(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施形態に係るコンプレッサおよびターボチャージャについて、図面を参照しつつ説明する。まず、ターボチャージャの全体構成について説明する。コンプレッサについては、ターボチャージャの構成要素であるため、ターボチャージャの全体構成の中で説明する。次いで、本実施形態の作用について説明する。次いで、本実施形態の別形態(別形態1〜3)のシミュレーション結果と比較例(比較例1〜3)のシミュレーション結果について説明する。
【0019】
≪全体構成≫
本実施形態に係るターボチャージャ10は、
図1に示されるように、タービン20と、コンプレッサ30と、保持ユニット40と、を含んで構成されている。そして、タービン20は車両のエンジン(図示省略)の排気経路12の途中に配置され、コンプレッサ30は車両のエンジンの吸気経路14の途中に配置されるようになっている。
【0020】
<保持ユニット>
保持ユニット40は、
図1に示されるように、回転軸42と、筐体44と、を備えている。筐体44は、タービン20とコンプレッサ30との間に設けられ、タービン20とコンプレッサ30とを保持している。回転軸42は、筐体44に回転可能に支持されている。なお、回転軸42の軸方向(矢印C方向)の両端部は、筐体44から突出している。
【0021】
<タービン>
タービン20は、排気経路12の上流側から流入される排気ガスから力を受けた後述するタービンロータ22が回転することで、コンプレッサ30を駆動する機能を有する。
【0022】
タービン20は、
図1に示されるように、タービンロータ22と、タービンハウジング24と、を備えている。
【0023】
タービンハウジング24には、流入口24Aと流出口24Bとが形成されている。タービンハウジング24は、流入口24Aが形成された部位で排気経路12のエンジン側(上流側)の部位に接続されている。そして、タービンハウジング24内には、流入口24Aから排気ガスが流入されるようになっている。また、タービンハウジング24は、流出口24Bが形成された部位で排気経路12の下流側の部位に接続されるようになっている。そして、流入口24Aからタービンハウジング24に流入された排気ガスは、流出口24Bから流出されるようになっている。
【0024】
タービンロータ22は、複数の翼23を備えている。タービンロータ22は、回転軸42における筐体44の片側端部から突出した部位に固定されている。そして、タービンロータ22は、排気経路12の上流側からタービンハウジング24内に流入される排気ガスから力を受けて、回転軸42とともに回転軸42の自軸を中心に回転されるようになっている。
【0025】
<コンプレッサ>
コンプレッサ30は、吸気経路14の上流側から流入される空気を後述するインペラ80(翼部84)が回転されることで圧縮し、圧縮した空気(圧縮空気)を吸気経路14の下流側に流出する機能を有する。
【0026】
コンプレッサ30は、
図1に示されるように、コンプレッサハウジング50と、インペラ80と、を含んで構成されている。
【0027】
[コンプレッサハウジング]
コンプレッサハウジング50には、流入口50Aと流出口50Bとが形成されている。流入口50Aは、回転軸42の軸方向における保持ユニット40側と反対側に形成されている。また、流入口50Aは、回転軸42の軸方向から見ると、回転軸42の自軸を中心とした丸穴とされている。流出口50Bは、回転軸42の軸方向と交差する方向であって、筐体44側の部位に、回転軸42の周方向全域に亘って形成されている。そして、コンプレッサハウジング50の内壁は、回転軸42の軸方向における流入口50A側から保持ユニット40側に亘って、回転軸42の単位長さ当たりの回転軸42の自軸との距離の変化率が徐々に拡大する曲面とされている。コンプレッサハウジング50は、流入口50Aが形成された部位で吸気経路14の上流側の部位に接続されるようになっている。そして、コンプレッサハウジング50内には、流入口50Aから空気が流入されるようになっている。また、コンプレッサハウジング50は、流出口50Bが形成された部位で吸気経路14の下流側の部位に接続されるようになっている。ここで、コンプレッサハウジング50は、ハウジングの一例である。
