(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、この発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
以下では、第一実施形態に係る機械式の腕時計(請求項の「時計」に相当。)およびこの腕時計に組み込まれたムーブメント(請求項の「時計用ムーブメント」に相当。)について説明したあと、第一実施形態に係る表示機構の詳細について説明する。
【0026】
(第一実施形態、時計)
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板および針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側、すなわち文字板のある方の側をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板の両側のうち、時計ケースのケース裏蓋のある方の側、すなわち文字板と反対の側をムーブメントの「表側」と称する。
【0027】
図1および
図2は、第一実施形態に係る時計1の外観図である。
図3は、
図1におけるA−A線に沿った断面図である。なお、
図3においては、下側がムーブメント10の表側となっており、上側がムーブメント10の裏側となっている。
図1および
図2に示すように、本実施形態の時計1のコンプリートには、ケース本体3a、不図示の裏蓋、およびカバーガラス3bを備えた時計ケース3内に、ムーブメント10と、時刻に関する情報を示す目盛り2aを有する文字板2と、時を示す時針4a、分を示す分針4bおよび秒を示す秒針4cを含む針4と、が設けられている。
文字板2には、時針4a、分針4bおよび秒針4cの回転中心である時計1の中心軸Oよりも平面視で目盛り2aの6時側に、0時から24時の時の情報の表示について表示するレトログラード表示領域21(請求項の「所定領域」に相当。)が設けられている。なお、
図1および
図2においては、レトログラード表示領域21を二点鎖線で図示している。
【0028】
さらに、本実施形態の時計1のコンプリートには、レトログラード表示領域21を指示部6が連続的に往復移動して24時間の時の情報を表示する表示部20と、レトログラード表示領域21において指示部6を往復移動させる運針機構40と、指示部6の移動方向の情報を示す方向表示部30と、方向表示部30の表示を切り替える切替機構50と、を備えた表示機構5が設けられている。表示機構5については、後に詳述する。
なお、本発明において、「連続的な往復移動」の一例としては、例えば、運針(指示部6)が、表示領域(表示部20)を往復移動(表示領域の一端22から他端23へ移動し、更に一端22に戻る移動)しながら、時間経過に応じた所定の情報を表示することを含むものとする。
【0029】
図3に示すように、ムーブメント10は、ムーブメント10の基板を構成する地板12を有している。この地板12の表側の面には、てんぷ、がんぎ車、アンクル等を含む図示しない脱進・調速機構と、四番車、三番車、二番車および香箱車を含む図示しない表輪列と、が少なくとも配置されている。
【0030】
地板12の裏側には、分車17および筒車18を含む裏輪列と、運針機構40と、切替機構50(
図1参照)とが少なくとも配置されている。裏輪列、運針機構40および切替機構50は、地板12と、地板12よりも裏側に設けられた表示受14との間に配置されている。
表示受14の裏側には、文字板2が配置されている。
図1に示すように、文字板2には、開口部15が形成されている。開口部15は、平面視で目盛り2aの4時の近傍に設けられている。
【0031】
地板12の図示しない巻真案内穴には、巻真8が回転可能に組み込まれている。この巻真8は、例えば、日付の修正や、時刻表示(時および分の表示)を修正する際に用いられる時計部品である。巻真8の一端部には、時計ケース3の側方に位置するりゅうず7が取付けられている。
巻真8は、巻真案内穴によって回転可能に支持されているとともに、巻真8の延在方向に例えば2段階に引き出し操作可能とされている。この際、巻真8は、地板12の表側に配置された、おしどり、かんぬきやかんぬきばね等により、延在方向の位置が決められている。
【0032】
表示機構5は、主に表示部20と、運針機構40と、方向表示部30と、切替機構50と、を備えている。
表示部20は、レトログラード表示領域21を指示部6が連続的に往復移動して、時間情報を表示するものである。
