特許第6372211号(P6372211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372211
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】構造物の制振構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20180806BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   E04H9/02 341C
   E04H9/02 341B
   F16F15/02 C
   F16F15/02 K
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-143980(P2014-143980)
(22)【出願日】2014年7月14日
(65)【公開番号】特開2016-20573(P2016-20573A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2017年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 泰彦
【審査官】 土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−248835(JP,A)
【文献】 特開2010−242450(JP,A)
【文献】 特開平09−235894(JP,A)
【文献】 特開平09−203217(JP,A)
【文献】 特開2006−214194(JP,A)
【文献】 特公平08−006502(JP,B2)
【文献】 特開平11−062316(JP,A)
【文献】 特開2006−322249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 − 9/16
F16F 15/00 − 15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の壁面の側方に配されつつ、水平方向に相対変位可能に支持された質量体と、前記構造物と前記質量体との間に介挿された制振部材とを、それぞれ鉛直方向の複数の位置に有する制振構造であって、
前記制振部材は、前記構造物の振動を減衰する減衰力を発生するとともに、前記質量体がマスダンパーの質量として動作するように、前記水平方向の相対変位に応じた大きさの弾性の復元力を発生し、
前記鉛直方向に沿った列状に複数の前記質量体が繋がってなる質量体列を有し、
前記質量体列を、前記水平方向のうちで前記壁面に沿う横方向に複数列並んで有し、
前記横方向に隣り合う前記質量体列同士が一体に繋がっていることにより、前記横方向に並ぶ複数列の質量体列は、連結体をなしており、
前記鉛直方向に隣り合う前記質量体同士を連結するブレース材又は面材を有し、
前記ブレース材又は前記面材は、前記横方向に隣り合う前記質量体列同士を更に連結していることを特徴とする構造物の制振構造。
【請求項2】
請求項1に記載の構造物の制振構造であって、
前記制振部材は、粘弾性ダンパーであることを特徴とする構造物の制振構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の構造物の制振構造であって、
前記質量体は、前記構造物の外方に配置される外装材を含んでいることを特徴とする構造物の制振構造。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の構造物の制振構造であって、
前記質量体列に属する全ての質量体が、前記構造物又は地面に設けられた同一の支持部材に支持されることにより、前記質量体列が前記水平方向に相対変位可能とされていることを特徴とする構造物の制振構造。
【請求項5】
請求項4に記載の構造物の制振構造であって、
前記支持部材は、前記構造物において前記地面よりも鉛直方向の上方に位置する部分に設けられていることを特徴とする構造物の制振構造。
【請求項6】
請求項5に記載の構造物の制振構造であって、
前記支持部材は、前記質量体列に属する質量体のうちで最も下方に位置する質量体よりも下方に配置されており、
