特許第6372731号(P6372731)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6372731
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】X線回折測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/205 20180101AFI20180806BHJP
【FI】
   G01N23/205
【請求項の数】4
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-130128(P2017-130128)
(22)【出願日】2017年7月3日
【審査請求日】2017年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112004
【氏名又は名称】パルステック工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲也
【審査官】 嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−101929(JP,A)
【文献】 特開2014−022109(JP,A)
【文献】 特開2013−098090(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/118761(WO,A1)
【文献】 特開2016−090357(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/112030(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/102919(WO,A1)
【文献】 特開2002−221504(JP,A)
【文献】 特開昭50−098773(JP,A)
【文献】 特開昭50−098887(JP,A)
【文献】 特開2012−084383(JP,A)
【文献】 米国特許第05020086(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
H01J 35/00−35/32
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットに加速した電子線を当てることでX線を発生させ、出射口からX線を出射するX線管と、
前記X線管から出射されたX線を管状物体を通過させることで略平行なX線にしたうえで対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射機構と、
前記X線出射機構から前記測定対象物に向けてX線が出射された際、前記測定対象物にて発生した回折X線を、前記X線出射機構から出射されるX線の光軸に対して略垂直に交差する撮像面にて受光し、前記撮像面に前記回折X線の像である回折環を形成するとともに前記回折環の形状を検出する回折環形成検出手段とを備えたX線回折測定装置において、
前記X線管に磁界を及ぼし、前記電子線の光路を変化させて前記ターゲットに当たる電子線の位置を変化させ、前記X線出射機構から出射されるX線の光軸の位置を、前記磁界がないときの前記X線の光軸と前記撮像面において基準回転角度とするラインとを含む基準平面に垂直な平面であって前記磁界がないときの前記X線の光軸を含む平面内で、前記X線の光軸の前記基準平面に対する角度が前記磁界の強度に対応する分変化するよう変動させるX線光軸変動手段と、
前記磁界の強度を、前記磁界の強度に対応する量を変化させて固定することで調整する磁界強度調整手段と、
前記回折環形成検出手段により検出された回折環の形状から回折環の左右対称性度合を計算する回折環対称性度合計算手段と、
前記磁界強度調整手段が固定する前記磁界の強度に対応する量を変化させるごとに前記X線管よりX線を出射させて、前記回折環形成検出手段に回折環の形状を検出させ、前記回折環対称性度合計算手段に回折環の左右対称性度合を計算させることで、前記磁界の強度に対応する量と回折環の左右対称性度合との関係である磁界−対称性度合関係を取得し、前記取得した磁界−対称性度合関係を用いて回折環の左右対称性度合が最もよくなるよう前記磁界強度調整手段が固定する前記磁界の強度に対応する量を設定する制御手段とを備えたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線回折測定装置において、
前記磁界の強度に対応する量と、前記撮像面から設定された距離におけるX線照射点の前記磁界がないときのX線照射点からの移動量との関係である磁界−照射点移動量関係を備えていることを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のうちのいずれか1つに記載のX線回折測定装置において、
前記X線光軸変動手段は、前記X線管の側面近傍に、対向する向きが前記電子線の光軸に垂直になるよう配置した永久磁石と磁性体であり、
前記磁界強度調整手段は、前記永久磁石と前記磁性体を結ぶベクトルと前記永久磁石の磁極を結ぶベクトルとが成す角度を変化させて固定する手段であることを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2のうちのいずれか1つに記載のX線回折測定装置において、
前記X線光軸変動手段は、前記X線管の側面近傍に、対向する向きが前記電子線の光軸に垂直になるよう配置した電磁石と磁性体であり、
前記磁界強度調整手段は、前記電磁石に供給する直流電流の向きと強度を変化させて固定する手段であることを特徴とするX線回折測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線により回折環を形成して該回折環の形状を検出するX線回折測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば特許文献1に示されるように、測定対象物に所定の入射角度でX線を照射して、測定対象物で回折したX線により回折環を形成し、形成された回折環の形状を検出してcosα法による分析を行い、測定対象物の残留応力を測定するX線回折測定装置が知られている。特許文献1に示されている装置は、X線出射器、イメージングプレート等の撮像手段、レーザ検出装置等の読取手段、および移動機構と回転機構等のレーザ走査手段及びLED光照射器等の回折環消去手段等を1つの筐体内に備え、該筐体がアーム式移動装置に接続されている。このX線回折測定装置によりX線回折測定を行うときは、アーム式移動装置を測定対象物の近傍に設置した後、アーム式移動装置を操作して測定対象物に対するX線回折測定装置の位置と姿勢を調整する位置姿勢調整工程、測定対象物にX線を照射して発生する回折X線により、回折環をイメージングプレートに撮像する撮像工程、イメージングプレートにレーザ検出装置からのレーザ光を走査しながら照射することで回折環の形状を検出する読取り工程、撮像した回折環をLED光の照射により消去する消去工程、及び検出した回折環の形状から残留応力を計算する計算工程を連続して行う。これにより、測定対象物の残留応力を短時間で測定することができる。また、このX線回折測定装置は運搬することができ、アーム式移動装置により位置と姿勢を調整することができるので、測定対象物が固定されていたり重量があったりして移動することができず、切り出しすることもできない場合であってもX線回折測定を行うことができる。
【0003】
また、特許文献1に示されるX線回折測定装置は出射X線の光軸と同一の光軸を有する平行なLED光を照射し、照射点付近をカメラ撮影する機能がある。そして、測定対象物の意図する箇所をX線回折測定する場合は、該平行なLED光を照射し、LED光照射点が測定対象物の意図する箇所になり、撮影画像上のLED光の照射点とLED光の反射光の受光点が所定の位置(十字マークのクロス点)になるようX線回折測定装置の位置と姿勢を調整する。これにより、X線を意図する箇所に照射するとともに、X線照射点からイメージングプレートまでの距離およびX線の入射角を設定値にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5967394号公報
【発明の概要】
【0005】
特許文献1に示されるX線回折測定装置は、材質がX線回折する金属から製作されているものであれば、どのような形状の測定対象物でもX線回折測定をすることができ、測定対象物がギアである場合がある。そして、測定対象物がギアである場合、測定箇所はギアの歯と歯の間(以下、歯底という)であることが多いが、この場合でも、上述したように平行なLED光をギアに照射してX線回折測定装置の位置と姿勢の調整を行えばよい。ただし、X線は測定箇所にある程度の入射角で照射する必要があり、ギアの歯に妨害されないようX線を照射するには、イメージングプレートの回転角度0°のライン(撮像された回折環において回転角度0°とするライン)と出射X線の光軸とを含む平面(以下、基準平面という)が、ギアの回転軸に対して平行になるよう、言い換えると基準平面が隣り合ったギアの歯の先端における同点同士を結ぶラインに対して垂直になるよう、X線回折測定装置の位置と姿勢の調整を行う必要がある。
【0006】
しかしながら、平行なLED光の照射点がギアの歯底になるようX線回折測定装置の位置と姿勢を調整しても、図10に示すように回折X線がギアの歯によって妨害されて回折環が全周得られない場合があり、図10(a)に示すように回折環の回転角度0°のラインに対して対称に回折環が得られない場合は、cosα法で計算できるデータ数が少ないため精度よく残留応力が計算できない。よって、この場合は図10(b)のように回折環の回転角度0°のラインに対して対称に回折環が得られるよう、LED光の照射点(X線の照射点)の位置を微調整する必要があるが、アーム式移動装置を操作してX線回折測定装置の筐体の位置と姿勢を微調整することは非常に困難であり、対称の回折環が得られるまでに時間を要するという問題がある。また、X線回折測定装置の筐体の位置と姿勢を微調整できる機構を設けると装置全体が大型化し運搬が困難になるという問題や、装置のコストが大幅に増大するという問題がある。
【0007】
