特許第6372387号(P6372387)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372387
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】蓄電池システム及び放電制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/32 20060101AFI20180806BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20180806BHJP
   H02J 7/35 20060101ALI20180806BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   H02J3/32
   H02J3/38 130
   H02J7/35 K
   H01M10/44 P
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-27584(P2015-27584)
(22)【出願日】2015年2月16日
(65)【公開番号】特開2016-152647(P2016-152647A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2017年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鵜殿 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】浦川 文男
(72)【発明者】
【氏名】藤井 純一
(72)【発明者】
【氏名】加悦 裕幸
【審査官】 小池 堂夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−332109(JP,A)
【文献】 特開2014−073042(JP,A)
【文献】 特開平11−308775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/32
H01M 10/44
H02J 3/38
H02J 7/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池と、
前記蓄電池に接続され、前記蓄電池の充放電電力を制御する電力変換装置と、
系統電源と前記電力変換装置とを繋ぐ電路に接続されている負荷と、を備える蓄電池システムであって、
前記電力変換装置は、前記負荷に対して前記蓄電池の放電により所定の放電電力を供給している状態から負荷電力が減少した場合、減少後に前記蓄電池から前記負荷に供給すべき目標電力より低い電力まで放電電力を一旦低下させ、その後、前記目標電力に一致させる放電制御を行う、蓄電池システム。
【請求項2】
前記負荷電力を計測し、計測した負荷電力の情報を前記電力変換装置に提供する負荷電力計測部を有する請求項1に記載の蓄電池システム。
【請求項3】
前記系統電源からの受電点での電力を計測する受電点電力計測部と、前記受電点電力計測部が計測した電力及び前記電力変換装置の出力に基づいて前記負荷電力を演算する負荷電力演算部と、を有する請求項1に記載の蓄電池システム。
【請求項4】
前記系統電源からの受電点での電力を計測し、前記系統電源に対する逆電力の情報を取得して前記電力変換装置に提供する受電点電力計測部を有する請求項1に記載の蓄電池システム。
【請求項5】
前記負荷電力が増大したときのPID制御の制御ゲインよりも、前記負荷電力が減少したときの制御ゲインを大きくする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の蓄電池システム。
【請求項6】
前記逆電力が減少したときのPID制御の制御ゲインよりも、前記逆電力が増大したときの制御ゲインを大きくする請求項4に記載の蓄電池システム。
【請求項7】
蓄電池と、前記蓄電池に接続され、前記蓄電池の充放電電力を制御する電力変換装置と、系統電源と前記電力変換装置とを繋ぐ電路に接続されている負荷と、を備える蓄電池システムにおいて実行される放電制御方法であって、
前記負荷に対して前記蓄電池の放電により所定の放電電力を供給している状態から負荷電力が減少した場合、減少後に前記蓄電池から前記負荷に供給すべき目標電力より低い電力まで放電電力を一旦低下させ、
その後、前記目標電力に一致させる放電制御を行う、
