(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図8と
図9を参照して、電動機の速度制御レンジについて説明する。
図8は、ブライドルロールを駆動する旧来の電動機の速度制御レンジを示す図である。旧来のプロセスラインでは、搬送されるストリップの品種が単調(一種)であったため、使用される電動機の速度制御レンジは狭い。
【0007】
図9は、ブライドルロールを駆動する最近の電動機の速度制御レンジを示す図である。最新のプロセスラインでは、搬送されるストリップが多品種(薄物から厚物、幅狭から幅広、多鋼種)であり、ストリップの品種に応じてライン速度も異なる。ライン速度は、板厚・板幅と相関し、板厚が厚く板幅が広いほど低速側に、板厚が薄く板幅が狭いほど高速側に設定される。各種鋼材に対応可能な、速度制御レンジの広い電動機が使用される。このような電動機に対して、各種鋼材に応じた最適なロードバランス制御が適用されることが望まれる。
【0008】
ブライドルロールセットにおけるロードバランス制御では、各ブライドルロールの負荷が平均化するように制御される。上述した容量比分担方式によるロードバランス制御では、電動機のパワーを十分に活かすことができる。しかしながら、ライン速度が高くなると、各ロールの摩耗度の違いにより、ロール間に速度差が生じるため、ロール間の張力バランスが崩れやすくなる。張力アンバランスは、ストリップのスリップの原因およびロール間のたるみの原因となる。
【0009】
一方、上述したLoad share方式によるロードバランス制御では、ブライドルロールとストリップ間の限界摩擦係数をブライドルロールの入・出側の張力差から計算し、ストリップの巻きつけ角から各ロールが負担すべき最適な負荷分担率を演算し、負荷を各ロールに分担させる。そのため、Load share方式では、機械メーカが決めた電動機の容量の比率に依存せずに、ロール間の張力アンバランスを抑制することができ、精度の高いロードバランス制御を行うことができる。特にライン速度が高速な場合に有効である。しかしながら、ブライドルロールの入・出側の張力差が大きい領域(ライン速度は低く、大きなトルクを必要とする領域)では、限界摩擦係数が最大摩擦係数(ブライドルロール表面の物性およびストリップの物性により一定)に近くなり余裕度が下がる。そのため、ストリップとブライドルロール間の摩擦力が不足し、スリップを起こしやすくなり、制御が安定しない場合がある。
【0010】
このように両方式には一長一短の特徴があり、電動機の全ての制御範囲において1つの方式で最適なロールバランス制御を行うことは困難であるという課題がある。
【0011】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、多品種のストリップに対応して、ストリップ毎に適切に電動機の負荷分担率を決定し、ロール間の張力アンバランスを抑え、ストリップのスリップを抑制できるブライドルロールのロードバランス制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、複数のブライドルロールに巻きつけられたストリップに張力を付与しながら前記ストリップを搬送するために、前記複数のブライドルロールを駆動する各電動機の負荷を個別に制御するブライドルロールのロードバランス制御装置であって、
前記ストリップを搬送するライン速度、前記ストリップの板厚、前記ストリップの板幅の少なくとも1つに基づいて前記各電動機の負荷分担率を決める方式として、容量比分担方式とLoad share方式のいずれか一方を選択する負荷分担率演算方式選択部と、
前記負荷分担率演算方式選択部により選択された方式を用いて前記負荷分担率を決定し、前記負荷分担率に基づいて前記各電動機を制御する制御部と、を備え、
前記容量比分担方式は、前記各電動機の容量の比率に応じて前記負荷分担率を決定する方式であり、
前記Load share方式は、前記複数のブライドルロールのそれぞれの摩擦係数および巻きつけ角に基づいて前記負荷分担率を決定する方式であること、を特徴とする。
【0013】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記負荷分担率演算方式選択部は、
前記複数のブライドルロールの入側および出側の張力に基づいて限界摩擦係数を算出し、
前記ブライドルロールと前記ストリップとの間の最大摩擦係数と、前記限界摩擦係数との差が閾値以下である場合に前記容量比分担方式を選択し、最大摩擦係数と前記限界摩擦係数との差が前記閾値より大きい場合に前記Load share方式を選択すること、を特徴とする。
【0014】
また、第3の発明は、第1の発明において、前記負荷分担率演算方式選択部は、
前記ライン速度が低速域にある場合に前記容量比分担方式を選択し、前記ライン速度が前記低速域よりも高い高速域にある場合に前記Load share方式を選択すること、を特徴とする。
【0015】
また、第4の発明は、第1の発明において、前記負荷分担率演算方式選択部は、
前記ストリップの板厚と板幅により定められた第1領域においてLoad share方式を選択し、前記第1領域よりも板厚が厚く板幅が広い第2領域において容量比分担方式を選択すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
これらの発明によれば、多品種のストリップに対応して、ストリップ毎に適切に電動機の負荷分担率を決定し、ロール間の張力アンバランスを抑え、ストリップのスリップを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0019】
実施の形態1.
