特許第6372147号(P6372147)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6372147タンパク質に対する親和性評価のための分析方法及びその装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372147
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】タンパク質に対する親和性評価のための分析方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/46 20060101AFI20180806BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20180806BHJP
   G01N 30/14 20060101ALI20180806BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20180806BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   G01N30/46 A
   G01N30/88 C
   G01N30/14 A
   G01N30/26 A
   G01N30/06 E
   G01N30/26 M
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-88720(P2014-88720)
(22)【出願日】2014年4月23日
(65)【公開番号】特開2015-206740(P2015-206740A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2017年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100085464
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 繁雄
(72)【発明者】
【氏名】中山 大介
(72)【発明者】
【氏名】大垣内 誠
(72)【発明者】
【氏名】浅川孝樹
(72)【発明者】
【氏名】浅川直樹
(72)【発明者】
【氏名】山本栄一
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−245620(JP,A)
【文献】 特開2006−234804(JP,A)
【文献】 特開2002−372522(JP,A)
【文献】 特表2009−500150(JP,A)
【文献】 特開2013−083479(JP,A)
【文献】 特開2003−149216(JP,A)
【文献】 米国特許第06802967(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
B01D 15/00−15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質に対する低分子化合物の親和性を評価するための、以下の工程(A)から(C)を含む分析方法。
(A)タンパク質に結合したタンパク質結合型低分子化合物及びタンパク質に結合していない遊離型低分子化合物を含む試料溶液を第1の浸透制限型カラムに導入して、遊離型低分子化合物を前記第1の浸透制限型カラムに保持させ、タンパク質結合型低分子化合物を前記第1の浸透制限型カラムから排出させる工程、
(B)前記工程(A)において前記第1の浸透制限型カラムから排出した溶液にタンパク質に対する低分子化合物の結合を抑制する薬剤を添加することによって前記第1の浸透制限型カラムから排出した溶液中でタンパク質結合型低分子化合物をタンパク質から切り離して遊離化低分子化合物とした状態で、該溶液を第2の浸透制限型カラムに導入して、遊離化低分子化合物を前記第2の浸透制限型カラムに保持させ、タンパク質を前記第2の浸透制限型カラムから排出させる工程、及び
(C)前記第1の浸透制限型カラムに保持された遊離型低分子化合物と前記第2の浸透制限型カラムに保持された遊離化低分子化合物を、互いに異なるタイミングで溶出させて分析カラムに導いて分析する工程。
【請求項2】
