(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記壁面状態判定手段による前記判定の結果に基づいて、前記コークス炉の炭化室の炉壁面における、前記健全煉瓦面状態、前記斑状カーボン付着状態、及び前記一様カーボン付着状態の領域の面積割合を導出する領域割合導出手段を更に有することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のコークス炉の炭化室の炉壁表面状態判定装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
まず、本発明の実施形態の概要について説明する。
図1は、炉壁観察装置により撮像された、コークス炉の炭化室の炉壁面の熱画像の一例を示す図(写真)である。
以下に示す本発明の実施形態では、コークス炉の炭化室の炉壁面の状態を、当該炉壁面を分割した複数の小領域ごとに、健全煉瓦面状態、一様カーボン付着状態、及び斑状カーボン付着状態の3つの状態の何れか1つに分類する。
【0017】
健全煉瓦面状態とは、耐火煉瓦により構成された炉壁面が露出しており、目地や亀裂部(主に縦亀裂部(縦方向に生じている亀裂部))にカーボンが線状に詰まっている状態をいう。
図1に示す例では、例えば、領域101が健全煉瓦面状態の領域である。
一様カーボン付着状態とは、耐火煉瓦により構成された炉壁面を覆い隠すようにカーボンが略一様に付着している状態をいう。
図1に示す例では、例えば、領域102が一様カーボン付着状態の領域である。
【0018】
斑状カーボン付着状態とは、カーボンが斑状に付着している状態であり、目地や亀裂部(主に縦亀裂部(縦方向に生じている亀裂部))を含む領域に、それら目地や亀裂部の幅以上の幅のカーボンが付着している状態をいう。より具体的には、斑状カーボン付着状態とは、目地や亀裂部の幅より3倍程度大きい幅のカーボンが付着している状態を指す。斑状カーボン付着状態には、耐火煉瓦の表面に生じた微小な凹凸をカーボンが埋めている状態と、耐火煉瓦の表面の欠損はないが、一様カーボン付着状態に進行中の状態があると考えられる。
図1に示すでは、例えば、領域103が斑状カーボン付着状態の領域である。
【0019】
図1に示すように、カーボンが付着している領域は、その周辺の耐火煉瓦が露出している領域よりも濃度がやや高い(すなわち明るい)という特徴がある。ここで濃度とは、256階調の画像の明暗(すなわち、画像上の輝度)のことを指す。画像の濃度と、炭化室の炉壁面における熱放射輝度との関係は、リニアな関係にある。この濃度の値が熱画像の各画素の画素値となる。
【0020】
このようにカーボンの濃度と耐火煉瓦の濃度には差があるが、単純な2値化処理を行うだけでは、炭化室の炉壁面全体のカーボンの付着状況を精度よく識別することは容易ではない。コークス炉の炭化室の炉壁面の熱画像は、高温で自発光している熱放射を撮像した熱画像であり、炉壁の温度分布によっても熱画像の濃度は変化するため、広域にカーボンが付着している領域内であっても濃度の分布が生じるからである。
そこで、以下に示す各実施形態では、コークス炉の炭化室の炉壁面を分割した複数の小領域ごとの濃度ヒストグラムの形状に基づいて、炉壁面を分割した各領域の状態が、健全煉瓦面状態、一様カーボン付着状態、及び斑状カーボン付着状態の3つの状態のうち、何れの状態であるのかを判定する。
【0021】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態を説明する。
図2は、コークス炉の炭化室の炉壁表面状態判定装置200の機能的な構成の一例を示す図である。尚、コークス炉の炭化室の炉壁表面状態判定装置200のハードウェアは、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、画像入出力ボード、及び各種のインターフェースを備えた情報処理装置や専用のハードウェアを用いることにより実現することができる。また、以下の説明では、コークス炉の炭化室の炉壁表面状態判定装置を必要に応じて炉壁表面状態判定装置と略称する。
【0022】
[壁面画像取得部201]
壁面画像取得部201は、炉壁観察装置により撮像された、炭化室の炉壁面の熱画像データを取得する。炭化室の炉壁面の熱画像データは、炭化室の炉壁面の熱放射輝度の分布のデータであり、当該熱放射輝度に対応する濃度値を持つ各画素から構成される。
【0023】
また、本実施形態では、炉壁観察装置は、1〜2mmの分解能で、256階調の熱画像データを撮像するものとする。尚、炉壁観察装置は、特許文献1等に記載されているので、その詳細な説明を省略する。また、以下の説明では、炉壁観察装置により撮像された、炭化室の炉壁面の熱画像を必要に応じて「炉壁面熱画像」と称し、炉壁観察装置により撮像された、炭化室の炉壁面の熱画像のデータを必要に応じて「炉壁面熱画像データ」と称する。
図3は、炉壁面熱画像の一例を示す図(写真)である。
壁面画像取得部201は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、及び通信インターフェースを用いることにより実現される。
【0024】
[シェーディング補正部202]
シェーディング補正部202は、壁面画像取得部201により取得された炉壁面熱画像データに対してシェーディング補正を行う。
図3に示すように、炉壁面熱画像には温度差による濃度むら(輝度むら)が存在しているので、この濃度むらを取り除くためである。
具体的にシェーディング補正部202は、画素サイズの大きいカーネル(例えばカーネルサイズが128×128のカーネル)を用いた平均化フィルタリングを実行する。シェーディング補正部202は、平均化フィルタリングを実行した炉壁面熱画像データと、壁面画像取得部201により取得された炉壁面熱画像データとの相互に対応する画素の画素値の差分を当該画素における画素値とする差分画像を導出する。そして、シェーディング補正部202は、この差分画像の各画素の画素値に所定の濃度(例えば、256階調の半分である128)を加算した画像データを、シェーディング補正後炉壁面熱画像データとして生成する。差分画像の各画素の画素値に所定の濃度を加算するのは、差分画像の画素値は小さく、差分画像をそのまま用いると暗い画像になるためである。
図4は、シェーディング補正後炉壁面熱画像の一例を示す図(写真)である。
シェーディング補正部202は、例えば、CPU、ROM、RAM、及びHDDを用いることにより実現される。
【0025】
[第1の領域分割部203]
第1の領域分割部203は、シェーディング補正部202により生成されたシェーディング補正後炉壁面熱画像データの画像領域を、予め設定された大きさの矩形状の小領域に分割する。以下の説明では、この小領域を必要に応じて「ブロック」と称する。健全煉瓦面状態であれば、1つのブロック内に必ず目地か亀裂が含まれる大きさを有するように、ブロックの大きさを設定する。すなわち、1つのブロックの大きさが、1つの耐火煉瓦の大きさ(炉壁面に露出する面の縦・横の長さ)と同等かそれ以上の大きさになるように、ブロックの大きさを設定する。
