(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
<細胞接着防止剤>
本発明の細胞接着防止剤は、スルフィニル基を側鎖に有する繰り返し単位(以下、繰り返し単位(A)とも称する)を有する重合体を有効成分とするものである。
【0020】
次に、上記本発明で用いる重合体について詳細に説明する。
上記繰り返し単位(A)としては親水性を示すものが好ましい。ここで、本明細書において、親水性とは、水との親和力が強い性質を持つことを意味する。具体的には1種の繰り返し単位のみからなるホモポリマー(実施例の測定法による数平均分子量が1万〜10万程度のもの)が、常温(25℃)において純水100gに対して1g以上溶解する場合にはその繰り返し単位は親水性である。
また、上記繰り返し単位(A)としては、親水疎水の尺度を示すHydrophile−Lipophile Balance(HLB値)が10以上のものが好ましい。高い親水性を得る場合には、HLB値は15以上がより好ましく、20〜40がさらに好ましい。
また、本明細書において、HLB値は、化合物の有機性の値と無機性の値の比率から算出されるもの(小田式)を意味し、「Formulation Design with Organic Conception Diagram」[1998年、NIHON EMULSION CO.,LTD]に記載の計算方法により算出できる。例えば、後述する実施例に記載のN−1−1の共重合体に含まれる親水性繰り返し単位のHLB値は、(100×3+60×1+140)/(40−10×3+20×10)=24である。
また、繰り返し単位(A)は特に限定されないが、ノニオン性のものが好ましい。
また、繰り返し単位(A)は、スルフィニル基の他に、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、リン酸基、アルデヒド基等の親水性基を有していてもよい。また、斯かる親水性基の位置および個数は任意であるが、その位置は好ましくは重合体の側鎖である。一方、スルフィニル基以外の親水性基の個数としては、細胞接着防止効果、生体組織付着防止効果、生体試料付着防止効果の観点から、繰り返し単位1個中に、0〜12個が好ましく、0〜10個がより好ましく、1〜10個が更に好ましく、2〜5個が更に好ましく、2または3個が特に好ましい。また、上記親水性基の中でも、細胞接着防止効果、生体組織付着防止効果、生体試料付着防止効果の観点から、ヒドロキシ基が好ましい。なお、本発明の効果が失われない範囲で、重合体に含まれる複数のスルフィニル基の一部がスルホニル基、スルフィド基となっていてもよい。
【0021】
また、上記繰り返し単位(A)の好適な具体例としては、下記式(1)で表される構造を側鎖中に少なくとも1つ含む繰り返し単位が挙げられる。式(1)で表される構造を側鎖中に有する繰り返し単位となるポリマー種としては公知のものを用いることができ、中でも(メタ)アクリレート系のポリマー種、(メタ)アクリルアミド系のポリマー種、スチレン系のポリマー種等が好ましい。より具体的には、下記式(2)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0023】
〔式(1)中、R
3は、直接結合または炭素数1〜24の2価の有機基を示し、R
4は、炭素数1〜10の有機基を示す。〕
【0025】
〔式(2)中、R
1は、水素原子またはメチル基を示し、R
2は、基−O−、基*−(C=O)−O−、基*−(C=O)−NR
5−、基*−NR
5−(C=O)−(R
5は、水素原子または炭素数1〜10の有機基を示し、*は、式(2)中のR
1が結合している炭素原子と結合する位置を示す)またはフェニレン基を示し、R
3およびR
4は前記と同義である。〕
ここで、式(1)および(2)中の各記号について詳細に説明する。
【0026】
R
1は、水素原子またはメチル基を示すが、メチル基が好ましい。
【0027】
また、R
2は、基−O−、基*−(C=O)−O−、基*−(C=O)−NR
5−、基*−NR
5−(C=O)−またはフェニレン基を示す。斯かるフェニレン基としては、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基が挙げられる。
【0028】
また、上記R
5で示される有機基の炭素数は、好ましくは1〜10であり、より好ましくは2〜8であり、更に好ましくは2〜6である。上記有機基としては、炭化水素基が挙げられる。斯かる炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基および芳香族炭化水素基を包含する概念である。
【0029】
上記R
5における脂肪族炭化水素基は直鎖状でも分岐鎖状でもよく、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基が挙げられる。
また、上記脂環式炭化水素基は、単環の脂環式炭化水素基と橋かけ環炭化水素基に大別される。上記単環の脂環式炭化水素基としては、シクロプロピル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。また、橋かけ環炭化水素基としては、イソボルニル基等が挙げられる。
また、上記芳香族炭化水素基としては、フェニル基等のアリール基が挙げられる。
【0030】
上述のようなR
2の中でも、細胞接着防止効果、生体組織付着防止効果、生体試料付着防止効果の観点から、基*−(C=O)−O−、フェニレン基が好ましく、基*−(C=O)−O−が特に好ましい。
【0031】
R
3は、直接結合または炭素数1〜24の2価の有機基を示す。斯かる直接結合としては、単結合が挙げられる。
【0032】
斯様なR
3の中でも、炭素数1〜24の2価の有機基が好ましい。斯かる2価の有機基の炭素数は、好ましくは2〜18であり、より好ましくは2〜10であり、更に好ましくは2〜9であり、特に好ましくは3〜6である。
【0033】
上記2価の有機基としては、2価の炭化水素基が挙げられる。2価の炭化水素基は、好ましくは2価の脂肪族炭化水素基であり、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。具体的には、メタン−1,1−ジイル基、エタン−1,1−ジイル基、エタン−1,2−ジイル基、プロパン−1,1−ジイル基、プロパン−1,2−ジイル基、プロパン−1,3−ジイル基、プロパン−2,2−ジイル基、ブタン−1,2−ジイル基、ブタン−1,3−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、ペンタン−1,4−ジイル基、ペンタン−1,5−ジイル基、ヘキサン−1,5−ジイル基、ヘキサン−1,6−ジイル基、ヘプタン−1,7−ジイル基、オクタン−1,8−ジイル基等のアルカンジイル基が挙げられる。
【0034】
また、上記2価の炭化水素基は、置換基を有していてもよく、炭素−炭素結合間にエーテル結合を含んでいてもよい。
上記2価の炭化水素基が有していてもよい置換基としては、前記親水性基が挙げられる。該置換基の個数は、好ましくは1〜5であり、より好ましくは1〜3であり、更に好ましくは1または2である。
また、上記2価の炭化水素基が含んでいてもよいエーテル結合の個数としては、0〜5が好ましく、0〜3がより好ましい。
【0035】
また、2価の有機基の好適な具体例としては、下記式(3)で表される連結基、炭素数1〜24のアルカンジイル基が挙げられ、より好ましくは式(3)で表される連結基である。
【0037】
〔式(3)中、R
6は、単結合、基−R
8−O−(R
8は、炭素数1〜4のアルカンジイル基を示す)または下記式(4)で表される連結基を示し、R
7は、炭素数1〜4のアルカンジイル基を示し、nは1または2を示し、**は、式(1)、(2)中のイオウ原子と結合する位置を示す。〕
【0039】
〔式(4)中、R
9は、炭素数1〜4のアルカンジイル基を示し、R
10は、炭素数2または3のアルカンジイル基を示し、m
1は1または2を示し、m
2は1〜3の整数を示す。〕
【0040】
上記R
6としては、細胞接着防止効果、生体組織付着防止効果、生体試料付着防止効果の観点から、単結合、基−R
8−O−が好ましく、単結合が特に好ましい。
【0041】
また、上記R
7、R
8およびR
9で示されるアルカンジイル基の炭素数は1〜4であるが、1または2が好ましい。
また、上記アルカンジイル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよく、前述のアルカンジイル基と同様のものが挙げられる。
【0042】
また、上記R
10で示されるアルカンジイル基の炭素数は、好ましくは2である。また、該アルカンジイル基としては、R
7で示されるものと同様のものが挙げられる。なお、m
