(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内輪が外嵌されたハブ本体にかしめ部を形成する工程であり、前記かしめ部は軸方向内端部に設けられた円筒部を径方向外方に塑性変形させる事により形成され、前記内輪は、軸方向内端面を、中心軸に対して直交する平面部とすると共に、前記平面部と内周面とを面取り部を介して連続させており、且つ、これら平面部及び面取り部に、前記かしめ部が接触する、前記工程と、
前記かしめ部を形成した後、前記かしめ部の軸方向内端面に形成された円周方向に関する凹凸部であるハブ側フェイススプラインを形成する工程であり、前記かしめ部の軸方向内端面に、前記ハブ本体の中心軸に対し傾斜した中心軸を有するロールの軸方向先端面に設けられた、円周方向に関する凹凸面である加工面を押し付けた状態で、前記ロールを、前記ハブ本体の中心軸を中心として回転させ、前記ロールの加工面と前記かしめ部の軸方向内端面との係合に基づいて、前記ロールを自身の中心軸を中心として自由に回転させる揺動鍛造を施す事により、前記かしめ部の軸方向内端面に前記ハブ側フェイススプラインを形成する、前記工程と、
を備え、
前記かしめ部を前記内輪の平面部及び面取り部に接触させた状態で前記揺動鍛造が開始され、且つ、前記揺動鍛造の開始時に於ける前記かしめ部の軸方向内端面と前記ロールの加工面との接触部が、前記かしめ部と前記内輪の平面部及び面取り部との接触部に対して軸方向に重畳する、
車輪支持用軸受ユニットの製造方法。
前記揺動鍛造を開始してから終了するまでの間の、前記ハブ本体の軸方向に関する前記ハブ本体と前記ロールとの相対変位量を所定値とする条件下で、前記揺動鍛造を開始する前の前記かしめ部のうち、前記内輪の平面部よりも軸方向内側に位置する部分の軸方向厚さである初期かしめ部厚さと、前記揺動鍛造を終了した後の前記ハブ側フェイススプラインの歯丈との間に成立する関係を、予め調べておき、前記条件下で前記揺動鍛造を行う場合に、所望の歯丈を有する前記ハブ側フェイススプラインを形成する為に必要となる、前記初期かしめ部厚さを、前記関係を利用して決定する
請求項1に記載した車輪支持用軸受ユニットの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図8は、車輪支持用転がり軸受ユニット(車輪支持用軸受ユニット)の一例であり、特許文献1に記載されたものを示している。
図8に示した車輪駆動用軸受ユニットは、車輪支持用転がり軸受ユニット1と、等速ジョイント用外輪2とを備える。
【0013】
車輪支持用転がり軸受ユニット1は、外輪3と、ハブ4と、複数個の転動体5、5とを備える。外輪3は、例えば、S53C等の中高炭素鋼製である。外輪3は、外周面に静止側フランジ6を、内周面に複列の外輪軌道7a、7bを、それぞれ有する。ハブ4は、ハブ本体8と内輪9とを組み合わせて形成されている。ハブ本体8は、外周面のうち、軸方向外端寄り部分に回転側フランジ10を有している。ハブ本体8は、軸方向中間部に軸方向外側の内輪軌道11aを、軸方向内端部に小径段部12を、それぞれ有する。また、ハブ本体8は、径方向中心部に軸方向の中心孔13を有する。中心孔13の軸方向外端部には、結合部材であるボルト14の杆部15を所定の案内隙間を介して挿通可能な小径部16が存在する。ハブ本体4は、例えば、S53C等の中高炭素鋼製である。
【0014】
尚、軸方向に関して「外側(第1側)」とは、自動車への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、
図8の軸方向片側、
図1、3〜5の下側を言う。自動車への組み付け状態で車両の中央側となる、
図8の軸方向他側、
図1、3〜5の上側を、軸方向に関して「内側(第2側)」と言う。
【0015】