前記薬剤は前記溶液のpHを酸性化するpH調整剤又はタンパク質の高次構造を変化させるタンパク質変性剤である請求項に記載の分析方法。
【請求項3】
第1の浸透制限型カラムと、
第2の浸透制限型カラムと、
分析カラム及びその下流に接続された検出器を含む分析流路と、
前記第1、第2の浸透制限型カラムに遊離の低分子化合物を捕捉させるトラップ移動相を送液する試料導入流路と、
前記試料導入流路に配置された試料注入装置と、
前記第1、第2の浸透制限型カラムに保持された低分子化合物を溶出させる移動相を送液する分析用移動相流路と、
前記試料導入流路を前記第1の浸透制限型カラムを経て前記第2の浸透制限型カラムへ接続する第1の流路、前記分析用移動相流路を前記第1の浸透制限型カラムを経て前記分析流路へ接続する第2の流路、及び前記分析用移動相流路を前記第2の浸透制限型カラムを経て前記分析流路へ接続する第3の流路の間で切り換えるように構成された流路切換え機構と、
前記第1の浸透制限型カラムと前記第2の浸透制限型カラムを接続する流路においてタンパク質に対する低分子化合物の結合を抑制する薬剤を供給する薬剤供給流路からなり、タンパク質結合型低分子化合物をタンパク質から切り離して遊離化低分子化合物とする解離部と、を備えた分析装置。
【請求項4】
前記解離部は前記第1の浸透制限型カラムからの流路と前記薬剤供給流路との合流位置又はその下流にミキサを備えている請求項に記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフィーを用いて低分子化合物がタンパク質に対して結合する性質をもっているかどうか、又はその程度はどうかといった、タンパク質に対する親和性を評価するための分析方法と、その分析方法を実施するための分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LC(液体クロマトグラフ)又はLC/MS(質量分析計)を用いてタンパク質と低分子化合物との相互作用を解析するにあたり、タンパク質に結合した低分子化合物と結合していない低分子化合物を分離して分析する手法がある。ここで分離のための技術として、(1)担体に固定化したターゲットタンパク質そのものを用いて分離する技術と、(2)サイズ排除カラムを用いて分離する技術がある。
【0003】
(1)の技術の例としては、マグネティックビーズにターゲットタンパク質(ERα−LBD)を固定化し、その下流にトラップカラムとしての固相抽出カラム(SPE)を配置する。移動相により試料溶液を流してマグネティックビーズに固定化されたタンパク質と接触させる。タンパク質に結合する性質をもつ低分子化合物はタンパク質に結合されて保持され、タンパク質に結合されない性質をもつ低分子化合物は流路から排出され、固相抽出カラムにトラップされる。固相抽出カラムにトラップされた低分子化合物は、分析用移動相により溶出して分析カラムに導入し、LC−MS分析を行う。
【0004】
その後、マグネティックビーズに固定化されたタンパク質に保持された低分子化合物に対し、移動相を酸性にすることにより、その低分子化合物をタンパク質から脱離させ、固相抽出カラムにトラップし、その後LC−MS分析を行う(非特許文献1参照。)。
【0005】
(2)の技術の例としては、サイズ排除カラムを用いて、タンパク質(ヒト血清アルブミン)に結合した低分子化合物と結合していない低分子化合物とを分離させる。サイズ排除カラムではサイズの大きいタンパク質がサイズの小さい遊離の低分子化合物よりも先に溶出するので、タンパク質に結合した低分子化合物をタンパク質とともに先にトラップカラムでトラップさせる。その後、移動相のpHを変化させることによりトラップカラム中でタンパク質を脱離させ、低分子化合物のみをトラップカラムに残す。その後、トラップカラムに保持された低分子化合物を分析用移動相により溶出して分析カラムに導入し、LC−MS分析を行う。
【0006】
サイズ排除カラムから遅れて溶出した遊離の低分子化合物もトラップカラムに保持し、その後、分析用移動相により溶出して分析カラムに導入し、遊離の低分子化合物についてもLC−MS分析を行う(非特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6929741号
