特許第6372267号(P6372267)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6372267ホスホリルコリン基含有糖誘導体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372267
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】ホスホリルコリン基含有糖誘導体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/06 20060101AFI20180806BHJP
   C08B 37/08 20060101ALI20180806BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   C08B15/06
   C08B37/08 Z
   C08B37/08 A
   A61K8/73
【請求項の数】5
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-183111(P2014-183111)
(22)【出願日】2014年9月9日
(65)【公開番号】特開2016-56267(P2016-56267A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100170346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 望
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有希子
(72)【発明者】
【氏名】宇留賀 友輝
(72)【発明者】
【氏名】姜 義哲
【審査官】 齋藤 光介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−278174(JP,A)
【文献】 特開平7−278175(JP,A)
【文献】 特開2013−253043(JP,A)
【文献】 特開2009−114073(JP,A)
【文献】 Wang, Z. et al.,J. APPL. POLYM. SCI.,2013年,vol.128, no.1,p.153-160
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
A61K
A61L
C07H
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体。
【化1】
・・・(1)
(式(1)中、Rは下記式(2)又は(3)で表される構造を示し、mは0又は1を示し、nは0〜4の整数を示し、rは4〜15の整数を示す。)
【化2】
・・・(2)
【化3】
・・・(3)
【請求項2】
請求項1に記載のホスホリルコリン基含有糖誘導体であって、
セルロース、ヒアルロン酸、キトサン、プルラン、デキストラン、シクロデキストリンのうちのいずれか1つの誘導体である
ホスホリルコリン基含有糖誘導体。
【請求項3】
下記一般式(4)で表されるホスホリルコリン含有化合物と、下記一般式(5)で表される構造を有する糖又は糖誘導体とを用意し、
前記糖又は糖誘導体と、前記ホスホリルコリン基含有化合物とを付加反応させる
ホスホリルコリン基含有糖誘導体の製造方法。
【化4】
・・・(4)
(式(4)中、rは4〜15の整数を示す。)
【化5】
・・・(5)
(式(5)中、Rは下記式(2)又は(3)で表される構造を示し、mは0又は1を示し、nは0〜4の整数を示す。)
【化6】
・・・(2)
【化7】
・・・(3)
【請求項4】
請求項1又は2記載のホスホリルコリン基含有糖誘導体を、物理的又は化学的に架橋させることにより得られる
ハイドロゲル。
【請求項5】
請求項1又は2記載のホスホリルコリン基含有糖誘導体を有効成分として含む
保湿剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホリルコリン基含有糖誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体膜を構成するリン脂質の極性基であるホスホリルコリン基は、親水性、保湿性、タンパク質吸着抑制性、及び生体適合性といった特性を有することが知られている。このため、ホスホリルコリン基を有する化合物は様々な用途に利用されている。
【0003】
例えば、α−グリセロホスホリルコリンは、乳化剤や保湿剤に含まれるリン脂質の原料として利用されている。また、特許文献1,2に記載される2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)重合体は、化粧品、コンタクトレンズや医療材料の原料として利用されている。
【0004】
一方、糖は、親水性、生分解性を有する天然由来の化合物である。糖又は糖誘導体は、例えば、繊維、製紙、化粧品や歯磨剤等の日用品、接着剤(糊)、医療など幅広い用途に利用されている。
【0005】
これまでに、重合性のホスホリルコリン基を含む化合物であるMPCと糖又は糖誘導体との共重合体は報告されているが、ホスホリルコリン基を直接糖又は糖誘導体に導入した化合物の報告例は少ない。
【0006】
ホスホリルコリン基を有する化合物は、例えば、水酸基を有するモノマーと2−クロロ−1,3,2−ジオキサホスホラン−2−オキシドとを反応させ、更にトリメチルアミンにより4級アンモニウムとする方法により得られる。この方法を用いる技術が、例えば特許文献3に記載されている。
【0007】
特許文献3に記載の技術では、反応性官能基を有するアルコール化合物にホスホリルコリン基を導入して得られるホスホリルコリン基含有化合物を、N−ヒドロキシスクイシンイミドや塩化トシルやカルボニルジイミダゾールとそれぞれ反応させる。これにより、N−ヒドロキシスクイシンイミドエステル、トシル、イミダソール基、又は多糖を有するホスホリルコリン基含有化合物が得られる。
【0008】
しかしながら、特許文献3などに記載された方法によって糖又は糖誘導体にホスホリルコリン基を直接導入する場合、ホスホリルコリン基の導入位置や導入率の制御が困難となる。これに対し、特許文献4に記載の技術では、ホスホリルコリン基の導入位置や導入率の制御が可能である。この技術では、グリセロホスホリルコリンの酸化的開裂反応により得られるアルデヒド体含有化合物を、アミノ基を含有する糖又は糖誘導体と還元アミノ化反応させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−118123号公報