[実施の形態1のシステム構成]
図1は、本発明の実施の形態1におけるブライドルロールセットおよびそのロードバランス制御装置の構成を示す図である。
図1に示す鉄鋼プラントのプロセスライン1は、ブライドルロールセットを備える。ブライドルロールセットは、複数のブライドルロール3からなる。複数のブライドルロール3には、ストリップ2が巻きつけられている。各ブライドルロール3を、プロセスライン1の上流側から順に第1ブライドルロール31(図中のRoll1)、第2ブライドルロール32(図中のRoll2)、第3ブライドルロール33(図中のRoll3)、第4ブライドルロール34(図中のRoll4)と称する。第1ブライドルロール31〜第4ブライドルロール34は、それぞれ独立した電動機(図示省略)に接続される。各電動機は、接続された第1ブライドルロール31〜第4ブライドルロール34を回転駆動する。第1ブライドルロール31〜第4ブライドルロール34は、ストリップ2に張力を付与しながらストリップ2を搬送する。なお、ブライドルロール3の本数は、
図1に示すものに限定されるものではなく、2本以上であればよい。
【0020】
各電動機には、回転速度を検出可能な速度検出器(図示省略)が設けられている。速度検出器の出力とロール径等に基づいて、ストリップ2の搬送速度であるライン速度が算出できる。また、プロセスライン1は、複数の張力計4を備える。具体的には、第1ブライドルロール31上流には、ブライドルロールセット入側におけるストリップ2の張力T
1を検出可能な入側張力計41が設けられている。第4ブライドルロール34の下流には、ブライドルロールセット出側におけるストリップ2の張力T
5を検出可能な出側張力計42が設けられている。
【0021】
また、プロセスライン1は、ロードバランス制御装置5に接続されている。ロードバランス制御装置5は、ドライブ装置6とPLC(Programmable Logic Controller)7とを備える。PLC7は、上位計算機やオペレータが操作する計算機に接続されている。各ブライドルロール3の電動機などのアクチュエータや各張力計4などのセンサは、ドライブ装置6やPLC7に接続されている。
【0022】
[実施の形態1におけるロードバランス制御]
図2は、本発明の実施の形態1におけるロードバランス制御について説明するための図である。
【0023】
図2のようにブライドルロールセットが第1ブライドルロール31〜第4ブライドルロール34で構成されている場合、ロードバランス制御装置5は、各ロールの電動機に対してロードバランス制御を実施する。ロードバランス制御を実施する際に必要となる各ロールの電動機の負荷は負荷分担率から演算される。負荷分担率を演算する方式として、容量比分担方式と、Load share方式がある。
【0024】
容量比分担方式は、機械メーカが決めた電動機の容量(最大出力)の比率に応じて各電動機の負荷分担率を決め、負荷分担率に応じて負荷を振り分ける方式である。Load share方式は、ロールの摩擦係数(ブライドルロール3とストリップ2間の限界摩擦係数)および巻きつけ角から演算される負荷分担率に応じて負荷を振り分ける方式である。
【0025】
ロードバランス制御装置5は、上述した両方の演算方式を内蔵し、外部からの情報に応じてどちらかの演算方式を選択し、選択された演算方式を用いて各電動機の負荷分担率を決定し、各ロールの電動機に対してロードバランス制御を実施する。以下、詳細に説明する。
【0026】
ドライブ装置6は、本発明における制御部に対応する。ドライブ装置6は、負荷演算部61、電動機制御部62、スリップ検出部63を備える。負荷演算部61は、PLC7により選択された演算方式を用いて各ロールの電動機の負荷分担率を決定する。電動機制御部62は、決定した負荷分担率に基づいて各ロールの電動機の負荷を計算し、負荷に応じた電流を各電動機に流す。なお、電動機制御部62は、
