオリアクタは、任意の適切な材料、例えば、ガラス、金属、プラスチック及び/または任意の種類のポリマーなどから製造することができる。いくつかの実施形態によれば、小規模バイオリアクタは使い捨てである。小規模バイオリアクタは、使い捨てでない場合には、いくつかの実施形態によれば、使用後に次の使用までの間に任意の適切な手段によって洗浄及び滅菌される。
【0164】
上記したように、より大量の果実細胞をバイオリアクタで増殖させる場合には、レスベラトロールなどのポリフェノールを含む二次代謝産物の生産は、例えば三角フラスコなどのガラス製フラスコを用いる小規模生産における同じ代謝産物の量に比べて著しく減少することが分かっている。しかし、本明細書で詳述する大規模プロセスは、バイオリアクタで増殖させた場合に二次代謝産物の量が減少しない果実細胞を提供する。さらに、特定の二次代謝産物の生産を増大させることすらできる。
【0165】
したがって、本発明の種々の実施形態によれば、小規模バイオリアクタで増殖させた果実細胞に含まれる二次代謝産物の相対量は、本プロセスの第1のステップにおける相対量と比べて著しく減少してはいない。いくつかの実施形態によれば、第1のステップにおいて増殖培地で用いるための上記成分を本プロセスの第2のステップにおいても用いることができる。いくつかの実施形態によれば、小規模バイオリアクタで用いられる増殖培地は、大規模プロセスの第1のステップで用いたものと同じである。いくつかの実施形態によれば、第2のステップにおいて増殖培地に存在する種々の成分の相対量は、第1のステップにおける相対量と同じである。他の実施形態によれば、第2のステップにおいて増殖培地に存在する種々の成分の相対量は、第1のステップで用いられる相対量とは異なる。いくつかの実施形態によれば、本プロセスの第2のステップにおいて増殖培地に追加の原料を添加する。
【0166】
いくつかの実施形態によれば、小規模バイオリアクタには、第1のステップから得られた果実細胞、空気、培地及び任意の追加の原料をバイオリアクタに入れるための入口が含まれる。さらなる実施形態によれば、小規模バイオリアクタには、所望の原料を取り出すための出口が含まれる。いくつかの実施形態によれば、出口は、バイオリアクタの余剰ガスを軽減するように設計されたガス出口を含む。いくつかの実施形態によれば、ガス出口は手動で操作される。他の実施形態によれば、ガス出口は自動的に操作され、バイオリアクタ内の気圧が規定圧力に達したらバイオリアクタからガスが放出される。いくつかの実施形態によれば、規定圧力は8PSIである。
【0167】
いくつかの実施形態によれば、果実細胞及び培地は第2のステップ中に連続的に混合される。さらなる実施形態によれば、果実細胞及び培地は第2のステップ中に時々混合される。いくつかの実施形態によれば、第2のステップ中の温度は20〜30℃である。いくつかの実施形態によれば、第2のステップ中に1週間以上かつ2週間未満、果実細胞を増殖させる。本発明のいくつかの実施形態では、果実細胞を、次のバイオリアクタに植菌する前に9〜16日間増殖させる。
【0168】
大規模プロセスの第3のステップのために、収穫した果実細胞を大規模バイオリアクタに入れる。いくつかの実施形態によれば、大規模バイオリアクタは30〜50Lのリアクタである。さらなる実施形態によれば、大規模バイオリアクタは40〜60Lのリアクタである。さらなる実施形態によれば、大規模バイオリアクタは30〜70Lのリアクタである。さらなる実施形態によれば、大規模バイオリアクタは20〜100Lのリアクタである。
【0169】
大規模バイオリアクタは、任意の適切な材料、例えば、ガラス、金属、プラスチック及び/または任意の種類のポリマーなどから製造することができる。いくつかの実施形態によれば、大規模バイオリアクタは使い捨てである。大規模バイオリアクタは、使い捨てでない場合には、いくつかの実施形態によれば、使用後に次の使用までの間に任意の適切な手段によって洗浄及び滅菌される。
【0170】
小規模バイオリアクタと同様に、本発明の種々の実施形態によれば、大規模バイオリアクタで増殖させた果実細胞に含まれる二次代謝産物の相対量は、本プロセスの先行ステップにおける相対量と比べて著しく減少してはいない。いくつかの実施形態によれば、先行ステップのうちのいずれかにおいて増殖培地で用いるための上記成分を本プロセスの第3のステップにおいても用いることができる。いくつかの実施形態によれば、大規模バイオリアクタで用いる増殖培地は、大規模プロセスの先行ステップのうちのいずれかで用いる増殖培地と同じである。いくつかの実施形態によれば、第3のステップにおいて増殖培地中に存在する種々の成分の相対量は、本プロセスの先行ステップのうちのいずれかにおける相対量と同じである。他の実施形態によれば、第3のステップにおいて増殖培地中に存在する種々の成分の相対量は、本プロセスの先行ステップのうちのいずれかで用いた相対量とは異なる。いくつかの実施形態によれば、本プロセスの第3のステップにおいて、増殖培地に追加の原料を添加する。
【0171】
いくつかの実施形態によれば、大規模バイオリアクタには、第2のステップから得られた果実細胞、培地、空気及び任意の追加の原料をバイオリアクタに入れるための入口が含まれる。さらなる実施形態によれば、大規模バイオリアクタには、所望の原料を取り出すための出口が含まれる。いくつかの実施形態によれば、出口は、バイオリアクタの余剰ガスを軽減するように設計されたガス出口を含む。いくつかの実施形態によれば、ガス出口は手動で操作される。他の実施形態によれば、ガス出口は自動的に操作され、バイオリアクタ内の気圧が規定圧力に達したらバイオリアクタからガスが放出される。いくつかの実施形態によれば、規定圧力は最大8PSIである。
【0172】
いくつかの例示的な実施形態によれば、果実細胞及び培地は第3のステップ中に連続的に混合される。さらなる実施形態によれば、果実細胞及び培地は第3のステップ中に時々混合される。いくつかの実施形態によれば、第3のステップ中の温度は20〜30である。いくつかの実施形態によれば、第3のステップ中に約2〜3週間、果実細胞を増殖させる。いくつかの実施形態によれば、第3のステップ中に約3〜5週間、果実細胞を増殖させる。いくつかの実施形態によれば、第3のステップ中に約12〜30日間、果実細胞を増殖させる。
【0173】
果実細胞増殖の第3のステップが終了したら、通常は任意の適切な手段によって中規模バイオリアクタから果実細胞を植菌する。大規模プロセスの4つの例示的なステップのために、収穫した果実細胞をより大規模なバイオリアクタに入れる。いくつかの実施形態によれば、より大規模なバイオリアクタは1000Lのリアクタである。さらなる実施形態によれば、より大規模なバイオリアクタは200〜500Lのリアクタである。さらなる実施形態によれば、大規模バイオリアクタは500〜1000Lのリアクタである。さらなる実施形態によれば、大規模バイオリアクタは1000〜1500Lのリアクタである。さらなる実施形態によれば、大規模バイオリアクタは500〜1100Lのリアクタである。
【0174】
より大規模なバイオリアクタは、任意の適切な材料、例えば、ガラス、金属、プラスチック及び/または任意の種類のポリマーなどから製造することができる。いくつかの実施形態によれば、大規模バイオリアクタは使い捨てである。大規模バイオリアクタは、使い捨てでない場合には、いくつかの実施形態によれば、使用後に次の使用までの間に任意の適切な手段によって洗浄及び滅菌される。
