(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
上記のような加熱溶解装置として、例えば特許文献1に記載の装置のように、誘導加熱によって溶解原料を溶解するものが知られている。シリコンや、アルミナ、ジルコニア等のセラミックは、常温では電気を通さない非導電体であり、高温領域のみで導電性を有するため、常温では誘導加熱コイルからの磁束がそのまま透過して渦電流がほとんど発生せず、誘導加熱することができない。そこで、特許文献1では、非導電体の石英製ルツボと誘導加熱コイルとの間に導電体のカーボンを配し、まずカーボンを誘導加熱している。そして、温度上昇したカーボンからの輻射熱や熱伝導によってルツボ内のシリコンを間接的に加熱し、シリコンが温度上昇して導電性を有するようになった後に直接シリコンの誘導加熱を行っている。
【0003】
ここで、特許文献1の装置では、ルツボの底部に出湯口が設けられており、出湯口を閉塞するシリコンを溶解することで、溶解液を出湯口から出湯する構成となっている。その際、出湯の準備等のために、出湯開始時期が予測できることが望ましいが、特許文献1ではそのような方法については特に言及されていない。
【0004】
一方、特許文献2には、溶解装置における出湯開始時期を予測する方法が開示されている。ただし、この溶解装置は、誘導加熱溶解装置の一種であるコールドクルーシブル溶解装置であり、導電体である金属を溶解原料としている。このコールドクルーシブル溶解装置においては、複数の導電性セグメントを周方向に互いに離間して配置することによりルツボが形成されている。そして、ルツボを冷却しつつ、導電性セグメント間の隙間から磁束をルツボ内に浸透させることで、ルツボ内の金属原料を誘導加熱により溶解している。
【0005】
コールドクルーシブル溶解装置ではルツボが冷却されているため、溶解液がルツボの内壁面に接触すると、溶解液が冷却されて凝固しスカルを形成する。その結果、ルツボの底部に設けられた出湯口が、スカルによって閉塞される。特許文献2のコールドクルーシブル溶解装置においては、出湯口の周囲に誘導加熱コイルを設け、このコイルによって出湯口を閉塞しているスカルを誘導加熱して溶解することで出湯を行っているが、その際の出湯開始時期を次のようにして予測している。
【0006】
このコールドクルーシブル溶解装置では、スカルが溶解すると電気抵抗率が増加し、コイルのインダクタンスが増大する。また、コイルに交流電流を供給する電源は、コイルのインダクタンスの変化に伴って、常に共振周波数になるように動作する共振回路によって構成されており、コイルのインダクタンスの増大を電源の共振周波数の低下として捉えることができる。したがって、電源の共振周波数を検出することで、スカルが薄くなっている状況を把握し、出湯開始時期を予測している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、特許文献1のような加熱溶解装置において、出湯開始時期を予測したいという要求に応えるため、特許文献2に記載の出湯開始時期の予測方法を適用することが考えられる。しかしながら、特許文献2の予測方法には次のような問題があった。ルツボの内壁面で凝固しているスカルは導電性の金属であるため、コイルからの磁束がスカルによって大きく減衰し、磁束の浸透深さが浅くなる。コイルのインダクタンス変化を検出するには、スカルと溶解液との界面が磁束の浸透深さ内に至る必要があるが、磁束の浸透深さがそもそも浅いと、スカルが非常に薄い状態とならないとインダクタンス変化を検出できない。つまり、このコールドクルーシブル溶解装置では、スカルが非常に薄くなる出湯開始直前にならないと、出湯開始時期を予測することができなかった。しかも、出湯開始時期は、同じ溶解材料であってもばらつきがあった。
【0009】
そこで、本発明では、常温で非導電体であり、常温よりも高温で導電性を有するようになるシリコンまたはセラミックを溶解原料とし、ルツボの底部に出湯口が形成された加熱溶解装置において、出湯開始時期を早期に予測できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明にかかる加熱溶解装置は、常温で非導電体であり、常温よりも高温で導電性を有するようになるシリコンまたはセラミックを溶解原料とする加熱溶解装置において、前記溶解原料を溶解する溶解部と、前記溶解部よりも下方に位置し、底部に出湯口が形成された出湯部とを有し、磁束を透過させる素材で形成されたルツボと、前記溶解部の周囲に配置され、前記ルツボに収容されている前記溶解原料を加熱する加熱手段と、前記出湯部の周囲に配置され、交流電流の供給を受けるコイルと、前記コイルのインダクタンスの変化を検出する検出手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明にかかる加熱溶解装置においては、ルツボの溶解部の周囲に加熱手段が配置されているため、まず溶解部内の溶解原料が溶解し、続いて溶解部の下方にある出湯部内の溶解原料の溶解が上部から下部に向かって進む。