特許第6372629号(P6372629)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6372629
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】パルス幅変調方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20180806BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20180806BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   H02P27/08
   H02M7/48 F
   F25B1/00 361D
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-61325(P2018-61325)
(22)【出願日】2018年3月28日
【審査請求日】2018年3月28日
(31)【優先権主張番号】特願2017-62653(P2017-62653)
(32)【優先日】2017年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100103229
【弁理士】
【氏名又は名称】福市 朋弘
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 稔
(72)【発明者】
【氏名】小林 直人
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5737445(JP,B2)
【文献】 特開2001−286183(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/071965(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0236628(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
F25B 1/00
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機用電動機(5)を駆動するインバータ(3)がデッドタイム期間以外で出力する電圧(Vu,Vv,Vw)を表す瞬時空間ベクトルを構成する単位となる電圧ベクトルたる単位電圧ベクトルの時間についての積分値(Ψ(θ))の軌跡が、前記圧縮機用電動機(5)の電気角の運転周波数の最大値の逆数よりも短い期間内でループ(S)を形成するパルス幅変調方法。
【請求項2】
前記電圧ベクトルであってその大きさが零ではない非零電圧ベクトルの少なくとも三種類に対する時間についての積分値の軌跡で、前記ループ(S)が形成される、請求項1記載のパルス幅変調方法。
【請求項3】
前記期間は前記インバータ(3)についての制御周期(T0)である、請求項1または請求項2記載のパルス幅変調方法。
【請求項4】
前記ループの大きさの増大もしくは前記ループの出現頻度の増加によって、前記圧縮機用電動機(5)の発熱量を増大する、請求項1から3のいずれか一つに記載のパルス幅変調方法。
【請求項5】
前記圧縮機用電動機(5)が停止している状態で前記ループが形成される、請求項1から4のいずれか一つに記載のパルス幅変調方法。
【請求項6】
前記圧縮機用電動機(5)が回転している状態で前記ループが形成される、請求項1から4のいずれか一つに記載のパルス幅変調方法。
【請求項7】
前記単位電圧ベクトルであってその大きさが零ではない非零電圧ベクトルの少なくとも一対(V4,V6)の各々について連続して維持される時間(τ4’,τ6’)の長さたるベクトル幅の下限値(Lm)は、前記圧縮機用電動機(5)の通常運転において設定される第1値(L1)よりも大きな第2値(L2)である、請求項1から6のいずれか一つに記載のパルス幅変調方法。
【請求項8】
前記下限値(Lm)が前記第1値(L1)に設定される期間において、前記単位電圧ベクトルが維持される期間において前記インバータ(3)に入力する電流が直流電流(Idc)として測定可能である、請求項7記載のパルス幅変調方法。
【請求項9】
前記下限値(Lm)が前記第2値(L2)に設定される期間に先だって前記下限値が前記第2値よりも小さな第3値(L3)に設定され、前記インバータ(3)を制御して前記圧縮機用電動機(5)を起動させる、請求項7または請求項8に記載のパルス幅変調方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インバータをパルス幅変調を用いて制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機を駆動するインバータを制御する技術として、下記の特許文献1が例示できる。ここで圧縮機とは圧縮される対象(例えば冷媒)を圧縮する圧縮要素(例えばロータリーコンプレッサ)のみならず、当該圧縮要素を駆動する圧縮機電動機をも含めた概念である。特許文献1は、圧縮機の鉄損によって予熱を発生させる技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5490249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、電力消費を抑制するために、予熱には高周波加熱を採用する。類似の技術は特許5693617号公報でも紹介される。
