(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記CFRP基板は、シルセスキオキサンを含む樹脂を含み、前記シルセスキオキサンは、多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS)、アミノプロピルイソブチルPOSS(登録商標)またはエポキシシクロヘキシルイソブチルPOSS(登録商標)を含む
請求項1から3の何れか一項に記載の物品。
前記CFRP基板は、0.5重量%と5重量%との間のシルセスキオキサンまたは1―4重量%、1―3重量%、1.5−2.5重量%、あるいは1.8−2.2重量%の、シルセスキオキサンを含む樹脂を含む
請求項4に記載の物品。
【発明の概要】
【0003】
複数の異なる種類のCFRP材料は、複数の異なるタイプの樹脂、複数の異なるタイプの繊維を使用することが可能であり、それらの繊維は複数の異なるやり方で巻き付けられ得る、という事実から生じる。しかしながら、全てのCFRP材料の一般原則は同じである。すなわち、樹脂マトリックスの強化は頑丈な複数の炭素繊維による。複数の他の種類の強化は、繊維状の、織り込まれた、または微粒子の分散を含む。
【0004】
CFRPの高い強度および低い密度にもかかわらず、当該材料には3つの重要な分野における性能が欠如している。第1に、複数の局所環境条件に依存した、樹脂材料へのおよび樹脂材料からの吸放湿によって引き起こされる寸法不安定性である。これはCFRPを、湿気を吸い取ることによって湿潤環境においては膨張させ、湿気を放出して乾燥環境においては収縮させる。これは、ランダムに起こる複数の寸法変化(すなわち、製造業者らの寸法管理外)を引き起こし、精巧な機器を使用できなくすることがある。これは、複数の寸法変化が複数のコンポーネントの寸法公差より大きい場合に起きる。第2に、複数のCFRPは、一般的に電気的に絶縁する複数の樹脂の使用の結果、低い電気伝導率(すなわち、面外)を被り得る。第3に、複数のCFRPは、低い熱伝導率、すなわち、約1W/mKまたはそれより小さい複数の伝導率の値、を一般的に有する複数の樹脂の使用の結果、低い熱伝導率(すなわち、面外)を被り得る。
【0005】
低い電気伝導率および熱伝導率の複数の「面外」測定の複数の問題は、その測定が複数の繊維の走行方向に対して直角に行われるということを意味する。例えば、複数の繊維がCFRPサンプルの北から南へ走っている場合、「面内」の熱伝導率および電気伝導率の測定は、サンプルの北端および南端を横切って温度勾配または電位差を印加することによって測定される。同様に、「面外」の複数の測定は、サンプルの東端から西端、またはサンプルの上面側から底面側にかけて、温度勾配または電位差を印加することによって行われる。典型的に、面内の電気伝導率および熱伝導率は両方とも高い(銅のそれらに近い)。なぜなら、伝導のほとんどが複数の繊維(これらは主に黒鉛状炭素である)によって行われるからである。しかしながら、面外の複数の測定は低く、ゆえに電気的に絶縁し、熱伝導率は、複数の面内の伝導率の値の1%より小さい。
【0006】
その結果として、寸法安定性(例えば、向上された水分挙動)を、材料の他の複数の機械的特性、向上された電気伝導性、および/または向上された熱伝導性を台無しにすることなく示す向上されたCFRPを提供する必要がある。
【0007】
こうして、第1の態様において、
(i)炭素繊維強化プラスチック(CFRP)基板、
(ii)基板に隣接して配置され、ポリ(パラキシリレン)ポリマーを含むバッファ層、および
(iii)バッファ層に隣接して配置される防湿バリアコーティング、を含む物品が提供される。
【0008】
図4において示されるように、有利に、第1の態様のCFRP物品は、ポリ(パラキシリレン)バッファ層の上に堆積される防湿バリアコーティングの組み合わせに起因する、顕著に向上された吸水特性、およびその結果としての増大された寸法安定性を示す。
【0009】
第2の態様において、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を含む物品を製造するための方法が提供される。当該方法は、
(i)CFRP基板を提供する段階と、
(ii)ポリ(パラキシリレン)ポリマーを含むバッファ層を当該基板上に堆積する段階と、
(iii)当該バッファ層上に防湿バリアコーティングを堆積する段階と、を備える。
【0010】
防湿バリアコーティング(MBC)は、ダイヤモンド状炭素、金属酸化物、金属薄箔、および金属窒化物から成るMBCの群から選択され得る。MBCとして使用され得る適切な金属酸化物は、アルミナまたは酸化シリコンであり得る。適切な金属窒化物は、窒化アルミニアムまたは窒化シリコンであり得る。
【0011】
好ましくは、防湿バリアコーティングはダイヤモンド状炭素を含む。本発明者らは、物品からの吸放湿を低減させ、それにより寸法不安定性を防ぐべく、CFRPコーティング上の防湿バリアコーティングとしてダイヤモンド状炭素が有効に使用され得ることを示すのは、彼らが初めてであると信じている。
【0012】
従って、第3の態様において、
(i)炭素繊維強化プラスチック(CFRP)基板、および
(ii)基板に隣接して配置される、ダイヤモンド状炭素を含む防湿バリアコーティングを含む物品が提供される。
【0013】
第4の態様において、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)用の防湿バリアコーティングとしてのダイヤモンド状炭素の使用が提供される。
【0014】
第5の態様において、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を含む物品の製造方法が提供され、当該方法は、
