(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
長尺状の被加工材をプレス加工して長尺状のプレス成形品を成形するプレス成形装置であって、前記被加工材は第1厚さの上壁部および縦壁部を含むハット状断面またはU字状断面を有し、
前記ハット状断面または前記U字状断面の内側から前記被加工材を支持する第1支持部材と、
前記縦壁部の下端部で前記被加工材を支持する第2支持部材と、
前記第1支持部材とともに前記第2支持部材に対して相対的に下降することで、前記被加工材の長手方向における前記縦壁部の全体の高さを小さくさせる一方で前記縦壁部の全体を前記第1厚さよりも大きい第2厚さに増肉させるプレス加工を実行するパンチ部材と、
前記縦壁部を挟んで前記第1支持部材に対向し、前記第1支持部材に対して近接または離隔する第1の方向に平行に移動可能なパッド部材と、
前記プレス加工中に前記パッド部材と前記縦壁部との接触が維持されるように前記パッド部材の前記第1の方向における位置を調整する位置調整機構と、
を備え、
前記位置調整機構は、前記パッド部材を前記縦壁部に向かって付勢する付勢部材を含み、かつ、前記プレス加工中に前記パンチ部材の下降に並行して前記第1支持部材と前記パッド部材との間隔を拡大させる間隔調整機構を含み、
長尺状の前記被加工材は、前記縦壁部の下端に向かって開いた前記ハット状断面または前記U字状断面を有し、
前記第1支持部材は、前記縦壁部に面する第1傾斜面を有し、
前記パッド部材は、前記縦壁部を挟んで前記第1傾斜面に対向する第2傾斜面を有し、
前記間隔調整機構は、前記プレス加工中に前記第1支持部材の下降によって前記縦壁部から後退する前記第1傾斜面に追随して、前記第2傾斜面を前記縦壁部に向かって前進させる駆動機構を含む、プレス成形装置。
長尺状の被加工材をプレス加工して長尺状のプレス成形品を成形するプレス成形方法であって、前記被加工材は第1厚さの上壁部および縦壁部を含むハット状断面またはU字状断面を有し、
前記被加工材を前記ハット状断面または前記U字状断面の内側から第1支持部材に支持させるステップと、
前記縦壁部の下端部で前記被加工材を第2支持部材に支持させるステップと、
前記第1支持部材とともにパンチ部材を前記第2支持部材に対して相対的に下降させることで、前記第1支持部材と、前記第1支持部材に対して近接または離隔する第1の方向に平行に移動可能なパッド部材とに挟まれた前記被加工材の長手方向における前記縦壁部の全体の高さを小さくさせる一方で前記縦壁部の全体を前記第1厚さよりも大きい第2厚さに増肉させるプレス加工を実行するステップと、
前記縦壁部を挟んで前記第1支持部材に対向する前記パッド部材が、前記プレス加工中に前記縦壁部との接触を維持するように、前記パッド部材を前記縦壁部に向かって付勢する付勢部材を含む位置調整機構によって前記パッド部材の前記第1の方向における位置を調整するステップと
を有し、
長尺状の前記被加工材は、前記縦壁部の下端に向かって開いた前記ハット状断面または前記U字状断面を有し、
前記第1支持部材は、前記縦壁部に面する第1傾斜面を有し、
前記パッド部材は、前記縦壁部を挟んで前記第1傾斜面に対向する第2傾斜面を有し、
前記位置調整機構は、前記プレス加工中に前記パンチ部材の下降に並行して前記第1支持部材と前記パッド部材との間隔を拡大させる間隔調整機構を含み、
前記間隔調整機構は駆動機構を含み、前記プレス加工中に前記第1支持部材の下降によって前記縦壁部から後退する前記第1傾斜面に追随して、前記駆動機構によって前記第2傾斜面を前記縦壁部に向かって前進させる、プレス成形方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
<1.第1の実施形態>
(1−1.プレス成形品の概要)
図1を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係るプレス成形品10の構成の一例について説明する。
図1は、第1の実施形態に係るプレス成形品10の構成の一例を示す斜視図である。
【0019】
プレス成形品10は、多様な装置の部品として利用可能であるが、ここでは、自動車などの車両の部品として利用されるものとして説明する。例えば、プレス成形品10は、高い剛性が要求される自動車のセンターピラーとして利用される。かかる場合には、センターピラーの側面に対する衝撃の安全性などを確保するために、プレス成形品10の衝撃が作用する部位の剛性や強度を高くすることが必要である。
【0020】
プレス成形品10は、プレス成形装置により平板(ブランクとも呼ぶ)に曲げや絞りなどの加工を加えることにより成形される。第1の実施形態において、プレス成形品10は、
図1に示すように所謂ハット状断面で延びる長尺状の成形品である。具体的には、プレス成形品10は、上壁部12と、増肉された縦壁部13と、フランジ部14と、を有する。
【0021】
上壁部12は、ブランク(
図2に示すブランク70参照)の板厚と同一の厚みt1(例えば、1.6mm)に成形されている。上壁部12は、プレス成形品10の長手方向(
図1のY方向)に沿って平らな矩形状の面となっている。
【0022】
縦壁部13は、上壁部12に対して略垂直に形成された一対の壁部である。縦壁部13は、それぞれ上壁部12の幅方向(
図1のX方向)の両端部に繋がっている。縦壁部13の厚みt2(例えば、2.0mm)は、後述するプレス成形装置により増肉されて、上壁部12の厚みt1よりも大きくなっている。これにより、プレス成形品10において縦壁部13の剛性や強度が高くなる。また、縦壁部13は、プレス成形装置による増肉の際に、ひずみにより硬くなる(加工硬化)ので、更に剛性や強度が高くなる。なお、厚みt1が第1厚さに該当し、厚みt2が第2厚さに該当する。
【0023】
フランジ部14は、縦壁部13の下端部に繋がっている。フランジ部14は、上壁部12と同一の厚みt1に成形されている。フランジ部14には、例えば車両本体にプレス成形品10を締結するための締結穴(不図示)などが形成されている。
【0024】
なお、プレス成形品10においては、
図1に示すように、上壁部12と縦壁部13の間のコーナ部15、および縦壁部13とフランジ部14のコーナ部16も、増肉されている。具体的には、コーナ部15、16は、プレス成形品10の幅方向(
図1に示すX方向)において縦壁部13と同一面となるように増肉されている。これにより、コーナ部15、16の剛性も、高くなる。
【0025】
続いて、
図2を参照しながら、上述した構成のプレス成形品10の製造方法の一例について説明する。プレス成形品10は、ブランク70に対して2回のプレス加工を施すことで、成形される。
【0026】
図2は、第1の実施形態に係るプレス成形品10の製造工程の一例を示す模式図である。
図2に示すプレス成形品10の製造工程は、準備工程S1として、ブランク70を準備するところから開始される。ここで、ブランク70は、板厚t1の平板であるものとする。
【0027】
