(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ニッケルを含有する薄膜状の焼結前燃料極層と、薄膜状の焼結前反応抑止層と、薄膜状の焼結前電解質層と、をこの順番で積層して形成された焼結前アノード支持型ハーフセルを、前記焼結前燃料極層が上方に配置するように敷板の上面に載置して焼結し、燃料極層、反応抑止層、電解質層の順に上方から積層されたアノード支持型ハーフセルを形成する共焼結工程を有し、
前記共焼結工程において、前記焼結前アノード支持型ハーフセルが、拡散ニッケル成分を受容するトラップ部材によって前記焼結前燃料極層の少なくとも上面が覆われた状態で焼結される固体酸化物形燃料電池セルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態のSOFCセルの製造方法について詳しく説明する。本実施形態のSOFCセルでは、電解質層として、酸素イオン伝導性が大きい性質を有するランタンガレート系電解質層を用いることが好ましい。以下、本実施形態のSOFCセルの一例として、ランタンガレート系電解質層を用いたSOFCセルの製造方法について説明する。
【0023】
本実施形態のSOFCセルは、
図1に示すように、薄膜状の燃料極層、反応抑止層、電解質層及び空気極層を順に積層した構成を有する。以下、
図1のSOFCセルを適宜に用いながら、本実施形態のSOFCセルの製造方法について具体的に説明する。なお、各図面はSOFCセル等の略図である。よって、積層される各層の寸法比等は、必ずしも実際の電池セルを表したものではない。また、以下の説明において、
図2Bの紙面上下方向が、そのままSOFCセル製造工程における上下方向に対応するものとする。また、各図面において同様の部材には、それぞれ同一の符号を付した。
【0024】
本実施形態のSOFCセルCは、
図1に示すように、それぞれ平らな薄膜状の燃料極層1と空気極層2との間に、反応抑止層4と電解質層3が積層された、いわゆる平板型のセル構成であり、燃料極層1、反応抑止層4、電解質層3、空気極層2の順に積層されている。燃料極層1は、ニッケルを含有するニッケル系燃料極層である。
【0025】
本実施形態のSOFCセルCの製造方法では、まず、ニッケルを含有する焼結前燃料極層11と、焼結前反応抑止層41と、焼結前電解質層31と、をこの順番で積層して形成された焼結前アノード支持型ハーフセルpHCを焼結し、アノード支持型ハーフセルHCを形成する共焼結工程を経る。なお、焼結前燃料極層11、焼結前反応抑止層41、焼結前電解質層31、および焼結前アノード支持型ハーフセルpHCは、焼結前の燃料極層、反応抑止層、電解質層、およびアノード支持型ハーフセルである。
次に、得られたアノード支持型ハーフセルHCの電解質層3側に焼結前空気極層21を積層し、この積層体を焼結する工程を経て、SOFCセルCが製造される。
【0026】
本実施形態のSOFCセルCの製造方法は、上記の共焼結工程において、焼結前アノード支持型ハーフセルpHCを、焼結前燃料極層11が上方に配置するように敷板5の上面に載置して焼結し、燃料極層1、反応抑止層4、電解質層3の順に上方から積層されたアノード支持型ハーフセルHCを形成する製造方法である。また、本実施形態のSOFCセルCの製造方法は、共焼結工程において、焼結前アノード支持型ハーフセルpHCが、拡散ニッケル成分NiXを受容するトラップ部材61によって、焼結前燃料極層11の少なくとも上面11aが覆われた状態で焼結される製造方法である。つまり、このような共焼結工程以外は、従来公知のSOFCセルの製造方法と同様に製造することができる。
【0027】
(焼結前燃料極層)
本実施形態に係るニッケルを含有する焼結前燃料極層11は、例えばNiOの形態でニッケルを所定の割合で含む材料を用いて作製できる。焼結前燃料極層11には、電子導電性と酸素イオン伝導性に優れる他材料をさらに配合することができ、ガドリニウム(Gd)をドープしたセリア(CeO
