特許第6372857号(P6372857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6372857フルオレン構造を含む樹脂からビスフェノールフルオレン類を回収する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372857
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】フルオレン構造を含む樹脂からビスフェノールフルオレン類を回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/52 20060101AFI20180806BHJP
   C07C 37/72 20060101ALI20180806BHJP
   C07C 39/17 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   C07C37/52
   C07C37/72
   C07C39/17
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-84170(P2015-84170)
(22)【出願日】2015年4月16日
(65)【公開番号】特開2016-204271(P2016-204271A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000216243
【氏名又は名称】田岡化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松尾 奈苗
(72)【発明者】
【氏名】森尾 英樹
(72)【発明者】
【氏名】河村 芳範
【審査官】 村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5721300(JP,B1)
【文献】 特許第6210555(JP,B1)
【文献】 特許第5704736(JP,B1)
【文献】 特開2005−179229(JP,A)
【文献】 特開2011−195514(JP,A)
【文献】 特開2004−091414(JP,A)
【文献】 特開2010−248139(JP,A)
【文献】 特開2002−316963(JP,A)
【文献】 特開2007−197368(JP,A)
【文献】 Uchiyama, A et al.,Control of wavelength dispersion of birefringence for oriented copolycarbonate films containing positive and negative birefringent units,Japanese Journal of Applied Physics Part 1,2003年11月15日,vol.42 no.11,pp.6941-6945
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08G
C08J
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂を金属水酸化物水溶液の存在下に加水分解させて以下式(1)
【化1】
(式中、R1a、及びR1bはそれぞれ独立してアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を表す。複数のR1a、及び/又はR1bが存在する場合、それぞれは同一であっても異なっても良い。また、m及びnはそれぞれ独立して0又は1〜4の整数を表す。)
で表されるビスフェノールフルオレン類を生成させ、前記加水分解により生成した上記式(1)で表されるビスフェノールフルオレン類を有機溶媒中に分配させた後、有機溶媒の相と金属水酸化物水溶液の相とを分離して、上記式(1)で表されるビスフェノールフルオレン類を前記有機溶媒の相中に回収するビスフェノールフルオレン類の回収方法であって、分離前の前記金属水酸化物水溶液の相に含まれる金属水酸化物の水酸化物イオン(OH)濃度が0.35mmol/g以下であるビスフェノールフルオレン類の回収方法。
【請求項2】
上記式(1)で表されるビスフェノールフルオレン類を前記有機溶媒の相中に回収した後、更に、得られた有機溶媒の相に、金属水酸化物水溶液を添加する工程、及び前記有機溶媒の相と前記金属水酸化物水溶液の相とを分離する工程を含む請求項1記載のビスフェノールフルオレン類の回収方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が芳香族炭化水素および脂肪族炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1または2記載のビスフェノールフルオレン類の回収方法。
【請求項4】
前記有機溶媒の層から晶析操作により上記式(1)で表されるビスフェノールフルオレン類の結晶を得る請求項1〜3いずれか一項に記載のビスフェノールフルオレン類の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン構造を有する廃棄または回収ポリカーボネート樹脂から、その出発原料であるビスフェノールフルオレン類を高品質で効率的に回収する方法に関する。さらに詳しくは、フルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂を金属水酸化物水溶液の存在下で加水分解し、得られたビスフェノールフルオレン類を有機溶媒相中に回収し、光学樹脂原料として再利用可能な高品質なビスフェノールフルオレン類を収率良く得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオレン構造を有するポリカーボネートは、高屈折率性、低複屈折率性、透明性、加工性、耐熱性に比較的優れていることから、近年、光学レンズや光学フィルムなどの光学樹脂材料として、使用量が増加している。また、フルオレン構造を含むポリカーボネート樹脂の需要増にともない廃棄される樹脂の量も増えていることから、それらを再利用することが重要となってきた。とりわけ出発原料の一つであるビスフェノールフルオレン類は他の原料に比べ高価な事から、再利用可能な原料として効率的に回収する方法の開発が望まれていた。
【0003】