すなわち、溶解液と未溶解の溶解原料との界面が徐々に下方へ移動する形態で溶解が進行する。また、本加熱溶解装置では、ルツボが磁束を透過させる素材で形成されるとともに、常温で非導電体のシリコンやセラミックを溶解原料としている。このため、出湯部の周囲に配置されたコイルからの磁束は、ルツボや常温の溶解原料によってはほとんど減衰せず、ルツボの内部深くまで浸透する。そして、磁束が溶解液と未溶解の溶解原料との界面近傍に至ると、溶解液からの伝熱等により温度が上昇して電気抵抗率の小さくなった未溶解の溶解原料や、溶解して電気抵抗率の小さくなった溶解液にて渦電流が生じ、磁束が減衰する。このため、溶解が進行して界面が下方に移動するにつれて、コイルを貫く鎖交磁束数が減少し、その結果、コイルのインダクタンスが減少する。そして、コイルのインダクタンスの変化を検出手段で検出することで、界面の移動状況を把握することができる。このとき、上述のように、本加熱溶解装置では、出湯部の周囲に配置されたコイルからの磁束が界面まで深く浸透するため、早くから界面の移動によるインダクタンスの変化を検出することができ、ひいては出湯開始時期を早期に予測することができる。
【0012】
この加熱溶解装置において、前記コイルは高周波電流により前記溶解原料を誘導加熱する機能を兼ね備えるように構成すると好適である。このように、出湯部の周囲に配置されるコイルで誘導加熱も行うことにより、出湯部内にあるシリコンの溶解を促進することができる。
【0013】
このとき、前記出湯部と前記コイルとの間に、カーボンフェルトまたは多孔質カーボンで形成された発熱体が設けられるように構成するとさらに好適である。カーボンフェルトまたは多孔質カーボンで形成された発熱体は導電体であるので、出湯部内の溶解原料が常温で非導電体の間は、コイルによって誘導加熱された発熱体からの輻射熱や熱伝導により溶解原料を効率的に加熱することができる。また、カーボンフェルトおよび多孔質カーボンは空隙を多く有するので、発熱体が出湯部の断熱材としても機能し、溶解液を保温して凝固を防止する効果もある。
【0014】
また、前記検出手段からの検出信号に基づき、出湯開始時期を制御する制御手段をさらに備えると好適である。このような制御手段を設けることで、溶解の進行状況に応じて、適切な時期に出湯を開始することが可能となる。
【0015】
また、上記いずれかの加熱溶解装置を備える加熱溶解システムにおいて、前記ルツボに前記溶解原料を投入する原料投入手段と、前記検出手段で検出された前記コイルのインダクタンスの変化に基づいて、前記原料投入手段から前記ルツボに前記溶解原料を投入する時期を制御する原料投入制御手段と、を設けると好適である。
【0016】
このような加熱溶解システムによれば、原料投入制御手段により原料投入手段から溶解原料を投入する時期を制御することで、溶解の進行状況に応じて、適切な時期にルツボに溶解原料を投入することが可能となる。
【0017】
また、本発明にかかる出湯制御装置は、常温で非導電体であり、常温よりも高温で導電性を有するようになるシリコンまたはセラミックを溶解原料とし、前記溶解原料を溶解する溶解部と、前記溶解部よりも下方に位置し、底部に出湯口が形成された出湯部とを有し、磁束を透過させる素材で形成されたルツボと、前記溶解部の周囲に配置され、前記ルツボに収容されている前記溶解原料を加熱する加熱手段と、前記出湯部の周囲に配置され、交流電流の供給を受けるコイルと、を有する加熱溶解装置の出湯開始時期を制御する出湯制御装置において、前記コイルのインダクタンスの変化を検出する検出手段と、前記検出手段からの検出信号に基づき、出湯開始時期を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0018】
このような制御手段によれば、上述のように、出湯開始時期を早期に予測することができることに加えて、溶解の進行状況に応じて、適切な時期に出湯を開始することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1実施形態]
(全体の構成)