(i)CFRP基板を提供する段階と、
(ii)基板上にダイヤモンド状炭素を含む防湿バリアコーティングを堆積する段階と、を備える。
【0015】
ある実施形態において、第3の態様の物品は、基板と防湿バリアコーティングとの中間に配置されるバッファ層を含み得て、バッファはポリ(パラキシリレン)ポリマーを含む。
【0016】
ポリ(パラキシリレン)ポリマーは当業者にとって既知のものであり、次式Iによって表され得る。
【化1】
ここで、R1、R2、およびR3は、水素またはハロゲンから成る群から独立して選択され、nは2より大きいが、典型的には2500−5000である。
【0017】
ポリ(パラキシリレン)ポリマーの分子量は、およそ500,000g/molであり得る。二量体(n=2)は、500,000g/molの典型的な分子量(すなわち、モノマーに応じてn〜2500から5000)の膜を形成すべく処理される。
【0018】
ポリ(パラキシリレン)ポリマーはハロゲン化され得て、例えばそれは塩素またはフッ素を含み得る。ポリ(パラキシリレン)ポリマーはParaTech coatings社(www.paratechcoating.co.uk)から入手され得る。ポリ(パラキシリレン)ポリマーはパリレン(登録商標)という商標名で販売されるものであってよく、例えば、パリレンN(登録商標)、パリレンC(登録商標)、パリレンHT(登録商標)、またはパリレンD(登録商標)であってよい。パリレンNについては、R1=H、R2=H、R3=Hであり、パリレンCについては、R1=H、R2=Cl、R3=Hであり、パリレンDについては、R1=H,R2=Cl、R3=Clであり、パリレンHTについては、R1=F、R2=H、R3=Hである。
【0019】
好適なポリ(パラキシリレン)ポリマーは、パリレンD(登録商標)という商標名で販売されるものを含む。本発明者らは、防湿バリアコーティング、および特にダイヤモンド状炭素の堆積の前に、このバッファが基板を驚くほど安定させることを示した。
【0020】
第1または第3の態様の物品は、ポリ(パラキシリレン)ポリマーを含む1より多いバッファ層を含み得る。それぞれのバッファ層の厚さは、およそ0.1−1000μm、およそ0.5−500μm、およそ1―100μm、およそ5―50μm、またはおよそ10―30μmであり得る。
【0021】
実施例2は、ポリ(パラキシリレン)ポリマーを含むそれぞれのバッファ層がCFRP物品の基板上に堆積され得る方法を記載する。当該方法は、好ましくは、例えばイソプロパノール(IPA)アルコールで、コンポーネントを最初に洗浄する段階を備える。当該方法は、例えば10
−3Torrといった低圧に排気され得る真空チャンバ中にCFRP物品を配置する段階を備え得る。当該方法は、チャンバの中に適切な接着促進剤を供給する段階を備え得る。接着促進剤は、好ましくは、CFRP基板の表面に単分子層を形成し、基板への後のバッファの接着を向上させる。例えば、接着促進剤はビス(トリメチルシリル)アミン(ヘキサメチルジシラザン、またはHMDSとしても知られる)を含み得る。CFRP基板が接着促進剤と密着したら、次にチャンバは排気され得る。次に、バッファ層を形成すべく重合する複数のモノマーがチャンバの中に供給され得る。
【0022】
ポリ(パラキシリレン)ポリマーがパリレン(登録商標)(例えば、パリレンD)を含む実施形態において、モノマーが好ましくはチャンバの中に供給される。これは、
図3に示されるように、最初に別個のチャンバにおいてパリレン二量体を加熱し、次にそれを炉中で熱分解させ、次に、CFRP物品が配置されるチャンバの中へ、結果として得られたパリレンの複数のモノマーを供給することによって実現され得る。バッファ層のコーティング後、チャンバはベントされ得て、バッファコーティングされた物品は取り出されるか、または代わりに防湿バリアコーティングの堆積のために準備されるかのいずれかであり得る。当該物品は1より多い防湿バリアコーティングを含み得る。それぞれのMBC層の厚さは、およそ10nmから50μmであり得る。
【0023】
実施例2は、それぞれのMBC層がどのようにバッファ層に堆積され得るかを説明する。例えば、スパッタリングまたは物理的気相成長法(PVD)が使用され得る。しかしながら、好ましくはMBCは、コーティング対象の物品の複数の露出面に接触する気体の使用を伴い得るプラズマ化学気相成長法(PECVD)プロセスによってバッファ層上に堆積されてもよい。
【0024】
当該方法は、例えば10
−3Torrに、バッファコーティングされた物品を排気する段階を備え得る。当該方法は、チャンバの中に気体を供給する段階を備え得る。当該気体は、水素および炭化水素ガス(例えば、メタン、アセチレン等)の混合物を含み得る。典型的に、炭化水素は、約1―20%(v/v)の濃度にまで水素中に希釈されるが、それより高い濃度であってもよい。また、炭化水素に加えて、アルゴン、ヘリウム、窒素などの他の複数の気体が使用され得る。当該方法は、50―1000mTorr、または100−200mTorrの範囲の複数の圧力に、チャンバの圧力を調整する段階を備え得る。
【0025】
当該方法は、例えばCFRP物品に高周波(RF)電気信号を印加することによって、チャンバ中にプラズマを生成する段階を備え得る。信号の周波数は、通常は1KHzから数百MHzの間の高周波の周波数範囲で操作され得るが、およそ13または13.56MHzであるのが好ましい。DC信号もまた、RF信号と併せて、または単独で使用され得る。RF信号はRF整合ユニットを介してCFRP物品に印加され得る。プラズマは、バッファ層(例えば、パリレンD)の上にMBC(例えば、ダイヤモンド状炭素)層を成長させる効果を有する。10nmから50μmの所望の厚みが到達された後、次にRF信号はスイッチを切られ、コーティングされたCFRP物品が取り出され得るようにチャンバがパージされ、次にベントされる。