内輪9は、外周面に軸方向内側の内輪軌道11bを有する。内輪9は、軸方向内端面が、中心軸に対して直交する円輪状の平面部30を有する。内輪9は、平面部30と円筒面状の内周面とが、断面形状が円弧形の面取り部31を介して連続している。内輪9は、ハブ本体8の小径段部12に締り嵌めで外嵌されている。又、内輪9は、例えば、SUJ2等の軸受鋼製である。
【0016】
各転動体5、5は、両外輪軌道7a、7bと両内輪軌道11a、11bとの間に、両列毎に複数個ずつ転動自在に設けられている。各転動体5、5は、例えば、SUJ2等の軸受鋼製である。尚、図示の例では、各転動体5、5として玉を使用しているが、重量の嵩む自動車用の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合には、円すいころを使用する場合もある。
【0017】
又、この状態で、ハブ本体8の軸方向内端部に設けられた円筒部17のうち、内輪9の軸方向内端開口から突出した部分を径方向外方に塑性変形させる事によりかしめ部18が形成されている。かしめ部18により、内輪9の軸方向内端面(平面部30)及び面取り部31が抑え付けられ、ハブ本体8に対する内輪9の軸方向内側への変位が防止される。又、かしめ部18の軸方向内端面には、円周方向に関する凹凸部であるハブ側フェイススプライン19が、全周に亙り設けられている。
【0018】
等速ジョイント用外輪2は、カップ状のマウス部20と、マウス部20の底部である端壁部21と、端壁部21の中心部から軸方向外方に延出する円筒状の軸部22とを有する。又、軸部22の内周面には、雌ねじ部23が設けられている。又、端壁部21の軸方向外端面の外周寄り部分には、円周方向に関する凹凸部であるジョイント側フェイススプライン24が、全周に亙り設けられている。
【0019】
ハブ本体8と等速ジョイント用外輪2との中心軸同士を一致させた状態で、ハブ側、ジョイント側両フェイススプライン19、24同士を噛み合わせる事により、ハブ本体8と等速ジョイント用外輪2との間での回転力の伝達を可能としている。又、この状態で、ハブ本体8の中心孔13の小径部16に、軸方向外側からボルト14の杆部15を挿通すると共に、杆部15の先端部に設けた雄ねじ部25を雌ねじ部23に螺合し、更に締め付けている。これにより、ボルト14の頭部26と等速ジョイント用外輪2との間にハブ本体8を挟持した状態で、これらハブ本体8と等速ジョイント用外輪2とが結合固定されている。
【0020】
上述の様に構成される車輪駆動用軸受ユニットを車両に組み付ける際には、外輪3の静止側フランジ6を懸架装置に結合固定すると共に、ハブ本体8の回転側フランジ10に車輪及びディスク等の制動用回転部材を支持固定する。又、エンジンによりトランスミッションを介して回転駆動される、図示しない駆動軸の先端部を、等速ジョイント用外輪2の内側に設けた等速ジョイント用内輪27の内側にスプライン係合させる。自動車の走行時には、等速ジョイント用内輪27の回転を、複数のボール28を介して、等速ジョイント用外輪2及びハブ本体8に伝達し、車輪を回転駆動する。
【0021】
上述の様に構成する車輪駆動用軸受ユニットを構成する車輪支持用転がり軸受ユニット1を組み立てる際には、先ず、ハブ本体8の周囲に外輪3を配置すると共に、両外輪軌道7a、7bのうち、軸方向外側の外輪軌道7aと、軸方向外側の内輪軌道11aとの間に各転動体5、5を、軸方向外側の保持器29aにより保持した状態で設ける。その後、内輪9の外周面に形成した軸方向内側の内輪軌道11bの周囲に各転動体5、5を、軸方向内側の保持器29bにより保持した状態で設置する。この状態で内輪9を、ハブ本体8の軸方向内端部に形成された小径段部12(ハブ本体8の軸方向内端寄り部分)に締り嵌めで外嵌する。この外嵌作業に伴い、軸方向内側の保持器29bにより保持した(軸方向内側列の)各転動体5、5の転動面を、外輪3の軸方向内端寄り部分の内周面に形成した軸方向内側の外輪軌道7bに当接させる。その後、ハブ本体8の軸方向内端部に設けられた円筒部17のうち、内輪9の軸方向内端開口から突出した部分を径方向外方に塑性変形させる事により、かしめ部18を形成する。
