特許第6372849号(P6372849)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6372849多孔質機能材料の製造方法および多孔質機能材料を用いた環境汚染物質除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372849
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】多孔質機能材料の製造方法および多孔質機能材料を用いた環境汚染物質除去方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/12 20060101AFI20180806BHJP
   B01J 20/32 20060101ALI20180806BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20180806BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   B01J20/12 A
   B01J20/32 Z
   C02F1/28 E
   A61L9/01 B
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-73294(P2014-73294)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-192977(P2015-192977A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】502374290
【氏名又は名称】株式会社 日本リモナイト
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】若杉 玲子
(72)【発明者】
【氏名】樫山 由貴
(72)【発明者】
【氏名】蔵本 厚一
【審査官】 松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−106835(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0021139(US,A1)
【文献】 特開2005−087833(JP,A)
【文献】 特開2013−255903(JP,A)
【文献】 特開2005−161116(JP,A)
【文献】 Environmental Technology,2010年 5月,Vol.31,No.6,p.601-609
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質担体にリモナイト溶液を接触させる接触工程と、当該接触工程後の多孔質担体を乾燥させる乾燥工程とを有し、
前記リモナイト溶液が、リモナイト系湧水であることを特徴とする、多孔質担体にリモナイト成分を担持させた多孔質機能材料の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程の後に、さらに乾燥されたリモナイト成分を担持させた多孔質担体を焼成する焼成工程を有する請求項1記載の多孔質機能材料の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程の乾燥温度が、50℃以上である請求項1または2記載の多孔質機能材料の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質担体が、アルミナ、シリカアルミナ、シリカチタニア、ゼオライト、酸化タングステン、酸化ニオブ、窒化炭素、多孔質ガラス、多孔質シリカ、多孔質チタニア、多孔質セラミックス、ジルコニア、多孔性コンクリート、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノチューブおよびカーボンナノファイバーからなる群より選択される少なくとも1以上の多孔質担体である請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質機能材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により製造される多孔質機能材料を用いて、環境汚染物質を除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リモナイト成分、特にその鉄およびマンガンの酸化物を担持させた多孔質機能材料およびその製造方法に関する。また、その多孔質機能材料を用いて、環境汚染物質を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚染された水や土壌、大気等の浄化に関する技術は広く開発され、生物化学的処理技術や、活性炭に代表されるような吸着処理技術、イオン交換樹脂等を用いたイオン交換法、次亜塩素酸ナトリウムや過酸化水素、オゾン、亜硫酸ナトリウム等の酸化剤や還元剤を用いた酸化・還元処理法など数多くの技術が実用化されている。