【0026】
本発明者らは、真空チャンバにおいてCFRP物品上にバッファ層および防湿バリアコーティングを堆積するのは、彼らがこれまでで初めてであると信じている。有利に、真空を破ることなく単一チャンバ中で両方の層がCFRP物品上に堆積され得る。本発明者らは、この方法を使用して複数のパリレン/DLC構造でコーティングされたCFRPコンポーネントから驚くほど優れた防湿性能を立証した。多数のバッファ/MBC多層を堆積することによってバリアの性能を増すこともまた可能であり、これは、新規な発見である第2の態様の方法を使用して一回の処理実行で実現され得る。
【0027】
例えば、本発明の物品は、[BL:MBC]
nを含み得る。ここで、BLはバッファ層(BL)の数に対応し、MBCは、防湿バリアコーティング(MBC)の数に対応し、nは1より大きい。いくつかの実施形態において、
図8において示されるように、nは、2、3、4、または5、またはそれより大きくてよい。他の複数の実施形態においては、nは少なくとも50、100、150、200、またはそれより大きくてよい。好ましくは、バッファ層および複数の防湿バリアコーティングは基板上に交互に配置される。例えば、当該物品は、要求される厚さに応じて、[BL:MBC]
2で表される、(i)基板、(ii)BL、(iii)MBC、(iv)BL、および(v)MBC、または、[BL:MBC]
3で表される、(i)基板、(ii)BL、(iii)MBC、(iv)BL、(v)MBC、(vi)BL、および(vii)MBC、などを含み得る。このように、基板上の複数のMBC層の性能を「調整(tune)」することが可能である。好適な実施形態において、バッファ層はパリレン(登録商標)を含み、防湿バリアコーティングはダイヤモンド状炭素を含む。
【0028】
本発明者らは、第1および第3の態様の物品が驚くほど向上された水分の吸収/放散特性、およびその結果としてのより良好な寸法安定性、示すことを見出したが、かれらはCFRPを構成するポリマー樹脂に様々な量のシルセスキオキサンを添加することで実験を行い、それが物品の吸水性、およびその結果としての寸法安定性に影響を及ぼすかどうかを確かめた。これらの実験は実施例3に記載される。驚くべきことに、本発明者らは、CFRP樹脂への少量のシルセスキオキサンの添加が、結果として得られたCFRPの吸水性能を顕著に向上させることを見出した。さらに、はるかに低い吸湿性をもたらすだけでなく、樹脂へのシルセスキオキサンの添加はまた、複数の樹脂の熱性能の増大にもつながることが認められた。示差走査熱量測定(DSC)実験が行われ、そのデータが表1にまとめられている。表1はポリマーマトリックスの中へのシルセスキオキサンの添加の有益性を示している。これらのデータは異なる濃度のシルセスキオキサンを有する個々の樹脂の、様々なガラス転移温度(Tg)を示す。シルセスキオキサンが複数の低濃度(すなわち、わずか0.5重量%)である場合においてですら、本発明者らは、シルセスキオキサンが添加されなかった樹脂のそれに比べ、23−47℃の範囲のTgの有意な向上を認めた。これはまったく予期されないことであった。
【0029】
従って、本発明の物品および好ましくはそのポリマー樹脂は、シルセスキオキサンまたはその誘導体若しくは類似体を含み得る。シルセスキオキサンまたはその誘導体若しくは類似体は、一般式(R−SiO
1.5)
nによって表され得る。ここで、nは偶数であり、Rは、水素、または水酸基若しくはアルコキシ基、または随意に置換された直鎖型若しくは分岐型のアルキル基、アルキレン基、アリール基若しくはアリーレン基、またはこれらの後者の複数の基のうち何れかの有機官能性誘導体であり得る。好適なシルセスキオキサンは、多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS)を含み得る。複数のPOSS化合物は米国Hybrid Plastics社から入手され得る。
【0030】
図5は、CFRP樹脂に添加され得る複数の適切なPOSS化合物のいくつかの例を示す。図に見られるように、複数のシリコン原子はケージの複数の角に位置し、故に、基本ケージ構造の面において存在する。複数のシリコンの角は、ブロック共重合体、オレフィン、エポキシド、および、ペプチドならびに炭水化物などの生体分子を含むさまざまな有機置換基で官能基化され得る。
【0031】
一実施形態において、好適なシルセスキオキサンは、アミノプロピルイソブチル(POSS)(登録商標)、またはその誘導体若しくは類似体を含み得る。アミノプロピルイソブチル(POSS)(登録商標)の化学式はC
31H
71NO
12Si
8であり、その構造が
図5(f)に示される。
【0032】
別の実施形態において、好適なシルセスキオキサンはエポキシシクロヘキシルイソブチル(POSS)またはその誘導体若しくは類似体を含み得る。エポキシシクロヘキシルイソブチル(POSS)(登録商標)の化学式はC
36H
76O
13Si
8であり、その構造が
図5(g)に示される。
【0033】