【0022】
その後、かしめ部18の軸方向内端面に、成形型であるロール32(実施の形態の第1例を示す
図1参照)を用いて揺動鍛造を施す事により、ハブ側フェイススプライン19を形成する。ここで、揺動鍛造とは、かしめ部18の軸方向内端面とロール32の加工面とが接触してからハブ側フェイススプライン19の形成(塑性加工)が完了するまでの工程を言う。この様な揺動鍛造を行う為に具体的には、ロール32の先端面(
図1に於ける下端面)に、凸部(加工歯)33、33と凹部34、34とを円周方向に関して交互に配置して成る(円周方向に関する凹凸面である)、加工面35を設けている。そして、ロール32の中心軸βをハブ本体8の中心軸αに対し所定角度θだけ傾斜させると共に、加工面35をかしめ部18の軸方向内端面に押し付けた状態で、ロール32を、ハブ本体8の中心軸αを中心として回転(公転)させる。ここで、ロール32は、自身の中心軸βを中心とする回転(自転)を可能に支持されている。この為、上述の様にロール32をハブ本体8の中心軸αを中心として回転(公転)させると、加工面35とかしめ部18の軸方向内端面との係合に基づいて、ロール32が自身の中心軸βを中心として回転(自転)する。この結果、加工面35を構成する凸部33、33がかしめ部18の軸方向内端面に徐々に食い込む事により、かしめ部18の軸方向内端面に、円周方向に関する凹凸面である、ハブ側フェイススプライン19が形成される。
【0023】
ところで、車輪支持用転がり軸受ユニット1の製造コストを抑える、又は品質を向上させる観点からは、上述した様な揺動鍛造によってかしめ部18の軸方向内端面にハブ側フェイススプライン19を効率良く形成できる様にする事が好ましい。具体的には、かしめ部18の軸方向内端面に加えたロール32の加工面35の押し付け力が、ハブ側フェイススプライン19の形成に寄与する割合を多くする事により、例えば、揺動鍛造の加工ストロークを所定値とする条件下で揺動鍛造を行った場合の、ハブ側フェイススプライン19の歯丈(溝底面を基準とする歯の高さ)を大きくできる様にする事が好ましい。ここで、揺動鍛造の加工ストロークとは、前記揺動鍛造を開始(かしめ部18の軸方向内端面とロール32の加工面35とが接触)してから終了(ハブ側フェイススプライン19の形成が完了)するまでの間の、ハブ本体8の軸方向に関する、ハブ本体8とロール32との相対変位量を言う。
【0024】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例に就いて、
図1〜4により説明する。本例において、車輪支持用転がり軸受ユニット(車輪支持用軸受ユニット)の製造方法は、
図2に示すように、内輪9が外嵌されたハブ本体8を揺動プレス機構100にセットする第1工程(S101)と、ハブ本体8が内輪9に対してかしめられるように、第1面(第1加工面、第1成型面、かしめ用部材、第1部材)45を用いたプレスにより、ハブ本体8の軸方向の端部にかしめ部(clinched portion)18を形成する第2工程(S102)と、第1面45と異なる第2面(第2加工面、第2成形面、加工用部材、加工歯、第2部材)35を用いた揺動プレスにより、かしめ部18が形成されたハブ本体8の端部にフェイススプライン19を形成する第3工程(S103)とを含む。第2工程(S102)の揺動プレスにおいて、第2面35がハブ本体8(かしめ部18)に最初に接するプレス位置Pが内輪9の内周面41に比べて径方向外方に位置する。本例において、ハブ本体8の軸方向内端部にかしめ部18を形成した後、成形型であるロール32を用いた揺動鍛造によって、かしめ部18の軸方向内端面に、円周方向に関する凹凸面である、ハブ側フェイススプライン19が形成される。製造対象となる車輪支持用転がり軸受ユニット1の基本構造は、前述の