2)(以下、GDCとも記す)を好適に用いることができる。
【0028】
GDCは、例えば[Ce
0.8Gd
0.2O
2]の組成比のものを好適に用いることができる。NiOにGDCを配合して(以下、NiO−GDCとも記す)焼結前燃料極層11を作製する。なお、NiとGDCの配合比率としては、重量比で10/90〜90/10が好ましい。この理由は、10/90よりもNiOが少ないと電子導電性が低すぎるためで、一方90/10よりNiOが多くなると酸素イオン伝導性が低すぎるためである。
【0029】
具体的には、焼結前燃料極層11は、例えば、以下のように作製することができる。まず、平均粒径0.1〜1μmのGDC粉末と平均粒径0.1〜1μmのNiO粉末とを所定の重量比で混合して得られた混合粉末に、所定のバインダと溶剤を加えて混合することによりスラリーを調製する。次に、このスラリーでグリーンシートを作製し、所定の形状に切断した後に、空気中で十分に乾燥する。これにより、
図2Aの最上段に示されるように、グリーンシート状のNiO−GDCからなる焼結前燃料極層11が得られる。
【0030】
なお、NiO−GDCの他に焼結前燃料極層11としては、例えば、Ni、Ni−Fe、NiO−SDC(サマリウムドープセリア)、Ni−YSZ(ニッケル−イットリア安定化ジルコニア系サーメット)、又はNi−ScSZ(ニッケル−スカンジア安定化ジルコニア系サーメット)などの材料を用いることができる。また、Niの他に、Fe、Co、Cu、Ru、Rh、PD、Pt等を含むものであっても良い。
【0031】
また、スラリーを調整するためのバインダとして、ポリビニルブチラールやエチルセルロース等を、溶剤として、トルエン、ブタノールまたはエタノール等を好適に用いることができ、後述する各焼結前層のスラリーの調整に関しても同様である。
【0032】
(焼結前反応抑止層)
本実施形態に係る焼結前反応抑止層41は、電解質層との反応性を低く抑えるという観点から、例えばランタンをドープしたセリア(以下、LDCとも記す)を用いて作製できる。LDCとして、例えば[Ce
1−xLa
xO
2−δ]の組成式で表されるものを用いることができる。Laの含有比率xは、0.1以上0.6以下であることが好ましく、0.3以上0.5以下であることがより好ましい。LDCは、例えばLa
0.4Ce
0.6O
2の組成比のものを最も好ましく用いることができる。
【0033】
例えば、LDC粉末は、以下のようにして作製できる。まず、La
2O
3粉末とCeO
2粉末とを所定の割合で混合し、1000℃以上1300℃以下の温度で、1時間以上12時間以下の時間だけ保持する仮焼を行うことによって、LDC仮焼体を作製し、さらに、粉砕することによって、平均粒径0.1〜2μmのLDC粉末を作製する。このLDC粉末にバインダを加え、溶剤中で混合することによって、LDC粉末のスラリーを調製できる。このLDC粉末のスラリーを後述するとおりに、焼結前燃料極層11の表面上に積層することで焼結前反応抑止層41を作製できる。
【0034】
(焼結前電解質層)
本実施形態に係るランタンガレート系焼結前電解質層31は、LaGaO
3のLaやGaの一部が、それより低原子価のSrとMgに置換固溶により置き代わったランタンガレート系酸化物(以下、LSGMとも記す)で作製できる。LSGMは、LSGM焼結体の酸素イオン伝導性が大きくなるという性質を有しており、SOFCセルへの応用において、酸素分圧や温度領域に対する幅広い電解質領域と、酸素イオン伝導性とを両立できる優れた固体電解質である。これまでに広く実用されている固体電解質である安定化ジルコニアよりも高い酸素イオン伝導性が得られ、しかも低温でも酸素イオン伝導性の低下が少ない。よって、SOFCの作動温度が低い場合でも発電性能の向上を見込める電解質なので、LSGMは特に好ましい。