次に、第1成形工程S2において、ブランク70に対して1回目のプレス加工が行われる。1回目のプレス加工は、ダイやパンチを有するプレス成形装置による曲げや絞り加工などである。1回目のプレス加工が行われた一次成形品80は、板厚t1のハット状断面を有する長尺状の成形品である。すなわち、一次成形品80は、プレス成形品10の上壁部12に対応する上壁部82と、縦壁部13に対応する縦壁部83と、フランジ部14に対応するフランジ部84とを有する。ここで、縦壁部83の高さは、h1とする。また、上壁部82と縦壁部83のコーナ部85と、縦壁部83とフランジ部84のコーナ部86は、それぞれ曲面(いわゆるR面)となっている。
【0028】
次に、第2成形工程S3において、被加工材である一次成形品80に対して2回目のプレス加工が行われる。2回目のプレス加工は、後述するプレス成形装置100により行なわれる。2回目のプレス加工が行なわれることで、縦壁部83が厚みt2に増肉された二次成形品であるプレス成形品10が成形される。
【0029】
具体的には、一次成形品80の縦壁部83の高さがh1からh2に縮む一方で、縦壁部83が厚みt2に増肉されている。この際、上壁部82と縦壁部83のコーナ部85、および縦壁部83とフランジ部84のコーナ部86も、増肉されている。この結果、縦壁部13、およびコーナ部15、16が増肉されたプレス成形品10が成形されることになる。
【0030】
上述した第1の実施形態に係るプレス成形品10の製造方法により、板厚t1の平板のブランク70を利用して、縦壁部13を板厚t2に増肉させたハット状断面を有するプレス成形品10を成形できる。
【0031】
ところで、成形品の一部を増肉させる製造方法としては、テーラードブランクが知られている。テーラードブランクは、板厚の異なる2枚の板をプレス成形前に溶接し、1枚のブランクとするものである。2枚の板のうちの厚肉の板が、剛性や強度が必要な部位に適用される。しかし、上記のテーラードブランクにおいては、成形品に2枚の板を溶接した溶接部が残る。
【0032】
また、テーラードロールドブランクが知られている。テーラードロールドブランクは、
予め一部の厚みを異ならせたロール状のコイル(鋼板を巻きつけたもの)を用いたブランクである。しかし、かかる方法の場合には、特注のコイルが必要となる。
【0033】
さらに、ブランクの剛性や強度の必要な部位にスチフナーと呼ばれる補剛材を設ける方法も知られている。しかし、かかる方法の場合には、補剛材を設けるため、部品点数が増えることになる。
【0034】
これに対して、第1の実施形態に係るプレス成形品10の製造方法の場合には、溶接部が発生せず、特注のコイルを使用する必要が無く、部品点数が増えない。すなわち、簡易な製造方法により、自動車のセンターピラーに用いた際に衝撃が作用する可能性がある縦壁部13をブランク70の板厚t1よりも増肉させたプレス成形品10を成形できる。
【0035】
(1−2.プレス成形装置の構成例)
図3〜
図5を参照しながら、第1の実施形態に係るプレス成形装置100の構成の一例について説明する。プレス成形装置100は、被加工材である一次成形品80のプレス加工を実施することによって、二次成形品である縦壁部13を増肉させたプレス成形品10を成形する。
【0036】
図3〜
図5は、第1の実施形態に係るプレス成形装置100の構成の一例を説明するための模式図である。なお、
図3は増肉のためのプレス加工の開始直前のプレス成形装置100の状態を示し、
図4はプレス加工中のプレス成形装置100の状態を示し、
図5はプレス加工終了時(パンチが下死点に位置する)のプレス成形装置100の状態を示している。
【0037】
プレス成形装置100は、
図3〜
図5に示すように、ダイ110と、クッション120と、パンチ部材の一例であるパンチ130と、パッド部材の一例であるパッド140とを有する。なお、ダイ110とクッション120は、一次成形品80を支持する支持部材の一例である。より具体的には、クッション120がハット状断面の内側で一次成形品80を支持する第1支持部材の一例であり、ダイ110が縦壁部83の下端部で一次成形品80を支持する第2支持部材の一例である。
【0038】
ダイ110は、プレス成形装置100の下ホルダ(不図示)に固定されている。ダイ110には、一次成形品80がセットされた際に、一次成形品80のフランジ部84(縦壁部83の下端部を含む)を支持するフランジ支持凹部112が形成されている。また、ダイ110には、その上でパッド140を移動させることが可能なパッド移動面114が形成されている。
【0039】
クッション120は、プレス成形装置100の下ホルダによって移動可能に支持されている。クッション120は、セットされた一次成形品80を、ハット状断面の内側から支持する。具体的には、クッション120は、一次成形品80の上壁部82および縦壁部83の内側を支持する。クッション120は、バネなどの付勢部材122により上向き(方向D1)に付勢されている。
【0040】
パンチ130は、プレス成形装置100の上ホルダ(不図示)によって移動可能に支持されている。パンチ130は、セットされた一次成形品80の上壁部82の上方に位置しており、プレス加工の際に下向き(方向D2;方向D1の反対方向)に下降する。パンチ130は、
図3に示すようにクッション120との間で上壁部82を挟持した状態で、
図4および
図5に示すように二つのパッド140の間を方向D2に下降することで、一次成形品80をプレス成形する。このとき、パンチ130は、クッション120とともにダイ110に対して相対的に下降することで、一次成形品80の縦壁部83の高さをh1からh2へと小さくさせる一方で、縦壁部83の厚みをt1からt2へ増肉させるようにプレス加工する。縦壁部83の増肉の際に、コーナ部85、86も増肉される。なお、縦壁部83は、ひずみを生じながら増肉されるので、硬くなる(加工硬化)。パンチ130は、このようなプレス加工を、一次成形品80の長手方向の全体について実行する。
【0041】
パッド140は、一次成形品80の縦壁部83の外側に位置し、縦壁部83を挟んでクッション120に対向する。パッド140は、ダイ110のパッド移動面114上に左右方向(方向D3または方向D4)に移動可能に設けられている。パッド140は、バネなどの付勢部材142により、縦壁部83に向かう方向D3に付勢されている。付勢部材142は、その一方の端部がパッド140と連結され、他方の端部がダイ110に連結されている。
【0042】
付勢部材142によって、プレス加工中のパッド140の位置は、パッド140と縦壁部83との接触が維持されるように調整される。より具体的には、パッド140は、付勢部材142によって方向D3に付勢されることによって、縦壁部83に押し当てられている。縦壁部83の厚みが増肉によって大きくなると、パッド140は付勢部材142の付勢力に抵抗して方向D4に移動し、パッド140とクッション120との間隔が縦壁部83の増肉分だけ大きくなる。このように、パッド140が縦壁部83に接触し続けることによって、縦壁部83の座屈が防止される。
【0043】
なお、上記では、一次成形品80の縦壁部83およびコーナ部85、86を増肉させることとしたが、これに限定されず、縦壁部83のみを増肉させて良い。また、上記では、一次成形品80の長手方向の全体で縦壁部83を増肉させることにしたが、これに限定されず、縦壁部83の長手方向の一部のみを増肉させても良い。
