【文献】
D. DURANOGLU et al.,Steam and KOH Activated Carbons from Peach Stones,Energy sources. Part A, Recovery, utilization, and environmental effects,米国,2012年 5月 1日,Vol.34, No.9-12,p.1004-1015,2.1. Preparation of Peach Stone, 2.2. Production Procedure, Table 1, doi:10.1080/15567036.2010.527910
【文献】
木村友子他,金属担持コークスからのメソポーラス活性炭の調製とその吸着特性,日本化学会講演予稿集,日本,社団法人日本化学会,2007年 3月12日,Vol.87, No.1,p.238,実験
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記特許文献1〜3のように活性炭の細孔分布と比表面積を制御することによって活性炭の特性向上を図る技術が提案されているが、吸着量と移動速度のバランスを図ることが難しかった。例えば電気二重層キャパシタ用途においては、静電容量と内部抵抗はトレードオフの関係にあると考えられている。すなわち、活性炭の比表面積を大きくするとミクロ孔の様な微細な細孔の割合が増加するが、微細な細孔内においてはイオン移動速度が低下し、内部抵抗が高くなることが知られている。一方、活性炭の細孔径を大きくすると、イオン移動速度が向上して内部抵抗は低下するが、全細孔容積が増大して活性炭のかさ密度が低下することから、キャパシタセル単位体積あたりの静電容量が低下することが知られている。
【0020】
本発明の活性炭は、比表面積と、細孔径3nm以上の細孔容積と、平均細孔径をバランスよく調整することで、移動速度を向上させると共に、吸着量増大に寄与する細孔も十分に維持できる。そのため、例えば、本発明の活性炭を用いれば、静電容量が大きく、かつ、内部抵抗の小さい電気二重層キャパシタが得られる。特に本発明の活性炭は、常温(25℃)における静電容量(体積あたりの静電容量、及び質量あたりの静電容量を含む、以下同じ)や内部抵抗だけでなく、−30℃における静電容量(以下、「低温静電容量」ということがある)や−30℃における内部抵抗(以下、「低温内部抵抗」ということがある)にも優れた特性を示す。
【0021】
以下、本発明の活性炭について具体的に説明する。
【0022】
本発明の活性炭の比表面積は、1450〜1950m
2/gである。比表面積が小さすぎると吸着量が低下する。そのため、例えば電気二重層キャパシタとして十分な質量当たりの静電容量が得られない。また、比表面積が大きすぎると、かさ密度が低下する。そのため、例えば、電気二重層キャパシタとして十分な体積当たりの静電容量が得られない。比表面積は好ましくは1500m
2/g以上、より好ましくは1550m
2/g以上であり、好ましくは1900m
2/g以下、より好ましくは1880m
2/g以下である。
【0023】
また本発明の活性炭は、細孔径3nm以上の細孔容積が0.09〜0.35cm
3/gである。細孔径3nm以上の細孔容積が小さすぎると、移動速度が低下する。そのため、例えば活性炭を電気二重層キャパシタに用いると内部抵抗が増大する。また、細孔径3nm以上の細孔容積が大きすぎると、活性炭のかさ密度が低下する。細孔径3nm以上の細孔容積は好ましくは0.10cm
3/g以上、より好ましくは0.15cm
3/g以上であり、好ましくは0.30cm
3/g以
下、より好ましくは0.25cm
3/g以下である。なお、本発明において細孔径3nm以上の細孔容積とは、細孔径3nm以上、
30nm以下の細孔容積である。
【0024】