CFRP樹脂は、およそ0.5重量%と5重量%との間のシルセスキオキサンまたはその誘導体若しくは類似体を含み得る。本発明者らはしかしながら、およそ2重量%のシルセスキオキサンにおいて「スイートスポット」が存在し、そこではCFRP物品の中への最小の水分の侵入しかないことを認め、非常に驚かされた。従って、CFRP物品および好ましくはそのポリマー樹脂は、およそ1―4重量%、およそ1―3重量%、およそ1.5−2.5重量%、およそ1.8−2.2重量%、およそ1.9−2.1重量%、またはおよそ2重量%の、シルセスキオキサンまたはその誘導体若しくは類似体を含み得る。シルセスキオキサンの複数の誘導体及び複数の類似体は、少なくとも1つの共反応体、例えば、エポキシ、OH、NH2(
図5参照)、を含むものを複数含み得る。
【0034】
2重量%の「スイートスポット」の理由は理解されず、まったく予期されないものであった。本発明者らは、この驚くべき観察結果は本発明の主要な特徴を成すと信じている。
【0035】
故に、第6の態様において、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、およびおよそ0.5重量%から5重量%の間のシルセスキオキサンまたはその誘導体若しくは類似体を含む組成物が提供される。
【0036】
当該組成物は、およそ1―4重量%、およそ1―3重量%、およそ1.5−2.5重量%、およそ1.8−2.2重量%、およそ1.9−2.1重量%、またはおよそ2重量%の、シルセスキオキサンまたはその誘導体若しくは類似体を含み得る。シルセスキオキサンまたはその誘導体若しくは類似体は、好ましくは上で定義されたようなものである。好ましくは、シルセスキオキサンまたはその誘導体若しくは類似体は、例えば本明細書において定義されるようにCFRP物品を形成すべく使用される樹脂中に存在する。
【0037】
本発明の複数のCFRP物品を形成すべく使用されるCFRP樹脂は、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)と2,2´−ジメチル−4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)との組み合わせから得られ得る。別の実施形態において、樹脂は、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)、メチルナド酸無水物、および1−メチルイミダゾールの組み合わせから得られ得る。
【0038】
第7の態様において、CFRP樹脂中への、および/またはCFRP樹脂からの水分の拡散を遅らせるための、防湿バリアコーティング、およびシルセスキオキサンまたはその誘導体若しくは類似体の組み合わせの使用が提供される。
【0039】
実施例4は、本発明者らがどのようにして複数のCFRP物品において電気伝導率および熱伝導率を成功裏に増大させたかを説明する。これは、CFRP樹脂に添加された複数のカーボンナノチューブ(CNT)を組み込むことによって実現された。従って、本発明の樹脂は複数のカーボンナノチューブを含み得る。当該樹脂はおよそ2重量%のカーボンナノチューブを含み得る。今日までに、人々はCFRP樹脂の中に複数のCNTを添加してきたものの、良好で均一な分散を形成し、かつ樹脂の作用を妨げないやり方でこれを実現したものは誰もいない。しかしながら本発明者らは、複数のCNTが酸性樹脂中に十分に分散することを可能にする−COOH酸(カルボン酸)官能基化を使用して複数のCNTを官能基化することによってこれを実現した。
【0040】
第8の態様において、CFRPの電気伝導性、熱伝導性、熱安定性、および/または寸法安定性能を増大させるべく、POSSおよび複数のカーボンナノチューブの組み合わせの使用が提供される。
【0041】
第1および第3の態様の複数の物品と、第6の態様の組成物とはそれぞれ、バッファ層(例えば、パリレンD)、防湿バリアコーティング(例えば、ダイヤモンド状炭素)、シルセスキオキサンまたはその誘導体若しくは類似体(例えば、POSS)、および/または複数のカーボンナノチューブの様々な組み合わせを含み得ることが理解されるであろう。しかしながら、好適な実施形態においては、本発明の複数の物品および複数の組成物は、バッファ層、防湿バリアコーティング、シルセスキオキサンまたはその誘導体若しくは類似体、および複数のカーボンナノチューブを含む。
【0042】
本明細書において記載される複数のCFRP物品は、高められた熱安定性および寸法安定性、ならびに向上された電気伝導率および熱伝導率を示すことが理解されるであろう。これは、それらのCFRP物品を、そのような複数の特徴、ならびに、材料が頑丈で非常に軽量であるという事実から恩恵を受ける様々な高性能用途における使用に高度に適するようにする。
【0043】
従って、第9の態様において、高性能コンポーネントの製造のための、第1または第3の態様のCFRP物品、または第6の態様の組成物の使用が提供される。
【0044】
第10の態様において、第1または第3の態様のCFRP物品、または第6の態様の組成物を備える高性能コンポーネントが提供される。
【0045】
複数の高性能用途の複数の例は、宇宙産業若しくは航空宇宙産業、高性能な地上運搬、または、望遠鏡若しくはハイエンドのスポーツ用品などの複数の高精度なシステム用の複数のコンポーネントを含み得る。
【0046】
本明細書において記載される複数の特徴の全て(あらゆる添付の特許請求の範囲、要約書、および図面を含む)、および/またはそのように開示される任意の方法またはプロセスの複数の段階の全ては、そのような複数の特徴および/または複数の段階のうちの少なくともいくつかが互いに排他的である複数の組み合わせを除く、任意の組み合わせにおける上記複数の態様のうち何れかと組み合わされ得る。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1aを参照すると、複数の炭素繊維強化ポリマー(CFRP)材料は、多数の用途、例えば航空宇宙および宇宙産業、において使用されるが、環境からの湿気の吸収、および引き続いて起こる湿気の放出(例えば、宇宙飛行中)に対して敏感であり、これが寸法および重量の不安定性を引き起こすという問題を被る。さらに、CFRPはまた、低い面外の電気伝導率および熱伝導率の問題を経験する。従って本発明者らは、これらの問題が独立に、または同時に、のいずれかで解決され得るやり方を研究してきた。
