特許第6372526号(P6372526)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372526
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】粉体成形用の金型
(51)【国際特許分類】
   B30B 11/02 20060101AFI20180806BHJP
   B29C 43/36 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   B30B11/02 F
   B29C43/36
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-137320(P2016-137320)
(22)【出願日】2016年7月12日
(65)【公開番号】特開2018-8280(P2018-8280A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2017年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藺牟田 桂
(72)【発明者】
【氏名】劉 継紅
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】平川 卓
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5983998(JP,B2)
【文献】 特開2013−18243(JP,A)
【文献】 特開2006−205250(JP,A)
【文献】 特開2002−192392(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/328805(US,A1)
【文献】 特公昭54−29284(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 11/02
B29C 43/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体成形用の金型において、
貫通孔(21)を有するダイ(20)と、
前記貫通孔(21)の一端側に嵌まる第1パンチ(30)と、
平板状に形成され、前記貫通孔(21)の他端側に嵌まって、前記ダイ(20)及び前記第1パンチ(30)とともに、粉体(P)が充填されるキャビティ(50)を形成する第2パンチ(40)と、を備え、
前記第1パンチ(30)は、
前記キャビティ(50)の一面をなす平面部(31a)を有した板部材(31)と、
筒状に形成されて、一端において前記板部材(31)と接する、1つ又は複数の筒部材(32)とを備え、
前記筒部材(32)は、圧縮成形品における最大密度差が3%以内となるように大きさが設定されていることを特徴とする粉体成形用の金型。
【請求項2】
請求項1において、
前記筒部材(32)は、1つ設けられ、
前記平面部(31a)は、正方形であることを特徴とする粉体成形用の金型。
【請求項3】
請求項2において、
前記筒部材(32)は、前記平面部(31a)の面積(S0)と、該平面部(31a)における、該筒部材(32)の中立面(NP)の内側部分の面積(S1)との比が1:A(ただしAの値は0.28≦A≦0.72の範囲)となるように形成されていることを特徴とする粉体成形用の金型。
【請求項4】
請求項3において、
Aの値は、0.28≦A≦0.5の範囲であることを特徴とする粉体成形用の金型。
【請求項5】
請求項2から請求項4の何れかにおいて、
前記筒部材(32)は、中心軸(CL)が前記平面部(31a)の図心(Fc)を通るように、前記板部材(31)と接することを特徴とする粉体成形用の金型。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れかにおいて、