【0028】
[インペラ]
インペラ80は、
図1および
図2に示されるように、基部82と、複数の翼部84と、を含んで構成されている。インペラ80は、
図1に示されるように、コンプレッサハウジング50内に収容されている。インペラ80の基部82は、回転軸42における筐体44の片側端部から突出した部位に固定されている。そして、インペラ80(翼部84)は、タービンロータ22の回転に伴い、回転軸42の回転方向(
図2の矢印R方向)に回転されることで、流入口50Aから流入される空気を圧縮する機能を有する。なお、インペラ80により圧縮された圧縮空気は、流出口50Bから吸気経路14の下流側の部位に流出されて、車両のエンジンに供給される。ここで、空気および圧縮空気は、流体の一例である。
【0029】
〔基部〕
基部82は、
図1および
図2に示されるように、回転軸42を中心に対称(回転軸42の軸方向から見ると点対称であり、軸方向と交差する方向から見ると線対称である)に形成され、保持ユニット40側から回転軸42を中心に突起する部材とされている。そして、基部82の外周面は、回転軸42の軸方向における流入口50A側から保持ユニット40側に亘って、回転軸42の単位長さ当たりの回転軸42の自軸からの距離の変化率が徐々に拡大する曲面とされている。なお、基部82の外周面(コンプレッサハウジング50の内壁に対向する面)は、回転軸42の軸方向における流入口50A側が回転軸42の軸方向を向いており、回転軸42の軸方向における流出口50B側が回転軸42の径方向流入口50A側を向いている。
【0030】
〔翼部〕
複数の翼部84は、
図2に示されるように、回転軸42の自軸を中心として、基部82の外周面に渦巻状に配置されている。各翼部84には、コンプレッサハウジング50の内壁を向く面(以下、端面92という。なお、端面92は、翼部84の先端でもある。)と、流入口50Aを向く面(以下、上面94という。)と、流出口50Bを向く面(以下、下面96という。)と、が形成されている。端面92は、回転軸42の軸方向と交差する方向から見ると、コンプレッサハウジング50の内壁の曲面に沿っており、コンプレッサハウジング50の内壁と離間している。そして、各翼部84は、上面94側の部位が下面96側の部位よりも回転軸42の回転方向下流側となるように回転軸42の回転方向に捩れている。なお、以下の説明では、
図1〜3(A)に示されるように、翼部84における基部82との境界分を、境界90という。
【0031】
次に、翼部84の具体的な構成について、図面を参照しつつ説明する。翼部84は、
図3(A)、(B)および(C)に示されるように、根元部95と、連結部97と、先端部99と、を備えている。
【0032】
〈根元部〉
根元部95は、翼部84を構成する根元部95、連結部97および先端部99のうち最も基部82側にある部位であり、基部82の外周面に設けられている。以下の説明において、翼高とは、境界90と、境界90から引いた法線が交差する端面92と、の距離をいう。また、翼厚tとは、キャンバーライン(翼の厚みの中心線)に垂直な法線方向の翼部84の厚みをいう。根元部95は、
図3(A)、(B)および(C)に示されるように、翼部84の翼高を100%とした場合、40%以下となる範囲に備えられている。根元部95は、翼高方向(翼部84の境界90から端面92に向く方向)に沿って、徐々に翼厚tが減少するように構成されている。なお、根元部95における翼厚が最大となる部位は境界90の上面94から下面96の中間に位置し、一例として2.0mmとされている。
【0033】
〈先端部〉
先端部99は、翼部84を構成する根元部95、連結部97および先端部99のうち最もコンプレッサハウジング50側にある部位であり、根元部95よりも翼厚tが薄く構成されている。なお、先端部99の翼厚tは一定であり、先端部99の上面94における翼厚tは一例として0.4mmとされている。先端部99は、