前記支持部材の上面に前記質量体列が載置されて支持されていることを特徴とする構造物の制振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物等の構造物の制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物の一例として建物の振動を制振する制振構造が知られている。
特許文献1には、かかる制振構造の一例が開示されている。この制振構造では、建物の外壁面に対向するように質量体が配されている。そして、かかる質量体は、地面などに設けられた滑り支承等によって、水平方向に相対変位可能に支持されている。また、同質量体と建物とは、制振部材としての粘弾性ダンパーによって連結されている。そして、かかる制振構造によれば、地震などで建物が水平変位した際には、同ダンパーは粘弾性力を発生するが、この粘弾性力のうちの粘性項に係る力を減衰力として用いることで、建物の振動を減衰することができる。また、同粘弾性力のうちの弾性項に係る力を復元力として用いることにより、質量体をマスダンパーの質量として動作させて、これにより、質量体の振動で建物の振動を相殺して建物を制振することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−242450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複数階建ての建物の場合には、上述の質量体と制振部材とを、それぞれ鉛直方向の複数の位置に設けることが考えられ、更に、鉛直方向に隣り合う質量体同士を一体につないで連結体とすることが考えられる。しかし、この場合には、当該連結体の剛性に応じて、マスダンパーとしての制振効果が変化する恐れがある。詳しくは次の通りである。
【0005】
先ず、マスダンパーの質量体は建物の屋上に設けられることが多いが、この理由は、総じて当該質量体が上方にある方が、大きな制振効果を得ることができるからである。一方、上述のように質量体が上下に分散配置されている場合であっても、上方の質量体と下方の質量体とが高い剛性で連結されていれば、これら両者の質量体からなる連結体は、あたかも一つの質点のように動作することができて、その結果、上方に大きな質量体がある場合と比べて概ね遜色の無い大きな制振効果を得ることができる。
【0006】
しかし、連結体の剛性が低い場合には、同連結体の変形に伴って、下方の質量体は上方の質量体と同じ動きをしなくなる。そして、これにより、下方の質量体は、マスダンパーの質量として有効に寄与しなくなってしまい、その結果、制振効果は低下してしまう。
【0007】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、上記のような質量体と制振部材とを有した制振構造において、鉛直方向に隣り合う質量体同士が一体に繋がって連結体をなしている場合に、当該連結体の剛性を高めることによって、同連結体がマスダンパーの質量として奏する制振効果の低下を防ぐことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するための請求項1に示す発明は、
構造物の壁面の側方に配されつつ、水平方向に相対変位可能に支持された質量体と、前記構造物と前記質量体との間に介挿された制振部材とを、それぞれ鉛直方向の複数の位置に有する制振構造であって、
前記制振部材は、前記構造物の振動を減衰する減衰力を発生するとともに、前記質量体がマスダンパーの質量として動作するように、前記水平方向の相対変位に応じた大きさの弾性の復元力を発生し、
前記鉛直方向に沿った列状に複数の前記質量体が繋がってなる質量体列を有し、
前記質量体列を、前記水平方向のうちで前記壁面に沿う横方向に複数列並んで有し、
前記横方向に隣り合う前記質量体列同士が一体に繋がっていることにより、前記横方向に並ぶ複数列の質量体列は、連結体をなしており、
前記鉛直方向に隣り合う前記質量体同士を連結するブレース材又は面材を有し、
前記ブレース材又は前記面材は、前記横方向に隣り合う前記質量体列同士を更に連結していることを特徴とする。
【0009】
上記請求項1に示す発明によれば、上記の連結体列を構成する質量体同士は、ブレース材又は面材によって更に連結されており、これにより、連結体列の剛性は高められている。よって、連結体列が部分的に変形して変形した部分の近傍の質量体がマスダンパーの質量として寄与し難くなることを有効に防ぐことができて、その結果、連結体列がマスダンパーの質量として奏する制振効果の低下を防ぐことができる。
