(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
地盤を掘削して基礎ピットを構築する工程と、該基礎ピットの底面に構造物を配置する工程と、前記基礎ピット内に流体を貯留する工程と、を有する浮力式免震基礎構造の構築方法であって、
前記流体の貯留工程では、
地震時に前記構造物に作用する
加速度αの目標値を設定し、
前記構造物の荷重Wと、地震時に前記構造物に作用する水平力F(=m・α)と、
前記構造物の接地力N(F/μ)と、の関係を示す(1)式に基づいて、前記構造物に必要な浮力Vを算出し、
算出された前記浮力Vに基づいて前記流体の水位が調整され
、
前記基礎ピットの底面と、前記構造物との間に摩擦抵抗を低減するすべり砂が介在されていることを特徴とする浮力式免震基礎構造の構築方法。
【数1】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、建物を軟弱地盤上に構築する際には、前述のように基礎杭を堅固な支持地盤まで打設して建物を支持する基礎構造にするか、或いは構造物の基礎が配置される地盤を改良することにより支持力を高める施工が行われている。支持地盤に到達するまで基礎杭を打設する場合には、支持地盤が深いと、基礎杭の杭長が長くなり、打設が大掛かりとなるうえ、部材コストも大きくなっていた。また、地盤改良を行う場合にも改良にかかるコストが増大するという問題があった。
さらに、構造物の荷重を小さくして、地盤に対する接地圧を低減する方法も行われているが、荷重を小さくするには構造部材の制約から前記接地圧の低減にも限界があった。
そのため、上述したような支持地盤に対する支持や地盤改良を行わずにすむ基礎構造が求められており、その点で改良の余地があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、浮力を利用して接地圧を制御して摩擦力を低減しすべりを許容する構造とすることで、設定レベル以上の地震力が構造物に伝達されない構造となり、優れた免震効果を発揮することができる浮力式免震基礎構造の構築方法、および浮力式免震基礎構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る浮力式免震基礎構造の構築方法は、地盤を掘削して基礎ピットを構築する工程と、該基礎ピットの底面に構造物を配置する工程と、前記基礎ピット内に流体を貯留する工程と、を有する浮力式免震基礎構造の構築方法であって、前記流体の貯留工程では、地震時に前記構造物に作用する
加速度αの目標値を設定し、
前記構造物の荷重Wと、地震時に前記構造物に作用する水平力F(=m・α)と、
前記構造物の接地力F/μと、の関係を示す(1)式に基づいて、前記構造物に必要な浮力Vを算出し、算出された前記浮力Vに基づいて前記流体の水位が調整され
、前記基礎ピットの底面と、前記構造物との間に摩擦抵抗を低減するすべり砂が介在されていることを特徴としている。
また、本発明に係る浮力式免震基礎構造の構築方法は、地盤を掘削して基礎ピットを構築する工程と、該基礎ピットの底面に構造物を配置する工程と、前記基礎ピット内に流体を貯留する工程と、を有する浮力式免震基礎構造の構築方法であって、前記流体の貯留工程では、地震時に前記構造物に作用する加速度αの目標値を設定し、前記構造物の荷重Wと、地震時に前記構造物に作用する水平力F(=m・α)と、前記構造物の接地力N(F/μ)と、の関係を示す(1)式に基づいて、前記構造物に必要な浮力Vを算出し、算出された前記浮力Vに基づいて前記流体の水位が調整され、前記基礎ピットの底面と、前記構造物との間に摩擦抵抗を低減するシート材が介在されていることを特徴としている。
【0007】
【数1】
【0008】
また、本発明に係る浮力式免震基礎構造は、上述した浮力式免震基礎構造の構築方法を用いて構築された浮力式免震基礎構造であって、地盤を掘削して構築される前記基礎ピットと、該基礎ピットの底面に配置される前記構造物と、前記貯留工程で算出された浮力に基づいて水位調整された流体と、を備えていることを特徴としている。
また、本発明に係る浮力式免震基礎構造は、前記基礎ピットの底面の地盤中に地盤改良部が形成され、前記地盤改良部の上面に前記すべり砂、又は前記シート材が設けられ、前記構造物は、前記すべり砂上、又は前記シート材上に支持される布基礎を有していることを特徴としてもよい。
【0009】
