(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガスケットが、ポリプロピレン樹脂、ポリフェニルサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)のうちの何れかからなることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
前記電解液は、前記有機溶媒が、環状カーボネート溶媒であるプロピレンカーボネート(PC)、環状カーボネート溶媒であるエチレンカーボネート(EC)、及び、鎖状エーテル溶媒であるジメトキシエタン(DME)を含有してなる混合溶媒であることを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の非水電解質二次電池。
前記有機溶媒は、前記プロピレンカーボネート(PC)、前記エチレンカーボネート(EC)及び前記ジメトキシエタン(DME)の混合比が、体積比で{PC:EC:DME}=0.5〜1.5:0.5〜1.5:1〜3の範囲であることを特徴とする請求項6に記載の非水電解質二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態である非水電解質二次電池の例を挙げ、その構成について
図1及び
図2を参照しながら詳述する。なお、本発明で説明する非水電解質二次電池とは、具体的には、正極または負極として用いる活物質と電解液とが容器内に収容されてなる非水電解質二次電池である。
【0032】
[非水電解質二次電池]
図1及び
図2に示す本実施形態の非水電解質二次電池1は、いわゆるコイン(ボタン)型の電池である。この非水電解質二次電池1は、収納容器2内に、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極10と、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極20と、正極10と負極20との間に配置されたセパレータ30と、少なくとも支持塩及び有機溶媒を含む電解液50とを備える。
より具体的には、非水電解質二次電池1は、有底円筒状の正極缶12と、正極缶12の開口部12aにガスケット40を介在して固定され、正極缶12との間に収容空間を形成する有蓋円筒状(ハット状)の負極缶22とを有し、正極缶12の開口部12aの周縁を内側、即ち負極缶22側にかしめることで収容空間を密封する収納容器2を備える。
【0033】
収納容器2によって密封された収容空間には、正極缶12側に設けられる正極10と、負極缶22側に設けられる負極20とがセパレータ30を介して対向配置され、さらに、電解液50が充填されている。また、
図1に示す例においては、負極20とセパレータ30との間にリチウムフォイル60が介装されている。
また、
図1に示すように、ガスケット40は、正極缶12の内周面に沿って狭入されるとともに、セパレータ30の外周と接続され、セパレータ30を保持している。
また、正極10、負極20及びセパレータ30には、収納容器2内に充填された電解液50が含浸している。
【0034】
図1に示す例の非水電解質二次電池1においては、正極10が、正極集電体14を介して正極缶12の内面に電気的に接続され、負極20が、負極集電体24を介して負極缶22の内面に電気的に接続されている。本実施形態においては、
図1に例示するような正極集電体14及び負極集電体24を備えた非水電解質二次電池1を例に挙げて説明しているが、これには限定されず、例えば、正極缶12が正極集電体を兼ねるとともに、負極缶22が負極集電体を兼ねた構成を採用しても構わない。
【0035】
本実施形態の非水電解質二次電池1は、上記のように概略構成されることにより、正極10と負極20の一方から他方へリチウムイオンが移動することで、電荷を蓄積(充電)したり電荷を放出(放電)したりすることができるものである。
【0036】
(正極缶及び負極缶)
本実施形態において、収納容器2を構成する正極缶12は、上述したように、有底円筒状に構成され、平面視で円形の開口部12aを有する。このような正極缶12の材質としては、従来公知のものを何ら制限無く用いることができ、例えば、NAS64等のステンレス鋼が挙げられる。
【0037】
また、負極缶22は、上述したように、有蓋円筒状(ハット状)に構成され、その先端部22aが、開口部12aから正極缶12に入り込むように構成される。このような負極缶22の材質としては、正極缶12の材質と同様、従来公知のステンレス鋼が挙げられ、例えば、SUS304−BA等を用いることができる。また、負極缶22には、例えば、ステンレス鋼に銅やニッケル等を圧接してなるクラッド材を用いることもできる。
【0038】
図1に示すように、正極缶12と負極缶22とは、ガスケット40を介在させた状態で、正極缶12の開口部12aの周縁を負極缶22側にかしめることで固定され、非水電解質二次電池1を、収容空間が形成された状態で密封保持する。このため、正極缶12の最大内径は、負極缶22の最大外径よりも大きい寸法とされている。
【0039】
そして、本実施形態の非水電解質二次電池1においては、
図2に示すような、ガスケット40を介して固定された正極缶12と負極缶22との封口形状を、非水電解質二次電池1、正極缶12及び負極缶22の配置関係及び寸法関係を適正化して構成したものであり、具体的には、以下に示す(1)〜(3)の配置関係及び寸法関係を全て満足する構成とされる。
(1)正極缶12の開口部12aにおけるかしめ先端部12bが、負極缶22の先端部22aよりも、負極缶22の内側方向に配置される。
(2)非水電解質二次電池1の直径dが4〜12mm、高さh1が1〜3mmの範囲である。
(3)正極缶12の側面部12dが、開口部12a側の少なくとも一部が曲面状に形成されるとともに、該曲面の曲率半径Rが0.8〜1.1mmの範囲であり、且つ、正極缶12の高さh2が、非水電解質二次電池1の高さh1に対して65〜90%の範囲である。
【0040】
本実施形態の非水電解質二次電池1は、
図2中に示すように、正極缶12の開口部12aにおけるかしめ先端部12bを負極缶22の先端部22aよりも内側方向に配置し、また、正極缶12のかしめ先端部12bを負極缶22の先端部22aよりも内側方向に配置し、さらに、非水電解質二次電池1のサイズ、正極缶12の側面部12dの曲率半径R、非水電解質二次電池1と正極缶12とのサイズの関係の各々を上記範囲とすることで、ガスケット40の配置及び封止条件が適正範囲に規定される。これにより、高温環境下で長期使用又は保管した場合においても、正極缶12又は負極缶22とガスケット40との間に隙間が生じるのが抑制され、非水電解質二次電池1の封止性が向上する。従って、電解液50の電池外部への揮発や、大気中に含まれる水分の電池内部への侵入を確実に防止でき、高温環境下における容量維持率が高く、保存特性に優れた非水電解質二次電池1が得られる。
【0041】