ポリカーボネート樹脂を解重合する方法としては、主に、ポリカーボネート樹脂をフェノールと加熱することによりビスフェノ−ルAおよび炭酸ジフェニルに変換し、両者を蒸留により分離回収する加フェノール分解法、塩基触媒の存在下にポリカーボネート樹脂と低級アルコールとを加熱処理することによりビスフェノールAおよび炭酸ジアルキルに変換し、両者を蒸留により分離回収する加アルコール分解法、並びに、ポリカーボネート樹脂を過剰のアルカリ水溶液と反応させてビスフェノールAに分解し回収する加水分解法の三つの方法が知られている。しかしながら、加フェノール分解法及び加アルコール分解法では炭酸ジフェニル又は炭酸ジアルキル等の副生成物が生成し、目的とするビスフェノール類を分離回収する工程が煩雑となる。
【0004】
ポリカーボネート樹脂を加水分解により解重合する方法としては、例えば、日本国特許出願公告「特公昭40−16536号公報」(特許文献1)にはポリカーボネートと1〜30%のアルカリ水溶液を耐圧容器に入れ、好ましくは150℃以上で加水分解後、分解生成物を含むアルカリ水溶液を酸性にして分解生成物を沈殿させ濾過し、メタノールに溶解し、活性炭処理して着色成分を除去後、再沈殿して白色のビスフェノールを得る方法が開示されている。日本国公開特許公報「特開昭54−48869号公報」(特許文献2)にはポリカーボネートに15N水酸化ナトリウム水溶液を加え、100℃でケン化し、未ケン化成分を分離し、ケン化混合物をホスゲン化し、精製することなくポリカーボネート重合に用いる方法が開示されている。日本国公開特許公報「特開2005−126358号公報」(特許文献3)には廃芳香族ポリカーボネート樹脂の一部または全部を塩素化化合物からなる有機溶媒に溶解後、金属水酸化物水溶液で分解し、この分解液に水を加え、析出した固形分を溶解し、水相と有機溶媒相とを分離し、水相を回収して芳香族ジヒドロキシ化合物金属塩水溶液を得る方法が開示されている。また、日本国公開特許公報「特開2005−162675号公報」(特許文献4)には特許文献3と同様にして得た芳香族ジヒドロキシ化合物金属塩水溶液に酸を加え芳香族ジヒドロキシ化合物を析出させ濾過、洗浄して芳香族ジヒドロキシ化合物の固体を得る方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2の方法は、高温及び/又は高圧の過酷な反応条件を要するものであり、後処理においても多量の水を使う、更に再沈操作を必要とするなど操作が煩雑である。また、特許文献2の方法では、分解生成物を精製操作することなく樹脂の重合反応に再使用するため、添加剤や着色剤がそのまま樹脂に混入し製品品質に影響を及ぼす。特許文献3及び4の方法ではポリカーボネート樹脂を溶解するために塩化メチレンなどの塩素化化合物からなる有機溶媒を使用しており、安全性や環境への悪影響が懸念される上に、製造には特殊な設備が必要である。また、特許文献3及び4の方法では、芳香族ジヒドロキシ化合物の結晶を取り出すために酸処理が必要であるため操作が煩雑となり、廃棄物の量も増加する。そして、特許文献1〜4に記載の従来の方法は、いずれも、ビスフェノール類をビスフェノール類の金属塩水溶液として水相中に回収しており、結晶として取り出すには酸処理が必要である。
【0006】
また、上述した従来の方法は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)を原料とするポリカーボネートからビスフェノールAを回収するために適した解重合方法であり、フルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂から、特異な構造を有するビスフェノールフルオレン類を回収する好適な方法の開発が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭40−16536号公報
【特許文献2】特開昭54−48869号公報
【特許文献3】特開2005−126358号公報
【特許文献4】特開2005−162675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、フルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂から、光学樹脂用原料として再利用可能な高純度なビスフェノールフルオレン類を効率的に回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、フルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂を金属水酸化物水溶液の存在下で加水分解させてビスフェノールフルオレン類を生成させ、前記加水分解により生成したビスフェノールフルオレン類を、酸処理等の特別な操作を行うことなく、金属水酸化物水溶液中の金属水酸化物量を調整することで、ビスフェノールフルオレン類を有機溶媒中に高選択的に分配が可能であること、さらには、回収されたビスフェノールフルオレン類は高純度で色相が良好なことから、光学樹脂用原料として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下を含む。
【0011】
[1]
フルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂を金属水酸化物水溶液の存在下に加水分解させて以下式(1)
【0012】
【化1】
(式中、R1a、及びR1bはそれぞれ独立してアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を表す。複数のR1a、及び/又はR1bが存在する場合、それぞれは同一であっても異なっても良い。また、m及びnはそれぞれ独立して0又は1〜4の整数を表す。)
で表されるビスフェノールフルオレン類を生成させ、前記加水分解により生成した上記式(1)で表されるビスフェノールフルオレン類を有機溶媒中に分配させた後、有機溶媒の相と金属水酸化物水溶液の相とを分離して、上記式(1)で表されるビスフェノールフルオレン類を前記有機溶媒の相中に回収するビスフェノールフルオレン類の回収方法であって、分離前の前記金属水酸化物水溶液の相に含まれる金属水酸化物の水酸化物イオン(OH)濃度が0.35mmol/g以下であるビスフェノールフルオレン類の回収方法。
【0013】
[2]