表示部20のレトログラード表示領域21は、平面視で時計1の中心軸Oよりも目盛り2aの6時側に位置する運針軸Qを中心とし、目盛り2aの4時側と8時側との間に広がる扇形状に形成されている。レトログラード表示領域21の中心角度は、例えば約90°となっている。以下では、レトログラード表示領域21における目盛り2aの8時側に対応した端部を一端22とし、目盛り2aの4時側に対応した端部を他端23として説明する。
【0033】
図3に示すように、指示部6は、指示部軸部材81を介して、地板12と表示受14とにより運針軸Q周りに回動可能に支持されている。
図1に示すように、指示部6は、レトログラード表示領域21を一端22から他端23へ連続的に移動したあと、レトログラード表示領域21を他端23から一端22へ連続的に移動する動作を繰り返すことにより、レトログラード表示領域21の一端22と他端23との間を往復移動する。
【0034】
本実施形態の指示部6は、0時から24時の時を示すいわゆる24時針であって、レトログラード表示領域21を24時間で1往復する(すなわち、往復運動しながら、時間経過に応じた情報を表示する)。なお、
図1は、指示部6がレトログラード表示領域21を一端22から他端23への往路を移動している状態を図示しており、
図2は、指示部6がレトログラード表示領域21を他端23から一端22への復路を移動している状態を図示している。
【0035】
レトログラード表示領域21には、運針軸Qを中心とした時計回り方向に沿うように、一端22から他端23に向かって、0時、3時、6時、9時および12時の時を表す第一文字群25が付されている。第一文字群25は、指示部6がレトログラード表示領域21を一端22から他端23に向かって移動する際に、指示部6によって指示される文字である。
また、9時、6時、3時および0時の時を表す第一文字群25に対応した位置であって、第一文字群25よりもレトログラード表示領域21の径方向における外側には、運針軸Qを中心とした反時計回り方向に沿うように、他端23から一端22に向かって、15時、18時、21時および24時の時を表す第二文字群26が付されている。第二文字群26は、指示部6がレトログラード表示領域21を他端23から一端22に向かって移動する際に、指示部6によって指示される文字である。
【0036】
レトログラード表示領域21の径方向における第一文字群25と第二文字群26との間には、目盛り29がレトログラード表示領域21の周方向にわたって複数(本実施形態では13本)付されている。隣り合う目盛り29の間隔は、レトログラード表示領域21の周方向にわたって等間隔となっている。目盛り29は、指示部6が一端22と他端23との間を往復移動するとき、1時間の時間経過を示す。
【0037】
図4は、指示部6がレトログラード表示領域21の一端22から他端23へ向かって移動を開始したときの表示機構5の説明図である。
図5は、指示部6がレトログラード表示領域21の一端22から他端23へ向かって移動し、他端23に到達したときの表示機構5の説明図である。
図6は、指示部6がレトログラード表示領域21の他端23から一端22へ向かって移動を開始したときの表示機構5の説明図である。
図7は、指示部6がレトログラード表示領域21の他端23から一端22へ向かって移動し、一端22に到達したときの表示機構5の説明図である。
なお、
図4から
図7においては、文字板2および表示受14を透過して図示しており、開口部15、指示部6、および表示部20のレトログラード表示領域21をそれぞれ二点鎖線で図示している。
また、時計1の文字板2を平面視したときの12時−6時の方向をX方向とし、12時側を+X側とし、6時側を−X側と定義する。また、時計1の文字板2を平面視したときの3時−9時の方向をY方向とし、3時側を+Y側とし、9時側を−Y側と定義する。以下では、必要に応じてX−Y直交座標系を用いて説明する。
【0038】
(運針機構)
図4に示すように、運針機構40は、主に24時間車41と、ハートカム42と、伝達レバー43と、運針レバー45と、24時間表示車47と、により構成されている。
図3に示すように、24時間車41は、時計1の中心軸Oよりも−X側に設けられた軸部材41aを介して、地板12により24時間車41の中心軸周りに回転自在に支持されている。
24時間車41は、例えば筒車18と一体的に設けられた中間車19と噛合している。中間車19は、筒車18の回転速度を1/2倍に減速しつつ、筒車18の駆動力を24時間車41に伝達している。これにより、24時間車41は、筒車18の1/2倍の回転速度、すなわち24時間に1回転の回転速度で回転する。
【0039】
図4に示すように、ハートカム42は、凸曲面状の2つのカム面により、軸方向から見てハート形状に形成されている。ハートカム42は、24時間車41が取り付けられた軸部材41aに取り付けられている。ハートカム42の2つのカム面の境界部分のうち、一方の境界部分は、軸部材41aの中心軸(すなわち24時間車41の中心軸)からの離間距離が最も小さい最内部42aとなっており、他方の境界部分は、軸部材41aの中心軸からの離間距離が最も大きい最外部42bとなっている