本発明はこの問題を解消するためなされたもので、その目的は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線により回折環を形成して該回折環の形状を検出するX線回折測定装置において、測定箇所がギアの歯底のように回折X線が測定対象物で妨害される可能性がある場合であっても、装置の大型化やコストの大幅な増大を伴うことなく、効率よくX線の照射点位置を微調整して、回折環の回転角度0°のラインに対して対称の回折環を得ることができるX線回折測定装置を提供することにある。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、ターゲットに加速した電子線を当てることでX線を発生させ、出射口からX線を出射するX線管と、X線管から出射されたX線を管状物体を通過させることで略平行なX線にしたうえで対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射機構と、X線出射機構から測定対象物に向けてX線が出射された際、測定対象物にて発生した回折X線を、X線出射機構から出射されるX線の光軸に対して略垂直に交差する撮像面にて受光し、撮像面に回折X線の像である回折環を形成するとともに回折環の形状を検出する回折環形成検出手段とを備えたX線回折測定装置において、X線管に磁界を及ぼし、電子線の光路を変化させてターゲットに当たる電子線の位置を変化させ、X線出射機構から出射されるX線の光軸の位置を、磁界がないときのX線の光軸と撮像面において基準回転角度とするラインとを含む基準平面に垂直な平面であって磁界がないときのX線の光軸を含む平面内で、X線の光軸の基準平面に対する角度が磁界の強度に対応する分変化するよう変動させるX線光軸変動手段と、磁界の強度を、磁界の強度に対応する量を変化させて固定することで調整する磁界強度調整手段と、回折環形成検出手段により検出された回折環の形状から回折環の左右対称性度合を計算する回折環対称性度合計算手段と、磁界強度調整手段が固定する磁界の強度に対応する量を変化させるごとにX線管よりX線を出射させて、回折環形成検出手段に回折環の形状を検出させ、回折環対称性度合計算手段に回折環の左右対称性度合を計算させることで、磁界の強度に対応する量と回折環の左右対称性度合との関係である磁界−対称性度合関係を取得し、取得した磁界−対称性度合関係を用いて回折環の左右対称性度合が最もよくなるよう磁界強度調整手段が固定する磁界の強度に対応する量を設定する制御手段とを備えたX線回折測定装置としたことにある。
【0009】
これによれば、測定箇所がギアの歯底である場合、回折環形成検出手段が検出した回折環が全周得られず、回転角度0°のラインに対して左右対称になっていないときは、X線光軸変動手段によりX線管に磁界を及ぼすことでX線の光軸位置を変動させ、磁界強度調整手段により回転角度0°のラインに対して回折環が左右対称になるようX線管に及ぼす磁界の強度を調整すればよい。すなわち、従来のX線回折測定装置にX線管に磁界を及ぼすX線光軸変動手段と及ぼす磁界の強度を調整する磁界強度調整手段を追加して設けるのみで、効率よくX線の照射点位置を微調整することができる。また、X線回折測定装置の筐体の位置と姿勢を微調整する機構は不要なので装置の大型化やコストの大幅な増大もない。また、撮像面を変動させずにX線の光軸位置を変動させても、X線の光軸位置の変動が基準平面に垂直な平面であって磁界がないときのX線の光軸を含んだ平面内で、基準平面に対する角度が変化する変動であれば、回折環の形状から計算される残留垂直応力の値にはほとんど影響しない。また、回折環形成検出手段が検出した回折環が全周得られず、回転角度0°のラインに対して対称になっていないときは、制御手段が、磁界強度調整手段、X線管、回折環形成検出手段及び回折環対称性度合計算手段を制御して、磁界−対称性度合関係を取得し、磁界強度調整手段が固定する磁界の強度に対応する量を回折環の左右対称性度合が最もよくなるよう設定するので、作業者が磁界の強度に対応する量またはX線照射点の移動量と回折環の形状との関係を見て判断する必要がなく、さらに効率よくX線の照射点位置を微調整することができる。なお、回折環の左右対称性度合とは、回折環の回転角度0°のラインに対する対称性の度合のことであり、例えば、回転角度0°〜180°で得られる回折環データの数と回転角度0°〜−180°で得られる回折環データの数との差で表すことができる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、磁界の強度に対応する量と、撮像面から設定された距離におけるX線照射点の磁界がないときのX線照射点からの移動量との関係である磁界−照射点移動量関係を備えていることにある。
【0011】
これによれば、回折環形成検出手段が検出した回折環が全周得られず、回転角度0°のラインに対して対称になっていないときは、検出した回折環の形状からどの程度X線照射点を移動させればよいか推定し、推定した移動量を磁界−照射点移動量関係に当てはめて磁界の強度に対応する量を求め、磁界強度調整手段が固定する磁界の強度に対応する量を設定することができるなお、磁界−照射点移動量関係はコンピュータ装置のメモリに記憶しておけば、自動でX線照射点の移動量を磁界の強度に対応する量に換算できるので好ましいが、装置に付属する文書や装置筐体等に表示された換算表とすることもできる。また、磁界−照射点移動量関係を備えている場合、磁界−対称性度合関係における磁界の強度に対応する量は、X線照射点の移動量を含むものとする。
【0014】
また、本発明の他の特徴は、X線光軸変動手段は、X線管の側面近傍に対向する向きが電子線の光軸に垂直になるよう配置した永久磁石と磁性体であり、磁界強度調整手段は、永久磁石と磁性体を結ぶベクトルと永久磁石の磁極を結ぶベクトルとが成す角度を変化させて固定する手段であるようにしたことにある。これによれば、簡単な機構でX線管に磁界を及ぼし、該磁界の強度を調整することができる。
【0015】
また、これに替えて、X線光軸変動手段は、X線管の側面近傍に、対向する向きが電子線の光軸に垂直になるよう配置した電磁石と磁性体であり、磁界強度調整手段は、電磁石に供給する直流電流の向きと強度を変化させて固定する手段であるようにしてもよい。これによっても、簡単な機構でX線管に磁界を及ぼし、該磁界の強度を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを示す全体概略図である。
図2図1のX線回折測定装置の拡大図である。
図3図2のX線回折測定装置におけるX線が通過する部分を拡大して示す部分断面図である。
図4図3のプレート部分の拡大斜視図である。
図5】磁界をX線管に作用させ磁界強度を変化させることでX線管のターゲットにおけるX線発生箇所が変化することを示した図である。
図6】X線管のターゲットにおけるX線発生箇所が変化すると出射X線の光軸位置が変化し、X線照射点の位置が変化することを示した図である。
図7】出射X線の光軸位置が変化することで撮像される回折環の形状が変化するが、残留垂直応力の計算値にはほとんど影響しないことを示した図である。
図8図1のX線回折測定システムのコントローラが実行するプログラムのフロー図である。
図9】X線照射点の移動量と回折環左右対称性度合との関係から最適なX線照射点の移動量を計算する方法を視覚的に示した図である。
図10】ギアの歯底をX線回折測定する場合、X線照射点の位置が僅かに異なるだけで回折環の左右対称性が大きく異なることを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について図1乃至図4を用いて説明する。なお、このX線回折測定システムが、先行技術文献の特許文献1に示されているX線回折測定システムと異なっている点は、LED光源44が取り付けられたユニットの配置、X線管10に磁界を及ぼす機構と該磁界の強度を調整する機構及び回路を備える点、及びコントローラ91に、入力したX線照射点の移動量から該磁界の強度を調整する回路の設定を制御するシステムを備える点である。よって、特許文献1に示されているX線回折測定システムで既に説明されている箇所は、簡略的に説明するにとどめる。
【0018】
このX線回折測定システムは、歯底の残留応力を測定するギアがある場所まで運搬されてセットされるものである。ギアはX線回折測定が可能であればどのような材質のものでもよいが、本実施形態では鉄製のものとする。以後、残留応力を測定するギアを測定対象物OBという。X線回折測定装置はアーム式移動装置により位置と姿勢を調整することができ、測定対象物OBに対するX線回折測定装置の位置と姿勢を変更して、測定対象物OBに対するX線の照射方向及びX線照射点から回折環の撮像面までの距離を、意図した方向と距離に設定することができる。
【0019】
X線回折測定装置は、筐体50内に、X線出射器10、イメージングプレート15を取り付けるテーブル16、テーブル16を回転及び移動させるテーブル駆動機構20及び回折環を検出するレーザ検出装置30等を備えている。そして、X線回折測定システムは、このX線回折測定装置とともに、アーム式移動装置(図示しない)、コンピュータ装置90及び高電圧電源95を備える。筐体50内には、上述した装置に接続されて作動制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、図1において筐体50外に示された2点鎖線で囲われた各種回路は、筐体50内の2点鎖線内に納められている。
【0020】
筐体50は、略直方体状に形成されるとともに、底面壁50a、前面壁50b、後面壁50e、上面壁50f、側面壁(図示せず)、及び底面壁50aと前面壁50bの角部を紙面の表側から裏側に向けて切り欠くように設けた切欠き部壁50cと繋ぎ壁50dを有するように形成されている。切欠き部壁50cは底面壁50aに垂直な平板と平行な平板とからなり、繋ぎ壁50dは側面壁と垂直であり底面壁50aと所定の角度を有している。この所定の角度は、例えば30〜45度である。側面壁の1つには、支持アーム51に接続される接続部(図示せず)が設けられており、接続部は図1及び図2の紙面の垂直周りに回転可能になっている。支持アーム51はアーム式移動装置の先端であり、アーム式移動装置を操作することにより、筐体50(X線回折測定装置)を任意の位置と姿勢にすることができる。
【0021】
X線出射器10は、筐体50内の上部にて図示左右方向に延設されて筐体50に固定されており、高電圧電源95からの高電圧の供給を受け、X線を図示下方向に出射する。X線制御回路71は、コントローラ91から指令が入力すると、X線出射器10から一定強度のX線が出射されるように、X線出射器10に高電圧電源95から供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線出射器10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路71は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。
【0022】