上記式(1)で表されるビスフェノールフルオレン類を前記有機溶媒の相中に回収した後、更に、得られた有機溶媒の相に、金属水酸化物水溶液を添加する工程、及び前記有機溶媒の相と前記金属水酸化物水溶液の相とを分離する工程を含む[1]記載のビスフェノールフルオレン類の回収方法。
【0014】
[3]
前記有機溶媒が芳香族炭化水素および脂肪族炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種である[1]または[2]記載のビスフェノールフルオレン類の回収方法。
【0015】
[4]
前記有機溶媒の層から晶析操作により上記式(1)で表されるビスフェノールフルオレン類の結晶を得る[1]〜[3]に記載のビスフェノールフルオレン類の回収方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂から、光学樹脂原料として再利用可能な高品質のビスフェノールフルオレン類を効率よく回収することができる。更には、ビスフェノールフルオレン類の回収率を大幅に低下させることなくフルオレン構造を有さないジオール類や無機分とを分離可能となることから、廃棄物の削減や精製操作の簡略化が可能となり、効率的なビスフェノールフルオレン類の回収が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、フルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂とは、上記式(1)で表されるビスフェノールフルオレン類を構成原料とし、界面重合法や溶融重合法等公知の方法で製造されたものであり、末端封止剤や安定剤などの添加剤を含んでいても良く、最広義に解釈されるものである。本発明の解重合方法の対象となるポリカーボネート樹脂としては、ポリカーボネート樹脂単独あるいは本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を含む樹脂、例えばポリエステルカーボネート類;他の成分と組み合わせた樹脂組成物、例えばポリカーボネートとポリエステル類の混合物などであっても良い。その形状はパウダー、ペレット、シート、フィルム、成型品等に限定されるものではなく、廃棄されたレンズ、シート;製造時及び/又は成型加工時に発生する不良品、バリ;製造廃棄物、即ちポリカーボネート樹脂を使用した製品の廃棄物から回収された固形物、それらの粉砕物;などが使用される。
【0018】
本発明のポリカーボネート樹脂の構成原料であり、本発明の方法により回収されるビスフェノールフルオレン類は以下式(1)で表される構造を有する。
【0019】
【化1】
(式中、R1a、及びR1bはそれぞれ独立してアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を表す。複数のR1a、及び/又はR1bが存在する場合、それぞれは同一であっても異なっても良い。また、m及びnはそれぞれ独立して0又は1〜4の整数を表す。)
【0020】
上記式(1)におけるアルキル基として例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルキル基を挙げることができる。アルキル基は、好ましくは炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、さらに好ましくはメチル基及びエチル基である。
【0021】
上記式(1)におけるシクロアルキル基として例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アルキル(例えば、炭素数1〜4のアルキル)置換シクロペンチル基、アルキル(例えば、炭素数1〜4のアルキル)置換シクロヘキシル基等の炭素数4〜16(好ましくは炭素数5〜8)のシクロアルキル基又はアルキル置換シクロアルキル基を挙げることができる。シクロアルキル基は、好ましくはシクロペンチル基又はシクロヘキシル基である。
【0022】
上記式(1)におけるアルコキシ基として例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基を挙げることができる。好ましくは炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状アルコキシ基、さらに好ましくは炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルコキシ基である。
【0023】
上記式(1)におけるアリール基として例えば、フェニル基、アルキル(例えば、炭素数1〜4のアルキル)置換フェニル基、ナフチル基を挙げることができる。アリール基は、好ましくはフェニル基又はアルキル置換フェニル基(例えば、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基等)であり、より好ましくはフェニル基である。
【0024】
上記アルキル基、シクロアルキル基、アリール基は、アルキル基以外の置換基(例えば、アルコキシル基、アシル基、ハロゲン原子等)を有していてもよい。
【0025】
上記式(1)における置換数を表すm及びnは、好ましくは0または1〜2であり、より好ましくは0又は1である。また、m及びnは典型的には同一である。
【0026】
上記式(1)で表される9,9−ビスフェノールフルオレン類の具体例としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(通称:ビスフェノールフルオレン)、9,9−ビス[(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル]フルオレン(通称:ビスクレゾールフルオレン)、9,9−ビス[(4−ヒドロキシ−3−エチル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[(3−ヒドロキシ−6−メチル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[(2−ヒドロキシ−4−メチル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[(2−ヒドロキシ−4−エチル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[(4−ヒドロキシ−2,6−ジメチル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル]フルオレンおよび9,9−ビス[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。これら9,9−ビスフェノールフルオレン類は単独又は2種以上の混合物であっても良い。これら9,9−ビスフェノールフルオレン類の中でも光学樹脂材料として使用例が多い、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス[(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル]フルオレンが好ましく、9,9−ビス[(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル]フルオレンが特に好ましい。