2が2または3の場合、m
2個のR
10は同一であっても異なっていてもよい。
また、nおよびm
1としては1が好ましく、m
2としては1または2が好ましい。
【0043】
また、R
4は、炭素数1〜10の有機基を示す。斯かる有機基としては、R
5で示されるものと同様のものが挙げられる。また、R
4が炭化水素基である場合、斯かる炭化水素基は置換基を有していてもよく、該置換基およびその個数としては、前記2価の炭化水素基が有していてもよいものと同様のものが挙げられる。また、親水性の観点から、R
4としては、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等の環構造を含まないものが好ましい。
【0044】
上述のようなR
4の好適な具体例としては、前記親水性基を有する炭素数1〜10の有機基が挙げられ、より好ましくは下記式(5)で表される1価の基、炭素数1〜10のアルキル基であり、更に好ましくは式(5)で表される1価の基である。
【0046】
〔式(5)中、k
1は、1〜4の整数を示し、k
2は、0〜4の整数を示し、***は、式(1)、(2)中のイオウ原子と結合する位置を示す。〕
【0047】
式(5)中、k
1としては、1または2が好ましい。また、k
2としては、0〜2の整数が好ましく、0または1がより好ましい。
【0048】
また、繰り返し単位(A)の合計含有量の下限としては、水溶性の付与の観点、および細胞接着防止効果、生体組織付着防止効果、生体試料付着防止効果と低毒性を両立する観点から、全繰り返し単位中、10モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、50モル%以上が更に好ましく、60モル%以上が更に好ましく、65モル%以上が特に好ましい。一方、上限としては、基材との吸着の観点から、全繰り返し単位中、99モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下が更に好ましく、80モル%以下が更に好ましく、70モル%以下が特に好ましい。
また、質量%としての繰り返し単位(A)の合計含有量の下限としては、水溶性の付与の観点、および細胞接着防止効果、生体組織付着防止効果、生体試料付着防止効果と低毒性を両立する観点から、全繰り返し単位中、20質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましく、60質量%以上が更に好ましく、70質量%以上が更に好ましく、75質量%以上が更に好ましく、80質量%以上が特に好ましい。一方、上限としては、基材との吸着の観点から、全繰り返し単位中、99質量%以下が好ましく、98質量%以下がより好ましく、95質量%以下が更に好ましく、90質量%以下が特に好ましい。
なお、繰り返し単位(A)の含有量は
13C−NMR等により測定可能である。
【0049】
また、本発明で用いる重合体としては、更に疎水性繰り返し単位(以下、繰り返し単位(B)とも称する)を有するものが好ましい。ここで、疎水性とは、水との親和性が低い性質を持つことを意味する。具体的には、1種の繰り返し単位のみからなるホモポリマー(実施例の測定法による数平均分子量が1万〜10万程度のもの)が、常温(25℃)において純水100gに対して溶解する量が1g未満である場合にはその繰り返し単位は疎水性である。
また、上記繰り返し単位(B)のHLB値としては、高い疎水性を得る場合には、20未満が好ましく、15未満がより好ましく、10未満が更に好ましく、0.1以上10未満が更に好ましい。
【0050】
繰り返し単位(B)としては、疎水性を示す公知のものが挙げられ、特に限定されないが、スチレン類、(メタ)アクリレート類および(メタ)アクリルアミド類から選ばれる1種以上の単量体から誘導されるものが好ましい。
【0051】
上記スチレン類から誘導される繰り返し単位としては、下記式(6)で表される繰り返し単位が好ましい。
【0053】
〔式(6)中、R
11は、水素原子またはメチル基を示し、R
12は、炭素数1〜10の有機基を示し、pは0〜5の整数を示す。〕
【0054】
式(6)中、R
12で示される有機基としては、R
5で示されるものと同様のものが挙げられるが、その炭素数は、好ましくは1〜6であり、より好ましくは1〜3である。また、親水性基がないものが好ましい。なお、斯かる有機基は、炭素数1〜3のアルコキシ基等が置換していてもよい。また、pが2〜5の整数の場合、p個のR
12は同一であっても異なっていてもよい。
【0055】
また、pは0〜5の整数を示すが、0〜3が好ましく、0がより好ましい。
【0056】
スチレン類から誘導される繰り返し単位の具体例としては、スチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、4−エチルスチレン、4−イソプロピルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、α―メチルスチレン等に由来する繰り返し単位が挙げられる。
【0057】
また、上記(メタ)アクリレート類としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸C
1-10アルキル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸C
6-10シクロアルキル;(メタ)アクリル酸1−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル等の(メタ)アクリル酸C
1-10アルコキシC
1-10アルキル;(メタ)アクリル酸1−アダマンチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−(1−アダマンチルエチル)、(メタ)アクリル酸トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン−8−イル等の炭素数8〜16の橋かけ環炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。また、これら(メタ)アクリレート類において、上記C
1-10アルキル基としてはC
1-8アルキル基が好ましく、上記C
6-10シクロアルキル基としてはC
6-8シクロアルキル基が好ましく、上記C
1-10アルコキシ基としてはC
1-6アルコキシ基が好ましく、炭素数8〜16の橋かけ環炭化水素基としては、炭素数8〜12の橋かけ環炭化水素基が好ましい。
また、上記(メタ)アクリレート類の中でも、炭素数8〜16の橋かけ環炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸C
1-10アルコキシC
1-10アルキル、(メタ)アクリル酸C
1-10アルキル、末端に(メタ)アクリロイルオキシ基を有するマクロモノマーが好ましく、炭素数8〜16の橋かけ環炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸C
1-10アルコキシC
1-10アルキル、(メタ)アクリル酸C
1-10アルキルがより好ましく、炭素数8〜16の橋かけ環炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸C
1-10アルキルが更に好ましく、(メタ)アクリル酸C
1-10アルキルが特に好ましい。
【0058】
また、上記(メタ)アクリルアミド類としては、例えば、N,N−ジC
1-10アルキル(メタ)アクリルアミド;N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等のN−C
1-10アルキル(メタ)アクリルアミド;N−(1,1−ジメチル−2−アセチルエチル)(メタ)アクリルアミド等のN−C
1-10アルカノイルC
1-10アルキル(メタ)アクリルアミドの他、(メタ)アクリロイルピペリジン等が挙げられる。また、これら(メタ)アクリルアミド類において、上記C
1-10アルキル基としては、C
3-10アルキル基が好ましく、上記C
1-10アルカノイル基としては、C
1-6アルカノイル基が好ましい。
【0059】
また、繰り返し単位(B)の合計含有量の下限としては、基材との吸着の観点から、全繰り返し単位中、1モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上が更に好ましく、20モル%以上が更に好ましく、30モル%以上が特に好ましい。一方、上限としては、水溶性の付与の観点、および細胞接着防止効果、生体組織付着防止効果、生体試料付着防止効果と低毒性を両立する観点から、全繰り返し単位中、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましく、70モル%以下が更に好ましく、60モル%以下が更に好ましく、50モル%以下が更に好ましく、40モル%以下が更に好ましく、35モル%以下が特に好ましい。