【0044】
(1−3.プレス成形装置の動作例)
次に、プレス成形装置100のプレス加工時の動作例について、引き続き
図3〜
図5を参照しながら説明する。本動作例は、
図3に示すように、セットされた一次成形品80がクッション120、パンチ130、およびパッド140に挟持された状態から開始される。
【0045】
まず、パンチ130が方向D2に下降し始め、一次成形品80に荷重が加わる。これに伴い、クッション120も、付勢部材122の方向D1への付勢力に抗い、方向D2に下降する。これによって、
図4に示すように、荷重を受けた一次成形品80の縦壁部83は、方向D2において縮む一方で、方向D4(方向D3の反対方向)に膨らむ。
【0046】
パッド140は付勢部材142によって方向D3に付勢されているが、縦壁部83が方向D4に膨らむ際にパッド140に対して縦壁部83から方向D4に力が作用する。これにより、パッド140も、付勢部材142の付勢力に抗い、方向D4に移動する。この際、付勢部材142に付勢されたパッド140が縦壁部83に接触した状態を維持するので、縦壁部83が撓んで座屈することを防止できる。この結果、縦壁部83を均一な厚さt2に増肉させることが可能となる。
【0047】
そして、
図5に示すようにパンチ130が下死点に達するまで、クッション120およびパッド140が移動し続ける。この際、付勢部材142の付勢力は、パッド140とクッション120との間隔がt2より大きくならないように調節されている。これにより、縦壁部83が厚みt2に増肉されることになる。この際、上壁部82と縦壁部83のコーナ部85、および縦壁部83とフランジ部84のコーナ部86も、増肉される。なお、縦壁部83は、ひずみを生じながら増肉するので硬くなる(加工硬化)。
【0048】
一方で、パンチ130が下死点に達するまで、一次成形品80の上壁部82およびフランジ部84は、厚みt1を維持している。この結果、プレス成形が完了すると、
図1に示すような縦壁部13、およびコーナ部15、16を増肉させた二次成形品であるプレス成形品10が成形される。
【0049】
(1−4.有効性)
上述したプレス成形装置100により成形されたプレス成形品10の有効性について、プレス成形品10に関して3点曲げシミュレーションを実施した場合の解析結果を用いて説明する。
【0050】
図6は、プレス成形品10に関する3点曲げシミュレーションの条件を説明するための模式図である。シミュレーションにおいて、プレス成形品10は、
図6に示すように長手方向の両端側に位置する支持部材510に裏板520を挟んで支持される。この際、プレス成形品10は、フランジ部14において平板である裏板520に溶接で固定されている。そして、支持部材510に支持されたプレス成形品10の長手方向の中央側に、圧子530によって所定荷重を加える。これにより、プレス成形品10の荷重を加えられた部位が、変形および変位することになる。
【0051】
以下では、
図7〜
図9を参照しながら、縦壁部13を増肉させた本実施例に係るプレス成形品10に関する解析結果と、縦壁部を増肉させていない比較例1に係るプレス成形品に関する解析結果とを比較して説明する。なお、シミュレーションは、プレス成形品を支持する二つの支持部材510の間の支持間隔が200mm、300mm、600mmの場合について、それぞれ行なっている。ここで、プレス成形品10の上壁部12およびフランジ部14の板厚は1.0mmであり、縦壁部13の板厚を増肉(1.2mm〜2.0mm)させている。比較例1に係る成形品の上壁部、縦壁部、およびフランジ部の板厚が均一であり、ここでは、1.0mmである。
【0052】
図7は、2つの支持部材510の間の支持間隔が200mmである場合の3点曲げシミュレーションの解析結果を示すグラフである。
図8は、支持間隔が300mmである場合の3点曲げシミュレーションの解析結果を示すグラフである。
図9は、支持間隔が600mmである場合の3点曲げシミュレーションの解析結果を示すグラフである。
【0053】
図7〜
図9の6つのグラフの横軸は、縦壁部13の板厚を示す。
図7A、
図8A、
図9Aの各グラフの縦軸は、プレス成形品が変位する最大荷重を示し、
図7B、
図8B、
図9Bの各グラフの縦軸は、プレス成形品が吸収する吸収エネルギーを示す。なお、解析結果としては、加工硬化を反映していない解析結果と、加工硬化を反映した解析結果とが示されている。
図7〜
図9を見ると分かるように、縦壁部13の板厚が大きくなるほど、プレス成形品10が変位する最大荷重や吸収エネルギーが大きくなる。また、加工硬化を反映させた場合には、最大荷重や吸収エネルギーが更に大きくなる。すなわち、本実施例に係るプレス成形品10は、変形し難く、エネルギーの吸収量も大きい。これにより、第1の実施形態に係るプレス成形品10を自動車のセンターピラーに利用した際に、衝突性能を向上させることができる。
【0054】
次に、
図10および
図11を参照して、本実施例に係るプレス成形品10と、引張強さが異なる比較例2、3に係るプレス成形品とに関する3点曲げシミュレーションの解析結果について説明する。
図10および
図11は、3点曲げシミュレーションの解析結果を示すグラフである。
【0055】
図10および
図11に示す本実施例に係るプレス成形品10の解析結果は、
図8Aおよび
図8Bと同じである。比較例2、および比較例3の成形品については、上壁部、縦壁部、およびフランジ部の板厚が均一であり、ここでは、1.0mmと1.2mmの場合について解析している。ここで、比較例2の成形品は、引張強さ980MPa級の材料から成る。比較例3の成形品は、引張強さ1180MPa級の材料から成る。
【0056】
図10および
図11を見ると分かるように、本実施例のプレス成形品10は、引張強さ980MPa級の比較例2の成形品以上の特性を示す。また、プレス成形品10の縦壁部の板厚を1.2mmにした場合には、板厚1.2mmの引張強さ1180MPa級の比較例3の成形品と同等の特性を示す。このため、第1の実施形態に係るプレス成形装置100によれば、引張強さが低い材料を用いてプレス成形することで、引張強さの大きい材料に係る成形品と同様な特性を確保できる。このため、材料を軽量化しつつ、プレス成形品10の特性を維持できる。
【0057】
(1−5.変形例)
図12〜
図16を参照しながら、第1の実施形態の変形例に係るプレス成形品20およびプレス成形装置150の構成例について説明する。
【0058】
(1−5−1.プレス成形品の構成例)
図12および
図13を参照しながら、第1の実施形態の変形例に係るプレス成形品20の構成の一例について説明する。
図12は、第1の実施形態の変形例に係るプレス成形品20の構成の一例を示す斜視図である。
図13は、第1の実施形態の変形例に係るプレス成形品20の製造工程の一例を示す模式図である。
【0059】
プレス成形品20も、
図12に示すように所謂U字状断面で延びる長尺状の成形品である。具体的には、プレス成形品20は、上壁部22と縦壁部23とを有するが、