図3(A)、(B)および(C)に示されるように、翼部84の翼高を100%とした場合、80%以上となる範囲に備えられている。
【0034】
〈連結部〉
連結部97は、根元部95と先端部99の中間にある部位であり、根元部95と先端部99とを繋いでいる。連結部97は、根元部95から先端部99にかけて翼厚tが徐々に減少するように構成されている。そして、連結部97には、単位翼高当たりの翼厚tの減少率が根元部95(根元部95側)および先端部99(先端部99側)よりも大きい棚部98が形成されている。また、棚部98は、上面94から下面96に亘って連続的に形成されている。ここで、上面94から下面96に亘る部位は、コンプレッサ30における空気の流出経路とされることから、棚部98は、流体の流出経路の全長に亘って形成されているといえる。なお、棚部98は、
図3(A)、(B)および(C)に示されるように、翼部84の翼高を100%とした場合、40%以上80%以下の範囲に形成されている。換言すれば、棚部98は、翼部84における基部82との境界90から翼部84の先端(端面90)までの距離(翼高)の40%以上かつ80%以下の範囲に形成されているといえる。ここで、本実施形態における翼厚tの減少率とは、根元部95から先端部99に向かう方向の翼厚tの減少率を示す。
【0035】
別の見方をすると、連結部97は、
図3(A)に示されるように、翼部84の上面94を回転軸42の軸方向から見て、連結部97の両側面(翼部84の翼厚方向に向く面)に相当する部位がそれぞれ曲線とされている。また、それぞれの曲線は、境界90から端面92に向かう法線(図中の一点鎖線)の方向に対して、根元部95側から先端部99にかけて、徐々にこの法線に近づくようになっている。そして、それぞれの曲線における棚部98に相当する部位は、曲線の傾きの変化率が最大となる変曲点とされている。ここで、
図3(D)は、変曲点に相当する棚部98に相当する部位付近の拡大図である。変曲点における接線と法線との角度をθ2、変曲点よりも先端部99側の部位における接線と法線との角度をθ1、変曲点よりも根元部95側の部位における接線と法線との角度をθ3とした場合、θ2が最大値となる。
【0036】
〈翼部の補足〉
翼部84は、境界90における流入口50A側から流出口50Bに亘る任意の点と、該任意の点から引いた法線が交差する端面92の点と、を結んだ線分(以下、線分Nという。)を含む断面が、上面94のように変曲点を有している。そして、翼部84における線分Nは、
図3(B)に示されるように、上面94側から下面96側に亘って、徐々に短くなっている。
【0037】
また、翼部84を構成する根元部95、連結部97および先端部99は、上面94から下面96に亘っている。このため、棚部97は、前述のとおり、上面94から下面96に亘って、連続的に形成されている。また、棚部97は、上面94から下面96に亘る法線Nを含む各断面において、翼部84の翼高を100%とした場合、40%より大きく80%より小さい範囲の同じ部位に形成されている。
【0038】
≪作用≫
次に、本実施形態についての作用を、図面を参照して説明する。
【0039】
<ターボチャージャの作用>
排気ガスは、
図1に示されるように、車両のエンジンから排気経路12に排出され、タービンハウジング24内に流入される。タービンハウジング24内に流入された排気ガスは、タービンロータ22の複数の翼23に衝突する。これにより、タービンロータ22が回転軸42の軸周りに高速回転し、インペラ80は回転軸42の周りに高速回転される。なお、タービンハウジング24内でタービンロータ22を回転させた後の排気ガスは、流出口24Bから排出される。
【0040】
また、高速回転するインペラ80は、
図1に示されるように、流入口50Aからコンプレッサハウジング50内に流入した空気を圧縮して圧縮空気とし、流出口50Bから吸気経路14に流出する。そして、吸気経路14に流出した圧縮空気は、車両のエンジンに、燃焼用の圧縮空気として供給される。
【0041】
