(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記従来の技術においては、蓄電素子の残存寿命を正確に推定することができないという問題がある。
【0012】
つまり、従来の蓄電素子の直流抵抗の経時変化を推定する技術においては、試験モードに応じて上記の経験式におけるNの値が変化するため、当該Nの値を予測することが困難である。また、当該Nの値を予測できたとしても、推定される直流抵抗の経時変化の値は十分に正確なものではなかった。このため、従来の技術においては、蓄電素子の残存寿命を正確に推定することができない。
【0013】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、蓄電素子の残存寿命を正確に推定することができる寿命推定装置、寿命推定方法及び蓄電システムを提供することを目的とする。
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る寿命推定装置は、蓄電素子の使用可能な累積残存期間である残存寿命を推定する寿命推定装置であって、前記蓄電素子の使用期間の累積値である累積使用期間経過時点での前記蓄電素子の直流抵抗または交流抵抗の抵抗値が、前記累積使用期間の三次以上の関数または指数関数の項を含む式で示される関係式を取得する関係式取得部と、取得された前記関係式を用いて前記残存寿命を推定する残存寿命推定部とを備える。
【0015】
これによれば、寿命推定装置は、累積使用期間経過時点での蓄電素子の直流抵抗または交流抵抗の抵抗値が、累積使用期間の三次以上の関数または指数関数の項を含む式で示される関係式を取得し、当該関係式を用いて、蓄電素子の残存寿命を推定する。ここで、当該抵抗値は、累積使用期間の経過とともに加速度的に値が増加する。そして、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、当該抵抗値の経時変化は、累積使用期間を変数とする三次以上の関数または指数関数の項を含む式で表されることを見出した。このため、寿命推定装置は、上記の関係式を用いることで、当該抵抗値と累積使用期間との関係を正確に表現することができるため、蓄電素子の残存寿命を正確に推定することができる。
【0016】
また、前記関係式取得部は、前記抵抗値が、前記累積使用期間の三次関数を含む多項式で示される前記関係式を取得することにしてもよい。
【0017】
これによれば、寿命推定装置は、抵抗値が、累積使用期間の三次関数を含む多項式で示される関係式を取得する。ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、当該抵抗値が累積使用期間の三次関数を含む多項式で示される関係式が、当該抵抗値の経時変化を精度良く表現していることを見出した。このため、寿命推定装置は、上記の関係式を用いることで、当該抵抗値と累積使用期間との関係を正確に表現することができるため、蓄電素子の残存寿命を正確に推定することができる。
【0018】
また、前記関係式取得部は、前記関係式において前記抵抗値を前記累積使用期間で二回微分した値が正の値になる場合の累積使用期間を関係式取得期間とし、前記関係式取得期間経過時点までの前記抵抗値と前記累積使用期間との関係から得られる前記関係式を取得することにしてもよい。
【0019】
ここで、抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が負の値になる場合には、累積使用期間に対する抵抗値のグラフは、上に凸の関数(凹関数)で表現されるため、累積使用期間の経過とともに加速度的に抵抗値が増加するような状態を予測することはできない。つまり、寿命推定装置は、抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が正の値になる場合の累積使用期間経過時点までの抵抗値と累積使用期間との関係から得られる関係式を取得することで、累積使用期間の経過とともに加速度的に抵抗値が増加するような状態を予測することができる。このため、寿命推定装置は、当該関係式を用いることで、当該抵抗値と累積使用期間との関係を正確に表現することができるため、蓄電素子の残存寿命を正確に推定することができる。
【0020】
また、前記関係式取得部は、前記関係式取得期間経過時点までの前記抵抗値と前記累積使用期間との関係から前記関係式を算出することで、前記関係式を取得することにしてもよい。
【0021】
これによれば、寿命推定装置は、抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が正の値になる場合の累積使用期間経過時点までの抵抗値と累積使用期間との関係から関係式を算出する。これにより、寿命推定装置は、当該関係式を記憶部に事前に記憶させておくことなく、累積使用期間の経過とともに加速度的に抵抗値が増加するような状態を予測可能な関係式を取得することができる。このため、寿命推定装置は、当該関係式を用いることで、当該抵抗値と累積使用期間との関係を正確に表現することができるため、蓄電素子の残存寿命を正確に推定することができる。
【0022】
また、前記関係式取得部は、前記抵抗値が、前記累積使用期間に所定の定数を乗じた値を変数とする指数関数に比例する前記関係式を取得することにしてもよい。
【0023】
これによれば、寿命推定装置は、抵抗値が、累積使用期間に所定の定数を乗じた値を変数とする指数関数に比例する関係式を取得する。ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、当該抵抗値が累積使用期間に所定の定数を乗じた値を変数とする指数関数に比例する関係式が、当該抵抗値の経時変化を精度良く表現していることを見出した。このため、寿命推定装置は、上記の関係式を用いることで、当該抵抗値と累積使用期間との関係を正確に表現することができるため、蓄電素子の残存寿命を正確に推定することができる。
【0024】
また、前記残存寿命推定部は、所定の時点での前記抵抗値である第一抵抗値を取得するとともに、前記蓄電素子の寿命到達時点での前記抵抗値である第二抵抗値を取得する抵抗値取得部と、前記関係式から得られる前記第一抵抗値における累積使用期間である第一累積使用期間を取得するとともに、前記関係式から得られる前記第二抵抗値における累積使用期間である第二累積使用期間を取得する期間取得部と、前記第二累積使用期間から前記第一累積使用期間を差し引くことで、前記所定の時点からの前記蓄電素子の残存寿命を算出する残存寿命算出部とを備えることにしてもよい。
【0025】
これによれば、寿命推定装置は、所定の時点での第一抵抗値と蓄電素子の寿命到達時点での第二抵抗値とを取得して、上記の関係式から得られる第一抵抗値における第一累積使用期間と第二抵抗値における第二累積使用期間とを取得し、第二累積使用期間から第一累積使用期間を差し引くことで、所定の時点からの蓄電素子の残存寿命を算出する。このようにして、寿命推定装置は、蓄電素子の残存寿命を正確に推定することができる。
【0026】
また、前記残存寿命推定部は、さらに、前記関係式取得部が取得した前記関係式を補正する関係式補正部を備え、補正後の前記関係式を用いて、前記残存寿命を推定することにしてもよい。
【0027】
これによれば、寿命推定装置は、上記の関係式を補正し、補正後の当該関係式を用いて、残存寿命を推定する。このようにして、寿命推定装置は、関係式を補正して当該関係式の精度を向上させていくことで、残存寿命を正確に推定することができる。
【0028】
また、前記蓄電素子は、正極活物質として層状構造のリチウム遷移金属酸化物を含むリチウムイオン二次電池であり、前記関係式取得部は、前記リチウムイオン二次電池についての前記関係式を取得し、前記残存寿命推定部は、前記リチウムイオン二次電池についての前記残存寿命を推定することにしてもよい。
【0029】
これによれば、蓄電素子は、正極活物質として層状構造のリチウム遷移金属酸化物を含むリチウムイオン二次電池である。ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、蓄電素子が当該リチウムイオン二次電池の場合に、上記の関係式によって劣化状態を精度良く表現できることを見出した。このため、寿命推定装置は、当該リチウムイオン二次電池の残存寿命を正確に推定することができる。
【0030】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態に係る蓄電素子の寿命推定装置及び当該寿命推定装置を備える蓄電システムについて説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0031】
まず、蓄電システム10の構成について、説明する。
【0032】
図1は、本発明の実施の形態に係る寿命推定装置100を備える蓄電システム10の外観図である。
【0033】
同図に示すように、蓄電システム10は、寿命推定装置100と、複数(同図では6個)の蓄電素子200と、寿命推定装置100及び複数の蓄電素子200を収容する収容ケース300とを備えている。
【0034】