図1に示すプレス成形品10のフランジ部14を有しない。このため、プレス成形品20を車両本体に締結するための締結穴は、上壁部22または縦壁部23に形成されることになる。
【0060】
プレス成形品20においても、縦壁部23は、上壁部22の厚みt1よりも大きい厚みt2に増肉されている。また、上壁部22と縦壁部23の間のコーナ部25も、縦壁部23と同一面となるように増肉されている。これにより、縦壁部23およびコーナ部25の剛性が高くなる。
【0061】
上述した構成のプレス成形品20も、
図13に示すように、プレス成形品10と同様に、準備工程S11で準備された板厚t1の平板であるブランク70に対して、2回のプレス加工(
図13に示す第1成形工程S12および第2成形工程S13)を施すことで成形される。すなわち、第1成形工程S12により、板厚t1のU字状断面を有する一次成形品80が形成される。そして、第2成形工程S13により、縦壁部が高さh2に縮んだ分だけ厚さt2に増肉された二次成形品であるプレス成形品20が成形される。
【0062】
(1−5−2.プレス成形装置の構成例、および動作例)
図14〜
図16を参照しながら、第1の実施形態の変形例に係るプレス成形装置150の構成および動作の一例について説明する。プレス成形装置150も、一次成形品80のプレス加工を実施することによって、二次成形品である縦壁部23を増肉させたプレス成形品20を成形する。
【0063】
図14〜
図16は、第1の実施形態の変形例に係るプレス成形装置150の構成の一例を説明するための模式図である。なお、
図14は増肉のためのプレス加工の開始直前のプレス成形装置150の状態を示し、
図15はプレス加工中のプレス成形装置150の状態を示し、
図16はプレス加工終了時(パンチが下死点に位置する)のプレス成形装置150の状態を示している。
【0064】
プレス成形装置150は、
図14〜
図16に示すように、ダイ160と、クッション120と、パンチ130と、パッド140とを有する。ダイ160は、フランジ支持凹部112が形成されていない点を除けば、
図3〜
図5に示すプレス成形装置100のダイ110の構成と同様である。また、プレス成形装置150のクッション120、パンチ130、およびパッド140の構成は、プレス成形装置100と同一である。このため、プレス成形装置150のダイ160、クッション120、パンチ130、およびパッド140の主な機能は、プレス成形装置100と同様である。
【0065】
続いて、プレス成形装置150のプレス加工時の動作例について説明する。
本動作例においては、
図14に示す状態からパンチ130およびクッション120が方向D2に下降し始め、一次成形品80に荷重が加わる。これによって、
図15に示すように、一次成形品80の縦壁部83は、方向D2において縮む一方で、方向D4に膨らむ。この際、付勢部材142に付勢されたパッド140が縦壁部83に接触した状態を維持するので、縦壁部83が撓んで座屈することを防止できる。この結果、縦壁部83を均一な厚さt2に増肉させることが可能となる。
【0066】
そして、
図16に示すようにパンチ130が下死点に達するまで、クッション120およびパッド140が移動し続ける。この際、付勢部材142の付勢力は、パッド140とクッション120との間隔がt2より大きくならないように調節されている。これにより、縦壁部83が厚みt2に増肉されることになる。上壁部82と縦壁部83のコーナ部85も、増肉される。なお、縦壁部83は、ひずみを生じながら増肉するので硬くなる。
【0067】
一方で、パンチ130が下死点に達するまで、一次成形品80の上壁部82は、厚みt1を維持している。この結果、プレス成形が完了すると、
図12に示すような縦壁部23およびコーナ部25を増肉させた二次成形品であるプレス成形品20が成形される。
【0068】
<2.第2の実施形態>
第2の実施形態について説明する。第2の実施形態に係るプレス成形品は、第1の実施形態に係るプレス成形品10と同一である。一方で、第2の実施形態に係るプレス成形装置は、第1の実施形態に係るプレス成形装置100と異なる。そこで、以下では、第2の実施形態に係るプレス成形装置の構成例、及び動作例について説明する。
【0069】
(2−1.プレス成形装置の構成例)
図17〜
図19を参照しながら、第2の実施形態に係るプレス成形装置200の構成の一例について説明する。プレス成形装置200は、被加工材である一次成形品80のプレス加工を実施することによって、二次成形品である縦壁部13を増肉させたプレス成形品10を成形する。
【0070】
図17〜
図19は、第2の実施形態に係るプレス成形装置200の構成の一例を説明するための模式図である。なお、
図17は増肉のためのプレス加工の開始直前のプレス成形装置200の状態を示し、
図18はプレス加工中のプレス成形装置200の状態を示し、
図19はプレス加工終了時(パンチが下死点に位置する)のプレス成形装置200の状態を示している。
【0071】
プレス成形装置200は、
図17〜
図19に示すように、ダイ110と、クッション120と、パンチ部材の一例であるパンチ230と、パッド部材の一例であるパッド240とを有する。なお、本実施形態に係るプレス成形装置200において、ダイ110およびクッション120の構成は、上記の第1の実施形態に係るプレス成形装置100と同様である。従って、これらの構成要素についての詳細な説明は省略する。
【0072】
パンチ230は、プレス成形装置200の上ホルダ(不図示)によって移動可能に支持されている。パンチ230は、セットされた一次成形品80の上壁部82の上方に位置するパンチ部231を有し、プレス加工の際に下向き(方向D2)に下降する。パンチ部231は、
図17に示すようにクッション120との間で上壁部82を挟持した状態で、
図18および
図19に示すように二つのパッド240の間を方向D2に下降することで、一次成形品80をプレス成形する。このとき、パンチ部231は、クッション120とともにダイ110に対して相対的に下降することで、一次成形品80の縦壁部83の高さをh1からh2へ小さくさせる一方で、縦壁部83の厚みをt1からt2へ増肉させるようにプレス加工する。縦壁部83の増肉の際に、コーナ部85、86も増肉される。なお、縦壁部83は、ひずみを生じながら増肉されるので、硬くなる。パンチ部231は、このようなプレス加工を、一次成形品80の長手方向の全体について実行する。
【0073】
また、パンチ230は、プレス加工の際にパッド240を押圧する押圧部232を有する。押圧部232は、パンチ部231の両側に設けられている。押圧部232は、パンチ230が方向D2に下降する際に、接触するパッド240を押圧する。押圧部232の先端側には、パッド240の傾斜面241と同様に傾斜した押圧面233が形成されている。
【0074】
パッド240は、一次成形品80の縦壁部83の外側に位置し、縦壁部83を挟んでクッション120に対向する。パッド240は、ダイ110のパッド移動面114上に左右方向(方向D3または方向D4)に移動可能に設けられている。パッド240の上面には傾斜面241が形成されている。傾斜面241は、クッション120から離れるほど高くなるように傾斜している。このため、パンチ230によるプレス加工の際に、傾斜面241が押圧面233に押圧されることで、パッド240は、クッション120から離れる方向(方向D4)に移動する。そして、パンチ230が