放電制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一旦蓄電池に蓄えた電力を、電力変換装置を介して負荷に供給することができる蓄電池システム及びその放電制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一般家庭等の需要家に太陽光発電パネルの導入が進んでいる。太陽光発電の電力は、需要家内で使用できるほか、余った電力は電力会社に売電することができる。また、太陽光発電のみならず、蓄電池を備え、一旦蓄電池に蓄えた電力を、電力変換装置を介して負荷に供給することができる蓄電池システムが提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0003】
ここで、系統連系の規定により、太陽光発電の電力は、売電に供することができるが、蓄電池の電力については需要家内での消費のみ可能であり、蓄電池の電力を売電に供することはできない。そのため、蓄電池の電力変換に関わる電力変換装置(パワーコンディショナ)は、所定の試験基準に従うことが義務づけられている。当該試験基準とは、負荷を定格容量の110%から90%に低減したとき、蓄電池の逆電力(逆潮流)を定格容量の5%以下、0.5秒以内に抑えることである。
しかし、負荷電力が瞬時に大幅に減少すると、応答の遅れもあって、蓄電池の電力が、規定に定められた許容範囲を超えて系統へ出力される場合がある。
【0004】
図10は、負荷電力が急減した場合に、蓄電池の放電電力がどのように応答するかの一例を示すグラフである。横軸は時間、縦軸は電力を、それぞれ表している。負荷電力(実線)が時刻T1において、2kWから1kWに急減したとすると、放電電力(点線)の制御応答は少し遅れる。そのため、急減後の負荷電力に放電電力が追いつく時刻T2までに、斜線で示す逆電力(面積が逆電力量に相当する。)が系統へ出力される。この逆電力量が基準値を超えると、太陽光発電電力の買い取り契約をしている電力会社から見れば規定に反する売電であり、また、将来的に電力の買い取りが行われないようになった場合を想定すると、需要家にとっては、自己の保有するエネルギーを無駄に放出することになる。
【0005】
そこで、特許文献1に記載されたシステムでは、負荷電力の急減を想定して予め一定量の買電を行う状態を維持する。これにより、負荷電力が急減しても、その直後の逆電力のピークが抑えられ、逆電力量が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−73042号公報
【特許文献2】特開2014−187876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような従来のシステム(特許文献1)では、常に買電をしている。従って、その分、買電の電力量が増大する。これは、需要家にとっては、経済的な負担となる。
かかる従来の問題点に鑑み、本発明は、買電に常時依存せず、負荷電力の急減に対して逆電力量を抑制する蓄電池システム及び放電制御方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、蓄電池と、前記蓄電池に接続され、前記蓄電池の充放電電力を制御する電力変換装置と、系統電源と前記電力変換装置とを繋ぐ電路に接続されている負荷と、を備える蓄電池システムであって、前記電力変換装置は、前記負荷に対して前記蓄電池の放電により所定の放電電力を供給している状態から負荷電力が減少した場合、減少後に前記蓄電池から前記負荷に供給すべき目標電力より低い電力まで放電電力を一旦低下させ、その後、前記目標電力に一致させる放電制御を行う、蓄電池システムである。
【0009】
また、本発明は、蓄電池と、前記蓄電池に接続され、前記蓄電池の充放電電力を制御する電力変換装置と、系統電源と前記電力変換装置とを繋ぐ電路に接続されている負荷と、を備える蓄電池システムにおいて実行される放電制御方法であって、前記負荷に対して前記蓄電池の放電により所定の放電電力を供給している状態から負荷電力が減少した場合、減少後に前記蓄電池から前記負荷に供給すべき目標電力より低い電力まで放電電力を一旦低下させ、その後、前記目標電力に一致させる放電制御を行う、放電制御方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の蓄電池システム及び放電制御方法によれば、買電に常時依存せず、負荷電力の急減に対して逆電力量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】需要家に設置された、太陽光発電を併用する蓄電池システムの単線接続図の一例である。