【特許文献2】特開2000−279512号公報
【特許文献3】特表平5−505121号公報
【特許文献4】特開2003−301001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献4に記載の技術では、還元アミノ化試薬として、猛毒のシアン化水素(青酸ガス)を発生させる恐れのあるシアノ水素化ホウ素酸ナトリウムが使用されている。また、本技術に係るホスホリルコリン基を有する糖誘導体は、毒性のある還元剤が残存しやすく、生体や、生体類似環境での用途に適さない。
【0011】
また、ホスホリルコリン基の特性を良好に発現させるためには、一般的に、糖又は糖誘導体とホスホリルコリン基とを接続するリンカーに相当する部位が、適度な運動性を有することが重要である。更に、リンカーに相当する部位の中でも、ホスホリルコリン基に近接する部位の運動性が特に重要である。
【0012】
特許文献4に記載のホスホリルコリン基を有する多糖誘導体では、ホスホリルコリン基に近接する部位に、極性基である2級アミンを含むエチレン基がある。このため、このホスホリルコリン基を有する多糖誘導体では、この部位の運動性が低くなり、ホスホリルコリン基の慣性半径が小さくなるため、ホスホリルコリン基の元来有する機能が効果的に発現されない。
【0013】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、糖又は糖誘導体にホスホリルコリン基を直接導入するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るホスホリルコリン基含有糖誘導体は、下記一般式(1)で表される構造を有する。
【化1】
・・・(1)
(式(1)中、Rは下記式(2)又は(3)で表される構造を示し、mは0又は1を示し、nは0〜4の整数を示し、rは4〜15の整数を示す。)
【化2】
・・・(2)
【化3】
・・・(3)
【0015】
上記ホスホリルコリン基含有糖誘導体は、セルロース、ヒアルロン酸、キトサン、プルラン、デキストラン、シクロデキストリンのうちのいずれか1つの誘導体であってもよい。
【0016】
本発明の一形態に係るホスホリルコリン基含有糖誘導体の製造方法では、下記一般式(4)で表されるホスホリルコリン基含有化合物と、下記一般式(5)で表される構造を有する糖又は糖誘導体とが用意される。
上記糖又は糖誘導体と、上記ホスホリルコリン基含有化合物とが付加反応させられる。
【化4】
・・・(4)
(式(4)中、rは4〜15の整数を示す。)
【化5】
・・・(5)
(式(5)中、Rは下記式(2)又は(3)で表される構造を示し、mは0又は1を示し、nは0〜4の整数を示す。)
【化6】
・・・(2)
【化7】
・・・(3)
【0017】
本発明の一形態に係るハイドロゲルは、上記ホスホリルコリン基含有糖誘導体を、物理的又は化学的に架橋させることにより得られる。
【0018】
本発明の一形態に係る保湿剤は、上記ホスホリルコリン基含有糖誘導体を有効成分として含む。
【発明の効果】
【0019】
糖又は糖誘導体にホスホリルコリン基を直接導入するための技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
【0021】
本発明の一実施形態に係るホスホリルコリン基含有糖誘導体は、一般式(1)で表される構造を有する化合物である。
【化8】
・・・(1)
(式(1)中、Rは下記式(2)又は(3)で表される構造を示し、mは0又は1を示し、nは0〜4の整数を示し、rは4〜15の整数を示す。)
【化9】
・・・(2)
【化10】
・・・(3)
【0022】
本実施形態に係る式(1)に表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体は、ホスホリルコリン基の機能と、糖類の機能とを併せ持つ。ホスホリルコリン基の機能としては、親水性、保湿性、タンパク質吸着の抑制、及び生体適合性などが挙げられる。これに加え、ホスホリルコリン基は、糖類の粘性を低下させ、又は安定化に寄与する。糖類の機能としては、生分解性及び生体適合性などが挙げられる。
【0023】
式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体は、例えば、化粧品分野や医療材料分野で利用可能である。化粧品分野では、例えば、ホスホリルコリン基の機能により、肌への浸透性を高めることができ、また抗シワ剤などの生理活性を発現させることができる。医療材料分野では、生分解性及び生体適合性といった糖類が有する機能と、抗血栓性といったホスホリルコリン基が有する機能とにより、例えば、癒着防止剤、細胞培養の足場、薬物内包キャリアーとしての利用が期待される。
【0024】
式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体は、一般式(4)で表されるホルミル基を有するホスホリルコリン基含有化合物と、一般式(5)で表される構造を有する糖又は糖誘導体とを付加反応させることにより得られる。
【化11】
・・・(4)
(式(4)中、rは4〜15の整数を示す。)
【化12】
・・・(5)
(式(5)中、Rは上記式(2)又は(3)で表される構造を示し、mは0又は1を示し、nは0〜4の整数を示す。)
【0025】
式(4)で表されるホルミル基を有するホスホリルコリン基含有化合物としては、例えば、4−ホルミルブチルホスホリルコリン、5−ホルミルペンチルホスホリルコリン、6−ホルミルヘキシルホスホリルコリン、7−ホルミルヘプチルホスホリルコリン、8−ホルミスオクチルホスホリルコリン、9−ホルミルノニルホスホリルコリン、10−ホルミルデセニルホスホリルコリン、11−ホルミルウンデセニルホスホリルコリン、12−ホルミルドデセニルホスホリルコリン、13−ホルミルトリデセニルホスホリルコリン、14−ホルミルテトラデセニルホスホリルコリン、15−ホルミルペンタデセニルホスホリルコリンが挙げられる。
【0026】
式(4)で表されるホルミル基を有するホスホリルコリン基含有化合物は、例えば、ジヒドロキシ基含有ホスホリルコリン基含有化合物を酸化的開裂することにより得られる。ジヒドロキシ基含有ホスホリルコリン基含有化合物は、例えば、米国特許第5,144,045号明細書に記載されたアルケニル基含有ホスホリルコリン基含有化合物のエポキシ化によりエポキシ基を有するホスホリルコリン基含有化合物を作製し、このエポキシ基を有するホスホリルコリン基含有化合物を酸触媒存在下で開環することにより得られる。