図3に示すように、負荷に応じた電流の計算値に実績値をフィードバックしてライン速度を目標値に一致させるためのフィードバック補正機能を備える。スリップ検出部63は、電動機の速度の変化などからロードバランス制御中に生じたストリップ2のスリップを検出する。その他、ドライブ装置6は、ライン速度などのフィードバック情報を収集する機能を備えている。
【0027】
(容量比分担方式とLoad share方式の選択)
PLC7は、情報取得部71、負荷分担率演算方式選択部72を備える。
情報取得部71は、上位計算機やオペレータが操作する計算機から、ストリップの種類(鋼種、板厚、板幅など)、ライン速度、張力などに関する情報を取得する。
【0028】
負荷分担率演算方式選択部72は、情報取得部71が取得した情報に基づいて、ブライドルロールセット入側と出側の張力差より、ブライドルロール3とストリップ2間の限界摩擦係数を算出し、限界摩擦係数と最大摩擦係数との比較結果に基づいて、いずれの演算方式を用いるかを選択する。
【0029】
具体的に説明する。負荷分担率演算方式選択部72には、ストリップの種類(鋼種、板厚、板幅など)と、ブライドルロールセット入側の張力T
1と、ブライドルロールセット出側の張力T
5との関係を定めた関係マップが記憶されている。張力T
1とT
5は、その張力差が板厚・板幅と相関し、板厚が厚く板幅が広いほど張力差が大きく、板厚が薄く板幅が狭いほど張力差が小さく定められる。負荷分担率演算方式選択部72は、関係マップから情報取得部71で取得されたストリップの種類に対応するブライドルロールセット入側および出側の張力(T
1、T
5)を取得する。限界摩擦係数(μ)は、後述する式(5)に、これらの張力(T
1、T
5)とストリップ2の巻きつけ角(θ
1〜θ
4)を代入することで算出される。
【0030】
また、ブライドルロール3とストリップ2間の最大摩擦係数は、ブライドルロール3の表面の物性およびストリップの物性(鋼種)により定まる。一例として、鋼種と最大摩擦係数との関係を定めたマップを予め用意し、マップから鋼種に応じた最大摩擦係数を取得することができる。なお、最大摩擦係数は、実際のロールの磨耗具合や運転状況によっても変化するため、運転のフィードバック情報(ストリップの種類、ライン速度)を収集し、これに基づいて推定することとしてもよい。
【0031】
Load share方式では、機械メーカが決めた電動機の容量の比率に依存せず、各ロールが負担すべき最適な負荷分担率を演算し、負荷を各ロールに分担させるため、ライン速度が高速な場合に非常に有効である。しかしながら、ブライドルロールの入・出側の張力差が大きくなると、限界摩擦係数が最大摩擦係数に近くなり余裕度が下がる。そのため、ストリップ2とブライドルロール3間の摩擦力が不足し、スリップを起こしやすくなり、制御が安定しない場合がある。そのため、限界摩擦係数が最大摩擦係数に近い条件下では、容量比分担方式によるロードバランス制御を用いる必要がある。
【0032】
一方、容量比分担方式では、電動機のパワーを十分に活かすことができる。しかしながら、ライン速度が速くなると、各ロールの摩耗度の違いにより、ロール間に速度差が生じるため、ロール間の張力バランスが崩れやすくなる。張力アンバランスは、ストリップのスリップの原因およびロール間のたるみの原因となる。このように、両方式には一長一短の特徴があり、電動機の全ての制御範囲において1つの方式で最適なロールバランス制御を行うことは困難である。
【0033】
そこで、本発明の実施の形態1では、各電動機の負荷分担率を演算する方式として、最大摩擦係数−限界摩擦係数≦摩擦差閾値F
thrの関係が成立する場合に、容量比分担方式を選択し、最大摩擦係数−限界摩擦係数>摩擦差閾値F
thrの関係が成立する場合に、Load share方式を選択することとした。