図2】需要家に設置された、太陽光発電を併用する蓄電池システムの単線接続図の他の例である。
図3】本実施形態の放電制御によって、負荷電力が急減した場合に蓄電池の放電電力がどのように応答するかの一例を示すグラフである。
図4】負荷電力が急増した場合に蓄電池の放電電力がどのように応答するかの一例を示すグラフである。
図5】蓄電池システムの第1例を示す単線接続図である。
図6】蓄電池システムの第2例を示す単線接続図である。
図7】蓄電池システムの第3例を示す単線接続図である。
図8】蓄電池システムの第4例を示す単線接続図である。
図9】蓄電池システムの第5例を示す単線接続図である。
図10】負荷電力が急減した場合に、蓄電池の放電電力がどのように応答するかの一例(従来技術)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態の要旨]
本発明の実施形態の要旨としては、少なくとも以下のものが含まれる。
【0013】
(1)これは、蓄電池と、前記蓄電池に接続され、前記蓄電池の充放電電力を制御する電力変換装置と、系統電源と前記電力変換装置とを繋ぐ電路に接続されている負荷と、を備える蓄電池システムであって、前記電力変換装置は、前記負荷に対して前記蓄電池の放電により所定の放電電力を供給している状態から負荷電力が減少した場合、減少後に前記蓄電池から前記負荷に供給すべき目標電力より低い電力まで放電電力を一旦低下させ、その後、前記目標電力に一致させる放電制御を行う、蓄電池システムである。
【0014】
かかる蓄電池システムでは、負荷電力が急減した場合、電力変換装置による放電制御の応答の遅れにより、時系列的には、まず放電電力が目標電力を上回り、系統電源への逆潮流による逆電力量を生じさせる。しかしながら、その後、放電制御により、負荷電力の減少に若干の遅延を伴って放電電力は低下し、しかも、減少後の目標電力より低い電力まで放電電力を低下させる(アンダーシュートさせる)ことで、系統電源から買電の電力量を生じさせる。そして、その後、放電電力は目標電力に一致するよう収束する。このような放電制御により、過渡的に生じた逆電力量を、その後の買電電力量で相殺して、一定時間(例えば1秒)内の逆電力量を許容範囲内に抑制することができる。こうして、買電に常時依存せず、負荷電力の急減に対して逆電力量を抑制することができる。
【0015】
(2)また、(1)の蓄電池システムは、前記負荷電力を計測し、計測した負荷電力の情報を前記電力変換装置に提供する負荷電力計測部を有するものであってもよい。
この場合、負荷電力を直接的に検出することができる。
【0016】
(3)また、(1)の蓄電池システムは、前記系統電源からの受電点での電力を計測する受電点電力計測部と、前記受電点電力計測部が計測した電力及び前記電力変換装置の出力に基づいて前記負荷電力を演算する負荷電力演算部と、を有するものであってもよい。
この場合、負荷電力を直接計測しなくても、演算により、負荷電力を求めることができる。直流電源として蓄電池の他に太陽光発電パネルも含まれる場合には、太陽光発電の発電電力も考慮して負荷電力を求めることができる。
【0017】
(4)また、(1)の蓄電池システムにおいて、前記系統電源からの受電点での電力を計測し、前記系統電源に対する逆電力の情報を取得して前記電力変換装置に提供する受電点電力計測部を有するものであってもよい。
この場合、直流電源が蓄電池のみの場合は逆電力が生じたことに基づいて放電制御を行うことができる。また、直流電源として蓄電池の他に太陽光発電パネルも含まれる場合は、逆電力が急増したことをもって、負荷電力が急減したことを検出することができる。
【0018】
(5)また、(1)〜(3)のいずれかの蓄電池システムにおいて、前記負荷電力が増大したときのPID制御の制御ゲインよりも、前記負荷電力が減少したときの制御ゲインを大きくすることもできる。
この場合、負荷電力の増大時には制御の応答が相対的に緩慢になり、負荷電力の減少時には制御の応答が相対的に俊敏になる。従って、負荷電力の増大時には増大後の目標電力を超えず(オーバーシュートさせず)、逆に、負荷電力の減少時には減少後の目標電力より低い電力まで放電電力を一旦低下させる(アンダーシュートさせる)ことができる。
【0019】
(6)また、(4)の蓄電池システムにおいて、前記逆電力が減少したときのPID制御の制御ゲインよりも、前記逆電力が増大したときの制御ゲインを大きくすることができる。
この場合、逆電力の減少すなわち負荷電力の増大時には制御の応答が相対的に緩慢になり、逆電力の増大すなわち負荷電力の減少時には制御の応答が相対的に俊敏になる。従って、負荷電力の増大時には増大後の目標電力を超えず(オーバーシュートさせず)、逆に、負荷電力の減少時には減少後の目標電力より低い電力まで放電電力を一旦低下させる(アンダーシュートさせる)ことができる。