【0035】
具体的には、本実施形態の、焼結前電解質層31におけるLSGMは、酸素イオン伝導性が高いという観点から、[La
1−aSr
aGa
1−bMg
bO
3(0.05≦a≦0.3、0≦b≦0.3)]の一般式で表されるものが好ましい。LSGMは、例えばLa
0.9Sr
0.1Ga
0.8Mg
0.2O
3の組成比のものを最も好ましく用いることができる。
【0036】
より具体的には、焼結前電解質層31は、例えば、以下のようにして作製することができる。まず、La
2O
3粉末、SrCO
3粉末、Ga
2O
3粉末及びMgO粉末を所定の割合で混合し、1000℃以上1300℃以下の温度で、1時間以上12時間以下の時間だけ保持する仮焼を行うことによって、LSGM仮焼体を作製する。次に、LSGM仮焼体を粉砕して平均粒径0.5〜4μmのLSGM粉末を作製する。次に、このようにして得られたLSGM粉末にバインダを加え、溶剤中で混合することによって、LSGM粉末のスラリーを調製する。このLSGMスラリーを後述するとおりに積層することで、焼結前電解質層31を作製できる。
【0037】
なお、電解質として使用できるランタンガレート系酸化物の一般式を[La
1−aA
aGa
1−(b+c)B
bC
cO
3(0.05≦a≦0.3、0≦b≦0.3、0≦c≦0.15) ]で示すことができる。式中、AはSrとCaの1種若しくは2種、BはMg、Al、Inの1種若しくは2種以上、CはMn、Fe、Co、の1種若しくは2種以上である。LSGM以外のランタンガレート系電解質として、AがSr、BがMg、CがCoのLSGMC[La
1−aSr
aGa
1−(b+c)Mg
bCo
cO
3]を例示できる。
【0038】
[共焼結工程]
図2Aを用いて、上記のように作製した焼結前燃料極層11、焼結前反応抑止層41、焼結前電解質層31を積層して、焼結前アノード支持型ハーフセルpHCを作製する手順について説明する。
図2Aの上段で図示したように、まず、グリーンシート状に形成した焼結前燃料極層11を敷板5の上面に載置する。
【0039】
次に、上記したLDC粉末のスラリーを、スクリーン印刷によって焼結前燃料極層11の表面上に積層し、乾燥させる。
図2Aの中段で図示したように、焼結前燃料極層11の上面に積層された焼結前反応抑止層41を形成できる。
【0040】
次に、上記したLSGM粉末のスラリーを、スクリーン印刷によって焼結前反応抑止層41の表面上に積層し、乾燥させる。
図2Aの下段で図示したように、焼結前反応抑止層41の上面に積層された焼結前電解質層31を形成できる。これにより、焼結前燃料極層11、焼結前反応抑止層、焼結前電解質層の順に積層された焼結前アノード支持型ハーフセルpHCを形成できる。
【0041】
なお、焼結前燃料極層11に、焼結前反応抑止層41のスラリー、焼結前電解質層31のスラリーを順に積層する方法については特に限定はなく、上記したスクリーン印刷法の他に、スラリーコート法、テープキャスティング法、ドクタブレード法などを用いて積層することができる。また、EVD−CVD法などを用いることもできる。また、上述した燃料極層の原料粉末や、LDC粉末、LSGM粉末の作製方法についても特に限定はなく、酸化物混合法、共沈法、クエン酸塩法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法などが一般的である。
【0042】
次に、
図2Bを用いて、上記のように作製した焼結前アノード支持型ハーフセルpHCを焼結して、アノード支持型ハーフセルHCを形成する手順について説明する。
図2Bの最上段で図示したように、まず、焼結前燃料極層11が上方に配置するように、焼結前アノード支持型ハーフセルpHCを敷板5の上面に載置する。この際、焼結前アノード支持型ハーフセルpHCの下端面であって焼結前電解質層31の下面全面を敷板の上面に当接させるように載置するのが好ましい。敷板5は、イットリア安定化ジルコニア(組成比がZr