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。
図1は、加熱溶解装置の第1実施形態を示す模式図である。この加熱溶解装置100は、石英製のルツボ10に投入された溶解原料を、真空中で誘導加熱により溶解する装置である。溶解原料としては、半導体デバイス等に用いられるシリコンや、宝石等に用いられるアルミナ、ジルコニア等のセラミックを対象とすることができるが、本実施形態では一例としてシリコンSを溶解原料とした場合について説明する。
【0021】
ルツボ10は、円筒形状を有する溶解部20と、溶解部20の下方に位置し、逆円錐形状を有する出湯部30とからなっており、出湯部30の底部には出湯口30aが形成されている。溶解部20の周囲には、高周波誘導コイルからなる溶解用コイル21が巻き回されており、この溶解用コイル21へは高周波電源22から例えば周波数が10〜40kHz程度の高周波電流が供給される。また、溶解部20の外周面と溶解用コイル21との間には、カーボンフェルトまたは多孔質カーボンで形成された円筒状の発熱体23が配設されている。
【0022】
出湯部30の周囲には、高周波誘導コイルからなる出湯用コイル31が巻き回されており、この出湯用コイル31へは高周波電源32から例えば周波数が10〜40kHz程度の高周波電流が供給される。高周波電源32の回路には、周波数検出手段42が接続されており、出湯用コイル31に供給されている交流電流の周波数を検出することができる。高周波電源32および周波数検出手段42の詳細な構成については後述する。また、出湯部30の外周面と出湯用コイル31との間には、カーボンフェルトまたは多孔質カーボンで形成された逆円錐状の発熱体33が配設されている。
【0023】
溶解用コイル21が巻き回されている領域と、出湯用コイル31が巻き回されている領域との間には、ルツボ10の外周面から延設された円盤状のシールド部材11が設けられている。このシールド部材11は、例えば水冷銅板により形成されており、高周波電源22、32の干渉を防止する。なお、溶解用コイル21に供給される高周波電流と、出湯用コイル31に供給される高周波電流との周波数を異ならせてもよく、例えばこれらの周波数を互いに干渉が生じにくい値に設定することで、シールド部材11を省略することができる。
【0024】
(溶解の原理)
このように構成された加熱溶解装置100において、まず高周波電源22により溶解用コイル21に高周波電流を供給すると、溶解用コイル21を貫く磁束が発生する。非導電体である石英で形成されたルツボ10は、この磁束を透過させる。また、空隙が多い発熱体23においては、磁束の減衰が緩やかであるので、十分に磁束は透過する。したがって、溶解用コイル21からの磁束は、ルツボ10内のシリコンSに到達することができる。
【0025】
ここで、
図2は、シリコンとカーボンフェルトの電気抵抗率ρの温度特性を示すグラフである。シリコンは、常温では電気抵抗率ρが非常に高い非導電体であり、温度の上昇に伴って電気抵抗率ρが低下して、導電性を有するようになる。一方、カーボンフェルトの電気抵抗率ρは、温度によってほとんど変化せず、シリコンの室温と融点(1410℃)での電気抵抗率ρの中間の値となる約5.3×105μΩ・cmである。なお、シリコンの電気抵抗率ρについて、実線で示した常温〜1000℃の領域と1410℃(融点)以上の領域は実測されたものであり、点線で示した1000℃〜1410℃の領域は、1000℃と1410℃の実測値を便宜的に直線で結んだものである。なお、図示は省略するが、多孔質カーボンの電気抵抗率も、カーボンフェルトと同様の温度特性を有している。
【0026】
よって、シリコンSの電気抵抗率ρが大きい加熱初期は、カーボンフェルトまたは多孔質カーボンで形成した発熱体23を溶解用コイル21により誘導加熱して、温度上昇した発熱体23からの輻射熱や熱伝導によりルツボ10内のシリコンSを間接的に加熱することができる。一方、シリコンSが間接的に加熱されて温度が上昇すると、電気抵抗率ρが低下して導電性を有するようになり、直接シリコンSを誘導加熱することができる。したがって、効率的にシリコンSの溶解を行うことができる。また、空隙が多いカーボンフェルトや多孔質カーボンで形成した発熱体23は、断熱材としても機能し、溶解部20内の液体シリコンSlを保温し、凝固を防止する効果もある。
【0027】
このようにして溶解用コイル21によってシリコンSの溶解を行うと、やがてルツボ10の溶解部20内に存在するシリコンSが溶解して液体シリコンSlとなり、出湯部30に未溶解の固体シリコンSsが残存した状態となる。その結果、液体シリコンSlと固体シリコンSsとの間に界面Iが形成される。そして、界面I近傍の固体シリコンSsは、液体シリコンSlからの伝熱により溶解し、界面Iが徐々に下方に移動する形態でシリコンSの溶解は進行する。