寿命推定装置100は、複数の蓄電素子200の上方に配置され、複数の蓄電素子200の寿命を推定する回路を搭載した回路基板である。具体的には、寿命推定装置100は、複数の蓄電素子200に接続されており、複数の蓄電素子200から情報を取得して、複数の蓄電素子200の使用可能な累積残存期間である残存寿命を推定する。この寿命推定装置100の詳細な機能構成の説明については、後述する。
【0035】
なお、ここでは、寿命推定装置100は複数の蓄電素子200の上方に配置されているが、寿命推定装置100はどこに配置されていてもよい。
【0036】
蓄電素子200は、正極と負極とを有する非水電解質二次電池などの二次電池である。
また、同図では6個の矩形状の蓄電素子200が直列に配置されて組電池を構成している。なお、蓄電素子200の個数は6個に限定されず、他の複数個数または1個であってもよい。また蓄電素子200の形状も特に限定されない。
【0037】
ここで、蓄電素子200は、正極活物質として層状構造のリチウム遷移金属酸化物を含むリチウムイオン二次電池であるのが好ましい。具体的には、正極活物質として、Li
1+xM
1−yO
2(MはFe、Ni、Mn、Co等から選択される1種または2種以上の遷移金属元素、0≦x<1/3、0≦y<1/3)等の層状構造のリチウム遷移金属酸化物等を用いるのが好ましい。なお、当該正極活物質として、LiMn
2O
4やLiMn
1.5Ni
0.5O
4等のスピネル型リチウムマンガン酸化物や、LiFePO
4等のオリビン型正極活物質等と、上記層状構造のリチウム遷移金属酸化物とを混合して用いてもよい。
【0038】
また、負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質であれば、適宜公知の材料を使用できる。例えば、リチウム金属、リチウム合金(リチウム−ケイ素、リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−錫、リチウム−アルミニウム−錫、リチウム−ガリウム、及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えば黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)、ケイ素酸化物、金属酸化物、リチウム金属酸化物(Li
4Ti
5O
12等)、ポリリン酸化合物、あるいは、一般にコンバージョン負極と呼ばれる、Co
3O
4やFe
2P等の、遷移金属と第14族乃至第16族元素との化合物などが挙げられる。
【0039】
次に、寿命推定装置100の詳細な機能構成について、説明する。
【0040】
図2は、本発明の実施の形態に係る寿命推定装置100の機能的な構成を示すブロック図である。
【0041】
寿命推定装置100は、蓄電素子200の使用可能な累積残存期間である残存寿命を推定する装置である。同図に示すように、寿命推定装置100は、関係式取得部110、残存寿命推定部120及び記憶部130を備えている。また、記憶部130には、関係式データ131及び蓄電素子データ132が記憶されている。
【0042】
関係式取得部110は、蓄電素子200の使用期間の累積値である累積使用期間経過時点での蓄電素子200の直流抵抗または交流抵抗の抵抗値が、累積使用期間の三次以上の関数または指数関数の項を含む式で示される関係式を取得する。具体的には、本実施の形態では、関係式取得部110は、当該抵抗値が、累積使用期間の三次関数を含む多項式で示される当該関係式を取得する。
【0043】
ここで、累積使用期間とは、蓄電素子200の使用開始時点から所定の時点までの間に、蓄電素子200が使用された期間を積算した合計期間を示している。例えば、蓄電素子200が断続的に使用されていた場合には、累積使用期間は、蓄電素子200が使用されていなかった不使用期間を差し引いた期間を示す。なお、当該不使用期間の差し引き方は厳密でなくともよく、蓄電素子200の使用開始時点から所定の時点までの当該不使用期間も含めた全期間を累積使用期間としてもよい。また、累積使用期間の単位としては、時間またはサイクル(充放電回数)が好ましいが、月や日など期間を表す単位であればどのようなものを用いても構わない。
【0044】
また、蓄電素子200の直流抵抗または交流抵抗の抵抗値とは、蓄電素子200の内部抵抗の抵抗値であり、例えば、10秒目の直流抵抗または1kHzの交流抵抗の抵抗値である。なお、10秒目の直流抵抗は、10秒目のV−I(電圧−電流)プロットの傾きより測定される。また、1kHzの交流抵抗とは、1kHzの周波数の交流電圧または交流電流を蓄電素子200に印加することで測定される交流抵抗(交流インピーダンス)である。
【0045】
さらに具体的には、関係式取得部110は、当該関係式において抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が正の値になる場合の累積使用期間を関係式取得期間とし、当該関係式取得期間経過時点までの抵抗値と累積使用期間との関係から得られる当該関係式を取得する。これの詳細については、後述する。
【0046】
なお、関係式取得部110は、記憶部130に記憶されている関係式データ131から、上記の関係式を読み出すことで、当該関係式を取得する。つまり、関係式データ131は、蓄電素子200の残存寿命を推定するための関係式を保持しているデータである。当該関係式の詳細については、後述する。
【0047】
残存寿命推定部120は、関係式取得部110が取得した関係式を用いて、蓄電素子200の残存寿命を推定する。ここで、残存寿命推定部120は、抵抗値取得部121、期間取得部122及び残存寿命算出部123を備えている。
【0048】
抵抗値取得部121は、所定の時点(以下、第一時点という)での蓄電素子200の抵抗値である第一抵抗値を取得する。つまり、抵抗値取得部121は、当該第一時点における蓄電素子200の抵抗値を測定するなどによって取得し、取得した値を当該第一抵抗値とする。
【0049】
また、抵抗値取得部121は、蓄電素子200の寿命到達時点(以下、第二時点という)での抵抗値である第二抵抗値を取得する。つまり、抵抗値取得部121は、蓄電素子200の寿命到達時点での抵抗値としてユーザが決定した値を、ユーザからの入力などによって取得し、取得した値を当該第二抵抗値とする。
【0050】
そして、抵抗値取得部121は、取得した第一抵抗値及び第二抵抗値を記憶部130の蓄電素子データ132に記憶させる。この記憶部130に記憶されている蓄電素子データ132の詳細については、後述する。
【0051】
期間取得部122は、上記の関係式から得られる第一抵抗値における累積使用期間である第一累積使用期間を取得する。つまり、期間取得部122は、関係式取得部110が取得した関係式を用いて、抵抗値取得部121が取得した第一抵抗値における累積使用期間を算出することで、上記の第一時点における累積使用期間である当該第一累積使用期間を取得する。
【0052】
また、期間取得部122は、上記の関係式から得られる第二抵抗値における累積使用期間である第二累積使用期間を取得する。つまり、期間取得部122は、関係式取得部110が取得した関係式を用いて、抵抗値取得部121が取得した第二抵抗値における累積使用期間を算出することで、上記の第二時点における累積使用期間である当該第二累積使用期間を取得する。
【0053】
なお、期間取得部122は、記憶部130に記憶されている蓄電素子データ132から、第一抵抗値及び第二抵抗値を読み出して、当該関係式を用いて第一累積使用期間及び第二累積使用期間を算出することで取得する。そして、期間取得部122は、取得した第一累積使用期間及び第二累積使用期間を当該蓄電素子データ132に記憶させる。
【0054】
残存寿命算出部123は、期間取得部122が取得した第二累積使用期間から第一累積使用期間を差し引くことで、第一時点からの蓄電素子200の残存寿命を算出する。具体的には、残存寿命算出部123は、記憶部130に記憶されている蓄電素子データ132から、第一累積使用期間及び第二累積使用期間を読み出して、当該残存寿命を算出する。
つまり、残存寿命とは、所定の時点(第一時点)から寿命到達時点(第二時点)までの蓄電素子200の使用可能な累積使用期間である。
【0055】
図3は、本発明の実施の形態に係る蓄電素子データ132の一例を示す図である。
【0056】
蓄電素子データ132は、ある時点での蓄電素子200の抵抗値と、当該ある時点での蓄電素子200の累積使用期間を示すデータの集まりである。つまり、同図に示すように、蓄電素子データ132は、「抵抗値」と「累積使用期間」とが対応付けられたデータテーブルである。そして、「抵抗値」には、第一時点または第二時点などのある時点での蓄電素子200の抵抗値を示す値が記憶される。また、「累積使用期間」には、当該ある時点での蓄電素子200の累積使用期間を示す値が記憶される。
【0057】
次に、関係式取得部110が取得する関係式について、詳細に説明する。
【0058】
図4は、本発明の実施の形態に係る関係式取得部110が取得する関係式を説明するための図である。具体的には、同図は、蓄電素子200の抵抗値と累積使用期間との関係を示すグラフである。
【0059】
また、