【特許文献2】特開2004−245620号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Analytical Chemistry (2009) 81, 4263-4270
【非特許文献2】Analytical Chemistry (2005) 77, 1345-1353
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術ではタンパク質に結合しない性質の低分子化合物も、結合する性質の低分子化合物も、分析にあたり、分離のための分析カラム又は分析カラムに類似した部分とは別に、濃縮のためにトラップカラムを用いる必要があった。たとえば従来技術(1)ではタンパク質固定化マグネティックビーズに結合しなかった遊離の低分子化合物も、その後にタンパク質から脱離させられた低分子化合物も固相抽出カラムで捕集し濃縮している。また従来技術(2)ではサイズ排除クロマトグラフで保持の強い遊離の低分子化合物も、保持が弱く先にタンパク質とともに溶出しその後タンパク質から脱離させられた低分子化合物もトラップカラムで捕集し濃縮している。
【0010】
さらに、従来技術(1)では標的となるタンパク質を固定化しなければならず、汎用性に問題がある。また固定化プロセスにおいてタンパク質機能が変化するおそれがあるという問題もある。
【0011】
本発明は、タンパク質に結合する性質の低分子化合物と結合しない性質の低分子化合物とを互いに分離して分析する際に、濃縮のためのトラップカラムを不要にし、また標的となるタンパク質の固定化も不要にすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、タンパク質に対する低分子化合物の親和性を評価するための、以下の工程(A)から(C)を含む分析方法である。
(A)タンパク質に結合したタンパク質結合型低分子化合物及びタンパク質に結合していない遊離型低分子化合物を含む試料溶液を第1の浸透制限型カラムに導入して、遊離型低分子化合物を第1の浸透制限型カラムに保持させ、タンパク質結合型低分子化合物を第1の浸透制限型カラムから排出させる工程、
(B)工程(A)において第1の浸透制限型カラムから排出した溶液中でタンパク質結合型低分子化合物をタンパク質から切り離して遊離化低分子化合物とした状態で、該溶液を第2の浸透制限型カラムに導入して、遊離化低分子化合物を第2の浸透制限型カラムに保持させ、タンパク質を第2の浸透制限型カラムから排出させる工程、及び
(C)第1の浸透制限型カラムに保持された遊離型低分子化合物と第2の浸透制限型カラムに保持された遊離化低分子化合物を、互いに異なるタイミングで溶出させて分析カラムに導いて分析する工程。
浸透制限型カラムとは、外表面がタンパク質に対して不活性になる処理が施され孔内面に低分子化合物を捕捉する化学修飾が施された充填材が充填されたカラムであり、第1の浸透制限型カラムと第2の浸透制限型カラムは同じものであってもよく、浸透制限性を持つものであれば互いに異なるものであってもよい。
【0013】
工程(B)において第1の浸透制限型カラムから排出した溶液中でタンパク質結合型低分子化合物をタンパク質から切り離すための第1の方法は、第1の浸透制限型カラムから排出した溶液にタンパク質に対する低分子化合物の結合を抑制する薬剤を添加することである。そのような薬剤の例は、溶液を酸性化するpH調整剤、又はタンパク質の高次構造を変化させるタンパク質変性剤である。
【0014】
この分析方法を実施するための本発明の分析装置は、第1の浸透制限型カラムと、第2の浸透制限型カラムと、分析カラム及びその下流に接続された検出器を含む分析流路と、第1、第2の浸透制限型カラムに遊離の低分子化合物を捕捉させるトラップ移動相を送液する試料導入流路と、試料導入流路に配置された試料注入装置と、第1、第2の浸透制限型カラムに保持された低分子化合物を溶出させる移動相を送液する分析用移動相流路と、流路切換え機構とを備えている。
【0015】
前記流路切換え機構は、試料導入流路を第1の浸透制限型カラムを経て第2の浸透制限型カラムへ接続する第1の流路、分析用移動相流路を第1の浸透制限型カラムを経て分析流路へ接続する第2の流路、及び分析用移動相流路を第2の浸透制限型カラムを経て分析流路へ接続する第3の流路の間で切り換えるように構成されている。