【0028】
溶解用コイル21によってある程度シリコンSの溶解が進行すると、高周波電源32により出湯用コイル31への高周波電流の供給を開始する。なお、出湯用コイル31への高周波電流の供給開始とともに、溶解用コイル21への高周波電流の供給を停止してもよい。出湯用コイル31に高周波電流を供給することで、出湯用コイル31で出湯部30内のシリコンSの誘導加熱を行うことができ、出湯部30内にある固体シリコンSsの溶解を促進することができる。
【0029】
また、カーボンフェルトまたは多孔質カーボンで形成した発熱体33を設けることで、効率的にシリコンSの溶解を行うことができるとともに、出湯部30内の液体シリコンSlを保温し、凝固を防止することもできる。その原理については、上述した発熱体23と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0030】
(電源の構成)
図3は、出湯用コイル31の高周波電源32の構成を示す回路図である。高周波電源32は、外部の交流電源から供給される交流電流を整流する順変換部34、整流された電流を平滑化して直流電流を生成する平滑部35、直流電力を交流電力に変換する逆変換部36、および出湯用コイル31とともに共振回路39を形成するコンデンサ37を有する。共振回路39には、出湯用コイル31とともに負荷を構成する抵抗38も含まれる。高周波電源32は、共振回路39が共振周波数fで共振するように、所定の周波数の交流電力を共振回路39に供給する共振型電源であり、外部の交流電源からの交流電流よりも高い周波数の電流を供給する。なお、高周波電源22についても、高周波電源32と同様に、共振型電源として構成することができる。
【0031】
共振回路39に発生している電圧はトランス41を介して周波数検出手段42に入力され、周波数検出手段42にて共振回路39における共振周波数fが算出される。そして、制御手段43は、共振回路39が共振状態を持続できるように、共振周波数fに基づいて逆変換部36の動作をフィードバック制御し、所定の周波数の電力を共振回路39に供給する。このように共振を持続させることで、出湯用コイル31に効率的に高周波電流を供給することでき、電源容量の低減を図ることができる。なお、ここでは、共振回路39の電圧を取り出して、電圧に基づいてフィードバック制御を行っているが、共振回路39の電流を取り出して、電流に基づいてフィードバック制御を行ってもよい。
【0032】
制御手段43には、表示手段44および入力手段45がそれぞれ接続されている。制御手段43は、上述のフィードバック制御のほかに、例えば共振周波数fの変化に基づいて界面Iの位置や出湯開始時期等を演算したり、あるいは出湯用コイル31に供給する電力を制御することで出湯開始時期を制御する機能を備えている。そして、制御手段43が演算した界面Iの位置や出湯開始時期等に関する演算結果は、表示手段44に表示される。また、所望の出湯開始時期に関する指示は、入力手段45を介して制御手段43に入力される。
【0033】
(出湯開始時刻の予測)
図4は、出湯用コイル31を貫く磁束線を点線で示したものであり、b図はa図よりもシリコンSの溶解が進んで、界面Iが下方に移動した状態を示している。なお、
図4では、磁束線を明瞭に示すため、ルツボ10および出湯用コイル31以外の部品の図示を省略している。
【0034】
加熱溶解装置100では、ルツボ10が磁束を透過させる非導電性の石英で形成されるとともに、常温で非導電体のシリコンSを溶解原料としている。このため、出湯部30の周囲に配置された出湯用コイル31からの磁束は、ルツボ10や常温のシリコンSによってはほとんど減衰せず、ルツボ10の内部深くまで浸透する。そして、磁束が界面Iの近傍に至ると、液体シリコンSlからの伝熱等により温度が上昇して電気抵抗率の小さくなった固体シリコンSsや、溶解して電気抵抗率の小さくなった液体シリコンSlにて渦電流が生じ、磁束が減衰する。このため、溶解が進行して界面Iが下方に移動するにつれて、出湯用コイル31を貫く鎖交磁束数が減少し、その結果、出湯用コイル31のインダクタンスが減少する。
【0035】
ここで、共振回路39の共振周波数fは、出湯用コイル31のインダクタンスLおよびコンデンサ37の静電容量Cを用いて、次式(1)で表される。
f=1/(2π√LC)・・・(1)
