(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、定在波変動を、三角関数を用いて表現し、その振幅と位相を未知パラメータとしてリアルタイムに推定している。しかしながら、この方法では、湯面レベル計の観測点における定在波の振幅と位相が求まるにとどまり、湯面形状を直接算出していないため、鋳型内の湯面形状をリアルタイムに推定することはできなかった。
【0006】
そこで本発明は、鋳型内の湯面形状をリアルタイムに推定することが可能な、連続鋳造鋳型内の湯面変動の状態推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、鋳型内湯面変動を体積変動と定在波変動との重ね合わせとして表現し、定在波変動を表面波の基礎方程式により表現する定在波変動のモデルを用いた逐次計算アルゴリズムにより、複数の湯面レベル計による鋳型内の湯面レベル観測結果を用いて、鋳型内湯面変動として体積変動と定在波変動とをリアルタイムに推定可能であることを見出した。定在波変動のモデルとしては、例えば、表面波の基礎方程式を、境界要素法を用いて空間離散化することにより構築した、常微分方程式による状態空間モデルを用いることができる(以下において、このモデルを「表面波モデル」と称する。)。湯面変動には、定在波変動に加えて体積変動が重畳して観測されるので、本発明では、体積変動に対応する変数を表面波モデルに追加する(本発明において、この拡大したモデルを「湯面形状変動モデル」と称する。)。また、逐次計算アルゴリズムとしては、例えば、カルマンフィルタを用いる。従来の単一の湯面レベル計の観測値からは、鋳型内の任意位置での湯面高さを検出することは困難であったが、上記形態にすることにより、複数の湯面レベル計による鋳型内の湯面レベル観測結果を用いて、定在波変動と体積変動とをリアルタイムに検出することが可能になるので、鋳型内の任意位置での湯面高さを算出できるようになる。
本発明は、このような知見に基づいて完成させた。以下、本発明について説明する。
【0008】
本発明は、定在波変動を表面波の基礎方程式により表現する定在波変動のモデルを用いた逐次計算アルゴリズムによって、連続鋳造鋳型内の任意位置に配置された複数の湯面レベル計による観測値を用いて、鋳型内湯面変動の体積変動成分と定在波変動成分とをリアルタイムに求めることにより、上記任意位置における湯面高さを算出することを特徴とする、連続鋳造鋳型内の湯面変動の状態推定方法である。
【0009】
体積変動成分と定在波変動成分とをリアルタイムに求めることにより、鋳型内幅方向における湯面高さ分布をリアルタイムに推定することが可能になる。その結果、鋳型内の湯面形状をリアルタイムに推定することが可能になる。
【0010】
また、上記本発明において、定在波変動のモデルとして、表面波の基礎方程式を、境界要素法を用いて空間離散化することにより導出したモデルを用いることができる。このような形態であっても、鋳型内の湯面形状をリアルタイムに推定することが可能である。
【0011】
また、上記本発明において、逐次計算アルゴリズムとして、カルマンフィルタを用いることができる。このような形態であっても、鋳型内の湯面形状をリアルタイムに推定することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鋳型内の湯面形状をリアルタイムに推定することが可能な、連続鋳造鋳型内の湯面変動の状態推定方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。なお、以下に説明する形態は本発明の例示であり、本発明は以下に説明する形態に限定されない。
【0015】
はじめに、本発明で構築する問題を説明する。鋳型は、幅方向の長さに対して厚み方向の長さが十分に短いので、本発明では厚み方向の湯面変動は考慮しない。また、本発明において、自由表面上では圧力一定とし、湯面変動の振幅は幅方向の長さに対して微小であると仮定する。