【0016】
本発明の分析装置は、さらに、第1の浸透制限型カラムと第2の浸透制限型カラムを接続する流路においてタンパク質結合型低分子化合物をタンパク質から切り離して遊離化低分子化合物とする解離部を備えている。
【0017】
解離部の第1の例は、タンパク質に対する低分子化合物の結合を抑制する薬剤を供給する薬剤供給流路である。解離部は第1の浸透制限型カラムからの流路と薬剤供給流路との合流位置又はその下流にミキサを備えていてもよい。
【0018】
解離部の第2の例は、流路の温度を、タンパク質結合型低分子化合物をタンパク質から切り離す温度に加熱する加熱機構である。
【発明の効果】
【0019】
遊離型低分子化合物を分析するに際し、従来技術では分離部分とは別に捕捉と濃縮のためのトラップカラムを別途配置する必要があったが、本発明においては分離工程が濃縮工程を兼ねているため、トラップカラムを別途配置する必要がなく、そのため、より簡単な流路構造で同様の分析を実施することができるようになり、分析時間の短縮化、キャリーオーバーの抑制などの効果がある。
【0020】
また、タンパク質結合型低分子化合物と遊離型低分子化合物の比率を求めたり、それぞれの低分子化合物がタンパク質に結合する性質の程度を求めたりすること、すなわちタンパク質に対する親和性の評価を簡便に行うことが可能となる。例えば医薬品開発において、遊離状態の低分子薬物の比率を知ることは、薬物動態の分野において極めて重要な事項であり、その作業の簡素化は、薬物候補化合物の特性評価のスループットの向上に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1の実施例の液体クロマトグラフを示す流路構成図である。
図2】浸透制限型カラムにおける挙動を示す概略図である。
図3】同実施例による分析結果を示すクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
第1の実施例の液体クロマトグラフを図1に示す。六方バルブからなる第1の流路切換バルブ2が2つの流路構成の間で切り換えることができるように、2つのポート間に第1の浸透制限型カラム4が接続され、他のポートのそれぞれには、試料導入流路6、流路8、及び分析用移動相流路10、12が接続されている。流路切換バルブ2の各ポートへの浸透制限型カラム4及び流路の接続は以下のようになされている。すなわち、一方の流路構成(図示の状態)では、浸透制限型カラム4に試料導入流路6と流路8が接続され、分析用移動相流路10と12が直接接続される。他方の流路構成では、浸透制限型カラム4に分析用移動相流路10と12が接続され、試料導入流路6が流路8に直接接続される。
【0023】
試料導入流路6には送液ポンプ14が接続されており、送液ポンプ14から浸透制限型カラム4及び後述の第2の浸透制限型カラム22に遊離の低分子化合物を捕捉させるトラップ移動相が供給される。試料導入流路6にはオートサンプラなどからなる試料注入装置16が配置されている。さらに、試料導入流路6には、送液ポンプ15により希釈移動相を試料注入装置16の下流に供給する希釈ライン17が接続されている。
【0024】
分析用移動相流路10には送液ポンプ18が接続されており、送液ポンプ18から浸透制限型カラム4、22に保持された低分子化合物を溶出させる分析用移動相が供給される。
【0025】
送液装置14,18は高圧グラジエント装置であってもよく、低圧グラジエント装置であってもよく、また移動相切換え装置を備えていてもよい。
【0026】
六方バルブからなる第2の流路切換バルブ20も2つの流路構成の間で切り換えることができるように、2つのポート間に第2の浸透制限型カラム22が接続され、他のポートのそれぞれには、流路8、排出用のドレイン流路26、分析用移動相流路12及び分析流路24が接続されている。
【0027】
分析流路24には分析カラム28が接続され、分析カラム28の下流には検出器30が接続されている。検出器30としては、吸光度検出器、示差屈折計、質量分析計などを用いることができる。
【0028】