つまり、界面Iが下方に移動して出湯用コイル31のインダクタンスLが減少すると、共振周波数fは増加する。したがって、周波数検出手段42により共振回路39の共振周波数fを検出することで、界面Iの移動状況を把握することができる。このとき、上述のように、加熱溶解装置100では、出湯部30の周囲に配置された出湯用コイル31からの磁束が界面Iまで深く浸透するため、早くから界面Iの移動によるインダクタンスの変化を検出することができ、ひいては出湯開始時期を早期に予測することができる。
【0036】
(共振周波数の推移比較)
図5は、溶解の進行に伴う高周波電源32の共振周波数の変化を示すグラフである。本実施形態の加熱溶解装置100における共振周波数の推移を太線で示しており、さらに、比較のために特許文献2のコールドクルーシブル溶解装置における共振周波数の推移を細線で示している。なお、両装置とも、図中「電源入り」と記載のあるタイミング(0秒)で出湯用コイルへの電流供給を開始することで、40秒後に出湯が開始され、60秒後に出湯が完了する条件としているが、正確には0秒以前から微小の電流を供給することで共振周波数の変化を検出している。
【0037】
コールドクルーシブル溶解装置においては、溶解開始初期から共振周波数が一定の状態が続く。これは、すでに説明したように、コールドクルーシブル溶解装置では、出湯用コイルからの磁束の浸透深さが浅いため、スカルと溶解液との界面がこの浅い浸透深さ内に入るまで、すなわちスカルが非常に薄くなるまで、共振周波数の変化(低下)を検出できないためである。したがって、電源入りのタイミングは共振周波数の変化に基づいて決められるのではなく、溶解を開始してから所定時間が経過した時点とあらかじめ決められている。なお、この所定時間は、溶解を開始してからスカルと溶解液との界面が平衡状態となるまで、つまり界面がそれ以上下がらない状態となるまでの時間を、確実に超える時間に設定される。
【0038】
電源入りとなってからしばらくすると、共振周波数の低下が見られる。これは、出湯用コイルへの電流供給を開始することによって、界面が平衡状態からさらに下がり、界面が出湯用コイルからの磁束の浸透深さ内に至ることによって生じる現象である。そして、このような共振周波数の低下が見られる時点ですでにスカルは非常に薄くなっているため、その後すぐにスカルが全溶解し、溶解液の出湯が開始される。そして、磁束を減衰させる溶解液の出湯が進むにつれて、出湯用コイルからの磁束は深く浸透するようになり、出湯用コイルのインダクタンスが増加する。このインダクタンスの増加が、50秒過ぎの共振周波数の低下として表れている。溶解液の出湯が完了すると、共振周波数は一定となる。
【0039】
一方、本実施形態の加熱溶解装置100においては、非常に早い時期から共振周波数が漸増しているのが観察される。これは、ルツボ10が磁束を透過させる石英で形成されるとともに、常温で非導電体のシリコンSを溶解原料としているため、出湯用コイル31からの磁束が深く浸透し、界面Iの位置変化が共振周波数の変化として早期に現れるためである。なお、
図5では紙面の都合上、マイナス60秒以後の推移のみを記載しているが、マイナス60秒以前から共振周波数の増加は観察できる。このように、早くから共振周波数の変化(増加)を検出できるため、その変化を見ながら、出湯用コイル31に電流供給を開始する時期を早期に決めることができる。
【0040】
ここでは、共振周波数が9.02kHzとなった時点で、出湯用コイル31への電流供給を開始している。出湯用コイル31へ電流を供給することで、出湯部30内の固体シリコンSsの溶解が促進され、共振周波数の増加速度が大きくなっている。そして、約40秒後に、出湯部30内の固体シリコンSsの溶解が完了し、共振周波数がピークを迎える。その後、磁束を減衰させる液体シリコンSlの出湯が進むにつれて、出湯用コイル31からの磁束が深く浸透し、出湯用コイル31のインダクタンスが増加する。その結果、高周波電源32の共振周波数が低下する。そして、液体シリコンSlの出湯が完了すると、共振周波数は一定となる。
【0041】
このように、コールドクルーシブル溶解装置と比べて、本実施形態の加熱溶解装置100では、非常に早くから共振周波数の変化(増加)を検出できることが確認された。このため、加熱溶解装置100では、共振周波数の変化に基づいて出湯用コイル31に電流の供給を開始するタイミングを早期に決定することができる。そして、早期に出湯用コイル31への電流供給の開始時期を決めることができるため、それに続く出湯開始時期も早期に予測することが可能となる。
【0042】