【0027】
式(5)で表される構造を有する糖又は糖誘導体は、特定の種類に限定されず、式(4)で表されるホルミル基を有するホスホリルコリン基含有化合物が反応できるアミノ基を有するものであればよい。
【0028】
式(5)で表される構造を有する糖又は糖誘導体の生成は、公知の糖を利用可能である。公知の糖としては、例えば、デキストラン、シクロデキストリン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、プルラン、グルコマンナン、アガロース、キチン、キトサン、アルギン酸、アミロース、アミロペクチン、カードラン、スクレオグルカン、キシラン、イヌリン、グアーガム、シゾフィランといった多糖及び、α―シクロデキストリン、β―シクロデキストリン、γ―シクロデキストリンなどが挙げられる。
【0029】
式(5)で表される構造を有する糖又は糖誘導体は、アミノ基を有さない公知の糖又は糖誘導体に、公知の方法によりアミノ基を導入することによって作製されてもよい。アミノ基を有さない糖又は糖誘導体にアミノ基を導入するためには、例えば、糖又は糖誘導体が有するヒドロキシメチル基とハロゲン化アルキルアミンとの反応や、糖又は糖誘導体が有するカルボキシル基とアルキレンジアミンとのカップリング反応を利用することができる。
【0030】
式(5)で表される構造を有する糖又は糖誘導体におけるアミノ基の含有量により、最終目的物である式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体におけるホスホリルコリン基の含有量を制御することができる。なお、式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体には、ホスホリルコリン基が付加せずにアミノ基やヒドロキシメチル基が残存している繰り返し単位があってもよい。
【0031】
式(5)で表される構造を有する糖又は糖誘導体は、例えば、市販品のセルロース、ヒアルロン酸などに対し、ハロゲン化アルキルアミンによるアミノ化や、アルキレンジアミンとのカップリング反応によるアミノ化を行うことにより得られる。また、式(5)で表される構造を有する糖又は糖誘導体としてはアミノ化済みの市販品を用いてもよい。
【0032】
式(5)で表される構造を有する糖又は糖誘導体のアミノ化度は、ハロゲン化アルキルアミンやアルキレンジアミンの仕込み当量により制御可能であり、任意に調整可能である。
【0033】
式(5)で表される構造を有する糖又は糖誘導体としては、分子量が、1,000〜1000,000、好ましくは5,000〜50,0000、より好ましくは5,000〜200,000である試薬又は市販品を使用可能である。
【0034】
セルロースの市販品としては、例えば、日本製紙ケミカル(株)のサンローズなどを使用可能である。
【0035】
ヒアルロン酸は、鶏冠、牛、豚などの動物由来のものであっても、またストレプトコッカス類などの菌による発酵法により得られるものであってもよい。ヒアルロン酸としては、市販品を使用することが可能である。ヒアルロン酸の市販品としては、例えば、(株)資生堂製のバイオヒアルロン酸ナトリウムHA9N、キッコーマンバイオケミファ(株)製のヒアルロン酸FCH−SU、ヒアルロン酸FCH−A、マイクロヒアルロン酸FCH、などを使用可能である。
【0036】
キトサンは、脱アセチル化度は80%以上のものを使用することが好ましい。キトサンの市販品としては、例えば、大日精化(株)社製のダイキトサンVL,ダイキトサン100D(VL)や、焼津水産化学工業のキトサン,キトサンオリゴ糖を使用可能である。
【0037】
プルランの市販品としては、例えば、(株)林原のPU101を使用可能である。
【0038】
デキストランの市販品としては、例えば、名糖産業(株)のデキストラン40,カルボキシルメチルデキストランナトリウムを使用可能である。
【0039】
シクロデキストリンはとしては、α、β、γのいずれのものも使用可能であり、試薬も使用可能である。
【0040】
式(5)で表される構造を有する糖又は糖誘導体は、アミノ基以外に、例えば、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、ポリオキシエチレン基、アンモニウム基、アミド、カルボキシベタイン、炭素原子数1〜22の直鎖状又は分岐アルキル、コレステロール、オレイル等不飽和結合を含むアルキル基、ベンゼン環、ナフタレン環、ピレンをはじめとする炭化水素系芳香族、ピリジン環、イミダゾール、チアゾール、インドール等のヘテロ系芳香族、パーフルオロアルキル、ポリアルキルシロキサン等の官能基を含有していてもよい。
【0041】
式(5)で表される構造を有する糖又は糖誘導体に含ませるアミノ基以外の官能基の種類及び含有量によって、最終目的物である式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体の機能を設計することができる。
【0042】
式(5)で表される構造を有する糖又は糖誘導体では、上記の官能基がエステル、エーテル、アミド、ウレタン、尿素結合等により直接主鎖に結合されていてもよいし、上記の官能基がスペーサーを介して主鎖に結合されていてもよい。スペーサーの種類としては、例えば、ポリエチレンオキサイドポリプロピレンオキサイド、直鎖状アルキル(炭素原子数2〜22)等が挙げられる。
【0043】
式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体の製造方法において、式(4)で表されるホルミル基を有するホスホリルコリン基含有化合物の使用量は、(5)で表されるアミノ基を有する糖又は糖誘導体のアミノ基に対して、モル比で0.1〜20倍量、好ましくは0.5〜10倍量、最も好ましくは1〜3倍量である。
【0044】
式(4)で表される化合物の使用量が、式(5)で表される構造を有する化合物のアミノ基に対して0.1倍量より少ない場合には、高い反応転化率が達成されない恐れがある。また式(4)で表される化合物が、式(5)で表される構造を有する化合物のアミノ基に対して20倍量よりも多い場合には、更なる反応転化率の向上が見込めず、式(4)で表される化合物に、反応転化率の向上に寄与しない余剰分が発生する。
【0045】
