(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワイヤハーネスを挿通させるアウタクランプと、該ワイヤハーネスを保持した状態で該アウタクランプ内に回動自在に支持される略球状のインナクランプとを備える給電用ハーネスクランプにおいて、
前記アウタクランプの底壁の前端部と該インナクランプとの間で、該底壁にリブが立ち上げて設けられ、該リブは、該インナクランプの中心を通る該アウタクランプの軸心又は該軸心と平行な仮想線に対して斜め方向に配置され、該リブと該底壁の前端部とで該ワイヤハーネスが支持されることを特徴とする給電用ハーネスクランプ。
前記リブのハーネス支持面である上面と、前記インナクランプのハーネス保持用の孔部の下部内面とが、前記底壁から同じ高さないしほぼ同じ高さに配置されたことを特徴とする請求項1記載の給電用ハーネスクランプ。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車の車両ボディ(固定構造体)からスライドドア(スライド構造体)に給電用のワイヤハーネスを配索した際に、車両ボディ側においてワイヤハーネスを車両前後方向に揺動自在に支持させるために、種々の給電用ハーネスクランプが提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、
図5に示す如く、ワイヤハーネス60を挿通する合成樹脂製の略矩形筒状のアウタクランプ62と、ワイヤハーネス60に固定された状態で、アウタクランプ62内に回転自在に配置される合成樹脂製の略球状のインナクランプ63とで給電用ハーネスクランプ61を構成し、アウタクランプ62の前半のハーネス揺動案内部64の底壁から外側前方に、ワイヤハーネス60を揺動方向に摺接支持する延長壁部65を突出形成し、延長壁部65の先端部分65aをハーネス揺動案内部64の軸心に対して傾斜させて配置したことが記載されている。
【0004】
この給電用ハーネスクランプ61は車両ボディの乗降用ステップの下方ないし後方近傍に配置される。インナクランプ63は、ワイヤハーネス60の揺動に伴ってワイヤハーネス60と一体に周方向に回動して、ワイヤハーネス60の捩れを軽減させる。インナクランプ63は例えばほぼ180°の範囲で回動自在である。ワイヤハーネス60は、複数本の電線60aと、電線60aを収容するハーネス保護チューブとしての合成樹脂製のコルゲートチューブ60bとで構成される。
【0005】
上記特許文献1には、スライドドアに給電装置としての略半円状のハーネスプロテクタ(図示せず)を縦置きに配置し、ハーネスプロテクタは内側のハーネス収容空間内にワイヤハーネス60を上向きに支持付勢する板ばねを有し、ワイヤハーネス60の一方がハーネスプロテクタの前部ないし後部の開口からスライドドア側に配索され、ワイヤハーネス60の他方がスライドドアとの間の渡り空間を経て車両ボディ側の上記給電用ハーネスクランプ61に配索され、給電用ハーネスクランプ61のアウタクランプ62を貫通して車両ボディ内(電源側)に配索されることが記載されている。
【0006】
また、上記特許文献1には、上記給電装置として、上記ハーネスプロテクタに代えて、円形のケース内にワイヤハーネス60を巻きばねの力で螺旋状に巻き取って収容するもの等(図示せず)を用いることが可能であることや、ワイヤハーネス60の保護チューブとして網状チューブを用いること等が可能であることや、インナクランプ63を有さないアウタクランプのみの給電用ハーネスクランプ(図示せず)を従来用いていたことも記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の給電用ハーネスクランプ61にあっては、例えばスライドドアを全開にした際に、例えば乗車しようとする人が車両の外側からアウタクランプ62の延長壁部(底壁)65の前端部(先端部)65aを視認することができるために、意匠面である前端部65aが、揺動時のワイヤハーネス60との摺接により傷付きを起こした場合に、見栄えが低下するという懸念があった。
【0009】