図19に示す下死点に位置する時点では、パッド240とクッション120との間隔が、一次成形品80の縦壁部83の増肉後の厚みt2と同じ大きさになっている。
【0075】
ここで、傾斜面241の傾斜角度は、プレス加工中にパッド240が方向D4に移動する間、増肉中の縦壁部83に接触した状態が維持されるように設定されている。これにより、縦壁部83が増肉される際の縦壁部83の撓みを防止できるので、縦壁部83の座屈を有効に防止できる。このように、第2の実施形態では、押圧部232と傾斜面241が、プレス加工中にパンチ230の下降に並行してクッション120とパッド240との間隔を拡大させる間隔調整機構を構成する。
【0076】
さらに、パッド240は、バネなどの付勢部材242により、縦壁部83に向かう方向D3に付勢されている。付勢部材242は、その一方の端部がパッド240と連結され、他方の端部がダイ110に連結されている。このようにパッド240が付勢されることで、プレス加工の際に押圧部232によって押圧されたパッド240が方向D4に飛びだすことを防止し、パッド240と縦壁部83との接触を維持できる。
【0077】
なお、上記では、一次成形品80の縦壁部83およびコーナ部85、86を増肉させることとしたが、これに限定されず、縦壁部83のみを増肉させて良い。また、上記では、一次成形品80の長手方向の全体で縦壁部83を増肉させることにしたが、これに限定されず、縦壁部83の長手方向の一部のみを増肉させても良い。
【0078】
(2−2.プレス成形装置の動作例)
次に、プレス成形装置200のプレス加工時の動作例について、引き続き
図17〜
図19を参照しながら説明する。本動作例は、
図17に示すように、セットされた一次成形品80がクッション120、パンチ230、およびパッド240に挟持された状態から開始される。
【0079】
まず、パンチ230が方向D2に下降し始め、一次成形品80に荷重が加わる。これに伴い、クッション120も、付勢部材122の方向D1への付勢力に抗い、方向D2に下降する。
【0080】
また、パンチ230が方向D2に下降する際に、押圧部232がパッド240の傾斜面241を押圧することで、パッド240は、付勢部材242の付勢力に抗い方向D4に移動する。これにより、
図18に示すようにパッド240とクッション120の間の隙間が大きくなる。そして、パッド240が方向D4へ移動する際に、パンチ部231から荷重を受けた一次成形品80の縦壁部83は、方向D2において縮む一方で、隙間を埋めるように方向D4に膨らむ。このとき、パッド240が、増肉中の縦壁部83への接触状態を維持しながら方向D4へ移動するので、縦壁部83が撓んで座屈することを防止できる。この結果、縦壁部83を均一な厚さt2に増肉させることが可能となる。
【0081】
そして、
図19に示すようにパンチ230が下死点に達するまで、クッション120およびパッド240が移動し続ける。そして、パンチ230が下死点に達すると、移動したパッド240とクッション120の間隔が、縦壁部83の増肉後の厚みt2と同じ大きさになる。これにより、縦壁部83が厚みt2に増肉されることになる。この際、上壁部82と縦壁部83のコーナ部85、および縦壁部83とフランジ部84のコーナ部86も、増肉される。なお、縦壁部83は、ひずみを生じながら増肉するので硬くなる。
【0082】
一方で、パンチ230が下死点に達するまで、一次成形品80の上壁部82およびフランジ部84は、厚みt1を維持している。この結果、プレス加工が完了すると、
図1に示すような縦壁部13、およびコーナ部15、16を増肉させた二次成形品であるプレス成形品10が成形される。
【0083】
(2−3.変形例)
図20〜
図22を参照しながら、第2の実施形態の変形例に係るプレス成形品20およびプレス成形装置250の構成例について説明する。
【0084】
(2−3−1.プレス成形装置の構成例、および動作例)
図20〜
図22を参照しながら、第2の実施形態の変形例に係るプレス成形装置250の構成および動作の一例について説明する。プレス成形装置250も、一次成形品80のプレス加工を実施することによって、二次成形品である縦壁部23を増肉させたプレス成形品20を成形する。
【0085】
図20〜
図22は、第2の実施形態の変形例に係るプレス成形装置250の構成の一例を説明するための模式図である。なお、
図20は増肉のためのプレス加工の開始直前のプレス成形装置250の状態を示し、
図21はプレス加工中のプレス成形装置250の状態を示し、
図22はプレス加工終了時(パンチが下死点に位置する)のプレス成形装置250の状態を示している。
【0086】
プレス成形装置250は、
図20〜
図22に示すように、ダイ160と、クッション120と、パンチ230と、パッド240とを有する。なお、本変形例に係るプレス成形装置250において、ダイ160の構成は、上記の第1の実施形態の変形例に係るプレス成形装置150と同様である。また、クッション120、パンチ230、およびパッド240の構成は、プレス成形装置200と同一である。従って、本変形例では、個々の構成要素についての詳細な説明は省略する。
【0087】
続いて、プレス成形装置250のプレス加工時の動作例について説明する。
本動作例においては、
図20に示す状態からパンチ230およびクッション120が方向D2に下降し始め、一次成形品80に荷重が加わる。
【0088】
また、パンチ230が方向D2に下降する際に、押圧部232がパッド240の傾斜面241を押圧することで、パッド240が方向D4に移動して、
図20に示すようにパッド240とクッション120の間の隙間が大きくなる。この際に、パンチ部231から荷重を受けた一次成形品80の縦壁部83は、方向D2において縮む一方で、隙間を埋めるように方向D4に膨らむ。このとき、パッド240が、増肉中の縦壁部83への接触状態を維持しながら方向D4へ移動するので、縦壁部83の厚みがほぼ均一に大きくなる。この際、上壁部82と縦壁部83のコーナ部85、および縦壁部83とフランジ部84のコーナ部86も、増肉される。
【0089】
そして、
図22に示すようにパンチ230が下死点に達するまで、クッション120およびパッド240が移動し続ける。そして、パンチ230が下死点に達すると、移動したパッド240とクッション120の間隔が、縦壁部83の増肉後の厚みt2と同じ大きさになる。これにより、縦壁部83が厚みt2に増肉される際に、縦壁部83が撓んで座屈することを防止できる。この結果、縦壁部83を均一な厚さt2に増肉させることが可能となる。
【0090】
一方で、パンチ230が下死点に達するまで、一次成形品80の上壁部82は、厚みt1を維持している。この結果、プレス加工が完了すると、
図12に示すような縦壁部23、およびコーナ部25を増肉させた二次成形品であるプレス成形品20が成形される。