本発明では、構造物が配置される基礎ピット内の流体の水位を調整することで、構造物に作用する浮力を設定することができ、これにより構造物の接地力を好適な数値となるように制御することができる。このときの構造物の接地力は、その一部が浮力によって負担されて低減されることになる。そのため、構造物が接地される基礎ピットの底面の地盤が、支持地盤よりも支持力の小さな地盤であっても、その地耐力よりも構造物の接地力を小さくすることも可能になる。また、この場合、地耐力を高めるための地盤改良領域を低減することができ、施工にかかるコストの低減を図ることができる。
【0010】
また、本発明の流体の貯留工程によって構築される構造物は、地震時に構造物に作用する慣性力が、構造物の基礎ピットの底面に対するすべりを許容することができる数値に設定されている。そのため、構造物の接地力の一部が流体の浮力によって負担され、構造物の下面と基礎ピットの底面との摩擦抵抗を小さくすることができる。
これにより、設定レベル以上の地震が生じたときに、構造物と基礎ピットの底面との間ですべりが発生し、構造物のすべりを許容することができる。したがって、本発明の浮力式免震基礎構造では、例えばせん断変形を利用する積層ゴムや転がり支承のように単に応答加速度を低減するものとは異なり、設定レベル以上の地震力が構造物に伝達されない構造となることから、優れた免震効果を発揮することができる。
【0012】
また、この場合には、構造物における基礎ピットの底面に対する摩擦抵抗をすべり
砂、又はシート材によってさらに小さくすることができるので、構造物の免震効果をさらに向上させることができる。
【0013】
また、本発明に係る浮力式免震基礎構造の構築方法は、前記構造物の重量に対する浮力負担率は、90%以上であることが好ましい。
【0014】
この場合には、構造物の応答加速度の上限値が100Gal以下となることから、構造物の設計に際して一次設計だけで済むことになり、設計効率の向上を図ることができる。
【0015】
また、本発明に係る浮力式免震基礎構造の構築方法は、前記構造物の重量に対する浮力負担率が70%以上となるように前記浮力が設定されることがより好ましい。
【0016】
本発明では、すべり材を介在させることで、構造物の重量に対する浮力負担率が70%以上と適用範囲を広げることが可能となり、前述のように構造物の応答加速度の上限値が200Gal以下となることから、構造物の設計に際して一次設計だけで済むことになり、設計効率の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の浮力式免震基礎構造の構築方法、および浮力式免震基礎構造によれば、浮力を利用して摩擦力を低減しすべりを許容する構造とすることで、設定レベル以上の地震力が構造物に伝達されない構造となり、優れた免震効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態による浮力式免震基礎構造の構築方法、および浮力式免震基礎構造について、図面に基づいて説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態による浮力式免震基礎構造1は、地盤Gを掘削して構築される基礎ピット2と、基礎ピット2の底面2a上にすべり砂5(すべり材)を介在させて配置される構造物3と、基礎ピット2内に貯留される流体4と、を備えている。
ここで、構造物3は、オフィスや住居等の構造物の基礎(構造体)であり、基礎上の構造物の大きさ、形状、用途等に限定されるものではない。
また、本実施の形態の地盤Gとしては、基礎ピット2の底面2aが支持地盤に到達していない場合を対象としている。
【0021】
基礎ピット2は、平面視で、この基礎ピット2内に配置される構造物3の周囲に所定の間隔をあけることが可能な大きさに設定されている。
基礎ピット2は、構造物3の配置箇所において、所定の深さまで掘削することにより形成される。なお、基礎ピット2の掘削壁面は、山留め材で仮に土留めされた後、コンクリート打設により外壁2Aが形成される。この外壁2Aは、地盤の土圧を受けもつと共に、水質管理等の理由によっては地盤中の地下水の基礎ピット2内への流入を防止する止水機能を備えている。なお、この外壁2Aを形成するコンクリートには、必要に応じて防水シートを埋設することで、止水効果を高めておくことが好ましい。
【0022】
構造物3と基礎ピット2の外壁2Aとの離隔寸法は、地震により構造物3と前記外壁2Aとが水平方向に相対移動した場合であっても互いに接触しない寸法に決められている。
また、基礎ピット2は、その内方に水などの流体4が配され、その流体4によって構造物3が所定の浮力が与えられた状態で配置される構成となっている。構造物3の荷重W(=mg)は、その一部が後述する構築方法によって算出される浮力Vによって負担され、前記荷重Wよりも小さな鉛直力(以下、接地力Nという)で基礎ピット2の底面2aに着底している。ここで、上述したmは構造物3の重量、gは重力である。