【0034】
(効果)
上述した負荷分担率の演算方式の選択によれば、ブライドルロールセット入側と出側の張力差が大きく、最大摩擦係数に対して限界摩擦係数の余裕がない場合には、電動機のパワーを十分に引き出せるように容量比分担方式を選択する。一方、ブライドルロールセット入側と出側の張力差が小さく、最大摩擦係数に対して限界摩擦係数の余裕がある場合には、電動機の容量の比率に依存せずに最適な負荷分担率で張力のアンバランスを抑制できるLoad share方式を選択する。これにより、張力差が大きい領域では十分にトルクが確保でき、張力差が小さい領域では制御の精度を向上させることができ、より品質の高い製品を生産することができる。
【0035】
(追加機能)
なお、上述した実施の形態1において、一方の演算方式によりロードバランス制御が実行されている場合に、ブライドルロールセットで発生しているスリップを検出し、これが予め決められた時間内に上限回数以上発生した場合に、他方の演算方式に切り替えることとしても良い。
【0036】
更に、これらの情報を蓄積し、測定されたスリップ発生状況とその時のフィードバック情報から相関関係をもとめる学習機能を備えてもよい。一例として、Load share方式によるロードバランス制御においてスリップ回数が予め設定した上限回数を超えた場合には摩擦差閾値F
thrを高める。これにより、同一条件においてLoad share方式が選択される確率を下げて、容量比分担方式が選択される確率を上げることができる。一方、容量比分担方式によるロードバランス制御においてスリップ回数が予め設定した上限回数を超えた場合に摩擦差閾値F
thrを低める。これにより、同一条件において容量比分担方式が選択される確率を下げて、Load share方式が選択される確率を上げることができる。
【0037】
ところで、上述した実施の形態1のシステムにおいては、負荷分担率演算方式選択部72を、PLC7に配置することとしているが、この配置はこれに限定されるものではない。例えば、負荷分担率演算方式選択部72をドライブ装置6に配置することとしても良い。
【0038】
(フローチャート)
図4は、本発明の実施の形態1において、ロードバランス制御装置5が実行する制御ルーチンのフローチャートである。本制御ルーチンは、所定のサイクルで繰り返し実行される。
【0039】
図4に示すルーチンでは、まず、負荷分担率演算方式選択部72は、上述した関係マップから、情報取得部71が取得したストリップの種類(鋼種、板厚、板幅など)に対応するブライドルロールセット入側および出側の張力(T
1、T
5)を取得する(ステップS100)。
【0040】
負荷分担率演算方式選択部72は、最大摩擦係数−限界摩擦係数≦摩擦差閾値F
thrであるかを判定する(ステップS101)。上述したように最大摩擦係数は、鋼種と最大摩擦係数との関係を定めたマップから取得できる。限界摩擦係数は、式(5)に、張力(T
1、T
5)とストリップ2の巻きつけ角(θ
1〜θ
4)を代入することで算出できる。摩擦差閾値F
thrは、負荷分担率演算方式選択部72にプリセットされている。
【0041】
最大摩擦係数−限界摩擦係数≦摩擦差閾値F
thrである場合、負荷分担率演算方式選択部72は容量比分担方式を選択する(ステップS102)。PLC7は、選択された演算方式をストリップの情報等と共にドライブ装置6に送信する。
【0042】
ドライブ装置6の負荷演算部61は、選択された演算方式を用いて各ロールの電動機の負荷分担率を決定する。電動機制御部62は、決定した負荷分担率に基づいて各ロールの電動機の負荷を計算し、電動機を制御する(ステップS103)。
【0043】
ドライブ装置6のスリップ検出部63は、容量比分担方式によるロードバランス制御が実行されている場合において、予め決められた時間内にブライドルロールセットで発生したスリップ回数S