前記粉体(P)は、ポリテトラフルオロエチレン又はポリクロロトリフルオロエチレンを主成分とすることを特徴とする粉体成形用の金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体を成形する金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂製品の中には、粉体を金型で圧縮成形し、更に圧縮成形品を焼成することで製造されるものがある(例えば特許文献1を参照)。例えば、後述のPTFEは、粉体が金型でシート状に圧縮成形された後に焼成され、シート材として販売されたり、シート材から所望の形状の部材を切り出して使用されたりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−260191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、圧縮成形品の焼成工程では、製品に反りやクラックが発生しやすく、不良品として処分しなければならない場合がある。また、反りのあるシート材(焼成品)から部材を切り出す場合には、反りやクラックが無い部分から部材を切り出すなどの工夫が必要になり、歩留まりが悪いうえに手間もかかる。このような反りやクラックは、例えば焼成条件の調整による対策では無くしてしまうことは不可能である。
【0005】
本発明は前記の問題に着目してなされたものであり、粉体を圧縮成形し更にそれを焼成してシート状の製品を製造するに際して、該製品の反りやクラックを低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、第1の態様は、粉体成形用の金型において、
貫通孔(21)を有するダイ(20)と、
前記貫通孔(21)の一端側に嵌まる第1パンチ(30)と、
平板状に形成され、前記貫通孔(21)の他端側に嵌まって、前記ダイ(20)及び前記第1パンチ(30)とともに、粉体(P)が充填されるキャビティ(50)を形成する第2パンチ(40)と、を備え、
前記第1パンチ(30)は、
前記キャビティ(50)の一面をなす平面部(31a)を有した板部材(31)と、
筒状に形成されて、一端において前記板部材(31)と接する、1つ又は複数の筒部材(32)とを備え、
前記筒部材(32)は、圧縮成形品における最大密度差が3%以内となるように大きさが設定されていることを特徴とする。
【0007】
この構成では、筒部材(32)の大きさを前記のように設定することで、最大密度差が低減する。
【0008】
また、第2の態様は、第1の態様において、
前記筒部材(32)は、1つ設けられ、
前記平面部(31a)は、正方形であることを特徴とする。
【0009】
この構成では、正方形の製品において、製品の反りやクラックを低減することが可能になる。
【0010】
また、第3の態様は、第2の態様において、
前記筒部材(32)は、前記平面部(31a)の面積(S0)と、該平面部(31a)における、該筒部材(32)の中立面(NP)の内側部分の面積(S1)との比が1:A(ただしAの値は0.28≦A≦0.72の範囲)となるように形成されていることを特徴とする。
【0011】
この構成では、平面部(31a)の面積(S0)と、該平面部(31a)における、該筒部材(32)の中立面(NP)の内側部分の面積(S1)との比に基づいて、筒部材(32)の形状が決定される。
【0012】
また、第4の態様は、第3の態様において、
Aの値は、0.28≦A≦0.5の範囲であることを特徴とする。
【0013】
この構成では、筒部材(32)を不要に大きくすることなく、前記態様の効果を得ることが可能になる。
【0014】
また、第5の態様は、第2から第4の態様の何れかにおいて、
前記筒部材(32)は、中心軸(CL)が前記平面部(31a)の図心(Fc)を通るように、前記板部材(31)と接することを特徴とする。
【0015】
この構成では、金型によってバランスよく粉体(P)を圧縮することが可能になる。
【0016】
また、第6の態様は、第1から第5の態様の何れかにおいて、
前記粉体(P)は、ポリテトラフルオロエチレン又はポリクロロトリフルオロエチレンを主成分とすることを特徴とする。
【0017】
この構成では、ポリテトラフルオロエチレンを圧縮成形する際に、前記各態様の効果を得ることが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
前記の各態様によれば、最大密度差が低減するので、粉体(P)を圧縮成形し更にそれを焼成してシート状の製品を製造するに際して、該製品の反りやクラックを低減することが可能になる。
【0019】
また、第3の態様によれば、反りやクラックを低減する形状を容易に定めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態1に係る金型の斜視図を示す。
図2図2は、金型の平面図である。
図3図3は、金型の断面図である。