以上のとおり、ターボチャージャ10は、車両のエンジンから排出される排気ガスを用いてタービン20を回転させ、この回転による力を用いてコンプレッサ30を駆動させて、車両のエンジンに圧縮空気を供給することを繰り返す。
【0042】
<コンプレッサによる作用>
次に、本実施形態の要部であるコンプレッサ30の作用について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、本実施形態のコンプレッサ30の作用について、後述する比較形態のコンプレッサと比較しながら説明する。
【0043】
〔比較形態のコンプレッサの構成〕
比較形態のコンプレッサは、本実施形態のコンプレッサ30に対して、インペラの形状が異なる。この点以外は、同様の構成とされている。以下、比較形態のコンプレッサを構成するインペラ80Aが、本実施形態のインペラ80と異なる点を説明する。
【0044】
インペラ80Aの翼部84Aでは、
図5に示されるように、インペラ80Aにおける境界90Aから法線方向のベクトルを有する線分NAを含む断面が、等脚台形とされている。換言すれば、インペラ80Aの翼部84Aには、本実施形態のインペラ80の翼部80のように、棚部98が形成されていない。
【0045】
ここで、比較形態の翼部84Aにおける境界90Aは、
図2、
図3(A)および(B)、
図4ならびに
図5に示されるように、翼部84における境界90に相当する。翼部84Aにおける端面92Aは、翼部84における端面92に相当する。翼部84Aにおける上面94Aは、翼部84における上面94に相当する。翼部84Aにおける下面96Aは、翼部84における下面96Aに相当する。なお、翼部84Aの境界90Aにおける翼厚tと翼部84の境界90における翼厚tとは、同じである。以上が、比較形態のコンプレッサの構成についての説明である。
【0046】
〔本実施形態と比較形態との比較〕
次に、本実施形態のインペラ80と比較形態のインペラ80Aとの構成の違いに基づく、作用の違いについて、
図4〜
図11を参照しつつ、説明する。
【0047】
〈本実施形態と比較形態との特性の違いについて〉
(コンプレッサ効率)
コンプレッサ効率ηとは、式(1)で表される。
式(1) η={(P1/P0)
(κ−1)/κ−1}/{(T1/T0)−1}
【0048】
ここで、P1は、コンプレッサハウジング50内の出口側の圧力である。P0は、コンプレッサハウジング50内の入口側の圧力である。κは、コンプレッサハウジング50内に流入する空気の比熱比である。T1は、コンプレッサハウジング50内の出口側の温度である。T0は、コンプレッサハウジング50内の入口側の温度である。なお、P0およびP1は、圧力センサにより実測される値であり、T0およびT1は、温度センサにより実測される値である。
【0049】
図6(A)は、本実施形態のコンプレッサ30および比較形態のコンプレッサの空気の流量に対するコンプレッサ効率の数値流体力学(Computational Fluid Dynamics)に基づく計算(以下、CFD計算という。)の結果を示している。この試験では、各インペラ(インペラ80、インペラ80A)の回転数は同じである。
図6(A)に示されるように、本実施形態のコンプレッサ30は、比較形態のコンプレッサに比べて、コンプレッサ効率が向上している。また、別の見方をすると、本実施形態のコンプレッサ30は、比較形態のコンプレッサに比べて、同じコンプレッサ効率における空気の流量が大きい(例えば、AとBとを比較すると、AはBに比べてΔGa分空気の流量が増加している)。換言すれば、本実施形態のコンプレッサ30は、比較形態のコンプレッサに比べて、空気の高流量側での作動領域が拡大されている。
【0050】
また、
図6(B)は、本実施形態のコンプレッサ30および比較形態のコンプレッサの空気の流量に対するコンプレッサ効率の実験の結果を示している。この試験では、各インペラ(インペラ80、インペラ80A)の回転数は同じである。
図6(B)によれば、
図6(A)の場合と同様に、本実施形態のコンプレッサ30が、比較形態のコンプレッサに比べて、空気の高流量側での作動領域が拡大されている。
【0051】