【0040】
伝達レバー43は、長尺板状の部材であって、レバー軸部材44からハートカム42側に向かって延びるように設けられている。
伝達レバー43の基端部は、24時間車41の径方向の外側であって、(−X,−Y)領域に設けられたレバー軸部材44に対して例えば外嵌固定されており、レバー軸部材44を中心として回動可能に軸支されている。
伝達レバー43の先端部は、(−X,+Y)領域に配置されている。伝達レバー43の先端部は、ハートカム42側に向かって屈曲しており、ハートカム42のカム面に摺接する摺接部43aとなっている。
【0041】
運針レバー45は、平面視円形状のベース部45aと、ベース部45aの径方向の外側に向かって延びたあとU字状に湾曲形成されたバネ部45bと、ベース部45aを挟んでバネ部45bとは反対側に設けられた回動歯部45cと、を備えている。
運針レバー45のベース部45aは、レバー軸部材44に対して例えば外嵌固定されており、レバー軸部材44を中心として伝達レバー43と連動するように回動可能に軸支されている。
【0042】
運針レバー45のバネ部45bは、レバー軸部材44を中心とした反時計回り方向に、運針レバー45および伝達レバー43を付勢している。これにより、伝達レバー43の摺接部43aは、常にハートカム42のカム面に摺接しつつ、24時間車41およびハートカム42の回転にともなって24時間車41の軸部材41aに対して接近離反する。そして、伝達レバー43および運針レバー45は、レバー軸部材44を中心として回動する。
運針レバー45の回動歯部45cは、平面視で所定の中心角度で広がる扇形状に形成されており、24時間表示車47と噛合している。
24時間表示車47は、指示部軸部材81に対して例えば外嵌固定されており、指示部6と連動するように回動可能に軸支されている。
【0043】
上述のように構成された運針機構40は、次のように動作する。
図4に示すように、指示部6の移動開始時において、指示部6は、レトログラード表示領域21の一端22に位置している。このとき、伝達レバー43の摺接部43aは、ハートカム42の最外部42bと当接するとともに、軸部材41aの中心軸から最も離間した位置に配置される。
【0044】
続いて、時間の経過にともなって、筒車18および中間車19が時計回り方向に回転すると、中間車19と噛合する24時間車41およびハートカム42が反時計回り方向に回転する。このとき、伝達レバー43の摺接部43aは、ハートカム42のカム面に摺接しつつ、ハートカム42の回転にともなって24時間車41の軸部材41aに対して接近するように移動する。これにより、伝達レバー43および運針レバー45は、レバー軸部材44を中心として、反時計回り方向に回動する。
また、運針レバー45の回動歯部45cと噛合する24時間表示車47および24時間表示車47と連動する指示部6は、指示部軸部材81を中心として時計回り方向に回動する。これにより、指示部6は、レトログラード表示領域21の一端22から他端23に向かって移動する。
【0045】
図5に示すように、指示部6の移動開始から12時間が経過すると、ハートカム42が180°回転する。このとき、伝達レバー43の摺接部43aは、ハートカム42の最内部42aと当接するとともに、軸部材41aの中心軸から最も近接した位置に配置される。そして、指示部6は、レトログラード表示領域21の他端23に位置する。
【0046】
続いて、
図6に示すように、時間の経過にともなって、さらにハートカム42が反時計回り方向に回転すると、伝達レバー43の摺接部43aは、ハートカム42のカム面に摺接しつつ、ハートカム42の回転にともなって24時間車41の軸部材41aから離反するように移動する。
これにより、伝達レバー43および運針レバー45は、レバー軸部材44を中心として、時計回り方向に回動する。また、運針レバー45の回動歯部45cと噛合する24時間表示車47および24時間表示車47と連動する指示部6は、指示部軸部材81を中心として反時計回り方向に回動する。これにより、指示部6は、レトログラード表示領域21の他端23から一端22へ向かって移動する。
【0047】
図7に示すように、指示部6がレトログラード表示領域21の他端23から一端22へ向かって移動を開始してから12時間(すなわち指示部6の移動開始から24時間)が経過すると、ハートカム42がさらに180°回転する。このとき、伝達レバー43の摺接部43aは、ハートカム42の最外部42bと当接するとともに、軸部材41aの中心軸から最も離間した位置に配置される。そして、指示部6は、レトログラード表示領域21の一端22に位置する。