図4図4は、金型をプレス成形機にセットした状態を示す。
図5図5は、最大密度差のシミュレーション結果をグラフで示す。
図6図6は、円筒部材の中立面よりも内側部分をハッチングで示す。
図7図7は、円筒部材の中心軸を平面部の図心からずらした場合における密度差曲線を示す。
図8図8は、実施形態2に係る金型に用いる上パンチの平面図である。
図9図9は、実施形態2における最大密度差のシミュレーション結果をグラフ(密度差曲線)で示す。
図10図10は、実施形態3に係る金型に用いる上パンチの平面図である。
図11図11は、実施形態3における最大密度差のシミュレーション結果をグラフ(密度差曲線)で示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0022】
《発明の実施形態1》
本発明の発明者は、粉体を圧縮成形し、更にそれを焼成してシート状の製品(樹脂シート)を製造するに際して、焼成する前の圧縮成形の段階で反りやクラックの対策を行えないか、種々の検討を行った。その結果、圧縮成形品(後述)の残留応力を低減することで当該対策が可能であることを見出した。また、その検討の中で、本発明の発明者は、粉体(P)の圧縮成形のシミュレーション技術を開発しており、そのシミュレーション技術を用いたことで、従来は問題とされていなかった粉体成形用の金型の変形が前記残留応力の一因であることも突き止めた。そして、本発明の発明者は、粉体成形用の金型を工夫することで前記残留応力を低減して、前記樹脂シートの反りやクラックの対策を行った。以下の実施形態では、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと略記する)を主成分とした粉体(P)を成形する金型の例を説明する。
【0023】
まず、図1に本発明の実施形態1に係る金型(10)の斜視図を示す。また、図2に金型(10)の平面図、図3に金型(10)の断面図を示す。図3は、図2のIII-III断面に相当する。この金型(10)は、前記粉体(P)を圧縮して、シート状に成形する。
【0024】
〈金型(10)の構成〉
図1は、金型(10)の各構成部品を別個に示しており、同図に示すように、金型(10)は、ダイ(20)、上パンチ(30)、及び下パンチ(40)を備えている。上パンチ(30)は、本発明の第1パンチの一例であり、下パンチ(40)は、本発明の第2パンチの一例である。
【0025】
ダイ(20)は、図1に示すように、中空の四角柱状の形態を有し、例えば鉄合金などの金属によって形成される。このダイ(20)には、断面が正方形の貫通孔(21)が形成されている。この貫通孔(21)に上パンチ(30)及び下パンチ(40)が嵌め込まれることにより、貫通孔(21)内には閉空間が形成され、この閉空間は、金型(10)で成形する粉体(P)を充填するキャビティ(50)として機能する。
【0026】
この例では、下パンチ(40)は、貫通孔(21)の下端側に嵌め込まれる。この下パンチ(40)は、鉄合金などの金属によって平板状に形成されており、下パンチ(40)の水平方向の断面(以下、水平断面)は、貫通孔(21)の断面と同型状(正方形)である。なお、以下では、下パンチ(40)の上面(貫通孔(21)内に向く面)面をキャビティ面(40a)と呼ぶことにする。下パンチ(40)のキャビティ面(40a)は正方形である。
【0027】
また、上パンチ(30)は、貫通孔(21)の上端側に嵌め込まれる。この上パンチ(30)は、板部材(31)と円筒部材(32)とを備えている。板部材(31)は、鉄合金などの金属によって形成され、貫通孔(21)の上端側に嵌め込まれる。そのため、板部材(31)の水平断面も貫通孔(21)の断面と同型状の正方形である。つまり、板部材(31)は、下パンチ(40)のキャビティ面(40a)と同形状(正方形)の平面部(31a)を有している(換言すると、平面部(31a)は、貫通孔(21)の断面と同型状に形成されている)。
【0028】
また、円筒部材(32)は、本発明の筒部材の一例であり、鉄合金などの金属によって円筒状に形成されている。円筒部材(32)は、その一端において板部材(31)と接するようになっている。この例では具体的には円筒部材(32)の一端は、板部材(31)の平面部(31a)とは反対側の面に固定されている。その際、筒部材(32)の中心軸(CL)が、平面部(31a)の図心(Fc)を通るように、円筒部材(32)と板部材(31)とは溶接されている。なお、板部材(31)と円筒部材(32)とは、必ずしも溶接などによって一体化する必要はなく、それぞれ別部材として用意してもよい。