【0003】
地下水等は、鉄イオンにより汚染されている場合があり、これらの鉄イオンを除去することが求められる場合がある。このような鉄イオンを除去する方法として、特許文献1には、除鉄濾材の表面付近に、酸素を十分に供給する噴流発生装置を用いた水中の除鉄方法が開示されている。また、特許文献2は、赤水発生を防止するために酸素供給源工程を設けることを特徴としたものである。
【0004】
一方、沼地や浅い海など鉄分を多く含む水に沈殿作用が起き、その結果生まれる褐鉄鉱は、リモナイトともよばれ、代表的には阿蘇の狩尾地区一帯などで産出されており、土壌改良剤や脱硫剤、脱臭剤、リン吸着剤、畜産用飼料等として、活用されている物質である。このリモナイトの機能を利用した消臭剤として、例えば特許文献3には、無機多孔質粉体と、リモナイトなどの三価の鉄イオンとの化合物の紛体とを混合した消臭剤が開示されている。しかし、採掘されたリモナイトは採掘直後には脱臭作用が少なく、通常2〜3年間程度野晒しすることにより所望の脱臭作用を示すことが知られている。リモナイトは鉄を主要な成分として含んでいるが、採掘直後は酸欠状態のために酸化第一鉄の状態として存在していると考えられている。採掘直後の状態では、脱臭作用等の効果が比較的低くなっている。これを野晒しすることによって、酸化第一鉄を酸化させることで酸化第二鉄等を含むリモナイトとなり、脱臭作用を示すようになることが知られている。このリモナイトに関して、例えば、特許文献4には、リモナイトの製造方法や評価方法に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−8969号公報
【特許文献2】特開2007−260612号公報
【特許文献3】特開2010−131556号公報
【特許文献4】特開2006−225234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に開示の技術は、水中の鉄イオンを環境汚染物質としてのみとらえるものであり、その除去を行う方法としてのみ検討されているもののため、当該除去後の鉄イオン等の利用を提案するものではなかった。また、特許文献4にも開示されているように酸化鉄等を有効成分として含有するリモナイトは、その製造にかかる時間が長く、自然堆積物を数年間熟成して使用されているが、効率よくリモナイトの機能を果たす物質を得る方法が求められている。特許文献3に開示の技術は熟成等の方法で得られた従来のリモナイト等を多孔質担体と組み合わせて用いるものであるが、単に粉体として混合して使用するものであり、従来の粉体として得られているものを混合しているだけのものであり、それらの機能を十分に活用しているものではなかった。本発明は、これらの公知技術の課題を解決するために検討されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、リモナイトを効率よく利用する方法を検討するにあたり、リモナイトが産出される周辺の湧水がリモナイトと類似する成分比率を有していることに着目した。しかしながら、この湧水からリモナイトを製造するには、堆積したリモナイトの基となる土壌から得るよりもより長時間を有することとなる。これを解決する方法として、リモナイト様の成分を、多孔質表面に担持させることを検討した。すなわち、上記課題を解決すべく上述したような鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 多孔質担体にリモナイト溶液を接触させる接触工程と、当該接触工程後の多孔質担体を乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴とする、多孔質担体にリモナイト成分を担持させた多孔質機能材料の製造方法。
<2> 前記乾燥工程の後に、さらに乾燥されたリモナイト成分を担持させた多孔質担体を焼成する焼成工程を有する前記<1>記載の多孔質機能材料の製造方法。
<3> 前前記乾燥工程の乾燥温度が、50℃以上である前記<1>または<2>記載の多孔質機能材料の製造方法。
<4> 前記多孔質担体が、アルミナ、シリカアルミナ、シリカチタニア、ゼオライト、酸化タングステン、酸化ニオブ、窒化炭素、多孔質ガラス、多孔質シリカ、多孔質チタニア、多孔質セラミックス、ジルコニア、多孔性コンクリート、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノチューブおよびカーボンナノファイバーからなる群より選択される少なくとも1以上の多孔質担体である前記<1>〜<3>のいずれかに記載の多孔質機能材料の製造方法。
