特許第6372302号(P6372302)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372302
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】遊離残留塩素測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20180806BHJP
   G01N 27/30 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   G01N27/416 316Z
   G01N27/30 361
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-213594(P2014-213594)
(22)【出願日】2014年10月20日
(65)【公開番号】特開2016-80573(P2016-80573A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219451
【氏名又は名称】東亜ディーケーケー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】大日方 智
(72)【発明者】
【氏名】三橋 信幸
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平2-154142(JP,A)
【文献】 特開2002-90339(JP,A)
【文献】 特開2005-308534(JP,A)
【文献】 特開平11-333462(JP,A)
【文献】 実開平2-95846(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液に浸漬される検知極及び対極と、
前記検知極を回転または振動させるモーターと、
前記検知極に接触可能な研磨部材と、
前記検知極と対極との間に印加電圧を与える加電圧機構と、
前記検知極と対極との間に流れる酸化還元電流を測定する電流計とを備え、
測定モードでは、前記モーターにより前記検知極を回転または振動させつつ、前記印加電圧をプラトー領域内の一定電圧として酸化還元電流を測定し、得られた酸化還元電流に基づき試料液の遊離残留塩素濃度を求め、
診断モードでは、以下のステップを行うように構成されていることを特徴とする遊離残留塩素測定装置。
ステップ1:前記モーターの回転数をNとした状態で、前記印加電圧をプラトー領域内で変化させて、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI)の比率R(=ΔI/ΔV)を求める。
ステップ2:前記比率Rが所定の範囲K〜K(但し、K<K)の範囲内であるときには診断モードを終了し、前記比率Rが所定の範囲K〜Kの範囲外であるときにステップ3に進む。
ステップ3:前記モーターの回転数をN(但し、N<N)に変更して所定時間前記検知極の研磨を行う。
ステップ4:前記モーターの回転数をNに戻した状態で、前記印加電圧をプラトー領域内で変化させて、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV’)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI’)の比率R’(=ΔI’/ΔV’)を求める。
ステップ5:前記比率R’が所定の範囲K’〜K’(但し、K’<K’)の範囲内であるときには診断モードを終了し、前記比率R’が所定の範囲K’〜K’の範囲外であるときにステップ6に進む。
ステップ6:異常情報を生成して診断モードを終了する。
【請求項2】
前記所定の範囲K〜Kが、下記Rを含むように定められている請求項1に記載の遊離残留塩素測定装置。
=ΔI/ΔV
但し、ΔI/ΔVは、スパン校正に用いるスパン液を試料液として、前記モーターの回転数をNとした状態で、前記印加電圧をプラトー領域内で変化させて得られる、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI)の比率である。
【請求項3】
前記所定の範囲K’〜K’が、下記Rを含むように定められている請求項1または2に記載の遊離残留塩素測定装置。
=ΔI/ΔV
但し、ΔI/ΔVは、スパン校正に用いるスパン液を試料液として、前記モーターの回転数をNとした状態で、前記印加電圧をプラトー領域内で変化させて得られる、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI)の比率である。
【請求項4】
前記測定モードにおける前記モーターの回転数がNである請求項1〜3の何れか一項に記載の遊離残留塩素測定装置。
【請求項5】
前記研磨部材が、前記検知極の近傍に非固定状態で配置されている粒状研磨剤である請求項1〜4の何れか一項に記載の遊離残留塩素測定装置。
【請求項6】
さらに、試料液が流通するフローセルと前記フローセル内に試料液を流通させる送液手段とを備え、前記フローセル内に前記検知極と前記非固定状態の粒状研磨剤が収納されている請求項5に記載の遊離残留塩素測定装置。
【請求項7】
前記ステップ1及びステップ4における前記フローセル内の試料液の流量Fと前記ステップ3における前記フローセル内の試料液の流量Fとの関係が、F≦Fである請求項6に記載の遊離残留塩素測定装置。
【請求項8】
前記測定モードにおける前記フローセル内の試料液の流量がFである請求項7に記載の遊離残留塩素測定装置。
【請求項9】
前記測定モードで得られる遊離残留塩素濃度が所定の範囲外となったときに、前記診断モードを開始する請求項1〜8の何れか一項に記載の遊離残留塩素測定装置。
【請求項10】
所定の時間間隔毎に、前記診断モードを開始する請求項1〜9の何れか一項に記載の遊離残留塩素測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遊離残留塩素測定装置に関する。さらに詳しくは、ユーザーに過度の負担を強いることなく、測定異常に対する適切な対処を可能とする遊離残留塩素測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塩素処理は、上水、下水、工業用水、排水、食品洗浄水、プール水等、種々の水に対して、これを消毒するために行われている。この塩素処理において使用される塩素剤は、消毒するために十分な量を消毒対象の水中に投入しなければならないが、あまり過剰に投入することは、環境に悪影響を及ぼしたり、人体に害を与えたりするため望ましくない。そこで、塩素剤を投入した水の残留塩素濃度を測定することが行われている。
【0003】
残留塩素には、塩素剤が水に溶けて生成する次亜塩素酸(遊離残留塩素)と、これがアンモニア性窒素と結合して生じるクロロアミン(結合塩素)とがあり、遊離残留塩素濃度と結合塩素濃度とを合わせたものが、全残留塩素濃度である。
この残留塩素濃度を測定する手分析法としては、o−トリジン比色法(OT法)、ジエチル−p−フェニレンジアミン比色法(DPD法)、よう素滴定法等が用いられている。
しかし、手分析法は煩雑であると共に測定データが間欠的にしか得られないため、従来から残留塩素測定装置が使用されている。この残留塩素測定装置は、いわゆる有試薬式残留塩素測定装置と無試薬式残留塩素測定装置とに分類される。
【0004】
この内、無試薬式残留塩素測定装置は、残留塩素をよう素等に置換せず、試料液中の残留塩素自体をそのまま電解還元させ、これにより検知極と対極との間に流れる酸化還元電流を検出して残留塩素濃度を測定するものである。
無試薬式の残留塩素測定装置では、遊離残留塩素と結合塩素とが、感度差はあるものの共に検出されるが、上水等においては残留塩素の大部分が遊離残留塩素のため、遊離残留塩素測定装置として使用されている。
【0005】
ところが、上水等であっても、塩素処理の対象となる原水に多量のアンモニア性窒素が存在すると塩素処理後の結合塩素濃度が高くなることがある。その場合、遊離残留塩素と結合塩素の双方に感度を有する無試薬式の残留塩素測定装置(遊離残留塩素測定装置)では、実際の遊離残留塩素濃度よりも高い測定値を示すことになるため、遊離残留塩素濃度が不充分であるにもかかわらず、充分であると誤認してしまうおそれがある。その結果、遊離残留塩素が不充分となったことに気がつかずに、遊離残留塩素が不充分な水を上水等として、そのまま供給してしまう危険がある。
