(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372258
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】刃物及び刃身の仕上げ方法
(51)【国際特許分類】
B26B 9/00 20060101AFI20180806BHJP
B24C 1/06 20060101ALI20180806BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20180806BHJP
C23C 16/27 20060101ALI20180806BHJP
C23C 16/30 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
B26B9/00 Z
B24C1/06
C23C14/06 F
C23C14/06 A
C23C16/27
C23C16/30
C23C14/06 B
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-176754(P2014-176754)
(22)【出願日】2014年9月1日
(65)【公開番号】特開2016-49314(P2016-49314A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 吉之
(72)【発明者】
【氏名】落合 宏行
【審査官】
小川 真
(56)【参考文献】
【文献】
特開平6−23157(JP,A)
【文献】
特開平10−127958(JP,A)
【文献】
特開2013−111179(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0307655(US,A1)
【文献】
韓国公開特許第10−2012−0059997(KR,A)
【文献】
特開平8−206989(JP,A)
【文献】
特開平4−217491(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/074017(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26B 1/00−9/00
B24B 3/36
B23P 15/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも刃厚方向の一方側の刃先縁部に切り刃が形成された刃身と、前記刃身に設けられた柄とを具備した刃物において、
前記刃身の少なくとも前記刃厚方向の他方側の刃先縁部にPVD又はCVDによって硬質被膜が形成され、前記刃身の前記刃厚方向の他方側の刃先縁部における前記硬質被膜の下地に粗面が形成され、前記粗面の表面粗さの最大高さが10〜30μmに設定されていることを特徴とする刃物。
【請求項2】
前記刃身の前記刃厚方向の一方側の刃先縁部に刃付け処理が施されていることを特徴とする請求項1に記載の刃物。
【請求項3】
前記硬質被膜はセラミックス又は炭素材料からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の刃物。
【請求項4】
刃物に用いられかつ少なくとも刃厚方向の一方側の刃先縁部に切り刃が形成された刃身を仕上げるための刃身の仕上げ方法において、
前記刃身の少なくとも前記刃厚方向の他方側の刃先縁部に、表面粗さの最大高さが10〜30μmに設定された粗面を形成する粗面形成工程と、
前記粗面形成工程の終了後に、PVD又はCVDによって硬質被膜を前記刃身の少なくとも前記刃厚方向の他方側の刃先縁部に前記粗面を覆うように形成する被膜形成工程と、を具備したことを特徴とする刃身の仕上げ方法。
【請求項5】
前記粗面形成工程は、前記刃身の前記刃厚方向の他方側の刃先縁部に対して研磨処理又はショットブラスト処理を行うことにより、前記刃身の前記刃厚方向の他方側の刃先縁部に前記粗面を形成することを特徴とする請求項4に記載の刃身の仕上げ方法。
【請求項6】
前記被膜形成工程の終了後に、前記刃身の前記刃厚方向の一方側の刃先縁部に対して刃付け処理を行う刃付け工程を具備したことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の刃身の仕上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両刃包丁、片刃包丁、両刃ナイフ等の刃物、及び刃物に用いられる刃身を仕上げる方に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、包丁の耐久性又は切れ味の向上を目的として種々の開発がなされており、包丁の先行技術として特許文献1及び特許文献2に示すものがある。そして、第1の先行技術(特許文献1に記載の包丁)及び第2の先行技術(特許文献2に記載の包丁)の特徴は、次のようになる。