より具体的には、上記(1)に示したように、正極缶12の開口部12aがかしめ封口されたときに、正極缶12のかしめ先端部12bが、負極缶22の最大外径部よりも内側方向に位置することにより、正極缶12によって負極缶22を確実に押さえ込むことができ、また、ガスケット40を十分な圧縮率で圧縮することができる。
【0042】
また、上記(2)に示したように、非水電解質二次電池1の全体の寸法を規定したうえで、上記(3)に示すように、正極缶12の側面部12dの曲率半径Rを上記範囲とすることにより、上述のような、正極缶12によって負極缶22を確実に押さえ込み、ガスケット40を十分な圧縮率で圧縮できる効果が顕著に得られる。
ここで、側面部12dの曲率半径Rが1.1mmを超えると、正極缶12が負極缶22を上方から押さえる力が弱くなり、底部12cの位置におけるガスケット40の圧縮率が低下する。さらに、正極缶12の高さh2が変動しやすくなることにより、内部抵抗のばらつきが大きくなる。
また、側面部12dの曲率半径Rが0.8mm未満だと、正極缶12が負極缶22を側方から押さえる力が弱くなり、負極缶の側面部22bの位置におけるガスケット40の圧縮率が低下する。
【0043】
また、上記(2)に示したように、非水電解質二次電池1の全体の寸法を規定したうえで、上記(3)に示すように、正極缶12の高さh2が、非水電解質二次電池1の高さh1に対して上記範囲とされることで、上述のような、正極缶12によって負極缶22を確実に押さえ込み、ガスケット40を十分な圧縮率で圧縮できる効果がさらに顕著に得られる。
ここで、非水電解質二次電池1の高さh1に対する正極缶12の高さh2の比率が90%を超えると、正極缶12が負極缶22を上方から押さえる力が弱くなり、底部12cの位置におけるガスケット40の圧縮率が低下する。
また、非水電解質二次電池1の高さh1に対する正極缶12の高さh2の比率が65%未満だと、ガスケット40の圧縮率が高くなりすぎて破断が生じ、正極缶12と負極缶22との短絡等が発生する可能性がある。
【0044】
なお、正極缶12や負極缶22に用いられる金属板材の板厚は、一般に0.1〜0.3mm程度であり、例えば、正極缶12や負極缶22の全体における平均板厚で0.20mm程度として構成することができる。
【0045】
また、
図1及び
図2に示す例においては、負極缶22の先端部22aが折り返し形状とされているが、これには限定されず、例えば、金属板材の端面が先端部22aとされた、折り返し形状を有しない形状においても、本発明を適用することが可能である。
【0046】
また、上述のように、非水電解質二次電池1、正極缶12及び負極缶22の配置関係及び寸法関係によって封止条件を規定する本発明の構成は、例えば、コイン型非水電解質二次電池の一般的なサイズである920サイズ(外径φ9mm×高さ2.0mm)に適用することが可能である。また、本発明が適用できる非水電解質二次電池としては、上述した、直径dが4〜12mm、高さh1が1〜3mmの範囲を満たす非水電解質二次電池であれば、特に制限されない。
【0047】
(ガスケット)
ガスケット40は、
図1に示すように、正極缶12の内周面に沿って円環状に形成され、その環状溝41の内部に負極缶22の先端部22aが配置される。
また、ガスケット40は、例えば、その材質が、熱変形温度が230℃以上の樹脂であることが好ましい。ガスケット40に用いる樹脂材料の熱変形温度が230℃以上であれば、非水電解質二次電池1を高温環境下で使用又は保管した場合や、非水電解質二次電池1の使用中における発熱が生じた場合でも、ガスケットが著しく変形して電解液50が漏出するのを防止できる。
【0048】
このようなガスケット40の材質としては、例えば、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリフェニルサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、液晶ポリマー(LCP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルニトリル樹脂(PEN)、ポリエーテルケトン樹脂(PEK)、ポリアリレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂等のプラスチック樹脂が挙げられる。これらの中でも、ガスケット40に、PP、PPS、PEEKのうちの何れかを用いることが、高温環境下における使用や保管時にガスケットが著しく変形するのを防止でき、非水電解質二次電池の封止性がさらに向上する観点から好ましい。
【0049】
また、ガスケット40には、上記材料にガラス繊維、マイカウイスカー、セラミック微粉末等を、30質量%以下の添加量で添加したものも好適に用いることができる。このような材質を用いることで、高温によってガスケットが著しく変形し、電解液50が漏出するのを防止できる。
【0050】
また、ガスケット40の環状溝の内側面には、さらに、シール剤を塗布してもよい。このようなシール剤としては、アスファルト、エポキシ樹脂、ポリアミド系樹脂、ブチルゴム系接着剤等を用いることができる。また、シール剤は、環状溝41の内部に塗布した後、乾燥させて用いる。
【0051】
さらに、本実施形態の非水電解質二次電池1においては、正極缶12のかしめ先端部12bを負極缶22の先端部22aよりも内側方向に配置し、さらに、非水電解質二次電池1のサイズ、正極缶12の側面部12dの曲率半径R、非水電解質二次電池1と正極缶12とのサイズの関係の各々を上記のように規定したうえで、ガスケット40の圧縮率を適正化することが好ましい。具体的には、
図2中に示すG1〜G3の位置、即ち、以下に示す各箇所におけるガスケット40の圧縮率が50%以上であることが好ましい。
G1:正極缶12の開口部12aにおける正極缶12のかしめ先端部12bと負極缶22との間の最短距離の位置。
G2:負極缶22の先端部22aと正極缶12との間の最短距離の位置。
G3:負極缶22の先端部22aと正極缶12の底部12cとの間の位置。
【0052】
本実施形態においては、上述のような、非水電解質二次電池1、正極缶12及び負極缶22の配置関係及び寸法関係の規定に加え、さらに、ガスケット40の圧縮率を適正化することで、非水電解質二次電池の封止性をより確実に向上でき、特に、高温環境下において使用又は保管した場合に、より顕著な封止性が得られる。
【0053】
なお、ガスケット40の圧縮率の上限は、特に限定されるものではないが、95%以下とすれば、高温環境下においてガスケット40が破断したりすることがなく、良好な封止性を維持することができる。
【0054】
(電解液)
本実施形態の非水電解質二次電池1は、電解液50として、少なくとも有機溶媒及び支持塩を含むものを用いる。そして、電解液50は、有機溶媒として、環状カーボネート溶媒であるプロピレンカーボネート(PC)、環状カーボネート溶媒であるエチレンカーボネート(EC)、及び、鎖状エーテル溶媒であるジメトキシエタン(DME)を含有してなる混合溶媒を用いることが好ましい。
このような電解液は、通常、支持塩を、有機溶媒等の非水溶媒に溶解させたものからなり、電解液に求められる耐熱性や粘度等を勘案して、その特性が決定される。