【0006】
このような危険を回避するため、特許文献1では、プラトー領域(印加電圧が若干ずれても、電流がほとんど変化しない領域)の電流勾配が大きくなったか否かで、結合塩素の有無を判別する技術が提案されている。
特許文献1では、プラトー領域の電流勾配が大きいことは結合塩素が存在することを意味するので、その場合は塩素剤注入量を増やすことにより、遊離残留塩素濃度が充分な水を供給できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平02−154142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術は、プラトー領域の電流勾配が大きければ結合塩素が存在することを前提としている。しかし、良好なプラトー領域を損ねる要因は結合塩素だけではなく、電極の異常によりプラトー領域の電流勾配が大きくなる場合がある。
その場合、特許文献1の記載に従い塩素剤注入量を制御すると、遊離残留塩素濃度が充分な水であるにもかかわらず、さらに過剰な塩素剤を注入してしまうことになる。
そのため、特許文献1の技術を用いて塩素剤の注入量を適切にコントロールすることは困難であった。
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、結合塩素や電極異常に基づく測定異常に対する適切な対処を、ユーザーに過度の負担を強いることなく可能とする遊離残留塩素測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するために、本発明は、以下の構成を採用した。
[1]試料液に浸漬される検知極及び対極と、
前記検知極を回転または振動させるモーターと、
前記検知極に接触可能な研磨部材と、
前記検知極と対極との間に印加電圧を与える加電圧機構と、
前記検知極と対極との間に流れる酸化還元電流を測定する電流計とを備え、
測定モードでは、前記モーターにより前記検知極を回転または振動させつつ、前記印加電圧をプラトー領域内の一定電圧として酸化還元電流を測定し、得られた酸化還元電流に基づき試料液の遊離残留塩素濃度を求め、
診断モードでは、以下のステップを行うように構成されていることを特徴とする遊離残留塩素測定装置。
ステップ1:前記モーターの回転数をNとした状態で、前記印加電圧をプラトー領域内で変化させて、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI)の比率R(=ΔI/ΔV)を求める。
ステップ2:前記比率Rが所定の範囲K〜K(但し、K<K)の範囲内であるときには診断モードを終了し、前記比率Rが所定の範囲K〜Kの範囲外であるときにステップ3に進む。
ステップ3:前記モーターの回転数をN(但し、N<N)に変更して所定時間前記検知極の研磨を行う。
ステップ4:前記モーターの回転数をNに戻した状態で、前記印加電圧をプラトー領域内で変化させて、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV’)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI’)の比率R’(=ΔI’/ΔV’)を求める。
ステップ5:前記比率R’が所定の範囲K’〜K’(但し、K’<K’)の範囲内であるときには診断モードを終了し、前記比率R’が所定の範囲K’〜K’の範囲外であるときにステップ6に進む。
ステップ6:異常情報を生成して診断モードを終了する。
【0010】
[2]前記所定の範囲K〜Kが、下記Rを含むように定められている[1]に記載の遊離残留塩素測定装置。
=ΔI/ΔV
但し、ΔI/ΔVは、スパン校正に用いるスパン液を試料液として、前記モーターの回転数をNとした状態で、前記印加電圧をプラトー領域内で変化させて得られる、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI)の比率である。
[3]前記所定の範囲K’〜K’が、下記Rを含むように定められている[1]または[2]に記載の遊離残留塩素測定装置。
=ΔI/ΔV
但し、ΔI/ΔVは、スパン校正に用いるスパン液を試料液として、前記モーターの回転数をNとした状態で、前記印加電圧をプラトー領域内で変化させて得られる、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI)の比率である。
[4]前記測定モードにおける前記モーターの回転数がNである[1]〜[3]の何れか一項に記載の遊離残留塩素測定装置。
[5]前記研磨部材が、前記検知極の近傍に非固定状態で配置されている粒状研磨剤である[1]〜[4]の何れか一項に記載の遊離残留塩素測定装置。
[6]さらに、試料液が流通するフローセルと前記フローセル内に試料液を流通させる送液手段とを備え、前記フローセル内に前記検知極と前記非固定状態の粒状研磨剤が収納されている[5]に記載の遊離残留塩素測定装置。
[7]前記ステップ1及びステップ4における前記フローセル内の試料液の流量Fと前記ステップ3における前記フローセル内の試料液の流量Fとの関係が、F≦Fである[6]に記載の遊離残留塩素測定装置。
[8]前記測定モードにおける前記フローセル内の試料液の流量がFである[7]に記載の遊離残留塩素測定装置。
[9]前記測定モードで得られる遊離残留塩素濃度が所定の範囲外となったときに、前記診断モードを開始する[1]〜[8]の何れか一項に記載の遊離残留塩素測定装置。
[10]所定の時間間隔毎に、前記診断モードを開始する[1]〜[9]の何れか一項に記載の遊離残留塩素測定装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の遊離残留塩素測定装置によれば、ユーザーに過度の負担を強いることなく、結合塩素や電極異常に基づく測定異常に対して適切に対処できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る遊離残留塩素測定装置の全体構成図である。
図2】第1実施形態に係る遊離残留塩素測定装置が行う診断モードのフローチャートである。
図3】本発明の第2実施形態に係る遊離残留塩素測定装置におけるセンサ部の断面図である。
図4】本発明の第3実施形態に係る遊離残留塩素測定装置の全体構成図である。
図5】第3実施形態に係る遊離残留塩素測定装置が行う診断モードのフローチャートである。
図6】本発明の第4実施形態に係る遊離残留塩素測定装置におけるセンサ部の断面図である。
図7】試料1〜3のポーラログラムである。
図8】試料4〜6のポーラログラムである。
図9】試料7〜9のポーラログラムである。
図10】試料10、11のポーラログラムである。
図11】試料12、13のポーラログラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
[装置構成]
本発明の第1実施形態に係る遊離残留塩素測定装置について図1を用いて説明する。本実施形態の遊離残留塩素測定装置は、センサ部1と本体部20とから概略構成されている。
【0014】
センサ部1は、試料液Sが導入される測定セル11、下部が試料液Sに浸漬される検知極支持体12、検知極支持体12の先端面に取り付けられた検知極13、下部が試料液Sに浸漬された対極支持体14、対極支持体14の下端側外周面に取り付けられた対極15、検知極13を円運動状に振動させるためのモーター16、検知極支持体12を保持する軸受け17、試料液S中に投入された検知極13洗浄用の多数のビーズ18を有している。なお、測定セル11には、検知極13と対極15との間を仕切るメッシュ状の仕切り板11aが設けられており、ビーズ18が、対極15側に流出しないようになっている。
【0015】
本体部20は、演算制御部21、加電圧機構22、電流計23、表示装置24を有している。検知極13と演算制御部21との間は配線L1で、対極15と演算制御部21との間は配線L2で、モーター16と演算制御部21との間は配線L3で各々接続されている。電流計23は配線L1の途中に、加電圧機構22は配線L2の途中に、各々設けられている。
【0016】
良好なプラトー領域を得やすいことから、検知極13は、金、金合金または白金であることが好ましい。また、対極15は、銀/塩化銀電極であることが好ましい。