図8に示した構造と同様である。又、金属材料に、鍛造加工等の塑性加工、旋削等の削り加工、研磨等の仕上加工を施して、車輪支持用転がり軸受ユニット1を構成する各部材を製造する手順等に就いては、従来から広く知られている車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法と同様であるから、説明を省略する。
【0025】
本例において、車輪支持用転がり軸受ユニット1を組み立てる場合には、前述した製造方法の場合と同様、ハブ本体8(
図8参照)の周囲に外輪3を配置すると共に、軸方向外側の外輪軌道7aと、軸方向外側の内輪軌道11aとの間に複数の転動体5、5を、軸方向外側の保持器29aにより保持した状態で設ける。その後、内輪9の外周面に形成した軸方向内側の内輪軌道11bの周囲に転動体5、5を、軸方向内側の保持器29bにより保持した状態で設置し、この状態で内輪9を、ハブ本体8の軸方向内端部に形成された小径段部12(ハブ本体8の軸方向内端寄り部分)に締り嵌めで外嵌する。そして、この外嵌作業に伴い、軸方向内側列の転動体5、5の転動面を、外輪3の軸方向内端寄り部分の内周面に形成した軸方向内側の外輪軌道7bに当接させる。その後、ハブ本体8の軸方向内端部に設けられた円筒部17のうち、内輪9の軸方向内端開口から突出した部分を、例えばかしめ部を形成する為の、第1面(かしめ用部材、第1部材)45を用いた、揺動鍛造により径方向外方に塑性変形させる事で、かしめ部18を形成する。
【0026】
特に、本例の場合には、この様にかしめ部18を形成した状態で、
図3又は
図4に示す様に、かしめ部18を、内輪9の軸方向内端面である平面部30と、平面部30の径方向内側に隣接して設けられた面取り部31とに接触(着座)させている。尚、前述した様に、平面部30は、内輪9(及びハブ本体8)の中心軸に直交する円輪状の平面である。又、面取り部31は、平面部30と内輪9の円筒面状の内周面とを連続させる、断面形状が円弧形で円環状の凸曲面であり、径方向内側に向かう程軸方向外側に向かう方向に傾斜している。
【0027】
本例の場合には、その後、
図1、及び、
図3又は
図4に示す様に、かしめ部18の軸方向内端面に、ロール32を用いて揺動鍛造を施す事により、ハブ側フェイススプライン19(
図8参照)を形成する。尚、
図1は、前記揺動鍛造を行う為の装置(軸受ユニットの製造装置、揺動プレス機構100)のうち、ロール32のみを示すと共に、製造対象となる車輪支持用転がり軸受ユニット1のうち、ハブ本体8の軸方向内端部乃至内端寄り部分及び内輪9のみを示しており、その他の部分の図示を省略している。一例において、軸受ユニットの製造装置は、かしめ加工用の第1面(かしめ用部材、第1部材)45と、フェイススプライン加工用の歯を有する第2面(加工用部材、加工歯、第2部材)35と、揺動プレス機構100とを備える。一例において、第1面45を用いた加工の後、第1面45が第2面35に置き換えられる。揺動プレス機構100は、内輪9が外嵌されたハブ本体8が内輪8に対してかしめられるように、第1面45を用いたプレスにより、ハブ本体8の軸方向の端部にかしめ部18を形成する第1モードと、第2面35を用いた揺動プレスにより、かしめ部18が形成されたハブ本体の端部にフェイススプラインを形成する第2モードとを有する。また、軸受ユニットの製造装置(揺動プレス機構100)は、不図示の、第1駆動装置、第2駆動装置、及び第制御装置を備える。第1駆動装置は、ロール32の中心軸βが第1軸αに対して傾いた状態で、ロール32がハブ本体(内輪)8に対して相対的にプレスされるように、ロール32を駆動するように構成される。第2駆動装置は、相対的なプレスと並行して、中心軸α周りのロール32の動きなど、ハブ本体8とロール32との間の相対的な動きを実行するように構成される。制御装置は、回路を含み、装置全体を統括的に制御するように構成される。