Cを検出する(ステップS104)。
【0044】
ドライブ装置6は、スリップ回数S
C>閾値S
C_thrであるかを判定する(ステップS105)。閾値S
C_thrは、許容されるスリップ回数の上限値であり、ドライブ装置6にプリセットされている。
【0045】
スリップ回数S
C>閾値S
C_thrである場合に、ドライブ装置6はPLC7の負荷分担率演算方式選択部72に摩擦差閾値F
thrを低くする命令を出す。負荷分担率演算方式選択部72は、ステップS101の判定に用いられる摩擦差閾値F
thrを所定値下げる(ステップS106)。これにより、次回に実行される本ルーチンにおいて、同一条件において容量比分担方式が選択される確率が下がり、Load share方式が選択される確率が高まる。
【0046】
また、ステップS101において、最大摩擦係数−限界摩擦係数>摩擦差閾値F
thrである場合に、負荷分担率演算方式選択部72はLoad share方式を選択する(ステップS107)。PLC7は、選択された演算方式をストリップの情報等と共にドライブ装置6に送信する。
【0047】
ドライブ装置6の負荷演算部61は、選択された演算方式を用いて各ロールの電動機の負荷分担率を決定する。電動機制御部62は、決定した負荷分担率に基づいて各ロールの電動機の負荷を計算し、電動機を制御する(ステップS108)。
【0048】
ドライブ装置6のスリップ検出部63は、Load share方式によるロードバランス制御が実行されている場合において、予め決められた時間内にブライドルロールセットで発生したスリップ回数S
Lを検出する(ステップS109)。
【0049】
ドライブ装置6は、スリップ回数S
L>閾値S
L_thrであるかを判定する(ステップS110)。閾値S
L_thrは、許容されるスリップ回数の上限値であり、ドライブ装置6にプリセットされている。
【0050】
スリップ回数S
L>閾値S
L_thrである場合に、ドライブ装置6はPLC7の負荷分担率演算方式選択部72に摩擦差閾値F
thrを高くする命令を出す。負荷分担率演算方式選択部72は、ステップS101の判定に用いられる摩擦差閾値F
thrを所定値上げる(ステップS111)。これにより、次回に実行される本ルーチンにおいて、同一条件においてLoad share方式が選択される確率が下がり、容積率分担方式が選択される確率が高まる。
【0051】
(負荷分担率や限界摩擦係数の算出方法の詳細)
上述した負荷分担率や限界摩擦係数の算出式について詳説する。限界摩擦係数μは、張力T5とT1と、各ロールに巻きつけられたストリップ2の巻きつけ角θ
1〜θ
4(
図1)を代入して、式(5)から算出可能である。Load share方式における負荷分担率は、ロールとストリップの限界摩擦係数μと巻きつけ角θから演算される。負荷分担率は、ブライドルロールセット入側の張力T
1および出側張力T
5を用いて、下記の式(1)〜式(4)のように表される。
【0056】
ただし、
T
5=T
1×e
μθ, θ=θ
1+θ
2+θ
3+θ
4 (5)
【0057】
負荷演算部61によりLoad share方式における負荷分担率が決定される。この負荷分担率に基づいて、各ロールの電動機が負担すべき負荷は、以下の式(6)〜式(9)のように表される。電動機制御部62は、式(6)〜式(9)に基づいて各電動機の負荷を計算し、負荷に応じた電流を各電動機に流す。
【0058】
Roll1負荷L
1:T
1(e
μθ1−1) (6)
Roll2負荷L
2:T
1e
μθ1(e
μθ2−1) (7)
Roll3負荷L
3:T
1e
μθ1e
μθ2(e
μθ3−1) (8)
Roll4負荷L
4:T
1e
μθ1e
μθ2e
μθ3(e
μθ4−1) (9)
【0059】
実施の形態2.