【0175】
小規模バイオリアクタと同様に、本発明の種々の実施形態によれば、より大規模なバイオリアクタで増殖させた果実細胞に含まれる二次代謝産物の相対量は、本プロセスの先行ステップにおける相対量と比べて著しく減少してはいない。いくつかの実施形態によれば、先行ステップのうちのいずれかにおいて増殖培地で用いるための上記成分を本プロセスの第4のステップにおいても用いることができる。いくつかの実施形態によれば、より大規模なバイオリアクタで用いられる増殖培地は、先行ステップのうちのいずれかで用いたものと同じである。いくつかの実施形態によれば、第4のステップにおいて増殖培地中に存在する種々の成分の相対量は、先行ステップのうちのいずれかにおける相対量と同じである。他の実施形態によれば、第4のステップにおいて増殖培地中に存在する種々の成分の相対量は、先行ステップのうちのいずれかで用いた相対量とは異なる。いくつかの実施形態によれば、本プロセスの第4のステップにおいて、増殖培地に追加の原料を添加する。
【0176】
いくつかの実施形態によれば、より大規模なバイオリアクタには、第3または第2のステップから得られた果実細胞、培地及び任意の追加の原料をバイオリアクタに入れるための入口が含まれる。さらなる実施形態によれば、より大規模なバイオリアクタには、所望の原料を取り出すための出口が含まれる。いくつかの実施形態によれば、出口は、バイオリアクタの余剰ガスを軽減するように設計されたガス出口を含む。いくつかの実施形態によれば、ガス出口は手動で操作される。他の実施形態によれば、ガス出口は自動的に操作され、バイオリアクタ内の気圧が規定圧力に達したらバイオリアクタからガスが放出される。
【0177】
いくつかの実施形態によれば、果実細胞及び培地は第4のステップ中に連続的に混合される。さらなる実施形態によれば、果実細胞及び培地は第4のステップ中に時々混合される。いくつかの実施形態によれば、第4のステップ中の温度は20〜30℃である。いくつかの実施形態によれば、第3または第4のステップ中に果実細胞を10〜70%の細胞バイオマスに達するまで増殖させる。
【0178】
いくつかの実施形態によれば、大規模プロセスが終わった後、果実細胞をより大規模なバイオリアクタで増殖させる。当該実施形態によれば、より大規模なバイオリアクタで果実細胞を10〜70%の細胞バイオマスに達するまで増殖させる。10〜70%の細胞バイオマスに達したら、任意の適切な手段によって大規模バイオリアクタから果実細胞を収穫し、さらに加工する。いくつかの実施形態によれば、果実細胞は、乾燥、凍結乾燥、フリーズドライ及び噴霧乾燥によってさらに加工される。いくつかの実施形態によれば、果実細胞の加工には、そこからの有効成分の抽出は含まれない。
【0179】
いくつかの実施形態によれば、大規模プロセスは、細胞をフラスコから任意の大きさであり得るバイオリアクタに植菌しかつ細胞を収穫する1ステップを含み得る。他の実施形態によれば、一連のバイオリアクタ(各バイオリアクタは、通常、その前に使用したバイオリアクタよりも大きい)で果実細胞を植菌することができる。大規模プロセスによれば、任意の数の追加的なステップを行う。追加的なステップは、可能な中間ステップを含み、該中間ステップにおいて、細胞は収穫または植菌されてより大規模なバイオリアクタに入れられ、そこで収穫または植菌されるまで増殖させられて、より大規模なバイオリアクタへ移される。さらなる実施形態によれば、本プロセスは、大規模バイオリアクタから収穫した果実細胞を増殖させる追加的なステップを含む。
【0180】
本発明の様々な態様について以下の実施例においてより詳細に説明する。これらは、本発明の種々の実施形態を示すものであるが、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0181】
実施例
【0182】
例1
製造−産業レベルの大規模化
【0183】
1.原料及び方法
生産プロセスには、5つのステージを有する漸進的プロセスにおけるブドウ細胞の増殖が含まれる。振盪三角フラスコ内でのブドウ細胞の増殖から始めて、小規模及び大規模使い捨てバイオリアクタでさらに増殖させる。重要な鍵となる因子は、異なる規模のバイオリアクタでの増殖中に、細胞に含まれる高レベルの二次代謝産物であるレスベラトロールを維持することである。増殖の最後の大規模ステージの最後に、所要のバイオマスで、ブドウ細胞を収穫して乾燥させることにより、種々の医療用途に用いられる乾燥細胞(RGC)のバイオマスをもたらすピンクがかった紫の微粉末が生成される。
【0184】
ブドウ細胞株の形成
【0185】
ブドウ横断切片から得られるカルス:野外生育のブドウ植物から開花の20〜50日後に長さ4〜8cmの若いブドウの房を収穫し、水道の蛇口から流した水でよく洗った。無核ブドウのヴィニフェラ種(Vitis vinifera cv.)「AVNIR 825」(Agramanとガメイレッドの交配種)の緑色の未熟な果粒を、1.3%w/vの次亜塩素酸ナトリウムと、湿潤剤として(0.1%v/v)のTween20とを含有する溶液中で10分間滅菌した。フィルタ滅菌された1.7mMのアスコルビン酸及び0.8mMのクエン酸、100mg/lのDTT(ジチオトレイトール)及び50mg/lのアセチルシステインを補足した1/2 MS(Murashige and Skoog, 1962, Physiol Plant 15:473-497)液体基礎培地下で、メスを用いて外植片を長さ2〜3mmの横断断片に切断した。細胞の神経発生を阻害するため、及び緑色の健全な果粒ディスクの回復を可能にするために、上記の切断培地に以下の抗酸化物質を添加した:PVP(0.5及び1g/1)、L−システイン(150mg/l)、没食子酸(1.5mg/l)、DTT(70mg/l)、ビオプテリン(15mg/l)、アスコルビン酸(150mg/l)及びクエン酸(150mg/l)。
【0186】
果粒ディスクを、25mlのオートクレーブ滅菌したムラシゲスクーグ(MS)培地を含有する100×15mmの培養皿に置き、0.25%のゲルライト(登録商標)で固化した。102kpaで15分間オートクレーブ滅菌する前に、pHをpH5.9になるように調整した。各々が25個の果粒ディスクを含む30枚の培養皿をパラフィルムで密閉し、26℃で3日間にわたって暗所で培養した。培養物を、白色蛍光灯による15〜30μmol−2−1の放射照度の16時間の日長下で、25℃で培養した。MS塩及びビタミン培地には、250mg/lのカゼイン加水分解物、2%のスクロース及び100mg/lのイノシトールをも補足した。カルス誘導のために、0.2mg/lのカイネチン及び0.1mg/lのNAA(α−ナフタレン酢酸)をも補足した(RD1と呼ばれる培地)。
【0187】
培養開始から3〜4週間後に、果粒ディスクに沿って緑色及び赤色のカルスの混合物が見えた。カルスは、脆くて細長い細胞からなり、そのうちのいくつかはアントシアニンの濃い色素を示していた。アントシアニンが豊富なカルス部分を選択して、個々に継代培養して増殖させた。緑色のカルス部分を別々に培養した。
【0188】