また、共振周波数の変化から、固体シリコンSsの層と液体シリコンSlの層との境界である凝固界面Iの位置が分かるため、例えば凝固界面Iが平衡状態の位置に移動する前に出湯用コイル31へ電流を供給することで、凝固界面Iが平衡状態の位置に移動するまでの時間を短縮することができる。すなわち、凝固界面Iが平衡状態となるまでの時間を短縮するように、出湯用コイル31への電流供給の開始タイミングを設定することができるので、特にシリコンSを連続的に溶解する場合に効果的である。
【0043】
なお、コールドクルーシブル溶解装置では、ルツボの内壁に付着している溶解液が、ルツボからの冷熱により再凝固することがある。このため、出湯完了後に、ルツボに付着している原料を除去するための作業が必要であった。しかしながら、加熱溶解装置100では水冷ルツボを使用しておらず、溶解液が再凝固することがないため、上述のような作業は必要ない。したがって、共振周波数が一定となり出湯が完了したと判断されれば、続いてシリコンSをルツボ10内に投入し、シリコンSの溶解を連続的に行うことができる。このとき、上述のように、出湯開始時期を早期に予測することができるため、出湯終了時期も早期に把握可能であり、シリコンSの追加投入の準備を効率よく行うことができる。また、石英製のルツボ10に付着した液体シリコンSlが再凝固すると、シリコンSとルツボ10の熱膨張率の違いにより、ルツボ10が破損するおそれがある。しかしながら、加熱溶解装置100においては、上述のように液体シリコンSlが再凝固しないため、ルツボ10の破損を防止できる。
【0044】
このように、加熱溶解装置100によれば、シリコンSがすべて溶解するかなり前より、界面Iの移動状況を共振回路39の共振周波数の変化として捉えることができるので、積極的に出湯開始時期を制御手段43にて制御することも可能である。例えば、共振周波数の増加速度が遅く、溶解の進行が予定より遅いと考えられるときには、高周波電源32から供給される電力を大きくすることで、溶解の進行速度を速めることができる。あるいは、上部の高周波電源22から供給される電力を大きくしてもよい。このように、出湯開始時期を制御することで、溶解の進行状況に応じて、適切な時期に出湯を開始することが可能となる。なお、このような制御は、制御手段43にて自動的に行ってもよいし、入力手段45を介した指示によって人為的に行ってもよい。
【0045】
また、出湯口30aに開閉可能な不図示の蓋部材を設け、この蓋部材の開閉を制御することで出湯開始時期を制御することも可能である。この場合には、例えば、共振周波数が変化しなくなった時点で、すべてのシリコンSが溶解したと判断し、蓋部材を開くといった制御を行うことができる。こうした制御を実行することで、液体シリコンSlの中に固体シリコンSsが混在した状態で出湯を行うことを防止でき、固体シリコンSsが出湯口30aから流出したり、あるいは固体シリコンSsが出湯口30aを閉塞するといった不具合を回避することができる。
【0046】
[第2実施形態]
次に、
図6を参照しつつ、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態の加熱溶解装置200が第1実施形態の加熱溶解装置100と異なる点は、溶解用コイル21および出湯用コイル31を兼ねる誘導加熱コイル51を1つ設け、誘導加熱コイル51を不図示の昇降機構によりルツボ10に対して昇降可能に構成している点である。なお、第1実施形態と同様の構成要素について、同じ番号を付し、その説明を省略する。
【0047】
誘導加熱コイル51は、ルツボ10の溶解部20の外径よりも若干大きな径となっており、ルツボ10の周囲を不図示の昇降機構により昇降可能に構成されている。高周波電源52は、
図3に示した高周波電源32と同様に構成されているが、ここでは周波数検出手段42、制御手段43等の図示は省略している。高周波電源52も、誘導加熱コイル51と一体的に、ルツボ10に対して昇降可能となっている。
【0048】
まず、誘導加熱コイル51および高周波電源52をルツボ10の溶解部20の周囲に配置した状態で、高周波電源52から誘導加熱コイル51に高周波電流を供給し、シリコンSの溶解を開始する。溶解がある程度進行し、主に溶解部20内のシリコンSが溶解したら、誘導加熱コイル51および高周波電源52を下降させて、出湯部30の周囲に配置する。それから、誘導加熱コイル51に高周波電源52から高周波電流を供給すると、出湯部30内のシリコンSの溶解が進む。
【0049】