[実施の形態2のシステム構成]
次に、
図5を参照して本発明の実施の形態2について説明する。本実施形態のシステムは
図1〜
図3に示す構成において、ロードバランス制御装置5に後述する
図5のルーチンを実施させることで実現することができる。
【0060】
[実施の形態2における特徴的制御]
上述した実施の形態1では、各電動機の負荷分担率を演算する方式を選択するにあたり、負荷分担率演算方式選択部72は、ブライドルロールセット入側および出側の張力に基づいて限界摩擦係数を算出し、最大摩擦係数と限界摩擦係数とに基づいて、演算方式を選択することしている。ところで、演算方式を選択する手法はこれに限られるものではない。実施の形態2では、ライン速度に基づいて演算方式を選択することとした。
【0061】
ライン速度は、板厚・板幅と相関し、板厚が厚く板幅が広いほど低速側に、板厚が薄く板幅が狭いほど高速側に設定される。トルクが必要な低速域で生産されるストリップは板厚が厚く板幅が広いためスリップしにくい。そのため、電動機のパワーを十分に活かすこと出来る容量比分担方式を選択することが望ましい。一方、高速域で生産されるストリップは板幅が狭く板厚が薄いため電動機の負荷が低い。そのため、Load share方式を選択しても、電動機の容量不足となることはない。
【0062】
そこで、実施の形態2のシステムでは、低速域では電動機のパワーを十分に引き出せるように容量比分担方式を選択し、パワーがそれほど必要ない高速域においてLoad share方式を選択することとする。具体的には、ライン速度<ライン速度閾値の関係が成立する場合に、容量比分担方式を選択し、ライン速度≧ライン速度閾値の関係が成立する場合に、Load share方式を選択することとする。これにより、低速域では十分にトルクが確保でき、高速度域では制御の精度を向上させることができ、より品質の高い製品を生産することができる。
【0063】
(追加機能)
なお、実施の形態2のシステムにおいて、一方の演算方式によりロードバランス制御が実行されている場合に、ブライドルロールセットで発生しているスリップを検出し、これが予め決められた時間内に上限回数以上発生した場合に、他方の演算方式に切り替えることとしても良い。
【0064】
更に、学習機能を備えてもよい。一例として、Load share方式によるロードバランス制御においてスリップ回数が予め設定した上限回数を超えた場合にはライン速度閾値を高める。これにより、同一条件においてLoad share方式が選択される確率を下げて、容量比分担方式が選択される確率を上げることができる。一方、容量比分担方式によるロードバランス制御においてスリップ回数が予め設定した上限回数を超えた場合にライン速度閾値を低める。これにより、同一条件において容量比分担方式が選択される確率を下げて、Load share方式が選択される確率を上げることができる。
【0065】
ところで、実施の形態2のシステムにおいては、負荷分担率演算方式選択部72を、PLC7に配置することとしているが、この配置はこれに限定されるものではない。例えば、負荷分担率演算方式選択部72をドライブ装置6に配置することとしても良い。
【0066】
(フローチャート)
図5は、本発明の実施の形態2において、ロードバランス制御装置5が実行する制御ルーチンのフローチャートである。本制御ルーチンは、所定のサイクルで繰り返し実行される。
【0067】
なお、負荷分担率演算方式選択部72には、ストリップの種類(鋼種、板厚、板幅など)と、ライン速度との関係を定めた関係マップが記憶されている。ライン速度はストリップの板厚、板幅と相関関係を有する。具体的には、ストリップの板厚が厚く、板幅が広いほど大きなトルクを要するためライン速度は低く設定されている。また、板厚が薄く、板幅が狭いほど必要なトルクが小さいためライン速度は高く設定されている。
【0068】
図5に示すルーチンでは、まず、負荷分担率演算方式選択部72は、上述した関係マップから、情報取得部71が取得したストリップの種類(鋼種、板厚、板幅など)に対応するライン速度を取得する(ステップS200)。
【0069】
負荷分担率演算方式選択部72は、ライン速度<ライン速度閾値であるかを判定する(ステップS201)。ライン速度閾値は負荷分担率演算方式選択部72にプリセットされている。
【0070】
ライン速度<ライン速度閾値である場合、負荷分担率演算方式選択部72は容量比分担方式を選択する(ステップS202)。PLC7は、選択された演算方式をストリップの情報等と共にドライブ装置6に送信する。
【0071】