検知極支持体12は傾斜状態に配置されており、その長さ方向中間部所定箇所が軸受け17によって保持され、軸受け17による保持箇所を支点として歳差運動できるようになっている。また、検知極支持体12の基端部12aとモーター16の回転軸16aは偏心して係合している。そのため、モーター16の回転軸16aを回転させることにより基端部12aが円運動すると共に、検知極支持体12の先端部に取り付けられた検知極13も振動(円運動)するようになっている。また、配線L1は、検知極支持体12内を通って軸受け17による保持箇所近傍から、検知極13を円運動させても、ねじれたりせずに引き出せるようになっている。
【0017】
ビーズ18は本発明における粒状研磨剤であり、検知極13の近傍に非固定状態で多数配置されている。ビーズ18は、振動(円運動)する検知極13に接触して、検知極13を研磨するようになっている。ビーズ18の材質としては、セラミックまたはガラスが好ましい。
モーター16としては、任意に設定した回転数で動作可能なモーターを使用する。モーター16は、演算制御部21からの指示により、回転数をNとN(但し、N<N)の何れかに切り替えられるようになっている。回転数NとNは、洗浄効率等を考慮して任意に設定できる。回転数NとNの設定値は、随時変更できるようにしてもよいし、固定値であってもよい。
モーター16の回転数をNとNの何れかに切り替えることにより、検知極13の振動速度が変化し、ビーズ18が検知極13に接触するスピードや回数も変化するので、ビーズ18による検知極13の研磨効率も変化する。
【0018】
[プラトー領域]
ポーラログラムにおいて、印加電圧が変化しても、電流がほとんど変化しない領域がプラトー領域である。
以下の説明において、プラトー領域の中でも、安定して電流の変化が少ない印加電圧をV、プラトー領域内の他の印加電圧をV、V(但し、V>V>V)とする。
【0019】
本実施形態の遊離残留塩素測定装置を動作させるには、プラトー領域が確認されていることが前提となる。検知極及び対極の材質、並びに試料液の遊離残留塩素濃度が決まれば、正常な動作状況下では、ほぼ同等のポーラログラムが得られる。そのため、検知極及び対極の材質、並びに測定レンジが特定された測定装置では、通常、個別の測定装置毎ではなく、当該仕様の装置の設計段階でプラトー領域が確認済みとされている。
プラトー領域を新たに確認するには、遊離残留塩素を含み結合塩素を殆ど含まない試料液Sに検知極13と対極15を浸漬し、モーター16の回転数をNとした状態で、印加電圧を掃引しながら酸化還元電流を測定し、ポーラログラムを作成すればよい。この時の試料液Sとしては、測定レンジの上限に近い遊離残留塩素を含むものを使用することが好ましい。ポーラログラムを作成するために、酸化還元電流は、印加電圧を掃引しながら連続的に測定してもよいし、印加電圧が一定値(例えば50mV、または100mV)変化する毎に測定してもよい。
【0020】
[校正モード]
本実施形態の遊離残留塩素測定装置は、校正モードにおいて、ゼロ校正とスパン校正を行う。また、通常は簡易的にゼロ校正のみを行い、必要に応じてゼロ校正とスパン校正の双方を行うようにしてもよい。校正モードは、必要な管理精度等を考慮して適宜行えばよい。
ゼロ校正では、全残留塩素濃度がほぼゼロのゼロ液を試料液Sとし、この試料液Sに検知極13と対極15を浸漬し、モーター16の回転数をN、印加電圧をVとして酸化還元電流Iを求める。スパン校正では、測定レンジ等を考慮して選択したスパン液を試料液Sとし、この試料液Sに検知極13と対極15を浸漬し、モーター16の回転数をN、印加電圧をVとして酸化還元電流Iを求める。
【0021】
ゼロ液は、例えば試料液や水道水を、塩素を除去可能なフィルターで濾過することにより得られる。
スパン液としては、測定対象となる上水等であって、遊離残留塩素濃度と結合塩素濃度が適正に管理されているものを用いることが好ましい。また、次亜塩素酸溶液をゼロ液で希釈したものを用いてもよい。
ゼロ液の遊離残留塩素濃度fとスパン液の遊離残留塩素濃度fは、例えばDPD法により確認することができる。ゼロ液の遊離残留塩素濃度fについては、DPD法等で確認することなく、ゼロとみなしてもよい。
【0022】
ゼロ液の遊離残留塩素濃度fをDPD法等で確認することなくゼロとみなす場合、ゼロ校正は、自動的に行うことが可能である。この場合、ゼロ校正は本体部20に内蔵させたタイマーや外部スタート信号によりスタートさせることができる。
DPD法等でスパン液の遊離残留塩素濃度fの確認が必要なスパン校正は手動で行う。ゼロ校正についても、DPD法等でゼロ液の遊離残留塩素濃度fを確認する場合は、手動で行う。
【0023】
ゼロ校正の遊離残留塩素濃度fと酸化還元電流I、スパン校正の遊離残留塩素濃度fと酸化還元電流Iの2点が決まることにより、検量線を得ることができる。
本体部20の演算制御部21は、ゼロ校正とスパン校正の2点を記憶する。または、これら2点から検量線を求め、求めた検量線を記憶する。
【0024】
[R算出モード]
後述の診断モードにおける所定の範囲K〜Kを画する値KとKは、所定の範囲K〜Kが、下記Rを含むように定められることが好ましい。同様に、所定の範囲K’〜K’を画する値K’とK’は、所定の範囲K’〜K’が、下記Rを含むように定められることが好ましい。
=ΔI/ΔV
但し、ΔI/ΔVは、スパン校正に用いるスパン液を試料液として、前記モーターの回転数をNとした状態で、前記印加電圧をプラトー領域内で変化させて得られる、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI)の比率である。
を求めるためのスパン液としては、測定対象となる上水等であって、遊離残留塩素濃度と結合塩素濃度が適正に管理されているものを用いることが好ましい。また、次亜塩素酸溶液をゼロ液で希釈したものを用いてもよい。
【0025】
は、具体的には、R算出モードにおいて、スパン液を試料液Sとして、以下のようにして求めることができる。
スパン液に検知極13と対極15を浸漬し、モーター16の回転数をNとした状態を維持したまま、印加電圧をVb1からVb2まで掃引して酸化還元電流を測定する。但し、電圧Vb1とVb2はプラトー領域内の印加電圧である。Vb1は前記Vであることが好ましく、Vb2は前記Vであることが好ましい。
酸化還元電流は、印加電圧を掃引しながら連続的に測定してもよいし、印加電圧が一定値(例えば50mV、または100mV)変化する毎に測定してもよい。また、印加電圧がVb1であるときと、Vb2であるときの2点で測定してもよい。
【0026】
そして、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI)の比率を求め、この比率をRとする。印加電圧がVb1であるときの酸化還元電流Ib1と、Vb2であるときの酸化還元電流Ib2の2点からRを求める場合の式は、以下のとおりである。
=ΔI/ΔV=|Ib2−Ib1|/|Vb2−Vb1
3点以上の印加電圧において酸化還元電流を測定する場合や、印加電圧をVb1からVb2まで掃引する間、連続的に酸化還元電流を測定する場合は、最小自乗法等により求めた一次関数の傾きの絶対値がRとなる。
を求めるR算出モードは、必要な管理精度等を考慮して適宜行えばよい。たとえばスパン校正の後に続けて行うことができる。
【0027】
所定の範囲K〜Kは、求めたRを含むように定められる。具体的には、以下の式により求めることできる。
=R−α
=R+β
ここで、αとβは、必要な管理精度等を考慮して適宜設定した値である。αとβは、等しいことが好ましいが、異なっていてもよい。
【0028】
所定の範囲K’〜K’は、求めたRを含むように定められる。具体的には、以下の式により求めることできる。
’=R−α’
’=R+β’
ここで、α’とβ’は、必要な管理精度等を考慮して適宜設定した値である。α’とβ’は、等しいことが好ましいが異なっていてもよい。また、αとα’は、等しいことが好ましいが異なっていてもよい。同様に、βとβ’は、等しいことが好ましいが異なっていてもよい。
【0029】
[測定モード]