O.84Y
O.16O
2−δのジルコニアであって、以下8YSZとも記す)で形成された緻密板である。
【0043】
次に、
図2Bの上から2段目で図示したように、焼結前アノード支持型ハーフセルpHCの上端面であって焼結前燃料極層11の上面11aに、平板状のトラップ部材61を載置する。トラップ部材61は、焼結前燃料極層11中のニッケルに由来する拡散ニッケル成分NiXを受容する、後述する材料で形成できるが、NiXと反応しやすい材料で形成されているものを好適に用いることができる。この際、上面11aの全面がトラップ部材61の下面に当接するように配置するのが好ましい。
【0044】
次に、焼結前アノード支持型ハーフセルpHCを、好ましくは1200℃以上1350℃以下の温度で、好ましくは1時間以上12時間以下の時間だけ保持することによって共焼結する。これにより、
図2Bの上から3段目で図示したように、燃料極層1、反応抑止層4および電解質層3をこの順に上方から積層されたアノード支持型ハーフセルHCを形成できる。
【0045】
(Ni成分の拡散)
共焼結時に、焼結前燃料極層11中に含まれるニッケルの一部分は、拡散ニッケル成分NiXとして焼結前アノード支持型ハーフセルpHCの内部を拡散し得る。本願発明者らは、焼結前燃料極層に含有されるNiOに由来するNiXが、焼結時に焼結前アノード支持型ハーフセル内部を上方向(反重力方向)に向けて優先的に拡散することを確認しており、従来製法に係る
図7を援用して、この点を捕捉説明する。
【0046】
図7の左図に示すように、焼結中の焼結前燃料極層11で生成するNiXは、高温雰囲気下の焼結中において、図中の矢印で示すように、上方に向けて拡散移動する性質を有する。焼結前燃料極層11が焼結前電解質層31や焼結前反応抑止層41よりも下方の最下層に配置されている場合に、LSGMの焼結前電解質層31やLDCの焼結前反応抑止層41が、上方に拡散移動するNiXの通り道になる。よって、NiXが焼結前電解質層31の本来材料であるLSGMにドーピングされる反応が起こりやすくなって、ニッケルがドープされたLSGM(以下、LSGMNとも記す)が生成し得る。ニッケルがドープされると、LSGM中の一部のマグネシウムがニッケルに置換して抜け出し、MgOとして生成し得る。MgOは、NiOとの固溶体(以下、(Ni,Mg)Oとも記す)としても生成し得る(
図7の右図において、この電解質層を符号3aで、アノード支持型ハーフセルをHCaで示した)。なお、拡散移動するNiXの化学種は明確ではない。
【0047】
LSGMNのようなイオン電子混合導電体が生成すると、電解質層に電子導電性が発現し得る。電解質層に電子導電性が発現すると、電池として作動させた場合に内部短絡状態になってしまい、開回路電圧が低下し、SOFCセルの発電特性が悪くなってしまいかねない。また、MgOや(Ni,Mg)Oのような高抵抗成分が生成してしまうと、電池としての内部抵抗が増え、IR損失が大きくなり得る。
【0048】
これに対して、本実施形態では、例えば
図3に示すように、上方向に焼結前燃料極層11が配置された状態で焼結を行えば、高温雰囲気下で上方に拡散移動するNiXは、焼結前燃料極層11の表面(上面11a)を介して、気体Gの空間に向けて拡散移動する。つまり、NiXが下方に拡散し、焼結前電解質層31が載置される敷板5の設置方向に向けて移動することを抑制できるので、NiXが焼結前電解質層31中にドーピングされる反応が起こるのを抑制することができる。
【0049】
さらに、NiXは、焼結前燃料極層11の上面11aを介して蒸発するところを、トラップ部材61に捕まえられる。つまり、上面11aがNiXを受容するトラップ部材61で覆われているので、拡散移動中のガス状のNiXは、トラップ部材61の表面に接触して捕まえられる。気化したNiXが気相を介して焼結前電解質層31に達し反応するのを防止することができ、共焼結後に電解質層3が電子導電性を発現したり、電解質層3に高抵抗成分が生成したりするのをさらに抑止できる。