【0049】
本明細書において記載される発明は、CFRP中への吸水率を低減させ、かつそれによりCFRP中へ、およびCFRPから移動し得る水分量を低減させ、かつ/または電気伝導率および熱伝導率を高めるべく、互いと組み合わせて、または互いに独立して、のいずれかで使用され得るいくつかのアプローチの使用に関する。第1の技術は、CFRPコンポーネントの周りへの防湿バリアコーティング(本明細書では「MBC」と呼ばれる)の使用であり、第2のアプローチは、CFRP材料を製造するために使用される樹脂中への、少量の多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS)またはその誘導体若しくは類似体の組み込みである。
[実施例1−CFRPの寸法および重量の安定性を増大させる]
【0050】
CFRPは、湿気が複数のCFRPコンポーネントおよび複数の物品に及ぼす影響によって引き起こされる複数の寸法不安定性を被ることが知られている。環境からの湿気はCFRP樹脂マトリックス中へと深く拡散し、複数の水分子を収容し得る樹脂中の複数の特定の場所に位置し、これがCFRPを膨張させ得る。CFRPコンポーネントがより低い湿度の区域に(例えば、宇宙または高地に)輸送されると、吸収された水分は、CFRPから環境、例えば宇宙、の中へと拡散し得る。この水分の放出は、コンポーネントを使用できなくし得る、CFRPコンポーネントへの寸法変化を引き起こす。
【0051】
この実施例の目的は、CFRP樹脂マトリックスの中への、およびCFRP樹脂マトリックスからのこの水分移動の程度を低減させることによって、この問題を軽減するための複数の技術を開発することであった。本発明者らは、実施例2および3において説明されるような2つの解決法でこの問題に対処した。
[実施例2−防湿バリアコーティング(MBC)中にCFRPコンポーネントを封入する]
【0052】
CFRPコンポーネントは、湿気に対するバリアである薄膜コーティング中に封入される。これは、(それが限られた時間の間保管されるとき)製造および保管中の水分移動の速さ、およびその結果としてのCFRPへの水分の侵入量、を低減させる。MBCはまた水分が放出される速度を制限し(例えば、宇宙飛行中)、それが、システム(例えば、宇宙空間中の衛星)の寿命の間、コンポーネントを寸法公差内に保つ。CFRP材料またはコンポーネントは、それの製造後、できるだけ早くMBC層でコーティングされるように意図される。
【0053】
良好な防湿バリア特性を有することが知られている多数の材料(例えば、食品梱包産業において使用されるもの、アルミ箔、アルミナ等)があるという事実にもかかわらず、CFRPのコーティングははるかに複雑であり、それはコーティングプロセスのための特定の手法を伴いながら、それ自体が独自の課題を提起する。実際、この問題は何年にもわたって研究されてきたが、多数の研究者たちがこの問題を解決することができなかった。創造的努力をかなり重ねた後、本発明者らは当該問題をついに解決した。その解決法は自明なものではない。
【0054】
MBCでCFRPをコーティングすることの複雑さの理由は、複数の炭素繊維が実質的に一方向に互いに揃っている(
図1b)、それの上面または外面の複雑な性質である。さらに、複数の繊維および樹脂マトリックスは、互いに反対の、非常に強い機械的特性を有する。例えば、複数の炭素繊維は、〜0の熱膨張係数(CTE)、時には負のCTE、を有し、一方で、樹脂は複数の最も高いCTE値のうちのいくつか、すなわち、〜60百万分率(ppm)を有する。複数の炭素繊維と樹脂との間のCTEのこの大きな不一致は、CFRPコンポーネント上の高度に動的な表面をもたらす。加えて、複数の繊維は実質的に単一方向に沿って揃っているので、複数の変位がまた一方向に沿って起こる。一般的に使用される複数のMBC材料のCTE値は、およそ4―10ppmの範囲である。これらの不一致の全ては、典型的な複数のMBC材料に、引き伸ばしおよび裂け目を含む機械的理由に起因する破損を引き起こす。
図2を参照すると、CFRPの破損メカニズムが示される。CFRPの表面は概して異方性を有し(すなわち、方向に依存している)、故に異なる方向においては非常に異なる機械的特性を有する。
【0055】
この問題を解決すべく、本発明者らは、ダイヤモンド状炭素(DLC)から成る防湿バリアコーティングの堆積の前に、CFRPコンポーネント上に20マイクロメータの厚さのパリレンDのコーティング(バッファとして作用する)が事前に堆積される新規なプロセスを開発した。パリレンD(登録商標)は既知の分子である(http://www.paratechcoating.co.uk/engineering−properties−of−parylene.asp)。しかし、バリア層と併せて、複数の防湿バリア塗布のためにCFRPのコーティングに使用されたことは決してなかった。それは、基板上に真空堆積され得る柔軟層であり、CFRPの表面の複数の機械的動きに対応し得る。
[パリレンDコーティング]
【0056】
プロセスの複数の段階は以下のようになる。
1)CFRPコンポーネントがイソプロパノール(IPA)アルコールでまず洗浄される。これは、コンポーネントからあらゆる油脂、ほこり、およびちり等を取り除く。
2)次に、CFRPコンポーネントが真空チャンバの中に挿入され、10
