(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の有機EL素子および水分捕獲フィルムについて説明する。
〔有機EL素子〕
本発明の有機EL素子は、基板と、前記基板上に形成された有機EL層と、前記有機EL層を封止するために用いられる封止部材とを有する有機EL素子であり、前記有機EL素子の封止空間内に、後述する水分捕獲フィルム形成用組成物を用いて形成された水分捕獲フィルムを有する。
【0021】
〈基板〉
有機EL素子の基板(素子用基板)としては、優れた可視光透過率を有しかつ酸素透過率および水分透過率の低い基板が用いられ、例えば、ガラス基板および透明樹脂基板が挙げられる。基板の構成材料としては、例えば、無アルカリガラス等のガラス;ポリエステル(例:ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、フルオレン環変性ポリエステル、ポリオレフィン(例:ポリエチレン、ポリプロピレン)、脂環式ポリオレフィン、ポリスチレン、トリアセチルセルロース、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン、(メタ)アクリロイル化合物等の透明樹脂が挙げられる。なお、基板は、前記例示に限定されるものではない。
【0022】
〈有機EL層〉
有機EL素子の有機EL層は、その構造の詳細を省略するが、有機材料からなる有機発光層が、互いに対向する一対の電極の間に挟持されてなる構造、具体的には互いに対向する陽極と陰極との間に挟持されてなる構造(陽極/有機発光層/陰極からなる積層構造)を基本構造とし、後述するように多様な構造をとりうる。
【0023】
有機発光層は、有機材料である発光材料、すなわち、有機発光材料を含有する。有機発光層に含まれる有機発光材料は低分子有機発光材料であっても、高分子有機発光材料であってもよい。例えば、Alq
3(トリス(8−キノリノラト)アルミニウム)、BeBq
3(ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリネート)ベリリウム)等の基材母体にキナクリドンやクマリンをドープした材料を用いることができる。また、インクジェット法による有機発光材料の塗布法を用いる場合には、それに好適な高分子有機発光材料であることが好ましい。高分子有機発光材料としては、例えば、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリアセチレン(Poly acetylene)およびその誘導体、ポリフェニレン(Poly phenylene)およびその誘導体、ポリパラフェニレンエチレン(Poly para phenylene ethylene)およびその誘導体、ポリ3−ヘキシルチオフェン(Poly 3−hexyl thiophene(P3HT))およびその誘導体、ポリフルオレン(Poly fluorene(PF))およびその誘導体等を選択して用いることができる。
【0024】
有機EL層の陽極および陰極は、それぞれ導電性の材料からなる。
有機EL層の陽極の材料としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)、酸化スズ等が選択される。
【0025】
なお、有機EL層においては、陽極と有機発光層との間に、正孔注入層および/または中間層が配置されていてもよい。陽極と有機発光層との間に、正孔注入層および中間層が配置される場合、陽極上に正孔注入層が配置され、正孔注入層上に中間層が配置され、そして中間層上に有機発光層が配置される。また、陽極から有機発光層へ効率的に正孔を輸送できる限り、正孔注入層および中間層は省略されてもよい。
【0026】
有機EL層の陰極の材料としては、例えば、ITO、IZOおよび酸化スズ等を選択することができる。また、例えば、バリウム(Ba)、酸化バリウム(BaO)、アルミニウム(Al)およびAlを含む合金等を選択することも可能である。
なお、有機EL層においては、陰極と有機発光層との間に、例えば、バリウム(Ba)、フッ化リチウム(LiF)等からなる電子注入層が配置されていてもよい。
【0027】
〈封止部材〉
封止部材としては、酸素透過率および水分透過率の低い部材が用いられ、例えば、ガラスや樹脂等からなる部材が挙げられる。封止部材の構成材料としては、基板と同様に、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド等の樹脂が挙げられ、その他〈基板〉の欄にて例示した樹脂が挙げられる。また、封止部材には、無機材料からなるもの、例えば、無アルカリガラス基板等のガラス基板のように無機材料から形成された基板、無機材料と樹脂とを混練して得られた材料から形成された基板、ガラス基板または樹脂基板上に無機材料が蒸着または塗布された基板を用いることも可能である。
【0028】
封止部材は、例えばシール材によって基板に固定される。有機EL素子のシール材としては、接着性の樹脂材料が用いられ、熱硬化性または光硬化性の樹脂材料を構成部材として選択することができる。熱硬化性の樹脂材料としては、例えば、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、アリルエステル、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド、ウレタン樹脂が挙げられる。光硬化性の樹脂材料としては、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド、ウレタン樹脂が挙げられる。
【0029】
シール材を用いて基板および封止部材を固定する態様は、特に限定されない。例えば、基板において有機EL層の周辺部上にシール材を形成して封止部材を基板に固定してもよく、この場合、有機EL素子は中空構造を有する。また、さらに有機EL素子内の隙間空間(中空構造)をシール材により埋めてもよい。
【0030】
例えば、基板と、シール材と、シール材により基板に固定された封止部材とを有する構造体により、基板上に形成された有機EL層が構造体により形成される封止空間内に収納されて、有機EL層と外気との接触を遮断することができる。
【0031】
〈水分捕獲フィルム〉
本発明の水分捕獲フィルムは、後述する水分捕獲フィルム形成用組成物から形成される。前記水分捕獲フィルムは、有機EL素子内の水分を効率良く除去し、有機発光層への水分の影響を効率良く排除することができる。また、前記水分捕獲フィルムは、水分を捕獲した状態であっても、低分子アルコール等のような揮発性の高い分解生成物を生じ難く、有機EL素子に用いられた場合、有機EL層への上記分解生成物の付着によるダークスポットの発生を抑制することができる。
【0032】
有機EL素子の封止空間内において、水分捕獲フィルムの配置箇所は特に限定されない。水分捕獲フィルムは、例えば、有機EL層上に、有機EL層と面接触し(例えば、有機EL層の封止部材側の面を覆うようにして)、封止部材と離間するように配置されていてもよく;シール材の側面と面接触するように(例えば、シール材の封止空間側の面を覆うように)、形成されていてもよい。
【0033】
水分捕獲フィルムは、支持材により支持または挟持されていてもよい。
水分捕獲フィルムを支持する支持材および挟持する一対の支持材としては、透明樹脂基板等を用いることができる。支持材の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、トリアセチレンセルロース等の透明樹脂が挙げられ、その他〈基板〉の欄にて例示した樹脂が挙げられる。
【0034】
水分捕獲フィルム、および支持材で支持または挟持された水分捕獲フィルムは、例えば、公知の粘着剤を利用して、有機EL層上その他の封止空間内に配置することができる。前記粘着剤としては、例えば、熱や溶剤の助けを必要とせず、指による押圧等のごく低い圧力で他の被着体に被着できる材料が挙げられる。例えば、粘着剤としては、ゴム系、アクリル系、シリコーン系等の材料を用いることができる。
【0035】
また、水分捕獲フィルム、および支持材で支持または挟持された水分捕獲フィルムを、より強固に有機EL層上に固定する場合、粘着剤としては、硬化型の粘着剤を使用することができる。好ましい硬化型の粘着剤としては、例えば、ウレタン系粘着剤、エポキシ系粘着剤、水性高分子−イソシアネート系粘着剤、熱硬化型アクリル粘着剤が挙げられる。
【0036】
なお、水分捕獲フィルム形成用組成物は接着性にも優れるため、有機EL層上に水分捕獲フィルム形成用組成物を塗布して水分捕獲フィルムを形成する場合は、粘着剤を用いなくてもよい。
【0037】
水分捕獲フィルムまたは支持材により支持もしくは挟持された水分捕獲フィルムにおいて、水分捕獲フィルムまたは支持材は、有機EL層と直接面接触するよう配置されてよく、上記粘着剤を介して有機EL層上に配置されてもよい。例えば、一対の支持材により挟持された水分捕獲フィルムの場合、前記支持材の一方が有機EL層と直接面接触する構造でもよく、上記粘着剤を介して前記支持材の一方が有機EL層の面上に配置される構造でもよい。
【0038】
水分捕獲フィルムまたは支持材により支持もしくは挟持された水分捕獲フィルムを、粘着剤を用いて有機EL層上等に配置することにより、水分捕獲フィルムの有機EL層等からの剥離を抑えて、水分捕獲フィルムの信頼性を向上させることができる。
【0039】
以上の構造を有する本発明の有機EL素子は、本発明の水分捕獲フィルムを有することで、有機EL層が収納された封止空間内の水分を除去することができる。そして、本発明の水分捕獲フィルムは、長期間に亘って水分を吸収することができ、水分に起因する有機EL素子の劣化を抑制することができる。すなわち、本発明の水分捕獲フィルムは、有機EL素子の有機発光層への水分の影響を効率良く排除できる。したがって、有機EL素子は、例えば、高い信頼性を有する有機EL照明装置や有機EL表示素子等を構成することができる。
【0040】
水分捕獲フィルムの形成方法としては、例えば、基板上に形成された有機EL層上に、後述する水分捕獲フィルム形成用組成物を用いて塗膜を形成する工程1、前記塗膜を、放射線照射し、加熱し、または放射線照射および加熱をする工程2により形成する方法が挙げられる。
【0041】
また、予め形成された水分捕獲フィルムを用いて有機EL素子を作成してもよい。支持材により支持された水分捕獲フィルムを形成する場合は、例えば、支持材上に水分捕獲フィルム形成用組成物を用いて塗膜を形成する工程1'、前記塗膜を、放射線照射し、加熱し、または放射線照射および加熱をする工程2'により形成する方法が挙げられる。一対の支持材により挟持された水分捕獲フィルムを形成する場合は、例えば、工程1'の後、工程2'の前にもう一方の支持材を前記塗膜上に貼り合わせる。このようにして得られた水分捕獲フィルムを、必要に応じて粘着剤を用いて、例えば有機EL層上に配置する。
【0042】
水分捕獲フィルム形成用組成物は、例えば、スピンコーター、ロールコーター、スプレーコーター、バーコーター、ディスペンサー、インクジェット装置により、塗布対象である有機EL層上や支持材上に塗布することができる。
【0043】
工程2,2'における放射線としては、上記組成物において後述する加水分解反応を進行させることができ、好ましくは前記塗膜を硬化できれば特に限定されないが、可視光線、紫外線、遠紫外線、X線および荷電粒子線が挙げられ、紫外線が好ましい。工程2,2'において加熱を行う場合は、加熱温度としては、30〜200℃が好ましく、50〜150℃がより好ましく;加熱時間としては、1分間〜24時間が好ましく、10分間〜5時間がより好ましい。
【0044】
工程2,2'における上記組成物の放射線照射は、公知の方法および条件を採用することができるが、例えば、高圧水銀ランプを用い、紫外線照射(例:500〜15000mJ/cm
2)によって行うことができる。
【0045】
水分捕獲フィルムの膜厚は、特に限定されないが、例えば1〜500μm、好ましくは5〜200μm、より好ましくは5〜100μmである。フィルムの膜厚は、例えば、デプスゲージ547−251((株)ミツトヨ製)で測定することができる。