本発明の活性炭は、平均細孔径が2.05〜2.60nmである。平均細孔径が小さすぎると、吸着物質の活性炭からの出入りがスムースに行われ難くなり、移動速度が低下する。また平均細孔径が大きすぎると、活性炭のかさ密度が低下する。平均細孔径は、好ましくは2.10nm以上、好ましくは2.55nm以下、より好ましくは2.50nm以下である。
【0025】
また本発明の活性炭は、全細孔容積に対して上記細孔径3nm以上の細孔容積(以下、「細孔径3nm以上の細孔容積」という)の比率が好ましくは12〜39%である。細孔径3nm以上の細孔容積の比率が高くなると、移動速度が向上するため、より好ましくは15%以上である。一方、細孔径3nm以上の細孔容積の比率が高くなり過ぎると、活性炭のかさ密度が低下するため、より好ましくは30%以下である。なお、本発明において全細孔容積とは実施例に記載の方法で測定される細孔径
30nm以下の細孔容積である。
【0026】
本発明の活性炭の平均粒子径は、好ましくは10μm以下である。平均粒子径の下限は特に限定されないが、取り扱い性を考慮すると、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは2.0μm以上である。
【0027】
本発明の活性炭の全細孔容積は、好ましくは0.70cm
3/g以上、より好ましくは0.90cm
3/g以上、更に好ましくは0.94cm
3/g以上であって、好ましくは3.0cm
3/g以下、より好ましくは2.0cm
3/g以下、更に好ましくは1.10cm
3/g以下である。
【0028】
活性炭の形状は用途に応じた各種形状にすればよく、例えば粒状や粉状などが挙げられる。例えば活性炭を電気二重層キャパシタ用電極材料として用いる場合は、取り扱い性やかさ密度を考慮して粒状活性炭や粉状活性炭を用いてもよい。
【0029】
本発明の活性炭の製造方法は特に限定されず、比表面積、細孔径3nm以上の細孔容積、平均細孔径が上記所定の範囲を満足する活性炭を製造できればよい。以下、本発明の活性炭の製造方法について具体的に説明するが、本発明の製造方法は下記製造例に限定されず、適宜変更できる。
【0030】
本発明の上記特徴を有する活性炭は、カルシウム化合物、およびカリウム化合物の少なくとも一方(以下、「カルシウム化合物等」という)を炭素原料由来物(後記する炭素原料、炭素原料炭化物、および炭素原料水蒸気賦活物を含む意味、以下同じ)に添着させておき、該添着状態を維持したまま水蒸気賦活することによって製造できる。
【0031】
具体的には、炭素原料を炭化し、次いで1回以上水蒸気賦活することで炭素原料由来物を順次処理することとし、且つ1回の水蒸気賦活を行う場合は当該水蒸気賦活、または複数回の水蒸気賦活を行う場合は、最後の水蒸気賦活を実施するまでに炭素原料由来物にカルシウム化合物等を添着させておき、該添着状態を維持したまま最後の水蒸気賦活を実施すればよい。
【0032】
炭素原料由来物は、通常の活性炭の原料として用いられるものであれば、特に限定されない。例えばヤシ殻、フェノール樹脂、石炭、レーヨンなどの炭素原料;これら炭素原料を炭化した炭素原料炭化物;及びこれら炭素原料や炭素原料炭化物を水蒸気賦活した炭素原料水蒸気賦活物(以下、「水蒸気賦活炭」ということがある)などが挙げられる。これらのなかでも比表面積と細孔径3nm以上の細孔容積をバランスよくコントロール可能なヤシ殻、ヤシ殻炭化物、及びヤシ殻水蒸気賦活炭が好ましい。また入手容易性やコストなどを考慮すると、市場で安価に入手可能なヤシ殻水蒸気賦活炭がより好ましい。
【0033】
本発明では、カルシウム化合物等を炭素原料由来物に添着させた状態で水蒸気賦活することで、ミクロ孔を残しつつ、細孔径3nm以上の細孔を発達させることができる。なおカルシウム化合物等を添着させるタイミングは特に限定されず、水蒸気賦活するときに炭素原料由来物にカルシウム化合物等の添着状態が維持される限り、任意の段階で添着できる。本発明では水蒸気賦活を実施する前にカルシウム化合物等の添着状態が維持されている炭素原料由来物を賦活原料といい、賦活原料には下記添着炭化物や添着水蒸気賦活物が含まれる。
