(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(A)(以下、(A)という。)と、酸変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)(以下、(B)という。)又は/及び酸変性された熱可塑性エラストマー(B’)(以下、(B’)という。)と、2つ以上の水酸基をもつOH化合物(C)(以下、(C)という。)とからなり、
前記(A)並びに前記(B)又は/及び前記(B’)の合計質量を100質量%としたときに、前記(A)の含有量は80〜40質量%であり、前記(B)又は/及び前記(B’)の含有量は20〜60質量%であって、
前記(C)の含有量は、前記(A)並びに前記(B)又は/及び前記(B’)の合計質量を100質量部としたときに3〜15質量部であり、
前記(C)は、グリセリン、エチレングリコール、及びジエチレングリコールの群から選ばれる1種以上からなることを特徴とする圧力容器用樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態の圧力容器用樹脂組成物及び圧力容器について説明する。
【0012】
本発明の圧力容器用樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」という。)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(以下、「EVOH」という。)(A)(以下、(A)という。)と、酸変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(以下、「酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム」という。)(B)(以下、(B)という。)又は/及び同熱可塑性エラストマー(以下、熱可塑性エラストマーを「TPE」といい、酸変性されたTPEを「酸変性TPE」という。)(B’)(以下、(B’)という。)と、2つ以上の水酸基をもつ炭化水素化合物(以下、「OH化合物」という。)(C)(以下、(C)という。)とからなる。前記(A)並びに前記(B)又は/及び前記(B’)の合計質量を100質量%としたときに、前記(A)の含有量は80〜40質量%であり、前記(B)又は/及び前記(B’)の含有量は20〜60質量%である。前記(C)の含有量は、前記(A)並びに前記(B)又は/及び前記(B’)の合計質量を100質量部としたときに3〜15質量部である。
【0013】
本発明の圧力容器は、樹脂組成物からなるライナーを備える。
【0014】
本発明の樹脂組成物によれば、クレイズの発生を抑えた圧力容器を形成することができる。その理由を以下に説明する。
【0015】
まず、クレイズの発生メカニズムについて説明する。
【0016】
圧力容器のライナーがEVOH(A)と酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)又は/及び酸変性TPE(B’)とからなる場合には、EVOH(A)はマトリックス(連続相)を形成し、酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)又は酸変性TPE(B’)はマトリックス内で微分散して分散相を形成する。
【0017】
ここで、
図1(a)に示すように、マトリックスは、EVOH(A)の分子鎖の積層により形成される球晶部81と、球晶部81の間に形成される非晶部82とを有する。非晶部82には、球晶部81間をつなぐタイ分子83が存在し、配向方向は成形時の樹脂流動方向に一致する。
図2、
図1(b)に示すように、充填ガスによりライナーに高い内圧が加わったとき、非晶部82に応力が集中して、球晶部81が崩れ、非晶部82のタイ分子83が滑ることにより局所的に塑性変形し、非晶部82にボイド90が発生する。ボイド90の発生により、ライナー1は、圧力印加方向である厚み方向に体積が減少することを補うため、内表面に凹みが形成される。この凹みはクレイズ9と称される。非晶部82をつなぐタイ分子83は樹脂射出方向に配向しているため、圧力印加により配向分子間が押し広げられるように応力負荷を受け、クレイズ9も樹脂射出方向に形成される。クレイズ9は、延伸された分子鎖が亀裂領域をつなぎ止めた状態となっている。
【0018】
クレイズは、EVOH(A)の非晶部の分子運動性が起因して形成される。非晶部の分子運動性が低いと、高い圧力負荷によってクレイズが発生しやすい。
図3(a)に示すように、EVOH(A)の分子鎖は、水酸基同士で分子間力がはたらくため、分子運動性が低く、クレイズが発生しやすい。