【0091】
<3.第3の実施形態>
(3−1.プレス成形品の概要)
図23を参照しながら、第3の実施形態に係るプレス成形品30の概要について説明する。
図23は、第3の実施形態に係るプレス成形品30の製造工程の一例を示す模式図である。
【0092】
第1および第2の実施形態に係るプレス成形品10は、
図2で説明したようにブランク70に対して2回のプレス加工を施すことで成形されていた。これに対して、第3の実施形態に係るプレス成形品30は、
図23に示すように、1回のプレス加工(
図23に示す成形工程S22)により成形される。すなわち、
図2に示すような一次成形品80を経ずに、準備工程S21で準備された平板であるブランク70から直にプレス成形品30を成形する。このため、プレス成形品30を製造する製造工程が少なくなり、生産性が向上することになる。
【0093】
プレス成形品30は、上壁部32と、縦壁部33と、フランジ部34とを有する。プレス成形品30を1回のプレス加工で成形しやすくするため、縦壁部33と上壁部32の成す角度が鈍角となっている。つまり、プレス成形品30は、縦壁部33の下端に向かって開いたハット状断面を有する。上壁部32およびフランジ部34の厚さは、ブランク70の板厚と同じ厚さt1であるが、縦壁部33は厚さt2に増肉されている。また、上壁部32と縦壁部33の間のコーナ部35、および縦壁部33とフランジ部34のコーナ部36も、増肉されている。
【0094】
(3−2.プレス成形装置の構成例)
図24〜
図27を参照しながら、第3の実施形態に係るプレス成形装置300の構成の一例について説明する。プレス成形装置300は、ブランク70に対してプレス加工を行い、縦壁部33を増肉させたプレス成形品30を成形する。
【0095】
図24〜
図27は、第3の実施形態に係るプレス成形装置300の構成の一例を説明するための模式図である。なお、
図24はプレス加工の開始直前のプレス成形装置300の状態を示し、
図25および
図26はプレス加工中のプレス成形装置300の状態を示し、
図27はプレス加工終了時(パンチが下死点に位置する)のプレス成形装置300の状態を示している。
【0096】
なお、本実施形態では、上記の第1および第2の実施形態で実施されたようなプレス加工、すなわち一次成形品80の縦壁部83を増肉させるプレス加工に加えて、平板であるブランク70を折り曲げて一次成形品80に対応する形状の中間的な被加工材を成形する追加のプレス加工が、プレス成形装置300によって、増肉のためのプレス加工の前段で実施されるといえる。
【0097】
プレス成形装置300は、
図24〜
図27に示すように、ダイ310と、クッション320と、パンチ330と、パッド340とを有する。
【0098】
ダイ310は、プレス成形装置300の下ホルダ(不図示)によって支持されている。ダイ310は、固定部312と、第1可動部314と、第2可動部316と、を有する。固定部312は、下ホルダに固定されたプレートである。
【0099】
第1可動部314は、固定部312上に移動可能に設けられている。第1可動部314は、パンチ330の第1押圧部334に押圧される第1被押圧面315aを有する。第1被押圧面315aが第1押圧部334に押圧されることで、第1可動部314は、クッション320に近づく方向に移動する。また、第1可動部314には、プレス成形品30のフランジ部34に相当する部位を支持するフランジ支持凹部315bが形成されている。さらに、第1可動部314のクッション320側には、クッション320のテーパ面321と接触する第1接触面315cが形成されている。第1接触面315cは、テーパ面321と平行な傾斜面である。
【0100】
第2可動部316は、第1可動部314上に移動可能に設けられている。第2可動部316は、パンチ330の第2押圧部336に押圧される第2被押圧面317aを有する。第2被押圧面317aは、第1被押圧面315aよりもクッション320側に位置している。第2被押圧面317aが第2押圧部336に押圧されることで、第2可動部316は、クッション320に近づく方向に移動する。また、第2可動部316の第2被押圧面317aの反対側には、パッド340に接触する第2接触面317bが形成されている。
【0101】
クッション320は、プレス成形装置300の下ホルダによって移動可能に支持されている。クッション320は、セットされたブランク70を下側から支持する。クッション320の側面には、クッション320の幅が底部から上部へ向けて小さくなるようにテーパ面321が形成されている。クッション320は、バネなどの付勢部材322により方向D1に付勢されている。また、クッション320は、両側に位置する第2可動部316の第2接触面317bに挟まれている。
【0102】
パンチ330は、プレス成形装置300の上ホルダ(不図示)によって移動可能に支持されている。パンチ330は、ブランク70の上方に位置しており、プレス加工する際に方向D2(方向D1の反対方向)に下降する。パンチ330は、プレス加工することで、平板であるブランク70をハット状断面に折り曲げるとともに、プレス成形品30の縦壁部33に対応する部位を増肉させる。パンチ330は、挟持部332と、第1押圧部334と、第2押圧部336と、連結部338と、を有する。
【0103】
挟持部332は、セットされたブランク70の上方に位置しており、クッション320との間でブランク70を挟持する。挟持部332は、付勢部材333により方向D2に付勢されている。
【0104】
第1押圧部334は、ダイ310の第1可動部314に対応する位置に設けられている。第1押圧部334は、パンチ330が下降した際に、第1可動部314の第1被押圧面315aを押圧する。これにより、第1可動部314が、
図26に示すように方向D3に移動する。また、第1可動部314の方向D3への移動に伴い、第1可動部314の第1接触面315cが、下降するクッション320との接触状態を維持する。なお、パンチ330が下降するに従い、第1可動部314の方向D3への移動量が大きくなる。
【0105】
第2押圧部336は、ダイ310の第2可動部316に対応する位置に設けられている。第2押圧部336は、パンチ330が下降した際に、第2可動部316の第2被押圧面317aを押圧する。これにより、第2可動部316が、
図26に示すように方向D4に移動する。また、第2可動部316の方向D4への移動に伴い、第2可動部316の第2接触面317bに接触するパッド340も、方向D4へ移動することになる。
【0106】
連結部338は、パッド340を付勢する付勢部材342に連結されている。連結部338は、パッド340とともに左右方向に移動できるようにパンチ330の本体部331に取り付けられている。なお、連結部338(パッド340)の移動量は、第2可動部316の移動量と同じであるが、第1可動部314の移動量より小さい。
【0107】
パッド340は、パンチ330の挟持部332の両側に位置して、ブランク70の上面に接触している。パッド340は、プレス加工中に、