連続鋳造時に、鋳型内に浸漬ノズルで供給される溶湯が、浸漬ノズル吐出孔に付着物がなく鋳型の幅方向の中心を境にして左右均等に供給されている場合、上記仮定は十分妥当な仮定である。また、鋳型の幅方向の長さが厚み方向の長さの5倍以上である場合、厚み方向の振幅が幅方向の振幅に対して微小であるという仮定は、十分妥当な仮定である。
また、本発明では、連続鋳造鋳型を底面が十分深い容器であるとみなし、鋳型内の湯面変動を矩形容器内表面波の基礎方程式により表現する。実際には鋳型は底面を持たないが、溶鋼プール深さは湯面変動の振幅に対して十分大きいので、底の深い容器として近似してよい。底面の深さの選び方については後述する。
【0016】
1.表面波の基礎方程式
粘性のない非圧縮流体の渦なし流れを仮定すると、矩形容器内の表面波の基礎方程式は、式(1)〜(4)で表現される(神部勉 編著、流体力学、裳華房、p.122〜126)。
【0020】
【数4】
ただし、Ωは鋳型内における液体の存在領域であり、後述する
図3に示したように、鋳型の幅方向(x方向)が−W/2〜W/2、且つ、鋳型の深さ方向(z方向)が0〜hの2次元平面とする。また、Γ
fは液体領域と空気との境界線を表す自由表面であり、φは速度ポテンシャル(m
2/s)であり、ηは自由表面の高さ(m)であり、gは重力加速度(m/s
2)であり、hは底面の深さ(m)であり、Wは水平方向の鋳型幅(m)である。
【0021】
2.境界要素法による基礎方程式の空間離散化
ここでは、上記の基礎方程式(1)〜(4)を、境界要素法を用いて空間離散化する場合について説明する。境界要素法とは、元の境界値問題を境界積分方程式に変換した後に領域の境界を有限個の要素に離散化し、境界上の変数のみを未知変数とする連立方程式を解く問題に帰着させる手法である。境界要素法の利点は境界上の変数のみが未知変数になることにより、求めるべき未知変数の数が少なくなることである。以下に示す方法では、自由表面上の速度ポテンシャルφと自由表面の高さ(湯面高さ)ηのみが未知変数となる。ここで、自由表面上の高さの具体的な値が湯面高さηである。
なお、境界要素法による自由表面および境界上での離散化点数は任意でよいが、ここでは自由表面上では等間隔にM点に分割し、他の3つの壁面もそれぞれ等間隔にM点ずつ分割するものとする。分割の様子を
図3に示す。また、節点(境界要素上の代表点)に関して様々な選び方があるが、要素中心を節点として選べばよい。さらに未知変数φおよびηの値は、各領域(境界要素)上で一定値であると仮定する一定要素近似を用いる。すなわち、自由表面上のM個の選点をx
j(j=1、2、…、M)とすると、各領域上で下記式(5)および(6)が成り立つ。
図3に示すように、境界領域を階段関数状に近似するものである。
【0024】
表面波の基礎方程式(1)〜(4)を、境界要素法を用いて空間離散化することにより、自由表面上の点x
j(j=1、2、…、M)における、速度ポテンシャルφ
j(j=1、2、…、M)および湯面高さη
j(j=1、2、…、M)を状態変数とする2M次元の状態空間モデル(下記式(7))が導出される。境界要素法による空間離散化の手順については、例えば、「登坂宣好、中山司 著、境界要素法の基礎、日科技連、p.170〜184、1987年)に詳しく述べられている。
【0025】
【数7】
ここで、Aは境界要素法により空間離散化することで得られる2M次の正方行列である。なお、自由表面以外の境界上の変数の情報は行列Aに織り込まれている。行列Aは底面の深さhに応じて変化し、hを大きくするにつれ行列Aはある一定値に収束する。hの値は大きいほど好ましく、要求するシミュレーション精度に応じて適当なhの値を選定すればよい。具体的には、鋳型幅Wに対し、鋳型深さhは2倍以上とすることが望ましい。例えば、後述する本発明の実施例では、鋳型幅W=1.425(m)に対し、鋳型深さh=3.0(m)とした。
【0026】
3.湯面形状変動モデル
鋳型内の湯面変動では、定在波変動に加えて体積変動も重畳する。そのため、上記式(7)の表面波モデルに体積変動を表現する状態変数dを追加した下記式(8)の拡大したモデルを考える。この拡大したモデルを、本発明では湯面形状変動モデルと称する。このモデルは2M+1次の状態変数を持つ。