本実施形態の遊離残留塩素測定装置は、測定モードの間、測定対象となる上水等の試料液Sに検知極13と対極15を浸漬し、モーター16の回転数をN、印加電圧をV(プラトー領域内の一定電圧)として酸化還元電流Iを求める。本体部20の演算制御部21は、校正モードで記憶した2点で特定される検量線、または校正モードで記憶した検量線に基づき、酸化還元電流Iに対応する遊離残留塩素濃度fを求める。
【0030】
得られた遊離残留塩素濃度fの値は、信号D1として表示装置24に与えられ、表示装置24に遊離残留塩素濃度fが表示される。また、遊離残留塩素濃度fの値は、信号D2として、外部の記録計、データロガー、メモリ、プリンター、コンピュータ等に伝達される。なお、信号D2は、デジタル信号でもアナログ信号でもよい。また、有線で伝達されてもよいし、無線で伝達されてもよい。
【0031】
[診断モード]
本実施形態の遊離残留塩素測定装置は、診断モードでは、以下のステップを行う。
ステップ1:前記モーターの回転数をNとした状態で、前記印加電圧をプラトー領域内で変化させて、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI)の比率R(=ΔI/ΔV)を求める。
ステップ2:前記比率Rが所定の範囲K〜K(但し、K<K)の範囲内であるときには診断モードを終了し、前記比率Rが所定の範囲K〜Kの範囲外であるときにステップ3に進む。
ステップ3:前記モーターの回転数をN(但し、N<N)に変更して所定時間前記検知極の研磨を行う。
ステップ4:前記モーターの回転数をNに戻した状態で、前記印加電圧をプラトー領域内で変化させて、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV’)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI’)の比率R’(=ΔI’/ΔV’)を求める。
ステップ5:前記比率R’が所定の範囲K’〜K’(但し、K’<K’)の範囲内であるときには診断モードを終了し、前記比率R’が所定の範囲K’〜K’の範囲外であるときにステップ6に進む。
ステップ6:異常情報を生成して診断モードを終了する。
【0032】
以下、各ステップについて、図2を参照しつつ詳述する。
診断モードは、本体部20に内蔵させたタイマーや外部スタート信号により、所定の時間間隔毎に測定モードを中断して開始する。また、測定モードで求めた遊離残留塩素濃度fが、所定の管理値の範囲外となった際に、測定モードを中断して開始する。
【0033】
ステップ1では、測定モードで測定していた試料液Sに検知極13と対極15を浸漬し、かつ、モーター16の回転数をNとした状態を維持したまま、印加電圧をVからVまで掃引して酸化還元電流を測定する(ステップA1−1)。
酸化還元電流は、印加電圧を掃引しながら連続的に測定してもよいし、印加電圧が一定値(例えば50mV、または100mV)変化する毎に測定してもよい。また、印加電圧がVであるときと、Vであるときの2点で測定してもよい。
【0034】
次に、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI)の比率R(=ΔI/ΔV)を求める(ステップA1−2)。印加電圧がVであるときの酸化還元電流Iと、Vであるときの酸化還元電流Iの2点から比率Rを求める場合の式は、以下のとおりである。
R=ΔI/ΔV=|I−I|/|V−V
3点以上の印加電圧において酸化還元電流を測定する場合や、印加電圧をVからVまで掃引する間、連続的に酸化還元電流を測定する場合は、最小自乗法等により求めた一次関数の傾きの絶対値が比率Rとなる。
【0035】
ステップ2では、比率Rを所定の範囲K〜K(但し、K<K)と対比する(ステップA2)。その結果、比率Rが所定の範囲K〜Kの範囲内であるときには、診断モードを終了する。一方、比率Rが所定の範囲K〜Kの範囲外であるときはステップ3(ステップA3−1)に進む。
なお、図2では、K≦R≦Kを満たす場合を所定の範囲K〜Kの範囲内とし、K≦R≦Kを満たさない場合を所定の範囲K〜Kの範囲外としたが、K<R<Kを満たす場合を所定の範囲K〜Kの範囲内とし、K<R<Kを満たさない場合を所定の範囲K〜Kの範囲外としてもよい。
【0036】
ステップ3では、モーター16の回転数をNからN(但し、N<N)に変更する(ステップA3−1)。検知極13と対極15は、測定モードで測定していた試料液Sに浸漬したままとする。ステップA3−1における印加電圧の値は任意であり、印加電圧を印加しなくてもよい。モーター16の回転数を高くすることにより、ビーズ18による検知極13の研磨効率が高くなる。
ステップA3−1は、所定の時間が経過するまで継続し(ステップA3−2)、その後ステップ4に進む。所定の時間は、検知極13の表面を充分に研磨できる程度の時間とする。
【0037】
ステップ4では、モーター16の回転数をNからNに戻す。検知極13と対極15は、測定モードで測定していた試料液Sに浸漬したままとする。そして、印加電圧をV’からV’まで掃引して酸化還元電流を測定する(ステップA4−1)。印加電圧V’とV’は、各々ステップ1における印加電圧VとVに等しいことが好ましい。
【0038】
酸化還元電流は、印加電圧を掃引しながら連続的に測定してもよいし、印加電圧が一定値(例えば50mV、または100mV)変化する毎に測定してもよい。また、印加電圧がV’であるときと、V’であるときの2点で測定してもよい。酸化還元電流を測定するタイミングは、ステップ1における酸化還元電流を測定するタイミングと同じであることが好ましい。
【0039】
次に、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV’)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI’)の比率R’(=ΔI’/ΔV’)を求める(ステップA4−2)。印加電圧がV’であるときの酸化還元電流I’と、V’であるときの酸化還元電流I’の2点から比率R’を求める場合の式は、以下のとおりである。
R’=ΔI’/ΔV’=|I’−I’|/|V’−V’|
3点以上の印加電圧において酸化還元電流を測定する場合や、印加電圧をV’からV’まで掃引する間、連続的に酸化還元電流を測定する場合は、最小自乗法等により求めた一次関数の傾きの絶対値が比率R’となる。
【0040】
ステップ5では、比率R’を所定の範囲K’〜K’(但し、K’<K’)と対比する(ステップA5)。その結果、比率R’が所定の範囲K’〜K’の範囲内であるときには、診断モードを終了する。一方、比率R’が所定の範囲K’〜K’の範囲外であるときはステップ6(ステップA6)に進む。
なお、図2では、K’≦R’≦K’を満たす場合を所定の範囲K’〜K’の範囲内とし、K’≦R’≦K’を満たさない場合を所定の範囲K’〜K’の範囲外としたが、K’<R’<K’を満たす場合を所定の範囲K’〜K’の範囲内とし、K’<R’<K’を満たさない場合を所定の範囲K’〜K’の範囲外としてもよい。
【0041】
ステップ6では、異常情報を生成する(ステップA6)。
生成した異常情報は、信号D1として表示装置24に与えられ、表示装置24に異常状態である旨が表示される。また、異常情報は、信号D2として、外部の記録計、データロガー、メモリ、プリンター、スピーカー、コンピュータ等に伝達され、表示、記録、プリント、音声等により異常状態であることがユーザーに通知される。
ステップ6の後、診断モードを終了する。
【0042】
診断モード中は、試料液Sの遊離残留塩素濃度fを求めることができない。したがって、表示装置24や外部のプリンター、コンピュータ等に遊離残留塩素濃度fを伝達することができない。
診断モード中は、診断モード中である旨を表示装置24に表示させてもよい。また、その旨を外部のプリンター、コンピュータ等に伝達してもよい。また、診断モード開始直前における遊離残留塩素濃度fのホールド値等をダミー情報として表示装置24に表示させたり、外部のプリンター、コンピュータ等に伝達したりしてもよい。
【0043】
診断モードを終了後は、原則として測定モードに復帰する。また、必要に応じて校正モードを開始してもよい。また、ステップ6まで行ってから診断モードを終了した際は、測定も校正も行わない、休止モードとしてもよい。
【0044】
<第2実施形態>
[装置構成]
本発明の第2実施形態に係る遊離残留塩素測定装置は、図1のセンサ部1が、図3に示すセンサ部2に変更された他は、第1実施形態と同じである。