また、上述のように連結体列の剛性を高めていれば、マスダンパーの質量として動作し難い種類の振動の場合には、鉛直方向の複数の位置に設けられた上記の制振部材が、層間ダンパーとして機能して、これにより、構造物の振動を有効に減衰することができる。なお、これについては、後述する。
更に、横方向に並ぶ複数列の質量体列は互いに繋がっていて一体化されて連結体をなしており、これにより、一つの大きな質量体として動作可能である。また、横方向に隣り合う質量体列同士を、更にブレース材又は面材が連結しており、これにより、連結体の剛性は高められている。よって、連結体が部分的に変形して変形した部分の近傍の質量体がマスダンパーの質量として寄与し難くなることを有効に防ぐことができて、その結果、連結体がマスダンパーの質量として奏する制振効果の低下を有効に防ぐことができる。
【0010】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の構造物の制振構造であって、
前記制振部材は、粘弾性ダンパーであることを特徴とする。
【0011】
上記請求項2に示す発明によれば、制振部材は粘弾性ダンパーである。そのため、同ダンパーの弾性項に係る力を復元力として用いることにより、連結体はマスダンパーの質量として動作する。また、同ダンパーの粘性項に係る力を減衰力として用いることにより、連結体の振動を有効に減衰することができる。よって、復元力を発生する弾性部材と、減衰力を発生するダンパー部材とを別々に設けずに済んで、その結果、同部材の設置用スペースを縮小することができる。
【0012】
請求項3に示す発明は、請求項1又は2に記載の構造物の制振構造であって、
前記質量体は、前記構造物の外方に配置される外装材を含んでいることを特徴とする。
【0013】
上記請求項3に示す発明によれば、質量体は、外装材を含んでいるので、同外装材を質量体の質量の一部とすることができる。そして、これにより、制振構造用に別途設けるべき質量体の数量を減らすことができて、その結果、構造物の総重量の増大を防ぐことができる。
【0016】
請求項4に示す発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の構造物の制振構造であって、
前記質量体列に属する全ての質量体が、前記構造物又は地面に設けられた同一の支持部材に支持されることにより、前記質量体列が前記水平方向に相対変位可能とされていることを特徴とする。
【0017】
上記請求項4に示す発明によれば、質量体列につき一つの支持部材を設ければ、質量体列に属する全ての質量体を支持することができる。よって、支持部材の設置数を少なくすることができて、コスト削減を図れる。
【0018】
請求項5に示す発明は、請求項4に記載の構造物の制振構造であって、
前記支持部材は、前記構造物において前記地面よりも鉛直方向の上方に位置する部分に設けられていることを特徴とする。
【0019】
上記請求項5に示す発明によれば、支持部材を地面に設けないので、構造物の周囲の地面を空きスペースとすることができて、その結果、構造物の建築計画の自由度を高めることができる。
【0020】
請求項6に示す発明は、請求項5に記載の構造物の制振構造であって、
前記支持部材は、前記質量体列に属する質量体のうちで最も下方に位置する質量体よりも下方に配置されており、
前記支持部材の上面に前記質量体列が載置されて支持されていることを特徴とする。
【0021】
上記請求項6に示す発明によれば、支持部材は最も下方の質量体よりも下方に配置されており、そして、当該支持部材は、その上面で質量体列を支持する。よって、当該質量体列を安定して支持することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、上記のような質量体と制振部材とを有した制振構造において、鉛直方向に隣り合う質量体同士が一体に繋がって連結体をなしている場合に、当該連結体の剛性を高めることによって、同連結体がマスダンパーの質量として奏する制振効果の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1Aは、本実施形態の制振構造10が設けられた構造物1の概略斜視図であり、図1Bは、図1A中のB−B矢視の概略正面図である。
図2】同制振構造10の一部を拡大して示す概略斜視図である。
図3】同制振構造10の一部を拡大して示す概略正面図である。