また、質量%としての繰り返し単位(B)の合計含有量の下限としては、基材との吸着の観点から、全繰り返し単位中、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましく、5質量%以上が更に好ましく、10質量%以上が特に好ましい。一方、上限としては、水溶性の付与の観点、および細胞接着防止効果、生体組織付着防止効果、生体試料付着防止効果と低毒性を両立する観点から、全繰り返し単位中、80質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましく、40質量%以下が更に好ましく、30質量%以下が更に好ましく、20質量%以下が更に好ましく、18質量%以下が特に好ましい。
なお、繰り返し単位(B)の含有量は、繰り返し単位(A)の含有量と同様にして測定すればよい。
また、重合体に含まれる繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)とのモル比〔(A):(B)〕としては、細胞接着防止効果、生体組織付着防止効果、生体試料付着防止効果と低毒性を両立する観点およびコーティング性の観点から、10:30〜99:1が好ましく、10:20〜99:1がより好ましく、10:15〜50:1が更に好ましく、10:10〜10:1が更に好ましく、10:8〜10:3が特に好ましい。また、上記繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)との質量比<(A):(B)>としては、細胞接着防止効果、生体組織付着防止効果、生体試料付着防止効果と低毒性を両立する観点およびコーティング性の観点から、40:60〜99:1が好ましく、55:45〜99:1がより好ましく、60:40〜99:1が更に好ましく、70:30〜98:2が更に好ましく、75:25〜90:10が特に好ましい。
【0060】
また、本発明で用いる重合体は、前記繰り返し単位(A)および(B)以外の親水性繰り返し単位(C)を有していてもよい。斯様な親水性繰り返し単位(C)としては、アニオン性の単量体(アニオン性モノマー)、カチオン性の単量体(カチオン性モノマー)、またはノニオン性の単量体(ノニオン性モノマー)から誘導されるものが挙げられ、これらを1種または2種以上含んでいてもよい。
【0061】
上記アニオン性モノマーとしては、ビニル安息香酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸モノマー;スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、イソプレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸モノマーが挙げられる。
【0062】
また、カチオン性モノマーとしては、アリルアミン、アミノスチレン、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド塩化メチル4級塩等の1〜4級アミノ基と不飽和結合を有するものが挙げられる。
【0063】
また、ノニオン性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリセリル、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレン等のヒドロキシ基を有する不飽和カルボン酸エステルモノマー;N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルアミドモノマーが挙げられる。
【0064】
上記繰り返し単位(C)の合計含有量としては、全繰り返し単位中、0〜49モル%が好ましく、0〜20モル%がより好ましく、0〜10モル%が更に好ましく、0〜1モル%が特に好ましい。また、質量%として0〜49質量%が好ましく、0〜20質量%がより好ましく、0〜10質量%が更に好ましく、0〜1質量%が特に好ましい。
【0065】
また、本発明で用いる重合体が共重合体である場合、その繰り返し単位の配列の態様は特に限定されず、共重合体は、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体、交互共重合体のいずれであってもよい。
また、本発明で用いる重合体の両末端としては、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ基、RAFT剤残基が好ましい。
また、本発明で用いる重合体の数平均分子量(M
n)としては、5000〜100万が好ましく、7000〜20万がより好ましく、1万〜15万が特に好ましい。数平均分子量を5000以上とすることにより、細胞接着防止効果、生体組織付着防止効果、生体試料付着防止効果が向上し、一方、100万以下とすることにより、コーティング性やハンドリング性が向上する。
また、本発明で用いる重合体の重量平均分子量(M
w)としては、10000〜200万が好ましく、15000〜40万がより好ましく、2万〜30万が特に好ましい。
また、分子量分布(M
w/M
n)としては、1.0〜5.0が好ましく、1.0〜4.0がより好ましく、1.0〜3.0が更に好ましく、1.5〜2.5が特に好ましい。
なお、上記数平均分子量、重量平均分子量および分子量分布は、後述する実施例に記載の方法に従い測定すればよい。
【0066】
また、本発明で用いる重合体としては、細胞接着防止効果、生体組織付着防止効果、生体試料付着防止効果の観点から、水溶性のものが好ましい。ここで、本明細書において、水溶性とは、1質量%のポリマー固形分となるように重合体を水(25℃)に添加・混合したときに、目視で透明となることをいう。
また、本発明で用いる重合体としては、ノニオン性のものが好ましい。
【0067】
また、本発明で用いる重合体としては、水溶性の付与、細胞接着防止効果、生体組織付着防止効果、生体試料付着防止効果の観点から、HLB値が10〜22の範囲であるものが好ましく、13〜22の範囲であるものがより好ましい。
【0068】
次に、本発明で用いる重合体の合成方法について説明する。
上記重合体は、(1)公知の重合体の側鎖中にスルフィド基を導入し、斯かるスルフィド基をスルフィニル基に変換すること、(2)重合させたときに側鎖となる部分にスルフィド基を有するモノマーを、重合または他のモノマーと共重合させ、得られた(共)重合体のスルフィド基をスルフィニル基に変換すること、(3)或いは重合させたときに側鎖となる部分にスルフィニル基を有するモノマーを、重合または他のモノマーと共重合させること等により製造できる。
上記製造方法を、下記共重合体(N−1)の製造方法を例に挙げて具体的に説明する。
すなわち、工程1−A−1および工程1−A−2により、或いは工程1−Bまたは工程1−Cにより、共重合体(S−1)を得、これを用いて共重合体(G−1)を経て共重合体(N−1)を得る。
【0071】
(式中の各記号は前記と同義である。)
【0072】
<工程1−A−1>
工程1−A−1は、化合物(A−1−1)と化合物(B−1)とを重合開始剤の存在下で重合させ、共重合体(M−1)を得る工程である。
化合物(A−1−1)としては、例えば、(メタ)アクリル酸等が挙げられ、これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
また、化合物(B−1)としては、前記スチレン類が挙げられ、その合計使用量としては、化合物(A−1−1)に対し、0.001〜1.5モル当量が好ましく、0.005〜1.5モル当量がより好ましく、0.02〜1.5モル当量が好ましく、0.1〜0.8モル当量がより好ましい。
【0073】
また、上記重合開始剤としては、例えば、2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ系開始剤;ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、過酸化ベンゾイル等の過酸化物が挙げられ、これら重合開始剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
重合開始剤の合計使用量は、化合物(A−1−1)に対し、通常0.0002〜0.2質量倍程度である。
【0074】
また、工程1−A−1には溶媒、連鎖移動剤を使用してもよい。溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶媒;トルエン、ベンゼン等の芳香族系溶媒;1、4−ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒が挙げられ、これら溶媒は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。これら溶媒の合計使用量は、化合物(A−1−1)に対し、通常0.5〜15質量倍程度である。