第2実施形態の加熱溶解装置200によれば、第1実施形態の加熱溶解装置100と同様に出湯開始時期を早期に予測できるだけでなく、次のような効果もある。つまり、加熱溶解装置200では、1つの高周波電源52を用意するだけでよいので、装置コストを削減できるとともに、装置の設置スペースの確保も容易となる。また、複数の電源を設けることによる干渉が発生しなくなるので、シールド部材11(
図1参照)を省略することができる。
【0050】
なお、ここでは、誘導加熱コイル51および高周波電源52をルツボ10に対して昇降可能に構成したが、ルツボ10を誘導加熱コイル51および高周波電源52に対して昇降可能に構成してもよいし、あるいは双方を昇降可能に構成してもよい。また、誘導加熱コイル51と高周波電源52との間の配線に十分な長さがあれば、高周波電源52は昇降させずに、誘導加熱コイル51だけをルツボ10に対して昇降させてもよい。
【0051】
[第3実施形態]
次に、
図7を参照しつつ、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態の加熱溶解装置300が第1実施形態の加熱溶解装置100と異なる点は、溶解用コイル21および出湯用コイル31への高周波電流の供給を、1つの高周波電源62で行っている点である。なお、第1実施形態と同様の構成要素について、同じ番号を付し、その説明を省略する。
【0052】
高周波電源62は、
図3に示した高周波電源32と同様に構成されているが、ここでは周波数検出手段42、制御手段43等の図示は省略している。溶解用コイル21と高周波電源62との間には、溶解用コイル21用の整合部63が設けられ、出湯用コイル31と高周波電源62との間には、出湯用コイル31用の整合部64が設けられる。整合部63、64は、高周波電源62からの電力を各コイル21、31に適した電力に調整する部位であり、例えばトランスやコンデンサを有した回路で構成されている。
【0053】
高周波電源62からの高周波電流は、切換部65によって、溶解用コイル21へ供給される状態と、出湯用コイル31へ供給される状態との間で切り換え自在となっている。まず、切換部65を溶解用コイル21側に切り換え、高周波電源62からの高周波電流を整合部63を介して溶解用コイル21に供給し、シリコンSの溶解を開始する。溶解がある程度進行し、主に溶解部20内のシリコンSが溶解したら、切換部65を出湯用コイル31側に切り換え、高周波電源62からの高周波電流を整合部64を介して出湯用コイル31に供給し、出湯部30内のシリコンSの溶解を行う。
【0054】
第3実施形態の加熱溶解装置300によれば、第1実施形態の加熱溶解装置100と同様に出湯開始時期を早期に予測できるだけでなく、次のような効果もある。つまり、加熱溶解装置300では、1つの高周波電源62を用意するだけでよいので、装置コストを削減できるとともに、装置の設置スペースの確保も容易となる。また、複数の電源を設けることによる干渉が発生しなくなるので、シールド部材11(
図1参照)を省略することができる。
【0055】
なお、ここでは、高周波電源62の外部に、溶解用コイル21用の整合部63および出湯用コイル31用の整合部64をそれぞれ設けるものとしたが、これらを共通の整合部としてもよい。また、その共通の整合部を、高周波電源62内に設けるようにしてもよい。
【0056】
[第4実施形態]
図8を参照しつつ、本発明の第4実施形態として、これまでに説明した加熱溶解装置を備えた加熱溶解システムについて説明する。この加熱溶解システム1は、第1実施形態で説明した加熱溶解装置100を具備するものであるが、加熱溶解装置100の代わりに、第2、3実施形態で説明した加熱溶解装置200、300を具備するものであってもよい。
【0057】
加熱溶解システム1は、加熱溶解装置100と、原料投入制御手段70と、ルツボ10の上方に設けられた原料投入手段80とを有して構成される。原料投入制御手段70は、周波数検出手段42と接続されており、周波数検出手段42にて検出された共振回路39の共振周波数fの変化に基づいて、原料投入手段80からルツボ10にシリコンSを投入する時期を制御する。また、原料投入手段80は、シリコンSを収納する容器81と、容器81の下部に設けられ、原料投入制御手段70からの指令に応じて開閉する開閉部材82とを有している。
【0058】
例えば、
図5に示すような共振周波数fの変化が検出される場合には、出湯用コイル31への電流供給を開始してから60秒後に開閉部材82を開くように、原料投入制御手段70から原料投入手段80に指令が送られる。つまり、原料投入制御手段70は、共振周波数fの変化から出湯が完了する時刻を予測し、その時刻以後に速やかに開閉部材82を開くように指令を発する。こうすることで、溶解の進行状況に応じて、適切な時期、例えば出湯が完了した直後にシリコンSが容器81からルツボ10に投入され、連続的にシリコンSの溶解を行うことができる。
