(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フィラー供給部は、前記攪拌領域に供給される前記フィラーの先端側に、供給方向とは垂直方向に少なくとも1MPa以上の圧力をかける請求項2記載の摩擦攪拌接合装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の摩擦攪拌接合装置および摩擦攪拌接合方法について、図面を参照して説明する。
【0014】
[摩擦攪拌接合方法]
先ず、本開示の摩擦攪拌接合方法について、
図1A、
図1Bを参照して概説する。
【0015】
本開示の摩擦攪拌接合方法は、
図1A、
図1Bに示すように、プローブ2と固定式ショルダ3を備えた形式の摩擦攪拌接合ツール1を用いる。摩擦攪拌接合を行うときには、摩擦攪拌接合ツール1は、プローブ2を回転駆動状態でワークW1,W2間の接合部、たとえば、
図1では角隅部cに没入させて、プローブ2の周りにワークW1,W2の素材の攪拌領域sを形成する。このとき、固定式ショルダ3は、各ワークW1,W2の面P1,P2との間に隙間4を隔てて配置され、プローブ2を角隅部cに沿って移動させて摩擦攪拌接合が施工されている間、この隙間4は常に保持される。
【0016】
更に、摩擦攪拌接合の施工中は、攪拌領域sにフィラー5が供給される。このフィラー5の供給量は、摩擦攪拌接合が或る単位長さ進行するときに、摩擦攪拌接合後に角隅部cに形成される、
図1Bに一点鎖線で示された、同じ単位長さ当たりの、フィレット(肉盛り)6の断面形状から幾何学的に求められるフィレット6の体積より大きい。
【0017】
このフィラー5の供給により、摩擦攪拌接合の施工中は、攪拌領域sにおいてプローブ2によりワークW1,W2の素材およびフィラー5の素材が軟化および攪拌され、ワークW1,W2の素材およびフィラー5の素材が混合された軟化物7(以下、素材軟化物7という)により、フィレット6が形成される。同時に、余剰分の素材軟化物7を、軟化した状態のまま隙間4に流入させる。これにより、摩擦攪拌接合時には、ワークW1,W2に対して相対移動する固定式ショルダ3と、ワークW1,W2の固定式ショルダ3と対向する面P1,P2との間に、素材軟化物7の層が形成される。
【0018】
[第1実施形態]
図2は摩擦攪拌接合装置の第1実施形態を示す概略切断側面図、
図3は一部切断概略正面図である。
図4A〜
図4Cは、本実施形態における摩擦攪拌接合ツールを拡大した図であり、
図4Aは正面図、
図4Bは切断側面図、
図4Cは背面図である。
図5Aおよび
図5Bは、本実施形態におけるフィラー供給部の拡大図であり、
図5Aは側面図、
図5Bは
図5AのB−B方向矢視図である。
【0019】
なお、
図1A、
図1Bと同じものには同一符号を付して、その説明を省略する。
【0020】
本実施形態の摩擦攪拌接合装置8は、
図2、
図3に示すように、プローブ2及び固定式ショルダ3を備えた摩擦攪拌接合ツール1と、プローブ2の回転駆動装置10を有して、摩擦攪拌接合ツール1の先端側となる第1端側に装着された主軸ユニット9と、主軸ユニット9と共に摩擦攪拌接合ツール1をワークW1,W2間の角隅部cに対して相対移動させる3軸型の門型の主軸位置決め機構(移動部)11と、この主軸位置決め機構11の制御装置12と、角隅部cの摩擦攪拌接合時にワークW1,W2の素材の攪拌領域sにフィラー5を供給するフィラー供給部13と、を備える。
【0021】
なお、角隅部cの摩擦攪拌接合を行う際に、角隅部cに対して摩擦攪拌接合ツール1を相対的に進行させる方向(
図1A、
図2では右方向)は、以下、摩擦攪拌接合進行方向という。
【0022】
摩擦攪拌接合ツール1は、
図4A〜
図4Cに示すように、回転駆動可能なプローブ2と、プローブ2の基端側の外周に配置された固定式ショルダ3とを備える。
【0023】