【0005】
本開示は、圧縮機用電動機に予熱を発生させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のパルス幅変調方法の第1の態様では、圧縮機用電動機(5)を駆動するインバータ(3)がデッドタイム期間以外で出力する電圧(Vu,Vv,Vw)を表す瞬時空間ベクトルを構成する単位となる電圧ベクトルたる単位電圧ベクトルの時間についての積分値(Ψ(θ))の軌跡が、前記圧縮機用電動機(5)の電気角の運転周波数の最大値の逆数よりも短い期間内でループ(S)を形成する。
【0007】
本開示のパルス幅変調方法の第2の態様はその第1の態様であって、前記電圧ベクトルであってその大きさが零ではない非零電圧ベクトルの少なくとも三種類に対する時間についての積分値の軌跡で、前記ループ(S)が形成される。
【0008】
本開示のパルス幅変調方法の第3の態様はその第1の態様または第2の態様であって、前記期間は前記インバータ(3)についての制御周期(T0)である。
【0009】
本開示のパルス幅変調方法の第4の態様はその第1の態様から第3の態様のいずれかであって、前記ループの大きさの増大もしくは前記ループの出現頻度の増加によって、前記圧縮機用電動機(5)の発熱量を増大する。
【0010】
本開示のパルス幅変調方法の第5の態様はその第1の態様から第4の態様のいずれかであって、前記圧縮機用電動機(5)が停止している状態で前記ループが形成される。
【0011】
本開示のパルス幅変調方法の第6の態様はその第1の態様から第4の態様のいずれかであって、前記圧縮機用電動機(5)が回転している状態で前記ループが形成される。
【0012】
本開示のパルス幅変調方法の第7の態様はその第1の態様から第6の態様のいずれかであって、前記単位電圧ベクトルであってその大きさが零ではない非零電圧ベクトルの少なくとも一対(V4,V6)の各々について連続して維持される時間(τ4’,τ6’)の長さたるベクトル幅の下限値(Lm)は、前記圧縮機用電動機(5)の通常運転において設定される第1値(L1)よりも大きな第2値(L2)である。
【0013】
本開示のパルス幅変調方法の第8の態様はその第7の態様であって、前記下限値(Lm)が前記第1値(L1)に設定される期間において、前記単位電圧ベクトルが維持される期間において前記インバータ(3)に入力する電流が直流電流(Idc)として測定可能である。
【0014】
本開示のパルス幅変調方法の第9の態様はその第7の態様および第8の態様のいずれかであって、前記下限値(Lm)が前記第2値(L2)に設定される期間に先だって前記下限値が前記第2値よりも小さな第3値(L3)に設定され、前記インバータ(3)を制御して前記圧縮機用電動機(5)を起動させる。
【0015】
本開示のパルス幅変調方法によれば圧縮機用電動機に予熱を発生させる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】各実施の形態にかかる電力変換器制御装置を説明するブロック図である。
図2】各実施の形態で採用される電圧ベクトルを示すベクトル図である。
図3】回転磁束を表す磁束ベクトルと、それが描く軌跡を複素平面上で表したベクトル図である。
図4】差分指令を示すベクトル図である。
図5】所定周期の一つ分の電圧ベクトル指令を示すベクトル図である。
図6】所定周期の二つ分の電圧ベクトル指令を示すベクトル図である。
図7】第1実施例の動作を説明するフローチャートである。
図8】第1実施例において所定周期の二つ分の電圧ベクトル指令を示すベクトル図である。
図9】第3実施例の動作を部分的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<基本的構成>
図1は下記の各実施の形態にかかる電力変換器制御装置を説明するブロック図である。電力変換器たるインバータ3は、一対の直流母線LH,LLの間で相互に並列に接続される3つの電流経路を備える。直流母線LH,LLの間には直流の電圧Eが印加され、直流母線LHの電位の方が、直流母線LLの電位よりも高い。
【0018】
3つの電流経路は、それぞれ接続点Pu,Pv,Pwを有する。接続点Puを有する電流経路は、接続点Puを介して直流母線LH,LLの間で直列に接続される一対のスイッチ4up,4unを有する。接続点Pvを有する電流経路は、接続点Pvを介して直流母線LH,LLの間で直列に接続される一対のスイッチ4vp,4vnを有する。接続点Pwを有する電流経路は、接続点Pwを介して直流母線LH,LLの間で直列に接続される一対のスイッチ4wp,4wnを有する。スイッチ4up,4vp,4wpは、それぞれスイッチ4un,4vn,4wnよりも直流母線LH側に配置される。
【0019】