【0003】
第1の先行技術にあっては、刃身の刃厚方向の片方の刃先縁部を含む刃身の略全面にPVD(物理蒸着)によって硬質被膜が形成されている。これにより、包丁の刃先の機械的強度(硬度)を高めて、包丁の刃先の摩耗を低減して、包丁の耐久性を十分に向上させることができる。
【0004】
第2の先行技術にあっては、刃身の刃厚方向の片方の刃先縁部に放電表面処理によって凹凸のある硬質被膜が形成されている。これにより、包丁の刃先の機械的強度を高めて、包丁の刃先の摩耗を低減して、包丁の耐久性を十分に向上させると共に、包丁の刃先が鋸刃状の凹凸線(凹凸のある線)を呈するようにして、包丁の切れ味を十分に向上させることができる。なお、第2の先行技術は、本願の発明者によって開発されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−36966号公報
【特許文献2】特開2008−264116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、第1の先行技術においては、包丁の耐久性を十分に向上させることができるものの、包丁の刃先が平坦線(平坦な線)、換言すれば、凹凸のない線を呈しているため、包丁の切れ味を十分に向上させることができないという問題がある。一方、第2の先行技術においては、包丁の耐久性及び切れ味を十分に向上させることができるものの、放電表面処理はPVDと異なりバッチ単位で(バッチ処理を)行うことができず、換言すれば、一度に多数の刃身に硬質被膜を形成することができず、包丁の生産性を十分に高めることができないという問題がある。つまり、第1の先行技術及び第2の先行技術においては、包丁の生産性を十分に高めつつ、包丁の耐久性及び切れ味を十分に向上させることは困難であるという問題がある。
【0007】
なお、前述の問題は、包丁だけでなく、ナイフ等の他の刃物においても同様に生じるものである。
【0008】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成の刃物及び刃身の仕上げ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の発明者は、前述の課題を解決するために、少なくとも刃厚方向の一方側の刃先縁部に切り刃が形成された種々の包丁を試作し、それらの包丁について切れ味の試験を行った結果、刃身の少なくとも刃厚方向の他方側の刃先縁部にPVD又はCVDによって硬質被膜を形成する場合に、刃身の刃厚方向の他方側の刃先縁部における硬質被膜の下地に適切な粗面(微細な凹凸面)を予め形成しておくことにより、包丁(刃物)の刃先が鋸刃状の凹凸線(凹凸のある線)を呈するようにできるという、新規な知見を得ることができ、本発明を完成するに至った。ここで、「適切な粗面」とは、表面粗さの最大高さ(Rz)が10〜30μmに設定された粗面のことをいう。
【0010】
本発明の第1の特徴は、少なくとも刃厚方向の一方側の刃先縁部に切り刃が形成された刃身と、前記刃身に設けられた柄とを具備した刃物において、前記刃身の少なくとも前記刃厚方向の他方側の刃先縁部にPVD(物理蒸着)又はCVD(化学蒸着)によって硬質被膜が形成され、前記刃身の前記刃厚方向の他方側の刃先縁部における前記硬質被膜の下地に粗面(微細な凹凸面)が形成され、前記粗面の表面粗さの最大高さが10〜30μmに設定されていることを要旨とする。
【0011】
なお、本願の明細書及び特許請求の範囲において、「刃物」とは、両刃包丁、片刃包丁、両刃ナイフ、片刃ナイフ等を含む意である。
【0012】
本発明の第1の特徴によると、前記刃身の少なくとも前記刃厚方向の他方側の刃先縁部に前記硬質被膜が形成されているため、前記刃物の刃先の機械的強度(硬度)を高めることができる。また、前記硬質被膜の形成手法としてPVD又はCVDを用いているため、バッチ処理によって一度に多数の前記刃身に前記硬質被膜を形成することができる。
【0013】
前記刃身の少なくとも前記刃厚方向の他方側の刃先縁部にPVD又はCVDによって前記硬質被膜が形成された上で、前記刃身の前記刃厚方向の他方側の刃先縁部における前記硬質被膜の下地に前記粗面が形成され、前記粗面の表面粗さの最大高さ(Rz)が10〜30μmに設定されているため、前述の新規な知見を適用すると、前記刃物の刃先が鋸刃状の凹凸線(凹凸のある線)を呈するようにすることができる。
【0014】
本発明の第2の特徴は、刃物に用いられかつ少なくとも刃厚方向の一方側の刃先縁部に切り刃が形成された刃身を仕上げるための刃身の仕上げ方法において、前記刃身の少なくとも前記刃厚方向の他方側の刃先縁部に、表面粗さの最大高さが10〜30μmに設定された粗面(微細な凹凸面)を形成する粗面形成工程(凹凸面形成工程)と、前記粗面形成工程の終了後に、PVD(物理蒸着)又はCVD(化学蒸着)によって硬質被膜を前記刃身の少なくとも前記刃厚方向の他方側の刃先縁部に前記粗面を覆うように形成する被膜形成工程と、を具備したことを要旨とする。