プローブ2は、軸心方向がワークW1,W2間の角隅部cの角度の二等分線に平行となる角度姿勢に配置されている。本実施形態では、角隅部cは直角であり、ワークW1,W2は、共に鉛直方向から45度ずつ傾斜させてある。そのため、プローブ2の軸心は、ワークW1,W2の双方に対して45度傾斜させて、鉛直方向に配置される。
【0024】
固定式ショルダ3は、プローブ2の先端寄りに配置される端部が、角隅部cを挟んだ両側の各ワークW1,W2の面P1,P2に対向して配置される2つのワーク対向面14a,14bを備えた山形(V字形状)とされている。更に、ワーク対向面14a,14bにより形成される山形の頂部となる部分には、
図4A、
図4Bに示すように、プローブ2よりも摩擦攪拌接合進行方向の前側に、ワークW1,W2の面P1,P2との間にフィラー5を挿入するための空隙16を形成する空隙形成用切欠部15が設けられている。なお、
図4Aでは、空隙16は、摩擦攪拌接合進行方向の垂直な断面が直角二等辺三角形状である例を示しているが、フィラー5を挿入可能であれば、フィラー5の断面に応じた形状等、図示した形状に限られない。
【0025】
一方、
図4B、
図4Cに示すように、固定式ショルダ3の山形の頂部となる部分において、プローブ2よりも摩擦攪拌接合進行方向の後側には、接合後の角隅部cに所望の断面形状のフィレット6が形成されるように、所望の断面形状に応じた形状で切り欠いたフィレット形成用切欠部17が設けられている。本実施形態では、フィレット6が、直角二等辺三角形の断面とされているため、フィレット形成用切欠部17の切欠き形状もそれに応じた形状とされている。したがって、たとえば、接合後の角隅部cにR(曲面)を有する形状のフィレット6を形成する場合は、フィレット形成用切欠部17は曲面を有するフィレット6の断面形状に応じた形状を有していればよい。
【0026】
摩擦攪拌接合ツール1は、
図2、
図3に示すように、主軸ユニット9の先端側に取り付けられる。この状態で、固定式ショルダ3は主軸ユニット9に回転が阻止された状態で保持され、プローブ2は、回転駆動装置10により回転駆動可能となる。
【0027】
主軸位置決め機構11は、
図2及び
図3に示すように、架台18上に、接合対象となるワークW1,W2を載置して角隅部cの延びる方向に沿って移動させるためのX軸テーブル19を備えている。
【0028】
更に、架台18上には、X軸テーブル19を跨ぐ門型フレーム20が設置され、門型フレーム20に、主軸ユニット9の鉛直方向(Z軸方向)の位置制御用のZ軸テーブル21が取り付けられている。Z軸テーブル21には、主軸ユニット9について、X軸テーブル19の移動方向(以下、X軸方向という)に直角な水平方向(以下、Y軸方向という)の位置制御を行うY軸テーブル22が取り付けられている。Y軸テーブル22には、主軸ユニット9が、X軸テーブル19の上方に配置された状態で取り付けられている。
【0029】
X軸テーブル19は、X軸方向に延びるように架台18上に設けられたガイドレール23と、水平な平板状としてガイドレール23にガイドブロック24を介してスライド自在に取り付けられた移動テーブル25と、移動テーブル25をガイドレール23の長手方向に移動させるX軸方向の直動機構としてのボールねじ機構26とを備える。
【0030】
ボールねじ機構26は、サーボモータ等の駆動モータ27と、その出力側に取り付けられた減速機28と、減速機28の出力側に連結されたねじ軸29と、ねじ軸29に取り付けられたナット部材30とを備える。
【0031】
更に、ボールねじ機構26は、架台18上における移動テーブル25との間に、ねじ軸29がガイドレール23と平行に延びる姿勢で設置されており、ナット部材30が、移動テーブル25に、取付部材31を介して取り付けられている。
【0032】