図5A及び
図5Bは、本発明の実施の形態に係る関係式取得部110が取得する関係式を得るのに必要な期間を説明するための図である。具体的には、これらの図は、当該関係式を得ることができない関係式非取得期間と、当該関係式を得ることができる関係式取得期間とを示すグラフである。なお、
図5Bは、
図5Aのグラフの抵抗値を累積使用期間で一回微分した値を縦軸にして示したグラフである。
【0060】
図4に示すように、関係式取得部110が取得する関係式は、以下の実験を行うことで、取得することができる。具体的には、繰り返し使用されることが想定される使用条件(電流値は規定)において、ある劣化状態に至るまで(例えば、同図のt
0〜t
1の期間)の直流抵抗あるいは交流抵抗の抵抗値Rの推移(R
0〜R
1)から、三次関数を含む多項式R=f(t)を算出する。
【0061】
例えば、0、100、200及び300サイクル後に直流あるいは交流抵抗測定を実施し、(抵抗値R、累積使用期間t)のデータ対を取得する。さらに、両者の関係をR=A×t
3+B×t
2+C×t+Dに代入して、定数A、B、C及びDを算出する。
【0062】
ここで、抵抗値Rの測定方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。つまり、回収した電池を25℃で少なくとも3時間放置後、電池定格容量の0.05CAで定電流放電(残存放電)を、SOC(State Of Charge:充電状態)が0%になるまで行う。
【0063】
そして、直流抵抗の抵抗値Rを取得する方法としては限定されるものではないが、例えば、0.2CAで定電流定電圧充電をSOCが50%になるまで合計8時間行った後、0.2、0.5、1CAなど少なくとも3点以上の放電電流の10秒目電圧(V)をそれぞれの放電電流(I)に対してプロットし、それらの傾きが直線性を示すことを確認して、そのV−Iプロットの傾きから直流抵抗の抵抗値Rを取得する方法等を例示できる。
【0064】
また、交流抵抗の抵抗値Rを取得する場合には、交流インピーダンス測定器を用いて、例えば1kHzの電池の内部インピーダンス(例えばSOC:0%)を取得する。
【0065】
以上のようにして、上記の関係式として、以下の式1に示すように、抵抗値Rを累積使用期間tの三次関数を含む多項式で表した関係式を取得する。
【0066】
R=f(t)=A×t
3+B×t
2+C×t+D (式1)
【0067】
ここで、A、B、C及びDは定数である。以上により、関係式取得部110が取得する関係式として、上記の式1に示すように、蓄電素子200の使用期間の累積値である累積使用期間t経過時点での蓄電素子200の直流抵抗または交流抵抗の抵抗値Rが、累積使用期間tの三次関数を含む多項式で示される関係式を得ることができる。
【0068】
このように、上記の式1で示されるグラフは、電池の寿命末期において累積使用期間tの経過に伴って急激に抵抗値Rが増加するグラフであり、電池の寿命末期において加速度的に抵抗値Rが増加する電池の劣化状態を正確に表現することができている。なお、電池の寿命末期とは、例えば、電池の内部抵抗が初期の3倍以上に増加した場合を指す。
【0069】
そして、上記の式1に示された関係式は、蓄電素子200の種類ごとに、事前に上記のような実験によって導出され、記憶部130の関係式データ131に事前に記憶される。
なお、上記の式1における定数A、B、C及びDは、蓄電素子200の種類ごとに算出される。
【0070】
ここで、
図5Aに示すように、累積使用期間がt
0〜t
Zの期間においては、累積使用期間に対する抵抗値の変化が上に凸の関数(凹関数)のグラフとなっているため、当該関数のグラフのみからは、三次関数を得ることができない。この三次関数を得ることができない累積使用期間t
0〜t
Zを、関係式非取得期間とする。
【0071】
つまり、
図5Bに示すように、関係式非取得期間は、抵抗値を累積使用期間で一回微分した値の累積使用期間に対する変化が減少している(接線の傾きが負になる)場合の期間であり、さらに具体的には、抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が負の値になる場合の期間である。
【0072】
ここで、
図5Bにおいて、抵抗値を累積使用期間で一回微分した値を、累積使用期間t
a〜t
bの期間における抵抗値の変化量として算出して、横軸の累積使用期間を、t
a〜t
bの平均値とすることで、簡易的にグラフを生成することができる。
【0073】
また、累積使用期間がt
0〜t
1の期間においては、t
Z〜t
1の期間において、累積使用期間に対する抵抗値の変化が下に凸の関数(凸関数)のグラフとなっているため、当該関数のグラフから、三次関数を得ることができる。この三次関数を得ることができる累積使用期間t
0〜t
1を、関係式取得期間とする。
【0074】
つまり、関係式取得期間は、抵抗値を累積使用期間で一回微分した値の累積使用期間に対する変化が増加している(接線の傾きが正になる)場合の期間であり、さらに具体的には、抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が正の値になる場合の期間である。
【0075】
以上のように、関係式取得部110は、当該関係式において抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が正の値になる場合の累積使用期間を関係式取得期間とし、当該関係式取得期間経過時点までの抵抗値と累積使用期間との関係から得られる当該関係式を取得する。
【0076】
なお、抵抗値を累積使用期間で二回微分した値として、上述のように、累積使用期間t
a〜t
bの平均値を用いて簡易的に算出された、当該二回微分に近似した値を用いてもよい。
【0077】
ここで、関係式非取得期間においては、例えば、ルート則や直線則などの既知の方法により、累積使用期間に対する抵抗値を予測することができる。このため、当該既知の方法によって算出された関係式が記憶部130の関係式データ131に記憶されており、関係式取得部110は、関係式非取得期間においては当該関係式を取得することにしてもよい。
【0078】
次に、寿命推定装置100が蓄電素子200の残存寿命を推定する処理について、説明する。
【0079】
図6及び
図7は、本発明の実施の形態に係る寿命推定装置100が蓄電素子200の残存寿命を推定する処理の一例を示すフローチャートである。
【0080】
まず、
図6に示すように、関係式取得部110は、残存寿命を推定する蓄電素子200の種類に応じた、上記の式1に示す関係式を取得する(S102)。具体的には、関係式取得部110は、記憶部130に記憶されている関係式データ131を参照して、当該蓄電素子200の種類に応じた関係式を取得する。なお、関係式取得期間経過時点までの抵抗値と累積使用期間との関係から得られた関係式が、予め関係式データ131に書き込まれている。
【0081】
つまり、例えば、関係式非取得期間においてはルート則や直線則などの既知の方法によって算出された関係式が予め関係式データ131に書き込まれており、関係式非取得期間経過後の関係式取得期間においては上記の式1の三次関数が予め関係式データ131に書き込まれている。そして、関係式取得部110は、関係式非取得期間においては当該既知の方法による関係式を取得し、関係式非取得期間経過後の関係式取得期間においては上記の式1の三次関数を取得する。
【0082】
そして、残存寿命推定部120は、関係式取得部110が取得した関係式を用いて、蓄電素子200の残存寿命を推定する(S104)。以下に、残存寿命推定部120が当該残存寿命を推定する処理を詳細に説明する。
図7は、本発明の実施の形態に係る残存寿命推定部120が残存寿命を推定する処理(
図6のS104)の一例を示すフローチャートである。
【0083】
まず、
図7に示すように、抵抗値取得部121は、第一時点での蓄電素子200の第一抵抗値を取得する(S202)。具体的には、
図4に示すように、抵抗値取得部121は、第一時点における蓄電素子200の第一抵抗値R
1を計測することで、第一抵抗値R
1を取得する。なお、抵抗値取得部121は、ユーザによる入力など外部から、第一抵抗値R
1を取得することにしてもよい。そして、抵抗値取得部121は、取得した第一抵抗値R
1を記憶部130の蓄電素子データ132に記憶させる。
【0084】
そして、
図7に戻り、期間取得部122は、上記の関係式から得られる第一抵抗値における累積使用期間である第一累積使用期間を取得する。具体的には、
図4に示すように、期間取得部122は、関係式取得部110が取得した関係式(
図4のグラフ)に、抵抗値取得部121が取得した第一抵抗値R
1を代入することで、第一累積使用期間t
1を算出する。例えば、期間取得部122は、上記の式1で示される関係式から、三次関数を含む多項式を用いた関数式R=f(t)を用いて、第一累積使用期間t
1を算出する。
【0085】
なお、期間取得部122は、記憶部130に記憶されている蓄電素子データ132から第一抵抗値R
1を読み出して、当該関係式を用いて第一累積使用期間t
1を算出し、第一累積使用期間t
1を蓄電素子データ132に記憶させる。