ブドウ皮細胞から得られるカルス:野外生育のブドウ植物から開花の20〜50日後に長さ4〜8cmの若いブドウの房を収穫し、水道の蛇口から流した水でよく洗った。無核ブドウのヴィニフェラ種「AVNIR 825」(Agramanとガメイレッドの交配種)の緑色の未熟な果粒を、1.3%w/vの次亜塩素酸ナトリウムと、湿潤剤として(0.1%v/v)のTween20とを含有する溶液中で10分間滅菌した。果皮に3〜8mmの切り込みを入れ、滅菌したピンセットを用いて皮のみを剥くことによって、果皮を分離した。フィルタ滅菌された1.7mMのアスコルビン酸及び0.8mMのクエン酸、100mg/lのDTT(ジチオトレイトール)及び50mg/lのアセチルシステインを補足した1/2 MS(Murashige and Skoog, 1962)液体基礎培地下で、皮の分離を行った。
【0189】
果皮をRD−1培地に置いた。約10〜14日後に、皮ピル(skin pill)の切断面において細胞の塊が発生し始めた。アントシアニンが豊富な細胞を選択して、さらに新鮮培地に継代培養してさらに増殖させた。
【0190】
ブドウ種皮から得られるカルス:野外生育のブドウ植物から開花の20〜50日後に長さ4〜8cmの若いブドウの房を収穫し、水道の蛇口から流した水でよく洗った。無核ブドウのヴィニフェラ種「AVNIR 825」の緑色の未熟な果粒を、1.3%w/vの次亜塩素酸ナトリウムと、湿潤剤として(0.1%v/v)のTween20とを含有する溶液中で10分間滅菌した。若い緑色の生育中の種子が見えるように果粒を切り開いた。未熟な種皮を切断し、培地に置いた。フィルタ滅菌された1.7mMのアスコルビン酸及び0.8mMのクエン酸、100mg/lのDTT(ジチオトレイトール)及び50mg/lのアセチルシステインを補足した1/2 MS(Murashige and Skoog, 1962)液体基礎培地下で、皮の分離を行った。
【0191】
種皮部分をRD−1培地に置いた。約12〜20日後、種皮は褐色に変色し、種皮外植片の上部にカルスが現れ始めた。赤褐色の色素に富んだ細胞を選択し、さらに新鮮培地に継代培養してさらに増殖させた。
【0192】
液体培養の確立:50mg/lの種々の培地(RD1〜RD6−下記参照)に10gのカルスを添加することによって、液体培養を確立した。固形培地上でうまく確立された全ての細胞株が、同じ培地の組合せ(ただしゲル化剤を含まない)で均質な細胞懸濁液を作った。70mg/lのDTTまたは150mg/lの、アスコルビン酸またはクエン酸のいずれかの添加により、増殖が向上し、果粒由来の懸濁培養物の細胞の神経発生が阻害された。液体培養の確立のために、全ての外植片の種類をうまく利用した。7〜10日毎にルーチン的に培養物を新鮮増殖培地に継代培養した。
【0193】
果粒由来のカルス細胞株を確立するために導入された追加のブドウ属の種:上記のプロトコールを用いて、下記のブドウ属の種を培養した。
【0194】
ブドウ属シルべストリス種、ムスカディニア種、ロトゥンディフォリア種、リパリア種、シャトルウォーシー種、ラブルスカ種、ダビディ種、アムレンシス種、ロマネリ種、エースティバリス種、シンシアナ種、シネリア種、パルメイト種、ムンソニアーナ種、コルディフォリア種、ハイブリッドA23−7−71、アセリフォリア種、トレレアシー種、ベチュリフォリア種。
【0195】
ヴィニフェラ種のブドウ横断切片、ブドウ皮及びブドウ種子のカルスの生産効率を下表Aに例示する。
【0196】
本研究において使用したブドウ属の種のうちのいくつかの種からの、異なるカルス「タイプ」の生産効率を下表Bにまとめた。
【0197】
ステージ1:振盪三角フラスコ
オービタルシェーカー上の1リットルの三角フラスコ内で、蛍光灯連続照明下(1000lx)で温度25±5℃で懸濁液中において赤ブドウ細胞を増殖させる。増殖培地には、ガンボーグB5培地及びビタミン培地が含まれ、250mg/lのカゼイン加水分解物、2〜4%のスクロース、100mg/lのミオイノシトール、0.2mg/lのカイネチン及び0.1mg/lのNAA(1−ナフタレン酢酸)、25〜45mMのKNO、1〜15mMのMgSOまたは5〜35mMのMgNO及び1mMのNaHPO(pH5.8)が補足されている。6〜11日毎に細胞を継代培養する。
【0198】
ステージ2:小規模バイオリアクタ
小規模バイオリアクタ培養は、ステージ1の三角フラスコで増殖させた7〜16日齢の細胞懸濁液を、温度25±5℃で、4〜8リットルの使い捨てバイオリアクタに植菌することによって行う。強化ガンボーグB5塩及びビタミン培地を含みかつ、250mg/lのカゼイン加水分解物、2〜4%のスクロース、100mg/lのミオイノシトール、25〜45mMのKNO、1〜15mMのMgSOまたは5〜35mMのMgNO及び1mMのNaHPO、0.2mg/lのカイネチン及び0.1mg/lのNAA(1−ナフタレン酢酸)(pH5.4〜5.8)が補足されている増殖培地で、蛍光灯連続照明下(1000lx)で、細胞懸濁液中において細胞を増殖させる。9〜16日毎に細胞を継代培養する。
【0199】
ステージ3:大規模バイオリアクタ
小規模バイオリアクタで増殖させた細胞懸濁液を、30〜50リットルの使い捨てバイオリアクタに植菌する。蛍光灯連続照明下(1000lx)で温度25±5℃で細胞懸濁液中において細胞を増殖させる。増殖培地には、強化ガンボーグB5塩及びビタミン培地が含まれ、かつ250mg/lのカゼイン加水分解物、2〜4%のスクロース、100mg/lのミオイノシトール、25〜45mMのKNO、1〜15mMのMgSOまたは5〜35mMのMgNO及び1mMのNaHPO、0.2mg/lのカイネチン及び0.1mg/lのNAA(1−ナフタレン酢酸)(pH5.4〜5.8)が補足されている。12〜30日毎に細胞を継代培養する。
【0200】
ステージ4:より大規模なバイオリアクタ
小規模または大規模バイオリアクタで増殖させた細胞懸濁液を300〜1000リットルの使い捨てバイオリアクタに植菌する。蛍光灯連続照明下(1000lx)で温度25±5℃で細胞懸濁液中において細胞を増殖させる。増殖培地には、強化ガンボーグB5塩及びビタミン培地が含まれ、かつ250mg/lのカゼイン加水分解物、2〜4%のスクロース、100mg/lのミオイノシトール、25〜45mMのKNO、1〜15mMのMgSOまたは5〜35mMのMgNO及び1mMのNaHPO、0.2mg/lのカイネチン及び0.1mg/lのNAA(1−ナフタレン酢酸)(pH5.4〜5.8)が補足されている。
【0201】
ステージ5:収穫
細胞が10%〜70%(w/v)の細胞バイオマスに到達した時点で細胞を収穫する。収穫した細胞を乾燥させて、典型的な組成物、味及び匂いを有するピンクがかった紫の微粉末を生成する。
【0202】
例2
大規模バイオリアクタで増殖させた赤ブドウ細胞におけるレスベラトロールのレベルに対する培地組成及びバイオリアクタデザインの効果
【0203】
2.1 培地組成
【0204】
実験1:振盪三角フラスコで増殖させた赤ブドウ細胞におけるレスベラトロールの量に対する培地組成の効果
【0205】
例1のステージ1で説明したように、赤ブドウ細胞を振盪三角フラスコ内において種々の培地組成、すなわち、MS培地、WP培地、WP+カゼインガンボーグB5培地で増殖させた。表1に示す結果は、ガンボーグB5培地の存在下で増殖させた細胞が、MS培地、WP培地及びWP+カゼイン培地の存在下で増殖させた細胞よりも約4〜15倍高いレスベラトロールレベルを生じさせることを示している。
【0206】
実験2:大規模使い捨てバイオリアクタで増殖させた赤ブドウ細胞におけるレスベラトロールのレベル及び増殖に対する培地組成の効果
【0207】