これにより、X軸テーブル19は、ボールねじ機構26において、駆動モータ27によって減速機28を介しねじ軸29を回転駆動させ、またその回転方向を切り替えることにより、ナット部材30と一緒に移動テーブル25を、X軸方向に往復移動させることができる。この際、X軸テーブル19は、駆動モータ27の回転量の検出信号、もしくは、リニアゲージや変位センサ等の図示しない位置検出部によるナット部材30や移動テーブル25の位置検出信号を基に、移動テーブル25の上側に載置して保持されるワークW1,W2の位置や移動速度を制御することができる。
【0033】
移動テーブル25の上側には、接合すべきワークW1とワークW2を、全長に亘り保持するための治具32が設けられている。治具32は、たとえば、
図4Aに示すように、上面側にV字状の溝33を備えて、この溝33の2つの斜面に、各ワークW1,W2を、一方のワークW1の端縁に他方のワークW2の端面を突き当てた姿勢で載置する。
【0034】
更に、治具32は、各斜面の上端側に、X軸方向に配列された多数の押さえ部材34を備えており、この押さえ部材34により各ワークW1,W2を溝33の内側に押し付けて固定する。これにより、ワークW1,W2同士の間の角隅部cの位置は、治具32によってX軸方向の全長に亘って保持される。
【0035】
治具32によるワークW1,W2の保持は、摩擦攪拌接合の際に、摩擦攪拌接合ツール1のプローブ2を角隅部cに没入させるためのZ軸方向の押圧荷重、及び、角隅部cに没入させた状態のプローブ2を角隅部cの長手方向に沿って移動させるときのX軸方向の荷重が作用しても、ワークW1,W2にずれが生じないような保持力で行われる。
【0036】
なお、
図4Aでは、ワークW1とワークW2の角隅部cが角継手の場合を例示したが、接合部となる角隅部cは、T字継手、重ね継手や十字継手であってもよい。これらの場合は、角隅部cを挟んでワークW1とワークW2の面P1,P2が共に傾斜面となるように配置されるときのワークW1とワークW2の姿勢に応じて、治具32の形状を適宜変更すればよい。
【0037】
又、治具32は、角隅部cを挟んだワークW1の面P1とワークW2の面P2が、共に鉛直方向から等しい傾斜角度で傾斜した姿勢で保持されることが好ましい。しかし、ワークW1とワークW2により角隅部cを形成するときの継手の形状や配置によっては、治具32は、ワークW1の面P1とワークW2の面P2が鉛直方向に対して互いに異なる傾斜角度となる状態で保持されてもよい。
【0038】
Z軸テーブル21は、
図2、
図3に示すように、門型フレーム20に設置された鉛直方向(Z軸方向)のガイドレール35と、X軸方向に垂直な鉛直面に沿う平板状としてガイドレール35にガイドブロック36を介してスライド自在に取り付けられた移動テーブル37と、移動テーブル37をガイドレール35の長手方向に移動させるZ軸方向の直動機構としてのボールねじ機構38とを備える。
【0039】
ボールねじ機構38は、サーボモータ等の駆動モータ39と、その出力側に取り付けられた減速機40と、減速機40の出力側に連結されたねじ軸41と、ねじ軸41に取り付けられたナット部材42とを備える。
【0040】
更に、ボールねじ機構38は、門型フレーム20のZ軸テーブル21の設置側の面における移動テーブル37との間に、ねじ軸41がガイドレール35と平行に延びる姿勢で設置されており、ナット部材42が、移動テーブル37に、ロードセル44と取付部材43を介して取り付けられている。
【0041】
これにより、Z軸テーブル21は、ボールねじ機構38において、駆動モータ39によって減速機40を介してねじ軸41を回転駆動させ、またその回転方向を切り替えることにより、ナット部材42と一緒に移動テーブル37を、Z軸方向である上下方向に往復移動させることができる。この際、Z軸テーブル21は、駆動モータ39の回転量の検出信号、もしくは、リニアゲージや変位センサ等の図示しない位置検出部によるナット部材42や移動テーブル37の位置検出信号を基に、後述するように移動テーブル37にY軸テーブル22を介して保持される主軸ユニット9及び摩擦攪拌接合ツール1の上下方向の位置を制御することができる。