【0027】
【数8】
ただし、A
augは下記式(9)で表される。
【0029】
湯面レベル計の数をL個とすると、レベル計観測値y’=(y
1、y
2、…、y
L)’は、定在波変動に体積変動dが重畳して観測され、下記式(10)のように表わされる。
【0030】
【数10】
ただし、η’=(η
1、η
2、…、η
M)’である。Cは観測により定まるL行M列の行列であり、1’は全ての要素が1であるL次のベクトルである。
【0031】
4.カルマンフィルタのアルゴリズム
ここでは、逐次計算アルゴリズムとしてカルマンフィルタを使用する場合について説明する。「樋口知之 編著、データ同化入門、朝倉書店、p.47〜57、2011年」に基づいてカルマンフィルタを説明する。
カルマンフィルタは、以下の時変な線形・ガウス状態空間モデルを対象にする。
【0033】
【数12】
ただし、R
nはn次元の実数ベクトルの集合であり、R
mはm次元の実数ベクトルの集合である。また、F
tは時変のn×n行列、G
tは時変のn×n行列であり、H
tは時変のm×n行列である。また、v’
t〜N(0、Q
t)はR
nの要素であり、w’
t〜N(0、R
t)はR
mの要素である。N(0、Q
t)は平均が0であり且つ分散共分散行列がQ
tである多次元正規分布を表わし、N(0、R
t)は平均が0であり且つ分散共分散行列がR
tである多次元正規分布を表わす。
カルマンフィルタのアルゴリズムは、状態ベクトルと分散共分散行列の初期条件x’
0|0、V
0|0を与えた後に、予測とフィルタリングの手順を逐次的に繰り返す。
【0034】
4.1.予測
時刻t−1における推定値x’
t−1|t−1および上記式(11)で表わされるモデルを用いて、状態の予測値x’
t|t−1および分散共分散行列の予測値V
t|t−1を以下のように計算する。
【0036】
【数14】
ただし、x’
t|t−1は、時刻t−1における、時刻tでの状態量の予測値を表わす。
【0037】
4.2.フィルタリング
分散共分散行列の推定値V
t|tとカルマンゲインK
tを以下のように計算する。
【0039】
【数16】
計算したカルマンゲインK
t、および、観測データy’
tを用いて、予測値x’
t|t−1を以下の式(17)のように修正して推定値とする。
【0040】
【数17】
ただし、x’
t|tは時刻tにおける状態量の修正値を表わす。
このカルマンフィルタを上記式(8)および式(10)から構成される湯面形状変動モデルに適用して、湯面形状をリアルタイムに推定する。
【0041】
図面を参照しつつ、本発明の実施形態についての説明を続ける。
図1は本発明を実施可能なシステムの構成例を説明する図である。
図1に示した連続鋳造鋳型内の湯面変動状態推定システム10では、連続鋳造鋳型1における湯面の状態が湯面レベル計2によって計測される。湯面レベル計2によって計測された操業データ3は、湯面形状推定部4へと送られるとともに、操業データベース5および制御量演算部6へと送られる。湯面形状推定部4では、操業データ3を用いて、上記湯面形状変動モデルにより湯面高さを算出する。湯面形状推定部4で算出された湯面高さの算出結果は、出力部7に出力される。出力部7は、操業データベース5に記憶された情報も出力できるように構成されている。出力部7に出力された湯面高さの算出結果は、制御量演算部6へと送られる。制御量演算部6では、湯面高さの算出結果と、操業データ3と、操業データベース5に記憶されているデータとを用いて、湯面変動を低減するための制御量が算出される。制御量演算部6で算出された制御量は、注湯制御手段8へと送られ、湯面変動を低減する制御が行われる。
【0042】
図2は、本発明の処理の流れを説明するフローチャートである。