式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体の製造方法において、式(4)で表されるホルミル基を有するホスホリルコリン基含有化合物を、式(5)で表される構造を有するアミノ基を有する糖又は糖誘導体に付加させる反応に利用可能な溶媒は、式(4)で表される化合物、及び式(5)で表される構造を有する化合物を溶解可能であれば特定の種類に限定されない。
【0046】
式(4)で表される化合物、及び式(5)で表される構造を有する化合物を溶解可能な溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びこれらの混合溶液が挙げられる。しかし、式(4)で表される化合物、及び式(5)で表される構造を有する化合物の溶解性の観点から、溶媒は水であることが好ましい。
【0047】
極性溶媒の使用量は、式(4)で示されるホルミル基を有するホスホリルコリン基含有化合物、及び式(5)で表される構造を有する糖又は糖誘導体に対して、質量比で通常1〜100倍量、好ましくは5〜30倍量、最も好ましくは10〜20倍量である。
【0048】
式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体の製造方法において、式(4)で示されるホルミル基を有するホスホリルコリン基含有化合物を、式(5)で表される構造を有する糖又は糖誘導体に付加させる反応における反応温度は、通常1〜150℃、好ましくは10〜100℃、最も好ましくは25℃〜80℃である。
【0049】
反応温度が1℃よりも低い場合には、反応に長時間を要する恐れがある。また、反応温度が150℃より高い場合には、更なる反応速度が望めないうえ、酸性条件下においては糖や糖誘導体のグリコシド結合の解離が起こる恐れがある。反応時間は、反応温度、濃度などの条件により異なるが、通常1〜24時間程度であることが好ましい。
【0050】
本実施形態では、上記の製造方法により、ホスホリルコリン基を任意の量で含有する、式(1)で表わされる構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体を容易に製造可能である。式(1)で表わされる構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体は、糖の種類によらず、ほぼ同じ方法で簡便に得られる。本実施形態で得られるホスホリルコリン基含有糖誘導体は、そのまま未精製で用いられる他、減圧乾燥、凍結乾燥、再沈殿、透析、カラム、イオン交換、ゲル濾過などの処理により単離、精製を行ってから用いられることも可能である。
【0051】
式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体を用いて形成されるハイドロゲルは、天然物由来の生体吸収性材料である糖と、生体適合性、抗血栓性の高いホスホリルコリン基を有していることから、癒着防止剤、細胞培養基材、細胞の分化誘導の足場、薬物内包キャリアーなどとして利用できる。
【0052】
このハイドロゲルは、式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体中に残存する水酸基、カルボキシル基、あるいはアミノ基を架橋点として利用した物理的なイオン性結合によるものであってもよく、また化学的な共有結合によるものであってもよい。
【0053】
式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体を用いるハイドロゲルの調製においては、1種類又は複数種類のホスホリルコリン基含有糖誘導体が組み合わせて用いられてもよい。
【0054】
式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体を用いるハイドロゲルの調製における架橋反応としては、熱反応や、光反応や、酵素反応を利用することができる。
【0055】
共有結合による架橋構造を有するハイドロゲルは、式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体中に存在する水酸基、アミノ基あるいはカルボキシル基を、これらと反応する官能基を有する2官能以上の架橋剤によって架橋し、あるいは自己架橋することで調製可能である。
【0056】
2官能以上の架橋剤は、水酸基、アミノ基あるいはカルボキシル基と反応するものであれば、特定の種類に限定されない。2官能以上の架橋剤としては、例えば、アルデヒド化合物、エポキシ化合物、(無水)カルボン酸化合物、アミン化合物、カーボネート化合物、イソシアネート化合物、ビニル化合物、カルボジイミド化合物、スクシンイミド化合物等が挙げられる。
【0057】
2官能以上の架橋剤の具体例としては、グルタルアルデヒド、1,3−ブタジエンジエポキシド、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ポリエチレンイミン、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート型イソシアヌレート、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、1,3−ビス(2,2−ジメチル―1,3−ジオキソラン―4−イルメチル)カルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、N−ヒドロキシスクシンイミド、などが挙げられる。
【0058】
共有結合による架橋構造を有するハイドロゲルを調製する際に使用する架橋剤の配合量は、式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体中の水酸基、アミノ基、あるいはカルボキシル基に対して、0.1〜5当量、好ましくは、0.1〜3当量、最も好ましくは0.5〜1当量である。架橋剤の配合量が0.1当量よりも少ない場合には、ゲル化が起きないことが懸念される。架橋剤の配合量が5当量よりも多い場合には、ハイドロゲルがもろくなる、又は、架橋剤に、ハイドロゲルの物性に寄与しない余剰分が生じる。
【0059】
イオン結合による架橋構造を有するハイドロゲルは、式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体中に存在するアニオン性基あるいはカチオン性基をイオン性架橋点とし、それぞれ、カチオン性化合物、アニオン性化合物と反応させてイオンコンプレックスを形成することで調製可能である。これにより得られるハイドロゲルとしては、例えば、アニオン性多糖であるヒアルロン酸とカチオン性多糖であるキトサンとのイオンコンプレックスゲルが挙げられる。