ドライブ装置6の負荷演算部61は、選択された演算方式を用いて各ロールの電動機の負荷分担率を決定する。電動機制御部62は、決定した負荷分担率に基づいて各ロールの電動機の負荷を計算し、電動機を制御する(ステップS203)。
【0072】
ドライブ装置6のスリップ検出部63は、容量比分担方式によるロードバランス制御が実行されている場合において、予め決められた時間内にブライドルロールセットで発生したスリップ回数S
Cを検出する(ステップS204)。
【0073】
ドライブ装置6は、スリップ回数S
C>閾値S
C_thrであるかを判定する(ステップS205)。閾値S
C_thrは、許容されるスリップ回数の上限値であり、ドライブ装置6にプリセットされている。
【0074】
スリップ回数S
C>閾値S
C_thrである場合に、ドライブ装置6はPLC7の負荷分担率演算方式選択部72にライン速度閾値を低くする命令を出す。負荷分担率演算方式選択部72は、ステップS201の判定に用いられるライン速度閾値を所定値下げる(ステップS206)。これにより、次回に実行される本ルーチンにおいて、同一条件において容量比分担方式が選択される確率が下がり、Load share方式が選択される確率が高まる。
【0075】
また、ステップS201において、ライン速度≧ライン速度閾値である場合に、負荷分担率演算方式選択部72はLoad share方式を選択する(ステップS207)。PLC7は、選択された演算方式をストリップの情報等と共にドライブ装置6に送信する。
【0076】
ドライブ装置6の負荷演算部61は、選択された演算方式を用いて各ロールの電動機の負荷分担率を決定する。電動機制御部62は、決定した負荷分担率に基づいて各ロールの電動機の負荷を計算し、電動機を制御する(ステップS208)。
【0077】
ドライブ装置6のスリップ検出部63は、Load share方式によるロードバランス制御が実行されている場合において、予め決められた時間内にブライドルロールセットで発生したスリップ回数S
Lを検出する(ステップS209)。
【0078】
ドライブ装置6は、スリップ回数S
L>閾値S
L_thrであるかを判定する(ステップS210)。閾値S
L_thrは、許容されるスリップ回数の上限値であり、ドライブ装置6にプリセットされている。
【0079】
スリップ回数S
L>閾値S
L_thrである場合に、ドライブ装置6はPLC7の負荷分担率演算方式選択部72にライン速度閾値を高くする命令を出す。負荷分担率演算方式選択部72は、ステップS101の判定に用いられるライン速度閾値を所定値上げる(ステップS211)。これにより、次回に実行される本ルーチンにおいて、同一条件においてLoad share方式が選択される確率が下がり、容積率分担方式が選択される確率が高まる。
【0080】
実施の形態3.
[実施の形態3のシステム構成]
次に、
図6〜
図7を参照して本発明の実施の形態3について説明する。本実施形態のシステムは
図1〜
図3に示す構成において、ロードバランス制御装置5に後述する
図7のルーチンを実施させることで実現することができる。
【0081】
[実施の形態3における特徴的制御]
上述した実施の形態2では、各電動機の負荷分担率を演算する方式を選択するにあたり、負荷分担率演算方式選択部72は、ライン速度に基づいて演算方式を選択することとしている。ところで、演算方式を選択する手法はこれに限られるものではない。実施の形態3では、ストリップの板厚と板幅とに基づいて、演算方式を選択することとした。
【0082】
図6は、ストリップの板厚と板幅と演算方式との関係を定めた関係マップである。関係マップは、ストリップの板厚と板幅をそれぞれ数段階に分けて、これらを組み合わせた領域毎に演算方式がプリセットされている。具体的には、板厚が厚く、板幅が広い領域では大きなトルクを要するため容量比分担方式が設定されている。また、板厚が薄く、板幅が狭い領域では必要なトルクが小さいためLoad share方式が設定されている。負荷分担率演算方式選択部72は、
図6に示すような、ストリップの板厚と板幅の組み合わせに対応する演算方式を定めた関係マップを予め記憶している。
【0083】
図6に示すように、実施の形態3のシステムでは、ストリップの板厚が薄く板幅が狭い第1領域においてLoad share方式を選択し、この第1領域よりも板厚が厚く板幅が広い第2領域において容量比分担方式を選択することとする。これにより、板厚が厚く板幅が広い領域では十分にトルクが確保でき、板厚が薄く板幅が狭い領域では制御の精度を向上させることができ、より品質の高い製品を生産することができる。
【0084】
(追加機能)