【0028】
本例の場合、ハブ側フェイススプライン19を形成する為に、具体的には、ロール32の先端面(
図1に於ける下端面)に、凸部(加工歯)33、33と凹部34、34とを円周方向に関して交互に配置して成る(円周方向に関する凹凸面である)、加工面35を設けている。そして、
図1に示す様に、ロール32の中心軸βをハブ本体8の中心軸αに対し所定角度θだけ傾斜させると共に、加工面35をかしめ部18の軸方向内端面に押し付けた状態で、ロール32を、ハブ本体8の中心軸αを中心として回転(公転)させる。ここで、ロール32は、自身の中心軸βを中心とする自由な回転(自転)が可能な様に支持されている。この為、上述の様にロール32をハブ本体8の中心軸αを中心として回転(公転)させると、加工面35とかしめ部18の軸方向内端面との係合に基づいて、ロール32が自身の中心軸βを中心として自由に回転(自転)する。この結果、加工面35を構成する凸部33、33がかしめ部18の軸方向内端面に徐々に食い込む事により、かしめ部18の軸方向内端面に、ハブ側フェイススプライン19が形成される。
【0029】
特に、本例において、例えば
図3や
図4に示す様に、前記揺動鍛造の開始時に於けるかしめ部18の軸方向内端面とロール32の加工面35との接触部Pを、かしめ部18と内輪9の平面部30及び面取り部31との接触部に対して軸方向に重畳させる。加工面(第2面)35がハブ本体8(かしめ部18)に最初に接するプレス位置が内輪9の内周面41に比べて径方向外方に位置する。尚、
図3は、かしめ部18と平面部30及び面取り部31との接触部のうち、面取り部31に対応する部分に対して接触部Pを軸方向に重畳させた場合を示している。
図4は、平面部30に対応する部分に対して接触部Pを軸方向に重畳させた場合を示している。ここで、かしめ部18と平面部30及び面取り部31との接触部に対して、前記揺動鍛造の開始時に於ける接触部Pを軸方向に重畳させる態様には、かしめ部18と平面部30及び面取り部31との接触部に対して、前記揺動鍛造の開始時に於ける接触部Pの「全部」を軸方向に重畳させる態様だけでなく、同じく「一部」を軸方向に重畳させる態様(即ち、前記揺動鍛造の開始時に於ける接触部Pのうち、一部が内輪9の内周面よりも径方向外方に位置し、残部が内輪9の内周面よりも径方向内方に位置する態様)も含まれる{例えば、実施の形態の第1例(
図3)や後述する実施例(
図7)にも、同様の態様が含まれる}。何れにしても、本例の場合には、前記揺動鍛造の開始時に於ける接触部Pを、かしめ部18と平面部30及び面取り部31との接触部に対して軸方向に重畳させる為に、例えば、加工面35のうちかしめ部18の軸方向内端面に押し付ける部分(下端部)の傾斜角度を考慮して、前記揺動鍛造を施す前のかしめ部18の軸方向内端面の形状(外形(contour))を規制している。例えば、かしめ部18を形成する工程は、フェイススプライン加工時の加工面(第2面)35がハブ本体8(かしめ部18)に最初に接するプレス位置が内輪9の内周面41に比べて径方向外方に位置するように、フェイススプライン加工時の加工面35の位置及び/又は姿勢(高さ、傾斜角度など)に基づいて、かしめ部18の外形を規制する・制御する工程を有することができる。この様な規制は、例えば、かしめ部18を塑性加工により形成する為の成形型の形状を工夫する事により、又は、かしめ部18を塑性加工により形成した後に実施する切削等の仕上げ加工により、行う事ができる。例えば、かしめ部18を形成するためのプレス加工において、かしめ部18の外形が凸形状(convex)を有するとともに、その凸形状の頂部が内輪9の内周面41に比べて径方向外方に位置するように、かしめ部18の外形が規制・制御される。あるいは、かしめ部18を形成するためのプレス加工後の切削加工において、かしめ部18の外形が凸形状(convex)を有するとともに、その凸形状の頂部が内輪9の内周面41に比べて径方向外方に位置するように、かしめ部18の外形が規制・制御される。