−3Torrに排気される。
3)次に、ビス(トリメチルシリル)アミン(ヘキサメチルジシラザン、またはHMDSとしても知られる)の蒸気がチャンバの中に吹き込まれる。HMDSは分子式:C
6H
19NSi
2を有する。それは接着促進剤であり、CFRPの表面上に単分子層を形成する。塗布のプロセスは、複数のHMDSプロセスのマニュアル中にある。手短に言うと、HMDSは蒸気としてチャンバの中へ供給され、凝結によって表面上に単分子層を形成する(このプロセスはパリレン堆積企業の独占所有権のある情報である)。
4)CFRPコンポーネントがHMDSに密着すると、次にチャンバは排気される。
5)次に、パリレンDのモノマーがチャンバの中に導入される。これは、
図3において示されるように、別個のチャンバでパリレンDの二量体を加熱し、次にそれを炉中で熱分解させ、次に、CFRPコンポーネントが配置されるコーティング真空チャンバの中へ、結果として得られた複数のパリレンのモノマーを注入することによって典型的に実現される。パリレンのモノマーは、水素または窒素または任意の他の不活性気体(アルゴン、ヘリウム等)中で管に沿って運ばれ、モノマーは表面上で重合してパリレンを形成する。
6)コーティング後、チャンバはベントされ、次に、パリレンコーティングされたコンポーネントが取り出される。
[ダイヤモンド状炭素(DLC)コーティング]
【0057】
パリレンDの堆積の後、次にダイヤモンド状炭素(DLC)のバリア膜がパリレンDの上に堆積され、これがMBCを形成する。パリレンDの上に堆積されるDLCは、「Properties of Amorphous Carbon」、EMIS Datareviews Series第29号、編集者 S.R.P.Silva、2003年、ISBN0852969619、9780852969618、において記載される。DLCは炭素の真空堆積された形態であり、それは非常に硬く、ダイヤモンド中に見られるもののような多数の炭素−炭素のsp3結合を有する。DLCを堆積させるべく使用され得る多数の異なる方法、例えば、物理的気相成長法(PVD)としても知られるスパッタリング法、がある。例えば、(http://www.diamonex.com/products/dlccoatings/?gclid=CPv4nt2nsLMCFcrItAodKw4ATA)を参照されたい。この方法において、DLCの炭素源は固形であり、コーティングは、見通し線(line−of−sight)を必要とする「噴霧プロセス」と同様のやり方で堆積される。しかしながら、この方法は、DLCで、複数の複雑な構造、または複数の管の複数の内孔をコーティングするのには好ましくないこともある。
【0058】
本発明者らは、炭素源が、コーティング対象のコンポーネントの全ての表面に接触可能である炭化水素ガスである、プラズマ化学気相成長法(PECVD)プロセスによってパリレンDコーティング上にDLCを堆積させた。DLCコーティングは以下のようにまとめられ得る。
1)パリレンコーティングされたコンポーネントが真空チャンバに挿入される。
2)チャンバが約10
−3Torrまたはそれより低い圧力に排気される。
3)水素および炭化水素ガス(例えば、メタン、アセチレン等)の混合物が質量流量制御(MFC)装置を通してチャンバの中に流し込まれる。典型的に、炭化水素は約1―20%(v/v)の濃度にまで水素中で希釈されるが、濃度はそれより高くてもよい。また、アルゴン、ヘリウム、窒素などの他の複数の気体も使用され得る。
4)チャンバの圧力は、コンピュータ制御される弁によって50−1000mTorrの範囲の複数の圧力に自動的に調整される。典型的に、約100−200mTorrの複数の圧力が使用される。
5)次に、CFRPコンポーネントに高周波(RF)電気信号を印加することによってチャンバ中にプラズマが生成される。信号の周波数は、典型的には13.56MHzであるが、他の複数の周波数が使用され得る。DC信号もまた使用され得る。RF信号はRF整合ユニットを介してCFRPコンポーネントに印加される。
6)プラズマは、パリレンDの上にDLC層を成長させる効果を有する。所望の厚みに到達した後(およそ10nm−50μm)、RF信号はスイッチを切られ、チャンバはパージされ、次に、コーティングされたCFRPコンポーネントを取り出すべくベントされる。
【0059】
このプロセスの固有の態様および利点は、パリレンDコーティング/DLCコーティングの両方が真空チャンバを必要とし、故に、両方の層が真空を破ることなく単一チャンバにおいて堆積され得るということであり、これは過去には行われなかったことである。本発明者らは、パリレン/DLC構造でコーティングされた複数のCFRPコンポーネントから驚くほど優れた防湿性能を立証した。多数のパリレン/DLC多層を堆積することによってバリアの性能を増すこともまた可能であり、これは一回の処理実行で実現され得る。これもまた新規な発見である。
【0060】
MBCの性能は、複数の高湿度条件に設定された環境チャンバに、コーティングされたCFRPサンプル、およびコーティング無しのCFRPサンプルを配置することによって測定される。これらのサンプルは、湿った環境への曝露の後、複数の時間間隔で秤量され、湿気への曝露の後の重量増加(水分侵入による)は、曝露測定前のサンプルの重量の割合として算出され記録される。そのデータが
図4に示される。見て分かるように、図は初期の重量増加を示し(水分が材料の中に浸透するため)、次に、数時間の曝露の後、重量は横ばいになる。これは拡散プロセスに典型的である。しかしながら、図は、複数のコーティングされたサンプルが、コーティング無しの(参照用)サンプルよりゆっくりと重量を増やしていることを示しており、そのことは、複数のコーティングが明らかに、CFRP中への水分の侵入に対する複数の遅延剤(または複数のバリア)として作用していることを立証している。