流路切換バルブ20の各ポートへの浸透制限型カラム22及び流路の接続は以下のようになされている。すなわち、一方の流路構成(図示の状態)では、浸透制限型カラム22に流路8とドレイン流路26が接続され、分析用移動相流路12と分析流路24が直接接続される。他方の流路構成では、浸透制限型カラム22に分析用移動相流路12と分析流路24が接続され、流路8がドレイン流路26に直接接続される。
【0029】
浸透制限型カラム4と浸透制限型カラム22とは同じものであってもよく、浸透制限性を持つものであれば互いに異なるものであってもよい。
【0030】
さらに、流路8においてタンパク質結合型低分子化合物をタンパク質から切り離して遊離化低分子化合物とする解離部として、送液ポンプ32からタンパク質に対する低分子化合物の結合を抑制する薬剤を供給する薬剤供給流路34が流路8に接続されている。流路8は浸透制限型カラム4と浸透制限型カラム22が接続されたとき、両カラム4、22間の流路となる。
【0031】
低分子化合物の結合を抑制する薬剤の一例は流路8を流れる溶液を酸性化する酸性溶液からなるpH調整剤である。pH調整剤の一例は、pH2.0のグリシン・塩酸緩衝液である。低分子化合物の結合を抑制する薬剤の他の例はタンパク質の高次構造を変化させるタンパク質変性剤である。
【0032】
流路8には、流路8を流れる溶液と薬剤供給流路34から供給される薬剤との混合を促進するために、流路8と薬剤供給流路34との合流位置又はその下流にミキサ33を設けてもよい。
【0033】
流路切換バルブ2と20は流路切換え機構を構成しており、3つの流路構成の間で切り換えることができる。第1の流路構成は、試料導入流路6を第1の浸透制限型カラム4を経て第2の浸透制限型カラム22へ接続し、浸透制限型カラム22をドレイン流路26へ接続する流路構成である。第2の流路構成は、分析用移動相流路10を第1の浸透制限型カラム4を経て、分析用移動相流路12から分析流路24へ接続する流路構成である。第3の流路構成は、分析用移動相流路10を分析用移動相流路12から第2の浸透制限型カラム22を経て分析流路24へ接続する流路構成である。
【0034】
浸透制限型カラム4,22に充填されている充填材40は、概念として図2に示されているものである。充填材40は、その外表面42がタンパク質に対して不活性になる処理が施され、孔44の内面に低分子化合物を捕捉する化学修飾が施されたものである。この充填材40が充填されたカラムに、タンパク質46に結合された低分子化合物48と、タンパク質に結合されずに遊離した状態の遊離型低分子化合物50が移動相により導入されると、タンパク質46は充填材40に保持されないために、タンパク質46に結合された低分子化合物48は充填材40に保持されないでタンパク質46とともにカラムから排出される。一方、遊離型低分子化合物50は充填材40の孔44内に保持されることにより、このカラム内で濃縮される。
【0035】
浸透制限型カラム用の充填材の一例は、特許文献1に記載されたものであり、細孔を有するシリカゲル担体の表面にメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン及びヘキサジメチリンブロマイドより選ばれる親水性高分子物質が結合し、細孔中に炭素鎖が化学的に結合している。炭素鎖はシアノ基、アリル基、アリール基、アミノ基、カルボン酸基、スルフォン酸基若しくは硫酸基で修飾されていてもよい直鎖状又は分岐を有する炭素鎖である。
【0036】
その充填材は、細孔中に炭素鎖のほかに金属も結合させたものであってもよく、又は炭素鎖に代えて金属を結合させたものであってもよい。その金属はAl、Fe、Zn、Mn、Ni、Mg又はAgなどである。それらの金属成分は金属イオンとして高濃度に導入されている。高濃度に導入された金属成分とは、50ppm以上に含まれる金属イオンであり、不純物として含まれる金属イオンのことではない。そして、そのような50ppm以上に含まれる金属イオンは、2種類以上であってもよい。
【0037】