つまり、浮力式免震基礎構造1は、流体4が配された基礎ピット2内に配される構造物3を流体4中に浮揚させることなく、基礎ピット2の底面2aに荷重Wよりも小さな接地力Nで着底させて、荷重Wの一部のみを前記底面2a、すなわち地盤Gに支持させる構成となっている。
【0023】
すべり砂5は、構造物3における基礎ピット2の底面2aとの間で例えば10〜20cmの厚さで敷設され、双方の摩擦抵抗を低減するために設けられている。構造物3は、すべり砂5を配置することにより、基礎ピット2との地震時の水平挙動を絶縁する効果をもたせることができる。
【0024】
次に、本実施の形態の浮力式免震基礎構造1の構築方法について、図面に基づいて具体的に説明する。
図1に示すように、浮力式免震基礎構造1の構築方法は、地盤を掘削して基礎ピット2を構築する工程と、基礎ピット2の底面2aに構造物3を配置する工程と、基礎ピット2内に流体4を貯留する工程と、を有している。
【0025】
そして、
図2(a)に示すように、流体4の貯留工程では、地震時に構造物3に作用する慣性力αの目標値を設定し、構造物3の接地力Nと、構造物3の荷重Wと、地震時に構造物3に作用する水平力F(=mα)と、の関係を示す(1)式に基づいて、構造物3に必要な浮力Vを算出し、算出された浮力Vに基づいて水位を調整した流体4が基礎ピット2内に貯留される。
【0027】
ここで、浮力Vの算出方法について、さらに具体的に説明する。
構造物3に作用する水平力Fは、
図2(a)に示すように、構造物3の底面(以下、基礎底面3aという)の基礎ピット2の底面2aとの摩擦力によってその底面2a(地盤G)から伝達されるので、抗力(鉛直力)をN(上述した構造物3の接地力に相当)、基礎底面3aの摩擦係数をμとすれば、(2)式により表すことができる。したがって、地震時に構造物3が滑動する瞬間において、mα=μNとなることから、構造物3の慣性力αは、(3)式となり、抗力Nに比例する。
【0029】
地盤に作用する抗力Nは、上述したように接地力(鉛直力)であるので、
図2(b)に示すように、浮力Vにより、抗力Nをコントロールすることが可能である((4)式に基づく)。すなわち、水位(浮力V)により抗力Nをある値以下に抑えることが可能となり、滑動時の構造物の慣性力αもある値以下に抑えることが可能となる。
そして、設計目標値の加速度α(=慣性力α)を決めることで、(5)式に基づいて浮力Vを求めることができる。
なお、摩擦係数μについては、別途、材料の摩擦試験により求めることができる。
【0031】
次に、上述した浮力式免震基礎構造の構築方法、および浮力式免震基礎構造の作用について、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、構造物3が配置される基礎ピット2内の流体4の水位を調整することで、構造物3に作用する浮力を設定することができ、これにより構造物3の接地力を好適な数値となるように制御することができる。このときの構造物3の接地力は、その一部が浮力によって負担されて低減されることになる。そのため、構造物3が接地される基礎ピット2の底面2aの地盤が、支持地盤よりも支持力の小さな地盤であっても、その地耐力よりも構造物3の接地力を小さくすることも可能になる。また、この場合、地耐力を高めるための地盤改良領域を低減することができ、施工にかかるコストの低減を図ることができる。
【0032】
また、本実施の形態の流体の貯留工程によって構築される構造物は、地震時に構造物3に作用する慣性力が、構造物3の基礎ピット2の底面2aに対するすべりを許容することができる数値に設定されている。そのため、構造物3の接地力の一部が流体4の浮力によって負担され、構造物3の下面3aと基礎ピット2の底面2aとの摩擦抵抗を小さくすることができる。
【0033】
これにより、設定レベル以上の地震が生じたときに、構造物3と基礎ピット2の底面2aとの間ですべりが発生し、構造物3のすべりを許容することができる。したがって、本実施の形態の浮力式免震基礎構造1では、例えばせん断変形を利用する積層ゴムや転がり支承のように単に応答加速度を低減するものとは異なり、設定レベル以上の地震力が構造物3に伝達されない構造となることから、優れた免震効果を発揮することができる。
【0034】
また、本実施の形態では、構造物における基礎ピット2の底面2aに対する摩擦抵抗をすべり砂5によってさらに小さくすることができるので、構造物3の免震効果をさらに向上させることができる。