【0020】
(7)一方、方法の観点からは、蓄電池と、前記蓄電池に接続され、前記蓄電池の充放電電力を制御する電力変換装置と、系統電源と前記電力変換装置とを繋ぐ電路に接続されている負荷と、を備える蓄電池システムにおいて実行される放電制御方法であって、前記負荷に対して前記蓄電池の放電により所定の放電電力を供給している状態から負荷電力が減少した場合、減少後に前記蓄電池から前記負荷に供給すべき目標電力より低い電力まで放電電力を一旦低下させ、その後、前記目標電力に一致させる放電制御を行う、放電制御方法である。
【0021】
かかる放電制御方法では、負荷電力が急減した場合、電力変換装置による放電制御の応答の遅れにより、時系列的には、まず放電電力が目標電力を上回り、系統電源への逆潮流による逆電力量を生じさせる。しかしながら、その後、放電制御により、負荷電力の減少に若干の遅延を伴って放電電力は低下し、しかも、減少後の目標電力より低い電力まで放電電力を低下させる(アンダーシュートさせる)ことで、系統電源から買電の電力量を生じさせる。そして、その後、放電電力は目標電力に一致するよう収束する。このような放電制御により、過渡的に生じた逆電力量を、その後の買電電力量で相殺して、一定時間(例えば1秒)内の逆電力量を許容範囲内に抑制することができる。こうして、買電に常時依存せず、負荷電力の急減に対して逆電力量を抑制することができる。
【0022】
なお、前記(1)〜(6)の蓄電システム及び前記(7)の放電制御方法を適用する蓄電システムは、蓄電池とは別に、例えば太陽光発電パネルの出力を、前記電力変換装置(又は単独の電力変換装置)を介して前記電路に供給する構成であってもよい。
【0023】
[実施形態の詳細]
以下、実施形態の詳細について図面を参照して説明する。
【0024】
《接続図の例》
図1は、需要家1に設置された、太陽光発電を併用する蓄電池システム2の単線接続図の一例である。電力変換装置としてのパワーコンディショナ3は、直流電路4及び5を介してそれぞれ、太陽光発電パネル6及び蓄電池7と接続されている。パワーコンディショナ3は、太陽光発電パネル6及び蓄電池7の双方に対応した2系統の電力変換回路を内蔵している。パワーコンディショナ3は、交流電路8を介して分電盤9と接続され、分電盤9はさらに、交流電路10を介して系統電源11と接続されている。分電盤9からは、交流電路12を介して家電機器等の負荷13が接続される。
【0025】
図1において、太陽光発電パネル6が発電中であるときの電力は、パワーコンディショナ3から分電盤9を経て負荷13に供給される他、余った電力は、逆電力として系統電源11に出力される(図の点線)。また、蓄電池7を放電させているときの電力は、パワーコンディショナ3から分電盤9を経て負荷13に供給される(図の一点鎖線)。しかし、蓄電池7の電力を系統電源11に逆電力として出力してはならない(図の×印付き一点鎖線)。
【0026】
図2は、需要家1に設置された、太陽光発電を併用する蓄電池システム2の単線接続図の他の例である。電力変換装置としてのパワーコンディショナ3p及び3bは、それぞれ、直流電路4及び5を介して太陽光発電パネル6及び蓄電池7と接続されている。パワーコンディショナ3bは、交流電路8bを介して分電盤9と接続され、分電盤9はさらに、交流電路10を介して系統電源11と接続されている。パワーコンディショナ3pは、交流電路8pを介して分電盤9の上流側(系統電源側)の交流電路10に接続されている。分電盤9からは、交流電路12を介して家電機器等の負荷13が接続される。
【0027】
図2において、太陽光発電パネル6が発電中であるときの電力は、パワーコンディショナ3pから分電盤9を経て負荷13に供給される他、余った電力は、逆電力として系統電源11に出力される(図の点線)。また、蓄電池7を放電させているときの電力は、パワーコンディショナ3bから分電盤9を経て負荷13に供給される(図の一点鎖線)。しかし、蓄電池7の電力を系統電源11に逆電力として出力してはならない(図の×印付き一点鎖線)。
【0028】
《蓄電池電力の逆潮が発生する状況》
(自給自足モード)
自給自足モードとは、系統電源11からの買電を最小限に抑え、できるだけ、太陽光発電と蓄電池放電とにより、必要な負荷電力を賄うことである。すなわち、負荷電力をLD、太陽光発電パネル6の発電電力をPV、蓄電池7の放電電力をBT、系統電源11からの買電電力をGRとすると、
LD−(PV+BT)=GR=0 ・・・(1)