【0030】
上述の様な本例の車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法によれば、揺動鍛造によってかしめ部18の軸方向内端面にハブ側フェイススプライン19を効率良く形成する事ができる。例えば、前記揺動鍛造の加工ストローク(前記揺動鍛造を開始してから終了するまでの間の、ハブ本体8の軸方向に関するハブ本体8とロール32のとの相対変位量)を所定値とする条件下で前記揺動鍛造を行った場合の、ハブ側フェイススプライン19の歯丈(溝底面を基準とする歯の高さ)を大きくする事ができる。
【0031】
この様に本例の製造方法によってハブ側フェイススプライン19を効率良く形成する事ができる理由に就いて、以下に具体的に説明する。
【0032】
先ず、本例において、かしめ部18を内輪9の軸方向内端面である平面部30及びその径方向内側に隣接する面取り部31に接触させた状態で、揺動鍛造を開始する。この為、かしめ部18と内輪9の平面部30や面取り部31との間に隙間を設けた状態で前記揺動鍛造を開始する場合の様に、かしめ部18の軸方向内端面に加えたロール32の加工面35の押付け力(
図3及び
図4に矢印Xで示す力)の一部が前記隙間を消失させる為に消費され、その間、かしめ部18の軸方向内端面のうちロール32の加工面35を押し付けた部分に大きな応力を発生させる事ができず、ロール32の加工面35を構成する凸部33、33がかしめ部18の軸方向内端面に食い込みにくくなると言った不都合が発生する事を防止できる。従って、本例の場合には、その分だけ、ロール32の加工面35を構成する凸部33、33をかしめ部18の軸方向内端面に食い込み易くして、ハブ側フェイススプライン19を効率良く形成する事ができる。
【0033】
又、本例において、前記揺動鍛造の開始時に於けるかしめ部18の軸方向内端面とロール32の加工面35との接触部Pを、かしめ部18と内輪9の平面部30及び面取り部31との接触部に対して軸方向に重畳させる。加工面(第2面)35がハブ本体8(かしめ部18)に最初に接するプレス位置が内輪9の内周面41に比べて径方向外方に位置する。この為、前記揺動鍛造の開始直後から、かしめ部18の軸方向内端面に加えたロール32の加工面35の押付け力(
図3及び
図4に矢印Xで示す力)を、硬度の高い軸受鋼製の内輪9により、効率良く受ける(
図3及び
図4に矢印Yで示す強い反力を発生させる)事ができる。従って、前記揺動鍛造の開始直後から、かしめ部18の軸方向内端面のうち、ロール32の加工面35を押し付けた部分に大きな応力を発生させて、加工面35を構成する凸部33、33をかしめ部18の軸方向内端面に食い込み易くする事ができ、ハブ側フェイススプライン19を効率良く形成する事ができる。
【0034】
図5の(A)及び(B)は、車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法の2つの比較例(比較例1、比較例2)を示している。
【0035】
図5の(A)に示した比較例1において、
図3及び
図4の例と同様に、ロール32を用いた揺動鍛造の開始時に於けるかしめ部18の軸方向内端面とロール32の加工面35との接触部Pを、内輪9に対して軸方向に重畳させている。しかしながら、比較例1の場合には、
図3及び
図4の例と異なり、かしめ部18を内輪9の軸方向内端面である平面部30に接触させず、これらかしめ部18と平面部30との間に隙間を設けた状態で、前記揺動鍛造を開始する。比較例1において、前記揺動鍛造の開始後、かしめ部18の軸方向内端面に加えたロール32の加工面35の押付け力{