【0034】
上記したように本発明の製造方法では、最後の水蒸気賦活を実施する前にカルシウム化合物等が炭素原料由来物に添着していればよい。したがって(1)カルシウム化合物等を炭素原料に添着させてから炭化した後、得られた添着炭化物を水蒸気賦活してもよいし、または(2)炭素原料を炭化した後にカルシウム化合物等を添着させて得られた添着炭化物を水蒸気賦活してもよい。あるいは(3)炭素原料を炭化した後、水蒸気賦活し、次いでカルシウム化合物等を添着させて得られた添着水蒸気賦活物を水蒸気賦活してもよい。もちろん、カルシウム化合物等は製造プロセスの複数箇所、すなわち任意の異なる工程で添着させてもよい。例えば炭素原料にカルシウム化合物等を添着させてから炭化した後、カルシウム化合物等を再度添着させてもよい。また炭素原料を炭化した後、カルシウム化合物等を添着してから水蒸気賦活し、得られた炭素原料水蒸気賦活物にカルシウム化合物等を添着させ、次いで水蒸気賦活をしてもよい。
【0035】
炭素原料由来物の形状は、特に限定されることはなく、粒状、粉状、顆粒状、球状、塊状、繊維状、板状などのいずれの形状であってもよい。
【0036】
本発明ではカルシウム化合物等を添着前、または添着後に炭素原料を炭化するが、その際の炭化処理処条件は特に限定されず、通常、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で炭素原料が燃焼しない温度、時間で加熱処理すればよい。該炭化処理の温度は、好ましくは500℃以上、より好ましくは550℃以上であり、好ましくは1200℃以下、より好ましくは1000℃以下である。また炭化処理温度での保持時間は好ましくは5分〜3時間である。
【0037】
また本発明では炭素原料炭化物を1回以上水蒸気賦活するが、例えば炭素原料炭化物に水蒸気賦活を行って得られた炭素原料水蒸気賦活物にカルシウム化合物等を添着させ、該添着状態を維持したまま水蒸気賦活してもよい。炭素原料水蒸気賦活物を製造する場合の水蒸気賦活条件は特に限定されず、公知の水蒸気賦活の条件を採用できる。炭素原料炭化物を水蒸気賦活することで、活性炭の比表面積や全細孔容積を増大できると共に、吸着量向上に有効なミクロ孔の細孔容積も増大できる。そのため、得られた炭素原料水蒸気賦活物を賦活原料として用いると、吸着量、及び移動速度に優れた本発明の活性炭が得られる。また炭素原料水蒸気賦活物には必要に応じて公知の洗浄処理や熱処理を行ってもよい。
【0038】
本発明では上記炭素原料由来物にカルシウム化合物等を添着させる。カルシウム化合物等の添着方法は特に限定されない。例えば(i)炭素原料由来物をカルシウム化合物等含有液に浸漬する方法、(ii)炭素原料由来物にカルシウム化合物等含有液を噴霧する方法、(iii)炭素原料由来物にカルシウム化合物等含有粉末を添加する方法などが挙げられる。その後、必要に応じて乾燥させてもよい。またカルシウム化合物等含有液は、簡易且つ低コストで添着性を高める観点から液中でカルシウムやカリウムが溶解していることが望ましく、カルシウム化合物、またはカリウム化合物としては、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、塩化カルシウム、塩化カリウムなどが例示される。これらの中でも水溶性に優れており、かつ低コストな塩化カルシウムや塩化カリウムを用いることが好ましい。また上記添着方法においては、有機溶剤を用いたり、乾式混合を行うなど、カルシウム化合物等の性質に応じて適宜添着条件を選択することができる。
【0039】
上記添着方法によれば、炭素原料由来物にカルシウム化合物等の添着状態を維持したまま水蒸気賦活できる。もっとも、カルシウム化合物等の添着後、水洗などの湿式洗浄を行うとカルシウム化合物等が脱離するため、添着後、水蒸気賦活するまでは湿式洗浄を行わないか、あるいは湿式洗浄後、再度、カルシウム化合物等を添着させることが望ましい。