【0015】
本発明の第2の特徴によると、前記刃身の少なくとも前記刃厚方向の他方側の刃先縁部に前記硬質被膜を形成するため、前記刃物の刃先の機械的強度(硬度)を高めることができる。また、前記硬質被膜の形成手法としてPVD又はCVDを用いているため、バッチ処理によって一度に多数の前記刃身に前記硬質被膜を形成することができる。
【0016】
前記刃身の少なくとも前記刃厚方向の他方側の刃先縁部に、表面粗さの最大高さが10〜30μmに設定された前記粗面を形成し、PVD又はCVDによって前記硬質被膜を前記刃身の前記刃厚方向の他方側の刃先縁部に前記粗面を覆うように形成しているため、前述の新規な知見を適用すると、前記刃物の刃先が鋸刃状の凹凸線(凹凸のある線)を呈するようにすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、前記刃物の刃先の機械的強度(硬度)を高めることができるため、前記刃物の刃先の摩耗を低減して、前記刃物の耐久性を十分に向上させることができる。また、バッチ処理によって一度に多数の前記刃身に前記硬質被膜を形成できるため、前記刃物の生産性を十分に高めることができる。更に、前記刃物の刃先が凹凸線が呈しているため、前記刃物の切れ味を十分に向上させることができる。つまり、本発明によれば、前記刃物の生産性を十分に高めつつ、前記刃物の耐久性及び切れ味を十分に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(a)は、本発明の第1実施形態に係る両刃包丁を示す図、
図1(b)は、本発明の第1実施形態に係る両刃包丁の刃先を含む刃先周辺の部分拡大図、
図1(c)は、
図1(a)におけるIC-IC線に沿った拡大断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2実施形態に係る刃身の仕上げ方法における粗面形成工程を説明する模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2実施形態に係る刃身の仕上げ方法における薄膜形成工程を説明する模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2実施形態に係る刃身の仕上げ方法における刃付け工程を説明する模式図である。
【
図5】
図5(a)は、本発明の第3実施形態に係る片刃包丁を示す図、
図5(b)は、本発明の第3実施形態に係る片刃包丁の刃先を含む刃先周辺の部分拡大図、
図5(c)は、
図5(a)におけるVC-VC線に沿った拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態(第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態)について図面を参照して説明する。なお、図面中、「D」は、刃厚方向、「D1」は、刃厚方向の一方側、「D2」は、刃厚方向の他方側をそれぞれ指している。
【0020】
(第1実施形態)
図1(a)(b)(c)に示すように、本発明の第1実施形態に係る両刃包丁1は刃身(包丁本体)3を具備しており、この刃身3は、耐錆性に優れたステンレス鋼又は鋼鉄からなるものである。また、刃身3の刃厚方向の一方側の刃先縁部(刃先Eの縁部)3aには、第1切り刃5が形成されており、刃身3の刃厚方向の他方側の刃先縁部3bには、第2切り刃7が形成されている。更に、刃身3の背Bの基端側には、手で持つための柄9が設けられており、この柄9は、プラスチック又は合板からなるものである。
【0021】
刃身3の刃厚方向の他方側の刃先縁部3b(第2切り刃7の縁部)には、例えばイオンブレーティングによって硬質被膜11が形成されており、この硬質被膜11は、チタンカーバイド(TiC),チタンアルミナイトライド(TiALN)等のセラミックス、又はダイヤモンドライクカーボン(DLC)等の炭素材料からなるものである。なお、硬質被膜11の形成手法(コーティング手法)としてイオンブレーティングを用いる代わりに、真空蒸着,スパッタリング等の他のPVD(物理蒸着)、又はプラズマCVD,熱CVD,光CVD等のCVD(化学蒸着)を用いても構わない。刃身3の第2切り刃7を含む刃身3の略全面に硬質被膜11が形成されるようにしても構わない。
【0022】
刃身3の刃厚方向の他方側の刃先縁部3bにおける硬質被膜11の下地には、研磨処理又はショットブラスト処理によって粗面(微細な凹凸面)13が形成されている。また、粗面13の表面粗さの最大高さ(Rz)は、10〜30μmに設定されている。粗面13の表面粗さの最大高さ(Rz)をその範囲に設定したのは、その範囲以外であると、両刃包丁1の切れ味の低下することが本願の発明者による切れ味の試験によって確認されたからである。