以上が、本実施形態のコンプレッサ30と比較形態のコンプレッサとの特性の違いである。
【0052】
次に、本実施形態のコンプレッサ30と比較形態のコンプレッサとの特性の違いの原因について、以下の3つの観点から説明する。ここで、3つの観点とは、(1)流入口50Aから流入する空気の流入量、(2)コンプレッサハウジング50内のエントロピ、および、(3)コンプレッサハウジング50内の空気の流速である。
【0053】
〈(1)流入口50Aから流入する空気の流入量〉
図8は、本実施形態のコンプレッサ30における数値流体力学(Computational Fluid Dynamics)に基づく計算(以下、CFD計算という。)の結果を示している。これに対し、
図10は、比較形態のコンプレッサにおけるCFD計算結果を示している。なお、いずれの場合も、インペラ80およびインペラ80Aの(単位時間当たりの)回転数は同じである。なお、
図8における空気の流量は、
図6(A)におけるAの条件とされている。また、
図10における空気の流量は、
図6(A)におけるBの条件とされている。
【0054】
前述のとおり、本実施形態のコンプレッサ30は、比較形態のコンプレッサに比べて、コンプレッサハウジング50の流入量が多い。
【0055】
そして、本実施形態のコンプレッサ30が比較形態のコンプレッサに比べて流入量が多くなるメカニズムは、コンプレッサハウジング50内に流入される空気の流路面積が先端部99の翼厚tが薄くなった分大きくなるためと推認される。
【0056】
なお、本実施形態のコンプレッサ30と比較形態のコンプレッサとの流速を比較すると、例えば、
図8のβ内の空気は、
図8のβ内に対応する
図10のγ内の空気よりも流速が速い。これは、本実施形態のコンプレッサ30が、比較形態のコンプレッサに比べて流入量が多くなるため、空気の活路面積が大きい部位で流速が速くなっているためと推認される。
【0057】
なお、本実施形態のコンプレッサ30と比較形態のコンプレッサとの流速を比較すると、例えば、
図8のβ内の空気は、
図8のβ内に対応する
図10のγ内の空気よりも流速が速い。これは、本実施形態のコンプレッサ30が、比較形態のコンプレッサに比べて流入量が多くなるため、空気の流路面積が大きい部位で流速が速くなっているためと推認される。
【0058】
〈(2)コンプレッサハウジング内のエントロピ〉
図5に示されるように、本実施形態のインペラ80は、比較形態のインペラ80Aに比べて、翼部84の端面92側における翼厚tが薄い。これに起因して、コンプレッサハウジング50内に流入された空気の衝突損失が低下する。その結果、本実施形態のコンプレッサ30は、
図7に示されるように、比較形態のコンプレッサに比べて、流入量に対するエントロピが小さい。なお、衝突損失とは、流入する空気が翼部84における流入口50A側の部位で衝突して失われるエネルギー損失のことをいう。特に、翼部84の端面92側の部位は、境界90側の部位に比べて、回転速度(周速)が大きいため、衝突損失の影響が大きく寄与する。
【0059】
〈(3)コンプレッサハウジング内の空気の流速〉
次に、
図9および
図11を参照して、本実施形態のコンプレッサ30と比較形態のコンプレッサとの空気の流速について説明する。
図9は、本実施形態のインペラ80を備えたコンプレッサハウジング50内の空気の流速分布(子午面マッハ数分布)のCFD計算結果を示す。また、
図11は、比較形態のインペラ80Aを備えたコンプレッサハウジング50内の空気の流速分布(子午面マッハ数分布)のCFD計算結果を示す。
【0060】
図9および
図11に示されるように、本実施形態のコンプレッサ30は、比較形態のコンプレッサに比べて、コンプレッサハウジング50内における、翼部84の端面92側且つ上面94側の部位が通過する部位α(
図9参照)の空気の流速が速い。このため、本実施形態のコンプレッサ30は、比較形態のコンプレッサに比べて、コンプレッサハウジング50内における、部位αと流出口50B付近との間の流速分布の勾配が大きくなるため、圧縮された空気が排出され易い。そして、空気の減速比が大きくなるため、圧縮効率が高まる。