また、アウタクランプ62の内側においてワイヤハーネス60がインナクランプ63から延長壁部(底壁)65の前端部65aにかけて垂れ下がりを生じ、ワイヤハーネス60の揺動時にワイヤハーネス60がインナクランプ63と共に周方向に回動した際に、ワイヤハーネス60が垂れ下がった状態から振り回されるように周方向に回動する(捩られる)ことで、ワイヤハーネス60に二軸方向(周方向すなわち捩れ方向と径方向すなわち曲げ方向)の負荷がかかり、ワイヤハーネス60の耐久性が低下し兼ねないという懸念があった。
【0010】
本発明は、上記した点に鑑み、ワイヤハーネスの揺動時の摺接に起因する底壁の前端部(意匠面)の傷付きによる見栄えの低下を抑制することができ、また、ワイヤハーネスの周方向の回動時に、アウタクランプ内でのワイヤハーネスの垂れ下がりに起因するワイヤハーネスにかかる負荷の増大を抑制することのできる給電用ハーネスクランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る給電用ハーネスクランプは、ワイヤハーネスを挿通させるアウタクランプと、該ワイヤハーネスを保持した状態で該アウタクランプ内に回動自在に支持される略球状のインナクランプとを備える給電用ハーネスクランプにおいて、前記アウタクランプの底壁の前端部と該インナクランプとの間で、該底壁にリブが立ち上げて設けられ、該リブは、該インナクランプの中心を通る該アウタクランプの軸心又は該軸心と平行な仮想線に対して斜め方向に配置され、該リブと該底壁の前端部とで該ワイヤハーネスが支持されることを特徴とする。
【0012】
上記構成により、ワイヤハーネスがリブと底壁の前端部との両方で支持されることで、ワイヤハーネスの自重による下向きの押し力(荷重)がリブと底壁の前端部とで分散される。これにより、インナクランプを中心にワイヤハーネスを揺動させた際に、底壁の前端部に摺接するワイヤハーネスの押し力が軽減されて、底壁の前端部への傷付きが抑止される。また、同様の理由により、底壁の前端部とリブとにワイヤハーネスが摺接することによるワイヤハーネスの傷付きも抑止される。
【0013】
また、リブが、インナクランプの中心を通るアウタクランプの軸心に対して斜め方向に底壁を横断するように配置されたことで、インナクランプを中心にワイヤハーネスが揺動しつつ、リブの長手方向に沿ってワイヤハーネスが摺動した際に、リブに対するワイヤハーネスの摺動位置がハーネス長手方向に順次ずれるから、ワイヤハーネスに集中的な傷付きを生じることがない。リブは底壁の前端部よりも後方(奥側)に配置されているので、たとえリブに傷が付いても外部から視認される心配はない。
【0014】
また、アウタクランプの底壁の前端部とインナクランプとの間で、底壁にリブが立ち上げて設けられたことで、アウタクランプ内においてワイヤハーネスがリブで底壁の前端部よりも高く支持され、その状態でインナクランプを中心にワイヤハーネスが揺動しつつ、ワイヤハーネスがインナクランプと共に周方向に回動した際に、アウタクランプ内でのワイヤハーネスの振り回しが抑制されて、ワイヤハーネスにかかる負荷が軽減される。
【0015】
請求項2に係る給電用ハーネスクランプは、請求項1記載の給電用ハーネスクランプにおいて、前記リブのハーネス支持面である上面と、前記インナクランプのハーネス保持用の孔部の下部内面とが、前記底壁から同じ高さないしほぼ同じ高さに配置されたことを特徴とする。
【0016】
上記構成により、アウタクランプ内のインナクランプとリブとの間でワイヤハーネスの下部外面が、インナクランプの孔部の下部内面及びリブの上面と同一平面上ないしほぼ同一平面上に位置する(すなわち水平ないしほぼ水平に位置する)。これにより、インナクランプを中心にワイヤハーネスが揺動しつつ、ワイヤハーネスがインナクランプと共に周方向に回動した際に、アウタクランプ内でのワイヤハーネスの振り回しが一層抑制されて、ワイヤハーネスにかかる負荷が一層軽減される。
【0017】
請求項3に係る給電用ハーネスクランプは、請求項1又は2記載の給電用ハーネスクランプにおいて、前記リブが前記アウタクランプの上側のカバー部材で覆われたことを特徴とする。
【0018】
上記構成により、リブがカバー部材で覆われて外部から隠されるので、たとえリブがワイヤハーネスとの摺接で傷付いても、リブの傷が外部から視認される心配は皆無である。また、カバー部材でリブが外部との干渉等なく保護される。
【0019】