【0046】
水分捕獲フィルムは、湿熱環境下においても可視光透過率に優れる。このため、有機EL素子の封止空間内に配置されても、有機EL素子の発光特性を阻害するおそれもない。
本発明の水分捕獲フィルムは、後述する水分捕獲フィルム形成用組成物から形成されるため、この水分捕獲フィルムを有機EL素子の封止空間内に配置することで、有機EL層が封止される封止空間内の水分の除去を効率良く行うことができる。
【0047】
《有機EL素子の具体例》
本発明の有機EL素子の実施形態の数例を、図面を参照して説明する。
図1に示す有機EL素子100は、基板10と、シール材20と、シール材20により基板10に固定された封止部材30とを有し、基板10、シール材20および封止部材30により形成された封止空間内に、基板10上に形成された有機EL層40と、有機EL層40上に形成された水分捕獲フィルム50とを有し、前記封止空間内に、水分捕獲フィルム50と封止部材30との間等の隙間が形成されている。すなわち、有機EL素子100は、前記封止空間内に、有機EL層40と面接触し(有機EL層40の封止部材30側の面を覆うように)かつ封止部材30と離間するように有機EL層40上に配置された、水分捕獲フィルム50を有する。
【0048】
また、上記封止空間内の上述の隙間を、シール材を用いて埋めて、封止空間内に隙間を形成しないようにすることも可能である。
図2に示す有機EL素子200は、
図1に示した有機EL素子100のシール材20に対応するシール材201が、基板10と封止部材30との間の全域に設けられている。シール材201は、基板10と封止部材30とを固定するとともに、基板10と封止部材30との間に形成された封止空間を隙間なく埋めている。このような構造とすることで、シール材201は、基板10上に形成された有機EL層40と水分捕獲フィルム50とを保護することができる。その結果、有機EL素子200の信頼性能を向上させることができる。
【0049】
図1および
図2に示した有機EL素子100,200では、水分捕獲フィルム50が有機EL層40上に直接接触して設けられているが、本発明ではそのような構造に限られるわけではなく、粘着剤を介して設けられていてもよい。また、例えば、水分捕獲フィルムを適当な支持材で支持または挟持し、その支持材とともに、水分捕獲フィルムを有機EL層上に配置することも可能である。
図3および
図4は、
図1および
図2において、各々水分捕獲フィルムの配置をこのような形態に変更した有機EL素子300,400である。
【0050】
図3および4に示す有機EL素子300,400では、一対の支持材502,503により挟持された水分捕獲フィルム501が、図示せぬ粘着剤を介して有機EL層40上に配置されている。すなわち、支持材503と有機EL層40とが粘着剤により張り合わされている。
図3および4に示す有機EL素子300,400では、有機EL層40と封止部材30との間の封止空間内であって、有機EL層40上に、有機EL層40と面接触しかつ封止部材30と離間するように、一対の支持材502,503により挟持された水分捕獲フィルム501が配置されている。
【0051】
また、
図4に示す有機EL素子400では、
図3に示した有機EL素子300のシール材20に対応するシール材201が、基板10と封止部材30との間の全域に設けられている。シール材201は、基板10と封止部材30とを固定するとともに、基板10と封止部材30との間に形成された封止空間を隙間なく埋めている。
【0052】
図5に示す有機EL素子101は、基板10と、シール材20と、シール材20により基板10に固定された封止部材30とを有し、基板10、シール材20および封止部材30により形成された封止空間内に、基板10上に形成された有機EL層40と、シール材20の側面と面接触するように形成された水分捕獲フィルム510とを有する。ここでシール材20は、基板10において有機EL層40の周辺部上に形成されてなる。
【0053】
〔水分捕獲フィルム形成用組成物〕
本発明で用いられる水分捕獲フィルム形成用組成物は、加水分解しうる構造を有する化合物(A)と、酸発生剤および塩基発生剤から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)とを含有する。また、前記組成物は、重合性化合物(C)を更に含有することが好ましい。
【0054】
以下の説明において、化合物(A)および化合物(B)を、それぞれ水分捕獲剤(A)および酸・塩基発生剤(B)ともいい、また水分捕獲剤(A)、酸・塩基発生剤(B)および重合性化合物(C)を、それぞれ成分(A)、成分(B)および成分(C)ともいう。特に言及しない限り、その他の例においても同様である。
【0055】
[水分捕獲剤(A)]
水分捕獲剤(A)は、例えば酸または塩基の存在下で加水分解しうる構造を有する化合物である。水分捕獲剤(A)としては、例えば、式(A1−1)で表される構造部位を有する化合物および式(A1−2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(A1)、カルボン酸無水物(A2)、ならびに式(A3−1)で表される化合物および式(A3−2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(A3)が挙げられる。これらの化合物(A1)〜(A3)は各々1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。以下の説明において、化合物(A1)〜(A3)を、それぞれ水分捕獲剤(A1)〜(A3)ともいう。
【0056】
〈水分捕獲剤(A1)〉
水分捕獲剤(A1)は、式(A1−1)で表される構造部位を有する化合物、および式(A1−2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である。水分捕獲剤(A1)は、中性および塩基性条件下においては水との反応性が低く安定であるが、酸の存在下では加水分解反応を容易に起こす。
【0057】
【化3】
式(A1−1)中、R
1〜R
5は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜18の有機基であり;R
6およびR
7は、それぞれ独立に水素原子、水酸基または炭素数1〜18の有機基であり;R
3、R
4およびR
7から選択される2以上の基は、相互に結合して、これらが直接結合する炭素原子と一緒になって環状構造を形成していてもよく;nは0または1〜18の整数であり;*は結合位を示す。式(A1−2)中、R
1は水素原子または炭素数1〜18の有機基であり;R
8はそれぞれ独立に炭素数3〜10の有機基である。
【0058】
なお、水分捕獲剤(A1)に係る各式の説明において、特に言及しない限り、
「炭素数1〜18の有機基」としては、例えば、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、デシル、ドデシル、オクタデシル等の直鎖状または分岐鎖状の炭素数1〜18のアルキル基、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基;シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル等の炭素数3〜12のシクロアルキル基;シクロヘキシルメチル、シクロヘキシルエチル等の炭素数4〜18のシクロアルキル基置換アルキル基;フェニル基;フェニル置換されたアルキル基(例:ベンジル基、フェネチル基)等の炭素数7〜18のアラルキル基;これらの基の一部が酸素原子で置換されてなる基(以下「酸素原子置換基」ともいう);ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基、グリシジル基;カルボキシル基が挙げられ、また、下記式g1〜g7で表される基を挙げることもでき;
「炭素数3〜10の有機基」としては、例えば、"ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基およびグリシジル基"から選ばれる少なくとも1種の基を有する炭素数3〜10の有機基が挙げられ、また、下記式g1〜g7で表される基を挙げることもできる。
【0059】
【化4】
上記式g1〜g7中、*は結合位を示す。
【0060】
酸素原子置換基としては、例えば、メトキシメチル、エトキシメチル、プロポキシメチル、ブトキシメチル等のアルコキシアルキル基;アセトキシメチル、アセトキシエチル等のアルカノイルオキシアルキル基;フェノキシメチル、フェノキシエチル等のアリールオキシアルキル基;メトキシ等のアルコキシ基;フェノキシ等のアリールオキシ基;ヒドロキシメチル等のヒドロキシアルキル基が挙げられる。
【0061】
式(A1−1)中、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6およびR
7で表される基の炭素数の合計(nが0である場合、R
2〜R
5で表される基の炭素数の合計)は、吸水能力と溶解性の観点から、好ましくは0〜18、より好ましくは0〜12である。
【0062】
また、R
3、R
4およびR
7(n=0の場合は、R
3およびR
4)から選択される2以上の基は、相互に結合して、これらが直接結合する炭素原子と一緒になって環状構造を形成していてもよい。環状構造としては、例えば、シクロヘキサン環、シクロペンタン環が挙げられる。
【0063】
式(A1−1)中、R
1は、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
式(A1−1)中、R
2〜R
5は、それぞれ独立に水素原子、上述した、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数4〜18のシクロアルキル基置換アルキル基、フェニル基、炭素数7〜18のアラルキル基、酸素原子置換基であることが好ましく、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であることがより好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0064】
式(A1−1)中、R
6〜R
7は、それぞれ独立に水素原子、水酸基、上述した、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数4〜18のシクロアルキル基置換アルキル基、フェニル基、炭素数7〜18のアラルキル基、酸素原子置換基、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基、グリシジル基、カルボキシル基、上記式g1〜g7で表される基であることが好ましく、水素原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基または上記式g1〜g2で表される基であることがより好ましい。
【0065】
R
1〜R
7は、水分捕獲剤としての吸水能力および他の成分との相溶性の観点から、上記原子または基が好ましい。
式(A1−1)中、nは0または1〜18の整数であり、好ましくは0または1であり、より好ましくは1である。nが2以上の整数である場合、R
6およびR
7はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
式(A1−2)中、R
1は水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましく、R
8はそれぞれ独立に上記式g1〜g7で表される基であることが好ましい。
【0066】
《式(A1−1)で表される構造部位を有する化合物》
式(A1−1)で表される構造部位を有する化合物としては、例えば、下記式で表される化合物が挙げられる。この化合物の具体例としては、後述する式(A1−i)、式(A1−ii)、式(A1−iii)で表される化合物が挙げられる。
【0067】
【化5】
式中、Aは、式(A1−1)で表される構造部位であり;Yは、1分子中にp個(p≧2)の水酸基を有する、後述する水酸基含有化合物(a3)から、m個(2≦m≦p)の水酸基を除いた残基であり;mは2〜pの整数である。