<5> 前記リモナイト溶液が、リモナイト系湧水である前記<1>〜<4>のいずれかに記載の多孔質機能材料の製造方法。
<6> 前記<1>〜<5>記載の多孔質機能材料の製造方法により得られてなる多孔質機能材料。
<7> 前記<6>記載の多孔質機能材料を用いて、環境汚染物質を除去する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境汚染物質等の除去に適した酸化金属を担持させた多孔質機能材料を提供することができる。さらには、この製法は、優れた環境浄化作用等を有することが知られているリモナイト様の多孔質機能材料を効率よく製造する方法としても資する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の多孔質機能材料を評価するためのリン含有液循環式フローの装置構成を示す模式図である。
図2】本発明の多孔質機能材料を評価するための他のリン含有液循環式フローの装置構成を示す模式図である。
図3】本発明の多孔質機能材料のリン成分除去機能を評価した試験結果を示す図である。
図4】本発明の多孔質機能材料のリン成分除去機能を評価した他の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
【0012】
本発明は、リモナイト溶液に多孔質担体を接触させる接触工程と、当該接触工程後の多孔質担体を乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴とする、多孔質担体にリモナイト成分を担持させた多孔質機能材料の製造方法である。また、この製造方法により得られる多孔質機能材料である。この多孔質機能材料は、硫化水素の除去や、水中のリン成分の除去、塩素の除去等の、環境汚染物質等の除去に適している。
【0013】
[リモナイト溶液]
本願発明は、リモナイト溶液を用いて多孔質機能材料を製造する方法に関する。このリモナイト溶液は、リモナイト由来の鉄成分やマンガン成分等の金属成分等を含有するものであり、本願発明においてはこれらの成分のうち多孔質担体に析出担持される成分をリモナイト成分と称する。なお、本願においてリモナイト溶液とは、その金属である鉄、マンガン等の態様は必ずしも完全にイオン化や水和物化等として溶解している含有液である必要はなく、単に分散しているいわゆる懸濁液も含む概念として溶液と呼ぶ。また、特に溶液中においては、リモナイトの金属成分である鉄およびマンガンのイオン、酸化金属(酸化物)等の状態を明確に区別することは困難、あるいは適切ではない場合があることから、これらのイオンや酸化物等の態様を含む概念として、本願においては、単に、鉄成分、マンガン成分と呼ぶ。
【0014】
本願のリモナイト溶液は、リモナイトが得られる環境の湧水や、リモナイトを溶解等させることで得られる溶液のように、リモナイト成分を含有する溶液である。リモナイト(褐鉄鉱)は、針鉄鉱(ゲーサイト、α−FeOOH)、または鱗鉄鉱(レピドクロサイト、γ−FeOOH)の一方または両者の集合体であり、暗褐色または黒色の団塊、土状のものとして産出される。これらのリモナイトは、鉄鉱石や顔料として古くから利用されてきたが、硫化水素と反応する性質を利用して、ペットの体臭や糞尿臭を低減させるための飼料への添加剤や、下水、排ガス等に含まれる硫化水素の除去剤(脱硫剤)としても利用されている。このリモナイトを、水に溶解(懸濁)させた含有液を、本願発明のリモナイト溶液として利用することもできる。このとき、リモナイトは、採掘後長期間空気にさらす作業である、いわゆる熟成されたものでもよいし、熟成前のものを用いてもよい。特に、熟成前のものは、そのままでは十分な環境汚染物質除去作用等を示しにくいことが知られていたが、本願によることで、このような未熟成のリモナイトからも、触媒活性や吸着機能を奏することで、効率よく環境浄化機能を示すリモナイト様成分を有する多孔質機能材料とすることができる点にも利点を有する。
【0015】
また、本願においては、リモナイトが採掘される周辺の湧水(リモナイト系湧水)をリモナイト溶液として利用することができる。このような湧水は、例えば、日本国内の場合、阿蘇の狩尾地区一帯などで得られる。この湧水は、長期間かけその成分を析出させればリモナイトを得ることもできるが、単に析出等を行おうとすると、水分の除去、濃縮、熟成等の作業が必要となるため効率がよくない。本願発明のように、多孔質担体に接触させ、乾燥することで多孔質担体にその成分を析出担持させることで非常に効率よくリモナイト様の機能を有する多孔質機能材料を得ることができる。