【0023】
刃身3の刃先角(刃先E側の角)θ1は、10〜20度、好ましくは、10〜15度に設定されている。刃身3の刃先角θ1をその範囲に限定したのは、刃身3の刃先E側の剛性を十分に確保しつつ、両刃包丁1の切れ味の良好な状態を維持するためである。また、刃身3の刃厚方向の一方側の刃先縁部3aには、刃付け処理が施されている。
【0024】
続いて、本発明の第1実施形態の作用及び効果について説明する。
【0025】
刃身3の第2切り刃7に硬質被膜11が形成されているため、両刃包丁1の刃先Eの機械的強度(硬度)を高めることができる。また、硬質被膜11の形成手法としてPVD又はCVDを用いているため、バッチ処理によって一度に多数の刃身3に硬質被膜11を形成することができる。
【0026】
刃身3の第2切り刃7にPVD又はCVDによって硬質被膜11が形成された上で、刃身3の第2切り刃7における硬質被膜11の下地に粗面13が形成され、粗面13の表面粗さの最大高さ(Rz)が10〜30μmに設定されているため、前述の新規な知見を適用すると、
図1(b)に示すように、両刃包丁1の刃先Eが鋸刃状の凹凸線(凹凸のある線)を呈するようにすることができる。
【0027】
従って、本発明の第1実施形態によれば、両刃包丁1の刃先Eの機械的強度を高めることができるため、両刃包丁1の刃先Eの摩耗を低減して、両刃包丁1の耐久性を十分に向上させることができる。また、バッチ処理によって一度に多数の刃身3に硬質被膜11を形成できるため、両刃包丁1の生産性を十分に高めることができる。更に、両刃包丁1の刃先Eが凹凸線を呈しているため、両刃包丁1の切れ味を十分に向上させることができる。つまり、本発明の第1実施形態によれば、両刃包丁1の生産性を十分に高めつつ、両刃包丁1の耐久性及び切れ味を十分に向上させることができる。
【0028】
なお、本願の発明者による切れ味の試験によって、両刃包丁1の刃先Eの摩耗によって両刃包丁1の刃先Eの鋭さが低下した場合でも、両刃包丁1の良好な切れ味が維持されることが確認されている。
【0029】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る刃身の仕上げ方法は、本発明の第1実施形態に係る両刃包丁1に用いられる多数の刃身3を仕上げるための方法であって、(i)粗面形成工程(凹凸面形成工程)と、(ii)被膜形成工程と、(iii)刃付け工程とを具備している。そして、本発明の第2実施形態に係る刃身の仕上げ方法における各工程の具体的な内容は、次のようになる。
【0030】
(i)粗面形成工程
図2に示すように、ベルト研磨機15を用い、ベルト研磨機15のベルト17を循環走行させた状態で、ベルト研磨機15を各刃身3の刃先Eから背B側に向かって各刃身3に対して相対的に移動させつつ、各刃身3の刃厚方向の他方側の刃先縁部3bに対して研磨処理を行う。これにより、各刃身3の刃厚方向の他方側の刃先縁部3bに、表面粗さの最大高さ(Rz)が10〜30μmに設定された粗面13を形成することができる。粗面13の表面粗さの最大高さ(Rz)を10〜30μmに設定したのは、前述と同様の理由によるものである。なお、各刃身3の刃厚方向の他方側の刃先縁部3bに対して研磨処理に代えてショットピーニング処理を行うようにしても構わない。
【0031】
(ii)被膜形成工程
粗面形成工程の終了後に、
図3に示すように、処理容器(処理炉)19内に設置された治具21に複数列に並んだ状態で多数の刃身3(各列の先頭の刃身3のみを図示)をセットすると共に、各刃身3の第2切り刃7以外の部分に対して適宜にマスキングを行う。そして、処理容器19内を真空雰囲気に保ちつつ、イオンブレーティングによってセラミックス又は炭素材料からなる硬質被膜11(
図1(c)及び
図4参照)を、各刃身3の刃厚方向の他方側の刃先縁部3b(第2切り刃7の縁部)に粗面13を覆うように形成する。なお、イオンブレーティングの具体的な内容は、公知であるため省略する。硬質被膜11の形成手法としてイオンブレーティングを用いる代わりに、真空蒸着,スパッタリング等の他のPVD(物理蒸着)、又はプラズマCVD,熱CVD,光CVD等のCVD(化学蒸着)を用いても構わない。各刃身3のマスキングを省略して、各刃身3の第2切り刃7を含む刃身3の略全面に硬質被膜11を形成しても構わない。
【0032】
(iii)刃付け工程
被膜形成工程の終了後に、
図4に示すように、回転砥石23を用い、回転砥石23をその軸心(回転砥石23の軸心)周りに回転させた状態で、各刃身3に対して相対的に接近させて、各刃身3の刃厚方向の一方側の刃先縁部3a、換言すれば、粗い凹凸のない刃先縁部3aに対して研磨による刃付け処理を行う。これにより、各刃身3の刃先Eを鋭利にすることができる。