【0040】
カルシウム化合物等の添着状態を維持したまま炭素原料由来物に最後の水蒸気賦活をして得られる本発明の活性炭と、カルシウム化合物等を添着させずに炭素原料由来物を水蒸気賦活して得られる従来の活性炭と比べると以下のことがわかる。例えば
図1に示すように比表面積や全細孔容積などが同等であっても、カルシウム化合物等の添着状態を維持したまま炭素原料由来物を最後の水蒸気賦活した場合のみ、カルシウム化合物等の使用によって活性炭の状態がより好適に制御され、その結果、吸着量と移動速度とがバランスよく両立されている活性炭が得られる。
図8に示すようにカルシウム化合物等の添着状態を維持したまま最後の水蒸気賦活をして得られる活性炭No.1、2は、カルシウム化合物等を添着させずに製造した活性炭No.6、10と比べると、カルシウム化合物等の添着状態を維持したまま最後の水蒸気賦活することで、ミクロ孔の細孔容積は十分な吸着容量を維持しつつ、細孔径3nm以上の細孔が発達し、移動速度向上に効果的な細孔分布となる。したがって本発明の製造方法で得られた活性炭は、例えば電気二重層キャパシタとして十分な静電容量を有するだけでなく、内部抵抗も低減されている。
【0041】
カルシウム、およびカリウムの少なくとも一方(以下、「カルシウム等」という)の添着量は特に限定されず、賦活条件、賦活処理後の洗浄処理や熱処理の有無などに応じて上記所望の比表面積、細孔径3nm以上の細孔容積、及び平均細孔径が得られるように適宜調整すればよい。カルシウム等の添着量が、少なすぎると水蒸気賦活しても細孔径3nm以上の細孔が十分に発達しないことがある。一方、カルシウム等の添着量が多すぎると、ミクロ孔の細孔容積が著しく減少したり、或いは細孔径3nm以上の細孔が発達しすぎてかさ密度が低下することがある。したがってカルシウム等を添着させた後の炭素原料に含まれるカルシウム等の添着量は好ましくは2700ppm以上、より好ましくは3000ppm以上であり、更に好ましくは4000ppm以上であり、好ましくは20000ppm以下、より好ましくは15000ppm以下である。
【0042】
カルシウム化合物等含有液を用いて炭素原料由来物にカルシウム化合物等を添着させた場合は、必要に応じて乾燥処理などによって水分を除去してから次の処理をすることが望ましい。
【0043】
炭素原料由来物にカルシウム化合物等を添着させた後、該添着状態を維持したまま最後の水蒸気賦活をする。水蒸気賦活は、加熱炉を所定の温度まで加熱した後、水蒸気を供給することにより、賦活処理を行う。
【0044】
水蒸気賦活条件は特に限定されず、比表面積、細孔径3nm以上の細孔容積、平均細孔径が上記所定の範囲である本発明の活性炭が得られればよい。例えば水蒸気賦活の雰囲気は、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。また水蒸気賦活を行う際の温度(炉内温度)は好ましくは400℃以上、より好ましくは450℃以上であり、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1300℃以下である。水蒸気賦活を行う際の加熱時間は好ましくは1分以上、より好ましくは5分以上であり、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下である。
【0045】
賦活処理中に供給する水蒸気の総量は特に限定されない。水蒸気の供給態様も特に限定されず、例えば水蒸気を希釈せずに供給する態様、水蒸気を不活性ガスで希釈して混合ガスとして供給する態様のいずれも可能である。賦活反応を効率良く進行させるためには、不活性ガスで希釈して供給する態様が好ましい。水蒸気を不活性ガスで希釈して供給する場合、該混合ガス(全圧101.3kPa)中の水蒸気分圧は好ましくは30kPa以上、より好ましくは40kPa以上である。