【0016】
本願に用いるリモナイト溶液中の鉄成分やマンガン成分等の金属成分等は、酸素と接することで酸化物となる。これらの鉄成分およびマンガン成分等は、酸化されることで環境汚染物質の除去等の機能を示す。これらの鉄成分、マンガン成分等を酸化させる方法の一つとして、本願発明においては多孔質担体を利用する。この多孔質担体にリモナイト溶液を接触させ、乾燥することで多孔質担体の表面に酸化鉄および酸化マンガン等が担持された多孔質機能材料を得る。この酸化のために、多孔質担体とリモナイト溶液が接触する場に、適宜エアレーション等を行うことで、酸化に必要な酸素を供給することで酸化反応を促進させることができる。
【0017】
本願においては、多孔質担体表面にリモナイト成分を担持させていることを特徴とする。このリモナイト成分は多孔質担体にリモナイトの微粒子のような態様で担持されると考えられる。この多孔質担体の表面にリモナイト成分を担持させる製法は、リモナイトを熟成させるよりもはるかに効率的な製造方法である。また、多孔質担体を用いることで、得られる多孔質機能材料の表面積を広げることができるという特徴がある。また、得られるリモナイト様の機能を有する多孔質機能材料は、長期間、自然環境で暴露する等の熟成を経ないため、不純物が混入しにくい。
【0018】
「多孔質担体」
本発明においては、前記リモナイト溶液を多孔質担体に接触させ、乾燥させる。この多孔質担体とは、孔が材料全体に分布している多くの孔を有する物質である。多孔質担体は、ミクロ孔、メソ孔、マクロ孔いずれの孔であっても使用することができる。この多孔質担体の孔は、その多孔質担体を用いて得られる多孔質機能材料の用途等に応じて適宜選択して使用することができる。例えば、液体中で用いられる多孔質機能材料の場合は、溶質(反応物質)の細孔内拡散速度を高めること、すなわち反応速度を高めるため、大きめのマクロ孔が分布しているものがよい。一方で、気体の処理に用いられる多孔質機能材料の場合は、反応物質の拡散速度が極めて大きいため、小さめの細孔(ミクロ孔やメソ孔)が分布しているものが好ましい。このような孔にも酸化鉄や酸化マンガン等の金属酸化物が析出担持される。
【0019】
多孔質担体は、アルミナ、シリカアルミナ、シリカチタニア、ゼオライト、酸化タングステン、酸化ニオブ、窒化炭素、多孔質ガラス、多孔質シリカ、多孔質チタニア、多孔質セラミックス、ジルコニア、多孔性コンクリート、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノチューブおよびカーボンナノファイバー等を例示することができ、さらに、これらの担体を構成する主成分に他の元素を付加した無機化合物も利用できる。すなわち、これらの無機化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種以上の担体を使用することができる。このような無機系の多孔質担体は、本発明の機能材料を製造するにあたり行う水溶液との接触、乾燥による変形が少ないという利点がある。一方、本発明の多孔質担体は、焼成工程を行うことが好ましい観点から、耐熱性を有する無機系の多孔質担体を用いることが好ましい。
【0020】
本発明の多孔質担体としては、ゼオライトや、活性炭、多孔質ガラス等を特に好適に使用することができる。ゼオライトは、アルミノケイ酸塩のなかで結晶構造中に比較的大きな空隙を持つものの総称であり、沸石ともよばれる。活性炭は、多孔質の炭素を主な成分とする物質であり、マツなどの木、竹、ヤシ殻、クルミ殻などの植物質のもののほか、石炭質、石油質などの原材料としたものでもよい。また、獣骨や血液といった動物性の原料を用いたものも使用できる。多孔質ガラスは、バイコール(耐熱ガラスの一種)製造の中間プロセスで得られるガラスや、廃ガラスを粉砕、焼成発泡させることで得られる多孔質軽量発泡資材である発泡ガラス等のガラスを主たる成分とする多孔質担体である。
【0021】
本発明に用いる多孔質担体は、その粒径等の担体自体の大きさは任意であるが、取り扱い性や乾燥しやすさ等を考えると、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、0.5mm以上であることが特に好ましい。また、その上限に特に定めはなく、多孔質機能材料として利用する環境に併せた形状として、ブロック状等の形状としてもよい。
【0022】
本発明の多孔質担体は、耐熱性を有するものであることが好ましい。本発明の多孔質担体には、酸化金属を担持させて多孔質機能材料とする。この酸化金属を担持させる工程において、好ましくは、後述するような焼成の工程を設けることが好ましく、この焼成を行うことでより反応活性が高く、環境汚染物質の除去等の触媒反応や吸着の場における安定性に優れた多孔質機能材料とすることができるからである。このような耐熱性を有する多孔質担体として、具体的には発泡ガラスやゼオライト等が適している。