テーブル駆動機構20は、筐体50に固定され、X線出射器10の下方にて移動ステージ21を備えている。移動ステージ21は、テーブル駆動機構20における対向する1対の板状のガイド25,25により挟まれていて、テーブル駆動機構20に固定されたフィードモータ22、スクリューロッド23及び軸受部24により、出射X線の光軸が含まれる筐体50の側面壁に平行な平面内であって、出射X線の光軸に垂直な方向に移動する。フィードモータ22内には、エンコーダ22aが組み込まれており、エンコーダ22aはフィードモータ22が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73へ出力する。
【0023】
位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73は、コントローラ91からの指令により作動する。測定開始直後において、フィードモータ制御回路73は、移動ステージ21をフィードモータ22側へ移動させるようフィードモータ22に駆動信号を出力し、位置検出回路72は、移動ステージ21が移動限界位置に達して、エンコーダ22aからパルス列信号が入力されなくなると、駆動信号停止を意味する信号をフィードモータ制御回路73に出力し、カウント値を「0」に設定する。フィードモータ制御回路73は、これにより駆動信号の出力を停止する。この移動限界位置が移動ステージ21の原点位置となり、位置検出回路72は、以後、移動ステージ21が移動するごとにエンコーダ22aからのパルス列信号をカウントし、移動方向によりカウント値を加算または減算して移動限界位置からの移動距離xを位置信号として出力する。フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から移動ステージ21の移動先位置を入力すると、位置検出回路72から入力する位置信号が入力した移動先位置に等しくなるまで、フィードモータ22を正転又は逆転駆動する。また、フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から移動ステージ21の移動速度を入力すると、エンコーダ22aから入力したパルス列信号の単位時間当たりのパルス数を用いて、移動ステージ21の移動速度を計算し、計算した移動速度が入力した移動速度になるようにフィードモータ22を駆動する。
【0024】
一対のガイド25,25の上端は、板状の上壁26によって連結されており、上壁26には貫通孔26aが設けられていて、貫通孔26aの中心位置はX線出射器10の出射口11の中心位置に対向しており、出射X線は、出射口11及び貫通孔26aを介してテーブル駆動機構20内に入射する。後述するイメージングプレート15が回折環撮像位置にある状態(図1乃至図3の状態)において、移動ステージ21の貫通孔26aと対向する位置には、図3に拡大して示すように、貫通孔21aが形成されている。移動ステージ21には、出射口11及び貫通孔26a,21aの中心軸線位置を回転中心とするスピンドルモータ27が組み付けられており、スピンドルモータ27の出力軸27aは円筒状で断面円形の貫通孔27a1を有する。スピンドルモータ27の出力軸27aの反対側には、貫通孔27bが設けられ、貫通孔27bの内周面上には、貫通孔27bの一部の内径を小さくするための円筒状の通路部材28が固定されている。
【0025】
また、スピンドルモータ27内にはエンコーダ27cが組み込まれ、エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を、スピンドルモータ制御回路74及び回転角度検出回路75へ出力する。さらに、エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が1回転するごとに、所定の短い期間だけローレベルからハイレベルに切り替わるインデックス信号を、コントローラ91及び回転角度検出回路75に出力する。
【0026】
スピンドルモータ制御回路74は、コントローラ91から回転速度を入力すると、エンコーダ27cから入力するパルス列信号の単位時間当たりのパルス数から計算される回転速度が、入力した回転速度になるように、駆動信号をスピンドルモータ27に出力する。回転角度検出回路75は、エンコーダ27cから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、そのカウント値から回転角度θpを計算してコントローラ91に出力する。また、回転角度検出回路75は、エンコーダ27cからインデックス信号を入力すると、カウント値をリセットして「0」にする。これが回転角度0°の位置である。なお、イメージングプレート15の回転角度0°の位置とは、後述するレーザ検出装置30からのレーザ照射によりイメージングプレート15に形成された回折環を読み取る際、インデックス信号を入力した時点でレーザ光が照射されている位置である。この位置はイメージングプレート15の各半径位置においてあるためラインである。
【0027】
テーブル16は、円形状であり、スピンドルモータ27の出力軸27aの先端部に固定されている。テーブル16は、下面中央部から下方へ突出した突出部17を有し、突出部17の外周面には、ねじ山が形成されている。テーブル16の下面にはイメージングプレート15が取付けられる。イメージングプレート15の中心部には貫通孔15aが設けられていて、この貫通孔15aに突出部17を通し、突出部17の外周面上にナット状の固定具18をねじ込むことにより、イメージングプレート15が、固定具18とテーブル16の間に挟まれて固定される。固定具18は、円筒状の部材で、内周面に、突出部17のねじ山に対応するねじ山が形成されている。
【0028】
テーブル16、突出部17及び固定具18にも貫通孔16a,17a,18aがそれぞれ設けられており、貫通孔18aの内径は通路部材28の内径と同じである。すなわち、出射X線は、貫通孔26a,21a,通路部材28,貫通孔27b,27a1,16a,17a,18aを介して出射され、通路部材28の内径及び貫通孔18aの内径は小さいので、貫通孔18aから出射されるX線は貫通孔27a1の軸線に平行な平行光となり、筐体50の円形孔50c1から出射される。
【0029】
イメージングプレート15は、移動ステージ21、スピンドルモータ27及びテーブル16と共に、回折環撮像位置へ移動し、また、後述する撮像した回折環を読み取る回折環読取り領域、及び回折環を消去する回折環消去領域へ移動する。この移動において、イメージングプレート15の中心軸は、出射X線の光軸とイメージングプレート15における回転角度0°の位置(ライン)とが成す平面内に保たれた状態で、出射X線の光軸に垂直な方向に移動する。
【0030】
レーザ検出装置30は、回折環を撮像したイメージングプレート15にレーザ光を照射し、イメージングプレート15が発光した光の強度を検出する。レーザ検出装置30は、回折環撮像位置にあるイメージングプレート15からフィードモータ22側に充分離れており、測定対象物OBにて回折したX線がレーザ検出装置30によって遮られないようになっている。レーザ検出装置30は、レーザ光源31、コリメートレンズ32、反射鏡33、ダイクロイックミラー34、及び対物レンズ36等を備えた光ヘッドであり、光ディスクの記録再生に用いられるものと同様な構成である。 レーザ駆動回路77は、コントローラ91から指令が入力すると、フォトディテクタ42から入力する信号の強度が所定の強度になるようレーザ光源31に駆動信号を出力し。レーザ光源31からは一定強度のレーザ光が出射される。フォトディテクタ42は後述するダイクロイックミラー34で微量が反射し、集光レンズ41を介して受光したレーザ光の強度に相当する強度の信号を出力するが、ダイクロイックミラー34での反射の割合は一定であるので、出射したレーザ光の強度に相当する強度の信号を出力すると見なせる。コリメートレンズ32はレーザ光を平行光にし、反射鏡33はレーザ光を、ダイクロイックミラー34に向けて反射し、ダイクロイックミラー34は、入射したレーザ光の大半(例えば、95%)をそのまま透過させる。対物レンズ36は、レーザ光をイメージングプレート15の表面に集光させる。対物レンズ36には、フォーカスアクチュエータ37が組み付けられており。後述するフォーカスサーボにより、レーザ光の焦点は常にイメージングプレート15の表面に合致する。
【0031】
集光されたレーザ光が、イメージングプレート15の回折環が撮像されている部分に照射すると、輝尽発光(Photo−Stimulated Luminesence)現象が生じ、回折環撮像時における回折X線の強度に応じた光が発生する。この輝尽発光により発生した光はレーザ光の波長よりも波長が短く、レーザ光の反射光と共に対物レンズ36を通過するが、ダイクロイックミラー34にて大部分が反射し、レーザ光の反射光は大部分が透過する。ダイクロイックミラー34で反射した光は、集光レンズ38、シリンドリカルレンズ39を介してフォトディテクタ40に入射する。フォトディテクタ40は、4つの同一正方形状の受光素子からなる4分割受光素子からなり、4つの受光信号(a,b,c,d)を増幅回路78に出力する。なお、シリンドリカルレンズ39は非点収差を生じさせるためにある。
【0032】
増幅回路78は、入力した4つの受光信号(a,b,c,d)を増幅してフォーカスエラー信号生成回路79及びSUM信号生成回路80へ出力する。フォーカスエラー信号生成回路79は、非点収差法におけるフォーカスエラー信号を生成してフォーカスサーボ回路81へ出力する。フォーカスサーボ回路81は、コントローラ91により指令が入力すると作動開始し、入力したフォーカスエラー信号に基づいて、フォーカスサーボ信号を生成してドライブ回路82に出力する。ドライブ回路82は、入力したフォーカスサーボ信号に応じてフォーカスアクチュエータ37を駆動して、対物レンズ36をレーザ光の光軸方向に変位させ、これにより、レーザ光の焦点は常にイメージングプレート15の表面に合致する。
【0033】
SUM信号生成回路80は、入力した4つの受光信号を合算してSUM信号を生成し、A/D変換回路83に出力する。SUM信号の強度は、イメージングプレート15にて反射し、ダイクロイックミラー34で反射した微量のレーザ光の強度と輝尽発光により発生した光の強度を合わせた強度に相当するが、イメージングプレート15にて反射するレーザ光の強度はほぼ一定であるので、SUM信号の強度は、輝尽発光により発生した光の強度に相当する。すなわち、SUM信号の強度は、撮像された回折環における回折X線の強度に相当する。A/D変換回路83は、コントローラ91から指令が入力すると、入力するSUM信号の瞬時値をデジタルデータに変換してコントローラ91に出力する。
【0034】
また、対物レンズ36に隣接して、LED光源43が設けられている。LED光源43は、LED駆動回路84によって制御されて、可視光を発して、イメージングプレート15に撮像された回折環を消去する。LED駆動回路84は、コントローラ91から指令を入力すると、LED光源43に、所定の強度の可視光を発生させるための駆動信号を供給する。