【0019】
そこで、
図3(b)に示すように、本願発明者は、EVOH(A)の分子間に介在物を介在させて、分子鎖の水酸基同士の凝集力を低減させることで、EVOH(A)の分子運動性を向上させることを発案した。
【0020】
介在物としては、2つ以上の水酸基をもつ炭化水素化合物(C)を用いる。
図3(b)では、炭化水素化合物(C)としてグリセリンを例示した。炭化水素化合物(C)の2つ以上の水酸基の少なくとも一つは、一方のEVOH(A)分子鎖の水酸基に水素結合し、他の水酸基は、他方のEVOH(A)の分子鎖の水酸基に水素結合する。これにより、EVOH(A)の分子鎖同士の水酸基同士の凝集力を減少させ、EVOH(A)の分子運動性を高める。
【0021】
本発明の樹脂組成物は、EVOH(A)と、酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)又は/及び酸変性TPE(B’)と、OH化合物(C)とからなる。
【0022】
EVOH(A)は親水性樹脂であるため、疎水性のエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムやTPEとは相溶性が悪い。しかし、エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムやTPEは、酸変性されると、EVOHとの相溶性が向上する。また、EVOH(A)と酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)及び/又は酸変性TPE(B’)との配合質量割合が上記の範囲であると、EVOH(A)がマトリックス(連続層)を形成する。従って、樹脂組成物の混練の際に、EVOH(A)中に、EVOHと相溶した酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)や酸変性TPE(B’)が微分散しやすくなる。
【0023】
本発明の樹脂組成物においては、こうしてEVOH(A)がマトリックス(連続層)を形成するので、圧力容器のガスのバリア性に優れる。また、EVOH(A)において、酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)や酸変性TPE(B’)が微分散するので、樹脂組成物から形成された圧力容器の低温での耐衝撃性が向上する。
【0024】
本発明の樹脂組成物において、(A)並びに(B)又は/及び(B’)の合計質量を100質量%としたときに、(A)の含有量は80〜40質量%であり、(B)又は/及び(B’)の含有量は20〜60質量%である。このため、EVOH(A)がマトリックスを形成しやすく、ガスのバリア性が高い。また、(B)又は/及び(B’)が微分散しているため、圧力容器の低温での耐衝撃性が高くなる。
【0025】
一方、EVOH(A)が40質量%未満の場合、又は酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)及び/又は酸変性TPE(B’)が60質量%を越える場合には、EVOH(A)がマトリックス(連続層)を形成しにくくなるため、圧力容器のガスのバリア性が低下する。また、EVOH(A)が80質量%を越える場合、又は、酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)及び/又は酸変性TPE(B’)が20質量%未満の場合には、圧力容器の低温での耐衝撃性が低下する。
【0026】
[EVOH(A)について]
本発明に用いられるEVOH(A)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することによって得られたものである。該エチレン−酢酸ビニル共重合体は、特に限定されず、任意(公知)の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより製造される。エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化も特に限定されず、任意(公知)の方法で行い得る。
【0027】
EVOH(A)のエチレン含有量は、10〜60mol%がよく、更に、20〜55mol%、29〜51mol%であることが好ましい。EVOH(A)のエチレン含有量が過少である場合には、圧力容器のライナーの成形性が低下するおそれがある。EVOH(A)のエチレン含有量が過多である場合には、圧力容器のバリア性が低下するおそれがある。
【0028】