請求項4に係る給電用ハーネスクランプは、請求項1〜3の何れかに記載の給電用ハーネスクランプにおいて、前記リブが、前記底壁から断面逆凹字状に形成され、上壁と前後の各壁部とで構成されたことを特徴とする。
【0020】
上記構成により、リブが、上壁と前後の各壁部とで高い剛性をもって軽量に且つ容易に形成される。
【発明の効果】
【0021】
請求項1記載の発明によれば、リブと底壁の前端部との両方でワイヤハーネスを受けることで、揺動時のワイヤハーネスの摺接による底壁の前端部(意匠面)の傷付きを軽減させて、底壁の前端部の見栄えを高めることができると共に、ワイヤハーネスの傷付きを軽減させて、給電の信頼性を高めることができる。また、アウタクランプ内でのワイヤハーネスの垂れ下がりを抑制して、ワイヤハーネスの周方向の回動時にワイヤハーネスにかかる負荷を軽減させることができる。
【0022】
請求項2記載の発明によれば、ワイヤハーネスの周方向の回動時に、アウタクランプ内でのワイヤハーネスの軸心の振れ(振り回し)を一層抑制して、ワイヤハーネスにかかる負荷を一層軽減させることができる。これにより、ワイヤハーネスの耐久性を高めて、給電の信頼性を向上させることができる。
【0023】
請求項3記載の発明によれば、たとえリブがワイヤハーネスとの摺接で傷付いた場合でも、リブの傷をカバー部材で覆い隠して、見栄えの低下を確実に防ぐことができる。
【0024】
請求項4記載の発明によれば、ハーネス支持用のリブを上壁と前後の壁部とで高い剛性をもって軽量に且つ容易に形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1〜
図4は、本発明の給電用ハーネスクランプの一実施形態を示すものである。
【0027】
この給電用ハーネスクランプ1は、
図1の合成樹脂製のベース部材2と合成樹脂製のカバー部材3とで成るアウタクランプ4と、アウタクランプ4内に周方向回動自在に配置される
図2の合成樹脂製の略球状のインナクランプ5とで構成され、アウタクランプ4の内側においてベース部材2の底壁8にワイヤハーネス支持用のリブ6が斜め方向に横断して設けられたものである。
【0028】
図1の如く、アウタクランプ4のベース部材2は、カバー部材3で覆われた状態で、前側(先端側)に正面視矩形状の開口部7を構成している。ベース部材2は、開口部7側において、水平な底壁8と垂直な左右の側壁9(
図2),10とで正面視略凹字状に形成されている。ベース部材2の前端側には、底壁8に続く下側の垂直な縁部11と、左右の側壁9,10に続く左右の垂直な各縁部12,13とがそれぞれ外向き鍔状に形成されている。各縁部11〜13は湾曲面14〜16を介して底壁8及び各側壁9,10に続いている。なお、ここでの「前側」「左右」は、
図1を見た状態における向きである。
【0029】
少なくとも底壁8の前端(先端)側の湾曲面14を含む前端部(先端部)は意匠面として作用する(湾曲面14は前端部の一部ないし全てであり、以下、前端部を符号14で示す)。給電用ハーネスクランプ1が、不図示の車両ボディ(固定構造体)の左側の乗降口のステップ部の下方ないし後方の近傍に取り付けられ、不図示のスライドドアが車両後方に開いた(例えば全開になった)際に、底壁の前端部14が車両外側の人(例えば車両に乗り込もうとする人)から視認可能となる。なお、ここでの「左側」「後方」は、車両における向きである。
【0030】
図1〜
図4の給電用ハーネスクランプ1は車両左側用のものであり、車両右側用の給電用ハーネスクランプ(図示せず)は車両左側用のものとは左右対称に形成配置される。
図1の給電用ハーネスクランプ1の前側の開口部7は車両左側の開口部であり、同じく左右の側壁9,10は車両前後の側壁である。
図1における上下は車両の上下に一致する。本実施形態においては、便宜上、
図1を見た状態における向きで説明する。
【0031】
前側の開口部7の後方においてベース部材2の底壁8の上面にリブ6が立ち上げて設けられている。リブ6の右端6aは右側の側壁10の内面に交差して続き、リブ6の左端(
図2)6bは左側の側壁9の内面に交差して続いている。リブ6の右端6aは左端6b(
図2)よりも前方に位置し、インナクランプ5の中心(中心点)を通るアウタクランプ4(ベース部材2)の軸心(中心線)mに対して(あるいは軸心mに直交する左右方向の仮想直線に対して)、リブ6は前から後に傾斜して位置している。