【0055】
一般に、有機溶媒を用いた電解液を非水電解質二次電池に使用した場合、リチウム塩の溶解性が乏しいことから導電性の温度依存性が大きくなり、常温下における特性に較べて、低温下における特性が大きく低下するという問題がある。一方、低温特性を向上させるために、例えば、鎖状炭酸エステルである非対称構造のエチルメチルカーボネートや酢酸エステル類を電解液の有機溶媒に用いた場合には、逆に、高温下における非水電解質二次電池としての特性が低下するという問題がある。また、エチルメチルカーボネート等の有機溶媒を電解液に用いた場合でも、やはり、リチウム塩の溶解性が乏しく、低温特性を向上させるのには限界があった。
【0056】
これに対して、本実施形態では、電解液50に用いる有機溶媒を、環状カーボネート溶媒であるPC、EC、及び、鎖状エーテル溶媒であるDMEを含有してなる混合溶媒とすることにより、高温環境下も含めた幅広い温度範囲において十分な放電容量を維持可能な非水電解質二次電池1が実現できる。
具体的には、まず、環状カーボネート溶媒として、誘電率が高く、支持塩の溶解性が高いPC及びECを用いることにより、大きな放電容量を得ることが可能となる。また、PC及びECは、沸点が高いことから、高温環境下で使用又は保管した場合でも揮発し難い電解液が得られる。
また、環状カーボネート溶媒として、ECよりも融点が低いPCを、ECと混合して用いることにより、低温特性を向上させることが可能となる。
また、鎖状エーテル溶媒として、融点の低いDMEを用いることにより、低温特性が向上する。また、DMEは低粘度なので、電解液の電気伝導性が向上する。また、DMEは、Liイオンに溶媒和することにより、非水電解質二次電池として大きな放電容量が得られる。
【0057】
環状カーボネート溶媒は、下記(化学式1)で表される構造を有してなり、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、トリフロロエチレンカーボネート(TFPC)、クロロエチレンカーボネート(ClEC)、トリフロロエチレンカーボネート(TFEC)、ジフロロエチレンカーボネート(DFEC)、ビニレンカーボネート(VEC)等が挙げられる。本実施形態においては、特に、負極20上への電極上の皮膜形成の容易性や、低温特性向上の観点に加え、さらに、高温下における容量維持率を向上させる観点から、下記(化学式1)で表される構造の環状カーボネート溶媒として、PC及びECの2種類を用いる。
【0059】
但し、上記(化学式1)中において、R1、R2、R3、R4は、水素、フッ素、塩素、炭素数1〜3のアルキル基、フッ素化されたアルキル基の何れかを表す。また、上記(化学式1)中におけるR1、R2、R3、R4は、それぞれ同一であっても、異なっていても良い。
【0060】
本実施形態では、上述したように、環状カーボネート溶媒として、誘電率が高く、支持塩の溶解性が高いPC及びECを用いることにより、大きな放電容量を得ることが可能となる。また、PC及びECは沸点が高いことから、高温環境下で使用又は保管した場合でも揮発し難い電解液が得られる。さらに、環状カーボネート溶媒として、ECよりも融点が低いPCを、ECと混合して用いることにより、優れた低温特性が得られる。
【0061】
鎖状エーテル溶媒は、下記(化学式2)で表される構造を有してなり、例えば、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,2−ジエトキシエタン(DEE)等が挙げられる。本実施形態においては、特に、導電率向上の観点に加え、さらに、常温下における容量を確保しながら、特に、低温特性を向上させる観点から、下記(化学式2)で表される構造の鎖状エーテル溶媒として、リチウムイオンと溶媒和しやすいDMEを用いる。
【0063】
但し、上記(化学式2)中において、R5、R6は、水素、フッ素、塩素、炭素数1〜3のアルキル基、フッ素化されたアルキル基の何れかを表す。また、R5、R6はそれぞれ同一であっても、異なっていても良い。
【0064】
本実施形態では、上述したように、鎖状エーテル溶媒として融点の低いDMEを用いることで低温特性が向上する。また、DMEは低粘度であることから、電解液の電気伝導性が向上する。さらに、DMEは、Liイオンに溶媒和することから、非水電解質二次電池として大きな放電容量が得られる。
【0065】
電解液50において、有機溶媒中の各溶媒の配合比率は、特に限定されないが、例えば、体積比で{PC:EC:DME}=0.5〜1.5:0.5〜1.5:1〜3の範囲であることがより好ましく、0.8〜1.2:0.8〜1.2:1.5〜2.5の範囲であることがさらに好ましく、概ね{PC:EC:DME}={1:1:2}であることが最も好ましい。
有機溶媒の配合比率が上記範囲であると、上述したような、高温下での容量維持率を損なうことなく、低温特性を改善できる効果がより顕著に得られる。
【0066】
詳細には、環状カーボネート溶媒であるプロピレンカーボネート(PC)の配合比率が上記範囲の下限以上であれば、ECよりも融点が低いPCと、ECとを混合して用いることで低温特性を向上できる効果が顕著に得られる。
一方、PCは、ECに較べて誘電率が低いことから支持塩の濃度を高められないため、含有量が多過ぎると大きな放電容量が得られ難くなる可能性があることから、その配合比率を上記範囲の上限以下に制限することが好ましい。
【0067】
また、有機溶媒中において、環状カーボネート溶媒であるエチレンカーボネート(EC)の配合比率が上記範囲の下限以上であれば、電解液50の誘電率及び支持塩の溶解性が高められ、非水電解質二次電池としての大きな放電容量を得ることが可能となる。
一方、ECは、粘度が高いことから電気伝導性に乏しく、また、融点が高いことから含有量が多過ぎると低温特性が低下する可能性があるため、その配合比率を上記範囲の上限以下に制限することが好ましい。
【0068】
また、有機溶媒中において、鎖状エーテル溶媒であるジメトキシエタン(DME)の配合比率を上記範囲の下限以上とすれば、融点の低いDMEが所定量で有機溶媒中に含まれることにより、低温特性を向上できる効果が顕著に得られる。また、DMEは粘度が低いことから電気伝導性が向上するとともに、Liイオンに溶媒和することによって大きな放電容量を得ることが可能となる。
一方、DMEは誘電率が低いことから支持塩の濃度を高められないため、含有量が多過ぎると大きな放電容量が得られ難くなる可能性があることから、その配合比率を上記範囲の上限以下に制限することが好ましい。
【0069】
電解液50に用いられる支持塩としては、非水電解質二次電池において、電解液に支持塩として添加される公知のLi化合物を用いることができ、特に限定されない。例えば、支持塩としては、熱的安定性等を考慮し、リチウムテトラフルオロボレート、リチウムビスパーフルオロメチルスルホニルイミド、リチウムビスパーフルオロエチルスルホニルイミド、リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(Li(CF
3SO
2)
2N)、六フッ化燐酸リチウム(LiPF