【0035】
また、X線回折測定装置は、LED光源44を有する。LED光源44は、図2乃至図4に示すように、移動ステージ21とテーブル駆動機構20の上壁26の下面との間に配置されたプレート45の一端部下面に固定されている。プレート45は、移動ステージ21内に固定されたモータ46の出力軸46aに固着されており、モータ46の回転により、上壁26の下面に平行な面内を回転する。移動ステージ21にはストッパ部材47a,47bが設けられており、ストッパ部材47aは、プレート45を図4のD1方向に回転させたとき、LED光源44が上壁26の貫通孔26a及び移動ステージ21の貫通孔21aに対向する位置(A位置)で静止するように、プレート45の回転を規制する。一方、ストッパ部材47bは、プレート45を図4のD2方向に回転させたとき、プレート45が上壁26の貫通孔26aと移動ステージ21の貫通孔21aとの間を遮断しない位置(B位置)で静止するように、プレート45の回転を規制する。言い換えれば、A位置は、プレート45が図2及び図3に示す状態にある位置であり、LED光源44から出射されるLED光がスピンドルモータ27の貫通孔27a1に設けた通路部材28の通路に入射する位置である。B位置は、X線出射器10から出射されるX線がプレート45によって遮られない位置である。LED光源44は、コントローラ91によって作動制御されるLED駆動回路85からの駆動信号によりLED光を出射する。LED光は拡散する可視光であるが、プレート45がA位置にあるとき、その一部は、出射X線と同様の経路で貫通孔18aから出射するので、出射X線と同様、貫通孔27a1の軸線に平行な平行光になる。
【0036】
モータ46はエンコーダ46bを備えており、エンコーダ46bはモータ46が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を回転制御回路86に出力する。回転制御回路86は、コントローラ91から回転方向と回転開始の指令が入力されると、モータ46に駆動信号を出力し、モータ46を指示方向に回転させる。そして、エンコーダ46bからパルス列信号の入力が停止すると、駆動信号の出力を停止する。これにより、プレート45を、上述したA位置及びB位置までそれぞれ回転させることができる。
【0037】
筐体50の切欠き部壁50cには結像レンズ48が設けられ、筐体50内部には撮像器49が設けられている。撮像器49は、CCD受光器又はCMOS受光器で構成され、各撮像素子ごとの受光強度に相当する強度の信号をセンサ信号取出回路87に出力する。結像レンズ48及び撮像器49は、イメージングプレート15に対して設定された位置にある測定対象物OBにおけるLED光の照射点を中心とした領域の画像を撮像するデジタルカメラとして機能する。イメージングプレート15に対して設定された位置とは、測定対象物OBにおけるX線及びLED光の照射点からイメージングプレート15までの垂直距離Lが、予め決められた設定距離となる位置である。この場合の結像レンズ48及び撮像器49による被写界深度は、前記照射点を中心とした前後の範囲で設定されている。センサ信号取出回路87は、撮像器49の各撮像素子ごとの信号強度データを、各撮像素子の位置(すなわち画素位置)が分かるデータと共にコントローラ91に出力する。
【0038】
また、結像レンズ48の光軸は、X線出射器10から出射されるX線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面に含まれるとともに、この光軸と測定対象物OBに照射されるX線及びLED光の光軸が交わる点は、イメージングプレート15から設定された距離にある測定対象物OBにおけるX線及びLED光の照射点であるように調整されている。さらに、X線及びLED光の測定対象物OBに対する入射角度が設定値であるとき、結像レンズ48の光軸と測定対象物OBのX線及びLED光の照射点における法線方向とが成す角度は前記入射角度に等しい角度であるようにされている。したがって、測定対象物OBにおけるX線及びLED光の照射点からイメージングプレート15までの距離が設定された距離にあり、X線及びLED光が測定対象物OBに設定された入射角度で照射された場合には、結像レンズ48に入射する散乱光の光軸と反射光の光軸はいずれも結像レンズ48の光軸と一致するため、撮像器49におけるLED光の照射点と測定対象物OBで反射したLED光の受光点は同じ位置に生じる。測定対象物OBに照射されるLED光は平行光であるので、照射点において、LED光は散乱光と、略平行光のまま反射する反射光を発生させるが、散乱光のうち結像レンズ48に入射した光は撮像器49の位置で結像して照射点となり、結像レンズ48に入射した反射光は結像レンズ48により集光されて撮像器49で受光され受光点なる。よって、LED光の照射点からイメージングプレート15までの距離が設定された距離であり、LED光が測定対象物OBに設定された入射角度で照射されたとき、撮像器49が出力する信号強度データから作成される撮影画像では、照射点の画像と受光点の画像は同じ位置になる。
【0039】
コンピュータ装置90は、コントローラ91、入力装置92及び表示装置93からなる。コントローラ91は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、大容量記憶装置に記憶された各種プログラムを実行してX線回折測定装置の作動を制御する。入力装置92は、コントローラ91に接続されて、作業者により、各種パラメータ、作業指示などの入力のために利用される。表示装置93は、表示画面上に撮像器49から入力する信号強度データにより作成された撮影画像を表示するとともに、結像レンズ48の光軸が撮像器49と交差する箇所に相当する箇所に十字のマークを表示する。この十字マークのクロス点は、LED光(出射X線)の照射点からイメージングプレート15までの距離が設定された距離であり、LED光(出射X線)が測定対象物OBに設定された入射角度で照射されたとき、照射点の画像および受光点の画像が生じる位置である。また、十字マークの縦方向を測定対象物OBの表面に投影させた方向が、撮像された回折環から計算される残留垂直応力の測定方向である。さらに、表示装置93は、X線回折測定システムの各種の設定状況、作動状況及び測定結果などを表示する。高電圧電源95は、X線出射器10にX線出射のための高電圧及び電流を供給する。
【0040】
図1及び図2に示すように、X線管10の上方には永久磁石である磁石55が配置され、X線管10の下方には磁石55に対向するように、上壁26に埋め込まれて磁性体58が配置されている。磁石55から磁性体58に向かう方向はX線管10の中心軸に直交する方向であり、出射X線の光軸に平行な方向である。また、磁石55の磁極の方向と磁石55から磁性体58に向かう方向とが一致しているとき、磁石55の中心と磁性体58の中心を結ぶラインは、X線管10の中心軸と出射X線の光軸とを含む平面内にある。この平面はイメージングプレートの回転角度0°のラインと出射X線の光軸とを含む平面である基準平面でもある。よって、磁石55と磁性体58により発生する磁界の方向は、基準平面から所定の範囲内においてはX線管10の中心軸に直交し、出射X線の光軸に平行である。また、後述するようにX線管10は電子線をクロム等のターゲットに当てることによりX線を発生させるものであり、電子線の光軸はX線管10の中心軸に略一致しているので、磁石55と磁性体58により発生する磁界の方向は、X線管10内の電子線の光軸に直交している。
【0041】
磁石55は固定具56に取り付けられ、固定具56はモータ57の出力軸に連結されており、モータ57を回転させると磁石55の磁極の方向は変化する。これにより、磁石55と磁性体58により発生する磁界の強度と方向は変化するが、磁石55はX線管10に対して小さいのでモータ57を回転させても磁石55から磁性体58に向かう方向は大きく変化せず、磁石55の磁極の方向のみが変化すると見なすことができる。よって、モータ57を回転させると磁石55と磁性体58により発生する磁界の変化は、磁石55の中心と磁性体58の中心を結ぶラインの方向における、磁界の向きの変化と磁界強度の変化と見なすことができる。
【0042】
図5はX線管10の中心軸を含み、磁界がないときの出射X線の光軸に垂直な平面から出射X線の方向に見たX線管10の断面図である。図5において磁石55の中心と磁性体58の中心を結ぶラインの方向は紙面に垂直であり、磁石55、固定具56及びモータ57は紙面の上方に存在するため仮想線で描かれている。X線管10の中心軸には電子線ELの光軸があり、電子線ELの光軸近傍では磁石55と磁性体58により発生する磁界は紙面垂直方向であり、該磁界は電子線ELに対し紙面垂直方向に作用する。これにより、ローレンツ力が紙面内で電子線ELの光軸の垂直方向に発生し、電子線ELは紙面内で光軸位置が変化する。そして、ローレンツ力は磁界の強度に比例し、磁界の方向により向きが変わるため、モータ57を回転させて磁界強度を変化させるとともに、磁界の向きを磁石55の中心と磁性体58の中心を結ぶラインの方向において変化させると、電子線ELの光軸位置は図5に示すように、X線管10の中心軸に対して上側と下側で最大変化した場合の光軸であるEL1とEL2の間で変化する。そして、電子線ELの光軸位置がEL1からEL2の間で変化するとターゲットTaに電子線ELが当たる位置、すなわちターゲットTaにおいてX線が発生する位置が両方向の矢印が示す範囲内で変化する。
【0043】
図6は、磁界がないときの出射X線の光軸Xsを含み、X線管10の中心軸に垂直な平面で電子線ELの進行方向に見た、X線管10から測定対象物OBまでの断面図である。分かりやすくため、ターゲットTaは断面図にはせず、上壁26とステージ21は記載しておらず、仮想線の磁石55、固定具56及びモータ57は、本来の向きから磁界の方向周りに90°向きを変えてある。図6に示すように、ターゲットTaにおいてX線が発生する位置が両方向の矢印が示す範囲内で変化すると、貫通孔18aを通過してX線は出射されるため、出射X線の光軸はX1とX2の間で変化し、X線の照射点は測定対象物OBに両方向の矢印で示す範囲内で変化する。図6に示すように、X線の照射点の位置は、ターゲットTaにおいてX線が発生する位置すなわちターゲットTaに電子線ELが当たる位置と1:1の関係があり、図5に示すようにターゲットTaに電子線ELが当たる位置は、磁石55と磁性体58により電子線ELに及ぼす磁界の強さと1:1の関係がある。そして、上述したように磁石55と磁性体58による磁界の強さは、磁石55の磁極の方向すなわち磁石55のモータ57による回転角度と1:1の関係がある。よって、磁石55のモータ57による回転角度とX線の照射点の位置とには1:1の関係がある。磁石55と磁性体58による磁界がX線管10に及ばないときは磁石55の磁極の方向がX線管10の中心軸と出射X線の光軸Xsとを含む平面と垂直なときであり、このときモータ57の回転角度(後述する回転角度検出回路89が検出する回転角度)は0°になるよう調整されている。そして、磁界がX線管10に及ばないときのX線の照射点を原点とすると、モータ57の回転角度を−90°(270°)、0°、90°と変化させたとき、X線の照射点は最大移動位置、原点、反対側最大移動位置と移動する。