図25に示すようにブランク70をハット状断面に折り曲げるパンチの機能を有する。この結果、プレス成形品30の上壁部32に対応する上壁部位72と、縦壁部33に対応する縦壁部位73と、フランジ部34に対応するフランジ部位74とが形成される。また、パッド340は、
図25〜
図27に示すように、縦壁部位73を挟んでクッション320と対向している。パッド340のクッション320に対向する対向面341は、クッション320のテーパ面321(縦壁部に面する第1傾斜面)と平行な傾斜面(第2傾斜面)を形成する。
【0108】
また、パッド340は、バネなどの付勢部材342により方向D5に付勢されている。付勢部材342は、その一方の端部がパッド340と連結され、他方の端部がパンチ330の連結部338に連結されている。パッド340は、接触する第2可動部316が方向D4へ移動する際に、第2接触面317bに押されて連結部338とともに方向D4へ移動する。そして、
図27に示すようにパンチ330が下死点に位置する際に、パッド340とクッション320の間隔が縦壁部33の厚みt2と同じ大きさになる。これにより、縦壁部位73が、厚さt1から厚さt2に増肉されることになる。この際、コーナ部位75、76も、増肉される。なお、縦壁部位73は、ひずみを発生しながら増肉するので硬くなる。
【0109】
(3−3.プレス成形装置の動作例)
次に、プレス成形装置300の動作例について、
図24〜
図27を参照しながら説明する。
【0110】
本動作例においては、
図24に示す状態からパンチ330が下降し始める。これに伴い、パッド340も下降し始める。この際、挟持部332とクッション320で挟持されたブランク70が、パッド340に押されて
図25に示すようにハット状断面に折り曲げられる(このとき、クッション320は下降しない。つまり、ブランク70上に当接されたパッド340は、クッション320、ダイ310、およびパンチ330の挟持部332に対して相対的に下降する)。プレス加工のこの段階(上記で追加のプレス加工とされた段階)で、ブランク70に上壁部位72、縦壁部位73、およびフランジ部位74が形成される。このとき、縦壁部位73の下端部を含むフランジ部位74は、ダイ310のフランジ支持凹部315bに当接される。また、縦壁部位73は、クッション320とパッド340との間に挟まれる。
【0111】
その後、更にパンチ330が下降すると、クッション320も挟持部332に押されて下降する。これにより、縦壁部位73が縮むことになる。また、パンチ330の下降に連動して、第1押圧部334が第1可動部314の第1被押圧面315aを押圧する。これにより、
図26に示すように、第1可動部314が方向D3へ移動し、第1接触面315cと下降するクッション320との接触状態が維持される。
【0112】
また、パンチ330の下降に連動して、第2押圧部336が第2可動部316の第2被押圧面317aを押圧する。これによって、
図26に示すように、第2可動部316が方向D4へ移動し、第2接触面317bに接触するパッド340をクッション320に近づく方向に移動させる。このとき、クッション320(具体的にはテーパ面321)とパッド340(具体的には対向面341)との間隔が少しずつ大きくなるように、第2被押圧面317aの傾斜が調節されている。
【0113】
より具体的には、テーパ面321は、クッション320が下降するのに伴って縦壁部位73から離れる方向に後退する。一方、対向面341は、パッド340がクッション320に近づくように移動される結果、後退するテーパ面321に追随するようにして縦壁部位73に向かって前進するのであるが、このときの対向面341の前進量は、テーパ面321の後退量よりも小さくなる。つまり、パンチ330およびクッション320の下降に伴って、テーパ面321および対向面341はいずれもクッション320の中心側に向かって移動するが、テーパ面321と対向面341との間隔は、少しずつ拡大する。
【0114】
これにより、縦壁部位73は、クッション320の下降に伴い上下方向(方向D2)には縮む一方で、左右方向(方向D4とは反対方向)には膨らむ。このとき、縦壁部位73とパッド340との接触が維持されるために、縦壁部位73が撓んで座屈することを防止できる。
【0115】
そして、
図27に示すようにパンチ330が下死点に達するまで、クッション320およびパッド340が移動し続ける。そして、パンチ330が下死点に達すると、移動したパッド340とクッション320の間隔が、縦壁部位73の増肉後の厚みt2と同じ大きさになる。これにより、縦壁部位73が厚みt2に増肉されることになる。この際、コーナ部位75、76も、増肉される。
【0116】
一方で、パンチ330が下死点に達するまで、ブランク70の上壁部位72およびフランジ部位74は、厚みt1を維持している。この結果、プレス加工が完了すると、縦壁部33、およびコーナ部35、36を増肉させたプレス成形品30が生成される。このように生成されたプレス成形品30も、前述した
図7〜
図11で説明したプレス成形品10と同様な特性を示し、例えば自動車のセンターピラーに利用した際に衝突性能を向上させることができる。
【0117】
本実施形態では、パッド340に接するダイ310の第2可動部316に形成された第2被押圧面317aと、パンチ330に形成される第2押圧部336とによって構成される駆動機構が、プレス加工中にパッド340をクッション320に近づく方向に移動させ、これによってパッド340の対向面341は縦壁部位73に向かって前進する。その一方で、クッション320の下降に伴って、クッション320のテーパ面321は縦壁部位73から離れる方向に後退する。上記の駆動機構は、対向面341の前進量がテーパ面321の後退量よりも小さくなるように調節されることによって、プレス加工中にパンチ330の下降に並行してクッション320とパッド340との間隔を拡大させる間隔調整機構としても機能する。このような間隔調整機構によって、プレス加工中にパッド340と縦壁部位73との接触を維持し、縦壁部位73の座屈を防止できることは、既に説明した通りである。
【0118】
(3−4.変形例)
第3の実施形態の変形例について説明する。以下では、
図28〜
図31を参照しながら、第3の実施形態の変形例に係るプレス成形装置350の構成および動作の一例について説明する。なお、プレス成形装置350により成形されるプレス成形品は、
図23に示すプレス成形品30のフランジ部34が無い点を除けば、プレス成形品30と同一である。
【0119】
図28〜
図31は、第3の実施形態の変形例に係るプレス成形装置350の構成の一例を説明するための模式図である。なお、
図28はプレス加工の開始直前のプレス成形装置350の状態を示し、
図29および
図30はプレス加工中のプレス成形装置350の状態を示し、
図31はプレス加工終了時(パンチが下死点に位置する)のプレス成形装置350の状態を示している。
【0120】
プレス成形装置350は、
図28〜
図31に示すように、ダイ360と、クッション320と、パンチ330と、パッド340とを有する。
【0121】
変形例に係るダイ360は、
図24〜