【0050】
また、優れた酸素イオン伝導性を発現するLSGMの特性は、ペロブスカイト構造の格子に起因するとの推定もなされており、LSGMは、その構造ゆえに高温で他材と反応を起こしやすい性質を有するとされている。焼結時には必ず高温に曝されるので、NiXが、ランタンガレート系電解質層中にドーピングされる反応も起こりやすくなるが、本実施形態の製法によれば、これら材料の組み合わせによる発電性能が低下しかねない問題を解決することができる。
【0051】
(トラップ部材)
トラップ部材の形状は、上述した平板形状のものに限られない。焼結前燃料極層11の少なくとも上面11aがトラップ部材に覆われた状態で焼結されることが好ましい。上面11aを介してその表面から拡散(蒸発)するNiXを、上面11aの上に被さるトラップ部材の表面において、確実に捕らえることができる。
【0052】
トラップ部材の形状ないし形態は、平板形状のトラップ部材61の他に、例えば
図4に示すように、定形を有さない粉末状トラップ部材71を用いることができる。トラップ部材71で焼結前燃料極層11の上面11aを覆う場合、焼結前アノード支持型ハーフセルpHCの外表面の微細な凸凹状を埋めるような態様で接触できる。よって、気体Gの空間に拡散移動するNiXをより一層確実に捕らえることができる。
【0053】
また、
図5に示すように、焼結前アノード支持型ハーフセルpHCの全外周面を覆う箱形状のトラップ部材81を用いることができる。このように、焼結前アノード支持型ハーフセルpHC全体をすっぽり覆う箱形状であれば、上面11aを介して蒸発するNiXのみならず、周囲の気体G中に拡散するNiXをも捕らえることができる。
【0054】
なお、本実施形態は、トラップ部材を設けずに焼結前アノード支持型ハーフセルpHCを共焼結させる方法であっても構わない(
図2Bの最上段図参照)。NiXが、上方の焼結前燃料極層11の上面11aに向けて拡散移動するので、焼結前電解質層31中にドーピングされるのを抑制できる。上記したいずれの方法であっても、NiXがLSGMの焼結前電解質層31中に拡散し、反応することを、極端な工数増加や特別な組成物を用いることなく、低コストで容易な方法によって抑止し、発電性能が損なわれるのを抑制することができる。
【0055】
次に、トラップ部材の材料について説明する。トラップ部材は、NiXを受容できる材料で形成することが好ましい。係る材料としては、NiXを捕まえることができるものであれば限定されず、例えば、NiXを物理的に吸着する材料や、NiXと化学反応する材料等を挙げることができる。物理的に吸着する材料としては、活性炭や沸石などの多孔質物質、活性アルミナ等を挙げることができる。
【0056】
NiXと化学反応しやすい材料としては、例えば、NiOと固溶体を形成する金属酸化物や、ニッケルと反応するランタンガレート系酸化物を挙げることができる。具体的には、固溶体を形成し得る金属酸化物の金属の種類として、マグネシウム、コバルト、鉄、アルミニウム、チタン、モリブテン、タングステン、クロム、ネオブ、タンタル等を例示できる。好適に使用できる金属酸化物として、酸化マグネシウム、酸化コバルト等を挙げることができる。なお、金属酸化物は、複数の金属を含む複合酸化物であっても構わない。
【0057】
また、ニッケルと反応するランタンガレート系酸化物であれば特に好適に使用できる。ランタンガレートにおいて、ペロブスカイト構造のいわゆるAサイト、Bサイトにおける添加元素の組合せを変えて、LaGaO
3、(La,Sr)GaO
3、La(Ga,Mg)O
3等の材料を例示でき、本実施形態では、トラップ部材の材料として(La,Sr)(Ga,Mg)O
