【実施例】
【0022】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0023】
図1は、実施例の緩み止めナット100の一つの適用例の断面図である。
図2は分解図であり、
図3のII−II線に沿って切断した断面図である。
図3は、
図2の矢印IIIの方向から見た平面図である。
【0024】
実施例の緩み止めナット100は、例えば鉄道の線路や高架に関連した汎用のボルト・ナットの締結具2に適用される。締結具2は、ボルト4とナット6とで構成され、ナット6は六角形の形状を有する。参照符号8は、締結具2によって固定された被締結部材の一部を示す。
【0025】
図1は、線路又は高架に関連した被締結部材8が締結具2によって固定された状態を示す。実施例の緩み止めナット100は、ナット6の緩みを阻止する目的で締結具2に適用されている。被締結部材8を固定するためにナット6に代えて緩み止めナット100を使ってもよい。すなわち、ボルト4と緩み止めナット100との組み合わせで被締結部材8を固定するようにしてもよい。
【0026】
図2を参照して、緩み止めナット100は、ナット本体10と、ロックピース12と、ロックピース12をナット本体10に固定するための第1の止めボルト14(
図1)とで構成されている。
【0027】
ナット本体10は、ロックピース12を受け入れるロックピース用凹所16を有する。ロックピース用凹所16の後壁面16cによってロックピース12の横方向位置(ボルト4の軸方向と直交する方向の位置)が規定される(
図2、
図6)。ロックピース用凹所16はロックピース12と相補的な形状を有する。図示のロックピース12は、ロックピース用凹所16の深さよりも若干小さな高さ寸法を有する。ロックピース12の高さとロックピース用凹所16の深さとの差をΔdで示す(
図1)。具体的に説明すると、ロックピース用凹所16の深さL1はロックピース12の高さL2よりも僅かに大きく、その差(L1−L2)はΔdである(
図2)。Δdは後に説明するロックピース12の押し下げ代を構成する。
【0028】
変形例として、ロックピース12は、ロックピース用凹所16から突出する高さ寸法を有していてもよいし、ロックピース用凹所16のなかに入り込む比較的小さな高さ寸法を有していてもよい。
【0029】
ナット本体10は、
図3から分かるように、平面視円形の形状を有し、また、厚みを有する。ナット本体10とロックピース12は同じ材料で作られている。具体的にはステンレス鋼でナット本体10及びロックピース12が作られている。変形例として、ナット本体10とロックピース12は異なる材料で作られていてもよい。
【0030】
ナット本体10は、その中心と同心の主なるネジ穴18を有する。主なるネジ穴18は内径ねじ20を構成し、上述したボルト4が螺着される。ロックピース12は、その一端に、主なるネジ穴18の一部を構成する部分内径ねじ22を有する(
図2、
図3)。
【0031】
ロックピース12は、第1の止めボルト14が挿通可能な貫通穴24を有する(
図2、
図3)。この貫通穴24と同じ軸線を備えた第2のネジ穴30がナット本体10に形成されている(
図2、
図3)。第2のネジ穴30は、ナット本体10のロックピース用凹所16の底面に開口している。ロックピース12の貫通穴24及びナット本体10の第2のネジ穴30は、上述した主なるネジ穴18と平行に延びている。ナット本体10の第2のネジ穴30に、ロックピース固定用の上述した第1の止めボルト14が螺着される。前述したように、この第1の止めボルト14によってロックピース12がナット本体10に固定される(
図1)。ロックピース12が、ロックピース用凹所16の後壁面16cによって、ボルト4から離れる方向に逃げてしまう変位を規制される(
図2、
図6)。
【0032】
図4、
図5は、ナット本体10及びロックピース12の製造方法を説明するための図である。
図4の(I)において、参照符号40は、ナット本体10を作製するためのナット素材40である。ナット素材40は、断面円形の形状を有する。次の工程(II)において、ナット素材40の中心部分にネジ穴用の貫通穴42が形成される。後の工程(VIII)において、この貫通穴42を螺子切り加工することにより主なるネジ穴18が形成される。
【0033】
次の工程(III)において、ロックピース用凹所16に関連した凹所44が形成される。この関連凹所44は上述したロックピース用凹所16と深さが異なる。すなわち、関連凹所44の深さL3は、上述したロックピース用凹所16の深さL1(
図2)よりもΔdだけ小さい(L3=L1−Δd)。この押し下げ代Δdは、後に説明する工程(IX)で形成される。
【0034】
次の工程(IV)において、ナット素材40にロックピース固定用の第2のネジ穴30が形成される。また、後に説明するキャップ102をナット本体10に固定するための第3のネジ穴54が形成される。この工程(IV)と上記工程(III)は同一の工程で行うようにしてもよい。
【0035】