【0042】
更に、Z軸テーブル21は、ロードセル44の検出信号を基に、摩擦攪拌接合の実施時に摩擦攪拌接合ツール1に付与される角隅部cに向く方向の押圧荷重を検出できる。
【0043】
又、図示しないが、Z軸テーブル21は、移動テーブル37の自重、及び、移動テーブル37と一緒に上下に移動するものの重量を支持する重力補償機構(自重補償機構、重量補償機構とも称する)を、門型フレーム20と移動テーブル37との間に介装してもよい。この構成によれば、ロードセル44により、摩擦攪拌接合ツール1に付与される角隅部cに対する押圧荷重を直接的に検出することが可能になる。
【0044】
Y軸テーブル22は、
図2、
図3に示すように、Z軸テーブル21の移動テーブル37に設置したY軸方向のガイドレール45と、X軸方向に垂直な鉛直面に沿う平板状としてガイドレール45にガイドブロック46を介してスライド自在に取り付けられた移動テーブル47と、移動テーブル47をガイドレール45の長手方向に移動させるY軸方向の直動機構としてのボールねじ機構48とを備える。
【0045】
ボールねじ機構48は、サーボモータ等の駆動モータ49と、その出力側に連結されたねじ軸50と、ねじ軸50に取り付けられたナット部材51とを備える。
【0046】
更に、ボールねじ機構48は、移動テーブル37と移動テーブル47との間に、ねじ軸50がガイドレール45と平行に延びる姿勢で設置されており、ナット部材51が、移動テーブル47に、取付部材52を介して取り付けられている。移動テーブル47には、主軸ユニット9が取り付けられている。
【0047】
これにより、Y軸テーブル22は、ボールねじ機構48において、駆動モータ49によってねじ軸50を回転駆動させ、またその回転方向を切り替えることにより、ナット部材51と一緒に移動テーブル47を、Y軸方向に往復移動させることができる。この際、Y軸テーブル22は、駆動モータ49の回転量の検出信号、もしくは、リニアゲージや変位センサ等の図示しない位置検出部によるナット部材51や移動テーブル47の位置検出信号を基に、移動テーブル47に保持された主軸ユニット9及び摩擦攪拌接合ツール1のY軸方向の位置を制御することができる。
【0048】
主軸位置決め機構11の制御装置12は、Z軸テーブル21とY軸テーブル22の制御により、主軸ユニット9に取り付けられた摩擦攪拌接合ツール1について、ワークW1,W2間の角隅部cが延びる方向に垂直な面内で上下方向及び水平方向の位置を制御する機能を備える。
【0049】
制御装置12は、X軸テーブル19の制御により、移動テーブル25上に治具32を介して保持されたワークW1,W2の角隅部cのX軸方向の位置を制御する機能を備える。
【0050】
又、制御装置12は、主軸ユニット9の回転駆動装置10の制御を介して、プローブ2の回転駆動を制御する。
【0051】
摩擦攪拌接合を行うときには、制御装置12は、先ず、
図2に示すように、X軸テーブル19の制御により、ワークW1,W2の角隅部cを、その長手方向の第1端(一端)側(
図1では左端側)に設定されている摩擦攪拌接合の始端側が主軸ユニット9の下方に位置するように配置する。次に、上記の状態で、制御装置12は、回転駆動装置10によるプローブの回転駆動を開始し、Y軸テーブル22とZ軸テーブル21の制御によって、プローブ2を角隅部cに没入させる。次いで、制御装置12は、X軸テーブル19の移動テーブル25の移動を開始して、ワークW1,W2間の角隅部cに沿ってプローブ2を相対的に移動させて、角隅部cの摩擦攪拌接合を実施する。その後、プローブ2が角隅部cの長手方向の第2端(他端)側(
図1では右端側)に設定されている摩擦攪拌接合の終端側に達すると、制御装置12は、移動テーブル25を停止させた後、Z軸テーブル21を制御し、プローブ2を角隅部cより抜き出す。
【0052】