【0068】
式(A1−1)で表される構造部位を有する化合物としては、例えば、以下に説明するオルトエステル(a1)と多価アルコール(a2)と水酸基含有化合物(a3)とを反応させて得られる化合物が挙げられる。
【0069】
オルトエステル(a1)
オルトエステル(a1)は、式(a1)で表される化合物である。
【0070】
【化6】
式(a1)中、R
1は水素原子または炭素数1〜18の有機基であり;3個のRaはそれぞれ独立に炭素数1〜18の有機基である。前記有機基としては、上述した、直鎖状または分岐鎖状の炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数4〜18のシクロアルキル基置換アルキル基が好ましく、直鎖状または分岐鎖状の炭素数1〜6のアルキル基がより好ましい。
【0071】
オルトエステル(a1)としては、例えば、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルトギ酸プロピル、オルトギ酸ブチル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル、オルトプロピオン酸メチル、オルトプロピオン酸エチル、オルト酪酸メチル、オルト酪酸エチルが挙げられる。これらの中でも、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチルが好ましい。
オルトエステル(a1)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
多価アルコール(a2)
多価アルコール(a2)としては、例えば、1分子中に水酸基を2個以上有する化合物が挙げられ、式(a2−1)で表される化合物が好ましい。具体的には、1分子中に水酸基を2個有するα−グリコール、α−グリコール以外の1分子中に水酸基を2個以上有する化合物が挙げられる。
【0073】
【化7】
式(a2−1)中、R
2〜R
5は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜18の有機基である。R
6およびR
7は、それぞれ独立に水素原子、水酸基または炭素数1〜18の有機基である。R
3、R
4およびR
7から選択される2以上の基は、相互に結合して、これらが直接結合する炭素原子と一緒になって環状構造を形成していてもよい。式(a2−1)中のR
2〜R
7は、式(A1−1)中の同一記号と同義であり、好適例も式(A1−1)での説明と同様である。
【0074】
式(a2−1)中、nは0または1〜18の整数であり、好ましくは0または1であり、より好ましくは1である。nが2以上の整数である場合、R
6およびR
7はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0075】
nが0であるα−グリコールが好ましい。α−グリコールは、隣接した2つの水酸基を有する。したがって、オルトエステルとα−グリコールとの反応が効率良く進行して、水分捕獲剤の製造に好適となる。
【0076】
α−グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,2−ジヒドロキシシクロヘキサン、ピナコール、長鎖アルキルモノエポキシドの加水分解物;グリセリンモノアセテート(α体)、グリセリンモノステアレート(α体)等の脂肪酸モノグリセリド(α体);3−エトキシプロパン−1,2−ジオール、3−フェノキシプロパン−1,2−ジオールが挙げられる。これらの中でも、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,2−ヘキサンジオールが好ましい。
【0077】
nが1である化合物が特に好ましい。前記化合物は、上述したα−グリコールと同様に近接した2つまたは3つ以上の水酸基を有する。したがって、オルトエステルと前記化合物との反応が効率良く進行して、水分捕獲剤の製造に好適となる。
【0078】
nが1である化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、(2−アリルオキシメチル)−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2−(ヒドロキシメチル)−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、グリセリン、2−フェノキシプロパン−1,3−ジオール、2−メチル−2−フェニルプロパン−1,3−ジオール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、2−エチル−1,3−オクタンジオール、1,3−ジヒドロキシシクロヘキサン;グリセリンモノアセテート(β体)、グリセリンモノステアレート(β体)等の脂肪酸モノグリセリド(β体)が挙げられる。これらの中でも、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、(2−アリルオキシメチル)−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2−(ヒドロキシメチル)−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、グリセリンが特に好ましい。
【0079】
水酸基含有化合物(a3)
水酸基含有化合物(a3)は、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物である。
水酸基含有化合物(a3)が1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物である場合、例えば、式(a2−1)で表される化合物等のように、多価アルコール(a2)の中から水酸基含有化合物(a3)を選択して使用することもできる。その場合、水酸基含有化合物(a3)として選択される化合物は、多価アルコール(a2)として選択された化合物以外の化合物が選択されることが好ましい。
【0080】
水酸基含有化合物(a3)としては、例えば、1分子中に2個の水酸基を有する化合物、および1分子中に3個以上、好ましくは3個〜40個の水酸基を有する化合物が挙げられる。
【0081】
2個の水酸基を有する化合物としては、例えば、1,4−ブタンジオール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,4−ジメチロールシクロヘキサン、トリシクロデカンジメタノール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオネート[このものはヒドロキシピバリン酸とネオペンチルグリコールとのエステルに相当する]、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビス(4−ヒドロキシヘキシル)−2,2−プロパン、ビス(4−ヒドロキシヘキシル)メタン、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラ以上のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラ以上のポリプロピレングリコール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとを共重合してなる両末端に水酸基を有する共重合体、ポリカプロラクトンジオール等の両末端に水酸基を有する直鎖状ポリエステル、ポリカーボネートジオール、ジエポオキシドのカルボン酸付加物が挙げられる。
【0082】
3個以上の水酸基を有する化合物としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニット、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、グルコン酸、3個以上の水酸基を含有するポリマー(3個以上の水酸基を含有するポリエステル、ポリエーテル、アクリルポリマー、ケトン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニルのケン化物であるポリビニルアルコール、グルコース等の天然糖類等)が挙げられる。
【0083】
水酸基含有化合物(a3)としては、分子量が90〜100000、特に90〜5000の範囲内にある化合物が好ましい。また、水酸基含有化合物(a3)としては、水酸基価が20〜1850mgKOH/g、特に40〜1650mgKOH/gの範囲内にある化合物が好ましい。
【0084】
反応比率
オルトエステル(a1)と多価アルコール(a2)と水酸基含有化合物(a3)とを反応させて、水分捕獲剤(A1)を製造する場合において、オルトエステル(a1)と多価アルコール(a2)と水酸基含有化合物(a3)との配合比率は、特に限定されるものではない。
【0085】
例えば、水酸基含有化合物(a3)中の水酸基1モル当量に対して、オルトエステル(a1)の量が0.01〜10モル、好ましくは0.05〜5モル、より好ましくは0.1〜2モルの範囲内にあり、かつ、多価アルコール(a2)の量が0.01〜10モル、好ましくは0.05〜5モル、より好ましくは0.1〜2モルの範囲内にある割合で用いることが、分子量制御のし易さなどの面から適当である。なお、多価アルコール(a2)の中から水酸基含有化合物(a3)を選択する場合、水酸基含有化合物(a3)として選択される化合物は、多価アルコール(a2)として選択された化合物以外の化合物が選択される。
【0086】
水分捕獲剤(A1)は、オルトエステル(a1)、多価アルコール(a2)および水酸基含有化合物(a3)の3成分を縮合反応させることによって得ることができる。例えば、上述の3成分を、必要に応じて有機溶剤およびギ酸等の酸触媒の存在下で、通常は室温〜250℃、好ましくは70〜200℃の範囲内の温度で、1時間〜20時間程度、加熱して縮合反応させることによって好適に製造することができる。また、以上の方法で得られた化合物が有する基を、公知の方法により他の基に変換してもよい。合成方法については、例えば、国際公開第01/021611号パンフレットを参考にすることができる。
【0087】
このようにして、水酸基含有化合物(a3)中の水酸基が、オルトエステル(a1)と多価アルコール(a2)とから形成される5員環や6員環等によってブロックされた構造の水分捕獲剤(A1)を得ることができる。
【0088】
式(A1−1)で表される構造部位を有する化合物の具体例
式(A1−1)で表される構造部位を有する化合物の具体例としては、例えば、式(A1−i)、式(A1−ii)、式(A1−iii)で表される化合物が挙げられる。
【0089】
【化8】
式(A1−i)中、Y
1は、1分子中にp個(p=2〜6)の水酸基を有する化合物からm個(2≦m≦p)の水酸基を除いたm価の残基である。R
1〜R
7およびnは、式(A1−1)中のR
1〜R
7およびnと同義である。上記化合物は、例えば、式(a1)のオルトエステル、式(a2−1)の多価アルコール、および1分子中に2個〜6個の水酸基を有する化合物を原料として用いることで、合成することができる。
【0090】
【化9】
式(A1−ii)中、Y
2は、1分子中に2個の水酸基を有する化合物からその2個の水酸基を除いた2価の残基である。R
1〜R
7およびnは、式(A1−1)中のR
1〜R
7およびnと同義である。上記化合物は、例えば、式(a1)のオルトエステル、式(a2−1)の多価アルコール、および1分子中に2個の水酸基を有する化合物を原料として用いることで、合成することができる。
【0091】
【化10】
式(A1−iii)中、Y
3は、1分子中に4個の水酸基を有する化合物からその4個の水酸基を除いた4価の残基である。R
1〜R
7およびnは、式(A1−1)中のR
1〜R
7およびnと同義である。上記化合物は、例えば、式(a1)のオルトエステル、式(a2−1)の多価アルコール、および1分子中に4個の水酸基を有する化合物を原料として用いることで、合成することができる。