【0046】
(その他処理)
カルシウム化合物等の添着状態を維持したまま最後の水蒸気賦活を実施して得られた活性炭は、必要に応じてさらに洗浄処理、熱処理、粉砕処理などを行ってもよい。洗浄処理は、水蒸気賦活後の活性炭を、水(常温水、60℃程度の温水含む)や酸溶液またはアルカリ溶液などの公知の溶媒を用いて行う。活性炭を洗浄することにより、金属不純物や灰分などの不純物を除去できる。
【0047】
熱処理は、水蒸気賦活後あるいは洗浄後の活性炭を、さらに不活性ガス雰囲気下で加熱することにより行うことが望ましい。活性炭を熱処理することにより、活性炭に含まれる残留塩素を除去できる。熱処理条件は特に限定されないが、例えば熱処理温度を400℃以上1000℃以下、保持時間を5分以上3時間以下とすることが好ましい。
【0048】
また粉砕処理は、各種公知の粉砕機を用いて活性炭の平均粒子径を用途に応じて適宜調整してもよい。
【0049】
なお、本発明では複数回の賦活処理を行ってもよいが、カルシウム化合物等を添着させた状態で水蒸気賦活した後は、さらなる賦活を実施しないことが望ましい。該水蒸気賦活後に更に賦活すると、細孔径が更に大きくなるなど、上記所望の比表面積や細孔径3nm以上の細孔容積、及び平均細孔径が得られないことがある。
【0050】
本発明によれば、本発明の上記活性炭を含有する電気二重層キャパシタ用電極材料、及び該電極材料を用いた電気二重層キャパシタ用電極、及び該電極を用いた電気二重層キャパシタが提供できる。
【0051】
電気二重層キャパシタ用電極材料としては、本発明の上記活性炭と、バインダー、好ましくは更に導電性付与剤で構成される。
【0052】
電気二重層キャパシタ用電極としては、例えば、活性炭、導電性付与剤、およびバインダーを混練して得られる電気二重層キャパシタ用電極材料に、さらに溶媒を添加してペーストを調製し、このペーストをアルミ箔などの集電板に塗布した後、溶媒を乾燥除去したものが挙げられる。
【0053】
前記電気二重層キャパシタ用電極に使用されるバインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系高分子化合物や、カルボキシメチルセルロース、スチレン−ブタジエンゴム、石油ピッチ、フェノール樹脂などを使用できる。また、導電性付与剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどを使用できる。
【0054】
電気二重層キャパシタは、一般的には、電極、電解液、およびセパレータを主要構成とし、一対の電極間にセパレータを配置した構造となっており、コイン型、巻回型、積層型等いずれの構成もとることができる。前記電解液としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの有機溶剤に、アミジン塩を溶解した電解液;過塩素酸の4級アンモニウム塩を溶解した電解液;4級アンモニウムやリチウムなどのアルカリ金属の四フッ化ホウ素塩や六フッ化リン塩を溶解した電解液;4級ホスホニウム塩を溶解した電解液などが挙げられる。また、前記セパレータとしては、例えば、セルロース、ガラス繊維、または、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルムが挙げられる。
【0055】
本発明の電気二重層キャパシタは、各種携帯機器用電源、家電製品待機電源、光通信UPSおよび電気自動車動力電源などに利用できる。また本発明の活性炭は吸着容量および吸着速度に優れているため、ガス吸着剤、浄水用吸着剤、排水浄化用吸着剤などの吸着剤に利用できる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0057】
活性炭No.1