更に、制御装置12は、上記のように摩擦攪拌接合を実施する間、Z軸テーブル21の制御によって、摩擦攪拌接合ツール1の固定式ショルダ3の位置を、
図1Bに示したように、ワークW1,W2の面P1,P2との間に隙間4を隔てた位置に保持する機能を備える。
【0053】
この隙間4を形成した位置に固定式ショルダ3を保持するために、たとえば、制御装置12が、X軸テーブル19に保持されたワークW1,W2の面P1,P2の位置の情報を基に、面P1,P2から所望の隙間4を隔てた位置を目標位置として、固定式ショルダ3の位置を制御すればよい。
【0054】
又、プローブ2を角隅部cに没入させるときには、Z軸テーブル21によってプローブ2に付与される押圧荷重の大小に応じて、プローブ2の没入量が増減する。又、角隅部cにプローブ2が没入した状態では、プローブ2と固定式ショルダ3との既知の位置関係を基に、固定式ショルダ3のワーク対向面14a,14bとワークW1,W2の面との距離が分かる。したがって、制御装置12は、角隅部cにプローブ2を没入させた状態でロードセル44によって検出されるプローブ2の押圧荷重を制御することで、ワークW1,W2の面P1,P2との間に所望の隙間4を形成した位置に固定式ショルダ3を保持してもよい。
【0055】
隙間4の寸法の下限及び上限は、プローブ2によって軟化および攪拌された素材軟化物7が、軟化状態のまま隙間4に流入し、固定式ショルダ3のワーク対向面14a,14bとワークW1,W2の面P1,P2との間で隙間4を埋めることが可能な寸法の範囲に設定される。
【0056】
すなわち、プローブ2により攪拌された素材軟化物7は流動性を有するが、あくまで固体であり、液体ではない。したがって、隙間4が小さすぎる場合は、素材軟化物が隙間4に流入するときの抵抗が大となり、この場合は、素材軟化物7は隙間4に広がることはできない。そのために、隙間4の寸法の下限は、素材軟化物7の流動性の大小に依存する。ワークW1,W2とフィラー5の素材がアルミニウム(アルミニウム合金)である場合は、隙間4の寸法は0.1mm以上に設定されることが好ましい。
【0057】
一方、隙間4の寸法の上限は、以下のようにして定まる。
【0058】
隙間4に入った素材軟化物7が流動性を有したまま隙間4全体に広がるためには、回転するプローブ2によって発生された熱(摩擦熱)が、隙間4に入った素材軟化物7全体に、軟化状態を維持できる温度条件で伝わる必要がある。
【0059】
プローブ2が発生させる熱の量は、プローブ2の構造や回転数や角隅部cへの没入量、角隅部cに対する相対移動速度などの摩擦攪拌接合の施工条件に依存する。そのため、摩擦攪拌接合の施工時には、プローブ2で発生させる熱によって軟化させることが可能な素材軟化物7の量(体積)は、その素材の性質や伝熱特性などに応じて上限がある。したがって、フィレット6の形成に用いられる素材軟化物7の余剰分の素材軟化物7が流入および広がることが可能な隙間4の容積の上限も定まる。よって、その隙間4の容積の上限値を、固定式ショルダ3のワーク対向面14a,14bの面積で割ることにより、隙間4の寸法の上限値が定まる。
【0060】
又、摩擦攪拌接合後には、隙間4に入った素材軟化物7の固化したものが、ワークW1,W2の面P1,P2から突出した状態になる。そのため、ワークW1,W2の種類によっては、この面P1,P2に形成される突出部分に対する応力集中の抑制が望まれる場合があり、この観点から、隙間4の寸法の上限値が設定されるようにしてもよい。
【0061】
このようにして隙間4の寸法が定まると、隙間4の摩擦攪拌接合進行方向に関する単位長さ当たりの容積が決まる。したがって、前述したフィラー5の供給量は、角隅部cに形成されるフィレット6の単位長さ当たりの体積に、隙間4の摩擦攪拌接合進行方向に関する単位長さ当たりの容積分を足した量以上になるように設定される。
【0062】
フィラー供給部13は、たとえば、
図1Aに示したようなワイヤ状のフィラー5を、