また、EVOH(A)のメルトフローレート(MFR)は、特に限定されないが、0.1〜50g/10分(210℃、荷重21.18N)が好ましく、0.5〜30g/10分(同上)がさらに好ましい。MFRが0.1g/10分(同上)未満では成形性が低下する傾向があり、50g/10分(同上)を越えると、圧力容器の機械強度が低下するおそれがある。
【0029】
また、EVOH(A)としては、特に限定されないが、不純物の少ないものが好ましく、例えば250℃で120分加熱後の減量が3質量%未満のもの好ましい。
【0030】
[酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)又は/及び酸変性TPE(B’)について]
(B)及び/又は(B’)とは、少なくともいずれか一方を含み、両方の併用でもよいことを意味する。
【0031】
本発明に用いられる酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)は、特に限定されないが、エチレン−プロピレン共重合体ゴム(EPR)、エチレン−ブテン共重合体ゴム(EBR)、エチレン−オクテン共重合体ゴム(EOR)等を不飽和カルボン酸またはその無水物等の酸で変性したものを用いることができる。具体的には不飽和カルボン酸またはその無水物をエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムに付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムを挙げることができる。特に酸グラフト変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムが好ましく、より具体的には無水マレイン酸グラフト変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムが挙げられる。
【0032】
本発明に用いられる酸変性TPEは、特に限定されないが、オレフィン系(TPO)、スチレン系(TPS)、エステル系(TPEE)、アミド系(TPAE)等の各TPEを酸で変性したものを例示でき、TPO又はTPSを酸で変性したものが好ましい。TPOのハードセグメントはオレフィン系樹脂からなり、ポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)を例示できる。TPOのソフトセグメントとしては、エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴム(EPR)又はエチレン−α−オレフィン非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)等を例示できる。TPSとしては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、それらを水添したスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)等がある。
【0033】
酸変性TPEは、TPEを不飽和カルボン酸又はその無水物等の酸で変性したものである。具体的には不飽和カルボン酸又はその無水物をTPEに付加反応やグラフト反応等により、化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性TPEを挙げることができる。特に酸グラフト変性TPEが好ましく、より具体的には無水マレイン酸グラフト変性スチレンーエチレンーブチレンースチレンブロック共重合体が挙げられる。
【0034】
酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)及び/又は酸変性TPE(B’)の酸変性度は、0.1〜3質量%が好ましく、さらに好ましくは0.4〜2質量%である。酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)や酸変性TPE(B’)中の酸変性度が少ないと、該酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)や酸変性TPE(B’)が微分散せず、圧力容器の耐衝撃性が低下するおそれがある。酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)や酸変性TPE(B’)の酸変性度が多すぎると、酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)や酸変性TPE(B’)が架橋反応を起こし、樹脂組成物の成形性が悪くなるおそれがある。
【0035】
酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)又は/及び酸変性TPE(B’)は、ガラス転移温度(Tg)が−30℃以下のものが好ましい。この場合には、低温時において、酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)や酸変性TPE(B’)の柔軟性が維持され、圧力容器の靭性が高くなる。
【0036】
酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)又は/及び酸変性TPE(B’)は、−40℃での弾性率(貯蔵弾性率)が600MPa以下のものが好ましい。低温時においても、酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)や酸変性TPE(B’)が、衝撃を吸収するからである。
【0037】
酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)や酸変性TPE(B’)は、MFRが0.1〜10g/10分(230℃、荷重21.18N)ものが好ましい。該MFRが該範囲よりも小さい場合は、混練時に、押出機内が高トルク状態となって押出作業が困難となるおそれがある。MFRが該範囲よりも大きい場合には、微分散しにくくなる場合がある。
【0038】
[2つ以上の水酸基をもつ炭化水素化合物(C)について]
本発明の樹脂組成物において、OH化合物(C)は、2つ以上の水酸基をもつ炭化水素化合物である。OH化合物(C)は、2つ以上の水酸基をもつ多価アルコールであるとよい。
【0039】
OH化合物(C)のもつ水酸基は、2つ以上であれば特に限定はない。OH化合物(C)の分子鎖の長さにもよるが、OH化合物(C)の水酸基数は、2〜10であるとよく、更に、2〜7であることが好ましい。OH化合物(C)の水酸基数は、例えば、2つ又は3つであるとよい。
【0040】
本発明の樹脂組成物において、OH化合物(C)は、鎖状炭化水素化合物、環状炭化水素化合物、飽和炭化水素化合物、不飽和炭化水素化合物のいずれでもよい。この中、飽和炭化水素化合物がよく、更に、飽和鎖状炭化水素化合物であることが好ましい。これらの化合物は、炭化水素化合物の中でも分子運動性が高く、樹脂組成物を軟質化しやすいからである。
【0041】
本発明の樹脂組成物において、OH化合物(C)の炭素数は2以上10以下であることがよく、更に、2以上8以下、2以上6以下が好ましい。OH化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンまたはペンタエリスリトールにエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドを付加した多価アルコールが挙げられる。この中、OH化合物としては、グリセリン、エチレングリコール、及びジエチレングリコールの群から選ばれる1種以上からなることが好ましい。
【0042】
本発明の樹脂組成物において、OH化合物(C)の含有量は、(A)並びに(B)又は/及び(B’)の合計質量を100質量部としたときに3〜15質量部である。この場合には、EVOH(A)の分子鎖間に適度にOH化合物(C)が介入して、EVOH(A)の分子間での水酸基同士の分子間結合を低減させ、分子間凝集力を低減させ、高圧負荷時にクレイズ発生を抑制することができる。
【0043】
OH化合物(C)の含有量が3質量部未満の場合には、高圧負荷時にクレイズが発生するおそれがある。OH化合物(C)の含有量が、15質量部を超える場合には、樹脂組成物の融点が低下し、軟化しやすくなるおそれがある。
【0044】
本発明の樹脂組成物は、上記の(A)と(B)及び/又は(B’)と(C)とを混練して使用される。混練方法としては、特に限定されないが、バンバリーミキサーや、単軸あるいは二軸スクリュー押出機等を用いる方法を例示できる。
【0045】
本発明の樹脂組成物には、上記の(A)と(B)及び/又は(B’)と(C)の以外の組成成分を含んでいてもよい。該組成成分としては、例えば添加剤(例えば熱安定剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、フィラー、他の樹脂)が挙げられる。該組成成分は、本発明の効果を阻害しない範囲で使用される。他の樹脂とは、例えば高密度あるいは低密度ポリエチレン等が挙げられるが、酸変性されている方がより好ましい。
【0046】
本発明の樹脂組成物の水素透過係数は、10.0×10
−11cm
3・cm/cm
2・s・cmHg未満であることが好ましい。かかる樹脂組成物から作成された圧力容器の水素ガスのバリア性が更に向上する。
【0047】