【0044】
コントローラ91のメモリには、イメージングプレート15から設定された距離LにおけるX線の照射点の位置(原点からの移動量)とモータ57の回転角度との関係が記憶されており、入力装置92からX線照射点の原点からの移動量が入力すると、この関係を基にモータ57の回転角度を計算しモータ制御回路88に出力する。モータ57内にはエンコーダ57aが組み込まれ、エンコーダ57aは、モータ57が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を、モータ制御回路88及び回転角度検出回路89へ出力する。さらに、エンコーダ57aは、モータ57が1回転するごとに、所定の短い期間だけローレベルからハイレベルに切り替わるインデックス信号を回転角度検出回路89に出力する。
【0045】
モータ制御回路88は、コントローラ91から回転角度を入力すると、回転角度検出回路89から入力する回転角度がコントローラ91から入力した回転角度に等しくなるまでモータ57に駆動信号を出力する。この駆動信号はエンコーダ57aから入力するパルス列信号の単位時間当たりのパルス数から計算される回転速度が設定値になるよう制御され、モータ57の回転を非常に低速で行う信号強度である。回転角度検出回路89はエンコーダ57aから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、そのカウント値から回転角度を計算してモータ制御回路88に出力する。また、回転角度検出回路89は、エンコーダ57aからインデックス信号を入力すると、カウント値をリセットして「0」にする。これが回転角度0°の位置である。また、コントローラ91は装置の電源が入力された段階で、モータ制御回路88と回転角度検出回路89に指令を出力し、モータ制御回路88はモータ57を低速回転させる。このとき、回転角度検出回路89はエンコーダ57aからインデックス信号を入力すると、カウント値をリセットして「0」にし、モータ制御回路88に停止を意味する信号を出力する。これにより、装置に電源が投入された段階では、磁石55と磁性体58による磁界はX線管10に及ばないようにされ、出射X線の光軸は本来の位置になっている。
【0046】
イメージングプレート15から設定された距離LにおけるX線の照射点の位置(原点からの移動量)とモータ57の回転角度との関係は、イメージングプレート15から設定された距離Lに、別のイメージングプレート又は平面状のX線CCDを置き、回転角度検出回路89が検出する回転角度を様々に変えてX線を照射し、それぞれのX線照射点の位置、すなわちそれぞれのX線照射点の回転角度0°におけるX線照射点からの距離を測定することで得ることができる。
【0047】
次に、上記のように構成したX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを用いて、ギアである測定対象物OBの歯底をX線回折測定する方法について説明する。作業者はX線回折測定システムを測定対象物OBの近傍にセットした後、アーム式移動装置を操作してX線回折測定装置(筐体50)を測定対象物OBの近くまで移動させ、電源を投入してX線回折測定システムを作動させる。この後、X線回折測定は位置姿勢調整工程、回折環撮像工程、回折環読取り工程、回折環消去工程、の順に作業、操作又は処理が行われる。そして、回折環が全周得られず、回転角度0°のラインに対して左右対称になっていないときは、X線管10に磁界を作用させることでX線照射点の位置を微調整した後、回折環撮像工程〜回折環消去工程が再度行われる。そして、回折環が回転角度0°のラインに対して左右対称になったとき、残留応力計算工程が行われる。これらの工程で先行技術文献の特許文献1で既に詳細に説明されているものは、簡略的に説明するにとどめる。
【0048】
位置姿勢調整工程は、測定対象物OBに対するX線回折測定装置(筐体50)の位置と姿勢を調整する工程である。作業者は、まず、アーム式移動装置を操作してX線回折測定装置(筐体50)の位置と姿勢を調整することで、おおよそでX線(LED光)の照射点が測定対象物OBであるギアの歯底付近になり、基準平面がギアの歯の中心と歯の中心を結ぶラインの中間で垂直に交差するようにする。
【0049】
次に作業者は、入力装置92から位置姿勢の調整を行うことを入力する。この入力により、コントローラ91は、各回路に指令を出力し、イメージングプレート15を回折環撮像位置(図1乃至図3の状態)に移動させ、モータ46を駆動させてプレート45をA位置まで回転させ、LED光源44を点灯させる。これにより平行光であるLED光が筐体50の円形孔50c1から外部へ出射され、測定対象物OBであるギアの歯底付近に照射される。さらに、コントローラ91は、撮像器49による撮像信号をセンサ信号取出回路87からコントローラ91に出力させ、この撮像信号から作成した撮影画像を表示装置93に表示させる。
【0050】
作業者は、表示装置93に表示される画像を見ながら、アーム式移動装置を操作して、X線回折測定装置(筐体50)の位置と姿勢を調整し、LED光の照射点が測定対象物OBであるギアの歯底になり、十字マークの縦方向が測定対象物OBであるギアの中心軸方向になるとともに、LED光の照射点および受光点が画面上における十字マークのクロス点と合致するようにする。これにより、X線照射点からイメージングプレート15までの距離Lは設定値となり、X線が設定された入射角で入射する。ただし、LED光の受光点を画面上の十字マークのクロス点と合致させることが困難、すなわち、X線の入射角を設定値にすることが困難である場合は、LED光の照射点のみを十字マークのクロス点と合致させればよい。この場合は、X線(LED光)の入射角を検出する必要があるが、それには、ステージ21を移動させてLED光の照射点を移動させ、ステージ21の移動位置に対応させて撮像画面におけるLED光の照射点の位置を取得し、このデータからX線(LED光)の入射角を計算すればよい。この方法は特許第6048547号公報に詳細に説明されているのでそちらを参照する。調整が完了すると、作業者は入力装置92から位置姿勢の調整終了を入力する。これにより、コントローラ91は、各回路に指令を出力し、LED光源44を消灯させ、撮像信号の出力を停止させ、モータ46を駆動させてプレート45をB位置まで回転させる。これにより、X線出射器10から出射されるX線が、移動ステージ21の貫通孔21aに入射され得る状態となる。
【0051】
次の回折環撮像工程において、作業者は入力装置92から測定対象物OBであるギアの材質(本実施形態では、鉄)を入力し、測定開始を入力する。これにより、コントローラ91は、スピンドルモータ制御回路74を制御して、イメージングプレート15を低速回転させ、エンコーダ27cからインデックス信号を入力した時点で、イメージングプレート15の回転を停止させる。これにより、回折環の読取り時において回転角度0°となる状態で、イメージングプレート15に回折環が撮像されるようになる。次に、コントローラ91は、X線制御回路71を制御してX線出射器10にX線の出射を開始させる。これにより、測定対象物OBのX線照射点で発生した回折X線により、イメージングプレート15に回折環が撮像されていく。そして、所定時間の経過後に、X線制御回路71を制御してX線出射器10にX線の出射を停止させる。
【0052】
次にコントローラ91は、回折環読取り工程を実行する。コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御して、イメージングプレート15を回折環読取り領域内の読取り開始位置へ移動させる。読取り開始位置とは、レーザ光の照射位置が回折環基準半径Roの円に対して若干だけ内側になるような位置である。回折環基準半径Roとは、測定対象物OBの残留応力が「0」であるときに、イメージングプレート15上に形成される回折環の半径であり、ばね座金Wの材質におけるX線の回折角2Θm(Θmはブラッグ角)及びX線照射点からイメージングプレート15までの距離LからRo=L・tan(2Θm)の計算式で計算される。そして、X線の回折角2Θmは測定対象物OBの材質で決まり、距離Lは設定値に調整されているので、測定対象物OBの材質ごとに予め回折角2Θmを記憶しておけば、測定対象物OBの材質を入力することで回折環基準半径Roは計算できる。
【0053】
次に、コントローラ91は、スピンドルモータ制御回路74を制御して、スピンドルモータ27を所定の回転速度で回転させ、レーザ駆動回路77を制御してレーザ検出装置30からレーザ光をイメージングプレート15に照射させ、フォーカスサーボ回路81を制御してフォーカスサーボを開始させる。さらに、回転角度検出回路75を制御して、スピンドルモータ27(イメージングプレート15)の回転角度θpの出力を開始させ、A/D変換回路83を制御して、SUM信号の瞬時値Iのデータ出力を開始させ、フィードモータ制御回路73を制御してフィードモータ22を回転させ、イメージングプレート15を読取り開始位置から図3及び図4の右下方向へ一定速度で移動させる。これにより、レーザ光の照射位置は、相対的にイメージングプレート15上を螺旋状に回転し始める。その後、コントローラ91は、イメージングプレート15が所定の小さな角度だけ回転するごとに、A/D変換回路83が出力するSUM信号の瞬時値Iのデータと、回転角度検出回路75が出力する回転角度θpのデータと位置検出回路72が出力する移動距離xのデータとを入力し、それぞれのデータを対応させて記憶する。なお、移動距離xはレーザ光照射位置の径方向距離r(半径値r)に変換したうえで記憶する。これにより、螺旋状に回転するレーザ光の照射位置に対応して、SUM信号の瞬時値I、回転角度θp及び半径値rを表すデータが所定回転角度ごとに順次記憶されていく。
【0054】