となるよう、蓄電池放電電力BTを制御する。ここで、LD,PVは変動要素、GRは受動的変動要素、BTは制御因子である。
【0029】
式(1)が維持されている状態から、発電電力PVが急増すると、GRは負の値となり、売電電力が生じるが、これは問題無い。発電電力PVが急減するか又は負荷電力LDが急増すると、GRは正の値となり買電電力が生じるが、これも問題は無い。ところが、負荷電力LDが急減すると、GRが負の値となり、逆電力となる。逆電力のうち、発電電力PVは問題無いが、放電電力BTが問題である。太陽光発電が行われていないときは、負荷電力LDの急減量がそのまま蓄電池による逆電力として系統電源11に出力されることになる。
【0030】
(売電最大化モード)
売電最大化モードとは、負荷電力を主として蓄電池7で賄い、太陽光発電パネル6の発電電力を、可能な限り多く売電に回すことである。すなわち、
PV+BT−LD=GR、かつ、PV=GR、LD=BT ・・・(2)
となるよう、放電電力BTを制御する。ここで、式(1)と違って、GRは売電が正、買電が負である。
【0031】
式(2)が維持されている状態から、発電電力PVが急増すると、GR値は増大し、売電電力が増大するが、これは問題無い。発電電力PVが急減するか又は負荷電力LDが急増すると、GR値は減少し、売電電力が減少するか又は買電電力が生じるが、これも問題は無い。そして、負荷電力LDが急減すると、放電電力BTの値が寄与する形でGR値が上昇する。これは問題である。
【0032】
以上のように、自給自足モード及び売電最大化モードのいずれにおいても、負荷電力LDが急減すると、蓄電池7の放電電力BTが売電されることになり、従って、これを抑制することが必要である。
【0033】
《逆電力防止の放電制御についての基本的な考え方》
次に、蓄電池7による逆電力防止の放電制御について説明する。
図3は、本実施形態の放電制御によって、負荷電力LDが急減した場合に蓄電池7の放電電力がどのように応答するかの一例を示すグラフである。横軸は時間、縦軸は電力を、それぞれ表している。但し、説明の簡略化のため、太陽光発電の発電電力PVは0としている。図において、負荷電力LD(実線)が時刻T1において急減し、2kWから1kWに低下したとすると、放電電力BTの制御応答は少し遅れ、時刻T2から下がり始める。時刻T3には、目標電力(負荷電力)LDと放電電力BTとが互いに一致するが、放電電力BTは急減後の目標電力(ここでは1kW)より低い電力まで放電電力を一旦低下(アンダーシュート)させる。
【0034】
その後、放電電力BTを上昇させ、時刻T4までに目標電力すなわち負荷電力LDに一致させる。この結果、逆電力の電力量(T1〜T3までの斜線の面積)は、買電の電力量(T3〜T4までの斜線の面積)によって相殺され、T1〜T4まで(1秒)の平均電力としての逆電力を抑制することができる。
【0035】
上記のような制御は、パワーコンディショナ3(又は3b)によって行われる。例えば、偏差(LD−BT)が負の値(T1〜T3)のときは、PID制御のP(比例)を大きくする。正の値のとき(T3〜T4)は、PID制御のPを小さくする。
また、偏差(LD−BT)が負の値(T1〜T3)のときは、PID制御のD(微分)を大きくして、正の値のとき(T3〜T4)は、PID制御のDを小さくすることもできる。
アンダーシュートの底(下向きピーク)は、時刻T1〜T3の偏差の積分値に応じて、これを相殺できるように変化させる。
【0036】
こうして、かかる蓄電池システム2によれば、負荷電力が急減した場合、パワーコンディショナ3による放電制御の応答の遅れにより、時系列的には、まず放電電力が目標電力を上回り、系統電源11への逆潮流による逆電力量を生じさせる。しかしながら、その後、放電制御により、負荷電力の減少に若干の遅延を伴って放電電力は低下し、しかも、減少後の目標電力より低い電力まで放電電力が低下することで、系統電源11から買電の電力量を生じさせる。そして、その後、放電電力は目標電力に一致するよう収束する。このような放電制御により、過渡的に生じた逆電力量を、その後の買電電力量で相殺して、一定時間(例えば1秒)内の逆電力量を許容範囲内に抑制することができる。従って、この蓄電池システム2(又はこの放電制御方法)によれば、買電に常時依存せず、負荷電力の急減に対して逆電力量を抑制することができる。
【0037】
なお、上記の例では、PV=0として説明したが、発電電力PVを考慮する場合は、以下のようになる。