例1のステージ3で説明したように、赤ブドウ細胞を大規模使い捨てバイオリアクタ内において種々の培地組成で増殖させた。
【0208】
赤ブドウ細胞を2種類の培地、すなわちガンボーグB5培地及び強化ガンボーグB5培地で増殖させた。下表2に示すように、ガンボーグB5培地に高レベルのマグネシウム塩、リン酸塩及び硝酸塩または硫酸塩(KNO、MgSO、MgNO、NaHPO)を補足したことによって、非強化ガンボーグB5培地の存在下で得られるバイオマスに比べて、高い赤ブドウ細胞のバイオマスが得られた。
【0209】
さらに、大規模使い捨てバイオリアクタで増殖させた赤ブドウ細胞におけるレスベラトロール及び全ポリフェノールのレベルに対する培地組成の効果を調べた。赤ブドウ細胞は、WP培地及び、種々の濃度のマグネシウム塩、硝酸塩及びリン酸塩(結果的に、KNO、MgSO、MgNO、KNO及びNaHPO)を含有するガンボーグB5培地で増殖させた。表3は、これらの塩が、とりわけ強化ガンボーグB5培地に添加される場合に、高レベルのポリフェノール及び高レベルのレスベラトロールの生産のために必要であることを示している。WP培地と対照的に、全ポリフェノール及びレスベラトロールのレベルは非常に低い。
【0210】
図4は、大規模使い捨てバイオリアクタ内において強化ガンボーグB5培地で増殖させた赤ブドウ細胞の増殖曲線を示している。赤ブドウ細胞は指数増殖し、20日後から最大40日後に500g/1の新鮮(生)バイオマスが得られた。これらの細胞は増殖し続けてより高いバイオマスに到達することもできる。
【0211】
実験3:振盪三角フラスコから大規模バイオリアクタまで異なる増殖ステージで増殖させたRGCのレスベラトロールレベル及び全ポリフェノールレベルの一貫性
【0212】
振盪三角フラスコから大規模使い捨てバイオリアクタまで異なる規模のステージにおいて、例1のステージ1〜4で説明したように、強化ガンボーグB5培地の存在下で赤ブドウ細胞を増殖させた。
【0213】
表4の結果は、赤ブドウ細胞が三角フラスコ内で良好に増殖し、大量のレスベラトロール及び全ポリフェノールを合成したことを示している。50リットルまたは300〜1000リットルの規模のいずれかの使い捨てバイオリアクタで細胞を増殖させた場合には、三角フラスコで増殖させた場合と比較して、細胞の生重量及び乾燥重量によって示される増殖率がより高かった。表4のデータを参照されたい。三角フラスコでの生重量166g/1と比較すると、スケールアップバイオリアクタの全ての大きさで生重量は230g/1を上回っていた(表4)。さらに、大規模使い捨てバイオリアクタ内の強化培地中の全ポリフェノールのレベル及びレスベラトロールのレベルは、三角フラスコで得られたレベルよりも高く、それぞれ901mg/l及び200mg/lであった(表4)。他者によって行われた測定とは対照的に、大規模使い捨てバイオリアクタ内での果実植物細胞の増殖の成功(高レベルのレスベラトロール及びポリフェノール生産量を伴う)を実証するのはこれが初めてである。
【0214】
実験4:大規模使い捨てバイオリアクタで増殖させた赤ブドウ細胞におけるレスベラトロール及び全ポリフェノールのレベルに対するカゼイン加水分解物の効果
【0215】
例1のステージ3で説明したように、大規模使い捨てバイオリアクタ内において強化ガンボーグB5培地の存在下で赤ブドウ細胞を増殖させた。
【0216】
表5に見られるように、使い捨て大規模バイオリアクタ内において強化培地で増殖させた場合には、250mg/lのカゼイン加水分解物の有無にかかわらず、赤ブドウ細胞におけるレスベラトロール及び全ポリフェノールのレベルは類似していた。
【0217】
実験5:大規模使い捨てバイオリアクタで増殖させた赤ブドウ細胞のレスベラトロール及び全ポリフェノールのレベルに対する植物ホルモン添加の効果
【0218】
例1のステージ3で説明したように、赤ブドウ細胞を、大規模使い捨てバイオリアクタ内の強化ガンボーグB5培地で増殖させた。表6に見られるように、使い捨て大規模バイオリアクタで増殖させた場合には、0.5mg/lのNAA及び0.2mg/lのカイネチンの有無にかかわらず、赤ブドウ細胞におけるレスベラトロール及び全ポリフェノールの生成のレベルは類似していた(表6)。
【0219】
実験6:大規模使い捨てバイオリアクタで増殖させた赤ブドウ細胞に対するスクロース濃度の効果
【0220】
例1のステージ3で説明したように、赤ブドウ細胞を、大規模使い捨てバイオリアクタ(50リットル)内において種々のスクロース濃度の強化ガンボーグB5培地で増殖させた。
【0221】
赤ブドウ細胞を、2、3、4及び6%のスクロースを含有する強化ガンボーグB5培地で増殖させた。下表6Aに示すように、2〜4%のスクロース(143〜260g/L)で細胞を増殖させた場合に、最適な細胞増殖及びバイオマスが達成される。それよりも高いスクロース濃度では、例えば6%のスクロースは、細胞増殖を10倍阻害する(24g/L)。
【0222】
実験7:大規模使い捨てバイオリアクタで増殖させた赤ブドウ細胞におけるレスベラトロール及び全ポリフェノールのレベルに対するバイオリアクタ構成、設計及び構造の効果
【0223】
赤ブドウ細胞によって生成されるレスベラトロールの量に対する2つの培地(IM1培地並びに、マグネシウム塩、リン酸塩及び硝酸塩で強化されたガンボーグB5培地)の効果を、滅菌された使い捨ての透明なプラスチック容器から製造された20Lバイオリアクタ内で評価し、さらに、A. Decendit (1996) Biotechnology Lettersに公表されたデータ(ここでは、20Lのガラス容器内においてIM1培地で細胞を増殖させた)と比較した。
【0224】
結果は、使い捨てバイオリアクタ内においてIM1培地で増殖させた赤ブドウ細胞が93mg/lのレスベラトロール(表7)を生成し、これは、同じ培地(Decendit)を用いて撹拌型ガラス製バイオリアクタ内で生成されたレスベラトロールよりも約3倍高いレベルであることを示していた。さらに、これらの細胞を使い捨てバイオリアクタ内において強化ガンボーグB5培地で増殖させた場合には、387mg/lという非常に高レベルのレスベラトロールが生成された(表7)。
【0225】
さらに、強化ガンボーグB5培地を含む特定の培地組成と使い捨てバイオリアクタデザインとの組合せにより、細胞は、IM1培地及び撹拌型ガラス製バイオリアクタで生産されたレベルよりも10〜12倍のレスベラトロールを生産し、使い捨てバイオリアクタ内においてIM1培地で増殖させた細胞の4倍のレスベラトロールを生産した(表7)。
【0226】
これらの結果は、20L以上のバイオリアクタで生成されるRGC中のレスベラトロールを高レベルに維持するためには、バイオリアクタの種類及び培地組成の両方が必要であることを示している。
【0227】
例3
組成物:
【0228】
赤色及び紫色のブドウはともに強力なポリフェノール、抗酸化物質及びレスベラトロールを含んでおり、動脈の狭窄及び硬化の両方を予防するのに役立つ。増加の一途をたどる研究によれば、赤色及び紫色のブドウ中に存在し、最終的には赤ワイン中にも存在するレスベラトロールは、体内の重要な代謝経路に影響を与えるものであり、我々の健康に寄与し得ることが示されている。しかし、これらは糖含量が非常に高く、したがって適度に摂取すべきである。
【0229】
大規模使い捨てバイオリアクタで増殖させた赤ブドウ細胞の組成物は、他に類のないものである。
【0230】