【0086】
そして、
図7に戻り、抵抗値取得部121は、蓄電素子200の第二時点(寿命到達時点)での蓄電素子200の第二抵抗値を取得する(S206)。具体的には、
図4に示すように、抵抗値取得部121は、ユーザからの入力などによって、蓄電素子200の寿命到達時点での抵抗値としてユーザが決定した第二抵抗値R
2を取得する。なお、蓄電素子200の寿命到達時点とは、例えば、蓄電素子200の内部抵抗が初期の3倍以上になる場合を指す。そして、抵抗値取得部121は、取得した第二抵抗値R
2を記憶部130の蓄電素子データ132に記憶させる。
【0087】
なお、第二抵抗値R
2は、予め定められ記憶部130に記憶されていることとして、抵抗値取得部121は、記憶部130から第二抵抗値R
2を取得することにしてもよい。また、抵抗値取得部121は、所定の規則に従って第二抵抗値R
2を算出することで、第二抵抗値R
2を取得することにしてもよい。
【0088】
そして、
図7に戻り、期間取得部122は、上記の関係式から得られる第二抵抗値における累積使用期間である第二累積使用期間を取得する(S208)。具体的には、
図4に示すように、期間取得部122は、関係式取得部110が取得した関係式(
図4のグラフ)に、抵抗値取得部121が取得した第二抵抗値R
2を代入することで、第二累積使用期間t
2を算出する。例えば、期間取得部122は、第一累積使用期間t
1の算出と同様に、t
2=f
−1(R
2)により第二累積使用期間t
2を算出する。
【0089】
なお、期間取得部122は、記憶部130に記憶されている蓄電素子データ132から第二抵抗値R
2を読み出して、当該関係式を用いて第二累積使用期間t
2を算出し、第二累積使用期間t
2を蓄電素子データ132に記憶させる。なお、第二累積使用期間t
2は蓄電素子データ132に事前に記憶されており、期間取得部122は、蓄電素子データ132から第二累積使用期間t
2を取得することにしてもよい。
【0090】
そして、
図7に戻り、残存寿命算出部123は、第二累積使用期間から第一累積使用期間を差し引くことで、第一時点からの蓄電素子200の残存寿命を算出する(S210)。具体的には、
図4に示すように、残存寿命算出部123は、記憶部130に記憶されている蓄電素子データ132から、第一累積使用期間t
1及び第二累積使用期間t
2を読み出して、残存寿命T(=t
2−t
1)を算出する。
【0091】
以上により、寿命推定装置100が蓄電素子200の残存寿命を推定する処理は、終了する。
【0092】
次に、本発明の実施の形態に係る寿命推定装置100が奏する効果について説明する。
具体的には、寿命推定装置100が蓄電素子200の残存寿命を正確に推定することができることについて、説明する。
【0093】
以下の具体例において用いたリチウムイオン二次電池は、正極、負極及び非水電解質を備えている。上記正極は、正極集電体であるアルミニウム箔上に正極合剤が形成されてなる。上記正極合剤は、正極活物質と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンと、導電材としてのアセチレンブラックを含む。上記正極活物質は、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2で表される層状構造のリチウム遷移金属酸化物とスピネル型リチウムマンガン酸化物との混合物である。上記負極は、負極集電体である銅箔上に負極合剤が形成されてなる。上記負極合剤は、負極活物質である黒鉛質炭素材料と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを含む。
【0094】
なお、上記正極活物質における層状構造のリチウム遷移金属酸化物とスピネル型リチウムマンガン酸化物との混合比率は特に限定されず、どのような比率で混合しても同様の結果が得られる。
【0095】
また、45℃、1Cサイクル試験においては、充電は、45℃、電流1CmA(=650mA)、電圧4.1V、充電時間3時間の定電流定電圧充電とし、放電は、45℃、電流1CmA(=650mA)、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。なお、充電と放電の間、及び、放電と充電の間にはそれぞれ10分間の休止時間を設けた。休止時間は電池を開回路状態とした。即ち、充電、休止、放電、休止の4工程を1サイクルとする。
【0096】
また、容量確認試験時には、充電は、25℃、電流1CmA(=650mA)、電圧4.1V、充電時間3時間の定電流定電圧充電とし、放電は、25℃、電流1CmA(=650mA)、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。なお、充電と放電の間、及び、放電と充電の間にはそれぞれ10分間の休止時間を設けた。
【0097】
図8A〜
図11は、本発明の実施の形態に係る寿命推定装置100が奏する効果を説明するための図である。
【0098】
まず、
図8A〜
図9について、説明する。
図8A〜
図9は、抵抗値Rが直流抵抗の場合の寿命推定装置100が奏する効果を説明する図である。具体的には、
図8Aは、本発明の実施の形態に係る寿命推定装置100が奏する効果を、直流抵抗とサイクル数とのグラフを用いて示す図である。また、
図8Bは、本発明の実施の形態に係る関係式取得部110が取得する関係式における関係式取得期間を示す図である。また、
図9は、本発明の実施の形態に係る寿命推定装置100が奏する効果を、比較例との比較により示す図である。
【0099】
図8Aに示すように、対象の電池について、45℃、1Cサイクル試験を実施し、上記の式1に示す関係式を算出した。具体的には、0サイクル(同図のt
0)〜700サイクル(同図のt
1)の直流抵抗の抵抗値Rの推移(R
0〜R
1)から、三次関数を含む多項式で示される関係式R=f(t)を算出した。
【0100】
つまり、
図8Bに示すように、累積使用期間t
1(700サイクル)において、抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が正の値になる(同図の接線の傾きが正になる)。このため、累積使用期間t
1(700サイクル)が関係式取得期間であり、当該関係式取得期間経過時点まで(t
0〜t
1:0サイクル〜700サイクル)の抵抗値と累積使用期間との関係から、当該関係式を算出した。
【0101】
そして、この結果、
図9に示すように、関係式R=4.46×10
−8×t
3−6.95×10
−5×t
2+0.119×t+118.8を得た。
【0102】
ここで、t
1=700サイクルの場合に、R
1=184.1mOhmであったため、第一時点での電池の第一抵抗値をR
1=184.1mOhmとし、第一累積使用期間をt
1=700サイクルとする。また、第二時点(寿命到達時点)での電池の第二抵抗値をR
2=424.4mOhmとして、第二累積使用期間t
2をt
2=f
−1(R
2)により算出する。この結果、第二累積使用期間t
2=1970サイクルと算出された。
【0103】
これらにより、残存寿命Tは、T=t
2−t
1=1270サイクルと算出される。ここで、実測値は1300サイクルであったため、三次関数を含む多項式で示される関係式R=f(t)を用いて算出された残存寿命Tは、実測値によく一致した。
【0104】
次に、比較例として、従来用いられてきた方法での残存寿命予測を実施した。具体的には、上記の0サイクル〜700サイクルの抵抗値Rの結果をもとに、抵抗値Rとサイクル数との関係が、(1)直線則、(2)ルート則、(3)1.52次則のそれぞれであると推定し、予測式を求めた。それぞれの予測式は、以下の通りである。
【0105】
(1)直線則
R=0.0962×t+117.9
(2)ルート則
R=3.13×t
1/2+102.7
(3)1.52次則
R=3.85×10
−3×t
1.52+121.5
【0106】
そして、上記の三次関数を含む多項式と同様に、t
1=700サイクルとし、R
2=424.4mOhmに達したときを寿命としてt
2を算出することで、残存寿命T=t
2−t
1を算出した。当該残存寿命Tの算出結果は、(1)直線則、(2)ルート則、(3)1.52次則について、それぞれ(1)2486サイクル、(2)9864サイクル、(3)963サイクルであった。
【0107】
これにより、これらの残存寿命Tと、実測値である1300サイクルとの差が(1)直線則、(2)ルート則、(3)1.52次則について、それぞれ(1)+1186サイクル、(2)+8564サイクル、(3)−337サイクルとなった。このように、上記実施の形態に係る寿命推定装置100は、従来用いられてきた方法と比べて、非常に高い精度で残存寿命を推定することができた。
【0108】
次に、
図10A〜
図11について、説明する。
図10A〜
図11は、抵抗値Rが交流抵抗の場合の寿命推定装置100が奏する効果を説明する図である。具体的には、
図10Aは、本発明の実施の形態に係る寿命推定装置100が奏する効果を、交流抵抗とサイクル数とのグラフを用いて示す図である。また、