本発明の樹脂組成物の−50℃引張り伸びは30%以上であることが好ましい。この場合には、樹脂組成物から作成された圧力容器の低温時の耐衝撃性が向上する。
【0048】
本発明の樹脂組成物の融点は、130℃以上であることが好ましい。また、本発明の樹脂組成物のビカット軟化点は90℃以上であることが好ましい。これらの場合には、補強層4を形成させる工程で圧力容器が変形することを抑制できる。
【0049】
本発明の樹脂組成物のパルスNMR緩和曲線を樹脂成分/中間成分/ゴム状成分に分解した場合の樹脂成分緩和時間は12.0マイクロ秒以上であることが好ましい。この場合には、圧力容器のクレイズ発生を効果的に抑制できる。
【0050】
本発明の樹脂組成物のFT−IR吸収スペクトルにおいて、CH基由来のピーク強度に対する水酸基由来のピーク強度の比率(OH/CH比)は、0.31以上であることが好ましい。この場合には、EVOH(A)の構造内にOH化合物(C)が吸収され、EVOH(A)の分子間にOH化合物(C)が介在することが推定される。EVOH(A)の分子間にOH化合物(C)が介在することにより、EVOH(A)の分子間結合が低減されて、EVOH(A)の凝集力が弱まり、クレイズの生じにくい圧力容器を形成できる。ここで、CH基由来のピークは、EVOH(A)及びOH化合物(C)に含まれるCH基に由来するピークを意味し、主として波数2910cm
−1附近に位置する。水酸基由来のピークは、EVOH(A)及びOH化合物(C)に含まれる水酸基に由来するピークを意味し、主として波数3327cm
−1附近に位置する。
【0051】
本発明の圧力容器は、上記の樹脂組成物からなるライナーを備えている。ライナーは、上記の樹脂組成物を用いて射出成形により形成されるとよい。ライナーを射出成形すると、樹脂組成物中のマトリックスを構成しているEVOH(A)は、成形時に樹脂流動方向に沿って配向する非晶部82のタイ分子83を形成する(
図1(A))。非晶部82には、OH化合物(C)が介在する(
図3(b))。
【0052】
本発明の圧力容器は、口金を取り付けた取付部を有することがある。また、圧力容器は、例えば、ボス部と、前記ボス部よりも径方向外側に広がるフランジ部とを有する口金を有し、ライナーは取付部をもち、取付部には、口金のボス部が挿入されており、ライナーの取付部周縁の外表面は口金のフランジ部と接している。充填ガスによる内圧により、ライナーの取付部周縁の外表面と口金フランジ部とがシールされ、ガス漏れが防止される。
【0053】
万が一、圧力容器内のガス圧により被覆部に高圧が負荷されると、特開2005−68300号公報に示すように(A)並びに(B)及び/又は(B’)からなる樹脂組成物によりライナー1を形成したときには、高圧負荷によって、被覆部15の内表面15aだけでなく外表面15bにもクレイズ9が形成される(
図15)。被覆部15の外表面15bにクレイズ9が形成されると、クレイズ9に沿ってライナー1と口金3のフランジ部31との間から、圧力容器に充填されているガスが外部に漏れ出るおそれがある(
図13)。
【0054】
本発明では、上記のように(A)並びに(B)及び/又は(B’)に更に(C)を加えた樹脂組成物によりライナーを形成している。ゆえに、本発明の圧力容器によれば、被覆部の内表面及び外表面にクレイズが形成されにくい。ライナーの口金周縁からのガス漏れを効果的に抑制できる。
【0055】
本発明の圧力容器は、更にライナーの表面を被覆する補強層を有しているとよい。補強層は、例えば、強化繊維と樹脂とからなる。強化繊維は、ライナーを巻回して接着剤で固定されることで、補強層が形成されるとよい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を比較例及び参考例とともに挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0057】
(比較例1)
EVOH(A)70質量%と、酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)30質量%とを混練して、本比較例1の樹脂組成物を得た。
【0058】
本比較例1で用いたEVOH(A)は、日本合成化学工業株式会社製の商品名ソアノールAT4403である。EVOH(A)のエチレン含有量は、44mol%であり、EVOH(A)のメルトフローレート(210℃、荷重21.18N)は3.5g/10分であった。
【0059】
本比較例1で用いた酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)は、三井化学株式会社製の商品名タフマーMH7020であり、以下、これをmah−EBRと称する。mah−EBR(B)のメルトフローレート(230℃、荷重21.18N)は1.5g/10分であり、表面硬度(ISO7619)は70であった。