赤ブドウ細胞の化学組成物は、糖及びレスベラトロールのレベル以外は、標準的な農業のやり方を用いて増殖させたブドウと同様である。
【0231】
実験8:ブドウ園で成長させた赤ブドウとの比較における、大規模使い捨てバイオリアクタで増殖させた赤ブドウ細胞における全糖、グルコース及びフルクトースのレベルの低さ
【0232】
例1のステージ3及び4で説明したように、大規模使い捨てバイオリアクタ内において強化ガンボーグB5培地で増殖させた赤ブドウ細胞に含まれる全糖、グルコース及びフルクトースの量は、農業手段によって増殖させた異なる種類の赤ブドウから得られるこれらの糖のレベルと比較して25分の1〜50分の1であった(表8)。
【0233】
実験9:大規模使い捨てバイオリアクタで増殖させた赤ブドウの全ポリフェノール及びレスベラトロール組成物のレベル
【0234】
赤ブドウ細胞に含まれる全ポリフェノールのレベルは、露地で成長させた赤ブドウに含まれる量と同様であるが、レスベラトロールは例外で、40〜800倍高いレベルで存在している(表9及び表10)。例1のステージ3及び4で説明したように大規模使い捨てバイオリアクタで増殖させた赤ブドウ細胞5バッチ中のレスベラトロールのレベルは、生重量1kg当たり726〜916mgであり、それに対して農業により生産された赤ブドウでは0〜42.5mg/kgである(表9)。乾燥プロセス後の赤ブドウ細胞の乾燥粉末中のレスベラトロールのレベルは、粉末1kg当たり6000〜31000mgである(表10)。
【0235】
方法:280、520及び306nmにおけるUV/VIS検出を伴うHPLCを用いて赤ブドウ細胞中のポリフェノール及びレスベラトロールのレベルを分析した。
【0236】
【0237】
【0238】
例4
インビボでカラギーナンによって誘発される足浮腫ラットモデルにおける培養ブドウ細胞の効果
【0239】
本研究の目的は、本発明により生産した細胞の生産効率を検証するために、本発明の大規模プロセスにより製造したRGC(赤ブドウ細胞)のインビボ抗炎症活性をラットの急性炎症モデルにおいて評価することであった。げっ歯類の急性炎症を研究するために最も広く用いられている実験モデルの1つは、カラギーナンの足底内投与に基づくものである。
【0240】
本研究では、RGCの有効性を次の2つの方法によって評価した。
1.足体積の測定
2.自由に動き回るラットの炎症性痛覚
【0241】
原料及び方法:
例1に従って作製した赤ブドウ細胞(RGC)。
カラギーナン注射の2時間前に、RGCを、滅菌飲料水中に懸濁させた懸濁液として体重1kg当たり400mg(400mg/kg)(2ml/40mg)の用量で経口投与した。
RGC組成物:各ラットに注射したポリフェノール及びレスベラトロールの量は、それぞれ14mg及び4.8mgであった(RGC100mg当たりポリフェノール3.5mg、及びRGC100mg当たりレスベラトロール1.2mg)。
カラギーナンはラットの足浮腫を誘発した:ラットを8匹ずつ3つの群に分けた。全ての群のラットに対し、各ラットの左後足の足底下組織に1%のカラギーナン(0.1mg/足)または滅菌食塩水(0.9%NaCl)を注射した。
【0242】
以下の検査を行った:
【0243】
足体積の測定
・カラギーナン注射の直前、注射の0、1、2、4時間後の時点で、1時間毎にキャリパを用いてカラギーナン注射した足体積を測定した。
・2つの軸線で足寸法を測定し、足体積を計算した。このモデルの足浮腫体積は、炎症の重症度を示すものであった。
・各時点に対して、ベースライン足体積を減算することによって、またはベースライン足体積の%として、足体積の変化を計算した。
【0244】
自由に動き回るラットの炎症性痛覚を測定するためのホットプレート法
ホットプレート法を用いて、自由に動き回るラットの炎症性痛覚を測定した。浮腫を誘発し、かつ溶媒、インドメタシンまたはRGC製剤のいずれかで処理した後、ラットを55±0.5℃の温度に維持したホットプレート上に置いた。ベースラインに比べて、後足を動かしたり舐めたりするまでの潜時、あるいはホットプレートからジャンプするまでの潜時を反応時間と考えた。注射の1、2及び4時間後に反応時間を書き留めた。反応がない場合は、組織損傷を防ぐために、カットオフ時間を30秒とした。
【0245】
群の割当:
溶媒投与対照(1M)群:対照ラットには、カラギーナン注射の2時間前に、滅菌飲料水(溶媒)を投与した。
陽性対照群(「2M」):陽性対照群のラットには、カラギーナン注射の2時間前に、体重1kg当たり2mgのインドメタシンを投与した。
実験群(「3M」):ラットには、カラギーナン注射の2時間前に、RGCを、滅菌飲料水中に懸濁させた懸濁液として体重1kg当たり400mgの用量(1ml/40mgのRGC)で経口投与した。
【0246】
結果
【0247】
足の腫れ:
図1は、RGC製剤、インドメタシン及び対照として水でそれぞれ処理したラットにおける足浮腫の結果(体積パーセント)を示している。反復測定のための二元配置分散分析法を用いて統計分析を行い、次にボンフェローニ・ポストホックテスト(ボンフェローニ法)を用いた。対照群(1M)と陽性対照群(2M)との比較は、2時間後及び4時間後に統計的に有意な差(p<0.001)を示した。対照群とRGC製剤(3M)群との比較は、2時間後及び4時間後に統計的に有意な差(p<0.001)を示した。
【0248】
図1に示したように、ラットをRGC製剤で処理した場合、1時間後または2時間後に足の腫れが少なくとも陽性対照のレベルまで減少した。さらに、4時間後、RGC製剤で処理したラットは、対照よりもさらに大きな足の腫れの減少を示した。
【0249】
炎症性痛覚
図2は、RGC製剤、インドメタシン及び対照として水でそれぞれ処理した後の、各群の痛覚過敏作用を示している。反復測定のための二元配置分散分析法を用いて統計分析を行い、次にボンフェローニ法を用いた。対照群(1M)と陽性対照群(2M)との比較は、2時間後及び4時間後に統計的に有意な差(p<0.05−0.01)を示した。対照群とRGC(3M)との比較は、4時間に統計的に有意な差(p<0.01)を示した。
【0250】
図2に見られるように、溶媒投与対照群(1M)(滅菌飲料水を投与)は、カラギーナン注射の2時間後及び4時間後に、熱刺激に対する潜時Δ(時間)の著しい増加を示した。このことは、この群におけるラットの足底熱刺激に対する反応性の低下によって裏付けられた。
【0251】
図3に見られるように、陽性対照群(インドメタシン処理ラット,2M)は、カラギーナン注射の2時間後及び4時間後に、溶媒投与対照群と比較して熱刺激に対する反応の潜時Δの著しい減少を示した。
【0252】
RGC処理ラット(3M)は、カラギーナン注射の4時間後に、熱刺激に対する反応の潜時Δの減少を示した。これは、溶媒投与対照群と比較して統計的に有意であった。
【0253】
結論として、この例において示された結果は、ラットにおけるカラギーナンによって誘発される後足炎症と関連する足浮腫及び行動痛覚過敏が、例1に記載したプロセスにより製造したRGCの経口投与によって実際的に軽減されたことを示しており、このことは、RGC製剤の抗炎症作用が大規模プロセスで作製されるRGC中においてさえも回復されることを示している。これは、同じカラギーナン誘発性痛覚過敏モデルを用いたGentilli et al (2001)に記載されている研究とは著しい対照をなす。彼らの研究は、ラットに対して後足へのカラギーナン注射の前に投与された高濃度のレスベラトロール(体重1kg当たり50mg(50mg/kg)。それに対して、本願の研究に用いたのは6mg/kgに相当する)が足浮腫を減少させなかったことを示している。