【0029】
金型(10)では、円筒部材(32)の大きさの設定に特徴があるが、その設定を説明するにあたり、まず、この金型(10)による粉体(P)の圧縮成形について簡単に説明する。
【0030】
〈金型(10)による粉体の成形〉
図4は、金型(10)をプレス成形機(100)にセットした状態を示す。図4は、プレス成形機(100)の正面図であり、金型(10)のみを断面図で表してある。図4に示すように、プレス成形機(100)は、天板(101)、テーブル(102)、支柱(103)、及び油圧シリンダ(104)を備えている。プレス成形機(100)では、油圧シリンダ(104)を伸張させるとテーブル(102)が支柱(103)に沿って上昇し、テーブル(102)と天板(101)との間隔が狭まるようになっている。なお、プレス成形機(100)を作動させる機構は、油圧シリンダ(104)には限定されない。その他に当該機構として、例えばバネによる機械式や電動、空圧等の方式を採用してもよい。
【0031】
粉体(P)をシート状に成形するには、下パンチ(40)とダイ(20)とを組み合わせ、キャビティ(50)となる部分に粉体(P)を充填する。次に、ダイ(20)の上側から上パンチ(30)をセットする。
【0032】
この状態の金型(10)をプレス成形機(100)のテーブル(102)に載せてから、油圧シリンダ(104)を作動させてテーブル(102)を上昇させる。そうすると、上パンチ(30)の円筒部材(32)が天板(101)に当たって押され、その結果、キャビティ(50)内の粉体(P)がキャビティ(50)内で圧縮される。それにより、キャビティ(50)内では、粉体(P)が一体化されてシート状になる。このシート状の成形品を例えば電気炉で焼成することによって、製品(樹脂のシート)として完成する。なお、ここでは、この完成品を最終成形品と命名する。
【0033】
〈円筒部材(32)の形状設定〉
既述の通り、本発明の発明者は、粉体(P)の圧縮成形のシミュレーション技術(具体的には有限要素法を応用した解析技術)を開発した。そして、そのシミュレーション技術を用いて、圧縮成形過程における金型(10)の応力などを検証した。その結果、成形品の残留応力(後述の「最大密度差」でとらえることができる)が最終成形品の反りやクラックに影響(関連)し、最終成形品の残留応力(「最大密度差」)には、上パンチ(30)の変形が影響することを見出すことができた。また、更にシミュレーションを行ったところ、上パンチ(30)の円筒部材(32)の形状を工夫することで、残留応力(すなわち後述の最大密度差)を低減できることが分かった。
【0034】
円筒部材(32)の形状を工夫するに際して、本発明の発明者は、円筒部材(32)の外径(D)を種々の値に設定し、圧縮成形後における最大密度差を求めた。ここでの「最大密度差」とは、圧縮成形品(金型(10)で圧縮成形されたものであって焼成前のものを意味する)における、密度が最大の部分と、密度が最小の部分との差を平均密度で除算した値をパーセント表示した値である。より具体的には、最大密度差=(最大密度−最小密度)/平均密度をパーセント表示した値である。図5に、最大密度差のシミュレーション結果をグラフで示す。図5のグラフは、縦軸が最大密度差[%]である。また、該グラフの横軸は、平面部(31a)の面積(S0)と、該平面部(31a)における、円筒部材(32)の中立面(NP)よりも内側部分の面積(S1)との比(以下、説明の便宜のため面積比(A)と命名する)である。より具体的には、面積比(A)=面積(S1)/面積(S0)である。参考のため、図6(上パンチ(30)の平面図)に、円筒部材(32)の中立面(NP)よりも内側部分をハッチングで示す。
【0035】
なお、このシミュレーションでは、板部材(31)の平面部(31a)の大きさは、250mm×250mmとしている。また、円筒部材(32)の上端の面(天板(101)に接する面)には、プレス成形機(100)によって20MPaの圧力が加えられるものとしている。また、キャビティ(50)を構成する面(平面部(31a)、キャビティ面(40a)、及びダイ(20)の内側側面)と粉体(P)との間の摩擦係数(μ)は、μ=0.2としている。一般的に粉体は、圧縮成形過程の進行に従って、摩擦係数(μ)が概ね0.1から0.3まで変化するが、本シミュレーションにおけるμ=0.2は、本実施形態の粉体(P)における圧縮成形終盤の摩擦係数に相当する。なお、本発明の発明者は、この研究において、摩擦係数(μ)が大きいほど、「最大密度差」が大きくなるとの知見を得ている。