【0061】
そして、本実施形態のコンプレッサ30が比較形態のコンプレッサに比べて空気の流速が速くなるメカニズムは、以下のように推認される。
図3(A)に示されるように、本実施形態の翼部84は、根元部95と、連結部97と、先端部99と、を備えている。そして、連結部97は、根元部95から先端部99にかけて翼厚tが徐々に減少するように構成されている。また、連結部97には、単位翼高当たりの翼厚の減少率が根元部95側および先端部99側よりも大きい棚部98が上面94から下面96に亘って形成されている。このため、棚部98(および棚部98を中心とした連結部97の部分)に衝突した空気は、衝突前に比べて、コンプレッサハウジング50側に向く力が付与される。そして、コンプレッサハウジング50側に向く力が付与された空気は、比較形態のコンプレッサの場合に比べて、衝突損失の少ない先端部99が通過する領域に移動される。このため、本実施形態のコンプレッサ30では、比較形態のコンプレッサに比べて、部位α(
図9参照)の空気の流速が速くなる。
【0062】
上記の結果は、本実施形態のコンプレッサ30が、比較形態のコンプレッサに比べて、空気の流入量が多いこと、エントロピが小さいこと、および、空気の流速が速いこと、に起因すると推認される。
【0063】
以上のとおり、本実施形態のインペラ80(翼部84)には、根元部95から先端部99にかけて翼厚が徐々に減少するよう連結部97が備えられている。また、連結部97には、単位翼高当たりの翼厚の減少率が根元部95側および先端部99側よりも大きい棚部98が上面94から下面96に亘って形成されている。
【0064】
なお、本実施形態のコンプレッサ30は、インペラ80の先端部99の翼厚tが一定とされているため、翼部の先端部の翼厚が徐々に減少するものと比べて、翼部84の強度を維持することができる。また、本実施形態のコンプレッサ30は、翼部84の翼高の40%以上80%以下となる範囲に棚部が形成されているため、翼部の翼高の40%以下となる範囲に棚部が形成されていないものに比べて、翼部84の強度を維持することができる。
【0065】
したがって、本実施形態のコンプレッサ30によれば、比較形態のコンプレッサに比べて、空気の高流量側での作動領域が拡大される。また、これに伴い、コンプレッサ30を備えたターボチャージャ10は、比較形態のコンプレッサを備えたターボチャージャに比べて、空気の高流量側でのエンジンの出力を向上させることができる。
【0066】
以上のとおり、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の実施形態が可能である。
【0067】
例えば、本実施形態の根元部95は、境界90の翼厚tが最も厚くされており、翼高方向に沿って徐々に翼厚tが減少するように構成されているとして説明した。しかしながら、根元部95と先端部99とを連結する連結部97が備えられていれば、根元部95は、翼高方向に沿って徐々に翼厚tが減少するように構成されていなくてもよい。例えば、根元部95の翼厚tは一定であってもよい。
【0068】
また、本実施形態の先端部99は、一断面における翼厚が一定されているとして説明した。しかしながら、根元部95と先端部99とを連結する連結部97が備えられていれば、先端部99の翼厚は、連結部97から端面92まで徐々に減少する構成となっていてもよい。
【0069】
また、本実施形態の連結部97の棚部98は、1箇所であるかの如く構成されているとして説明した。しかしながら、連結部97に棚部98が形成されていることの技術的意義は、棚部98があることで、棚部98および棚部98を中心とした連結部97の部分に衝突した空気にコンプレッサハウジング50側に向く力が付与されることである。したがって、空気にコンプレッサハウジング50側に向く力が付与されるのであれば、連結部97に形成される棚部98が複数あってもよい。
【0070】
≪本実施形態の別形態についてのシミュレーション結果≫
次に、本実施形態のインペラ80とは、翼の形状が異なる別の形態(別形態1、別形態2および別形態3)について、空気の流量に対するコンプレッサ効率のCFD計算を行った。