第1の領域分割部203は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、及びユーザインターフェースを用いることにより実現される。
【0026】
[第2の領域分割部204]
第2の領域分割部204は、壁面画像取得部201により取得された炉壁面熱画像データの画像領域を、複数のブロックに分割する。このブロックの大きさ及び形状は、シェーディング補正部202で生成されたシェーディング補正後炉壁面熱画像データの画像領域を第1の領域分割部203で分割する際のブロックの大きさ及び形状と同じになるようにする。すなわち、第2の領域分割部204による分割位置と第1の領域分割部203による分割位置とが同じになるようにする。
第2の領域分割部204は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、及びユーザインターフェースを用いることにより実現される。尚、第2の領域分割部204の機能を第1の領域分割部203に含めてもよい。
【0027】
[測定不能領域判定部205]
測定不能領域判定部205は、壁面画像取得部201により取得された炉壁面熱画像データの画像領域において、濃度が極端に小さい領域と、濃度が飽和している領域とを測定不能領域として導出する。本実施形態では、測定不能領域判定部205は、第2の領域分割部204により分割されたブロックのそれぞれが測定不能領域であるか否かを判定する。この判定の方法の具体例を説明すると、まず、測定不能領域判定部205は、1つブロック内の平均濃度を求める。そして、測定不能領域判定部205は、求めた平均濃度が、予め設定された第1の閾値よりも大きい場合、又は、第2の閾値よりも小さい場合に、当該ブロックは測定不能領域であると判定し、そうでない場合には、当該ブロックは測定不能領域でないと判定する。第1の閾値としては、例えば240を採用することができ、第2の閾値としては、例えば20を採用することができる。
測定不能領域判定部205は、例えば、CPU、ROM、RAM、及びHDDを用いることにより実現される。
【0028】
[濃度ヒストグラム導出部206]
濃度ヒストグラム導出部206は、測定不能領域判定部205により測定不能領域と判定されなかったブロックごとに、シェーディング補正後炉壁面熱画像データの濃度ヒストグラムを導出する。濃度ヒストグラムは、画素ごとの濃度と、当該濃度の出現頻度(当該濃度を有する画素数)との関係を示すものである。
濃度ヒストグラム導出部206は、例えば、CPU、ROM、RAM、及びHDDを用いることにより実現される。
【0029】
[閾値導出部207、ピーク判定部208、画素数割合導出部209、壁面状態判定部210]
炭化室の炉壁面からの熱放射輝度は、耐火煉瓦の熱放射輝度と、カーボンによる熱放射輝度とがほとんどである。したがって、シェーディング補正後炉壁面熱画像データの濃度ヒストグラムにおいては、これらの熱放射輝度によるピークが生じる。すなわち、ブロックが、健全煉瓦面状態である場合、シェーディング補正後炉壁面熱画像データの濃度ヒストグラムにおいては、耐火煉瓦の熱放射輝度による1つのピークが得られる。また、ブロックが、一様カーボン付着状態である場合、カーボンの熱放射輝度による1つのピークが得られる。また、ブロックが、斑状カーボン付着状態である場合、熱放射輝度によるピークとカーボンによるピークの2つが得られる。このように、シェーディング補正後炉壁面熱画像データの濃度ヒストグラムにおいては、大きなピークが必ず1つ表れる。
【0030】
閾値導出部207は、濃度ヒストグラム導出部206により導出された濃度ヒストグラムから、大津の方法による閾値を導出する。
ピーク判定部208は、濃度ヒストグラム導出部206により導出された濃度ヒストグラムのピークが2つあるか否かを判定する。
画素数割合導出部209は、ピーク判定部208により、濃度ヒストグラムのピークが2つでないと判定された場合に(すなわち、濃度ヒストグラムのピークが1つであると判定された場合に)、濃度ヒストグラム導出部206により導出された濃度ヒストグラムにおいて、大津の方法による閾値以下の濃度を持つ画素の出現頻度の割合r(=閾値以下の濃度を持つ画素の画素数÷全ての画素数)を導出する。
【0031】
壁面状態判定部210は、濃度ヒストグラム導出部206により導出された濃度ヒストグラムのピークが2つであるブロックを、斑状カーボン付着状態の領域であると判定する。また、壁面状態判定部210は、画素数割合導出部209により導出された割合rが所定値(本実施形態では0.7)以上であるブロックを、健全煉瓦面状態の領域であると判定する。また、壁面状態判定部210は、画素数割合導出部209により導出された割合rが所定値未満であるブロックを、一様カーボン付着状態の領域であると判定する。
【0032】
大津の方法は、非特許文献1に記載されているように、ヒストグラムが2つのクラスに分類できると仮定して、クラス間分散とクラス内分散の比が最大となるように閾値を決定する方法である。本発明者らは、大津の方法による閾値が、コークス炉の炭化室の炉壁面の状態が、健全煉瓦面状態、一様カーボン付着状態、及び斑状カーボン付着状態の3つのうちの何れの状態であるのかを判定するのに有用であることを経験的に見出した。大津の方法は、一般的には、画像の2値化の閾値を決定するのに利用されるアルゴリズムである。したがって、本実施形態における大津の方法による閾値の利用方法は、大津の方法による閾値の一般的な利用方法とは異なる。
【0033】
<斑状カーボン付着状態の場合>
図5は、シェーディング補正後炉壁面熱画像データから、斑状カーボン付着状態であるブロックを切り出した画像(
図5(a))と、当該ブロックにおける濃度ヒストグラム及び大津の方法による閾値(
図5(b))の一例を示す図である。
本発明者らは、
図5(b)に示すように、斑状カーボン付着状態のブロックでは、濃度ヒストグラムにおいて、128付近の濃度を挟んで2つのピークが存在するという知見を得た。濃度ヒストグラムにピークが2つあるため、大津の方法による閾値は、これら2つのピークの境界付近に得られる。
図5(b)に示す例では、大津の方法による閾値は135であり、閾値の低濃度側と高濃度側の両方にピークがある。
【0034】
以上のことから前述したように本実施形態では、閾値導出部207は、濃度ヒストグラムから大津の方法による閾値を導出し、ピーク判定部208は、濃度ヒストグラムのピークが2つあるか否かを判定し、壁面状態判定部210は、濃度ヒストグラムのピークが2つであるブロックを、斑状カーボン付着状態の領域であると判定することとした。
本実施形態では、濃度ヒストグラムのピークが2つあることを、以下のようにして判定する。まず、ピーク判定部208は、濃度ヒストグラムにおいて、大津の方法による閾値における画素数I
Tと、大津の方法による閾値よりも低濃度側の範囲における画素数の最大値I
Lと、大津の方法による閾値よりも高濃度側の範囲における画素数の最大値I
Hとを導出する。そして、ピーク判定部208は、I
T<I
L且つI
T<I
Hである場合に、濃度ヒストグラムのピークが2つであると判定することができる。