図10Bは、本発明の実施の形態に係る関係式取得部110が取得する関係式における関係式取得期間を示す図である。また、
図11は、本発明の実施の形態に係る寿命推定装置100が奏する効果を、比較例との比較により示す図である。
【0109】
図10Aに示すように、対象の電池について、45℃、1Cサイクル試験を実施し、上記の式1に示す関係式を算出した。具体的には、0サイクル(同図のt
0)〜700サイクル(同図のt
1)の直流抵抗の抵抗値Rの推移(R
0〜R
1)から、三次関数を含む多項式で示される関係式R=f(t)を算出した。
【0110】
つまり、
図10Bに示すように、累積使用期間t
1(700サイクル)において、抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が正の値になる(同図の接線の傾きが正になる)。このため、累積使用期間t
1(700サイクル)が関係式取得期間であり、当該関係式取得期間経過時点まで(t
0〜t
1:0サイクル〜700サイクル)の抵抗値と累積使用期間との関係から、当該関係式を算出した。
【0111】
そして、この結果、
図11に示すように、関係式R=5.79×10
−9×t
3+1.41×10
−5×t
2+0.0436×t+90.4を得た。
【0112】
ここで、t
1=700サイクルの場合に、R
1=129.8mOhmであったため、第一時点での電池の第一抵抗値をR
1=129.8mOhmとし、第一累積使用期間をt
1=700サイクルとする。また、第二時点(寿命到達時点)での電池の第二抵抗値をR
2=291.2mOhmとして、第二累積使用期間t
2をt
2=f
−1(R
2)により算出する。この結果、第二累積使用期間t
2=2062サイクルと算出された。
【0113】
これらにより、残存寿命Tは、T=t
2−t
1=1362サイクルと算出される。ここで、実測値は1300サイクルであったため、三次関数を含む多項式で示される関係式R=f(t)を用いて算出された残存寿命Tは、実測値によく一致した。
【0114】
次に、比較例として、従来用いられてきた方法での残存寿命予測を実施した。具体的には、上記の0サイクル〜700サイクルの抵抗値Rの結果をもとに、抵抗値Rとサイクル数との関係が、(1)直線則、(2)ルート則、(3)1.52次則のそれぞれであると推定し、予測式を求めた。それぞれの予測式は、以下の通りである。
【0115】
(1)直線則
R=0.0868×t+70.7
(2)ルート則
R=2.94×t
1/2+55.1
(3)1.52次則
R=2.89×10
−3×t
1.52+75.7
【0116】
そして、上記の三次関数を含む多項式と同様に、t
1=700サイクルとし、R
2=291.2mOhmに達したときを寿命としてt
2を算出することで、残存寿命T=t
2−t
1を算出した。当該残存寿命Tの算出結果は、(1)直線則、(2)ルート則、(3)1.52次則について、それぞれ(1)1840サイクル、(2)5749サイクル、(3)906サイクルであった。
【0117】
これにより、これらの残存寿命Tと、実測値である1300サイクルとの差が(1)直線則、(2)ルート則、(3)1.52次則について、それぞれ(1)+540サイクル、(2)+4449サイクル、(3)−394サイクルとなった。このように、上記実施の形態に係る寿命推定装置100は、従来用いられてきた方法と比べて、非常に高い精度で残存寿命を推定することができた。
【0118】
以上のように、本発明の実施の形態に係る寿命推定装置100によれば、累積使用期間経過時点での蓄電素子200の直流抵抗または交流抵抗の抵抗値が、累積使用期間の三次以上の関数で示される関係式を取得し、当該関係式を用いて、蓄電素子200の残存寿命を推定する。ここで、当該抵抗値は、累積使用期間の経過とともに加速度的に値が増加する。そして、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、当該抵抗値の経時変化は、累積使用期間を変数とする三次以上の関数で表されることを見出した。このため、寿命推定装置100は、上記の関係式を用いることで、当該抵抗値と累積使用期間との関係を正確に表現することができるため、蓄電素子200の残存寿命を正確に推定することができる。
【0119】
また、寿命推定装置100は、抵抗値が、累積使用期間の三次関数を含む多項式で示される関係式を取得する。ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、当該抵抗値が累積使用期間の三次関数を含む多項式で示される関係式が、当該抵抗値の経時変化を精度良く表現していることを見出した。このため、寿命推定装置100は、上記の関係式を用いることで、当該抵抗値と累積使用期間との関係を正確に表現することができるため、蓄電素子200の残存寿命を正確に推定することができる。
【0120】
また、抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が負の値になる場合には、累積使用期間に対する抵抗値のグラフは、上に凸の関数(凹関数)で表現されるため、累積使用期間の経過とともに加速度的に抵抗値が増加するような状態を予測することはできない。つまり、寿命推定装置100は、抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が正の値になる場合の累積使用期間経過時点までの抵抗値と累積使用期間との関係から得られる関係式を取得することで、累積使用期間の経過とともに加速度的に抵抗値が増加するような状態を予測することができる。このため、寿命推定装置100は、当該関係式を用いることで、当該抵抗値と累積使用期間との関係を正確に表現することができるため、蓄電素子200の残存寿命を正確に推定することができる。
【0121】
また、寿命推定装置100は、所定の時点での第一抵抗値と蓄電素子200の寿命到達時点での第二抵抗値とを取得して、上記の関係式から得られる第一抵抗値における第一累積使用期間と第二抵抗値における第二累積使用期間とを取得し、第二累積使用期間から第一累積使用期間を差し引くことで、所定の時点からの蓄電素子200の残存寿命を算出する。このようにして、寿命推定装置100は、蓄電素子200の残存寿命を正確に推定することができる。
【0122】
また、蓄電素子200は、正極活物質として層状構造のリチウム遷移金属酸化物を含むリチウムイオン二次電池であるのが好ましい。ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、蓄電素子200が当該リチウムイオン二次電池の場合に、上記の関係式によって劣化状態を精度良く表現できることを見出した。このため、寿命推定装置100は、当該リチウムイオン二次電池の残存寿命を正確に推定することができる。
【0123】
なお、寿命推定装置100は、特に、蓄電素子200の寿命末期における残存寿命を精度良く推定することができる。これにより、例えば電気自動車など移動体用のリチウムイオン二次電池の交換時期のタイミングを正確に見極めることができる。また、蓄電素子200において、推定される寿命に応じて充放電制御を行うことで、容量劣化を抑制することができるため、寿命延命措置をとることができる。
【0124】
(変形例1)
次に、本発明の実施の形態の変形例1について説明する。上記実施の形態では、関係式取得部110は、記憶部130に記憶されている関係式データ131を参照して、当該蓄電素子200の種類に応じた関係式を取得することとした。しかし、本変形例では、関係式取得部は、蓄電素子200の抵抗値の経時変化を解析することで、当該関係式を算出して取得する。
【0125】
図12は、本発明の実施の形態の変形例1に係る寿命推定装置100aの構成を示すブロック図である。
【0126】
同図に示すように、蓄電システム10aに備えられた寿命推定装置100aの関係式取得部110aは、関係式を算出する関係式算出部111を有している。関係式算出部111は、関係式取得期間経過時点までの抵抗値と累積使用期間との関係から関係式を算出する。ここで、関係式取得期間とは、
図5A及び
図5Bにおいて説明したように、抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が正の値になる場合の累積使用期間である。
【0127】
つまり、関係式算出部111は、
図5A及び
図5Bに示したように、抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が正の値になる場合の累積使用期間である関係式取得期間経過時点までの抵抗値と累積使用期間との関係から、関係式を算出する。そして、関係式取得部110aは、関係式算出部111が算出した関係式を取得する。
【0128】
なお、寿命推定装置100aが有するその他の構成要素については、上記実施の形態における寿命推定装置100が有する構成要素と同様の機能を有するため、詳細な説明は省略する。
【0129】
次に、寿命推定装置100aの関係式取得部110aが関係式を取得する処理について、説明する。なお、その他の処理については、上記実施の形態における寿命推定装置100が行う処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0130】