【0060】
イオン結合による架橋構造を有するハイドロゲルを調製する際に使用可能なカチオン性基を有する化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、3,3―ジアミノジプロピルアミン、トリエチレンテトラミン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、N−N'−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、エチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ポリアルキレンアミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、キトサン、ポリアミノエピクロロヒドリン樹脂、ポリアミノスチレン、アミノアルキル基(末端基、又は側基)含有ポリジメチルシロキサン、キチン、キトサン等を用いることができる。
【0061】
また、イオン結合による架橋構造を有するハイドロゲルを調製する際に使用可能なアニオン性基を有する化合物としては、例えば、マロン酸、コハク酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、もしくは3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、ヒアルロン酸、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルプルラン、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメチルシクロデキストリン等を用いることができる。
【0062】
イオン結合による架橋構造を有するハイドロゲルを調製する際のアニオン性成分とカチオン性成分とを有する化合物の配合割合(アニオン性成分:カチオン性成分)は、通常20:80〜80:20で、特に40:60〜60:40が好ましい。アニオン性成分とカチオン性成分とのうちどちらか一方が20%以下の配合となる場合には、ゲル化がおきない、又は、コンプレックス形成が弱く、もろくなることが懸念される。
【0063】
式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体を有効成分として含む保湿剤は、特に、皮膚に対して優れた保湿性及び使用感を示すので、例えば、皮膚に適用する各種化粧料の用途に特に適している。
【0064】
式(1)で表される構造を有するホスホリルコリン基含有糖誘導体を有効成分として含む保湿剤を化粧料に配合する場合の配合量は、通常0.05〜30質量%、特に0.1〜20質量%が好ましい。配合量が0.05質量%未満の場合には、当該保湿剤の優れた効果が発揮されない恐れがある。一方、配合量が30質量%を超える場合には、べたつき感が生じ、使用感の効果が低下する恐れがある。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0066】
[合成例1]5,6−ジヒドロキシヘキセニルホスホリルコリン(式(B)で表される化合物)合成
200mLのフラスコに式(A)で表される5−ヘキセニルホスホリルコリン1.33g(5.0mmol)、メタクロロ過安息香酸2.16g(12.5mmol)、アンバーリスト650mg、クロロホルム15mL、及び水30mLを加えて室温で48時間攪拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣に水10mLを加えた。析出した白色固体をろ過(ろ紙:No.5C)により除去し、ろ液を酢酸エチル10mLで3回洗浄し、水層を減圧濃縮して式(B)で表される5,6−ジヒドロキシヘキセニルホスホリルコリンを得た。収量は1.38g(4.6mmol)、収率は92%であった。
【化13】
・・・(A)
【化14】
・・・(B)
【0067】
[合成例2]4−ホルミルブチルホスホリルコリン(式(C)で表される化合物)の合成
50mLフラスコに式(B)で示す5,6−ジヒドロキシヘキセニルホスホリルコリン299mg(1.0mmol)及び水10mLを加えて攪拌した。過ヨウ素酸ナトリウム321mg(1.5mmol)を加えて室温で2時間攪拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣にメタノールを加えた。析出した固体をろ過(ろ紙:No.5C)により除去し、ろ液にイオン交換樹脂(三菱化学製DIAION WA21)を加えて3時間攪拌した。ろ過(PTFEフィルター:0.45μm)により固体を除去し、ろ液を減圧濃縮して式(C)で表される4−ホルミルブチルホスホリルコリンを得た。収量は249mg(0.93mmol)、収率は93%であった。
【化15】
・・・(C)
【0068】
[合成例3]10,11−ジヒドロキシウンデシルホスホリルコリン(式(E)で表される化合物)の合成
200mLのフラスコに式(D)で表される10−ウンデシルホスホリルコリン1.68g(5.0mmol)、メタクロロ過安息香酸2.16g(12.5mmol)、アンバーリスト650mg、クロロホルム15mL、及び水30mLを加えて室温で48時間攪拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣に水10mLを加えた。析出した白色固体をろ過(ろ紙:No.5C)により除去し、ろ液を酢酸エチル10mLで3回洗浄し、水層を減圧濃縮して式(E)で表される10,11−ジヒドロキシウンデシルホスホリルコリンを得た。収量は1.75g(4.75mmol)、収率は95%であった。
【化16】
・・・(D)
【化17】
・・・(E)
【0069】
[合成例4]9−ホルミルノニルホスホリルコリン(式(F)で表される化合物)の合成
50mLフラスコに式(E)で表される10,11−ジヒドロキシウンデシルホスホリルコリン369mg(1.0mmol)及び水10mLを加えて攪拌した。過ヨウ素酸ナトリウム321mg(1.5mmol)を加えて室温で2時間攪拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣にメタノールを加えた。析出した固体をろ過(ろ紙:No.5C)により除去し、ろ液にイオン交換樹脂(三菱化学製DIAION WA21)を加えて3時間攪拌した。ろ過(PTFEフィルター:0.45μm)により固体を除去し、ろ液を減圧濃縮して式(F)で表される9−ホルミルノニルホスホリルコリンを得た。収量は297mg(0.88mmol)、収率は88%であった。