インバータ3はスイッチ4up,4vp,4wp,4un,4vn,4wnの開閉(導通/非導通状態)によって、接続点Pu,Pv,Pwから圧縮機用電動機(以下単に「電動機」)5へ、それぞれ電圧Vu,Vv,Vwを印加し、電流Iu,Iv,Iwを供給する。電流Iu,Iv,Iwは三相の交流の線電流であり、電圧Vu,Vv,Vwは三相の相電圧である。電動機5は三相交流電動機である。電動機5においては後述する磁束ベクトルに対応した回転磁束が形成される。
【0020】
電力変換器制御装置たるインバータ制御装置6はインバータ3を制御すべく、それぞれスイッチ4up,4vp,4wp,4un,4vn,4wnの開閉を制御するスイッチング信号Gup,Gvp,Gwp,Gun,Gvn,Gwnを出力する。つまり、インバータ3におけるスイッチングパターンは、直接的にはスイッチング信号Gup,Gvp,Gwp,Gun,Gvn,Gwnによって決定される。
【0021】
より具体的には、インバータ制御装置6は、運転モード決定部60と、下限値切換器61と、電圧ベクトル指令生成部62と、スイッチング信号生成部63とを備える。
【0022】
下限値切換器61は下限値候補群{L}と切換信号Jとを入力する。下限値候補群{L}は互いに異なる複数の下限値の候補の集合を示す。下限値切換器61はこれらの複数の候補から、切換信号Jに基づいて一つを選択し、下限値Lmとして出力する。
【0023】
電圧ベクトル指令生成部62は、電圧Vu,Vv,Vwのそれぞれについての指令値である電圧指令Vu*,Vv*,Vw*と、下限値Lmとを入力し、後に説明する処理によって電圧ベクトル指令[τV]*を出力する。ここで記号[]はその囲む記号がひとまとまりで意味を成すことを示しており、τとVとの積ではないことを明確にする表現として採用した(以下同様)。
【0024】
電圧ベクトル指令[τV]*は、後述するように、インバータ3におけるスイッチングパターンと、当該スイッチングパターンが採用される時間についての情報を有している。
【0025】
運転モード決定部60は、圧縮機の起動、運転、停止、予熱運転などを決定し、それぞれに応じて異なる切換信号Jを出力する。また、このような圧縮機の起動、運転、停止、予熱運転などを行なわせる電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を出力する。このような電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を生成する技術は公知であるので、ここではその詳細は省略する。また圧縮機の起動、運転、停止、予熱運転などを決定し、それぞれに応じて異なる切換信号Jを生成することは周知の技術で実現できることは明白であるので、その詳細もここでは省略する。
【0026】
スイッチング信号生成部63は、電圧ベクトル指令[τV]*に基づいて、より具体的には電圧ベクトル指令[τV]*が有する、スイッチングパターンと当該スイッチングパターンが採用される時間とに基づいて、スイッチング信号Gup,Gvp,Gwp,Gun,Gvn,Gwnを生成する。かかる生成の手法については公知であるので、ここではその詳細は省略する。
【0027】
図2は各実施の形態で採用される単位電圧ベクトルを示すベクトル図である。公知のように単位電圧ベクトルは複素平面において表される。インバータ3はU相、V相、W相の三相に対応して動作するので、直流母線LLと接続点Pu,Pv,Pwとの間には理想的には電圧Eもしくは電圧0が印加される。単位電圧ベクトルを決定する3桁の数値については、接続点Puに印加される電圧E/0に応じて3桁目の1/0が、接続点Pvに印加される電圧E/0に応じて2桁目の1/0が、接続点Pwに印加される電圧E/0に応じて1桁目の1/0が、それぞれ採用される。そして当該3桁の値を二進数と把握し、これを十進数に変換した値を単位電圧ベクトルの番号として採用する。図2においては複素平面の原点に、単位電圧ベクトルの全ての始点を配して示している。
【0028】
接続点Pu,Pv,Pwのいずれにも電圧0が印加される単位電圧ベクトルV0及び接続点Pu,Pv,Pwのいずれにも電圧Eが印加される単位電圧ベクトルV7は、図2においては大きさを有していない。これらの単位電圧ベクトルV0,V7は零電圧ベクトルと通称される。零電圧ベクトルV0は電動機5が直流母線LLのみに接続されることに対応し、零電圧ベクトルV7は電動機5が直流母線LHのみに接続されることに対応する。
【0029】
またここでは零電圧ベクトル以外の単位電圧ベクトルV1〜V6を非零電圧ベクトルと称す。非零電圧ベクトルV1〜V6については複素平面上において零電圧ベクトルを始点として角度π/3毎に配置されて表される。零電圧ベクトルV0,V7は複素平面において原点に配される。
【0030】
インバータ3には直流母線LH、LLを介して直流の電圧Eが入力されるので、非零電圧ベクトルの大きさは√(2/3)・Eとなる。そして当該コイルに鎖交する回転磁束を表す磁束ベクトルの変動量は、非零電圧ベクトルの時間積分(時間についての積分値)として表される。
【0031】