【0045】
図3はセンサ部2の断面図である。図3に示すセンサ部2は、略円筒状のケース31が設けられ、このケース31の一方の開口部には、中心部に軸方向に沿った貫通孔32aが穿設されている支持基体32が固着されている。この支持基体32の軸方向略中央部には、上下一対の円形の窓32b、32bが、一方の周面から対向する周面に貫通するように、軸方向と直交して穿設されている。また、その先端近くには凹部32cが周方向に形成され、かつ、その凹部32cの全面にわたって対極33が巻き付けられている。
【0046】
また、この対極33の下方には、支持基体32の先端を覆うようにしてメッシュからなるキャップ34が螺合している。また、キャップ34内には後述する検知極35を研磨・洗浄するためのビーズ36が多数収納されている。そして、窓32bを内側から覆う位置に内網37が設けられ、ビーズ36の流出を防ぐようになっている。
【0047】
ケース31の内部にはモーター38が取付けられており、モーター38の回転軸38aには、偏心カップリング41の上方側に固定されている。偏心カップリング41は、カップリングケース42に保持されており、カップリングケース42は、複数本の支柱43で支持基体32の上方に保持されている。
偏心カップリング41の下方側には、略棒状の連結軸44が連結されている。回転軸38aと連結軸44とが作る角度は約3度に設定され、モーター38の駆動により、連結軸44のカップリングケース42に連結している部位が円運動を行うようになっている。
【0048】
連結軸44の軸方向中央よりやや下側は、軸受け45に挿入されている。軸受け45は、連結軸44方向に円筒状の筒部45aと、この筒部45aの下端側周囲において半径方向に広がったフランジ部45bとからなり、ゴム材で形成されている。筒部45aは連結軸44に高い圧力をもって水密な状態で密着している。また、軸受け45は、その外周面が支持基体32の内周面に水密に接している。
【0049】
連結軸44の軸受け45よりも下端側は、略円筒状の検知極支持体46の上端側に挿入されている。これにより、検知極支持体46が連結軸44の下端側に連結固定され、支持基体32の貫通孔32a内に垂下されている。検知極支持体46の下端には、検知極35が設けられている。
モーター38の駆動により、連結軸44のカップリングケース42に連結している部位が円運動すると、連結軸44は、フランジ部45bの位置する部位を支点とする歳差運動をする。その結果、連結軸44に固定された検知極支持体46の下端に設けられた検知極35も円運動するようになっている。
【0050】
検知極35のリード線47は、最終的にはコネクター48を経由して本体部20の演算制御部21に連結されている。また、対極33は、コネクター48を経由して本体部20の演算制御部21に連結されている。モーター38も、コネクター48を経由して本体部20の演算制御部21に連結されている。
なお、図3において、リード線47のコネクター48近傍の配線については図示を省略する。また、対極33からコネクター48迄の配線と、モーター38からコネクター48迄の配線についても図示を省略する。
【0051】
検知極35は、第1実施形態の検知極13と同様のものが使用できる。また、対極33は、第1実施形態の対極15と同様のものが使用できる。
モーター38は、第1実施形態のモーター16と同様に、演算制御部21からの指示により、回転数をNとN(但し、N<N)の何れかに切り替えられるようになっている。
【0052】
本実施形態のセンサ部2の下端を試料液Sに浸すと、試料液Sがキャップ34と窓32bから流入流出する。これにより、試料液Sは検知極35と接触すると共に、支持基体32に巻き付けられている対極33にも接触する。すなわち、検知極35と対極33が試料液Sに浸漬された状態となる。
なお、試料液Sは軸受け45により、軸受け45より上方のケース31内への侵入が阻止されるようになっている。
【0053】
第2実施形態に係る遊離残留塩素測定装置は、校正モード、R算出モード、測定モード、診断モードのそれぞれにおいて、第1実施形態に係る遊離残留塩素測定装置と同様に動作する。また、プラトー領域が確認されていることが必要なこと、及びその確認の方法も第1実施形態に係る遊離残留塩素測定装置と同様である。
【0054】
<第3実施形態>
[装置構成]
本発明の第3実施形態に係る遊離残留塩素測定装置について図4を用いて説明する。なお、図4において、図1と同様の構成部材には、図1と同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
本実施形態の遊離残留塩素測定装置は、センサ部3と本体部20と送液部50から概略構成されている。
【0055】
センサ部3は、第1実施形態の測定セル11が、フローセル19に変更された他は、第1実施形態のセンサ部1と同様である。フローセル19には、検知極13と対極15との間を仕切るメッシュ状の仕切り板19aが設けられており、ビーズ18が、対極15側に流出しないようになっている。
送液部50は、フローセル19に試料液Sを送る流入路51と、フローセル19から試料液Sを排出する排出路52と、流入路51に設けられたポンプ53を有し、本発明の送液手段を構成している。
【0056】
ポンプ53と演算制御部21との間は配線L4で各々接続されている。ポンプ53は、演算制御部21からの指示により、フローセル19内の試料液Sの流量をFとF(但し、F<F)の何れかに切り替えられるようになっている。フローセル19内の試料液Sの流量を変化させることにより、検知極13に衝突するビーズ18の勢いが変化し、検知極13の研磨効率も変化する。
第1、第2実施形態と同様に、モーター16の回転数を変化させることによっても、ビーズ18による検知極13の研磨効率が変化する。
【0057】
[プラトー領域]
第1実施形態の説明と同様、以下の説明において、プラトー領域の中でも安定して電流の変化が少ない印加電圧をV、プラトー領域内の他の印加電圧をV、V(但し、V>V>V)とする。
【0058】
本実施形態の遊離残留塩素測定装置を動作させる際にも、プラトー領域が確認されていることが前提となる。検知極及び対極の材質、並びに試料液の遊離残留塩素濃度が決まれば、正常な動作状況下では、ほぼ同等のポーラログラムが得られる。そのため、検知極及び対極の材質、並びに測定レンジが特定された測定装置では、通常、個別の測定装置毎ではなく、当該仕様の装置の設計段階でプラトー領域が確認済みとされている。
プラトー領域を新たに確認するには、遊離残留塩素を含み結合塩素を殆ど含まない試料液Sをフローセル19内に流通させ、モーター16の回転数をN、フローセル19内の試料液Sの流量をFとした状態で、印加電圧を掃引しながら酸化還元電流を測定し、ポーラログラムを作成すればよい。この時の試料液Sとしては、測定レンジの上限に近い遊離残留塩素を含むものを使用することが好ましい。ポーラログラムを作成するために、酸化還元電流は、印加電圧を掃引しながら連続的に測定してもよいし、印加電圧が一定値(例えば50mV、または100mV)変化する毎に測定してもよい。
【0059】
[校正モード]
本実施形態の遊離残留塩素測定装置は、校正モードにおいて、ゼロ校正とスパン校正を行う。また、通常は簡易的にゼロ校正のみを行い、必要に応じてゼロ校正とスパン校正の双方を行うようにしてもよい。校正モードは、必要な管理精度等を考慮して、適宜行えばよい。
ゼロ校正では、全残留塩素濃度がほぼゼロのゼロ液を試料液Sとし、この試料液Sをフローセル19内に流通させ、モーター16の回転数をN、フローセル19内の試料液Sの流量をF、印加電圧をVとして酸化還元電流Iを求める。スパン校正では、測定レンジ等を考慮して選択したスパン液を試料液Sとし、この試料液Sをフローセル19内に流通させ、モーター16の回転数をN、フローセル19内の試料液Sの流量をF、印加電圧をVとして酸化還元電流Iを求める。
【0060】
ゼロ液とスパン液の調製方法ないしは選択方法、ゼロ液の遊離残留塩素濃度fとスパン液の遊離残留塩素濃度fの確認方法は、第1実施形態と同様である。また、本体部20の演算制御部21が、ゼロ校正とスパン校正の2点を記憶すること、または、これら2点から検量線を求め、求めた検量線を記憶することは第1実施形態と同様である。校正モードは、第1実施形態と同様にして開始することができる。