【0059】
なお、本実施形態では、原料投入制御手段70を
図3の制御手段43とは別に設けるものとしたが、制御手段43および原料投入制御手段70を兼ねる制御手段を設けるようにしてもよい。また、制御手段43と同様に、原料投入制御手段70に表示手段や入力手段を接続し、表示手段を介して作業者に次のシリコンSの投入予定時刻を報知したり、入力手段を介して作業者が指示を入力できるようにしてもよい。
【0060】
[第5実施形態]
図9を参照しつつ、本発明の第5実施形態として、本発明の対象が出湯制御装置としての出湯制御コントローラ91である場合について説明する。出湯制御コントローラ91は、第1実施形態で説明した加熱溶解装置100の高周波電源32に接続されるものであり、周波数検出手段92および制御手段93を有して構成される。
図9では、加熱溶解装置100の構成要件のうち、ルツボ10、出湯用コイル31および高周波電源32以外の構成要素については、図示を省略している。
【0061】
周波数検出手段92は、第1実施形態の周波数検出手段42と同様の構成を有しており、制御手段93は、第1実施形態の制御手段43と同様の構成を有している。つまり、出湯制御コントローラ91は、出湯用コイル31のインダクタンスの変化に基づき、加熱溶解装置100の出湯開始時期の制御を行うものである。
【0062】
なお、出湯制御コントローラ91は、加熱溶解装置100の代わりに、第2、3実施形態で説明した加熱溶解装置200、300に対して設けられるものであってもよい。また、高周波電源32が加熱溶解装置100に含まれるのではなく、出湯制御コントローラ91に含まれるように、出湯制御コントローラ91を構成することも可能である。
【0063】
[その他の変形例]
上記実施形態ではルツボ10を石英製のものとしたが、磁束を透過させる素材であれば他の素材でルツボ10を形成することも可能である。例えば、アルミナ、ジルコニア等の金属酸化物やこれらの複合体により、ルツボ10を形成してもよい。ただし、溶解原料にアルミナ、ジルコニア等の不純物が混入する可能性があるため、溶解の目的や原料に応じて適切な素材を選択する必要がある。
【0064】
上記実施形態では、高周波電源32が加熱溶解装置100に含まれるものとして説明をしたが、高周波電源32を加熱溶解装置100内に設けることは必須要件ではない。例えば、加熱溶解装置100を他の装置に組み込む場合には、当該他の装置に高周波電源32と同等の機能を有する電源を設けるようにしてもよい。
【0065】
上記実施形態では共振型電源を用いるものとしたが、本発明において共振型電源を用いることは必須の要件ではない。例えば、周波数固定の電源を用いた場合には、出湯用コイル31に流れる電流の変化により、出湯用コイル31のインダクタンスの変化を検出することも可能である。また、電圧の変化により、出湯用コイル31のインダクタンスの変化を検出してもよい。
【0066】
上記実施形態では、加熱手段として高周波誘導コイルからなる溶解用コイル21を用いたが、加熱手段をヒーター等で構成することも可能である。また、補助的な加熱手段をルツボ10の上方に設けるようにしてもよい。また、上記実施形態では、出湯用コイル31が高周波誘導コイルであり、出湯用コイル31によりシリコンSを誘導加熱できるように構成したが、出湯用コイル31にこのような誘導加熱機能を持たせることは必須ではない。つまり、界面Iの位置の変動に応じてインダクタンスの変化が生じるコイルであれば、どのようなコイルを用いてもよい。また、第1、3実施形態におけるコイル21、31や第2実施形態におけるコイル51のほかに、界面Iの位置の変動を検出するコイルを別途設けるようにしてもよい。
【0067】
上記実施形態では、カーボンフェルトまたは多孔質カーボンで形成された発熱体23、33を設けたが、発熱体23、33を設けないことも可能である。また、発熱体23、33のうちいずれか一方のみを設けてもよい。
【0068】
また、カーボンフェルトまたは多孔質カーボンで形成された発熱体23、33を有底筒状の容器とし、この容器の内面に金属薄膜を被覆することでルツボ10を形成してもよい。金属自体は導電体であるが、厚みを磁束の浸透深さと比較して十分に薄くすることで、ルツボ10を磁束が透過することが可能となる。
【0069】
その他、各部材の形状や配置、個数なども、その機能を損なわない範囲で適宜変更することが可能である。