但し、以下では時間積分と非零電圧ベクトルの大きさとを対応づけるため、非零電圧ベクトルの大きさを1として説明を行う。換言すればE=√(3/2)として説明を行う。
【0032】
図3は回転磁束を表す磁束ベクトルΨ(θ)と、その終点が描く軌跡を複素平面上で表したベクトル図である。回転磁束を正弦波状にする観点からは、理想的には、当該軌跡が円を描くことが望ましい。しかし実際のインバータ3の制御は上述の単位電圧ベクトルに基づいているので、磁束ベクトルΨ(θ)の終点が描く軌跡は多角形を呈することになる。
【0033】
図3において、多角形の各辺に付記されて丸で囲まれた番号で示されているのは単位電圧ベクトルの番号である。この番号で示される単位電圧ベクトルの時間積分が、当該辺で表されている。
【0034】
図3から理解されるように、複素平面は角度θの大きさによってπ/3毎の領域に区分される。ここで角度θは単位電圧ベクトルV1,V5の合成ベクトルに対して磁束ベクトルΨ(θ)が時計回り方向に成す角として定義される(0≦θ<2π)。
【0035】
通常の円近似法(例えば「誘導機駆動用汎用インバータのPWM制御パターンと高調波解析法について」、大上、他三名、電気学会論文誌D、電気学会、1989年、第109巻、第11号、p.809−816参照)では、各領域において採用される非零電圧ベクトルは下記のように限定されている。これは上述のように磁束ベクトルΨ(θ)の終点が描く軌跡が複素平面上では円を描くことが望ましいからである。
【0036】
0≦θ≦π/3:非零電圧ベクトルV4,V6;
π/3≦θ≦2π/3:非零電圧ベクトルV6,V2;
2π/3≦θ≦π:非零電圧ベクトルV2,V3;
π≦θ≦4π/3:非零電圧ベクトルV3,V1;
4π/3≦θ≦5π/3:非零電圧ベクトルV1,V5;
5π/3≦θ≦2π:非零電圧ベクトルV5,V4
これらの領域における磁束の制御は、角度θについてπ/3毎に同様であるので、以下では各実施の形態をも含め、0≦θ≦π/3の場合のみを例にとって説明する。この場合の説明は、単に角度θの基準をπ/3だけずらせることで他の領域にも妥当するからである。
【0037】
図4は差分指令ΔΨ(θ(te))を示すベクトル図である。磁束ベクトルΨ(θ(ts)),Ψ(θ(te))はそれぞれ、インバータ3の制御周期T0が採用される、所定周期T0の開始時点ts及び終了時点te(=ts+T0)における磁束ベクトルΨ(θ)を示す。また差分指令ΔΨ(θ(te))は、磁束ベクトルΨ(θ(ts))の終点から、磁束ベクトルΨ(θ(te))の終点に向かうベクトルと一致する。かかるベクトルは、三相の電圧Vu,Vv,Vwを表す瞬時空間ベクトルの、複素平面上における所定周期T0の1つ分での時間積分と等価でもあり、差分指令ΔΨ(θ(te))そのものは上述の磁束ベクトルの一対の終点それ自体を求めることを必須とはしない。
【0038】
回転磁束を正弦波状にする観点から、回転磁束の周期よりも短い所定周期T0において適切な制御を行って、磁束ベクトルΨ(θ(ts)),Ψ(θ(te))の終点を円周上に位置させることが望ましい。よって、所定周期T0において差分指令ΔΨ(θ(te))を合成する、複数のベクトル(以下、要素ベクトルとも称す)を得ることが望ましい。
【0039】
図4では、通常の円近似法において採用されていた要素ベクトルを図示している。図4において要素ベクトルの各々は単位電圧ベクトルの時間積分として表され、上述のように説明を簡単にするために非零電圧ベクトルの大きさを1にしている。よって各非零電圧ベクトルに対応する要素ベクトルの大きさ(長さ)は、当該非零電圧ベクトルが連続して維持される時間を表す。また各単位電圧ベクトルに対応する要素ベクトルの向き(始点から終点に向かう方向:以下同様)は、当該単位電圧ベクトルの向きと一致する。但し零電圧ベクトルV0,V7に対応する(具体的には零電圧ベクトルの時間積分である)要素ベクトル(以下、無値ベクトルとも称す)は、図2に示されるように零電圧ベクトルV0,V7が大きさを有しないので、無値ベクトルも大きさを有しない。
【0040】
図4においては、電圧ベクトル指令[τV]*が所定周期T0において順次、時間τ0で零電圧ベクトルV0を維持し、非零電圧ベクトルV4を時間τ4で維持し、非零電圧ベクトルV6を時間τ6で維持し、時間τ7で零電圧ベクトルV7を維持し、非零電圧ベクトルV6を時間τ6で維持し、非零電圧ベクトルV4を時間τ4で維持し、時間τ0で零電圧ベクトルV0を維持する場合が示されている。
【0041】
図4においては上述のように、要素ベクトルが単位電圧ベクトルの時間積分として表されるので、例えば非零電圧ベクトルV4が時間τ4で維持されることで得られる要素ベクトルは、非零電圧ベクトルV4と時間τ4との積τ4・V4で表される。他の要素ベクトルについても同様に表記する。
【0042】
図1に戻って説明を続ける。電圧ベクトル指令生成部62は電圧ベクトル指令[τV]*を生成する。上記図4に即して言えば、電圧ベクトル指令[τV*]は要素ベクトルτ0・V0,τ4・V4,τ6・V6,τ7・V7,τ6・V6,τ4・V4,τ0・V0で構成される(T0=τ0+τ4+τ6+τ7+τ6+τ4+τ0)。
【0043】