以上で、24時間を周期とする指示部6の運針が完了する。
【0048】
(方向表示部)
図4から
図7に示すように、方向表示部30は、指示部6がレトログラード表示領域21の一端22から他端23へ、またはレトログラード表示領域21の他端23から一端22へ向かう際の移動方向を示すものであり、例えば後述の切替機構50を構成する方向表示車66の円板部68の表面に設けられている。なお、方向表示車66の詳細については後述する。
方向表示部30は、開口部15に対応した領域を除き、文字板2によって覆われる。方向表示部30は、レトログラード表示領域21の一端22から他端23へ向かう方向を示す第一マーク31と、レトログラード表示領域21の他端23から一端22へ向かう方向を示す第二マーク32と、をそれぞれ複数(本実施形態ではそれぞれ3つずつ)備えている。
【0049】
第一マーク31および第二マーク32は、方向表示部30の周方向において、それぞれ等間隔(本実施形態では60°ピッチ)かつ交互に付されている。第一マーク31および第二マーク32は、方向表示部30が後述の切替機構50によって、回転角度が所定角度(本実施形態では60°ステップ)に規制された状態で回転したとき、文字板2の開口部
15から交互に露出可能なように、文字板2の開口部15に対応した位置に付されている。
【0050】
図1に示すように、第一マーク31は、指示部6が一端22から他端23に向かって移動するときの移動方向を示すものであり、例えば時計回り方向を指向する矢印として付されている。
また、
図2に示すように、第二マーク32は、指示部6が他端23から一端22に向かって移動するときの移動方向を示すものであり、例えば反時計回り方向を指向する矢印として付されている。
【0051】
(切替機構)
図8は、
図1におけるB−B線に沿った断面図である。なお、
図8においては、下側がムーブメント10の表側となっており、上側がムーブメント10の裏側となっている。
図9は、切替機構50の拡大図である。なお、
図9においては、文字板2および方向表示部30を透過するとともに、文字板2、開口部15、方向表示部30を二点鎖線で図示している。また、方向表示部30に付された第一マーク31および第二マーク32のうち、文字板2の開口部15から露出している部分のみを二点鎖線で図示している。
図8および
図9に示すように、切替機構50は、表示中間車51と、表示作動カム55と、表示作動爪車61と、方向表示車66と、表示作動レバー71と、表示ジャンパ76と、を備えている。以下に、各部品について詳細に説明する。
【0052】
表示中間車51は、地板12に打設された表示作動軸部材54に対して、第一軸P1周りに回転可能に設けられている。表示中間車51は、24時間車41と噛合しており、24時間車41の回転速度を2倍に増速しつつ24時間車41とは逆方向に回転する。すなわち、表示中間車51は、24時間車41の2倍の回転速度、すなわち12時間に1回転の回転速度で時計回り方向に回転する。
表示中間車51には、平面視で第一軸P1を中心とし、表示中間車51の径方向に幅を有する弧状の溝部52が設けられている。弧状に形成された溝部52の中心角は、例えば90°程度となっている。
【0053】
表示作動カム55は、全体として扇形状に形成された板状部材であり、表示中間車51の外形よりも小さくなっている。表示作動カム55は、弧状に形成された表示作動カム面55aと、後述の表示作動レバー71により押圧される押圧面55bと、表示作動レバー71の先端部72bに入り込む膨出部55cと、を備えている。表示作動カム55は、表示中間車51の中心軸である第一軸P1と同軸に設けられており、表示中間車51の裏側(
図8における上側)に積層されている。表示作動カム55は、表示作動軸部材54に対して遊挿されている。
表示作動カム面55aは、時計回り方向に漸次半径が縮径するように形成されている。押圧面55bは、表示作動カム面55aの一端部において、反時計回り方向に面するように設けられている。膨出部55cは、第一軸P1を挟んで表示作動カム面55aとは径方向の反対側に設けられており、径方向の外側に膨出している。
【0054】
表示作動カム55は、軸方向に沿ってムーブメント10の表側(
図8における下側)に突出する第一ピン56と、軸方向に沿ってムーブメント10の裏側(
図8における上側)に突出する第二ピン57と、を備えている。
第一ピン56は、溝部52に挿入可能な位置に形成されている。第一ピン56は、直径が溝部52の幅よりも小さくなっており、溝部52内に遊挿されるとともに、溝部52内を周方向に沿って移動可能となっている。