図4】支持部材17を地面GNDに設けた場合の説明図であって、制振構造10の一部を拡大して示す概略斜視図である。
図5】鉛直方向に隣り合うブレース材21,21同士の傾斜方向を互いに逆向きにした例の説明図であって、制振構造10の一部を拡大して示す概略正面図である。
図6図6Aは、連結体GR11がマスダンパーの質量として有効に機能する場合の説明図であり、図6Bは、連結体GR11がマスダンパーの質量として有効に機能しない代わりに粘弾性ダンパー51が層間ダンパーとして有効に機能する場合の説明図である。
図7】建物1の四つの外壁面1ws,1ws…に対して、それぞれ連結体GR11,GR11…を設けた例の概略斜視図である。
図8】外周建物1rの内壁面1rwsに対して制振構造10を設けた例の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
===本実施形態===
図1A乃至図3は、本実施形態に係る構造物1の制振構造10の説明図である。図1Aは、同制振構造10が設けられた構造物1の概略斜視図であり、図1Bは、図1A中のB−B矢視の概略正面図である。また、図2は、制振構造10の一部を拡大して示す概略斜視図であり、図3は、同制振構造10の一部を拡大して示す概略正面図である。
【0025】
図1A及び図1Bに示すように、この例の構造物1は、複数階建ての一例としての10階建てのS造の建物1である。また、図1Aに示すように、建物1の外形形状は、例えば略直方体をなしており、よって、矩形の敷地の四辺には、それぞれ壁部1w,1w…が設けられている。そして、この例では、建物1の四つの壁部1w,1w…の外壁面1ws,1ws…のうちの一つの外壁面1wsに対して、本実施形態に係る制振構造10が設けられている。
【0026】
また、建物1がS造であることから、図2に示すように、建物1の躯体をなす柱2及び梁3のどちらも、鋼材で形成されている。詳しくは、柱2は角形鋼管で形成されており、梁3はH形鋼で形成されている。但し、何等これに限らない。柱2を、角形鋼管以外の鋼材で形成しても良いし、梁3をH形鋼以外の鋼材で形成しても良い。なお、かかる鋼材例としては、丸形鋼管、溝形鋼、山型鋼等を挙げることができる。更に言えば、建物1をRC造やSRC造で構成しても良い。また、図2に示すように、梁3は、各階に対応して設けられており、そして、同梁3は、隣り合う柱2,2同士の間に水平方向に掛け渡されている。
【0027】
なお、以下の説明では、図1Aに示すように、水平方向のうちで上記の制振構造10が設けられた外壁面1wsと平行な方向のことを「横方向」或いは「左右方向」とも言う。また、水平方向のうちで上記外壁面1wsの法線方向のことを「前後方向」とも言う。なお、前後方向は、請求項に係る「側方」に相当する。また、前後方向における前方が、建物の外方(屋外側)を向いており、同じく前後方向における後方が、建物の内方(屋内側)を向いている。更に、前後方向の前方から建物1を見ることが「正面視」である。
【0028】
図1B及び図2に示すように、制振構造10は、2階から屋上階までの各階に対応させてそれぞれ上記外壁面1wsの側方に対向しつつ分散して配された正面視略十字型の複数の質量体11,11…と、各質量体11と建物1との間に介挿された制振部材51としての粘弾性ダンパー51と、を有している。
【0029】
図2に示すように、略十字型の各質量体11は、縦材11faと横材11fbとを略十字に組んだ鋼製のフレーム材11fを本体とする。そして、2階から屋上階までの各質量体11,11…は、鉛直方向に沿って列状に並んでいるとともに、各質量体11は、縦材11faの上端部で上方に位置する質量体11と繋がり、同縦材11faの下端部で下方に位置する質量体11と繋がっていて、これにより、図3に示すように、これら10個の質量体11,11…は一体に繋がっている。なお、以下では、この鉛直方向に列状に並んで繋がった全10個の質量体11,11…のことを「質量体列R11」と言う。
【0030】
図3に示すように、かかる質量体列R11は、建物1の各柱2に対応して設けられている。すなわち、建物1の外壁面1wsの近傍位置には、複数の柱2,2…が横方向に並んで設けられているが、各柱2に対向して質量体列R11が一列ずつ設けられている。そして、各質量体列R11は、横材11fbの左端部及び右端部で、それぞれ横方向に隣り合う質量体列R11,R11と繋がっていて、これにより、外壁面1wsに対向する全ての質量体列R11,R11…が一体に繋がっていて、質量体列R11,R11…の連結体GR11をなしている。