【0035】
<健全煉瓦面状態の場合>
図6は、シェーディング補正後炉壁面熱画像データから、健全煉瓦面状態であるブロックを切り出した画像(
図6(a))と、当該ブロックにおける濃度ヒストグラム及び大津の方法による閾値(
図6(b))の一例を示す図である。
【0036】
本発明者らは、
図6(b)に示すように、健全煉瓦面状態であるブロックでは、大部分の画素で濃度が128程度になり、濃度ヒストグラムは高いピークを1つ持つという知見を得た。また、本発明者らは、目地に対応する領域の高濃度の画素の存在により、濃度ヒストグラムは、ピークよりも低濃度側の領域に比べ、高濃度側の領域の方が、広範囲に亘り出現頻度が0(ゼロ)を上回るという知見を得た(
図6(b)に示す領域601を参照)。したがって、大津の方法による閾値は、ピークを示す濃度よりも高濃度側になる。
図6(b)に示す例では、ピークを示す濃度が128であるのに対して、大津の方法による閾値は135である。その結果、大津の方法による閾値以下の濃度を持つ画素の出現頻度の割合rは0.857となった。本発明者らは、異なる複数のブロックについてこの割合rを調べた。その結果、健全煉瓦面状態であるブロックでは、割合rは0.8〜0.9程度の大きな値をとるという知見を得た。
【0037】
以上のことから前述したように本実施形態では、閾値導出部207は、濃度ヒストグラムから大津の方法による閾値を導出し、ピーク判定部208は、濃度ヒストグラムのピークが2つあるか否かを判定し、画素数割合導出部209は、濃度ヒストグラムのピークが2つでない(1つである)場合に、濃度ヒストグラムにおいて、大津の方法による閾値以下の濃度を持つ画素の出現頻度の割合rを導出し、壁面状態判定部210は、当該割合rが0.7以上であるブロックを、健全煉瓦面状態の領域であると判定することとした。
【0038】
<一様カーボン付着状態の場合>
図7は、シェーディング補正後炉壁面熱画像データから、一様カーボン付着状態であるブロックを切り出した画像(
図7(a))と、当該ブロックにおける濃度ヒストグラム及び大津の方法による閾値(
図7(b))の一例を示す図である。
本発明者らは、
図7(b)に示すように、一様カーボン付着状態のブロック内の濃度の変化は小さいため、濃度ヒストグラムにおいて濃度分布は128近傍に集中し、略対称のピークが1つ存在するという知見を得た。
図7(b)に示す例では、大津の方法による閾値は128であり、大津の方法による閾値以下の濃度を持つ画素の出現頻度の割合rは0.541となった。本発明者らは、異なる複数のブロックについてこの割合rを調べた。その結果、一様カーボン付着状態であるブロックでは、割合rは0.5程度の値をとるという知見を得た。
【0039】
以上のことから前述したように本実施形態では、閾値導出部207は、濃度ヒストグラムから大津の方法による閾値を導出し、ピーク判定部208は、濃度ヒストグラムのピークが2つあるか否かを判定し、画素数割合導出部209は、濃度ヒストグラムのピークが2つでない(1つである)場合に、濃度ヒストグラムにおいて、大津の方法による閾値以下の濃度を持つ画素の出現頻度の割合rを導出し、壁面状態判定部210は、当該割合rが0.7未満であるブロックを、一様カーボン付着状態の領域であると判定することとした。
【0040】
尚、前述したように濃度ヒストグラムには大きなピークが必ず1つ存在するので、本実施形態では、濃度ヒストグラムのピークが2つでない場合には、濃度ヒストグラムのピークが1つであると(自動的に)判定するが、濃度ヒストグラムのピークが1つであることを、例えば、以下のようにして判定してもよい。まず、ピーク判定部208は、濃度ヒストグラムにおいて、大津の方法による閾値における画素数I
Tと、大津の方法による閾値よりも低濃度側の範囲における画素数の最大値I
Lと、大津の方法による閾値よりも高濃度側の範囲における画素数の最大値I
Hとを導出する。そして、ピーク判定部208は、I
T>I
L又はI
T>I
Hである場合に、濃度ヒストグラムのピークが1つであると判定する。ここで、「I
T>I
L又はI
T>I
H」の代わりに「I
T≧I
L又はI
T>I
H」或いは「I
T>I
L又はI
T≧I
H」を採用してもよい。
【0041】
閾値導出部207、ピーク判定部208、画素数割合導出部209、及び壁面状態判定部210は、以上の処理を第2の領域分割部204で分割されたブロックのうち、測定不能領域判定部205により測定不能領域と判定されなかった全てのブロック(すなわち、濃度ヒストグラム導出部206により導出された全てのブロック)について個別に行う。これにより、第2の領域分割部204で分割されたブロックのうち、測定不能領域判定部205により測定不能領域と判定されなかった全てのブロックにおけるカーボンの付着状態が、健全煉瓦面状態、一様カーボン付着状態、及び斑状カーボン付着状態のうち、何れの状態であるのかを特定することができる。
閾値導出部207、ピーク判定部208、画素数割合導出部209、及び壁面状態判定部210は、例えば、CPU、ROM、RAM、及びHDDを用いることにより実現される。
【0042】
[領域割合導出部211]
領域割合導出部211は、壁面状態判定部210における判定の結果から、壁面画像取得部201により取得された炉壁面熱画像データの画像領域のうち、測定不能領域判定部205により測定不能領域と判定された領域を除く領域における、健全煉瓦面状態の領域の割合(=健全煉瓦面状態の領域の面積÷測定不能領域と判定された領域を除く炉壁面熱画像データの画像領域の面積)を導出する。以下の説明では、この割合を必要に応じて、健全煉瓦面状態の領域の面積割合と称する。
同様に、領域割合導出部211は、壁面画像取得部201により取得された炉壁面熱画像データの画像領域のうち、測定不能領域判定部205により測定不能領域と判定された領域を除く領域における、一様カーボン付着状態の領域の割合(=一様カーボン付着状態の領域の面積÷測定不能領域と判定された領域を除く炉壁面熱画像データの画像領域の面積)と、斑状カーボン付着状態の領域の割合(=斑状カーボン付着状態の領域の面積÷測定不能領域と判定された領域を除く炉壁面熱画像データの画像領域の面積)をそれぞれ導出する。以下の説明では、これらの割合を必要に応じて、一様カーボン付着状態の領域の面積割合、斑状カーボン付着状態の領域の面積割合と称する。
領域割合導出部211は、例えば、CPU、ROM、RAM、及びHDDを用いることにより実現される。
【0043】
[壁面状態表示部212]
壁面状態表示部212は、壁面状態判定部210により判定された、各ブロックにおけるカーボンの付着状態の情報と、測定不能領域判定部205により判定された、測定不能領域の情報と、領域割合導出部211により導出された、健全煉瓦面状態の領域の面積割合、一様カーボン付着状態の領域の面積割合、及び斑状カーボン付着状態の領域の面積割合の情報と、を表示するための表示データを生成し、当該表示データをコンピュータディスプレイに表示する。
図8は、コークス炉の炭化室の炉壁面におけるカーボンの付着状態の表示画面の一例を示す図である。
【0044】