図2に示したように、本発明により連続鋳造鋳型内の湯面変動の状態を推定する際には、湯面レベル計によって計測されたデータを含む操業データを取得するデータ取得工程(S21)が行われる。その後、取得した操業データを用いて、上記湯面形状変動モデルにより湯面高さを算出する湯面高さ算出工程(S22)が行われる。S22では、例えば、逐次計算アルゴリズムとしてカルマンフィルタが用いられ、上記「4.1.予測」および「4.2.フィルタリング」が逐次的に繰り返される。そして、S22で算出された湯面高さの結果は、出力工程(S23)で出力される。
このようにして連続鋳造鋳型内の湯面変動の状態を推定する本発明によれば、鋳型内の湯面形状をリアルタイムに知ることができる。それゆえ、これを用いて湯面制御を行うことにより、高品質な鋳片を製造することが可能になる。また、本発明によれば、湯面レベル制御の制御対象である体積変動成分と定在波変動成分とを高精度に分離することが可能なので、湯面レベル制御性能を高めるフィードバック制御への応用が可能となる。このような効果を奏する本発明によれば、鋳片品質を大幅に向上させることが可能になるほか、歩留まりを減少させることが可能になるので、製造コストを大幅に低減することが可能になる。
【実施例】
【0043】
実施例を参照しつつ、本発明についてさらに説明を続ける。
【0044】
1.実施例の設定条件
(1)領域の設定
先にも述べたように、境界要素法による自由表面および境界上での離散化点数は任意で良いが、ここでは自由表面上では等間隔にM点分割し、他の3つの壁面もそれぞれ等間隔にM点ずつ分割するものとした。この分割の様子を
図3に示す。本実施例では、要素中心を節点として選び、一定要素近似を用いた。また、自由表面上の空間離散化の点数Mは14点とした。鋳型幅Wは1.425(m)であった。上述のように、境界要素法により離散化して得られる式(7)の行列Aは、底面の深さhに応じて変化し、hを大きくするにつれ行列Aはある一定値に収束する。本実施例では、鋳型深さhを3.0(m)とした。
【0045】
(2)観測モデルの設定
本実施例では、鋳型厚み0.27(m)、鋳型幅W1.425(m)である鋳型に3基の湯面レベル計を設置し、湯面レベル計直下の湯面高さを観測した。湯面レベル計の設置個所は、鋳型幅方向両端、および、鋳型幅方向中央から0.26m東側の位置とした。
図4に、湯面レベル計の取り付け位置を示す。
それぞれの湯面レベル計により、湯面レベル計の設置位置に最も近い湯面上の節点を観測した。具体的には、14点の節点のうち、左から1番目の節点(x=−0.66(m))、左から10番目の節点(x=0.25(m))、および、左から14番目の節点(x=0.66(m))の3点の湯面高さを観測した。この場合、上記式(10)における行列Cは、3行14列の行列であり、1行1列成分、2行10列成分、および、3行14列成分に1の値を持ち、その他の成分の値は0である。すなわち、観測値y’(t)=(y
1(t)、y
2(t)、y
3(t))’と湯面高さη’(t)=(η
1(t)、η
2(t)、…、η
14(t))’は、下記式(18)で表わされる。
【0046】
【数18】
式(18)は、以下の式(19)のように表わすことができる。
【0047】
【数19】
ただし、観測行列Hは、下記式(20)で表される3行29列の行列である。
【0048】
【数20】
以下において、状態変数X(t)≡[φ
1(t)、φ
2(t)、…、φ
14(t)、η
1(t)、η
2(t)、…η
14(t)、d(t)]’と表記する。
【0049】
(3)時間離散化の設定
上記式(8)の湯面形状変動モデルを計算機でシミュレーションするために、適当な時間間隔で時間離散化を行う。この離散化の方法としては、たとえば双一次変換を用いればよい。双一次変換を用いることで、上記式(8)の離散時間版として下記式(21)が得られる。y’(t)は、、式(21)のX(t)を用いて下記式(22)で表わすことができる。
【0050】
【数21】
【0051】
【数22】
ここに、A
DおよびH
Dは、双一次変換による時間離散化により変換された行列である。双一次変換においては、下記式(23)および式(24)により変換される。
【0052】
【数23】
【0053】
【数24】
ここに、I
29は29時の単位行列を表わし、Δtは時間刻み幅を表わす。また、A