【0031】
また、図2に示すように、各質量体列R11は、それぞれ対向する柱2から突出して設けられた支持部材17によって、水平方向の任意の方向に相対変位可能に支持されている。かかる支持部材17は、例えば滑り支承や転がり支承等を用いて構成可能であり、この例では、滑り支承17が使用されている。すなわち、質量体列R11の最も下方に位置する2階用の質量体11の縦材11faの下面には、例えば平板状の滑り板17s1が設けられているとともに、かかる滑り板17s1に下方から対向するように、柱2から突出する突出部17pの上面にも、滑り板17s2が固定されている。そして、これら滑り板17s1,17s2同士が摺動可能に当接することにより、質量体列R11は、水平方向に相対変位可能に柱2に支持されている。
【0032】
なお、かかる支持部材17の設置対象は、何等上記の柱2に限らない。例えば、梁3を設置対象としても良いし、柱2や梁3以外の建物1の適宜な構造材を設置対象しても良い。また、場合によっては、図4の概略斜視図に示すように、支持部材17を地面GNDに設置しても良い。但し、支持部材17を地面GNDに設けずに建物1に設けた方が、図2に示すように、建物1の周囲の地面GNDを空きスペースとすることができる。そのため、建物1の建築計画の自由度の観点からは、建物1に設けるのが望ましい。
【0033】
図2に示すように、粘弾性ダンパー51は、各質量体11の横材11fbにおける左右の各腕部11fba,11fbaにそれぞれ設けられている。すなわち、各粘弾性ダンパー51は、それぞれ担当する腕部11fbaを、その最寄りの建物1の梁3に連結している。なお、粘弾性ダンパー51は、腕部11fbaに固定される固定板51p1と、梁3に固定される固定板51p2とを有し、そして、これら固定板51p1,51p2同士の間の隙間には粘弾性体51dが充填されている。そして、これにより、建物1と質量体11との間の相対変位に応じて粘弾性体51dが剪断変形して、剪断変形量に応じた粘弾性力を発生し、当該粘弾性力が後述する復元力や減衰力として機能する。ちなみに、上記の単層構造の粘弾性体51dに代えて、複層構造の粘弾性体(不図示)を用いても良い。すなわち、板状の粘弾性体と鋼板とを交互に複数枚積層したものを用いても良い。
【0034】
ここで、図2及び図3に示すように、本実施形態では、鉛直方向に隣り合う質量体11,11同士を、更にブレース材21で連結しており、これにより、質量体列R11の剛性の向上を通して、質量体列R11,R11…の連結体GR11の剛性を高めている。そして、これにより、同連結体GR11を一つの質点として動作させることが可能となって、その結果、連結体GR11が低剛性の場合に起こり得るマスダンパーの質量としての制振効果の低下を有効に防いでいる。
【0035】
図2に示すように、ブレース材21は、水平方向及び鉛直方向から傾いた鋼製の斜材であり、鉛直方向に隣り合う質量体11,11同士を剛接合で連結する。剛接合は、モーメントを伝達する接合方式であり、当該剛接合での連結は、ボルト止め又は溶接で実現される。また、この図2の例では、かかるブレース材21によって、上方に位置する質量体11における横材11fbと縦材11faとの交差部を、下方に位置する質量体11における横材11fbの腕部11fbaの端部に連結しているが、上方に位置する質量体11と下方に位置する質量体11とを連結可能であれば、何等これに限らない。
【0036】
また、この例では、かかるブレース材21の材料として角形鋼管が使用されているが、質量体11,11同士の連結に耐え得る剛性を有していれば、何等これに限らない。例えば、H形鋼や、丸形鋼管、溝形鋼、山型鋼等の鋼材を用いても良いし、アルミニウム等の非鉄金属材料を用いても良い。
【0037】
なお、望ましくは、図3に示すように、かかるブレース材21は、横方向に隣り合う質量体列R11,R11同士も連結していると良い。この例では、互いに横方向に隣り合うブレース材21,21同士が互いに連結されており、この連結を介して、質量体列R11,R11同士は、剛接合で連結されている。そして、このようになっていれば、質量体列R11,R11…の連結体GR11の剛性を更に高めることができる。よって、同連結体GR11が部分的に変形して変形した部分の近傍の質量体11がマスダンパーの質量として寄与し難くなることをより有効に防ぐことができて、その結果、当該連結体GR11がマスダンパーの質量として奏する制振効果の低下を更に有効に防ぐことができる。