6)等が挙げられる。これらの中でも、特に、Li(CF
3SO
2)
2N、又は、LiPF
6を支持塩として用いることが、電解液の耐熱性が高められ、高温時の容量の減少が抑制できる点から好ましい。
また、支持塩は、上記のうちの1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
電解液50中の支持塩の含有量は、支持塩の種類等を勘案するとともに、後述の正極活物質の種類を勘案して決定でき、例えば、0.1〜3.5mol/Lが好ましく、0.5〜3mol/Lがより好ましく、1〜2.5mol/Lが特に好ましい。また、正極活物質にリチウムマンガン酸化物を用いた場合には、概ね1mol/L程度、チタン酸リチウムを用いた場合には、概ね1.4mol/L程度とすることが好ましい。
なお、電解液50中の支持塩濃度が高過ぎても、あるいは低過ぎても、電導度の低下が起き、電池特性に悪影響を及ぼすおそれがあることから、上記範囲とすることが好ましい。
【0071】
本実施形態の非水電解質二次電池1は、正極缶12のかしめ先端部12bを負極缶22の先端部22aよりも内側方向に配置し、さらに、非水電解質二次電池1のサイズ、正極缶12の側面部12dの曲率半径R、非水電解質二次電池1と正極缶12とのサイズの関係の各々を上記のように規定したうえで、上記組成の電解液50を用いることにより、高温環境下で長期使用又は保管した場合であっても高い放電容量を維持することができ、保存特性に優れたものとなる。
【0072】
(正極)
正極10としては、正極活物質の種類は特に限定されず、リチウム化合物を含み、従来からこの分野で公知の正極活物質を用い、さらに、結着剤としてポリアクリル酸を、導電助剤としてグラファイト等を混合したものを用いることができる。特に、正極活物質として、リチウムマンガン酸化物(Li
4Mn
5O
12)、チタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)、MoO
3、LiFePO
4、Li
4CoO
2Mn
5O
12、Nb
2O
3のうちの少なくとも何れかを含有してなることが好ましく、これらの中でも、リチウムマンガン酸化物、又は、チタン酸リチウムを含有してなることがより好ましい。また、上記のLi
4CoO
2Mn
5O
12のような、リチウムマンガン酸化物にCoやNi等の遷移金属元素を添加したものも用いることができる。
【0073】
正極10に、上記の正極活物質を用いることで、特に、高温環境下での充放電サイクルにおける電解液50と正極10との反応が抑制され、容量の減少を防止でき、容量維持率が高められる。
また、本実施形態では、正極活物質として、上記の材料のうちの1種のみならず、複数を含有していても構わない。
【0074】
また、上記材料からなる粒状の正極活物質を用いる場合、その粒子径(D50)は、特に限定されず、例えば、0.1〜100μmが好ましく、1〜10μmがより好ましい。
正極活物質の粒子径(D50)が、上記好ましい範囲の下限値未満であると、非水電解質二次電池が高温に曝された際に反応性が高まるために扱いにくくなり、また、上限値を超えると、放電レートが低下するおそれがある。
なお、本発明における「正極活物質の粒子径(D50)」とは、レーザー回折法を用いて測定される粒子径であってメジアン径を意味する。
【0075】
正極10中の正極活物質の含有量は、非水電解質二次電池1に要求される放電容量等を勘案して決定され、50〜95質量%が好ましい。正極活物質の含有量が、上記好ましい範囲の下限値以上であれば、充分な放電容量が得られやすく、好ましい上限値以下であれば、正極10を成形しやすい。
【0076】
正極10は、導電助剤(以下、正極10に用いられる導電助剤を「正極導電助剤」ということがある)を含有してもよい。
正極導電助剤としては、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、グラファイト等の炭素質材料が挙げられる。
正極導電助剤は、上記のうちの1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、正極10中の正極導電助剤の含有量は、4〜40質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。正極導電助剤の含有量が、上記好ましい範囲の下限値以上であれば、充分な導電性が得られやすい。加えて、電極をペレット状に成型する場合に成型しやすくなる。一方、正極10中の正極導電助剤の含有量が、上記好ましい範囲の上限値以下であれば、正極10に充分な放電容量が得られやすい。
【0077】
正極10は、バインダ(以下、正極10に用いられるバインダを「正極バインダ」ということがある。)を含有してもよい。
正極バインダとしては、従来公知の物質を用いることができ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられ、中でも、ポリアクリル酸が好ましく、架橋型のポリアクリル酸がより好ましい。
また、正極バインダは、上記のうちの1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、正極バインダにポリアクリル酸を用いる場合には、ポリアクリル酸を、予め、pH3〜10に調整しておくことが好ましい。この場合のpHの調整には、例えば、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物や水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物を用いることができる。
正極10中の正極バインダの含有量は、例えば、1〜20質量%とすることができる。
【0078】
正極10の大きさは、非水電解質二次電池1の大きさに応じて決定される。
また、正極10の厚さも、非水電解質二次電池1の大きさに応じて決定され、非水電解質二次電池1が、各種電子機器向けのバックアップ用のコイン型のものであれば、例えば、300〜1000μm程度とされる。
【0079】
正極10は、従来公知の製造方法により製造できる。
例えば、正極10の製造方法としては、正極活物質と、必要に応じて正極導電助剤、及び/又は、正極バインダとを混合して正極合剤とし、この正極合剤を任意の形状に加圧成形する方法が挙げられる。
上記の加圧成形時の圧力は、正極導電助剤の種類等を勘案して決定され、例えば0.2〜5ton/cm
2とすることができる。
【0080】
正極集電体14としては、従来公知のものを用いることができ、炭素を導電性フィラーとする導電性樹脂接着剤等が挙げられる。
【0081】
(負極)
負極20としても、負極活物質の種類は特に限定されないが、例えば、炭素、Li−Al等の合金系負極や、シリコン酸化物等、従来からこの分野で公知の負極活物質を用い、さらに、適当なバインダと、結着剤としてポリアクリル酸を、導電助剤としてグラファイト等を混合したものを用いることができる。特に、負極活物質として、SiO、SiO
2、Si、WO
2、WO