【化18】
・・・(F)
【0070】
[合成例5]ホルミルメチルホスホリルコリン(式(G)で表される化合物)の合成
特願2006−95446号(特開2007−269657号公報)に開示される方法よって合成したα―グリセロホスホリルコリン(GPC)20.0gを水(80mL)に溶解し、室温にて過ヨウ素酸ナトリウム20.1gを加え、1h攪拌した。反応終了後、反応溶液を減圧濃縮して水を留去し、残渣を脱水メタノールに溶解した。析出した固体をろ過(ろ紙:No.5C)により除去し、ろ液を減圧濃縮した。残渣を脱水メタノールに溶解し、イオン交換樹脂を加えて攪拌した。固形分をろ過(PTFEフィルター:0.45mm)により除去し、ろ液を減圧濃縮し、残渣を減圧乾燥することで式(G)で表されるホルミルメチルホスホリルコリンを得た。
【化19】
・・・(G)
【0071】
[合成例6]アミノ基含有セルロース(式(H)で表される化合物)の合成
ナスフラスコにセルロース20.0gに、ジメチルスルホキシド(DMSO)180gを加えテトラブチルアンモニウムブロミドを149g(3当量)加え、ブロモエチルアミン57.3g(3当量)を加え、80℃で12時間反応させた。反応終了後、エタノールで再沈殿することにより、式(H)で表されるアミノ基含有セルロースを得た。
【化20】
・・・(H)
【0072】
[合成例7]アミノ基含有ヒアルロン酸(式(I)で表される化合物)の合成
ナスフラスコにヒアルロン酸(FCH−A キッコーマン製)20.0gに、イオン交換水を180gを加えテトラブチルアンモニウムブロミドを49.0g(3当量)加えて60℃で12時間攪拌して、エタノールによる最沈殿を行うことで、DMSOに可溶なヒアルロン酸を得た。このヒアルロン酸15.0gをDMSO135gに溶解し、ブロモエチルアミン14.1g(3当量)を加え、80℃で12時間反応させた。反応終了後、エタノールで再沈殿することにより、式(I)で表されるアミノ基含有ヒアルロン酸を得た。
【化21】
・・・(I)
【0073】
[合成例8]アミノ基含有ヒアルロン酸(式(J)で表される化合物)の合成
ナスフラスコにヒアルロン酸(FCH−A キッコーマン製)20.0gに、イオン交換水を180g加え1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を10.6g(1.1当量)加えて50℃で1時間攪拌し、その後、エチレンジアミンを1.65g(1.1当量)を加えて同温で13時間攪拌した後、エタノールによる最沈殿をすることにより、式(J)で表されるアミノ基含有ヒアルロン酸を得た。
【化22】
・・・(J)
【0074】
[合成例9]アミノ基含有ヒアルロン酸(式(K)で表される化合物)の合成
ナスフラスコにヒアルロン酸(FCH−A キッコーマン製)20.0gに、イオン交換水を180g加え1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を10.6g(1.1当量)加えて50℃で1時間攪拌し、その後、Bis(6−アミノヘキシル)アミンを11.9g(1.1当量)を加えて同温で13時間攪拌した後、エタノールによる最沈殿をすることにより、式(K)で表されるアミノ基含有ヒアルロン酸を得た。
【化23】
・・・(K)
【0075】
[実施例1−1]ホスホリルコリン基含有セルロース(式(aa)で表される化合物)の合成(P含量:48.7mg/g)
ナスフラスコに合成例6において合成したアミノ基含有セルロース10.0gに、イオン交換水とエタノールの混合溶媒90gを加え、合成例4において合成したホルミルノニルホスホリルコリン18.1g、50mlのメタノールに溶解した2−ピコリンボランを11.5g加え、室温で7時間反応させた。反応終了後、エタノールで再沈殿した後にNMR測定を行ったところ、(*1)に示す帰属が得られたことから式(aa)で表される化合物であることを確認した。
得られた化合物をモリブデン青法により、りんの定量を行ったところ、65.0%であった。
(*1)
13C−NMR(DO, 標準物質TMS) 19.8〜21.0ppm(C10、11、12、13、14、15、16、17),42.9ppm〜48.1ppm(C8、9、21),61.3〜75.1ppm(C2、3、4、、C6、7、18、19、20),95.8〜102.5ppm(C
【化24】
・・・(aa)
【0076】
[実施例1−2]ホスホリルコリン基含有ヒアルロン酸(式(bb)で表される化合物)の合成(P含量:23.6mg/g)
ナスフラスコに合成例7において合成したアミノ基含有ヒアルロン酸10.0gに、イオン交換水とエタノールの混合溶媒90gを加え、合成例4において合成したホルミルノニルホスホリルコリン8.8g、50mlのメタノールに溶解した2−ピコリンボランを5.6g加え室温で7時間反応させた。反応終了後、エタノールで再沈殿した後にNMR測定を行ったところ、(*2)に示す帰属が得られたことから式(bb)で表される化合物であることを確認した。
得られた化合物をモリブデン青法により、りんの定量を行ったところ、48.1%であった。
(*2)
13C−NMR(DO, 標準物質TMS) 19.8〜21.0ppm(12、C13、C14、15、16、17、18、19、),30.9ppm(C),42.9〜48.1ppm(C10、C11、C23),60.8〜74.3ppm(C、C、C、C、C、C、C20、21、C22、C25、C26、C27、C28),95.3〜101.2ppm(C、C24),174.2ppm(C29),177.7ppm(C
【化25】
・・・(bb)
【0077】
[実施例1−3]ホスホリルコリン基含有ヒアルロン酸(式(cc)で表される化合物)の合成(P含量:23.6mg/g)
ナスフラスコに合成例8において合成したアミノ基含有ヒアルロン酸10.0gに、イオン交換水とエタノールの混合溶媒90gを加え、合成例2において合成したホルミルブチルホスホリルコリン6.6g、50mlのメタノールに溶解した2−ピコリンボランを5.3g加え室温で7時間反応させた。反応終了後、エタノールで再沈殿した後に、NMR測定を行ったところ、(*3)に示す帰属が得られたことから式(cc)で表される化合物であることを確認した。
得られた化合物をモリブデン青法により、りんの定量を行ったところ、51.2%であった。
(*3)