図4A、
図4Bに示した固定式ショルダ3の空隙形成用切欠部15によりワークW1,W2との間に形成された空隙16を通して、攪拌領域sに供給するものである。
【0063】
そのために、
図2に示すように、フィラー供給部13は、主軸ユニット9の下端側(先端側)に、摩擦攪拌接合ツール1の取り付け個所よりも摩擦攪拌接合進行方向の前方となる配置で設けられたブラケット53を備えている。
【0064】
ブラケット53の下側には、
図5A、
図5Bに示すように、フィラー5を上方から押さえるローラ54を保持したフレーム55が配置されている。フレーム55の上側には、上下方向に延びる複数本、たとえば、2本のガイドロッド56が立設され、このガイドロッド56が、ブラケット53に設けられた上下方向のガイド孔(図示せず)に下方から挿通されて、上端側に抜け止め部材57が取り付けられている。フレーム55の上面とブラケット53の下面との間のガイドロッド56の外周には、加圧部としてのスプリング58が嵌められている。
【0065】
フィラー供給部13は、摩擦攪拌接合時に、摩擦攪拌接合ツール1よりも摩擦攪拌接合進行方向の前側に位置する角隅部cに沿ってフィラー5が予め配置されている状態で、プローブ2を角隅部cに近接させるように主軸ユニット9を下降させると、ローラ54がフィラー5に上方から接触する。この状態から、プローブ2が角隅部cに没入する位置まで主軸ユニット9を更に下方移動させると、ローラ54のフレーム55と、ブラケット53との間でスプリング58が収縮し、この収縮したスプリング58の復元力により、ローラ54をフィラー5に対し上方から押し付けて加圧することができる。
【0066】
なお、加圧部は、スプリング58を例示したが、ローラ54に、フィラー5に向く方向の押し付ける力を付与できるものであればよく、ガススプリングや流体圧シリンダ等、他の任意の形式の加圧部を採用してもよく、更に、アクチュエータのような能動的に加圧力を発生する加圧部を採用してもよい。
【0067】
これにより、フィラー5は角隅部cに固定される。この状態で、摩擦攪拌接合ツール1による角隅部cの摩擦攪拌接合が進行すると、フィラー5は、固定式ショルダ3の空隙形成用切欠部15とワークW1,W2の面P1,P2との間に形成された空隙16に導かれて、攪拌領域sに導入されるようになる。
【0068】
更に、フィラー供給部13は、攪拌領域sに対して供給されるフィラー5の先端側に、供給方向とは垂直方向に少なくとも1MPa以上の圧力をかける。
【0069】
本実施形態では、フィラー5は角隅部cに押さえつけられた状態で、摩擦攪拌接合ツール1による角隅部cの摩擦攪拌接合の進行に伴って、相対的に攪拌領域sに供給される。したがって、本実施形態では、フィラー5と角隅部cの両側のワークW1,W2の面P1,P2との間に生じる摩擦力(最大摩擦力)は、摩擦面となる面P1およびP2にかかる圧力、面P1およびP2の面積および摩擦係数の積であると同時に、フィラー5の先端側にかかる圧力とフィラー5の断面積との積である。よって、フィラー5の先端側に、フィラー5の供給方向とは垂直方向に少なくとも1MPa以上の圧力がかかるように、フィラー5と面P1,P2との摩擦係数を考慮して、ローラ54によりフィラー5を加圧するときの加圧力が設定される。なお、攪拌領域sに対して供給されるフィラー5の先端側にかける圧力の上限は、フィラー5のローラ54によって押さえられた位置から先端までの座屈強度によって定まる。
【0070】
本実施形態では、フィラー5は角隅部cに固定されている。このため、前述したフィラー5の供給量を得るために、フィラー5の断面積は、角隅部cに形成するフィレット6の断面積に、隙間4の摩擦攪拌接合進行方向に垂直な断面での断面積を足した面積以上となるように設定される。
【0071】
以上より、本実施形態の摩擦攪拌接合装置8によれば、ワークW1,W2間の角隅部cに摩擦攪拌接合ツール1のプローブ2を没入させた後、プローブ2を角隅部cに沿わせて移動させることで、ワークW1,W2の角隅部cが摩擦攪拌接合される。