3、すなわち未焼結のLSGMを用いるのが好ましい。
【0058】
(空気極)
本実施形態の焼結前空気極層21としては、特に制限はないが、ランタンマンガン系酸化物、ランタンフェライト系酸化物、ランタンコバルト系酸化物、ランタンニッケル系酸化物、サマリウムコバルト系酸化物(以下、SSCとも記す)などを好適に用いることができる。
【0059】
焼結前空気極層21が例えばSSCからなる場合には、以下のようにして作製することができる。まず、Sm
2O
3粉末、SrCO
3粉末及びCo
2O
3粉末を所定の割合で混合し、900℃以上1100℃以下の温度で、1時間以上12時間以下の時間だけ保持する仮焼を行ってSSC仮焼体を作製する。次に、このようにして得られたSSC仮焼体を粉砕して平均粒径0.1〜1μmのSSC粉末を作製する。次に、このようにして得られたSSC粉末にバインダを加え、溶剤中で混合することによって、SSC粉末のスラリーを調製する。
【0060】
次に、上記したSSC粉末のスラリーを、スクリーン印刷によってアノード支持型ハーフセルHCの電解質層3側の表面上に積層し、乾燥させる。
図2Bの最下段で図示したように、アノード支持型ハーフセルHCの上面に焼結前空気極層21が積層されたSOFCセルpCを形成できる。
【0061】
次に、SOFCセルpCを、好ましくは1200℃以上1350℃以下の温度で、好ましくは1時間以上12時間以下の時間だけ保持することによって焼結する。これにより、
図1で示したSOFCセルCを製造できる。
【0062】
[SOFCセル]
SOFCは、SOFCセルCを図示しないセパレータで狭持したうえで、SOFCセルCとセパレータとを複数積層したSOFCスタック構造を有する。セパレータは、燃料極層1側に燃料ガスの流路を、空気極層2側に酸化ガスの流路を備えている。SOFCスタックには、SOFCセルCの積層方向に貫通する燃料ガスの供給経路及び排出経路、酸化ガスの供給経路及び排出経路が設けられており、燃料ガス、酸化ガスが、それぞれ燃料極層1、空気極層2に供給、排出される。酸化ガスとしては空気を、燃料ガスとしては水素を用いることができる。燃料極層1、空気極層2では、それぞれ下記の電極反応(1)、(2)が進行し、外部回路を介して電気エネルギーが取り出され、その利用に供することができる。
【0063】
H
2+O
2−→H
2O+2e
− (1)
1/2O
2+2e
−→O
2− (2)
【実施例】
【0064】
以下、
図3、4に示した製法に係る実施例1,2を用いて本発明を説明する。以下の実施例は、本発明を具体的に実施した一つの例を示すものであり、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
〈実施例1〉
(LSGM原料粉末の作製)
焼結前電解質層用LSGM原料粉末の作製は、固相反応法により行った。La
0.9Sr
0.1Ga
0.8Mg
0.2O
3に示すランタンガレート系酸化物の組成比となるように、原料となる各種金属酸化物の粉末を秤量した。具体的には、La
2O
3粉末、SrCO
3粉末、Ga
2O
3粉末及びMgO粉末を使用した。これらを溶液中で混合した後に溶媒を除去して得られた粉末を、1350℃で焼成、及び粉砕してLSGM粉末を作製した。
【0066】
(焼結前燃料極層の作製)
分散剤を溶解した有機溶剤に市販の酸化ニッケル(NiO)とガドリア添加セリア(GDC:10mol%Gd
2O
3−90mol%CeO
2)の混合粉末を加えてボールミル等の方法で分散したのち、可塑剤とバインダーを加えて前記手法により分散してスラリーを作製した。
【0067】
このスラリーからドクターブレード法によりシートを成形し、当該シートを加熱し、有機溶剤を蒸発させて乾燥し、膜厚600μmの焼結前燃料極層を作製した。作製した焼結前燃料極層を所定の大きさを切り取った。
【0068】
(反応抑止層用スラリーの作製)