【0060】
また、mah−EBR(B)の酸変性度を推定した。一般に酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)や酸変性TPE(B’)の酸変性度はそれらのメーカーより明らかにされていない場合が多いため、mah−EBR(B)の酸変性度は以下の方法で推定している。
【0061】
酸変性度が既知である酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムを用いて厚さtが0.1〜0.3mmであるフィルムをそれぞれ熱プレスで作製し、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)により得られたスペクトルから酸無水物由来のピーク(波数1791.28cm
−1近傍)の面積(A)及びカルボキシル基由来のピーク(波数1712.70cm
−1近傍)の面積(b)を求め、(A)+(b)をライナーの厚さtで除したものを官能基濃度とし、既知の酸変性度と得られた官能基濃度より検量線を作成した。次に、酸変性度が未知であるmah−EBR(B)について、同様にして官能基濃度を求め、前記検量線より酸変性度を推定した。
【0062】
mah−EBR(B)のガラス転移点(Tg)及び−40℃時の貯蔵弾性率は、UBM社製のFTレオスペクトラーを用いてDMA法(動的粘弾性測定法)により下記条件で測定した。ガラス転移点(Tg)は損失正接(tan δ)による曲線のピーク温度、貯蔵弾性率は−40℃時の値を使用した。
・温度範囲:−100℃〜+40℃
・昇温速度:3℃/分(ステップ2℃)
・基本周波数:20Hz(正弦波)
・静荷重:100g
・チャック間:20mm
・試験片サイズ:幅5mm、厚さ2mm、長さ35mm
mah−EBR(B)のガラス転移点(Tg)は−36℃であり、mah−EBR(B)の−40℃時の貯蔵弾性率は227MPaであった。
【0063】
(実施例1)
本実施例1の樹脂組成物は、比較例1の樹脂組成物100質量部に対して、グリセリンを5質量部添加している点で、比較例1と相違する。
【0064】
(実施例2)
本実施例2の樹脂組成物は、比較例1の樹脂組成物100質量部に対して、グリセリンを7.5質量部添加している点で、比較例1と相違する。
【0065】
(参考例1)
本参考例1の樹脂組成物は、比較例1の樹脂組成物100質量部に対して、グリセリンを18質量部添加している点で、比較例1と相違する。
【0066】
(比較例2)
本比較例2の樹脂組成物は、エチレン含有量48mol%のEVOH(日本合成化学工業株式会社製、商品名ソアノールH4815B)(A)60質量%と、mah−EBR(B)40質量%とからなる点で、比較例1の樹脂組成物と相違する。
【0067】
(比較例3)
本比較例3の樹脂組成物は、エチレン含有量51mol%のEVOH(日本合成化学工業株式会社製、商品名ソアノールSG741)(A)70質量%と、mah−EBR(B)30質量%とからなる点で、比較例1の樹脂組成物と相違する。
【0068】
(実施例3)
本実施例3の樹脂組成物は、エチレン含有量48mol%のEVOH(A)70質量%と、mah−EBR(B)30質量%と、(A)及び(B)の質量の合計100質量部に対して、7.5質量部のグリセリンを添加している点が、比較例1の樹脂組成物と相違する。
【0069】
(実施例4)
本実施例4の樹脂組成物は、エチレン含有量29mol%のEVOH(日本合成化学工業株式会社製、商品名ソアノールDT2903)(A)70質量%と、mah−EBR(B)30質量%と、(A)及び(B)の質量の合計100質量部に対して、7.5質量部のグリセリンを添加している点で、比較例1の樹脂組成物と相違する。
【0070】
<実験>
上記の比較例1〜3、実施例1〜4及び参考例1の樹脂組成物について以下の項目について測定した。
【0071】
・水素透過係数
上記の樹脂組成物の水素透過係数を、JIS K7126−1(差圧法)に準拠して測定した。上記の樹脂組成物から直径80mm・厚さ2mmの試験片を作成した。試験片の評価面積16.5cm
2に対して、高圧差圧式透過試験機を用いて、透過した水素ガスをガスクロマトグラフィで検知し、時間に対する累積透過量より透過係数を算出した。測定条件は、以下のようである。樹脂組成物の水素透過係数の目標範囲は10.0×10
−11cm
3・cm/cm
2・s・cmHg未満とした。
検知器:ガスクロマトグラフ(熱伝導度検出器)
試験差圧:1atm
試験気体:水素ガス(乾燥状態)
試験条件:23±2℃