【0027】
本発明のポリカーボネート樹脂はビスフェノールフルオレン類を主成分とするが、その他のジオール成分を構成原料として含むことができる。他のジオール成分は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0028】
その他のジオール成分の具体例としては、アルキレングリコール〔例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等〕;脂環族ジオール〔例えば、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール、ノルボルナンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、イソソルビド等〕;芳香族ジオール〔例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、1,1’−ビ−2−ナフトール,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称:ビスフェノールA)、2,2−ビス[(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル]プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル等〕などが例示される。これらジオール成分の中でもフルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂と併用されることが多い2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、イソソルビドが好ましく、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが特に好ましい。
【0029】
本発明のポリカーボネート樹脂中に含まれるカーボネート結合の物質量(モル)は、ポリカーボネート樹脂を構成するビスフェノールフルオレン類及び他のジオール成分を含む場合、他ジオール成分の構成比率とポリカーボネート樹脂の分子量から算出することができる。なお、本発明のポリカーボネート樹脂の分子量は、後述するGPC装置を用いることにより得られる、ポリスチレン換算の重量平均分子量のことを示す。また、ポリカーボネート樹脂を構成するビスフェノールフルオレン類及び他のジオール成分の構成比率が不明である場合、例えばポリカーボネート樹脂をH−NMRを用いて分析し、各構成成分の典型的ピークの積分値の比率から決定することができる。
【0030】
本発明においては、金属水酸化物水溶液の存在下にポリカーボネートの分解反応(加水分解)を行う。使用する金属水酸化物としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物が好適に用いられ、アルカリ金属の水酸化物がより好ましい。具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどが用いられ、好ましくは水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであり、特にコスト面から安価な水酸化ナトリウムが好ましい。これらの金属水酸化物はいずれか1種もしくは2種以上の混合物として使用することが出来る。
【0031】
分解反応を行う温度は通常120℃以下であり、好ましくは100℃未満、より好ましくは30℃〜90℃である。上記温度が120℃以下では、分解処理中に反応液が褐色に着色されることが起こりにくくなるため好ましい。上記反応液が着色される場合には、その影響でビスフェノールフルオレン類の色相が悪化したり、純度が低下する傾向にあるため、品質の良いビスフェノールフルオレン類が回収できなくなる場合がある。また、上記温度が高温になる(120℃を超える)場合には、加熱のエネルギーが多く必要となり、さらに、沸点以上においての反応は圧力容器を必要とするため、上記温度が120℃以下とすることにより、必要とされる設備費を抑制することができ、経済的に有利となる。また、上記温度が低すぎる場合には、分解反応時間が長くなり、処理効率が著しく劣ることがある。
【0032】
分解反応に使用する金属水酸化物の使用量は、ポリカーボネート樹脂中のカーボネート結合1モルに対して2.0〜8.0モルが好ましく、さらに好ましくは2.1〜3.5モルである。通常、ビスフェノールAを主構成原料とするポリカーボネートを解重合する場合、一般的にカーボネート結合1モルに対し4.1モル以上の金属水酸化物が使用されるが、フルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂を分解する本発明においては、4.0モル以下でも分解が可能である。金属水酸化物の使用量が2.0モル以上であれば、分解反応が遅くなりすぎず、また、分解が十分に行われるため好ましい。また、8.0モル以下であれば、コストを抑制でき、かつ、洗浄精製に要する水の量も多くならないので、経済的に有利となる。また、次工程の回収工程で酸等を用い、金属水酸化物水溶液の相に含まれる金属水酸化物の水酸化物イオン濃度を調整する必要が少なく、好ましい。
【0033】