図5の工程(V)においてロックピース12が作製される。ロックピース12は、貫通穴24と部分内径ねじ22とを有する。ロックピース12は、ナット素材40に対する加工とは別の工程で作製される。すなわち、ロックピース12は、ナット素材40の加工とは別に、予め作製される。
【0036】
図5を引き続き参照して、工程(VI)において、ナット素材40の関連凹所44にロックピース12を嵌合する。そして、次の工程(VII)で、第1の止めボルト14によってロックピース12をナット素材40にしっかりと固定する。
【0037】
次の工程(VIII)において、第1の止めボルト14によってロックピース12を固定したナット素材40に螺子切り加工を施して、ナット素材40に主なるネジ穴18を形成する。この螺子切り加工は、ナット素材40に固定されているロックピース12の部分内径ねじ22を基準として行われる。
【0038】
次の工程(IX)において、ナット素材40からロックピース12を取り外す。次いで、ナット素材40の関連凹所44の底面44aを削る。削り量は上述したΔdである。関連凹所44は、底面44aの切削工程を完了することにより、上述したロックピース用凹所16になる。また、ナット素材40はナット本体10になる。関連凹所44の底面44aを切削してロックピース12の押し下げ代Δdを形成する代わりに、後に説明するようにロックピース12の下面を切削してΔdを形成するのが、緩み止めナット100の加工の容易性の観点から好ましい(
図13、
図14)。
【0039】
図4、
図5を参照した工程を経ることで、緩み止めナット100を一般的な技術を使って比較的容易に製造することができる。
【0040】
図6は、汎用のボルト・ナットからなる締結具2で被締結部材8を固定した後に、緩み止めナット100を装着した状態を示す。緩み止めナット100の装着工程は次の通りである。
【0041】
(i)ロックピース12を含むナット本体10をボルト4に螺着し、ナット本体10をナット6に圧接させる。
【0042】
(ii)第1の止めボルト14でロックピース12をナット本体10にしっかりと固定する。これにより、ロックピース12は第1の止めボルト14のヘッド14aによって強制的にロックピース用凹所16の中に押し込まれる。好ましくは、ロックピース固定用の第1の止めボルト14(ヘッド14a)とロックピース12との間にワッシャ46(
図6)を介装するのがよい。
【0043】
締結具2のボルト4に対して、上記の(i),(ii)の工程を経て緩み止めナット100を装着することにより、締結具2のナット6の回転を規制することができる。また、緩み止めナット100の緩みは次の作用により規制される。
【0044】
(a)ボルト4に対して緩み止めナット100を締め込んで、緩み止めナット100を締結具2のナット6に圧接させることにより、ナット本体10の内径ねじ20はボルト4の螺子山と軸方向に圧接した状態になる。これを「第1のロック機能」という。
【0045】
(b)ロックピース用凹所16に収容されたロックピース12の正規の位置は、ロックピース用凹所16の底面16aからΔd離れた高さ位置である。第1の止めボルト14でロックピース12をナット本体10に固定することで、初期にΔd離間したロックピース12はロックピース用凹所16の底面16aに接近した位置に強制的に位置決めされる。これにより、ロックピース12の部分内径ねじ22はボルト4の螺子山と軸方向に圧接した状態になる。これを「第2のロック機能」という。
【0046】
(c)第1の止めボルト14は、反力によって、ナット本体10の第2のネジ穴30の螺子山と軸方向に圧接した状態になる。これを「第3のロック機能」という。
【0047】
上記の第1乃至第3のロック機能により、締結具2によって固定された被締結部材8が振動したとしても、ボルト4とナット6とで構成される締結具2が緩むのを緩み止めナット100で防止することができる。
【0048】
図3は、実施例の緩み止めナット100の平面図である。
図3から分かるように、実施例の緩み止めナット100は2つのロックピース12を有する。この2つのロックピース12は、主なるネジ穴18の直径方向に対抗して位置している。すなわち、2つのロックピース12は周方向に180°間隔で配置されている。
【0049】
図7〜
図9は、ロックピース12の個数及び配置の変形である第2乃至第4実施例の緩み止めナットを示す。
図7は第2の実施例の緩み止めナット120を示す。第2の実施例の緩み止めナット120は一つのロックピース12を有する。
図8は第3の実施例の緩み止めナット130を示す。第3の実施例の緩み止めナット130は3つのロックピース12を有する。この3つのロックピース12は周方向に120°間隔で配置されている。
図9は第4の実施例の緩み止めナット140を示す。第4の実施例の緩み止めナット140は4つのロックピース12を有する。この4つのロックピース12は周方向に90°間隔で配置されている。
【0050】
図1、
図2に戻って、緩み止めナット100はキャップ102を有する。キャップ102は、追加の部材であり、必須ではない。すなわち、キャップ102は有っても無くてもよい。
【0051】