通常、液体クロマトグラフの充填剤に使用されているシリカゲル内の金属不純物濃度は合計で30ppm以下となるように管理されている。本発明においては、担体に対し、金属不純物よりも高濃度に金属を導入する。したがって、50ppm以上の金属濃度は、担体に導入した金属のみならず、担体に予め不純物として含まれる金属をも含むものであってよく、担体に不純物として含まれる金属の種類及び導入した金属の種類の全ての合計である。金属は担体に飽和状態となる濃度で結合しているのが好ましい。飽和状態とは、シリカゲル外表面および細孔内面に保持される金属量が最大限度に達している状態、すなわち担体にこれ以上金属が導入できない状態である。担体に対して金属イオンが過剰になるように添加するだけで、所期の目的を達成させる分離媒体を調製することができる。
【0038】
浸透制限型カラム用の充填材の他の例は、特許文献2に記載されたものである。そこでは、充填材の外表面をタンパク質に対して不活性になるように、シリカゲルの外表面をタンパク質に対して不活性なポリマーでコーティングしたり、シリカゲルの外表面をアルブミンなどのタンパク質で予めコーティングして新たなタンパク質が結合しないようにしたりしている。充填材の穴内面はオクタデシル基やイオン交換基で化学修飾している。そのような充填材を充填したカラムの具体的なものとしては、シリカゲルの外表面をタンパク質に対して不活性なポリマーでコーティングし穴内面のみをオクタデシル基で化学修飾した充填材を充填したもの(製品として、Shim−pack MAYI−ODS:株式会社島津製作所の製品)がある。
【0039】
分析対象となる低分子化合物としては、例えば血漿や血清中の薬物を挙げることができる。
【0040】
次にこの実施例の動作を示す。動作は動作を制御する制御装置(図示略)により自動的に行われる。試料溶液は、タンパク質を含む溶液中に、試料成分として遊離型低分子化合物とタンパク質に結合されたタンパク質結合型低分子化合物を含む溶液である。
【0041】
図1の状態において、試料注入装置16から注入された試料溶液は送液装置14により送られるトラップ用移動相によって浸透制限型カラム4に導かれ、遊離型低分子化合物が浸透制限型カラム4に保持され、タンパク質結合型低分子化合物はタンパク質とともに浸透制限型カラム4から排出される。
【0042】
浸透制限型カラム4から排出されたタンパク質およびタンパク質結合型低分子化合物は、流路8において送液装置32によって送液される薬剤と混合し、タンパク質に結合していた低分子化合物はタンパク質から脱離して遊離化低分子化合物となる。その後、浸透制限型カラム22に導かれ、遊離化低分子化合物が浸透制限型カラム22に保持される。タンパク質は浸透制限型カラム22から排出される。
【0043】
その後、次の(1)と(2)が順次実行される。その順序はいずれが先であってもよい。
【0044】
(1)流路切換バルブ20が図1の状態、流路切換バルブ2が切り換えられた状態となり、送液装置18によって送液される分析用移動相により浸透制限型カラム4に保持されていた低分子化合物が溶出し、分析カラム28によって成分が分離された後、検出器30によって各成分が検出される。
【0045】
(2)流路切換バルブ2が図1の状態、流路切換バルブ20が切り換えられた状態となり、送液装置18によって送液される分析用移動相により浸透制限型カラム22に保持されていた低分子化合物が溶出し、分析カラム28によって成分が分離された後、検出器30によって各成分が検出される。
【0046】
そして、それぞれの分析結果から、遊離型低分子化合物量とタンパク質結合型低分子化合物量とを比較することにより、低分子化合物とタンパク質との結合比率を評価する。
【0047】
この実施例において、本発明の分析方法は、具体的には次のように実行される。
【0048】
第1の工程では、タンパク質結合型低分子化合物と遊離型低分子化合物との混合試料を第1の浸透制限型カラム4に供する。タンパク質結合型低分子化合物はタンパク質とともに捕捉されずに排出し、遊離型低分子化合物は浸透制限型カラム4において充填材の孔内面の化学修飾により充填材に捕捉される。この工程により両低分子化合物の分離が行われる。
【0049】
第2の工程では、浸透制限型カラム4に保持されなかった、タンパク質結合型低分子化合物を結合したタンパク質を含む溶液に、結合を抑制する薬剤、例えばpH調整剤やタンパク質の変性剤など、を添加し、タンパク質と低分子化合物とを切り離し、タンパク質結合型低分子化合物を遊離化低分子化合物に変換する。
【0050】