【0055】
第一ピン56は、表示中間車51が時計回り方向に回転することにより、溝部52の反時計回り方向側の端部に突き当たる。これにより、表示作動カム55は、第一ピン56が溝部52の端部に突き当たった状態で表示中間車51が時計回り方向に回転することにより、表示中間車51とともに時計回り方向に回転可能となっている。
また、後述の表示作動レバー71により表示作動カム55の押圧面55bが押圧されると、第一ピン56は、表示中間車51の回転速度よりも速い速度で、溝部52内を時計回り方向に移動する。これにより、表示作動カム55は、溝部52の形成範囲に対応した所定角度(本実施形態では90°)だけ、表示中間車51に対して時計回り方向に回転可能となっている。
第二ピン57は、平面視で第一ピン56よりも表示作動カム55の径方向の外側に設けられている。第二ピン57は、表示作動爪車61と係合している。
【0056】
表示作動爪車61は、円板状の部材であり、表示中間車51の外形よりも小さくなっている。表示作動爪車61は、表示中間車51の中心軸である第一軸P1と同軸に設けられており、表示作動カム55の裏側(
図8における上側)に積層されている。表示作動爪車61は、表示作動軸部材54に対して遊挿されている。
【0057】
表示作動爪車61は、切欠部62と、表示作動爪部63と、を有している。
切欠部62は、表示作動爪車61の外周縁部の一部分が、表示作動爪車61の径方向の内側に凹むことにより形成されている。切欠部62には、表示作動カム55の第二ピン57が係合される。これにより、表示作動爪車61は、表示作動カム55と連結されて、表示作動カム55とともに表示中間車51に対して時計回り方向に回転可能となっている。
表示作動爪部63は、表示作動爪車61の外周縁部の一部分が、表示作動爪車61の径方向の外側に突出することにより形成されている。表示作動爪部63は、後述の方向表示車66と係合することにより、方向表示車66を回転させている。
【0058】
方向表示車66は、地板12と表示受14とにより第二軸P2を中心として軸支されており、歯車部67と、円板部68と、を有している。
歯車部67は、方向表示車66の径方向に突出する歯部67aを複数有している。歯車部67の歯部67aは、表示作動爪車61の表示作動爪部63と係合可能となっている。歯車部67の歯部67aは、第一マーク31および第二マーク32(
図4参照)のピッチと対応するように、周方向に所定ピッチ(本実施形態では60°ピッチ)で複数(本実施形態では6個)形成されている。
円板部68は、歯車部67よりも大形に形成されており、歯車部67の裏側に積層配置されている。円板部68は、その表面に例えば不滅インキ等による印刷やレーザマーキング等によって第一マーク31および第二マーク32(
図4参照)が付されることにより、方向表示部30を構成している。
【0059】
表示作動レバー71は、全体としてL字状に形成されており、表示作動カム55に向かって延びる表示作動レバー本体72と、表示作動レバー本体72に対して交差する方向に向かって延びたあとU字状に湾曲形成されたバネ部74と、を備えている。
表示作動レバー本体72の基端部72aは、地板12と表示受14とにより軸支されて回動可能となっている。
表示作動レバー本体72の先端部72bは、表示作動カム55の表示作動カム面55aおよび押圧面55bに接触するとともに、表示作動レバー71の回動にともない、表示作動カム55の回転中心である第一軸P1に対して接近離反する。
バネ部74は、表示作動レバー本体72の先端部72bを表示作動カム55に向かって付勢している。これにより、表示作動レバー本体72の先端部72bは、表示作動カム55が回転しているときに、表示作動カム55に摺接する。
【0060】
ここで、表示作動レバー本体72の先端部72bには、表示作動カム55に向かって突出する第一凸部73aと、第一凸部73aよりも表示作動レバー本体72の基端側に設けられた第二凸部73bと、が形成されている。表示作動レバー本体72の先端部72bの第二凸部73bは、表示作動カム55が時計回り方向に回転することにより、表示作動カム面55aを摺接する。そして、表示作動レバー本体72の先端部72bの第二凸部73bは、表示作動カム55の押圧面55bに到達した時に、バネ部74の付勢力によって押圧面55bを押圧する。これにより、表示作動カム55および表示作動カム55と連結された表示作動爪車61は、溝部52の形成範囲に対応した所定角度(本実施形態では90°)だけ、表示中間車51に対して時計回り方向に回転することができる。
また、表示作動カム55および表示作動爪車61は、表示作動カム55により押圧されて所定角度回転した後、表示作動カム55の膨出部55cが表示作動レバー本体72の第一凸部73aと第二凸部73bとの間に入り込み、一時的に保持されるようになっている。