【0038】
ちなみに、図3の例では、鉛直方向に隣り合うブレース材21,21同士の傾斜方向を互いに同じ向きに揃えているが、何等これに限らない。例えば、図5に示すように、鉛直方向に隣り合うブレース材21,21同士の傾斜方向を互いに逆向きにしても良い。
【0039】
ところで、このようにブレース材21で補剛された連結体GR11によれば、既述のようにマスダンパーの質量としての制振効果の低下を防ぐだけでなく、マスダンパーの質量としては動作し難い種類の振動に対しても、当該振動を速やかに減衰することができる。すなわち、かかる振動に対しては、粘弾性ダンパー51が所謂層間ダンパーとして動作して、これにより、建物1の振動を有効に減衰することができる。以下、図6A及び図6Bを参照しながら、これについて詳しく説明する。
【0040】
図6Aは、質量体列R11,R11…の連結体GR11がマスダンパーの質量として有効に機能する場合の概略正面図である。すなわち、地震動等で建物1に横方向の水平振動が入力されると、建物1は、横方向の左右に剪断変形を繰り返すが、その剪断変形時の建物1の正面視の形状は、略平行四辺形状となっている。そして、このとき、この水平振動の種類によっては、同図6Aに示すように、連結体GR11が、建物1の上部の水平方向の移動と一緒には移動しないようになる。すると、建物1の上部の位置では、連結体GR11との間に大きな相対変位が生じることになるが、そうすると、主に当該上部に位置する粘弾性ダンパー51が、この相対変位に応じた粘弾性力を発生し、そして、かかる粘弾性力が復元力となって、連結体GR11は建物1の振動を相殺するように振動する。そして、これにより、同連結体GR11はマスダンパーの質量として有効に機能することができる。また、このときには、連結体GR11の剛性は上記のブレース材21によって高められている。そのため、当該連結体GR11は、あたかも一つの質点の如く動作することができて、その結果、マスダンパーの質量として高い制振効果を奏することができる。
【0041】
一方、図6Bには、質量体列R11,R11…の連結体GR11がマスダンパーの質量として有効に機能しない場合を示している。すなわち、この場合には、建物1の剪断変形と一緒に連結体GR11が横方向に移動してしまっていて、建物1の上部と、連結体GR11の上部との相対変位が小さくなっている。そして、相対変位が小さいが故に、かような種類の水平振動の場合には、連結体GR11は、マスダンパーの質量として有効に機能することができない。
但し、この場合には、同図6Bを参照してわかるように、連結体GR11の上部では大きな相対変位が生じない代わりに、連結体GR11の下部では建物1との間に大きな相対変位が生じている。詳しくは、建物1の方は、平行四辺形状に剪断変形するが、ブレース材21により補剛された連結体GR11の方は、概ね変形せずに、正面視で略矩形形状を保っており、それ故に、連結体GR11の下部では建物1との間に大きな相対変位が生じている。そして、かかる下部での大きな相対変位は、主に下部に設けられた粘弾性ダンパー51に速やかに入力されて、同ダンパー51は当該相対変位に応じた粘弾性力を発生し、この粘弾性力を減衰力として用いて、建物1の水平振動を速やかに減衰する。すなわち、連結体GR11がマスダンパーの質量として有効に機能しない場合には、それに代えて、粘弾性ダンパー51が層間ダンパーとして有効に動作して、建物1の水平振動を効果的に減衰することができる。
【0042】
なお、各質量体11は、外装材(不図示)を有していても良い。外装材としては、窓ガラス等を例示できる。そして、窓ガラス(板状部材に相当)の場合には、例えば前述の略十字に組んだフレーム材11fが区画する領域を覆うように、フレーム材11fに取り付けられる。また、フレーム材11fは、窓ガラスよりも高剛性である。よって、フレーム材11fは、窓ガラスが変形しないようにしっかりと拘束しながら当該窓ガラスを支持することができて、これにより、窓ガラスもマスダンパーの質量として有効に寄与することができる。ちなみに、かかる窓ガラスのガラスに、強化ガラスを用いた場合には、当該窓ガラスは、連結体GR11の剛性を高める面材としても機能することができる。
【0043】