13C−NMR(DO, 標準物質TMS) 19.6〜21.0ppm(C18、C19、20、),30.9ppm(C),42.9〜48.0ppm(C16、C17、C24),60.8〜74.3ppm(C、C、C、C、C、C10、C11、C12、C13、C15、C21、22、23),95.3〜101.2ppm(C、C),177.7ppm(C),183.9ppm(C14
【化26】
・・・(cc)
【0078】
[実施例1−4]ホスホリルコリン基含有ヒアルロン酸(式(dd)で表される化合物)の合成(P含量:22.9mg/g)
ナスフラスコに合成例8において合成したアミノ基含有ヒアルロン酸10.0gに、イオン交換水とエタノールの混合溶媒90gを加え、合成例4において合成したホルミルノニルホスホリルコリン5.75g、50mlのメタノールに溶解した2−ピコリンボランを3.65g加え室温で7時間反応させた。反応終了後、エタノールで再沈殿した後に、NMR測定を行ったところ、(*4)に示す帰属が得られたことから式(dd)で表される化合物であることを確認した。
得られた化合物をモリブデン青法により、りんの定量を行ったところ、55.0%であった。
(*4)
13C−NMR(DO, 標準物質TMS) 19.6〜21.0ppm(C18、C19、20、21、22、23、24、25),30.9ppm(C),42.8〜48.0ppm(C16、C17、C29),60.8〜74.3ppm(C、C、C、C、C、C10、C11、C12、C13、C15、C26、27、28),95.3〜101.2ppm(C、C),177.7ppm(C),183.9ppm(C14
【化27】
・・・(dd)
【0079】
[実施例1−5]ホスホリルコリン基含有キトサン(式(ee)で表される化合物)の合成(P含量:39.7mg/g)
ナスフラスコにキトサン(ダイキトサン 100DVL 大日精化製)10.0gに、イオン交換水とエタノールの混合溶媒90gを加え、合成例4において合成したホルミルノニルホスホリルコリン23.0g、50mlのメタノールに溶解した2−ピコリンボランを14.6g加え室温で7時間反応させた。反応終了後、エタノールで再沈殿した後に、NMR測定を行ったところ、(*5)に示す帰属が得られたことから式(ee)で表される化合物であることを確認した。
得られた化合物をモリブデン青法により、りんの定量を行ったところ、62.0%であった。
(*5)
13C−NMR(DO, 標準物質TMS) 19.6〜21.0ppm(C10、C11、C12、C13、C14、C15、C16、C17)42.5〜48.1ppm(C、C、C、C21),61.0〜73.9ppm(C、C、C、C、C18、C19、20、22、C23、C24、C25),95.1〜103.2ppm(C、C
【化28】
・・・(ee)
【0080】
[比較例1−1]ホスホリルコリン基含有ヒアルロン酸(式(ff)で表される化合物)の合成(P含量:24.0mg/g)
ナスフラスコに合成例8において合成したアミノ基含有ヒアルロン酸10.0gに、イオン交換水とエタノールの混合溶媒90gを加え、合成例5において合成したホルミルメチルホスホリルコリン5.3g、50mlのメタノールに溶解した2−ピコリンボランを5.0g加え室温で7時間反応させた。反応終了後、エタノールで再沈殿した後に、NMR測定を行ったところ、(*6)に示す帰属が得られたことから式(ff)で表される化合物であることを確認した。
得られた化合物をモリブデン青法により、りんの定量を行ったところ、49.9%であった。
(*6)
13C−NMR(DO, 標準物質TMS) 30.9ppm(C),42.3〜48.0ppm(C16、C17、C21),60.8〜74.3ppm(C、C、C、C、C、C10、C11、C12、C13、C15、C18、C19、C20),95.3〜101.2ppm(C、C),177.7ppm(C),183.9ppm(C14
【化29】
・・・(ff)
【0081】
[比較例1−2]ホスホリルコリン基含有ヒアルロン酸(式(gg)で表される化合物)の合成(P含量:18.9mg/g)
ナスフラスコに合成例9において合成したアミノ基含有ヒアルロン酸10.0gに、イオン交換水とエタノールの混合溶媒90gを加え、合成例5において合成したホルミルメチルホスホリルコリン4.3g、50mlのメタノールに溶解した2−ピコリンボランを4.1g加え室温で7時間反応させた。反応終了後、エタノールで再沈殿した後に、NMR測定を行ったところ、(*7)に示す帰属が得られたことから式(gg)で表される化合物であることを確認した。
得られた化合物をモリブデン青法により、りんの定量を行ったところ、48.2%であった。
(*7)
13C−NMR(DO, 標準物質TMS) 18.0〜19.6ppm(C16、17、18、19、22、23、24、25),30.9ppm(C),42.8〜48.2ppm(C20、21、26、27、31),60.8〜74.3ppm(C、C、C、C、C、C10、C11、C12、C13、C15、C28、29、C30),95.3〜101.2ppm(C、C),177.7ppm(C),183.9ppm(C14
【化30】
・・・(gg)
【0082】
[りんの定量法]
得られたホスホリルコリン基を有する糖誘導体はりんの定量(モリブデン青法)により分析を行い、PC基の導入率はりんの定量(モリブデン青法)により算出した。
【0083】
りんの定量はメルク社製のりん定キット(phosphate cell test)を用いて、簡易型全リン計(WTW社 携帯用水質測定器 pHotoFlex)により以下の操作手順に従ってP元素の含量を測定し、PC基の導入率を下記式(a)より算出した。
【0084】
(操作手順)
反応セルに所定の濃度(≒0.01wt%)に調製したホスホリルコリン基を有する多糖を水溶液5ml加え、p―1K試薬を1回分添加して攪拌混合後、ブロックヒーター内で120℃で30分反応させる。リファレンスとしてキトサンを含むイオン交換水のみの反応セルにも、p―1Kを加えた後に同様にブロックヒーター内で反応させる。
【0085】
反応後、30分間室温で冷却し、各反応セルにp―2K試薬を5滴ずつ加えて攪拌混合する。その後、p―3K試薬を各反応セルに1回分加え、5分間放置する。その後、pHotoFlexにより612nmの吸光度からりん(P)元素の含量(mg/l)を測定した。得られたP元素含量から式(a)を用いてP元素の導入率を算出することで、ホスホリルコリン基の導入率とした。
【0086】
(試薬)
p―1K ペルオキソニ硫酸カリウム30%
p―2K 硫酸(15.0%),酒石酸アンチモニルカリウム(30%)
p―3K アスコルビン酸