図8に示す例では、炉壁面熱画像上に、健全煉瓦面状態の領域、一様カーボン付着状態の領域、斑状カーボン付着状態の領域、及び測定不能領域を表示すると共に、健全煉瓦面状態の領域(健全煉瓦領域)、斑状カーボン付着状態の領域(斑状カーボン付着領域)、及び一様カーボン付着状態の領域(一様カーボン付着領域)の面積割合を数字で表示する。
【0045】
図8に示す例では、破線で囲まれる領域が一様カーボン付着状態の領域であり、実線で囲まれる領域が斑状カーボン付着状態の領域であり、一点鎖線よりも端の領域が測定不能領域であり、その他の領域が健全煉瓦面状態の領域である。尚、炉壁面熱画像上に、健全煉瓦面状態の領域、一様カーボン付着状態の領域、斑状カーボン付着状態の領域、及び測定不能領域を表示する方法は、このような方法に限定されない。例えば、領域毎に異なる半透明の色を炉壁面熱画像上に配置してもよい。
壁面状態表示部212は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、画像メモリ、通信インターフェース、及びコンピュータディスプレイを用いることにより実現される。
【0046】
尚、各ブロックにおけるカーボンの付着状態の情報と、測定不能領域の情報と、各領域(健全煉瓦面状態の領域、斑状カーボン付着状態の領域、一様カーボン付着状態の領域)の面積割合の情報を炉壁表面状態判定装置200で表示しなくてもよい。例えば、炉壁表面状態判定装置200は、これらの情報を外部装置に送信したり、可搬型の記憶媒体に記憶したりして出力してもよい。このようにした場合には、炉壁表面状態判定装置200以外の装置で、これらの情報を表示することができる。
【0047】
[動作フローチャート]
次に、
図9のフローチャートを参照しながら、炉壁表面状態判定装置200の動作の一例を説明する。
まず、ステップS901において、壁面画像取得部201は、炉壁面熱画像データを取得する(
図3を参照)。
次に、ステップS902において、シェーディング補正部202は、ステップS901で取得された炉壁面熱画像データに対してシェーディング補正を行い、シェーディング補正後炉壁面熱画像データを生成する(
図4を参照)。
【0048】
次に、ステップS903において、第2の領域分割部204は、ステップS901で取得された炉壁面熱画像データの画像領域を複数のブロックに分割する。
次に、ステップS904において、測定不能領域判定部205は、ステップS903で分割された複数のブロックごとに、当該ブロックが測定不能領域であるか否かを判定する。すなわち、測定不能領域判定部205は、ステップS901で取得された炉壁面熱画像データの画像領域から、測定不能領域を導出する。
【0049】
次に、ステップS905において、第1の領域分割部203は、ステップS902で生成されたシェーディング補正後炉壁面熱画像データの画像領域を複数のブロックに分割する。ここで、ステップS903における分割位置とステップS905における分割位置を同じにする。尚、ステップS905の処理は、ステップS902の処理の後であれば、必ずしもステップS903、S904の後に行わなくてもよい。例えば、ステップS903においてステップS905の処理を並列的に行ってもよい。
【0050】
次に、ステップS906において、濃度ヒストグラム導出部206は、ステップS905で分割された複数のブロックのうち、ステップS904で測定不能領域と判定されなかったブロックを指定する変数iに「1」を設定する。
次に、ステップS907において、濃度ヒストグラム導出部206は、ステップS902で生成されたシェーディング補正後炉壁面熱画像データの画像領域のうち、変数iに対応するブロックにおける濃度ヒストグラムを導出する。
【0051】
次に、ステップS908において、閾値導出部207は、変数iに対応するブロックにおける濃度ヒストグラムから、大津の方法による閾値を導出する。
次に、ステップS909において、ピーク判定部208は、ステップS907で導出された濃度ヒストグラムにおいて、大津の方法による閾値における画素数I
Tと、大津の方法による閾値よりも低濃度側の範囲における画素数の最大値I
Lと、大津の方法による閾値よりも高濃度側の範囲における画素数の最大値I
Hとを導出する。
【0052】
次に、ステップS910において、ピーク判定部208は、I
T<I
L且つI
T<I
Hであるか否かを判定する。この判定の結果、I
T<I
L且つI
T<I
Hでない場合には、後述するステップS914に進む。一方、I
T<I
L且つI
T<I
Hである場合には、ステップS911に進む。ステップS911に進むと、壁面状態判定部210は、ステップS907で導出された濃度ヒストグラムにおいてピークが2つあると判定し、変数iに対応するブロックは、斑状カーボン付着状態の領域であると判定する。
【0053】
次に、ステップS912において、壁面状態判定部210は、変数iがNであるか否かを判定する。Nは、ステップS905で分割された複数のブロックのうち、ステップS904で測定不能領域と判定されなかったブロックの総数に等しい数である。
【0054】
この判定の結果、変数iがNである場合には、ステップS905で分割された複数のブロックのうち、ステップS904で測定不能領域と判定されなかったブロックの全てについて、カーボンの付着状態の判定を行ったことになる。したがって、後述するステップS918に進む。
一方、変数iがNでない場合には、ステップS905で分割された複数のブロックのうち、ステップS904で測定不能領域と判定されなかったブロックの全てについて、カーボンの付着状態の判定を行っていない。そこで、ステップS913に進み、濃度ヒストグラム導出部206は、変数iに「1」を加算する。そして、次の変数iに対応するブロックについてステップS907以降の処理を行う。
【0055】
前述したようにステップS910において、I
T<I
L且つI
T<I
Hでない場合には、ステップS907で導出された濃度ヒストグラムにおいてピークは1つであると判定し、ステップS914に進む。ステップS914に進むと、画素数割合導出部208は、ステップS907で導出された濃度ヒストグラムにおいて、ステップS908で導出された大津の方法による閾値以下の濃度を持つ画素の出現頻度の割合rを導出する。
【0056】
次に、ステップS915において、壁面状態判定部210は、ステップS914で導出された割合rが0.7以上であるか否かを判定する。この判定の結果、ステップS914で導出された割合rが0.7以上である場合には、ステップS916に進む。ステップS916に進むと、壁面状態判定部210は、変数iに対応するブロックは、健全煉瓦面状態の領域であると判定する。そして、前述したステップS912に進む。
一方、ステップS914で導出された割合rが0.7以上でない場合には、ステップS917に進む。ステップS917に進むと、壁面状態判定部210は、変数iに対応するブロックは、一様カーボン付着状態の領域であると判定する。そして、前述したステップS912に進む。
【0057】