非零電圧ベクトルに対応する電圧ベクトル指令を、非零電圧ベクトル指令と称することにする。図4では非零電圧ベクトル指令を構成する要素ベクトルτ4・V4,τ6・V6が例示されている。
【0044】
但し、零電圧ベクトルV0,V7に対応する要素ベクトルは、差分指令ΔΨ(θ)の合成に直接には寄与しない。また零電圧ベクトルV0,V7を維持する時間τ0,τ7は非零電圧ベクトルに対応する要素ベクトル(以下、非零要素ベクトルとも称す)を維持する時間τ4,τ6に依存して決定できる(2・τ0+τ7=T0−2・τ4−2・τ6)。
【0045】
なお、本開示で用いる単位電圧ベクトルは、いわゆるデッドタイム期間(スイッチ4up,4unのいずれもがオフする、スイッチ4vp,4vnのいずれもがオフする、スイッチ4wp,4wnのいずれもがオフする、の少なくとも一つのスイッチングパターンを示す期間)以外で出力される電圧Vu,Vv,Vwを表す瞬時空間ベクトルを構成する単位となる。
【0046】
<本実施の形態での予熱の発生原因>
電圧ベクトル指令生成部62は所定周期T0毎に少なくとも一対の非零電圧ベクトル指令を含む電圧ベクトル指令[τV]*を出力する。以下、図5及び図6を用いて電圧ベクトル指令[τV]*について説明する。
【0047】
図5は所定周期T0の一つ分の電圧ベクトル指令[τV]*を示すベクトル図である。図5において破線で示される要素ベクトルτ0・V0,τ4・V4,τ6・V6,τ7・V7,τ6・V6,τ4・V4,τ0・V0は、図4で例示された要素ベクトルと同じである。図5において実線で示される要素ベクトルτ0’・V0,τ4’・V4,τ6’・V6,τ7’・V7,τ3’・V3,τ1’・V1,τ0”・V0の合成は、図4で例示された差分指令ΔΨ(θ(te))を得る。図5において要素ベクトルτ1’・V1,τ3’・V3の合成は、要素ベクトルVpとしても併記した。ここで、T0=τ0’+τ4’+τ6’+τ7’+τ3’+τ1’+τ0”が成立する。このように実線で示される要素ベクトルを決定する具体的方法については、例えば特許第5737445号公報で公知であるので、ここでは説明を省略する。
【0048】
図6は所定周期T0の連続する二つ分の電圧ベクトル指令[τV]*を示すベクトル図である。ここでは簡単のため、互いに等しい二つの差分指令ΔΨ(θ)を連続して実現するための電圧ベクトル指令[τV]*を示す。また、図面の煩瑣を回避するため、図6では非零電圧ベクトル指令たる要素ベクトルτ1’・V1,τ3’・V3の合成を要素ベクトルVpとして描いた。
【0049】
要素ベクトルVpを合成する要素ベクトルτ1’・V1,τ3’・V3は、それぞれ非零電圧ベクトルV1,V3に対応する。そして図2を参照して、非零電圧ベクトルV1,V3はそれぞれ、0≦θ≦π/3における通常運転で採用される非零電圧ベクトルV6,V4とは、方向が反対である(複素平面上において角度πをなして配置される)。このような要素ベクトルVpを採用することにより、いずれも所定周期T0を有して連続する二つの期間の境界近傍では、磁束ベクトルΨ(θ)の終点の軌跡がループ(閉曲線)Sを形成する。
【0050】
このように回転磁束の周期よりも短い期間内にループSが形成される。回転磁束は電動機5を回転させる。よって電動機5の電気角での運転周波数の最大値の逆数よりも短い期間内にループSが形成されることが望ましい。例えばループSはインバータ3についての制御周期T0内で形成される。
【0051】
もちろん、常に等しいΔΨ(θ(te))を連続して得ていれば円近似法を実現することができないので、図6はあくまで説明の便宜上で採用される二つ分の電圧ベクトル指令[τV]*を示すものである。しかし上述のように(また図3図5を参照して理解されるように)0≦θ≦π/3の範囲では非零電圧ベクトルV4,V6が採用され、要素ベクトルVpが非零電圧ベクトルV1,V3の成分を有するので、殆どの場合、ループSが形成される。
【0052】
ループSは例えば三角形を呈するので、非零電圧ベクトルの少なくとも三種類に対する時間積分の軌跡で、形成される。かかる三種類の非零電圧ベクトルの内の二つは、図2に示される複素平面において、原点を通る直線で二分割される領域のそれぞれから一つずつ選択される。但し当該直線は、非零電圧ベクトルのいずれとも平行ではない。
【0053】
このようなループSの存在は、「ベクトル制御における電流制御形インバータの新しい制御法」、大山、他四名、電気学会論文誌B、電気学会、昭和60年、第105巻、第11号、p.901−908で紹介されるように、鉄損を大きくする。かかる鉄損は予熱を発生させる。しかも本実施の形態では、通常の圧縮機運転に用いられるスイッチングのパターン(ここでは単位電圧ベクトルV4,V6の他に単位電圧ベクトルV1,V3に対応するパターン)を用いたに留まる。
【0054】
よってループSの大きさの増大、もしくはその出現頻度の増加によって、電動機5の発熱量を増大することができる。ループSの大きさの減少、もしくはその出現頻度の減少によって、電動機5の発熱量を減少することができる。ループSの大きさや、出現頻度は、非零電圧ベクトルを維持する期間(例えば時間τ1’,τ3’,τ4’,τ6’)を用いて適宜に調整することができる。