また、上記連鎖移動剤としては、メルカプトエタノール、チオグリセロール、tert−ドデシルメルカプタン等が挙げられる。
【0075】
また、工程1−A−1の反応時間は特に限定されないが、通常0.5〜24時間程度であり、反応温度は溶媒の沸点以下で適宜選択すればよいが、通常0〜120℃程度である。
【0076】
<工程1−A−2>
工程1−A−2は、工程1−A−1で得た共重合体(M−1)の−R
2を、化合物(C−1)のグリシジル基またはオキセタニル基に対し開環付加させ、共重合体(S−1)を得る工程である。
工程1−A−2で用いる化合物(C−1)としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられ、その合計使用量としては、共重合体(M−1)中の化合物(A−1−1)から誘導される繰り返し単位に対し、1.5〜10モル当量が好ましく、2〜5モル当量がより好ましい。
【0077】
また、工程1−A−2は、触媒存在下で行うのが好ましい。触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロマイド等の四級アンモニウム塩;テトラブチルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムクロライド等の四級ホスホニウム塩が挙げられ、これら触媒は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
上記触媒の合計使用量は、共重合体(M−1)中の化合物(A−1−1)から誘導される繰り返し単位に対し、通常0.01〜0.2モル当量程度である。
また、工程1−A−2で好適に使用される溶媒としては、工程1−A−1と同様のものが挙げられる。
【0078】
また、工程1−A−2の反応時間は特に限定されないが、通常1〜24時間程度であり、反応温度は、溶媒の沸点以下で適宜選択すればよいが、通常40〜200℃程度である。
【0079】
<工程1−Bおよび工程1−C>
工程1−Bおよび工程1−Cは、化合物(A−1−2)または化合物(A−1−3)と、化合物(B−1)とを重合開始剤の存在下で重合させ、共重合体(S−1)を得る工程である。
化合物(A−1−2)としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、オキセタニル(メタ)アクリレートが挙げられ、化合物(A−1−3)としては、ビニルベンジルグリシジルエーテル、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル等が挙げられる。なお、これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
工程1−Bおよび工程1−Cは、上記工程1−A−1と同様にして行えばよい。
なお、上記工程1−A−1、1−A−2、工程1−B、工程1−Cに先立ち、単量体のうち一方にRAFT剤を反応させておくことによりブロック共重合体を合成できる。
【0080】
<工程2>
工程2は、工程1−A−2、工程1−Bまたは工程1−Cで得た共重合体(S−1)のグリシジル基またはオキセタニル基に対し、−SR
4を開環付加させ、共重合体(G−1)を得る工程である。
工程2で用いるR
4SHで表される化合物としては、チオグリセロール、メルカプトエタノールが挙げられるが、細胞接着防止効果、生体組織付着防止効果、生体試料付着防止効果を向上させる観点から、チオグリセロールが好ましい。
上記化合物の合計使用量は、化合物(A−1−1)、(A−1−2)または(A−1−3)から誘導される繰り返し単位に対し、通常0.1〜20モル当量であり、好ましくは1〜10モル当量である。
【0081】
また、工程2は、触媒存在下で行うのが好ましい。触媒としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン等の塩基性触媒が挙げられ、これら触媒は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
上記触媒の合計使用量は、化合物(A−1−1)、(A−1−2)または(A−1−3)から誘導される繰り返し単位に対し、通常0.01〜32モル当量である。
【0082】
また、工程2は、溶媒存在下で行うのが好ましい。溶媒としては、工程1−A−1〜1−Cで使用できる溶媒の他、エタノール、メタノール等のアルコール系溶媒、またはこれらの混合溶媒が挙げられ、その合計使用量は、共重合体(S−1)に対し、通常0.5〜20質量倍程度である。
【0083】
また、工程2の反応時間は特に限定されないが、通常1〜8時間程度であり、反応温度は、溶媒の沸点以下で適宜選択すればよいが、通常40〜100℃程度である。
【0084】
なお、工程2を工程1−Bまたは工程1−Cの前に実施し、その後工程1−Bまたは工程1−Cの重合を実施してもよい。
【0085】
<工程3>
工程3は、酸化剤を用いて、工程2で得た共重合体(G−1)のスルフィド基をスルフィニル基に変換し、共重合体(N−1)を得る工程である。なお、本発明の効果が失われない範囲で、共重合体中に含まれる複数のスルフィニル基の一部がスルフィド基、スルホニル基となってもよい。
【0086】
上記酸化剤は、有機酸化剤と無機酸化剤とに大別され、有機酸化剤としては、例えば、過酢酸、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸等が挙げられる。一方、無機酸化剤としては、例えば、過酸化水素、クロム酸、過マンガン酸塩等が挙げられる。なお、これら酸化剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
また、酸化剤の使用量は、化合物(A−1−1)、(A−1−2)または(A−1−3)から誘導される繰り返し単位に対し、通常1.0〜10.0モル当量程度であるが、好ましくは1.0〜2.0モル当量である。
【0087】
工程3は、溶媒存在下で行うのが好ましい。斯かる溶媒としては、水;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒等が挙げられ、これら溶媒は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できるが、水、アルコール系溶媒が好ましい。
上記溶媒の合計使用量は、共重合体(G−1)に対し、通常1〜20質量倍程度であるが、好ましくは1〜15質量倍である。
【0088】
また、工程3の反応時間は特に限定されないが、通常1〜24時間程度であり、反応温度は、溶媒の沸点以下で適宜選択すればよいが、通常25〜70℃程度である。
【0089】
なお、前記各工程において、各反応生成物の単離は、必要に応じて、ろ過、洗浄、乾燥、再結晶、再沈殿、透析、遠心分離、各種溶媒による抽出、中和、クロマトグラフィー等の通常の手段を適宜組み合わせて行えばよい。
【0090】
また、本発明の細胞接着防止剤は、上記のようにして得られる重合体の他に、溶剤、殺菌剤、防腐剤等を含んでいてもよい。
上記溶剤としては、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤等が挙げられる。これら溶剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含まれていてもよい。
また、上記重合体の含有量としては、基材表面への吸着量と細胞毒性の観点から、細胞接着防止剤中、0.00001〜15質量%が好ましく、0.0001〜10質量%がより好ましく、0.001〜10質量%が更に好ましく、0.01〜10質量%が更に好ましい。
一方、上記溶剤の含有量としては、細胞接着防止剤中、0〜50質量%が好ましく、0〜10質量%がより好ましい。
【0091】
そして、上記重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体を含む)は、後記実施例に示すように、細胞毒性が低く、且つ、優れた細胞接着防止効果を示す。細胞接着防止とは、足場依存性細胞のような接着細胞と、斯かる細胞が接触する種々の表面や基材等との接着を防止することをいう。
上記効果が奏される理由は必ずしも明らかではないが、繰り返し単位(B)によって、重合体が、容器、器具等の壁面に吸着し、その一方で、繰り返し単位(A)によって、前記壁面が親水化され、更にタンパク質、脂質等の吸着が防止され、細胞の接着を抑制することができるものと推察される。