[実施例3−CFRP樹脂へのPOSSの添加]
【0061】
本発明者らは、CFRP樹脂マトリックスの中への、およびCFRP樹脂マトリックスからの水分または湿気の移動の程度を低減させる別のやり方を開発した。それは樹脂中へ多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS)、またはその誘導体若しくは類似体を添加することによる。複数のPOSS分子は樹脂中に混ぜ合わさり、複数の水分子が樹脂中に通常存在するであろう複数の場所を占有する。従ってPOSSの添加は、複数の水分子に対して空いた場所をより少ない数しか残さず、その結果、樹脂はより少ない量の水分しか吸収できない。この解決法は、単独で、または、高められた性能を得るべく防湿バリアコーティング(MBC)との併用で、のいずれかで使用され得る。
【0062】
図5を参照すると、使用され得る複数の籠状POSS化合物のいくつかの例が示される。複数のPOSS分子から得られる複数の材料は、有機置換基と無機の複数のシルセスキオキサン材料との間で特性空間(property space)を橋渡しすることによって複数の高められた特性を示す。例えば、POSS分子上の複数の特定の官能性は、固有の、熱的、機械的、電気的、流体力学的、可溶性の、および拡散性の特性を複数の材料に対して与え、それらをエレクトロニクス実装および複数の低誘電率材料における、高温の宇宙船の複数のコーティングへの非常に有用な候補にする。使用されるPOSS化合物は、異なるタイプのCFRP樹脂に対して異なる。このことは、樹脂系の化学的性質に合わせるべくPOSSの化学的性質を適合させることを可能にする。本発明者らは、CFRP製造において使用される複数の最も一般的なタイプの樹脂のうちの2つの樹脂系を例示した。以下は、これらの樹脂の中にPOSSを混合するためのプロセスである。
[樹脂系1]
【0063】
1)英国Haas Group International社から購入されるビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)
2)Sigma−Aldrich社から購入される2,2´−ジメチル−4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、および
3)米国Hybrid Plastics社から購入されるアミノプロピルイソブチル(POSS)(AM0265)
混合比(重量部)
BADGE:100
アミン:34
AM0265:重量百分率の組み込みに応じて変化する
まずAM0265が最小量のTHFに溶解させられてから、BADGEを加えた。次に、これは加熱プレート上で50℃に加熱され、1時間マグネチックスターラで撹拌された。次に、これにアミン硬化剤が加えられ、さらに30分間、または全ての溶媒が蒸発してしまうまで、撹拌された。次に、結果として得られた混合物は60℃で3時間、および130℃で4時間、炉で硬化された。
[樹脂系2]
【0064】
1)英国Haas Group International社から購入されるビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)
2)英国Haas Group International社から購入されるメチルナド酸無水物
3)Sigma−Aldrich社から購入される1−メチルイミダゾール、および
4)米国Hybrid Plastics社から購入されるエポキシシクロヘキシルイソブチルPOSS(EP0402)
混合比(重量部)
BADGE:100
無水物:95
イミダゾール:0.5−2
EP0402:重量百分率の組み込みに応じて変化する
まずEP0402が最小量のTHFに溶解させられてから、無水物およびイミダゾールを加えた。次に、これは加熱プレート上で80℃に加熱され、2時間マグネチックスターラで撹拌された。次に、これにBADGEが加えられ、均一な混合物が形成されるまでさらに5分間撹拌された。次に、結果として得られた混合物は120℃で2時間、および160℃で8時間、炉で硬化された。
【0065】
樹脂に添加されるべきPOSSの最適な濃度を決定すべく、様々な異なるPOSS濃度が実験された(すなわち、0%、0.5%、1%、2%、および4%w/v)。
図6を参照すると、吸湿についての複数の樹脂/POSS混合物の実験(75%の湿度環境における重量%の吸収(% weight uptake)を測定することによる)は、それらのPOSS含有サンプルが複数のニート樹脂(neat resin)サンプル(すなわち、0%w/vのPOSS)より少ない量の水分を吸収したことを明らかに示した。樹脂に0.5%、1%、または4%(w/v)のPOSSが添加された場合、吸水性能は向上させられた。しかしながら、本発明者らは、およそ2%(w/v)のPOSSの組み込みにおいて「スイートスポット」が存在し、そこでは最小の水分の侵入しかないことを認め、非常に驚かされた。予期せぬ結果であったので、この2%(w/v)の「スイートスポット」の理由は理解されていない。
【0066】
さらに、より低い吸湿性をもたらすだけでなく、樹脂へのPOSSの添加はまた、複数の樹脂の熱性能の増大にもつながることが認められた。示差走査熱量測定(DSC)実験が行われた。そのデータが表1にまとめられている。それはエポキシマトリックスシステムの中へのPOSSの添加の有益性を示すものである。
表1−AM0265(すなわち、POSS化合物)を有するL
20樹脂の複数のガラス転移温度。