【0055】
なるほど、単位電圧ベクトルV1,V3に対応するパターンは0≦θ≦π/3における通常運転では採用されない。しかし単位電圧ベクトルV1,V3に対応するパターンは、π≦θ≦4π/3における通常運転で採用される。よってこれらのパターンを発生させる処理は、高周波加熱による予熱に必要な特別なパターンの生成と比較して顕著に容易である。よって本実施の形態では制御処理を複雑にせずに予熱が発生する。
【0056】
高周波加熱によって予熱を得る場合、そのために特別なパターンでインバータをスイッチングさせることが公知である(例えば特許5490249号公報、特許5693617号公報など)。かかる予熱のためのスイッチングは、インバータに対してパルス幅変調を用いた制御で実現できるものの、通常の圧縮機運転のために採用されるスイッチングのパターンとは顕著に相違するパターンが採用される。よってスイッチングのパターンとして通常の圧縮機運転のためのものの他に、予熱のための特別なパターンをインバータに行なわせるため、当該制御を行なう制御処理は複雑となる。かかる複雑な制御処理は、これを実行するマイクロコンピュータにおいて必要な記憶容量を増大させてしまう。
【0057】
<下限値の設定>
要素ベクトルの大きさには下限値が設定される場合がある。特許第5737445号公報に示される場合を例に採れば、この下限値は電流測定の観点から設定される。しかし予熱を発生させる観点では、同じ差分指令ΨΔ(θ)を合成する要素ベクトルであっても、要素ベクトルτ1’・V1,τ3’・V3が発生することが望まれる。従って要素ベクトルτ4’・V4,τ6’・V6を大きくとることが望ましい。図5に即して言えば、2・τ4<τ4’,2・τ6<τ6’である。
【0058】
このような要素ベクトルを生成する具体的手法そのものの説明は、例えば特許第5737445号公報から公知であるので詳細な説明は省略する。但し、本実施の形態では差分指令ΔΨ(θ)という瞬時空間ベクトルを構成する単位電圧ベクトルの、少なくとも一対(ここでは単位電圧ベクトルV4,V6)の各々について、連続して維持される時間(ここでは時間τ4’,τ6’)の長さたるベクトル幅の下限値が切替えられることを説明する。
【0059】
圧縮機の予熱は、通常運転よりも前に、予め圧縮機を加熱することである。よって下限値は、通常運転における下限値を第1値とすると、通常運転よりも前においては第1値よりも大きな第2値に設定される事が望ましい。そして下限値が第2値に設定される期間を予熱期間とし、この予熱期間において、単位電圧ベクトルの積分値(これは磁束ベクトルであると言える)の軌跡がループSを構成する制御が行われる。具体的にはそのような軌跡を実現する電圧ベクトル指令[τV]*が電圧ベクトル指令生成部62によって生成され、電圧ベクトル指令[τV]*に基づいて、スイッチング信号生成部63がパルス幅変調を行って、スイッチング信号Gup,Gvp,Gwp,Gun,Gvn,Gwnを生成する。つまりパルス幅変調の波形が生成され、これに基づいてインバータ3が、ひいては電動機5が、ひいては圧縮機が制御されるのである。
【0060】
このような下限値の切り替えは、下限値候補群{L}が上述の第1値、第2値を下限値候補として含むことで容易に実行できる。運転モード決定部60は、通常運転の前であるのか通常運転が行われているのかによって異なる切換信号Jを出力し、下限値切換器61はこれらの第1値と第2値とから、切換信号Jに基づいて一つを選択し、下限値Lmとして出力する。
【0061】
もちろん、特許第5737445号公報のように直流電流Idの検出(以下「電流検出」)を行う期間を確保する観点では、下限値が第1値に設定される期間、例えば通常運転において、単位電圧ベクトルが維持される期間においてインバータ3に入力する電流が直流電流Idcとして測定可能であることが望ましい。具体的には電流検出を行うのに必要な時間Tminを導入すると、Tmin<τ4,Tmin<τ6を満足するような要素ベクトルτ4・V4,τ6・V6を含む非零電圧ベクトル指令[τV]*が生成される。
【0062】
このように下限値を変更可能とすることにより、通常運転においては不要な鉄損を発生させずに効率を高め、通常運転よりも前においては鉄損ひいては予熱を発生させることができる。
【0063】
以下、各実施例において下限値候補群{L}と切換信号Jとに基づいて下限値Lmを設定する(つまり下限値候補のうち、下限値Lmとして選択されるものを切換信号Jによって切替える)ことの具体例を説明する。
【0064】
但し、いずれの実施例においても、便宜的に、下限値候補群{L}が少なくとも二つの下限値候補L1,L2を備え、L1<L2の関係があるとする。またいずれの実施例においても、通常運転が行われる前の制御が行われるときには、下限値Lmとして下限値候補L2(第2値)を下限値切換器61に選択させる切換信号Jが、運転モード決定部60から出力される。通常運転が行われるときには、下限値Lmとして下限値候補L1(第1値)を下限値切換器61に選択させる切換信号Jが、運転モード決定部60から出力される。
【0065】
第1実施例.