原料:ヤシ殻炭化物を室温に保持した0.83%塩化カルシウム(CaCl
2)水溶液に浸漬し、1時間撹拌した後、ろ過し、ろ過残渣を110℃で乾燥させて、ヤシ殻炭化物にカルシウム化合物が添着した賦活原料(カルシウム添着量は5034ppm)を得た。次いで賦活原料をロータリーキルン炉に投入し、窒素流通下(1L/分)、900℃まで昇温(昇温速度:10℃/分)した後、水蒸気(水蒸気分圧:50kPa)を窒素と共に供給し、900℃で4.0時間保持し、カルシウム化合物の添着状態を維持したまま水蒸気賦活を行った。水蒸気賦活後、酸洗処理(塩酸濃度5.25%)して水蒸気賦活炭から金属を除去した後、0.25%炭酸水素アンモニウム、および60℃の温水で洗浄を行った。その後、マッフル炉に投入し、窒素流通下(2L/分)、760℃まで昇温(昇温速度:10℃/分)した後、760℃で2時間保持する熱処理を行った。熱処理後、ジェットミル粉砕機で粉砕し、活性炭No.1を作製した。
【0058】
活性炭No.2〜4
原料をヤシ殻炭化物からヤシ殻水蒸気賦活炭(MCET社製、「Z10−30」)に変更した以外は、活性炭No.1と同様にしてヤシ殻水蒸気賦活炭にカルシウム化合物が添着した賦活原料を得た(添着量は表1に記載)。水蒸気賦活時の保持時間を2.5時間(活性炭No.2)、3.0時間(活性炭No.3)、4.0時間(活性炭No.4)に変更した以外は、活性炭No.1と同様にして活性炭No.2〜4を作製した。
【0059】
活性炭No.5
活性炭No.3と同様にして水蒸気賦活、洗浄、及び熱処理を行った後、ジルコニアボール(直径3mm)と純水と共に粉砕容器(直径13cm×21cm)に入れ、振動ボールミルで平均粒子径(D50)が3.0μmとなるように粉砕した活性炭No.5を作製した。
【0060】
活性炭No.6
水蒸気賦活時の保持時間を2.0時間に変更した以外は活性炭No.2と同様にして活性炭No.6を作製した。
【0061】
活性炭No.7
原料:ヤシ殻水蒸気賦活炭(MCET社製、「Z10−30」)をロータリーキルン炉に投入し、窒素流通下(1L/分)、900℃まで昇温(昇温速度:10℃/分)した後、水蒸気(水蒸気分圧:50kPa)を窒素と共に供給し、900℃で2.0時間保持して水蒸気賦活を行った。水蒸気賦活後、酸洗処理(塩酸濃度5.25%)して水蒸気賦活炭から金属を除去した後、0.25%炭酸水素アンモニウム、および60℃の温水で洗浄を行った。その後、マッフル炉に投入し、窒素流通下(2L/分)、760℃まで昇温(昇温速度:10℃/分)した後、760℃で2時間保持する熱処理を行った。熱処理後、ジェットミル粉砕機で粉砕し、活性炭No.7を作製した。
【0062】
活性炭No.8、9
水蒸気賦活時の保持時間を2.5時間(活性炭No.8)、3.0時間(活性炭No.9)に変更した以外は活性炭No.7と同様にして活性炭No.8、9を作製した。
【0063】
活性炭No.10
特許文献2の製造例2を模擬した活性炭を作製した。具体的には、原料:紙フェノール樹脂積層板炭化物(平均粒子径:5mm〜15mm)100gをロータリーキルン炉に投入し、窒素流通下(1L/分)、900℃まで昇温(昇温速度:10℃/分)した後、水蒸気(水蒸気分圧:71kPa)を窒素とともに供給し、900℃で3.0時間保持して水蒸気賦活を行った。水蒸気賦活後、酸洗処理(塩酸濃度5.25%)して水蒸気賦活炭から金属を除去した後、60℃の温水で洗浄を行った。その後、ジェットミル粉砕機で粉砕し、活性炭No.10を作製した。
【0064】
活性炭No.11
水蒸気賦活時の保持時間を3.5時間に変更した以外は、活性炭No.10と同様にして活性炭No.11を作製した。
【0065】
1.カルシウム添着量