SUM信号の瞬時値I、回転角度θp及び半径値rを表すデータの所定回転角度ごとの記憶動作と並行して、コントローラ91は、回転角度θpごとに半径値rに対するSUM信号の瞬時値Iの曲線を作成し、曲線のピークに対応した半径値rαとSUM信号強度値Iαを記憶する。これは回折環の回転角度αごとに半径方向における回折X線の強度分布を求め、回折X線の強度がピークとなる箇所の半径値rαと回折X線の強度に相当する強度Iαを求める処理である。そして、すべての回転角度θp(回転角度α)において半径値rαと強度Iαを取得し、検出するSUM信号の瞬時値Iが強度Iαに対して充分小さくなった時点で、データの記憶を終了する。これにより、回折環における回折X線の強度に相当する強度の分布が瞬時値I、回転角度θp及び半径値rのデータ群で、および回折環の形状が回転角度αごとの半径値rαで検出されたことになる。その後、コントローラ91は、各回路に指令を出力し、フォーカスサーボを停止させ、レーザ光の照射を停止させ、A/D変換回路83と回転角度検出回路75の作動を停止させ、フィードモータ22の作動を停止させる。なおイメージングプレート15の回転は、継続されている。
【0055】
次にコントローラ91は、回折環消去工程を実行する。コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御してイメージングプレート15を回折環消去領域内の消去開始位置へ移動させる。このイメージングプレート15の消去開始位置とは、LED光源43から出力されるLED光の中心が回折環基準半径Roの円に対して前記読取り開始位置の場合よりもさらに内側になる位置である。次に、コントローラ91は、LED駆動回路84を制御してLED光源43によるLED光をイメージングプレート15に対して照射させ、フィードモータ制御回路73を制御して、イメージングプレート15が前記消去開始位置から消去終了位置まで図1及び図2の右下方向に一定速度で移動するよう、フィードモータ22を回転させる。消去終了位置とは、LED光の中心が回折環基準半径Roよりも前記消去開始位置と同じ程度の距離だけ外側となる位置である。これにより、LED光がイメージングプレート15上に螺旋状に照射され、撮像された回折環が消去される。
【0056】
イメージングプレート15が消去終了位置になると、コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御してイメージングプレート15の移動を停止させ、LED駆動回路84を制御してLED光の照射を停止させ、位置検出回路72の作動を停止させ、スピンドルモータ制御回路74を制御してスピンドルモータ27(イメージングプレート15)の回転を停止させる。
【0057】
コントローラ91は、回折環消去工程を実行するのと並行して、回折環読取り工程で得られた瞬時値Iを明度に換算し、この明度データと回転角度θp及び半径値rのデータ群で回転角度0°のラインを縦方向にした回折環の強度分布画像を作成し、表示装置93に表示する。作業者は表示装置93に表示された画像を見て、回折環の極1部が欠けているか、図10の(b)のように左右対称になっている場合はよしとし、図10の(a)のように欠けの度合が大きく左右対称となっていない場合は、X線照射点の微調整が必要と判断する。
【0058】
コントローラ91は、回折環消去工程が終了すると表示装置93に残留応力計算を行うか否かを問う表示を行うので、作業者はX線照射点の微調整が必要と判断した場合は「No」と入力する。これにより、コントローラ91は表示装置93にX線照射点の移動量を問う表示を表示するので、作業者は回折環の強度分布画像からX線照射点をどちら側にどの程度移動したらよいか判断し、入力装置92から移動方向と移動量または+−の符号付きの移動量を入力する。これにより、コントローラ91は、メモリに記憶されたX線照射点の原点からの移動量とモータ57の回転角度との関係を用いて、入力されたX線照射点の移動がされるための回転角度を計算し、モータ制御回路88に出力する。これによりX線管10に磁石55と磁性体58による磁界が作用し、次にX線が照射されたときX線照射点は、入力装置92から入力した移動量分、移動した位置に生じる。
【0059】
作業者は入力装置92からX線照射点の移動量を入力した後、再測定開始を入力する。これにより、コントローラ91は上述した回折環撮像工程、回折環読取り工程、回折環消去工程を再度実行し、表示装置93に回折環の強度分布画像を表示する。このときコントローラ91は1回目と2回目の測定における回折環の画像をX線照射点の移動量とともに表示する。作業者は表示された画像を見て、さらにX線照射点の位置を微調整して再測定すべきか否か判断し、再測定が必要と判断したときは、入力装置92から残留応力計算の実行に対し「No」と入力し、X線照射点の移動量を入力する。このとき、表示装置93には1回目と2回目の回折環の画像が移動量とともに表示されているので、これから左右対称の回折環を得るにはどの程度のX線照射点の移動を行うべきか判断することができる。そして、入力装置92から再測定開始を入力すると上述した回折環撮像工程、回折環読取り工程、回折環消去工程が再度実行され、表示装置93に回折環の強度分布画像を表示する。これを繰り返せば、左右対称の回折環が得られるまでX線照射点の移動と再測定を行うことができる。
【0060】
作業者は左右対称の回折環が得られたと判断すると、入力装置92から残留応力計算の実行を問う表示に対し「Yes」と入力する。これによりコントローラ91は、残留応力計算工程を実行する。これは、回折環の形状である回転角度αごとの半径値rαのデータ、X線照射点からイメージングプレート15までの距離LとX線の入射角の設定値または検出値、及び測定対象物OBの材質(本実施形態では鉄)において既知の値である回折角、ヤング率、ポアソン比等の定数を用いて、cosα法を用いた演算により残留垂直応力を計算する演算処理である。この計算は公知技術を用いたものであり、例えば特開2005−241308号公報の〔0026〕〜〔0044〕に詳細に説明されているので説明は省略する。計算が終了するとコントローラ91は残留垂直応力の値を表示装置93に表示する。
【0061】
なお、X線管10に磁石55と磁性体58による磁界を作用させることによる出射X線の光軸位置の変化は、図6に示すように出射X線の光軸の方向も変化しており、磁界がないときにイメージングプレート15に対して垂直であった出射X線の光軸は、磁界を作用させたときは、イメージングプレート15に対して垂直でなくなる。このため、X線照射点の位置を微調整したときは残留応力が0であっても、撮像される回折環は楕円になり、楕円の中心も出射X線の光軸がイメージングプレート15と交差する点からずれる。しかし、計算される残留垂直応力には殆ど影響しない。その理由を以下に説明する。
【0062】
上述したように、回折環から残留垂直応力を計算する際の計算方法は公知技術であり、例えば特開2005−241308に詳細に書かれている。この公報に記載された計算式を同じ番号で以下に示す。
【数1】
【数2】
【数7】
【数9】
数1の計算式は回折環の回転角度αの半径値Rαから回折角2θαを計算する際の式であり、数2の計算式はひずみεαを回折角2θαから計算する際の式である。ひずみεαから数7の計算式を用いてa1を計算し、cosαに対するa1の傾きを求めれば数9の計算式を用いて残留垂直応力σ11を求めることができる。数7の計算式による計算を出射X線の光軸がイメージングプレート15に対して垂直な場合である回折環Aと、イメージングプレート15に対して傾いているため楕円になっている回折環Bにおいて視覚的に示したものが図7である。図7では回折環Bを誇張して楕円にし、楕円の中心位置の出射X線の光軸がイメージングプレート15と交差する点からのずれも誇張して示している。なお、回折環A、回折環Bのいずれの場合も無応力の試料による回折環とする。
【0063】
回折環Aでは数2の計算式においてθ=θαであるため、εα,ε−α,επ+α,επ−αはすべて0である。よって、a1は0であり、残留垂直応力σ11も0になる。これに対し、回折環Bでは、数2の計算式においてθ≠θαであるため、εα,ε−α,επ+α,επ−αは値を有する。しかし、図9を見るとわかるように、回転位置αとπ−αにおける基準位置(回折環Aの位置)からのずれ、および回転位置−αとπ+αにおける基準位置(回折環Aの位置)からのずれは等しい。すなわち、εα=επ−α,ε−α=επ+αとなる。よって、εα,ε−α,επ+α,επ−αは値を有しても、数7の計算式により計算するとa1は0となり、残留垂直応力σ11も0になる。これより、回折環が回転角度0°のラインの垂直方向に楕円になる、および回折環が回転角度0°のラインの垂直方向に移動するのみであれば、その影響による残留垂直応力の値の増減は0であり、測定対象物OBが有する残留垂直応力の値には殆ど影響しないと言える。
【0064】
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、ターゲットTaに加速した電子線を当てることでX線を発生させ、出射口11からX線を出射するX線管10と、X線管10から出射されたX線を通路部材28及び貫通孔27a1,16a,17a,18aを通過させることで略平行なX線にしたうえで対象とする測定対象物OBに向けてX線を出射するX線出射機構と、X線出射機構から測定対象物OBに向けてX線が出射された際、測定対象物OBにて発生した回折X線を、X線出射機構から出射されるX線の光軸に対して略垂直に交差するイメージングプレート15にて受光し、イメージングプレート15に回折X線の像である回折環を形成するとともに回折環の形状を検出するテーブル駆動機構20、レーザ検出装置30等からなる回折環形成検出機器とを備えたX線回折測定装置において、X線管10に磁界を及ぼし、電子線ELの光路を変化させてターゲットTaに当たる電子線の位置を変化させ、X線出射機構から出射されるX線の光軸の位置を、磁界がないときのX線の光軸とイメージングプレートにおいて回転角度0°とするラインとを含む基準平面に垂直な平面であって磁界がないときのX線の光軸を含む平面内で、X線の光軸の基準平面に対する角度が磁界の強度に対応する分変化するよう変動させる磁石55及び磁性体58と、磁界の強度を、磁界の強度に対応する量である磁石55の回転角度を変化させて固定することで調整するモータ57、モータ制御回路88、回転角度検出回路89及びコンピュータ装置90等からなる磁界強度調整システムとを備えるようにしている。
【0065】
これによれば、測定対象物OBがギアで測定箇所が歯底である場合、回折環形成検出機器が検出した回折環が全周得られず、回転角度0°のラインに対して左右対称になっていないときは、磁石55及び磁性体58によりX線管10に磁界を及ぼすことでX線の光軸位置を変動させ、磁界強度調整システムにより回転角度0°のラインに対して回折環が左右対称になるようX線管10に及ぼす磁界の強度を調整すればよい。すなわち、従来のX線回折測定装置にX線管に磁界を及ぼす磁石55及び磁性体58と及ぼす磁界の強度を調整するモータ57、モータ制御回路88、回転角度検出回路89及びコンピュータ装置90等からなる磁界強度調整システムを追加して設けるのみで、効率よくX線の照射点位置を微調整することができる。また、X線回折測定装置の筐体の位置と姿勢を微調整する機構は不要なので装置の大型化やコストの増大もない。また、イメージングプレート15を変動させずにX線の光軸位置を変動させても、X線の光軸位置の変動が基準平面に垂直な平面であって磁界がないときのX線の光軸を含んだ平面内で、基準平面に対する角度が変化する変動であれば、回折環の形状から計算される残留垂直応力の値にはほとんど影響しない。