【0071】
<別形態1の構成>
別形態1のインペラ80Bは、
図12に示されるとおり、先端側の端部の翼厚が0.3mmであり、本実施形態のインペラ80よりも薄い。ただし、別形態1のインペラ80Bは、本実施形態のインペラ80を構成する根元部95、先端部99および連結部97に相当する、根元部95B、先端部99Bおよび連結部97Bを備えている。また、別形態1のインペラ80Bには、単位翼高当たりの翼厚の減少率が根元部95B側および先端部99B側よりも大きい棚部98Bが形成されている。
【0072】
<別形態2の構成>
別形態2のインペラ80Cは、
図13に示されるとおり、先端側の端部の翼厚が0.3mmであり、本実施形態のインペラ80よりも薄い。ただし、別形態2のインペラ80Cは、本実施形態のインペラ80を構成する根元部95、先端部99および連結部97に相当する、根元部95C、先端部99Cおよび連結部97Cを備えている。また、別形態1のインペラ80Cには、単位翼高当たりの翼厚の減少率が根元部95C側および先端部99C側よりも大きい棚部98Cが形成されている。
【0073】
<別形態3の構成>
別形態のインペラ80Dについて、
図16を参照しつつ説明する。インペラ80Dは、本実施形態のインペラ80に対して、形状が異なる。具体的には、先端部99Dの翼厚tが、連結部97側から翼部84Dの先端である端面92Dに向けて徐々に減少し、更に、端面92に向けて徐々に増大している。別の見方をすれば、先端部99Dの翼厚tの減少率は、連結部97から先端部99Dに向けて徐々に減少して0になり、更に、減少率が0となる部位から先端部99Dに向けて負の減少率で更に減少している。別の見方をすれば、先端部99Dのうち少なくとも先端(端面92D)側の翼厚tは、翼部84Dの先端(端面92D)に向かって増大するような形状であるといえる。この点以外は、本実施形態のインペラ80と同じ構成である。
【0074】
<別形態1、別形態2および別形態3のCFD計算の結果>
図14は、別形態1、別形態2、別形態3および前述した比較形態のコンプレッサの空気の流量に対するコンプレッサ効率のCFD計算結果を示している。
図14では、各インペラの回転数は同じである。別形態1、別形態2および別形態3のコンプレッサによれば、比較形態のコンプレッサに比べて、空気の高流量側においてコンプレッサ効率が向上するというシミュレーションの結果が得られた。換言すれば、別形態1、別形態2および別形態3のコンプレッサによれば、比較形態のコンプレッサに比べて、空気の高流量側での作動領域が拡大されるというシミュレーションの結果を得られた。
【0075】
≪比較例についてのシミュレーション結果≫
<比較例1および比較例2の構成>
比較例1および比較例2のインペラは、前述の比較形態のインペラ80Aに対して、翼部84の先端部99の翼厚tを0.3mmで一定として、根元部95における境界90の翼厚tを薄くして、本実施形態の翼部84全体の翼厚よりも翼部84全体の翼厚を薄くしたものである。具体的には、比較例1のインペラは、比較形態のインペラ80Aに対し根元部95における境界90の翼厚tを、翼高20%の位置の翼厚としたものである。また、比較例2のインペラは、比較形態のインペラ80Aに対し根元部95における境界90の翼厚tを、翼高50%の位置の翼厚としたものである。
【0076】
<比較例1および比較例2のCFD計算の結果>
図15は、比較例1および比較例2ならびに前述した比較形態のコンプレッサに流入する空気流量に対するコンプレッサ効率のCFD計算結果を示している。
図15では、各インペラの回転数は同じである。
【0077】
比較例1のコンプレッサでは、比較形態のコンプレッサに比べて、相対的に空気の流量の少ない領域ではコンプレッサ効率が向上するものの、相対的に空気の流量の多い領域ではコンプレッサ効率が同等というシミュレーションの結果が得られた。
【0078】