したがって、上記重合体は、細胞接着防止剤としてそのまま用いることができ、また、細胞接着防止剤を製造するための素材として使用することができる。更に、斯かる細胞接着防止剤によれば、細胞接着のみならずタンパク質、脂質、核酸等生体物質の吸着も抑制できる。
【0092】
また、上記細胞としては、足場依存性細胞、浮遊細胞(例えば、白血球、赤血球、血小板等の血液細胞)が挙げられる。足場依存性細胞としては、HeLa細胞、F9細胞等のガン細胞;3T3細胞等の線維芽細胞;ES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞等の幹細胞;HEK293細胞等の腎細胞;NT2細胞等の神経細胞;UV♀2細胞、HMEC−1細胞等の内皮細胞;H9c2細胞等の心筋細胞;Caco−2細胞等の上皮細胞等が挙げられる。
【0093】
また、上記細胞は、無機材料、有機材料の他、哺乳動物組織や非哺乳動物組織(骨等の硬い組織および粘膜や非粘膜組織等の軟らかい組織を含む)、哺乳動物や非哺乳動物の細胞(真核生物および原核生物を含む)等から構成されているものに接着する。本発明の細胞接着防止剤を用いることにより、斯様なもの(基材)と上記細胞との接着を防止できる。
【0094】
上記無機材料としては、ホウケイ酸ガラス等のガラス;チタン、ステンレス等の金属やコバルトクロム合金等の合金;熱分解カーボン、アルミナ、ジルコニア、リン酸カルシウム等のセラミックスの他、酸化チタン等が挙げられ、これらが1種または2種以上含まれていてよい。
【0095】
また、上記有機材料としては、ポリスチレン、ABS樹脂等のスチレン系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系ポリマー(環状オレフィン樹脂を含む);ポリビニルアセテート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン等のビニル系ポリマー;ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン系ポリマー;ポリアミド、ポリアクリルアミド、ナイロン等のアミド系ポリマー;ポリイミド、ポリエチレンイミド等のイミド系ポリマー;ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系ポリマー;ポリアセトニトリル、ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリビニルフェノール等のビニルフェノール系ポリマー;ポリビニルアルコール等のビニルアルコール系ポリマー;ポリウレタン等のウレタン系ポリマー;ポリカーボネート等のカーボネート系ポリマー;ポリベンゾイミダゾール等のベンゾイミダゾール系ポリマー;ポリエーテルエーテルケトン等のポリエーテルエーテルケトン系ポリマー;ポリアニリン等のアニリン系ポリマー;ポリアクリレート等のポリ(メタ)アクリレート類;ポリカプロラクトン等のポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ乳酸・グリコール酸等のヒドロキシカルボン酸系ポリエステルを含む);エポキシ樹脂(SU−8等を含む);フェノール樹脂;メラミン樹脂;テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂の他、糖鎖高分子、タンパク質等が挙げられ、これらが1種または2種以上含まれていてよい。
また、上記糖鎖高分子としては、アガロースまたはその誘導体、セルロースまたはその誘導体(酢酸セルロース等)、キチン、酸化セルロース、コンドロイチン、ヘパリン、ヒアルロン酸等の等の多糖類が挙げられる。また、上記タンパク質としては、コラーゲンまたはその誘導体、フィブロイン、フィブロネクチン、ゼラチン等が挙げられる。また、ペプチドやポリアミノ酸であってもよい。
【0096】
そして、上記細胞接着防止剤は、医療・バイオ分野(臨床検査・診断薬)等で広く利用することができ、例えば、臨床診断薬、臨床診断装置、バイオチップ、細胞培養基材、生体材料等生体物質等に接触する材料(固相、容器・器具等)のコーティング剤;血液検査等の診断に使用される全自動分析機用測定セルのコンディショニング剤;細胞接着コントロール剤等として特に有用である。また、本発明の細胞接着防止剤を基材や器具、装置の少なくとも一部にコーティングすることにより、使用するときに細胞が死滅しにくく、且つ、細胞が接着しにくい、表面が改質された器具および装置を提供できる。
【0097】
<表面が改質された器具および装置>
次に、本発明の表面が改質された器具および表面が改質された装置について説明する。
本発明の表面が改質された器具および表面が改質された装置は、上記繰り返し単位(A)を有する重合体を、表面の少なくとも一部に有するものである。具体的には、上記繰り返し単位(A)を有する重合体が少なくとも一部に塗布され、その表面上に細胞接着防止層が形成されることによって、器具、装置の表面(内壁表面、外壁表面のいずれであってもよい)が改質されたものである。
斯様な器具や装置は、その器具や装置を使用するときにその表面の一部または全部が細胞と接触するものであれば特に限定されないが、医療用、培養用のものが好ましい。
【0098】
また、上述のような器具の具体例としては、生体物質・生体組織等を採取または送液するための器具(例えば、血糖値測定器、注射針、カテーテル等)、上記生体物質等を保存するための容器(血液バッグ、試験管等)、上記生体物質等を分析するための器具(キャリア、カバーガラス等の顕微鏡周辺器具、マイクロ流路デバイス、マイクロウェルプレート、アッセイチップ、バイオチップ、全自動分析機用測定セル)、バイオ処理用器具(反応槽、移送管、移送パイプ、精製用器具、細胞培養プレート等)、生体内に埋入するための器具(例えば、インプラント、骨固定材、縫合糸、癒着防止膜、人工血管等)の他、小胞、マイクロ粒子、ナノ粒子等の薬物送達媒体や、胃カメラ、マイクロファイバー、ナノファイバー、磁性粒子等が挙げられる。
【0099】
また、上述のような装置の具体例としては、医療用デバイス(臨床診断装置、バイオセンサー、心臓ペースメーカー、埋入型バイオチップ)、発酵用ユニット、バイオリアクター等が挙げられる。
【0100】
また、上記繰り返し単位(A)を有する重合体の塗布は、上記器具、装置を使用するときに該器具や装置と細胞とが接触する部位に細胞接着防止層を形成するようにして塗布するのが好ましい。これにより、斯かる器具や装置と細胞との接触および接着を防止できる。
【0101】
また、本発明の表面が改質された器具および表面が改質された装置は、上記繰り返し単位(A)を有する重合体を、器具、装置表面の少なくとも一部にコーティングすることにより製造できる。
具体的には、上記繰り返し単位(A)を有する重合体と器具または装置とを準備し、該器具または装置の少なくとも一部(好ましくは、その器具や装置を使用するときに該器具や装置と細胞とが接触する部位)に上記繰り返し単位(A)を有する重合体を塗布させればよい。なお、架橋剤、架橋モノマーを使用して硬化することもできる。
斯かる塗布は、上記繰り返し単位(A)を有する重合体を含むポリマー溶液(細胞接着防止剤)をコーティングしたい部位に接触させればよい。例えば、ポリマー水溶液を基材に5分程度接触させた後、水により洗浄し、乾燥する方法が挙げられる。
【0102】
また、上記繰り返し単位(A)を有する重合体は、後記実施例に示すように、生体組織や生体試料に対する影響が低い。
したがって、上記器具、装置として、生体内医療構造体、マイクロ流路デバイスが好適な具体例として挙げられる。
【0103】
<生体内医療構造体>
本発明の生体内医療構造体は、上記繰り返し単位(A)を有する重合体を、表面の少なくとも一部に有するもの(例えば、上記重合体でコーティングされているもの)である。繰り返し単位(A)によって、構造体表面が親水化され、生体組織が表面に付着しにくくなる。
ここで、生体内医療構造体とは、生体内で使用される医療用の構造体のことをいい、斯様な構造体は、体内へ埋め込んで使用するものと、体内で使用するものとに大別される。なお、生体内医療構造体の大きさや長さは特に限定されるものではなく、微細な回路を有するものや、微量の試料を検出するものも包含される。なお、コーティングに関しては吸着の他、重合体をフィルムコーティングさせてもよく、また、吸着させた重合体を架橋することで水に不溶化し、耐久性をもたせてもよい。
【0104】
上記体内へ埋め込んで使用する構造体としては、例えば、心臓ペースメーカー等の疾患が生じている生体の機能を補うための機能補助装置;埋入型バイオチップ等の生体の異常を検出するための装置;インプラント、骨固定材、縫合糸、人工血管等の医療用器具が挙げられる。