キャップ102は平板状の且つリング状の形状を有する。キャップ102には、ヘッド受け入れ凹所50が形成されている。ヘッド受け入れ凹所50は、ロックピース固定用の第1の止めボルト14のヘッド14aを受け入れる。
図1の参照符号52はスプリングワッシャを示す。
【0052】
ヘッド受け入れ凹所50の深さL4は、第1の止めボルト14のヘッド14aが上方に変位するのを規制することのできる値に設定されている。ヘッド14aと凹所50の上面との間にスプリングワッシャ52を介装するのが好ましい。スプリングワッシャ52によってヘッド14aに押圧力を常時付与することができる。
【0053】
キャップ102は、キャップ102を緩み止めナット100のナット本体10に固定するための第3のネジ穴54と、締結具2のボルト4が挿通可能な開口56とを有している(
図2)。キャップ102は、第3のネジ穴54に螺合する第2の止めボルト又は止めネジ58によってナット本体10に固定される。すなわち、第2の止めボルト又は止めネジ58は、キャップ102をナット本体10に固定するのに用いられる。なお、第2の止めボルト又は止めネジ58がボルトで構成される場合において、キャップ102に形成される第3のネジ穴54a(
図1)の変形例として、この第3のネジ穴54の代わりに、第2の止めボルト又は止めネジ58を構成するボルトが挿通可能なボルト挿通穴であってもよい。
【0054】
緩み止めナット100のナット本体10にキャップ102を固定することにより、第1の止めボルト14の軸方向の変位、つまり第1の止めボルト14のヘッド14aの浮き上がり、つまり第1の止めボルト14が緩むのを凹所50の上面で規制することができる。これにより、緩み止めナット100の前述した第1乃至第3のロック機能の作用を一層確かなものにすることができる。
【0055】
図10乃至
図12は、ナット本体10のロックピース用凹所16の底部に関する複数の変形例を説明するための図である。先に
図4を参照して緩み止めナット100の作り方を説明した。
図5の(IX)では、関連凹所44の底面44aを全体的にΔdだけ削ることで、ロックピース用凹所16を作ることを説明した。
【0056】
図10は関連凹所44の底面44aを斜めに削る例を示す。これによりロックピース用凹所16の底面16aは傾斜した面で構成される。ここに傾斜とは、主なるネジ穴18の軸線と直交する面を基準とした用語である。
図10の角度θは底面16aの傾斜角度を示す。
【0057】
図11は関連凹所44の底面44aを削る工程において、ロックピース用凹所16の底面16aの角隅部に傾斜したカム面16bを形成した例を示す。
【0058】
図12は関連凹所44の底面44aを削る工程において、ロックピース用凹所16の底面16aを傾斜した面に形成すると共に、傾斜した底面16aの角隅部にカム面16bを形成した例を示す。
【0059】
上述したΔdを形成する方法の更なる変形例として、
図5の工程(VI)において、関連凹所44とロックピース12との間にΔdの厚みを有する平板(図示せず)を介装し、平板の上に着座したロックピース12を第1の止めボルト14でナット素材40に固定した状態で主なるネジ穴18を形成するようにしてもよい。これにより、
図5の工程(IX)を省くことができる。
【0060】
上述したように、ロックピース用凹所16の底面16aを傾斜面で構成する、及び/又は底面16aの角隅部にカム面16bを形成することで、次の効果を奏することができる。すなわち、ロックピース12は、第1の止めボルト14でナット本体10に固定されることになるが、傾斜した底面16a及び/又はカム面16bによってロックピース12は傾斜した姿勢になることが強制される。すなわち、ロックピース12は、第1の止めボルト14の軸線に対して傾いた姿勢が強制され、ロックピース12に軸方向と直交する横力を作用させることができる。
【0061】
前述したように、緩み止めナット100は、第1乃至第3のロック機能((a)乃至(c))によって緩み止め効果を奏するが、この第1乃至第3のロック機能は軸方向に働く。
【0062】
図10乃至
図12を参照して、傾斜した底面16a及び/又はカム面16bによってロックピース12は傾斜した姿勢又は横方向に変位した姿勢になることが強制される。これにより、第1乃至第3のロック機能((a)乃至(c))は、軸方向と、この軸方向と直交する横方向の2方向に働く。これにより、緩み止めナット100の前述した第1乃至第3のロック機能を一層確かなものにすることができる。
【0063】
上述した実施例では、
図5の工程(IX)において、関連凹所44の底面44aを全体的にΔdだけ削ることで、ロックピース用凹所16が作られる。これに代えて、ロックピース12の下面をΔdだけ削るようにしてもよい(
図13)。変形例として、ロックピース12の下面を斜めに削るようにしてもよい(
図14)。
【0064】
以上、本発明の複数の実施例を説明した。これら実施例は、被締結部材8を固定するための締結具2の一部を構成するナット6の緩み止めに適用した例である。本発明は、被締結部材8を固定するための締結具2の一部を構成するナット6の代わりに緩み止めナット100を適用してもよい。すなわち、被締結部材8をボルト4と緩み止めナット100で固定してもよい。