【0032】
図1の如く、リブ6は上側のカバー部材3で覆われて外部から隠されており、カバー部材3の前端3aの下側に略矩形状の前側の開口部7が位置している。カバー部材3の前側部分17は水平な板状に形成され、前側部分17から後方に続く部分(27)は断面逆凹字状に形成されている。
【0033】
図1,
図2の如く、ベース部材2の開口部7側の両側壁9,10とその後方に続く両側壁18,19等に、カバー部材3の下向きの係止爪(係止部)20を係合させる被係止枠(被係止部)21が設けられている。ベース部材2の前側下部と左側後部とに固定用の各ブラケット22,23が設けられ、各ブラケット22,23でベース部材2が車両ボディに位置決め且つ固定される。
【0034】
図1の如く、リブ6の後方においてベース部材2に断面凹字状の底部24が形成され、底部24の上方に対向してカバー部材3に湾曲状(球面状)の上壁25と左右の垂直な側壁26とが形成されている。この底部24と湾曲状の上壁25等とで
図2の略球状のインナクランプ5に対する収容部27が構成されている。
【0035】
図2の如く、インナクランプ5は、左右に分割可能に形成され、左右の分割インナクランプ5a,5bは係止爪(係止部)28と被係止枠(被係止部)29とで接合係止されている。インナクランプ5は、外側の球面部30と、内側の前後方向に貫通したワイヤハーネス挿通用の孔部31(
図3)とを有している。
【0036】
インナクランプ5の外側の球面部30は、アウタクランプ4(
図1)の収容部27の内面側に、上下左右方向回動自在に支持され、且つ前後方向移動不能に支持されている。インナクランプ5は周方向に例えば左回りに180°程度回動し、その状態から右回りに180°程度回動(復元)する。それ以上の回動は不図示のストッパで阻止される。
【0037】
図3の如く、インナクランプ5の中央の孔部31の内周面には、ワイヤハーネス34の外周側のコルゲートチューブ34aの不図示の凹溝に係合する突条32が設けられ、孔部31の後端には、コルゲートチューブ34aの後端部34a2を当接停止させるための内向き環状の鍔壁33が設けられている。鍔壁33を含むインナクランプ5の前後の端部は垂直な平面状に切欠されている。
【0038】
インナクランプ5の孔部31の断面形状は、ワイヤハーネス34の保護チューブである合成樹脂製のコルゲートチューブ34aの断面形状に応じて適宜規定される。断面円形のコルゲートチューブ34aを用いる場合は、断面円形の孔部31を有するインナクランプ5を使用し、断面長円形(平型)のコルゲートチューブ34aを用いる場合は、縦長の断面長円形の孔部31を有するインナクランプ5を使用する。
【0039】
図2の如く、インナクランプ5の前方において、ベース部材2のインナクランプ収容部27a(
図1の底部24)の左右の側壁は前側の左右の平行な側壁18,19に続き、左右の平行な側壁18,19は、開口部7側の湾曲状に広がった左右の側壁9,10に続いている。右側の湾曲状の側壁10は左側の湾曲状の側壁9よりも前方に長く延長形成され、左側の湾曲状の側壁9の前端9aは上から下にかけて漸次長くなるように傾斜している(
図3の傾斜状の前端9aを参照)。左右の平行な側壁18,19の間に幅狭な底壁8aが形成され、左右の広がった側壁9,10の間に略扇状の幅広な底壁8bが形成されている。
【0040】
幅狭な底壁8aと幅広の底壁8bとの間に、両底壁8a,8bを区切るように、前後方向に傾斜したリブ6が形成されている。リブ6の左端6bは左側の平行な側壁18の前部に交差して続き、リブ6の右端6aは右側の湾曲状の側壁10の後部に交差して続いている。
【0041】
インナクランプ5の中心からリブ6の右端6aまでの距離は、インナクランプ5の中心からリブ6の左端6bまでの距離よりも長くなっている。インナクランプ5の中心(中心点)はアウタクランプ4の軸心mと左右方向のずれなく一致している。インナクランプ5の中心とアウタクランプ4の軸心mが左右方向にずれている場合は、インナクランプ5の中心を通る仮想線を軸心mと定義する。あるいは、軸心mと平行な仮想線(
図2の実施形態では仮想直線)に対してリブ6が傾斜して配置されるものとする。ベース部材2の左右の平行な側壁18,19を結ぶ水平な仮想線(軸心mに直交する仮想線)に対するリブ6の傾斜角度は一例として25°程度である。