図27に示すプレス成形装置300のダイ310に対して、第1可動部364にフランジ支持凹部315bが形成されていない点を除けば、ダイ310の構成と同様である。また、プレス成形装置350のクッション320、パンチ330、およびパッド340の構成は、プレス成形装置300と同一である。このため、プレス成形装置350のダイ360、クッション320、パンチ330、およびパッド340の主な機能は、プレス成形装置300と同様である。
【0122】
続いて、プレス成形装置350のプレス加工時の動作例について説明する。本動作例においては、
図28に示す状態からパンチ330が下降し始める。これに伴い、パッド340も下降し始める。この際、挟持部332とクッション320で挟持されたブランク70が、パッド340に押されて
図29に示すようにハット状断面に折り曲げられる(このとき、クッション320は下降しない。つまり、ブランク70上に当接されたパッド340は、クッション320、ダイ360、およびパンチ330の挟持部332に対して相対的に下降する)。プレス加工のこの段階で、ブランク70に上壁部位72、および縦壁部位73が形成される。このとき、縦壁部位73の下端部は、ダイ360の第1可動部364に当接される。また、縦壁部位73は、クッション320とパッド340との間に挟まれる。
【0123】
その後、更にパンチ330が下降すると、クッション320も挟持部332に押されて下降する。これにより、縦壁部位73が縮むことになる。また、パンチ330の下降に連動して、第1押圧部334が第1可動部314の第1被押圧面315aを押圧し、第2押圧部336が第2可動部316の第2被押圧面317aを押圧する。これにより、
図30に示すように、第1可動部314が方向D3へ移動し、第1接触面315cと下降するクッション320との接触状態が維持される。また、第2可動部316が方向D4へ移動し、第2接触面317bに接触するパッド340をクッション320に近づく方向に移動させる。このとき、クッション320とパッド340の間隔が少しずつ大きくなるように、第2被押圧面317aの傾斜が調節されている。これにより、縦壁部位73は、クッション320の下降に伴い上下方向(方向D2)には縮む一方で、左右方向(方向D4とは反対方向)には膨らむ。このとき、縦壁部位73とパッド340との接触が維持されるために、縦壁部位73が撓んで座屈することを防止できる。
【0124】
そして、
図31に示すようにパンチ330が下死点に達するまで、クッション320およびパッド340が移動し続ける。そして、パンチ330が下死点に達すると、移動したパッド340とクッション320の間隔が、縦壁部位73の増肉後の厚みt2と同じ大きさになる。これにより、縦壁部位73が厚みt2に増肉されることになる。この際、コーナ部位75も、増肉される。
【0125】
一方で、パンチ330が下死点に達するまで、ブランク70の上壁部位72は厚みt1を維持している。この結果、プレス加工が完了すると、縦壁部33、およびコーナ部35を増肉させたプレス成形品が生成される。
【0126】
なお、上記では、プレス成形品10、20、30が、平坦な上壁部12、22、32をもつハット状断面またはU字状断面を有する例について説明した。しかし、プレス成形品の断面形状はこれらの例には限定されず、例えば
図32に示すように上壁部が曲率をもったハット状断面またはU字状断面であっても良い。
【0127】
図32は、その他の実施形態に係るプレス成形品50の構成の一例を示す斜視図である。プレス成形品50は、U字状断面で延びる長尺状の成形品である。プレス成形品50は、曲率をもった上壁部52と、縦壁部53とを有する。プレス成形品50は、U字状断面を有し板厚t1の一次成形品に対して、プレス成形装置によってプレス成形品10、20と同様に、縦壁部53が板厚t2に増肉されるようにプレス加工したものである。
【0128】
また、上記では、プレス成形品10、20、30が、直線的な縦断面(ハット状断面またはU字状断面に直交する方向の断面)を有する例について説明した。しかし、プレス成形品の縦断面形状はこれらの例には限定されず、例えば
図33、
図34、および
図35に示すように、湾曲した縦断面を有してもよい。
【0129】
図33は、上方に湾曲した縦断面を有するハット状断面のプレス成形品10bの構成の一例を示す斜視図である。プレス成形品10bでも、プレス成形品10と同様に、上壁部12およびフランジ部14の部分の板厚t1に対して、縦壁部13が板厚t2に増肉されている。
【0130】
図34は、上方に湾曲した縦断面を有するU字状断面のプレス成形品20bの構成の一例を示す斜視図である。プレス成形品20bでも、プレス成形品20と同様に、上壁部22の板厚t1に対して、縦壁部23が板厚t2に増肉されている。
【0131】
図35は、上方に湾曲した縦断面を有し、かつ曲率をもった上壁部52を有するU字状断面のプレス成形品50bの構成の一例を示す斜視図である。プレス成形品50bでも、プレス成形品50と同様に、上壁部52の板厚t1に対して、縦壁部53が板厚t2に増肉されている。
【0132】
また、上記では、プレス成形品10、20、30が、直線的な長手形状を有する例について説明した。しかし、プレス成形品の長手形状はこれらの例には限定されず、例えば
図36、
図37に示すように、湾曲した長手形状を有してもよい。
【0133】
図36は、湾曲した長手形状を有するハット状断面のプレス成形品10cの構成の一例を示す斜視図である。プレス成形品10cでも、プレス成形品10と同様に、上壁部12およびフランジ部14の部分の板厚t1に対して、縦壁部13が板厚t2に増肉されている。
【0134】
図37は、湾曲した長手形状を有するU字状断面のプレス成形品20cの構成の一例を示す斜視図である。プレス成形品20cでも、プレス成形品20と同様に、上壁部22の板厚t1に対して、縦壁部23が板厚t2に増肉されている。
【0135】
<4.まとめ>
上述した各実施形態において、パンチ130、230、330は、第1支持部材(クッション120、220、320)とともに第2支持部材(ダイ110、210、310)に対して相対的に下降することで、プレス成形品10、20、30の縦壁部13、23、33に対応する被加工材の部位(一次成形品80の縦壁部83、ブランク70の縦壁部位73)の高さを小さくさせる一方で、上記部位を第2厚さ(厚さt2)に増肉させるプレス加工を実行する。増肉部位を挟んでクッション120、220、320に対向するパッド140、240、340は、例えば
図3〜
図5に示すように付勢部材142により付勢されたり、
図17〜
図19、
図25〜
図27に示すように間隔調整機構(押圧部232および傾斜面241、または第1押圧部334、第2押圧部336、第1可動部314、および第2可動部316)によってクッション120、320との間隔が調整されたりすることによって、プレス加工中に増肉部位との接触を維持する。このため、増肉部位が撓むことを抑制できるので、プレス加工中に増肉部位に座屈が発生することも防止できる。この結果、被加工材の所定の部位を適切に増肉させることが可能となる。
【0136】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。