比較例2のコンプレッサでは、比較形態のコンプレッサに比べて、すべての空気の流量でコンプレッサ効率が向上するというシミュレーションの結果を得られた。しかしながら、比較例2の場合、翼厚が薄いため、インペラとして使用した場合、回転軸42から翼が千切れる等の問題が生じてしまうため、実質上インペラとして使用することができない。
【0079】
≪考察≫
以上のとおり、比較形態を基準に、別形態1、別形態2および別形態3ならびに比較例1および比較例2について、空気の流量に対するコンプレッサ効率のCFD計算を行った。別形態1、別形態2および別形態3のコンプレッサは、比較形態のコンプレッサならびに比較例1および比較例2のコンプレッサと比較しても、空気の高流量側において、コンプレッサ効率が向上していることがわかる。
【0080】
また、比較例1のコンプレッサは、比較形態のコンプレッサに比べて、全体の翼厚が80%であるから、コンプレッサハウジング50内に流入される空気の流路面積が大きい。しかしながら、比較例1のコンプレッサは、
図15に示されるように、比較形態に比べて、空気の高流量側において、コンプレッサ効率が向上していない。
【0081】
また、本実施形態のインペラ80、別形態1のインペラ80B、別形態2のインペラ80Cおよび別形態3のインペラ80D(以下、前者という。)は、比較例1のインペラのインペラに比べて(以下、後者という。)、翼部84の体積が大きい。つまり、前者は、後者に比べて、コンプレッサハウジング50内の空気の流路面積が小さい。しかしながら、
図14および
図15によれば、前者は、後者に比べて、空気の高流量側において、コンプレッサ効率が向上していた。このことからも、コンプレッサハウジング50内の空気の流路面積が大きいことだけでは、コンプレッサ効率が向上することにはならないことが分かる。そして、前者には、後者にない棚部97、97B、97Cが形成されている点で異なる。
【0082】
また、
図14に示されるように、別形態3のコンプレッサは、別形態1のコンプレッサおよび別形態2のコンプレッサと比較しても、空気の高流量側において、コンプレッサ効率が向上していることがわかる。そして、比較形態、比較例1、本実施形態および別形態3のインパラにおける翼部の乱流エネルギーのCFD計算をおこなったところ、各インペラの翼部におけるコンプレッサハウジング50の流出口50Bを向く面(下面96)側で違いがあることがわかった。
【0083】
図17と
図18とを比較すると、比較例1のコンプレッサは、比較形態のコンプレッサに比べて、翼部における下面96側の乱流エネルギーが増加していることがわかる。これに対して、
図18と
図19とを比較すると、本実施形態のコンプレッサは、比較例1のコンプレッサに比べて、翼部における下面96側の乱流エネルギーが減少していることがわかる。さらに、
図19と
図20とを比較すると、別形態3のコンプレッサは、本実施形態のコンプレッサに比べて、翼部における下面96側の乱流エネルギーが減少していることがわかる。また、
図17と
図20とを比較すると、別形態3のコンプレッサと、比較形態のコンプレッサとを比較すると、翼部における下面96側の乱流エネルギーに大きな差異がないことがわかる。そして、
図14および
図15に示されるように、別形態3のコンプレッサは、比較形態のコンプレッサに比べて、空気の高流量側においてコンプレッサ効率が向上している。これは、別形態3のコンプレッサは、比較形態のコンプレッサに比べて空気の流量が増加しているにも関わらず、翼部における下面96側の乱流エネルギーに大きな差異がないことによると推認される。
【0084】
以上のとおり、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内にて他の実施形態が可能である。
【0085】
例えば、本実施形態では、連結部97は根元部96と先端部98とを繋いでおり、連結部97には棚部98形成されており、棚部98は連結部97の一部であるとして説明した。しかしながら、棚部98が単位翼高当たりの翼厚tの減少率が根元部95(根元部95側)および先端部99(先端部99側)よりも大きければ、棚部98が連結部97であってもよい(別言すれば、棚部97は、連結部97の全部である。)。