【0254】
例5
動物実験
【0255】
イスラエル国エルサレムのハーラン・ラボラトリーズ社(Harlan Laboratories Ltd)から40匹のオスのスプラーグ・ドーリー(SD)ラット(体重250±25g)を入手した。ラットは、標準サイズのケージに入れ、22℃の動物飼育室に置き、14時間の明/10時間の暗の周期の条件下で飼育した。ラットは、5日間の順応期間中、標準的なラット食で維持し、不断で飲用の水道水を与えた。順応期間に続いて、ラットを、21%のタンパク質、5%の脂肪、60%の炭水化物0.49%のナトリウム、0.49%のカリウムからなるフルクトース強化食(Teklad-Harlan, Madison, USA)に切り替え、4つの群に分けた(各群に10匹のラット)。
【0256】
全てのSDラットに高フルクトース食を5週間与えた。高フルクトース食を与えた3週間後に、ラットの一部(30匹のラット)に対して、異なる用量(200、400及び800mg/Kg/日)のRGCをラットの食事に直接添加した。
【0257】
体重、収縮期BP、血漿トリグリセリド、インスリン及びアディポネクチンのレベルを、ベースライン時並びに高フルクトース食を与えた3週間後及び5週間後に測定した。すなわち、第1及び第2の測定を30匹のラットへのRGC添加の前に行い、第3の測定を5週間後に(すなわち、RGC添加期間の2週間後に)行った。研究の開始時並びに高フルクトース食を与えた3週間後及び5週間後に、20匹のラット(10匹は対照群のラット、10匹は400mgのRGCを添加したラット)を、尿中ナトリウム排泄を分析するために代謝ケージに入れた。
【0258】
血圧測定
電気血圧計及び空気振動トランスデューサ(58500 BP Recorder, UGO BASILE, Varese, Italy)を用いて、非観血的テールカフ(tail cuff)法によって収縮期血圧(BP)を測定した。測定を行う間、ラットは温度調整されたラットホルダに保持した。5つの連続した測定値の平均を用いて収縮期BPを決定した。
【0259】
実験室測定
指示された時点で、絶食の5時間後に、全てのラットから、イソフルランでの浅麻酔下で、後眼窩静脈叢穿刺から血液サンプルを採取した(第1及び第2の測定をRGC添加の前に行い、第3の測定を開始時点から5週間後に(すなわち、RGC添加期間の2週間後に)行った)。
【0260】
凝結防止のためにEDTAの存在下で血漿用の血液を採取し、冷所に保存した。遠心分離に続いて、血漿を分離し、さらなる分析を行うまで−80℃で凍結させた。酵素比色反応の自動分析器(Olympus AU 2700, Hamburg, Germany)によりトリグリセリドレベルを分析した。I−125RIAキット(INSIK-5, Diasorin, USA)を用いて血漿インスリンを評価した。アディポネクチンRIAキット(Cat. #MADP-60HK from Linco Research Inc., St. Charles, MO)によって、総血漿アディポネクチン濃度を測定した。自動分析器(Olympus An 2700; Olympus Diagnostics, Hamburg, Germany)によって尿中ナトリウム排泄率を測定した。
【0261】
結果
【0262】
血圧、血漿トリグリセリド、インスリン、アディポネクチン及びナトリウム排泄に対するRGCの効果
【0263】
高フルクトース食を与えたラットにおいて、RGCを添加してもしなくても体重増加量は同様であった(図11)。高フルクトース食は、血圧、血漿トリグリセリド、インスリン及びアディポネクチンのレベルの著しい上昇を誘発した(図5,表4)。収縮期BPは、高フルクトース食を投与した5週間後に137mmHgから156mmHgに19.1±1.1mmHg上昇した(p<0.001)。RGCの添加により、高フルクトース食によって誘発されるBP上昇(図5)は、200mg/Kg/日のRGCを投与した第1の群においては161±4.5から151±3.6mmHgに、400mg/Kg/日のRGCを投与した第2の群においては162±5から152±3mmHgに、800mg/Kg/日のRGCRGCを投与した第3の群においては162±2.8から150±1.8mmHgに、それぞれ抑制した(p<0.05)。RGCの添加により、血漿中のトリグリセリドのレベルは、200mg/Kg/日のRGCを投与した第1の群においては234±14から171±12mg/dLに、400mg/Kg/日のRGCを投与した第2の群においては235±12から167±24mg/dLに、800mg/Kg/日のRGCを投与した第3の群においては219±31から142±21mg/dLに、それぞれ抑制した。RGCは、高フルクトース食によって誘発される血漿インスリンレベルの上昇を、対照群(フルクトース強化食)における±43.5mg/dLから、それぞれ200、400及び800mg/Kg/日の用量でRGC処理したラット群における33.9±2.6、34.4±3.8及び31.6±2.9mg/dLまで抑制した。
【0264】
それぞれ200、400及び800mg/Kg/日の用量でRGC処理したラット群におけるアディポネクチンレベルが6.0±0.4,4.5±0.2及び5.4±0.5であったのに対して、対照群におけるアディポネクチンレベルが5.8±0.3であったことが示すように、RGCは、アディポネクチンレベルに確実な効果を及ぼさなかった。
【0265】
RGCを添加したラットにおいても添加しなかったラットにおいても、ベースライン時の尿中ナトリウム排泄は同じであった(それぞれ0.5±0.1及び0.7±0.2mmol/日,p=0.43)。尿中ナトリウム排泄は、高フルクトース食の3週間後に著しく増加し、RGCの添加後には変化がなかった(3週間後、RGCを添加しなかったラット及びRGCを添加したラットにおいてそれぞれ3.5±0.2及び2.3±0.3mmol/日;両者p<0.05であり、5週間後、それぞれ3.1±0.2及び1.8±0.3mmol/日;群間でp=0.4であった)。
【0266】
例6
他の源から得られるRESと比較してのRGC−RESの化学的特性、及びRGC−RESのヒトのバイオアベイラビリティ特性
【0267】
原料及び方法
例1に従って赤ブドウ細胞(RGC)を作製した。RGCのレスベラトロール(RES)含有量を、合成RES較正曲線を用いて306nmでHPLC分析によって測定した。
【0268】
RGC−RESのLC−MS分析
RGC粉末を80%メタノールに溶解させた。試料の液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)を、Accela LCシステム/エレクトロスプレーイオン化源を備えた四重極トラップ(LTQ)型Orbitrap DiscoveryハイブリッドFT質量分析計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific Inc.)製)を用いて行った。質量分析計を負イオン化モードで作動させ、m/z150〜2000の範囲で質量スペクトルを得た。
【0269】
溶解度アッセイ