【0042】
図1,
図2の如く、リブ6は水平な上壁6cと垂直な前壁6d及び後壁6eとを有し、上壁6cと前後の各壁部6d,6eとは湾曲面を介して続いている。ベース部材2の幅狭な底壁8aの左右方向の内幅はインナクランプ5の外径よりも大きく、リブ6の全長は幅狭な底壁8aの左右方向の内幅よりも大きい。略扇状の幅広の底壁8bの平面視湾曲状の前端部(先端部)14の全長はリブ6の全長よりも長い。
【0043】
幅広な底壁8aの前端部14は右半側の真直部14aと左半側の湾曲部14bとで構成され、真直部14aと湾曲部14bとの交差部分すなわち前端部14の幅方向中央部分は平面視でベース部材2の軸心mに一致し、前端部14は平面視で略山型状に前方に突出している。リブ6の右端6aから底壁8の前端部14の右端までの長さは、リブ6の左端6bから底壁8の前端部14の左端までの長さにほぼ等しく、リブ6の中央から底壁8の前端部14の中央までの長さよりも短い。
【0044】
底壁8の前端部14は下向きの鍔状の縁部11に続き、左右の湾曲状の側壁9,10の前端部(湾曲面又は湾曲面を含む部分)15,16は左右の外向きの鍔状の縁部12,13に続いている。少なくとも底壁8の湾曲面又は湾曲面を含む前端部14は意匠面として作用する。この前端部14に
図3のワイヤハーネス34のコルゲートチューブ34aの下部外面34a1が接触する。
【0045】
図3の如く、ワイヤハーネス34のコルゲートチューブ34aはベース部材2の底壁8の前端部14と底壁8の中間部のリブ6とに同時に接触し、底壁8の前端部14とリブ6とでワイヤハーネス34を同時に支持する。インナクランプ5と底壁8の前端部14とのほぼ中間の位置(正確にはインナクランプ5寄り)にリブ6が配置されている。
【0046】
リブ6は、ベース部材2の底壁8を上向きに膨出させて断面逆凹字状に形成されている。リブ6は、水平な上壁6cと前後の垂直な壁部6d,6eとで構成され、上壁6cと前後の壁部6d,6eとの交差部に各湾曲面6fを有している。前後の垂直な壁部6d,6eは同じ高さで平行に形成されている。
【0047】
上壁6cの下方に、上壁6cの下面と垂直な前壁6dの後面及び後壁6eの前面とで囲まれて外部に続く断面矩形状の空間35が形成されている。リブ6は、ベース部材2の樹脂成形工程において、不図示の上下の成形金型内で底壁8の前端部14と同時に一体的に形成される。本例において、リブ6の上壁6cの上面の前後方向の幅寸法はリブ6の前後の壁部6d,6eの高さの二倍程度である。リブ6を突条と呼称してもよい。
【0048】
コルゲートチューブ34aは、不図示の周方向の凹溝と凸条とをチューブ長手(軸)方向に交互に配列して、特に左右方向の良好な屈曲性を有する(垂れ下がりを抑えるために上下方向の屈曲性は上下端の不図示の突条で抑制される場合が多い)。インナクランプ5の孔部31内の突条32がコルゲートチューブ34aの後端部34a2の不図示の凹溝に係合して、コルゲートチューブ34aの後端部34a2がインナクランプ5に抜け出しなく保持固定され、コルゲートチューブ34aはインナクランプ5と一体的に周方向及び上下左右方向に回動可能となる。
【0049】
保護チューブとしてコルゲートチューブ34aに代えて不図示の網状チューブ等を用いる場合は、インナクランプ5の孔部31の内周面に例えばとげ状の不図示の突起を設けて保護チューブ(34a)を刺して固定したり、あるいは接着剤等で保護チューブ(34a)をインナクランプ5の孔部31に固定したりすることも可能である。ワイヤハーネス34として、これら保護チューブ34aを用いずに複数本の不図示の電線をテープ巻き等で結束して用いる場合は、複数本の電線を例えばインナクランプ5の孔部31の内周面で挟持固定することも可能である。
【0050】
図3において、コルゲートチューブ34aの後端部34a2から複数本の電線が、インナクランプ5の孔部31の後部開口33aを経て後方に導出され、アウタクランプ4の後半の内部空間36を通って、アウタクランプ4の後部開口37において例えば結束バンド等でベース部材2に固定されて(ハーネス固定部を符号38で示す)、車両ボディ内(電源側)に導出される。コルゲートチューブ34aの不図示の前端部側は不図示のスライドドア(スライド構造体)側の給電装置内に配索され、コルゲートチューブ34aの前端部から導出された電線がスライドドア側の電装品や補機等にコネクタ接続される。