【0072】
この際、摩擦攪拌接合ツール1の固定式ショルダ3は、ワークW1,W2の面P1,P2に対して非接触とされる。更に、固定式ショルダ3のワーク対向面14a,14bと、ワークW1,W2の面P1,P2との間の隙間4に、素材軟化物7が存在しているため、固定式ショルダ3に素材軟化物7の固化したものが付着して蓄積することは抑制される。又、たとえ固定式ショルダ3に、素材軟化物7の固化したものが付着したとしても、その付着物がフィレット6の表面を擦ることは防止される。
【0073】
したがって、本実施形態の摩擦攪拌接合装置によれば、ワークW1,W2同士の接合部である角隅部cを、固定式ショルダ3を備えた摩擦攪拌接合ツール1を用いてフィラー5を加えながら摩擦攪拌接合する際に、角隅部cに形成させるフィレット6の表面に欠陥が生じることを抑制することができる。
【0074】
[第2実施形態]
図6は、摩擦攪拌接合装置の第2実施形態を示すもので、
図6A、
図6Bはいずれもフィラー供給部の他の例を示す概要図である。
【0075】
なお、
図6A、
図6Bにおいて、第1実施形態に示したものと同一のものには同一符号を付して、その説明を省略する。
【0076】
図6Aに示すフィラー供給部13aは、第1実施形態のフィラー供給部13と同様の構成において、ローラ54に、回転駆動部としての駆動モータ59を接続したものである。なお、
図6Aでは簡略化して示されているが実際には、駆動モータ59とローラ54との間には、ギアや、チェーンとスプロケット等の回転駆動力を伝達する動力伝達機構を備える。
【0077】
駆動モータ59によるローラ54の回転駆動方向は、
図6Aにおける時計回りの方向であり、ローラ54は、ローラ54が上方から押し付けられているフィラー5が、摩擦攪拌接合ツール1へ向く方向へ送られるように、フィラー5に駆動力を付与する。
【0078】
このフィラー供給部13aによれば、ローラ54を回転駆動することによって、フィラー5を能動的に攪拌領域sへ供給することができる。
【0079】
図6Bに示すフィラー供給部13bは、第1実施形態のフィラー供給部13と同様の構成において、ローラ54よりも摩擦攪拌接合進行方向の前側に、フィラー5の送出部60を備える。
【0080】
送出部60は、たとえば、フィラー5を挟む配置とされた一対の送り出しローラ61と、各送り出しローラ61を互いに対向する方向に回転駆動する図示しない回転駆動部とを備える。送り出しローラ61によるフィラーの送り出し方向は、
図6Bにおける左向きであり、フィラー5が、摩擦攪拌接合ツール1へ向く方向へ送られるように、送り出しローラ61は、フィラー5に駆動力を付与する。
【0081】
このフィラー供給部13bによれば、送出部60より送り出されるフィラー5を、ローラ54によってガイドしながら能動的に攪拌領域sへ供給することができる。
【0082】
なお、
図6A、
図6Bのいずれの場合においても、フィラー供給部13a,13bは、攪拌領域sに供給されるフィラー5の先端側に、供給方向とは垂直方向に少なくとも1MPa以上の圧力をかける。
【0083】
したがって、
図6A、
図6Bのフィラー供給部13a,13bによれば、角隅部cに形成するフィレット6の断面積に、隙間4の摩擦攪拌接合進行方向に垂直な断面での断面積を足した値よりも断面積が小さいフィラー5を使用することが可能になる。したがって、第1実施形態のフィラー5の供給量を所定量とする場合に、第2実施形態におけるフィラー5の供給量は、上記所定量と同等又はそれ以上とすることが可能である。
【0084】
図7Aに従来の摩擦攪拌接合による接合部の写真を、
図7Bに本開示における摩擦攪拌接合による接合部の写真を示す。
図7Aから、ワークW1とワークW2との間に隙間4が形成されていないこと又はフィラー5の供給不足により、摩擦攪拌接合による接合部に複数の欠陥が発生していることがわかる。一方、