【0092】
式(A1−2)で表される化合物の具体例
式(A1−2)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記式で表される化合物が挙げられる。
【0094】
〈水分捕獲剤(A2)〉
水分捕獲剤(A2)は、カルボン酸無水物であり、例えば、モノカルボン酸の無水物、ジカルボン酸無水物およびテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。水分捕獲剤(A2)は、中性条件下においては水との反応性が低く安定であるが、酸または塩基の存在下では加水分解反応を容易に起こす。
【0095】
《モノカルボン酸の無水物》
モノカルボン酸の無水物としては、トリフルオロ酢酸無水物、安息香酸無水物、イサトイン酸無水物、イソペンタン酸無水物、イソ酪酸無水物、n−吉草酸無水物、クロトン酸無水物などが挙げられる。モノカルボン酸の無水物の炭素数は、加水分解により生成しうるカルボン酸の揮発性の観点から、好ましくは4〜20、より好ましくは4〜14である。
モノカルボン酸の無水物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0096】
《ジカルボン酸無水物》
ジカルボン酸無水物としては、式(A2−1)で表される化合物が挙げられる。
【0097】
【化12】
式(A2−1)中、Raは、2価の有機基、例えば脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、および"芳香族基が直接または架橋員(例:−O−、−CO−、−S−、−SO
2−、アルキレン基、−C(CF
3)
2−)により相互に連結された非縮合多環式芳香族基"から選ばれる2価の基である。Raの炭素数は、通常1〜30であるが、加水分解により生成しうるジカルボン酸の揮発性の観点から、好ましくは4〜30、より好ましくは6〜18である。
【0098】
ジカルボン酸無水物としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸無水物、脂環式ジカルボン酸無水物、芳香族ジカルボン酸無水物が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸無水物としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族飽和ジカルボン酸の無水物;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸の無水物が挙げられる。
【0099】
脂環式ジカルボン酸無水物としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、4−メチルシクロヘキサンジカルボン酸無水物等の脂環式ジカルボン酸の無水物が挙げられる。
【0100】
芳香族ジカルボン酸無水物とは、少なくとも2つのカルボキシル基が、芳香族環に結合した有機化合物のジカルボン酸無水物のことを言う。芳香族ジカルボン酸無水物としては、例えば、フタル酸、2,3−ベンゾフェノンジカルボン酸、3,4−ベンゾフェノンジカルボン酸、2,3−ジカルボキシフェニルフェニルエーテル、3,4−ジカルボキシフェニルフェニルエーテル、2,3−ビフェニルジカルボン酸、3,4−ビフェニルジカルボン酸、2,3−ジカルボキシフェニルフェニルスルホン、3,4−ジカルボキシフェニルフェニルスルホン、2,3−ジカルボキシフェニルフェニルスルフィド、3,4−ジカルボキシフェニルフェニルスルフィド、1,2−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、1,2−アントラセンジカルボン酸、2,3−アントラセンジカルボン酸、1,9−アントラセンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸の無水物が挙げられる。
ジカルボン酸無水物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0101】
《テトラカルボン酸二無水物》
テトラカルボン酸二無水物としては、式(A2−2)で表される化合物が挙げられる。
【0102】
【化13】
式(A2−2)中、Rbは、4価の有機基、例えば脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、および"芳香族基が直接または架橋員(例:−O−、−CO−、−S−、−SO
2−、アルキレン基、−C(CF
3)
2−)により相互に連結された非縮合多環式芳香族基"から選ばれる4価の基である。Rbの炭素数は、通常4〜100であるが、加水分解により生成しうるテトラカルボン酸の揮発性の観点から、好ましくは4〜30、より好ましくは4〜18である。
【0103】
テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
脂肪族および脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジクロロ−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボルナン−2−酢酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−メチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−エチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−7−メチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−7−エチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−エチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5,8−ジメチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、式(T−1)および式(T−2)のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【0104】
【化14】
式(T−1)および式(T−2)中、R
1およびR
3は、芳香環を有する2価の有機基であり;R
2およびR
4は、水素原子またはアルキル基であり、複数存在するR
2およびR
4は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0105】
芳香族テトラカルボン酸二無水物とは、少なくとも4つのカルボキシル基が芳香族環に結合した有機化合物のテトラカルボン酸無水物のことを言う。芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルメタンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3',4,4'−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4'−ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4'−ジフェニルメタン二無水物、エチレングリコール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、プロピレングリコール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、1,4−ブタンジオール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、1,6−ヘキサンジオール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、1,8−オクタンジオール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン−ビス(アンヒドロトリメリテート)、2,3,4,5−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、2,6−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ピリジン、下記式(T−3−1)〜(T−3−4)のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【0106】
【化15】
テトラカルボン酸二無水物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0107】
〈水分捕獲剤(A3)〉
水分捕獲剤(A3)は、式(A3−1)で表される化合物および式(A3−2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種である。水分捕獲剤(A3)は、中性条件下においては水との反応性が低く安定であるが、酸または塩基の存在下では加水分解反応を容易に起こす。
【0108】
【化16】
式(A3−1)および(A3−2)中、Xは、ケイ素原子、チタン原子またはジルコニウム原子である。これらの中でも、ケイ素原子が好ましい。
【0109】
式(A3−1)および(A3−2)中、R
1は、"(メタ)アクリロイル基、オキシラニル基、オキセタニル基、3,4−エポキシシクロヘキシル基、メルカプト基およびイソシアネート基"から選ばれる少なくとも1つの基を有する有機基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、フェニル基、またはベンジル基である。
【0110】
式(A3−1)および(A3−2)中、R
2は、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、(メタ)アクリロイルオキシ基、グリシドキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基、3,4−エポキシシクロヘキシル基、またはメルカプト基である。
【0111】
式(A3−1)および(A3−2)中、rは0〜2の整数であり;pは0〜6の整数であり、0〜3の整数が好ましく、0または3であることがより好ましい。sは1〜30の整数であり、1〜20の整数が好ましく、1〜10の整数がより好ましい。
【0112】
−(CH
2)
p−R
2で表される基が複数ある場合はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。−OR
1で表される基が複数ある場合はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0113】
式(A3−1)および(A3−2)中のR
1における前記有機基としては、例えば、下記式で表される基が挙げられる。下記式中、*は結合位を示し、R
3は水素原子またはメチル基であり、R
4は炭素数1〜3のアルキレン基であり、nは1〜3の整数である。
【0114】
【化17】
式(A3−1)および(A3−2)中のR
1におけるアルキル基は、直鎖状および分岐状のいずれでもよく、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシルが挙げられ;シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシルが挙げられる。
【0115】
式(A3−1)および(A3−2)中のR
2におけるアルキル基は、直鎖状および分岐状のいずれでもよい。前記アルキル基の炭素数は、1〜20であり、好ましくは1〜10であり、より好ましくは1〜6である。具体的には、R
1において例示したアルキル基の他、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルへキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基が挙げられる。式(A3−1)および(A3−2)中のR