【0036】
そして、図5の例では、面積比(A)=0.2〜0.785(≒π/4)までの間の複数の値について最大密度差を算出している。面積比(A)の変更に際しては、円筒部材(32)の外径(D)を変更し、円筒部材(32)の肉厚(t)は変更していない。ここでは、一例として肉厚(t)=10mmとした。前記シミュレーションの結果、面積比(A)と最大密度差との関係は、図5に示すように、下に凸の曲線(密度差曲線(C)と命名する)で表せる。このシミュレーション結果は、圧縮成形品の実測とも良く整合している。なお、圧縮成形品における最大密度差の実測は、圧縮成形品を多数の小片に切断し、それぞれの小片の密度を実測して求めた。なお、円筒部材(32)の肉厚(t)を変更しても同様の結論が得られることをシミュレーションで確認している。
【0037】
前記のシミュレーション結果を基に、本実施形態では、円筒部材(32)は、圧縮成形品における最大密度差が3%以内となるように、外形の大きさを設定した。ここで、最大密度差の範囲を「3%以内」としたのは、最大密度差がこの範囲であれば、最終成形品から部材を切り出す場合に実用上許容できる程度に「反り」を収めることができるからである。3%以内の最大密度差を実現するには、図5から分かるように、最大密度差=3%の直線(L)と密度差曲線(C)との2つの交点における各面積比(A1,A2)に基づいて、A1≦A≦A2となるように円筒部材(32)の外径(D)及び肉厚(t)を設定すればよい。本シミュレーションでは、A1=0.28、A2=0.72であり、Aの値の範囲は、0.28≦A≦0.72とすればよい。なお、最大密度差は、面積比(A)=A3の場合に最小値となっており、本シミュレーションでは、A3=0.5であった。したがって、円筒部材(32)をなるべく大型化せずに最大密度差を低減するには、円筒部材(32)の外径(D)や肉厚(t)は、0.28≦A≦0.5となるように定めるのが好ましく、最大密度差のみに着目すると、A=0.5となるように定めるのが最も好ましい。
【0038】
〈本実施形態における効果〉
以上のように、面積比(A)を所定の範囲として圧縮成形品の最大密度差を低減したことによって、最終成形品の反りを実用上問題とならないレベルに低減できた。したがって、本実施形態によれば、粉体(P)を圧縮成形し更にそれを焼成してシート状の製品を製造するに際して、該製品の反りやクラックを低減することが可能になる。
【0039】
なお、平面部(31a)の大きさや、円筒部材(32)の肉厚(t)、プレス成形機(100)によって加える圧力は例示であり、これらの値を変更しても前記シミュレーションの結論に影響はない。
【0040】
また、円筒部材(32)の中心軸(CL)は、必ずしも、平面部(31a)の図心(Fc)を通らなくてもよい。図7に、円筒部材(32)の中心軸(CL)を平面部(31a)の図心(Fc)からずらした場合における密度差曲線(C)を示す。この例は、図心(Fc)に対して、中心軸(CL)を上方(図6における上方)に10mmずらしている。図7に示すように、円筒部材(32)の中心軸(CL)と平面部(31a)の図心(Fc)とがずれている場合にも、密度差曲線(C)は下に凸の曲線であり、概ね、面積比(A)=0.5で最小値となった。すなわち、円筒部材(32)の中心軸(CL)と平面部(31a)の図心(Fc)とがずれている場合にも、面積比(A)=0.5となるように円筒部材(32)の外径(D)や肉厚(t)を定めるのが好適である。
【0041】
《発明の実施形態2》
図8は、本発明の実施形態2に係る金型(10)に用いる上パンチ(30)の平面図である。この例では、上パンチ(30)の平面部(31a)は長方形であり、2つの円筒部材(32)が設けられている。ダイ(20)の貫通孔(21)や下パンチ(40)もこれに合うように、水平断面が長方形である。
【0042】
そして、本実施形態では、板部材(31)の平面部(31a)は、短辺の長さ(a)と長辺の長さ(b)との比が1:2に形成されている。また、この例では、平面部(31a)を長辺の中心を通るライン(L2)で2つの正方形に分け、それぞれの正方形部分に円筒部材(32)をそれぞれ配置している。各円筒部材(32)は、その中心軸(CL)が、配置されている正方形部分の図心(Fc)と一致するように板部材(31)に溶接されている。
【0043】