【0051】
図3の如く、インナクランプ5から前方に導出されたワイヤハーネス34のコルゲートチューブ34aの下部外面34a1は、リブ6の上壁6cと底壁8の前端部14とで支持され、インナクランプ5と底壁8の前端部14との間において、コルゲートチューブ34aの下部外面34a1と底壁8との間に隙間39が構成され、コルゲートチューブ34aの下部外面34a1は底壁8とは非接触で位置する。コルゲートチューブ34aがリブ6と底壁8の前端部14との二箇所にほぼ点接触するので、リブ6を設けない場合にコルゲートチューブ34aが底壁8に沿って軸方向に線接触することに比べて、ワイヤハーネス34の揺動が小さな摩擦抵抗でスムーズに行われる。
【0052】
図3の如く、インナクランプ5からリブ6を経てリブ6の前方近傍までの範囲で、コルゲートチューブ34aは底壁8と平行に水平に配索される。底壁8からインナクランプ5の孔部31の下部内面31aまでの高さと、底壁8からリブ6の上壁6cまでの高さとは、同一に規定されている。コルゲートチューブ34aはインナクランプ5とリブ6とで水平に支持される。これにより、コルゲートチューブ34aの周方向の回動時の振れ回り(コルゲートチューブ34aの軸心のずれ)が確実に抑制される。
【0053】
なお、
図3において、インナクランプ5からリブ6を経てリブ6の前方近傍までの範囲で、コルゲートチューブ34aを底壁8と略平行に略水平に配索するようにすることも可能である。この場合、底壁8からインナクランプ5の孔部31の下部内面31aまでの高さよりも、底壁8からリブ6の上壁6cまでの高さが少し高くあるいは少し低く規定される。例えば、底壁8からリブ6の上壁6cまでの高さが少し高く規定された場合は、コルゲートチューブ34aがインナクランプ5から少し前上がりに持ち上げられた状態でリブ6に支持され、インナクランプ5はそれに伴って少し前上がりに回動する。この状態はワイヤハーネス34の垂れ下がりを抑制する上では有効である。
【0054】
底壁8の前端部14の高さはインナクランプ5の孔部31の下部内面31aの高さよりも低く(リブ6の高さよりも勿論低く)、インナクランプ5からリブ6を経たコルゲートチューブ34aは例えば自由状態で
図3の如く斜め下向きに大きな半径で湾曲しつつ底壁8の前端部14に接触する。
【0055】
インナクランプ5の外周面(球面部)30は、アウタクランプ4のインナクランプ収容部27における前後上下の各突壁40で回動(摺接)自在に支持されている。前後の突壁40の間(空間)にインナクランプ5の前後方向中央の最大径部(頂部)が位置し、前後の突壁40でインナクランプ5の前後方向の移動が阻止されている。なお、インナクランプ5を前後方向に一定範囲内で移動可能とすることも可能(公知)である。
【0056】
アウタクランプ4の前側の開口部7は、上側のカバー部材3と下側のベース部材2との間に形成されている。カバー部材3の前端3aよりもベース部材2の略扇状の幅広の底壁8bが前方に突出(露出)している。リブ6はカバー部材3の前部17で完全に覆われている。
【0057】
図4(アウタクランプ4を前方から見た図であり、インナクランプ5は図示されていない)に示す如く、リブ6の上壁6cの上面すなわちハーネス支持面はベース部材2の底壁8の上面と平行に位置し、アウタクランプ4のインナクランプ収容部27の中心すなわちインナクランプ5(
図3)の中心は正面視でリブ6の上壁6cの長手方向中央の上方に位置する。底壁8の上面からリブ6の上壁6cの上面までの高さ寸法は、リブ6の上壁6cの上面からインナクランプ収容部27の中心Oすなわちアウタクランプ4の軸心mまでの高さ寸法よりも小さい。
【0058】
インナクランプ収容部27の前方の左右両側にベース部材2の平行な側壁18,19が位置し、各側壁18,19は前方の湾曲状に広がった側壁9,10に続き、湾曲状の側壁9,10と底壁8とカバー部材3の前端3aとの間に前側の開口部7が形成されている。底壁8の正面視湾曲状の前端部14と湾曲状の左右の側壁9,10の正面視湾曲状の前端部15,16とは鍔状の各縁部11〜13に続いている。