2におけるシクロアルキル基としては、例えば、シクロヘプチル基、シクロオクチル基が挙げられる。
【0116】
式(A3−1)および(A3−2)中のR
2における芳香族炭化水素基としては、例えば、単環から3環式の芳香族炭化水素基が挙げられ、具体的には、フェニル基、トリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基が挙げられる。これらの中でも、フェニル基、トリル基、ナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0117】
式(A3−1)および(A3−2)中のR
2におけるアルキル基、シクロアルキル基および芳香族炭化水素基は置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられる。なお、置換基の位置および数は任意であり、置換基を2以上有する場合、その置換基は同一であっても異なっていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、臭素原子、塩素原子およびヨウ素原子が挙げられ、これらの中でも、フッ素原子が好ましい。ハロゲン原子は、アルキル基、シクロアルキル基および芳香族炭化水素基の水素原子の一部または全部を置換することができるが、全て置換されているものが好ましい。ハロゲン置換アルキル基およびハロゲン置換シクロアルキル基の具体例としては、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロシクロプロピル基等のパーフルオロアルキル基およびパーフルオロシクロアルキル基が挙げられる。また、炭素数1〜6のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基が挙げられる。
【0118】
式(A3−1)および(A3−2)中のR
2としては、炭素数1〜6のアルキル基およびハロゲン置換アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基またはグリシドキシ基が好ましい。なお、同一分子内にR
2が複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0119】
化合物(A3)の具体例としては、Xがケイ素原子であるシラン化合物が挙げられる。
化合物(A3−1)において、
rが0かつsが1であるシラン化合物としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン等の炭素数1〜20のアルキル基を2つ有するアルコキシシラン化合物;ジフェニルジメトキシシラン等の炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を2つ有するアルコキシシラン化合物;3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルエチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルエチルジメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシ基と炭素数1〜20のアルキル基とを有するアルコキシシラン化合物;3−メタクリロイルオキシプロピルフェニルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルフェニルジエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルフェニルジメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルフェニルジエトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシ基と炭素数6〜14の芳香族炭化水素基とを有するアルコキシシラン化合物;3,3'−ジメタクリロイルオキシプロピルジメトキシシラン、3,3'−ジアクリロイルオキシプロピルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ有するアルコキシシラン化合物;3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン等のグリシドキシ基と炭素数1〜20のアルキル基とを有するアルコキシシラン化合物;3−グリシドキシプロピルフェニルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルフェニルジエトキシシラン等のグリシドキシ基と炭素数6〜14の芳香族炭化水素基とを有するアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0120】
rが1かつsが1であるシラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−iso−プロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリ−iso−プロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等の炭素数1〜20のアルキル基を1つ有するアルコキシシラン化合物;トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等の炭素数1〜20のハロゲン置換アルキル基を1つ有するアルコキシシラン化合物;フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等の炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を1つ有するアルコキシシラン化合物;3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリプロポキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリプロポキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシ基を1つ有するアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0121】
rが2かつsが1であるシラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、テトラベンジロキシシランが挙げられる。
【0122】
化合物(A3−1)としては、さらに、以下に示す式(A3−i)および式(A3−ii)の化合物を挙げることができる。式(A3−i)および式(A3−ii)の化合物等は、下記式で例示されるように、テトラエトキシシランに、水酸基と重合性基(オキシラニル基、オキセタニル基、(メタ)アクリロイル基等)とを併せ持つ化合物をアルカリ存在下で反応させることにより得ることができる。
【0123】
【化18】
化合物(A3−1)としては、さらに、以下で示す式(A3−iii)および式(A3−iv)の化合物を挙げることができる。(A3−iii)および式(A3−iv)の化合物等は、下記式で示されるように、メトキシ基を有するシラン化合物に、水酸基と重合性基(オキシラニル基、オキセタニル基、(メタ)アクリロイル基等)とを併せ持つ化合物をアルカリ存在下で反応させることで得ることができる。
【0124】
【化19】
化合物(A3−1)としては、さらに式(A3−v)で表される化合物が挙げられる。
【0125】
【化20】
化合物(A3−2)としては、
3−メタクリロイルオキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルジエチルエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルジメチルエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルジエチルメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルジメチルエトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシ基を1つ有し、炭素数1〜20のアルキル基を2つ有するアルコキシシラン化合物;
3−メタクリロイルオキシプロピルジフェニルメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルジフェニルエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルジフェニルメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルジフェニルエトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシ基を1つ有し、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を2つ有するアルコキシシラン化合物;
3−グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジエチルメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン等のグリシドキシ基を1つ有し、炭素数1〜20のアルキル基を2つ有するアルコキシシラン化合物;
3−グリシドキシプロピルジフェニルメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジフェニルエトキシシラン等のグリシドキシ基を1つ有し、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を2つ有するシラン化合物
が挙げられる。
また、化合物(A3)の市販品で購入できるものとして、例えば、OXT−191(東亞合成社製)およびX−22−3000T(信越化学工業社製)等が挙げられる。
【0126】
〈作用効果の説明〉
本発明で用いられる水分捕獲フィルム形成用組成物の作用効果について、以下に説明する。
本発明で用いられる水分捕獲フィルム形成用組成物は、加熱および/または光照射を受けると、酸・塩基発生剤(B)から酸または塩基が形成される。この酸または塩基により、前記組成物が使用される系内に存在する水に基づき、水分捕獲剤(A)の加水分解反応が促進されることで、系内に存在する水を高効率に消費することができる。本明細書において、「水分の捕獲」とは、このような意味で用いる。水分捕獲剤(A)の加水分解生成物は、後述するように有機EL素子の性能を劣化させる懸念が少ない。
【0127】
このため、本発明では、上記組成物を用いて有機EL素子内に水分捕獲フィルムを形成する時に、素子内の水分を高効率に除去することができる。また、上記組成物から形成された水分捕獲フィルムには、水分捕獲剤(A)またはこれに由来する構造部分が一部、分解されずに残留していると考えられる。このため、その形成の後も長期間に亘って素子内の水分を吸収することができ、水分に起因する有機EL素子の特性低下を抑制することができる。
【0128】
なお、一般的に分解生成物は、例えば、揮発等をして有機EL素子内に分散し、有機EL素子の発光層となる有機EL層に達して汚染し、ダークスポットを発生させる等、有機EL素子の性能を劣化させる懸念がある。しかしながら、本発明では、水分捕獲剤(A)から生成する加水分解生成物は、適度な分子量を備えていることから揮発等が抑制されており、水分捕獲フィルム中に留まることができる。加水分解生成物は分子サイズが大きいほど、水分捕獲フィルム中に留まりやすいため、水分捕獲剤(A)としては、分子量が比較的大きい化合物が好ましい。
【0129】
本発明で用いられる水分捕獲剤(A)は、水分を捕獲した状態であっても、低分子アルコール等のような揮発性の高い加水分解生成物を生じ難く、例えば、加水分解生成物の付着によりダークスポットを生じ易い有機EL素子に用いられた場合でも、有機EL層への上記分解生成物の付着によるダークスポットの発生を抑制することができる。