3及びLi−Al合金のうちの少なくとも何れかを含有してなることが好ましい。負極20に、負極活物質として上記材料を用いることで、充放電サイクルにおける電解液50と負極20との反応が抑制され、容量の減少を防止でき、サイクル特性が向上する。
【0082】
また、負極20は、負極活物質がSiO又はSiO
2、即ち、SiO
x(0<x≦2)で表されるシリコン酸化物からなることがより好ましい。負極活物質に上記組成のシリコン酸化物を用いることで、非水電解質二次電池1を高電圧で使用することが可能になるとともに、サイクル特性が向上する。また、負極20は、負極活物質として、上記のSiO
x(0<x≦2)に加え、上記の他の負極活物質のうちの何れかを含有していても良い。
【0083】
負極活物質として上記材料を用いる場合、その粒子径(D50)は、特に限定されず、例えば、0.1〜30μmが好ましく、1〜10μmがより好ましい。負極活物質の粒子径(D50)が、上記好ましい範囲の下限値未満であると、非水電解質二次電池が高温に曝された際に反応性が高まるために扱いにくくなり、また、上限値を超えると、放電レートが低下するおそれがある。
【0084】
なお、本実施形態においては、負極20中の負極活物質が、リチウム(Li)とSiO
X(0≦X<2)とを含み、これらのモル比(Li/SiO
X)が3.9〜4.9の範囲であることが好ましい。このように、負極活物質をリチウム(Li)とSiO
Xとから構成し、これらのモル比を上記範囲とすることにより、充電異常等を防止できる効果が得られる。また、非水電解質二次電池1を高温環境下で長期間にわたって使用又は保管した場合においても、放電容量が低下することがなく、保存特性が向上する効果が得られる。
【0085】
上記のモル比(Li/SiO
X)が3.9未満だと、Liが少な過ぎることから、高温環境下で長期間にわたって使用又は保管した後にLi不足となり、放電容量が低下する。
一方、上記のモル比(Li/SiO
X)が4.9を超えると、Liが多過ぎることから、充電異常が発生する可能性がある。また、金属LiがSiO
Xに取り込まれずに残存することから、抵抗が上昇して放電容量が低下する可能性がある。
【0086】
さらに、本実施形態においては、上記範囲とされたモル比(Li/SiO
X)を、上述した正極10に含まれる正極活物質の種類に応じて、さらに適正な範囲を選択して設定することがより好ましい。例えば、正極活物質にチタン酸リチウムを用いた場合には、負極活物質中における上記のモル比(Li/SiO
X)を4.0〜4.7の範囲とすることがより好ましい。また、正極活物質にリチウムマンガン酸化物を用いた場合には、上記同様、負極活物質中におけるモル比(Li/SiO
X)を3.9〜4.9の範囲とする。このように、負極活物質のモル比(Li/SiO
X)を、正極活物質の種類に応じた範囲で設定することにより、上述したような、初期抵抗の上昇を抑制して充電異常等を防止できる効果や、高温環境下で長期間にわたる使用又は保管の後も放電容量が低下することがなく、保存特性が向上する効果がより顕著に得られる。
【0087】
負極20中の負極活物質の含有量は、非水電解質二次電池1に要求される放電容量等を勘案して決定され、50質量%以上が好ましく、60〜80質量%がより好ましい。
負極20において、上記材料からなる負極活物質の含有量が、上記好ましい範囲の下限値以上であれば、充分な放電容量が得られやすく、また、上限値以下であれば、負極20を成形しやすい。
【0088】
負極20は、導電助剤(以下、負極20に用いられる導電助剤を「負極導電助剤」ということがある)を含有してもよい。負極導電助剤は、正極導電助剤と同様のものである。
負極20は、バインダ(以下、負極20に用いられるバインダを「負極バインダ」ということがある)を含有してもよい。
負極バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリイミド(PI)、ポリイミドアミド(PAI)等が挙げられ、中でも、ポリアクリル酸が好ましく、架橋型のポリアクリル酸がより好ましい。
また、負極バインダは、上記のうちの1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、負極バインダにポリアクリル酸を用いる場合には、ポリアクリル酸を、予め、pH3〜10に調整しておくことが好ましい。この場合のpHの調整には、例えば、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物や水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物を用いることができる。
負極20中の負極バインダの含有量は、例えば1〜20質量%とされる。
【0089】
なお、負極20の大きさ、厚さについては、正極10の大きさ、厚さと同様である。
また、
図1に示す非水電解質二次電池1においては、負極20の表面、即ち、負極20と後述のセパレータ30との間に、リチウムフォイル60を設けた構成を採用している。
【0090】
負極20を製造する方法としては、例えば、負極活物質として上記材料を用い、必要に応じて負極導電助剤、及び/又は、負極バインダとを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤を任意の形状に加圧成形する方法を採用することができる。
この場合の加圧成形時の圧力は、負極導電助剤の種類等を勘案して決定され、例えば0.2〜5ton/cm
2とすることができる。
【0091】
また、負極集電体24は、正極集電体14と同様の材料を用いて構成することができる。
【0092】
(セパレータ)
セパレータ30は、正極10と負極20との間に介在され、大きなイオン透過度を有するとともに耐熱性に優れ、かつ、所定の機械的強度を有する絶縁膜が用いられる。
セパレータ30としては、従来から非水電解質二次電池のセパレータに用いられ、上記特性を満たす材質からなるものを何ら制限無く適用でき、例えば、アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、鉛ガラス等のガラス、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド、ポリイミド(PI)、アラミド、セルロース、フッ素樹脂、セラミックス等の樹脂からなる不織布や繊維等が挙げられる。セパレータ30としては、上記の中でも、ガラス繊維からなる不織布を用いることがより好ましい。ガラス繊維は、機械強度に優れるとともに、大きなイオン透過度を有するため、内部抵抗を低減して放電容量の向上を図ることが可能となる。
セパレータ30の厚さは、非水電解質二次電池1の大きさや、セパレータ30の材質等を勘案して決定され、例えば5〜300μm程度とすることができる。
【0093】
(負極と正極との容量バランス)
本実施形態の非水電解質二次電池1においては、負極20の容量と正極10の容量とから表される容量バランス{負極容量(mAh)/正極容量(mAh)}が、1.56〜2.51の範囲であることがより好ましい。