また、体内で使用する構造体としては、小胞、マイクロ粒子、ナノ粒子等の薬物送達媒体の他、カテーテル、胃カメラ、マイクロファイバー、ナノファイバー等が挙げられる。
【0105】
また、生体内医療構造体表面の材質は無機材料と有機材料に大別される。これら無機材料、有機材料としては上記と同様のものが挙げられる。この中でも、有機材料が好ましく、高分子材料がより好ましく、スチレン系ポリマー、エポキシ樹脂が更に好ましい。
【0106】
なお、本発明の生体内医療構造体は、糖鎖高分子やタンパク質、ペプチド、ポリアミノ酸でコーティングされ、斯かるコーティング上に本発明で用いる重合体を有するものであってもよい。糖鎖高分子、タンパク質としては上記と同様のものが挙げられる。
【0107】
また、本発明で用いる重合体のコーティングは、斯かる重合体を必要に応じて溶剤と混合し、これを構造体表面(内壁及び外壁を含む)の少なくとも一部に公知の方法でコーティングすればよい。具体的には、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、フローコーティング法、刷毛塗り、スポンジ塗り等の方法が挙げられる。加えて、重合体溶液中に構造体表面を浸漬させ、重合体と構造体を接触させるだけでコーティングすることもできる。
上記塗布は、体内において、生体内医療構造体と生体組織とが接触する部位に行うのが好ましい。なお、架橋剤、架橋モノマーを使用して硬化することもできる。
【0108】
なお、上記溶剤としては、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤等が挙げられる。これら溶剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0109】
そして、本発明の生体内医療構造体は、生体組織が表面に付着しにくく、且つ生体組織に対する影響が低い。生体組織は、細胞、タンパク質、脂質、核酸等によって構成されるものである。特に、本発明の生体内医療構造体は細胞の付着が生じにくい。
また、上記細胞としては、足場依存性細胞、浮遊細胞が挙げられ、足場依存性細胞、浮遊細胞は上記と同様のものが挙げられる。
【0110】
<マイクロ流路デバイス>
本発明のマイクロ流路デバイスは、上記繰り返し単位(A)を有する重合体を、マイクロ流路内表面の少なくとも一部に有するもの(例えば、上記重合体でコーティングされているもの)である。繰り返し単位(A)によって、流路内表面が親水化され、生体試料が表面に付着しにくくなる。
【0111】
上記マイクロ流路デバイスとしては、例えば、微小反応デバイス(具体的にはマイクロリアクターやマイクロプラント等)、集積型核酸分析デバイス、微小電気泳動デバイス、微小クロマトグラフィーデバイス等の微小分析デバイス;質量スペクトルや液体クロマトグラフィー等の分析試料調製用微小デバイス;抽出、膜分離、透析などに用いる物理化学的処理デバイス;環境分析チップ、臨床分析チップ、遺伝子分析チップ(DNAチップ)、タンパク質分析チップ(プロテオームチップ)、糖鎖チップ、クロマトグラフチップ、細胞解析チップ、製薬スクリーニングチップ等のマイクロ流路チップが挙げられる。これらの中でも、マイクロ流路チップが好ましい。
【0112】
また、上記デバイスに設けられているマイクロ流路は微量の試料(好ましくは液体試料)が流れる部位であり、その流路幅および深さは特に限定されないが、いずれも、通常、0.1μm〜1mm程度であり、好ましくは10μm〜800μmである。
なお、マイクロ流路の流路幅や深さは、流路全長にわたって同じであってもよく、部分的に異なる大きさや形状であってもよい。
【0113】
また、マイクロ流路内表面の材質は無機材料と有機材料に大別される。これら無機材料、有機材料としては上記と同様のものが挙げられる。この中でも、有機材料が好ましく、高分子材料がより好ましく、スチレン系ポリマーが更に好ましい。
【0114】
なお、本発明のマイクロ流路デバイスは、その流路内が糖鎖高分子やタンパク質、ペプチド、ポリアミノ酸でコーティングされ、斯かるコーティング上に本発明で用いる重合体を有するものであってもよい。糖鎖高分子、タンパク質としては上記と同様のものが挙げられる。
【0115】
また、上記マイクロ流路デバイスは、例えば、本発明で用いる重合体をマイクロ流路内表面の少なくとも一部にコーティングすることにより製造できる。該コーティングは、上記重合体を必要に応じて溶剤と混合し、これを流路内表面の少なくとも一部に公知の方法で塗布すればよい。具体的には、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、フローコーティング法、刷毛塗り、スポンジ塗り等の方法が挙げられる。加えて、重合体溶液中に流路内表面を浸漬させ、重合体と流路内表面を接触させるだけでコーティングすることもできる。
上記塗布は、流路の略全面(全面を含む)に行うのが好ましい。なお、架橋剤、架橋モノマーを使用して硬化することもできる。
【0116】
なお、上記溶剤としては、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤等が挙げられる。これら溶剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0117】
そして、本発明のマイクロ流路デバイスは、マイクロ流路内表面に生体試料が付着しにくく、且つ生体試料に対する影響(細胞毒性)が低い。生体試料(例えば、血液等)は、細胞、タンパク質、脂質、核酸等によって構成されるものである。特に、本発明のマイクロ流路デバイスは細胞の付着が生じにくく、且つタンパク質が吸着しにくい。
また、上記細胞としては、足場依存性細胞、浮遊細胞が挙げられ、足場依存性細胞、浮遊細胞は上記と同様のものが挙げられる。
【実施例】
【0118】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0119】
実施例における各分析条件は以下に示すとおりである。
<分子量測定>
重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、東ソー社製 TSKgel α−Mカラムを用い、流量:0.5ミリリットル/分、溶出溶媒:NMP溶媒(H
3PO
4:0.016M、LiBr:0.030M)、カラム温度:40℃の分析条件で、ポリスチレンを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
<NMRスペクトル>
13C−NMRスペクトルは、溶媒および内部標準物質としてd6−DMSOを用いて、BRUKER製モデルAVANCE500(500MHz)により測定した。
【0120】
合成例1 共重合体(N−1−1)の合成
以下の合成経路に従い、共重合体(N−1−1)を得た。
【0121】
【化9】
【0122】
グリシジルメタクリレート113gおよびスチレン113gと、重合開始剤として2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)6.8gと、N,N−ジメチルホルムアミド475gとを混合しフラスコに入れた。これに窒素を吹き込み、70℃まで昇温し、6時間重合させ、その後室温に冷却した。この溶液をメタノールによる再沈殿で精製し、減圧乾燥することで共重合体(S−1−1)を得た。
得られた共重合体(S−1−1)において、グリシジルメタクリレートから誘導された繰り返し単位の含有量は48モル%であり、スチレンから誘導された繰り返し単位の含有量は52モル%であった。なお、これら含有量は
13C−NMRにより測定した。
【0123】
次いで、得られた共重合体(S−1−1)10gおよびチオグリセロール32.1gと、N,N−ジメチルホルムアミド95gとを混合してフラスコに入れた。これに窒素を吹き込みながら60℃まで昇温し、触媒としてトリエチルアミン120gを添加した後4時間反応させ、その後室温に冷却した。この溶液を水による再沈殿で精製し、凍結乾燥することで共重合体(G−1−1)を得た。
次いで、得られた共重合体(G−1−1)10gを85.5gの水に分散させ、フラスコへ入れた。これに、30%過酸化水素水溶液を4.5g添加し、室温で18時間反応させた。得られた水溶液を透析することで、共重合体(N−1−1)を得た(収率:13%)。この共重合体(N−1−1)と水を混合し、濃度を1質量%に調整したところ、共重合体(N−1−1)は水に溶解していた。
また、得られた共重合体(N−1−1)の数平均分子量は18755であり、重量平均分子量は30234であり、分子量分布は1.61であった。
共重合体(N−1−1)の構造は
13C−NMRで確認した。
【0124】
合成例2 共重合体(N−1−2)の合成