なお、実施の形態3のシステムにおいて、一方の演算方式によりロードバランス制御が実行されている場合に、ブライドルロールセットで発生しているスリップを検出し、これが予め決められた時間内に上限回数以上発生した場合に、他方の演算方式に切り替えることとしても良い。
【0085】
更に、学習機能を備えてもよい。一例として、Load share方式によるロードバランス制御においてスリップ回数が予め設定した上限回数を超えた場合に、関係マップ中の当該板厚と板幅が属する領域に対応する演算方式を容量比分担方式に変更する。これにより、次回以降は、同一条件において容量比分担方式を選択することができる。一方、容量比分担方式によるロードバランス制御においてスリップ回数が予め設定した上限回数を超えた場合に、関係マップ中の当該板厚と板幅が属する領域に対応する演算方式をLoad share方式に変更する。これにより、次回以降は、同一条件においてLoad share方式を選択することができる。
【0086】
ところで、実施の形態2のシステムにおいては、負荷分担率演算方式選択部72を、PLC7に配置することとしているが、この配置はこれに限定されるものではない。例えば、負荷分担率演算方式選択部72をドライブ装置6に配置することとしても良い。
【0087】
(フローチャート)
図7は、本発明の実施の形態3において、ロードバランス制御装置5が実行する制御ルーチンのフローチャートである。本説明では、板厚と板幅との組み合わせに応じて演算方式を選択する。本制御ルーチンは、所定のサイクルで繰り返し実行される。
【0088】
図7に示すルーチンでは、まず、ステップS300において、情報取得部71は、外部からストリップの情報(鋼種、板厚、板幅など)を取得する。負荷分担率演算方式選択部72は、上述した関係マップから、板厚と板幅との組み合わせに対応する演算方式を取得する。PLC7は、取得された演算方式をストリップの情報等と共にドライブ装置6に送信する。
【0089】
取得された演算方式が容量比分担方式である場合(ステップS301)、ドライブ装置6の負荷演算部61は、容量比分担方式を用いて各ロールの電動機の負荷分担率を決定する。電動機制御部62は、決定した負荷分担率に基づいて各ロールの電動機の負荷を計算し、電動機を制御する(ステップS302)
【0090】
ドライブ装置6のスリップ検出部63は、容量比分担方式を用いたロードバランス制御が実行されている場合において、予め決められた時間内にブライドルロールセットで発生したスリップ回数S
Cを検出する(ステップS303)。
【0091】
ドライブ装置6は、スリップ回数S
C>閾値S
C_thrであるかを判定する(ステップS304)。閾値S
C_thrは、許容されるスリップ回数の上限値であり、ドライブ装置6にプリセットされている。
【0092】
スリップ回数S
C>閾値S
C_thrである場合に、ドライブ装置6はPLC7の負荷分担率演算方式選択部72に関係マップを更新させる命令を出す。負荷分担率演算方式選択部72は、関係マップ中の板厚と板幅との組み合わせに対応する演算方式をLoad share方式に変更する(ステップS305)。これにより、次回に実行される本ルーチンにおいて、同一条件においてLoad share方式を選択することができる。
【0093】
一方、取得された演算方式がLoad share方式である場合(ステップS301)、ドライブ装置6の負荷演算部61は、Load share方式を用いて各ロールの電動機の負荷分担率を決定する。電動機制御部62は、決定した負荷分担率に基づいて各ロールの電動機の負荷を計算し、電動機を制御する(ステップS306)。
【0094】
ドライブ装置6のスリップ検出部63は、Load share方式を用いたロードバランス制御が実行されている場合において、予め決められた時間内にブライドルロールセットで発生したスリップ回数S
Lを検出する(ステップS307)。
【0095】
ドライブ装置6は、スリップ回数S
L>閾値S
L_thrであるかを判定する(ステップS308)。閾値S
L_thrは、許容されるスリップ回数の上限値であり、ドライブ装置6にプリセットされている。
【0096】
スリップ回数S
L>閾値S
L_thrである場合に、ドライブ装置6はPLC7の負荷分担率演算方式選択部72に関係マップを更新させる命令を出す。負荷分担率演算方式選択部72は、関係マップ中の板厚と板幅との組み合わせに対応する演算方式を容量比分担方式に変更する(ステップS309)。これにより、次回に実行される本ルーチンにおいて、同一条件において容量比分担方式を選択することができる。