【表1】
【0067】
DSCデータは、異なる割合のPOSSの組み込みを有する複数の個々の樹脂の、様々なガラス転移温度を示す。低いPOSS濃度(0.5重量%)においてですら、ニート樹脂(0重量%のPOSS)と比較した場合、23℃〜47℃までのTgの有意な向上がある。これもまた予期せぬ結果であった。
[実施例4−CFRPにおける電気伝導率および熱伝導率の増大]
【0068】
CFRPの面外の熱伝導率および電気伝導率を増大させるための複数の実験は、樹脂の熱伝導率および電気伝導率を増大させることに集中された。これを達成すべく、複数のカーボンナノチューブ(CNT)が添加物として樹脂に添加された。複数のCNTは高いレベルの熱伝導(ダイヤモンドより良好な)および電気伝導率(銀より良好な)を有し、表面酸化物またはさびを形成しない。これは、それらを、複数のCFRP材料およびその樹脂との組み合わせに理想的なものにする。人々はCFRPにおいて樹脂の中に複数のCNTを添加してきたものの、今日までに、良好で均一な分散を形成し、かつ樹脂の作用を妨げないやり方でこれを先に行ったものは誰もいない。
【0069】
CFRP樹脂においてCNTの良好な分散を得ることは、特に大量の複数の混合物を作成する場合に、CNT混合物の有用性の面で重要である。それらの分散を向上させるべく、本発明者らは、−COOH酸(カルボン酸)官能基化を用いて複数のナノチューブを官能基化した。このことは、CNTが酸性樹脂の中に十分に分散することを可能にする。複数の酸官能化CNTを製造するための通常の方法は、樹脂と混合する前に酸でそれらを処理することによるものである。しかしながら、これは複数のナノチューブに損傷をもたらすものであることが分かった。従って、この問題を克服すべく、本発明者らは複数のプラズマ官能化CNTを使用した。これらはカルボン酸(COOH)官能化ナノチューブである。それらは企業から購入されるが、このタイプの官能基化(カルボン酸)は既知のものである。例えば、http://www.sigmaaldrich.com/catalog/product/aldrich/652490?lang=en&region=GB。
【0070】
図7を参照すると、樹脂中に分散された1―5重量%のCNTが示される。複数のCNTは複数の隣接する樹脂繊維をまたいだ電気および熱の流れのための複数のブリッジを生成する。樹脂中の亀裂が薄いナノチューブを露わにしている(左図)。本発明者らは、面外で電気的に導通する(〜200Ohmcm)CFRPを得た。また、彼らは、2.5倍のニート樹脂の熱伝導率の増大を実現した。
[実施例5−湿度チャンバ中に配置された1セットのCFRPサンプルの重量増加を時間の関数として測定する]
【0071】
実験は、CFRP樹脂マトリックスの中への、およびCFRP樹脂マトリックスからの水分または湿気の移動の程度の低減におけるMBCの影響を測定するために考案された。1セットのCFRPサンプルは、70℃、相対湿度70%に設定された環境チャンバ(湿度チャンバとしても知られる)に配置され、重量増加は時間の関数として測定された。重量増加はそれらのサンプルの湿気の吸収に対応する。
【0072】
複数の実験条件は、複数の通常の周囲状況に複数のサンプルを置いておくこととは対照的に、CFRP樹脂マトリックスの中への、およびCFRP樹脂マトリックスからの水分移動速度を加速すべく選択された。これは、複数のサンプルが複数の周囲状況に置いておかれた場合に必要とされるであろう一年またはそれより長い年数にわたる解析が必須とされるのではなく、これらのサンプルは複数の選択された条件で2250時間の実験にわたって解析され得るということを意味した。
【0073】
図8は、2250時間環境チャンバ中に配置された場合の、様々なバリア層を有するいくつかのMBCサンプルに対してコーティング無しのCFRPサンプルの重量増加を比較している。2つのバリア層の組成物は、CFRP/パリレンD/DLC/パリレンD/DLC/パリレンDであり、この2つのバリア層は、機械的結合を提供する複数のパリレンD層の間に挟まれるDLC層であると理解されるであろう。複数のMBCサンプルは2つのバリアDLC層から5つのバリアDLC層の範囲である。
【0074】
複数の結果は、全てのコーティングされたサンプルが、コーティング無しの参照サンプルに比べ、より少ない湿気しか吸収せず、CFRP樹脂マトリックスの中へのより低い水分移動速度を有することを明らかに示す。さらに、より多い数のDLC層を有する複数のサンプルは、より少ないDLC層を有するサンプルに比べ、より少ない湿気を吸収し、CFRP樹脂マトリックスの中へのより低い水分移動速度を有する。これは、MBC性能特性がDLC層の数に伴って増大することを示す。
[要約]
【0075】
本発明者らは、寸法安定性を示すCFRP材料を成功裏に製造した。これは、パリレンDバッファ、および次の防湿バリアコーティング(ダイヤモンド状炭素)でコーティングされ、ならびに樹脂に2重量%のPOSSが添加されたCFRP材料を製造することによって実現した。観察結果は、CFRPに対する水分侵入/放出は排除され、それにより寸法安定性を増大させるというものだった。さらに、本発明者らはCFRPの中にPOSSと(およびいくつかの実施形態においてはパリレンDおよびDLCと)組み合わせて複数のカーボンナノチューブを添加した。これは、CFRPの電気伝導性、熱伝導性、熱劣化の発生(熱安定性)、および寸法安定性能を顕著に高めた。本発明者らは、CFRP中への防湿バリアコーティングとカーボンナノチューブ添加物とPOSS添加物との併用が、CFRPの電気伝導性、熱伝導性、熱劣化の発生(熱安定性)、および寸法安定性能の向上をもたらすことを示した。