図5の(A)に矢印Xで示す力}の一部が前記隙間を消失させる為に消費される。従って、その間は、かしめ部18の軸方向内端面のうちロール32の加工面35を押し付けた部分に大きな応力を発生させる事ができず、ロール32の加工面35を構成する凸部33、33がかしめ部18の軸方向内端面に食い込みにくくなる。この結果、
図3及び
図4の例に比べて、ハブ側フェイススプライン19の形成効率が低くなる。
【0036】
図5の(B)に示した比較例2において、
図3及び
図4の例と同様に、かしめ部18を内輪9の軸方向内端面である平面部30及びその径方向内側に隣接する面取り部31に接触させた状態で、ロール32を用いた揺動鍛造を開始する。しかしながら、比較例2の場合には、
図3及び
図4の例と異なり、前記揺動鍛造の開始時に於けるかしめ部18の軸方向内端面とロール32の加工面35との接触部Pを、内輪9の内周面よりも径方向内側に位置させている(かしめ部18と内輪9の平面部30及び面取り部31との接触部に対して軸方向に重畳させていない)。この様な比較例2の場合には、少なくとも前記揺動鍛造の開始直後は、かしめ部18の軸方向内端面に加えたロール32の加工面35の押付け力{
図5の(B)に矢印Xで示す力}を、硬度の高い軸受鋼製の内輪9により効率良く受ける事ができず、当該押し付け力の一部が、ハブ本体8のうちかしめ部18よりも軸方向内側に位置する部分を塑性変形させる為に消費される。従って、その間は、かしめ部18の軸方向内端面のうちロール32の加工面35を押し付けた部分に大きな応力を発生させる事ができず、ロール32の加工面35を構成する凸部33、33がかしめ部18の軸方向内端面に食い込みにくくなる。この結果、
図3及び
図4の例に比べて、ハブ側フェイススプライン19の形成効率が低くなる。
【0037】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例に就いて、
図6により説明する。本例の場合には、かしめ部18(
図1〜4参照)の軸方向内端面にハブ側フェイススプライン19を形成する為の揺動鍛造を、加工ストロークを予め決められた所定値とする条件で行う。この為に、本例の場合には、上述の様な条件下で、前記揺動鍛造を開始する前のかしめ部18のうち、内輪9の軸方向内端面(平面部30)よりも軸方向内側に位置する部分の軸方向厚さである初期かしめ部厚さT(初期厚さ、
図3、4参照)と、前記揺動鍛造を終了した後のハブ側フェイススプライン19の歯丈との間に成立する、
図6に例示する様な関係を、予め、実験を行う事により調べておく。そして、上述の様な条件下で前記揺動鍛造を行う場合に、所望の歯丈を有するハブ側フェイススプライン19を形成する為に必要となる、初期かしめ部厚さTを、前記関係を利用して決定する。すなわち、フェイススプライン19の歯丈の設計値に応じて設定される初期厚さTを有するようにかしめ部18が形成される。この様な本例の製造方法の場合には、所望の歯丈を有するハブ側フェイススプライン19を、精度良く形成する事ができる。その他の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0038】
次に、実験に就いて説明する。本実験では、
図1〜4に示した実施の形態と、
図5の(A)及び(B)に示した比較例1、2とについて、かしめ部18(
図1〜5参照)の軸方向内端面にハブ側フェイススプライン19を形成する為の揺動鍛造を施す作業を、加工ストロークを予め決められた所定値とする条件で行い、当該作業を終了した後のハブ側フェイススプライン19の歯丈を測定した。尚、当該作業は、前記揺動鍛造の開始時に於けるかしめ部18の軸方向内端面とロール32の加工面35との接触部Pの径方向位置を変えて、複数回行った。
【0039】
図7に、本実験の結果を示す。この結果から、実施例の場合には、比較例1、2の場合よりも、ハブ側フェイススプライン19の歯丈を大きくできる事、即ち、ハブ側フェイススプライン19を効率良く形成できる事が分かる。