【0061】
[R算出モード]
後述の診断モードにおける所定の範囲K〜Kを画する値KとKは、所定の範囲K〜Kが、下記Rを含むように定められることが好ましい。同様に、所定の範囲K’〜K’を画する値K’とK’は、所定の範囲K’〜K’が、下記Rを含むように定められることが好ましい。
=ΔI/ΔV
但し、ΔI/ΔVは、スパン校正に用いるスパン液を試料液として、前記モーターの回転数をN、フローセル19内の試料液Sの流量をFとした状態で、前記印加電圧をプラトー領域内で変化させて得られる、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI)の比率である。
を求めるためのスパン液としては、測定対象となる上水等であって、遊離残留塩素濃度と結合塩素濃度が適正に管理されているものを用いることが好ましい。また、次亜塩素酸溶液をゼロ液で希釈したものを用いてもよい。
【0062】
は、具体的には、R算出モードにおいて、スパン液を試料液Sとして、以下のようにして求めることができる。
試料液S(スパン液)をフローセル19内に流通させ、モーター16の回転数をN、フローセル19内の試料液Sの流量をFとした状態を維持したまま、印加電圧をVb1からVb2まで掃引して酸化還元電流を測定する。但し、電圧Vb1とVb2はプラトー領域内の印加電圧である。Vb1は前記Vであることが好ましく、Vb2は前記Vであることが好ましい。
酸化還元電流は、印加電圧を掃引しながら連続的に測定してもよいし、印加電圧が一定値(例えば50mV、または100mV)変化する毎に測定してもよい。また、印加電圧がVb1であるときと、Vb2であるときの2点で測定してもよい。
【0063】
そして、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI)の比率を求め、この比率をRとする。印加電圧がVb1であるときの酸化還元電流Ib1と、Vb2であるときの酸化還元電流Ib2の2点からRを求める場合の式は、以下のとおりである。
=ΔI/ΔV=|Ib2−Ib1|/|Vb2−Vb1
3点以上の印加電圧において酸化還元電流を測定する場合や、印加電圧をVb1からVb2まで掃引する間、連続的に酸化還元電流を測定する場合は、最小自乗法等により求めた一次関数の傾きの絶対値がRとなる。
を求めるR算出モードは、必要な管理精度等を考慮して適宜行えばよい。たとえばスパン校正の後に続けて行うことができる。
【0064】
所定の範囲K〜Kは、求めたRを含むように定められる。具体的には、以下の式により求めることできる。
=R−α
=R+β
ここで、αとβは、必要な管理精度等を考慮して適宜設定した値である。αとβは、等しいことが好ましいが、異なっていてもよい。
【0065】
所定の範囲K’〜K’は、求めたRを含むように定められる。具体的には、以下の式により求めることできる。
’=R−α’
’=R+β’
ここで、α’とβ’は、必要な管理精度等を考慮して適宜設定した値である。α’とβ’は、等しいことが好ましいが異なっていてもよい。また、αとα’は、等しいことが好ましいが異なっていてもよい。同様に、βとβ’は、等しいことが好ましいが異なっていてもよい。
【0066】
[測定モード]
本実施形態の遊離残留塩素測定装置は、測定モードの間、測定対象となる上水等の試料液Sをフローセル19内に流通させ、モーター16の回転数をN、フローセル19内の試料液Sの流量をF、印加電圧をVとして酸化還元電流Iを求める。本体部20の演算制御部21は、校正モードで記憶した2点で特定される検量線、または校正モードで記憶した検量線に基づき、酸化還元電流Iに対応する遊離残留塩素濃度fを求める。
【0067】
得られた遊離残留塩素濃度fの値は、信号D1として表示装置24に与えられ、表示装置24に遊離残留塩素濃度fが表示される。また、遊離残留塩素濃度fの値は、信号D2として、外部の記録計、データロガー、メモリ、プリンター、コンピュータ等に伝達される。なお、信号D2は、デジタル信号でもアナログ信号でもよい。また、有線で伝達されてもよいし、無線で伝達されてもよい。
【0068】
[診断モード]
本実施形態の遊離残留塩素測定装置は、診断モードでは、第1実施形態と同様にステップ1〜ステップ6を行うが、フローセル19内の試料液Sの流量調整を行う点が第1実施形態と相違する。
以下、各ステップについて、図5を参照しつつ詳述する。
診断モードは、本体部20に内蔵させたタイマーや外部スタート信号により、所定の時間間隔毎に測定モードを中断して開始する。また、測定モードで求めた遊離残留塩素濃度fが、所定の管理値の範囲外となった際に、測定モードを中断して開始する。
【0069】
ステップ1では、測定モードで測定していた試料液Sをフローセル19内に流通させ、かつ、モーター16の回転数をN、フローセル19内の試料液Sの流量をFとした状態を維持したまま、印加電圧をVからVまで掃引して酸化還元電流を測定する(ステップB1−1)。
酸化還元電流は、印加電圧を掃引しながら連続的に測定してもよいし、印加電圧が一定値(例えば50mV、または100mV)変化する毎に測定してもよい。また、印加電圧がVであるときと、Vであるときの2点で測定してもよい。
【0070】
次に、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI)の比率R(=ΔI/ΔV)を求める(ステップB1−2)。印加電圧がVであるときの酸化還元電流Iと、Vであるときの酸化還元電流Iの2点から比率Rを求める場合の式は、以下のとおりである。
R=ΔI/ΔV=|I−I|/|V−V
3点以上の印加電圧において酸化還元電流を測定する場合や、印加電圧をVからVまで掃引する間、連続的に酸化還元電流を測定する場合は、最小自乗法等により求めた一次関数の傾きの絶対値が比率Rとなる。
【0071】
ステップ2では、比率Rを所定の範囲K〜K(但し、K<K)と対比する(ステップB2)。その結果、比率Rが所定の範囲K〜Kの範囲内であるときには、診断モードを終了する。一方、比率Rが所定の範囲K〜Kの範囲外であるときはステップ3(ステップB3−1)に進む。
なお、図5では、K≦R≦Kを満たす場合を所定の範囲K〜Kの範囲内とし、K≦R≦Kを満たさない場合を所定の範囲K〜Kの範囲外としたが、K<R<Kを満たす場合を所定の範囲K〜Kの範囲内とし、K<R<Kを満たさない場合を所定の範囲K〜Kの範囲外としてもよい。
【0072】
ステップ3では、モーター16の回転数をNからN(但し、N<N)に変更すると共に、フローセル19内の試料液Sの流量をFからF(但し、F<F)に変更する(ステップB3−1)。フローセル19内には、測定モードで測定していた試料液Sを流通させたままとする。ステップB3−1における印加電圧の値は任意であり、印加電圧を印加しなくてもよい。モーター16の回転数を高くすると共に、フローセル19内の試料液Sの流量を大きくすることにより、ビーズ18による検知極13の研磨効率が高くなる。
ステップB3−1は、所定の時間が経過するまで継続し(ステップB3−2)、その後ステップ4に進む。所定の時間は、検知極13の表面を充分に研磨できる程度の時間とする。
【0073】
ステップ4では、モーター16の回転数をNからNに戻すと共に、フローセル19内の試料液Sの流量をFからFに戻す。フローセル19内には、測定モードで測定していた試料液Sを流通させたままとする。そして、印加電圧をV’からV’まで掃引して酸化還元電流を測定する(ステップB4−1)。印加電圧V’とV’は、各々ステップ1における印加電圧VとVに等しいことが好ましい。
【0074】
酸化還元電流は、印加電圧を掃引しながら連続的に測定してもよいし、印加電圧が一定値(例えば50mV、または100mV)変化する毎に測定してもよい。また、印加電圧がV’であるときと、V’であるときの2点で測定してもよい。酸化還元電流を測定するタイミングは、ステップ1における酸化還元電流を測定するタイミングと同じであることが好ましい。
【0075】
次に、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV’)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI’)の比率R’(=ΔI’/ΔV’)を求める(ステップB4−2)。印加電圧がV’であるときの酸化還元電流I’と、V’であるときの酸化還元電流I’の2点から比率R’を求める場合の式は、以下のとおりである。