【0033】
続いて、本発明の第2実施形態の作用及び効果について説明する。
【0034】
刃身3の第2切り刃7に硬質被膜11を形成するため、両刃包丁1の刃先Eの機械的強度(硬度)を高めることができる。また、硬質被膜11の形成手法としてPVD又はCVDを用いているため、バッチ処理によって一度に多数の刃身3に硬質被膜11を形成することができる。
【0035】
刃身3の第2切り刃7に、表面粗さの最大高さが10〜30μmに設定された粗面13を形成し、PVD又はCVDによって硬質被膜11を各刃身3の刃厚方向の他方側の刃先縁部3bに粗面13を覆うように形成しているため、前述の新規な知見を適用すると、
図1(b)に示すように、両刃包丁1の刃先Eが鋸刃状の凹凸線(凹凸のある線)を呈するようにすることができる。
【0036】
従って、本発明の第2実施形態においても、本発明の第1実施形態と同様の効果を奏するものである。
【0037】
(第3実施形態)
図5(a)(b)(c)に示すように、本発明の第3実施形態に係る片刃包丁25は刃身(包丁本体)27を具備しており、この刃身27は、耐錆性に優れたステンレス鋼又は鋼鉄からなるものである。また、刃身27の刃厚方向の一方側の刃先縁部(刃先Eの縁部)27aのみ、切り刃29が形成されている。更に、刃身27の背Bの基端側には、手で持つための柄31が設けられており、この柄31は、プラスチック又は合板からなるものである。
【0038】
刃身27の刃厚方向の他方側の刃先縁部27bには、本発明の第1実施形態に係る両刃包丁1(
図1(a)(c)参照)と同様に、PVD又はCVDによって硬質被膜33が形成されており、この硬質被膜33は、セラミックス又は炭素材料からなるものである。なお、刃身27の刃厚方向の他方側の刃先縁部27bを含む刃身27の略全面に硬質被膜33が形成されるようにしても構わない。
【0039】
刃身27の刃厚方向の他方側の刃先縁部27bにおける硬質被膜33の下地には、本発明の第1実施形態に係る両刃包丁1と同様に、研磨処理又はショットブラスト処理によって粗面(微細な凹凸面)35が形成されている。また、粗面35の表面粗さの最大高さ(Rz)は、10〜30μmに設定されている。
【0040】
刃身27の刃先角(刃先E側の角)θ2は、10〜20度、好ましくは、10〜15度に設定されており、刃身27の刃厚方向の一方側の刃先縁部27aには、刃付け処理が施されている。
【0041】
なお、刃身27は、本発明の第2実施形態に係る刃身の仕上げ方法と同様の仕上げ方法によって仕上げられるものである。
【0042】
続いて、本発明の第3実施形態の作用及び効果について説明する。
【0043】
刃身27の刃厚方向の他方側の刃先縁部27bに硬質被膜33が形成されているため、片刃包丁25の刃先Eの機械的強度(硬度)を高めることができる。また、硬質被膜33の形成手法としてPVD又はCVDを用いているため、バッチ処理によって一度に多数の刃身27に硬質被膜33を形成することができる。
【0044】
刃身27の刃厚方向の他方側の刃先縁部27bにPVD又はCVDによって硬質被膜33が形成された上で、刃身27の刃厚方向の他方側の刃先縁部27bにおける硬質被膜33の下地に粗面35が形成され、粗面35の表面粗さの最大高さ(Rz)が10〜30μmに設定されているため、前述の新規な知見を適用すると、
図5(b)に示すように、片刃包丁25の刃先Eが鋸刃状の凹凸線(凹凸のある線)を呈するようにすることができる。
【0045】
従って、本発明の第3実施形態においても、本発明の第1実施形態と同様の効果を奏するものである。
【0046】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、次のように種々の態様で実施可能である。例えば、両刃包丁1及び片刃包丁25に適用した技術的思想を両刃ナイフ(図示省略)及び片刃ナイフ(図示省略)に適用しても構わない。また、例えば直径10〜70μmの硬質粒子を刃身3の刃厚方向の他方側の刃先縁部3bに吹き付けて埋め込むことにより、硬質被膜(図示省略)を形成するようにしても構わない。そして、本発明に包含される権利範囲は、前述の実施形態に限定されないものである。
【符号の説明】
【0047】
E:刃先、B:背、1:両刃包丁(刃物)、3:刃身、3a:刃厚方向の一方側の刃先縁部、3b:刃厚方向の他方側の刃先縁部、5:第1切り刃、7:第2切り刃、9:柄、11:硬質被膜、13:粗面、15:ベルト研磨機、17:ベルト、19:処理容器、21:治具、23:回転砥石、25:片刃包丁(刃物)、27:刃身、27a:刃厚方向の一方側の刃先縁部、27b:刃厚方向の他方側の刃先縁部、29:切り刃、31:柄、33:硬質被膜、35:粗面