すなわち、自給自足モードの場合には、前述の式(1)より、LD=PV+BTであるから、負荷電力LDのうち、蓄電池7の負担分である(LD−PV)に関して、例えば図3の実線で示すような変化が起きた場合に、点線で示すように放電電力BTを変化させればよい。
また、売電最大化モードの場合には、前述の式(2)によりLD=BTであるから、負荷電力LDの変化と放電電力BTの変化との関係については図3と同様であり、かつ、LDの変動に関わらずPV=GRとして太陽光発電パネル6の発電電力PVは売電される。
【0038】
図4は、逆に、負荷電力LDが急増した場合に蓄電池7の放電電力がどのように応答するかの一例を示すグラフである。横軸は時間、縦軸は電力を、それぞれ表している。例えば、発電電力PVが0である場合に、負荷電力LD(実線)が時刻T1において急増し、1kWから2kWに上昇したとすると、放電電力BTの制御応答は少し遅れ、時刻T2から上がり始める。時刻T4には、目標電力すなわち負荷電力LDと、放電電力BTとが互いに、実質的に一致する。斜線で示す面積は、買電の電力量となる。なお、図3と違って、急増後の負荷電力(ここでは2kW)より高い電力まで放電電力BTを一旦上昇(オーバーシュート)させることは、積極的に逆電力を生じさせることになるので、行わない。
【0039】
なお、図4についても、PV=0として説明したが、PVを考慮する場合は、以下のようになる。
すなわち、自給自足モードの場合には、前述の式(1)より、LD=PV+BTであるから、負荷電力LDのうち、蓄電池7の負担分である(LD−PV)に関して、例えば図4の実線で示すような変化が起きた場合に、点線で示すように放電電力BTを変化させればよい。
また、売電最大化モードの場合には、前述の式(2)によりLD=BTであるから、負荷電力LDの変化と放電電力BTの変化との関係については図4と同様であり、かつ、LDの変動に関わらずPV=GRとして太陽光発電パネル6の発電電力PVは売電される。
【0040】
図3及び図4より、PID制御の制御ゲイン(P,D)に関して言えば、負荷電力が増大したとき(図4)の制御ゲインよりも、負荷電力が減少したとき(図3)の制御ゲインを大きくすることになる。この場合、負荷電力の増大時には制御の応答が相対的に緩慢になり、負荷電力の減少時には制御の応答が相対的に俊敏になる。従って、負荷電力の増大時には増大後の目標電力を超えず(オーバーシュートさせず)、逆に、負荷電力の減少時には減少後の目標電力より低い電力まで放電電力を一旦低下させる(アンダーシュートさせる)ことができる。
【0041】
また、負荷電力の増大は逆電力の減少、負荷電力の減少は逆電力の増大に相当するので、逆電力が減少(0又は買電)したとき(図4)の制御ゲインよりも、逆電力が増大したとき(図3)の制御ゲインを大きくすることになる。この場合、逆電力の減少すなわち負荷電力の増大時には制御の応答が相対的に緩慢になり、逆電力の増大すなわち負荷電力の減少時には制御の応答が相対的に俊敏になる。従って、負荷電力の増大時には増大後の目標電力を超えず(オーバーシュートさせず)、逆に、負荷電力の減少時には減少後の目標電力より低い電力まで放電電力を一旦低下させる(アンダーシュートさせる)ことができる。
【0042】
上記のように、放電制御を行うには、負荷電力を監視し、適切な放電電力になるようパワーコンディショナ3(3b)を動作させることが必要である。
以下、負荷電力の監視の仕方も含めたシステム構成のバリエーションについて説明する。
【0043】
《システム構成のバリエーション》
図5は、蓄電池システム2の第1例を示す単線接続図である。図において、電力変換装置としてのパワーコンディショナ3は、直流電路5を介して、蓄電池7と接続されている。パワーコンディショナ3は、交流電路8を介して分電盤9と接続され、分電盤9はさらに、交流電路10を介して系統電源11と接続されている。受電点Pは、例えば交流電路10上にある。分電盤9からは、交流電路12を介して家電機器等の負荷13が接続される。負荷電力を計測する負荷電力計測部14は、分電盤9に設けられている。負荷電力計測部14は、負荷電力を計測し、計測した負荷電力の情報をパワーコンディショナ3に送る。
【0044】
図5において、パワーコンディショナ3は、負荷13に対して蓄電池7の放電による所定の放電電力を供給している状態から負荷電力が減少した場合、減少後の目標電力より低い電力まで放電電力を一旦低下させ、その後、目標電力に一致させる放電制御を行う。このような放電制御により、過渡的に生じた逆電力量を、その後の買電電力量で相殺して、一定時間内の逆電力量を許容範囲内に抑制することができる。また、負荷電力計測部14により、負荷電力に基づいて的確な放電制御を実行することができる。