図13は、本発明の実施の形態の変形例1に係る関係式取得部110aが関係式を取得する処理の一例を示すフローチャートである。具体的には、同図は、
図6に示された寿命推定装置が蓄電素子200の残存寿命を推定する処理における、関係式取得部が関係式を取得する処理(
図6のS102)を示している。
【0131】
図13に示すように、まず、関係式算出部111は、蓄電素子200の累積使用期間及び抵抗値を取得する(S302)。具体的には、関係式算出部111は、蓄電素子200から、蓄電素子200の累積使用期間及び抵抗値を取得していく。そして、関係式算出部111は、取得した蓄電素子200の累積使用期間及び抵抗値を、蓄電素子データ132に書き込んでいく。
【0132】
そして、関係式算出部111は、取得した蓄電素子200の累積使用期間及び抵抗値を用いて、当該抵抗値を累積使用期間で二回微分する(S304)。つまり、関係式算出部111は、蓄電素子データ132から蓄電素子200の累積使用期間及び抵抗値を読み出して、抵抗値を累積使用期間で二回微分する。なお、この二回微分する計算方法については特に限定されず、
図5Bで説明したように、関係式算出部111は、累積使用期間の平均値を用いて簡易的に二回微分を行うことにしてもよい。
【0133】
そして、関係式算出部111は、当該抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が正の値か否かを判断する(S306)。関係式算出部111は、当該抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が正の値であると判断した場合には(S306でYES)、当該累積使用期間を関係式取得期間として取得する(S308)。
【0134】
そして、関係式算出部111は、当該関係式取得期間経過時点までの抵抗値と累積使用期間との関係から、関係式を算出する(S310)。つまり、関係式算出部111は、当該抵抗値が累積使用期間の三次以上の関数(具体的には三次関数を含む多項式)で示されるように、関係式を算出する。これにより、関係式取得部110aは、関係式を取得することができる。
【0135】
なお、関係式算出部111は、当該抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が正の値ではないと判断した場合には(S306でNO)、関係式を算出することなく終了し、上記の処理(S302〜S310)を繰り返す。
【0136】
このように、関係式取得部110aは、関係式取得期間経過時点までの抵抗値と累積使用期間との関係から関係式を算出することで、当該関係式を取得する。そして、関係式取得部110aは、取得した関係式を関係式データ131に書き込むことで、記憶させる。
【0137】
以上のように、本発明の実施の形態の変形例1に係る寿命推定装置100aによれば、抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が正の値になる場合の累積使用期間経過時点までの抵抗値と累積使用期間との関係から関係式を算出する。これにより、寿命推定装置100aは、当該関係式を記憶部130に事前に記憶させておくことなく、累積使用期間の経過とともに加速度的に抵抗値が増加するような状態を予測可能な関係式を取得することができる。このため、寿命推定装置100aは、当該関係式を用いることで、当該抵抗値と累積使用期間との関係を正確に表現することができるため、蓄電素子の残存寿命を正確に推定することができる。
【0138】
なお、関係式非取得期間においては、例えば、ルート則や直線則などの既知の方法により、累積使用期間に対する抵抗値を予測することができる。このため、関係式取得部110aは、関係式非取得期間においては、当該既知の方法によってルート則や直線則などの関係式を算出することにより、当該関係式を取得することにしてもよい。
【0139】
(変形例2)
次に、本発明の実施の形態の変形例2について説明する。上記実施の形態では、関係式取得部110は、蓄電素子200の抵抗値が累積使用期間の三次関数を含む多項式で示される関係式を取得することとした。しかし、本変形例では、関係式取得部110は、蓄電素子200の抵抗値が累積使用期間の指数関数の項を含む式で示される関係式を取得する。
【0140】
つまり、本変形例における寿命推定装置100は、
図2に示された上記実施の形態における寿命推定装置100と同様の構成を有するが、関係式データ131に書き込まれて関係式取得部110に取得される関係式が異なる。つまり、本変形例における寿命推定装置100が有する各構成要素は、上記実施の形態における寿命推定装置100が有する各構成要素と、当該関係式が異なる点以外では同様の機能を有するため、当該各構成要素の詳細な説明は、省略する。
【0141】
ここで、関係式取得部110が取得する関係式について、詳細に説明する。
【0142】
関係式取得部110が取得する関係式は、以下の実験を行うことで、取得することができる。具体的には、繰返し使用されることが想定される使用条件(電流値は規定)において、ある劣化状態に至るまで(例えば、
図4のt
0〜t
1の期間)の直流抵抗あるいは交流抵抗の抵抗値Rの推移から、指数相関関数式R=f(t)を算出する。
【0143】
例えば、0、100、200及び300サイクル後に直流あるいは交流抵抗測定を実施し、(抵抗値R、累積使用期間t)のデータ対を取得する。さらに、両者の関係をLn(R)=a×t+bに代入して、定数a及びbを算出する。なお、抵抗値Rの測定方法としては、上記の
図4において説明した方法と同様の測定方法を用いることができる。
【0144】
以上のようにして、上記の関係式として、以下の式2に示すように、抵抗値Rを累積使用期間tの指数関数で表した関係式を取得する。
【0145】
R=f(t)=c×exp(a×t) (式2)
【0146】
ここで、a及びcは定数である。以上により、関係式取得部110が取得する関係式として、上記の式2に示すように、蓄電素子200の使用期間の累積値である累積使用期間t経過時点での蓄電素子200の直流抵抗または交流抵抗の抵抗値Rが、累積使用期間tに所定の定数aを乗じた値を変数とする指数関数に比例する関係式を得ることができる。
【0147】
このように、上記の式2で示されるグラフは、電池の寿命末期において累積使用期間tの経過に伴って急激に抵抗値Rが増加するグラフであり、電池の寿命末期において加速度的に抵抗値Rが増加する電池の劣化状態を正確に表現することができている。なお、電池の寿命末期とは、例えば、電池の内部抵抗が初期の3倍以上に増加した場合を指す。
【0148】
そして、上記の式2に示された関係式は、蓄電素子200の種類ごとに、事前に上記のような実験によって導出され、記憶部130の関係式データ131に事前に記憶される。
なお、上記の式2における定数a及びcは、蓄電素子200の種類ごとに算出される。
【0149】
そして、寿命推定装置100が蓄電素子200の残存寿命を推定する処理においては、関係式取得部110は、上記の式2に示す関係式を取得する(
図6のS102)。つまり、関係式取得部110は、蓄電素子200の抵抗値が、累積使用期間に所定の定数を乗じた値を変数とする指数関数に比例する関係式を取得する。具体的には、関係式取得部110は、記憶部130に記憶されている関係式データ131を参照して、当該蓄電素子200の種類に応じた関係式を取得する。
【0150】
なお、関係式取得部110は、上記変形例1における関係式取得部110aのように、蓄電素子200の抵抗値の経時変化を解析することで、当該関係式を算出して取得することにしてもよい。つまり、関係式取得部110は、当該抵抗値が、当該累積使用期間に所定の定数を乗じた値を変数とする指数関数に比例する式で示されるように関係式を算出することで、当該関係式を取得することにしてもよい。
【0151】
なお、本変形例においては、関係式取得部110は、上記実施の形態のような関係式非取得期間は存在しないため、関係式非取得期間において異なる関係式を取得するような必要はない。
【0152】
また、残存寿命推定部120は、関係式取得部110が取得した関係式を用いて、蓄電素子200の残存寿命を推定する(
図6のS104)。この残存寿命推定部120が当該残存寿命を推定する処理は、
図7に示された上記実施の形態における処理と同様である。
【0153】
次に、本変形例に係る寿命推定装置100が奏する効果について説明する。具体的には、寿命推定装置100が蓄電素子200の残存寿命を正確に推定することができることについて、説明する。
【0154】
以下の具体例において用いたリチウムイオン二次電池(電池A、電池B)は、正極、負極及び非水電解質を備えている。上記正極は、正極集電体であるアルミニウム箔上に正極合剤が形成されてなる。上記正極合剤は、正極活物質と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンと、導電材としてのアセチレンブラックを含む。上記正極活物質は、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2で表される層状構造のリチウム遷移金属酸化物とスピネル型リチウムマンガン酸化物との混合物である。上記負極は、負極集電体である銅箔上に負極合剤が形成されてなる。上記負極合剤は、負極活物質である黒鉛質炭素材料と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを含む。なお、電池Aと電池Bとは、正極活物質の粒径及び比表面積の値が異なる。