本実施形態では、平面部(31a)の面積(S0)と、平面部(31a)において各円筒部材(32)の中立面(NP)よりも内側となる部分の総面積(図8にハッチングで示す部分の面積の合計)との比である面積比(A)を種々の値に変更してシミュレーションを行った。図9に、実施形態2における最大密度差のシミュレーション結果をグラフ(密度差曲線(C))で示す。この例でも、密度差曲線(C)は下に凸の曲線であり、概ね、面積比(A)=0.5で最小値となった。すなわち、本実施形態でも、面積比(A)=0.5となるように円筒部材(32)の外径(D)や肉厚(t)を定めるのが、最大密度差に関して好適である。
【0044】
前記の構成により、本実施形態でも、粉体(P)を圧縮成形し更にそれを焼成してシート状の製品を製造するに際して、該製品の反りやクラックを低減することが可能になる。
【0045】
《発明の実施形態3》
実施形態3では、圧縮成形品が方形ではない場合の例を説明する。具体的に、本実施形態の金型(10)では、圧縮成形品として円形シートを成形する。図10に、本発明の実施形態3に係る金型(10)に用いる上パンチ(30)の平面図を示す。この例では、平面部(31a)は円形である。すなわち、本実施形態では、上パンチ(30)の板部材(31)、ダイ(20)の貫通孔(21)、及び下パンチ(40)の水平断面は円形である。また、この例でも、円筒部材(32)は、その中心軸(CL)が、板部材(31)の図心(Fc)と一致するように板部材(31)に溶接されている。
【0046】
そして、本実施形態でも、平面部(31a)の面積(S0)と、平面部(31a)において各円筒部材(32)の中立面(NP)よりも内側部分の面積(S1)(図10にハッチングで示す部分)との比である面積比(A)を種々の値に変更してシミュレーションを行った。図11に、実施形態3における最大密度差のシミュレーション結果をグラフ(密度差曲線(C))で示す。
【0047】
この例でも、密度差曲線(C)は下に凸の曲線であり、面積比(A)=0.5の時に最大密度差が最小値となっている。すなわち、本実施形態でも、面積比(A)=0.5となるように円筒部材(32)の外径(D)や肉厚(t)を定めるのが、最大密度差に関して好適である。それにより、本実施形態でも、粉体(P)を圧縮成形し更にそれを焼成してシート状の製品を製造するに際して、該製品の反りやクラックを低減することが可能になる。
【0048】
《その他の実施形態》
なお、各実施形態の金型(10)で成形する粉体は、PTFE等の樹脂には限定されない。PTFEの他にPCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)を主成分とする樹脂の成形にも、金型(10)を利用できる。また、その他にも例えば、金属粉、磁性粉、セラミックスなど圧縮成形が必要な粉体全般に適用可能であるし、更には、食品や化粧品や薬品錠剤の圧縮成形にも適用可能である。
【0049】
また、成形品の形状も例示であり、例示した正方形や円形の他に、多角形等の形状の成形品にも金型(10)の構成を適用可能である。すなわち、例示した各パンチ(30,40)、貫通孔(21)の形状(水平断面の形状)も正方形や円形には限定されない。
【0050】
上パンチ(30)に設けた円筒部材(32)は一例であり、円筒以外の筒部材(すなわち中実の部材は除く)も採用できる。例えば、円筒部材(32)の代用として、中空の多角柱の採用も可能である。この場合も面積比(A)=0.5の時に最大密度差が最小値であり、例えば面積比(A)=0.5となるように、筒部材の外径等を定めるのが、最大密度差に関して好ましい。
【0051】
また、板部材(31)を押すための筒部材(実施形態では円筒部材(32))の数も例示である。例えば、4つの筒部材(32)を設けた場合でも、面積比(A)=0.5の時に最大密度差が最小値であり、面積比(A)=0.5となるように、筒部材の外径等を定めるのが、最大密度差に関して好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、粉体を成形する金型として有用である。
【符号の説明】
【0053】
10 金型
20 ダイ
21 貫通孔
30 上パンチ(第1パンチ)
31 板部材
31a 平面部
32 円筒部材(筒部材)
40 下パンチ(第2パンチ)
50 キャビティ
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図11