【0059】
図3の給電用ハーネスクランプ1が車両ボディ側に配置され、ワイヤハーネス34が給電用ハーネスクランプ1からスライドドア側の不図示の給電装置に配索された状態で、スライドドアが開閉操作されることで、ワイヤハーネス34がインナクランプ5を中心に左右方向(車両前後方向)に揺動する。インナクランプ5はワイヤハーネス34と一体にワイヤハーネス34の揺動方向に回動する。また、ワイヤハーネス34の揺動に伴って、ワイヤハーネス34が周方向の捩り力を受けることで、インナクランプ5がワイヤハーネス34と一体的に周方向に回動して、ワイヤハーネス34の捩りを吸収して捩れを抑制する。
【0060】
ワイヤハーネス34の捩れ動作は、例えば上記特許文献1におけるスライドドア側の給電装置において、スライドドアの開き操作時にワイヤハーネス34がスライドドア側の給電装置のハーネス支持部(例えばハーネス付勢用の板ばねの先端の支持具)を支点に、車両後方に揺動して時計回りの捩り力を受け、スライドドアの閉じ操作時にワイヤハーネス34が同じくハーネス支持部を支点に車両前方に揺動して反時計回りの捩り力を受けることに起因する既存の作用であり、インナクランプ5によるワイヤハーネス34の捩れ吸収動作も既存の作用である。
【0061】
ワイヤハーネス34がインナクランプ5を中心に左右方向(車両前後方向)に揺動した際に、ベース部材2のリブ6が、インナクランプ5の中心を通るアウタクランプ4の軸心mに対して傾斜して配置されていることで、ワイヤハーネス34の外周側のコルゲートチューブ34aがリブ6の長手方向に沿って上壁6cに摺接しつつ、リブ6の上壁6cに対する摺接位置を前後方向に変化させる。
【0062】
すなわち、
図2において、スライドドアの全閉時にワイヤハーネス34が車両前方に向けて揺動し、コルゲートチューブ34aが
図2のベース部材2の左側の湾曲状の短い側壁9に沿って湾曲しつつ、リブ6の上壁面6cの左端6b側に接触する。スライドドアの全開時には、ワイヤハーネス34が車両後方に向けて揺動し、コルゲートチューブ34aが
図2の右側の湾曲状の長い側壁10に沿って湾曲しつつ、リブ6の上壁面6cの右端6a側に接触する。スライドドアの半開時には、ワイヤハーネス34がハーネスクランプ4のほぼ軸心mに沿って前方に導出され、コルゲートチューブ34aが
図2の底壁8のほぼ中央に沿って位置して、リブ6の上壁面6cの長手方向ほぼ中央に接触する。
【0063】
このように、スライドドアの開閉に伴って、ワイヤハーネス34のコルゲートチューブ34aがリブ6に対する接触位置を変えることで、コルゲートチューブ34aの集中的な傷付きや摩耗が抑止されて、コルゲートチューブ34aの耐久性が向上する。リブ6はカバー部材3で覆われてベース部材2の内側(長手方向中間部)に配置されているので、車両外側から人目に触れることはない。
【0064】
図3の如く、スライドドアの開閉操作時に、ワイヤハーネス34のコルゲートチューブ34aはアウタクランプ4のリブ6と底壁8の前端部(先端部)14とに同時に摺接する。リブ6でワイヤハーネス34が底壁8の前端部14よりも高く支持されるので、例えばスライドドアの全閉時や全開時にワイヤハーネス34がスライドドア側の不図示の給電装置を支点に引っ張られて略真直に伸びた際には、コルゲートチューブ34aはリブ6のみに接触し、底壁8の前端部14には接触しない場合もある。
【0065】
このように、リブ6と底壁8の前端部14との両方で、ワイヤハーネス34の自重によるコルゲートチューブ34aの下向きの押し力(荷重)が受け止められて分散されるので、あるいは、ワイヤハーネス34の下向きの押し力が底壁8の前端部14よりも主にリブ6で受け止められるので、コルゲートチューブ34aとの摺接に起因する底壁8の前端部14の傷付きが抑止される。これにより、車両外側から底壁8の前端部(意匠面)14が人目についても、見栄えの低下が起こらず、車両品質が向上する。同様の理由でコルゲートチューブ34aの傷付きや摩耗も抑止される。
【0066】
また、
図3の如く、インナクランプ5から前方に導出されたワイヤハーネス34のコルゲートチューブ34aがリブ6で底壁8と平行に支持されて、インナクランプ5の中心を通るアウタクランプ4の軸心mに沿ってコルゲートチューブ34aがアウタクランプ4内で水平に配索される。