前述したように、ステップS912において、変数iがNであると判定され、ステップS905で分割された複数のブロックのうち、ステップS904で測定不能領域と判定されなかったブロックの全てについて、カーボンの付着状態の判定が行われると、ステップS918に進む。
ステップS918に進むと、領域割合導出部211は、健全煉瓦面状態の領域の面積割合、一様カーボン付着状態の領域の面積割合、及び斑状カーボン付着状態の領域の面積割合を導出する。
【0058】
次に、ステップS919において、壁面状態表示部212は、ステップS911、S916及びS917で判定された、各ブロックにおけるカーボンの付着状態の情報と、ステップS904で導出された、測定不能領域の情報と、ステップS918で導出された、各領域(健全煉瓦面状態の領域、一様カーボン付着状態の領域、斑状カーボン付着状態の領域)の面積割合の情報と、を表示するための表示データを生成する。
次に、ステップS920において、壁面状態表示部212は、ステップS919で生成した表示データに基づく画像をコンピュータディスプレイに表示する。そして、
図9のフローチャートによる処理を終了する。
【0059】
[まとめ]
以上のように本実施形態では、シェーディング補正後炉壁面熱画像データを複数のブロックに分割し、分割した複数のブロックごとに、シェーディング補正後炉壁面熱画像データの濃度ヒストグラムを導出し、導出した濃度ヒストグラムから大津の方法による閾値を導出する。そして、濃度ヒストグラムにおけるピークが2つであるブロックを、斑状カーボン付着状態であると判定する。濃度ヒストグラムにおけるピークが2つでない場合には、濃度ヒストグラムにおいて、大津の方法による閾値以下の濃度を持つ画素の出現頻度の割合が0.7以上であるブロックを、健全煉瓦面状態であると判定する。一方、濃度ヒストグラムにおいて、大津の方法による閾値以下の濃度を持つ画素の出現頻度の割合が0.7未満であるブロックを、一様カーボン付着状態であると判定する。そして、各状態の領域を、炉壁面熱画像の上に重ねて表示すると共に、各状態の領域の面積割合を表示する。
【0060】
したがって、コークス炉の炭化室の炉壁面におけるカーボンの付着状態と位置を自動的に且つ正確に把握することができる。従来の炉壁面熱画像の目視による判断よりも遥かに定量的にカーボンの付着領域の数値化を行うことが可能になるので、カーボンの付着状態の管理の精度を向上させることができる。カーボンの付着量は、炉体温度や石炭配合等の操業条件によって日数をかけて徐々に変動する。操業条件の変更後にカーボンの付着領域が増大する傾向になれば、いずれはカーボンが過度に成長して凹凸となり押出負荷が上昇し、押し詰まりが生じる虞がある。逆に、カーボンの減少傾向が続くと、耐火煉瓦の減肉や細かい角欠けによる凹部を埋めていたカーボンまでもが消失し、押出負荷が上昇する。本実施形態で説明した手法により、炉壁面のどの領域でカーボンの付着状態がどのような状態であるのかを示す情報に基づいて、例えば、操業の合間に炭化室にエアーを吹き込むカーボン焼却の時間を調節すれば、押出負荷を的確に安定化させることができる。
【0061】
[変形例]
本実施形態のように、測定不能領域を判定し、この測定不能領域を除く領域におけるカーボンの付着状態を判定すれば、炉壁面全体におけるカーボンの付着状態を適切に判定することができるので好ましい。しかしながら、必ずしも測定不能領域を判定しなくてもよい。例えば、測定不能領域として想定される領域を予め設定し、炉壁面熱画像データの画像領域から、この領域を除く領域におけるカーボンの付着状態を判定してもよい。また、測定不能領域として想定されない領域のみについて、カーボンの付着状態を判定する場合には、測定不能領域を設定しなくてもよい。
【0062】
また、本実施形態のように、炉壁面熱画像データに対してシェーディング補正を行うようにすれば、炉壁面熱画像データに濃度むらがある場合でも、カーボンの付着状態を適切に判定することができるので好ましい。しかしながら、このような濃度むらによる影響が小さい場合には、必ずしも炉壁面熱画像データに対してシェーディング補正を行わなくてもよい。
【0063】
[実施例]
稼働中のコークス炉の炭化室の炉壁面熱画像を得て、本実施形態で説明した方法で、カーボンの付着状態の判定を実施した。カーボンの付着状態の判定対象とするコークス炉を40年以上稼働している老朽炉とした。このコークス炉の炭化室の炉壁面は、奥行き約16m、高さ約6mの大きさを有する。この炉壁面全体の炉壁面熱画像であって、奥行方向の分解能を2mm、高さ方向の分解能を1.3mmとする256階調の炉壁面熱画像を判定に供した。当該炉壁面熱画像、及び当該炉壁面熱画像から生成したシェーディング補正後炉壁面熱画像を、縦128画素、横128画素の矩形領域のブロックに分割し、それぞれのブロックにおいてカーボンの付着状態を
図9のフローチャートに従って判定した。このような測定を、異なる2つの炭化室の炉壁面について行った。
図10は、炭化室の炉壁面におけるカーボンの付着状態の判定の結果の一例を示す図(写真)である。
図10では、
図8と同様に、破線で囲まれる領域を一様カーボン付着状態の領域とし、実線で囲まれる領域を斑状カーボン付着状態の領域とし、一点鎖線よりも端の領域を測定不能領域とし、その他の領域を健全煉瓦面状態の領域とする。
図8及び
図10から、いずれも人が見た目に分かる広域的なカーボンの付着状態と斑状のカーボンの付着状態をほぼ正しく抽出していることが分かる。
【0064】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。第1の実施形態では、大津の方法による閾値を判定基準として用いて、シェーディング補正後炉壁面熱画像データの各ブロックにおけるカーボンの付着状態を判定する場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、濃度ヒストグラムにおけるピークを示す濃度よりも低濃度側と高濃度側のそれぞれにおける濃度分布の重心と当該ピークを示す濃度との距離を判定基準として用いて、シェーディング補正後炉壁面熱画像データの各ブロックにおけるカーボンの付着状態を判定する場合について説明する。このように、本実施形態と第1の実施形態とは、シェーディング補正後炉壁面熱画像データの各ブロックにおけるカーボンの付着状態を判定する方法の一部が異なる。したがって、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、
図1〜
図10に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0065】
図11は、コークス炉の炭化室の炉壁表面状態判定装置1100の機能的な構成の一例を示す図である。尚、コークス炉の炭化室の炉壁表面状態判定装置1100のハードウェアは、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、画像入出力ボード、及び各種のインターフェースを備えた情報処理装置や専用のハードウェアを用いることにより実現することができる。また、以下の説明では、コークス炉の炭化室の炉壁表面状態判定装置を必要に応じて炉壁表面状態判定装置と略称する。