上記金属水酸化物は水溶液の状態で使用する。金属水酸化物の濃度は、10重量%〜55重量%が好ましく、更に好ましくは20重量%〜50重量%である。金属水酸化物の濃度が10重量%以上である場合は、ポリカーボネート樹脂の分解速度は遅くなく、金属水酸化物の濃度が55重量%以下の場合は、アルカリ金属水酸化物が析出することによって上記金属水酸化物水溶液がスラリーになるということが起こりにくいため好ましい。上記金属水酸化物水溶液がスラリーになった場合には、かえってポリカーボネート樹脂の分解反応の速度が低下する。また、金属水酸化物の濃度が55重量%以下の場合には、着色や不純物の生成が起こりにくく、回収されたビスフェノールフルオレン類の品質に優れるため好ましい。
【0034】
また、ポリカーボネート樹脂の分解反応は、有機溶媒存在下に行うこともできる。有機溶媒存在下、分解反応行うことにより、有機溶媒を用いない場合に比べて分解反応が早くなり、また、より低い温度で分解が可能となる。通常、ビスフェノールAを主構成原料とするポリカーボネート樹脂を分解する場合、ポリカーボネート樹脂の良溶媒である塩化メチレンなどの塩素化化合物からなる有機溶媒が使用されるが、驚くべきことに、本発明においては、良溶媒でないが、取り扱いが容易な芳香族炭化水素または脂肪族炭化水素を溶媒に用いても、より容易に分解反応を行うことができることが見出された。このため、好ましくは、芳香族炭化水素および脂肪族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒存在下に分解反応を行う。本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリカーボネート樹脂と反応する(例えばフェノールやメタノール)溶媒以外の、その他の溶媒を併用する事もできる。
【0035】
ポリカーボネート樹脂の分解反応で用いられる有機溶媒は金属水酸化物やポリカート樹脂、及び分解して生成するビスフェノールフルオレン類と反応しないものであればどのようなものでも良いが、上述した理由から芳香族炭化水素または脂肪族炭化水素が好ましい。芳香族炭化水素または脂肪族炭化水素として例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、シクロデカンなどが挙げられる。特にトルエン又はキシレンが好適である。
【0036】
有機溶媒を使用する際の有機溶媒の使用量は、本発明の目的が達成される範囲で特に限定されないが、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し40〜2000重量部が好ましく、100〜1000重量部の範囲がより好ましい。有機溶媒の使用量が40重量部以上の場合には、芳香族ポリカーボネート樹脂を十分に溶解させ、不溶部の量を減少させ、収量を増加することができるため好ましい。有機溶媒の使用量が2000重量部以下の場合には、分解反応時の分解速度を低下させることを抑制し、分解反応時間を短くすることができ、また溶媒の回収コストを抑制することもできるため好ましい。
【0037】
上述した方法によりフルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂を金属水酸化物水溶液の存在下に加水分解させてビスフェノールフルオレン類を生成させた後、生成したビスフェノールフルオレン類を有機溶媒に分配させ、その後有機溶媒の相中に回収する。ここで使用する有機溶媒としては、ポリカーボネート樹脂や分解物、金属水酸化物と反応せず、上記式(1)で表されるビスフェノールフルオレン類を溶解可能で、水と分離可能な有機溶媒であれば良い。特に取扱性や入手性の良さから、芳香族炭化水素および脂肪族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。具体的には、トルエン、キシレン、メシチレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、シクロデカンなどが挙げられる。特にトルエン又はキシレンが好適である。これら有機溶媒は単独でも、必要に応じ2種類以上混合して使用することも可能である。
【0038】
有機溶媒は、加水分解反応後に添加して、生成したビスフェノールフルオレン類を有機溶媒中に分配させることができる。また、上述したとおり、分解反応前に予め有機溶媒を添加して有機溶媒存在下に加水分解反応を行い、生成したビスフェノールフルオレン類を随時有機溶媒に溶解させながら、該有機溶媒に分配させることもできる。有機溶媒存在下、分解反応行うことにより、有機溶媒を用いない場合に比べて分解反応が早くなり、また、より低い温度で分解が可能となることから、好ましくは、有機溶媒存在下に分解反応を行い、生成したビスフェノールフルオレン類を随時有機溶媒へ溶解、分配する。
【0039】
分配及び回収に使用する有機溶媒の使用量は生成したビスフェノールフルオレン類の有機溶媒への溶解度に依存し、水相への分配を最小限にし、効率的かつ選択的に回収される量なら特に限定されるものではないが、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し40〜2000重量部が好ましく、100〜1000重量部の範囲がより好ましい。有機溶媒の使用量が40重量部より多いと不溶部を減少させることが可能であり、また、また、水相への分配も減少し、収量を増加させることができ好ましい。2000重量部以下の場合には、容積効率が低下することを抑制することができ、それにより溶媒の回収コストの増加を抑制できるため好ましい。
【0040】
本発明において、前記有機溶媒の相中に回収するビスフェノールフルオレン類は、加水分解反応で使用した金属水酸化物水溶液の相に含まれる金属水酸化物の量を、前記有機溶媒の相と金属水酸化物水溶液の相とを分離する直前までに後述する比率となるように調整することにより、より多くのビスフェノールフルオレン類を有機溶媒中に回収することが可能となる。
【0041】
分離する前の金属水酸化物水溶液の相に含まれる金属水酸化物の量は、該金属水酸化物の水酸化物イオン(OH)濃度が0.35mmol/g以下となる量とする。該水酸化物イオン濃度はpH測定や滴定等の定法により測定することも可能であるし、分解反応で使用した金属水酸化物の総量からポリカーボネートの分解で消費される金属水酸化物(ポリカーボネート樹脂中のカーボネート結合1モルに対して2モル消費される)と金属水酸化物水溶液の相に含まれるフェノール塩を形成されるために消費された金属水酸化物とを引くことによっても求めることができる。
【0042】