【0023】
「多孔質機能材料の製造工程」
本発明は、リモナイト溶液に多孔質担体を接触させる接触工程を有する多孔質機能材料の製造方法である。このリモナイト溶液に多孔質担体を接触させる工程は、多孔質担体にリモナイト溶液中の鉄成分、マンガン成分が接触することで、その表面に必要な酸化金属が担持される程度に接触するものであればよい。このような工程としては、含有液中に多孔質担体を浸漬させる浸漬法や、多孔質担体の充填層に連続的に含有液を掛け流すような流動型の接触法(流動層カラムを用いる等)等が挙げられる。これらが、接触する時間は、任意でよいが、例えば1時間以上とすることができ、好ましくは、1日以上の浸漬を行うことが好ましい。接触時間が短い場合、十分にリモナイト中の成分が担持されない場合がある。実用的には30日以下の接触が好ましく、10日以下の接触がより好ましい。接触時間が長すぎる場合、製造効率が低下するおそれがあり、また、多孔質担体の孔が析出した成分により目詰まりし、反応性が低下する場合がある。また、その接触時の温度等の条件も適宜設定することができるが、例えば、リモナイト系の湧水をそのまま使用することもできるため5℃〜50℃程度の一般的な自然環境下における温度で接触させてよい。
【0024】
本発明の多孔質機能材料の製造方法は、前記接触工程によってリモナイト溶液に接触させた多孔質担体を乾燥する乾燥工程を有する。この乾燥を行うことで、多孔質担体表面に酸化鉄、酸化マンガンを担持させる。本発明における、乾燥は、乾燥温度50℃以上で行うことが好ましく、80℃以上がより好ましく、その多孔質担体により適宜設定されるが、さらに好ましくは100℃以上で乾燥することができる。また、その上限は特に定めはないが、一般的に200℃以下程度であり、好ましくは150℃以下である。その乾燥時間は、多孔質担体の種類や乾燥温度にもよるが、基本的には含有水分量を蒸発除去するのに必要な時間を設定すればよく、通常は1〜2時間程度で実施すればよい。多孔質担体が空気を含みやすいことにくわえ、この乾燥においても積極的に酸素と接触させることで、多孔質担体に担持された金属成分が酸化されることが好ましい。このため、熱風オーブン等の通気性に優れた乾燥を行うことも好ましい。
【0025】
本発明の多孔質機能材料は、接触工程、乾燥工程に加えて、さらに、乾燥工程後の焼成工程を有することが好ましい。このような焼成工程を設けることで、一部前述したように、反応活性の向上や、金属酸化物の単離防止、機能材料としての安定性向上といった効果を得ることができる。これは、焼成を行うことで金属酸化物の結晶成長が促進することや、不純物が除去され一部溶融することで結着するなどの効果と考えられる。焼成は、多孔質担体および担持させた金属酸化物量等に応じて適宜選択されるが、例えば焼成温度200℃以上600℃以下で、30分間〜50時間程度、焼成することができる。この焼成温度は、機能性の向上と製造効率の観点から、300℃以上が好ましく、350℃以上がより好ましい。また、使用される多孔質担体の耐熱性の観点から、その上限は一般的に600℃以下であり、500℃以下が好ましい。また、焼成時間は、0.5時間以上30時間以下が好ましく、1時間以上10時間以下がより好ましい。
【0026】
前述の接触、乾燥を経て得られた多孔質機能材料は、具体的な使用環境に応じてさらに加工されてもよい。例えば、比較的大きい多孔質担体を用いて多孔質機能材料を製造した場合、その使用方法に併せた形状に粉砕して使用しても良い。
【0027】
このようにして得られる本発明の多孔質機能材料は、リモナイト溶液由来の成分が酸化することによって得られる酸化鉄や酸化マンガン等による優れた環境浄化活性を示す。本発明の多孔質機能材料は、より具体的には、水中や土壌中の硫化水素の除去剤として使用することができ、また、水中の塩素濃度の低減、リン除去、有機物質分解(BOD、COD低減)等の水中や土壌の環境汚染物質除去材として利用することができる。また、気体中の硫化水素の除去等による脱臭用途、浄化用等に使用することができる。また、これらの環境汚染物質除去材(環境浄化材)としての機能により、藻の発生を抑制したり、赤潮等の発生防止に利用することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
「サンプルの作成」
以下の方法で、本発明の多孔質機能材料等の作成をおこなった。
【0030】
[原料]
1.担体(多孔質担体)
(1a)活性炭“ヤシガラ”(ナカライテスク社製、ヤシ殻炭 4−10mesh)