【0066】
[壁面画像取得部201、シェーディング補正部202、第2の領域分割部204、測定不能領域判定部205、第1の領域分割部203、濃度ヒストグラム導出部206]
壁面画像取得部201、シェーディング補正部202、第2の領域分割部204、測定不能領域判定部205、第1の領域分割部203、及び濃度ヒストグラム導出部206は、第1の実施形態の炉壁表面状態判定装置200におけるものと同じである。
【0067】
その概要を再度説明すると、壁面画像取得部201は、炉壁面熱画像データを取得する(
図3を参照)。シェーディング補正部202は、壁面画像取得部201により取得された炉壁面熱画像データに対してシェーディング補正を行う(
図4を参照)。
第1の領域分割部203は、シェーディング補正部202により生成されたシェーディング補正後炉壁面熱画像データの画像領域を、複数のブロックに分割する。第2の領域分割部204は、壁面画像取得部201により取得された炉壁面熱画像データの画像領域を、複数のブロックに分割する。測定不能領域判定部205は、壁面画像取得部201により取得された炉壁面熱画像データの画像領域において、濃度が極端に小さい領域と、濃度が飽和している領域とを測定不能領域として導出する。
濃度ヒストグラム導出部206は、第2の領域分割部204で分割されたブロックのうち、測定不能領域判定部205により測定不能領域と判定されなかったブロックごとに、シェーディング補正後炉壁面熱画像データの濃度ヒストグラムを導出する。
【0068】
[ピーク濃度導出部1101]
ピーク濃度導出部1101は、濃度ヒストグラム導出部206により導出された濃度ヒストグラムで画素数が最大になる濃度であるピーク濃度C
pを導出する。
ピーク濃度導出部1101は、例えば、CPU、ROM、RAM、及びHDDを用いることにより実現される。
【0069】
[ピーク判定部1102]
ピーク判定部1102は、ピーク濃度C
pよりも高濃度側の領域に、極大値があるか否かを判定する。
図12は、ピーク濃度C
pよりも高濃度側の領域に、極大値があるか否かを判定する方法の一例を概念的に説明する図である。
例えば、ピーク判定部1102は、
図12に示すように、ピーク濃度C
pを起点として、微小な濃度間隔ずつ濃度を増加させ(
図12に示す矢印線を参照)、当該増加させた濃度(
図12の丸で囲む部分の濃度)における画素数の変化を読み取る。そして、ピーク判定部1102は、読み取った画素数の変化から、高濃度になるほど画素数が増加する領域があるか否かを判定する。
【0070】
図12に示すように、ピーク濃度C
pよりも高濃度側の領域で、高濃度になるほど画素数が増加する領域があれば、ピーク濃度C
pよりも高濃度側の領域で、濃度ヒストグラムに極大値が存在することになる。一方、後述する
図13(a)、
図13(b)に示すように、高濃度になるほど画素数が増加する領域がなければ、ピーク濃度C
pよりも高濃度側の領域で、濃度ヒストグラムの画素数は単調に減少する。
尚、濃度ヒストグラムにおける極大値があるか否かを判定する方法は、前述した方法に限定されない。例えば、ピーク濃度C
pよりも高濃度側の領域で高濃度になるほど画素数が増加する領域があり、且つ、当該領域よりも高濃度側の領域で高濃度になるほど画素数が減少する領域がある場合に、濃度ヒストグラムに極大値が存在すると判定してもよい。
また、画素数の増加分に対する閾値を設定し、画素数の増加分が当該閾値以上である場合に限り、画素数が増加していると判定してもよい。
ピーク判定部1102は、例えば、CPU、ROM、RAM、及びHDDを用いることにより実現される。
【0071】
[重心導出部1103]
重心導出部1103は、ピーク判定部1102により、ピーク濃度C
pよりも高濃度側の領域に極大値がない(濃度ヒストグラム導出部206により導出された濃度ヒストグラムのピークの数が1つである)と判定された場合、当該濃度ヒストグラムについてピーク濃度導出部1101により導出されたピーク濃度C
pよりも低濃度側の領域における濃度分布の重心となる濃度を導出する。以下の説明では、この濃度を必要に応じて低濃度側重心濃度G
Lと称する。
また、重心導出部1103は、当該濃度ヒストグラムについてピーク濃度導出部1101により導出されたピーク濃度C
pよりも高濃度側の領域における濃度分布の重心となる濃度を導出する。以下の説明では、この濃度を必要に応じて高濃度側重心濃度G
Hと称する。
尚、低濃度側重心濃度G
Lは、濃度ヒストグラムの領域のうち、ピーク濃度C
pよりも低濃度側の領域の面積を半分に分ける濃度であり、高濃度側重心濃度G
Hは、濃度ヒストグラムの領域のうち、ピーク濃度C
pよりも高濃度側の領域の面積を半分に分ける濃度である。
【0072】
図13は、濃度ヒストグラムにおけるピーク濃度C
p、低濃度側重心濃度G
L、及び高濃度側重心濃度G
Hの一例を示す図である。具体的に
図13(a)は、
図6(a)に示すブロック(健全煉瓦面状態であるブロック)の濃度ヒストグラムにおけるピーク濃度C
p、低濃度側重心濃度G
L、及び高濃度側重心濃度G
Hを示す。また、
図13(b)は、
図7(a)に示すブロック(一様カーボン付着状態であるブロック)の濃度ヒストグラムにおけるピーク濃度C
p、低濃度側重心濃度G
L、及び高濃度側重心濃度G
Hを示す。
図13(a)に示す例では、ピーク濃度C
p=126、低濃度側重心濃度G
L=122.3、高濃度側重心濃度G
H=134.0である。また、
図13(b)に示す例では、ピーク濃度C
p=127、低濃度側重心濃度G
L=122.9、高濃度側重心濃度G
H=132.3である。
【0073】
次に、重心導出部1103は、低濃度側重心濃度G
Lとピーク濃度C
pとの距離である低濃度側距離D
Lを導出する。さらに、重心導出部1103は、高濃度側重心濃度G
Hとピーク濃度C
pとの距離である高濃度側距離D
Hを導出する。そして、重心導出部1103は、高濃度側距離D
Hから低濃度側距離D
Lを引いた値である距離差(=D
H−D
L)を導出する。具体的に、
図13(a)に示す例では、高濃度側距離D
Hから低濃度側距離D
Lを引いた値である距離差(=D
H−D
L)の値は「4.3」となる。また、
図13(b)に示す例では、高濃度側距離D
Hから低濃度側距離D
Lを引いた値である距離差(=D
H−D
L)の値は「1.2」となる。
【0074】
次に、重心導出部1103は、この高濃度側距離D
Hから低濃度側距離D
Lを引いた値である距離差(=D
H−D
L)が閾値ΔD以下であるか否か(D
H−D
L≦ΔDが成り立つか否か)を判定する。閾値ΔDは、低濃度側重心濃度D
Lと高濃度側重心濃度D
Hとが、ピーク濃度C
pに対して対称となる位置にあると見なすための許容差である。閾値ΔDは、例えば、実際の操業の結果から得られた濃度ヒストグラムと、当該濃度ヒストグラムが得られたときのシェーディング補正後炉壁面熱画像データとを見比べることを多数の濃度ヒストグラムについて行った結果から適宜決めることができる。閾値ΔDとしては、例えば、「3」を採用することができる。