前記水酸化物イオン濃度が0.35mmol/gより高くなるとビスフェノールフルオレン類の水相への分配が多くなり、有機溶媒中への回収率が低下する。また、水酸化物イオン濃度が0.05mmol/g未満となると、ビスフェノールフルオレン類以外のその他のジオール成分を構成原料として含んでいる場合、これらの有機溶媒の相への分配が多くなり、回収したビスフェノールフルオレン類の純度が低下する場合がある。なお、このような場合、後述する後洗浄工程を実施することにより回収した有機溶媒の相に含まれるビスフェノールフルオレン類以外のその他のジオール成分を選択的に除去することが可能である。
【0043】
分離する前の金属水酸化物水溶液の相に含まれる金属水酸化物の総量は、本発明の目的が達成される範囲において特に限定されないが、ポリカーボネート樹脂中のカーボネート結合1モルに対して水酸化物イオンの物質量として0.05〜0.6モル、好ましくは0.15〜0.5モルとする。左記した範囲とすることによって、より効率的にビスフェノールフルオレン類を有機溶媒の相へと回収可能となる。
【0044】
分離する前の金属水酸化物水溶液の相に含まれる金属水酸化物の量(水酸化物イオン(OH)濃度・総量)が上述した範囲より過剰である場合、酸を添加して中和することにより調整することができる。また、不足している場合、上述する範囲となるように金属水酸化物を添加することにより調整することが可能である。ここで使用する酸はビスフェノールフルオレン類と反応しないものであれば有機酸でも無機酸でも良いが、有機酸を用いた場合、有機溶媒の相へと分配される場合があるので無機酸が好ましく、特に工業的な利用の容易さから硫酸、塩酸が好ましい。また、金属水酸化物を添加する場合、上述した加水分解反応で使用する金属水酸化物が使用される。金属水酸化物の量を調整のために酸または金属水酸化物を添加した場合、添加後一定時間(例えば30分以上)撹拌することが好ましい。
【0045】
分離する前の金属水酸化物水溶液の相に含まれる水の量は、本発明の目的が達成される範囲において特に限定されないが、通常ポリカーボネート樹脂100重量部に対して100〜600重量部とする。水の量を100重量部以上とすることにより、加水分解で生じた無機分が十分に溶解し、分液性が向上し得る。また、600重量部以下とすることにより容積効率が向上し、ビスフェノールフルオレン類がより多く有機溶媒の相に分配され得る。
【0046】
分離する際の温度は本発明の目的が達成される範囲において特に限定されないが、通常20〜90℃であり、好ましくは65〜85℃で実施される。
【0047】
上述の通りビスフェノールフルオレン類を含む有機溶媒の相と金属水酸化物水溶液の相を分離した後、ビスフェノールフルオレン類を含む有機溶媒の相を必要に応じて洗浄、吸着等の精製操作を行った後、晶析等の操作により結晶を析出させ、ビスフェノールフルオレン類の結晶を得ることができる。特に、ビスフェノールフルオレン類の結晶を容易に得られることから晶析操作によってビスフェノールフルオレン類を取り出すことが好ましい。また、分離して得られたビスフェノールフルオレン類を含む有機溶媒の相を、更に後述する後洗浄工程を行うことにより、得られるビスフェノールフルオレン類の純度を向上させることが可能である。
【0048】
後洗浄工程は、上述した方法により回収されたビスフェノールフルオレン類を含む有機溶媒の相に、新たに金属水酸化物水溶液を添加し、必要に応じ前記有機溶媒の相と金属水酸化物水溶液とを混合した後、前記有機溶媒の相と前記金属水酸化物水溶液の相とを分離することによって実施される。
【0049】
後洗浄工程で使用する金属水酸化物は、前述したフルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂を分解する際に使用する金属水酸化物を適宜使用することができる。また、金属水酸化物水溶液に含まれる金属水酸化物の量は、前記有機溶媒の相と前記金属水酸化物水溶液の相とを分離する際に、該金属水酸化物水溶液の相に含まれる水酸化物イオン(OH)濃度が0.07mmol/g〜0.2mmol/gとなる量とすることが好ましい。前記水酸化物イオン濃度を0.2mmol/g以下とすることで、ビスフェノールフルオレン類の水相への分配を抑えることが可能であり、0.07mmol/g以上とすることで他のジオール成分をはじめとする不純物を水層へと選択的に分配することが可能となり、好ましい。
【0050】
後洗浄工程で使用する金属水酸化物の総量は、本発明の目的が達成される範囲において特に限定されないが、ポリカーボネート樹脂中のカーボネート結合1モルに対して水酸化物イオンの物質量として0.1〜0.4モル、好ましくは0.15〜0.35モルとする。左記した範囲とすることによって、より効率的にビスフェノールフルオレン類を有機溶媒の相へと回収しつつ、他のジオール成分をはじめとする不純物を水層へと選択的に分配することが可能となる。
【0051】
金属水酸化物を含む水溶液中の水の量は、本発明の目的が達成される範囲において特に限定されないが、通常ポリカーボネート樹脂100重量部に対して50〜600重量部とする。水の量を50重量部以上とすることにより、加水分解で生じた無機分が十分に溶解し、分液性が向上し得る。また、600重量部以下とすることにより容積効率が向上し、ビスフェノールフルオレン類がより多く有機溶媒の相に分配され得る。
【0052】
後洗浄工程を実施する際の温度は本発明の目的が達成される範囲において特に限定されないが、通常20〜90℃であり、好ましくは65〜85℃で実施される。また、より効率よく後洗浄工程を実施するためには、撹拌等の定法にて前記有機溶媒の相と金属水酸化物水溶液とを混合した後、前記有機溶媒の相と前記金属水酸化物水溶液の相とを分離することが好ましい。
【0053】
上述した後洗浄工程を実施した後に得られたビスフェノールフルオレン類を含む有機溶媒の相は必要に応じ更に洗浄、吸着等の精製操作を行った後、晶析等の操作により結晶を析出させ、ビスフェノールフルオレン類の結晶を得ることができる。特に、ビスフェノールフルオレン類の結晶を容易に得られることから晶析操作によってビスフェノールフルオレン類を取り出すことが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、ビスフェノールフルオレン類、フルオレン構造を有するポリカーボネート類について測定した各測定値は、次の方法、測定条件に従った。
【0055】
〔1〕各成分の分配量及びHPLC純度