負極20と正極10との容量バランスを上記範囲とすることで、負極側の容量に所定の余裕を確保しておくことができ、例えば、電池反応による負極活物質の分解が早く進んだ場合であっても、一定以上の負極容量を確保することが可能となる。従って、仮に、非水電解質二次電池1を過酷な高温多湿環境下において保管・長期使用した場合であっても、放電容量の低下が抑制され、保存特性が向上する効果が得られる。
【0094】
負極20と正極10との容量バランスが1.56未満だと、高温環境下で長期使用した際の劣化が大きくなり、容量維持が困難になる。一方、負極20と正極10との容量バランスが2.51を超えると、十分な放電容量が得られない。
【0095】
本実施形態の非水電解質二次電池1においては、正極缶12のかしめ先端部12bを負極缶22の先端部22aよりも内側方向に配置し、さらに、非水電解質二次電池1のサイズ、正極缶12の側面部12dの曲率半径R、非水電解質二次電池1と正極缶12とのサイズの関係の各々を上記のように規定したうえで、負極20と正極10との容量バランスを上記の適正範囲で構成することにより、高温環境下で長期使用又は保管した場合であっても高い放電容量を維持することができ、保存特性に優れたものとなる。
【0096】
[非水電解質二次電池の用途]
本実施形態の非水電解質二次電池1は、上述したように高い封止性を備え、高温環境下で長期使用又は保管した場合であっても高い放電容量を維持することができ、幅広い温度範囲において十分な放電容量が得られ、保存特性に優れたものなので、例えば、電圧値2〜3Vのバックアップ用の電源に好適に用いられる。
【0097】
[作用効果]
以上説明したように、本発明の実施形態である非水電解質二次電池1によれば、上述の如く、正極缶12の開口部12aにおけるかしめ先端部12bを負極缶22の先端部22aよりも内側方向に配置し、さらに、非水電解質二次電池1のサイズ、正極缶12の側面部12dの曲率半径R、非水電解質二次電池1と正極缶12とのサイズの関係の各々を上記範囲とすることで、正極缶12によって負極缶22を確実に押さえ込むことができ、また、ガスケット40を十分な圧縮率で圧縮することができることから、封止条件が適正範囲に規定される。
これにより、非水電解質二次電池1を高温環境下で使用又は保管した場合でも、正極缶12又は負極缶22とガスケット40との間に隙間が生じるのを抑制して電池の封止性を向上させることができることから、電解液の揮発や、大気中に含まれる水分が内部に侵入するのを効果的に防止することが可能となる。
従って、高温環境下においても電池特性が劣化せず、十分な放電容量を維持することが可能であり、放電容量が高く、且つ、優れた保存特性を備える非水電解質二次電池1を提供することが可能となる。
【実施例】
【0098】
次に、実施例及び比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は、本実施例によってその範囲が制限されるものではなく、本発明に係る非水電解質二次電池は、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0099】
[実施例1〜4]
実施例1においては、非水電解質二次電池として、
図1に示すようなコイン型の非水電解質二次電池を作製した。なお、本実施例では、正極活物質としてチタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)、負極活物質としてSiOを用いて、
図1に示す断面図において、外径が9.0mm(直径d)、厚さが2.0mm(高さh1)のコイン型(920サイズ)の非水電解質二次電池(リチウム二次電池)を作製し、高温高湿環境下における封止性を評価した。
【0100】
(電池の作製)
正極10として、まず、市販のチタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)に、導電助剤としてグラファイトを、結着剤としてポリアクリル酸を、チタン酸リチウム:グラファイト:ポリアクリル酸=90:8:2(質量比)の割合で混合して正極合剤とした。
次いで、得られた正極合剤98.6mgを、2ton/cm
2の加圧力で加圧成形し、直径8.9mmの円盤形ペレットに加圧成形した。
【0101】
次に、得られたペレット(正極10)を、ステンレス鋼(NAS64:t=0.20mm)製の正極缶12の内面に、炭素を含む導電性樹脂接着剤を用いて接着し、これらを一体化して正極ユニットを得た。その後、この正極ユニットを、大気中で120℃・11時間の条件で減圧加熱乾燥した。
そして、そして、正極ユニットにおける正極缶12の開口部12aの内側面にシール剤を塗布した。
【0102】
次に、負極20として、まず、市販のSiOを粉砕したものを負極活物質として準備し、この負極活物質に、導電剤としてグラファイトを、結着剤としてポリアクリル酸を、それぞれ54:44:2(質量比)の割合で混合して負極合剤とした。
次いで、得られた負極合剤15.1mgを、2ton/cm
2加圧力で加圧成形し、直径6.7mmの円盤形ペレットに加圧成形した。
【0103】
次に、得られたペレット(負極20)を、ステンレス鋼(SUS304−BA:t=0.20mm)製の負極缶22の内面に、炭素を導電性フィラーとする導電性樹脂接着剤を用いて接着し、これらを一体化して負極ユニットを得た。その後、この負極ユニットを、大気中で160℃・11時間の条件で減圧加熱乾燥した。
そして、ペレット状の負極20上に、さらに、直径6.1mm、厚さ0.38mmに打ち抜いたリチウムフォイル60を圧着し、リチウム−負極積層電極とした。
【0104】
上述したように、本実施例においては、
図1中に示す正極集電体14及び負極集電体24を設けず、正極缶12に正極集電体の機能を持たせるとともに、負極缶22に負極集電体の機能を持たせた構成として、非水電解質二次電池作製した。
【0105】
次に、ガラス繊維からなる不織布を乾燥させた後、直径7mmの円盤型に打ち抜いてセパレータ30とした。そして、このセパレータ30を負極20上に圧着されたリチウムフォイル60上に載置し、負極缶22の開口部に、ポリプロピレン製のガスケット40を配置した。
【0106】
次に、以下の配合比率(体積%)に従って有機溶媒を調整し、この有機溶媒に支持塩を溶解させることで電解液を調整した。この際、有機溶媒として、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、及び、ジメトキシエタン(DME)を、体積比で{PC:EC:DME}={1:1:2}の割合で混合することで、混合溶媒を調整した。
そして、正極缶12及び負極缶22に、上記手順で調整した電解液50を、電池1個あたりの合計で40μL充填した。
【0107】
次に、セパレータ30が正極10に当接するように、負極ユニットを正極ユニットにかしめた。この際、正極缶12の開口部12aにおけるかしめ先端部12bを、負極缶22の先端部22aよりも、負極缶22の内側方向に配置するとともに、正極缶12の側面部12dが、開口部12a側において曲面状となるようにかしめ加工を行った。この際、側面部12dの曲率半径R(mm)が、下記表1に示す寸法となるように加工を行った。また、正極缶12の高さh2が、非水電解質二次電池1の高さh1に対して、下記表1に示す比率(h2/h1)となるように、加工を行った。なお、下記表1中に示すように、実施例1〜4においては、正極缶12の側面部12dの曲率半径R(mm)を、全て1.0mmとした。