磁性るつぼに活性炭を約5gを入れ、大気中、815℃で24時間加熱して灰化した後、灰分量を測定すると共に、蛍光X線分析装置(Rigaku社製、「ZSX100e」)を用いて灰分中のカルシウム量を算出し、カルシウム添着量として「Ca添着量」欄に記載した。なお、活性炭No.7〜11はカルシウムを添着していないため、原料由来のカルシウム量である。
【0066】
2.比表面積、全細孔容積
活性炭0.2gを250℃にて真空加熱した後、窒素吸着装置(マイクロメリティック社製、「ASAP−2400」)を用いて、窒素吸着等温線を求め、BET法により比表面積(m
2/g)を求めた。また窒素吸着等温線から相対圧P/P
0(P:吸着平衡にある吸着質の気体圧力、P
0:吸着温度における吸着質の飽和蒸気圧)が0.93における細孔直径30nmまでの窒素吸着量から全細孔容積(cm
3/g)を算出した。
【0067】
3.各細孔径の細孔容積
吸着等温線をBJH法により解析し、細孔径3nm以上の細孔容積、及び全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率を算出した。
【0068】
細孔径3nm以上の細孔容積(cm
3/g)=全細孔容積(cm
3/g)−細孔径3nm未満の細孔容積(cm
3/g)・・・(1)
細孔径3nm以上の細孔容積(%)の比率=[3nm以上の細孔容積(cm
3/g)/全細孔容積(cm
3/g)]×100
なお、全細孔容積とは
30nm以下の細孔容積であり、細孔径3nm以上の細孔容積とは、細孔径3〜
30nmの細孔容積である。
【0069】
4.平均細孔径
活性炭の細孔をシリンダー状と仮定し、以下の式に基づいて平均細孔径を算出した。
平均細孔径(nm)=(4×全細孔容積(cm
3/g))/比表面積(m
2/g)×1,000・・・(6)
【0070】
5.平均粒子径(50D)
レーザー回折式粒子径分布測定装置(島津製作所社製、「SALD−2000」)を用いて活性炭を測定し、粒度分布の測定結果から体積基準の累積頻度曲線を求め、累積頻度50%における粒子径を平均粒子径とした。
【0071】
6.電気二重層キャパシタ評価
6−1.電気二重層キャパシタの製造
作製した活性炭No.1〜11を用いて電気二重層キャパシタを製造した。具体的には、活性炭に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末とアセチレンブラックとを、活性炭:PTFE:アセチレンブラック=8:1:1(質量比)になるように混合し、ペースト状になるまで混練した。ついで、ミニブレンダーで粉砕し、500μmのステンレス鋼製篩で篩って粒度を揃えた。次に、直径2.54cmの金型を用い、プレス後の厚みが0.5mmになるように仕込み量を調節し、50.4MPaの圧力でプレス成形して、キャパシタ用電極を作成した。
【0072】
得られたキャパシタ用電極を真空条件下、200℃、1時間の条件で乾燥した後、窒素ガスを流通させたグローブボックス内で電解液(1Mテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートのプロピレンカーボネート溶液)を電極に真空含浸させた。この電極を使用して
図9に示すように電気二重層キャパシタを組み立てた。
図9に示す電気二重層キャパシタは、前記電解液を含浸させたセパレータ(Celgard社製、「セルガード(登録商標)#3501」)1を前記キャパシタ用電極2で挟み、電極をOリング3で囲繞した後、さらに集電板としてのアルミニウム板4で挟んで作製した。
【0073】
6−2.静電容量
充放電装置(楠本化成社製、「ETAC(登録商標) Ver.4.4」)の充放電端子を電気二重層キャパシタの集電板に接続し、集電板間電圧が2.5Vになるまで40mAの定電流充電を行い、続けて、2.5Vの定電圧で30分間充電を行った。充電後、定電流(放電電流10mA)で電気二重層キャパシタの放電を行った。このとき、集電板間電圧がV1、V2となるまでに要した放電時間t1、t2を測定し、下記式(1)を用いて静電容量を求めた。得られた静電容量を、キャパシタ用電極における電極材料層中の活性炭質量で除することにより質量基準静電容量(F/g)を算出し、キャパシタ用電極における電極材料層の総体積で除することにより体積基準静電容量(F/cm