次の測定条件でHPLC測定を行い、得られた面積値を絶対検量線法にて定量した値に基づき、各成分の分配量(モル比率)及びHPLC純度を決定した。
【0056】
・装置:(株)島津製作所製「LC−2010AHT」、
・カラム:一般財団法人 化学物質評価研究機構製「L−column ODS」
(5μm、4.6mmφ×250mm)、
・カラム温度:40℃、
・検出波長:UV 254nm、
・移動相:A液=水、B液=アセトニトリル、
・移動相流量:1.0ml/分、
・移動相グラジエント:B液濃度:30%(0分)→100%(25分後)→100%(35分後)。
【0057】
〔2〕融点及びガラス転移温度
示差走査熱量計(エスアイアイナノテクノロジー(株)製「EXSTAR DSC 7020」)を用いて、昇温速度10℃/分にて、融点及びガラス転移温度を測定した。
【0058】
〔3〕ポリカーボネート樹脂の分子量および分解物の生成率
高速GPC装置(東ソー(株)製「HLC−8200 GPC、移動相:THF)を用いて、ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量をRI(示差屈折率)検出器で測定した(ポリスチレン換算)。
また、上記の測定条件で反応液のGPC測定を行った際の面積百分率値を各成分および2量体の生成率とした。
【0059】
〔4〕分離前の前記金属水酸化物水溶液の相に含まれる金属水酸化物の水酸化物イオン(OH)濃度
上記の条件でHPLC測定を行ったときの定量値(絶対検量線法)より、金属水酸化物水溶液の相に含まれるビスフェノールフルオレン類の量及びその他のジオール成分の量を算出し、これらの値を基に以下式により金属水酸化物水溶液の相に含まれる金属水酸化物の水酸化物イオン量を算出し、得られた水酸化物イオン量を水相の絶対量(g)で除することにより濃度を算出した。

金属水酸化物水溶液の相に含まれる金属水酸化物の水酸化物イオン量(mol)
=使用した金属水酸化物の総量(mol)
−ポリカーボネート樹脂中のカーボネート結合数(mol)×2
−金属水酸化物水溶液の相に含まれるビスフェノールフルオレン類の総量(mol)×2
−金属水酸化物水溶液の相に含まれるその他のジオール成分の総量(mol)×2
【0060】
(合成例1)9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下ビスクレゾールフルオレン:商品名 TBIS−MP(田岡化学工業(製))と2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下 ビスフェノールA)の共重合ポリカーボネートの合成
温度計、撹拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水11515部、48%水酸化ナトリウム水溶液2000部を入れた。その後、前記容器に、ビスクレゾールフルオレン(HPLC純度99.5%、融点223℃)1513部、ビスフェノールA913部およびハイドロサルファイト5部を溶解した後、塩化メチレン8592部を加え、撹拌下15〜25℃でホスゲン950部を60分要して吹き込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、p−tert−ブチルフェノール48部を塩化メチレン650部に溶解した溶液および48%水酸化ナトリウム水溶液333部を加え、乳化させた。その後、トリエチルアミン2.8部を加えて28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後、生成物を塩化メチレンで希釈して水洗したのち塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになったところで、塩化メチレン相を濃縮、脱水してポリカーボネート濃度が20%の溶液を得た。この溶液から溶媒を除去してポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂はビスクレゾールフルオレンとビスフェノールAとの構成単位の比がモル比で50:50であった。(ポリマー収率97%、ガラス転移温度:226℃、分子量30000)ポリカーボネート樹脂は取り出し後、乳鉢にて粉砕し不定形の固体とした。
【0061】
(実施例1)
攪拌機、冷却器、および温度計を備えた反応器に合成例1で得られたポリカーボネート樹脂の固形物100重量部、48%水酸化ナトリム水溶液66重量部(2.5モル倍:対合成例1で得られたポリカーボネート樹脂のカーボネート結合1モルに対して)、トルエン600重量部を仕込み、90℃で加熱攪拌し2時間反応した。反応液をGPCで分析したところ高分子量物は消失しており、49.8%が9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンに、49.7%が2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンに、0.5%が2量体に分解していた。次いで、この反応液に水410重量部を加えて80℃で30分撹拌、静置後、水相の金属水酸化物の水酸化物イオン(OH)濃度を上記の方法により算出したところ0.15mmol/gであった。
その後水相を分離除去し、トルエン溶液を得た。このトルエン溶液をHPLCで分析したところ9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンと2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが検出され、トルエン溶液中にそれぞれポリカーボネート樹脂を構成していた各成分の理論量の内、99%分と35%分が回収されていることがわかった。
さらに、このトルエン溶液に濃度0.3mmol/gの水酸化ナトリウム水溶液370重量部を加えて80℃で30分撹拌、静置後、水相の金属水酸化物の水酸化物イオン(OH)濃度を上記の方法により算出したところ0.17mmol/gであった。