【0066】
また、上記実施形態においては、磁界の強度に対応する量である磁石55の回転角度と、イメージングプレート15から設定された距離におけるX線照射点の磁界がないときのX線照射点からの移動量との関係である磁界−照射点移動量関係をコントローラ91のメモリに記憶させている。
【0067】
これによれば、回折環形成検出機器が検出した回折環が全周得られず、回転角度0°のラインに対して対称になっていないときは、検出した回折環の形状からどの程度X線照射点を移動させればよいか判断し、判断した移動量をコントローラ91に入力すれば、コントローラ91が記憶してある磁界−照射点移動量関係に当てはめて磁石55の回転角度を算出し、磁界強度調整システムが固定する磁石55の回転角度を設定することができる。この後、X線照射点の移動量をコントローラ91に入力して磁界強度調整システムが固定する磁石55の回転角度を変化させるごとに、回折環の形成と検出を行い、X線照射点の移動量と回折環の形状との関係を得れば回転角度0°のラインに対して回折環が対称になるX線照射点の移動量を求めることができる。これにより、磁石55の回転角度を変化させながら、磁石55の回転角度と回折環の形状との関係を得て、回折環が対称になる磁石55の回転角度を求めるよりも、効率よくX線照射点の位置を微調整することができる。
【0068】
また、上記実施形態においては、出射X線の光軸変動を、X線管10の側面近傍に対向する向きが電子線ELの光軸に垂直になるよう配置した磁石55と磁性体58であり、磁界強度調整システムは、磁石55と磁性体58を結ぶベクトルと磁石55の磁極を結ぶベクトルとが成す角度である磁石55の回転角度を変化させて固定するシステムであるようにしている。これによれば、簡単な機構でX線管10に磁界を及ぼし、該磁界の強度を調整することができる。
【0069】
(変形例)
上記実施形態においては、作業者が表示装置93にX線照射点の移動量とともに表示される回折環の画像を見て、回転角度0°のラインに対して回折環が対称になるX線照射点の移動量を判断して入力装置92からその移動量を入力した。これに替えて、コントローラ91にインストールしたプログラムによる演算処理により回折環が対称になるX線照射点の移動量を算出し、その移動量に対応する磁石55の回転角度をモータ制御回路88に出力するようにしてもよい。すなわち、作業者が入力装置92から測定開始を入力した後は、残留垂直応力の計算が終了するまでプログラム処理により自動でX線照射点の微調整とX線回折測定が行われるようにしてもよい。
【0070】
このためのプログラムは図8のフローに示すものである。作業者は、上記実施形態で説明した位置姿勢調整工程が終了した後、入力装置92から測定開始を入力すると、コントローラ91は図8に示すフローのプログラムをステップS1にてスタートさせる。以下、図8のフローに沿って説明する。ステップS2にて回折環の撮像と検出の回数を意味するnを1にし、X線照射点移動量を意味する1回目の照射点移動量であるM(1)を0にする。次にステップS3にて上記実施形態で説明した回折環撮像工程、回折環読取り工程、回折環消去工程を行い、回折環消去工程を開始した時点でステップS4へ行き、回折環の有効データ数D(n)を計算する。回折環の有効データ数D(n)は、回転角度αごとの半径rαにおいて、数7の計算に使用できるデータ数であり、図7においてεα,ε−α,επ+α,επ−αに相当する箇所の回折環半径rαが得られていれば、データは有効であると判定される。次にステップS5にて回折環の有効データ数D(n)が許容値以上であれば、Yesと判定してステップS19へ行き、残留垂直応力の計算を行いプログラムを終了する。この場合は回折環が全周得られているか、極一部に欠けがあるが残留垂直応力の計算には殆ど影響しない場合である。反対に回折環の有効データ数D(n)が許容値未満であれば、Noと判定してステップS6へ行く。この場合は回折環に許容できない欠けがある場合である。ステップS6へ行くと0°のラインで回折環を分けたときの左右のデータ数の差S(n)を計算する。左右のデータ数の差S(n)は、回転角度αが0以上180°未満における回折環半径rαのデータ数から回転角度αが180°以上360°未満における回折環半径rαのデータ数を減算した値であり、回折環の0°のラインにおける対称性の度合を示す数値である。すなわち、左右のデータ数差S(n)が大きいほど回折環の対称性は悪く、S(n)が小さいほど回折環の対称性は良いことを意味する。なお、0以上180°未満と180°以上360°未満のどちらの側のデータ数が多いか判別できるようにするため、左右のデータ数の差S(n)はプラスマイナスの符号を持った値である。
【0071】
左右のデータ数差S(n)の計算が終了すると、ステップS7にて、左右のデータ数差S(n)が許容値以下であるか、すなわち回折環の対称性が許容されるか否かを判定し、許容値以下であればYesと判定してステップS19へ行き、残留垂直応力の計算を行い、プログラムを終了する。この場合は、X線照射点の位置を微調整しても回折環の対称性は殆ど変わらない場合であり、図10の(b)の場合である。反対に左右のデータ数差S(n)が許容値より多ければ、Noと判定してステップS8へ行く。この場合は回折環の対称性が悪く、X線照射点の位置を微調整する必要がある場合である。ステップS8へ行くとステップS8にてnが1であるか否か判定するが、この段階ではnは1であるのでYesと判定してステップS9へ行き、左右のデータ数差S(1)が0以下であるか否か、すなわち符号がプラスであるかマイナスであるかを判定する。言い換えると、回折環半径rαのデータ数が0°のラインに対して左右どちら側が多いか判定する。そして、続くステップS10およびステップS11にて、左右のデータ数差S(1)の符号によりkを1又は−1にする。このkはX線照射点の移動方向を設定するものである。次にステップS12にて、左右のデータ数差S(1)の絶対値を有効データ数D(1)で除算した値からX線照射点の移動量mの絶対値を設定する。これは、コントローラ91のメモリに左右のデータ数差Sの絶対値を有効データ数Dで除算した値と、回折環の左右のデータ数差Sを0近傍の値にするX線照射点の移動量mとの関係テーブルが記憶されているので、この関係テーブルを用いて設定する。この関係テーブルは、複数の測定対象物OBにおいて回折環の左右のデータ数差Sが0になるときから、X線照射点を移動するごとに移動量と、(回折環の左右のデータ数差S/有効データ数D)を求めることで得ることができる。ただし、この関係テーブルは測定対象物OBの形状により変わるので、ステップS12にて行うことは、回折環の左右のデータ数差S(1)を0近傍の値にする、おおよそのX線照射点の移動量mを定めるものである。
【0072】
ステップS12の設定が終了するとステップ13にて、X線照射点の移動量M(2)をm×kで計算して定め、ステップS14にてnをインクリメントしてn=2にし、ステップS15にてX線照射点の移動量M(2)に相当する回転角度をモータ制御回路88に出力する。これにより、磁石55はX線照射点がM(2)だけ移動する回転角度になり、次にX線が照射されたときX線照射点は原点からM(2)移動した位置になる。そして、ステップS3に戻り、上述したステップS3〜ステップS7の処理と同様、回折環撮像、回折環読取り、回折環消去及び回折環の有効データ数D(2)と回折環の左右データ数の差S(2)を計算する。この処理で、有効データ数D(2)が許容値未満であり左右のデータ数差S(2)が許容値より多ければステップS8へ行き、nは2となっているのでNoと判定してステップS16へ行き、ステップS16にて次のX線照射点の移動量M(3)を計算する。この計算は、X線照射点の移動量と回折環の左右データ数差には相関関係があるので、この段階で得られているX線照射点の移動量と回折環の左右データ数差の回帰式を計算し、回折環の左右データ数差が0になるX線照射点の移動量を求めるものである。この段階で得られているX線照射点の移動量は1回目の測定における0と2回目の測定におけるmまたは−mであり、回折環の左右データ数差はS(1)、S(2)であるので、XY座標のグラフにすると図9に示すように2つの打点がある。この2つの打点を結んだラインと回折環の左右データ数差が0のラインとが交差する点のX線照射点の移動量を求めるのがステップS16の計算である。ステップS16が終了すると、ステップS17にて計算したX線照射点の移動量が移動限界を超えていないか判定する。これは、図6に示すようにX線照射点の移動はある範囲内で可能であり、ステップS16でこの範囲を超えた移動量が計算されたときは、X線照射点の位置の調整は不可能であるためステップS17にてYesと判定してステップS18へ行き、ステップS18にて表示装置93にX線回折測定装置(筐体50)の位置と姿勢を再調整するよう表示して、ステップS20へ行きプログラムを終了する。表示装置93にこのように表示するのは、X線照射点の移動範囲を超えた移動量が計算されたときは、最初のX線照射点の位置が不適切であるためである。
【0073】
ステップS17にて計算したX線照射点の移動量が移動限界を超えていないときは、Noと判定してステップS14へ行き、nをインクリメントしてn=3にし、ステップS15にてX線照射点の移動量M(3)に相当する回転角度をモータ制御回路88に出力する。これにより、次にX線が照射されたときX線照射点は原点からM(3)移動した位置になる。そして、ステップS3に戻り、再度、回折環撮像、回折環読取り、回折環消去及び回折環の有効データ数D(3)と回折環の左右データ数の差S(3)の計算を行う。この段階で有効データ数D(3)が許容値未満であり左右のデータ数差S(3)が許容値より多ければステップS8を経由してステップS16へ行き、得られているX線照射点の移動量と回折環の左右データ数差の回帰式を計算し、回折環の左右データ数差が0になるX線照射点の移動量を計算する。このときは、XY座標のグラフには3つの打点があるため、最小2乗法で回帰式を作成するか、多次式の回帰式を作成する。そして、ステップS17、ステップS14及びステップS15を経由してステップS3に戻り、再度、回折環撮像、回折環読取り、回折環消去及び回折環の有効データ数D(4)と回折環の左右データ数の差S(4)の計算を行う。このようにして、回折環の有効データ数D(n)が許容値以上になるか、回折環の左右のデータ数差S(n)が許容値以下になるまで、ステップS3〜ステップS8、ステップS16、ステップS17、ステップS14及びステップS15が繰り返される。