分散剤を溶解させた有機溶剤に市販のランタノイド添加セリア(LDC:40mol%La
2O
3−60mol%CeO
2)粉末とバインダーを加え攪拌して分散させ、焼結前反応抑止層用スラリーを作製した。
【0069】
(電解質層用スラリーの作製)
分散剤を溶解させた有機溶剤に上述したLSGM原料粉末とバインダーを加え攪拌して分散させ、焼結前電解質層用スラリーを作製した。
【0070】
(空気極層用スラリーの作製)
分散剤を溶解させた有機溶剤にLa
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3の組成の粉末とバインダーを加え攪拌して分散させ、焼結前空気極層用スラリーを作製した。
【0071】
(トラップ部材)
トラップ部材として、上述したLSGM原料粉末を用いて上記の電解質層用スラリーと同じスラリーを使用し、板厚5mmに成形した平板を使用した。
【0072】
(共焼結工程)
図2Aに示すように、上述の焼結前燃料極層11を用いて、その片側の表面上に反応抑止層用スラリーをスクリーン印刷し、さらに、この反応抑止層用スラリーの表面に電解質層用スラリーをスクリーン印刷した。このように、焼結前燃料極層11、焼結前反応抑止層41、焼結前電解質層31が、順に積層された円板状の焼結前アノード支持型ハーフセルpHCを製作した。
【0073】
次に、
図2Bの最上段に図示したように、この焼結前アノード支持型ハーフセルpHCを、焼結前燃料極層11側の表面が上方に配置するように、焼結前電解質層31の側の表面を方形の敷板5(50mm×50mm、板厚1mm)の表面に当接させて載置した。ここで、敷板5は、その材質が8YSZの緻密板である。
【0074】
次に、
図3の左図に示したように、平板状のトラップ部材61を用いて、焼結前燃料極層11の上面11aを覆った。このようにトラップ部材61を配置した状態で、さらに、雰囲気温度が1300℃の条件下で焼結前アノード支持型ハーフセルpHCを2時間共焼結し、
図3の右図に示したように、燃料極層1(膜厚600μm)、反応抑止層4(膜厚7μm)、電解質層3(膜厚20μm)の順に上方から積層された円板状のアノード支持型ハーフセルHC(直径40mm)を作製した。
【0075】
なお、元のLSGMのトラップ部材61は、焼結後にはNiXと反応した結果、ニッケルがドープされたLSGMNのトラップ部材6となっており、符号を変えて記した。また、
図4,5において、トラップ部材の符号71と7、81と8についても同様である。
【0076】
(SOFCセルの製造)
上述したアノード支持型ハーフセルHCを用いて、
図2Bの最下段で示すように、電解質層3の側の表面に空気極層用スラリーをスクリーン印刷して、SOFCセルpCを製作した。さらに、雰囲気温度が1000℃の条件下で焼結し、実施例1の製法に係る
図1に示したSOFCセルCを製造した。
【0077】
〈実施例2〉
実施例2の製法のSOFCセルは、実施例1の製法のSOFCセルと比較すると、トラップ部材の形態が異なっており、また、空気極層の材料が異なっている。下記のトラップ部材71と空気極層のスラリーを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2の製法によってSOFCセルを作製した。
【0078】
(共焼結工程)
実施例2のトラップ部材として、上述したLSGM原料粉末よりなる粉末状のトラップ部材71を用いた。上述したLSGM原料粉末を1.5g秤量し、
図4の左図に示すように、焼結前燃料極層11の上面11aに散らしながら被せ、1〜2mmの均一な厚みで覆うようにした。この粉末状トラップ部材71を配置した状態で、実施例1と同様に雰囲気温度が1300℃の条件下で各焼結前層を2時間共焼結した。
図4の右図に示すように、燃料極層1(膜厚600μm)、反応抑止層4(膜厚5〜10μm)、電解質層3(膜厚20〜30μm)の順に上方から積層された第2実施例に係るアノード支持型ハーフセルHCを作製した。