【0061】
図9に示すように、表示ジャンパ76は、方向表示車66の歯車部67に向かって延びる表示ジャンパ本体77と、方向表示車66の歯車部67とは反対側に向かって延びたあとU字状に湾曲形成されたバネ部79と、を備えている。
表示ジャンパ本体77の基端部77aは、地板12と表示受14とにより軸支されて回動可能となっている。
表示ジャンパ本体77の先端部77bは、方向表示車66の歯車部67に向かって突出する係合凸部78を有している。
【0062】
バネ部79は、表示ジャンパ本体77の先端部77bを方向表示車66の歯車部67に向かって付勢している。これにより、表示ジャンパ本体77の先端部77bの係合凸部78は、方向表示車66の複数の歯部67aの間に入り込んで係合する。したがって、方向表示車66は、表示作動爪車61の表示作動爪部63が係合して反時計回り方向に回転する時に、表示ジャンパ76によって回転角度が所定角度(本実施形態では、歯車部67の歯部67aのピッチと等しい60°)に規制される。
【0063】
ここで、表示ジャンパ76のバネ部79による付勢力は、表示作動レバー71のバネ部74による付勢力よりも十分に小さくなっている。これにより、表示作動レバー71は、表示作動カム55を押圧して方向表示車66を回転させるときに、表示ジャンパ76の付勢力に抗して表示ジャンパ76と方向表示車66の歯車部67との係合を解除することができる。したがって、方向表示車66は、回転角度が所定角度に規制された状態で反時計回り方向に回転することができる。
【0064】
(作用)
図10から
図13は、切替機構50の動作説明図である。なお、
図10から
図13においては、
図9と同様に、文字板2および方向表示部30を透過するとともに、文字板2、開口部15および方向表示部30を二点鎖線で図示している。また、方向表示部30に付された第一マーク31および第二マーク32のうち、文字板2の開口部15から露出している部分のみを二点鎖線で図示している。
続いて、上述のように形成された切替機構50の動作について、各図面を用いて説明する。
【0065】
本実施形態の切替機構50は、指示部6の移動方向の切り替わりに対応して、第一マーク31と第二マーク32とを切り替える。以下では、
図1に示すように指示部6がレトログラード表示領域21の一端22から他端23へ向かって移動し、
図5に示すように他端23に到達した後、
図6に示すように指示部6がレトログラード表示領域21の他端23から一端22へ向かって移動を開始したときの、切替機構50の一連の動作について説明する。
【0066】
指示部6がレトログラード表示領域21の一端22から他端23へ向かって移動するとき、文字板2の開口部15からは第一マーク31が露出している(
図1参照)。また、
図9に示すように、表示作動レバー71の先端部72bは、表示中間車51とともに時計回り方向に回転する表示作動カム55に対して摺接する。なお、このとき、方向表示車66は、表示ジャンパ76の係合凸部78が方向表示車66の歯車部67に係合しており、回転が規制された状態となっている。
【0067】
続いて、時間の経過にともなって表示中間車51および表示作動カム55がさらに時計回り方向に回転すると、表示作動レバー71の先端部72bの第二凸部73bは、表示作動カム55の押圧面55bに到達する。
【0068】
続いて、
図10に示すように、表示作動レバー71は、バネ部74の付勢力により表示作動カム55の押圧面55bを押圧する。これにより、表示作動カム55および表示作動爪車61は、表示中間車51よりも速い速度で時計回り方向に回転する。その後、表示作動爪車61の表示作動爪部63は、方向表示車66の歯車部67に形成された歯部67aに係合する。
【0069】
続いて、
図11に示すように、表示作動カム55は、表示作動レバー71のバネ部74の付勢力により、表示中間車51に対してさらに時計回り方向に回転する。ここで、表示ジャンパ76のバネ部79による付勢力は、表示作動レバー71のバネ部74による付勢力よりも十分に小さくなっている。したがって、表示作動カム55は、表示作動レバー71は、表示作動レバー71のバネ部74の付勢力により、表示ジャンパ76の付勢力に抗して表示ジャンパ76と方向表示車66の歯車部67との係合を解除させつつ、方向表示車66を反時計周り方向に回転させる。
【0070】
続いて、方向表示車66の歯部67aが表示ジャンパ76の係合凸部78の頂部に到達すると(
図11参照)、表示ジャンパ76の付勢力によって方向表示車66の歯部67aが係合凸部78の斜面に沿って瞬時に移動するとともに、方向表示車66が第二軸P2周りに反時計周り方向にさらに回転する。