図7は第1実施例の動作を説明するフローチャートである。ステップS101において圧縮機を起動させるか否かで後の処理が分岐する。圧縮機を起動させる場合(図中「Yes」に相当)には処理がステップS102に進み、起動させない場合(図中「No」に相当)は処理が進まない。処理がステップS101からステップS102へと進むことは、運転モード決定部60が決定することができる。
【0066】
ステップS102はステップS105よりも前に実行される。ステップS102は下限値Lmとして下限値候補L2を下限値切換器61が選択するステップである。ステップS105は通常運転に移行するか否かを選択するステップである。つまりステップS102の実行は、通常運転が行われる前の制御が行われるときに、下限値Lmとして下限値候補L2が選択されることに相当する。
【0067】
ステップS102の実行後にステップS103が実行され、下限値Lmと電圧指令Vu*,Vv*,Vw*とに基づいて電圧ベクトル指令[τV]*を生成する。かかる生成は電圧ベクトル指令生成部62で実行される。
【0068】
図8は第1実施例において所定周期T0の二つ分の電圧ベクトル指令[τV]*を示すベクトル図である。ここでは簡単のため、図6と同様に、互いに等しい二つの差分指令ΔΨ(θ)を連続して実現するための電圧ベクトル指令[τV]*を示す。
【0069】
但し要素ベクトルτ3’・V3.τ1’・V1の大きさを大きくし、差分指令ΔΨ(θ)を小さくする。これにより、通常運転前の圧縮機の回転を抑制して予熱を行うことができる。
【0070】
通常運転前の圧縮機の回転は必ずしも認められないものでもない。しかしながら、ループSを大きくして鉄損、ひいては予熱を増大する観点からは、通常運転前の制御においては差分指令ΔΨ(θ)を小さくすることが望ましい。そして差分指令ΔΨ(θ)が小さければ圧縮機に発生する駆動トルクも小さいので、圧縮機の負荷トルクよりも小さければ実質的には圧縮機は停止している。
【0071】
このとき、ループSの形成と同時に、停止中の電動機5には、差分指令ΔΨ(θ)に応じた交流電流が流れる。また角度θを一定の値とした場合、ループSの形成と同時に、停止中の電動機5には直流電流が流れる。
【0072】
換言すれば、下限値Lmが下限値候補L2に設定される期間において、圧縮機を回転させないで瞬時空間ベクトルに基づいたインバータ3の制御を実行することができる。
【0073】
例えば、当該期間においては、τ3’=τ4’,τ1’=τ6’とし、要素ベクトルτ3’・V3.τ1’・V1の大きさをそれぞれ要素ベクトルτ4’・V4.τ6’・V6の大きさと等しくし、差分指令ΔΨ(θ)の大きさを零としてもよい。このとき、電動機5には高周波電流のみが流れる。
【0074】
なお、このように、インバータ3の制御周期T0毎に、互いに逆方向となって大きさが等しい要素ベクトルの対を二対採用することにより、差分指令ΔΨ(θ)の大きさを零とすることができる。これによって圧縮機を停止したまま鉄損、引いては予熱を発生させることができる。このような予熱発生は、しかしながら、下限値Lmの値によらず実現できる。つまり、かかる要素ベクトルの二対を採用することも、通常運転前において予熱を発生させる方法の一つである。
【0075】
図7に説明を戻すと、ステップS104では、ステップS103によって得られた電圧ベクトル指令[τV]*に基づいて、スイッチング信号Gup,Gvp,Gwp,Gun,Gvn,Gwn(図7において「スイッチング信号G」と略記)が生成される。かかる生成はスイッチング信号生成部63で実行される。
【0076】
ステップS104に続くステップS105では、上述の様に、通常運転に移行するか否かが選択される。かかる選択は運転モード決定部60によって実行できる。通常運転に移行しない場合(図中の「No」に相当)には、ステップS103,S104,S105が改めて実行され、予熱の発生が維持される。通常運転に移行する場合(図中の「Yes」に相当)には、ステップS106が実行される。
【0077】
ステップS106は下限値Lmとして下限値候補L1を下限値切換器61が選択するステップである。つまりステップS106の実行は、通常運転が行われるときに、下限値Lmとして下限値候補L1が選択されることに相当する。
【0078】
その後、ステップS107,S108がそれぞれステップS103,S104と同様に実行され、通常運転が行なわれる。
【0079】
その後、ステップS109によって通常運転を終了するか否かが選択される。かかる選択は運転モード決定部60によって実行できる。通常運転を終了しない場合(図中の「No」に相当)には、ステップS107,S108,S109が改めて実行され、通常運転が維持される。通常運転を終了する場合(図中の「Yes」に相当)には、図7のフローチャートは終了する。
【0080】
第2実施例.
第1実施例では、通常運転の前には圧縮機を停止する場合について詳述したが、このときに圧縮機が回転してもよい。つまり下限値Lmが下限値候補L2に設定される期間において、圧縮機を回転させつつ瞬時空間ベクトルに基づいたインバータ3の制御を行なってもよい。この場合、圧縮機は運転しているが、鉄損が大きく効率が悪い前駆的な運転(以下「前駆運転」と仮称)から、鉄損が小さく効率が良い通常運転に移行する制御が行なわれる、といえる。
【0081】
第3実施例.