【0079】
(SOFCセルの製造)
焼結前空気極層の材料として、ランタンコバルタイト系のLaCoO
3、サマリウムコバルタイト系のSmCoO
3、の各コバルト系酸化物の原料粉末を用いた。分散剤を溶解させた有機溶剤にLaCoO
3粉末またはSmCoO
3粉末とバインダーを加え攪拌して分散させ、焼結前空気極層用スラリーを作製した。
【0080】
上記の実施例2のアノード支持型ハーフセルHCに、実施例2の空気極層用スラリーをスクリーン印刷してSOFCセルpCを作製し、実施例1と同様に焼結し、実施例2の製法に係る
図1に示したSOFCセルCを製造した。
【0081】
〈比較例〉
比較例のSOFCセルは、実施例1,2のSOFCセルと異なり、焼結前燃料極層が下方に配置(焼結前電解質層が上方に配置)するように焼結前アノード支持型ハーフセルを定置して各焼結前層を共焼結し、アノード支持型ハーフセルを作製した。また、比較例の共焼結工程では、トラップ部材を使用しなかった。空気極層の材料は実施例2と同じものを用いた。それ以外は、実施例1,2と同様の方法でアノード支持型ハーフセルを作製し、さらに同様の方法で比較例のSOFCセルを製造した。
【0082】
[SOFCセルの評価]
(発電試験)
実施例1で得られたSOFCセルと比較例のSOFCセルとを用いて、(a)700℃、(b)650℃、(c)600℃の各運転温度条件下で、発電試験を行った。燃料極層1側の集電は、燃料極の露出部に白金メッシュを白金ペーストで張り合わせて焼き付けた。空気極層2側の集電は、空気極の露出部に集電金属を白金ペーストで張り合わせて焼き付けた。燃料ガスとしてH
2を用い、酸化ガスとして空気を用い、200(ml/min)の流量で流した。(a)0(A/cm
2)から1.25(A/cm
2)程度まで、(b)0(A/cm
2)から0.8(A/cm
2)程度まで、(c)0(A/cm
2)から0.4(A/cm
2)程度までの間の所定の電流密度における電極間の電圧を測定してプロットしたグラフを得た。そのグラフから電流密度が0(A/cm
2)時の電圧を開回路電圧:OCV(V)として求め、(a)(b)(c)各運転温度条件下での比較例の結果とともに表1に示した。
【表1】
【0083】
表示のとおり、いずれの運転温度においても、実施例1のOCV方が比較例よりも大きいことが分かった。電解質層3に電子導電性が発現することを低減できていると解される。したがって、SOFCセルの発電性能、すなわちセルの出力密度(W/cm
2)をより良好に維持することができる。また、焼結前アノード支持型ハーフセルpHCの共焼結工程は、十分高い温度である1300℃で、反応時間を十分確保する条件下で行っており、焼結反応の進行度の観点から発電性能の信頼性を維持できている。
【0084】
(電解質層中のNiの濃度分布)
実施例2、比較例で得られたSOFCセルについて、SEM−EDX(走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置)を用いて、反応抑止層と電解質層との界面から空気極層方向に点分析を行った。具体的には、実施例2、比較例で得られたSOFCセルを積層方向に沿って分割し、反応抑止層4と電解質層3との界面BS(
図4の右図参照)から空気極層2が形成されるべき方向に向けて、5μmの間の略等間隔で5点のスポットについてNiの濃度(at%)を下式(3)で求めた。
【数3】
【0085】
図示のとおり、実施例2の方が比較例よりも電解質層中のNi濃度が小さいことが分かった。焼結前電解質層31の積層方向の膜厚は20〜30μmであり、その全厚みに亘って、NiXが焼結前電解質層中に拡散するのを低減できていると考えられる。よって、電解質層に電子導電性が発現したり、高抵抗成分が生成したりすることによる悪影響を低減できると解される。