R’=ΔI’/ΔV’=|I’−I’|/|V’−V’|
3点以上の印加電圧において酸化還元電流を測定する場合や、印加電圧をV’からV’まで掃引する間、連続的に酸化還元電流を測定する場合は、最小自乗法等により求めた一次関数の傾きの絶対値が比率R’となる。
【0076】
ステップ5では、比率R’を所定の範囲K’〜K’(但し、K’<K’)と対比する(ステップB5)。その結果、比率R’が所定の範囲K’〜K’の範囲内であるときには、診断モードを終了する。一方、比率R’が所定の範囲K’〜K’の範囲外であるときはステップ6(ステップB6)に進む。
なお、図5では、K’≦R’≦K’を満たす場合を所定の範囲K’〜K’の範囲内とし、K’≦R’≦K’を満たさない場合を所定の範囲K’〜K’の範囲外としたが、K’<R’<K’を満たす場合を所定の範囲K’〜K’の範囲内とし、K’<R’<K’を満たさない場合を所定の範囲K’〜K’の範囲外としてもよい。
【0077】
ステップ6では、異常情報を生成する(ステップB6)。
生成した異常情報は、信号D1として表示装置24に与えられ、表示装置24に異常状態である旨が表示される。また、異常情報は、信号D2として、外部の記録計、データロガー、メモリ、プリンター、スピーカー、コンピュータ等に伝達され、表示、記録、プリント、音声等により異常状態であることがユーザーに通知される。
ステップ6の後、診断モードを終了する。
【0078】
診断モード中は、試料液Sの遊離残留塩素濃度fを求めることができない。したがって、表示装置24や外部のプリンター、コンピュータ等に遊離残留塩素濃度fを伝達することができない。
診断モード中は、診断モード中である旨を表示装置24に表示させてもよい。また、その旨を外部のプリンター、コンピュータ等に伝達してもよい。また、診断モード開始直前における遊離残留塩素濃度fのホールド値等をダミー情報として表示装置24に表示させたり、外部のプリンター、コンピュータ等に伝達したりしてもよい。
【0079】
診断モードを終了後は、原則として測定モードに復帰する。また、必要に応じて校正モードを開始してもよい。また、ステップ6まで行ってから診断モードを終了した際は、測定も校正も行わない、休止モードとしてもよい。
【0080】
<第4実施形態>
[装置構成]
本発明の第4実施形態に係る遊離残留塩素測定装置は、図4のセンサ部3が、図6に示すセンサ部4に変更された他は、第3実施形態と同じである。
【0081】
図6はセンサ部4の断面図である。センサ部4は、第2実施形態のセンサ部2に、フローセル60が追加された構成となっている。図6において、図3と同一の構成部材については、図3と同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
フローセル60には、支持基体32が挿入されている。フローセル60の上端側内壁と支持基体32外周の間は、Oリング61を介して液密に固着されている。
フローセル60の先端部の中央には試料液流入用の試料液流入口60aが設けられるとともに、Oリング61近傍の側壁には試料液流出用の試料液流出口60bが設けられている。試料液流入口60aには流入路51が、試料液流出口60bには排出路52が接続される。
【0082】
本実施形態のセンサ部4のフローセル60の試料液流入口60aから試料液Sを流すと、試料液Sの一部がキャップ34内に侵入して窓32bを介して試料液流出口60bから流出する。これにより、試料液Sは検知極35と接触する。また、試料液Sの一部は試料液流入口60aから流入した後、支持基体32の外側を通過して試料液流出口60bから流出する。これにより、試料液Sは支持基体32に巻き付けられている対極33に接触する。すなわち、フローセル60の試料液流入口60aから試料液Sを流すことにより、検知極35と対極33が試料液Sに浸漬した状態となる。
【0083】
第4実施形態に係る遊離残留塩素測定装置は、校正モード、R算出モード、測定モード、診断モードのそれぞれにおいて、第3実施形態に係る遊離残留塩素測定装置と同様に動作する。また、プラトー領域が確認されていることが必要なこと、及びその確認の方法も第3実施形態に係る遊離残留塩素測定装置と同様である。
【0084】
<その他の実施形態>
上記各実施形態では、測定モードにおけるモーターの回転数とステップ1におけるモーターの回転数を同一としたが、両者は異なっていてもよい。
また、上記各実施形態では、研磨部材を検知極の近傍に非固定状態で配置されている粒状研磨剤(ビーズ18、36)としたが、たとえば、検知極に向けて付勢されたバネの先端に取り付けられ検知極に接触するスポンジやブラシ等の研磨部材でもよい。
【0085】
また、第3実施形態、第4実施形態においては、ステップ3における流量をステップ1における流量より大きくしたが、これらの実施形態におけるステップ1とステップ3の流量は同じでもよい。すなわち、ステップ3で変更するのは、モーターの回転数だけでもよい。
また、第3実施形態、第4実施形態においては、測定モードにおける流量とステップ1における流量を同一としたが、両者は異なっていてもよい。
【0086】
また、上記各実施形態では、診断モードを、所定の時間間隔毎に開始すると共に、測定モードで求めた遊離残留塩素濃度fが所定の管理値の範囲外となった際にも、測定モードを中断して開始する態様としたが、診断モードは、所定の時間間隔毎にのみ開始する態様としてもよい。また、測定モードで求めた遊離残留塩素濃度fが、所定の管理値の範囲外となった際のみに開始する態様としてもよい。
また、所定の時間間隔毎に診断モードを開始する場合、所定の時間間隔は、測定モードで求めた遊離残留塩素濃度fの変動状況等や季節等に応じて、変更してもよい。
【0087】
また、上記各実施形態では、校正モードとR算出モードを独立した工程として説明したが、たとえばスパン校正とR算出モードとは、同時に行ってもよい。
具体的には、印加電圧を掃引しながら酸化還元電流を連続的に測定してRを算出すると共に、掃引中の印加電圧がVとなったときの酸化還元電流に基づき、スパン校正を行うことができる。
また、所定の範囲K〜Kと所定の範囲K’〜K’は、各々固定された範囲であってもよい。その場合、R算出モードは不要である。
【0088】
[作用効果]
上記各実施形態では、ステップ2において比率Rが所定の範囲K〜Kの範囲内であり良好なプラトー領域が維持されている場合は、正常であると判断できるので、直ちに測定モードに復帰できる。一方、比率Rが所定の範囲K〜Kの範囲外の大きい値であり、良好なプラトー領域が維持できていない場合、原因としては、結合塩素濃度の変化(増加)や電極の異常が考えられる。また、比率Rが所定の範囲K〜Kの範囲外の小さい値である場合も、電極の異常や結合塩素濃度の変化(減少)が考えられる。
【0089】
本発明者らは、電極の異常は、検知極を充分に研磨すれば解消される場合が多いことを見出した。すなわち、検知極の表面の一部が深く削れたり、検知極から削れた断片が完全に外れずに検知極表面にぶら下がったりした状態となった場合など、検知極の表面積が増大することによる電極異常が測定値異常をもたらす。このような異常は、検知極を充分に研磨してその表面の平坦性を回復したり、ぶら下がった断片を除去したりすることにより解消できることを見出した。そこで、ステップ3で、高い研磨効率で充分に研磨する。
【0090】
その後、ステップ5において比率R’が所定の範囲K’〜K’の範囲内であり良好なプラトー領域が復活した場合は、正常に戻ったと判断できるので、直ちに測定モードに復帰できる。一方、比率R’が未だ所定の範囲K’〜K’の範囲外であり、良好なプラトー領域が復活できていない場合、原因としては、結合塩素の影響や、充分な研磨によっても解消されない電極の重度の異常が考えられる。そこで、異常情報を生成し、ユーザーに対応を促す。
本実施形態によれば、検知極を充分に研磨すれば解消できる異常を自動的に解消して正常状態に復帰させることができる。そのため、ユーザーが現場に赴いて対応する負担を大幅に軽減することができる。
また、電極の異常によりプラトー領域の電流勾配が大きくなったにもかかわらず、結合塩素の影響であると誤認して、過剰な塩素剤を注入してしまうことを回避できる。