図7Bから、本開示における摩擦攪拌接合による接合部は、ワークW1とワークW2との間に隙間4が形成され、又フィラー5の供給量が十分であったことにより、欠陥が形成されていないことがわかる。
【0085】
なお、フィラー5は、断面形状が丸いものとして示したが、角断面やその他任意の断面形状のフィラーを使用してもよい。又、フィラー5は、ワイヤ状のものとして説明したが、棒状であってもよい。
【0086】
又、本開示は、上記各実施形態にのみ限定されない。第1実施形態では、フィラー供給部13が、フィラー5を角隅部cに固定し、このフィラー5が、摩擦攪拌接合ツール1の進行に伴って相対的に攪拌領域sに供給されるものとして示したが、フィラー5が、プローブ2やプローブ2の周囲に形成されている攪拌領域sに存在している素材軟化物7により、摩擦攪拌接合進行方向に押し戻される現象が生じてもよい。この場合は、フィラー5が押し戻されても、フィラー5の供給量が前述した所定量となるように、角隅部cに形成されるフィレット6の断面積に、隙間4の摩擦攪拌接合進行方向に垂直な断面での断面積を足した面積を超える断面積のフィラー5を使用するようにすればよい。
【0087】
第1実施形態では、摩擦攪拌接合の接合対象となるワークW1,W2が、ワークW1の端縁に、ワークW2の端面が接した状態で配置されているものとして示したが、ワークW1とワークW2との間に隙間が形成されていてもよい。この場合は、治具32に、ワークW1,W2を、隙間を開けて配置した状態で保持させ、この状態で摩擦攪拌接合を実施するようにすればよい。又、この場合は、素材軟化物7がワークW1,W2間の隙間に入るため、この隙間に入る量を見込んだ量で、フィラーの供給量を定めればよい。
【0088】
本開示の摩擦攪拌接合装置および摩擦攪拌接合方法は、ワークW1,W2が、角隅部cが上方に開いた姿勢で配置された状態で摩擦攪拌接合する場合の例について説明したが、ワークW1,W2間の角隅部cがいかなる向きであってもよい。この場合は、ワークW1,W2間の角隅部cが延びる方向をX軸とし、それに垂直な面内にY軸とZ軸が設定された3次元直交座標系の向きを、ワークW1,W2の姿勢に合わせて配置するようにすればよい。
【0089】
又、本開示の摩擦攪拌接合装置および摩擦攪拌接合方法は、第1のワークと、第1のワークの面P1に対して交わる角度姿勢で端縁と接して配置される第2のワークにより、第2のワークを挟んだ両側に形成される角隅部cを、第2のワークの両側にそれぞれ配置される2つの摩擦攪拌接合ツールによって摩擦攪拌接合する場合に適用してもよい。
【0090】
更に、本開示の摩擦攪拌接合装置および摩擦攪拌接合方法は、たとえば、平板状のワークの端部同士を突き合わせた接合部の摩擦攪拌接合に適用してもよい。この場合は、摩擦攪拌接合ツールとして、フラットなワーク対向面を有する固定式ショルダを備えた摩擦攪拌接合ツールを使用する。この摩擦攪拌接合では、フィレット6が存在しないため、フィラー5の供給量は、各ワーク同士の突き合わせ部位に形成されている空隙の充填に必要とされる体積に、各ワークの表面に対して隙間を隔てて固定式ショルダを配置するときの隙間4を埋めるために必要とされる体積を足した量以上として設定すればよい。
【0091】
ワークW1,W2の角隅部cに対し、角隅部に沿う方向に主軸ユニット9と共に摩擦攪拌接合ツール1を相対移動させるための移動部としては、主軸ユニット9を支持する門型フレーム20を固定し、ワークW1,W2を移動させる形式の主軸位置決め機構11を例示した。しかしながら、たとえば、ワークW1,W2を固定し、その上方を跨ぐ門型フレーム20を移動式とするなど、図示した以外の任意の形式の移動部を採用してもよい。
【0092】
その他本開示の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加えてもよい。