グリシジルメタクリレート170gおよびスチレン56.8gと、重合開始剤として2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)6.8gと、N,N−ジメチルホルムアミド475gとを混合しフラスコに入れた。これに窒素を吹き込み、70℃まで昇温し、6時間重合させ、その後室温に冷却した。この溶液をメタノールによる再沈殿で精製し、減圧乾燥することで共重合体(S−1−2)を得た。
得られた共重合体(S−1−2)において、グリシジルメタクリレートから誘導された繰り返し単位の含有量は67モル%であり、スチレンから誘導された繰り返し単位の含有量は33モル%であった。なお、これら含有量は合成例1と同様にして測定した。
【0125】
次いで、得られた共重合体(S−1−2)10gおよびチオグリセロール44.7gと、N,N−ジメチルホルムアミド95gとを混合してフラスコに入れた。これに窒素を吹き込みながら60℃まで昇温し、触媒としてトリエチルアミン167gを添加した後4時間反応させ、その後室温に冷却した。この溶液を水による再沈殿で精製し、凍結乾燥することで共重合体(G−1−2)を得た。
【0126】
次いで、得られた共重合体(G−1−2)10gを84.4gの水に分散させ、フラスコへ入れた。これに、30%過酸化水素水溶液を5.6g添加し、室温で18時間反応させた。得られた水溶液を透析することで、共重合体(N−1−2)を得た(収率:18%)。この共重合体(N−1−2)と水を混合し、濃度を1質量%に調整したところ、共重合体(N−1−2)は水に溶解していた。
また、得られた共重合体(N−1−2)の数平均分子量は30983であり、重量平均分子量は55661であり、分子量分布は1.80であった。
共重合体(N−1−2)の構造は
13C−NMRで確認した。
【0127】
合成例3 共重合体(N−1−3)の合成
グリシジルメタクリレート170gおよびスチレン56.8gと、重合開始剤として2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)2.27gと、酢酸エチル450gとを混合しフラスコに入れた。これに窒素を吹き込み、70℃まで昇温し、8時間重合させ、その後室温に冷却した。この溶液をメタノールによる再沈殿で精製し、減圧乾燥することで共重合体(S−1−3)を得た。
得られた共重合体(S−1−3)において、グリシジルメタクリレートから誘導された繰り返し単位の含有量は67モル%であり、スチレンから誘導された繰り返し単位の含有量は33モル%であった。なお、これら含有量は合成例1と同様にして測定した。
【0128】
次いで、得られた共重合体(S−1−3)10gおよびチオグリセロール44.7gと、N,N−ジメチルホルムアミド95gとを混合してフラスコに入れた。これに窒素を吹き込みながら60℃まで昇温し、触媒としてトリエチルアミン167gを添加した後4時間反応させ、その後室温に冷却した。この溶液を水による再沈殿で精製し、凍結乾燥することで共重合体(G−1−3)を得た。
【0129】
次いで、得られた共重合体(G−1−3)10gを84.4gの水に分散させ、フラスコへ入れた。これに、30%過酸化水素水溶液を5.6g添加し、室温で18時間反応させた。得られた水溶液を透析することで、共重合体(N−1−3)を得た(収率:15%)。この共重合体(N−1−3)と水を混合し、濃度を1質量%に調整したところ、共重合体(N−1−3)は水に溶解していた。
また、得られた共重合体(N−1−3)の数平均分子量は32808であり、重量平均分子量は59834であり、分子量分布は1.82であった。
共重合体(N−1−3)の構造は
13C−NMRで確認した。
【0130】
合成例4 共重合体(N−1−4)および(N−1−5)の合成
2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)の使用量をそれぞれ0.686g(N−1−4)、2.06g(N−1−5)に換えた以外は、共重合体(N−1−3)と同様にして共重合体(N−1−4)と(N−1−5)を合成した。
これら共重合体のグリシジルメタクリレートから誘導された繰り返し単位の含有量とスチレンから誘導された繰り返し単位の含有量はいずれも共重合体(N−1−3)と同様であった。また、この共重合体(N−1−4)と(N−1−5)を、それぞれ水と混合し、濃度を1質量%に調整したところ、これら共重合体はいずれも水に溶解していた。
得られた共重合体(N−1−4)の数平均分子量は110730であり、重量平均分子量は232057であり、分子量分布は2.10であった。
また、得られた共重合体(N−1−5)の数平均分子量は54953であり、重量平均分子量は115909であり、分子量分布は2.11であった。
共重合体(N−1−4)と(N−1−5)の構造は
13C−NMRで確認した。
【0131】
合成例5 共重合体(N−2)の合成
以下の合成経路に従い、共重合体(N−2)を得た。
【0132】
【化10】
【0133】
グリシジルメタクリレート236.7gおよびダイアセトンアクリルアミド140gと、重合開始剤として2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)3.1gと、アセトニトリル465gとを混合しフラスコに入れた。これに窒素を吹き込み、75℃まで昇温し、8時間重合させ、その後室温に冷却して、共重合体(S−2)を含む溶液を得た。
【0134】
次いで、上記共重合体(S−2)溶液400gおよびチオグリセロール426gと、アセトニトリル534gとを混合してフラスコに入れた。これに窒素を吹き込みながら60℃まで昇温し、触媒としてトリエチルアミン15.9gを添加した後2時間反応させ、その後室温に冷却した。この溶液を酢酸−n−ブチルによる再沈殿で精製して共重合体(G−2)を得た。
得られた共重合体(G−2)において、グリシジルメタクリレートから誘導された繰り返し単位の含有量は67モル%であり、ダイアセトンアクリルアミドから誘導された繰り返し単位の含有量は33モル%であった。なお、これら含有量は合成例1と同様にして測定した。
【0135】
次いで、得られた共重合体(G−2)574gをメタノール734gと水245gの混合溶媒に分散させ、フラスコへ入れた。これに、30%過酸化水素水溶液を166g添加し、40℃で2時間反応させた。得られた水溶液を透析することで、共重合体(N−2)を得た。この共重合体(N−2)と水を混合し、濃度を1質量%に調整したところ、共重合体(N−2)は水に溶解していた。
また、得られた共重合体(N−2)の数平均分子量は21179であり、重量平均分子量は47906であり、分子量分布は2.26であった。
共重合体(N−2)の構造は
13C−NMRで確認した。
【0136】
上記合成例1〜5で得た共重合体(N−1−1)〜(N−1−5)および(N−2)のHLB値(小田式)を以下の表1に示す。なお、共重合体(N−1−1)〜(N−1−5)および(N−2)が有する繰り返し単位(A)それぞれ1種からなるホモポリマーを合成し、1gを純水100gに添加したところ常温(25℃)で溶解した。また、共重合体(N−1−1)〜(N−1−5)および(N−2)が有する繰り返し単位(B)それぞれ1種からなるホモポリマーを合成し、1gを純水100gに添加したところ常温(25℃)で溶解しきらなかった。
【0137】
【表1】
【0138】
試験例1 細胞接着試験(1)
表面がポリスチレンで構成されている6ウェルプレートのウェルに、以下の表2に示す実施例1〜6のサンプルを1mLずつ加え2時間静置した後、超純水で3回洗浄し未吸着ポリマーを除去した。
次いで、6.7×10
4cell/mLに調製したHeLa細胞(ヒト子宮頸ガン細胞)を含む液体培地(10%体積FBS)を1.5mLずつウェルに添加し、37℃、5%CO
2条件で4時間培養した。
その後、培地交換で未接着細胞を除去し、培地交換直後、交換後20時間培養(37℃、5%CO
2条件)後、および交換後44時間培養(37℃、5%CO
2条件)後、それぞれの接着細胞をトリプシン−EDTAで剥離し、ヘモサイトメーターにより細胞数を計数し、以下の式により接着細胞密度を算出した。
接着細胞密度(%)=〔(接着細胞数)/(コンフルエント時の細胞数)〕×100
また、コントロールとして、サンプルを加えない以外は上記と同様にして接着細胞密度を確認した。
試験結果を
図1に示す。なお、
図1中のN−1−1、N−1−2、N−1−4、N−1−5使用培地交換直後およびN−2使用における細胞密度は0%である。
【0139】
【表2】
【0140】
試験例2 細胞接着試験(2)
HeLa細胞を3T3細胞(マウス線維芽細胞)に変更した以外は試験例1と同様にして接着細胞密度を確認した。試験結果を
図2に示す。なお、
図2中のN−2使用における細胞密度は0%である。
【0141】
試験例3 細胞接着試験(3)