【0130】
水分捕獲剤(A)の加水分解反応の例を以下に示す。
例えば、水分捕獲剤(A1)の一例である、式(i−1)の構造部位を有する水分捕獲剤および式(i−2)の構造部位を有する水分捕獲剤の加水分解反応について、以下の化学反応式を示すことができる。なお、下記式において、*は結合位を示す。加水分解生成物として、アルコール化合物が生成すると考えられる。これらのアルコール化合物は揮発しにくく、また適度な分子量を有する。
【0132】
例えば、水分捕獲剤(A2)の例である、式(ii−1)のモノカルボン酸無水物、式(ii−2)のジカルボン酸無水物および式(ii−3)のテトラカルボン酸二無水物の加水分解反応について、以下の化学反応式を示すことができる。加水分解生成物として、カルボン酸(ii−1−1)、ジカルボン酸(ii−2−1)およびテトラカルボン酸(ii−3−1)等のカルボン酸化合物が生成すると考えられる。これらのカルボン酸化合物は揮発しにくく、また適度な分子量を有する。
【0134】
例えば、水分捕獲剤(A3)の例である、式(iii−1)および式(iii−2)の化合物の加水分解反応について、以下の化学反応式を示すことができる。加水分解生成物として、アルコール化合物(iii−1−1)および金属水酸化物(iii−1−2)、アルコール化合物(iii−2−1)および金属水酸化物(iii−2−2)を生成する。金属水酸化物(iii−1−2)中の未反応のR
1Oは水と反応し、さらにアルコール化合物(iii−1−1)を生成することができる。アルコール化合物(iii−1−1)および(iii−2−1)は、R
1基において反応し、水分捕獲フィルム中に留まることができる。金属水酸化物(iii−1−2)および(iii−2−2)は、R
2基において反応し、水分捕獲フィルム中に留まることができる。さらに、金属水酸化物(iii−1−2)および(iii−2−2)は、R
2基により水分捕獲フィルム内で固定的に保持されてフィルム内に散在し、縮合反応による水の再発生が防止される。
【0136】
[化合物(B)]
本発明で用いられる水分捕獲フィルム形成用組成物は、酸発生剤および塩基発生剤から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)を含有する。以下、酸発生剤および塩基発生剤をそれぞれ「酸発生剤(B1)」および「塩基発生剤(B2)」ともいう。
【0137】
本発明で用いられる組成物が酸発生剤(B1)を含有する場合、水分捕獲剤(A)として、水分捕獲剤(A1)〜(A3)から選ばれる少なくとも1種が用いられる。本発明で用いられる組成物が塩基発生剤(B2)を含有する場合、水分捕獲剤(A)として、水分捕獲剤(A2)〜(A3)から選ばれる少なくとも1種が用いられる。
【0138】
酸発生剤(B1)としては、感放射線性酸発生剤および熱酸発生剤が挙げられ、感放射線性酸発生剤が好ましい。塩基発生剤(B2)としては、感放射線性塩基発生剤および熱塩基発生剤が挙げられ、感放射線性塩基発生剤が好ましい。
【0139】
感放射線性酸発生剤および感放射線塩基発生剤は、これらに放射線を照射することにより、それぞれ酸性活性物質および塩基性活性物質を放出することができる化合物と定義することができる。放出される酸性活性物質は、例えば、上述の水分捕獲剤(A)を加水分解反応させる際の触媒として作用する。放出される塩基性活性物質は、例えば、上述の水分捕獲剤(A2),(A3)を加水分解反応させる際の触媒として作用する。
【0140】
感放射線性酸発生剤または感放射線性塩基発生剤を分解し、酸性活性物質のカチオンまたは塩基性活性物質のアニオンを発生するために照射する放射線としては、例えば、可視光線、紫外線、遠紫外線、X線および荷電粒子線が挙げられる。これらの放射線の中でも、一定のエネルギーレベルを有し、大きな硬化速度を達成可能であり、しかも照射装置が比較的安価かつ小型であることから、紫外線を使用することが好ましい。
【0141】
本発明で用いられる組成物において、成分(B)が酸発生剤(B1)である場合のその含有量は、成分(A)100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜10質量部である。成分(B)の含有量を前記範囲とすることで、例えば放射線感度の優れた組成物を得ることができる。
【0142】
本発明で用いられる組成物において、成分(B)が塩基発生剤(B2)である場合のその含有量は、成分(A)100質量部に対して、好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは1〜10質量部である。成分(B)の含有量を前記範囲とすることで、例えば放射線感度の優れた組成物を得ることができる。
成分(B1),(B2)は各々1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0143】
〈酸発生剤(B1)〉
酸発生剤(B1)としては、例えば、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩等の光または熱カチオン硬化触媒、イミダゾール類、酸無水物等のアニオン硬化触媒を使用することができる。これらの中ではカチオン硬化触媒が好ましく、光カチオン硬化触媒がより好ましい。硬化速度が速いこと、また光を当てない限り重合反応が開始しないので、保存安定性が良好なためである。
【0144】
具体的なカチオン硬化触媒としては、例えば、アルキル基またはアリール基で置換されたヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウム等のカチオンと、SbF
6-, BF
4-, B(C
6F
5)
4-, PF
6-, P(Rf)
nF
(6-n)-(Rfは例えば炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基;nは1〜3の整数), C
nF
2n+1SO
3-(nは例えば1〜8の整数), N(SO
2CF
3)
2-, C(SO
2CF
3)
3-等のアニオンとからなる塩が使用される。具体的には、CPI−100P、CPI101A、CPI−200K、CPI−210S等(以上、サンアプロ製)、サンエイドSI−150L、サンエイドSI−110L、サンエイドSI−60L、サンエイドSI−80L、サンエイドSI−100L等(以上、三新化学工業製)、ローディア製PI−2074、日本曹達製CI2920等のCIシリーズ、アデカ製オプトマーSP−150等のオプトマーSPシリーズ、CP−66等のオプトンCPシリーズ、和光純薬製WPAGシリーズおよびWPIシリーズ等が挙げられる。
【0145】
これらの酸発生剤(B1)の中でも、カチオン硬化触媒において、アニオンとしては反応性の点からB(C
6F
5)
4-, P(Rf)
nF
(6-n)-, N(SO
2CF
3)
2-, C(SO
2CF
3)
3-が好ましく、カチオンとしては貯蔵安定性の点でアルキル基またはアリール基で置換されたスルホニウムカチオンが好ましい。
【0146】
また、酸発生剤(B1)としては、特開2006−096742号公報、特開2006−282633号公報、特開2010−241733号公報、特開2012−153642号公報、特開2012−201611号公報、特開2013−100237号公報、特開2013−058411号公報、特許5505656号公報等に記載の熱酸発生剤を挙げることもできる。
【0147】
〈塩基発生剤(B2)〉
塩基発生剤(B2)としては、感放射線性塩基発生剤が好ましく、感放射線性塩基発生剤としては、放射線の照射によりアミン等の塩基を発生する化合物である限り、特に限定されない。感放射線性塩基発生剤としては、例えば、コバルト等の遷移金属錯体、オルトニトロベンジルカルバメート類、アシルオキシイミノ類、α,α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジルカルバメート類が挙げられる。
【0148】
遷移金属錯体としては、例えば、ブロモペンタアンモニアコバルト過塩素酸塩、ブロモペンタメチルアミンコバルト過塩素酸塩、ブロモペンタプロピルアミンコバルト過塩素酸塩、ヘキサアンモニアコバルト過塩素酸塩、ヘキサメチルアミンコバルト過塩素酸塩、ヘキサプロピルアミンコバルト過塩素酸塩が挙げられる。
【0149】
オルトニトロベンジルカルバメート類としては、例えば、[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]メチルアミン、[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]プロピルアミン、[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ヘキシルアミン、[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]シクロヘキシルアミン、[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]アニリン、[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ピペリジン、ビス[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ヘキサメチレンジアミン、ビス[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]フェニレンジアミン、ビス[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]トルエンジアミン、ビス[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ジアミノジフェニルメタン、ビス[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ピペラジン、[[(2,6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]メチルアミン、[[(2,6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]プロピルアミン、[[(2,6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ヘキシルアミン、[[(2,6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]シクロヘキシルアミン、[[(2,6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]アニリン、[[(2,6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ピペリジン、ビス[[(2,6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ヘキサメチレンジアミン、ビス[[(2,6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]フェニレンジアミン、ビス[[(2,6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]トルエンジアミン、ビス[[(2,6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ジアミノジフェニルメタン、ビス[[(2,6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ピペラジンが挙げられる。
【0150】
アシルオキシイミノ類としては、例えば、プロピオニルアセトフェノンオキシム、プロピオニルベンゾフェノンオキシム、プロピオニルアセトンオキシム、ブチリルアセトフェノンオキシム、ブチリルベンゾフェノンオキシム、ブチリルアセトンオキシム、アジポイルアセトフェノンオキシム、アジポイルベンゾフェノンオキシム、アジポイルアセトンオキシム、アクロイルアセトフェノンオキシム、アクロイルベンゾフェノンオキシム、アクロイルアセトンオキシムが挙げられる。