RGC、合成レスベラトロール(S−RES;シグマアルドリッチ社)及び植物イタドリからのレスベラトロール抽出物(植物−RES)を80%メタノールに溶解させることにより100%の溶解を達成した。その後、全てのRES源をpH2及びpH7の水に溶解させ、水への溶解度のパーセンテージをメタノールへの溶解度と比較した。全ての試料中のRESをその特性吸収プロフィールに基づいて306nmで測定し、レスベラトロール分析標準の較正曲線によって濃度を決定した。
【0270】
結果
【0271】
LC−MS
RGC粉末のための負イオンモード及び代表的LC/MSクロマトグラムでの質量スペクトルを図6A及び図6Bに示す。LC−MS分析によって、RGCにおいてレスベラトロールの4つの誘導体が検出され(m/z−227.0701−227.0737)、これらは全て306nmでのUV吸光度を示している。これらの誘導体のうち3つは、4.6分、5.3分及び6.1分の保持時間に検出されたトランス型RES異性体のヘキソース配糖体であった。第4の誘導体は、6.9分の保持時間に検出されたトランス型RESのものであった(表12)。ESIマススペクトル(図7)に示すように、4つの誘導体の同一性を確認した。
【0272】
溶解度
RGC−RESの溶解度を2つのトランス型RES生成物、すなわち合成−RES及び植物イタドリ−RESの溶解度と比較した。検査した3つの生成物は全て、80%メタノール溶液に完全に溶解した。しかし、3つのRES生成物を、胃のpH状態を再現する酸性化した水(pH=2)及びpH7.0の水に溶解させたとき、RGC−RESの溶解度は、RGC−RESに関しては6倍以上高い44%であり、他の2つのRES源に関しては7%であった(図8)。
【0273】
ヒトバイオアベイラビリティの研究
本研究は、単回用量無作為化クロスオーバ比較薬物動態研究であった。15人の成人の健常な絶食男性被験者に対して、少なくとも7日間のウォッシュアウト期間を隔てて、治験中の生成物RGC(50mgまたは150mgのトランス−RESに相当する経口用量)を投与した。投与の4時間後に標準食を与えた。本研究は、イスラエル国保健省(MOH)の全ての規則及び規制に準拠して、かつICH GCPガイダンスに従って行った。このプロトコールは、ソロカ大学医療センターIRBによって承認されたものであり、各患者に対する50または150mgの単回用量の投与と、その後の7日間のウォッシュアウトと、1回目の用量とは異なる(最初に50mgを投与された患者は2回目の投与で150mgを投与され、逆の場合も同様であるように投与される)2回目の単回用量とが含まれる。本研究へは15人の健常な非喫煙男性ボランティアを募集した。ボランティア適格条件は、年齢18〜55歳;BMI>19及び<30であった。被験者は、1回目の投与の7日前から、及び本研究期間全体を通して、RES含有食品、栄養サプリメントまたはドリンクを控え、かつ一般用医薬品を含む全ての薬物を控えるように依頼された。
【0274】
試料の採取及び管理
投与の前(t0)及び投与の0.33、0.67、1、1.5、2、2.5、3、4、5、6、8、10及び12時間後に、KEDTA含有チューブに様々な血液試料を採取した。血液試料を氷浴中に保持し、黄色光の下で直ちに処理した。
【0275】
血漿中のレスベラトロール含有量の分析
試料作製及び血漿試料中の遊離RES(free RES)及び全RES(total RES)のLC−MS分析は、PRACSインスティテュート(Toronto, Canada)が行った。血漿試料を液液抽出し、の分析のためにLC−MS/MSシステムに用いた。定量下限値(LLOQ)は、遊離RES及び全RESに関してそれぞれ0.5及び20ng/mLであった。全RESの分析のために、LC−MS/MS分析に先立って、酵素加水分解及びタンパク質沈殿抽出を行った。
【0276】
薬物動態解析
ノンコンパートメントモデル薬物動態手法を用いて遊離RES及び全RES(遊離及び共役)に関する以下の薬物動態変数、すなわち、最大血漿濃度(Cmax)及び最大血漿濃度時間(Tmax)、全収集期間の平均濃度、台形法による時間(0)から最後の定量化可能な濃度(Clast,LOQを超えている)までの血漿濃度−時間曲線下面積(AUC)を計算した。
【0277】
LDL酸化アッセイ
LDLの作製:不連続密度勾配超遠心法によって、健康で血中脂質が正常なボランティアの血漿からLDLを分離した。
【0278】
銅イオンに誘導されるLDL酸化:各実験におけるブドウ粉末エタノール抽出物の濃度の増加とともに、LDL(100mgのタンパク質/mL)を室温で10分間インキュベートした。CuSOを加え、チューブを37℃で2時間インキュベートした。インキュベーションの終わりに、チオバルビツール酸反応性物質(TBARS)及び過酸化脂質(PD)の生成量を測定することによって、LDL酸化量を測定した。
【0279】
脂質過酸化反応アッセイ:吸光度532nmにおいて、マロンジアルデヒド(MDA)の標準曲線を用いて、チオバルビツール酸反応性物質(TBARS)アッセイによって培地中のLDL酸化量を直接測定した。分光光度法(365nm)で測定したヨウ素をヨウ化物に変換する能力によって過酸化脂質形成を分析する過酸化脂質テストによって、リポタンパク質酸化も測定した。
【0280】
結果
【0281】
人口統計学的特性及び安全性:15人の健常な男性ボランティアが本研究に参加した。被験者の年齢範囲は28〜55歳(平均42.1歳)、BMI範囲は21.4〜30(平均25.8)であった。全ての被験者は、スクリーン時及び投与時の検査パラメータ及びバイタルサイン測定値に関して臨床的に有意な異常がなく、薬物及びアルコールに対して陰性であることをテストした。本研究を通して有害事象は観察も報告もされなかった。
【0282】
遊離及び全レスベラトロールの血漿薬物動態:全RES及び遊離RESに関する平均のトランス型RGC−RESの血漿濃度−時間曲線を図6に示す。図に見られるように、両濃度におけるRGCプロフィールは、2つの明瞭な濃度ピーク、すなわち1時間後の第1のピークと、5時間後の第2の(より高い)ピークを示している。
【0283】
t−RESの平均薬物動態パラメータを表13A及び表13Bにまとめた。
【0284】
最初の2つの測定時点である0.33時間及び0.67時間で分析を行ったところ、測定可能な量のRGCを投与された被験者の血漿中のRESが明らかになった(表14)。さらに、0.33時間の時点では、RGC群の全ての被験者(RGCを150mg投与した群の1人を除く)は、測定可能な濃度の全RESを有していた(表14及び表15)。
【0285】
結論
【0286】
RGCに由来するRESは、1つのヘキソース部分の追加によって特徴付けられる。ヘキソースの正確な種類及び正確な位置は特定されていないが、RGC−RESはピセイド(赤ブドウに天然に存在する最もよく見られる種類のRES)である可能性が最も高い。遊離RES及び全RESの両形態において実証された2つのピークの現象は独特なものであり、他の種類のRESには見られなかった。溶解度試験において観察されたように(溶解度試験では、RGC−RESは合成及び植物由来RES源よりも水溶性が高かった)、RGC−RES中のグリコシド基の存在がRGC−RESをより溶解しやすくした可能性がある。この独特な2つの濃度ピークパターンは、赤ブドウのポリフェノールの全マトリックス及び高レベルの配糖体レスベラトロールを含有しかつ両者の相乗効果をもたらすRGC固有の組成物にも起因し得る。この特徴は、投与の20分後という早さでRESが高い率で、高濃度で存在することに現れていたであろう。