サンプルとして表2に示す実施例4〜6のサンプルを用い、且つHeLa細胞をUV♀2細胞(マウス内皮細胞)に変更した以外は試験例1と同様にして接着細胞密度を確認した。試験結果を
図3に示す。なお、
図3中のN−2使用培地交換直後、N−2使用交換後20時間培養における細胞密度は0%である。
【0142】
試験例4 細胞接着試験(4)
表面がポリスチレンで構成されている6ウェルプレートのウェルに、表2に示す実施例1〜6、以下の表3に示す比較例1〜2のサンプルを1mLずつ加え2時間静置した後、超純水で3回洗浄し未吸着ポリマーを除去した。
次いで、6.7×10
4cell/mLに調製したHeLa細胞を含む液体培地(FBSフリー)を1.5mLずつウェルに添加し、37℃、5%CO
2条件で4時間培養した。その後、PBSによる洗浄で未接着細胞を除去し、10体積%FBS培地に交換した。培地交換直後、交換後20時間培養(37℃、5%CO
2条件)後、および交換後44時間培養(37℃、5%CO
2条件)後、それぞれの接着細胞をトリプシン−EDTAで剥離し、ヘモサイトメーターにより細胞数を計数し、試験例1と同様の式により接着細胞密度を算出した。
また、コントロールとして、上記サンプルを加えない以外は上記と同様にして接着細胞密度を確認した。
試験結果を
図4に示す。なお、
図4中のN−1−1、N−1−2、N−1−4使用培地交換直後およびN−2使用における細胞密度は0%である。
下記表3中、共重合体N101およびN102は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)と、n−ブチルメタクリレート(n−BMA)の共重合体である。
【0143】
【表3】
【0144】
試験例5 細胞接着試験(5)
HeLa細胞を3T3細胞に変更した以外は試験例4と同様にして接着細胞密度を確認した。試験結果を
図5に示す。なお、
図5中のN−1−2、N−1−4使用培地交換直後およびN−2使用における細胞密度は0%である。
【0145】
試験例6 細胞接着試験(6)
サンプルとして表2に示す実施例4〜6のサンプルを用い、且つHeLa細胞をUV♀2細胞(マウス内皮細胞)に変更した以外は試験例4と同様にして接着細胞密度を確認した。試験結果を
図6に示す。なお、
図6中のN−2使用における細胞密度は0%である。
【0146】
試験例7 抗体吸着量測定
実施例1〜5で得られた共重合体の1質量%水溶液をポリスチレン製96穴プレートに満たし、室温で5分間インキュベートした後、超純水で3回洗浄した。次いで、西洋ワサビパーオキシダーゼ標識マウスIgG抗体(AP124P:ミリポア社製)水溶液を上記96穴プレートに満たし、室温で1時間インキュベートした後、PBSバッファーで3回洗浄し、TMB(3,3',5,5'−テトラメチルベンジジン)/過酸化水素水/硫酸で発色させて450nmの吸光度を測定し、この吸光度から検量線法により抗体吸着量を算出した。
また、コントロールとして、実施例1〜5で得られた共重合体の1質量%水溶液でプレートを処理しない以外は上記と同様にして抗体吸着量を算出した。試験結果を表4に示す。
【0147】
【表4】
【0148】
上記試験例1〜7の結果から、共重合体(N−1−1)〜(N−1−5)及び(N−2)が優れた細胞接着防止効果を有することがわかる。
【0149】
試験例8 細胞毒性試験(1)
細胞培養用に親水化処理された市販の48ウェルプレート(IWAKI製)のウェルに、25×10
4cell/mLに調製したHeLa細胞を含む液体培地(10体積%FBS)を200μLずつ添加し37℃、5%CO
2条件で12時間前培養した。
一方、表2に示す共重合体をそれぞれ0.10質量%含み、かつ共重合体水溶液が10質量%となるよう培地を調製した。
次いで、前培養したHeLa細胞の培地を上記共重合体含有培地に交換し、37℃、5%CO
2条件で24時間培養した。
共重合体水溶液を超純水に変更した以外は上記と同様にして培養したものをコントロールとして、MTTアッセイにて共重合体の細胞毒性を確認した。MTTアッセイにはMTTアッセイキット(MTT Cell Proliferation Assay Kit 10009365:Cayman Chemical Company製)を使用し、使用説明書に従って試験した。試験結果を
図7に示す。
【0150】
試験例9 細胞毒性試験(2)
HeLa細胞を3T3細胞に変更した以外は試験例8と同様にして細胞毒性を確認した。MTTアッセイの試験結果を
図8に示す。
【0151】
試験例10 細胞毒性試験(3)
共重合体として、共重合体(N−1−4)、(N−1−5)、(N−2)、試薬N101を用い、且つHeLa細胞をUV♀2細胞(マウス内皮細胞)に変更した以外は試験例8と同様にして細胞毒性を確認した。MTTアッセイの試験結果を
図9に示す。
【0152】
試験例11 細胞毒性試験(4)
共重合体として、共重合体(N−1−4)、(N−1−5)、(N−2)、試薬N101を用い、且つHeLa細胞をF9細胞に変更した以外は試験例8と同様にして細胞毒性を確認した。MTTアッセイの試験結果を
図10に示す。
【0153】
試験例12 細胞毒性試験(5)
細胞培養用に親水化処理された市販の48ウェルプレート(IWAKI製)のウェルに、25×10
4cell/mLに調製したHeLa細胞を含む液体培地(10体積%FBS)を200μLずつ添加し37℃、5%CO
2条件で12時間前培養した。
一方、実施例1〜5のサンプルを、後述する試験例13と同様にしてコーティングしたエポキシ樹脂を培地へ37℃、5%CO
2条件で12時間浸漬させた。
次いで、前培養したHeLa細胞の培地を、エポキシ樹脂を浸漬した培地に交換し、37℃、5%CO
2条件で24時間培養した。
エポキシ樹脂を浸漬していない培地を使用した以外は上記と同様にして培養したものをコントロールとして、エポキシ樹脂にコーティングされた共重合体の細胞毒性を試験例8と同様にして評価した。MTTアッセイの試験結果を
図11に示す。
【0154】
試験例8〜12の結果から、共重合体(N−1−1)〜(N−1−5)及び(N−2)は細胞毒性が低いことがわかる。
したがって、斯かる共重合体が塗布された本発明の生体内医療構造体は、生体組織に対する影響が低い。
【0155】
試験例13 癒着試験
10mm四方のエポキシ樹脂フィルムを、表2に示す実施例1〜5のサンプルに浸漬させ2時間静置した後、超純水で3回洗浄し未吸着ポリマーを除去した。
次いで、雄SDラットを各群6匹ずつ6群準備し(平均体重250g)、第1群〜第5群のラットはそれぞれ実施例1〜5のサンプルを用いた試験に使用し、第6群のラットは基準(コントロール)として使用した。
すなわち、上記で準備した第1群〜第6群のラットの盲腸の漿膜をガーゼで摩擦して、その約1/2を剥離し、これらラットのうち、第1群〜第5群のラットについては、漿膜を剥離した盲腸の表面に、実施例1〜5のサンプルをコーティングしたエポキシ樹脂フィルムを、第6郡のラットについては、サンプルをコーティングしていないエポキシ樹脂フィルムを、それぞれラット1匹当たり1枚ずつ貼付した。
次いで、切開部の筋層を連続縫合した後、皮膚を4〜5針縫合した。縫合後1週間後に剖検し、腹腔内癒着状態を肉眼で観察し、下記に示す評価基準にしたがって点数評価し、6匹の平均値を採った。試験結果を表5に示す。
【0156】
<点数表>
0点:癒着が認められない状態
1点:細くて容易に分離できる程度の癒着
2点:狭い範囲ではあるが、軽度の牽引に耐えられ得る程度の弱い癒着
3点:かなりしっかりとした癒着あるいは少なくとも2 箇所に癒着が認められる状態
4点:3箇所以上に癒着が認められる状態
【0157】
【表5】
【0158】
上記試験例13の結果から、共重合体(N−1−1)〜(N−1−5)を表面に有する構造体は、生体組織が表面に付着しにくいことがわかる。
【0159】
試験例14 血液送液試験
射出成形により、幅150μm、深さ100μm、長さ5cmの溝と、溝の末端に設けられた直径1mmの貫通孔とを有するポリスチレン樹脂の流路基板を成形した。また、この基板と同じ大きさのポリスチレン樹脂の平板基板を成形した。
溝を有する流路基板と平板基板を、ともに上記表2に示す実施例1〜5のサンプルに浸漬し2時間静置した後、超純水で3回洗浄し未吸着ポリマーを除去した。
次いで、平板基板の樹脂コート層と溝側を合わせ、超音波溶着により基板同士を貼り合わせ、流体が流通できる基板(マイクロ流路デバイス)を作製した。溝の末端に設けられた孔から、血液検体を一定圧力下、2μL/minのスピードで6分間送液し、送液直後から1分後と、送液開始5分後から6分後の液量をそれぞれ計量し、その時の平均流量を計算した。試験結果を表6に示す。
【0160】
【表6】
【0161】
試験例14の結果から、本発明のマイクロ流路デバイスは、生体試料を含む流体を送液しても、流路表面に汚れが堆積せず、流量が衰えないことがわかる。