【0151】
感放射線性塩基発生剤のその他の例としては、2−ニトロベンジルシクロヘキシルカルバメート、O−カルバモイルヒドロキシアミドおよびO−カルバモイルヒドロキシアミドが特に好ましい。
【0152】
また、塩基発生剤(B2)としては、国際公開第2011/136074号パンフレット、特開2012−193340号公報、特開2013−241548号公報、特開2013−241607号公報、特開2014−097930号公報、国際公開第2012/026400号パンフレット、特許5406995号公報等に記載の熱塩基発生剤を挙げることもできる。
【0153】
[重合性化合物(C)]
本発明で用いられる水分捕獲フィルム形成用組成物は、更に重合性化合物(C)を含有することが好ましい。本発明で用いられる組成物が重合性化合物(C)を含有することで、例えば、架橋反応性を高めることができる。そして、この組成物から形成される水分捕獲フィルムの強度および基板や有機EL層との密着性を向上させることができる。
【0154】
重合性化合物(C)は、重合性基を有する化合物である。
重合性化合物(C)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
重合性化合物(C)としては、例えば、エポキシ基を有する化合物、オキセタニル基を有する化合物等の環状エーテル基を有する化合物;重合性二重結合を有する化合物が挙げられる。
【0155】
エポキシ基を有する化合物としては、例えば、
単官能エポキシ化合物として、グリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ブトキシポリエチレングリコールグリシジルエーテル、フェノールポリエチレングリコールグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−メチルフェニルグリシジルエーテル、p−エチルフェニルグリシジルエーテル、p−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジル等;
多官能エポキシ化合物として、
ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールADジグリシジルエーテル等のビスフェノールのポリグリシジルエーテル;
1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル;
エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の脂肪族多価アルコールに1種または2種以上のアルキレンオキサイドを付加することにより得られるポリエーテルポリオールの脂肪族ポリグリシジルエーテル;
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3',4'−エポキシ−6'−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールのジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の3,4−エポキシシクロヘキシル基を有する化合物等
が挙げられる。
【0156】
オキセタニル基を有する化合物としては、例えば、
単官能オキセタン化合物として、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(オキセタンアルコール)、2−エチルヘキシルオキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ドデシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(オクタデシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン等;
多官能オキセタン化合物として、キシリレンビスオキセタン、1−ブトキシ−2,2−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル〕ブタン、3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン、1,1,1−トリス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル〕プロパン等
が挙げられる。
【0157】
環状エーテル基を有する化合物としては、架橋反応性を高める観点から、これらの中で、エポキシ基を有する化合物が好ましく、多官能エポキシ化合物がより好ましく、多価アルコールのポリグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル基を有する化合物がさらに好ましく、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートが特に好ましい。
【0158】
重合性二重結合を有する化合物としては、酸素原子を有する化合物が好ましく、(メタ)アクリレート化合物がより好ましい。(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、単官能(メタ)アクリレート化合物、多官能(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
【0159】
重合性二重結合を有する化合物としては、架橋反応性を高める観点から、これらの中で、多官能(メタ)アクリレート化合物が好ましく、多官能メタクリレート化合物がより好ましく、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレートがさらに好ましく、ポリエチレングリコール#400ジメタクリレート、ポリプロピレングリコール#400ジメタクリレートが特に好ましい。
【0160】
本発明で用いられる組成物において、重合性化合物(C)を用いる場合のその含有量は、成分(A)100質量部に対して、10〜3000質量部が好ましく、50〜2000質量部がより好ましい。重合性化合物(C)の含有量を上記範囲とすることで、水分捕獲フィルムの基板や有機EL層への密着性を効果的に高めることができる。
【0161】
[ラジカル重合開始剤(D)]
本発明で用いられる水分捕獲フィルム形成用組成物は、更にラジカル重合開始剤(D)を含有することができる。本発明で用いられる組成物は、開始剤(D)を含有することで、例えば、上述の化学反応式に示す加水分解反応によって形成されたアルコール化合物(iii−1−1)および金属水酸化物(iii−1−2)が、前記組成物から形成される水分捕獲フィルム中に効率良く固定化され、留まることが容易となる。
【0162】
開始剤(D)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
開始剤(D)としては、例えば、アゾ化合物、過酸化物等の熱ラジカル重合開始剤;チオキサントン系化合物、アセトフェノン系化合物、ビイミダゾール系化合物、トリアジン系化合物、O−アシルオキシム系化合物、オニウム塩系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、α−ジケトン系化合物、多核キノン系化合物、アシルホスフィンオキサイド系化合物、イミドスルホナート系化合物等の光ラジカル重合開始剤が挙げられる。
【0163】
本発明で用いられる組成物において、ラジカル重合開始剤(D)を用いる場合のその含有量は、成分(A)100質量部に対して、0.05〜5質量部が好ましく、0.1〜2質量部がより好ましい。開始剤(D)の含有量を上記範囲とすることで、所望とするラジカル重合反応を速やかに進行させることができる。
【0164】
[その他の任意成分]
本発明で用いられる組成物は、さらにその他の任意成分を含有することができる。その他の任意成分としては、例えば、形成された水分捕獲フィルムの応力を緩和させるために、シリコーンゴム、シリコーンオイル、ジエン系重合体が挙げられる。その他、シランカップリング剤、界面活性剤、カーボンブラック等の顔料、染料、酸化防止剤、安定剤、伝熱性フィラー、カルボジイミド化合物その他の添加剤が挙げられる。
【0165】
シランカップリング剤としては、例えば、KBM403(信越化学工業社製)が挙げられ、また、特開2006−171670号公報、特開2006−184908号公報、特開2011−007864号公報に記載された化合物を挙げることもできる。界面活性剤としては、例えば、特開2012−226181号公報、特開2013−23414号公報に記載された化合物を挙げることができる。
【0166】
ジエン系重合体としては、例えば、スチレン・ブタジエン共重合体及びその水素化物、スチレン・イソプレン共重合体及びその水素化物、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素化物、並びに、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体及びその水素化物が挙げられ、また、国際公開第2004−055064号パンフレット、特開平04−224813号公報、特開平09−095507号公報、特開2004−197107号公報、特開2007−254692号公報に記載された化合物を挙げることもできる。
【0167】
カルボジイミド化合物としては、例えば、ポリカルボジイミドが挙げられ、また、特開平05−178954号公報、特開平09−124582号公報、特開平10−067978号公報、特開2007−138080号公報、国際公開第2008−081230号パンフレット、国際公開第2010−071211号パンフレットに記載された化合物を挙げることもできる。
【0168】
[水分捕獲フィルム形成用組成物の調製方法]
本発明で用いられる水分捕獲フィルム形成用組成物は、成分(A)および成分(B)を混合し、必要に応じて成分(C)、成分(D)、その他の添加剤を所定の割合で混合することにより調製することができる。
【0169】
本発明で用いられる組成物は、水分が特性を低下させる懸念のある有機EL素子を作成するための水分捕獲フィルムとして、好適に用いることができる。例えば、前記組成物からなる塗膜に対して放射線照射および/または加熱をして形成された水分捕獲フィルムは、長期間に亘って素子内の水分を吸収することができる。また、有機EL素子内に配置された水分捕獲フィルムに対して、放射線照射および/または加熱することで、前記組成物の水分捕獲能力を再度発現させることも可能である。
【実施例】
【0170】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。以下の実施例等の記載において、特に言及しない限り、「部」は「質量部」を示す。
【0171】
[1H−NMRの測定]
1H−NMRは、核磁気共鳴装置(日本電子社の「JNM−ECS400」(400MHz))を用いて25℃で測定した。
【0172】
〔水分捕獲剤(A1)の合成〕
[合成例1]水分捕獲剤(AO−1)の合成
撹拌機、冷却器、温度制御装置および溶剤回収装置を備えた反応装置に、オルトギ酸メチル53.0部、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール80.0部、ペンタエリスリトール17.0部および90wt%ギ酸水溶液0.5部を仕込み、アルコール交換反応により生成するメタノールを留去しながら約85℃に1時間保持した。その後、2時間かけて175℃まで昇温して46.5部のメタノールを回収し、無色透明で粘調のポリオルトエステルとして水分捕獲剤(AO−1)を得た。
【0173】
【化24】
水分捕獲剤(AO−1)の
1H−NMRを測定したところ、以下の通りであった。
1H−NMR (CDCl
3);δ0.76〜0.96(24H,m),δ1.20〜1.40(24H,m),δ1.10−1.60(32H,m),δ3.34〜4.10(24H,m),δ5.24(4H,s).