(1b)発泡ガラス“スーパーソル「L1」”((株)荒木セメント工業社製、絶乾比重0.3〜0.6、吸水率30%以上)
(1c)発泡ガラス“スーパーソル「L4」”((株)トリム社製、絶乾比重1.0〜1.6、吸水率5%以上)
(1d)発泡ガラス“ポーラスα「P−310」”((株)ジーライト社製、粒径3〜10mm)
【0031】
なお、前記担体のうち、担体(1b)、担体(1c)のみかけ密度の測定結果を表1に記す。
【0032】
【表1】
【0033】
2.溶液
(2a)リモナイト溶液(リモナイト系湧水)
阿蘇狩野地区のリモナイト産出土壌の近辺で得られる湧水(日本リモナイト本社工場敷地内)をリモナイト系湧水として使用した。なお、試験をおこなった平成25年7月の当該リモナイト系湧水のリン濃度(PO43-)は、1.85mg/Lであり、全鉄濃度は11mg/Lであった。
(2b)硫酸鉄溶液
硫酸鉄(II)七水和物(FeSO4・7H2O、和光純薬工業社製)9.50gを100mLの水に溶かして、硫酸鉄溶液を調製した。
(2c)水酸化ナトリウム水溶液
NaOH(水酸化ナトリウム、キシダ化学社製、特級)2.736gを30mLの水に溶かして、水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
【0034】
[調製]
多孔質機能材料は、以下の接触工程、乾燥工程を組み合わせて調製した。適宜、さらに焼成工程をおこなった。
【0035】
3.多孔質機能材料の調製
3.1 接触工程
(接触法A)湧水かけ流し浸漬
1)リモナイト系湧水が湧出する場所で、リモナイト系湧水をかけ流す方式で行った。20L容量のバケツを反応槽とし,メッシュ生地の袋に多孔質担体を所定量分散して反応槽内に設置した。シャワーを用いて空気と接触させながらリモナイト湧水を反応槽に滴下し下部より濾し出す流通式で接触処理させた。
【0036】
(接触方法B)浸漬方式
リモナイト系湧水を容器に貯め、多孔質担体を20時間浸漬させた。
【0037】
(接触方法C)浸漬方式(水酸化鉄成分の担持)
多孔質担体30mLを硫酸鉄溶液(2b)30mLに5時間浸漬させた(鉄担持処理)。その後、上澄みを除去して得られた多孔質担体に、水酸化ナトリウム溶液(2c)30mLを加え、さらに17時間浸漬させた(水酸化鉄化処理)。この後、上澄みを除去することで浸漬処理した。
【0038】
3.2 乾燥工程
定温乾燥器 DX602(ヤマト科学社製)を用いて、乾燥を行った。具体的な乾燥温度、時間については、サンプル毎に後述する。
【0039】
3.3 焼成工程
電気マッフル炉 KM−160(ADVANTEC社製)を用いて、焼成を行った。具体的な乾燥温度、時間については、サンプル毎に後述する。なお、担体として活性炭を用いて製造する機能材料の焼成にあたっては、焼成を行うるつぼに担体を投入した後、蓋をして空気との接触をできるだけ避けるように焼成をおこなった。他の担体を用いた機能材料の焼成にあたっては、るつぼの蓋は開けた状態で焼成した。
【0040】
「評価項目」
本発明にかかる、多孔質機能材料等の性能を以下の方法で評価した。
【0041】
「多孔質機能材料中の金属成分担持量」
多孔質機能材料中に担持された鉄およびマンガンといった金属成分の担持量を測定するために、以下の試験を行った。乳鉢により粉末状に調製した各試料約0.1g(試料毎に秤量)に、20mLの塩酸(6規定)を加え、混合した。その後、濾紙(ADVANTEC社製、No.5,φ110mm)を用いて、濾過した。濾液にさらに90mLの塩酸(6規定)を加え、全量を110mLとして、金属成分の濃度測定液とした。
金属成分の濃度の測定は、原子吸光光度計(日本ジャーレルアッシュ(株)製、“AA−890”)を用いて、標準試験液を用いた検量線法にて測定した。なお、金属成分の濃度測定液中の濃度が高く、検出上限を超える場合、適宜、蒸留水にて100倍希釈、あるいは1000倍希釈して測定を行った。この測定液中の金属濃度から、多孔質機能材料の金属成分担持量を求めた。また、多孔質機能材料以外の担体等についても、この方法に準じてその金属成分量を求めた。
【0042】
[リン除去効果]
(試験方法)
(リン含有液の循環式フロー実験1)
Na2HPO4・12H2O(りん酸水素二ナトリウム・12水、和光純薬工業社製試薬特級)0.347gを3Lの水に溶かして、PO43-の濃度が30mg/Lのリン含有液を調製した。多孔質機能材料(粒径5mm〜1cm程度)30mLをガラスカラムに充填し、前述のリン含有液150mLをダウンフローで通液させ(流速SV=5h-1)循環させた。所定の通液時間ごとに、サンプリングし後述する方法でリン濃度を測定することで、リン除去効果を評価した。なお、通液中は、貯留槽の液は濃度を均一にするためにスターラーを用いて撹拌した。