その後、水相を分離除去しトルエン溶液を得た。分離後のトルエン溶液をHPLCで分析したところ、トルエン溶液中に9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンと2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンがそれぞれポリカーボネート樹脂を構成していた各成分の理論量の内、96%分と2%分が回収されていることがわかった。さらにこのトルエン溶液を80℃、イオン交換水100gで3回水洗して無機分を除去した後、得られたトルエン溶液を室温まで冷却し結晶を析出させた。析出した結晶を濾過・乾燥して、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンの白色結晶49重量部を得た(回収率85% 対ポリカーボネート中の9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンに対して)。この白色結晶のHPLC純度は99.0%、融点222℃であった。
【0062】
(実施例2)
実施例1において、48%水酸化ナトリム水溶液の使用量66重量部を71重量部(2.8モル倍:対合成例1で得られたポリカーボネート樹脂のカーボネート結合1モルに対して)にしたこと以外は同様の操作を行い3時間反応し、反応液をGPCで分析したところ高分子量物は消失しており、49.9%が9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンに、49.8%が2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンに、0.3%が2量体に分解していた。次いで、この反応液に水150重量部を加え80℃で30分撹拌、静置後、水相の金属水酸化物の水酸化物イオン(OH)濃度を上記の方法により算出したところ0.30mmol/gであった。
その後、水相を分離除去し、トルエン溶液を得た。このトルエン溶液をHPLCで分析したところ9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンと2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが検出され、トルエン溶液中にそれぞれポリカーボネート樹脂を構成していた各成分の理論量の内、99%分と16%分が回収されていることがわかった。
さらに、このトルエン溶液に濃度0.15mmol/gの水酸化ナトリウム水溶液370重量部を加えて80℃で30分撹拌、静置後、水相の金属水酸化物の水酸化物イオン(OH)濃度を上記の方法により分析したところ0.1mmol/gであった。
その後水相を分離除去し、トルエン溶液を得た。得られたトルエン溶液をHPLCで分析したところ、トルエン溶液中に9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンと2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンがそれぞれポリカーボネート樹脂を構成していた各成分の理論量の内、97%分と3%分が回収されていることがわかった。さらにこのトルエン溶液を80℃、イオン交換水100gで3回水洗して無機分を除去した後、得られたトルエン溶液を室温まで冷却し結晶を析出させた。析出した結晶を濾過・乾燥して、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンの白色結晶49重量部を得た(回収率85% 対ポリカーボネート中の9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンに対して)。この白色結晶のHPLC純度は99.2%、融点222℃であった。
【0063】
(比較例1)
実施例1において、48%水酸化ナトリム水溶液の使用量66重量部を78重量部(3.1モル:対合成例1で得られたポリカーボネート樹脂のカーボネート結合1モルに対して)にしたこと以外は同様の操作を行い3時間反応し、反応液をGPCで分析したところ高分子量物は消失しており、49.9%が9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンに、49.9%が2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンに、0.2%が2量体に分解していた。さらに、この反応液を80℃で静置後、水相の金属水酸化物の水酸化物イオン(OH)濃度を上記の方法により分析したところ0.42mmol/gであった。
その後水相を分離除去し、水相を分離除去し、トルエン溶液を得た。このトルエン溶液をHPLCで分析したところ9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンが検出され、トルエン溶液中にはポリカーボネート樹脂を構成していた理論量の内、88%分しか回収されていなかった。また、得られた水相をHPLCで分析したところ9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンがポリカーボネート樹脂を構成していた理論量の内12%が含まれていた。
【0064】
(比較例2)
実施例1において、48%水酸化ナトリム水溶液の使用量66重量部を78重量部(3.1モル:対合成例1で得られたポリカーボネート樹脂のカーボネート結合1モルに対して)に、トルエンの使用量600重量部を900重量部にしたこと以外は同様の操作を行い3時間反応し、反応液をGPCで分析したところ高分子量物は消失しており、49.9%が9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンに、49.8%が2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンに、0.3%が2量体に分解していた。さらに、この反応液を80℃で静置後、水相の金属水酸化物の水酸化物イオン(OH)濃度を上記の方法により分析したところ0.41mmol/gであった。
その後水相を分離除去し、水相を分離除去し、トルエン溶液を得た。このトルエン溶液をHPLCで分析したところ9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンが検出され、トルエン溶液中にはポリカーボネート樹脂を構成していた理論量の内、90%分しか回収されていなかった。また、得られた水相をHPLCで分析したところ9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンがポリカーボネート樹脂を構成していた理論量の内10%が含まれていた。