尚、健全煉瓦面状態の領域の濃度ヒストグラムでは、目地に対応する領域の高濃度の画素の存在により、高濃度側距離D
Hの方が低濃度側距離D
Lよりも大きくなる。したがって、重心導出部1103は、高濃度側距離D
Hから低濃度側距離D
Lを引いた値である距離差(=D
H−D
L)が閾値ΔD以下であるか否かを判定する。
重心導出部1103は、例えば、CPU、ROM、RAM、及びHDDを用いることにより実現される。
【0075】
[壁面状態判定部1104]
壁面状態判定部1104は、ピーク判定部1102により、ピーク濃度C
pよりも高濃度側の領域で、濃度ヒストグラムに極大値が存在する(すなわちピークが2つ存在する)と判定されたブロックを、斑状カーボン付着状態の領域であると判定する。前述したように、斑状カーボン付着状態のブロックでは、濃度ヒストグラムにおいて、128付近の濃度を挟んで2つのピークが存在するという知見を得たからである(
図5(b)、
図12を参照)。
また、壁面状態判定部1104は、重心導出部1102により、高濃度側距離D
Hから低濃度側距離D
Lを引いた値である距離差(=D
H−D
L)が閾値ΔD以下であると判定されたブロックを、一様カーボン付着状態の領域であると判定する。第1の実施形態で説明したように、一様カーボン付着状態のブロック内の濃度の変化は小さいため、濃度ヒストグラムにおいて濃度分布は128近傍に集中し、略対称のピークが1つ存在するという知見を得たからである(
図7(b)、
図13(b)を参照)。
【0076】
また、壁面状態判定部1104は、重心導出部1102により、高濃度側距離D
Hから低濃度側距離D
Lを引いた値である距離差(=D
H−D
L)が閾値ΔD以下であると判定されなかったブロック(すなわち、高濃度側距離D
Hから低濃度側距離D
Lを引いた値である距離差(=D
H−D
L)が閾値ΔD超であるブロック)を、健全煉瓦状態の領域であると判定する。前述したように、健全煉瓦面状態であるブロックでは、大部分の画素で濃度が128程度になり、且つ、ピークよりも低濃度側の領域に比べ、高濃度側の領域の方が、広範囲に亘り出現頻度が0(ゼロ)を上回るからである(
図6(b)、
図13(a)を参照)。
壁面状態判定部1104は、例えば、CPU、ROM、RAM、及びHDDを用いることにより実現される。
【0077】
ピーク濃度導出部1101、ピーク判定部1102、重心導出部1103、及び壁面状態判定部1104は、以上の処理を第2の領域分割部204で分割されたブロックのうち、測定不能領域判定部205により測定不能領域と判定されなかった全てのブロック(すなわち、濃度ヒストグラム導出部206により導出された全てのブロック)について個別に行う。これにより、第2の領域分割部204で分割されたブロックのうち、測定不能領域判定部205により測定不能領域と判定されなかった全てのブロックにおけるカーボンの付着状態が、健全煉瓦面状態、一様カーボン付着状態、及び斑状カーボン付着状態の何れの状態であるのかを特定することができる。
【0078】
[領域割合導出部1105]
領域割合導出部1105は、壁面状態判定部1104における判定の結果から、第1の実施形態の炉壁表面状態判定装置200の領域割合導出部211と同様に、健全煉瓦面状態の領域の面積割合、一様カーボン付着状態の領域の面積割合、及び斑状カーボン付着状態の領域の面積割合を導出する。
領域割合導出部1105は、例えば、CPU、ROM、RAM、及びHDDを用いることにより実現される。
【0079】
[壁面状態表示部1106]
壁面状態表示部1106は、壁面状態判定部1104により判定された、各ブロックにおけるカーボンの付着状態の情報と、測定不能領域判定部205により判定された、測定不能領域の情報と、領域割合導出部1105により導出された、健全煉瓦面状態の領域の面積割合、一様カーボン付着状態の領域の面積割合、及び斑状カーボン付着状態の領域の面積割合の情報と、を表示するための表示データを生成し、当該表示データをコンピュータディスプレイに表示する。
【0080】
壁面状態表示部1106も、第1の実施形態の炉壁表面状態判定装置200の壁面状態表示部212と同様の情報を表示することができる。
また、各ブロックにおけるカーボンの付着状態の情報と、測定不能領域の情報と、各領域(健全煉瓦面状態の領域、斑状カーボン付着状態の領域、一様カーボン付着状態の領域)の面積割合の情報を炉壁表面状態判定装置1100で表示しなくてもよい。例えば、炉壁表面状態判定装置1100は、これらの情報を外部装置に送信したり、可搬型の記憶媒体に記憶したりして出力してもよい。このようにした場合には、炉壁表面状態判定装置1100以外の装置で、これらの情報を表示することができる。
【0081】
[動作フローチャート]
次に、
図14のフローチャートを参照しながら、炉壁表面状態判定装置1100の動作の一例を説明する。
まず、ステップS1401において、壁面画像取得部201は、炉壁面熱画像データを取得する(
図3を参照)。
次に、ステップS1402において、シェーディング補正部202は、ステップS1401で取得された炉壁面熱画像データに対してシェーディング補正を行い、シェーディング補正後炉壁面熱画像データを生成する(
図4を参照)。
【0082】
次に、ステップS1403において、第2の領域分割部204は、ステップS1401で取得された炉壁面熱画像データの画像領域を複数のブロックに分割する。
次に、ステップS1404において、測定不能領域判定部205は、ステップS1403で分割された複数のブロックごとに、当該ブロックが測定不能領域であるか否かを判定する。
【0083】
次に、ステップS1405において、第1の領域分割部203は、ステップS1402で生成されたシェーディング補正後炉壁面熱画像データの画像領域を複数のブロックに分割する。尚、ステップS1405の処理は、ステップS1402の処理の後であれば、必ずしもステップS1403、S1404の後に行わなくてもよいことは、
図9のフローチャートにおけるステップS905の処理と同じである。
【0084】
次に、ステップS1406において、濃度ヒストグラム導出部206は、ステップS1405で分割された複数のブロックのうち、ステップS1404で測定不能領域と判定されなかったブロックを指定する変数iに「1」を設定する。
次に、ステップS1407において、濃度ヒストグラム導出部206は、ステップS1402で生成されたシェーディング補正後炉壁面熱画像データの画像領域のうち、変数iに対応するブロックにおける濃度ヒストグラムを導出する。
【0085】
次に、ステップS1408において、ピーク濃度導出部1101は、変数iに対応するブロックにおける濃度ヒストグラムのピーク濃度C
pを導出する。
次に、ステップS1409において、ピーク判定部1102は、変数iに対応するブロックにおける濃度ヒストグラムのピーク濃度C
pよりも高濃度側の領域に、極大値があるか否かを判定する。
【0086】
この判定の結果、変数iに対応するブロックにおける濃度ヒストグラムのピーク濃度C
pよりも高濃度側の領域に、極大値がない場合には、当該濃度ヒストグラムにおけるピークの数は1つであると判定し、後述するステップS1413に進む。一方、変数iに対応するブロックにおける濃度ヒストグラムのピーク濃度C