【0108】
そして、正極缶12の開口部を嵌合することで正極缶12と負極缶22とを密封した後、25℃で7日間静置して、実施例1〜4の非水電解質二次電池を作製した。
【0109】
(高温高湿保存試験:封止性の評価)
上記手順で得られた実施例1〜4の非水電解質二次電池に対して、以下に説明するような高温高湿保存試験(HHTS)を行うことにより、高温高湿環境下での封止性(保存特性)を評価した。
具体的には、まず、得られた非水電解質二次電池を、25℃の環境下、定電流5μA(放電電流)で電圧1.5Vになるまで放電し、次いで、25℃の環境下、電圧2.3Vで48時間印加した。その後、25℃の環境下、定電流5μA(放電電流)で電圧1.5Vになるまで放電した際の容量を測定し、この値を初期容量(mAh)として下記表1中に示した。また、得られた非水電解質二次電池の内部抵抗(Ω)について、LCRメーターを用いて、交流1kHzにおけるインピーダンスを測定することにより、正極と負極との間の内部抵抗を測定し、初期抵抗(Ω)として下記表1中に示した。
【0110】
次に、上記の非水電解質二次電池を、高湿恒温試験機を用いて、80℃・90%RHの高温高湿環境に曝しながら30日間放置した(HHTS)。
そして、上記条件の高温高湿環境に曝された非水電解質二次電池について、25℃の環境下、定電流5μA(放電電流)で電圧1.0Vになるまで放電した際の容量を測定し、この値を試験後(30日保存後)容量(mAh)として下記表1中に示した。また、上記条件の高温高湿環境に曝された非水電解質二次電池の、正極と負極との間の内部抵抗を上記方法で測定し、この値を試験後(30日保存後)抵抗(Ω)として下記表1中に示した。
本実施例における高温高湿保存試験では、特に、初期容量に対する試験後容量の変化(減少状態)をもって保存特性、即ち、高温環境下における電池の封止性の指標とした。
【0111】
【表1】
【0112】
[比較例1]
比較例1においては、実施例1における電池の作製条件に対し、正極缶12の高さh2が、非水電解質二次電池1の高さh1に対して、表1に示す比率(h2/h1)となるようにかしめ加工を行った点を除き、上記の実施例1と同じ条件及び手順により、非水電解質二次電池を作製し、上記同様の条件で封止性を評価し、結果を表1に示した。
【0113】
[実施例5、6]
(電池の作製)
実施例5、6においては、上記の実施例4における電池の作製条件に対し、正極缶12の側面部12dの曲率半径R(mm)を下記表2中に示す寸法に変化させた点を除き、その他の条件や手順については実施例4と同様として、
図1に示すようなコイン型の非水電解質二次電池を作製した。
【0114】
(内部抵抗の評価)
上記手順で得られた実施例5、6の非水電解質二次電池に対して、以下に説明するような高温保存試験を行うことにより、高温環境下での内部抵抗の変化を評価した。
具体的には、まず、得られた非水電解質二次電池の正極と負極との間の内部抵抗(Ω)を、上記同様の方法で測定し、初期抵抗(Ω)として下記表2中に示した。
【0115】
次に、上記の非水電解質二次電池を、高湿恒温試験機を用いて、80℃・90%RHの高温高湿環境に曝しながら30日間放置した(HHTS)。
そして、上記条件の高温高湿環境に曝された非水電解質二次電池について、正極と負極との間の内部抵抗を上記方法で測定し、この値を試験後(30日保存後)抵抗(Ω)として下記表2中に示した。
本実施例における高湿恒温試験では、初期抵抗に対する試験後抵抗の変化(抵抗増加状態)をもって、高温環境下における電池特性の指標とした。
【0116】
【表2】
【0117】
[比較例2]
比較例2においては、上記の実施例5、6における電池の作製条件に対し、正極缶12の側面部12dの曲率半径R(mm)を表2中に示す寸法に変化させた点を除き、その他の条件や手順については、実施例5、6と同様として、
図1に示すようなコイン型の非水電解質二次電池を作製した。
そして、得られた非水電解質二次電池に対して、上記実施例5、6と同様の条件で高温保存試験を行うことにより、高温環境下での内部抵抗の変化を評価した。
【0118】
[実施例7〜10、試験例1]
実施例7〜10及び試験例1においては、負極20に用いる負極活物質としてリチウム(Li)とSiO
X(0≦X<2)とを含むものを用い、且つ、これらのモル比(Li/SiO
X)を下記表3に示す比とした。
また、実施例7〜10及び試験例1においては、
図1に示す断面図において、外径が6.8mm(直径d)、厚さが2.1mm(高さh1)のコイン型(621サイズ)とし、正極缶12の側面部12dの曲率半径R(mm)、及び、正極缶12の高さh2と非水電解質二次電池1の高さh1との比が本発明の請求項1で規定する範囲を満たすように各寸法を調整した。
【0119】
さらに、実施例7〜10及び試験例1では、負極20の容量と正極10の容量との容量バランス{負極容量(mAh)/正極容量(mAh)}が1.95になるように各容量を設定し、その他の条件や手順については上記の実施例1と同様として、
図1に示すようなコイン型の非水電解質二次電池を作製した。
【0120】
そして、上記手順で得られた実施例7〜10及び試験例1の非水電解質二次電池に対して、以下に説明するような高温高湿保存試験(HHTS)を行うことにより、高温高湿環境下での保存特性を評価した。
具体的には、まず、得られた非水電解質二次電池を、25℃の環境下、30kΩの抵抗を電流制限用抵抗として用い、電圧1.0Vになるまで放電し、次いで、25℃の環境下、330Ωの定抵抗を用いて、電圧2.3Vで72時間印加した。
その後、25℃の環境下、30kΩの抵抗を電流制限用抵抗として用い、電圧1.0Vになるまで放電した際の容量を測定し、この値を初期容量(mAh)として下記表3中に示した。
【0121】
次に、上記の非水電解質二次電池を、高湿恒温試験機を用いて、80℃・90%RHの高温高湿環境に曝しながら30日間放置した(HHTS)。
そして、上記条件の高温高湿環境に曝された非水電解質二次電池について、25℃の環境下、30kΩの抵抗を電流制限用抵抗として用い、電圧1.0Vになるまで放電した際の容量を測定し、この値を試験後(30日保存後)容量(mAh)として下記表3中に示した。
本実施例における高温高湿保存試験では、特に、初期容量に対する試験後容量の変化(減少状態)をもって高温環境下における電池の保存特性の指標とした。
【0122】
【表3】
【0123】
[実施例11〜14、試験例2]
実施例11〜14及び試験例2においては、負極20に用いる負極活物質としてリチウム(Li)とSiO
X(0≦X<2)とを含むものを用い、且つ、これらのモル比(Li/SiO