第2実施例において前駆運転の前に、圧縮機を起動させるための制御を行なってもよい。この場合、第2の実施例と同様に、予熱の発生は前駆運転において行なわれればよく、従って前駆運転の前の制御では下限値Lmが下限値候補L1を採用すれば圧縮機の起動は効率よく行なえる。
【0082】
図9は第3実施例の動作を部分的に示すフローチャートである。本実施例においては図7に示されたフローチャートのステップS101〜S109に加えて、ステップS201,S202,S203,S204を備える。これらのステップはステップS101,S102の間に挟まれて設けられるので、図9ではステップS103〜S109の図示を省略した。
【0083】
第1実施例、第2実施例と同様にして、ステップS101が実行され、圧縮機の起動が選択された場合、本実施例ではステップS102の実行に先だってステップS201〜S204が実行される。ステップS201では下限値候補L1が下限値Lmとして選択される。かかる選択は切換信号Jによって行うことができる。その後ステップS202においてステップS103,S107と同様にして電圧ベクトル指令[τV]*が生成され、ステップS203においてステップS104,S108と同様にして、スイッチング信号Gup,Gvp,Gwp,Gun,Gvn,Gwnが生成される。
【0084】
その後、ステップS102以降の処理が、第1実施例、第2実施例と同様に実行される。
【0085】
なお、ステップS201において、下限値Lmが通常運転を行なう場合と同様にして下限値候補L1を採ることは、必ずしも必要ではない。例えば下限値候補L3(<L2)という第3値を下限値候補群{L}が備えており、圧縮機の起動時、前駆運転、通常運転において、それぞれ下限値候補L3,L2,L1が下限値Lmとして採用されてもよい。
【0086】
また、第1の実施例と同様に、通常運転前には圧縮機が停止している状況であっても予熱は発生できるので、その予熱の発生前に圧縮機を起動させてもよい。つまり圧縮機の起動時において下限値候補L3,L2をこの順に採用し、その後の通常運転において下限値候補L1が下限値Lmとして採用されてもよい。もちろん、この場合においてもL3=L1(<L2)とすることができる。
【0087】
なお、第3実施例においても、第1実施例、第2実施例と同様に、下限値候補L1,L3の異同に拘わらず、通常運転よりも前において少なくとも一旦は、下限値Lmが下限値候補L2に設定されると言える。
【0088】
例えば、インバータ制御装置6はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、インバータ制御装置6はこれに限らず、インバータ制御装置6によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
【0089】
インバータ3は電動機5を駆動する。単位電圧ベクトルV0〜V7は、瞬時空間ベクトルを構成する単位となる電圧ベクトルである。この瞬時空間ベクトルは、インバータ3がデッドタイム期間以外で出力する電圧Vu,Vv,Vwを表す。磁束ベクトルΨ(θ)は単位電圧ベクトルの時間積分である。上述のパルス幅変調方法では、磁束ベクトルΨ(θ)の軌跡がループSを形成する。但しループSは、電動機5の(電気角の)運転周波数の最大値の逆数よりも短い期間内で形成される。このようなパルス幅変調方法は、圧縮機用電動機に予熱を発生させる。
【0090】
ループSは、非零電圧ベクトルV1〜V6の少なくとも三種類に対する時間積分値の軌跡で形成される。
【0091】
例えば上記期間は制御周期T0である。
【0092】
ループSの大きさの増大もしくはループSの出現頻度の増加によって、電動機5の発熱量を増大することができる。
【0093】
上記期間での磁束ベクトルΨ(θ)の軌跡は、単位電圧ベクトルV1〜V6の全ての始点を原点に配した複素平面において、原点に対して離れる。電動機5は停止していてもよい。あるいは磁束ベクトルΨ(θ)の軌跡は原点を囲んで移動し、電動機5にはその回転に必要な交流の電流Iu,Iv,Iwが流れる。
【0094】
非零電圧ベクトルの少なくとも一対V4,V6の各々について連続して維持される時間τ4’,τ6’の長さたるベクトル幅の下限値Lmは、電動機5の通常運転において設定される下限値候補L1よりも大きな下限値候補L2である。下限値Lmを変更可能とすることにより、通常運転においては不要な鉄損を発生させずに効率を高め、通常運転よりも前においては鉄損ひいては予熱を発生させることができる。
【0095】
例えば下限値Lmが下限値候補L1に設定される期間において、単位電圧ベクトルV0〜V7が維持される期間において、インバータ3に入力する電流が直流電流Idcとして測定可能である。
【0096】
下限値Lmが下限値候補L2に設定される期間に先だって下限値Lmが下限値候補L2よりも小さな下限値候補L3に設定され、インバータ3を制御して電動機5を起動させてもよい。
【0097】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。上述の各種の実施形態および変形例は相互に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0098】
3 インバータ
V4,V6 単位電圧ベクトル
L1,L2 下限値候補
Lm 下限値
S ループ
Ψ(θ) 磁束ベクトル
τ4’,τ6’ 時間
【要約】
【課題】圧縮機用電動機に予熱を発生させる。
【解決手段】圧縮機用電動機5を駆動するインバータ3がデッドタイム期間以外で出力する電圧Vu,Vv,Vwを表す瞬時空間ベクトルを構成する単位となる電圧ベクトルたる単位電圧ベクトルの時間についての積分値の軌跡が、圧縮機用電動機5の電気角の運転周波数の最大値の逆数よりも短い期間内でループを形成する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9