【0174】
[合成例2]水分捕獲剤(AO−2)の合成
撹拌機、冷却器、温度制御装置および溶剤回収装置を備えた反応装置に、オルトギ酸メチル53.0部、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル80.0部、ペンタエリスリトール17.0部および90wt%ギ酸水溶液0.5部を仕込み、アルコール交換反応により生成するメタノールを留去しながら約85℃に1時間保持した。その後、2時間かけて175℃まで昇温して46.5部のメタノールを回収し、無色透明で粘調のポリオルトエステルとして水分捕獲剤(AO−2)を得た。
【0175】
【化25】
水分捕獲剤(AO−2)の
1H−NMRを測定したところ、以下の通りであった。
1H−NMR (CDCl
3);δ0.83(12H,m),δ1.24〜1.56(8H,m),δ3.20〜4.10(40H,d),δ5.10〜5.36(12H,m),δ5.88(4H,m).
【0176】
[合成例3]水分捕獲剤(AO−3)の合成
撹拌機、冷却器、温度制御装置および溶剤回収装置を備えた反応装置に、水分捕獲剤(AO−1)50.0部、t−ブトキシカリウム3.0部を仕込み、窒素雰囲気下160℃で6時間撹拌した。その後、アルカリ吸着材としてキョーワード600S(協和化学工業製)を0.6部加え120℃で1時間処理後、反応液を室温まで冷却し、吸着材をろ別して、無色透明で粘調のポリオルトエステルとして水分捕獲剤(AO−3)を得た。
【0177】
【化26】
水分捕獲剤(AO−3)の
1H−NMRを測定したところ、以下の通りであった。
1H−NMR (CDCl
3);δ0.87(12H,m),δ1.40(8H,m),δ1.55(12H,d),δ3.20〜4.20(24H,d),δ3.25〜4.10(32H,m),δ4.25〜4.45(4H,m),δ5.10〜5.40(4H,m),δ5.80〜6.15(4H,m).
【0178】
[合成例4]水分捕獲剤(AO−4)の合成
撹拌機、冷却器、温度制御装置および溶剤回収装置を備えた反応装置に、オルトギ酸メチル63.0部、グリセリン55.0部、ペンタエリスリトール20.0部および90wt%ギ酸水溶液0.5部を仕込み、アルコール交換反応により生成するメタノールを留去しながら約85℃に1時間保持した。その後、2時間かけて175℃まで昇温して57.0部のメタノールを回収し、さらに175℃、300Paの条件で濃縮し、揮発成分を除去した。無色透明粘調のポリオルトエステルとして水分捕獲剤(AO−4)を得た。
【0179】
【化27】
水分捕獲剤(AO−4)の
1H−NMRを測定したところ、以下の通りであった。
1H−NMR (CDCl
3);δ3.20〜4.20(24H,m),δ4.20〜4.70(4H,m),δ5.60〜6.10(4H,m).
【0180】
〔水分捕獲フィルム形成用組成物の調製〕
調製例等の水分捕獲フィルム形成用組成物の調製に用いた水分捕獲剤(A)(成分(A))、酸発生剤(B1)(成分(B))、および重合性化合物(C)(成分(C))を以下に示す。
【0181】
〈成分(A)〉
AO−1:[合成例1]
AO−2:[合成例2]
AO−3:[合成例3]
AO−4:[合成例4]
AK−1:OXT−191(東亞合成(株)製)
【0182】
【化28】
AS−1:4−メチルシクロヘキサンジカルボン酸無水物(東京化成工業(株)製)
AS−2:4,4'−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物
(東京化成工業(株)製)
AC−1:酸化カルシウム(東京化成工業(株)製)
【0183】
〈成分(B)〉
B−1:CPI−210S(サンアプロ(株)製)
【0184】
【化29】
(X=特殊リン系アニオン)
【0185】
〈成分(C)〉
C−1:セロキサイド2021P((株)ダイセル製;3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)
【0186】
【化30】
【0187】
[調製例1]
水分捕獲剤(A)として(AO−1)23部、酸発生剤(B1)として(B−1)2部、重合性化合物(C)として(C−1)75部を容器に量り取り、遊星式攪拌機(あわとり練太郎、シンキー社)を用いて充分に混合した。その後、真空下にて脱泡を行い、水分捕獲フィルム形成用組成物を調製した。
【0188】
[調製例2〜8および比較調製例1〜2]
調製例1において、各成分を表1に示す種類および配合量としたこと以外は調製例1と同様に操作して、水分捕獲フィルム形成用組成物を調製した。
【0189】
〔有機EL素子の製造〕
縦横25mm、厚さ0.7mmのガラス板に膜厚15nmのITO膜が幅2mmのパターンで形成されたガラス基板(旭硝子(株)製)上に、正孔注入材料としてポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネイト(PEDOT/PSS)を含有する正孔注入層形成用塗液を3000rpmで50秒間スピンコートを行い、膜厚50nmの正孔注入層を形成した後、高純度窒素中、200℃で10分間加熱・乾燥を行った。ここで、正孔注入層形成用塗液としては、PEDOT/PSSを純水に固形分0.1質量%で溶解したものを用いた。正孔注入層上に、発光材料ポリフルオレン誘導体の1.0質量%溶液を2000rpmで50秒間スピンコートを行い、膜厚70nmの発光層を形成した後、60℃で10分間焼成した。発光層上に、10
-5Paの圧力条件下、0.1nm/secの蒸着速度でLiFを10nm、0.1nm/secの蒸着速度でCaを20nm積層し、その上に20nm/secの蒸着速度でAlを100nm積層して陰極を形成した。このようにして、ガラス基板上に有機EL層を形成した。
【0190】
次いで、ガラス基板上に形成された有機EL層上に、上記水分捕獲フィルム形成用組成物を、隙間寸法100μmのバーコーター「E−789」(ヨシミツ精機社)を用いて、塗布速度2cm/secにて塗布し、膜厚50μmの塗膜を形成した。塗膜の膜厚は、デプスゲージ547−251((株)ミツトヨ製)で測定した。得られた塗膜に対して、PLA−501F露光機(超高圧水銀ランプ、キヤノン(株)製)を用い、積算照射量が30000J/m
2となるように露光を行った後、クリーンオーブン内にて80℃で1時間加熱することにより、ガラス基板上の有機EL層上に硬化物として水分捕獲フィルムを形成した。
【0191】
次いで、得られた成膜済みガラス基板の周縁部に、比較調製例1で得られた水分捕獲フィルム形成用組成物と同組成の組成物を、ディスペンサーを用いて塗布し、厚さ100μmの塗膜を形成した。次いで、真空張り合わせ装置を用いて、成膜済みガラス基板へ縦横25mm、厚さ0.7mmの対向ガラス基板を前記塗膜を介して貼り合わせ、超高圧水銀灯(365nmにおける強度が100mW)を用いて30秒間紫外光を照射した後、80℃で30分間加熱することにより、前記塗膜を硬化させ、シール材を形成した。
以上のようにして、有機EL素子を製造した。
【0192】
〔評価〕
上記水分捕獲フィルム形成用組成物、硬化物および有機EL素子について、以下の評価を行った。
【0193】
〈接着性〉
厚さ0.7mmのガラス基板を25mm×75mmにカットしたガラス片を2つ用意した。一方のガラス片の中央部に上記水分捕獲フィルム形成用組成物を塗布して膜厚100μmの塗膜を形成し、2つのガラス片を十字状に交差させて前記塗膜を介して接着させた。PLA−501F露光機(超高圧水銀ランプ、キヤノン(株)製)を用い、積算照射量が30000J/m
2となるように露光を行った後、クリーンオーブン内にて80℃で1時間加熱することにより、前記塗膜を硬化させた。剥離速度150mm/minの条件でガラス基板を上下に剥離し、あらかじめ測定した前記組成物の塗布面積で最大荷重を除して、接着力(単位:MPa)とした。
【0194】
〈可視光透過率〉
厚さ0.7mmのガラス基板を25mm×75mmにカットし、上記水分捕獲フィルム形成用組成物を膜厚100μmで塗布した。PLA−501F露光機(超高圧水銀ランプ、キヤノン(株)製)を用い、積算照射量が30000J/m
2となるように露光を行った後、クリーンオーブン内にて80℃で1時間加熱することにより硬化させ、ガラス基板上に水分捕獲フィルムを形成した。これをUV−VIS測定装置(日本分光V650)で、ガラス基板をリファレンスにして、耐湿性試験(85℃、85RH%、200時間)前後の可視光透過率(400〜800nm)を測定した。
【0195】
〈耐湿性試験〉
上記で得られた有機EL素子を85℃、85RH%の条件下にて500時間通電したときに発生したダークスポットの有機EL層上面の表面積に占める割合(%)を測定した。この割合が5%以下の場合、耐湿性が良好である、すなわちダークスポットの発生が抑制されていると判断した。
【0196】
【表1】