【0072】
・−50℃引張伸び
上記の樹脂組成物の−50℃引張り伸びを、ISO527に準拠して測定した。樹脂組成物の−50℃引張り伸びの目標範囲は30%以上とした。
【0073】
・融点
上記の樹脂組成物について示差走査熱量の測定(昇温速度10℃/min)を行うことで、上記の樹脂組成物の融点を求めた。樹脂組成物の融点の目標範囲は130℃以上とした。
【0074】
・ビカット軟化点
上記の樹脂組成物のビカット軟化点を、JIS K7206(A120法)に準拠して測定した。測定条件は、試験荷重:10N、昇温速度:120℃/時間であった。樹脂組成物のビカット軟化点の目標範囲は90℃以上とした。
【0075】
・パルスNMR樹脂成分緩和時間
上記の樹脂組成物について、パルスNMR(Nuclear Magnetic Resonance)によりソリッドエコー(Solid Echo)法で樹脂成分の緩和時間を測定した。パルスNMRによりパルスを上記の樹脂組成物に入射させ、このパルス信号に対する実測応答信号を経時的に検出して実測応答信号の緩和曲線(0)を作成して、実測応答信号の緩和曲線(0)に基づいて、樹脂組成物の樹脂成分の応答信号の緩和曲線(1)とゴム状成分の応答信号の緩和曲線(2)と中間成分の応答信号の緩和曲線(3)を算出した。樹脂成分の応答信号の緩和曲線(1)は、パルスNMRのソリッドエコー法で測定して得られた樹脂組成物の緩和曲線を、最小二乗法によりローレンツ型関数を用いて緩和時間の異なる三本の緩和曲線(1)、(2)、(3)に分離し、この分離した三本の曲線のうちで、緩和時間が最も短くなっている方の曲線である。樹脂組成物の樹脂成分は、EVOH(A)に相当すると推定される。緩和時間は成分の運動性によって異なり、硬い成分ほど運動性が小さくなるため緩和時間が短い成分は硬質の樹脂成分とされる。パルスNMR樹脂成分緩和時間の目標範囲は12.0マイクロ秒以上とした。
図4の上段には実施例2の樹脂組成物のパルスNMR緩和曲線を示した。
図4の下段には比較例1の樹脂組成物のパルスNMR緩和曲線を示した。
【0076】
・FT−IRのCH基由来のピーク強度に対する水酸基由来のピーク強度の比率
上記の樹脂組成物から厚み4mmの試験片を作製した。ATR法(全反射吸収測定法)により上記の試験片のFT−IR吸収スペクトルを検出した。上記の試験片のFT−IR吸収スペクトルにおいて、CH基由来のピークは波数2919cm
−1付近に存在し、水酸基由来のピークは波数3327cm
−1付近に存在する。このスペクトルのCH基由来のピーク強度に対する水酸基由来のピーク強度の比率(OH/CH比)を求めた。OH/CH比の目標範囲は、0.31以上とした。
図5の上段には実施例2の樹脂組成物のFT−IR吸収スペクトルを示した。
図5の下段には比較例1の樹脂組成物のFT−IR吸収スペクトルを示した。
【0077】
上記各種項目の試験結果について表1に示した。試験結果が目標範囲内にある場合を○、目標範囲からはずれた場合を×とした。
【0078】
上記の比較例1〜3、実施例1〜4及び参考例1の樹脂組成物を用いて、高圧ガス容器用ライナーを以下の射出成形法で作製した。高圧ガス容器用ライナーを射出成形法で作製するに当り、
図6に示すように、ライナーの1対の半割体12、13を成形した。一方の半割体12を成形するために、成形用の金型7に予め口金3をインサートした。口金3は、ボス部30と、ボス部30よりも径方向外側に広がるフランジ部31とを有する。金型7は、半割体12の外表面の形状に相応する形状のキャビティ面72を有する固定型77と、固定型77の内側に配置され半割体12の内表面に相応する形状のキャビティ面74を有する可動型76とを有する。固定型77には、主ゲート79が形成されている。主ゲート79は、主ゲート79を中心として放射状に溶融樹脂が流動するゲートキャップ71に接続されている。ゲートキャップ71は、キャビティ面72における口金3を配置した部分の近傍に位置している。ゲートキャップ71を通じてキャビティ70に上記組成物を射出成形した。ゲートキャップ71から射出された溶融樹脂は、ライナー1の軸方向の端部に位置する口金3の近傍から、ライナー1の軸方向の中央の半割面に向けて流動した。以上により、半割体12を得た。
【0079】
また、
図6に示すように、他方の半割体13についても、一方の半割体12と同様に成形した。ただし、他方の半割体13では、ボス部30が中実体である口金35を用いた。半割体12,13同士を熱板溶着して、圧力タンク2の円筒状のライナー1を成形した。ライナー1の厚さは、一般部14で約3mmとした。ライナー1における口金3及びボス35を取り付けた取付部11の周縁は口金3、35のフランジ部31により被覆及びシールした。ライナー1の口金3、35のフランジ部31で被覆された被覆部15の厚みは4mmとした。ライナー1の表面にカーボン繊維を巻回しエポキシ樹脂からなる接着剤で固定して補強層4を形成した。