なお、負荷電力の増大時には図4に示す要領で、放電電力が、増大後の目標電力を超えない(オーバーシュートさせない)ようにする。この点は、以下の第2〜5例でも同様である。
【0045】
図6は、蓄電池システム2の第2例を示す単線接続図である。図5との違いは、図5の負荷電力計測部14に代えて、受電点電力計測部15が分電盤9の交流電路10側に設けられている点、及び、この受電点電力計測部15が計測した電力及び、パワーコンディショナ3の出力に基づいて、負荷電力を演算し、パワーコンディショナ3に与える負荷電力演算部16が設けられている点である。受電点電力計測部15は、負荷13と受電点Pとの間に位置し、順潮流や逆潮流の電力を計測する。負荷電力演算部16は、受電点電力計測部15が計測した電力に基づいて、負荷電力を演算により求める。なお、負荷電力演算部16は、パワーコンディショナ3に搭載されていてもよい。
【0046】
図6において、パワーコンディショナ3は、負荷13に対して蓄電池7の放電による所定の放電電力を供給している状態から負荷電力が減少した場合、減少後の目標電力より低い電力まで放電電力を一旦低下させ、その後、目標電力に一致させる放電制御を行う。このような放電制御により、過渡的に生じた逆電力量を、その後の買電電力量で相殺して、一定時間内の逆電力量を許容範囲内に抑制することができる。また、受電点電力計測部15及び負荷電力演算部16により負荷電力を求め、これに基づいて的確な放電制御を実行することができる。
【0047】
図7は、蓄電池システム2の第3例を示す単線接続図である。図6との違いは、パワーコンディショナ3に太陽光発電パネル6が接続されている点である。なお、太陽光発電パネルは一例であり、その他の、自然エネルギーで発電する発電装置でもよい。
【0048】
図7において、パワーコンディショナ3は、負荷13に対して蓄電池7の放電による所定の放電電力を供給している状態から負荷電力が減少した場合、減少後の目標電力より低い電力まで放電電力を一旦低下させ、その後、目標電力に一致させる放電制御を行う。このような放電制御により、過渡的に生じた逆電力量を、その後の買電電力量で相殺して、一定時間内の逆電力量を許容範囲内に抑制することができる。また、受電点電力計測部15及び負荷電力演算部16により負荷電力を求め、これに基づいて的確な放電制御を実行することができる。
【0049】
図8は、蓄電池システム2の第4例を示す単線接続図である。図5との違いは、図5の負荷電力計測部14に代えて、受電点電力計測部15が系統電源11の受電点分電盤9の交流電路10側に設けられている点、及び、この受電点電力計測部15が計測した逆電力の情報をパワーコンディショナ3に与える点である。受電点電力計測部15は、負荷13と受電点Pとの間に位置し、順潮流や逆潮流の電力を計測する。
【0050】
図8において、パワーコンディショナ3は、負荷13に対して蓄電池7の放電による所定の放電電力を供給している状態から負荷電力が減少したことを、逆電力の発生により検知する。この場合、逆電力値より大きい電力分だけ放電電力を一旦低下させ、その後、目標電力に一致させる放電制御を行う。このような放電制御により、過渡的に生じた逆電力量を、その後の買電電力量で相殺して、一定時間内の逆電力量を許容範囲内に抑制することができる。
【0051】
図9は、蓄電池システム2の第5例を示す単線接続図である。図8との違いは、パワーコンディショナ3に太陽光発電パネル6が接続されている点である。なお、太陽光発電パネルは一例であり、その他の、自然エネルギーで発電する発電装置でもよい。
【0052】
図9において、パワーコンディショナ3は、負荷13に対して蓄電池7の放電による所定の放電電力を供給している状態から負荷電力が減少した場合、減少後の目標電力より低い電力まで放電電力を一旦低下させ、その後、目標電力に一致させる放電制御を行う。このような放電制御により、過渡的に生じた逆電力量を、その後の買電電力量で相殺して、一定時間内の逆電力量を許容範囲内に抑制することができる。
【0053】
《補記》
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0054】
1 需要家
2 蓄電池システム
3,3b,3p パワーコンディショナ
4,5 直流電路
6 太陽光発電パネル
7 蓄電池
8,8b,8p 交流電路
9 分電盤
10 交流電路
11 系統電源
12 交流電路
13 負荷
14 負荷電力計測部
15 受電点電力計測部
16 負荷電力演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10