3)を算出した。また、下記式(2)を用いて内部抵抗を求めた。なお、静電容量および内部抵抗の測定は、25℃および−30℃の温度下で行った。
【0074】
【数1】
【0075】
【数2】
【0076】
式中、
I:10(mA)
t1:電気二重層キャパシタ電圧がV1となるまでに要した放電時間(sec)
t2:電気二重層キャパシタ電圧がV2となるまでに要した放電時間(sec)
V0:放電開始電圧
V1:2.0(V)
V2:1.5(V)
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示すように、本発明の要件を満足する活性炭No.1〜5を用いた電気二重層キャパシタは、常温(25℃)、及び低温(−30℃)での静電容量、内部抵抗(これらをまとめた「キャパシタ特性」)ということがある)共にCaを添着しない場合と比べて優れた結果を示した。特に活性炭No.1〜5は25℃の静電容量が11.1F/cm
3以上、−30℃の内部抵抗が27Ω以下を達成しており、電気二重層キャパシタとして好適である。一方、本発明の要件を満足しなかった活性炭No.6〜11を用いた電気二重層キャパシタは、キャパシタ特性が劣っていた。
【0079】
また一般に−30℃の低温域においては電解液の粘度、及び抵抗の増加によりイオン移動度が低下するため低温静電容量の減少、及び低温内部抵抗が上昇する傾向があるが、本発明の活性炭No.1〜5は低温静電容量と低温内部抵抗のバランスが良好であった。
【0080】
特に活性炭No.6〜9は活性炭No.1〜5と比べて、
図2に示すように細孔径3nm以上の細孔容積が小さく、更に
図3に示すように全細孔容積に対して細孔径3nm以上の細孔容積の比率も低いことがわかる。また
図4に示すようにNo.6〜9は平均細孔径が小さかった。これは水蒸気賦活時にカルシウム化合物を添着しなかったか(活性炭No.7〜9)、カルシウム化合物を添着した場合であっても水蒸気賦活時の加熱時間が短かった(活性炭No.6)ためであると考えられる。そして細孔径3nm以上の細孔容積が小さいNo.6〜9は体積あたりの静電容量は大きいが(
図6)、低温内部抵抗も高かった(
図7)。そのため、
図5に示すように活性炭No.6〜9は、静電容量は大きいが、低温内部抵抗も大きく、両特性のバランスが悪かった。
【0081】
一方、活性炭No.10、11は活性炭No.1〜5と比べて、
図2に示すように細孔径3nm以上の細孔容積が大きく、更に
図3に示すように全細孔容積に対して細孔径3nm以上の細孔容積の比率も高いことがわかる。また
図4に示すようにNo.10、11は平均細孔径も大きかった。そして細孔径3nm以上の細孔容積が大きいNo.10〜11は静電容量は小さいが(
図6)、低温内部抵抗も低かった(
図7)。そのため、
図5に示すように活性炭No.10、11は、静電容量は小さいが、低温内部抵抗も小さく、両特性のバランスが悪かった。
【0082】
また
図8に示すように活性炭No.1、2の細孔径3nm未満の細孔容積は、活性炭No.6よりも小さいが、活性炭No.10よりも大きかった。また活性炭No.1、2の細孔径3nm以上の細孔容積は、活性炭No.6よりも大きかったが、活性炭No.10よりも小さかった。すなわち、活性炭No.1、2と活性炭No.6からは、水蒸気賦活時の加熱処理時間を適切にコントロールすることで、細孔径3nm未満の細孔容積の減少を抑制しつつ、細孔径3nm以上の細孔が発達することがわかる。一方、活性炭No.1、2と活性炭No.10からは、原料を適切に選択すると共に、Ca添着量が所定の範囲となるようにコントロールすることで上記所定の効果を奏する細孔分布にできる。