X)を下記表4に示す比とした。また、実施例11〜14及び試験例2では、正極に用いられる正極活物質について、上記のチタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)に代えてリチウムマンガン酸化物(Li
4Mn
5O
12)を用いた。
【0124】
さらに、実施例11〜14及び試験例2では、負極20の容量と正極10の容量との容量バランス{負極容量(mAh)/正極容量(mAh)}が2.03になるように各容量を設定し、その他の条件や手順については上記の実施例7等と同様として、
図1に示すようなコイン型の非水電解質二次電池を作製した。
【0125】
そして、上記手順で得られた実施例11〜14及び試験例2の非水電解質二次電池に対して、以下に説明するような高温保存試験を行うことにより、高温環境下での容量維持率を評価した。
具体的には、まず、得られた非水電解質二次電池を、25℃の環境下、47kΩの抵抗を電流制限用抵抗として用い、2.0Vになるまで定電流放電し、次いで、25℃の環境下、330Ωの定抵抗を用いて、電圧3.1Vで72時間、印加した。
その後、25℃の環境下、47kΩの抵抗を電流制限用抵抗として用いて2.0になるまで放電した際の容量を測定し、この値を初期容量(mAh)として下記表4中に示した。
【0126】
次に、上記の非水電解質二次電池を、高温試験機を用いて、85℃の高温環境に曝しながら60日間放置した。
そして、上記条件の高温環境に曝された非水電解質二次電池について、25℃の環境下、47kΩの抵抗を電流制限用抵抗として用い、2.0Vになるまで定電流放電した際の容量を測定し、この値を試験後(60日後)容量(mAh)として下記表4中に示すとともに、容量維持率についても下記表4中に示した。
本実施例における高温保存試験では、初期容量に対する試験後容量の変化(減少状態)をもって、高温環境下における容量維持率の指標とした。
【0127】
【表4】
【0128】
[評価結果]
表1に示すように、正極缶12の開口部12aにおけるかしめ先端部12bを負極缶22の先端部22aよりも内側方向に配置し、さらに、非水電解質二次電池1のサイズ、正極缶12の側面部12dの曲率半径R、非水電解質二次電池1と正極缶12とのサイズの関係の各々が、本発明(請求項1)で規定する範囲とされた実施例1〜4の非水電解質二次電池は、30日間にわたる高温高湿試験後の容量維持率が、74.7〜88.0%と、比較例1(59.8%)に比べて高く、高温高湿環境下における容量維持率に優れていることがわかる。また、実施例1〜4の非水電解質二次電池は、高温高湿試験後の内部抵抗(Ω)が、25.8〜32.9Ωと、比較例1(39.1Ω)に比べて小さく、電池特性に優れていることがわかる。また、
図3の模式断面図に示すように、実施例1の非水電解質二次電池は、高温高湿試験後も内部に隙間等が生じることなく、良好な封止性を維持していた。
この結果より、実施例1〜4の非水電解質二次電池は、内部の電解質が外部に向けて揮発することがなく、且つ、大気中の水分が内部に侵入することがなく、良好な封止性及び電池特性を有していることが明らかである。
【0129】
また、表2に示すように、正極缶12の開口部12aにおけるかしめ先端部12bを負極缶22の先端部22aよりも内側方向に配置し、非水電解質二次電池1のサイズ、非水電解質二次電池1と正極缶12とのサイズの関係を上記実施例4と同様とし、正極缶12の側面部12dの曲率半径Rを、本発明(請求項1)で規定する範囲で変化させた実施例5、6の非水電解質二次電池においては、高温高湿試験後の内部抵抗(Ω)が、32.18〜33.42Ωと、比較例2(34.64Ω)に比べて小さく、良好な封止性及び電池特性を有していることが明らかである。また、
図5の模式断面図に示すように、正極缶12の側面部12dの曲率半径Rが0.8mmとされた実施例5の非水電解質二次電池では、高温高湿試験後も内部に大きな隙間等が生じることなく、比較的良好な封止性を維持していた。また、
図5の模式断面図に示すように、正極缶12の側面部12dの曲率半径Rが1.0mmとされた実施例4の非水電解質二次電池は、実施例5の場合と同様、高温高湿試験後も内部に隙間等が生じることなく、非常に良好な封止性を維持していた。
【0130】
一方、表1に示す比較例1は、30日間にわたる高温高湿試験後の容量維持率が59.8%であり、実施例1〜4に比べて低くなっている。また、
図4の模式断面図に示すように、比較例1の非水電解質二次電池は、高温高湿試験後、正極缶とガスケットとの間に隙間が生じており、封止性が低下していることがわかる。
この結果より、比較例1は、本発明(請求項1)で規定する条件のうち、正極缶12の高さh2の非水電解質二次電池1の高さh1に対する比率(h2/h1)が規定範囲外となっていることから、正極缶とガスケットとの間(あるいは、負極缶とガスケットとの間)に隙間等が生じ、電解液が外部に揮発するか、又は、大気中の水分が内部に侵入して、放電容量が低下したことが明らかである。
【0131】
また、表2に示す比較例2においては、高温高湿試験後の内部抵抗(Ω)が34.64Ωと、実施例4〜6に比べて増大している。比較例2の非水電解質二次電池は、
図5の模式断面図に示すように、実施例4、5の場合と同様、高温高湿試験後、特に内部における隙間等は生じていなかったが、比較例2では、正極缶の側面部の曲率半径R(mm)が、本発明(請求項1)で規定する範囲を超えていることから、正極缶の高さh2に変動が生じやすくなり、内部抵抗の増加につながったものと考えられる。
【0132】
また、表3及び表4に示すように、正極缶12と負極缶22との間の封止条件を本発明(請求項1)で規定する範囲としたうえで、さらに、負極20に用いる負極活物質としてリチウム(Li)とSiO
X(0≦X<2)とを含むものを用い、これらのモル比(Li/SiO
X)を適正範囲(3.9〜4.9)に制限した実施例7〜14においては、高温高湿保存試験後の容量維持率が76.8〜94.4%、高温保存試験後の容量維持率が84.5〜87.3%と、それぞれ、Li量が少なめの試験例1又は試験例2に比べて高くなっており、高温高湿環境下及び高温環境下における容量維持率に優れていることがわかる。
【0133】
ここで、表3に示すように、例えば、正極10における正極活物質としてチタン酸リチウムを用いた場合には、負極活物質中におけるLiとSiO
Xのモル比(Li/SiO
X)を4.0〜4.7の範囲とすることで、高温高湿環境下においても優れた容量維持率が得られることがわかる。
また、表4に示すように、正極10における正極活物質としてリチウムマンガン酸化物を用いた場合には、負極活物質中におけるLiとSiO
Xのモル比(Li/SiO
X)が、上記のような3.9〜4.9の範囲であれば、高温環境下においても優れた容量維持率が得られることがわかる。
【0134】
以上説明した実施例の結果より、本発明で規定する条件で非水電解質二次電池を構成することにより、電池の封止性を向上させることができ、高温環境下において、電解液の揮発や、大気中に含まれる水分の内部への侵入が生じるのを効果的に防止することが可能となることから、電池特性が劣化せず、放電容量が高く、且つ、優れた保存特性が得られることが明らかである。