この循環式フロー実験1は、比較的粒径が小さい多孔質機能材料の評価を行うときの条件とした。循環式フロー実験1の装置の模式図を図1に記す。
【0043】
(リン含有液の循環式フロー実験2)
Na2HPO40.347gを3Lの水に溶かして、PO43-の濃度が約30mg/Lのリン含有液を調製した。多孔質機能材料(粒径約5cm)をビーカーに2〜3個加え、前述のリン含有液250mLをダウンフローで通液させ(流速SV=5h-1)循環させた。所定の通液時間ごとに、サンプリングし後述する方法でリン濃度を測定することで、リン除去効果を評価した。循環式フロー実験2の装置の模式図を図2に記す。
【0044】
(分析方法)
(リン濃度の分析方法)
試験液1mLをホールピペットで採取し、蒸留水で希釈し20mLとした(20倍希釈)。この希釈した液10mLをセルに測りとり、HACH社製のリン酸濃度測定試薬“Phos Ver3”を用いてアスコルビン酸法の反応をさせ測定液とした。この反応中の測定液を用いて、吸光光度計(HACH社製“DR2400”)を用いて吸光光度分析法により、試験液のリン酸濃度を求めた。
【0045】
[塩素除去効果]
(試験方法)
(塩素含有液の循環式フロー試験1)
NaClO(次亜塩素酸ナトリウム溶液 和光純薬工業社製試薬、有効塩素(Cl):5.0%) 1mLを1Lの蒸留水に溶かした溶液(残留塩素濃度87mg/L:調製時の実測値)50mLをビーカーに採取し、次に、測定対象とする多孔質機能材料(粒径約5cm)をビーカー内に加えた。ローラーポンプを用いて、ビーカー内の液を循環処理した。この循環時の平均流量は910mL/hとした。なお、循環させるとき、ビーカーの下部から吸い上げビーカーの上部から吐出することで出口の溶液が基材に接触するような構成とした。
【0046】
(残留塩素濃度の分析)
一定時間循環させた後に溶液の残留塩素濃度を残留塩素分析計(TANITA EW―510)を用いて測定した。この分析計の、測定範囲は0.00〜2.00mg/Lのため、上限を超えた場合は、適宜10倍もしくは100倍に、蒸留水で希釈して測定した。
【0047】
[実施例1〜7、比較例1〜3、参考例1〜2]
表2に作成した多孔質機能材料に関する、前述の多孔質担体とリモナイト溶液との組み合わせ、およびその製造方法等について記載する。実施例にかかる機能材料のように、本発明によればリモナイト様の多孔質機能材料を短時間で効率よく製造することができる。これは、従来のリモナイトを製造する工程である熟成等の長期間を要する作業の必要性がなくなるため、非常に効率的である。
【0048】
【表2】
【0049】
[多孔質機能材料に担持される金属成分量]
前述の実施例等により得られた代表的な多孔質機能材料等に担持される金属成分を測定した結果を表3に示す。本発明の多孔質機能材料の製造方法により、各多孔質担体である、担体(1b)や、担体(1c)に、鉄成分やマンガン成分が担持されていることを確認することができた。
【0050】
【表3】
【0051】
[多孔質機能材料の機能評価]
表2に記す多孔質機能材料を用いて、水中のリン除去効果、塩素除去効果を評価した。
【0052】
[評価例1(リン除去効果)]
機能材料(A1)、機能材料(A2)、活性炭(1)、発泡ガラス(1)、リモナイト(1)、機能材料(α1)を用いて、前述の「リン含有液の循環式フロー実験1」を行い、リン濃度の経時変化を評価した。結果を図3に示す。
図3に示すように、本発明の実施例にかかる機能材料は、比較例、参考例のサンプルと比し、優れたリン除去効果を示した。
【0053】
[評価例2(リン除去効果)]
機能材料(B1)、機能材料(B2)、機能材料(B3)、機能材料(C1)を用いて、前述の「リン含有液の循環式フロー実験2」を行い、リン濃度の経時変化を評価した。結果を図4に示す。
【0054】
[評価例3(塩素除去効果)]
機能材料(B4)、発泡ガラス(2)を用いて、前述の「塩素含有液の循環式フロー試験」を行い、塩素濃度の経時変化を評価した。なお、この試験に用いた機能材料(B4)の質量は5.718g、発泡ガラス(2)は4.315gである。また、ブランクとして、これらの機能材料や基材を加えず、何の操作も加えない状態で定期的に残留塩素濃度の測定のみを行った。評価結果を、表4に示す。本発明の実施例7にかかる機能材料(B4)は、発泡ガラス単体よりも優れた塩素除去効果を示した。
【0055】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、リモナイト様多孔質機能材料を効率よく製造する方法に関し、また、得られる多孔質機能材料は、リモナイト相当、またはそれ以上の環境浄化機能を示すものであり、リンや塩素、硫化水素等の環境汚染物質の除去に用いることができる。
図1
図2
図3
図4