【実施例】
【0091】
<試料液>
以下の試料液を作成した、
(試料液1)水道水を東レ株式会社製トレビーノ(登録商標)STC.Jで濾過したものを試料液1とした。
(試料液2)試料液の遊離残留塩素濃度が約0.5mg/Lとなるように、試料液1に次亜塩素酸溶液(1800mg/L)を添加したものを試料液2とした。
(試料液3)試料液の遊離残留塩素濃度が約1mg/Lとなるように、試料液1に次亜塩素酸溶液(1800mg/L)を添加したものを試料液3とした。
【0092】
(試料液4)試料液の遊離残留塩素濃度が約1mg/Lとなるように、試料液1に次亜塩素酸溶液(1800mg/L)を添加したものを試料液4とした。
(試料液5)試料中のアンモニア性窒素の量が0.1mg/Lとなるように、試料液1に塩化アンモニウム溶液(関東化学株式会社製塩化アンモニウムの特級0.382mgを試料液1の1Lに溶解したもの)を添加した。次いで、次亜塩素酸溶液(1800mg/L)を試料液4において添加した量とほぼ同量(次亜塩素酸がアンモニア性窒素と反応しなければ、試料液の遊離残留塩素濃度が約1mg/Lとなる量)添加して試料液5とした。
(試料液6)試料中のアンモニア性窒素の量が0.2mg/Lとなるように、試料液1に塩化アンモニウム溶液(関東化学株式会社製塩化アンモニウムの特級0.764mgを試料液1の1Lに溶解したもの)を添加した。次いで、次亜塩素酸溶液(1800mg/L)を試料液4において添加した量とほぼ同量(次亜塩素酸がアンモニア性窒素と反応しなければ、試料液の遊離残留塩素濃度が約1mg/Lとなる量)添加して試料液6とした。
【0093】
(試料液7)試料液の遊離残留塩素濃度が約0.5mg/Lとなるように、試料液1に次亜塩素酸溶液(1800mg/L)を添加したものを試料液7とした。
(試料液8)試料中のアンモニア性窒素の量が0.05mg/Lとなるように、試料液1に塩化アンモニウム溶液(関東化学株式会社製塩化アンモニウムの特級0.191mgを試料液1の1Lに溶解したもの)を添加した。次いで、次亜塩素酸溶液(1800mg/L)を試料液7において添加した量とほぼ同量(次亜塩素酸がアンモニア性窒素と反応しなければ、試料液の遊離残留塩素濃度が約0.5mg/Lとなる量)添加して試料液8とした。
(試料液9)試料中のアンモニア性窒素の量が0.1mg/Lとなるように、試料液1に塩化アンモニウム溶液(関東化学株式会社製関東化学株式会社製塩化アンモニウムの特級0.382mgを試料液1の1Lに溶解したもの)を添加した。次いで、次亜塩素酸溶液(1800mg/L)を試料液7において添加した量とほぼ同量(次亜塩素酸がアンモニア性窒素と反応しなければ、試料液の遊離残留塩素濃度が約0.5mg/Lとなる量)添加して試料液6とした。
【0094】
(試料液10)水道水を試料液10とした。
(試料液11)水道水を東レ株式会社製トレビーノ(登録商標)STC.Jで濾過したものを試料液11とした。
【0095】
(試料液12)水道水を試料液12とした。
(試料液13)水道水を東レ株式会社製トレビーノ(登録商標)STC.Jで濾過したものを試料液13とした。
【0096】
<ポーラログラムの作成1>
センサ部としては、図6のセンサ部4を用いた。検知極35としては金電極を、対極33としては銀/塩化銀電極を用いた。モーター38の回転数は2800rpmとした。
図6のセンサ部のフローセル60に、タンクのヘッド圧を利用し、100〜300mL/分の範囲の流量を保つようにして試料液(試料液1〜9)を流通させた。
この状態で、検知極35と対極33の間に300mV〜−300mVの電圧(掃引速度100mV/分)を印加しつつ検知極と対極との間に流れる酸化還元電流を測定して、試料液1〜9のポーラログラムを得た。結果を図7〜9に示す。
【0097】
<ポーラログラムの作成2>
検知極35として変形して表面積が大きくなった金電極を用いた他は、ポーラログラムの作成1と同様にして、試料液10、11のポーラログラムを得た。結果を図10に示す。
【0098】
<ポーラログラムの作成3>
検知極35としてポーラログラムの作成2で用いた金電極を再研磨したものを用いた他は、ポーラログラムの作成1と同様にして、試料液12、13のポーラログラムを得た。結果を図11に示す。
【0099】
<DPD法による測定>
HACH社製ポケット残留塩素計を用い、DPD法により各試料液の遊離残留塩素濃度と試料液4〜9の全残留塩素濃度を測定した。測定した遊離残留塩素濃度、及び全残留塩素濃度から遊離残留塩素濃度を差し引いた濃度(結合塩素濃度)を図7〜11に示す。図中、fは遊離残留塩素濃度、cは結合塩素濃度である。なお、図8、9のNは、試料液調製時の試薬配合量から計算したアンモニア性窒素量である。
【0100】
<比率Rの計算>
図7〜11の各試料液のポーラログラムについて、印加電圧の変化量の絶対値(ΔV)に対する酸化還元電流の変化量の絶対値(ΔI)の比率R(=ΔI/ΔV)を求めた。
比率Rは、印加電圧がVであるときの酸化還元電流Iと、Vであるときの酸化還元電流Iの2点から下記の式により計算した。
R=ΔI/ΔV=|I−I|/|V−V
印加電圧Vは+50mV、印加電圧V2は−50mVとした。結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
<考察>
図7より、検知極として金電極、対極としては銀/塩化銀電極を用いることにより、結合塩素を実質的に含まない試料液1〜3では、+100〜−100mvの範囲が安定したプラトー状態となっており、この範囲から測定時の印加電圧を選択可能なことが確認できた。特に、+50〜−50mvの範囲で、特に良好なプラトー領域が得られることが確認された。
なお、表1に示すように、試料液1〜3の比率Rは遊離残留塩素濃度が高くなるほど、大きくなる傾向がある。
【0103】
一方、図8図9に示すように、結合塩素が存在する試料液5、6、8、9では、+50〜−50mvの範囲でも、比率Rが大きくなる傾向が見られた。
表1に示す様に、次亜塩素酸溶液の添加量がほぼ等しい試料4〜6のRを比較すると、アンモニア性窒素の量が高くなるほど、比率Rが大きくなる傾向が見られた。同様に、次亜塩素酸溶液の添加量がほぼ等しい試料7〜9のRを比較すると、アンモニア性窒素の量が高くなるほど、比率Rが大きくなる傾向が見られた。
したがって、遊離残留塩素濃度がほぼ一定範囲に管理されている上水等では、比率Rが、測定レンジや管理精度に応じて設定した所定の範囲K〜Kの範囲を超えて大きくなった場合、結合塩素の存在による異常が生じている可能性があると診断可能であることが確認できた。
【0104】
また、図10に示すように、試料液10、11では結合塩素が測定に影響を与えない程度の濃度であるにもかかわらず、良好なプラトー領域が得られなかった。一方、図11に示すように、研磨後は、試料液10、11と同等の試料液12、13で良好なプラトー領域が得られることが確認された。
また、表1に示すように、試料液10の比率Rは、遊離残留塩素濃度がほぼ等しい試料12の比率Rより大きく、遊離残留塩素濃度がほぼゼロに近い試料液11の比率Rは、遊離残留塩素濃度がほぼゼロに近い試料13の比率Rより大きかった。
【0105】
したがって、遊離残留塩素濃度がほぼ一定範囲に管理されている上水等では、比率Rが、測定レンジや管理精度に応じて設定した所定の範囲K〜Kの範囲外となった場合、検知極の研磨不足による異常が生じている可能性があると診断可能であることが確認できた。
また、研磨後の比率R(本発明のステップ4における比率R’に相当)が所定の範囲K’〜K’の範囲内であることを確認できれば、異常の原因は検知極の研磨不足であり結合塩素の存在によるものではないこと、さらに、研磨によって正常な状態に復帰できたこと、を診断可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0106】
1〜4…センサ部、11…測定セル、12…検知極支持体、13、35…検知極、
14…対極支持体、15、33…対極、16、38…モーター、17、45…軸受け、
18、36…ビーズ、19、60…フローセル、20…本体部、
21…演算制御部、22…加電圧機構、23…電流計、24…表示装置、
50…送液部、53…ポンプ、S…試料液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11