【0071】
そして、
図12に示すように、方向表示車66は、
図9に示す状態から所定角度(本実施形態では60°)だけ反時計回り方向に瞬時に回転するとともに、第二マーク32が文字板2の開口部15から露出する。このとき、表示作動カム55および方向表示車66は、第一ピン56が表示中間車51の溝部52における時計回り方向側の端部に当接するとともに、表示作動レバー71の先端部72bに膨出部55cが入り込むことにより、所定位置で保持される。
また、方向表示車66は、第二マーク32を文字板2の開口部15から露出させた状態で、表示ジャンパ76により所定位置に保持される。以上で、切替機構50による第一マーク31と第二マーク32との切替動作が終了する。
【0072】
なお、第一マーク31と第二マーク32との切替動作が終了した後、時間の経過とともに表示中間車51がさらに時計周り方向に回転すると、表示作動カム55および方向表示車66が表示作動レバー71により保持された状態で、表示中間車51のみが回転する。そして、
図13に示すように、表示作動カム55および方向表示車66は、表示中間車51の溝部52における反時計回り方向側の端部に第一ピン56が突き当たると、表示中間車51とともに再び時計回り方向に回転する。これにより、表示作動レバー71の先端部72bは、表示中間車51とともに時計回り方向に回転する表示作動カム55に対して再び摺接する。
以降、上述の動作が繰り返されることにより、表示機構5は、方向表示部30により指示部6の移動方向を示すとともに、切替機構50により指示部6の移動方向の切り替わりに対応して、第一マーク31と第二マーク32とを切り替えることができる。
【0073】
第一実施形態によれば、連続的に指示部6を往復移動させることができるので、時間情報の表示の多様化に対応できる。また、指示部6の移動方向の情報を示す方向表示部30を備えているので、レトログラード表示領域21の一端22と他端23との間を指示部6が往復移動している場合であっても、指示部6の移動方向を容易に判別することができる。さらに、指示部6の移動方向の切り替わりに対応して、第一マーク31と第二マーク32とを切り替える切替機構50を備えているので、指示部6の移動方向を正しく判別することができる。
【0074】
また、表示中間車51と、表示作動カム55と、表示作動爪部63と、方向表示車66と、表示作動レバー71と、表示ジャンパ76と、による簡単な構成で、指示部6の移動方向を容易かつ正しく方向表示部30に表示できる。したがって、小型かつ低コストな表示機構5を提供できる。また、表示作動レバー71により表示作動カム55が押圧されて、表示作動カム55および表示作動爪部63が表示中間車51に対して回転することにより、方向表示車66が所定角度だけ回転するので、指示部6の移動方向の切り替わりに対応して、指示部6の移動方向を正しく表示できる。
【0075】
また、表示作動爪部63は、表示中間車51および表示作動カム55と同軸に設けられた表示作動爪車61に形成されているので、表示中間車51、表示作動カム55および表示作動爪部63を有する表示作動爪車61をそれぞれ別部品として形成できる。したがって、簡単かつ低コストに表示中間車51、表示作動カム55および表示作動爪車61を形成できる。
【0076】
また、指示部6は、レトログラード表示領域21の往路および復路をそれぞれ12時間で移動するように構成されているので、往路および復路のいずれか一方で12時から24時の情報を表示し、往路および復路のいずれか他方で12時から24時の時の情報を表示する表示機構5とすることができる。
【0077】
また、第一マーク31および第二マーク32は、指示部6の移動方向を指向する矢印であるので、一目で指示部6の移動方向を判別することができる。
【0078】
また、連続的に指示部6を往復移動できるとともに、指示部6の移動方向を容易に判別することができる上述の表示機構5を備えているので、意匠性に優れたムーブメント10および時計1を提供できる。
【0079】
(第一施形態の各変形例)
図14は、第一実施形態の第一変形例に係る時計1の説明図である。
図15は、第一実施形態の第二変形例に係る時計1の説明図である。
続いて、第一実施形態の各変形例について説明する。
第一実施形態の時計1は、第一マーク31および第二マーク32が指示部6の移動方向を指向する矢印であった。これに対して、第一マーク31および第二マーク32は、第一実施形態に限定されない。なお、第一実施形態と同様の構成については、説明を省略する。
【0080】
図14に示す第一実施形態の第一変形例のように、第一マーク31は、「午前」を示す「AM」という文字であり、第二マーク(