また、上記のブレース材21に代えて或いはそれに追加して面材(不図示)を設けても良い。すなわち、鉛直方向に隣り合って繋がる質量体11,11同士を当該面材によって更に連結して、これにより、連結体GR11の剛性を高めても良い。ちなみに、面材というのは、面を作るために使用される構造材のことであり、例えば、鋼板やプレキャストパネルなどの剛性を有した板材等が挙げられる。
【0044】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0045】
上述の実施形態では、制振部材51として粘弾性ダンパー51を使用し、これにより、制振部材51を一部材で構成していたが、何等これに限らない。例えば、減衰力を発生するオイルダンパーと、弾性の復元力を発生するバネやゴム等の弾性部材とを組み合わせて制振部材51として使用しても良い。但し、制振部材51として粘弾性ダンパー51を用いた方が、制振部材51の設置用スペースを縮小することができるので、望ましい。ちなみに、上記のオイルダンパーに代えて、鋼材ダンパーを用いても良い。
【0046】
上述の実施形態では、質量体列R11を支持する支持部材17を、建物1の約2階の高さに配置していた。すなわち、質量体列R11に属する質量体11,11…のうちで最も下方に位置する質量体11よりも下方に当該支持部材17を配置していたが、何等これに限らない。例えば、最も下方に位置する質量体11よりも上方に当該支持部材17を配置しても良く、更に言えば、質量体列R11に属する質量体11,11…のうちで最も上方に位置する質量体11よりも上方に支持部材17を配置しても良い。なお、その場合には、支持部材17によって質量体列R11は吊り下げられた状態となる。
【0047】
上述の実施形態では、質量体11として正面視略十字型のフレーム材11fを本体とするものを例示したが、何等これに限らない。例えば、板状部材を本体とするものであっても良いし、これ以外の形状の部材を本体するものでも良い。そして、その場合も、質量体列R11、及び質量体列R11,R11…の連結体GR11の概念は、上述したものと変わらない。例えば、板状部材を質量体11の本体とする場合には、鉛直方向に沿った列状に複数の板状部材が繋がって質量体列R11が形成されるとともに、かかる質量体列R11が横方向に複数列繋がることにより、質量体列R11の連結体GR11が形成される。
【0048】
上述の実施形態では、図1Aに示すように、建物1の四つの外壁面1ws,1ws…のうちの一つの外壁面1wsに対向して、質量体列R11,R11…の連結体GR11を設けていたが、何等これに限らない。例えば、図7の概略斜視図に示すように、四つの外壁面1ws,1ws…のうちの複数の外壁面1ws,1ws…に、それぞれ質量体列R11の連結体GR11を設けても良い。そして、その場合には、これら複数の連結体GR11,GR11…は、適宜な不図示の連結部材で互いに連結されているのが好ましく、このようにしていれば、これら複数の連結体GR11,GR11…は、一つの質点として動作することができて、その結果、マスダンパーの質量として動作する際に、より大きな制振効果を奏することができる。
【0049】
上述の実施形態では、図1Aに示すように、建物1の外壁面1wsに対向して質量体列R11,R11…の連結体GR11を設けていたが、何等これに限らない。例えば、図8の概略平面図に示すように、建物1が、センターコア1cと、センターコア1cを側方から囲むように平面視ロ字状の外周建物1rと、を有している場合には、外周建物1rの内周側に位置する四つの内壁面1rws,1rws…のうちの少なくとも一つの内壁面1rwsに対向して、上記の質量体列R11,R11…の連結体GR11を設けても良い。なお、図8の例では、四つの各内壁面1rws,1rws…に対して、それぞれ連結体GR11,GR11…を設けている。
【符号の説明】
【0050】
1 建物(構造物)、
1w 壁部、1ws 外壁面(壁面)、
1c センターコア、1r 外周建物、1rws 内壁面(壁面)、
2 柱、3 梁、
10 制振構造、
11 質量体、
11f フレーム材、11fa 縦材、11fb 横材、11fba 腕部、
17 支持部材、17p 突出部、17s1 滑り板、17s2 滑り板、
21 ブレース材、
51 粘弾性ダンパー(制振部材)、
51d 粘弾性体、51p1 固定板、51p2 固定板、
R11 質量体列、GR11 質量体列の連結体、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8