【0080】
上記の各種樹脂組成物から作製したライナー1について、成形時の樹脂流動方向に対して垂直に液体窒素で冷却して破断させた。ライナー1を、50℃ヘキサンやクロロホルム中に30分浸漬させた後取り出し、常温ドラフター内で3時間乾燥し、金蒸着した。その後、ライナーの切断面を走査電子顕微鏡(SEM)にて観察した。EVOH(A)のマトリックス中にmah−EBR(B)が分散相として微分散していることを確認した。
【0081】
<圧力サイクル試験>
作製した各種圧力容器について、
図8に示すように、−40℃で、内圧を上昇させ56MPaで60秒間保持し、その後瞬時に2MPaまで圧力を下げ、すぐに圧力を56MPaまで上昇させた。このような圧力上昇→一定保持→圧力降下を1サイクルとして、2820回繰り返した。この試験後に圧力容器にクレイズが発生したか否かについて観察した。各種圧力容器のクレイズの有無について、表1に示した。クレイズが観察されない場合を○とし、クレイズが観察された場合を×とした。
【0082】
【表1】
【0083】
実施例1〜4の樹脂組成物及び圧力容器は、試験項目のすべてについて目標範囲内であった。一方、グリセリン(C)を添加していない比較例1〜3の樹脂組成物の樹脂成分の緩和時間は12マイクロ秒未満であった。また、比較例1〜3の圧力容器については、クレイズが射出樹脂流れ方向に沿って発生した。
図9は、比較例1の圧力容器の内表面近傍のライナーの断面写真である。
図9より、ライナーの内表面にクレイズが形成されていることがわかった。
図10は、比較例1の圧力容器のライナーの断面写真である。
図10より、ライナーの内部に多数のボイド(空隙)が形成されていることがわかった。
【0084】
比較例1〜3の圧力容器のライナーにクレイズ及びボイドが形成される理由について以下のように推定される。
図1(A)に示すように、樹脂組成物中のEVOH(A)の球晶部81と非晶部82とからなり、非晶部82をつなぐタイ分子83は、成形時の樹脂流動方向に配向している。圧力容器のライナーにガス内圧により荷重が加わったとき、
図1(b)に示すように、非晶部82に応力が集中して、球晶部81が崩れ、非晶部82のタイ分子83が滑り、非晶部82にボイド90が発生する。
図2に示すように、ボイド90の発生により、圧力容器2は、厚み方向に体積が減少して、表面にクレイズ9が形成されたものと推定される。
【0085】
実施例1〜4の樹脂組成物からなるライナーでクレイズが発生しなかった理由は以下のようである。
図3(b)に示すように、EVOH(A)の分子間にグリセリン(C)を介在させて、分子鎖の水酸基同士の凝集力を減少させることで、EVOH(A)の分子運動性を向上させる。これにより、ライナーが変形しやすくなり、圧力サイクル試験によってもライナーにクレイズが発生しにくくなったと考えられる。
【0086】
また、参考例1の樹脂組成物では、グリセリン(C)の添加量が多すぎて、融点及びビカット軟化点が目標範囲よりも低くなったと考えられる。
【0087】
<降伏応力>
比較例1、実施例1、2及び参考例1の樹脂組成物について、降伏応力を測定した。降伏応力の測定は、ISO527−2に準じて行った。
図11には、各樹脂組成物の降伏応力と、パルスNMRの樹脂成分の緩和時間との関係を示した。
図11に示すように、実施例1、2及び参考例1の樹脂組成物については、比較例1に比べて、降伏応力が低く、また樹脂成分の緩和時間も長かった。これは、実施例1、2及び参考例1の樹脂組成物では、グリセリンが、EVOH(A)の分子間に介在して、EVOHの水酸基同士の凝集力を減少させ、樹脂組成物を軟質化したためであると考えられる。また、グリセリンの添加量が増加するに伴って、降伏応力が小さくなり、緩和時間は長くなった。
【0088】
<持続性>
実施例1の樹脂組成物について、幅10mm×長さ80mm×厚み4mmの大きさの試験片を作製し、この試験片を85℃に放置して熱老化試験を行った。熱老化試験中に、適宜、樹脂組成物の樹脂成分のパルスNMRの緩和時間を測定した。測定結果を
図12に示した。
【0089】
図12に示すように、熱老化試験前では、実施例1の樹脂組成物の樹脂成分のパルスNMRの緩和時間は12.4マイクロ秒であった。試験開始後1500時間経過時には、緩和時間は12.35マイクロ秒、3000時間経過時には12.2マイクロ秒以上を維持した。このことから、実施例1の樹脂組成物は、耐熱老化後も分子運動性を維持していることがわかった。