【0035】
また、本実施の形態では、構造物3の重量に対する浮力負担率を90%以上(好ましくは70%以上)と設定することで、構造物3の応答加速度の上限値が100Gal以下となり、構造物3の設計に際して一次設計だけで済むことになり、設計効率の向上を図ることができる。
【0036】
上述のように本実施の形態による浮力式免震基礎構造の構築方法、および浮力式免震基礎構造では、浮力を利用して摩擦力を低減しすべりを許容する構造とすることで、設定レベル以上の地震力が構造物に伝達されない構造となり、優れた免震効果を発揮することができる。
【0037】
次に、上述した実施の形態による浮力式免震基礎構造の構築方法、および浮力式免震基礎構造の効果を裏付けるために行った実施例について以下説明する。
【0038】
(実施例)
本実施例では、実験模型を使用し、浮力による効力Nをコントロールした遠心加速度30G場の遠心模型振動実験を行った。
使用した実験装置において、構造物として、重量が実物換算で50.7tのアルミ製の箱を用いた。剛体土槽の中に3号珪砂を突き固めにより3cm(実物換算90cm)となるように敷き詰めた後、模型地盤をシリコンオイル(例えば、30CS:信越化学工業社製)で飽和させた。その後、模型地盤上に構造物模型を設置し、その構造物模型周りの水位を調整することによって、構造物の重量に対して浮力負担率を70%、78%、86%、90%、95%と変化させ、それぞれにおいてステージを加振し、構造物の揺れの状態(応答加速度、水平変位)を確認した。
【0039】
図3(a)、(b)は、浮力負担率を90%に設定した実験において、模型地盤に与える入力加速度と構造物の応答加速度の時刻歴を示している。入力加速度の場合には、
図3(a)に示すように、2Hzの正弦漸増波加振であり、最大加速度は330Galとなっている。一方で、構造物の応答加速度は、
図3(b)に示すように、20秒以降において90Galが上限値となっている。
【0040】
図4は、同じ実験ケース(浮力負担率を90%に設定した実験)における構造物水平変位の時刻歴を示している。構造物の応答加速度が上限値となる20秒付近以降で急激に水平変位が増大しており、構造物と地盤との間にすべりが生じていることがわかる。この場合、最終的な水平変位が略30cmとなった。
【0041】
図5は、浮力負担率を90%に設定した場合における、ステージ加振における入力加速度と、構造物、地盤(地表面)と、の応答加速度の関係を示している。地盤の応答加速度は、入力加速度の増加とともにほぼ比例して大きくなり、入力が200Galを超えると地盤の非線形性により増幅していることが確認することができる。一方で、構造物の応答加速度は、入力加速度が大きくなっても増大することがなく、50〜100Galの範囲で推移していることが確認することができる。
【0042】
図6は、浮力負担率を70%、78%、86%、90%、95%と変化させた場合の入力加速度に対する構造物の応答加速度の関係を示している。
図6に示すように、いずれの浮力負担率においても、構造物の応答加速度は、上限値があり、所定の値以上には大きくならないことがわかる。
そして、とくに浮力負担率が90%と95%の場合には、応答加速度が100Gal以下となることから、例えば震度4程度以下の中小地震を対象とした地震力に対して行う一次設計のみで対応することができる。
【0043】
以上、本発明による浮力式免震基礎構造の構築方法、および浮力式免震基礎構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0044】
例えば、本実施の形態では、すべり砂5を設けているが、省略することも可能であるし、すべり砂5に代えて他のすべり材を採用してもよい。要は、構造物3と基礎ピット2との水平挙動を絶縁する機能とを有すればよいのである。
例えば、
図7に示す変形例による浮力式免震基礎構造1Aのように、摩擦抵抗の小さいシート材6(すべり材)を構造物本体31を支持する布基礎32と、軟弱地盤に施工された地盤改良部7との間に介在させるようにしてもよい。本変形例の場合も、布基礎32の周囲は流体4が満たされており、構造物3Aの接地力の一部が流体4の浮力によって負担され、布基礎32の下面32aと地盤改良部7の上面との摩擦抵抗を小さくする構成となっている。
なお、この変形例のシート材6に代えて、上述した実施の形態のすべり砂を介在させることも可能であるし、上述した実施の形態のすべり砂5を変形例によるシート材6としても良い。
【0045】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。