図14において不図示)は、「午後」を示す「PM」という文字であってもよい。
第一実施形態の第一変形例によれば、一目で午前であるか午後であるかを把握できるとともに、指示部6の移動方向を容易に判別することができる。
【0081】
また、
図15に示す第一実施形態の第二変形例ように、第一マーク31は、第一色(例えば赤色)に着色され、第二マーク(
図15において不図示)は、第二色(例えば青色)に着色されていてもよい。さらに、表示部20に付された時間情報を示す文字群のうち、指示部6が往路で指示する第一文字群25に、第一マーク31と同色の第一色が着色され、指示部6が復路で指示する第二文字群26には、第二マークと同色の第二色が着色されていてもよい。
第一実施形態の第二変形例によれば、一目で指示部6の移動方向を判別することができるとともに、意匠性に優れた表示部20とすることができる。
【0082】
(第二実施形態)
図16は、第二実施形態に係る時計1の外観図である。
図17は、第二実施形態に係る時計1の表示機構5の説明図である。
第一実施形態では、文字板2に開口部15を一箇所設け、開口部15から第一マーク31および第二マーク32を表示していた(
図1および
図2参照)。
これに対して、第二実施形態では、
図16および
図17に示すように、文字板2に二箇所の開口部15,16(第一の開口部15および第二の開口部16)を設けるとともに、それぞれの開口部15,16から、第一マーク31および第二マーク32(
図17参照)を表示している点で、第一実施形態とは異なっている。なお、第一実施形態と同様の構成については、説明を省略する。
【0083】
図16に示すように、文字板2には、第一の開口部15および第二の開口部16が形成されている。第一の開口部15および第二の開口部16は、例えばレトログラード表示領域21を挟んで両側に形成されている。
図17に示すように、時計1は、二個の切替機構50(第一切替機構50Aおよび第二切替機構50B)を備えている。
第一切替機構50Aは、第一の開口部15から表示される第一マーク31と第二マーク32とを切り替えている。
第二切替機構50Bは、第二の開口部16から表示される第一マーク31と第二マーク32とを切り替えている。
第二切替機構50Bの表示中間車51Bと、24時間車41との間に、24時間中間車46を介在させてもよい。これにより、第一切替機構50Aの方向表示部30(すなわち方向表示車66)の回転方向と、第二切替機構50Bの方向表示部30(すなわち方向表示車66)の回転方向とを異ならせることができる。
第二実施形態によれば、一目で指示部6の移動方向を判別することができるとともに、意匠性に優れた表示部20とすることができる。
【0084】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の各実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
【0085】
図18は、他の実施形態に係る時計1の説明図である。
例えば、
図18に示すように、文字板2に第一の開口部15および第二の開口部16を設けるとともに、第一の開口部15から第一マーク31を表示させ(
図18(a)参照)、第二の開口部16から第二マーク32を表示させる(
図18(b)参照)構成としてもよい。
【0086】
図19は、他の実施形態に係る時計1の説明図である。
また、例えば、
図19に示すように、文字板2に第一の開口部15および第二の開口部16を設けるとともに、第一の開口部15および第二の開口部16からそれぞれ異なる第一マーク31と第二マーク32とを表示させる構成としてもよい。より具体的には、例えば
図19(a)に示すように、指示部6がレトログラード表示領域21の一端22から他端23へ移動するときには、第一マーク31として、第一の開口部15に矢印からなる主第一マーク31Aを表示させるとともに、第二の開口部16に第一色からなる副第一マーク31Bを表示させる構成としてもよい。さらに、
図19(b)に示すように、指示部6がレトログラード表示領域21の他端23から一端22へ移動するときには、第二マーク32として、第一の開口部15に第二色からなる副第二マーク32Bを表示させるとともに、第二の開口部16に矢印からなる主第二マーク32A表示させる構成としてもよい。
【0087】
また、各実施形態では、表示中間車51と表示作動爪車61とは、それぞれ別体に形成されていたが、一体形成してもよい。
また、第一マーク31および第二マーク32の態様は、各実施形態および各変形例に限定されない。
【0088】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。