【0067】
そして、スライドドアの開閉操作中に、ワイヤハーネス34がインナクランプ5と共に車両前後方向に揺動しつつ周方向(捩り方向)に回動した際に、少なくともアウタクランプ4内のインナクランプ5とリブ6との間で、ワイヤハーネス34が垂れ下がりなくアウタクランプ4の軸心mに沿って水平に位置した状態で、上下左右に振れることなく周方向にスムーズに回動する。
【0068】
これにより、従来(
図5)において、アウタクランプ62内でワイヤハーネス60が上下左右に大きく振れながら周方向に回動することで、ワイヤハーネス60すなわち複数本の電線60aとそれを覆うコルゲートチューブ60bとに曲げ力及び捩り力という二軸方向の力が同時に作用して、ワイヤハーネス60に大きな負荷(応力)がかかるという不具合が解消される。
【0069】
このように、ワイヤハーネス34は少なくともアウタクランプ4内のインナクランプ5とリブ6との間で周方向にずれなく同心に回動するから、ワイヤハーネス34に一軸方向の力(周方向の捩り力)のみが作用し、捩り力はインナクランプ5の周方向の回動で吸収されるから、ワイヤハーネス34すなわち複数本の電線とコルゲートチューブ34aとにかかる負荷が軽減される。これにより、ワイヤハーネス34の耐久性が向上する。
【0070】
ワイヤハーネス34がアウタクランプ4内のリブ6で底壁8の前端部14よりも高く支持されることで、アウタクランプ4の前側の開口部7からスライドドア側の不図示の給電装置までの間においても、ワイヤハーネス34の周方向の回動時の上下左右方向の振れが抑制されて、リブ6を設けない場合よりもワイヤハーネス34にかかる負荷が軽減される。
【0071】
なお、上記実施形態においては、アウタクランプ4の底壁8に斜め方向に直線状のリブ6を形成配置したが、例えば、アウタクランプ4の底壁8に斜め方向に湾曲状のリブ(6)を形成配置することも可能である。
【0072】
また、上記実施形態においては、アウタクランプ4をベース部材2とカバー部材3とで上下分割式に構成したが、例えばアウタクランプ4をベース部2とカバー部3で一体に樹脂形成することも可能である。この場合、例えばアウタクランプ4を前後に分割可能とし、前後に分割した状態でアウタクランプ4内にインナクランプ5を装着するようにすることも可能である。インナクランプ5にはワイヤハーネス34が予め組み付けられ、ワイヤハーネス34がアウタクランプ5に挿通されると同時にインナクランプ5がアウタクランプ5に装着される。これは
図3の実施形態においても同様である。
【0073】
また、上記実施形態においては、アウタクランプ4のハーネスガイド部である前側の左右の湾曲状の側壁9,10に続く中間部の左右の側壁18,19を軸心m方向に真直に形成したが、例えば中間部の左右の側壁18,19や、左右の側壁18,19の後方に続く左右の側壁(インナクランプ5の両側に位置する側壁)を右又は左方向に湾曲させて形成することも可能である。この場合、アウタクランプ4の軸心mは湾曲状の左右の側壁18,19に沿って湾曲したものとなる。
【0074】
また、上記実施形態においては、ベース部材2の底壁8の前端部14を平面視略湾曲状に形成して、アウタクランプ4の軸心mに対して左右略対称の形状としたが、例えば前記特許文献1(
図5)に記載された底壁の延長壁部65の先端(前端)部分65aのように、ベース部材2の底壁8の前端部14の例えば左半の湾曲部14bを右半の真直部14aの延長線上に配置すれば(軸心mに対して前端部14を傾斜状に交差するように配置すれば)、平面視傾斜状のリブ6と同様に、ワイヤハーネス34の揺動時のコルゲートチューブ34aの摺接位置を前後にずらしてコルゲートチューブ34aの傷付きや摩耗のさらなる軽減を図ることができる。実使用上においては、平面視傾斜状のリブ6と平面視略湾曲状の前端部14との二点接触による荷重分散により、コルゲートチューブ34aの摺動時の傷付きや摩耗を十分に軽減させることができる。
【0075】
その他、従来公知の知見に従い、本発明の給電用ハーネスクランプ1を適宜改変することができる。かかる改変によってもなお本発明の給電用ハーネスクランプ1の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。