【0287】
濃度/時間曲線(図9A)にはっきりと見られるように、RGC−RESは、1時間後及び5時間後に現れる2つの非常に明白な濃度ピークを生じさせた。
【0288】
重要なことには、RESの合成または酵母発酵源の濃度時間曲線(Poulsen et al., 2013)及び植物由来RESの濃度時間曲線(Amiot, et al., 2013)は、明白な1つの濃度ピークを示している。このことは、持続効果を得るために1日に1回のRGCの補足で十分であることを示しており、その一方で、他の製品では、同じ効果を得るために1日に2回以上の補足またはより高いレベルが必要とされ得る。
【0289】
例7
臨床研究−高血圧前症または軽度(中程度)高血圧症を患う人々の血圧、血管機能及び血漿酸化パラメータに対するRGC粉末の効果
【0290】
ランダム化二重盲検プラセボ対照研究を行った。適格被験者を参加させ、無作為に3つの治療計画に分け、200mgのRGC粉末、または400mgのRGC粉末、またはプラセボを投与した。治療対象者(被験者)は、他の関連する薬を併用していなかった。治験薬またはプラセボを12週間にわたって1日1回摂取させた。投薬量中のレスベラトロール及び全ポリフェノールの量を下表16に示す。
【0291】
結果
55人中46人の被験者(92%)が研究を完了した。ベースライン基準は、全処置群にわたって比較可能であった。200mgのRGCで処置した群は、他の2つの処置群と比較して高いBMIを有していた。研究対象母集団の平均年齢は57.5±7.2歳(範囲:41.7〜70.0歳)であった。
【0292】
安全性
RGCでの処置は、安全でかつ良好な耐容性を示していた。1つの重篤な有害事象(SAE)である胸焼けは胸痛に変わったが、翌日同時に解消され、研究成果に関連していそうにない中程度のSAEであると考えられた。他の全ての有害事象は軽度または中等度であり、研究成果に関連しているとは考えられなかった。研究中にバイタルサインや実験室での値の臨床的に有意な変化は生じなかった。
【0293】
有効性
【0294】
血圧(BP)
拡張期BPは、200mgのRGCで処置した群において−4.18±8.96mmHg低下した。異なる群間の比較は、この変化がプラセボとは統計的に有意に異なることを示した(表17,p=0.0320)。200mgのRGCで処置した群においては、ベースライン時と処理終了時との間で収縮期BPの僅かな変化が見られた(表17)。
【0295】
血漿酸化パラメータ
表17に示したように、400mgのRGCで処置した群では、ベースライン時と処理終了時との間で過酸化脂質値が著しく31.4±56.0nmol/ml低下した。200mgのRGCで処置した群でも、30.0±48.2nmol/mlの過酸化脂質値の低下が観察された。
【0296】
サンプルサイズをより大きくできるように2つのRGC処置群から得られた過酸化脂質値を合わせると、平均過酸化脂質値は、31.0±52.3nmol/ml減少した(図10,p=0.013)。
【0297】
血流依存性血管拡張反応(FMD)により測定される血管機能
【0298】
200mgのRGCで処置した群の6人の被験者、400mgのRGCで処置した群の8人の被験者及びプラセボを投与した9人の被験者において、FMDにより血管機能を測定した。400mgのRGCで処置した群では、ベースライン時と処理終了時との間で統計的に有意なFMDの2.14±1.82mmHgの増加が観察された(表17,p=0.013)。FMDは、上腕部の血圧計カフ(腕帯)を5分間200mmHgまで膨張させ、その後、カフを緩めてから60、90及び120秒後に超音波検査によって動脈の拡張を測定することによって行った。
【0299】
400mgのRGCで処置した群の8人の被験者全て(100%)には、肯定的な相対的な変化が起こった(>70%のFMD)が、これに対して、200mgのRGCで処置した群では6人の被験者のうちの2人(33.3%)、プラセボを投与した群では9人の被験者のうちの2人(22.2%)であった(図11)。400mgのRGCで処置した群において観察された改善率は、200mgのRGCで処置した群及びプラセボ群の両方で観察されたものとは統計的に有意に異なっていた(400mg対200mgではp=0.015、400mg対プラセボではp=0.0023)。
【0300】
ここに示す結果は、RGC粉末の毎日の摂取が、軽度高血圧症の被験者においてFMDを向上させ、酸化ストレスを改善し得ることを示している。RGCは、医学的に治療されていない軽度高血圧症の被験者において拡張期及び収縮期血圧を低下させることもできる。
【0301】
例8
健康で適度に訓練されたサイクリスト(自転車乗り)の測定に対する赤ブドウ細胞(RGC)粉末摂取の効果の二重盲検ランダム化プラセボ対照研究
【0302】
実験手順
例1に従ってRGC細胞培養物の粉末を作製した。
【0303】
健康で適度に訓練されたサイクリストからなる3つの群に対する臨床研究を行った。15人の被験者に6週間1日200mgの用量でRGCを投与し、14人の被験者に1日1000mgの用量でRGCを投与した。15人の被験者(対照群)にプラセボを6週間投与した。
【0304】
RGC摂取前のベースライン来院時に、被験者に対して、体重、身長、体脂肪率の測定を含む身体測定を行った。その後、被験者に対して、静止自転車エルゴメータを用いた心肺運動負荷試験を行った。測定されたパラメータには、安静時及び最大運動時の心拍数及び血圧、並びに一連のエアロビックフィットネスパラメータが含まれる。RGCまたはプラセボ摂取の6週間後に精密測定を繰り返した。
【0305】
表18に見られるように、安静時拡張期血圧の5%〜6%の大幅な低下は、添加後の2つのRGC群においてのみ見られた。同様に、平均安静時収縮期血圧も低下した。拡張期及び収縮期血圧の低下を示した被験者の数を測定すると、両RGC群におけるそのような被験者の数は、プラセボ群と比較してほぼ2倍であることが明らかになった。安静時の心拍数に関しても同様の状況が明らかになった。
【0306】
最大運動時には(表19)、研究終了時に低用量群のみにおいて統計学的には五分五分で拡張期血圧が低下した。研究終了時に最大運動時の拡張期血圧が低下した参加者の数は、両RGC群において、プラセボ群と比較して3倍以上多かった。最大運動時における最大収縮期血圧測定値にも同様の傾向が見られた。
【0307】
表18は、ベースライン時及び研究終了時の平均安静時心拍数及び血圧並びに群間の差に関するデータを示している。各パラメータが改善した参加者の割合も括弧内に示されている。
【0308】
表19は、ベースライン時及び研究終了時の最大有酸素能力の測定値並びに群間の差に関するデータを示している。各パラメータが改善した参加者の割合も括弧内に示されている。
【0309】
本明細書において本発明の特定の特徴について図示及び説明してきたが、当業者は、本発明の多くの変更形態、置換形態、変形形態及び等価形態を想到するであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の趣旨に含まれる全てのそのような変更形態及び変形形態を網羅するものであることを理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11