【0074】
そして、回折環の有効データ数D(n)が許容値以上になる、又は回折環の左右のデータ数差S(n)が許容値以下になると、ステップS5にてYes又はステップS7にてYesと判定してステップS19へ行き、残留垂直応力の計算を行いステップS20にてプログラムを終了する。なお、プログラムのフローでは、回折環の有効データ数D(n)が許容値以上になるか回折環の左右のデータ数差S(n)が許容値以下になるまで、すなわちX線照射点が最適な位置になるまで処理が繰り返されるようになっているが、殆どは3回の回折環撮像と読取りまででX線照射点は最適な位置になり処理は終了する。また、殆どのギアの歯底測定において、回折環の有効データ数D(n)が許容値以上になることは稀であり、殆どは回折環の左右のデータ数差S(n)が許容値以下になることでX線照射点の位置の調整は完了する。
【0075】
上記説明からも理解できるように、上記変形例においては、回折環形成検出機器により検出された回折環の形状から回折環の左右対称性度合を回折環の左右データ数の差S(n)として計算するコントローラ91にインストールされた演算プログラムと、磁界強度調整システムが固定する磁石55の回転角度を変化させるごとにX線管10よりX線を出射させて、回折環形成検出機器に回折環の形状を検出させ、該演算プログラムに回折環の左右データ数の差S(n)を計算させることで、X線照射点の移動量M(n)と回折環の左右データ数の差S(n)との関係である回帰式を取得し、前記取得した回帰式を用いて回折環の左右データ数の差S(n)が最も小さくなるよう磁界強度調整システムが固定する磁石55の回転角度を設定する、コントローラ91にインストールされた制御プログラムとを備えている。
【0076】
これによれば、回折環形成検出機器が検出した回折環が全周得られず、回転角度0°のラインに対して対称になっていないときは、コントローラ91にインストールされた制御プログラムが、磁界強度調整システム、X線管10、回折環形成検出機器及びコントローラ91にインストールされた演算プログラムを制御して、X線照射点の移動量M(n)と回折環の左右データ数の差S(n)との関係である回帰式を取得し、磁界強度調整システムが固定する磁石55の回転角度を回折環の左右データ数の差S(n)が最も小さくなるよう設定するので、作業者が表示装置93に表示されるX線照射点の移動量と回折環の形状との関係を見て判断する必要がなく、さらに効率よくX線の照射点位置を微調整することができる。
【0077】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0078】
上記実施形態および変形例ではX線管10に磁石55と磁性体58により磁界を及ぼし、X線管10内の電子線の光軸を変化させてX線管10内のターゲットTaに当たる電子線の位置を変化させ、X線回折測定装置から出射されるX線の光軸を変化させた。しかし、X線管10に上記実施形態のように磁界を及ぼし、この磁界の強度を精度よく調整することができるならば、どのような方法を用いてもよい。例えば、上記実施形態の磁石55を電磁石に替え、この電磁石に供給する直流電流の向きと強度を変化させて固定することで磁界の強度を調整するようにしてもよい。この場合、請求項に記載されている磁界強度に対応する量は、電流方向による符号が付いた電流強度である。これによっても、簡単な機構でX線管10に磁界を及ぼし、該磁界の強度を調整することができる。
【0079】
また、上記実施形態では磁石55の回転角度と、イメージングプレート15から設定された距離にあるX線照射点の磁界がないときのX線照射点(原点)からの移動量との関係をコントローラ91のメモリに記憶し、入力装置92からX線照射点の移動量を入力すると磁石55の回転角度に変換して磁石55の回転角度を調整するようにした。しかし、効率を重要視しなければ、この関係を別のコンピュータ装置のメモリに記憶し、そのコンピュータ装置でX線照射点の移動量を磁石55の回転角度に変換して、コントローラ91の入力装置92から磁石55の回転角度を入力するようにしてもよい。また、X線回折測定システムに付属する文書やX線回折測定の筐体50等にX線照射点の移動量を磁石55の回転角度に変換する換算表を表示するようにしてもよい。また、磁石55の回転角度とX線照射点の移動量との関係がおおかた分かっていれば、この関係をコントローラ91または別のコンピュータ装置のメモリの記憶したり換算表の形で備えることなく、X線照射点を調整するときは磁石55の回転角度を入力装置92から入力し、表示装置93には磁石55の回転角度と回折環のX線強度分布(回折環の形状)を対応させて表示するようにしてもよい。
【0080】
また、上記変形例では回折環の対称性の度合を、回折環の回転角度0°のラインに対する左右のデータ数の差として計算したが、回折環の対称性の度合を表す数値であればどのような数値を計算するようにしてもよい。例えば、回折環がギアの歯による妨害以外の原因で欠ける可能性があるときは、回転角度αと回転角度−αに対応する回折環半径のデータが対で存在しない数を計算するようにしてもよい。
【0081】
また、上記実施形態及び変形例では、測定対象物OBであるギアは動かすことができず、X線回折測定装置の筐体50の位置と姿勢をアーム式移動装置により調整する場合に、本発明を適用するようにしたが、測定対象物OBであるギアを動かすことができ、X線回折測定装置の筐体50はスタンド等に固定されている場合であっても、本発明は適用することができる。この場合は、測定対象物OBであるギアの位置と姿勢を微調整することが困難な場合において、本発明は有効である。
【0082】
また、上記実施形態および変形例では、回折環を撮像し回折環を読取るX線回折測定装置を、イメージングプレート15に回折環を撮像し、レーザ検出装置30からレーザ光照射しながら走査して照射位置と光の強度検出を行う装置としたが、回折環を撮像し回折環を読取ることができるならば、どのような方式の装置でもよい。例えば、イメージングプレート15と同じ広さの平面を有するX線CCDを備え、X線出射器10からのX線照射の際、X線CCDの各画素が出力する電気信号により回折X線の強度分布を検出する装置でもよい。また、イメージングプレート15と同じ広さの平面を有するX線CCDの代わりに、微小サイズのX線CCDを位置を検出しながら走査し、X線CCDの各画素が出力する電気信号とX線CCDの走査位置から、回折X線の強度分布を検出する装置でもよい。また、X線CCDに替えてシンチレータから出た蛍光を、光電子増倍管(PMT)で検出するシンチレーションカウンタを用いる装置でもよい。
【0083】
また、上記実施形態および変形例では、コントローラ91に残留垂直応力を演算して求めるプログラムがインストールされているとした。しかし、測定効率を重要視しなければ、X線回折測定装置は左右対称のX線回折像を検出するまでにし、残留垂直応力の計算は別の装置で行うようにしてもよい。この場合、別の装置にX線回折像のデータを入力する方法としては、記録媒体を介する方法、ネット回線等を使用して転送する方法等、様々な方法が考えられる。また、さらに時間がかかってもよければ演算プログラムを使用せず、上記値の計算の一部またはすべてを手計算により行ってもよい。
【0084】
また、上記実施形態及び変形例においては、プレート45、モータ46及びストッパ部材47aによりLED光源44をX線の光軸上に移動させて、LED光を測定対象物OBに照射する構造にした。しかし、これに代えて、出射X線と光軸を同一にした可視の平行光を照射することができれば、どのような構造にしてもよい。例えば、ビームスプリッタを出射X線の光軸上に配置し、LED光をビームスプリッタで反射させて出射X線と光軸を同一にして照射するようにしてもよい。
【0085】
また、上記実施形態及び変形例においては、スピンドルモータ27の貫通孔27bに内径の小さな通路部材28を設けるとともに、固定具18の貫通孔18a,18bの内径を小さくして、LED光源44から出射されたLED光から小さな断面径の平行光が得られるようにしたが、小さな断面径の可視の平行光が得られるならば、別の構造にしてもよい。例えば、可視光であるレーザ光を出射するレーザ光源の近くにコリメートレンズとエキスパンダーレンズを配置し、小さな断面径のレーザ光の光軸をスピンドルモータ27の出力軸27aの貫通孔27a1の中心軸線と一致させ、固定具18の貫通孔18a,18bに入射させるようにしてもよい。
【0086】
また、上記実施形態及び変形例においては、本発明をギアの歯底をX線回折測定する場合に適用したが、本発明はギアの歯底に限らず、回折X線が測定対象物で妨害されて回折環が欠ける可能性がある場合であれば、どのような測定対象物であっても適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
10…X線出射器、15…イメージングプレート、15a,16a,17a,18a,21a,26a,27a1,27b…貫通孔、16…テーブル、18…固定具、20…テーブル駆動機構、21…移動ステージ、22…フィードモータ、23…スクリューロッド、27…スピンドルモータ、28…通路部材、30…レーザ検出装置、31…レーザ光源、36…対物レンズ、44…LED光源、45…プレート、46…モータ、47a,47b…ストッパ部材、48…結像レンズ、49…撮像器、50…筐体、50a…底面壁、50c…切欠き部壁、50d…繋ぎ壁、51…支持アーム、55…永久磁石、56…固定具、57…モータ、58…磁性体、90…コンピュータ装置、91…コントローラ、92…入力装置、93…表示装置、95…高電圧電源 、OB…測定対象物
【要約】
【課題】 測定箇所がギアの歯底のように、X線照射したとき回折X線が測定対象物で妨害される場合であっても、装置の大型化やコストの増大を伴うことなく、効率よくX線照射点の位置を微調整して、適切な回折環を得ることができるX線回折測定装置を提供する。
【解決手段】 X線管10に磁界を及ぼし、電子線の光路を変化させてターゲットTaに当たる電子線の位置を変化させ、出射X線の光軸の位置を、磁界がないときのX線の光軸とイメージングプレート15において回転角度0とするラインとを含む基準平面に垂直な平面であって磁界がないときのX線の光軸を含む平面内で、X線の光軸の基準平面に対する角度が磁界の強度に対応する分変化するよう変動させる。磁界の強度は、磁石55と磁性体58を結ぶベクトルと磁石55の磁極を結ぶベクトルとが成す角度を変化させることで調整する。
【選択図】図6
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