【0155】
図14〜
図17は、本発明の実施の形態の変形例2に係る寿命推定装置100が奏する効果を説明するための図である。具体的には、
図14は、蓄電素子200が電池Aであり、かつ抵抗値Rが直流抵抗の場合の寿命推定装置100が奏する効果を説明する図であり、
図15は、蓄電素子200が電池Aであり、かつ抵抗値Rが交流抵抗の場合の寿命推定装置100が奏する効果を説明する図である。また、
図16は、蓄電素子200が電池Bであり、かつ抵抗値Rが直流抵抗の場合の寿命推定装置100が奏する効果を説明する図であり、
図17は、蓄電素子200が電池Bであり、かつ抵抗値Rが交流抵抗の場合の寿命推定装置100が奏する効果を説明する図である。
【0156】
図14に示すように、電池Aについて、45℃、1Cサイクル試験を実施し、上記の式2に示す関係式を算出した。具体的には、0サイクル(同図のt
0)〜300サイクル(同図のt
1)の直流抵抗の抵抗値Rの推移から指数則の関係式R=f(t)を算出した。
この結果、関係式R=121.8×exp(6.467×10
−4×t)を得た。
【0157】
ここで、t
1=300サイクルの場合に、R
1=149.7mOhmであったため、第一時点での電池Aの第一抵抗値をR
1=149.7mOhmとし、第一累積使用期間をt
1=300サイクルとする。また、第二時点(寿命到達時点)での電池Aの第二抵抗値をR
2=424.4mOhmとして、第二累積使用期間t
2をt
2=f
−1(R
2)により算出する。この結果、第二累積使用期間t
2=1930サイクルと算出された。
【0158】
これらにより、残存寿命Tは、T=t
2−t
1=1630サイクルと算出される。ここで、実測値は1700サイクルであったため、指数則の関係式R=f(t)を用いて算出された残存寿命Tは、実測値によく一致した。
【0159】
次に、比較例として、従来用いられてきた方法での残存寿命予測を実施した。具体的には、上記の0サイクル〜300サイクルの抵抗値Rの結果をもとに、抵抗値Rとサイクル数との関係が、(1)直線則、(2)ルート則、(3)1.52次則のそれぞれであると推定し、予測式を求めた。それぞれの予測式は、以下の通りである。
【0160】
(1)直線則
R=0.121×t+115.2
(2)ルート則
R=2.19×t
1/2+110.3
(3)1.52次則
R=5.77×10
−3×t
1.52+118.5
【0161】
そして、上記の指数則と同様に、t
1=300サイクルとし、R
2=424.4mOhmに達したときを寿命としてt
2を算出することで、残存寿命T=t
2−t
1を算出した。当該残存寿命Tの算出結果は、(1)直線則、(2)ルート則、(3)1.52次則について、それぞれ(1)2243サイクル、(2)20160サイクル、(3)982サイクルであった。
【0162】
これにより、
図14の(b)に示すように、これらの残存寿命Tと、実測値である1700サイクルとの差が(1)直線則、(2)ルート則、(3)1.52次則について、それぞれ(1)+543サイクル、(2)+18460サイクル、(3)−718サイクルとなった。このように、上記変形例2に係る寿命推定装置100は、従来用いられてきた方法と比べて、非常に高い精度で残存寿命を推定することができた。
【0163】
次に、
図15に示すように、電池Aについて、45℃、1Cサイクル試験を実施し、0サイクル(同図のt
0)〜300サイクル(同図のt
1)の交流抵抗の抵抗値Rの推移から指数則の関係式R=f(t)を算出した。この結果、関係式R=83.9×exp(6.410×10
−4×t)を得た。
【0164】
ここで、t
1=300サイクルの場合に、R
1=104.9mOhmであったため、第一時点での電池Aの第一抵抗値をR
1=104.9mOhmとし、第一累積使用期間をt
1=300サイクルとする。また、第二時点(寿命到達時点)での電池Aの第二抵抗値をR
2=291.2mOhmとして、第二累積使用期間t
2をt
2=f
−1(R
2)により算出する。この結果、第二累積使用期間t
2=1941サイクルと算出された。
【0165】
これらにより、残存寿命Tは、T=t
2−t
1=1641サイクルと算出される。ここで、実測値は1700サイクルであったため、指数則の関係式R=f(t)を用いて算出された残存寿命Tは、実測値によく一致した。
【0166】
次に、比較例として、上記の(1)直線則、(2)ルート則、(3)1.52次則のそれぞれについて、予測式を求めた。それぞれの予測式は、以下の通りである。
【0167】
(1)直線則
R=0.147×t+63.9
(2)ルート則
R=2.77×t
1/2+56.9
(3)1.52次則
R=6.87×10
−3×t
1.52+68.1
【0168】
そして、上記の指数則と同様に、t
1=300サイクルとし、R
2=291.2mOhmに達したときを寿命としてt
2を算出することで、残存寿命T=t
2−t
1を算出した。当該残存寿命Tの算出結果は、(1)直線則、(2)ルート則、(3)1.52次則について、それぞれ(1)1246サイクル、(2)6834サイクル、(3)629サイクルであり、実測値である1700サイクルとの差が、それぞれ(1)−454サイクル、(2)+5134サイクル、(3)−1071サイクルとなった。このように、上記の変形例2に係る寿命推定装置100は、従来用いられてきた方法と比べて、非常に高い精度で残存寿命を推定することができた。
【0169】
次に、
図16に示すように、電池Bについて、45℃、1Cサイクル試験を実施し、0サイクル(同図のt
0)〜300サイクル(同図のt
1)の直流抵抗の抵抗値Rの推移から指数則の関係式R=f(t)を算出した。この結果、関係式R=101.7×exp(2.875×10
−4×t)を得た。
【0170】
ここで、t
1=300サイクルの場合に、R
1=112.1mOhmであったため、第一時点での電池Bの第一抵抗値をR
1=112.1mOhmとし、第一累積使用期間をt
1=300サイクルとする。また、第二時点(寿命到達時点)での電池Bの第二抵抗値をR
2=180mOhmとして、第二累積使用期間t
2をt
2=f
−1(R
2)により算出する。この結果、第二累積使用期間t
2=1985サイクルと算出された。
【0171】
これらにより、残存寿命Tは、T=t
2−t
1=1685サイクルと算出される。ここで、実測値は1700サイクルであったため、指数則の関係式R=f(t)を用いて算出された残存寿命Tは、実測値によく一致した。
【0172】
次に、比較例として、上記の(1)直線則、(2)ルート則、(3)1.52次則のそれぞれについて、予測式を求めた。それぞれの予測式は、以下の通りである。
【0173】
(1)直線則
R=0.047×t+100.0
(2)ルート則
R=0.902×t
1/2+97.5
(3)1.52次則
R=2.11×10
−3×t
1.52+101.4
【0174】
そして、上記の指数則と同様に、t
1=300サイクルとし、R
2=180mOhmに達したときを寿命としてt
2を算出することで、残存寿命T=t
2−t
1を算出した。当該残存寿命Tの算出結果は、(1)直線則、(2)ルート則、(3)1.52次則について、それぞれ(1)1402サイクル、(2)8064サイクル、(3)717サイクルであり、実測値である1700サイクルとの差が、それぞれ(1)−298サイクル、(2)+6364サイクル、(3)−983サイクルとなった。このように、上記の変形例2に係る寿命推定装置100は、従来用いられてきた方法と比べて、非常に高い精度で残存寿命を推定することができた。
【0175】
次に、
図17に示すように、電池Bについて、45℃、1Cサイクル試験を実施し、0サイクル(同図のt
0)〜300サイクル(同図のt
1)の交流抵抗の抵抗値Rの推移から指数則の関係式R=f(t)を算出した。この結果、関係式R=59.0×exp(2.811×10
−4×t)を得た。
【0176】
ここで、t
1=300サイクルの場合に、R
1=65.5mOhmであったため、第一時点での電池Bの第一抵抗値をR
1=65.5mOhmとし、第一累積使用期間をt
1=300サイクルとする。また、第二時点(寿命到達時点)での電池Bの第二抵抗値をR
2=100.4mOhmとして、第二累積使用期間t
2をt
2=f
−1(R
2)により算出する。この結果、第二累積使用期間t
2=1891サイクルと算出された。
【0177】
これらにより、残存寿命Tは、T=t
2−t
1=1591サイクルと算出される。ここで、実測値は1700サイクルであったため、指数則の関係式R=f(t)を用いて算出された残存寿命Tは、実測値によく一致した。
【0178】