pよりも高濃度側の領域に、極大値がある場合には、ステップS1410に進む。ステップS1410に進むと、壁面状態判定部1104は、変数iに対応するブロックは、斑状カーボン付着状態の領域であると判定する。
次に、ステップS1411において、壁面状態判定部210は、変数iがNであるか否かを判定する。Nは、ステップS1405で分割された複数のブロックのうち、ステップS1404で測定不能領域と判定されなかったブロックの総数に等しい数である。
【0087】
この判定の結果、変数iがNである場合には、ステップS1405で分割された複数のブロックのうち、ステップS1404で測定不能領域と判定されなかったブロックの全てについて、カーボンの付着状態の判定を行ったことになる。したがって、後述するステップS1419に進む。
一方、変数iがNでない場合には、ステップS1405で分割された複数のブロックのうち、ステップS1404で測定不能領域と判定されなかったブロックの全てについて、カーボンの付着状態の判定を行っていない。そこで、ステップS1412に進み、濃度ヒストグラム導出部206は、変数iに「1」を加算する。そして、次の変数iに対応するブロックについてステップS1407以降の処理を行う。
【0088】
前述したようにステップS1409において、変数iに対応するブロックにおける濃度ヒストグラムのピーク濃度C
pよりも高濃度側の領域に、極大値がないと判定された場合には、ステップS1413に進む。ステップS1413に進むと、重心導出部1103は、変数iに対応するブロックにおける濃度ヒストグラムの高濃度側重心濃度G
H及び低濃度側重心濃度G
Lを導出する。
次に、ステップS1414において、重心導出部1103は、高濃度側重心濃度G
Hとピーク濃度C
pの距離である高濃度側距離D
Hと、低濃度側重心濃度G
Lとピーク濃度C
pの距離である低濃度側距離D
Lとを導出する。
【0089】
次に、ステップS1415において、重心導出部1103は、高濃度側距離D
Hから低濃度側距離D
Lを引いた値である距離差(=D
H−D
L)を導出する。
次に、ステップS1416において、重心導出部1103は、高濃度側距離D
Hから低濃度側距離D
Lを引いた値である距離差(=D
H−D
L)が閾値ΔD以下であるか否かを判定する。この判定の結果、高濃度側距離D
Hから低濃度側距離D
Lを引いた値である距離差(=D
H−D
L)が閾値ΔD以下である場合には、ステップS1417に進む。
【0090】
ステップS1417に進むと、壁面状態判定部1104は、変数iに対応するブロックは、一様カーボン付着状態の領域であると判定する。そして、前述したステップS1411に進む。
一方、ステップS1416において、高濃度側距離D
Hから低濃度側距離D
Lを引いた値である距離差(=D
H−D
L)が閾値ΔD以下でないと判定された場合には、ステップS1418に進む。ステップS1418に進むと、壁面状態判定部1104は、変数iに対応するブロックは、健全煉瓦面状態の領域であると判定する。そして、前述したステップS1411に進む。
【0091】
前述したように、ステップS1411において、変数iがNであると判定され、ステップS1405で分割された複数のブロックのうち、ステップS1404で測定不能領域と判定されなかったブロックの全てについて、カーボンの付着状態の判定が行われると、ステップS1419に進む。
ステップS1419に進むと、領域割合導出部1105は、健全煉瓦面状態の領域の面積割合、一様カーボン付着状態の領域の面積割合、及び斑状カーボン付着状態の領域の面積割合を導出する。
【0092】
次に、ステップS1420において、壁面状態表示部1106は、ステップS1410、S1417及びS1418で判定された、各ブロックにおけるカーボンの付着状態の情報と、ステップS1404で導出された、測定不能領域の情報と、ステップS1419で導出された、各領域(健全煉瓦面状態の領域、一様カーボン付着状態の領域、斑状カーボン付着状態の領域)の面積割合の情報と、を表示するための表示データを生成する。
次に、ステップS1421において、壁面状態表示部1106は、ステップS1420で生成した表示データに基づく画像をコンピュータディスプレイに表示する。そして、
図14のフローチャートによる処理を終了する。
【0093】
[まとめ]
以上のように本実施形態では、濃度ヒストグラムにおけるピークが2つであるブロックを、斑状カーボン付着状態の領域であると判定する。また、高濃度側重心濃度G
Hとピーク濃度C
pの距離である高濃度側距離D
Hから、低濃度側重心濃度G
Lとピーク濃度C
pの距離である低濃度側距離D
Lを引いた値である距離差(=D
H−D
L)が閾値ΔD以下であるブロックを、一様カーボン付着状態の領域であると判定する。また、濃度ヒストグラムにおけるピークが1つであり、高濃度側重心濃度G
Hとピーク濃度C
pの距離である高濃度側距離D
Hから、低濃度側重心濃度G
Lとピーク濃度C
pの距離である低濃度側距離D
Lを引いた値である距離差(=D
H−D
L)が閾値ΔD超であるブロックを、健全煉瓦面状態の領域であると判定する。そして、各状態の領域を、炉壁面熱画像の上に重ねて表示すると共に、各状態の領域の面積割合を表示する。
したがって、本実施形態においても第1の実施形態で説明した効果と同じ効果を得ることができる。
【0094】
[変形例]
本実施形態においても、第1の実施形態で説明したように、必ずしも測定不能領域を判定しなくてもよい。また、必ずしも炉壁面熱画像データに対してシェーディング補正を行わなくてもよい。
【0095】
また、第1の実施形態では、濃度ヒストグラムにおいて、大津の方法による閾値以下の濃度を持つ画素の出現頻度の割合rが0.7以上であることを、処理対象のブロックの状態が健全煉瓦面状態であると判定するための第1の条件の例として説明した。また、I
T<I
L且つI
T<I
Hであることを、処理対象のブロックの状態が斑状カーボン付着状態であると判定するための第2の条件の例として説明した。
【0096】
一方、第2の実施形態では、前述した高濃度側距離D
Hから低濃度側距離D
Lを引いた値である距離差が閾値ΔD超であることを、処理対象のブロックの状態が健全煉瓦面状態であると判定するための第1の条件の例として説明した。また、濃度ヒストグラムのピーク濃度C
pよりも高濃度側の領域に、極大値があることを、処理対象のブロックの状態が斑状カーボン付着状態であると判定するための第2の条件の例として説明した。
【0097】
しかしながら、前記第1の条件が、濃度ヒストグラムにおけるピークよりも高濃度側において、当該ピークよりも低濃度側と比較して、当該ピークからより離れた濃度値における画素数が多いことを表す条件であれば、前記第1の条件は、前述した条件に限定されない。また、濃度ヒストグラムにおけるピークが2つであるという条件であれば、前記第2の条件は、前述した条件に限定されない。
【0098】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。