反応セル 硫酸15.0%
【0087】
【数1】
【0088】
[実施例2−1]ヒアルロン酸PCハイドロゲルの調製(1)
実施例1−3で合成したヒアルロン酸PCをイオン交換水に溶解し、1,3−ビス(2,2−ジメチル―1,3−ジオキソラン―4−イルメチル)カルボジイミドを1.0等量添加して室温で攪拌後、静置することでゲル化物を得た。これを、過剰の水及びエタノールで交互に浸漬を数回繰り返すことで、未反応の1,3−ビス(2,2−ジメチル―1,3−ジオキソラン―4−イルメチル)カルボジイミドを除去し、凍結乾燥した。凍結乾燥後の架橋体に所定のイオン交換水で含水させ、平衡膨潤させた。
【0089】
平衡膨潤後の含水した架橋体の重量から、下記式(b)を用いて含水率を算出した。また、イオン交換水で平衡膨潤した架橋体を水に浸漬させながら固液界面での気泡との表面接触角を静的接触角装置CA−DT・A型(協和界面科学株式会社)を用いて測定した。解析は三態系法を用いた。
【0090】
[実施例2−2]ヒアルロン酸PCハイドロゲルの調製(2)
実施例1−4で合成した化合物を用いて、実施例2−1と同様の方法で、ハイドロゲルを作製し、同様の方法で含水率及び表面接触角を評価した。
【0091】
[実施例2−3]キトサンPCハイドロゲルの調製
実施例1−5で合成したキトサンPCをイオン交換水に溶解し、そこにグルタルアルデヒドをキトサンのアミノ基に対して、0.5等量添加、静置することでゲル化物を得た。これを、過剰の水及びエタノールで交互に浸漬を数回繰り返すことで、未反応のグルタルアルデヒドを除去し、凍結乾燥した。凍結乾燥後の架橋体に所定のイオン交換水を含水させ、平衡膨潤させた。
【0092】
平衡膨潤後の含水した架橋体の重量から、下記式(b)を用いて含水率を算出した。また、イオン交換水で平衡棒潤した架橋体を水に浸漬させながら固液界面で気泡との表面接触角を性的接触角装置CADT・A型(協和界面科学株式会社製)を用いて測定した。解析は三態系を用いた。
【0093】
[比較例2−1]ヒアルロン酸PCハイドロゲルの調製(4)
比較例1−1で合成した化合物を用いて、実施例2−1と同様の方法で、ハイドロゲルを作製し、同様の方法で含水率及び表面接触角を評価した。
【0094】
[比較例2−2]ヒアルロン酸PCハイドロゲルの調製(5)
比較例1−2で合成した化合物を用いて、実施例2−1と同様の方法で、ハイドロゲルを作製し、同様の方法で含水率及び表面接触角を評価した。
【0095】
[比較例2−3]ヒアルロン酸ハイドロゲルの調製
ヒアルロン酸PCの代わりにヒアルロン酸を用い、実施例2−1と同様の方法で、ハイドロゲルを作製し、同様の方法で含水率及び表面接触角を評価した。
【0096】
[比較例2−4]キトサンハイドロゲルの調製
キトサンPCの代わりにキトサンを用い、実施例2−3と同様の方法で、ハイドロゲルを作製し、同様の方法で含水率及び表面接触角を評価した。
【0097】
【数2】
【0098】
実施例2−1,2−2,2−3、比較例2−1,2−2,2−3,2−4の結果を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
[含水率及び表面接触角評価結果]
実施例2−1,2−2,2−3では、いずれも含水率が95%で、かつ、表面接触角が150°以上である、良好な特性を有するハイドロゲルが得られた。一方、比較例2−1,2−2に係るハイドロゲルでは、いずれも含水率が95%未満で、表面接触角が150°未満である不十分な特性のハイドロゲルが得られた。また、比較例2−3,2−4では、ハイドロゲルとして十分な含水率が得られなかった。
【0101】
[実施例2−5]保水性評価
実施例1−3で得られた化合物(ヒアルロン酸ホスホリルコリン(ヒアルロン酸PC))を表2に示す組成に従って配合した水溶液を調整した。
【0102】
[実施例2−6〜2−8]保水性評価
表2に示す組成に従ってそれぞれ配合した水溶液を調整した。実施例2−6では、実施例1−4で得られた化合物(ヒアルロン酸ホスホリルコリン(ヒアルロン酸PC))を用いた。実施例2−7では、実施例1−5で得られた化合物(キトサンホスホリルコリン(キトサンPC))を用いた。実施例2−8では、実施例1−3で得られた化合物(ヒアルロン酸PC)及び実施例1−6で得られた化合物(キトサンPC)を用いた。
【0103】
[比較例2−5,2−6]保水性評価
表2に示す組成に従ってそれぞれ配合した水溶液を調整した。比較例2−5では、比較例1−1で合成した化合物を用いた。比較例2−6では、比較例1−2で合成した化合物を用いた。つまり、比較例2−5,2−6では、本発明の範囲外であるホスホリルコリン基含有糖誘導体が用いられる。
【0104】
[比較例2−7,2−8]保水性評価
表2に示す組成に従ってそれぞれ配合した水溶液を調整した。比較例2−7では、ヒアルロン酸を用いた。比較例2−8では、キトサンを用いた。つまり、比較例2−7,2−8では、ホスホリルコリン基を含有しない糖が用いられる。
【0105】
[比較例2−9,2−10,2−11]保水性評価
表2に示す組成に従ってそれぞれ配合した水溶液を調整した。比較例2−9,2−10,2−11では、保湿化粧水の保湿機能成分として一般的な化合物を用いた。比較例2−9では、グリセリンを用いた。比較例2−10では、ジプロピレングリコールを用いた。比較例2−11では、1,3ブタンジオールを用いた。
【0106】
[官能評価]
実施例2−5,2−6,2−7,2−8、比較例2−5,2−6,2−7,2−8で得られた各保湿成分を配合した水溶液について、専門パネラーの前腕内分側部に塗布したときの使用感を以下の判断基準で官能評価した。その結果を表2に示す。
・保湿性
◎:潤い感に優れている、○:潤い感がある、△:どちらともいえない、×:潤い感がない
・しっとり感
◎:非常にしっとりする、○:しっとりする、△:どちらともいえない、×:しっとりしない
・べたつき感
◎:全くべたつかない、○:べたつかない、△:どちらともいえない、×:べたつく
・弾力感
◎:弾力がある、○:やや弾力がある、△:どちらともいえない、×:弾力がない
【0107】
【表2】
【0108】
[官能評価結果]
実施例2−5〜2−8では、いずれも保湿剤として良好な結果が得られた。特に、実施例2−8では、特に弾力感に優れていた。一方、比較例2−5,2−6では、保湿性及びしっとり感について上記実施例2−5〜2−8に及ばなかった。また、比較例2−8,2−9では、べたつき感が多く発生した。更に比較例2−10,2−11では、保湿性及び弾力感が得られず、しっとり感も不十分であった。