次に、比較例として、上記の(1)直線則、(2)ルート則、(3)1.52次則のそれぞれについて、予測式を求めた。それぞれの予測式は、以下の通りである。
【0179】
(1)直線則
R=0.05×t+52.2
(2)ルート則
R=0.811×t
1/2+52.2
(3)1.52次則
R=2.27×10
−3×t
1.52+53.8
【0180】
そして、上記の指数則と同様に、t
1=300サイクルとし、R
2=100.4mOhmに達したときを寿命としてt
2を算出することで、残存寿命T=t
2−t
1を算出した。当該残存寿命Tの算出結果は、(1)直線則、(2)ルート則、(3)1.52次則について、それぞれ(1)664サイクル、(2)3232サイクル、(3)387サイクルであり、実測値である1700サイクルとの差が、それぞれ(1)−1036サイクル、(2)+1532サイクル、(3)−1313サイクルとなった。このように、上記の変形例2に係る寿命推定装置100は、従来用いられてきた方法と比べて、非常に高い精度で残存寿命を推定することができた。
【0181】
以上のように、本発明の実施の形態の変形例2に係る寿命推定装置100によれば、抵抗値が、累積使用期間に所定の定数を乗じた値を変数とする指数関数に比例する関係式を取得する。ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、当該抵抗値が累積使用期間に所定の定数を乗じた値を変数とする指数関数に比例する関係式が、当該抵抗値の経時変化を精度良く表現していることを見出した。このため、寿命推定装置100は、上記の関係式を用いることで、当該抵抗値と累積使用期間との関係を正確に表現することができるため、蓄電素子200の残存寿命を正確に推定することができる。
【0182】
なお、関係式取得部110は、上記実施の形態と同様に、抵抗値を累積使用期間で二回微分した値が正の値になる場合の累積使用期間を関係式取得期間と定め、当該関係式取得期間経過時点までの抵抗値と累積使用期間との関係から得られる関係式を取得することにしてもよい。また、上記変形例1と同様に、関係式取得部110は、当該関係式取得期間経過時点までの抵抗値と累積使用期間との関係から関係式を算出することで、関係式を取得することにしてもよい。
【0183】
(変形例3)
次に、本発明の実施の形態の変形例3について説明する。上記実施の形態では、残存寿命推定部120は、関係式取得部110が取得した関係式を変更することなく用いて蓄電素子200の残存寿命を推定することとした。しかし、本変形例では、残存寿命推定部は、当該関係式を補正して、当該残存寿命を推定する。
【0184】
図18は、本発明の実施の形態の変形例3に係る寿命推定装置100bの構成を示すブロック図である。
【0185】
同図に示すように、蓄電システム10bに備えられた寿命推定装置100bの残存寿命推定部120bは、関係式取得部110が取得した関係式を補正する関係式補正部124を備えている。そして、残存寿命推定部120bは、関係式補正部124が補正した補正後の関係式を用いて、残存寿命を推定する。
【0186】
具体的には、関係式補正部124は、関係式取得部110が取得した関係式を用いて算出した蓄電素子200の累積使用期間における抵抗値と、抵抗値取得部121が取得した抵抗値との差分が所定の値を超えた場合に、関係式を算出し直す。
【0187】
例えば、関係式補正部124は、自動車等での実使用中に、累積使用期間と抵抗値に相当するデータ対を取得し、当該差分が当該所定の値を超えたか否かを判断する。そして、関係式補正部124は、当該差分が当該所定の値を超えたと判断した場合には、当該差分が当該所定の値を超えたときの累積使用期間経過時点までの抵抗値と累積使用期間との関係から、関係式を新たに算出する。
【0188】
具体的には、関係式補正部124は、当該抵抗値が累積使用期間の三次以上の関数(具体的には三次関数を含む多項式)で示されるように、関係式を算出する。そして、関係式補正部124は、算出した関係式を関係式データ131に書き込むことで、関係式を補正する。
【0189】
以上のように、本発明の実施の形態の変形例3に係る寿命推定装置100bによれば、関係式を補正して当該関係式の精度を向上させていくことで、残存寿命を正確に推定することができる。
【0190】
(変形例4)
次に、本発明の実施の形態の変形例4について説明する。上記実施の形態では、寿命推定装置100は、関係式取得部110、残存寿命推定部120及び記憶部130を備えており、残存寿命推定部120は、抵抗値取得部121、期間取得部122及び残存寿命算出部123を備えていることとした。しかし、本変形例では、寿命推定装置は、関係式取得部及び残存寿命推定部しか備えていない。
【0191】
図19は、本発明の実施の形態の変形例4に係る寿命推定装置100cの構成を示すブロック図である。つまり、同図は、寿命推定装置の最小の構成を示すブロック図である。
【0192】
同図に示すように、蓄電システム10cに備えられた寿命推定装置100cは、上記実施の形態と同様の機能を有する関係式取得部110及び残存寿命推定部120cを備えている。そして、寿命推定装置100cは、外部の記憶部130と情報をやり取りすることで、残存寿命を推定する。
【0193】
なお、残存寿命推定部120cは、関係式取得部110が取得した関係式を用いて残存寿命を推定することができればよく、上記実施の形態のように抵抗値取得部121、期間取得部122及び残存寿命算出部123を備えていることには限定されない。つまり、寿命推定装置は、少なくとも、関係式取得部及び残存寿命推定部を備えていればよい。
【0194】
以上のように、本発明の実施の形態の変形例4に係る寿命推定装置100cによっても、上記実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0195】
以上、本発明の実施の形態及びその変形例に係る寿命推定装置及び蓄電システムについて説明したが、本発明は、この実施の形態及びその変形例に限定されるものではない。つまり、今回開示された実施の形態及びその変形例は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0196】
例えば、上記実施の形態及びその変形例1、3、4では、関係式取得部は、蓄電素子200の抵抗値が累積使用期間の三次関数を含む多項式で示される関係式を取得することとした。しかし、関係式取得部は、当該抵抗値が累積使用期間の四次以上の関数であって、三次関数を含まない多項式で示される関係式を取得することにしてもよい。また、関係式取得部は、多項式でなく1項のみの関係式を取得することにしてもよい。つまり、関係式取得部は、当該抵抗値が累積使用期間の三次以上の関数で示される関係式を取得すればよい。これによっても、上記実施の形態及びその変形例と同様に、累積使用期間の経過とともに加速度的に抵抗値が増加する状態を表現することができる関係式を設定することができる。
【0197】
また、本発明に係る寿命推定装置が備える処理部は、典型的には、集積回路であるLSI(Large Scale Integration)として実現される。つまり、例えば
図20に示すように、本発明は、関係式取得部110と残存寿命推定部120とを備える集積回路101として実現される。
図20は、本発明の実施の形態に係る寿命推定装置を集積回路で実現する構成を示すブロック図である。
【0198】
なお、集積回路101が備える各処理部は、個別に1チップ化されても良いし、一部または全てを含むように1チップ化されても良い。
【0199】
ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
【0200】
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field
Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用しても良い。
【0201】
さらには、半導体技術の進歩または派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。
バイオ技術の適応等が可能性としてあり得る。
【0202】
また、本発明は、このような寿命推定装置として実現することができるだけでなく、寿命推定装置が行う特徴的な処理をステップとする寿命推定方法としても実現することができる。
【0203】
また、本発明は、寿命推定方法に含まれる特徴的な処理をコンピュータに実行させるプログラムとして実現したり、当該プログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能なCD−ROMなどの非一時的な記録媒体として実現したりすることもできる。そして、そのようなプログラムは、CD−ROM等の記録媒体及びインターネット等の伝送媒体を介して流通させることができるのは言うまでもない。
【0204】
また、上記実施の形態及び上記変形例を任意に組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。例えば、上記変形例1に、変形例3に係る変形を施したり、上記変形例2に、変形例3、4に係る変形を施したりしてもよい。