第3の工程では、処理された溶液を、もう1つの浸透制限型カラム22に供する。この工程で遊離化低分子化合物は浸透制限型カラム22に保持され、タンパク質は保持されずに排出する。
【0051】
第4の工程では、浸透制限型カラム4,22に保持した低分子化合物を分析用移動相により溶出させ、分析カラム28から検出器30に導いて分析する。このとき、浸透制限型カラム4に保持された遊離型低分子化合物を先に処理してもよく、浸透制限型カラム22に保持された遊離化低分子化合物を先に処理してもよい。
【0052】
以下に、図1の実施例の液体クロマトグラフを用いて測定した具体例を図3に示す。
液体クロマトグラフの構成と分析条件は次の通りである。
【0053】
(1)トラップ条件:
第1の浸透制限型カラム4:
アルミニウム固定化シリカゲル粒子充填カラム(内径4.6mm、長さ10mm、充填材の粒径50μm)。アルミニウム固定化シリカゲル粒子充填カラムは、シリカゲル担体に対してアルミニウムイオンが飽和状態になるように結合した充填材を充填したカラムである。
第2の浸透制限型カラム22:
MAYI−ODS(内径4.6mm、長さ10mm、充填材の粒径50μm、株式会社島津製作所の製品)。
トラップ移動相:5mM酢酸アンモニウム溶液、流量1mL/分
希釈移動相:5mM酢酸アンモニウム‐メタノール(85:15)溶液、流量1mL/分。
試料注入量;10μL
【0054】
(2)高速液体クロマトグラフィー条件:
分析カラム28:
ODS基修飾シリカゲル充填HPLCカラム(内径3.0mm、長さ75mm、充填材の粒径3μm)。
カラム温度:35℃
溶出法:
分析用移動相:20mMトリフルオロ酢酸を含む水−アセトニトリルを用いるグラジエント溶出
移動相流速:1mL/分
【0055】
(3)試料:
(A)タンパク質溶液(PDE9(9型ホスホジエステラーゼ))
(B) 化合物溶液(PDE9阻害剤)
(C)タンパク質‐化合物混合溶液
【0056】
(4)薬剤供給流路34から供給する薬剤:
pH調整剤(pH2.0のグリシン・塩酸緩衝液)
【0057】
(5)分析手順:
試料をトラップ移動相により、第1の浸透制限型カラム4から第2の浸透制限型カラム22に流し、カラム4と22の間の流路8に薬剤供給流路34からpH調整剤を供給する。その後、まず、第1の浸透制限型カラム4を分析流路24へ接続し、分析用移動相により第1の浸透制限型カラム4にトラップされていた成分を検出する。次に、第2の浸透制限型カラム22を分析流路24へ接続し、分析用移動相により第2の浸透制限型カラム22にトラップされていた成分を検出する。
【0058】
その結果は、図3に示すようになった。縦軸は吸光度検出器による吸光度(mAU)である。3つのクロマトグラムは縦軸方向にずらせて、互いに重ならないように表示している。時間軸の約3分と約20分の位置に出ているピークは流路切換バルブ2、20を切り換えたことによるノイズである。第1の浸透制限型カラム4にトラップされていた成分があれば約3分から約20分の間に検出され、第2の浸透制限型カラム22にトラップされていた成分があれば約20分よりも後で検出される。
【0059】
(A)は試料がタンパク質溶液のみの場合であり、浸透制限型カラム4,22のいずれにもトラップされる成分がないことを示している。
【0060】
(B)は試料が化合物溶液の場合であり、試料の化合物は第1の浸透制限型カラム4にのみトラップされ、第2の浸透制限型カラム22にはトラップされていないことから、この化合物は試料中で遊離している化合物(Unbound Compound)であることがわかる。
【0061】
(C)は試料がタンパク質‐化合物混合溶液の場合である。第1の浸透制限型カラム4にはトラップされた成分(Unbound Compound)と、第2の浸透制限型カラム22にトラップされた成分(Protein-bound Compound)が存在する。このことから、この化合物PDE9阻害剤は、PDE9と共存すると、一部がPDE9と結合し、残部はPDE9に結合しない遊離型で存在することがわかる。
【符号の説明】
【0062】
2、20 流路切換バルブ
4、22 浸透制限型カラム
6 試料導入流路
8 流路
10、12 分析用移動相流路
14、15、18、32 送液ポンプ
17 希釈ライン
16 試料注入装置
24 分析流路
34 薬剤供給流路
図1
図2
図3