augは上記式(9)で定義される行列である。
【0054】
(4)カルマンフィルタの設定
カルマンフィルタは確率的なシステムを対象とするので、上記式(21)および式(22)に正規雑音v’
t、w’
tが加わると仮定し、下記式(25)および式(26)の確率システムとしてモデル化する。ここで、v’
tは湯面変動に加わる外乱成分であり、吐出流の乱れにより生じる湯面変動の乱れに相当する。また、w’
tは湯面レベル計の測定誤差を表わす外乱成分である。v’
tおよびw’
tは、いずれも湯面形状変動モデルで考慮していない外乱成分を表現する変数である。カルマンフィルタの設定では、これら外乱成分は正規分布に従う白色雑音であると仮定する。
【0055】
【数25】
【0056】
【数26】
ここで、Gは29次の単位行列である。
【0057】
システムノイズの分散共分散行列Q、および、観測ノイズの分散共分散行列Rは、それぞれ、29次および3次の正定値対称行列であり、カルマンフィルタにおける調整パラメータである。その値は適切に定める必要があり、試行錯誤的に選定すればよい。本実施例において、システムノイズの分散共分散行列Qは対角行列とし、その対角要素Q
iiを、0.005
2(m
2)(i=1、2、…、28)、および、0.01
2(m
2)(i=29)とした。また、本実施例において、観測ノイズの分散共分散行列Rは対角行列とし、その対角要素R
llを、0.005
2(m
2)(l=1、2、3)とした。
【0058】
本実施例では、カルマンフィルタの予測ステップ(下記式(27)〜(28))とフィルタリングステップ(下記式(29)〜(31))の操作を交互に行うことにより、逐次的に湯面形状変動モデル内の状態変数を推定した。
【0059】
<予測ステップ>
時刻t−1における推定値X
t−1|t−1、および、湯面形状変動モデルを用いて、時刻t−1における、次の時刻tの状態予測値X
t|t−1、および、分散共分散行列の予測値V
t|t−1を、以下のように計算する。
【0060】
【数27】
【0061】
【数28】
【0062】
<フィルタリングステップ>
分散共分散行列の推定値V
t|t、および、カルマンゲインK
tを、以下のように計算する。
【0063】
【数29】
【0064】
【数30】
予測ステップで計算した推定値HX
t|t−1と観測値y’
tとの誤差をフィードバックすることにより、上記式(27)の予測値X
t|t−1を修正し、推定値X
t|tを計算する。修正ゲインは、上記式(30)で求めたカルマンゲインK
tを用いる。
【0065】
【数31】
【0066】
[結果]
本実施例では、実機データを用いて、上記式(27)〜(31)で構成したカルマンフィルタのアルゴリズムを適用し、リアルタイムに湯面形状を検出した。3点の湯面レベル計観測値の実績値、および、本発明により算出した推定値の10秒間の時系列データを、
図5〜7に示す。また、本発明により算出した、体積変動成分および定在波変動成分の時系列データを、
図8および
図9に示す。さらに、リアルタイムに推定した湯面形状を、
図10および
図11に示す。
【0067】
単一の湯面レベル計の観測値を用いる従来技術では、湯面形状を推定することは困難であったが、
図5〜
図11に示したように、本発明によれば、鋳型内の湯面形状をリアルタイムに推定できることが確認された。また、
図10および
図11に示したように、本発明によれば、実績値を高精度に推定できた。
【0068】
このように、本発明により湯面形状をリアルタイムに推定することができるので、本発明を用いることにより、高品質な鋳片製造のための適正な操業条件を把握することが可能になる。また、本発明によれば、湯面レベル制御の制御対象である体積変動成分と定在波変動成分とを高精度に分離することが可能なので、湯面レベル制御性能を高めるフィードバック制御への応用が可能となる。このような効果を奏する本発明によれば、鋳片品質を大幅に向上させることが可能になるほか、歩留まりを減少させることが可能になるので、製造コストを大幅に低減することが可能になる。